判例全文 line
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【事件名】ツイッターへの発信者情報開示請求事件B(2)
【年月日】令和3年5月31日
 知財高裁 令和2年(ネ)第10010号 損害賠償等請求控訴事件、令和2年(ネ)第10011号 同附帯控訴事件
 (原審・東京地裁平成29年(ワ)第33550号)
 (口頭弁論終結の日 令和3年3月22日)

判決
控訴人兼附帯被控訴人(以下、単に「控訴人」という。) ツイッター・インコーポレイテッド
同訴訟代理人弁護士 中島徹
同 平津慎副
同 細川智史
同 中所昌司
同 小宮慶久
同 何彦徴
同 森脇和聡
同 大岩祐貴
被控訴人兼附帯控訴人(以下、単に「被控訴人」という。) Y
同訴訟代理人弁護士 齋藤理央


主文
1 本件控訴に基づき、
(1)原判決主文第2項(1)のうち、控訴人に対し、原判決別紙開示請求アカウント目録記載アカウント1について、原判決別紙投稿情報目録第1の2@「投稿ツイート」記載の投稿(投稿に係るテキストデータの送信)の直前に同アカウントにログインした際に、電気通信設備から控訴人の用いる特定電気通信設備に上記ログインに関する情報が送信された年月日及び時刻の開示を命じた部分を取り消す。
(2)原判決主文第2項(2)のうち、控訴人に対し、原判決別紙開示請求アカウント目録記載アカウント6について、原判決別紙投稿情報目録第6の2@「投稿ツイート」記載の投稿(投稿に係るテキストデータの送信)の直前に同アカウントにログインした際に、電気通信設備から控訴人の用いる特定電気通信設備に上記ログインに関する情報が送信された年月日及び時刻の開示を命じた部分を取り消す。
(3)上記(1)、(2)の取消しに係る部分につき被控訴人の請求をいずれも棄却する。
(4)その余の本件控訴を棄却する。
2 本件附帯控訴(本件附帯控訴に基づき、当審において追加した請求を含む。)に基づき、
(1)控訴人は、被控訴人に対し、控訴人が運営するインターネット上の短文投稿サイト「ツイッター」において、
ア 原判決別紙投稿情報目録第2記載のURLにアクセスしたクライアントコンピュータのモニター画面に、同目録第2「表示される画像」記載の画像が表示されるように設定した原判決別紙開示請求アカウント目録記載アカウント2のアカウントの利用者
イ 原判決別紙投稿情報目録第4の1記載のURLにアクセスしたクライアントコンピュータのモニター画面に、同目録第4の1「表示される画像」記載の画像が表示されるように設定した原判決別紙開示請求アカウント目録記載アカウント4のアカウントの利用者
 の各電話番号を開示せよ。
(2)控訴人は、被控訴人に対し、控訴人が運営するインターネット上の短文投稿サイト「ツイッター」において、原判決別紙開示請求アカウント目録記載アカウント6について、別紙投稿ツイート追加目録@記載の投稿(投稿に係るテキストデータの送信)以前の同アカウントへのログインのうち最も新しいもののIPアドレスを開示せよ。
(3)本件附帯控訴、及び本件附帯控訴に基づく被控訴人の当審におけるその余の追加請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用(控訴費用、附帯控訴費用を含む。)は、第1、2審を通じ、これを6分し、その1を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。
4 控訴人のために、この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 本件控訴関係
(1)原判決主文第2項(1)、(2)を取り消す。
(2)前項の取消しにかかる部分につき被控訴人の請求を棄却する。
2 本件附帯控訴関係
(1)原判決主文第3項を取り消す。
(2)控訴人は、被控訴人に対し、控訴人が運営するインターネット上の短文投稿サイト「ツイッター」における、原判決別紙開示請求アカウント目録記載アカウント2、4の利用者の原判決別紙発信者情報目録第1の1(2)記載の情報を開示せよ。
(3)控訴人は、被控訴人に対し、控訴人が運営するインターネット上の短文投稿サイト「ツイッター」における、原判決別紙開示請求アカウント目録記載アカウント2、4、6、7の利用者の原判決別紙発信者情報目録第4の1、第4の2記載の情報を開示せよ。
(4)控訴人は、被控訴人に対し、控訴人が運営するインターネット上の短文投稿サイト「ツイッター」における、原判決別紙開示請求アカウント目録記載アカウント2、4の利用者の電話番号を開示せよ。(被控訴人は、当審において、附帯控訴に基づき、この請求を追加した。)
(5)控訴人は、被控訴人に対し、控訴人が運営するインターネット上の短文投稿サイト「ツイッター」において、原判決別紙開示請求アカウント目録記載アカウント6について、別紙投稿ツイート追加目録記載の投稿(投稿に係るテキストデータの送信)以前の同アカウントへのログインのうち最も新しいもののIPアドレス、並びに同IPアドレスを割り当てられた電気通信設備から控訴人の用いる特定電気通信設備に上記ログインに関する情報が送信された年月日及び時刻を開示せよ。(被控訴人は、当審において、附帯控訴に基づき、この請求を追加した。)
3 当審における訴えの取下げ
 なお、被控訴人は、当審において、次の請求に係る訴えをいずれも取り下げ、取下げの同意が擬制された。
(1)原判決別紙開示請求アカウント目録記載アカウント1、3、5、6、7の利用者の原判決別紙発信者情報目録第1の1(2)記載の情報の開示請求
(2)原判決別紙開示請求アカウント目録記載アカウント1ないし7の利用者の原判決別紙発信者情報目録第1の2、第1の3記載の情報の開示請求
(3)原判決別紙開示請求アカウント目録記載アカウント1ないし7の利用者の原判決別紙発信者情報目録第2の1、第2の2記載の情報の開示請求
(4)原判決別紙開示請求アカウント目録記載アカウント4、5の利用者の原判決別紙発信者情報目録第3の1(原判決別紙投稿情報目録第4の2、第5の2に係る部分)、第3の2記載の情報の開示請求
(5)原判決別紙開示請求アカウント目録記載アカウント1、3、5の利用者の原判決別紙発信者情報目録第4の1、第4の2記載の情報の開示請求
(6)民法709条及び著作権法114条3項に基づく78万6000円及びこれに対する不法行為の日である平成27年7月1日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の請求
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 (以下、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律を「プロバイダ責任制限法」といい、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令(平成14年総務省令第57号)を「発信者情報省令」といい、令和2年総務省令第82号による改正後の発信者情報省令を「新発信者情報省令」という。)
 本件は、被控訴人が、@控訴人が運営するインターネット上の短文投稿サイト「ツイッター」において、被控訴人の著作物である原判決別紙写真目録記載の各写真(本件写真1ないし3)が、(a)氏名不詳者により無断でアカウントのプロフィール画像又は投稿の一部として用いられ、その後当該アカウントに係るウェブページに表示されたことにより著作権(自動公衆送信権)が侵害され、(b)氏名不詳者による投稿に伴って当該アカウントに係るウェブページに丸くトリミングされて表示されたことにより著作者人格権(同一性保持権)が侵害されたと主張して、控訴人に対し、プロバイダ責任制限法4条1項に基づき、原判決別紙発信者情報目録記載の各情報の開示を求めるとともに、A控訴人が、無断でアカウントのプロフィール画像として用いられた本件写真1につき十分な送信防止措置を講ずることなく再度閲覧可能な状態に置いたことは、著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)を侵害すると主張して、控訴人に対し、民法709条及び著作権法114条3項に基づき78万6000円及びこれに対する不法行為の日である平成27年7月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
 原判決は、被控訴人の請求を、原判決別紙発信者情報目録第1の1(1)記載の情報の開示を命じ(原判決主文第1項)、原判決別紙開示請求アカウント目録記載アカウント1及び6について原判決別紙発信者情報目録第3の1(原判決別紙投稿情報目録第1の2、第6の2に係る部分)、第3の2記載の情報の開示を命じる(原判決主文第2項)限度で認容し(原判決主文第1、2項の文言は、原判決別紙発信者情報目録の文言とは異なるところがあるが、その趣旨は上記のとおりであると認められる。)、その余を棄却した。
 これに対し、控訴人は、原判決主文第2項の取消しと、その取消しにかかる部分につき被控訴人の請求を棄却することを求めて控訴した(上記第1の1(1)、(2))(控訴人は、原判決主文第1項の取消しを求めなかった。)。
 被控訴人は、附帯控訴により、原判決が棄却した@原判決別紙開示請求アカウント目録記載アカウント2、4の利用者の原判決別紙発信者情報目録第1の1(2)記載の情報の開示請求(上記第1の2(2))、A原判決別紙開示請求アカウント目録記載アカウント2、4、6、7の利用者の原判決別紙発信者情報目録第4の1、第4の2記載の情報の開示請求(上記第1の2(3))をし、当審において、附帯控訴に基づき、B新発信者情報省令3号に基づいて、原判決別紙開示請求アカウント目録記載アカウント2、4の利用者の電話番号の開示請求を追加し(上記第1の2(4))、C原判決別紙開示請求アカウント目録記載アカウント6について、別紙投稿ツイート追加目録@記載の投稿(投稿に係るテキストデータの送信)以前の同アカウントへのログインのうち最も新しいもののIPアドレス、並びに同IPアドレスを割り当てられた電気通信設備から控訴人の用いる特定電気通信設備に上記ログインに関する情報が送信された年月日及び時刻の開示請求を追加し(上記第1の2(5))、さらに、D丸くトリミングされて表示されたことにより侵害された著作者人格権として氏名表示権の主張を追加し、他方、当審において、@原判決別紙開示請求アカウント目録記載アカウント1、3、5、6、7の利用者の原判決別紙発信者情報目録第1の1(2)記載の情報の開示請求(上記第1の3(1))、A原判決別紙開示請求アカウント目録記載アカウント1ないし7の利用者の原判決別紙発信者情報目録第1の2、第1の3記載の情報の開示請求(上記第1の3(2))、B原判決別紙開示請求アカウント目録記載アカウント1ないし7の利用者の原判決別紙発信者情報目録第2の1、第2の2記載の情報の開示請求(上記第1の3(3))、C原判決別紙開示請求アカウント目録記載アカウント4、5の利用者の原判決別紙発信者情報目録第3の1(原判決別紙投稿情報目録第4の2、第5の2に係る部分)、第3の2記載の情報の開示請求(上記第1の3(4))、D原判決別紙開示請求アカウント目録記載アカウント1、3、5の利用者の原判決別紙発信者情報目録第4の1、第4の2記載の情報の開示請求(上記第1の3(5))、E民法709条及び著作権法114条3項に基づく78万6000円及びこれに対する不法行為の日である平成27年7月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の請求(上記第1の3(6))をいずれも取り下げ、取下げの同意が擬制された(民訴法261条5項)。
2 前提事実(以下の各事実については、当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。)
(1)当事者等
ア 被控訴人は、日本に居住する職業写真家であり、本件写真1ないし3を撮影した。
イ 控訴人は、米国法人であり、ツイッターを管理・運営している。本件につき、プロバイダ責任制限法3条1項の「関係役務提供者」及び同法4条1項の「開示関係役務提供者」に当たる(争いのない事実、弁論の全趣旨)。
(2)本件写真1ないし3
 本件写真1ないし3は、いずれも写真の著作物(著作権法10条1項8号)であり、被控訴人は、本件写真1ないし3の著作者として著作権を有する。
(3)ツイッターの仕組みについて
ア ツイッターの利用者はツイッターへの投稿等を行うためにアカウントを開設することができる。
 アカウントを開設するなどし、そのアカウントを用いてツイッターのサービスを利用する者(以下、単に「アカウント利用者」ということがある。)は、ツイッターにおいて、当該アカウントを用いてログインすることができ、テキストデータ等(以下「ツイート」という。)をツイッターのサーバに送信して、ツイートを投稿する(以下「ツイートする」ともいう。)ことができる。当該アカウントのホーム画面に係るウェブページには、当該ツイート等が時系列に従って表示され(以下、この表示部分を「タイムライン」という。また、以下において「タイムラインのウェブページ」という場合には、タイムラインを含むホーム画面のウェブページを指すものとする。)、設定に従い、これをツイッターの閲覧者(以下、単に「ユーザ」ということがある。)が閲覧することができる。また、タイムラインに表示された個々のツイートを選択すると、当該ツイートのみを表示するウェブページ(以下「ツイートのウェブページ」等ということがある。)が表示され、設定に従い、これをユーザが閲覧することができる。
