判例全文 line
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【事件名】JASRACへの演奏利用許諾拒否事件
【年月日】令和3年4月16日
 東京地裁 平成30年(ワ)第36307号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 令和3年2月5日)

判決
甲1こと原告 X1(以下「原告X1」という。)
甲2こと原告 X2(以下「原告X2」という。)
甲3こと原告 X3(以下「原告X3」という。)
上記3名訴訟代理人弁護士 豊田泰史
同 山中眞人
同 田代浩誠
同 重藤雅之
被告 一般社団法人日本音楽著作権協会
同訴訟代理人弁護士 田中豊
同 小川まゆみ
同 宮澤幸夫


主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、原告X1に対し、220万0210円並びにうち220万円に対する平成29年1月1日から及びうち210円に対する平成28年5月12日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告X2に対し、114万円並びにうち110万円に対する平成29年1月1日から及びうち4万円に対する平成28年4月26日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は、原告X3に対し、56万5000円並びにうち55万円に対する平成29年1月1日から及びうち1万5000円に対する平成28年4月22日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は、
(1)原告X1が、著作権等管理事業者である被告に対し、①被告が同原告によるライブハウス「LiveBarX.Y.Z.→A」(以下「本件店舗」という。)における演奏利用許諾申込みを拒否したことが、同原告の演奏者としての権利、演奏の自由、著作者人格権を侵害する不法行為(第1の不法行為)に、②被告が、著作権信託契約約款(以下「本件約款」という。)において、原告X1が作詞・作曲した楽曲を自ら使用することの留保を認めず、同原告に不公正な取引契約を強いてきたことが、同原告の演奏の自由、著作者人格権を侵害する不法行為(第2の不法行為)に、③被告の楽曲管理の方法が不適切であるため、演奏した楽曲の使用料が同原告に配分されなかったことが、その著作権及び著作者人格権を侵害する不法行為(第3の不法行為)にそれぞれ該当するとして、上記第1の不法行為について、慰謝料100万円、得べかりし使用料相当額210円及び弁護士費用10万円、上記第2及び第3の不法行為について、各慰謝料50万円及び弁護士費用5万円並びにこれらに対する遅延損害金(うち220万円に対する平成29年1月1日から及びうち210円に対する平成28年5月12日から各支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前。以下同じ。)所定の年5分の割合による金員)の支払、
(2)原告X2が、被告に対し、同原告の本件店舗における演奏利用許諾申込みを被告が拒否したことが、同原告の演奏者としての権利及び演奏の自由を侵害する不法行為に該当するとして、慰謝料100万円、練習費用4万円及び弁護士費用10万円並びにこれらに対する遅延損害金(うち110万円に対する平成29年1月1日から、うち4万円に対する平成28年4月26日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員)の支払、
(3)原告X3が、被告に対し、同原告の本件店舗における演奏利用許諾申込みを拒否したことが、同原告の演奏者としての権利及び演奏の自由の侵害を侵害する不法行為に該当するとして、慰謝料50万円、練習費用1万5000円及び弁護士費用5万円並びにこれらに対する遅延損害金(うち55万円に対する平成29年1月1日から、うち1万5000円に対する平成28年4月22日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員)の支払
 を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記した証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実。なお、本判決を通じ、証拠を摘示する場合には、特に断らない限り、枝番を含むものとする。)
(1)当事者
ア 原告X1は、「甲1」の名称を用い、プロのシンガーソングライターとして、音楽演奏等の活動を行っている。(甲34)
イ 原告X2は、「甲2」というバンドにおいて、プロのギタリストとして、音楽演奏等の活動を行っている。(甲39)
ウ 原告X3は、「甲3」というバンドにおいて、セミプロのギタリストとして、音楽演奏等の活動を行っている。(甲35)
エ 被告は、著作権等管理事業法3条の登録を受けた著作権等管理事業者であり、音楽著作物の著作権等管理事業などを行う一般社団法人である。
(2)本件店舗
 本件店舗は、平成21年5月、ロックバンド「爆風スランプ」のドラマーとして「B’」の芸名で知られたミュージシャンであるBが、音楽家が演奏する場を提供するため、実業家であるCに経営を依頼して開店し、自らもその運営に関与していた店舗である。(乙27の1)
(3)別件訴訟の提起及び第一審の審理経過等(乙18の1)
ア 被告は、B及びCに対し、平成25年10月31日、B及びCが、その共同経営する本件店舗内でライブを開催し、被告と利用許諾契約を締結しないまま被告が管理する楽曲を演奏等させていることが被告の著作権を侵害するなどとして、その演奏等の差止め及び損害の賠償又は不当利得の返還等を求める別件訴訟を提起した。
イ B及びCは、別件訴訟において、被告との間で被告管理楽曲の利用許諾契約を締結していなかったことは争わず、①B及びCの演奏主体性、②出演者の作詞・作曲したオリジナル曲の演奏による著作権侵害の成否、③故意及び過失の有無、④平成24年6月10日以後における被告の許諾の有無、⑤権利濫用等の抗弁の成否、⑥差止請求の適法性及び差止めの必要性、⑦将来請求の可否、⑧損害又は損失発生の有無及び額を争った。
ウ 東京地方裁判所は、平成28年3月25日、B及びCに対し、本件店舗における被告の管理楽曲の利用について、同人らが演奏主体に当たると認められるなどとし、本件店舗における演奏等の差止め及び口頭弁論終結日である同年2月10日までの使用料相当損害金212万4412円等の支払を命じる判決(以下「別件一審判決」という。乙18の1)をした。
(4)原告らによる演奏申込み等
ア 本件店舗は、別件訴訟第一審判決の後である平成28年4月8日、原告らを含む予約済みの出演者などに対し、被告との前記裁判の詳細については本件店舗のホームページを参照してほしいとした上で、被告管理楽曲を演奏する予定がある場合は、出演者自身が被告に利用申込みをするよう案内するメールを送付し(甲16)、同じ頃、そのサイト上に、別件一審判決の結果を報告するとともに、同様の案内を掲載した(乙8)。
イ (ア)これを受けて、原告X1は、平成28年5月1日付けで、被告に対し、本件店舗で予定する同年6月9日のライブに「夏が恋しくて」、「散歩に行こう!」及び「isthisreally」(以下「本件3曲」という。)を含む被告の管理楽曲12曲を使用する旨の演奏利用許諾申込み(以下「本件利用申込み1」という。)をしたが(甲2)、被告は、同年5月12日付けの書面をもって、本件店舗の「使用料相当額の清算が未了である現状に鑑み、貴殿からの演奏利用許諾のお申込みを受け付けることができません」として、同申込みの受付けを拒否した(以下「本件利用申込み拒否1」という。甲1)。
 このため、原告X1は、平成28年6月9日、ライブ会場を本件店舗から「Groovingmamagon」(以下「本件許諾店舗」という。)に変更して、予定されたライブを行った。(乙3、4)
(イ)原告X2は、平成28年4月22日付けで、被告に対し、本件店舗で予定する同年7月15日のライブに被告の管理楽曲10曲を使用する旨の演奏利用許諾申込み(以下「本件利用申込み2」という。)をしたが(乙6)、被告は、同年4月25日付けの書面をもって、本件店舗の「使用料相当額の清算が未了である現状に鑑み、貴殿からの演奏利用許諾のお申込みを受け付けることができません」として、同申込みの受付けを拒否した(以下「本件利用申込み拒否2」という。甲5)。
(ウ)原告X3は、平成28年4月21日付けで、被告に対し、本件店舗で予定する同年7月9日のライブに被告の管理楽曲9曲を使用する旨の演奏利用許諾申込み(以下「本件利用申込み3」といい、本件利用申込み1~3を総称して「本件各利用申込み」という。)をしたが(訴状別紙③)、被告は、同年4月22日付けの書面をもって、本件店舗の「使用料相当額の清算が未了である現状に鑑み、貴殿からの演奏利用許諾のお申込みを受け付けることができません」として、同申込みの受付けを拒否した(以下「本件利用申込み拒否3」といい、本件利用申込み拒否1~3を総称して「本件各利用申込み拒否」という。甲6)。
 このため、原告X3は、平成28年7月9日、演奏曲目を入れ替えるなどして、本件店舗においてライブを行った。
ウ 本件店舗は、別件一審判決後の平成28年4月6日、同月8日、同年5月8日、同店舗においてライブを開催し、被告管理楽曲を無許諾で演奏した。原告X1は、平成28年4月6日のライブにおいて、原告X2及び原告X3は、同月8日のライブにおいて、被告管理楽曲を含む楽曲の演奏を行った。(乙9)
(5)別件訴訟の控訴審の審理経過等
ア B及びCは、平成28年5月30日付けの別件一審判決に対する控訴理由書において、知的財産高等裁判所に対し、被告が本件各利用申込みを拒否したのは著作権等管理事業法16条に違反する違法な運用であるなどと主張し(乙18の3)、原告らに交付された本件各利用申込み拒否に係る書面の写しを証拠として提出した(乙18の4)。
イ 知的財産高等裁判所は、平成28年10月19日、B及びCに対し、本件各利用申込み拒否のためライブを中止した演奏者がいるにしても、差止めの必要性は失われないなどとして、別件一審判決の差止め部分を維持するとともに、口頭弁論終結日である同年9月12日までの使用料相当損害金496万5101円等の支払を命じる判決をした。(乙18の2)
(6)原告X1による本件許諾店舗における演奏
