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【事件名】インターネットイニシアティブへの発信者情報開示請求事件
【年月日】令和3年4月23日
 東京地裁 令和2年(ワ)第5914号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和3年2月24日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 近藤弘
被告 株式会社インターネットイニシアティブ
同訴訟代理人弁護士 山内貴博
同 橋宗鷹


主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告に対し、別紙1発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
第2 事案の概要
1 本件は、原告が、インターネットサービスプロバイダ事業を営む被告に対し、被告の電気通信設備を用いて動画投稿サイトであるニコニコ動画に別紙2投稿動画目録記載1及び2の各動画(以下、同目録記載1の動画を「本件投稿動画1」と、同目録記載2の動画を「本件投稿動画2」といい、これらを「本件各投稿動画」と総称する。)が投稿されたことによって、原告が撮影、編集して作成した動画に係る原告の著作権(複製権及び公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権)が侵害されたことが明らかであり、その投稿を行った者に対する差止請求権及び損害賠償請求権の行使のため、被告が保有する別紙1発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を受けるべき正当な利益があるとして、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)
 4条1項に基づき、本件発信者情報の開示を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)被告
 被告は、インターネットサービスプロバイダ事業を営む株式会社である。
(2)本件原告動画の作成及び公開
ア 原告は、平成13年9月20日に実施されたB(以下「本件ゲームショー」という。)を訪れた。本件ゲームショーでは、株式会社ナムコ(同日当時の商号。以下同じ。)が、「C」という名称の業務用のゲーム機(以下「本件ゲーム機」といい、本件ゲーム機でプレイできるゲームを「本件ゲーム」という。)を出展し、同日、本件ゲームショーの来場者向けに、本件ゲームのプレイ中に本件ゲーム機の筐体内部の画面上に表示される影像及び本件ゲーム機から流れる音を、会場内の同社の展示場所でプロジェクターに映す形で公開した(以下、こうして映写された、プレイ中に本件ゲーム機の筐体内部の画面上に表示される影像及び本件ゲーム機から流れる音からなる動画を「本件プレイ動画」という。)。
 原告は、本件ゲームをプレイする様子を取材する一環として、プロジェクターに映し出された本件プレイ動画を、手持ちの撮影機材で撮影して保存した。
イ 原告は、前記アのとおり本件プレイ動画を撮影して保存した動画をもとに、「D」と題する再生時間6分12秒の動画(以下「本件原告動画」という。)を作成した(甲1)。
ウ 原告は、自身が運営していたウェブサイト上に、本件原告動画のファイルをアップロードして、平成17年頃まで、同ウェブサイトにアクセスした者であれば誰でも当該ファイルをダウンロードすることができる状態に置いた。
(3)氏名不詳者による別紙2投稿動画目録記載の各動画の投稿
ア 氏名不詳者は、別紙2投稿動画目録記載のとおり、平成19年11月11日午後6時12分に本件投稿動画1を、同月15日午前4時28分に本件投稿動画2を、ニコニコ動画に投稿した(以下、本件投稿動画1の投稿を「本件投稿1」、本件投稿動画2の投稿を「本件投稿2」といい、併せて「本件各投稿」という。また、本件各投稿を行った者を「本件投稿者」という。)。
 本件投稿動画2は、本件投稿動画1に音声の差し替えや字幕の追加を施したものである(甲2の1ないし甲2の3)。
イ 原告は、ニコニコ動画を運営する株式会社ドワンゴに対し、本件各投稿動画の削除を要請し、本件各投稿動画はニコニコ動画から削除された(甲2の1、甲3の1、甲4)。
ウ 原告は、株式会社ドワンゴから、令和元年11月20日付けで、同月8日午前11時15分の時点の情報として、本件投稿者のニコニコ動画のアカウントのニックネームは「E」であること、同アカウントの登録日時は平成19年4月9日午前0時14分46秒であること、同アカウントへの最終ログイン日時は令和元年10月24日午後3時31分25秒であり、同ログインの通信に係るIPアドレスは(IPアドレスは省略)であること等の開示を受けた(甲4、5)。
(4)本件発信者情報の保有等
 本件発信者情報に係る発信元IPアドレス((IPアドレスは省略))は、令和元年10月24日午後3時31分25秒の時点において被告の契約者に付与されたIPアドレスと同一であり、被告は、本件発信者情報を保有している。
