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【事件名】カバーデザインの著作権帰属事件
【年月日】令和3年5月27日
 東京地裁 令和2年(ワ)第7469号 損害賠償等請求事件
 (口頭弁論終結日 令和3年4月26日)

判決
原告 株式会社パイインターナショナル
同訴訟代理人弁護士 雪丸真吾
同 近藤美智子
被告 株式会社永岡書店
同訴訟代理人弁護士 前田泰志


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、別紙1「被告書籍目録」記載の書籍(以下「被告書籍」という。)を複製し、頒布してはならない。
2 被告は、被告書籍を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、126万9900円及びこれに対する令和2年6月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、被告が出版している被告書籍の別紙2「被告書籍カバーデザイン」記載のカバーデザイン(以下「被告カバーデザイン」という。)は、原告が出版する別紙3「本件書籍目録」記載の書籍(以下「本件書籍」という。)の共有著作権及び著作者人格権を侵害すると主張して、被告に対し、著作権法112条1項に基づき、被告書籍の複製及び頒布の差止めを、同条2項に基づき、被告書籍の廃棄を求めるとともに、民法709条及び著作権法114条3項に基づき、損害賠償金126万9900円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(令和2年6月24日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(証拠等を掲げた事実以外は、当事者間に争いがない。なお、枝番号の記載を省略したものは、枝番号を含む(以下同じ)。)
(1)当事者
ア 原告は、デザイン書、ビジュアル書等を主として出版している出版社である。
イ 被告は、児童書、生活実用書等を主として出版している出版社である。
ウ 訴外A(以下「A」という。)は、書籍のデザインを手掛けるデザイナーである(甲4)。
(2)原告とAとの間の出版契約書の締結
 原告は、平成27年12月15日、Aとの間で、「出版契約書」と題する書面(以下「本件出版契約書」という。)において、本件書籍に関し、以下の内容の出版契約(以下「本件出版契約」という。)を締結した(括弧内の条文は、本件出版契約書の条番号である(以下同じ)。)(甲2)。
ア Aは、本件書籍の複製及び頒布の権利を原告に許諾し、他に許諾しない(1条)。
イ Aは、この契約の有効期間中に、本件書籍と明らかに類似すると認められる内容の著作物もしくは本件書籍と同一書籍名の著作物を出版せず、あるいは他人をして出版させない(5条)。
ウ 原告は、Aの権利保全のために所定の位置に下記の著作権表示(以下「本件著作権表示」という。)をする(9条)。「Copyright(c)2015「A」/PIEInternational」
エ 原告は、Aに対し、本件書籍の著作権使用料を支払う(13条)。
(3)原告による本件書籍の出版
 原告は、平成27年11月13日、別紙4「本件書籍カバーデザイン」記載のカバーデザイン(以下「本件カバーデザイン」という。)を表紙とし、奥付部分に本件著作権表示が記載された本件書籍を出版した。(甲1、4)。
(4)被告による被告書籍の出版
 被告は、令和元年9月、被告カバーデザインを表紙とする被告書籍を出版した(甲5、6、7、乙1)。
2 争点
(1)本件書籍は原告とAの共同著作物か(争点1)
(2)原告による、Aの著作権持分の取得の成否(上記(1)の主張に係る予備的主張)(争点2)
(3)本件カバーデザインに係る複製又は翻案の成否(争点3)
(4)利用許諾の抗弁の成否(争点4)
(5)被告の故意または過失の有無(争点5)
(6)原告の損害及び損害額(争点6)
(7)差止めの必要性(争点7)
3 争点に対する当事者の主張
(1)争点1(本件書籍は原告とAの共同著作物か)