ア 原告X1は、平成28年8月21日付けで、被告に対し、本件許諾店舗7で開催される同年10月12日のライブに「夏が恋しくて」及び「散歩に行こう!」と題する楽曲(以下「本件2曲」という。)を含む被告の管理楽曲12曲を使用する旨の演奏利用申込みをした(訴状別紙②)
イ 被告は、平成28年8月29日付けで、原告X1に対し、本件許諾店舗は被告と音楽著作物利用許諾契約を締結しているため、本件許諾店舗においては被告の管理楽曲を適法に利用し得ると連絡した。(甲3)
ウ 原告X1は、平成28年10月12日、本件許諾店舗において、本件2曲を演奏し(以下「本件10月演奏」という。)、本件許諾店舗は、被告に対し、本件2曲の利用を報告した。(乙5)
エ 被告は、原告X1と著作権に関する契約(後記(7))を交わしていた音楽出版社である株式会社ブラスティー(以下「ブラスティー」という。)に対し、平成29年6月支払分として、本件2曲に係る使用料合計268円(手数料控除後)を支払った(甲33、乙26)。
(7)原告X1とブラスティー間の著作権に関する契約
ア 原告X1とブラスティーは、2010年(平成22年)11月1日付けで、原告X1を作詞者兼作曲者とする本件3曲を含む11曲を対象として、「著作権契約書」と題する契約書(以下「本件著作権契約書」という。甲14)をもって、著作権に関する契約(以下「本件著作権契約」という。)を締結した。同契約書には、要旨、以下の定めがある。
(ア)原告X1とブラスティーは、本件著作権契約の対象となる著作物の著作権の譲渡に関し、同契約を締結する。(柱書き)
(イ)原告X1は、前記著作物の「著作権管理を行うことを目的」として、ブラスティーに対し、その著作権を「独占的に譲渡」する。(1条)
(ウ)譲渡の対象は、原告X1が現在及び将来に有する「一切の支分権及び著作権に基づき発生するいかなる権利」を含む。(4条)
(エ)ブラスティーは、前記著作権に係る「演奏権等」などについて、被告に委託する方法で管理を行う。(6条)
(オ)ブラスティーは、原告X1に対し、「譲受の対価」として、前記楽曲が使用された場合、「著作権使用料」を支払い、その額は、第三者の使用に係る場合、ブラスティーが被告から受領した手数料控除後の使用料の12分の6とする。原告X1及びブラスティーは、被告に対し、「演奏権等」の使用料の自己の取り分の支払を「直接請求」することができるものとする。(10条)
(カ)ブラスティーは、原告X1の書面の承諾がある場合等を除き、前記著作権の「売却譲渡等」の処分をしてはならない。(17条)
(キ)前記著作権は、本件著作権が契約の満了又は解除によって終了した場合、当然に原告X1に「復帰」する。(21条)
イ なお、本件著作権契約書は、一般社団法人日本音楽出版社協会が作成した「FCA・MPAフォーム」と通称される契約書フォームに基づくものである。(乙12)
(8)本件約款
 被告は、著作権等管理事業法2条1項1号の信託契約として、要旨、以下の規定のある本件約款を定めていた(乙1)。
ア 委託者は、その有する全ての著作権及び将来取得する全ての著作権を本信託の期間中、信託財産として受託者に移転し、受託者は、委託者のためにその著作権を管理し、その管理によって得た著作物使用料等を受益者に分配する。この場合において、委託者が受託者に移転する著作権には、著作権法28条に規定する権利を含むものとする。(3条1項)
イ 本信託における受益者は、委託者とする。ただし、著作権信託契約の締結の際に委託者が受託者の同意を得て第三者を受益者として指定したときは、当該第三者とする。(3条2項)
ウ 委託者は、委託する著作物の利用の開発を図るため、同著作物を自ら利用することについて、予め受託者の承諾を得て、信託著作権の管理委託の範囲を「留保又は制限」することができる。(11条。ただし、平成29年当時のもの)
3 争点
(1)原告X1の請求について
ア 本件利用申込み拒否1の違法性等(争点1(1))
イ 本件約款の内容に係る違法性等(争点1(2))
ウ 著作物の管理に係る違法性等(争点1(3))
(2)原告X2の請求について
 本件利用申込み拒否2の違法性等(争点2)
(3)原告X3の請求について
 本件利用申込み拒否3の違法性等(争点3)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(原告X1の請求)について
1-1争点1(1)(本件利用申込み拒否1の違法性等)について
(原告らの主張)
(1)被告の行為
 原告X1は、平成28年6月9日に本件店舗において「八王子Transferライブ」と題する生演奏のライブを開催すべく、同年5月1日、被告に対し、自らが作詞・作曲したオリジナル曲6曲を含む曲目(合計12曲)の演奏利用許諾申込み(本件利用申込み1)を行った。
 ところが、被告は、原告X1に対し、本件店舗と被告との間で被告の管理する著作物の使用料相当額の清算が未了であることを理由として、本件利用申込み1の受付けを拒否した(本件利用申込み拒否1)。このため、原告X1は、上記ライブを開催することができなかった。
 著作権等管理事業法16条には、著作権等管理事業者は、正当な理由がなければ、取り扱っている著作物等の利用の許諾を拒んではならないと規定している。また、原告X1は、本件利用申込み1を行った演奏曲目(12曲)について憲法21条が保障する演奏の自由を有する。また、このうち、6曲については、原告X1が作詞・作曲したものであり、同原告は著作権及び著作者人格権を有する。
 また、本件3曲については、原告X1が作詞・作曲し、ブラスティーを通じて被告と著作物信託契約を結んでいるものであり、同原告は著作権及び著作者人格権を有するとともに、被告からその使用料の支払を受け得る立場にある。
 被告が原告X1による本件利用申込みを拒否した行為は、著作権等管理事業法16条に違反する利用許諾拒否行為であるとともに、原告X1の演奏の自由及び著作者人格権を侵害するものであるから、被告は、同原告が受けた後記(6)の損害の賠償義務を負う。
(2)著作権等管理事業法16条の「正当な理由」の存否
ア 著作権等管理事業法16条は、著作権等管理事業者は、正当な理由がなければ、取り扱っている著作物等の利用の許諾を拒んではならないと規定している。被告のような信託受託者は、形式的な権利者にすぎず、実質的な権利者である受益者に対し、善管注意義務や忠実義務を負っている。同法は、著作権等管理事業者に特別に重い義務を課した法律であり、その国会審議では、「利用を拒んではならない」ことを理由として独占禁止法上の問題がない旨の答弁がされていた。さらに、同条は、憲法21条の表現の自由の派生原理である演奏の自由を体現したものである。
 したがって、同条の「正当な理由」は厳格に解されるべきである。
イ 被告は、信託の受託者にすぎないところ、受託者はもっぱら受益者の利益のために行動すべき義務を負う。演奏利用の申込者が著作権使用料を支払えば、被告は、著作権使用料から手数料等を控除した額を受益者に配当することになるのであるから、同原告の演奏利用申込みの許諾をすることが受益者の利益になる。このような観点に立つと、著作権等管理事業法16条の「正当な理由」の判断は、「許諾すれば受益者に対する配当の原資が得られるか否か」を基準とすべきである。そうでないとすれば、信託の受託者にすぎない被告に対し、法の予定しない諾否の裁量を与えることになる。
 したがって、演奏利用申込者が、使用料の支払の意向を示していれば、被告は、その支払能力がないことが明らかなときを除き、これを許諾する義務を負うというべきであり、それが委託者や受益者の合理的意思に沿う。
 原告X1は、本件利用申込み1に係る申込書によって、著作権使用料を支払う意思を示していたものであり、また、その支払能力がないことを基礎付けるような事情も存在しなかった。むしろ、原告らは、1曲140円の著作権使用料を本件店舗の経営者であるCを通じて法務局に供託していた(乙33)。それにもかかわらず、被告が同原告の演奏利用許諾申込みを拒否したのは違法である。
ウ また、被告は形式的権利者にすぎないのであるから、利用申込みを拒否するに当たり、実質的な権利者である委託者や受益者の意思を確認する義務を負っていた。特に、本件利用申込み1の対象楽曲には、原告X1がブラスティーを介して被告に委託していた本件3曲が含まれており、通常の委託者であれば許諾を望むと考えられるにもかかわらず、被告は、原告X1及びブラスティーの意思の確認を怠った。
エ 被告は、本件店舗の経営者が過去の著作権侵害に係る使用料相当額の清算をしていなかった場合には、第三者による同店舗における演奏利用の申込みを「正当な理由」があるものとして拒否し得ると主張するが、同店舗における過去の使用料相当額の清算と目の前にある収益の取得は別の問題である。被告が新たに演奏利用申込みに係る著作権使用料を収受したからといって、著作権侵害者が過去の未払使用料を清算せずに済むわけではない。過去の著作権使用料の未払分の清算は、本件店舗からの未払金の回収などにより解決すべき事柄である。
 被告は、「レストラン・カフェ・デサフィナード」(以下「デサフィナード」という。)について、未払の著作権使用料があったのに、同店舗におけるコンサートを許諾したことがあり、恣意的に演奏利用申込みの許諾の有無を決定している。被告は、当該コンサートは、店舗の営業と無関係なものであったから演奏利用を許諾したと主張するが、当該コンサートの参加料は1000円であり、飲食等も提供されるのに、被告は、これが当該店舗に支払われるかどうかを確認していない。
 また、被告は、店舗と演奏者は著作物の共同利用主体となるから、演奏利用申込みをできない店舗に代わって演奏者が第三者として申込みをすることは脱法行為であるとも主張するが、原告X1の出演する予定のライブは、演奏者が曲目選定や宣伝活動をし、ライブチャージを取得するなど、店舗が利益の帰属主体となるようなものではなかったので、両者は共同利用主体の関係にない。仮に、両者が共同利用主体になるとしても、演奏者と店舗経営者が不真正連帯債務を負うことになるので、その一方である演奏者が使用料を支払うのであれば、それで十分であったはずである。
 以上のとおり、第三者が演奏利用許諾の申込みをした場合に、被告がライブハウス等の店舗による著作権使用料の清算が完了していることを利用許諾の条件とすることは、著作権等管理事業法16条の趣旨に反し許されない。
オ 被告は、原告X1が本件店舗の経営者らと親密な関係にあり、本件利用申込み1は、別件訴訟を有利にするため、同経営者らの「呼びかけ」に応じてなされたものであると主張する。
