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【事件名】中部テレコミュニケーションへの発信者情報開示請求事件
【年月日】令和3年6月16日
 東京地裁 令和3年(ワ)第2608号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和3年4月23日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 平野敬
被告 中部テレコミュニケーション株式会社
同訴訟代理人弁護士 星川信行


主文
1 被告は、原告に対し、別紙1発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、原告が、電気通信事業等を営む被告に対して、被告の用いる電気通信設備を経由したファイル共有ソフトウェアの使用によって、「魔王の始め方THECOMIC」と題する漫画作品(以下、同作品の全体を「本件漫画作品」という。)のうち、その第1話の冒頭部分に当たる別紙3著作物目録記載1ないし5の各画像(以下、併せて「本件著作物」という。)について、原告がその原著作物である小説の著作権者として有する自動公衆送信権(送信可能化権を含む。以下同じ。著作権法28条、23条1項)が侵害されたことが明らかであり、上記のソフトウェアの使用者に対する損害賠償請求等のために必要であるとして、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づいて、被告の保有する別紙1発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがない事実)
(1)被告は、電気通信事業等を目的とする株式会社であり、法2条3号の特定電気通信役務提供者である。
(2)別紙2発信端末目録記載のIPアドレスは被告が管理するものであり、被告は本件発信者情報を保有している。
3 争点
(1)原告が本件著作物について自動公衆送信権を有するか(争点1)
(2)侵害情報の流通によって、原告の本件著作物についての自動公衆送信権が侵害されたことが明らかであるか(争点2)
(3)本件発信者情報は開示関係役務提供者が保有する権利の侵害に係る発信者情報に当たるか(争点3)
(4)本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか(争点4)
4 争点に関する当事者の主張
(1)争点1(原告が本件著作物について自動公衆送信権を有するか)について
(原告の主張)
 原告は、「B」との筆名で活動する小説家であり、「魔王の始め方」と題する小説(以下「本件小説」という。)の著作者である。
 本件漫画作品は、本件小説をC(以下「C」という。)が翻案して漫画化した二次的著作物であり、原告は、原著作物の著作者として、本件漫画作品の一部である本件著作物についての自動公衆送信権(著作権法23条1項)を有する(同法28条)。
(被告の主張)
 不知。
(2)争点2(侵害情報の流通によって、原告の本件著作物についての自動公衆送信権が侵害されたことが明らかであるか)及び争点3(本件発信者情報は開示関係役務提供者が保有する権利の侵害に係る発信者情報に当たるか)について
(原告の主張)
ア 氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)は、本件著作物を含む、本件漫画作品を複製した電子ファイルを、原告の承諾を得ることなく、ファイル共有ソフトウェアであるビットトレントを使用して、遅くとも、別紙2発信端末目録記載の発信時刻までの間に自動公衆送信し得る状態に置き、同発信時刻において、自動公衆送信した。
 これらの本件著作物の送信可能化及び自動公衆送信について違法性阻却事由は存在しない。
 そして、上記発信時刻における自動公衆送信は、被告のネットワークを経由して行われたものであり、その際の発信端末のIPアドレスは、同目録記載のとおりである。
 したがって、侵害情報の流通によって、原告の本件著作物についての自動公衆送信権が侵害されたことが明らかであり、本件発信者情報は開示関係役務提供者である被告が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報に該当する。
イ 被告は、本件発信者によるアップロード行為を否認するが、ビットトレントを使用して電子ファイルをダウンロードした者は、同時に他の端末に対するアップロードも行うこととなる。そして、原告代理人による調査の際、本件発信者は、別紙2発信端末目録記載の発信時刻において、現に、前記アの電子ファイルの自動公衆送信をしていた。
(被告の主張)
 原告の主張は否認する。
 ビットトレントを用いて、本件漫画作品を複製した電子ファイルをダウンロードすることが、当該電子ファイルをアップロードすることになるのか必ずしも明らかではなく、原告の本件著作物についての自動公衆送信権が侵害されたことが明らかであるとはいえない。
(3)争点4(本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか)について