〔原告の主張〕
 本件書籍はAの単独の著作物ではなく、原告とAの共同著作物である。
 すなわち、まず、著作権法は、著作物の原作品にその氏名や名称が著作者名として通常の方法により表示されている者は、その著作物の著作者として推定する旨定めている(14条)。そして、「(c)」の表示(以下「(c)表示」という。)は、著作者名の表示として通常の方法ということができる。しかして、本件書籍の奥付部分には、(c)表示を用いた本件著作権表示が記載されているから、原告は、Aと共に本件書籍の著作者(共同著作者)と推定される。
 実質的にも、原告は、本件書籍の創作に携わっている。すなわち、本件書籍は、原告の出版事業の一環として発行されたものであるところ、原告の従業員であり本件書籍の担当編集者であったB(以下「B」という。)は、本件書籍のデザインを決めるに当たり、既にパブリックドメインとなっている草や花、蝶などのイラスト素材を探してAに提示し、どの素材を使用するかの取捨選択や、どの素材をどこにどのように組み合わせて配列するかといったデザインの全般にわたり、Aと協議を重ねたものであるから、Aと共に本件書籍のデザインの作成について創作的関与をしたといえる。また、本件書籍の創作過程におけるAと原告の従業員の寄与は一体となっており、各人の寄与分を個別に評価したり、利用したりすることはできない。
 そして、原告の従業員は、原告における自己の職務である編集業務の一環として本件書をAと共に創作したのであるから、原告の従業員の寄与部分は、職務著作(著作権法15条1項)となり、本件書籍はAと原告との共同著作物(著作権法2条1項12号)であるといえる。
〔被告の主張〕
 本件書籍はAの単独の著作物であり、原告とAの共同著作物ではない。
 まず、著作者とは、著作物を創作する者であり、現実に当該著作物の創作に携わった者が著作者となるのであって、(c)表示(本件著作権表示)をもって当然に著作権者であるということはできない。そして、本件カバーデザインの表面には、「DESIGNED BY「A」」と記載され、その裏面には、「発売元:パイインターナショナル」と記載されているにすぎず、本件書籍について、原告が著作者名として通常の方法により表示されている者には当たらない。
 また、著作権及び著作者人格権は、「著作物を創作する者」(2条1項2号)すなわち、具体的表現の創作に実質的に関与した者に原始的に帰属するものであるところ、本件出版契約書によれば、本件出版契約において本件書籍がAの著作物であることを前提に、Aが原告に対して本件書籍の複製、頒布を許諾すること、原告が本件書籍を複製、頒布すなわち出版を行うことが約されているし、原告の従業員であるBが本件書籍の作成に当たり、アイデアや素材を提供したとしても、Bは単に補助的な役割を果たしたにすぎず、その関与の程度、態様から、本件書籍について自己の思考や感情を創作的に表現したということはできない。
 これらからすれば、本件書籍の創作に携わったのはAのみであり、原告は本件書籍の著作者とはいえず、本件書籍が原告とAの共同著作物であるとはいえない。
(2)争点2(原告による、Aの著作権持分の取得の成否)
〔原告の主張〕
 仮に、本件書籍がAの単独の著作物でありAが単独の著作権を有していたとしても、令和元年12月27日付け「確認書」(以下「本件確認書1」という。)や令和2年11月24日付け「確認書」(以下「本件確認書2」といい、本件確認書1と併せて「本件各確認書」という。)において明らかにされているとおり、原告はAから本件書籍の著作権持分について譲渡を受けており、本件書籍にかかる著作権をAと共有している。なお、原告は、Aから、著作権持分の譲渡を受ける際、翻訳権・翻案権等(著作権法27条)の譲渡をも含むものとして合意している。
〔被告の主張〕
