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【事件名】公園遊具“タコの滑り台”事件
【年月日】令和3年4月28日
 東京地裁 令和元年(ワ)第21993号 著作権侵害訴訟事件
 (口頭弁論終結日 令和3年2月12日)

判決
原告 前田環境美術株式会社
同訴訟代理人弁護士 鍛治明
同 酒井昌弘
被告 株式会社アンス
同訴訟代理人弁護士 大畑雅義


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 主位的請求
(1)被告は、原告に対し、216万円及びこれに対する平成27年2月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)被告は、原告に対し、216万円及びこれに対する平成24年4月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 予備的請求
 被告は、原告に対し、432万円及びこれに対する令和元年9月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
 本件は、原告が、被告に対し、原告が製作したタコの形状を模した別紙1原2告滑り台目録記載の滑り台が美術の著作物又は建築の著作物に該当し、被告がタコの形状を模した公園の遊具である滑り台2基を製作した行為が、いずれも、原告が有する同目録記載の滑り台に係る著作権(複製権又は翻案権)を侵害すると主張して、主位的に、著作権侵害の不法行為に基づき、著作権法114条2項により推定される損害額として1基当たり216万円の損害の賠償及びこれらに対する不法行為の日である各滑り台の製作が完成した平成27年2月12日及び平成24年4月17日から各支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を、予備的に、不当利得に基づき、上記損害の額の合計額に相当する432万円の利得金の返還及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和元年9月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者等
ア 原告
 原告は、モニュメント、彫像、修景施設、公園施設、遊園施設等に関するデザイン、企画、設計、製作、施工等及び公共土木施設に関する景観設計、施設製作、施工等を目的として設立された株式会社である(甲7)。
イ 被告
 被告は、公共空間の施設や公園施設(セメント系遊具等)の企画、設計、製作、施工、点検、修繕等を目的とする株式会社である。
ウ 原告及び被告の来歴
(ア)原告の前身は、昭和38年6月28日に設立された株式会社前田商事(以下「前田商事」という。)である。
 前田商事(当時の商号は前田屋外美術株式会社)は、平成14年10月21日、東京地方裁判所に民事再生を申し立てた。同社は、平成15年3月3日、同裁判所の許可を受けて、同社が有する「商号、設計図書その他同社が有する暖簾」を原告(当時の商号はアート・エンジィニアリング株式会社)に対して3000万円(税込み)で譲渡する内容の営業譲渡契約を締結した。(甲6、7)
(イ)被告代表者であるA(以下「A」という。)は、原告において勤務していた者であり、原告を退職後の平成22年5月10日に被告を設立した。
(2)タコの形状を模した滑り台について
ア 前田商事は、設立以降、遊具を製作して自治体に納入するなどしていたところ、昭和46年頃、タコの形状を模した遊具である滑り台(以下「タコの滑り台」という。)を製作して東京都足立区に納入し、同区内にある西新井公園に設置した。このタコの滑り台は、「タコの山」あるいは「タコの山1号」などと呼ばれている。(甲1、甲5、甲20、乙6)
 その後も、前田商事は、全国各地からタコの滑り台の発注を受け、これを製作して納入した(乙6)。
イ 前田商事が製作するタコの滑り台は、基本的に、上部にタコの頭部を模した部分を備えている、その中は空洞となっていて、当該部分の下部の踊り場から複数のタコの足が延びている、タコの足は、主にスライダー(滑り台のうち、利用者が滑り降りる部分をいう。)となっており、滑り台の利用者は、いずれかのスライダーを選んで滑り降りることができるといった構造を有している。なお、タコの足が階段をなしているものもある。
 同社が製作するタコの滑り台は、大きさや構造等から複数の種類に分類することができ、そのうちの「ミニタコ」と呼ばれる種類は、小型のものである。
(3)前田商事によるミニタコの製作等
 前田商事は、別紙1原告滑り台目録記載の形状を有するミニタコ(以下「本件原告滑り台」という。)を製作し、昭和52年、兵庫県赤穂市に納入した。その当時、タコの滑り台を製作していたのは、前田商事のみであった。
(4)被告によるタコの滑り台の製作
ア 東久留米市南町1丁目公園に設置されたタコの滑り台
 被告は、株式会社藤紋から、平成26年10月29日、「第2642号東久留米南町一丁目公園整備工事」として、「タコの遊具」1基の製作を目的とする工事を請け負い、これに基づき、別紙2被告滑り台目録記載1の形状を有するタコの滑り台(以下「本件被告滑り台1」という。)を製作した(乙1、2)。本件被告滑り台1は、平成27年2月12日に完成して、東京都都市整備局に納入され、同年3月13日付けで東京都東久留米市所在の東久留米市南町1丁目公園に設置された。
イ 足立区上沼田東公園に設置されたタコの滑り台
 被告は、青木あすなろ建設株式会社から、平成23年11月8日、「江北給水所(仮称)から足立区西新井七丁目地先間配水本管(800mm)新設工事」の下請負工事として、「滑り台(たこ)」1基の製作を目的とする工事を請け負い、これに基づき、別紙2被告滑り台目録記載2の形状を有するタコの滑り台(以下「本件被告滑り台2」といい、本件被告滑り台1と合わせて「本件各被告滑り台」と総称する。)を製作した(乙3、4)。本件被告滑り台2は、遅くとも平成24年4月17日までに完成して、足立区に納入され、同日付けで足立区所在の足立区上沼田東公園に設置された。
(5)原告、被告間の別件訴訟
 原告は、平成23年12月29日、本件被告滑り台2の発注に関する情報が「営業秘密」(不正競争防止法2条6項)に該当し、この情報を被告に開示する行為は不正競争防止法所定の不正競争に当たるなどとして、被告ほか55名に対し、同法等に基づき損害賠償を請求する訴えを東京地方裁判所に提起した(乙9の1、9の2。平成23年(ワ)第41996号。以下「前訴」という。)。
3 争点
(1)不法行為に基づく損害賠償請求権の存否(争点1)
ア 本件原告滑り台が美術の著作物に該当するか(争点1−1)
イ 本件原告滑り台が建築の著作物に該当するか(争点1−2)
ウ 原告が本件原告滑り台の著作権を取得したか(争点1−3)
エ 被告による著作権侵害行為の有無(争点1−4)
オ 被告の故意又は過失の有無(争点1−5)
カ 損害の発生及び額(争点1−6)
キ 消滅時効の成否(損害1−7)
(2)不当利得返還請求権の存否(争点2)
ア 損失及び利得の発生並びに因果関係の有無(争点2−1)
イ 法律上の原因の有無(争点2−2)
4 争点に関する当事者の主張
(1)争点1(不法行為に基づく損害賠償請求権の存否)について
ア 争点1−1(本件原告滑り台が美術の著作物に該当するか)について
(原告の主張)
(ア)本件原告滑り台は製作者の思想又は感情が創作的に表現された彫刻作品であること
a 前田商事のタコの滑り台が創作された経緯及び創作意図