イ アカウント利用者は、ツイッターのサーバに画像データを送信することで当該アカウントのプロフィール画像を設定・登録・変更することができる。
 アカウントのプロフィール画像として設定された画像は、タイムラインに表示される当該アカウントにおける個々のツイート及び同ツイートのウェブページにおいて、ツイートの冒頭に丸く表示される(以下、この表示を「本件円形表示」という。)。(以上、甲14ないし16、20、22、48、50、97)
 アカウント利用者は、当該アカウントにツイートをすることができるほか、そのプロフィール画像の変更や過去に投稿したツイートの削除をすることができる(争いのない事実)。
ウ 本件円形表示に関係するデータは、HTMLデータ、画像データ、CSSデータ及びJAVASCRIPTデータの4種類である。
 このうちCSSデータは、ウェブページのデザインを指定するデータであるところ、控訴人によって、ツイッターのアカウント利用者からプロフィール画像のために送信された画像データについては、その四隅が透過するようになり、画像が丸の形状として表示されるような設定がされている(甲57ないし62、69、70)。
 上記各データが保存されるツイッターのサーバは、以下の3つのURLに存在する。
(a)(URLは省略)(以下「サーバ1」という。)
(b)(URLは省略)(以下「サーバ2」という。)
(c)(URLは省略)(以下「サーバ3」という。)
 CSSデータ及びJAVASCRIPTデータは、アカウント利用者がプロフィール画像を設定・登録する時点よりも前に、サーバ3に記録され、保存されている。
エ アカウント利用者がプロフィール画像として設定・登録した画像が、ツイッターを閲覧するユーザのコンピュータ(以下、ユーザが、特定のアカウント保有者のタイムライン又はツイートに係るウェブページを閲覧する際に使用するコンピュータを「クライアントコンピュータ」という。)のモニター画面上で本件円形表示されるまでのサーバの挙動及びデータの流れ等は、以下のとおりである。
(ア)アカウント利用者がプロフィール画像を設定・登録する段階
 アカウント利用者が、プロフィール画像を設定・登録すると、プロフィール画像として設定・登録された画像データが4個のURL(甲3ないし6、以下「画像データ保存URL」という。)のウェブページに対応するサーバ2の記憶領域に、それぞれ400×400ピクセル(甲3)、128×128ピクセル(甲4)、73×73ピクセル(甲5)、48×48ピクセル(甲6)に縮小されたサイズで記録され、保存される。また、アカウントのタイムライン及びツイートのウェブページに係るHTMLデータが、上記の画像データに対するインラインリンク情報を含むものにアップデートされ、また、このHTMLデータにおいて、この画像データに適用されるべきCSSデータがこれらの画像データに紐づけされることとなる。
 なお、インラインリンクとは、ユーザの操作を介することなく、リンク元のウェブページが立ち上がった時に、自動的にリンク先のウェブサイトの画面又はこれを構成するファイルがクライアントコンピュータに送信されて、リンク先のウェブサイトがクライアントコンピュータ上に自動表示されるように設定されたリンクをいう(甲74。以下、インラインリンクの設定に係る情報を「インラインリンク情報」という。)。
(イ)アカウント利用者がツイートをする段階
 アカウント利用者がツイートをすると、ツイートをしたアカウント利用者の端末から、当該ツイートの内容であるテキストデータ等がツイッターのサーバに送信される。そうすると、ツイッターのシステムによって、サーバ1上に記録保存されている当該アカウントのタイムラインに係るHTMLデータが新たな内容にアップデートされ、かつ、当該新たなツイートのウェブページに係るHTMLデータがサーバ1上に新たに生成される。
(ウ)ユーザが特定のアカウントのタイムライン又はツイートのウェブページを閲覧する段階
 ユーザが特定のアカウントのタイムライン又はツイートのウェブページを閲覧しようとすると、上記(イ)の各ウェブページに係るHTMLデータが、サーバ1から当該ユーザのクライアントコンピュータに送信される。当該HTMLデータには、当該アカウントのタイムライン又はツイートのウェブページを構成するテキストデータ等の各種コンテンツの他に、画像データ、CSSデータ及びJAVASCRIPTデータに対するインラインリンク情報が含まれる。そのため、クライアントコンピュータは、自動的に、これらの合計3種類のデータが記録保存されているリンク先サーバであるサーバ2及び3にアクセスする。そして、サーバ2から画像データが、サーバ3からCSSデータ及びJAVASCRIPTデータが、それぞれクライアントコンピュータに送信される。
 クライアントコンピュータにおいては、上記で受信したHTMLデータ、画像データ、CSSデータ及びJAVASCRIPTデータの4種類のデータに基づき、HTMLデータ、CSSデータ及びJAVASCRIPTデータに記載された指示に従い、HTMLデータに含まれるテキストデータ、画像データ等の各種コンテンツが組み合わされ、相互の配置、位置関係が調整されるなどして、タイムライン又はツイートのウェブページに係るレンダリングデータが生成され、ブラウザ上で各ウェブページが表示される。その際タイムライン又はツイートのウェブページに表示されるプロフィール画像の画像データは円形に表示される(本件円形表示)。
(4)氏名不詳者によるツイッター上での本件写真1ないし3の表示
ア 原判決別紙開示請求アカウント目録記載アカウント1(以下「本件アカウント1」という。)
(ア)氏名不詳者は、平成29年2月16日午後4時4分47秒頃、被控訴人に無断で、本件アカウント1のプロフィール画像として本件写真2の左右がトリミングされた、原判決別紙投稿情報目録第1の1の「表示される画像」記載の画像(以下「本件写真2’」という。)を設定・登録した(甲23、24。以下、この設定等の行為を「プロフィール画像設定行為1」という。)。これによって、ユーザが本件アカウント1のタイムライン等において、本件写真2’を閲覧することができる状態となり、本件写真2に係る被控訴人の公衆送信権が侵害された(当事者間に争いがない。)。
(イ)氏名不詳者は、平成30年9月28日午後4時47分頃、本件アカウント1を利用して、原判決別紙投稿情報目録第1の2@「投稿ツイート」記載のツイートをした(甲48。以下「ツイート行為1」といい、投稿されたツイートを「ツイート1」という。)。これにより、アカウント1のタイムラインのほか、ツイート1のウェブページに本件円形表示された本件写真2が表示される(原判決別紙投稿情報目録第1の2C)。
イ 原判決別紙開示請求アカウント目録記載アカウント2(以下「本件アカウント2」という。)
 氏名不詳者は、平成28年12月18日午後10時14分36秒頃、本件アカウント2を利用し、被控訴人に無断で、原判決別紙投稿情報目録第2記載のとおり、本件写真2(ただし、ペンギンの顔の部分が人間の顔の写真に改変がされたもの)の画像ファイルを含むツイートをした(甲12、15、25。以下「ツイート行為2」といい、投稿されたツイートを「ツイート2」という。)。これによって、ユーザがツイート2のウェブページ等において、本件写真2(ただし、ペンギンの顔の部分が人間の顔の写真に改変がされたものを閲覧することができる状態となり、本件写真2に係る被控訴人の公衆送信権が侵害された(当事者間に争いがない。)。
ウ 原判決別紙開示請求アカウント目録記載アカウント3(以下「本件アカウント3」という。)
 氏名不詳者は、平成28年1月4日午後8時43分13秒頃、本件アカウント3を利用し、被控訴人に無断で、原判決別紙投稿情報目録第3記載のとおり、本件写真2の画像ファイルを含むツイートをした(甲16、26。以下「ツイート行為3」といい、投稿されたツイートを「ツイート3」という。)。これによって、ユーザがツイート3のウェブページ等において、本件写真2を閲覧することができる状態となり、本件写真2に係る被控訴人の公衆送信権が侵害された(当事者間に争いがない。)。
エ 原判決別紙開示請求アカウント目録記載アカウント4(以下「本件アカウント4」という。)
(ア)氏名不詳者は、平成30年1月12日午後1時11分56秒頃、被控訴人に無断で、本件アカウント4のプロフィール画像として本件写真2の画像ファイルを設定・登録した(甲19、27。以下、「プロフィール画像設定行為2」という。)。これによって、ユーザが本件アカウント4のタイムライン等において、本件写真2を閲覧することができる状態となり、本件写真2に係る被控訴人の公衆送信権が侵害された(当事者間に争いがない。)。
(イ)氏名不詳者は、平成30年1月15日午前1時34分頃、本件アカウント4を利用して、原判決別紙投稿情報目録第4の2@「投稿ツイート」記載のツイートをした(甲20。以下「ツイート行為4」といい、投稿されたツイートを「ツイート4」という。)。これにより、アカウント4のタイムラインのほか、ツイート4のウェブページに本件円形表示された本件写真2が表示される(原判決別紙投稿情報目録第4の2C)。
オ 原判決別紙開示請求アカウント目録記載アカウント5(以下「本件アカウント5」という。)
(ア)氏名不詳者は、平成29年3月8日午後8時19分36秒頃、被控訴人に無断で、本件アカウント5のプロフィール画像として本件写真2の画像ファイルを設定・登録した(甲21、28。以下、「プロフィール画像設定行為3」という。)。これによって、ユーザが本件アカウント5のタイムライン等において、本件写真2を閲覧することができる状態となり、本件写真2に係る被控訴人の公衆送信権が侵害された(当事者間に争いがない。)。
(イ)氏名不詳者は、平成27年9月1日午後2時56分頃、本件アカウント5を利用して、原判決別紙投稿情報目録第5の2@「投稿ツイート」記載のツイートをした(甲22。以下「ツイート行為5」といい、投稿されたツイートを「ツイート5」という。)。これにより、アカウント5のタイムラインのほか、ツイート5のウェブページに本件円形表示された本件写真2が表示される(原判決別紙投稿情報目録第5の2C)。
カ 原判決別紙開示請求アカウント目録記載アカウント6(以下「本件アカウント6」という。)
(ア)氏名不詳者は、遅くとも平成30年2月1日までに、被控訴人に無断で、本件アカウント6のプロフィール画像として本件写真1の画像ファイルを設定・登録した(甲49、50。以下、「プロフィール画像設定行為4」という。)。これによって、ユーザが本件アカウント6のタイムライン等において、本件写真1を閲覧することができる状態となり、本件写真1に係る被控訴人の公衆送信権が侵害された(当事者間に争いがない。)。
(イ)氏名不詳者は、令和元年9月2日午前7時31分頃、本件アカウント6を利用して、原判決別紙投稿情報目録第6の2@「投稿ツイート」記載のツイートをした(甲109、以下「ツイート行為6」といい、投稿されたツイートを「ツイート6」という。)。これにより、アカウント6のタイムラインのほか、ツイート6のウェブページに本件円形表示された本件写真1が表示される(原判決別紙投稿情報目録第6の2C)。
 また、氏名不詳者は、令和2年6月3日午前1時41分頃、本件アカウント6を利用して、別紙投稿ツイート追加目録@記載のツイートをした(甲127、以下「ツイート行為6’」といい、投稿されたツイートを「ツイート6’」という。)。これにより、本件アカウント6のタイムラインのほか、ツイート6’のウェブページに本件円形表示された本件写真1が表示される(別紙投稿ツイート追加目録C)。
キ 原判決別紙開示請求アカウント目録記載アカウント7(以下「本件アカウント7」という。)
 氏名不詳者は、平成31年2月1日午後4時45分頃、本件アカウント7を利用し、被控訴人に無断で、原判決別紙投稿情報目録第7記載のとおり、本件写真3の画像ファイルを含むツイートをした(甲107、108。以下「ツイート行為7」といい、投稿されたツイートを「ツイート7」という。)これによって、ユーザがツイート7のウェブページ等において、本件写真3を閲覧することができる状態となり、本件写真3に係る被控訴人の公衆送信権が侵害された(当事者間に争いがない。)。
(5)控訴人の保有情報
 控訴人は、本件アカウント1ないし7に係る原判決別紙発信者情報目録第1の1(1)記載の情報(以下、単に「電子メールアドレス」という。)、本件アカウント2及び4に係る同目録第1の1(2)記載の情報(以下「ショートメールアドレス」という。)、本件アカウント1及び6利用者がツイート行為1又は6の直前に同各アカウントにログインした際の各IPアドレス及びタイムスタンプ(同目録第3の1及び2、以下、アカウント利用者がツイート直前に当該アカウントにログインした際の(「ツイート以前にログインしたうちの最も新しいログインの際の」の意味である。以下、同じ。)IPアドレスおよびタイムスタンプを「ツイート直前ログイン時IPアドレス等」という。)、本件アカウント6におけるツイート6’のツイート直前ログイン時IPアドレス等、本件アカウント2、4、6及び7に係る本判決確定の日の正午時点(日本標準時)で最も新しいログイン(以下「最新ログイン」という。)におけるIPアドレス及びタイムスタンプ(同目録第4の1及び2、以下、当該アカウントについて本判決確定の日の正午時点で最も新しくアカウント利用者がログインした際のIPアドレス及びタイムスタンプを「最新ログイン時IPアドレス等」という。)、本件アカウント2及び4の電話番号を保有し、あるいは今後保有することになっている。