 本件出版契約書には、その1条において、本件書籍がAの著作物であることを前提に、Aが原告に対して複製及び頒布を許諾することが約されており、その2条において、本件書籍を原告が複製及び頒布、すなわち出版を行うことが規定されていることからしても、Aが原告に対して本件書籍の著作権持分を譲渡したとはいえない。仮に、Aが原告に対して本件書籍の著作権持分を譲渡したとしても、それは、本件各確認書が作成された日に至ってからであって、被告カバーデザインが作成された当時には、原告書籍に係るカバーデザインの著作権者はAであり、原告はその著作権を共有していたとはいえない。また、原告がAから本件カバーデザインの著作権持分の譲渡を受けていたとしても、著作権が譲渡された場合、当然には翻案権等(同法27条)はその対象に含まれず(同法61条1項)、本件において、翻案権等が譲渡の目的とされていたとの事実は認められないから、原告は、本件書籍の翻案権等の侵害を主張することはできない。
 なお、著作者人格権は譲渡することはできない(著作権法59条)から、本件書籍の著作者人格権はAにのみ帰属し、原告は、これを譲渡により取得していない。
(3)争点3(本件カバーデザインに係る複製又は翻案の成否)
〔原告の主張〕
 被告は、被告カバーデザインを表紙とする被告書籍を出版したものであるところ、被告カバーデザインは、本件書籍の表紙である本件カバーデザインに依拠して作成され、その表現上の本質的特徴を直接感得できるものであるから、本件カバーデザインを複製、翻案したものというべきである。
〔被告の主張〕
 被告カバーデザインは、被告が、本件カバーデザインとは無関係に、Aに依頼して作成したものであって、本件カバーデザインに依拠したものではなく、本件カバーデザインを複製、翻案したものとはいえない。被告カバーデザインは、本件カバーデザインとは別個の著作物である。
(4)争点4(利用許諾の抗弁の成否)
〔被告の主張〕
 仮に、被告カバーデザインの利用が、本件カバーデザインの複製又は翻案に該当するものであったとしても、被告は、本件書籍(本件カバーデザイン)の著作権者であるAから、本件カバーデザインの利用について黙示の利用許諾を得ていた。なお、前記のとおり、原告は本件書籍(本件カバーデザイン)の共有著作権を有していないから、被告が、本件カバーデザインの利用について原告から許諾を得る必要はなかった。
〔原告の主張〕
 前記のとおり、原告は、本件書籍の著作権をAと共に原始的に取得しており、あるいは、Aから著作権の持分の譲渡を受けているから、本件カバーデザインの利用については、Aの許諾だけでなく、共有著作権者である原告の許諾ないし同意が必要である。
 ところが、被告が被告カバーデザインを利用するに当たり、被告は共有著作権者である原告の許諾や同意を得ておらず、被告カバーデザインの利用につき、著作権者の利用許諾があったとはいえない。
(5)争点5(被告の故意または過失の有無)
〔原告の主張〕
 被告カバーデザインは、本件カバーデザインに依拠しており、また、これらの間に類似性があることからすれば、被告が本件カバーデザインを利用して被告カバーデザインを作成したことにつき、原告の本件書籍(本件カバーデザイン)に係る共有著作権を侵害するとの故意あるいは過失があることは明らかである。
〔被告の主張〕
 否認する。
(6)争点6(原告の損害及び損害額)
〔原告の主張〕
 被告が本件カバーデザインを利用して被告カバーデザインを作成したことによって原告に生じた損害は、次の額(合計126万9900円)を下らない。
ア 許諾料相当額
@被告書籍の売上部数1万0725部(被告書籍の販売が開始された令和元年9月から令和2年2月までの間)
A被告書籍の定価1800円
B原告印税率2パーセント
Cその他の事情
 原告の本件書籍の著作権の共有持分は、2分の1と推定される(民法264条、250条)ため、請求できる損害賠償額も2分の1となり得る。しかし、本件については、本件訴訟に至るまでの被告の不誠実な対応があったこと、企画検討等に要する時間的・人的コストを削減するために、出版社から各デザイナーに対して売れ筋のよい書籍を真似たデザインを作成するよう指示することが横行し、その結果として、他人の著作権が保護されず、市場に質の低い類似品があふれ、読者の本離れが進むというような出版業界における歪みを是正し、業界の改善を図るという本件訴訟の意義に鑑みると、原告は、少なくとも原告が受けられる許諾料相当額(全体の2分の1)の2倍の賠償額が認められるべきといえるから、許諾料相当額全額を請求できることになる。
