判例全文 line
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【事件名】海賊版サイト「漫画村」事件(刑)B
【年月日】令和3年6月2日
 福岡地裁 令和元年(わ)第1181号、同年(わ)第1283号、同年(わ)第1498号、令和2年(わ)第41号

判決


主文
 被告人を懲役3年及び罰金1000万円に処する。
 未決勾留日数中400日をその懲役刑に算入する。
 その罰金を完納することができないときは、2万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
 被告人から6257万1336円を追徴する。

理由
(罪となるべき事実)
 人名については、証拠の標目に掲記する場合及び特記する場合を除き、再出時以降は姓のみで表記する。
第1 被告人は、A、B、Cと共謀の上、
1(令和元年11月5日付け起訴状記載の公訴事実)
 法定の除外事由がなく、かつ著作権者の許諾を受けないで、平成29年5月11日頃、東京都中野区a・b丁目c番d号e・f号のB方において、パーソナルコンピュータを使用し、インターネットを介して、Dが著作権を有する著作物である漫画「丙516話丁」の1ページから8ページまでの画像データを、インターネットに接続された氏名不詳者が管理する場所不詳に設置されたサーバコンピュータの記録装置に記録保存して、その頃から同月17日までの間、インターネットを利用する不特定多数の者に自動的に公衆送信し得る状態にし、もって前記Dの著作権を侵害した。
2(令和元年10月15日付け起訴状記載の公訴事実)
 法定の除外事由がなく、かつ著作権者及び出版権者の許諾を受けないで、平成29年5月29日頃、前記B方において、パーソナルコンピュータを使用し、インターネットを介して、Eが著作権を有し、株式会社Fが出版権を有する著作物である漫画「戊866話“己”」の画像データを、インターネットに接続された氏名不詳者が管理する場所不詳に設置されたサーバコンピュータの記録装置に記録保存して、その頃から同月31日までの間、インターネットを利用する不特定多数の者に自動的に公衆送信し得る状態にし、もって前記Eの著作権及び前記Fの出版権を侵害した。
第2 被告人は、「G」と称するウェブサイト(以下「G」という。)を管理・運営していたものであって、アフィリエイト広告代理店を介して広告主から提供を受けた広告をGに掲載した上、インターネットに接続されたGのサーバコンピュータの記録装置、又は同装置に記録媒体として加えられた氏名不詳者の管理するサーバコンピュータの記録装置に著作権者等の許諾を受けないで記録保存された漫画等の画像データが不特定多数のインターネット利用者に公衆送信し得る状態にあることを手段として利用し、当該漫画等の画像データを閲覧しようとする不特定多数のインターネット利用者にGにアクセスさせて、Gにアクセスした不特定多数のインターネット利用者が広告をクリックするなどして発生したアフィリエイト報酬を得ていたものであるが、
1(令和元年12月20日付け起訴状(令和2年3月13日付け及び令和3年1月29日付け各訴因変更請求書)記載の公訴事実)
 財産上の不正な利益を得る目的で犯した著作権法違反の犯罪行為により得た犯罪収益であるアフィリエイト報酬を隠匿しようと考え、氏名不詳者らにおいて、法定の除外事由がなく、かつ、著作権者等の許諾を受けないで、漫画等の画像データをインターネットに接続されたGのサーバコンピュータの記録装置に記録保存し、又は漫画等の画像データが記録保存された氏名不詳者の管理するサーバコンピュータの記録装置を前記Gのサーバコンピュータの記録媒体として加えた上で同Gのサーバコンピュータに同データを入力し、漫画等の画像データを不特定多数のインターネット利用者に自動的に公衆送信し得る状態にし、平成28年11月24日頃から平成29年7月31日頃までの間に、Gにアクセスした不特定多数のインターネット利用者が広告をクリックするなどして発生したアフィリエイト報酬とそれ以外の財産とが混和した犯罪収益等合計4845万0532円を、平成28年12月26日から平成29年9月1日までの間、別紙一覧表1記載【別紙省略】のとおり、18回にわたり、広告代理店である株式会社Hほか2社の従業員に、東京都渋谷区g・h丁目i番j号の株式会社I銀行J支店に開設された株式会社H名義口座ほか2口座から、被告人が指定したセーシェル共和国国籍の法人「K」名義の「LBankLimited」口座に送金させ、もって犯罪収益等を隠匿した。
2(令和2年1月27日付け起訴状(令和3年1月29日付け訴因変更請求書)記載の公訴事実)