(6)ショートメールアドレスについて
ア ショートメールサービスとは、送信元の携帯電話等から送信されたテキストメッセージが、ショートメッセージサービスセンターと呼ばれるメールサーバ相当のコンピュータに蓄積保存され、受信携帯電話等が同センターに接続すると、同メッセージが同センターから受信携帯電話等に送信されるシステムをいう(甲80)。
 電子メールサービスはパケット交換方式(通信を多数者間で共用する方式)で実現されるサービスであるのに対し、ショートメールサービスは回線交換方式(通信を一対一で占有する方式)によって実現されるサービスである(甲77、79)。
イ ショートメールアドレスとは、ショートメールサービスの利用者を識別するための文字列であり、携帯電話番号と同一である(弁論の全趣旨)。
(7)プロバイダ責任制限法4条1項により開示されるべき「権利の侵害に係る発信者情報」(以下、単に「発信者情報」という。)の開示を受けるべき正当な理由
 被控訴人は、本件アカウント1ないし7に本件写真1ないし3を表示させた者に対し、著作権又は著作者人格権の侵害を理由として権利行使し得るところ、上記の者の特定に資する情報を知る手段が他にあるとは認められないから、発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があると認められる(プロバイダ責任制限法4条1項1号、争いのない事実)。
(8)送信防止措置と再表示に至る経緯
ア 氏名不詳者は、平成27年1月21日頃、被控訴人に無断で、アカウントID(a)(以下省略)のアカウント(以下「本件アカウント8」という。)のプロフィール画像として本件写真1の画像ファイル(ただし、被控訴人が本件写真1の左下部分に「(c)Y」等の文字を加えた画像。以下「本件画像データ」という。)を設定・登録し(甲3ないし6)、本件画像データは、画像データ保存URLのウェブページに対応するサーバ2の記憶領域に保存された(争いのない事実)。
 これによって、ユーザが本件アカウント8のタイムライン等において、本件写真1を閲覧することができる状態となり、本件写真1に係る被控訴人の公衆送信権が侵害された(当事者間に争いがない。)。
イ 被控訴人は、TwitterJapan株式会社に対し、上記アの公衆送信状態の停止を求める平成27年1月26日付の「侵害サイト1発信者情報開示請求書兼公衆送信差止請求書」と題する文書を送付した(甲42、46の1、46の2)。同文書は、遅くとも同年2月13日までに、控訴人の知るところとなった(争いのない事実)。
ウ 控訴人は、平成27年2月13日頃、画像データ保存URL上の本件画像データにつき送信防止措置をとった(争いのない事実)。
エ 本件画像データは、遅くとも平成28年5月26日には、画像データ保存URL上において再び閲覧可能となり(甲7ないし10)、本件写真1に係る被控訴人の公衆送信権が侵害された(当事者間に争いがない。)。
オ 控訴人は、平成28年6月10日頃、上記エの状態を知り、遅くとも同月13日までに、再度、画像データ保存URL上の本件画像データにつき送信防止措置をとった(争いのない事実)。
 その後、本件口頭弁論終結時に至るまで、本件画像データが本件アカウント8に係るウェブページにおいて閲覧可能となった事実はない(甲37ないし40、弁論の全趣旨)。
(9)なお、本件アカウント1ないし7利用者によるツイートはいずれも日本語でされていることから(甲14ないし16、20、22、48、50、107、109、127)、同利用者らによるプロフィール画像設定行為1ないし4及びツイート1ないし7(ツイート6’を含む。)はいずれも日本においてされたと推認でき、これを覆すに足りる証拠はない。
(10)発信者情報省令は、令和2年総務省令第82号(令和2年8月31日公布、施行)により改正され(新発信者情報省令)、3号として「発信者の電話番号」が加えられ、従前の3号ないし7号が4号ないし8号とされた。
3 争点
(1)本件アカウント2、4、6及び7につき、最新ログイン時IPアドレス等の開示を求めることができるか
ア 本件写真1ないし3に係る画像データを削除しないことが不作為による著作権(自動公衆送信権)侵害に該当し、侵害情報の流通によって被控訴人の著作権が侵害されたことが明らかであるか(争点1)
イ 最新ログイン時IPアドレス等が発信者情報に該当するか(争点2)
(2)本件アカウント1及び6につき、ツイート直前ログイン時IPアドレス等の開示を求めることができるか
ア ツイート1のウェブページへの本件写真2の表示及びツイート6若しくは6’のウェブページへの本件写真1の表示により、被控訴人の著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)が侵害されたことが明らかであるか(争点3)
イ ツイート直前ログイン時IPアドレス等が発信者情報に該当するか(争点4)
(3)本件アカウント2及び4につき、ショートメールアドレスが発信者情報に該当するか(争点6)
(4)本件アカウント2及び4につき、電話番号の開示を求めることができるか(争点6−2)
4 争点についての当事者の主張
(1)争点1(本件写真1ないし3に係る画像データを削除しないことが不作為による著作権(自動公衆送信権)侵害に該当し、侵害情報の流通によって被控訴人の著作権が侵害されたことが明らかであるか)について
(被控訴人の主張)
 本件アカウント2、4、6及び7利用者は、それぞれツイート行為2、プロフィール画像設定行為2、プロフィール画像設定行為4、ツイート行為7により違法に本件写真1ないし3をアップロードしたのであるから、プロフィール画像を変更するかツイートを削除した上で、各アカウントに紐づけられた本件写真1ないし3のデータを控訴人に削除要請するなどして本件写真1ないし3の画像データをツイッターのサーバから削除すべき条理上の送信防止義務を負っていた。
 そして、上記アカウント利用者らは、アカウントにログインできる以上、上記削除を行うことは容易であり、また違法な公衆送信状態を知っていたか、知り得たにもかかわらず、ログイン後も上記画像データを削除しなかった。このように漫然と違法な自動公衆送信状態を維持することは、違法アップロードと同価値といえる。
 したがって、本件アカウント2、4、6及び7利用者は、不作為により本件写真1ないし3に係る被控訴人の自動公衆送信権を侵害し続けており、各最新ログイン時点における不作為による侵害情報の発信者と評価されるべきであり、本件アカウント2、4、6及び7について最新ログイン時IPアドレス等の情報の開示請求が認められるべきである。
(控訴人の主張)
 自動公衆送信(著作権法2条1項9号の4)とは、本件アカウント2、4、6及び7利用者が本件写真1ないし3の画像データを控訴人のサーバにアップロード(送信可能化)した後、一般のユーザからのアクセスに応じて控訴人のサーバから当該ユーザのクライアントコンピュータに対して本件写真1ないし3の画像データが送信されることを指す。すなわち、自動公衆送信権は、個々の画像データの送信行為によって侵害されるものであって、具体的な送信行為が存在しないところには自動公衆送信権侵害も存在しない。
 本件においては、最新ログインの時点において、控訴人のサーバからクライアントコンピュータに対して画像データが送信されたものではない(少なくとも、被控訴人はその旨の主張立証を一切していない)から、最新ログイン時点において自動公衆送信権は侵害されていない。
 したがって、最新ログインの時点において不作為によって自動公衆送信権が侵害されているとの被控訴人の主張は失当である。
(2)争点2(最新ログイン時IPアドレス等が発信者情報に該当するか)について
(被控訴人の主張)
ア ログイン時のIPアドレス等一般について
 ウェブサイトの仕組みにより、IPアドレス保存のタイミングは様々であり、ツイッターのように侵害情報投稿時のIPアドレス及びタイムスタンプを保存していない場合も想定される。新発信者情報省令5号が「侵害情報に係る」IPアドレスと幅を持たせた表現で規定された趣旨は、「侵害情報送信時のIPアドレス」というように幅のない定め方をすると、不合理に発信者情報の開示請求ができない場合が発生することが容易に想定されるため、このような事態を回避し、権利者の法的救済を受ける権利を実効的に保障することにある。
 プロバイダ責任制限法4条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」とは、侵害情報が発信された際に割り当てられたIPアドレス等から把握される発信者情報に限定されることなく、権利侵害との結びつきがあり、権利侵害者の特定に資するような、通信から把握される発信者情報を含む。そのため、最新ログイン時点のアカウント利用者のログイン情報は、新発信者情報省令5号にいう「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」に該当し、そのタイムスタンプは、新発信者情報省令8号にいう「侵害情報が送信された年月日及び時刻」に該当する。
 また、「侵害情報に係る」とは、侵害情報の発信者以外の者を誤って発信者と特定する合理的な疑いのないことを意味するところ、ツイッターにおいてログイン時のIPアドレスを開示したとしても、侵害情報の発信者以外の者を誤って発信者と特定する合理的な疑いはない。すなわち、ツイートするためにはアカウントへのログインが必要であり、ログインした者とログイン後のアカウントからツイートした者が別人であることは通常考え難い。
 また、アカウントへのログインはパスワードによって厳重に保護されており、異なるデバイスからログインした場合には警告メールが送信されるなど、セキュリティ対策も十全なものとなっており、ログイン者が発信者である蓋然性は極めて高い。仮にアカウントを第三者と共有している場合であっても、両者の間にはパスワードを共有するような強い人間関係が存在し、同第三者は「侵害情報の送信に係る者」(新発信者情報省令1号、2号)に該当し、同第三者の情報も発信者情報に該当する。
 さらに、新発信者情報省令8号がタイムスタンプを発信者情報としたのは、経由プロバイダにおいて、接続の都度、利用者にIPアドレスを割り当てている場合には、契約者を特定するためにIPアドレスとタイムスタンプをあわせて確認することが必要となるからである。そうすると、「侵害情報が送信された年月日及び時刻」との新発信者情報省令8号の文言に拘泥する合理性はなく、新発信者情報省令5号でIPアドレスの開示が認められる場合には、広くタイムスタンプも開示対象となると解すべきである。
 したがって、ログイン時のIPアドレスは、新発信者情報省令5号にいう「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」に該当し、ログイン時のタイムスタンプは新発信者情報省令8号にいう「侵害情報が送信された年月日及び時刻」に該当するから、発信者情報として開示を求めることができる。
イ 最新ログイン時IPアドレス等について
(ア)前記アで述べた理由は、最新ログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプにも当てはまる。
 さらに、被控訴人は、前記(1)におけるとおり、不作為による自動公衆送信権の侵害を主張しているところ、本件アカウント2、4、6及び7利用者は、アカウントにログインしながら本件写真1ないし3に係る画像データを削除していないから、最新ログイン時IPアドレス等は、この不作為の直前のログイン時IPアドレス等と同義である。
(イ)仮に、最新ログイン時IPアドレス等が発信者情報に該当しないとしても、被控訴人の発信者に対する訴訟提起の機会を保障するために、憲法32条の趣旨に鑑み、プロバイダ責任制限法4条1項及び発信者情報省令を拡張解釈し、控訴人に対して情報開示が命ぜられるべきである。また、そのような解釈を採用することは、憲法上の権利を保障するために司法権による合理的拡張解釈を許容した最高裁判所平成20年6月4日大法廷判決(民集62巻6号1367頁)の趣旨にも適う。
(ウ)したがって、最新ログイン時のIPアドレスは、新発信者情報省令5号にいう「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」に該当し、最新ログイン時のタイムスタンプは新発信者情報省令8号にいう「侵害情報が送信された年月日及び時刻」に該当するから、発信者情報として開示を求めることができる。
(控訴人の主張)
ア ログイン時のIPアドレス等一般について
 プロバイダ責任制限法が、発信者情報開示請求権を創設した反面、情報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密に配慮した厳格な要件の下でのみ発信者情報開示請求を認めている趣旨に加え、同法4条1項が単に「当該開示関係役務提供者が保有する発信者情報」と規定するのではなく、「当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報」と定めていることからすると、発信者情報開示請求は、侵害情報の発信者に関する情報全てを幅広く対象とするものではなく、「当該権利の侵害」、すなわち請求者が侵害情報であると主張する特定の情報の発信行為に関する情報のみを対象とするものと解される。
 そして、ログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプは、侵害情報の発信行為とは全く別個の行為であるアカウントへのログイン行為(アカウントID、パスワード等のログインに必要な情報の送信行為)に関する情報であるから、そもそも「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当しない。