(計算式)
 売上部数1万0275×本体価格1800円×印税率2%=36万9900円
イ 著作者人格権侵害に係る慰謝料50万円
ウ 弁護士費用40万円
エ 合計額126万9900円〔被告の主張〕
 否認する。
(7)争点7(差止め等の必要性)
〔原告の主張〕
 被告は、原告の許諾を得ないままに、被告書籍を複製、頒布しており、原告の著作者人格権及び共有著作権を侵害しているから、著作権法112条1項及び2項に基づく被告書籍の複製、販売及び頒布の差止め並びに被告書籍の廃棄を求める必要性がある。
〔被告の主張〕
 被告書籍の在庫は僅かであり、被告において今後被告書籍を販売する意思はない。また、被告書籍は、2020年の手帳であって、既にその需要はなくなっており、増刷の可能性もないことからすると、その差止め等の必要性はない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1、2について
(1)認定事実(当事者間に争いのない事実、弁論の全趣旨を含む。証拠により認定した場合はその末尾に証拠番号を付記する。)
ア 原告は、平成27年11月13日、本件カバーデザインを表紙とする本件書籍を出版した。本件書籍の奥付部分には、本件著作権表示が記載されている(甲4)。また、本件カバーデザインの表面には、本件書籍のタイトルとともに、「A」との記載や、「DESIGNEDBY「A」」との記載がされている(甲1)。
イ 原告とAは、平成27年12月15日付けで、本件書籍の出版に関し、以下の内容の本件出版契約を締結した(甲2)。
(ア)本件書籍を出版することについて、著作権者をAとして、本件出版契約を締結する(前文)。
(イ)Aは、本件書籍の複製及び頒布の権利を原告に許諾し、他に許諾しない(1条)。
(ウ)原告は、本件書籍の複製及び頒布の責任を負う(2条)。
(エ)原告の本件書籍の複写にかかわる権利の範囲は、原告が制作及び頒布する本件書籍、本件書籍の販売促進のための印刷物及びその他の販売促進物とする(4条)。
(オ)Aは、本件出版契約の有効期間中に、本件書籍と明らかに類似すると認められる内容の著作物若しくは本件書籍と同一書籍名の著作物を出版せず、あるいは他人をして出版させない(5条)。
(カ)原告は、Aの権利保全のために、所定の位置に、本件著作権表示をする(9条)。
(キ)原告は、Aに対して、本件出版契約書の別紙において定められたところにより、本件書籍の著作権使用料を支払う(13条)。
 また、本件出版契約書の末尾には、「著作権者」の欄にはAの署名押印がされ、「出版社」の欄には原告の記名押印がされている。
ウ 被告は、令和元年6月頃、Aに対し、ライターであるC氏を著者とする令和2年の手帳である被告書籍の表紙デザインの制作を依頼した。その際、C氏から、Aから提案された表紙デザインについて修正の意向が示されたものの、被告の従業員であるDは、Aの提案した表紙デザインについて修正を依頼することは難しいため、原案を採用したい旨をC氏に伝えた(乙1)。
エ 被告は、令和元年9月、Aから提供を受けた被告カバーデザインを表紙として被告書籍を発行した(甲7)。
(2)本件カバーデザインの著作者
 著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」をいい(著作権法2条1項1号)、著作者とは、「著作物を創作する者」をいうのであり(同項2号)、本件カバーデザインは美術に属するから、本件カバーデザインの作成につき創作的に関与した者が本件カバーデザインの著作者であると認められるべきである(Aが同「著作者」に当たることは明らかであり、当事者間でも争いがない。)。
 そして、著作権法14条は、著作物の原作品に、その氏名若しくは名称(以下「実名」という。)又はその雅号、筆名、略称その他実名に代えて用いられるものとして周知のものが著作者名として通常の方法により表示されている者は、その著作物の著作者と推定するとの旨を規定する。しかして、同条の規定は、著作者としての立証に困難を伴うことが多いことから、著作権を行使しようとする者の立証の負担を軽減する趣旨で、当該著作物を創作したことの立証に代えて、著作者を示す方法として通常の方法が採られている場合には、その著作者として表示された者を著作者と推定することとしたものである。そうすると、このような推定を覆す事実の反証があれば、この推定は覆り、当該著作物の作成につき創作的関与をしたと認められる者が、その著作物の著作者といえることとなる。