 財産上の不正な利益を得る目的で犯した著作権法違反の犯罪行為により得た犯罪収益であるアフィリエイト報酬の取得につき事実を仮装しようと考え、氏名不詳者らにおいて法定の除外事由がなく、かつ、著作権者等の許諾を受けないで、漫画等の画像データをインターネットに接続されたGのサーバコンピュータの記録装置に記録保存し、又は漫画等の画像データが記録保存された氏名不詳者の管理するサーバコンピュータの記録装置を前記Gのサーバコンピュータの記録媒体として加えた上で前記Gのサーバコンピュータに同データを入力し、漫画等の画像データを不特定多数のインターネット利用者に自動的に公衆送信し得る状態にし、平成29年7月1日頃から同年10月31日頃までの間に、Gにアクセスした不特定多数のインターネット利用者が広告をクリックするなどして発生したアフィリエイト報酬とそれ以外の財産とが混和した犯罪収益等合計1412万0804円を、同年11月6日から同月30日までの間、別紙一覧表2記載【別紙省略】のとおり、2回にわたり、広告代理店である株式会社Mの従業員に、株式会社N銀行に開設されたO名義口座ほか1口座に振込入金させて、前記口座に預け入れ、もって犯罪収益等の取得につき事実を仮装した。
(事実認定の補足説明)
第1 争点及び結論
1 弁護人は、被告人がGの運営に関与し、Gにおいて、「丙516話」の1ページから8ページ(以下、単に「丙516話」という。)及び「戊866話」の画像が閲覧可能であったことは認めるが、@これらの画像データは、被告人らがGのサーバコンピュータの記録媒体に記録保存したものではなく、第三者のサーバコンピュータに存在したものを、リバースプロキシを利用して閲覧できるようにした可能性が高いから、判示第1の各記録保存行為はない、AGに掲載された漫画等の大半は、リバースプロキシを利用して閲覧できるようにしたものであるが、リバースプロキシを設定する行為は、著作権法2条1項9号の5イに規定する送信可能化のいずれにも該当せず、犯罪収益等の前提犯罪に該当しない、B被告人がGの運営で得た広告収入(アフィリエイト報酬)は犯罪収益に該当しない、C被告人がGのアフィリエイト報酬が含まれる金銭を海外の銀行口座や第三者名義の銀行口座に送金させた行為は、犯罪収益等の隠匿、事実仮装に該当しない旨主張し、被告人もこれに沿う供述をする。
2 本件の争点は、次のとおりである。
 判示第1の各事実について、「丙516話」及び「戊866話」の画像データは、Gのサーバコンピュータの記録媒体に被告人らが記録保存したものか(以下、サーバコンピュータの記録媒体にデータを記録保存する行為を「アップロード」ということがある。)(争点@)
 判示第2の各事実について、被告人がGに各著作物を掲載する際に用いたリバースプロキシの設定は送信可能化(著作権法2条1項9号の5イ)に当たるか(争点A)
 被告人がGの運営で得た広告収入(アフィリエイト報酬)が犯罪収益(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律2条2項1号)に当たるか(争点B)
 被告人がGのアフィリエイト報酬が含まれる金銭を海外の銀行口座や第三者名義の銀行口座に送金させた行為が、犯罪収益等を「隠匿」し、その取得につき「事実を仮装」した行為(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律10条1項)に当たるか(争点C)
3 当裁判所は、これらの全てを認め、「丙516話」及び「戊866話」はいずれもアップロードされたものであり、被告人は、他人の著作物を自らのウェブサイトで違法に送信可能化した上、その犯罪によって得た犯罪収益等を隠匿し、その取得につき事実を仮装したものと判断した。
 理由は以下のとおりである(一部証拠を後掲する。)。
第2 G全般に関する前提事実
 証拠によれば、次の事実が認められる。
1 Gの内容
(1)Gは、多数の漫画等の著作物を掲載し、閲覧可能にしたウェブサイトである。
 被告人は、遅くとも平成28年2月頃にGを立ち上げた。その後、被告人の経営する飲食店の従業員であったAがGの運営に参加し、Aを介してB、Cも加担して週刊誌等のアップロードを行うようになった。
 Gに掲載された漫画等は、数万件以上に及んでいた(第7回公判調書中の被告人の供述部分)(なお、警察官が、令和2年1月に過去のウェブサイトを閲覧し得るウェブサイトを利用して、平成28年2月から平成29年10月までにGに掲載された作品を調査した結果、重複を除き1283件が確認された(甲356)。)。
 被告人らは、Gに掲載されたいかなる作品についても、その著作権者から、ウェブサイトにこれらを掲載することの許諾を得ていない。
 (甲11、220ないし324、356、359ないし361、第8回公判調書中の証人Aの供述部分)
(2)被告人は、Gの運営に当たり、閲覧者からの閲覧リクエストの受付けや画像データの記録保存等を行うため、多数のサーバコンピュータを管理、利用していた(以下、これらを総称して「Gのサーバ」という。)。
 Gに漫画等を掲載する方法としては、Gのサーバの記録媒体に漫画等の画像データを手作業でアップロードする方法と、被告人らと無関係なサーバコンピュータ(以下「第三者サーバ」という。)に存在する画像データを、Gのサーバにリバースプロキシの設定をすることにより閲覧できるようにする方法の2種類があった。Gに掲載された漫画等は、すべて上記2種類のいずれかの方法によるものである。
 リバースプロキシとは、オリジンサーバ(本件では第三者サーバ)とユーザー(本件ではGの閲覧者)との間のデータ送信を中継する機能又はその機能を有するサーバ(本件ではGのサーバ)をいう。リバースプロキシには、一般的に、オリジンサーバのセキュリティや匿名性を高め、送信されるデータをキャッシュ(一時保存)することによりオリジンサーバへの負荷を軽減する機能がある。