 また、新発信者情報省令8号は「侵害情報が送信された年月日及び時刻」と規定しており、侵害情報送信時とは全く異なる時点であるログイン時のタイムスタンプが、同号の文言に照らして開示対象とならないことは明らかである。一方、新発信者情報省令5号は「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」と規定するが、これは、発信者が所属する企業や大学が経由プロバイダとインターネット接続サービス契約を締結している場合等があり、発信者本人がいわゆる経由プロバイダの契約者と同一人物とは限らないので、そのような場合に当該企業や大学等に関する情報の開示を可能とするためにそのような文言が用いられたにすぎない。
 加えて、ツイッターのシステム上、1個のアカウントに対して数十個にわたる複数のログイン状態が競合することが可能であり、このような状態は現実にも頻繁に発生しているから、プロフィール画像のアップロード行為又はツイートがその直前のログイン行為によるログイン状態を利用して行われたものであるかどうかは全く明らかではない。
 したがって、ログイン時のIPアドレスは、新発信者情報省令5号にいう「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」に該当せず、ログイン時のタイムスタンプは新発信者情報省令8号にいう「侵害情報が送信された年月日及び時刻」に該当しないから、発信者情報として開示を求めることはできない。
イ 最新ログイン時IPアドレス等について
 仮に一定の範囲のログイン時IPアドレス等が開示の対象となり得るとしても、以下に述べるとおり、最新ログイン時IPアドレス等は開示の対象とならない。
 すなわち、侵害情報以外の情報を投稿した時のIPアドレスは、仮にそれが本判決確定日の正午時点において最新の投稿時のものであるとしても「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」(新発信者情報省令5号)に該当しない。また、最新ログイン時のIPアドレスは、訴訟提起や仮処分命令申立後も対象アカウントの管理者が対象アカウントにログインする度に新たに発生する情報であって、判決の確定や仮処分決定の発令まで具体的な情報を確定できないことに加え、通常膨大な数が存在するログイン時IPアドレスの中で侵害情報の投稿時から最も離れた時点のIPアドレスであり、侵害情報の投稿行為との関連性が最も希薄である。
(3)争点3(ツイート1のウェブページへの本件写真2の表示及びツイート6若しくは6’のウェブページへの本件写真1の表示により、被控訴人の著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)が侵害されたことが明らかであるか)について
(被控訴人の主張)
ア 本件円形表示による同一性保持権侵害の成否について
(ア)同一性保持権侵害においては、複製権侵害のような有形的な再製や物への固定は求められておらず、暫定的なデータの生成であっても、著作物の外形に変更を加えるのであれば改変行為に該当するから、クライアントコンピュータにおいて、HTMLデータ、画像データ及びCSSデータが結合してレンダリングデータを生成する行為も、同一性保持権侵害を招来する。
 したがって、ツイート行為1並びに6及び6’は、本件写真1及び2を「変更、切除その他の改変」(著作権法20条1項)するものと評価することができる。
(イ)控訴人は、本件円形表示が著作権法20条2項4号所定の「やむを得ないと認められる改変」に当たると主張する。しかし、控訴人は、平成29年6月15日頃、プロフィール画像に設定されている画像を円形にトリミングする内容のCSSデータをアップロードして一斉に本件円形表示を発生させたものであり、それ以前には、プロフィール画像に本件円形表示がされることはなかったのであるから、このことからしても、アバター画像をあえて円形にトリミングする必要性がないことは明らかである。
イ 侵害情報の流通によって被控訴人の同一性保持権が侵害されたことが明らかであるか否かについて
 本件円形表示は、クライアントコンピュータのブラウザソフトによりHTMLデータが解析されると、同データを母体としたCSSデータとのデータ結合が行われ、さらにHTMLデータとCSSデータの結合で決定されたノードの内容として画像データが結合され、レンダリングデータが生成されることによって発生する。
 本件において、本件アカウント1利用者は、平成30年9月28日午後4時47分に、ツイート行為1によりHTMLデータをアップロードした。このとき、本件円形表示の組成データであるHTMLデータ、本件写真2の画像データ及びCSSデータがすべてクライアントコンピュータにそろう状態が整い、本件円形表示が発生した。同様に、本件アカウント6利用者は、令和元年9月2日午前7時31分頃、ツイート行為6によりHTMLデータをアップロードした。このとき、本件円形表示の組成データであるHTMLデータ、本件写真1の画像データ及びCSSデータがすべてクライアントコンピュータにそろう状態が整い、本件円形表示が発生した。
 また、本件アカウント6利用者は、令和2年6月3日午前1時41分頃、ツイート行為6’によりHTMLデータをアップロードし、このとき、本件円形表示の組成データであるHTMLデータ、本件写真1の画像データ及びCSSデータがすべてクライアントコンピュータにそろう状態が整い、本件円形表示が発生した。
 したがって、ツイート行為1並びに6及び6’の行為者が侵害行為の主体であり、侵害情報の流通によって被控訴人の同一性保持権が侵害されたことは明らかである。
ウ 本件円形表示による氏名表示権侵害の成否について
 本件アカウント1の利用者は、ツイート行為1によって本件円形表示をしたことにより、本件写真2について表示されていた被控訴人の著作者名を見えないようにし、本件アカウント6の利用者は、ツイート行為6及び6’によって本件円形表示をしたことにより、本件写真1について表示されていた被控訴人の著作者名を見えないようにしたから、被控訴人が本件写真1及び2について有していた氏名表示権を侵害した。
(控訴人の主張)
ア 本件円形表示による同一性保持権侵害の成否について
(ア)クライアントコンピュータ上で生成されるレンダリングデータは、端末上にごく一時的・瞬間的に蓄積されるだけで、継続的に保存されることはないから、レンダリングデータが生成されることのみをもって、本件写真1及び2に「変更、切除その他の改変」(著作権法20条1項)がされたということはできない。
 また、本件円形表示は、HTMLデータやCSSデータ等によって指定された枠(額縁)に本件写真1及び2をはめ込んで表示した結果として本件写真1及び2の一部が表示されないことになっただけであり、画像データそれ自体には何ら「変更、切除その他の改変」は行われていない。
 さらに、本件円形表示がツイッターのシステムによって自動的・機械的にされることはツイッターのユーザであればだれもが知っている公知の事実であるし、本件アカウント1若しくは6のタイムラインのウェブページ又はツイート1若しくは6、6’のウェブページに表示される本件写真1又は2’の部分を右クリックして「新たなタブで開く」を選択すれば、サーバ2上に保存された本件写真1又は2’を見ることができるから、ユーザは、トリミング後の構図が本件写真1又は2の本来の構図であると誤解することはなく、本件円形表示は、絵画を展示する際に額縁に入れることと同じであり、本件円形表示が行われたことによりトリミングされたのは本件写真1及び2の僅かな部分であるから、実質的には、本件写真1又は2に係る被控訴人の精神的・人格的利益は害されていないといえる。
 加えて、同一性保持権侵害となるためには、原著作物を利用することを要するところ、ツイート行為1並びに6及び6’は、テキストデータ等のツイートの投稿内容をツイッターのサーバに送信し、インラインリンクを設定する行為にすぎず、著作権の支分権の定義に該当する行為ではなく、クライアントコンピュータ上におけるレンダリングデータの生成とそれに伴う本件円形表示は、本件アカウント1又は6の利用者の意図とは関係なくツイッターのシステムによって自動的・機械的に行われるものであり、そのため、仮に「変更、切除その他の改変」が認められるとしても、その主体は本件アカウント1又は6の利用者ではなくユーザである。
 また、氏名表示権について後に述べるように、本件円形表示は、小さく解像度が低いことなどから、本件写真1又は2の著作物としての本質的特徴を感得できないものであり、著作物を利用したものとはいえない。
 したがって、ツイート行為1並びに6及び6’は、本件写真1及び2を「変更、切除その他の改変」(著作権法20条1項)するものとは評価できない。
(イ)仮に、ツイート行為1又は6若しくは6’が本件写真1又は2を改変するものと認められるとしても、(a)上記改変はツイッターのシステム上、本件アカウント1及び6利用者の意図とは全く関係なく、自動的かつ機械的に行われるものであること、(b)ユーザが本件写真1又は2の部分を右クリックすれば改変されていない本件写真1又は2の画像データを即座に閲覧することができること、(c)ツイート行為1又は6若しくは6’によって本件アカウント1又は6利用者の端末からツイッターのサーバに送信されるのは本件円形表示とは何の関係もないテキストデータ等のみであること、(d)本件円形表示は、リンク元のウェブページに設けられたフレームないし枠にリンク先のコンテンツを埋め込むというフレームリンクないし埋め込み型リンクを採用した場合に、リンク先のコンテンツを無理なく自然に表示するために必然的かつ不可避的に生じるものであることなどの諸事情や、本件写真1及び2が商業用途写真であることに鑑みれば、上記改変は、本件写真1又は2に係る被控訴人の人格的利益を害するものではなく、「やむを得ないと認められる改変」(著作権法20条2項4号)に該当するというべきである。
イ 侵害情報の流通によって被控訴人の同一性保持権が侵害されたことが明らかであるか否かについて
(ア)発信者情報開示請求の可否は、個々の特定電気通信ごとに判断されるべきであり、「侵害情報の流通によって」権利が侵害されたとの要件(プロバイダ責任制限法4条1項1号)については、実際に発信ないし流通される侵害情報それ自体による権利侵害が認められなければならない。ツイート行為1並びに6及び6’は、画像データ保存URLに対するインラインリンク情報を生成させるだけであって、侵害情報の流通それ自体による権利侵害は認められない。
(イ)被控訴人は、権利侵害の原因、起点となる情報をもって侵害情報である旨主張するが、本件のように、そのような原因、起点となる情報の流通だけでなく、それ以外の情報の流通やその他の事情が存在してはじめて権利侵害が惹起される場合には、原因、起点となる情報の流通それ自体によって直接権利が侵害されるとはいえないし、権利侵害が原因、起点となる情報によって完結しているとはいえないから、「侵害情報の流通によって」権利が侵害されたとの要件を充足しない。
 ツイート行為1又は6若しくは6’とは全く関係ない別個の行為であるプロフィール画像設定行為1又は4がなければ、本件写真1又は2の画像データがクライアントコンピュータに送信されることはなく、同写真に係る同一性保持権侵害が成立することもない。したがって、それらの情報の流通それ自体によっては被控訴人の同一性保持権は侵害されないし、同一性保持権侵害が特定電気通信による侵害情報の流通によって完結しているということもできない。
 被控訴人の主張が認められるのであれば、他人の権利を直接侵害する情報にリンクを設定した事案においても、リンクの設定行為は、いわゆるリンク情報をサーバに記録ないし入力するだけの行為であり、上記権利侵害情報を記録ないし入力する行為ではないにもかかわらず、「侵害情報の流通」によって権利が侵害されたこととなり、リンクの設定者は「発信者」として発信者情報の開示が認められることになるが、このような結論は、プロバイダ責任制限法の立法担当者の見解や裁判例等に反して失当である。
 プロバイダ責任制限法は、特定の記録、入力という積極的な行為が行われ、その行為により情報が流通し、その情報の流通自体によって権利が侵害された場合に、そのような情報の記録、入力という作為をした者を発信者としてその発信者の情報の開示を請求することができると定めているから、発信者に該当するというためには、ある決まった内容の特定のデータを記録するという積極的な行為を行う必要がある。ところが、ツイート行為1並びに6及び6’によりサーバに送信されたHTML等のデータは、決まった内容の特定のデータとしてサーバに保存されるものではなく、ツイッターシステムにより自動的に作成され、一般のユーザがツイート1並びに6及び6’を閲覧する際にも、ある決まった内容の特定のデータがサーバから当該ユーザの端末に配信されるものではなく、ユーザの環境に応じて最適化されたHTML等のデータが生成され配信されるものであるから、ツイート行為1並びに6及び6’は特定のデータを記録する行為ではなく、ツイート行為1並びに6及び6’を行った者は発信者に当たらない。
(ウ)したがって、本件アカウント1及び6利用者は侵害行為の主体ではなく、侵害情報の流通によって被控訴人の同一性保持権が侵害されたことは明らかではない。
ウ 本件円形表示による氏名表示権侵害の成否について