 上記の観点から、原告が原告書籍(本件カバーデザインを含む。)の共同著作者といえるかについて検討すると、前記(1)で認定したとおり、本件書籍については、原告とAとの間で本件出版契約が締結されているところ、本件出版契約においては、Aが本件カバーデザインを含む本件書籍の「著作権者」であるとして、その著作者であることを前提に、「出版者」とされた原告に対し、本件書籍を複製・頒布することを許諾し、原告はその許諾を受ける対価としてAに対して著作権使用料を支払うことが約されていることが認められる。また、本件カバーデザインの表面には、「A」との記載や、「DESIGNED BY「A」」との記載がされ、原告の記載はされていない。さらに、原告の従業員等が、本件書籍(本件カバーデザインを含む。)につき、Aとともに共同著作者として認められる程度にまで至るような創作的関与をしたことを根拠付ける具体的な事実の主張、立証はされていない。
 これらからすれば、本件著作権表示にかかわらず、本件カバーデザインの著作者は、本件カバーデザインの表面に当該デザインを創作した者であるとの旨が明示され、本件出版契約においても本件書籍(本件カバーデザインを含む。)の著作者であることが前提とされ、ゆえに本件書籍(本件カバーデザインを含む。)の作成に創作的に関与した者であると認められるAのみであるというべきである。そして、原告は、これを前提に、Aの著作物である本件書籍を複製、頒布して出版する権利を取得したに過ぎず、このような原告をもって、本件書籍の共同著作者と認めることはできず、本件書籍(本件カバーデザインを含む。)が、原告とAの共同著作物であるということはできない。
(3)原告の主張について
 原告は、本件書籍には、著作権者を表す通常の方法である(c)表示を用いて本件著作権表示がされているため、著作権法14条により、原告とAとが本件書籍の共同著作者として推定されると主張する。
 しかしながら、(c)表示によって著作権者を表示することが通常の方法であるどうかは措くとしても、前記(2)のとおり、本件出版契約においては、Aが本件書籍(本件カバーデザインを含む。)の「著作権者」であるとして、その著作者であることを前提に、「出版者」とされた原告に対し、本件書籍を複製・頒布することを許諾することが約されていることに加え、本件カバーデザインの表面には、Aが当該デザインを創作した者であるとの旨が明示されていることからすると、仮に本件著作権表示をもって原告を共同著作者とする著作権法14条の推定が働くとしても、この推定は、上記の旨が反証により認められることにより覆るものというほかなく、本件カバーデザインを創作した者であるAが、その単独の著作者と認められるものというべきである。
 また、原告は、原告の従業員であるBが本件書籍(本件カバーデザインを含む。)の制作に当たり、Aに対して、イラスト素材を探して提示し、素材の組合せや配列等デザイン全般にわたり、Aと協議を重ねるなどしており、本件書籍(本件カバーデザインを含む。)の作成に創作的に関与していると主張する。
 しかしながら、前記のとおり、Bが本件カバーデザインにつき、Aとともに共同著作者として認められる程度にまで至るような創作的関与をしたことを根拠付ける具体的な事実の主張、立証はされていない(なお原告は、Aの陳述書の提出や、Aの証人尋問の申出をしない旨述べている。)。たとえ、Bが、Aが本件カバーデザインを制作するに当たり、イラスト素材を提供し、素材の組合せや配列等についてAと協議を重ねていたとしても、原告の主張するこのようなBの関与は、その内容自体からして、補助的なものにすぎないというほかなく、Bが本件書籍(本件カバーデザイン)の作成に創作的に関与していたと認めるには足りない。