(ア)しかし、原告X1は、自己実現の手段として、自らの意思で演奏活動をしており、本件利用申込み1に係るライブも、数か月前から予定していた。原告X1は、本件店舗から、別件一審判決の結果を踏まえ、①被告管理楽曲以外のオリジナル曲を利用するか、②演奏者が演奏利用申込みをするか、③ライブを中止するかの選択肢を示され(甲16)、上記②を選択したにすぎず、本件店舗の経営者の「呼びかけ」に応じ、別件訴訟を有利にするために本件利用申込み1をしたわけではない。
 原告X1は、別件訴訟における本件店舗の経営者らの主張内容も知らなかった。本件利用申込み拒否1に係る書面が、別件訴訟に証拠提出された事情は不明であるが、原告X1が、前記ライブに係る本件店舗の予約をキャンセルするに当たり、本件利用申込み拒否1を受けたことを報告したことによると思われる。
(イ)原告X1は、Bとは音楽上の関係しか有しておらず、その経営に協力するような親しい関係にはなかった。実際、原告X1とBとは、話をしたのも2~3回という程度で特段の面識はない。また、原告X1が本件店舗の経営者らによる事業管理や意思決定に関与し、その経営に協力したというような事実も存在しない。原告X1は、本件店舗の経営面を担っていたCとは面識さえなかった。
 原告X1が、本件店舗を出演先に利用していたのは、売上げのノルマがないこと、施設利用料名目の1000円を支払えば、観客の入場料が出演者に100%チャージバックされることなどの事情があったからにすぎない。原告X1が、本件店舗をライブに利用していたからといって、その経営に協力するために本件利用申込み1をしたと推認することはできない。
 原告X1が本件店舗に出演した回数が20回以上になるが、そのような店舗は本件店舗の外にも10以上はあり、出演が100回以上に上る店舗も存在する。確かに、Bは、原告X1の配偶者とバンド活動を共にするなどしていたが、同原告の配偶者が音楽活動を共にしているミュージシャンは多数おり、Bもその1人にすぎない。原告X1は、Bと親しい関係になかったため、被告が指摘するようなBとブラスティーとの関係も把握していなかった。
 以上のとおり、原告X1は、B等と親密な関係にあったものではない。
(ウ)原告X1が、平成28年4月6日、本件店舗において、八王子Transferの一員として10曲を演奏したことは確かであるが、同原告は1曲140円を供託した上で演奏しているので、著作権侵害行為には加担していない。
(3)演奏の自由の侵害
 演奏の自由とは、音楽著作物の利用を公権力によって妨げられない自由をいい、表現の自由の派生原理をいう。本件利用申込み拒否1は、それ自体、憲法21条が保障する原告X1の演奏の自由を侵害する違憲な行為である(憲法の直接適用)。
 また、被告は、私的団体であるが、長きにわたり、音楽著作権を独占的に管理し、著作権等管理事業法所定の公的規制を受ける著作権等管理事業者なのであって、我が国において、被告の関与なしに音楽関連業務を営むことは不可能な状況にあることなどからすれば、被告は、国の行為に準ずる高度に公的な機能を行使する者として、国家と同視され、憲法の適用を受けるべき団体である(米国法上の国家行為の理論)。
(4)著作者人格権の侵害
 本件利用申込み1の対象楽曲のうち6曲は、原告X1が作詞・作曲したものであったから、本件利用申込み拒否1は、その著作者人格権も侵害する。著作権法113条11項の「名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」は、利用申込みを拒否する「不作為」を含むと解釈するべきである。すなわち、著作物自体やその利用方法に問題がないにもかかわらず、受託者がその利用許諾を拒絶するのは、著作者の名誉・声望を害する方法による不利用と解すべきである。
(5)本件3曲に関する権利侵害
ア 本件利用申込み拒否1の対象楽曲のうち、本件3曲は、原告X1とブラスティー間の本件著作権契約の対象となるものであり、ブラスティーを通じ、被告に信託されていた。被告との著作物信託契約上の委託者がブラスティーであるとしても、受託者と受益者との間に契約関係は不要であるから、本件著作権契約を通じた本件3曲の実質的な受益者は、原告X1であったというべきである。
 また、本件著作権契約書は、音楽業界で広く用いられているFCA・MPAフォームを利用しているところ、このフォームにおいては、音楽出版社自身が著作権を管理することは予定されておらず、全て「丙」である被告に委託することが予定されている。すなわち、同フォームを用いて原告X1がブラスティーと契約を締結することは、自らの著作権の管理を被告に信託するのと等しく、被告による著作権管理に関し、委託者であるブラスティーと原告X1とは一体のものとみなされるべきである。
 本件著作権契約10条は、原告X1の被告に対する使用料の直接請求権を留保する規定である。被告は同契約の当事者ではないとしても、原告X1とブラスティーの一体性や原告X1の受益者としての地位に照らすと、原告X1にはこの直接請求権を前提とする損害が生じている。仮に、原告X1が、被告に対する直接請求権を有しないとしても、本件利用申込み1が許諾され、本件3曲が演奏されれば、原告X1は、ブラスティーを通じ、著作権使用料を受け取ることができた。
イ また、原告X1とブラスティー間の本件著作権契約は、著作権の譲渡を内容とするものではなく、信託譲渡の性質を有するものである。このことは、本件著作権契約書の1条(譲渡の目的)、17条(再譲渡の禁止)、21条(契約終了時における著作権の復帰)の各規定に加え、10条に著作権使用料の直接請求権に関する規定が置かれていることなどから明らかである。
 このように、原告X1とブラスティーとの契約は信託譲渡であり、同原告は本件3曲の著作権を喪失していないので、原告X1は、信託譲渡の委託者に留保された著作権に基づき、一定の権利主張が可能である。原告X1には、本件著作権契約を締結するに当たり、対象となる楽曲を自ら利用することを抑制する意図はなかったから、原告X1には、被告やブラスティーに対し、自己利用の申込みの許諾を強制し得る応諾強制権が留保されていたというべきである。本件利用申込み拒否1は、原告X1の有する応諾強制権を侵害するものであり、その応諾により得られたはずの使用料がその損害となる。
(6)損害の発生及びその額
ア 原告X1は、本件利用申込み拒否1の結果、平成28年6月9日に開催を予定していたライブの中止を余儀なくされ、リハーサルが無駄になるなどの損害を被った。その精神的苦痛に相当する慰謝料は100万円であり、相当因果関係のある弁護士費用は10万円である。なお、原告X1が、会場を本件店舗から変更し、代替のライブを実施しているが、その内容は、当初予定したライブと異なるものであるから、前記の損害の発生を左右する事情ではない。
イ また、原告X1とブラスティー間の契約に基づき、同原告は、被告に対し、同原告の作詞・作曲した曲の使用料を直接又はブラスティーを介して請求することができた。原告X1は、本来であれば、本件3曲の使用料のうち210円を受領できたはずであるのに、違法な本件利用申込み拒否1によって、同額の損害を被った。
(被告の主張)
(1)被告の行為について
 原告X1が本件利用申込み1を行ったのに対し、被告がその受付けを拒否したことから、平成28年6月9日に本件店舗において予定されていたライブを開催できなかったことは認める。ただし、原告X1は、同日、会場を本件許諾店舗に変更し、予定していたライブと同一のライブに出演した。なお、本件利用申込み1により申込みのあった被告管理楽曲のうち、原告X1の作詞・作曲したのは本件3曲のみである。
 原告らは、本件利用申込み拒否1が、著作権等管理事業法16条に違反する利用許諾拒否行為であるとともに、原告X1の演奏の自由及び著作者人格権を侵害すると主張するが、以下のとおり、理由がない。
(2)著作権等管理事業法16条の「正当な理由」の存否について
 本件利用申込み拒否1には、著作権等管理事業法16条の「正当な理由」があったので、同行為が不法行為を構成するということはできない。
ア 本件店舗のように過去の著作権使用料が未清算の店舗については、演奏者などの第三者から演奏利用の申込みがされたときであっても、当該演奏が当該店舗の営業として行われるときは、これを拒否する「正当な理由」があるというべきである。
(ア)すなわち、原告らによる本件各利用申込みを許諾するとすれば、著作権使用料を支払っていない店舗であっても、第三者からの演奏申込みの体裁をとれば、被告に察知されるまでは著作物の利用を継続することができることになるが、そうすると、音楽著作権の集中管理団体である被告は、著作権管理事業の遂行に公平性を保つことができない。そして、著作権者が、自らの著作権を侵害している者に対し、過去の著作権使用料が清算されないまま、その利用を許諾するとは考え難いことに照らすと、被告が、過去の著作権使用料が未清算の店舗について、演奏者などの第三者からの演奏利用申込みを許諾することは、受託者の合理的な意思及び利益に反することとなる。
 著作権等管理事業法の立法担当者が執筆した解説書である著作権法令研究会編「逐条解説著作権等管理事業法」(2001年有斐閣)96頁においても、同法16条の「正当な理由」がある場合とは、委託者の意思に反する等、利用を拒絶してもやむを得ない理由のある場合をいうとした上で、許諾をすることが通常委託者の合理的意思に反すると認められる場合として、利用者が過去又は今後の著作権使用料を支払おうとしない場合を典型例として挙げている。
(イ)別件事件の控訴審判決が「1審被告等と出演者のいずれもが1審原告管理著作物の利用主体に当たる」と判示するとおり、ライブハウスの経営者とライブに出演する演奏者は、いずれも被告管理楽曲を演奏により利用する主体である。実際のところ、本件店舗の経営者らは、出演者からは会場使用料を徴収せず(100%チャージバック)、観客から飲食代を徴収するなどして、店舗におけるライブを営業に組み込んでおり、ライブにおける著作物の共同利用主体であるということができる。
 このように、ライブハウスの経営者とライブに出演する演奏者とは共同利用主体であると解すべきところ、利用主体の一方であるライブハウスの経営者が被告からの演奏利用許諾を得られる見込みのない場合に、当該経営者の代わりに演奏者が利用申込みをして、被告管理楽曲を同店舗の経営者が利用できるようにすることは、脱法行為に当たるというべきである。
 常識的に考えても、著作権使用料が未清算の店舗の営業の一環としてされる同一のライブについて、店舗経営者からの申込みであれば拒否し得るが、店舗経営者に代わって演奏者から利用許諾申込みがあった場合には拒否し得ないというのは、不合理である。