 前田商事のタコの滑り台は、前田商事に勤務していた彫刻家であり、「石の山」と呼ばれる抽象的かつ質感のある形態の遊具を製作していたB(以下「B」という。)が、遊具の発注者である東京都足立区の担当者の提案を踏まえ、「石の山」にタコの頭部を模した部分を付加して完成させたモニュメント彫刻である。
 そして、本件原告滑り台は、抽象形態の中に、空洞部等の神秘的な空間を設け、さらに頭部を付加して、抽象性と具体性を内包した彫刻として、子どもたちに形の美しさ、不思議さ、楽しさ等を体感してもらうために創作されたものであって、Bが、彫刻家としての思想、感情を創作的に表現したものである。
b 本件原告滑り台の形状
(a)全体の形状
 本件原告滑り台は、頭部と胴体部分からなり、正面から見ると、全体として三角形状の安定した形状をなしており、見る者をして、山容のような量感と質感を感得させるものである。
 また、胴体部分は、左右と正面に、利用者が滑り降りるためのスライダーを3本備えており、これらは、タコの足を模している。
(b)空洞部
 本件原告滑り台は、胴体部分の左右に、通り抜けができる円形の空洞を設けている。これにより、本件原告滑り台が有する実体との対比において、絶妙な虚の世界ないし神秘的な空間を醸し出している。さらに、左右の空洞は、頭部の空洞とトライアングルをなしており、バランスのとれた虚の空間を生み出している。
 本件原告滑り台は、このような構成を採ることによって、「実」を知るには「虚」が必要であるということを示しており、優れた抽象性を有する彫刻であるといえる。
(c)頭部
 本件原告滑り台の頭部は、生命体としてのタコの頭部を模している。
 頭部には、後部に向かって若干の傾きを持たせており、側面から見ると、正面のスライダーの形作るスロープから連続して流れるように後方に向かって天を衝くような形となって、頭部と背面部により「く」の字を形作っている。そのため、全体として、ある種の緊張感を与えている。
(d)スライダー(タコの足)
 本件原告滑り台の左右に存在するスライダーを正面から見ると、スロープの曲線は山の稜線のようになだらかに滑り台の下部(裾野)につながっている。これにより、普通の滑り台が直線的な構成をしていることに比べると、柔らかで包容力のある形態を提示している。また、この左右のスライダーは水平方向に力を逃しているので、空間的な広がりを感じさせるものになっている。
(e)構造的な特徴
 本件原告滑り台は、鉄筋を張り巡らせ、そこにモルタルを肉付けし、仕上げをして製作する。鉄筋を張り巡らせるとき、職人は、製作図に基づき、滑り台を空間上に思い描いて、造形するものであるから、一般的な技能を有するものであれば誰でも製作できるというものではなく、その造形には、職人の芸術的なセンスが不可欠である。
c 小括
 このように、本件原告滑り台の製作の経緯や意図、形状に照らすと、本件原告滑り台は、製作者であるBの彫刻家としての思想又は感情を創作的に表現した彫刻作品といえるから、「美術の著作物」に当たる。
(イ)本件原告滑り台は「美術の著作物」に該当すること
a 本件原告滑り台が応用美術に属するものであるとしても、一品製作品というべきものであり、「美術工芸品」(著作権法2条2項)に当たるから、「美術の著作物」(同法10条1項4号)に含まれる。
b 本件原告滑り台が「美術工芸品」に当たらないとしても、「美術工芸品」以外の応用美術が「美術の著作物」に該当するか否かの判断基準として、「美的」という観点から高い創作性を必要とすると解するのは相当ではなく、個別具体的に、作成者の個性が発揮されているか否かを基準として判断するべきである。
 本件原告滑り台の実用目的は、滑り台としての機能の実現にあるところ、滑り台の機能は、高い所から滑り降りることによって、子どもなどの利用者にスピードを感じさせる点にあるから、高所に上がるためのスロープや階段と、滑り降りるためのスライダーがあれば、安全性に配慮されている限り、その機能を果たすことができる。したがって、本件原告滑り台の表現の選択の幅は、上記の機能の部分において限定されることにはなるものの、このような機能を果たすことができる滑り台の形態には多種多様のものが存在するから、その表現の選択の幅は広いというべきである。
 そして、本件原告滑り台は、前記(ア)bの形状や特徴を有するものであるところ、これらは、滑り台の機能から必然的に創作できるものではなく、滑り台の機能とは独立して存在するものである。
 なお、前田商事のタコの滑り台は、日本全国に設置されたほか、コペンハーゲン市の公園にも設置された。また、タコの滑り台を芸術作品と評価する写真詩集が存在する。このことは、一定の美術感覚を有する一般人により、前田商事のタコの滑り台の創作性、造形美が評価されたことを裏付けている。
 以上からすれば、本件原告滑り台は、製作者であるBの個性が発揮されたものであって、創作性を有するといえるから、「美術の著作物」に該当する。
c 仮に、純粋美術と同視できるかどうかという基準により、応用美術が「美術の著作物」に該当するかどうかを判断すべきであるとしても、前記(ア)bや前記bで主張したような本件原告滑り台の形状、特徴等に照らすと、本件原告滑り台の創作性の程度は非常に高いから、純粋美術と同視し得る程度の美的創作性を具備していると評価されるので、やはり「美術の著作物」に該当する。
(ウ)被告の主張に理由がないこと
 被告は、本件原告滑り台の実用目的ないし機能を「多様な遊び方ができること」などと捉えているが、本件原告滑り台の著作物性を検討するに当たっては、遊具一般が有する抽象的な機能ではなく、遊具のうちの滑り台が有する機能を前提に表現の選択の幅を検討するべきである。
 また、被告は、経年劣化したタコの滑り台が安全基準に沿って改修ないし撤去されるものであることを根拠として、本件原告滑り台の著作物性を否定する。しかしながら、彫刻や建築物は当然に改修され得るものであるし、著作物が解体されてもそのことによって著作権が消滅するものではないから、その点は、本件原告滑り台の著作物性を否定する根拠にはならない。
 さらに、被告は、タコの滑り台の中には住民の塗装デザイン公募によって色彩が大幅に変更されているものがあるという事情を指摘して、本件原告滑り台の著作物性を否定する。しかしながら、原告は、本件原告滑り台の色彩を著作物性を基礎づける事情として挙げていないから、被告が指摘する上記の事情は、本件原告滑り台の著作物性を否定する根拠とはならない。
 このように、被告の主張はいずれも失当であって理由がない。
(エ)小括
 したがって、本件原告滑り台は、「美術の著作物」に該当するものとして、著作物性を有する。
(被告の主張)
(ア)本件原告滑り台は「美術の著作物」に該当しないこと本件原告滑り台は、飽くまでも遊具として設計、施工され、子どもなどの利用者が多様な遊び方ができるように考案されたものであるから、いわゆる応用美術の範疇に属するものである。
 このような応用美術は、実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となるだけの美術性を有するに至っている場合、すなわち、一定の美的感覚を備えた一般人を基準に、純粋美術と同視し得る程度の美的創作性を具備していると評価される場合に限り、「美術の著作物」としての保護の対象となると解すべきである。
 本件原告滑り台は、遊具として、子どもなどの利用者が身体を動かして遊ぶために製作されたものであるから、その目的は、親しみやすさと、タコの頭部を模した箇所に隠れて遊んだり、多人数が同時に滑り降りることができたり、異なるスロープから滑り降りることができたりするなど、利用者が様々な遊び方で楽しむことができるという機能性にある。加えて、形状や色彩を多様なものとすることで、利用者の創造性を豊かにすることもまた、本件原告滑り台の滑り台としての機能に含まれるといえる。本件原告滑り台がこのように多様な実用的目的ないし機能を果たすためには、単に、高所に上がるためのスロープないし階段と滑り降りるためのスライダーさえあれば足りるというわけではなく、頭部や胴体部分に存在する空洞、左右及び正面に存在するスライダー及び背面からも頭部に上ることができる構造など、本件原告滑り台を構成する構造の全体が必要とされる。