 なお、この点に関し、A作成に係る本件確認書1(甲3)において、Aが、本件書籍の著作権は原告との共有にかかることを確認していることがうかがわれる。しかしながら、前記のとおり、平成27年11月に原告が本件書籍を出版するに際して締結された本件出版契約においては、Aが本件カバーデザインを含む本件書籍の「著作権者」であるとして、その著作者であることを前提に、「出版者」とされた原告に対し、本件書籍を複製・頒布することを許諾し、原告はその許諾を受ける対価としてAに対して著作権使用料を支払うことが約されていること、本件確認書1は、原告と被告との間で本件書籍の著作権侵害の紛争が顕在化してから作成されていること、しかして、本件出版契約の存在にかかわらずこれに沿わない内容の本件確認書1が作成された経緯について合理的に説明できる具体的な事実の主張、立証がされていないこと(なお原告は、Aの陳述書の提出や、Aの証人尋問の申出をしない旨述べている。)などからすると、本件確認書1の存在及びその内容は唐突であり不自然なものとの評価を免れず、これを採用して直ちに、本件書籍の作成につき原告が創作的関与をしたと認められるということはできないといわざるを得ない。ゆえに、本件確認書1をもって、原告とAとが本件書籍の共同著作者であると認めることはできず、本件書籍(本件カバーデザインを含む。)が、原告とAの共同著作物であるということはできない。
(4)著作権持分の譲渡について
 原告は、仮に、Aが本件カバーデザインについて単独で著作者となるとしても、原告はAから本件書籍の著作権の持分の譲渡を受けているとして、原告は本件書籍の共同著作権者であると主張し、本件確認書1につき、本件書籍が原告とAとの共同著作とは認められないとしても、Aは原告に対して本件書籍に係る著作権(著作権法27条及び28条の権利を含む。)の持分の半分を譲渡するとの趣旨を含むものであるとのA作成に係る本件確認書2(甲20)を提出する。
 しかしながら、前記のとおり、本件出版契約に沿わない本件確認書1の内容は、唐突かつ不自然なものであり、このことは、それが共同著作者との内容の場合であれ、それが持分2分の1の譲渡との内容の場合であれ、何ら変わるものではないというべきであるから、原告の上記主張のように、本件確認書1に本件確認書2を併せても、これをもって本件書籍の作成につき原告が創作的関与をしたと認められないとの前記認定は左右できないといわなければならない。なお、本件確認書2自体も、本件確認書1と同様の理由により唐突かつ不自然なものというべきであるから、採用することができないものであって、仮に原告の主張が、本件確認書2が作成された令和2年11月24日においてAから原告が本件書籍の著作権の持分譲渡を受けた事実を証するものであるとの旨を含むものとしても、この主張にも理由はないものといわざるを得ない。
(5)小括
 以上のとおり、原告において、本件書籍(本件カバーデザインを含む。)の作成につき創作的関与をしたとは認められず、Aとともにその共同著作者であると認めることはできず、Aから著作権持分の譲渡を受けているとも認められない。
 したがって、本件書籍(本件カバーデザインを含む。)が、原告とAの共同著作物であるとはいえず、上記につき、原告が著作者(共同著作者)として共有著作権及び著作者人格権を有しているとは認められない。
2 結論
 よって、原告の本件各請求は、その余の点を判断するまでもなく、いずれも理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 田中孝一
 裁判官 小口五大
 裁判官 鈴木美智子


別紙1 被告書籍目録
書籍名 願いを叶える手帳2020(ISBN:9784522611500)
発行年 2019年
発行者 E
発行 株式会社永岡書店

別紙2 被告書籍カバーデザイン 省略

別紙3 本件書籍目録
書籍名 100枚レターブック 西洋の美しい装飾(ISBN:9784756247179)
発行年 2015年
発行人 F
発行 元株式会社パイインターナショナル

別紙4 本件書籍カバーデザイン 省略
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