 被告人は、Gのサーバにはデータをキャッシュしない設定としていたと供述しており、それを前提とすると、リバースプロキシの方法によりGに掲載された漫画等の画像データは、第三者サーバの記録装置に存在し、Gのサーバの記録装置には保存されないことになる。
(3)さらに、被告人は、一定期間、Gのサーバと閲覧者との間に、リバースプロキシとして、アメリカ合衆国所在のPが提供するCDNサーバを利用しており、一般のユーザーがGの漫画を閲覧する際は、Gのサーバではなく、CDNサーバにアクセスする仕組みになっていた。
 これにより、Gのサーバから送信される画像データがCDNサーバにキャッシュされることでデータ送信の効率化が図られ、CDNサーバの介在によってユーザーからはGのサーバが見つからなくなり、セキュリティが向上し、匿名性も高まるなどの効果があった。
 (甲13、366、公判調書中の証人Q(第10回)及び被告人(第7、8、10回)の各供述部分)
2 Gの収益構造
 Gの閲覧は無料であり、その収益は、専らGに掲示された広告の収入(アフィリエイト報酬)に拠っていた。
 アフィリエイトとは、インターネットを利用した広告の一種である。
 サイト運営者が、運営するウェブサイトに広告主の商品やサービスを紹介する広告を掲載し、閲覧者がその広告をクリックし、広告主のサイトを閲覧して商品を購入するなどの成果が上がった際、生じた成果に応じ、サイト運営者に成功報酬が支払われる。
 広告主とサイト運営者との間の契約は広告代理店を介して行われ、サイト運営者に対するアフィリエイト報酬も広告代理店から支払われる。
 アフィリエイト報酬の形態には、閲覧者がサイトを訪問して広告が表示された際に報酬が発生するもの(インプレッション型報酬)、閲覧者がその広告をクリックすると報酬が発生するもの(クリック型報酬)、さらに進んで、閲覧者が実際に広告主の商品あるいはサービス等を購入した際に報酬が発生するもの(成果型報酬)等がある。Gにおけるアフィリエイト報酬は、このいずれの形態をも含んでいた。
 いずれにせよ、サイト運営者は、より多くのアフィリエイト報酬を得るためには、広告を掲載した自己のウェブサイトへより多くのアクセスを集めることが肝要である。
 (甲101、100、71、72、74ないし77、108)
3 小括
 以上によれば、Gは、@著作権者の許諾なく、大量の漫画等の画像をウェブサイト上に掲載し、一般ユーザーの閲覧を誘引することで広告収入を得ることを専らの目的とし、Aその際、第三者が管理する物を含め、複数のサーバを複雑に組み合わせて利用することで、大量の漫画等の画像データを効率よく送信可能にすると同時に、サイト運営者の匿名性も高めるように設計・運営されたウェブサイトということができる。
第3 争点@(「丙516話」及び「戊866話」の画像データは、Gのサーバコンピュータの記録媒体に被告人らが記録保存したものか)について
1 弁護人の主張
 弁護人は、次のとおり、特に「丙516話」については、Bのしたアップロードが正常に終了しておらず、リバースプロキシにより表示されていた疑いが強いと主張する。
 被告人は、Gにおいて、多重投稿を避けるためのプログラムを設定していた。Bが丙516話のアップロードを行ったとしても、リバースプロキシの設定によって、これが既に閲覧可能になっていたことから、多重投稿を防止するプログラムの働きでアップロードが妨げられた可能性がある。Bが当時送ったLINEにもアップロードに失敗したことをうかがわせる記載がある。
 警察官が、平成29年5月23日にGで「丙」の用語で検索をかけた結果には「丙516話」が表示されていない(甲11・別紙8)。アップロードしたデータがこの検索に当たらないことは考えられない。一方、リバースプロキシの場合、Gのサーバコンピュータにはデータを保存せず、第三者サーバに記録保存されたデータをGで表示させているだけであるので、元の画像が第三者サーバ上で削除されれば、Gでも表示されない。平成29年5月17日に閲覧可能であった「丙516話」が、同月23日にGの検索結果に表示されなかった理由は、リバースプロキシによる以外、合理的な説明がつかない。
2 客観的事実
 証拠(甲7、41)によれば、Gにおいて、平成29年5月17日時点で「丙516話」が、同月31日時点で「戊866話」がそれぞれ掲載され、その画像データをダウンロードすることが可能であり、これらの画像データが送信可能な状態となっていたことが認められる。
3 Bの供述
 争点@に関し、Bは、要旨次のとおり供述する。
 私は、平成29年3月14日頃から同年7月末頃まで、Aや被告人の指示で、Cと一緒に、主に週刊誌で連載中の漫画をGにアップロードする作業を行っていた。
 私とCが行っていた具体的なアップロードの作業は、@別のウェブサイトから漫画・雑誌のデータをダウンロードして、いったん自分のパソコンのデスクトップなどに保存する、Aダウンロードしたデータを解凍して内容を確認し、1話毎に1つのフォルダにまとめる、B1つのまとまりにしたフォルダを圧縮して、Gの管理画面のうち「下書き」と呼ばれる場所にドラッグアンドドロップする、というものである。