 本件円形表示が小さく、プロフィール画像設定行為1、4により設定・登録された画像の解像度が低いことから、本件円形表示において表示された本件写真1、2の画像は、本件写真1、2の著作物としての本質的特徴を感得できないものであり、著作物としての本質的特徴を感得できない態様で本件写真1、2の画像を表示したとしても、そもそも写真を「利用」したとはいえないから(著作権法19条1項の具体的な規定との関係では「公衆への提供若しくは提示」に該当しない。)、氏名表示権侵害とならない。
 本件円形表示において本件写真1、2の画像が表示される際に円形トリミングがされ、氏名部分が表示されなくなるのは、ツイッターのシステムによって自動的・機械的にそのような表示がされるためであり、アカウント保持者は氏名部分の非表示に関して何らの行為も行っていない等の事情に鑑みれば、本件円形表示における本件写真1、2の画像表示は、著作権法19条3項の例外規定に該当し、氏名表示権侵害は成立しない。
(4)争点4(ツイート直前ログイン時IPアドレス等が発信者情報に該当するか)について
(被控訴人の主張)
 上記(2)(被控訴人の主張)アのとおり。
 ツイート直前ログイン時IPアドレス等は発信者情報に該当するから、被控訴人は、控訴人に対し、本件アカウント1について、新発信者情報省令5号に基づき、ツイート1の直前に同アカウントにログインした際のIPアドレスの開示を求め、新発信者情報省令8号に基づき、同IPアドレスを割り当てられた電気通信設備から控訴人の用いる特定電気通信設備に上記ログインに関する情報が送信された年月日及び時刻の開示を求めることができる。また、被控訴人は、控訴人に対し、本件アカウント6について、新発信者情報省令5号に基づき、ツイート6の直前に同アカウントにログインした際のIPアドレスの開示を求め、新発信者情報省令8号に基づき、同IPアドレスを割り当てられた電気通信設備から控訴人の用いる特定電気通信設備に上記ログインに関する情報が送信された年月日及び時刻の開示を求めることができる。さらに、本件アカウント6について、新発信者情報省令5号に基づき、ツイート6’の直前に同アカウントにログインした際のIPアドレスの開示を求め、新発信者情報省令8号に基づき、同IPアドレスを割り当てられた電気通信設備から控訴人の用いる特定電気通信設備に上記ログインに関する情報が送信された年月日及び時刻の開示を求めることができる。
(控訴人の主張)
 上記(2)(控訴人の主張)アのとおり。
 発信者情報の開示は、通信の秘密や表現の自由という重大な権利権益に関する問題である以上、ひとたび開示されてしまうと原状回復は不可能であるという性質を有していることから、開示請求の対象となる発信者情報は、訴訟による権利回復を可能にするという制度の趣旨に照らして必要最小限度の範囲に予め限定するのが相当であり、ログイン時IPアドレス等のような情報を開示の対象に含めるべきではない。実際、ログイン時の情報を発信者情報として開示することは立法時には必ずしも想定されていなかった。
 仮に、新発信者情報省令5号が「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」と定めていることから、同5号に基づいて、侵害情報であるツイート自体とは異なるツイート直前のログイン時のIPアドレスの開示が認められるとしても、新発信者情報省令8号が「侵害情報が送信された年月日及び時刻」と定めていることからすると、同8号に基づいて、侵害情報であるツイート自体とは異なるツイート直前のログイン時のタイムスタンプの開示を認めることはできない。
(5)争点6(本件アカウント2及び4につき、ショートメールアドレスが発信者情報に該当するか)について
(被控訴人の主張)
 電子メールアドレスは、新発信者情報省令4号に定められたとおり「電子メールの利用者を識別するための文字、番号、記号その他の符号をいう」ものである。そして、電子メールアドレスには、「携帯して使用する通信端末機器に、電話番号を送受信のために用いて通信文その他の情報を伝達する通信方式」が含まれるから、ショートメールサービスが法律上「電子メール」に該当することは明らかである(特定電子メールの送信の適法化等に関する法律[以下「特定電子メール法」という。]2条1号、特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第二条第一号の通信方式を定める省令[以下「特定電子メール省令」という。]2号)。発信者情報省令制定後に、特定電子メール法及び特定電子メール省令において電子メールアドレスにショートメールアドレスが含まれることが明示されたにもかかわらず、発信者情報省令が電子メールアドレスにショートメールアドレスを含まないとの改正を行なっていないのは、特定電子メール法等の趣旨がプロバイダ責任制限法及び発信者情報省令にも妥当するからであると解される。
 控訴人は、被控訴人が開示を求める情報は携帯電話番号であると主張するが、被控訴人は、携帯電話番号と全く同じ文字列でアドレスを特定するショートメールアドレスの開示を請求しているにすぎず、開示の結果、携帯電話番号も判明することとなるとしても、それは、たまたまショートメールアドレスと携帯電話番号が同一の文字列であるからにすぎない。
 したがって、ショートメールアドレスは、新発信者情報省令4号の「電子メールアドレス」に含まれるものとして、開示を求めることができる。
(控訴人の主張)
 総務省は、平成14年の発信者情報省令制定時におけるパブリックコメント回答において、電話番号を開示の対象とすべきとのコメントに対し電話番号を発信者情報開示請求の対象としないことを明確に述べている。このように、発信者情報省令の立法者である総務省の立法意図は、新発信者情報省令4号の「電子メールアドレス」に携帯電話番号を含めるものではなく、同号括弧書の「電子メール」にショートメッセージサービスを含めるものでもないことが明らかである。
 また、新発信者情報省令6号所定の、携帯電話端末等からのインターネット接続サービス利用者識別符号を開示対象とする制度は、平成23年9月15日総務省令第128号によって新設されたものであるが、同号の解説においても「電話番号については、本省令の制定時に、(中略)開示の対象としないこととした」ことが明記され、携帯電話番号を発信者情報開示の対象に追加するものではないことを明らかにするため、同6号に「利用者をインターネットにおいて識別するために」との規定が設けられた。
 このように、携帯電話番号を電子メールアドレスに含めず、発信者情報開示請求の対象としないという総務省の立法意図は、平成23年の発信者情報省令改正時においても変わっていない。
 したがって、ショートメールアドレスは、新発信者情報省令4号の「電子メールアドレス」に含まれないから、発信者情報として開示を求めることはできない。
(6)争点6−2(本件アカウント2及び4につき、電話番号の開示を求めることができるか)について
(被控訴人の主張)
 本件アカウント2を利用して行われたツイート行為2、本件アカウント4について行われたプロフィール画像設定行為2によって本件写真2に係る被控訴人の公衆送信権が侵害されたことは当事者間に争いがなく、本件アカウント4を利用して行われたツイート行為4により本件写真2が本件円形表示されたことによって本件写真2に係る被控訴人の同一性保持権、氏名表示権が侵害されたから、本件アカウント2及び4の電話番号は、新発信者情報省令3号の「発信者の電話番号」に該当し、被控訴人は、控訴人に対してその開示を請求することができる。
 被控訴人は、本件アカウント2及び4の原判決別紙発信者情報目録第1の1(2)記載の情報(実際上は電話番号)の開示と、本件アカウント2及び4の電話番号の開示をともに請求する。
(控訴人の主張)
 被控訴人が電話番号の開示請求の理由とする著作権法上の権利の侵害行為(ツイート行為2、プロフィール画像設定行為2、ツイート行為4)は、いずれも改正された新発信者情報省令が令和2年8月31日に公布、施行される前の行為であり、遡及適用を認める特別の経過規定はないから、新発信者情報省令は、それらの著作権侵害行為には適用されない。したがって、被控訴人は新発信者情報省令3号に基づいて本件アカウント2及び4の電話番号の開示を請求することはできない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件写真1ないし3に係る画像データを削除しないことが不作為による著作権(自動公衆送信権)侵害に該当し、侵害情報の流通によって被控訴人の著作権が侵害されたことが明らかであるか)について
(1)被控訴人は、本件アカウント2、4、6及び7利用者は、それぞれツイート行為2、プロフィール画像設定行為2、プロフィール画像設定行為4、ツイート行為7により違法に本件写真1ないし3をアップロードしている以上、本件写真1ないし3を削除すべき条理上の義務を負っているにもかかわらず、これを削除しないという不作為によって被控訴人の自動公衆送信権を侵害しており、自動公衆送信状態を維持することは、違法アップロードと同価値であり、したがって、本件アカウント2、4、6及び7利用者は、最新ログイン時点における不作為による侵害情報の発信者と評価されるべきであることを理由として、本件アカウント2、4、6及び7について最新ログイン時IPアドレス等の情報の開示請求が認められるべきであると主張する。
(2)特定電気通信(プロバイダ責任制限法2条1号)による情報の流通には、これにより他人の権利の侵害が容易に行われ、その高度の伝ぱ性ゆえに被害が際限なく拡大し、匿名で情報の発信がされた場合には加害者の特定すらできず被害回復も困難になるという、他の情報流通手段とは異なる特徴がある。一方、発信者情報は、発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密にかかわる情報であり、正当な理由がない限り第三者に開示されるべきものではなく、また、これがいったん開示されると開示前の状態への回復は不可能となる。これらを踏まえ、プロバイダ責任制限法4条は、特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害を受けた者が、侵害情報の流通による開示請求者の権利侵害が明白であることなど、情報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求することができるものとすることにより、加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図るものと解される(最高裁平成22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻3号676頁、最高裁平成22年4月13日第三小法廷判決・民集64巻3号758頁参照)。
 そして、プロバイダ責任制限法4条は「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り(中略)当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。)の開示を請求することができる。」(1項柱書)、「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。」(1項1号)と規定し、発信者情報の開示を求めることができるのは、情報が流通したこと自体(「情報の流通」、「侵害情報の流通」)によって権利の侵害がされた場合であることを明記している。また、プロバイダ責任制限法2条4号は、「発信者」について、特定電気通信設備の記録媒体又は送信装置に情報を記録、入力した者であるとして、特定の記録、入力という積極的な行為を行った者に限定として特定している。そして、新発信者情報省令は、発信者情報を「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」(5号)、「侵害情報に係る携帯電話端末又はPHS端末」(6号)、「侵害情報に係るSIMカード識別番号」(7号)として、侵害情報に関係する情報のみを発信者情報として特定している。
 上記の法の趣旨及び規定によれば、プロバイダ責任制限法は、特定の記録、入力という積極的な行為が行われた場合に、その行為により情報が流通し、その情報の流通自体によって権利が侵害された場合に、そのような情報の流通による権利侵害の特殊性等を考慮し、その記録、入力という作為をした者を「発信者」とし、その発信者の情報の開示を請求することができることを定めているといえる。
 被控訴人は、上記(1)のとおり、対象のアカウントについて、最新ログイン時点よりも前に被控訴人の権利侵害が行われたことによって最新ログイン時点における不作為による権利侵害があり、当該最新ログインをしたアカウント利用者は、その侵害情報の発信者と評価されるべきであることを理由として、最新ログイン時IPアドレス等の情報の開示請求が認められるべきであると主張する。
 しかし、被控訴人の上記主張は、ログインをした者が本件写真1ないし3を削除しないという単なる不作為を問題としており、特定の記録、入力という積極的な行為自体を問題とするものではなく、また、積極的な行為がない以上、その時点における積極的な行為に基づく情報の流通があるわけでもない。そうすると、被控訴人は、「情報の流通」によって自己の権利を侵害されたとはいえないし、このような不作為の行為者について、上記に述べたプロバイダ責任制限法が想定する「発信者」ということもできないから、被控訴人の主張は、既にこの点において失当である。また、本件において、最新ログイン時点におけるアカウント利用者を上記のとおりの「発信者」ということができる特段の事情を認めるに足りる証拠もなく、最新ログイン時点におけるアカウント利用者をプロバイダ責任制限法が想定する「発信者」ということはできない。