 なお、被告は、同時点に同IPアドレスを複数の契約者に割り当てていた4が、被告において、本件発信者情報である通信日時、発信元IPアドレス及び接続先IPアドレスにより絞り込んだ被告の契約者(以下「本件契約者」という。)に照会したところ、本件契約者は、本件各投稿に及んだことを認めた。
3 争点
(1)権利侵害の明白性(争点1)
ア 本件原告動画の著作物性(二次的著作物該当性)(争点1−1)
イ 本件原告動画の著作権及び著作者人格権の帰属(争点1−2)
ウ 著作権及び著作者人格権の侵害行為の存否(争点1−3)
エ 原告による複製等に関する許諾の有無(争点1−4)
(2)「当該権利の侵害に係る発信者情報」及び「開示関係役務提供者」該当性(争点2)
(3)本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無(争点3)
4 争点に関する当事者の主張
(1)争点1(権利侵害の明白性)について
ア 争点1−1(本件原告動画の著作物性(二次的著作物該当性))について
(原告の主張)
 本件原告動画は、本件プレイ動画を原著作物とする「二次的著作物」(著作権法2条1項11号)として、著作物性を有する。
 すなわち、原告は、かねてから、新作ゲームをプレイする様子を取材して、ゲームを紹介する記事を執筆する活動をしていたところ、本件原告動画の作成に当たり、本件ゲームの公表情報や発表会の実施日程を知って、取材方法や撮影アングルなどを検討の上、撮影機材を取捨選択した。
 そして、原告は、本件ゲームショーの当日、株式会社ナムコの担当者から、本件プレイ動画の撮影に関して許可を受けた上で、本件プレイ動画を上記撮影機材で撮影した。原告は、このようにして撮影した動画から、記事に適した部分を抽出し、不要な部分を削り、当時のインターネット通信環境下で公開するのに適した画素数に調整し、音声部分のノイズカットを施すなどの編集を行って、本件原告動画を完成させた。なお、以上の撮影と編集は、原告が一人で行った。
 このように、本件原告動画は、原著作物である本件プレイ動画に、原告による創作的な作業が加えられて作成されたものであるから、二次的著作物に該当し、著作物性を有する。
(被告の主張)
 本件原告動画は、単に固定的な視点から、第三者がプレイするゲームの様子を記録したものにすぎず、原告により、本件プレイ動画に新たな創作的表現が付け加えられているとは認められず、本件プレイ動画を複製したものにすぎない。
 したがって、本件原告動画は、二次的著作物に該当せず、著作物性を有しない。
イ 争点1−2(本件原告動画の著作権及び著作者人格権の帰属)について
(原告の主張)
 前記ア(原告の主張)のとおり、本件原告動画は、本件プレイ動画を原著作物とする二次的著作物に該当するから、本件原告動画を作成した原告は、その著作者として、本件原告動画について、著作権及び著作者人格権を保有する。
(被告の主張)
 争う。
ウ 争点1−3(著作権及び著作者人格権の侵害行為の存否)について
(原告の主張)
 本件投稿動画1の内容は本件原告動画と同一であるから、これをニコニコ動画に投稿する行為(本件投稿1)は、本件原告動画に係る原告の複製権を侵害するものである。
 また、本件投稿動画2は、本件原告動画の音声を差し替え、字幕を追加して作成されたものであり、音声の差し替えや字幕の追加は動画の全体にわたって行われているから、これをニコニコ動画に投稿する行為(本件投稿2)は、本件原告動画全体に係る原告の複製権及び同一性保持権を侵害するものである。
 さらに、本件各投稿動画をニコニコ動画に投稿する行為は、本件原告動画に係る原告の公衆送信権を侵害するものである。
 このように、本件投稿者が、本件原告動画を複製、改変し、本件各投稿に及んだことにより、原告の著作権及び著作者人格権が侵害された。
(被告の主張)
 原告の主張においては、本件各投稿動画のどの部分がどのように本件原告動画に係る著作権(複製権及び公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害するものであるのかが明確ではない。
 したがって、本件各投稿により原告の著作権及び著作者人格権が侵害されたことについて、主張及び立証が尽くされたとはいえない。
エ 争点1−4(原告による複製等に関する許諾の有無)について
(原告の主張)
(ア)原告が、本件原告動画を複製し、音声の差し替えや字幕の追加などの改変を第三者に許諾した事実はなく、本件においては、その他の違法性阻却事由もないから、権利侵害の明白性が認められる。
(イ)被告は、原告が本件原告動画をウェブサイトにアップロードしていたことを根拠に、本件原告動画の複製ないし改変を明示又は黙示に許諾していたと主張する。
 しかしながら、そのような根拠のみによって上記の許諾があるとすれば、インターネット上のダウンロード可能な動画はすべからく複製ないし改変を許諾しているということになり、論理の飛躍がすぎる。