 当時は週刊誌をアップロードするのに忙しく、自分がアップロードした漫画を読む余裕もなかったが、丙という作品をアップロードした記憶はある。平成29年5月11日の午後9時13分に、被告人とAとのLINEグループに「もう1回丙アップしたらそっちはちゃんと読み込めたので、下書きに残っている丙516話は削除しておいてほしいです」と私が送信しているので、その日に「丙516話」がアップロードされているのであれば、Cではなく、私がアップロードしたものだと思う。
 また、同月29日の午後12時32分にはLINEに「庚と戊だけ先に更新しました」と私が送信しているので、私かCのいずれかが、「戊866話」をGにアップロードしたことも間違いないと思う。
4 検討
(1)証拠によれば、Gにおける「丙516話」のURLの末尾10桁の数字「1494503401」(甲41)は、コンピュータにおける時刻の表記方法の一種であるユニックスタイムを表すもので、アップロードの場合は画像データがGのサーバの記録媒体に記録保存された時刻、リバースプロキシの場合はGの公開前の下書き欄に登録された時刻を示しており(第8回公判調書中の被告人の供述部分・9丁)、これを西暦に換算すると、2017年(平成29年)5月11日午後8時50分1秒を指すことが認められる(甲364)。
 Bが、LINEで丙の更新が終了したことを報告した時間は、その約23分後である同日午後9時13分であり(甲16・9/21頁(番号1959))、その時刻は高度に整合している。
 同様に、「戊866話」の画像データのユニックスタイム「1496026801」(甲7)を西暦に換算すると、2017年(平成29年)5月29日午後零時零分1秒を示すところ(甲364)、Bは、その32分後である同日午後零時32分に戊の更新の終了を報告しており(甲16・13/21頁(番号2033))、その時刻は高度に整合している。
 BとAの平成29年5月11日のLINEのやり取りの文面は、AがBに週刊辛と週刊壬の更新を依頼し、それを受けてBが入手先を探してダウンロードし、作品ごとに分割してアップロードしてGに掲載したことを示すものと理解することができ、リバースプロキシにより下書き欄に自動的に登録されていたものを公開する作業をしただけと理解することは困難である(甲16・8/21、9/21頁(番号1947ないし1959))。
 以上によると、「丙516話」及び「戊866話」をGのサーバにアップロードしたとのBの供述は、信用できる。
 そして、ユニックスタイムが示す時刻とBが更新終了を報告した時刻が近接していることによれば、Gからダウンロード可能であった「丙516話」及び「戊866話」の画像データは、いずれもBらがアップロードしたものと同一であると推認できる。
(2)前記1の弁護人の主張を検討するに、Bが送信した前記LINEメッセージ(甲16・9/21頁)をみると、最初にアップロードしたファイルが上手く読み取れなかった旨の記載は弁護人の主張に沿っているが、一方で、再度のアップロードの際には問題なく読み込めた旨記載されている。被告人の述べる多重投稿を防止するプログラムが働いたのであれば、Bのいう二度目の読み込みも正常に終了するとは思われない。
 弁護人が指摘するとおり、平成29年5月23日に警察官が作成した捜査報告書によれば、キーワード検索の結果に「丙516話」は含まれていないが(甲11・別紙8)、一方で、同捜査報告書中のG内の「人気漫画ランキング」を印刷した結果をみると、2位に「丙」が表示され、そのサムネイルとして「丙516話」の画像が表示されている(同別紙2)。「丙516話」のサムネイルが現にGに表示されている以上、当時、その画像はGで表示可能だったことになる。同日頃、Gにおいて「丙516話」が表示できない状態であったことを前提とする主張は採用できず、キーワード検索で「丙516話」が表示されないのは、別の原因によると理解するほかない。
 以上によれば、弁護人の主張を踏まえても、Bが「丙516話」の画像データをアップロードしたこと、そのデータと捜査機関が確認した画像データが同一であることに疑いを容れる事情はない。
 「戊866話」についても、これがアップロードされたものであることを疑わせる具体的な事情はない。
5 結論
 以上によれば、「丙516話」及び「戊866話」は、いずれもアップロードされたものと認められる。
第4 争点A(被告人がGに各著作物を掲載する際に用いたリバースプロキシの設定は送信可能化(著作権法2条1項9号の5イ)に当たるか)について
1 弁護人は、次の理由で、被告人がしたリバースプロキシの設定は、送信可能化(著作権法2条1項9号の5イ)に当たらない旨主張している。
(1)「自動公衆送信し得るようにすること」とは、自動公衆送信し得ない状態から、自動公衆送信し得る状態に移すことをいう。リバースプロキシを設定することは、第三者がインターネット上において既に公衆送信し得る状態を作出していた侵害コンテンツに、ユーザーを誘導するものにすぎないから、文理上、「自動公衆送信し得るようにすること」と評価することはできない。被告人のしたリバースプロキシの設定は、いわゆるリンクの貼付けと同様、第三者が既にインターネット上において自動公衆送信し得る状態を作出していた侵害コンテンツに誘導する行為であるから、リンクの貼付けと同様の規律に服するべきである。
