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【事件名】求人広告の著作物性事件
【年月日】令和3年4月8日
 大阪地裁 平成30年(ワ)第5629号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 令和3年1月25日)

判決
原告 株式会社シグナル
同訴訟代理人弁護士 本間拓洋
被告 株式会社メディック(以下「被告会社」という。)
被告P1
被告P2
被告ら訴訟代理人弁護士 平間力
同 西濱康行


主文
1 被告らは、原告に対し、連帯して106万9101円及びこれに対する平成29年12月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告会社は、原告に対し、50万0280円及びこれに対する平成30年6月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、これを100分し、その71を原告の、その9を被告会社の負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。
5 この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求の趣旨
1 被告らは、原告に対し、連帯して457万4454円及びこれに対する平成29年12月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告会社は、原告に対し、81万3582円及びこれに対する平成30年6月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は、広告代理店業等を主たる業務とする原告が、被告ら(請求1)及び被告会社(請求2)に対し、以下の請求をする事案である。
(1)請求1
 原告の取締役であった被告P1、従業員であった被告P2及び原告と同じく広告代理店業等を主たる業務とする被告会社が、共謀して、被告P1の原告取締役在任中の任務違背行為(主位的主張)又は被告P2の競業避止義務違反行為(予備的主張)により原告の顧客を侵奪するなどし、これにより原告が損害を被ったとして、被告らに対し、共同不法行為(民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)719条1項)に基づく損害賠償請求権の全部又は一部請求として、連帯して457万4454円の損害賠償及びこれに対する最終の不法行為日である平成29年12月31日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払(以下「請求1」という。)
(2)請求2
 被告会社が、原告が著作権を有する求人広告原稿を無断で複製、翻案し、ウェブサイトに掲載して原告の著作権(複製権、翻案権、公衆送信権)を侵害したとして、被告会社に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、81万3582円の損害賠償及びこれに対する最終の不法行為日である平成30年6月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払(以下「請求2」という。)
2 前提事実(証拠等を掲げていない事実は当事者間に争いがない。なお、枝番号のある証拠で枝番号の記載のないものは全ての枝番号を含む。)
(1)当事者等
ア 原告
 原告は、大阪市を本店所在地とし、広告代理店業を主たる業務とする株式会社であり、同じく大阪市を本店所在地とする株式会社シグナルホールディングス(以下「原告親会社」という。)の100%子会社である。
 なお、原告は、平成30年2月15日、東京都千代田区を本店所在地とし、広告代理店業等を目的とする株式会社シグナル東京を吸収合併した(以下では、平成30年2月15日以前については同社をもって「原告」という。)。
イ 被告会社
 被告会社は、東京都港区を本店所在地とし、原告及び原告親会社と同じく広告代理業を主たる業務とする株式会社である。
ウ 被告P1