 したがって、本件アカウント2、4、6及び7利用者がプロフィール画像等としてアップロードした本件写真1ないし3を削除しないことが不作為による公衆送信権侵害であることを前提として発信者情報の開示を求める被控訴人の請求は、これらアカウント利用者が不作為による公衆送信権侵害を行ったと評価されるか否かを判断するまでもなく、理由がない。
2 争点2(最新ログイン時IPアドレス等が発信者情報に該当するか)について
(1)被控訴人は、本件アカウント2、4、6及び7に係る最新ログイン時のIPアドレスが、新発信者情報省令5号にいう「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」に該当し、最新ログイン時のタイムスタンプが同省令8号の「侵害情報が送信された年月日及び時刻」にそれぞれ該当すると主張する。
(2)プロバイダ責任制限法4条1項が「権利の侵害に係る発信者情報」と規定し、新発信者情報省令5号が「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」と規定して、「係る」という表現を用いてそれぞれやや幅をもって規定していることからすれば、侵害情報の発信そのものから把握される発信者情報だけでなく、侵害情報の発信に関連して把握される発信者情報であっても、これに対する開示が許容される場合もあると解される。一方、上記各規定に照らしても、侵害情報の発信に関係がないといえる情報は「権利侵害に係る発信者情報」に含まれないと解される。
 前記前提事実(4)によれば、被控訴人の本件写真1ないし3に係る公衆送信権を侵害する行為が行われたのは、ツイート行為2について平成28年12月18日であり、プロフィール画像設定行為2について平成30年1月12日であり、プロフィール画像設定行為4について平成30年2月1日以前であり、ツイート行為7について平成31年2月1日である。また、被控訴人が本件写真1及び2の同一性保持権、氏名表示権を侵害すると主張する行為が行われたのは、ツイート6について令和元年9月2日であり、ツイート6’について令和2年6月3日である。
 そうすると、本判決確定日時点における最新のログインは、侵害行為が行われ、侵害情報が発信された上記各時点から相当の期間が経過した時点で行われたものとなる。これらを考慮すると、本判決確定日時点における最新ログイン時におけるIPアドレス等は、侵害情報の発信に関連して把握される情報とは認められないというべきであり、侵害情報の発信と関係がない情報であって、新発信者情報省令5号及び8号のいずれにも該当しないというべきである。
 したがって、原判決別紙発信者情報目録第4記載の発信者情報の開示を求める被控訴人の請求は理由がない。
(3)これに対し、被控訴人は、プロバイダ責任制限法4条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」とは、侵害情報が発信された際に割り当てられたIPアドレス等から把握される発信者情報に限定されることなく、権利侵害との結びつきがあり、権利侵害者の特定に資するような、通信から把握される発信者情報を含むから、最新ログイン時点のアカウント利用者のログイン情報は、新発信者情報省令5号にいう「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」に該当し、そのタイムスタンプは、新発信者情報省令8号にいう「侵害情報が送信された年月日及び時刻」に該当すると主張する。しかし、プロバイダ責任制限法4条の趣旨は、上記1(2)で述べたとおりであるから、権利侵害と何らかの結びつきがあり、権利侵害者の特定に資するような情報であればすべて同条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」に当たると解することはできず、被控訴人の上記主張は、採用することができない。また、被控訴人は、本件アカウント2、4、6及び7利用者による不作為の自動公衆送信権侵害を主張し、最新ログイン時IPアドレス等は、この不作為の直前のログイン時のIPアドレス等と同義であると主張するが、上記1(2)のとおり、本件写真1ないし3を削除しないという不作為の行為者は、プロバイダ責任制限法が想定する発信者ということはできないから、同不作為の直前のログイン時のIPアドレス等は侵害情報の発信と関連する情報とは評価できない。
 また、被控訴人は、被控訴人の発信者に対する訴訟提起の機会を保障するために、憲法32条の趣旨に鑑み、プロバイダ責任制限法4条1項及び発信者情報省令を拡張解釈して開示が命じられるべきとも主張する。しかし、上記1(2)のとおり、プロバイダ責任制限法4条は、権利を侵害された者の救済の必要性も踏まえた上で、発信者情報が、発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密にかかわる情報であり、正当な理由がない限り第三者に開示されるべきものではなく、また、これがいったん開示されると開示前の状態への回復は不可能となることをも考慮し、両者の要請の調和という観点から、開示の要件やその対象を定めたものであり、その定めが憲法32条等に違反すると判断すべき理由はないから、この規定を殊更拡大解釈しなければならない理由もないというべきである。プロバイダ責任制限法は、発信者情報の開示請求につき、侵害情報の流通による開示請求者の権利侵害が明白であることなど厳格な要件を定めたものであるところ、上記各規定を拡張解釈して最新ログイン時IPアドレス等の開示を許せば、侵害情報の発信者以外の者の情報が開示される可能性が高まることとなり、上記プロバイダ責任制限法の趣旨に反するというべきである。
 したがって、被控訴人の上記主張にはいずれも理由がない。
3 争点3(ツイート1のウェブページへの本件写真2の表示及びツイート6若しくは6’のウェブページへの本件写真1の表示により、被控訴人の著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)が侵害されたことが明らかであるか)について
(1)本件円形表示による同一性保持権侵害の有無
ア(ア)本件アカウント1利用者は、平成30年9月28日、ツイート1を投稿した。本件アカウント1には、プロフィール画像として本件写真2の左右がトリミングされた本件写真2’の画像が設定・登録されていた。また、本件アカウント6利用者は、令和元年9月2日、ツイート6を投稿し、令和2年6月3日、ツイート6’を投稿した。本件アカウント6には、プロフィール画像として本件写真1の画像が設定・登録されていた。
 本件写真1は正方形の写真であり(原判決別紙写真目録1記載)、本件写真2は横長の長方形の写真である(同目録2記載)。
 上記ツイートの際、本件アカウント1又は6利用者は、プロフィール画像としてどの画像を設定するかなど、プロフィール画像を選択し、これを設定・登録・変更することができた(上記前提事実(3)イ)。
(イ)本件アカウント1又は6利用者がツイートを投稿すると、当該ツイートの内容であるテキストデータ等が同利用者の端末からツイッターのサーバに送信され、サーバ1に記録保存されている本件アカウント1又は6のタイムラインのウェブページのHTMLデータ(CSSデータが紐づけされた本件写真1又は2’の画像データに対するインラインリンク情報を含む。)が新たな内容にアップデートされるとともに、当該ツイートのウェブページのHTMLデータ(CSSデータが紐づけされた本件写真1又は2’の画像データに対するインラインリンク情報を含む。)がサーバ1に新たに生成される(上記前提事実(3)エ)。
(ウ)ユーザが本件アカウント1又は6のタイムラインあるいはツイート1又はツイート6若しくは6’に係るウェブページを閲覧しようとすると、上記のとおりアップデート又は生成されたHTMLデータがサーバ1から当該ユーザのクライアントコンピュータに送信される。クライアントコンピュータは、当該HTMLデータに含まれる上記インラインリンク情報に従って、サーバ2及び3にアクセスし、サーバ2から本件写真1又は2’の画像データを、サーバ3からCSSデータ及びJAVASCRIPTデータを受信し、これらを組み合わせ、相互の配置、位置関係を調整するなどして、本件アカウント1又は6のタイムラインあるいはツイート1又は6若しくは6’に係るウェブページのレンダリングデータを生成する。これらにより、クライアントコンピュータにおいては、本件アカウント1又は6のタイムラインにおいてツイート1又は6若しくは6’(これらの左側に本件円形表示された本件写真1又は2’が表示される。)を閲覧することができるとともに、ツイート1又は6若しくは6’をそれらに係るウェブページ(左側に本件円形表示された本件写真1又は2’が表示される。)で閲覧することができる。そのうち本件アカウント1又は6のアカウントのタイムラインにおけるツイート1又は6若しくは6’の左側の本件円形表示された本件写真1又は2’、及びツイート1又は6若しくは6’に係るウェブページにおける本件円形表示された本件写真1又は2’は、ツイート1又は6若しくは6’をしたことによってHTMLデータが新しく生成され又はHTMLデータがアップデートされることで新たに表示されることになったものである。
イ 上記アによれば、本件アカウント1又は6利用者が、本件写真1又は2’が当該アカウントのプロフィール画像として設定された状態でツイートを投稿したことに基づき、CSSデータが紐づけされた本件写真1又は2’の画像データに対するインラインリンク情報を含む当該ツイートに係るHTMLデータがサーバ1に新たに作成されるなどし、また、本件アカウント1又は6のタイムライン等を閲覧しようとするユーザのクライアントコンピュータ上においては、サーバ1から送信されたHTMLデータとサーバ2及び3から送信された本件写真1又は2’に係る画像データ、CSSデータ等によってレンダリングデータが生成され、このレンダリングデータがクライアントコンピュータに一時的に記録され、クライアントコンピュータのブラウザ上で本件円形表示がされた本件写真1又は2’が表示されるものと認められる。
 この表示に際し、ツイッターのサーバ2上に記録保存された本件写真1又は2’の画像データそのものに改変は加えられず、またクライアントコンピュータ上において上記レンダリングデータが恒常的に保存されることはない。他方、クライアントコンピュータの画面上においては、本件アカウント1又は6のタイムラインあるいはツイート1又は6若しくは6’に係るウェブページを閲覧する際に、本件写真1又は2は、あたかも本件写真1又は2の4隅を切除して円形とした改変が加えられたように表示される。それが、本件アカウント1又は6のタイムラインあるいはツイート1又は6若しくは6’に係るウェブページを閲覧する際に表示されるものであり、本件アカウント1又は6のアカウントのタイムラインにおけるツイート1又は6若しくは6’の左側の本件円形表示された本件写真1又は2、及びツイート1又は6若しくは6’に係るウェブページにおける本件円形表示された本件写真1又は2は、いずれもツイート1又は6若しくは6’をしたことによって新たに表示されることになったものである。
 本件写真1又は2は上記ア(ア)のとおり正方形又は長方形の写真であったところ、ユーザが本件アカウント1又は6のタイムラインあるいはツイート1又は6若しくは6’に係るウェブページを閲覧する際には、それらの一部のみが、クライアントコンピュータにおいて、円形の写真として表示されているといえるのであり、本件円形表示は本件写真1及び2を著作者の意に反して改変するものと評価することができる。
 そして、本件写真1は、本件円形表示において、画像の全体の形状等の外面的な表現形式に改変が加えられたものの、被写体の形態、性状、色彩の主要部分が原著作物である本件写真1と同様に表示されているから、本件円形表示により本件写真1の表現形式上の本質的な特徴を感得することができ、したがって、本件円形表示によって本件写真1の同一性保持権が侵害されたことは明らかであるものと認められる。なお、本件アカウント1に平成29年2月16日にプロフィール画像として設定・登録されたのは(プロフィール画像設定行為1)、本件写真2’(甲23)であり、本件円形表示されたのは直接には本件写真2’であるが、本件写真2’(正方形)は本件写真2(長方形)を複写して左右をトリミングしたものであり、本件アカウント1における本件円形表示により、本件写真2が改変されて表示されたものと認められる。そして、本件写真2は、本件円形表示において、画像の全体の形状等の外面的な表現形式に改変が加えられたものの、被写体の形態、性状、色彩の主要部分が原著作物である本件写真2と同様に表示されているから、本件円形表示により本件写真2の表現形式上の本質的な特徴を感得することができ、したがって、本件円形表示によって本件写真2の同一性保持権が侵害されたことは明らかであるものと認められる。
 したがって、本件円形表示により本件写真1及び2に係る被控訴人の同一性保持権が侵害されたことは明らかである。