 そうすると、本件原告滑り台の利用者は、本件原告滑り台の全体を、実用目的で製作されたものと受け取るものというべきであり、そのため、本件原告滑り台において、機能とは別に独立して美的鑑賞の対象となる構造部分は認め難い。
 仮に、滑り台の機能について、高いところから滑降することで利用者にスピード感を与えることを目的とする遊具であると限定的に捉え、スロープないし階段とスライダーさえあれば滑り台の機能を果たすことができると解しても、それ以外の本件原告滑り台の特徴、具体的には、全体として山容のように質感のある実体を提示していること、頭部のフォルム、空洞がトライアングルを形成していること及びスロープの形状は、本件原告滑り台の利用者に親しみやすさを与えることこそあれ、これをもって純粋美術と同視し得る程度の美的創作性があると評価することはできないというべきある。
 なお、タコの滑り台はこれまでに全国で数多く製作されたが、その中には、経年劣化で解体されたものや、安全確保のために改修されたものも多い。また、タコの滑り台の塗装デザインが住民から公募され、色彩が大幅に変更されたものも存在する。仮に、タコの滑り台に純粋美術と5同視し得る程度の美的創作性があると一般的に評価されているのであれば、単に経年劣化や安全確保を理由として解体、改修されたり、特徴的な色彩について自由に変更されたりすることは認められないはずである。したがって、これらの事実は、一般人が、タコの滑り台について、美的鑑賞対象として評価するよりも、遊具としての機能を評価していることを示すものといえる。
(イ)原告の主張に理由がないこと
 これに対し、原告は、本件原告滑り台を製作したBの意図やタコの滑り台を取り上げた写真詩集等に関して種々主張する。
 しかしながら、Bの製作意図といったものは、製作者の主観にすぎないし、一定の美的感覚を有する一般人を基準とすると、本件原告滑り台の外観から、原告が主張するような製作意図を読み取ることは困難であるといえる。
 また、タコの滑り台を題材にした写真詩集が存在するとしても、それは、一人の写真家の創作対象としてタコの滑り台が取り上げられたということにすぎず、一般人を基準とした場合に純粋美術と同視し得る程度の美的創作性があることの根拠にはならない。
(ウ)小括
 したがって、本件原告滑り台は、「美術の著作物」に該当せず、著作物性を有しない。
イ 争点1−2(本件原告滑り台が建築の著作物に該当するか)について
(原告の主張)
 本件原告滑り台は、著作権法が規定する「建築の著作物」(著作権法10条1項5号)に当たるというべきである。
 そして、本件原告滑り台のような彫刻としての性質を有する遊具の著作物性については、客観的、外形的に見て、それが滑り台において通常加味される程度の美的創作性を上回り、滑り台としての実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となり、彫刻家・設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感得せしめるような造形芸術としての美術性を備えているか否かという基準により、判断すべきである。
 前記ア(原告の主張)のとおり、本件原告滑り台は、滑り台の機能とは独立した形態的特徴を有しており、通常、滑り台に施される美的創作性と比べて、はるかに美的創作性の程度が高い。したがって、本件原告滑り台それ自体がモニュメント彫刻として美的鑑賞の対象となり、設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感得せしめるような造形美術としての美術性を備えている。
 このことは、コペンハーゲン市の公園において前田商事のタコの滑り台が展示されたこと、前記ア(原告の主張)(イ)bのとおり、タコの滑り台を芸術作品と評価する内容の写真詩集が出版されていることなどによっても、裏付けられるといえる。
 したがって、本件原告滑り台は、「建築の著作物」に該当するものとして、著作物性を有する。
(被告の主張)
 本件原告滑り台が「建築の著作物」に該当することは争う。
 原告が主張する判断枠組みを前提にしても、前記ア(被告の主張)のとおり、本件原告滑り台の機能ないし特徴は、多人数が同時に遊べ、スライダーを複数有しており、頭部に隠れて遊ぶことができる空間があるといった点にあり、本件原告滑り台は、こうした遊具としての実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となり得るとは考えられないし、設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感得せしめるような造形芸術としての美術性を備えたものとはいえない。
 したがって、本件原告滑り台は、「建築の著作物」に該当せず、著作物性を有しない。
ウ 争点1−3(原告が本件原告滑り台の著作権を取得したか)について
(原告の主張)
 前田商事は、彫刻性のある遊具を自治体に納入するとの意思決定に基づき、当時の従業員であるBの手により、抽象形態と具体的な頭部を組み合わせ、タコの滑り台を完成させた。
 これと同様に、本件原告滑り台は、前田商事の発意に基づき、同社の業務に従事する者が、職務上、製作したものである。
 そして、その当時、タコの滑り台を納入していたのは前田商事のみであったから、同社は、本件原告滑り台を建設して公園に設置することにより、本件原告滑り台をその著作の名義の下に公表したといえる。
 したがって、本件原告滑り台は職務著作に該当するので、使用者である前田商事は、著作者として本件原告滑り台の著作権を取得した。
 その後、原告は、前田商事から、同社の民事再生手続において、上記著作権を含む一切の権利を譲り受けたものであるから、本件原告滑り台の著作権を保有する。
(被告の主張)
 前田商事が、その発意により本件原告滑り台を完成させたとの事実は否認する。
 すなわち、前田商事は、本件原告滑り台を製作する以前から、「石の山」と呼ばれる滑り台の製作を行っていた。「タコの山1号」などと呼ばれる遊具を東京都足立区に納入した際にも、当初は「石の山」の遊具の製作を依頼されていたが、足立区の担当者から、滑り台にタコの頭部に似せた部分を乗せることを提案されたことを受けて、Bらにタコの滑り台を製作させたものである。したがって、本件原告滑り台は、同社の発意により製作されたものではない。
 また、本件原告滑り台は、「公表」はされているが、建設及び設置に法人名等の著作名義が示されていない。
 そうすると、本件原告滑り台は職務著作には当たらず、前田商事はその著作者ではないから、前田商事から本件原告滑り台の著作権を承継取得したとされる原告は同権利を保有していない。
エ 争点1−4(被告による著作権侵害行為の有無)
(原告の主張)
(ア)複製権侵害又は翻案権侵害
a 依拠
 被告代表者であるAは、かつて原告に勤務しており、タコの形状を模した滑り台の形状を熟知していた。また、原告では、平成20年頃から、タコの滑り台の図面をCAD化して管理しており、原告の従業員はCAD化された電子データを容易にコピーできる状況にあり、Aにおいても、タコの滑り台の図面を自由に閲覧したりコピーしたりすることができた。加えて、原告では、工事の発注情報は秘密情報として管理されていなかった。そうすると、被告は、タコの滑り台の形状や図面を認識し、接することができた。