(ア)被告P1は、平成27年2月13日に原告の取締役に就任し、平成29年9月30日に原告を退職するまでに、これを辞任した者である(被告P1が原告取締役を辞任した時期については、後記のとおり当事者間に争いがある。なお、被告P1は、平成30年2月15日に株式会社シグナル東京の登記が閉鎖されるまで、同社の取締役として登記されていた。甲1−2)。
(イ)被告P1は、原告入社前、求人情報誌の広告取材に関する代理業務等を目的とする株式会社エフエー(以下「エフエー」という。)の取締役であったが(甲24)、エフエーと原告の事業統合に伴い原告に移籍し、その取締役となった。被告P1は、平成27年2月から少なくとも平成29年4月までは、原告の求人広告代理業務に従事し、これに関する事業計画の立案とその進捗管理、マネージャー会議等の会議への参加・運営、広告主や広告原稿の入稿先である株式会社リクルートホールディングス(以下「リクルート」という。)との折衝等を行っていた。
(ウ)被告P1は、原告退職後の平成29年10月2日、広告代理店業等を目的とするフェースジム株式会社(以下「フェースジム」という。)の代表取締役に就任した(甲23の1。なお、同社においては、P3が被告P1の就任前から代表取締役を務めている。甲27)。また、被告P1は、遅くとも同月20日以前のいずれかの時点で、被告会社のHR事業本部長に就任したが、その際、被告会社との間で雇用契約は締結されていない。
エ 被告P2
 被告P2は、平成27年4月1日、エフエーから原告へ移籍し、顧客に対する営業を担当していたが、平成29年5月31日、原告を退職した。
 その後、被告P2は、少なくとも同年9月30日まで「Biz-HumAn」の屋号により広告代理業を主たる業務として活動していたが、同年10月2日、フェースジムに採用された。また、被告P2は、遅くとも同月20日以前のいずれかの時点で、被告会社の営業部マネージャーに就任したが、その際、被告会社との間で雇用契約は締結されていない。
オ その他の関係者
(ア)グラン・エム株式会社(以下「グラン・エム」という。)は、総合求人広告代理店事業等を業務とする株式会社であるところ、P4は、その創業者であり、平成30年3月まで、その代表取締役であった(甲23の2、乙18)。なお、フェースジムは、グラン・エムと共に、P4が代表取締役を務めるグランホールディングス株式会社のグループ企業であり、主にリクルートが発行する求人広告媒体の広告原稿を制作している(甲23の2、乙17の2)。
(イ)株式会社アイ・コミュニケーションズ(以下「アイコミ」という。また、グラン・エム及びアイコミを併せて「グラン・エムら」という。)は、求人広告事業等を業務とする株式会社であるところ、P5は、その設立者であり、代表取締役である。
(2)原告及び被告会社がリクルートとの関連で行う広告代理店業務
ア リクルートは、広告事業を営む会社を含むグループ会社の経営方針策定・経営管理を主たる業務とする株式会社であり、その発行する「タウンワーク」、「リクナビNEXT」等の求人広告媒体(以下「リクルート媒体」という。)に広告主の求人広告を掲載することを主たる内容とするサービス(以下「本件求人サービス」という。)を提供している。
イ リクルートは、原告親会社及び被告会社等広告代理業務を行う広告代理店との間で販売パートナー契約(以下「本件パートナー契約」という。また、本件パートナー契約に係る契約書(甲5)を「本件パートナー契約書」という。)を締結し、本件求人サービスに係る以下の販売委託業務(以下「本件業務」という。)等を委託している。
・本件業務の内容(1条)
@ 所定の求人商品・サービスの営業(リクルート媒体に掲載する広告の募集等を含む)
A @に基づいて発生する顧客からの申込をリクルートの名をもって受領し、同社に取り次ぐ業務
B 顧客より申し込まれた広告掲載に際しての原稿制作(制作発注及び確認作業等を含む)及び入稿作業
C 求人商品・サービスに関するコンサルティング(効果測定、顧客フォロー、クレーム対応を含む)
D その他リクルートが特に指示した業務及び@〜Cに付随関連する業務・販売委託手数料等(4条)
 受託業者は、リクルートが定める販売価格にて顧客から求人商品・サービスの申込を受け、行った本件業務に対し、リクルートから契約所定の基準に従った販売委託手数料の支払を受ける。
・著作物利用許諾(15条)