(ウ)著作権使用料が未清算の店舗における著作物の利用について、演奏者などの第三者による演奏利用申込みを許諾するとすれば、店舗による演奏利用申込みを拒否することによって過去の著作権使用料相当額の損害の塡補を促すという効果が失われてしまう。原告らは、過去の著作権使用料の未払分は強制執行等により回収すれば足りると主張するが、それには多大な費用、時間、労力を要し、場合によっては回収不能となることは、経験則上明らかである。
(エ)被告が、著作権使用料が未清算の店舗における著作物の利用に関し、演奏者からの演奏利用申込みを拒否したとしても、当該演奏者は、著作権侵害をしていない経営者が運営するライブハウスで被告管理楽曲を利用することができるから、当該演奏者が被告管理楽曲を利用することが過度に制約されるわけではない。実際上、原告X1は、本件店舗とは関係のない本件許諾店舗において、適法に被告の管理楽曲を演奏することができたのであり、他のバンドも代替的なライブハウスを見つけるのは難しくないと述べている(乙19の11頁)。
(オ)原告らは、本件各利用申込み拒否は独占禁止法に違反すると主張するが、同法は違法不当な取引の申込みを拒絶することを禁じていないので、同主張は失当である。原告らが指摘する国会答弁は、著作権等管理事業法に基づき利用者代表が著作権管理事業者と協議を行うこと自体は独占禁止法上問題にならないので、同法の適用除外規定を置かなかったというものにすぎず、著作権等管理事業法16条の「正当な理由」の解釈を左右するものではない。
(カ)なお、被告は、第三者からの利用申込みが、当該店舗の営業として行われるものでない場合は、これを許諾することとしている。原告らが指摘するデザフィナードの事例はそのような事例であり、被告は、申込みに係るコンサートがチャリティー目的のものであり、同店舗が飲食物を提供せず、店舗の営業とは無関係に開催されることを確認したことから、演奏利用許諾書の摘要欄に「チャリティー目的のコンサートのため許諾」(甲15)と明記し、その利用申込みを許諾したものである。
イ 本件利用申込み1をした原告X1は、以下のとおり、単なる第三者ではなく、本件店舗の運営者であるBと客観的に親密な関係にあって、本件店舗と同視すべき者であり、被告は、本件利用申込み1を受けた時点でそのことを把握していたため、本件利用申込み1を拒絶したものである。
(ア)原告らは、いずれも継続的に本件店舗でのライブに多数回の出演をしてきた(乙11)ばかりか、相互に親しい関係にあり、本件店舗の経営に積極的に協力し、Bとは、単なる音楽仲間を超えて特別に親密な間柄にあった。
 原告X1は、Bとフェイスブック上の友達であり、Bは、原告X1と本件著作権契約を締結しているブラスティーに所属するバンド「X.Y.Z.→A」メンバーであり(乙7の2)、同社代表者であるDはBのマネージャーである(乙7の3)。また、原告X1が所属するバンドである「八王子Transfer」は、同原告の配偶者及びEもメンバーとしているが、同配偶者はBとバンド「五星旗」を結成して演奏活動をし(乙4)、EはBの自宅の隣のB所有建物に住んでいたばかりか、本件店舗において、その店長である妻のFとともに同店舗の業務を手伝っていた。
(イ)Bは、別件一審判決後、本件店舗に出演する者らに対し、出演者自身が利用申込みをするように呼びかけ(乙8)、原告X1は、その呼びかけに応じ、本件利用申込み1をした。そして、被告が、原告X1に対し、本件利用申込み拒否1をしたところ、別件訴訟の控訴審において、その拒否を通知する書面が証拠として提出されるなどしていることなどからすれば、原告X1は、本件店舗の経営者らの別件訴訟における立場を有利にする目的をもって、本件利用申込み1をしたと推認し得る。
(ウ)Bは、別件一審判決後も著作権侵害行為を繰り返しており、平成28年4月6日には原告X1が本件店舗において被告管理楽曲を10曲演奏し、同月10日には原告X2及び同X3が同店舗において被告管理楽曲を21曲演奏するなどして、Bの著作権侵害行為に加担した。これに対し、原告らは、1曲140円を供託した上で演奏しているので、Bの著作権侵害行為に加担したものではないと主張するが、そのような事実は存在しない。
(3)演奏の自由の侵害について
 原告らは、本件利用申込み拒否1によって、憲法上の権利である演奏の自由が侵害されたともいう。しかし、我が国において、憲法の人権規定は、私人である被告の行為には適用されず、原告らの援用する「国家行為の理論」は、米国において適用される法理にすぎず、主張自体失当である。
(4)著作者人格権の侵害について
 原告らは、本件利用申込み拒否1が、著作権法113条11項の規定により、原告X1が作詞・作曲した楽曲に係る著作者人格権の侵害とみなされると主張する。
 しかし、同条項は、著作物を利用する行為があることを適用の要件とするものであり、本件利用申込み拒否1のように、著作物の許諾申込みを拒否する場合には著作物を利用する行為が存在しないから、著作者人格権侵害は生じ得ない。
 また、著作者人格権は、公表権、氏名表示権、同一性保持権から成るものであり、自作の楽曲につき演奏による利用許諾を受ける権利はそのいずれにも当たらない。
(5)本件3曲に関する権利侵害について
ア 本件3曲は、原告X1がその著作権をブラスティーに譲渡し、ブラスティーが被告に信託しているのであるから、被告との間で著作権の信託譲渡契約を締結しているのは、ブラスティーであって、原告X1ではない。
 これに対し、原告らは、本件著作権契約の性質は信託譲渡であると主張する。しかし、本件著作権契約4条は、譲渡する著作権の範囲について、演奏権を含む、現在及び将来において原告X1が有する「一切の支分権及び著作権に基づき発生するいかなる権利」をも含むとしており、本件著作権契約には、本件3曲の著作権を信託譲渡したことをうかがわせる規定はない。本件著作権契約は、有償譲渡契約の性質を有し、売買の規定が準用されるべきものであり、原告らが信託譲渡の根拠とする同契約上の他の規定も本件著作権契約が信託譲渡であると解する根拠となるものではない。
イ 原告らは、本件著作権契約10条1項2号iのなお書きに基づき、原告X1が被告に対して使用料を直接請求することができると主張するが、同規定が適用されるのは、原告X1が被告の委託者である場合であり、被告の委託者ではない原告X1には適用の余地がない。原告X1とブラスティー間の本件著作権契約により、被告に対する請求権は発生しないので、本件利用申込み拒否1が原告X1の著作権使用料の分配を受ける権利を侵害することはない。
ウ 原告らは、本件著作権契約が信託譲渡としての性質を有し、原告X1は応諾強制権を有していると主張する。しかし、本件著作権契約が信託譲渡としての性質を有しないことは前記のとおりであり、仮に、その性質を信託譲渡と解しても、その譲渡人が、譲受人の許諾を得ずに当該著作物を使用すれば、著作権侵害となる。
(6)損害の発生及びその額について
 原告X1の主張する損害の発生及びその額は争う。そもそも、原告X1は、平成28年6月9日、本件店舗から本件許諾店舗に会場を変更した上、予定していたライブと同一の内容のライブを実施しているのであるから(乙3)、それによる精神的損害を受けたとは考え難い。
1-2 争点1(2)(本件約款の内容に係る違法性等)
(原告らの主張)
(1)被告は、日本国内において音楽著作物の演奏権を独占的に管理している事業者でありながら、本件約款において、本件3曲の原著作者である原告X1が自らその著作物を使用することの留保を認めず、同原告に不公正な取引契約を強いてきた。この不公正な取引契約により、原告X1は自ら作詞・作曲した著作物について被告の許可が得られなければ演奏できなくなり、その演奏の自由及び著作者人格権が侵害された。
(2)原告X1が受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては50万円が相当であり、これと相当因果関係ある弁護士費用は5万円である。
(被告の主張)
(1)被告は、ブラスティーとの著作権信託契約を締結しているが、原告X1との間には直接の契約関係を有していないのであるから、「不公正な取引契約を強いてきた」という関係にはない。
(2)また、原著作者がその著作物を使用することについての留保権を認めるかどうかは、委託者と受託者の合意内容の問題であるところ、本件約款は、「管理の留保又は制限」に係る定めを置いているのであるから、何ら不公正・不合理な点はない。
(3)著作者人格権は、公表権、氏名表示権、同一性保持権からなるものである原告の主張する「留保」の権利とは無関係である。これを被侵害利益とする損害賠償請求は、主張自体失当である。
1-3 争点1(3)(著作物の管理に係る違法性等)
(原告らの主張)
(1)被告の行為
 原告X1は、平成28年10月12日、「Groovingmamagon」店舗(本件許諾店舗)において、「八王子Transfer秋ライブ!」と題する生演奏のライブを開催すべく、同年8月21日、被告に対し、自らが作詞・作曲したオリジナル曲5曲を含む曲目(合計12曲)の演奏申込みをした。
 ところが、被告は、平成28年8月29日、本件許諾店舗は被告と音楽著作物利用許諾契約を締結しているため、同店舗において被告管理楽曲を適法に利用できるとの理由から、演奏者本人である原告X1からの演奏利用許諾申込みを受け付けなかった。
 本件において、原告X1が著作権を有する本件3曲の演奏利用許諾申込みを被告が受け付けていれば、同原告に著作権使用料を配分できたにもかかわらず、被告は、ライブハウス等との利用許諾契約において所定の包括的利用許諾契約以外の契約を認めず、個々の演奏者からの利用許諾申込みを受け付けないという対応をしていることから、著作物の利用状況を把握しておらず、その結果、原告X1に正当な著作権使用料が配分されなかった。
 このように、被告による係る著作物管理方法は不適切かつ違法な管理方法であり、これにより原告X1の著作権及び著作者人格権は侵害された。
(2)これに対し、被告は、本件2曲の使用料133円(甲33)が支払われていると主張する。しかし、被告の使用料分配規程(甲40)によれば、平成28年10月~12月に徴収した使用料は、平成29年3月に支払われるべきものであり、同年6月に支払われた使用料は、本件10月演奏に係る支払には当たらない。
(3)被告は、原告X1との間には契約関係が存在しないなどと主張するが、仮に、同原告が被告に対して直接の請求権を有しないとしても、被告は、少なくとも、ブラスティーとの関係において、適正に著作権使用料を支払わず又はその支払が遅延したのであるから、被告は、原告X1との関係においても、ブラスティーによる同原告への使用料の配分を妨げたというべきである。