 さらに、本件原告滑り台の形状と本件各被告滑り台の形状は酷似しており、そのこと自体、被告が本件原告滑り台に依拠して本件各被告滑り台を製作したことを推認させる。
 以上によれば、本件各被告滑り台は、本件原告滑り台に依拠して製作されたものである。
b 本件被告滑り台1に係る複製行為又は翻案行為
(a)本件原告滑り台と本件被告滑り台1を比較すると、以下のとおり、両者の形状には共通する点がある。
 すなわち、まず、正面から見た形状の対比をすると、頭部を設けるとともに、正面と左右にスライダーを備えている点、左右のスライダーが、山容を想起させるように質感を有し、なだらかに地面に続いている点、正面から見た頭部の形状及び頭部に空洞を設けてトンネルとしている点、頭部の空洞に加え、左右のスライダーの下部に空洞を設け、これら三つの空洞部分はトライアングルをなして抽象的なフォルムを形成している点において共通する。
 次に、右側面から見た形状の対比をすると、頭部において、正面のスライダーが描くスロープから後方に向かって天を衝くように傾斜している点、頭部右側面に二つの空洞を設けており、この二つの空洞から、二つのスライダーが設けられ、地面とつながっている点が共通する。同様に左側面から見た形状の対比をすると、頭部が後方に天を衝くように傾斜して、緊張感のある形状をなしている点や、頭部からスライダーが一つ設けられ、地面につながっている点が共通する。
 背面から見た形状の対比をすると、頭部の形状及び頭部に空洞部を設けている点、左右のスライダー部が山のように地面につながっている点、左側の空洞の形状の点が共通する。
(b)これに対し、本件原告滑り台と本件被告滑り台1を比較すると、以下の相違点がある。
 すなわち、スライダーが地面につながる形状に関しては、本件原告滑り台においては、どっしりと地面につながっている一方、本件被告滑り台1は、スライダーが投げやりに浮くように地面につながっているほか、正面のスライダーが地面と接する箇所で湾曲しているという点で相違している。加えて、本件被告滑り台1の右側面の一方のスライダーが階段をなしているという点も相違している。
 また、背面から見て右の空洞に関しては、本件原告滑り台では、スライダー部に空洞が開いており、より自由なフォルムを形成している一方、本件被告滑り台1は、背面に通り抜ける形になっているという点が相違している。
 さらに、背面を上るための金具が備え付けられているか、金具の代わりに登頂用のグリップが備え付けられているかという点においても相違している。
(c)前記ア(原告の主張)(ア)b及び前記(a)のとおり、本件被告滑り台1は、特にタコの頭部とスライダーの描く曲線に関する点において、本件原告滑り台の表現上の本質的な特徴の同一性を維持している。したがって、本件原告滑り台の美術的特徴は、本件被告滑り台1においても直接感得することができる。
 その一方、本件原告滑り台と本件被告滑り台1との間には、前記(b)のような相違点がみられるが、本件被告滑り台1は、本件原告滑り台と比較して、滑り台が描く曲線の抽象形態としての美術性を損なうものであるなど、前記(b)の相違点に係る形状の変更行為は、いずれも新たな創作性を加えるものとは認め難いから、本件被告滑り台1において本件原告滑り台から変更された部分は、創作的表現とはいえない。したがって、被告が本件被告滑り台1を製作する行為は、本件原告滑り台に関する原告の複製権を侵害する。
 なお、仮に前記(b)の相違点に関して本件被告滑り台1に創作性が認められるとしても、原告の翻案権を侵害するものである。
c 本件被告滑り台2に係る複製行為又は翻案行為
 本件原告滑り台と本件被告滑り台2を比較すると、前記b(a)とおおむね同様の共通点が存在する。
 他方、本件原告滑り台と本件被告滑り台2を比較すると、本件被告滑り台2の右側面の一方のスライダーが階段をなしている点が相違するほか、背面から見て右の空洞に関しては、本件原告滑り台では、スライダー部に空洞が開いており、より自由なフォルムを形成している一方、本件被告滑り台2は、背面に通り抜ける形になっているという点も相違している。しかしながら、前記b(c)と同様の理由により、本件被告滑り台2と本件原告滑り台の相違点にはいずれも創作性が認められない。
 そうすると、本件被告滑り台2は、本件原告滑り台の前記b(a)の表現上の本質的な特徴の同一性を維持し、本件原告滑り台の表現上の本質的な特徴を直接感得させるものであるといえる。
 したがって、本件被告滑り台2は、本件原告滑り台に係る原告の複製権を侵害するものであり、仮に上記の創作性が肯定されるとしても、原告の翻案権を侵害するものである。
(イ)侵害主体
 著作権の侵害主体は、著作権の侵害行為を実際に行った者であり、本件についていえば、実際に、本件各被告滑り台の承認図(発注者である自治体の承認を得るための図面であり、実際に製作を行うための過程が記載されている。)を作成し、滑り台を製作した被告が、侵害主体となるというべきである。
 この点について、被告は、自治体が公園整備事業を発注する際に作成される設計図書には遊具の図面が添付されており、被告においては、既に内容が定まっている当該設計図書中の遊具の図面に基づいて本件各滑り台を製作するのであるから、被告にはいかなる遊具を設置するかを判断する裁量はないので、侵害主体は公園整備を発注する自治体であって、被告ではないと主張する。
 しかしながら、自治体が上記設計図書に添付される遊具の図面を作成するに当たっては、現実的には、遊具の製作を請け負う業者(製作業者)から遊具の図面の提供を受けるなどの協力を受けることが欠かせないから、被告においても、本件各被告滑り台の図面の作成に関与するという枢要な役割を果たしたものと考えられる。加えて、上記のとおり、遊具の製作業者は、自治体に遊具の承認図を提出し、その承認を受けて遊具を製作するところ、承認図の提出に際して、自治体の設計図書に添付された遊具の図面に修正を加える場合があるから、遊具の制作業者が、同図面とは異なる内容の遊具を製作することがあり得る。
 以上によれば、被告の主張は前提を誤るものであり、侵害主体が被告であることを否定する事情にはならないというべきである。
(被告の主張)
(ア)複製権侵害又は翻案権侵害
a 依拠
 Aが原告において勤務していた際に、タコの滑り台の設計図を閲覧してコピーをとったり、それを被告のミニタコの設計製作に利用したりしたことはない。
 また、Aはタコの滑り台の形状を熟知していたところ、熟練した技術者であれば、タコの滑り台の形状・美観について認識している限り、図面を複写して利用しなくとも、新たにタコの滑り台の図面を書き起こすことは十分可能である。
b 複製行為又は翻案行為
(a)本件被告滑り台1
 本件原告滑り台と本件被告滑り台1との間には、形状について以下のとおりの相違点がある。
 まず、正面において、中央のスライダーが、本件原告滑り台では直線状に流れているのに対し、本件被告滑り台では地面の近くで大きく左方向に流れており、また、本件原告滑り台ではスライダーが3本見えるのに対し、本件被告滑り台1では2本しか見えない。
 次に、右側面において、本件原告滑り台では直線状のスライダーを有するのみであるが、本件被告滑り台1ではスライダーが大きく前方に向かってカーブを描いて流れているほか、頭部に上がる階段を備えている。
 そして、左側面において、本件原告滑り台のスライダーが途中からカーブを描いて前方に流れているのに対し、本件被告滑り台1では、スライダーが途中からカーブを描いて後方に流れており、そのため、正面から見えるスライダーの本数に上記のような相違が生じている。