 受託業者は、受託業者又はその再委託先が、リクルート発行の求人情報誌の原稿及びその販促物を作成した場合、それらの原稿及び販促物について、リクルートが、上記求人情報誌、その転載先及びリクルートが作成する資料等に使用することについて了承する。
 なお、リクルートから本件業務の委託を受ける広告代理店は、その広告取扱量に応じて、上位から順に「トップパートナー」、「ゼネラルパートナー」、「パートナー」、「新パートナー」に分類される。この分類ごとに、手数料の料率、各種インセンティブ等における取扱いが異なる。
 原告親会社は、このうちトップパートナーの地位にあり、原告は、リクルートの承諾を得た上で、原告親会社から本件業務の再委託を受けて本件業務をリクルートに対して提供している。
 他方、被告は、平成29年当時、パートナーの地位にあった。
(3)競業避止義務に関する原告の規定等
ア 被告P1及び被告P2は、いずれも、平成27年4月3日付け入社誓約書(甲7の1、7の2。以下、それぞれ「被告P1入社時誓約書」、「被告P2入社時誓約書」という。)に署名押印した。各誓約書には、いずれも以下の遵守事項の記載がある。
・「社員として貴社の定めた就業規則その他諸服務規程を厳守し…ます。」
・「在職中又は退職後に、貴社顧客に対して個人的な営業活動等は行いません。」
・「貴社で知りえた顧客情報及び機密情報等について、在職中又は退職後においても一切他に漏洩しません。」
イ 被告P1及び被告P2が原告在職中に適用される原告の就業規則(甲7の3。以下「本件就業規則」という。)には、「競業禁止」(85条)として、以下の規定がある。
1、「競業禁止の期間・地域及び競業禁止を適用する社員の範囲を以下に定める
ものとする。
2、退職後2年間は、在職中及び退職後を通じて、会社の許可なしに業務上知り得た会社の機密事項を利用して在職中に担当したことのある営業地域にある同業他社へ就職・役員就任をして当社の顧客に対して営業活動、並びに同業の自営をおこなってはいけない。
3、同業他社への就職・役員就任及び当社既存取引先への営業活動を禁ずるものとする。又当社既存取引先への営業活動、社員の引き抜き行為を禁ずるものとする。
4、競業禁止する地域は、会社やグループ企業および関連会社の店舗の隣接市区町村とする。」
ウ 被告P2は、原告退職に際し、平成29年6月7日付け「秘密保持に関する誓約書(退職時)」(甲7の4。以下「被告P2退社時誓約書」という。)に署名押印した。同誓約書には、以下の記載がある。
・3条(退職後の秘密保持の誓約)
 「秘密情報については、貴社を退職した後においても、私自身のため、あるいは他の事業者その他の第三者のために開示、漏洩もしくは使用しないことを約束致します。」
・4条(競業避止義務の確認)
 「私は、前条を遵守するため、貴社退職後、連絡・相談なしに次の行為を行わないことを約束致します。
@ 貴社と競合関係に立つ事業者への就職や役員就任
A 貴社と競合関係に立つ事業者の提携先企業への就職や役員就任
B 貴社と競合関係に立つ事業の開業または設立」
 なお、被告P2は、原告退職に際し、秘密保持手当その他名目の如何を問わず、上記各義務の遵守につき、原告から金銭の支払を受けていない。(被告P2、弁論の全趣旨)
(4)グラン・エムらと原告との関係等
 被告P1は、エフエー在籍時、既にP4及びP5と親交があったところ、これもあって、グラン・エムらは、グラン・エムらと取引のある広告主がリクルート媒体への求人広告の掲載を希望する場合、エフエーと以下のような取引(以下、このような取引の流れを「本件商流A」という。)を行っていた。
・グラン・エムらが、自ら広告原稿案を作成する前提で、エフエーに広告主を紹介する。
・エフエーが当該広告主から求人広告の掲載を受注する。
・グラン・エムらが広告原稿を作成する。
・エフエーが当該広告原稿をリクルートに入稿する。
・エフエーがリクルートから手数料を受領し、その一部を原稿制作料の名目でエフエーからグラン・エムらが受領する。
 このような本件商流Aは、エフエーと原告との事業統合に伴い原告に引き継がれ、グラン・エムらとの上記取引のほか、エフエーを介してリクルート媒体へ広告へ掲載していた広告主の求人広告も、エフエーに代わり、原告を介してリクルート媒体に掲載されるようになった。(証人P4、同P5、被告P1、弁論の全趣旨)
(5)原告及び被告会社の求人広告原稿