 したがって、被告の上記主張は理由がない。
(被告の主張)
 原告は、本件原告動画をウェブページに掲載して誰でもダウンロードできる状態にしていたのであるから、本件原告動画を複製することや、ダウンロードした動画の音声の差し替え及び字幕の追加について、明示又は黙示に許諾していたというべきである。
 したがって、本件各投稿により、原告の権利が侵害されたとは認められない。
(2)争点2(「当該権利の侵害に係る発信者情報」及び「開示関係役務提供者」該当性)について
(原告の主張)
ア プロバイダ責任制限法4条1項が開示の対象とする「当該権利の侵害に係る発信者情報」は、当該文言や、同法の趣旨が加害者不明の権利侵害行為の被害者の正当な権利行使の可能性の確保と発信者の権利及び役務提供者の守秘義務との調整を図る点にあることに照らすと、当該権利の侵害情報の発信そのものの発信者情報に限定されていないと解される。
 本件各投稿はニコニコ動画においてされたものであるところ、ニコニコ動画は、会員制サービスであり、利用者が動画を投稿するためには、ニコニコ動画のアカウントを開設した上で、IDとパスワードを入力してログインをしなければならない。そして、ニコニコ動画の利用者は、登録したパスワードを無関係の第三者に利用されないよう管理するのが通常であり、複数名でアカウントを共有しているなどの事情がない限り、ログイン者と投稿者は同一と考えられる。
 そうすると、本件投稿者と本件発信者情報に係る通信を行った者すなわち最終ログインを行った者は同一人物であるといえるから、本件各投稿がされたアカウントの最終ログイン時の発信者情報は、「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当する。
 また、以上を前提とすれば、被告は同項の「開示関係役務提供者」に該当するといえる。
イ 被告は、本件各投稿の時点から前記アのアカウントに最後にログインされた時点までに約12年もの間隔が空いていることから、本件各投稿時の通信と上記ログイン時の通信が同一の発信者によるものとはいえないとして、本件発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当することを争う。
 しかしながら、本件各投稿がされたニコニコ動画のアカウントは、本件各投稿の時点から最終ログイン時までの間において、10年間継続してプレミアム会員(有料課金会員)として登録されており、同アカウント上で一定の活動がされていることから、本件各投稿時から約12年間にわたり一度もログインがされなかったアカウントではない。
 以上によれば、被告の上記主張は、その前提を欠くものであって、理由がない。
(被告の主張)
 本件発信者情報は、本件各投稿がされた平成19年11月11日午後6時12分又は同月15日午前4時28分の時点における発信者情報ではなく、本件各投稿がされたニコニコ動画のアカウントに最後にログインがされた令和元年10月24日午後3時31分25秒の時点における発信者情報である。すなわち、本件発信者情報は、本件各投稿の時点の情報ではなく、それから約12年も経過した後の情報にすぎない。これほどまでに長期間が経過している場合、本件各投稿時の通信と最終ログイン時の通信が同一の発信者によるものとは到底認められないから、本件発信者情報は、「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当しない。
 そして、以上を前提とすれば、被告は「開示関係役務提供者」に該当しない。
(3)争点3(本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無)について
(原告の主張)
 原告は、本件投稿者に対し、本件各投稿により原告の本件原告動画に関する著作権及び著作者人格権が侵害されたことを理由として、差止請求及び不法行為に基づく損害賠償請求をする準備をしている。それらの請求のためには、本件投稿者に係る発信者情報が必要であるから、原告には、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。
(被告の主張)
 原告が差止請求や損害賠償請求をする準備をしていることは不知。原告に本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があることは争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(権利侵害の明白性)について
(1)争点1−1(本件原告動画の著作物性(「二次的著作物」該当性))について
ア 「二次的著作物」については、「著作物を」「翻案することにより創作した著作物」であると定義されており(著作権法2条1項11号)、二次的著作物の著作権は、二次的著作物において新たに付与された創作的部分のみについて生じる(最高裁判所平成4年(オ)第1443号同9年7月17日第一小法廷判決・民集51巻6号2714頁参照)。そうすると、本件原告動画が本件プレイ動画の二次的著作物として著作物性を有するといえるためには、本件プレイ動画の具体的表現に修正、増減、変更等を加えることにより、本件プレイ動画における創作的表現とは異なる新たな創作的表現が付与されていることを要するものと解するのが相当である。