(4)被告の不適切な楽曲管理は、原告X1の本件2曲に係る著作権及び著作者人格権を侵害するということができ、これに対する精神的苦痛としては、慰謝料50万円が相当であり、これと相当因果関係ある弁護士費用は5万円である。
(被告の主張)
(1)被告が著作権信託契約を締結しているのはブラスティーであり、原告X1ではないので、原告X1は被告に対して著作権使用料の配分を求めることができない。
(2)被告は、本件2曲の著作権をブラスティーに譲渡しているので、著作権に基づく請求は失当である。また、被告は、著作者人格権が侵害されたとも主張するが、著作者人格権は、公表権、氏名表示権、同一性保持権から成るものであり、自作の楽曲の著作権使用料の分配を受ける権利はそのいずれにも当たらない。
(3)被告が、被告管理楽曲の利用状況を把握していないという事実はない。なお、被告は、本件10月演奏に係るライブについて、本件許諾店舗の経営者から報告書(乙5)の提出を受け、本件2曲各1回の演奏を確認し、これとは別の平成29年1月19日のライブにおける本件2曲各1回の演奏と併せ、ブラスティーに対し、本件2曲各2回分に相当する合計268円(ブラスティー分135円、原告分133円)を支払っている(甲33、乙26)
2 争点2(原告X2の請求)について
(原告らの主張)
(1)原告X2は、平成28年7月15日に本件店舗において「甲2結成20周年記念甲22ndアルバム完全再現ライブ」と題するライブを開催すべく、同年4月上旬、被告に対し、同アルバム曲の演奏申込み(本件利用申込み2)をした。
 ところが、被告は、原告X2に対し、本件店舗と被告との間で被告の管理する著作物の著作権使用料相当額の清算が未了であることを理由として、本件利用申込み2の受付けを拒否した(本件利用申込み拒否2)。このため、原告X2は、上記ライブを開催することができなかった。
 前記のとおり、著作権等管理事業法16条は、著作権等管理事業者は、正当な理由がなければ、取り扱っている著作物等の利用の許諾を拒んではならないと規定している。また、原告X2は、プロのギタリストとして、憲法21条が保障する演奏の自由を有する。
 以上のとおり、被告が原告X2による本件利用申込み2を拒否した行為は、著作権等管理事業法16条に違反するとともに、憲法21条の保障する演奏の自由を侵害する違法なものである。
 その理由の詳細は、原告X1の本件利用申込み拒否1に関する主張(ただし、原告X1固有の事情は除く。)と同様である。
(2)被告は、原告X2による本件利用申込み2が、別件訴訟を有利にするため、本件店舗の経営者らの「呼びかけ」に応じてなされたものであると主張する。
 しかし、本件利用申込み2をしたのは、ライブの3か月前であり、他の会場に空きがないか、チャージバック率の低い日程のみが空いている状態であった。同ライブには高いギャラを払ってドラム奏者に参加してもらうことになっており、チャージバック率の低い会場ではそのギャラが払えないという事情もあった。原告X2が本件利用申込み2をしたのは上記事情によるものであり、別件訴訟を有利にするためではない。
(3)被告は、原告X2も、Bと親しい間柄にあったとして、種々の事実を指摘する。しかし、原告X2にとって、本件店舗は、数ある出演先の一つにすぎなかった。確かに、原告X2が、本件店舗のため、入居先の物件探しを手伝ったこともあるが、同様の手伝いをした者は10名以上いる。本件店舗のプロモーションビデオに出演したことも事実であるが、60名以上の出演者の1人にすぎない。
 このように、原告X2がBと親密な関係にあるということはできない。
(4)原告X2及びX3が、平成28年4月10日、本件店舗において、演奏をしたことは確かであるが、同原告らは1曲140円を供託した上で演奏しているので、著作権侵害行為には加担していない。
(5)本件利用申込み拒否2の結果、原告X2は、平成28年7月15日に開催を予定していたライブの中止を余儀なくされた。その精神的苦痛に相当する慰謝料は100万円であり、これと相当因果関係のある弁護士費用は10万円である。
 また、原告X2は、平成28年7月15日に予定されていた本件店舗におけるライブの練習のためにスタジオを借り、4万円を支出したが、本件利用申込み拒否2により上記ライブが実施できなくなった。この費用も本件利用申込み拒否2による損害である。
(被告の主張)
(1)原告X2が本件利用申込み2を行ったのに対し、被告がその受付けを拒否したことから、平成28年7月15日に本件店舗において予定されていたライブを開催できなかったことは認める。
 原告らは、本件利用申込み拒否2が、著作権等管理事業法16条に違反する利用許諾拒否行為であるとともに、原告X2の演奏の自由を侵害すると主張するが、本件利用申込み拒否1についてと同様、原告らの主張は理由がない。
(2)原告X2は、その開店当初から本件店舗におけるライブに多数回の出演をしてきた者であり、本件店舗のプロモーションビデオに出演し、本件店舗のため、Bの依頼を受け、その入居先となる雑居ビルを探し出してくるほど、Bと親しい間柄にあった者である。また、原告X2は、本件訴訟の本人尋問において、本件店舗の開店より前にBの自宅台所に入っていたこと、同人の所有・経営する録音スタジオに知り合いの演奏家を紹介したこと、本件店舗の開店後、そのカウンター内で客に酒を作り、提供したこと、Bが中国に渡航する際、成田空港まで自動車で送ったことなどを認めており、これらの事実からもBと親密な関係にあったことは明らかである。
(3)原告X2の損害に関する主張は否認し又は争う。原告X2が、練習のためにスタジオを借り、その使用料を支出したことは知らない。
3 争点3(原告X3の請求)について
(原告らの主張)
(1)原告X3は、平成28年7月9日に本件店舗において「甲3ライブ」と題するライブを開催すべく、同年4月21日、被告に対し、9曲の演奏利用許諾申込み(本件利用申込み3)をした。
 ところが、被告は、原告X3に対し、本件店舗と被告との間で被告の管理する著作物の著作権使用料相当額の清算が未了であることを理由として、本件利用申込み3の受付けを拒否した(本件利用申込み拒否3)。このため、原告X3は、本件利用申込み3に係る曲目を演奏することができなくなり、楽曲を全て入れ替えて著作権の問題がない形でライブを行うなど、その内容の大幅な変更を余儀なくされた。
 前記のとおり、著作権等管理事業法16条は、著作権等管理事業者は、正当な理由がなければ、取り扱っている著作物等の利用の許諾を拒んではならないと規定している。また、原告X2は、セミプロのギタリストとして、憲法21条が保障する演奏の自由を有する。
 以上のとおり、被告が原告X2による本件利用申込みを拒否した行為は、著作権等管理事業法16条に違反するとともに、憲法21条の保障する演奏の自由を侵害する違法なものである。
 その理由の詳細は、原告X1の本件利用申込み拒否1に関する主張(ただし、原告X1固有の事情は除く。)と同様である。
(2)被告は、原告X3による本件利用申込み3が、別件訴訟を有利にするため、本件店舗の経営者らの「呼びかけ」に応じてなされたものであると主張する。
 しかし、原告X3とバンドメンバーのスケジュールの関係で、ライブは週末に行うほかなく、また、原告X3の職場から直接行くことのできる場所にする必要があった。しかも、ハードロックができて、機材を置いておける場所は本件店舗のほかなかった。原告X3が本件利用申込み3をしたのは上記事情によるものであり、別件訴訟を有利にするためではない。
(3)被告は、原告X3もBと親密な関係あったなどと主張する。しかし、原告X3は、社会人であるため、自宅の近所にある本件店舗のみを利用していたものの、Bとは、本件店舗内で会話するだけの関係であった。確かに、Bの自宅スタジオを利用したことはあるが、同スタジオは100名に近い人間が利用していた。プロモーションビデオに出演したことも事実であるが、60名以上の出演者の1人にすぎない。
(4)原告X2及びX3が、平成28年4月10日、本件店舗において、演奏をしたことは確かであるが、同原告らは1曲140円を供託した上で演奏しているので、著作権侵害行為には加担していない。
(5)本件利用申込み拒否3の結果、原告X3は、平成28年7月9日に開催を予定していたライブの曲目変更を余儀なくされた。その精神的苦痛に相当する慰謝料は50万円であり、これと相当因果関係のある弁護士費用は5万円である。
 また、原告X3は、平成28年7月15日に予定されていた本件店舗におけるライブの練習のためにスタジオを借り、1万5000円を支出したが、本件利用申込み拒否3により上記ライブが実施できなくなった。同費用も本件利用申込み拒否3による損害である。
(被告の主張)
(1)原告X3が本件利用申込み3を行ったのに対し、被告がその受付けを拒否したことから、平成28年7月9日に演奏曲目を変更してライブ演奏を行ったことは認める。ただし、原告X3は、同ライブにおいて、「OVERKILL」という被告管理楽曲の演奏を行っている。
 原告らは、本件利用申込み拒否3が、著作権等管理事業法16条に違反する利用許諾拒否行為であるとともに、原告X3の演奏の自由を侵害すると主張するが、本件利用申込み拒否1についてと同様、原告らの主張は理由がない。
(2)原告X3は、本件店舗の店長の名を冠したライブや本件店舗のプロモーションビデオにも出演し(乙11、乙21)、同店舗の開店時に私物のギターアンプを提供又は貸与していた。また、原告X3は、本件店舗でBと共演したことがあり、Bの自宅で行われたレコーディングにも参加するなど、Bと親密な関係にあった。さらに、原告X3は、原告X2と継続的に本件店舗のライブで共演し又は同原告のバンドと合同ライブを行っていた(乙9、21)。
(3)原告X3の損害に関する主張は否認し又は争う。慰謝料に係る損害の主張は否認し又は争う。原告X3が、ライブの練習のためにスタジオを借り、そのスタジオ使用料を支出したことは知らない。
第4 当裁判所の判断
1 認定事実
(1)本件店舗の営業態様
ア 本件店舗は、平成21年5月、BとCを主体として開始されたライブハウスであり、ミュージシャンに活動の場を提供するという趣旨から、出演者から会場の使用料を徴収せず、来客が支払ったライブチャージは、出演者が全て取得することができるという点を特色としていた。同店舗では、平成22年後半ころから、ライブチャージとは別に来演者から一律に1000円を徴収し、その限度では追加料金を支払わずに飲食し得るというシステムを採用していた。(乙27、28)