 原告は、別紙原稿目録1〜7の各「原告原稿」欄記載の各求人広告原稿(以下、別紙原稿目録の番号に合わせて「原告原稿1」などという。また、これらを併せて「原告原稿」という。)を、その従業員に職務上制作させ、又は外注により制作して、リクルートに入稿した。これらの各原稿は、別紙原告原稿掲載媒体目録記載の「顧客」欄記載の顧客の求人広告として、同「媒体」欄記載の媒体に、同「原告掲載日」記載の期日から掲載された。
 被告会社は、別紙原稿目録1〜7の各「被告会社原稿」欄記載の各求人広告原稿(以下、別紙原稿目録の番号に合わせて「被告会社原稿1」などという。また、これらを併せて「被告会社原稿」という。)をリクルートに入稿した。これらの各原稿は、別紙被告会社原稿掲載媒体目録記載の「掲載期間」欄記載の期間、別紙原告原稿掲載媒体目録の「顧客」欄記載の顧客の求人広告として、同「媒体」欄記載の媒体に掲載された。
(甲15〜21)
2 争点
(1)請求1について
ア 被告P1が原告に対して負う義務の内容とその期間(争点1)
イ 被告P1による義務違反及び被告らの共謀の有無等(争点2)
ウ 競業避止義務規定の効力(争点3)
エ 被告P2による競業避止義務違反及び被告らの共謀の有無(争点4)
オ 損害の発生及び因果関係の有無並びに損害額(争点5)
(2)請求2について
ア 原告原稿1〜7の著作物性(争点6)
イ 原告原稿1〜7の著作権の帰属(争点7)
ウ 被告会社による著作権侵害の成否及び原告の損害額(争点8)
3 争点に関する当事者の主張
(1)被告P1が原告に対して負う義務の内容とその期間(争点1)
〔原告の主張〕
ア 被告P1は、平成29年9月30日まで原告取締役の地位にあり、原告に対して忠実義務(会社法355条)及び競業避止義務(同法356条2項)を負っていた。また、被告P1は、被告P1入社時誓約書に基づいて、原告の顧客に対して個人的な営業活動を行わないとともに、顧客情報及び機密情報を第三者に漏洩しない義務を負っていた。これらの義務の一環として、被告P1は、取締役在任中である平成29年9月30日まで、原告の顧客との折衝に当たり、又は第三者をして折衝させるに当たっては、原告が当該顧客に関する本件業務を受注することを目的としなければならず、当該顧客に他の広告代理店を紹介し、又は他の広告代理店を紹介する第三者を紹介する等して、当該他の広告代理店に当該顧客に関する本件業務を行わせ、又は行わせることとなる行為をしてはならない義務(以下「本件任務」という。)を負っていた。
イ 被告P1の主張について
 被告P1は、平成29年4月以降も原告の求人広告業務に従事していた。また、被告P1が原告に対して取締役辞任の意思を伝達したのは同年8月28日であり、それ以前に、原告が被告P1に対して取締役辞任を求めたこともない。被告P1の取締役辞任の変更登記手続も取られていない。さらに、同年9月30日まで、被告P1は、同年5月以前と変わらない役員報酬を受け取っていたし、原告取締役の肩書が付された名刺を原告から貸与され、これを使用してもいた。
 このように、被告P1が原告の取締役を辞任したのは同年9月30日であって、同年5月中旬ではない。
〔被告らの主張〕
ア 否認ないし争う。
イ 被告P1は、平成29年4月3日、原告親会社の代表者であるP6から、求人広告業務から外れ、原告親会社の別の子会社で別の業務の責任者として勤務するよう命じられた。そのため、被告P1は、同年5月中旬には、引継途中であった一部の広告主に関するものを除き、求人広告代理業務から外れ、上記別会社の業務に専念し、原告の取締役を辞任した。
 また、被告P1は、原告の従業員として原告の求人広告代理業務に従事していたが、原告の経営は原告親会社及びP6により掌握されており、被告P1は、原告の経営は把握しておらず、P6を中心に招集される経営会議に参加するのみであった。すなわち、被告P1は、名目上の取締役に過ぎず、取締役としての業務を行っていない。
 以上のとおり、被告P1は、平成29年5月中旬には原告の取締役を退任しており、それ以降、原告に対する取締役としての責任は生じない。
ウ 被告P1入社時誓約書による個人的な営業行為の禁止並びに顧客情報及び機密情報の漏洩禁止は、その文言及び適用範囲が広範かつ曖昧であり、過度に従業員の行動及び職業選択の自由を制限するものであるため、公序良俗に反し無効である。
(2)被告P1による義務違反及び被告らの共謀の有無等(争点2)
〔原告の主張〕