 さらに、背面において、頭部に上がるホールドとして、本件原告滑り台では取っ手になる金具が用いられているのに対し、本件被告滑り台1ではクライミングホールドと呼ばれるコンクリート製の突起が用いられている。また、上記のとおり左側面のスロープの形状が相違することによって、背面から見た形状の印象は、両者で相当に異なっている。加えて、頭部の下の胴体部分に位置する空洞は、背面から見ると、本件原告滑り台では左側に1か所が見えるのみであるのに対し、本件被告滑り台1では正面に向かって2か所見える。
(b)本件被告滑り台2
 本件原告滑り台と本件被告滑り台2との間には、形状について以下のとおりの相違点がある。
 まず、正面において、本件被告滑り台2では、本件原告滑り台と異なり、スロープの先端にマットが設置されているほか、頭部の下の胴体部分に位置する左右の空洞がいずれも明瞭に見える。
 次に、右側面において、本件原告滑り台は直線状のスライダーを有するのみであるが、本件被告滑り台2は、本件被告滑り台1と同様にスライダーが大きく前方に向かってカーブを描いて流れていることに加えて、頭部に上がるための階段を備えている。
 そして、左側面において、本件原告滑り台ではスライダーが地面に向かって直線状の滑り面をなすのに対し、本件被告滑り台2では地面に近づくにつれてスライダーの傾きが緩やかになっている。
 さらに、背面において、本件原告滑り台では頭部の下胴体部部分に位置する空洞が左側にしか見えないが、本件被告滑り台2では、本件被告滑り台1と同様に、左右とも明瞭に見える。
(c)被告の行為が複製又は翻案に当たらないこと
 前記(a)及び(b)のとおり、本件原告滑り台と本件各被告滑り台の形状には相違点が存在するため、これらの滑り台を見た者に与える印象に差異をもたらしている。
 また、本件原告滑り台の本質的な特徴は、表現面においてではなく、遊具として、利用者である子どもたちが親しみやすい形状や、頭部に隠れたり、多人数が同時に滑り降りることができたり、異なるスロープを使って滑り降りて遊ぶことができるという機能面にある。
 そうすると、本件原告滑り台と本件各被告滑り台の表現上の本質的特徴が同一であるとはいえず、本件各被告滑り台から本件原告滑り台の表現上の本質的な特徴を直接感得できるとは認められない。
 したがって、被告による本件各被告滑り台の製作は、本件原告滑り台の複製又は翻案に当たらないというべきである。
(イ)侵害主体
a 本件は、公共工事であるから、工事主体である自治体が、公園に設置すべき遊具を選定し、そのデザイン、図面の作成、工事の完成まで、全てに責任を持ち、公園の整備事業を請け負わせた株式会社藤紋及び青木あすなろ建設株式会社や両社から本件各被告滑り台の製作を委託された被告を監督する立場にある。被告は、株式会社藤紋及び青木あすなろ建設株式会社から委託されて本件各被告滑り台を製作したものであるが、それらの図面は、自治体が公園の整備事業を両社に発注する段階で既に確定しており、被告は、両社から提供された図面に従って本件各被告滑り台を製作したにすぎず、被告には、遊具の採否等に関する裁量の余地はなかった。
 したがって、本件各被告滑り台の製作等が仮に原告の著作権を侵害するとしても、その侵害の主体は、自治体であって、被告ではないと評価すべきである。
b これに対し、原告は、承認図の作成には遊具の製作業者である被告が関与していることを指摘して、飽くまでも侵害主体は被告であると主張する。
 しかしながら、前記aのとおり、被告は、承認図を作成したり、実際にミニタコを製作したりする際に、自治体の監督下に置かれるのであるから、被告が承認図の作成に関与していたとしても、侵害主体とは認められない。
オ 争点1−5(被告の故意又は過失の有無)について
(原告の主張)
 被告は、原告に著作権があることを認識して、又は著作権の所在に関して調査すべきところをそれもせずに、本件原告滑り台を複製又は翻案したものであるから、被告には原告の著作権侵害に関して故意又は過失が認められる。
(被告の主張)
 事実は否認し、故意又は過失が認められるとの評価は争う。
カ 争点1−6(損害の発生及び額)について
(原告の主張)
 被告は、本件被告滑り台1を製作し、東京都都市整備局に納入したところ、これに関する受注額は、原告の当時の見積額よりも約10パーセント低い540万円であると推定される。そして、被告は、原告の設計図を利用して、本件被告滑り台1を製作して納入しているのであるから、その限界利益は40パーセントを下らない。したがって、著作権侵害により被告が受けた利益の額は216万円となり、同額が、著作権法114条2項により、原告が受けた損害の額と推定される。
 また、被告は本件被告滑り台2を製作し、足立区に納入したところ、本件被告滑り台2は、本件被告滑り台1と同一のタイプのものであるから、これに関する受注額も540万円であると推定される。また、その限界利益は、本件被告滑り台1と同様の理由から、40パーセントを下らない。したがって、著作権侵害により被告が受けた利益の額は216万円となり、同額が、著作権法114条2項により、原告が受けた損害の額と推定される。
(被告の主張)
 否認ないし争う。
 被告の受注額は、本件被告滑り台1については代金378万円(税込み)、本件被告滑り台2については代金283万5000円(税込み)であって、いずれも原告が主張する額よりもはるかに低い。
キ 争点1−7(消滅時効の成否)について
(被告の主張)
 原告は、前訴において、本件被告滑り台2の発注情報は原告の営業秘密に当たり、Aは、原告在職中に上記情報を知って、原告を退職した後に被告に開示したものであるから、当該行為は不正競争に該当すると主張した。
 そうすると、原告は、遅くとも前訴を提起した平成23年12月29日の時点において、被告が本件被告滑り台2を製作したことを知っており、著作権侵害の法的評価の基礎となる事実は認識していたというべきである。しかも、原告は、前訴の提起に先立つ平成22年5月21日、室内遊具である東雲児童・高齢者総合施設モニュメントについて、著作権登録申請書を作成して提出しているから、著作権制度に係る知識を有していた。
 以上によれば、本件被告滑り台2の製作等を著作権侵害であると主張する原告の損害賠償請求権の消滅時効の起算日は、上記の平成23年12月29日であると認められる。
 したがって、同日から3年を経過した平成26年12月29日の満了をもって、上記損害賠償請求権の消滅時効が完成したものであり、被告は、この消滅時効を援用する。
(原告の主張)
 原告は、前訴において、営業秘密を争点としたものであって、著作権に関する主張は一切しておらず、本件原告滑り台の著作権の存在を認識していなかった。仮に認識していれば、前訴においても著作権侵害を主張していたはずである。
 そうすると、原告は、前訴の時点では、本件原告滑り台の著作権侵害による損害の発生を認識することはできなかったのであるから、前訴の提起の時点をもって、著作権の侵害による「損害」「を知った時」(民法724条前段)とは認められない。
 原告は、ある会社の展覧会用小冊子に掲載したタコの滑り台の写真に関して、被告が平成31年3月に当該会社にクレームをした時点において、本件原告滑り台の著作権を初めて認識したものである。そうすると、本件各被告滑り台の製作による「損害を知った時」は、同月である。
(2)争点2(不当利得返還請求権の存否)について
ア 争点2−1(損失及び利得の発生並びに因果関係の有無)について
(原告の主張)
 前記(1)ア(原告の主張)のとおり、本件原告滑り台は美術の著作物又は建築の著作物に該当する。しかるに、被告は、本件各被告滑り台を製作して東京都都市整備局又は足立区に納入し、合計432万円の利益を受けた。そして、原告は、仮に被告がこれらの侵害行為に及んでいなければ、上記のタコの滑り台の製作を受注し、同額の利益を受けることができたものである。