イ 本件店舗では、音響設備の外、ドラム、アンプ、キーボードなどを備え付け、その管理がされていた。これらの機材を備えるには多額の費用を要することから、同店舗の経営方針に賛同した出演者等が無償で私物の中古資材等を提供し、出演者が自由に使用できるようにしており、原告X2及び原告X3は、同店舗にギターアンプを提供するなどの協力をした。(乙27~29)
ウ 本件店舗における演奏等については、被告との利用許諾契約が締結されていなかった。Cは、平成25年11月26日、本件店舗の経営者として、平成24年6月11日以降の著作権使用料に係る供託手続(乙33)をしたが、別件一審判決は、これを本旨弁済に当たらないと判断した(乙18の1(57頁))。B及びCは、平成28年4月以降は、著作権使用料の供託を行っていない(乙18の4)。
(2)Bと本件店舗の関係
ア Bは、本件店舗の開業資金等380万円を負担し、本件店舗のために自己名義の固定電話を開設するなどし、知名度のある自らのバンド名を本件店舗の店名とした上、同バンドのメンバーの人脈から出演者を勧誘するなどし、自らのブログ上でも本件店舗を取り上げた。(甲38、乙27)
イ Bは、本件店舗の店長を、かねてからの知り合いであるFに依頼し、自らも、平成24年~平成25年頃までは、本件店舗の出演希望者のブッキング事務も担当していた。Fの夫であるEは、Bとバンド「五星旗」を組んでいたミュージシャンであり、Bの後に同事務を担当し、本件店舗にも多数回出演をしていた。(乙21、27~29)
ウ Bは、被告との利用許諾契約の締結について、平成21年11月6日頃まで、単独で交渉をし、その後の調停手続においては、委託者と被告との間の分配方法に納得し得ないから被告との契約に応じることはできないと主張した。(乙30、31)
(3)原告X1と本件店舗又はBとの関係
ア 原告X1は、アコースティックギターの弾き語りを中心に演奏活動をする者であり、平成26年1月、本件店舗でのEのバースデーライブに配偶者であるGとゲスト出演したことを契機に、3名でライブ活動を行うようになり、その後、このメンバーで「八王子Transfer」の名前で活動するようになった。同原告は、平成26年から平成28年にかけて、同バンドの一員やソロとして、本件店舗のライブに21回程度出演をした。(甲34、原告X1・2頁、32頁)
イ Gは、B及びEとともに、前記バンド「五星旗」を組むなどして活動しているピアニストであり、本件店舗におけるライブに関しても、Bとの共演による31回を含め、少なくとも合計49回の出演をしていた。(甲34、乙21、原告X1・3~4頁)
ウ 原告X1は、B及びEをフェイスブック上の友達に登録していた(乙21、原告X1・3頁)。また、Bのバンドである「X.Y.Z.→A」は、原告X1が本件3曲に関して著作権契約を締結しているブラスティーに所属するアーティスト(公表されているものは5組)のうちの一つであり(乙7の2)、その代表者であるDはBのマネージャーであった(乙7の3)。
(4)原告X2と本件店舗又はBとの関係
ア 原告X2は、本件店舗の開業に当たり、物件探しを手伝い、本件物件の内装を整えるに当たり、無償でトイレのタイル貼りなどをした。Bは、原告X2を本件店舗の「立ち上げスタッフ」の1人であると認識しており、本件店舗のプロモーションビデオに半裸で演奏する原告X2を出演させ、自らのブログ上にも、本件店舗のカウンターに立つ原告X2の写真を掲載するなどしていた。(乙21、27、34、原告X2・4頁)
イ 原告X2は、Bとの共演も含め、本件店舗のライブに少なくとも39回は出演している。その中には、「埋まらないスケジュールを埋める」ためのBの「無茶ぶり」によって、「急遽開催決定」などと紹介される「一人ギター」ライブもあった。(乙11、21)
ウ 原告X2は、本件店舗の開店前から、Bの自宅スタジオに知人のミュージシャンを案内して、その台所で写真を撮り、また、Bの中国ツアーのため、Bを車で成田空港まで送ったこともあった。(乙34、原告X2・8~9、13頁)
(5)原告X3と本件店舗又はBとの関係
ア 原告X3は、BやEとの共演を含め、本件店舗におけるライブに少なくとも32回は出演していた。また、本件店舗において、原告X2と共演することもあった。(乙11、21)
イ Bは、原告X3を本件店舗のプロモーションビデオに出演すべき「常連」であると認識しており、同ビデオの撮影過程に係る自らのブログ記事においても、原告X2とともに原告X3を「ギターのバイク屋X3’!」などと紹介していた。(乙21)
ウ 原告X3は、本件店舗におけるライブを通じて原告X1とも知り合いとなっており、原告X1は、原告X3をフェイスブック上の友達に登録していた。(乙21、原告X1・6頁)
2 争点1(原告X1の請求)について
2-1 争点1(1)(本件利用申込み拒否1の違法性等)について
(1)著作権等管理事業法16条の「正当な理由」の有無について
 原告らは、本件利用申込み拒否1は、著作権等管理事業法16条の「正当な理由」を欠いた違法なものであると主張するので、以下、検討する。
ア 著作権等管理事業法16条は、「正当な理由」がなければ、利用の許諾を拒んではならない旨を規定する。著作権者が、本来、著作物の利用の諾否を自由に決定し得ることに照らせば(著作権法63条1項)、同条の趣旨は、同法1条が規定する著作権者等の委託者の保護と著作物等の円滑な利用という観点から、著作権等管理事業者による許諾業務が恣意的に運用されることを防止することにあると解するのが相当である。
 このような同条の趣旨に鑑みれば、過去の使用料相当額を支払わない者が利用主体となる演奏に係る利用申込みを拒否することは、過去の使用料相当額の支払を促進するという事実上の効果を得ることができるという点で委託者の利益に沿い、誠実に使用料を支払っている利用者との公平を図り、著作権等の集中管理に対する信頼を確保するという点で著作権の円滑な利用に資する上、許諾業務が恣意的に運用されるおそれもないものであるから、同条の「正当な理由」があるというべきである。
 ところで、ライブハウス等の店舗がその営業の一環としてライブ等を開催して被告管理楽曲を演奏する場合には、当該店舗の経営者のみならず、演奏者もその利用主体に当たると解すべきところ、上記の「過去の使用料相当額を支払わない者が利用主体となる演奏に係る利用申込み」には、ライブハウス等の店舗の経営者自身が行った演奏利用申込みのみならず、被告からの演奏利用許諾が見込めない店舗経営者に代わり、共同利用主体である演奏者が行った演奏利用申込みも含むというべきである。
 仮に、第三者が演奏利用申込みをした場合には被告管理楽曲の利用を拒否できないとすると、過去の使用料相当額が未清算の店舗経営者が、演奏者と意を通じるなどして利用申込者を変えることにより、被告管理楽曲の利用主体となることを許容することになるが、このような解釈は、過去の使用料相当額の支払を促進することにより委託者の利益を図り、誠実に使用料を支払っている利用者との公平性を確保するという著作権等管理事業法の趣旨に合致しない。
 他方で、使用料相当額が未清算の店舗経営者が演奏利用申込みを行った場合と異なり、演奏者が演奏利用申込みを行った場合には、被告管理楽曲を利用することができないことにより演奏者が受ける不利益なども考慮する必要がある。このような観点からは、演奏者が行った演奏利用申込みを拒否することについて「正当な理由」があるかどうかは、演奏者と店舗経営者の関係、当該店舗における使用料相当額の清算状況、演奏者が演奏利用申込みをした経緯、当該演奏の目的・営利性、当該店舗が使用料相当額を支払っていないことについての演奏者の認識の有無、代替する演奏機会の確保の困難性などを総合的に考慮して決すべきである。
イ(ア)これを本件利用申込み拒否1についてみるに、前記前提事実(2)及び前記認定事実(1)、(2)によれば、Bは、本件店舗の基本方針の決定や運営に主体的に関与し、同店舗が開催するライブに出演する演奏家の勧誘等についても中心的な役割を果たしていた上、過去の未払の使用料相当額について支払義務を負っていたということができる。Bの平成28年9月12日までの未払使用料は約500万円に上り(別件控訴審判決)、別件一審判決後も無許諾で被告管理楽曲の演奏を行うライブを開催するなどしていた(前記前提事実(4)ウ)。
(イ)そして、前記認定事実(3)のとおり、本件利用申込み1をした原告X1は、本件店舗において開催されたライブ等に20回以上出演をし、同原告とともに音楽活動を行っている配偶者はBと30回以上にわたり共演している上、同原告が本件3曲について著作権契約を締結しているブラスティーにはBのバンド「X.Y.Z.→A」が所属し、更には同原告とBはフェイスブック上の友人関係にあるとの事実が認められる。
(ウ)加えて、前記前提事実(4)によれば、原告X1は、別件訴訟一審判決後に本件店舗から受領したメール(甲16)を閲読し、又は、本件店舗のホームページ(乙8)を参照することにより、本件店舗が使用料相当額を支払っていないこと及び別件訴訟一審判決が本件店舗に対し被告管理楽曲の使用の差止めを命じたことを認識していたと推認することが相当である。
 そして、同原告は、本件店舗からの演奏利用申込みが被告に拒絶される状況にあることを認識した上で、本件店舗の勧めに応じて本件利用申込み1をした上で、被告から受領した同利用申込み拒否1に係る書面の写しをBらに提供するなどして、Bらによる別件訴訟の追行に協力したということができる(前記前提事実(5))。
(エ)原告X1が出演を予定していたライブは、本件店舗の営業の一環として行われたものであり、同原告は、本件利用申込み拒否1を受けて、平成28年6月9日、本件店舗に代え、本件許諾店舗において、予定されていたライブを行ったと認められる(乙3、4)。
(オ)以上のとおりの原告X1とBの人的な関係、本件店舗における使用料相当額の清算状況、同原告が本件利用申込み1をした経緯、同原告が出演する予定であったライブの目的・営利性、本件店舗が使用料相当額を支払っていないことについての同原告の認識、Bを当事者とする訴訟に対する同原告の協力状況、代替する演奏機会の確保の困難性などを総合的に考慮すると、本件利用申込み拒否1には、著作権等管理事業法16条の「正当な理由」があったということができる。
ウ これに対し、原告らは、以下のとおり主張するが、いずれも理由がない。
(ア)原告らは、被告が受益者に負う善管注意義務や忠実義務、演奏者の享受すべき演奏の自由の価値、独占禁止法上との関係などを強調し、著作権等管理事業法16条の「正当な理由」は厳格に解されるべきであるとした上で、「正当な理由」の有無は、その利用申込みに応じることによって、受益者に対する配当の原資を得られるかどうかを基準にすべきであると主張する。