 このような行為類型は、令和2年6月5日に改正された著作権法113条2項1号・2号、120条の2第3号によって初めて処罰されるようになったもので、同改正前の著作権法が適用される本件において、これを処罰することはできない。
(2)「情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え」るとは、自動公衆送信装置と物理的に接続していない外部記録媒体を当該自動公衆送信装置に組み込み、又はこれと物理的に接続させることをいう。第三者サーバは、被告人とは無関係の第三者が設置した誰でもアクセスできるサーバコンピュータであるから、これを記録媒体と評価することはできず、また、被告人は、第三者サーバをGのサーバに物理的に組み込んだり、接続したりしていない。よって、被告人の行為は記録媒体を加える行為に当たらない。
(3)Gのサーバに情報を入力する行為を行うのは、直接には、Gにアクセスした利用者であって、被告人ではない。リバースプロキシの設定を行っても、Gを訪れたユーザーが表示させない限り、Gのサーバに情報は入力されない。よって、被告人の行為は「当該自動公衆送信装置に情報を入力」したことに当たらない。
2 リバースプロキシの内容
 関係証拠(第10回公判調書中の証人Qの供述部分、甲366)によれば、リバースプロキシの概要は次のとおりである。
 ユーザーが、閲覧や視聴を望む画像コンテンツの閲覧をリバースプロキシにリクエストした場合、リバースプロキシは、その画像コンテンツが記録保存されているオリジンサーバに、そのデータの送信をリクエストする。オリジンサーバから、リクエストに対応した画像データの送信を受けると、その画像データをリバースプロキシがキャッシュ(一時保存)し、ユーザーに対してはそのデータを送信して、閲覧・視聴を可能にする。
 このキャッシュ(一時保存されたデータ)の保持時間は任意に設定可能であり、ゼロに設定することも可能である。キャッシュの保持時間がゼロであっても、リバースプロキシのサーバコンピュータを経由して、ユーザーが画像データを閲覧することに変わりはない。
 キャッシュがリバースプロキシに一時保存されている間は、ユーザーからのリクエストに対してはリバースプロキシが応答し、最初のリクエストや、キャッシュがリバースプロキシに一時保存されていない場合は、リバースプロキシがオリジンサーバから画像データを取得し、ユーザーに閲覧させる。
3 検討
(1)送信可能化とは、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置に情報を入力するなど、著作権法2条1項9号の5イ又はロ所定の方法により自動公衆送信し得るようにする行為をいい、自動公衆送信装置とは、公衆の用に供されている電気通信回線に接続することにより、その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分に記録され、又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置をいう(著作権法2条1項9号の5)。
 Gのサーバは、インターネット回線に接続し、その記録媒体に記録された漫画の画像データや、第三者サーバから送信された漫画等の画像データを、公衆からの求めに応じ自動的に送信するものであるから、自動公衆送信装置に該当する。
(2)「情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え」るの該当性
 被告人は、Gのサーバではデータをキャッシュしていなかったと供述しており、これを覆すべき証拠はない。よって、キャッシュは行われていなかったものと認められる。
 前記2に認定したリバースプロキシの働きによれば、Gのサーバにリバースプロキシの設定をすることにより、Gのサーバは、閲覧者から画像閲覧のリクエストを受けるとその画像データを第三者サーバにリクエストし、第三者サーバからその画像データの送信を受け、受け取った画像データを閲覧者に返信することになる。これによると、第三者サーバ内部にある記録媒体のうちGのサーバに送信する画像データを記録保存している部分は、自動公衆送信装置たるGのサーバに画像データを供給する働きをするものと認められ、機能的にみて、Gのサーバに接続された記録媒体に当たると評価できる。
 そして、上記のGのサーバと第三者サーバの記録媒体との関係は、被告人がGのサーバにリバースプロキシの設定をすることにより生じたことによれば、同行為は、情報が記録された第三者サーバの記録媒体をGのサーバの公衆送信用記録媒体として「加え」る行為に該当すると認められる。
 したがって、Gのサーバにリバースプロキシの設定をした被告人の行為は、著作権法2条1項9号の5イにいう「情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え」る行為に当たると認められる。
 この点に関する弁護人の主張は、前記1同条の文理解釈において、「加え」る行為を物理的に接続する場合に限定すべき合理的理由はなく、その主張は採用できない。
(3)当該自動公衆送信装置に情報を入力する」の該当性
 第三者サーバに記録保存されていた漫画等の画像データは、閲覧者のリクエストに応じてGのサーバに入力されるものの、Gのサーバには記録保存されることなく、そのまま自動公衆送信されていた。