 なお、被告は、原告が平成22年ないし平成23年頃に建設業の許可を喪失したことを原告の損失と被告の利得との因果関係を否定する事情として主張するが、そのことと、タコの滑り台を納入するメーカーとしての活動とは何ら関係はない。現に平成23年に原告がコペンハーゲン市にタコの滑り台を展示したことからも明らかなとおり、原告にはタコの滑り台を製作する人的体制は存在した。近時においても、原告は、実際に事業を行い、製品を納入している。したがって、被告の上記主張は、前提を誤るものであって、因果関係を否定する根拠とはならない。
 また、被告は、被告が本件各被告滑り台の製作を請け負った時期と、原告が株式会社グリム及び青木あすなろ建設株式会社に見積書を提出した時期を根拠として因果関係の存在を争うが、被告が原告の著作権を侵害しない限り、原告がタコの滑り台の製作を受注することができたはずであるから、因果関係を否定する事情とはならない。
 このように、被告には合計432万円の利得が、原告には同額の損失が発生し、当該損失と利得との間には因果関係があると認められる。
(被告の主張)
(ア)被告が本件各被告滑り台を製作する行為は、原告の著作権を侵害しない。
 したがって、原告の損失及び被告の利得は存在しない。
(イ)加えて、以下の事情によれば、原告の損失と被告の利得との間には因果関係が認められない。
a 原告は、平成22年ないし平成23年頃に建設業の許可を喪失し、従業員を解雇していたので、当時、公園工事の元請建設会社からタコの滑り台を受注できる人的体制は存在しなかった。
b また、本件被告滑り台1に関して、原告は、平成26年10月21日に、株式会社グリムに見積書(甲19)を提出している。しかしながら、被告が株式会社藤紋から本件被告滑り台1の製作を請け負ったのは同月29日であり、同社はそれより以前に東京都都市整備局から東久留米市南町1丁目公園の整備工事の施工を受注していたのであるから、同月21日の時点で、同工事と何ら関連のない株式会社グリムに対してタコの滑り台の見積書を提出しても、原告がその製作を受注するに至る余地はない。しかも、同年8月26日の時点で、本件被告滑り台1を含む同公園の工事内容の詳細は既に決定していた。したがって、原告が上記の見積書を株式会社グリムに提出した時点では、原告が東久留米市南町1丁目公園のタコの滑り台の施工を受注する余地はなかったし、原告は受注することができる体制にもなかった。
c さらに、本件被告滑り台2に関して、原告は、平成23年11月11日、青木あすなろ建設株式会社に見積書を提出したが、被告は、同月8日の時点で、青木あすなろ建設株式会社との間で既に本件被告滑り台2の製作の請負契約を締結していたから、原告が提出した上記見積書が採用される余地はなかった。
 また、公園整備工事の着工を急ぐ青木あすなろ建設株式会社が原告に見積書の提出を催促したにもかかわらず、原告は、その意向に応じることができず、見積書を提出しなかったため、青木あすなろ建設株式会社が、やむを得ず、平成23年5月頃、被告に対してタコの滑り台の製作を発注することを前提に見積書の提出を依頼してきたのである。このような事情からすると、原告には、上沼田東公園のタコの滑り台の製作を受注する体制があったとは認め難い。
d したがって、原告の損失と被告の利得との間には、因果関係は認められない。
イ 争点2−2(法律上の原因の有無)について
(原告の主張)
 被告が本件各被告滑り台の製作、納入により受けた利得は、いずれも、原告の著作権を侵害することにより生じたものであるから、法律上の原因に基づかないものである。
(被告の主張)
 被告が本件各被告滑り台を製作する行為は、原告の著作権を侵害しないので、被告が本件各被告滑り台の製作、納入により受けた利益が法律上の原因に基づかないものとは認められない。
第3 当裁判所の判断
1争点1(損害賠償請求権の存否)について
(1)争点1−1(本件原告滑り台が美術の著作物に該当するか)について
ア 前記前提事実(2)及び(3)によれば、本件原告滑り台は、自治体(兵庫県赤穂市)から公園に設置する遊具の発注を受けて、小型のタコの滑り台として製作されたものであり、その形状は、別紙1原告滑り台目録記載のとおり、上部にタコの頭部を模した部分を備え、正面に1本、右側面に2本、左側面に1本の計4本のタコの足を有するというものである。そして、これらのタコの足は、いずれも、子どもたちなどの利用者が滑り降りることができるスライダーとなっており、また、利用者がスライダーの上部に昇るための取っ手が取り付けられているなど、遊具である滑り台として通常有する構造を備えている。そうすると、本件原告滑り台は、利用者が滑り台として遊ぶなど、公園に設置され、遊具として用いられることを前提に製作されたものであると認められる。したがって、本件原告滑り台は、一般的な芸術作品等と同様の展示等を目的とするものではなく、遊具としての実用に供されることを目的とするものであるというべきである。
 そして、実用に供され、あるいは産業上利用されることが予定されている美的創作物(いわゆる応用美術)が、著作権法2条1項1号の「美術」「の範囲に属するもの」として著作物性を有するかについては、同法上、「美術工芸品」が「美術の著作物」に含まれることは明らかであるものの(著作権法2条2項)、それ以外の応用美術に関しては、明文の規定が存在しない。
 この点については、応用美術と同様に実用に供されるという性質を有する印刷用書体に関し、それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えることを要件の一つとして挙げた上で、同法2条1項1号の著作物に該当し得るとした最高裁判決(最高裁平成10年(受)第332号同12年9月7日第一小法廷判決・民集54巻7号2481頁)の判示に照らし、同条2項は、単なる例示規定と解すべきである。
 さらに、上記の最高裁判決の判示に加え、同判決が、実用的機能の観点から見た美しさがあれば足りるとすると、文化の発展に寄与しようとする著作権法の目的に反することになる旨説示していることに照らせば、応用美術のうち、「美術工芸品」以外のものであっても、実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して、美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている部分を把握できるものについては、「美術」「の範囲に属するもの」(同法2条1項1号)である「美術の著作物」(同法10条1項4号)として、保護され得ると解するのが相当である。
 以上を前提に、本件原告滑り台が「美術の著作物」として保護される応用美術に該当するかを検討する。
イ 原告は、本件原告滑り台が、一品製作品というべきものであり、「美術工芸品」(著作権法2条2項)に当たるから、「美術の著作物」(同法10条1項4号)に含まれる旨主張する。
 そこで検討するに、著作権法10条1項4号が「美術の著作物」の典型例として「絵画、版画、彫刻」を掲げていることに照らすと、同法2条2項の「美術工芸品」とは、同法10条1項4号所定の「絵画、版画、彫刻」と同様に、主として鑑賞を目的とする工芸品を指すものと解すべきであり、仮に一品製作的な物であったとしても、そのことをもって直ちに「美術工芸品」に該当するものではないというべきである。
 本件においてこれをみると、前記アのとおり、本件原告滑り台は、自治体の発注に基づき、遊具として製作されたものであり、主として、遊具として利用者である子どもたちに遊びの場を提供するという目的を有する物品であって、「絵画、版画、彫刻」のように主として鑑賞を目的とするものであるとまでは認められない。
 したがって、本件原告滑り台が「美術工芸品」に該当すると認めることはできず、原告の上記主張は採用することができない。