 しかし、被告が受益者に善管注意義務や忠実義務を負うことや、演奏者が演奏の自由を有することから、直ちに、同条の「正当な理由」の判断基準が導き出されるものではない。原告らは、利用申込みに応じることにより「受益者に対する配当の原資を得られるかどうか」を判断基準とすべきであると主張するが、本件利用申込み1に応じることにより受益者に対する配当の原資を得られたとしても、それにより、過去の未払の使用料相当額の清算が促進されるわけではなく、かえって、使用料相当額を支払わない店舗がその清算を行わないまま被告管理楽曲の利用を継続できることになると、誠実に使用料を支払っている利用者との公平性を損ね、委託者の利益にも沿わないというべきである。
 また、原告らは独占禁止法との関係を問題とするが、原告らが挙げる国会答弁(甲13)は、著作権等管理事業法に基づいて利用者代表が指定管理事業者と協議を行うことが独占禁止法上の問題になるかどうかについての説明であり、同法16条の「正当な理由」の解釈に関するものではない。
 そうすると、「受益者に対する配当の原資を得られるかどうか」を判断基準とすべきであるとの原告らの主張は採用し得ない。
(イ)原告らは、新たな利用申込みに係る使用料の支払を受けることと、過去の未払を回収することは別の問題であると主張する。
 しかし、過去の使用料相当額を支払わない者が利用主体となる演奏に係る利用申込みを被告が拒否し得ないとすれば、使用料相当額の未払の解消を促進する手段が失われ、著作権等の集中管理に対する信頼一般が損なわれるとともに、その不利益は使用料の支払を受ける受益者自身にも及ぶことになる。原告らの主張は、過去の未払分は別途回収すれば足りることを前提とするが、それには相応のコストを要することを考慮すると、過去の未払がある場合には新たな利用申込みに応じないという方針を採用することにより著作権使用料の未払を事前に抑止することが、受益者の合理的意思に沿うものというべきである。
(ウ)原告らは、原告X1の出演する予定のライブは、演奏者が曲目選定や宣伝活動をし、ライブチャージを取得するなど、店舗が利益の帰属主体となるようなものではなかったので、両者は共同利用主体の関係にないと主張する。
 しかし、前記認定事実(1)のとおり、本件店舗は、ライブの場を提供することを目的とし、音響設備等を備え付けたライブハウスであり、演奏者からライブチャージを取得していたわけではないが、ライブの来演者からの飲食代を収益源としていたものである。原告X1が、その出演するライブの曲目選定や宣伝活動をしていたとして、同ライブが本件店舗の営業の一環として行われ、本件店舗がライブ開催による利益の帰属主体となっている以上、本件店舗における演奏を管理・支配していたBが演奏主体となることを妨げるものではないというべきである。
(エ)原告らは、被告が本件利用申込み1を拒否するに当たり、実質的な権利者である委託者や受益者の意思を確認する義務を負っていたにもかかわらず、被告は、原告X1及びブラスティーの意思の確認を怠ったと主張する。
 しかし、著作権等管理事業法は、「正当な理由」がなければ、被告は利用の許諾を拒んではならないと規定するにすぎず、被告が演奏利用申込みを拒絶するに当たり、委託者や受益者の意思を確認することを求めていない。また、信託法や本件約款にも、演奏利用許諾申込みを拒否するに当たり、被告が委託者や受益者の意思を確認しなければならない旨の規定は置かれていない。
 したがって、原告らが主張するような義務を被告が負っていたということはできない。
(オ)原告らは、デサフィナードにおける被告の対応を根拠に、被告の諾否の方針は一貫していないと主張する。
 この点、被告が、デサフィナードについて、過去の使用料相当額に未払があるにもかかわらず、特定非営利活動法人による「ハッピーチャリティコンサート」(参加料1000円)による利用申入れを許諾したことには争いがない(甲15、17)。
 しかし、同コンサートに係る演奏利用許諾書(甲15)の摘要欄には「チャリティー目的のコンサートのため許諾」と記載されていることによれば、被告は、当該利用申入れが、知的障害者のための非営利のコンサートであるとの認識の下、これを許諾したと認められ、その参加料1000円の一部(甲18)が当該店舗に支払われることを被告が認識していたと認めるに足りる証拠もない。また、過去の使用料相当額を支払っていない店舗が開催したチャリティーコンサートにおける演奏利用申込みを許諾した事例があるとしても、前記判示のとおり、利用申込みの諾否に当たっては、当該演奏の目的など当該事例における個別事情を考慮することが許容されるというべきであって、上記事例の存在から被告の対応が恣意的であるということはできない。
(カ)原告らは、原告X1による本件利用申込み1は、自らの演奏活動のためにしたものにすぎず、別件訴訟を有利にすることを目的とするものではなく、Bとも親密な関係にはなかったと主張する。
 しかし、原告X1による本件利用申込み1が自らの演奏活動のためにしたものであるとしても、前記判示の事情を考慮すると、本件利用申込み拒否1には、著作権等管理事業法16条の「正当な理由」があったというべきである。
(2)演奏の自由の侵害
 原告らは、本件利用申込み拒否1は、憲法の保障する原告X1の演奏の自由を侵害する違憲な行為でもあると主張するが、一般社団法人であり、著作権等管理事業法上の著作権等管理事業者にすぎない被告の行為に憲法の人権規定を直接適用する法的な根拠はなく、米国法上の国家行為の理論も適用の余地はない。
(3)著作者人格権の侵害
 原告らは、原告X1の要望に反する本件利用申込み拒否1は、原告X1が作詞・作曲した曲について、著作権法113条11項に基づき、その著作者人格権の侵害とみなされると主張するが、原告X1が作詞・作曲した楽曲については、本件利用申込み拒否1により「その著作物を利用する行為」が存在しなかったのであるから、原告らの主張は理由がない。
 これに対し、原告らは、同項の「名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」には利用申込みを拒否する不作為も含まれると主張するが、かかる解釈は同項の文言と整合せず、採用し得ない。
(4)本件3曲に関する権利侵害
 原告らは、原告X1が、本件3曲に係る実質的な受益者としての地位にあり、又は、被告に対して応諾強制権を有することを根拠に、本件利用申込み拒否1が違法であると主張するが、以下のとおり、理由がない。
ア 原告X1は、本件3曲に係る信託関係において、その実質的な受益者であると主張する。
(ア)しかし、本件3曲は、ブラスティーが、本件約款に基づき、被告に信託譲渡していたものであり、本件約款3条2項は、「委託者が受託者の同意を得て第三者を受益者として指定したとき」を除き、委託者が受益者になると定めている。本件において、原告X1を「受益者として指定した」ことをうかがわせる証拠はないことに照らすと、被告とブラスティーの信託契約における受益者はブラスティーと認めるのが相当である。
(イ)この点、原告X1は、本件著作権契約書には被告に対する著作権使用料の直接請求権の規定があると指摘し、本件3曲が演奏されれば、原告X1は、ブラスティーを通じ、著作権使用料を受け取ることができたと主張するが、本件著作権契約は、当事者である作詞・作曲家と音楽出版社との関係を規律するものにすぎず、当該規定を根拠として、被告が原告X1に対して使用料相当額の支払義務を負うと解することはできない。
(ウ)また、原告X1は、音楽業界において、本件著作権契約のようにFCA・MPAフォームでの契約を締結することは、自らの著作権の管理を被告に信託するのと等しく、原告X1とブラスティーとは一体とみるべきであると主張する。
 しかし、原告X1とブラスティーは異なる法主体であり、被告との著作権信託契約の当事者はブラスティーであり、原告X1はブラスティーとの間で本件著作権契約を締結しているのであって、原告X1とブラスティーとを「一体」のものとみなすことはできない。
イ また、原告X1は、本件著作権契約が、著作権の信託譲渡契約であることを前提に、本件利用申込み拒否1が、原告X1に留保された著作権に由来する応諾強制権を侵害すると主張する。
(ア)しかし、本件著作権契約(甲14)には、①原告X1とブラスティーは、本件著作権契約の対象となる著作物の著作権の「譲渡」に関し、同契約を締結する(柱書き)、②原告X1が、ブラスティーに対し、その著作権を「独占的に譲渡」する(1条)、③譲渡の対象について、原告X1が現在及び将来に有する「一切の支分権及び著作権に基づき発生するいかなる権利」を含む(4条)などと規定され、信託契約であることをうかがわせる文言は使用されていない。
 このような同契約の規定振りに加え、著作権等管理事業を行うには文化庁長官の登録を受けなければならず(著作権等管理事業法3条)、本件著作権契約は、著作権等管理事業ではない音楽出版社が著作権の譲受人となることを予定したFCA・MPAフォームによるものであること(乙12、13)などによれば、本件著作権契約は、著作権の真正な譲渡契約であると理解するのが契約当事者の合理的意思にも合致するというべきである。
(イ)これに対して、原告らは、①前記の直接請求に係る規定があること、②譲渡の対価が著作権使用料であるとされていること、③ブラスティーによる著作権の売却・譲渡等が禁止されていること、④契約終了時に著作権が原告X1に復帰するとされていることなどを根拠として、本件著作権契約の性質が信託譲渡であると主張するが、これらの規定は、著作権の譲渡に関する特約と解することが可能なものであり、これらの規定をもって、本件著作権契約の性質が信託譲渡であるということはできない。
ウ 以上によれば、本件利用申込み拒否1が、原告X1の受益者として使用料の配分を受ける権利や原告X1に留保された応諾強制権を侵害するということはできない。
(5)以上のとおり、本件利用申込み拒否1が、不法行為を構成するということはできないので、その余の点を検討するまでもなく、原告X1の請求は理由がない。
2-2 争点1(2)(本件約款の内容に係る違法性等)
 原告らは、原告X1が、本件利用申込み拒否1によって、自らが作詞・作曲した本件3曲さえも演奏することができなかったのは、被告が、本件約款上、自らの著作物を使用する権利を留保することを認めず、不公正な取引方法を強いているためであると主張し、これが不公正な取引方法として、原告X1に対する不法行為を構成すると主張する。