 これは、著作権法2条1項9号の5イにいう「当該自動公衆送信装置に情報を入力する」ことに当たる。
 もっとも、かかる情報の入力は、閲覧者のリクエストに応じて自動的に行われるのであるから、当該情報の入力を行った主体が誰であるかが問題となる。
 著作権法が、自動公衆送信とは別に、送信可能化を規制対象として規定した趣旨は、現に自動公衆送信が行われる前の準備段階の行為を規制することにある。そして、送信可能化が、公衆からの求めに応じて自動的に送信する機能を有する自動公衆送信装置の使用を前提としていることに鑑みると、情報入力の主体は、閲覧のリクエストをした個々の閲覧者ではなく、情報を自動的に入力する状態を作り出した者と解するのが相当である。
 本件において、情報を自動的に入力する状態を作り出したのは、Gのサーバにリバースプロキシの設定をした被告人であるから、行為主体は被告人と認められる。
(4)さらにリバースプロキシとリンクの貼付けとの異同についてみると、関係証拠によれば、リバースプロキシの設定は、いわゆるリンクの貼付けとは違い、リバースプロキシを設定されたサーバが、オリジンサーバが管理する別のウェブサイトへの遷移を伴わずに、ユーザーが閲覧をリクエストした画像データ自体をオリジンサーバから取得して、受信者に対し、当該画像データそのものを送信するものである。
 この行為が著作権法の定める送信可能化に該当することは既に検討したとおりであり、データ自体を送信せず、インターネット上の侵害コンテンツの所在(URL)を表示するにすぎないリンクの貼付けとは、行為態様を全く異にしている。当該行為が、今般の法改正によって初めて可罰性を認められたと解することはできず、その旨の弁護人の主張は採用できない。
 また、著作権法上、第三者により既に送信可能化されていた画像等のデータについて、その余の者による著作権侵害が成立しないなどと解すべき合理的理由はなく、等しく著作権法による保護が与えられるべきであるから、Gに掲載されていた漫画等の画像データが第三者により既に送信可能化されていたものだったとしても、被告人による送信可能化は否定されない。
4 結論
 以上によれば、被告人のしたリバースプロキシの設定は、送信可能化にあたり、著作権法23条1項の公衆送信権侵害にあたる。
第5 争点B(被告人がGの運営で得た広告収入(アフィリエイト報酬)が犯罪収益に当たるか)について
1 弁護人は、本件におけるアフィリエイト報酬は、Gを閲覧したユーザーが、著作物の閲覧とは関係なく、サイトに掲示されていた広告に関心をもってクリックすることなどによって生じるものであり、犯罪によって生じたものでないから、犯罪収益には当たらない旨主張する。
2 検討
 犯罪収益とは、犯罪行為により得た財産等をいい、ある財産の取得が犯罪行為「により得た」といえるか否かは、財産の取得の趣旨及び状況を踏まえ、財産の取得と犯罪行為との結び付き等の点から判断すべきである。
 アフィリエイト報酬は、著作権等を侵害して掲載された漫画等の画像の閲覧や取得そのものの対価ではなく、広告をGに掲載したことに対し広告主から支払われる対価である。しかし、その広告の価値は、閲覧者がGにアクセスし、そこに掲示された広告を目にすることにより生じるものであり、閲覧者がGにアクセスする動機が、専ら漫画等の著作物を無料で閲覧することにあることによれば、前提犯罪行為である送信可能化はアフィリエイト報酬の不可欠の前提であり、両者は強く結びついていると評価できる。アフィリエイト報酬には、広告が表示されただけで発生するもののみならず、閲覧者によるクリックや商品等の購入を要するものもあるが、送信可能化がアフィリエイト報酬の不可欠の前提であり、両者が強く結びついていることには変わりがない。
 前提事実で認定したとおり、Gは、大量の漫画等の画像データをウェブサイト上に掲載し、大量の一般ユーザーの閲覧を誘引することで、広告収入を得ることを専らの目的として設計・運営されていた。
 そして、被告人が、Bらに対し、サイトを毎日更新することに特にこだわって指示していたことや(甲16・2/21頁)、親しい者らとのLINEグループにおいて、平成28年8月頃、「漫画見放題サイト見つけた」「無料で公開して広告貼った方がもうかりそう」、「アクセス倍増必須」などと送信していたこと(甲51)によれば、被告人自身も、送信可能化をアフィリエイト報酬を得るための手段と考えていたと認められる。
 このようなアフィリエイト報酬と送信可能化の結びつきの強さ、目的と手段の関係、被告人の認識に照らすと、本件におけるアフィリエイト報酬は、被告人らによる送信可能化と密接不可分のものであるといえ、犯罪行為により得た財産(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律2条2項1号イ)に当たると認められる。
3 結論
 以上によれば、本件におけるアフィリエイト報酬は、「犯罪収益」に当たると認められる。
第6 争点C(被告人がGのアフィリエイト報酬が含まれる金銭を海外の銀行口座や第三者名義の銀行口座に送金させた行為が、犯罪収益等を「隠匿」し、その取得につき「事実を仮装」した行為に当たるか)について