 以上を前提に、本件原告動画が二次的著作物として著作物性を有するか否かを検討する。
イ 証拠(甲1)及び弁論の全趣旨によれば、本件プレイ動画(本件原告動画中に含まれる部分)及び本件原告動画の各表現は、以下のとおりであると認められる。
(ア)本件プレイ動画
 本件ゲームの進行に応じて本件ゲームの画面が順次表示され、それによって動きのある連続的な影像となっており、本件ゲームに収録された背景音楽、音声及び効果音が、本件ゲームの進行に応じて再生される。具体的には、まず、冒頭から再生時間0分27秒頃まで、白い背景に、株式会社ナムコのロゴマークや本件ゲームのタイトル画面、本件ゲームをプレイする際の注意事項が表示される。その後、本件ゲームのプレイが開始し、そのプレイの様子、すなわち、宇宙空間を自在に飛行する飛行体のコックピットからの視点で、プレイヤーが、来襲する飛来物に照準を合わせて撃墜したり、宇宙空間を航行したりする様子が、一連の連続的な影像として表示される(なお、その一連の影像において、その途中の部分が削除されたとは認められない。)。そして、再生時間5分55秒頃に、敵キャラクターがプレイヤーに襲い掛かろうとする様子が映し出された後、画面が静止して徐々に白く切り替わり(いわゆるホワイトアウトの演出)、「ToBeContinued」の文字やスコア等が表示される。さらに、「お疲れ様でした。」などの表示がされ、再生開始から6分12秒後に終了する。
(イ)本件原告動画
 画面の中央において、本件ゲームのプレイ中に本件ゲーム機の筐体内部の画面上に表示される影像(本件プレイ動画)がスクリーン上に略円形状に投影されている様子が映されており、その上下には、それぞれ、本件プレイ動画の投影部分にやや重なるように機材が映り込み、その余の部分は押しなべて黒一色となっている。そして、本件ゲームショーの来場者のカメラのフラッシュが映り込むことにより、瞬間的に白く変化することが複数回あり、本件ゲームに収録された背景音楽、音声及び効果音に加えて、本件ゲームショーの来場者の話し声が再生される。
 また、本件プレイ動画、映り込んだ上記機材及びその余の黒い部分の配置は本件原告動画の全体を通じて固定的であり、動画の撮影角度に変化はなく、ズーム・インやズーム・アウトされた様子はうかがわれない。
ウ 前記イ(ア)の本件プレイ動画の内容と前記イ(イ)の本件原告動画の内容を対比すると、本件原告動画の影像及び背景音楽等は、本件プレイ動画の影像及び背景音楽等に対し、@動画全体にわたって、画面の中央部に据えられた本件プレイ動画の影像の上下部分に機材が映り込んでおり、その余の画面の部分が黒一色となっている点、A動画の一部において、来場者の話し声が本件プレイ動画の背景音楽等に混じり、撮影の際のフラッシュによって映像が白くなっている点において、本件プレイ動画に変更が加えられているものと認識することができる。
 しかしながら、前記前提事実(2)アのとおり、本件原告動画は、本件ゲームショーでの本件ゲームのプレイ状況を取材する一環として、本件ゲームのプレイ中に本件ゲーム機の筐体内部の画面上に表示される影像すなわち本件プレイ動画が映し出された会場内のプロジェクターの画面を撮影して、動画として保存し、これをもとに作成されたものである。このような本件原告動画の作成状況に照らすと、上記@のように、本件プレイ動画に加えて機材が映り込み、また、その余の画面の部分が黒一色となるという点や、上記Aのように、来場者の話し声が入り、フラッシュによって映像が白くなることがあるという点は、本件原告動画を作成する者の意図とは関係なく加わったものであるといえる。そうすると、上記の@及びAの点は、いずれも、作成者の個性が現れたものとはいえないから、本件プレイ動画に対し、その創作的表現とは異なる新たな創作的表現を付与するものとは認められず、二次的著作物としての創作性を生じさせるような事情とはならないというべきである。
エ (ア)原告は、本件原告動画について、@本件プレイ動画を撮影した動画から、本件ゲームを紹介する記事として適した部分を抽出して、不要な部分を削り、A当時のインターネット通信環境下で公開するのに適した画素数に調整し、B音声部分のノイズカットを施すなどの編集を行って作成したものであるから、本件原告動画は創作性を有すると主張する。
 しかしながら、原告の主張を前提としても、原告の上記@ないしBの行為により、本件ゲームの影像及び音における創作的表現とは異なる新たな創作的表現が付与されたものとは認めることができないというべきである。