(原告の主張)
 原告は、本件発信者に対して損害賠償等を請求する準備をしており、そのためには本件発信者情報の開示を受ける必要があるから、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。
(被告の主張)
 原告が本件発信者に対して損害賠償等を請求する準備をしていることは不知、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとの主張は争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(原告が本件著作物について自動公衆送信権を有するか)について証拠(甲1、2、9、10、12)及び弁論の全趣旨によれば、原告は本件小説の著作者であること、本件漫画作品は本件小説をCが漫画化したものであり、本件小説の二次的著作物に該当すること、本件著作物は本件漫画作品の第1話の冒頭部分であることが認められる。
 したがって、原告は、原著作物の著作者として、本件漫画作品の一部である本件著作物についての自動公衆送信権(著作権法23条1項)を有する(同法28条)。
2 争点2(侵害情報の流通によって、原告の本件著作物についての自動公衆送信権が侵害されたことが明らかであるか)及び争点3(本件発信者情報は開示関係役務提供者が保有する権利の侵害に係る発信者情報に当たるか)について
(1)証拠(甲3ないし9、13、14)及び弁論の全趣旨によれば、ビットトレントとの名称のソフトウェアないしその互換ソフトウェア(以下、これらを、単に「ビットトレント」という。)はインターネットを通じたファイル共有ソフトウェアであること、ビットトレントの仕様上、ビットトレントを用いてインターネット上からある電子ファイルをダウンロードした端末は、通常は当該電子ファイルのインターネット上へのアップロードを行うことになること、原告代理人がビットトレントを用いて本件漫画作品のビットトレントネットワークでの共有状況を調査した際、別紙2発信端末目録記載の発信時刻において、「(ファイル名は省略)」との名称の電子ファイル(以下「本件ファイル」という。)がビットトレントネットワーク上で共有されており、同時刻において同目録記載の被告が管理するIPアドレスが割り当てられた端末から原告代理人の端末に対する本件ファイルの一部の送信が行われていたこと、本件ファイルは本件著作物の複製物を含むものであったことが認められる。
(2)そうすると、別紙2発信端末目録記載の発信時刻において同目録記載のIPアドレスが割り当てられた端末でビットトレントを使用していた氏名不詳者(本件発信者)は、ビットトレントを用いた本件ファイルの共有行為により、遅くとも上記の発信時刻までに、本件著作物に係る原告の送信可能化権を侵害し、同時刻において、本件著作物に係る原告の自動公衆送信権を侵害したものと認められる。
 そして、本件全証拠によっても、これらの著作権侵害について、原告による許諾、その他の違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情は認められない。
(3)以上によれば、本件発信者の別紙2発信端末目録記載の発信時刻における自動公衆送信行為に係る情報の流通によって原告が本件著作物について有する自動公衆送信権が侵害されたことが明らかであり(法4条1項1号)、上記自動公衆送信行為に係る通信を媒介した被告は開示関係役務提供者に該当し、かつ、本件発信者情報は開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報に該当する(同項柱書)と認められる。
3 争点4(本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか)について
 証拠(甲10)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件発信者に対して、前記2の自動公衆送信権侵害について損害賠償請求等を行う意思を有しており、そのためには本件発信者情報の開示を受ける必要があると認められるから、法4条1項2号の本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。
4 結論
 以上によれば、被告は、法4条1項に基づき、開示関係役務提供者として本件発信者情報を開示すべき義務を負う。
 よって、原告の請求は、理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 國分隆文
 裁判官 矢野紀夫
 裁判官 佐々木亮


別紙一覧
別紙1 発信者情報目録
別紙2 発信端末目録(添付省略)
別紙3 著作物目録(添付省略)

別紙1 発信者情報目録
 別紙2発信端末目録記載のIPアドレスを、同目録記載の発信時刻頃に使用した者の情報であって、次に掲げるもの。
 1 氏名又は名称
 2 住所
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