ア 被告P1による本件任務違反及び被告らの共謀
(ア)被告P1は、取締役在任中、本件任務を負っていたにもかかわらず、被告P2及び被告会社と共謀の上、原告の取引先であったグラン・エムら並びに被告P1及び被告P2が原告において営業担当者であった他の顧客に対し、被告P1及び被告P2の退職に伴い、原告に代えて被告会社に本件業務を受注させることを計画し、これらの顧客を勧誘し、又は勧誘させた(以下、被告P1のこのような一連の行為を「本件任務違背行為」という。また、これにより、本件商流Aにおける原告に代えて被告会社に受注させる商流を「本件商流B」という。)。被告P2及び被告会社は、被告P1と共謀の上、被告P1に本件任務違背行為に協力した。
(イ)本件任務違背行為には、具体的には、以下のような被告P1の行為が含まれる。すなわち、被告P1は、平成29年4月から、本件商流Aにおいて自己の原告退職後における原告に代わる受け皿となる会社の検索を開始して被告会社を検索し、同年6月頃、被告会社代表者P7に連絡を取り、同年8月8日、被告会社を関与させる取引スキームに関する自己の考えを提案した。その後の遅くとも同年9月7日時点で、被告P1は、P7との間で、被告P1及び被告P2を被告会社の営業担当者としてリクルートの端末に登録する方法や被告会社がリクルートのゼネラルパートナーとなる要件を確認するなど、原告の顧客を被告会社に流す計画や条件面の詳細な話合いを開始していた。また、被告P1は、同月12日頃、P3に対して送信したメールにおいて、原告の大口顧客を被告会社に引き抜き、フェースジムに原稿を作成させるための算段を開始した。さらに、同月13日、被告P1は、被告会社のための営業活動等(広告主に対する営業、取り次ぎ、原稿制作、入稿業務等)を行い、同月14日には、被告P2が被告会社のために本件業務を行うことを被告会社に伝達した。加えて、その頃、被告P1は、被告P2との間で、同人をグラン・エムが雇用する際の条件等について協議を行った。
イ 被告らの行為の違法性
 被告P1の本件任務違背行為及び被告らの共謀により、被告らは、後記(5)のとおり、別紙顧客目録記載の原告の顧客(以下、同目録記載の顧客を、同目録の番号及び枝番に従って「顧客1」ないし「顧客1−1」などという。また、これらの顧客を併せて「本件各顧客」という。)を侵奪し、本件各顧客に関する本件業務が被告会社により行われた。これらの顧客侵奪行為は、被告P1の原告取締役在任中及び退任後2か月以内に行われたものであり、自由競争として許容される限度を逸脱するものである。
ウ 被告らの主張について
 被告P1によるグラン・エムらとの取引関係の構築がエフエー在籍時であれ、原告在籍時であれ、グラン・エムらが原告の顧客であった以上、被告P1が、原告取締役在任中に両社との取引関係を原告から被告会社へ変更するための準備行為を行い、これを実施することが、被告P1の原告取締役としての本件任務に違反する行為であることに変わりはない。
 また、被告P1の顧客1−1に対する対応については、仮に当該顧客の離脱に関する重要な情報を把握したのであれば、これを担当マネージャーに伝達し、原告による受注可能性を高めるための指示等を行うことが被告P1の職務であって、その懈怠は本件任務の違反であり、まして、競業他社に広告受注を打診することは悪質性が高い。
〔被告らの主張〕
ア 被告P1による義務違反及び被告らの共謀について
 否認ないし争う。
 被告P1は、フェースジム入社後、同社の業務のほかに被告会社の営業も兼任していたが、原告の広告主に対して被告会社と取引するよう働きかけたことはない。
 原告指摘に係る被告P2及び被告会社等とのやり取りは、被告P1が被告会社の業務に関与するようになった後を想定した本件業務に関する相談や、顧客1−1の求人広告を原告が受注しなかった場合の対応及び被告P1が原告退職後にグラン・エムや被告会社と仕事をするための準備に関するやりとりなどであり、本件任務違背行為や共謀を裏付けるものではない。
イ 被告らの行為の違法性について
(ア)否認ないし争う。
(イ)リクルートの求人広告代理業務においては、広告代理店が広告主に提供するサービスの内容や金額には差が無く、広告主は複数の販売パートナーを利用することも、販売パートナーを変更することも自由であり、こうしたことが日常的に行われている。すなわち、広告主からの受注は販売パートナー間の自由な競争に委ねられており、特定の販売パートナー固有の「顧客」という概念は存在しない。したがって、過去に原告が受注したことがある広告主の業務を被告会社が受注したとしても、被告会社に損害賠償責任は発生しない。