ウ これに対し、控訴人は、クライアントコンピュータ上で生成されたレンダリングデータは、端末上に継続的に保存されることはない上、本件円形表示は、本件写真1又は2にHTMLデータやCSSデータ等によって指定された枠(額縁)をはめ込んで表示した結果として本件写真1又は2の一部が表示されないことになったのであり、画像データそれ自体に改変が加えられたものではないこと、本件円形表示がツイッターのシステムによって自動的・機械的にされることはツイッターのユーザであればだれもが知っている公知の事実であり、本件アカウント1若しくは6のタイムラインのウェブページ又はツイート1若しくは6のウェブページに表示される本件写真1又は2’の部分を右クリックして「新たなタブで開く」を選択すれば、サーバ2上に保存された本件写真1又は2’を見ることができるから、ユーザは、トリミング後の構図が本件写真1又は2の本来の構図であると誤解することはないこと、本件円形表示は、絵画を展示する際に額縁に入れることと同じであること、本件円形表示が行われたことによりトリミングされたのは本件写真1及び2の僅かな部分であることから、実質的には、本件写真1又は2に係る被控訴人の精神的・人格的利益は害されておらず、ツイート行為1並びに6及び6’は、本件写真1及び2を「変更、切除その他の改変」(著作権法20条1項)するものとは評価できないと主張する。
 しかしながら、本件円形表示がされた際、画像データそれ自体の改変はされていないものの、ユーザが視覚的に認識することができる、クライアントコンピュータに表示され画像の形状等が変更されているのであり、このような表示の変更がされることは著作権法20条1項所定の「改変」と評価することができる。また、本件円形表示の元の画像を見ることができることをツイッターのユーザが皆知っていることを認めるに足りる証拠はない上、本件アカウント1若しくは6のタイムラインのウェブページ又はツイート1若しくは6、6’のウェブページに表示される本件写真1又は2’の部分を右クリックしてサーバ2上に保存された本件写真1又は2’を見ることができるとしても、クリックしてサーバ2上の画像を見るのが通常とはいえないから、サーバ2上の画像を見ることができるが故に改変がないとはいえない。そして、見る者が、表示されている画像を本来の構図であると誤解しないとしても、同一性保持権の侵害は成立する。さらに、本件円形表示は、絵画を展示するために絵画をそれに合う大きさの額縁に入れる場合と同視することはできないし、本件円形表示により、本件写真1については、スズランの花、茎の一部を削り、本件写真2については、ペンギンのくちばし、頭部及び体の一部を削っており、削られたところが些細な部分にとどまるとは必ずしもいえず、著作物についてツイッター上で本件円形表示のような表示がされることを写真の著作物の著作者一般が許容しているとする根拠はない。したがって、「変更、切除その他の改変」(著作権法20条1項)に当たらないという控訴人の主張は、採用することができない。
 また、本件の場合のように、当該アカウントを示すアイコンとして一定の画面に表示される画像は、システムによって一律に円形表示されており、これに接する者はそれが上記アイコンとするために設定された画像の一部分であることを前提として接していて、一つの新しい独立した表現として表示されていると評価できないなどして、「改変」がされていないとする立論も考え得るところである。しかし、上記画像が一種の表現であることは否定できないし、本件のプロフィール画像は、その表示の態様からしても、クライアントコンピュータの画面において、円形の写真として、それ自体で一つの表現として表示されているととらえることができるものであり、そのようにとらえるとすると、著作者は、本件のプロフィール画像において、自己の著作物について、改変により異なる表現がされないことについての利益を有するといえるから、本件のプロフィール画像において原著作物と異なる表示がされたことをもって「改変」がされたと評価するのが相当であると解される。
 さらに、控訴人は、本件円形表示が同一性保持権侵害となるためには、原著作物を利用することを要するところ、ツイート行為1並びに6及び6’は、テキストデータ等のツイートの投稿内容をツイッターのサーバに送信し、インラインリンクを設定する行為にすぎず、これらは著作権の支分権の定義に該当する行為ではない旨、クライアントコンピュータ上におけるレンダリングデータの生成とそれに伴う本件円形表示は、本件アカウント1又は6の利用者の意図とは関係なくツイッターのシステムによって自動的・機械的に行われる旨、そのため、仮に「変更、切除その他の改変」が認められるとしても、その主体は本件アカウント1又は6の利用者ではなくユーザである旨主張する。しかしながら、インラインリンクを設定する行為それのみを、それによってもたらされる効果や事実状態と切り離して取り上げるならば、その行為自体は本件写真1又は2の複製や翻案に当たる著作権侵害行為にはならないという余地が仮にあるとしても、本件アカウント1又は6の利用者が投稿を行うことによって、クライアントコンピュータのブラウザ上でウェブページが表示される際に、本件円形表示がされたのであるから、著作物である本件写真1又は2を利用して本件写真1又は2とは異なる表示をさせたものとして、同一性保持権を侵害したものというべきである。
エ 控訴人は、氏名表示権について述べるように、本件円形表示は、小さく解像度が低いことなどから、本件写真1又は2の著作物としての本質的特徴を感得できないものであり、著作物を利用したものとはいえないから、同一性保持権を侵害するものではないと主張する。
 しかし、氏名表示権について後に(3)イ(ア)において述べるように、本件円形表示によって、本件写真1又は2は、著作物としての本質的特徴を感得できるような態様で表示されていると認められ、本件円形表示は、著作物を利用したものということができ、同一性保持権を侵害するものであると認められる。
オ 控訴人は、本件のようなトリミング表示は、リンク元のウェブページに設けられたフレームないし枠にリンク先のコンテンツを埋め込むというフレームリンクないし埋め込み型リンクを採用した場合に、リンク先のコンテンツを無理なく自然に表示するために必然的かつ不可避的に生じるものであることなどの諸事情や、本件写真1及び2が商業用途写真であることに鑑みれば、本件円形表示は「やむを得ないと認められる改変」(著作権法20条2項4号)に該当するとも主張する。
 リンク先のコンテンツを無理なく自然に表示するためリンク先の画像について一定の変形が加えられることが、技術的な必要のためにされるやむを得ない改変であるとして同一性保持権の侵害とならない場合があるとしても、本件においては、四角形の画像を、もとの画像とは全く異なる形状の丸い画像としているのであり、リンク先のコンテンツを無理なく自然に表示するといった技術的な観点からそのような変形をする必要性があるとは認められない。本件について、上記のような技術的な必要のためにされるやむを得ない改変と認めることは相当でない。また、本件写真1及び2が商業用途写真であることから、許諾を得ずに本件円形表示のように変形することが許容されるとする根拠はない。
 したがって、本件円形表示は「やむを得ないと認められる改変」(著作権法20条2項4号)には該当せず、控訴人の主張はいずれも理由がない。
(2)被控訴人の同一性保持権が、「侵害情報の流通によって」侵害されたことが明らかであるか否かについて
ア ツイート行為1又は6若しくは6’の行為者は、本件アカウント1又は6にログインしていた者である。アカウント利用者は、プロフィール画像の設定、登録、変更をすることができ(上記前提事実(3)イ)、ツイートに当たって、本件写真1又は2’をプロフィール画像として設定・登録したままにしてそれらについて本件円形表示がされることを許容するのか、別の画像に変更するのかなどの行為を選択し得る立場にあった。ツイート行為1並びに6及び6’の行為者は、その上で、当該ツイートに係るウェブページ等が閲覧される際に本件写真1又は2について本件円形表示がされることを知って、ツイート1又は6若しくは6’を投稿した。
イ そして、上記アのようなツイート行為1並びに6及び6’の行為者がツイートを投稿して、ツイート1並びに6及び6’の投稿内容であるテキストデータ等を同行為者の端末からツイッターのサーバに送信・記録させると、上記のとおり、これを端緒として、直ちに、本件円形表示を行うように設定されたCSSデータが紐づけされた本件写真1又は2’の画像データに対するインラインリンク情報を含む新たなHTMLデータが生成又はHTMLのデータがアップデートされ、これにより、ユーザが閲覧することによりクライアントコンピュータ上で本件円形表示がされることになり、そのうち、本件アカウント1又は6のアカウントのタイムラインにおけるツイート1又は6若しくは6’の左側の本件円形表示された本件写真1又は2、及びツイート1又は6若しくは6’に係るウェブページにおける本件円形表示された本件写真1又は2は、ツイート1又は6若しくは6’をしたことによって新たに表示されることになったものである。上記テキストデータ等の送信は、本件円形表示による改変の不可欠の要素である2つのデータ(画像データとCSSデータ)がクライアントコンピュータ上に存在し、新しく本件円形表示をさせることとなる直接の契機となった行為と評価することができる。
ウ 控訴人は、プロバイダ責任制限法は、特定の記録、入力という積極的な行為が行われ、その行為により情報が流通し、その情報の流通自体によって権利が侵害された場合に、そのような情報の記録、入力という作為をした者を発信者としてその発信者の情報の開示を請求することができると定めているから、発信者に該当するというためには、ある決まった内容の特定のデータを記録するという積極的な行為を行った者でなければならないところ、ツイート行為1並びに6及び6’によりサーバに送信されたHTML等のデータは、決まった内容の特定のデータとしてサーバに保存されるものではなく、ツイッターシステムにより自動的に作成されるものであるし、一般のユーザがツイート行為1並びに6及び6’を閲覧する際にも、ある決まった内容の特定のデータがサーバから当該ユーザの端末に配信されるものではなく、ユーザの環境に応じて最適化されたHTML等のデータが生成され配信されるものであるから、ツイート行為1並びに6及び6’は特定のデータを記録する行為ではなく、したがって、これツイート行為1並びに6及び6’を行った者は発信者に当たらないと主張する。
 しかし、ツイート行為1並びに6及び6’によってテキストデータ等を送信することにより、本件写真1及び2について本件円形表示のような表示を実現するとの内容を含むHTML等がサーバ上に生成されたものであり、その後、ユーザの環境に応じて最適な形にHTML等に変更が加えられたとしても、それは、本件円形表示のような表示を実現するために必要な範囲の調整にとどまるものにすぎないから、上記テキストデータ等は特定のデータとしての同一性が失われると解することはできない。そうすると、控訴人主張の点は、ツイート行為1並びに6及び6’の行為者が侵害情報を流通させたと評価することを何ら妨げるものではなく、控訴人の上記主張を採用することはできない。
エ 上記アないしウによれば、ツイート行為1並びに6及び6’の行為者は、少なくとも、本件アカウント1又は6のアカウントのタイムラインにおけるツイート1又は6若しくは6’の左側の本件円形表示された本件写真1又は2、及びツイート1又は6若しくは6’に係るウェブページにおける本件円形表示された本件写真1又は2について、本件円形表示による同一性保持権侵害の主体であるといえる。そして、ツイート1並びに6及び6’に係るテキストデータ等は侵害情報であり、ツイート行為1並びに6及び6’の行為者はこれをサーバに記録した「発信者」(プロバイダ責任制限法2条4号)であると評価するのが相当である。
(3)本件円形表示による氏名表示権侵害の有無
ア ツイート1並びに6及び6’による本件円形表示(原判決別紙投稿情報目録記載第1の2C、第6の2C、別紙投稿ツイート追加目録記載C)において、本件写真1、2は、著作者名の表示の付された部分が切除された形でウェブページの閲覧者の端末に表示される。そして、ツイート6若しくは6’のウェブページの閲覧者は、本件円形表示をクリックすることにより、著作者名の表示のある本件写真1を見ることができるが、著作者名表示のある元の画像は、上記クリックにより、上記ウェブページとは別のウェブページで見ることができるにとどまるし、閲覧者が本件円形表示を通常クリックするのが通常であるといえるような事情もうかがわれない。また、ツイート1に関しては、プロフィール画像設定行為1により設定・登録された本件写真2’において既に著作者名の表示の付された部分が切除されていたから、ウェブページの閲覧者は、本件円形表示をクリックしても著作者名の表示のある本件写真2を見ることはできない。したがって、被控訴人は、本件円形表示(原判決別紙投稿情報目録記載第1の2C、第6の2C、別紙投稿ツイート追加目録記載C)により、氏名表示権を侵害されたことが明らかであるものと認められる。
イ(ア)控訴人は、本件円形表示が小さく、プロフィール画像設定行為1、4により設定・登録された画像の解像度が低いことから、本件円形表示において表示された本件写真1、2の画像は、本件写真1、2の著作物としての本質的特徴を感得できないものであり、著作物としての本質的特徴を感得できない態様で本件写真1、2の画像を表示したとしても、そもそも写真を「利用」したとはいえないから(著作権法19条1項の具体的な規定との関係では「公衆への提供若しくは提示」に該当しない。)、氏名表示権侵害とならないと主張する。