1 弁護人は、要旨次のとおり、被告人は犯罪収益を隠匿しておらず、事実も仮装していないと主張する。
(1)被告人は、自らが代表者である海外法人K(以下「本件法人」という。)の事業としてGの運営に関わっており、その事業の報酬であるアフィリエイト報酬を本件法人名義の口座に送金させたからといって、犯罪収益の「隠匿」には該当しない。
(2)被告人は、本件法人名義の口座が凍結されて利用できなくなったことから、喫緊のサーバ使用料の支払いのため、やむを得ず第三者の口座を借用してアフィリエイト報酬を受け取った。その際、広告代理店側には本件法人からの請求であることを明示しており、利益の帰属主体は仮装していない。
2 認定事実
 関係証拠によれば、次の事実が認められる。
(1)口座開設の経緯等
 被告人は、平成27年6月頃、セーシェル共和国において本件法人を設立し、さらに同年7月頃、中華人民共和国香港特別行政区所在の「LBankLimited」(R銀行)に本件法人名義の口座(以下「本件口座」という。)を開設した。
 セーシェル共和国は、いわゆるタックスヘイブン(租税回避地)にあたる。同国内には被告人の居住実態がなく、本件法人の営利活動も行われていない。本件法人の代表者は記録上不明で、本件法人の連絡先として登録されていた電話番号も、被告人とは別人の電話番号である。
 また、Gは、サイト上でその運営主体を明らかにしておらず、Gと本件法人とのつながりは一見して明らかではない。
 (甲11、61、63、79、128、129)
(2)Gの開設とアフィリエイト報酬の流れ
ア 被告人は、Gを開設した後、各広告代理店に対し、Gへのアフィリエイトの掲載を申し込み、その際、アフィリエイト報酬を入金する口座として本件口座を指定した。
 各広告代理店は、別紙一覧表1記載【別紙省略】のとおり、平成28年12月から平成29年9月までの間、本件口座に、G及び被告人が運営していた別のウェブサイトに係るアフィリエイト報酬合計4845万0532円を入金した。
 (甲71ないし77)
イ アフィリエイト報酬の送金を受けた本件口座からは、さらに第三者(S、T)名義の複数の口座に対し、複数回にわたり、多額の送金がされた。SはAの知人であり、Tは被告人が過去に経営していた店舗の改装工事を行った工事業者である。
 第三者名義の口座に入金された金銭はATMで引き出され、最終的に、Aらを通じて被告人が現金で受け取っていた。
 (第8回公判調書中の証人Aの供述部分、甲80ないし90、130、132ないし201、325)
(3)第三者名義の口座にアフィリエイト報酬が入金された経緯
ア 平成29年夏頃、本件口座が、マネーロンダリングの疑いをかけられて凍結された。被告人は、凍結の解除に向けて動いたが、直ちには凍結の解除ができなかった。
イ 被告人は、平成29年10月頃、Gと無関係の知人であるUに対し、送金額の15パーセントを報酬とすることを条件に、広告代理店から入金されるアフィリエイト報酬を受け取るための口座の調達を依頼した。
 Uは、V及びWに対し、報酬を折半する条件で口座の調達を依頼した。X及びWは、それぞれ自らが管理していた口座をUに伝え、Uがこの口座を被告人に伝えた。
 被告人は、同年11月、広告代理店である株式会社Mに対し、報酬の入金先を、Uから指定された口座に変更する旨連絡した。これを受けて、同社は、別紙一覧表2記載【別紙省略】のとおり、指定された口座に合計1412万0804円を入金した。
 入金されたアフィリエイト報酬は入金後間もなく現金として引き出され、Uを介し、被告人に手渡された。
 (第6回公判調書中の証人Uの供述部分、甲63、71、79、92、93、327、328)。
(4)捜査の経過
 捜査機関は、平成30年10月に、国際刑事警察機構(ICPO)経由で、本件口座の取引明細等を明らかにすべく、中華人民共和国香港特別行政区に宛てて捜査共助を要請したが、回答は得られていない(甲357)。
3 検討
(1)以上認定した事実のとおり、本件において、Gと本件法人との関係は一見して明らかではなく、各アフィリエイト報酬は、被告人の依頼により、本件法人を名義人とする秘匿性の高い海外の銀行口座に送金され、第三者の口座を経て最終的に被告人の手に渡っていたものである。
 以上の事実関係に照らし、本件アフィリエイト報酬を本件口座へ送金させる行為は、犯罪収益の所在を不明にするものであり、犯罪収益等の隠匿にあたると認められ、それを認識して行為を行った被告人に故意があることも認められる。
(2)さらに、被告人は、本件口座が凍結されて利用できなくなるや、日本国内において、自ら利用できる銀行口座を有していたにもかかわらず、V及びWら、Gとは全く関係のない第三者の管理する銀行口座を指定して、そこにアフィリエイト報酬を送金させている。
 以上によれば、被告人が、犯罪収益等の取得につき事実を仮装したことが認められ、その故意も認められる。
 広告代理店の担当者が、真実は口座名義人の背後にいる被告人への支払いであることを認識していたとしても、かかる事実は事実の仮装に該当することを否定する事情にはならず、弁護人の主張は、いずれも採用できない。
4 結論
 以上によれば、被告人は、犯罪収益等を隠匿し、その取得につき事実を仮装したと認められる。
(法令の適用)
罰条