(ウ)被告P1は、原告入社前はエフエーにおいて求人広告代理業務を手がけており、広告主の多くは、グラン・エムその他の協力会社等独自のコネクションから紹介を受けていた。原告入社後は、被告P1は、こうしたコネクションを通じて紹介される広告主を原告に受注させていた。このように、原告に発注した広告主の多くは、実際には被告P1が責任者であることを理由に原告へ発注していたのであり、被告P1の原告退職に伴い、広告主自らの判断で販売パートナーを変更したものである。このことは、グラン・エムらによる広告主の紹介においても同様である。また、グラン・エムは、被告P1が原告の求人広告代理業務を外れて以降の原告の対応に不満を持ち、協議を経ても原告から具体的な改善策の提案がなかったこと、アイコミは、原告から新規案件の紹介を受けられない旨言われたことから、いずれもそれぞれの判断に基づき原告との関係を解消したものである。
 さらに、顧客1−1の広告主について、その担当者から取引の申入れを受けた被告P1の紹介により、原告は、平成29年9月18日掲載分の求人広告を受注した。この際、被告P1は、同月18日掲載分の求人広告につき、上記広告主に対して原告従業員(当時)のP8を紹介しつつ、過去の経緯から原告に発注されない場合に備えて、他社の求人広告業務に従事する被告P2や被告会社にも受注の可能性を打診するなどしたが、原告による受注を優先しつつも、これが見込めない場合に、広告主のために他の代理店を紹介するなどして便宜を図ることも、被告P1の原告取締役としての業務の一環であり、原告取締役としての職務に合致するものである。
 また、同月25日掲載分は被告会社が当該顧客から受注したが、リクルート媒体への広告掲載は各回が別個の独立した契約であるところ、これについて被告P1が被告会社への発注を依頼したものではない。
(3)競業避止義務規定の効力(争点3)
〔原告の主張〕
ア 被告P2は、被告P2入社時誓約書、本件就業規則及び被告P2退社時誓約書に記載のとおり、原告に対し、競業避止義務を負う。
 本件就業規則85条によれば、被告P2の負う競業避止義務は、以下のとおり、限定的な範囲のものにとどまる。
・期間退職後2年間(2項)
・対象者原告の顧客又は既存取引先(2項、3項)
・対象行為在職中及び退職後を通じて、会社の許可なしに業務上知り得た会社の機密事項を利用して、在職中に担当したことのある営業地域にある同業他社への就職・役員就任、営業活動及び同業の自営を行うこと(2項、3項)
・対象地域一般的な地域制限として、会社やグループ企業及び関連会社の店舗の隣接市町村(4項)のほか、当該従業員ごとに、個別の地域限定として、在職中に担当したことのある営業地域(2項)
 また、原告のように本件業務を営む広告代理店は、顧客からの収入を経営の基盤としている。広告代理店としての顧客に対する営業活動は、個々の営業担当者と顧客との人的関係の強固な構築を基礎として行われることから、広告代理店は、多額の経費を支出して個々の営業担当者に顧客への営業活動を行わせている。他方で、このような個々の営業担当者と顧客との強固な人的関係の構築を基礎とすることから、当該営業担当者の退職時には担当顧客を容易に引き抜くことができる環境が整っている。このため、広告代理店にとっては、こうした環境にあることを奇貨とした営業担当者による退職時の顧客引抜行為を防止する必要性が高い。
 このように、原告の定める退職後の競業避止義務は、必要かつ相当な限度に留まって課されているものである。
 なお、競業避止義務を課すことに対する代償としての経済的利益の支給の有無は、競業避止義務の合理性を判断する際の一要素に過ぎない。本件就業規則所定の競業避止義務は、上記のとおり限定的かつ合理的な範囲にあるものであるから、代償としての経済的利益の支給がないことにより効力を否定されることはない。
〔被告らの主張〕
ア 否認ないし争う。
イ 被告P2入社時誓約書及び被告P2退社時誓約書の効力被告P2入社時誓約書は、文言及び適用される範囲が広範かつ曖昧であり、過度に従業員の行動及び職業選択の自由を制限するものであって、公序良俗に反し無効である。