ウ 原告は、本件原告滑り台が「美術工芸品」に当たらないとしても「美術の著作物」として保護される応用美術であると主張する。そこで、本件原告滑り台が、実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して、美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている部分を把握できるものであるか否かについて、以下検討する。
(ア)タコの頭部を模した部分について
 別紙1原告滑り台目録記載1(2)の各写真によれば、本件原告滑り台のうちタコの頭部を模した部分の構成は、次のとおりであると認められる。すなわち、タコの頭部を模した部分は、本件原告滑り台を正面から見て、その最も高い箇所のほぼ中央部に存在しており、タコの足を模したスライダーによって形作られるなだらかな稜線から上に突き出るような格好で配置されている。そして、その形状は、本件原告滑り台のうち最も高い箇所に存在する頭頂部から、正面向かって後方にやや傾いた略鐘形をなしており、全体として曲線的な印象を与える形状であって、そうした形状と、上記のような配置等から、当該部位を見た者をして、タコの頭部を連想させるような外観となっている。さらに、その構造をみると、内部は空洞をなし、頭部に上った利用者が立てるような踊り場様の床が設置されている。また、正面、左側面及び背面にそれぞれ1か所、右側面に2か所の開口部を有しており、そのうち正面、右側面及び左側面の開口部からは後述のタコの足を模したスライダーが延びているほか、背面の開口部付近には、手でつかんだり、足を掛けたりして上り下りするための取っ手が8個取り付けられている。
 このように、タコの頭部を模した部分は、本件原告滑り台の中でも最も高い箇所に設置されているのであるから、同部分に設置された上記各開口部は、滑り降りるためのスライダー等を同部分に接続するために不可欠な構造であって、滑り台としての実用目的に必要な構成そのものであるといえる。また、上記空洞は、同部分に上った利用者が、上記各開口部及びスライダーに移動するために不可欠な構造である上、開口部を除く周囲が囲まれた構造であることによって、最も高い箇所にある踊り場様の床から利用者が落下することを防止する機能を有するといえるし、それのみならず、周囲が囲まれているという構造を利用して、隠れん坊の要領で遊ぶことなどを可能にしているとも考えられる。
 そうすると、本件原告滑り台のうち、タコの頭部を模した部分は、総じて、滑り台の遊具としての利用と強く結びついているものというべきであるから、実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して、美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている部分を把握できるものとは認められない。
(イ)タコの足を模した部分について
 別紙1原告滑り台目録記載1(2)の各写真によれば、本件原告滑り台には、タコの頭部を模した部分から4本のスライダーが延びており、これらはいずれもタコの足を模したものであって、その形状は、直線状か曲線状かの相違はあるものの、いずれについても、なだらかな斜度をなしつつ、地面に向かって延びているほか、滑らかな板状のすべり面を有し、かつ、その左右には手すり様の構造物が付されていると認められる。
 この点、滑り台は、高い箇所から低い箇所に滑り降りる用途の遊具であるから、スライダーは滑り台にとって不可欠な構成要素であることは31明らかであるところ、タコの足を模した部分は、いずれもスライダーとして利用者に用いられる部分であるから、滑り台としての機能を果たすに当たって欠くことのできない構成部分といえる。
 そうすると、本件原告滑り台のうち、タコの足を模した部分は、遊具としての利用のために必要不可欠な構成であるというべきであるから、実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して、美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている部分を把握できるものとは認められない。
(ウ)空洞(トンネル)部分について
 別紙1原告滑り台目録記載1(2)の各写真によれば、本件原告滑り台には、正面から見て左右に1か所ずつ、スライダーの下部に、通り抜け可能なトンネル状の空洞が配置されていると認められる。
 この構成は、滑り台としての機能には必ずしも直結しないものではあるが、前記アのとおり、本件原告滑り台は、公園の遊具として製作され、設置された物であり、その公園内で遊ぶ本件原告滑り台の利用者は、これを滑り台として利用するのみならず、上記空洞において、隠れん坊などの遊びをすることもできると考えられる。
 そうすると、本件原告滑り台に設けられた上記各空洞部分は、遊具としての利用と不可分に結びついた構成部分というべきであるから、実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して、美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている部分を把握できるものとは認められない。
(エ)本件原告滑り台全体の形状等について
 別紙1原告滑り台目録記載1(2)の各写真によれば、本件原告滑り台は、頭部(前記(ア))、足(前記(イ))及び空洞(前記(ウ))等によって形成されており、その全体を見ると、本件原告滑り台は、見る者をしてタコの体を模しているとの印象を与えるものであると認められる。また、とりわけ本件原告滑り台の正面からその全体を見ると、空洞のある頭部を頂点に、左右へ広がる緩やかな2本の足によって均整の取れた三角形を見て取ることができ、見栄えのよい外観を有するものということができる。
 この点、本件原告滑り台のようにタコを模した外観を有することは、滑り台として不可欠の要素であるとまでは認められないが、そのような外観は、子どもたちなどの本件原告滑り台の利用者に興味や関心を与えたり、親しみやすさを感じさせたりして、遊びたいという気持ちを生じさせ得る、遊具のデザインとしての性質を有することは否定できず、遊具としての利用と関連性があるといえる。また、本件原告滑り台の正面が均整の取れた外観を有するとしても、そうした外観は、前記(ア)及び(イ)でみたとおり、滑り台の遊具としての利用と必要不可欠ないし強く結びついた頭部及び足の組み合わせにより形成されているものであるから、遊具である滑り台としての機能と分離して把握することはできず、遊具のデザインとしての性質の域を出るものではないというべきである。
 そうすると、本件原告滑り台の外観は、遊具のデザインとしての実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して、美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている部分を把握できるものとは認められない。
(オ)以上のとおり、本件原告滑り台は、その構成部分についてみても、全体の形状からみても、実用目的を達するために必要な機能に係る構成と分離して、美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている部分を把握できるものとは認められないから、「美術の著作物」として保護される応用美術とは認められない。