(1)しかし、原告らの主張は、本件約款が原告X1にも適用されることを前提にするものであると解されるところ、本件3曲は、前記2-1(4)アのとおり、ブラスティーが、委託者兼受益者として、本件約款に基づき、被告に信託譲渡していたものであって、原告X1には本件約款は適用されないので、原告らの主張はその前提を欠くものである。
(2)また、原告らは、本件約款は、原告X1の著作者人格権及び演奏の自由を侵害する点で不法行為を構成するとも主張するが、原告X1が作詞・作曲した楽曲については、本件利用申込み拒否1により「その著作物を利用する行為」が存在しなかったのであるから、同原告の著作者人格権が侵害されたということができず、被告の行為に憲法の人権規定を直接適用する法的な根拠がないことも前記のとおりである。
(3)さらに、原告らは、本件約款は委託者がその著作物を自ら使用する権利を留保することを認めていないと主張するが、前記前提事実(8)ウのとおり、本件約款は、委託者がその著作権を信託譲渡するに当たり、これを自ら利用するため、その管理委託の範囲を留保することを可能にする規定を置いていたと認められる。
(4)以上のとおり、被告の本件約款に係る取引方法が、原告X1との関係で不法行為を構成するということはできない。
2―3 争点1(3)(著作物の管理に係る違法性等)
 原告らは、被告が、ライブハウス等との利用許諾契約において所定の包括的利用許諾契約以外の契約を認めておらず、個々の演奏者からの利用許諾申込みの受付けを拒否しているため、原告X1は自己の著作物の利用状況を把握できず、正当な著作権使用料の配分を受けることができなかったものであり、被告による係る著作物管理方法は不適切かつ違法な管理方法であり、不法行為を構成すると主張する。
(1)原告らは、被告が、ライブハウス等との利用許諾契約において所定の包括的利用許諾契約以外の契約を認めていないと主張するが、被告は、本件店舗について包括的利用許諾方式によらない許諾契約の方法を案内しており(乙30)、また、原告X1が平成28年6月9日に本件許諾店舗において本件利用申込み1に係る代替ライブ行った際、同店舗は、利用のたびに1曲1回の使用料を支払う契約方式(単発契約)による利用申込みを行い、被告の許諾を得たものと認められる(乙3)。したがって、被告が、ライブハウス等との利用許諾契約において所定の包括的利用許諾契約以外の契約を認めていないとの原告主張は採用し得ない。
 また、原告らは、被告X1による本件許諾店舗における本件10月演奏の利用申込みが拒絶されたと主張するが、被告は、同年7月に同店舗と包括的利用許諾契約を締結していたため、原告X1に演奏利用申込みをしなくても適法に被告管理楽曲を利用することができる旨を通知したにすぎず、原告X1による被告管理楽曲の利用を拒絶したものではない。
(2)また、原告らは、被告による著作物の管理方法が不適切かつ違法であったため、原告X1は自己の著作物の利用状況を把握することができなかったと主張するが、本件2曲は、原告X1が、本件著作権契約に基づき、ブラスティーに対して著作権の真正な譲渡をし、ブラスティーが、委託者兼受益者として、これを被告に信託譲渡していたものなのであるから、著作権使用料の支払状況については原告X1がブラスティーに確認すべき事柄であり、被告による管理楽曲の管理が原告X1に対する不法行為を構成するものではない。
(3)さらに、原告X1は、自己の著作物について被告から正当な著作権使用料の配分を受けていないと主張するが、証拠(甲33、乙5、26)及び弁論の全趣旨によれば、本件許諾店舗は、被告に対し、本件10月演奏に係る本件2曲の使用を報告し、被告が、ブラスティーに対し、本件2曲に係る使用料を支払っているとの事実が認められる。
(4)原告らは、被告の不適切な楽曲管理が、原告X1の著作権及び著作者人格権を侵害すると主張するが、原告X1が本件著作権契約により本件2曲の著作権を喪失していることは、前記判示のとおりであり、また、被告の不適切な楽曲管理は、公表権、氏名表示権、同一性保持権のいずれにも関係しない。
(5)以上のとおり、被告の不適切な楽曲管理が、原告X1の著作権又は著作者人格権を侵害し、不法行為を構成するということはできない。
3 争点2(原告X2の請求〔本件利用申込み拒否2の違法性等〕)について
 原告らは、本件利用申込み拒否1と同様、本件利用申込み拒否2も、著作権等管理事業法16条の「正当な理由」を欠いた違法なものであると主張する。
(1)著作権等管理事業法16条の「正当な理由」の意義及び判断基準については、前記2-1(1)アのとおりであり、本件利用申込み拒否2について「正当な理由」があるかどうかは、前記判示の諸事情を総合的に考慮して決すべきである。
(2)ア Bが、本件店舗の運営に主体的に関与し、過去の未払の使用料相当額について支払義務を負うこと、使用料相当額の未払の状況等は、前記判示のとおりであるところ、原告X2は、前記認定事実(4)のとおり、本件店舗の立ち上げスタッフの一人であり、本件店舗の物件探しの手伝いをしているほか、Bとの共演も含め、本件店舗のライブに多数回出演し、本件店舗のプロモーションビデオにも出演しているものと認められる。また、同原告は、本件店舗の開店前から、Bの自宅スタジオに知人のミュージシャンを案内し、Bの中国ツアーの際には同人を車で成田空港まで送ったこともあったと認められる。これによれば、原告X2はBと個人的に親しい間柄にあったものというべきである。
 なお、原告X2は、前記認定事実(1)イについて、本件店舗のため、中古のギターアンプを提供したことはないと供述するが(原告X2・12~13頁)、Bが、別件訴訟において、「機材・楽器一覧表」を提出し、この点を具体的に説明していることからすれば(乙27)、同原告の上記供述を採用することはできない。
イ また、前記前提事実(4)によれば、原告X2は、別件訴訟一審判決の後に本件店舗から受領したメール(甲16)を閲読し、又は、本件店舗のホームページ(乙8)を参照することにより、本件店舗が使用料相当額を支払っていないこと及び別件訴訟一審判決が本件店舗に対し被告管理楽曲の使用の差止めを命じたことを認識していたと推認することが相当である。
 そして、同原告は、本件店舗からの演奏利用申込みが被告に拒絶される状況にあることを認識した上で、本件店舗の勧めに応じて本件利用申込み2をした上で、同利用申込み拒否2に係る書面の写しをBらに提供するなどして、Bらによる別件訴訟の追行に協力したということができる(前記前提事実(5))。
ウ 原告X2が出演を予定していたライブは、本件店舗の営業の一環として行われたものであり、同原告が、本件利用申込み拒否2を受けて、新たなライブ会場を探して予定されたライブを行ったとの事実は認められないものの、プロのギタリストである同原告が本件店舗以外の店舗においてライブを開催することは可能であったと考えるのが相当である。
エ 以上のとおりの原告X2とBの人的な関係、本件店舗における使用料相当額の清算状況、同原告が本件利用申込み2をした経緯、同原告が出演する予定であったライブの目的営利性、本件店舗が使用料相当額を支払っていないことについての同原告の認識、Bを当事者とする訴訟に対する同原告の協力状況、代替する演奏機会の確保の困難性などを総合的に考慮すると、本件利用申込み拒否2には、著作権等管理事業法16条の「正当な理由」があったということができる。
(3)以上のとおり、本件利用申込み拒否2が不法行為を構成するということはできないので、その余の点を検討するまでもなく、原告X2の請求は理由がない。
4 争点3(原告X3の請求〔本件利用申込み拒否3の違法性等〕)について
 原告らは、本件利用申込み拒否3についても、著作権等管理事業法16条の「正当な理由」を欠いた違法なものであると主張する。
(1)著作権等管理事業法16条の「正当な理由」の意義及び判断基準については、前記2-1(1)アのとおりであり、本件利用申込み拒否3について「正当な理由」があるかどうかは、前記判示の諸事情を総合的に考慮して決すべきである。
(2)ア Bが、本件店舗の運営に主体的に関与し、過去の未払の使用料相当額について支払義務を負うこと、使用料相当額の未払の状況等は、前記判示のとおりであるところ、原告X3は、前記認定事実(5)のとおり、Bから「常連」であると認識されており、本件店舗のプロモーションビデオにも出演している上、B等との共演を含め、本件店舗におけるライブに少なくとも30回以上出演し、本件店舗において、原告X2と共演することもあったと認められる。
イ そして、前記前提事実(4)によれば、原告X3は、別件訴訟一審判決の後に本件店舗から受領したメール(甲16)を閲読し、又は、本件店舗のホームページ(乙8)を参照することにより、本件店舗が使用料相当額を支払っていないこと及び別件訴訟一審判決が本件店舗に対し被告管理楽曲の使用の差止めを命じたことを認識していたと推認することが相当である。
 そして、同原告は、本件店舗からの演奏利用申込みが被告に拒絶される状況にあることを認識した上で、本件店舗の勧めに応じて本件利用申込み3をした上で、同利用申込み拒否3に係る書面の写しをBらに提供するなどして、Bらによる別件訴訟の追行に協力したということができる(前記前提事実(5))。
ウ 原告X3が出演を予定していたライブは、本件店舗の営業の一環として行われるものであり、これに加えて、以上のとおりの原告X3とBの人的な関係、本件店舗における使用料相当額の清算状況、同原告が本件利用申込み3をした経緯、同原告が出演する予定であったライブの目的・営利性、本件店舗が使用料相当額を支払っていないことについての同原告の認識、Bを当事者とする訴訟に対する原告X3の協力状況などに照らすと、原告X3が仕事をしながら演奏活動を行っており、職場から近い本件店舗を利用する必要性が高かったという点を考慮しても、本件利用申込み拒否3には、著作権等管理事業法16条の「正当な理由」があったということができる。
(3)以上のとおり、本件利用申込み拒否3が不法行為を構成するということはできないので、その余の点を検討するまでもなく、原告X3の請求は理由がない。
5 結論
 よって、原告らの請求は、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 佐藤達文
 裁判官 吉野俊太郎
 裁判官 三井大有は転補のため署名押印することができない。
裁判長裁判官 佐藤達文
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