 すなわち、まず、上記@についてみると、本件原告動画の内容は前記イ(イ)のとおりであるところ、前記イ(ア)のとおり、本件原告動画に含まれる本件プレイ動画は、開始から全て一連一体のものと認められ、その途中が削除された箇所は特段見当たらないから、原告が行った抽出作業とは、本件プレイ動画を中心に据えたプロジェクターに映し出された画面を撮影した動画の全体のうち、本件原告動画に含まれている部分の前後の部分を削除したという行為にすぎないというべきである。そして、原告が、このような加工を施したとしても、それにより作成される動画は、本件プレイ動画の忠実な再現の域を出るものではなく、原告の個性の発現は認められない。したがって、上記@の行為は、原著作物である本件プレイ動画の表現に修正、増減、変更等を加えるものとはいえず、仮に、表現に修正等を加えたものと評価できるとしても、本件プレイ動画の創作的表現とは異なる新たな創作的表現を付与するものとは認められないというべきである。
 次に、上記Aについてみると、画素数を調整する編集行為により、画面に映し出される影像の明瞭さに差異が生じる可能性はあるものの、前記イ(ア)で認定した本件プレイ動画の表現自体を実質的に変更するものではない。そうすると、原告が施した画素数を調整する行為について、本件プレイ動画の創作的表現とは異なる新たな創作的表現を付与するものとは認められないというべきである。
 さらに、上記Bについてみると、音声部分のノイズをカットすればするほど、本件ゲームに収録された背景音楽、音声及び効果音を聴き取りやすくなる一方、同ノイズをカットする作業により、本件ゲームに収録されたものとは異なる背景音楽、音声及び効果音が加えられるわけではない。そうすると、原告の上記Bの行為は、本件プレイ動画をできる限り忠実に再現する行為の域を出るものではなく、本件プレイ動画の創作的表現とは異なる新たな創作的表現を付与するものとは認められないというべきである。
 このように、原告の上記@ないしBの行為は、いずれも、本件プレイ動画の具体的表現に修正、増減、変更等を加えることにより、本件プレイ動画における創作的表現とは異なる新たな創作的表現を付与するのと評価することはできない。
 その他、本件全証拠によっても、原告が、本件原告動画を作成するに当たり、本件ゲームの影像における創作的表現とは異なる新たな創作的表現を付与したとは認められず、原告の上記主張は採用することができない。
(イ)また、原告は、@本件原告動画の作成に当たり、本件ゲームの公表情報や発表会の実施日程に関する情報を事前に入手したこと、A株式会社ナムコの担当者から、本件プレイ動画の撮影に関して許可を受けたこと、B取材方法や撮影アングルなどを検討の上、撮影機材を取捨選択して、本件プレイ動画の撮影をしたことに創作性が表れていると主張する。
 しかしながら、上記@及びAの各行為は、いずれも、本件原告動画を作成するための準備行為にとどまり、表現行為そのものではないから、本件原告動画に創作的表現が付与されたことの根拠にはならない。
 また、上記Bについて検討すると、前記イで認定した本件プレイ動画及び本件原告動画の各表現に照らし、本件原告動画は、本件プレイ動画の全体が撮影できるように、本件プレイ動画が投影されたスクリーンの正面に撮影機材を配置し、撮影機材が動かないよう固定した上で、撮影されたものと推認される。そして、前記前提事実(2)アのとおり、原告は、本件ゲームをプレイする様子を取材する目的で本件原告動画を作成したものであり、その目的を達するためには、通常、見る者に本件ゲームのプレイの様子が分かりやすいように撮影する必要があるといえる。
 そのような観点から本件原告動画を検討すると、同動画は、本件プレイ動画を、真正面から、始終固定的なアングルで撮影し続ける必要があるため、撮影条件が許す限り、誰が撮影しても同様のものとなることは明らかであり、そこにおいて個性の現れは認め難いというべきである。そうすると、上記の撮影手法によって作成された動画は、原著作物である本件プレイ動画に新たな創作的表現を付与するものとは認められない。
 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(2)小括
 よって、本件原告動画に本件プレイ動画における創作的表現とは異なる新たな創作的表現が付与されたとはいえないから、本件原告動画は、本件プレイ動画を原著作物とし、これを「翻案」して作成された「二次的著作物」(著作権法2条1項11号)として著作物性を有するとは認められない。
2 結論
 以上の次第で、本件原告動画には著作物性が認められないから、本件各投稿により原告の権利が侵害されたことが明らかであると認めることはできない。
 よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 國分隆文
 裁判官 矢野紀夫
 裁判官 佐々木亮


(別紙1)発信者情報目録
 令和元年10月24日午後3時31分25秒に、発信元IPアドレス(IPアドレスは省略)から、接続先IPアドレス(IPアドレスは省略)宛てになされた発信の契約者に関する情報であって、次に掲げるもの。
1 氏名又は名称
2 住所
3 電子メールアドレス
 以上

(別紙2投稿動画目録省略)
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