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【事件名】りんごのイラスト無断使用事件
【年月日】令和3年6月30日
 東京地裁 令和3年(レ)第128号 著作権侵害損害賠償請求控訴事件
 (原審・東京簡裁令和元年(ハ)第25881号)
 (口頭弁論終結日 令和3年5月14日)

判決
控訴人兼被控訴人 X(以下「一審原告」という。)
同訴訟代理人弁護士 山岡裕明
同 杉本賢太
同 千葉哲也
被控訴人兼控訴人 有限会社船田製菓(以下「一審被告」という。)
同訴訟代理人弁護士 高倉光俊
同 清水宏


主文
1 一審被告の控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
(1)一審被告は、一審原告に対し、45万6500円及びこれに対する令和元年7月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)一審原告のその余の請求を棄却する。
2 一審原告の控訴を棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを2分し、その1を一審原告の負担とし、その余を一審被告の負担とする。
4 この判決は、第1項(1)に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 一審原告
(1)原判決中一審原告敗訴部分を取り消す。
(2)一審被告は、一審原告に対し、40万0500円及びこれに対する令和元年7月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 一審被告
(1)原判決中一審被告敗訴部分を取り消す。
(2)上記部分につき、一審原告の請求を棄却する。
第2 事案の概要
1 本件は、一審原告が、一審被告に対し、一審被告が、一審原告が著作権を有する別紙1著作物目録記載のりんごのイラスト画像(以下「本件イラスト」という。)を、一審原告に無断で一審被告のウェブサイト(以下「被告ウェブサイト」という。)に掲載したことにより、本件イラストに係る一審原告の著作権(複製権、公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)を侵害したとして、不法行為に基づき、損害賠償金93万4000円(使用料相当損害金34万4000円、慰謝料50万円及び弁護士費用9万円の合計額)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和元年7月3日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 原審は、一審原告の請求のうち、53万3500円(使用料相当損害金8万5000円、慰謝料40万円及び弁護士費用4万8500円の合計額)及びこれに対する同日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で一審原告の請求を認容し、その余の請求を棄却したところ、一審原告及び一審被告は、いずれも、原判決を不服として控訴した。
 なお、原審では、@著作権及び著作者人格権の侵害の成否及びA損害額が争点になったが、一審被告は、当審において、著作権侵害及び著作者人格権侵害の点については争っていないため、当審における争点は、損害額のみである。
2 前提事実
 原判決の3頁5行目末尾に行を改めて次の記載を加えるほか、第2の1(1)〜(5)に記載するとおりであるから、これを引用する。
「(6)被告ウェブサイトにおける本件イラストの掲載箇所及び掲載期間は、以下のとおりである(甲4〜8、11の1。以下、使用態様により「A使用」などと分類する。)。
ア A使用(別紙2)
 掲載箇所:被告ウェブサイト(左サイド部分)のトップページの「☆焼きたて!お菓子な日々☆」又は「☆焼きたて!FUNADAのお菓子な日々☆」と記載された箇所の左横に1点掲載期間:少なくとも平成26年8月4日から平成29年7月7日まで
イ B使用(別紙2)
 掲載箇所:同ウェブサイトのトップページ「オンラインショップのお知らせ」欄の「りんごコロコロアップルパイ」と記載された箇所の両横に各1点(2点とも縦方向につぶれた形状となっている。)
 掲載期間:少なくとも平成26年8月4日から平成29年7月7日まで
ウ C使用(別紙2)
 掲載箇所:同ウェブサイトのトップページ「お知らせ」欄の「『お楽しみお菓子袋』プレゼント!!オンラインショップ」と記載された箇所の左横に2点(うち1つは縦方向につぶれた形状となっている。)
 掲載期間:少なくとも平成27年9月8日から平成29年7月7日まで
エ D使用(別紙3)
 掲載箇所:同ウェブサイトのオンラインショップページの「オンラインショップ限定のこだわりのアップルパイです!、蜜漬けされた長野りんごを更に煮付け味付けした、こだわりリンゴ100gを牛乳で練ったパイ生地に包み込むように一つ一つ丁寧に焼き上げました!、お好みでシナモン・レーズン有り!無し!が選べます。」と記載された箇所の左横に3点
 掲載期間:少なくとも平成27年9月8日から平成29年7月3日まで
オ E使用(別紙4)
 掲載箇所:同ウェブサイトのトップページ(左サイド部分及び上部)に7点(7点とも本件イラストの上部のみ)
 掲載期間:平成29年7月頃」
3 争点についての当事者の主張
 争点についての当事者の主張は、次のとおり当審における当事者の補充主張を加えるほか、原判決の第2の2(2)及び(3)に記載するとおりであるから、これを引用する。
(1)一審原告
ア 使用料相当損害金
 一審原告は、依頼内容に応じてオーダーメイドでイラストを作成していることから、具合的な使用料の基準を設けていない。一審原告は、本件イラストと同ジャンルであるブラッドオレンジのイラストを「数量1」として4万3000円(税別)で使用許諾し(甲9)、複数回使用可という条件でイラスト1点を45万円(税別)で使用させたことがある(甲21)。
