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【事件名】ひまわりネットワークへの発信者情報開示請求事件
【年月日】令和3年4月28日
 東京地裁 令和3年(ワ)第3282号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和3年3月19日)

判決
原告 X
同訴訟代理人弁護士 平野敬
同 井雅秀
同 笠木貴裕
被告 ひまわりネットワーク株式会社
同訴訟代理人弁護士 齋藤重也


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各発信者情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
 本件は、原告が、氏名不詳者がいわゆるP2Pソフトを用いて、原告が著作者である小説の翻案である漫画を無断で送信可能化したことによって原告の送信可能化権が侵害されたため、発信者の情報の開示を受ける必要があるなどと主張して、経由プロバイダである被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の発信者情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。
第3 当事者の主張
1 請求原因
(1)原告は、小説「甲」を「X´」との筆名で執筆した著作者である。
 Aは、上記小説の翻案である漫画「甲THECOMIC」(以下「本件漫画」という。)の著作者であり、平成31年1月31日、別紙著作物目録記載の著作物(以下「対象著作物」という。)を創作した。
(2)「BitTorrent」(以下「本件ソフト」という。)は、いわゆるP2Pソフトであり、中央集権的なサーバを介さず、個々の使用者間で電子データを共有するために用いられるが、どのIPアドレスがどの電子データを共有しているかを誰でも容易に知ることができ、また、ある電子データをダウンロードした者は、自動的にピア(提供者)として登録されるため、原則として当該電子データをアップロードする役割も担うという特徴を有する。
(3)別紙発信端末目録記載の「発信時刻」欄に記載の日時(令和2年7月27日午後3時54分22秒)に「IPアドレス」欄記載のIPアドレスを利用していた者(以下「発信者」という。)は、同日時頃、本件ソフトを用いて、対象著作物を含む本件漫画5巻の複製物である電子データを公衆送信可能な状態に置き、他の不特定多数の本件ソフトの使用者からの要求に応じていつでも送信を行える状態を作出した。
 発信者は、これにより原告の送信可能化権を侵害し、発信者の侵害行為の違法性を阻却する事由はない。
(4)被告は、電気通信事業等を目的とする株式会社であり、プロバイダ責任制限法2条3号の特定電気通信役務提供者に該当する。被告は、前記(3)記載のIPアドレスを管理しており、本件発信者情報を保有している。
(5)原告は、発信者に対し、損害賠償等を請求すべく準備しており、かかる請求を行うには、本件発信者情報の開示を受けることが必要である。
(6)よって、特定電気通信による情報の流通によって自己の送信可能化権を侵害された原告は、開示関係役務提供者である被告に対し、プロバイダ責任制限法4条1項に基づき、本件発信者情報の開示を求める。
2 請求原因に対する認否
 請求原因(1)〜(3)は不知。同(4)は認める。同(5)は不知ないし争い、同(6)は争う。
第4 当裁判所の判断
1 証拠(甲1〜11、13)及び弁論の全趣旨を総合すると、請求原因(1)〜(3)の事実が認められる。これによれば、原告の送信可能化権が侵害されたことは明らかであり、かかる侵害行為の違法性を阻却する事由が存在することはうかがわれない。
2 請求原因(4)は、当事者間に争いがなく、被告は、プロバイダ責任制限法4条1項の開示関係役務提供者に当たると認められる。
3 弁論の全趣旨によると請求原因(5)の事実が認められるので、原告には、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があると認められる。
4 以上によれば、特定電気通信による情報の流通によって自己の送信可能化権を侵害された原告は、開示関係役務提供者である被告に対し、プロバイダ責任制限法4条1項に基づき、本件発信者情報の開示を求めることができる。
5 よって、原告の請求は理由があるから、これを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 佐藤達文
 裁判官 齊藤敦
 裁判官三井大有は、転補につき、署名押印することができない。
裁判長裁判官 佐藤達文
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