(カ)これに対し、原告は、本件原告滑り台の実用目的は滑り台自体としての機能を前提に把握すべきであり、高所に上がるための手段と、滑り降りるためのスライダーがあればその機能を果たすことができるので、表現の選択の幅は広いとした上で、本件原告滑り台のタコの頭部を模した部分、タコの足を模した部分及び空洞(トンネル)部分は、滑り台の機能から必然的に創作できるものではなく、滑り台の機能とは独立して存在する特徴であって、製作者であるBの個性が表われた部分といえるから、そのような部分を有する本件原告滑り台は「美術の著作物」に該当する応用美術であると主張する。
 しかしながら、ある製作物が「美術の著作物」たる応用美術に該当するか否かに当たって考慮すべき実用目的及び機能は、当該製作物が現に実用に供されている具体的な用途を前提として把握すべきであって、製作物の種類により形式的にその目的及び機能を把握するべきではない。原告の主張は、滑り台には様々な形状や用途のものがあるにもかかわらず、本件原告滑り台が滑り台として製作されたものであるという点を過度に重視するものであり、子どもたちなどの利用者が本件原告滑り台において具体的にどのような遊び方をするかを捨象している点で相当ではない。
 また、原告の上記主張は、本件原告滑り台の表現の選択の幅が広く、製作者であるBの個性が表われていることを根拠とするものであるが、その点は、著作物性(著作権法2条1項1号)の要件のうち、「思想又は感情を創作的に表現したもの」との要件に係るものであって、「美術」「の範囲に属するもの」との要件に係るものではないというべきである。
 したがって、原告の上記主張はいずれも採用することができない。
エ 以上によれば、本件原告滑り台は、著作権法10条1項4号の「美術の著作物」に該当せず、同法2条1項1号所定の著作物としての保護は認められないというべきである。
(2)争点1−2(本件原告滑り台が建築の著作物に該当するか)について
ア 前記(1)アで認定したとおり、本件原告滑り台は、公園に設置される遊具であり、その形状は、別紙1原告滑り台目録記載のとおり、上部にタコの頭部を模した部分を備え、4本のタコの足を模したスライダー等を有しているものである。そして、著作権法においては、著作物の例示として「建築の著作物」(著作権法10条1項5号)が掲げられているものの、「建築」についての定義は置かれていない。そのため、「建築の著作物」の意義を考えるに当たっては、建築基準法所定の「建築物」の定義を参考にしつつ、文化の発展に寄与するという著作権法の目的に沿うように解釈するのが相当である。そこで検討するに、建築基準法2条1号が「建築物」という用語の意義について「土地に定着する工作物のうち、屋根及び柱若しくは壁を有するもの(これに類する構造のものを含む。)」等と規定しており、本件原告滑り台も、屋根及び柱又は壁を有するものに類する構造のものと認めることができ、かつ、これが著作権法上の「建築」に含まれるとしても、文化の発展に寄与するという目的と齟齬するものではないといえる。そうすると、本件原告滑り台は同法上の「建築」に該当すると解することができる。
 このように、本件原告滑り台が同法上の「建築」に該当するとしても、その「建築の著作物」(著作権法10条1項5号)としての著作物性については、「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(同法2条1項1号)か否か、すなわち、同法で保護され得る建築美術であるか否かを検討する必要がある。具体的には、「建築の著作物」が、実用に供されることが予定されている創作物であり、その中には美的な要素を有するものも存在するという点で、応用美術に類するといえることから、その著作物性の判断は、前記(1)アで説示した応用美術に係る基準と同様の基準によるのが相当である。
 そこで、本件原告滑り台が、建築物としての実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して、美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている部分を把握できるか否かにつき、以下、検討する。
イ 前記(1)で説示したとおり、本件原告滑り台の形状は、頭部、足部、空洞部などの各構成部分についてみても、全体についてみても、遊具として利用される建築物の機能と密接に結びついたものである。また、本件原告滑り台は、別紙1原告滑り台目録記載のとおり、上記各構成部分を組み合わせることで、全体として赤く塗色されていることも相まって、見る者をしてタコを連想させる外観を有するものであるが、こうした外観もまた、子どもたちなどの利用者に興味・関心や親しみやすさを与えるという遊具としての建築物の機能と結びついたものといえ、建築物である遊具のデザインとしての域を出るものではないというべきである。
 したがって、本件原告滑り台について、建築物としての実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して、美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている部分を把握できるとは認められない。
ウ 原告は、本件原告滑り台が、滑り台の機能とは独立した形態的特徴を有しており、通常滑り台に施される美的創作性と比べてはるかに美的創作性の程度が高いことなどから、「建築の著作物」としての著作物性を有すると主張する。
 しかしながら、前記アのとおり、建築の著作物については、応用美術と同様に、著作物性が認められるための要件として、著作権法2条1項1号における「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」であるか否かが判断されるべきところ、前記イのとおり、それが認められない以上、高度な美的創作性を有するという理由によって、著作物性を肯定することはできないというべきである。
 したがって、原告の上記主張は失当であって採用することができない。
エ 以上によれば、本件原告滑り台は、著作権法10条1項5号の「建築の著作物」に該当せず、同法2条1項1号所定の著作物としての保護は認められないというべきである。
(3)小括
 以上のとおり、本件原告滑り台は、「美術の著作物」(著作権法10条1項4号)にも、「建築の著作物」(同項5号)にも該当せず、これについて著作権法2条1項1号所定の著作物としての保護は認められないというべきである。
 したがって、争点1に関するその余の点について判断するまでもなく、原告の著作権侵害による不法行為に基づく損害賠償請求には理由がない。
2 争点2(不当利得返還請求権の存否)について
 前記1のとおり、本件原告滑り台には著作物性が認められず、その結果、原告がその著作権を保有しているとも認められないから、被告が本件各被告滑り台を製作するなどしたことについて、原告に受注額に相当する額の損失が発生したとも、被告が利得を受けたことにつき法律上の原因がないとも認められない。
 以上によれば、争点2に関するその余の点について判断するまでもなく、原告の不当利得返還請求には理由がない。
3 結論
 よって、原告の請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 國分隆文
 裁判官 矢野紀夫
 裁判官 佐々木亮


(別紙1)原告滑り台目録
1 本件原告滑り台
(1)設置場所(住所は省略)尾崎第3公園
(2)形状幅5.5メートル、奥行5メートル、高さ3.5メートル
(別紙2)被告滑り台目録
1 本件被告滑り台1
(1)設置場所(住所は省略)南町1丁目公園
(2)形状幅7.6メートル、奥行5メートル、高さ3.5メートル
2 本件被告滑り台2
(1)設置場所(住所は省略)上沼田東公園
(2)形状幅5.5メートル、奥行5メートル、高さ3.5メートル

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