 判示第1の1の行為 刑法60条、著作権法119条1項(平成28年法律第108号による改正前)、23条1項
 判示第1の2の行為 著作権侵害の点 刑法60条、著作権法119条1項(平成28年法律第108号による改正前)、23条1項 出版権侵害の点 刑法60条、著作権法119条1項(平成28年法律第108号による改正前)、80条1項2号
 判示第2の各行為 それぞれ包括して組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律10条1項前段
 科刑上一罪の処理 判示第1の2につき刑法54条1項前段、10条(1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるので、1罪として犯情の重い著作権侵害の罪の刑で処断)
 刑種の選択 各罪につきいずれも懲役刑及び罰金刑を選択
 併合罪の処理 刑法45条前段
 懲役刑につき 刑法47条本文、10条(刑及び犯情の最も重い判示第1の2の罪の刑に法定の加重)
 罰金刑につき 刑法48条2項(各罪所定の罰金の多額を合計)
 未決勾留日数の算入 刑法21条(懲役刑に算入)
 労役場留置 刑法18条(金2万円を1日に換算)
 追徴 いずれも組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律16条1項本文、同法13条1項5号(被告人が判示第2の1で送金させた4845万0532円は判示第2の1の罪に係る犯罪収益等であり、判示第2の2で送金させた1412万0804円は判示第2の2の罪に係る犯罪収益等であり、いずれも既に費消しているか所在不明のため没収することができないので、その価額を被告人から追徴する。)
 訴訟費用の不負 担刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
1 本件は、被告人が、自らが管理・運営するウェブサイト「G」において、共犯者らとともに、漫画等の画像データを違法にアップロードして送信可能化し、Gで漫画等の画像データを送信可能化したことによって得た犯罪収益等を隠匿し、その取得につき事実を仮装したという事案である。
2 被告人は、Gの運営にあたり、多数の閲覧者をサイトに誘引して広告収入を得るために、共犯者らとともに、大量の漫画等の画像データを違法に送信可能化することを日常的に繰り返していた。
 判示第1の各犯行は、このような態様で行われた職業的犯行であり、いずれも我が国における著作物の収益構造を根底から破壊し、文化の発展をも現実に阻害しかねない危険を孕んでいる。その意味で、判示第1の各犯行は、著作権法の禁じる送信可能化行為の中で、高度な違法性を有するものと認められる。
 作家が生み出した作品を労せずして利用し、正当な権利者の犠牲の下に、自ら多額の金銭を得ようとした動機も、厳しい非難を免れない。
 その上で、判示第2について、被告人は、Gの運営を通じて得た多額の犯罪収益を隠匿するために、自ら用意した海外口座を利用し、さらに第三者の口座を介して現金化するなど巧妙な手段を尽くし、6000万円を超える犯罪収益等を隠匿するなどしている。このような被告人の行為は、Gの生み出す不正な利益への追及を困難にするもので、正当な経済活動に及ぼす害悪が大きい。
3 共犯者間での責任の軽重をみると、被告人は、プログラミングに関する自らの専門的知識を悪用し、著作権者の許諾なく、大量の漫画等を主にリバースプロキシの方法を用いてウェブサイト上に掲載し、広告収入によって経常的に利益を得るという、Gの仕組みそのものを考案し、その目的を実現するための技術的役割の全てを担っている。
 この点において、被告人は、本件犯行の遂行にあたり、他の共犯者では代替できない、最も重要な役割を果たしたといえる。犯罪収益の隠匿に関わる海外法人や海外口座を用意したのが被告人であることを考え併せても、その刑事責任は、共犯者らのそれと比較して数段重いと認められる。
4 一方で、被告人には、若年で前科がなく、母親が被告人の社会復帰に向けて身元を引き受けていること、相当期間にわたり身柄を拘束されたこと等、量刑上有利に考慮すべき事情も認められる。また、本件において、被告人に次ぐ立場にあるAが執行猶予判決を受けていることなど、共犯者間の刑の均衡も、一定程度は考慮する必要がある。
 以上を踏まえた上で、被告人に科すべき刑を検討すると、本件の犯情、特に被告人がGの収益の仕組みそのものを考案し、それを実現するための技術的役割の全てを担ったことを考慮すると、上記の被告人に有利な事情を最大限考慮しても、本件が懲役刑の執行を猶予すべき事案であるとは認められず、併せて罰金刑を選択し、本件犯行によって得た不法な経済的利得を剥奪することが相当と判断した。なお、被告人が判示第2の各犯行により隠匿等した犯罪収益等にはGとは別のウェブサイトに関するアフィリエイト報酬が相当額含まれているが、犯情等に鑑みて、全額を追徴するのが相当と判断した。
(求刑‐懲役4年6月及び罰金1000万円、主文同旨の追徴)

福岡地方裁判所第3刑事部
 裁判長裁判官 神原浩
 裁判官 川口洋平
 裁判官 絹川宥樹
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