 加えて、一審原告は、イラスト料金は条件不記載の場合には初回使用料になる旨を請求書に付記するなど、イラストの使用回数に応じて使用料を増額している。一審被告は被告ウェブサイトの15か所に本件イラストを使用していることを考慮すると、そのうちの8か所分の金額である34万4000円は損害額として相当である。
イ 慰謝料
 一審被告の本件イラストの利用態様はオリジナルイラストの特徴であるりんごの新鮮さやシズル感を大きく損なわせるものである。また、一審原告は、大手メーカーのパッケージイラストの制作に携わり、大学の非常勤講師を務めるなどの立場にあったことに照らすと、一審原告の氏名も表示せず、その作品の特徴を大きく損なう使用をされたことにより受けた精神的苦痛は大きい。これに、一審被告が不誠実な対応に終始していることも考え併せると、一審被告の侵害行為より一審原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料は50万円を下らない。
ウ 弁護士費用9万円
(2)一審被告
ア 使用料相当損害金
 一審原告の過去の契約例(甲20)に照らしても、ホームページという1種類の媒体に対し、同一のデザインのイラストを複数利用したとしても、費用は同一であると解すべきである。そうすると、使用料相当損害金は、甲9にあるとおり、4万3000円を超えるものではない。
イ 慰謝料
 一審原告は、オリジナルイラストに特徴的な新鮮さやシズル感が存在すると主張するが、これを裏付ける証拠は存在しない。また、一審被告は、一審原告から指摘を受けた後直ちに利用を止めたため、侵害期間は約2年11か月にすぎず、一審原告が本訴提起前に求めた慰謝料の額も2万円にとどまっている(乙3)。一審被告の本件イラストの利用により一審原告に精神的苦痛が生じたとしても、それを慰謝するための慰謝料の額は多くて10万円程度である。
ウ 弁護士費用
 争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点(損害額)について
(1)使用料相当損害金について
ア 一審原告は、主位的に、一審原告作成のブラッドオレンジのイラストのレンタル使用料(甲9)を基に34万4000円の損害が生じたと主張し、予備的に、ワーハの定める料金表(甲10)を基に32万0812円の損害が生じたと主張するところ、本件においては、一審原告がオリジナルイラストの使用を過去に許諾した契約例などを示す証拠はないので、本件イラストの使用期間、使用箇所、使用態様、類似のイラストの使用許諾例などを総合して、使用料相当損害金を定めるのが相当である。
イ 証拠(甲9)によれば、一審原告は、平成29年、一審原告作成のブラッドオレンジのイラスト1点を特段の条件を付すことなく4万3000円でレンタルしたと認められる。本件イラストが、上記ブラッドオレンジのイラストと同様、果物を描いた作品であることからすれば、本件イラストの使用料相当額も、上記ブラッドオレンジのイラストの使用料と同様、1回当たり4万3000円と認めるのが相当である。
ウ 一審原告は、イラストレンタルの請求書の記載(甲20、21)などを根拠として、本件イラストの掲載が15か所に及ぶことを考慮すると、そのうちの8か所分の使用料相当額(34万4000円)が損害として認められるべきであると主張する。
 この点、確かに、被告ウェブサイト全体を通じて1回の使用と評価することは相当ではないが、前記前提事実のとおり、被告ウェブサイトに掲載された本件イラストは、その位置や用途等に照らすと、大きく分けて5か所であると認められ、また、商品の宣伝広告という本件イラストの使用態様・目的に照らすと、一定年月ごとに使用許諾契約を更新することが予定されていたということはできない。そうすると、一審被告の本件イラストの使用回数は、その掲載期間にかかわらず、5回と評価することが相当である。
エ したがって、使用料相当損害金は、4万3000円に一審被告の本件イラストの使用回数を乗じた21万5000円と認めるのが相当である。
(2)慰謝料について
 一審被告は、本件イラストに縮小、縦横比の変更、一部切除等の改変を加えた本件イラストの複製画像を、著作者名を表示することなく、被告ウェブサイトに掲載し、本件イラストに係る一審原告の著作者人格権を侵害したものであるところ、上記の改変行為により一審原告のオリジナルイラストの有する特徴が損なわれるなどしたことにより、一審原告は精神的苦痛を受けたものと認められる。
 他方で、本件イラストが掲載されたのは被告ウェブサイト内にとどまっており、掲載箇所も大別すれば5か所である上、その表示態様や大きさもことさらに目立つ態様ではなく、上記改変も同サイトに所定の大きさで本件イラストを表示するためにされたものであると推認される。
 これに加え、本件イラストの掲載期間も含め、本件に現れた一切の事情を考慮すると、一審被告による著作者人格権に基づく一審原告の精神的苦痛に対する慰謝料としては20万円が相当である。
(3)弁護士費用について
 本件訴訟の難易度、審理の経過、認容する請求の内容その他本件において認められる諸般の事情を考慮すると、一審被告による不法行為と相当因果関係にある弁護士費用相当額は4万1500円とするのが相当である。
2 結論
 以上によれば、一審原告の請求は、45万6500円(上記1(1)〜(3)の合計額)及びこれに対する令和元年7月3日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容することとし、その余は理由がないから棄却すべきである。
 よって、一審被告の控訴の一部は理由があるから、これに基づき原判決を上記のとおり変更することとし、一審原告の控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 佐藤達文
 裁判官 吉野俊太郎
 裁判官 齊藤敦


(別紙1)著作物目録(省略)
(別紙2)(省略)
(別紙3)(省略)
(別紙4)(省略)
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