 しかし、本件円形表示が小さく、プロフィール画像設定行為により設定・登録された画像の解像度が原著作物よりも低いとしても、本件円形表示に表示された本件写真1、2は、他の画像に埋没するようなこともなく、それのみ独立の画像として認識し得る態様で表示されており、円形のトリミングにより削られたところは別として、細部はともかく、被写体の形態、性状、色彩の主要部分が原著作物である本件写真1、2と同様に表示されているから、本件写真1、2の著作物としての本質的特徴を感得できるような態様で表示されていると認められる。したがって、本件円形表示により本件写真1、2が表示されるようにしたことにより、著作物としての本件写真1、2を利用したものであると認められ、「公衆への提供若しくは提示」(著作権法19条1項)に該当するものと認められる。
(イ)控訴人は、本件円形表示において本件写真1、2の画像が表示される際に円形トリミングがされ、氏名部分が表示されなくなるのは、ツイッターのシステムによって自動的・機械的にそのような表示がされるためであり、アカウント保持者は氏名部分の非表示に関して何らの行為も行っていない等の事情に鑑みれば、本件円形表示における本件写真1、2の画像表示は、著作権法19条3項の例外規定に該当し、氏名表示権侵害は成立しないと主張する。
 しかし、上記(2)エのとおり、ツイート1並びに6及び6’に係るテキストデータ等は侵害情報であり、ツイート行為1並びに6及び6’の行為者はこれをサーバに記録した「発信者」(プロバイダ責任制限法2条4号)であると評価するのが相当であり、ツイート行為1並びに6及び6’の行為者は、本件円形表示によって本件写真1、2について氏名表示権を侵害した主体であると認められるものであり、自動的・機械的に円形表示がされるといい得る余地があるからといって、それだけで直ちに本件円形表示における本件写真1、2の画像表示が著作権法19条3項の例外規定に該当すると認めることはできない。また、その他に、本件円形表示が著作権法19条3項の例外規定に該当する根拠はない。したがって、控訴人の上記主張を採用することはできない。
4 争点4(ツイート直前ログイン時IPアドレス等が発信者情報に該当するか)について
(1)被控訴人は、本件アカウント1及び6につき、ツイート1並びに6及び6’の直前のログイン時IPアドレス等の開示を求めるのに対し、控訴人は、ログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプは、侵害情報の発信行為とは全く別個の行為であるアカウントへのログイン行為に関する情報であるから、「当該権利の侵害に係る発信者情報」(プロバイダ責任制限法4条1項柱書)に該当しないと主張する。
(2)プロバイダ責任制限法4条1項は、開示請求の対象となるべき情報について、「権利の侵害に係る発信者情報」と規定し、その具体的な内容を総務省令(発信者情報省令)に委任しているところ、権利の侵害に「係る」というように、やや幅をもって規定していることからすれば、権利の侵害そのものから把握される発信者情報だけでなく、権利の侵害に関連して把握される発信者情報であり、発信者情報省令により定められているものであれば、開示請求の対象となると解すべきである。
 そして、新発信者情報省令5号が「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」と規定し、侵害情報に「係る」というように、やや幅をもって規定していることからすれば、侵害情報の発信そのもののIPアドレスだけでなく、侵害情報の発信と密接に関連し、同一人物のものである確度が高い情報のIPアドレスであれば、開示請求の対象となると解すべきである。
 これを本件についてみるに、上記3(2)で述べたとおり、ツイート行為1並びに6及び6’によって送信されたテキストデータ等は本件写真1及び2に係る被控訴人の同一性保持権の侵害を発生させた侵害情報と評価することができる。そして、ツイッターに投稿(ツイート)するためには特定のアカウントにログインしなければならず、ツイート1又は6若しくは6’は直前における本件アカウント1又は6へのログイン行為によるログイン状態を利用してされたと合理的に考えられる。これらのことからすれば、ツイート1並びに6及び6’の直前のログインに係る情報は、侵害情報の送信と密接に関連する情報であって、同一人物のものである確度が高いから、侵害情報の発信に関連して把握される発信者情報であると認められ、したがって、被控訴人は、控訴人に対し、新発信者情報省令5号に基づき、本件アカウント1についてツイート1の直前に同アカウントにログインした際のIPアドレスの開示を請求することができ(原判決主文第2項(1)のうちIPアドレスの開示を認めた部分)、本件アカウント6についてツイート6の直前に同アカウントにログインした際のIPアドレスの開示を請求することができるとともに(原判決主文第2項(2)のうちIPアドレスの開示を認めた部分)、ツイート6’の直前に同アカウントにログインした際のIPアドレスの開示を請求することができる(本判決主文第2項(2))ものと認められる。
 他方、新発信者情報省令8号は、「第五号のアイ・ピー・アドレスを割り当てられた電気通信設備、第六号の携帯電話端末等からのインターネット接続サービス利用者識別符号に係る携帯電話端末等又は前号のSIMカード識別番号(中略)に係る携帯電話端末等から開示関係役務提供者の用いる特定電気通信設備に侵害情報が送信された年月日及び時刻」として、開示の対象となる「侵害情報が送信された年月日及び時刻」は、「侵害情報が送信された」ときのものであることをと定めている。上記のとおり、ツイート1並びに6及び6’に係るテキストデータ等は侵害情報に当たると解されるところ、ツイート1並びに6及び6’自体とは異なるツイート1並びに6及び6’の直前のログインに係る送信の年月日及び時刻は、「侵害情報が送信された年月日及び時刻」という文言に該当するとは認められない。したがって、本件アカウント1について、ツイート1の直前のログインに係る送信の年月日及び時刻の開示を請求することはできず、本件アカウント6について、ツイート6の直前のログインに係る送信の年月日及び時刻の開示、並びにツイート6’の直前のログインに係る送信の年月日及び時刻の開示を請求することはできない(そのため、原判決主文第2項(1)のうち、本件アカウント1についてツイート1の直前のログインに係る送信の年月日及び時刻の開示を命じた部分を取り消し(本判決主文第1項(1))、原判決主文第2項(2)のうち、本件アカウント6についてツイート6の直前のログインに係る送信の年月日及び時刻の開示を命じた部分を取り消し(本判決主文第1項(2))、当審における追加請求のうち、本件アカウント6についてツイート6’の直前のログインに係る送信の年月日及び時刻の開示を請求する部分を棄却する(本判決主文第2項(3))。)。
(3)これに対し、控訴人は、ツイッターのシステム上、一つのアカウントに対して、複数のログイン状態が競合することは頻繁に発生しており、ツイート行為がその直前のログイン行為によるログイン状態を利用して行われたものであるかどうかは明らかではないから、ツイート行為と直前のログイン行為の関連性は明らかとはいえない旨主張する。
 しかしながら、ツイッターのシステム上、一つのアカウントに対して複数のログイン状態が競合することがあるとの一般的な可能性を考慮しても、ツイート行為がその直前のログイン行為によるログイン状態を利用して行われたと考えることには合理性があるものと認められ、控訴人の指摘は、ツイート行為1並びに6及び6’の直前のログイン時におけるIPアドレスが、侵害情報の送信と密接に関連する情報であって、同一人物によるものである確度が高く、侵害情報の発信に関連して把握される発信者情報であるとの上記認定を左右しない。したがって、控訴人の上記主張には理由がない。
 また、控訴人は、発信者情報の開示は、通信の秘密や表現の自由という重大な権利権益に関する問題である以上、ひとたび開示されてしまうと原状回復は不可能であるという性質を有していることから、開示請求の対象となる発信者情報は、訴訟による権利回復を可能にするという制度の趣旨に照らして必要最小限度の範囲に予め限定するのが相当であり、ログイン時IPアドレス等のような情報を開示の対象に含めるべきではなく、現に、ログイン時情報を発信者情報として開示することは立法時には必ずしも想定されていなかったと主張する。
 しかし、通信の秘密や表現の自由を保護しつつ、情報の発信により著作権法上の権利を侵害された者の救済を図ることも必要であり、プロバイダ責任制限法及び発信者情報省令の解釈により認められる範囲において発信者情報を開示することは許容されるべきであるから、控訴人の上記主張を採用することはできない。
5 争点6(本件アカウント2及び4につき、ショートメールアドレスが発信者情報に該当するか)について
 被控訴人は、本件アカウント2及び4の原判決別紙発信者情報目録第1の1(2)記載の情報(実際上は電話番号)の開示(上記第1の2(2))と、本件アカウント2及び4の電話番号の開示(上記第1の2(4))を請求するところ、後記6のとおり、本件アカウント2及び4の電話番号の開示が認められるから、重ねて実質的に同一内容の情報の開示を求める必要はない。したがって、被控訴人のショートメールアドレスの開示を求める請求は理由がない。本件アカウント2及び4の原判決別紙発信者情報目録第1の1(2)記載の情報の開示の可否については判断を要しない。
6 争点6−2(本件アカウント2及び4につき、電話番号の開示を求めることができるか)について
(1)本件アカウント2を利用して行われたツイート行為2、本件アカウント4について行われたプロフィール画像設定行為2によって本件写真2に係る被控訴人の公衆送信権が侵害されたことは当事者間に争いがない(前提事実(4)イ、エ(ア))。また、本件アカウント4を利用して行われたツイート行為4により、本件写真2が本件円形表示され、原判決別紙投稿情報目録第4の2Cのように表示されるところ、上記3で述べたのと同様の理由により、これによって本件写真2の同一性保持権、氏名表示権が侵害されたものと認められる。そのため、本件アカウント2及び4の電話番号は、新発信者情報省令3号の「発信者の電話番号」に該当し、被控訴人は、控訴人に対してその開示を請求することができるものと認められる(本判決主文第2項(1))。
(2)控訴人は、電話番号の開示請求の理由となった著作権法上の権利の侵害行為(ツイート行為2、プロフィール画像設定行為2、ツイート行為4)はいずれも改正された新発信者情報省令が令和2年8月31日に公布、施行される前の行為であり、遡及適用を認める特別の経過規定はないから、新発信者情報省令は、それらの著作権侵害行為には適用されず、被控訴人は新発信者情報省令3号に基づいて本件アカウント2及び4の電話番号の開示を請求することはできないと主張する。
 しかし、著作権法上の権利の侵害行為が過去に行われたとしても、発信者情報開示請求が行われた時点でプロバイダにプロバイダ責任制限法4条1項に基づく具体的な開示義務が生じるものであり、被控訴人は本訴において開示請求を行っているから、当審口頭弁論終結時に有効な新発信者情報省令が適用されるものと認められ、控訴人の上記主張は、採用することができない。
7 以上によれば、被控訴人の請求は、原判決別紙発信者情報目録記載第1の1(1)の情報の開示を求め(控訴人はこれを争わない。)、本件アカウント1についてツイート1の直前に同アカウントにログインした際のIPアドレスの開示を求め、本件アカウント6についてツイート6の直前に同アカウントにログインした際のIPアドレスの開示を求め、附帯控訴に基づき当審において追加された請求により本件アカウント2及び4の電話番号の開示を求め、附帯控訴に基づき当審において追加された請求により本件アカウント6について別紙投稿ツイート追加目録記載の投稿(ツイート6’)以前の同アカウントへのログインのうち最も新しいもののIPアドレスの開示を求める限度で理由があり、その余の請求は理由がない。
 よって、本件控訴に基づいて、原判決主文第2項(1)のうち、本件アカウント1についてツイート1の直前に同アカウントにログインした際のログインに関する情報が送信された年月日及び時刻の開示を命じた部分、原判決主文第2項(2)のうち、本件アカウント6についてツイート6の直前に同アカウントにログインした際のログインに関する情報が送信された年月日及び時刻の開示を命じた部分を取り消し(本判決主文第1項(1)、(2))、これらの取消しに係る部分につき被控訴人の請求をいずれも棄却し(本判決主文第1項(3))、その余の本件控訴を棄却し(本判決主文第1項(4))、本件附帯控訴に基づいて、当審において追加された本件アカウント2及び4の電話番号の開示を控訴人に命じ(本判決主文第2項(1))、当審において追加された請求により本件アカウント6について別紙投稿ツイート追加目録記載の投稿(ツイート6’)以前の同アカウントへのログインのうち最も新しいもののIPアドレスの開示を控訴人に命じ(本判決主文第2項(2))、本件附帯控訴及び本件附帯控訴に基づく被控訴人の当審におけるその余の追加請求を棄却することとし(本判決主文第2項(3))、主文のとおり判決する。
8 原判決別紙開示請求アカウント目録、投稿情報目録、発信者情報目録、写真目録はこれらを引用し、その後に別紙投稿ツイート追加目録を加える。

知的財産高等裁判所第3部
 裁判長裁判官 鶴岡稔彦
 裁判官 上田卓哉
 裁判官 中平健


(別紙省略)
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