 被告P2退職時誓約書も、退職後の秘密保持義務を遵守することを目的に、競合関係に立つ事業主への就職や役員就任、競合関係に立つ事業主の提携先企業への就職や役員就任、競合関係に立つ事業の開業又は設立を全面的に禁止するものであり、文言及び適用される範囲が広範かつ曖昧であると共に、目的に対する手段が過大であり、従業員の職業選択の自由を制限するものであって、公序良俗に反し無効である。
ウ 本件就業規則の定める競業避止義務の効力
(ア)本件就業規則85条2項所定の競業避止義務は、「退職後2年間」、「業務上知り得た会社の機密事項を利用」して、「会社やグループ企業及び関連会社の店舗の隣接市区町村」の範囲において、「同業他社への就職・役員就任」、「当社の顧客に対して営業活動」、「同業の自営」をすることを禁止するものである。この競業避止義務は、期間、区域、職種、使用者の利益の程度、労働者の不利益の程度、労働者への代償の有無等の諸般の事情を総合して合理的な制限の範囲にとどまるものではない。
 すなわち、被告P2は、長期間にわたりリクルートの求人広告事業に携わって独自のノウハウを蓄積している。これは、被告P2に属人的なものであって、原告のノウハウではない。また、被告P2に対しては、退職に際し競業避止義務の代償と評価すべき金銭給付は一切されていないところ、これがないまま上記期間及び範囲においてリクルートの求人広告事業に携わることができないとすれば、被告P2に
とってその不利益は甚大である。さらに、被告P2は、原告において本件業務に従事する一従業員に過ぎず、競業避止義務を課す必要のある立場とはいえない。しかも、原告の本店は東京都千代田区に、原告親会社の本店は大阪市にあり、その隣接市区町村を含めると、求人広告事業の中心である東京及び大阪という2大都市の中心部で就職が禁止されることになり、本件就業規則85条2項の競業避止義務は、同業他社での勤務をほぼ全面的に禁止しているといえる。
 他方、広告主は販売パートナーを複数利用することや変更することを日常的に行っているし、本件パートナー契約においても、広告主からの受注は販売パートナー間の自由な競争に委ねられており、販売パートナー固有の「顧客」という概念は存在しない。そのため、退職後の従業員が自由競争に基づいてリクルートの求人広告事業に参入したとしても、原告の不利益はほとんど生じない。また、本件業務は、販売パートナーが広告主に対して同一内容の役務を同一価格で提供するものであり、企業において守るべき営業上の秘密は存在しない。
(イ)本件就業規則85条3項所定の競業避止義務は、「会社やグループ企業及び関連会社の店舗の隣接市区町村」の範囲において「同業他社への就職・役員就任」、「当社既存取引先への営業活動」、「社員の引き抜き行為」を禁止するものである。このうち、「同業他社」には特に制限が付されておらず、原告が行う全ての業務の同業他社と解されるところ、上記(ア)のとおり、原告及び原告親会社の本店所在地を考慮すれば、原告が行う全ての業務について、東京と大阪の中心部において上記行為を行うことが全面的に禁止されることになる。また、「当社既存取引先」も、原告の行う全ての業務の既存取引先が含まれるとするならば、その範囲は極めて広範である。しかも、本件就業規則85条3項においては、同条2項と異なり、期間制限が設けられていない。したがって、同条3項は、文言のみから判断しても、従業員の職業選択の自由を過度に制約するものである。
(ウ)以上より、本件就業規則85条所定の競業避止義務は無効である。
(4)被告P2による競業避止義務違反及び被告らの共謀の有無(争点4)
〔原告の主張〕
ア 被告P2は、平成29年10月2日にフェースジムに採用されると共に、遅くとも同月20日以前のいずれかの時点で被告会社の営業部マネージャーに就任した(第2の2(1)エ)。
イ 被告P2は、前記(2)〔原告の主張〕のとおり、原告を退職した後、被告P1の本件任務違背行為を助長しているほか、当時の原告従業員に働きかけ、原告が有する過去の広告原稿、求人広告の対象となる人材の分布に係る情報(いわゆるコーン図)、原告の顧客の他媒体との取引情報、広告効果情報及び営業ツール等の情報、顧客に対する請求書、見積書、提案書、企画書等の原告の機密情報の提供を受
け、これを利用して原告の顧客に対する営業活動を展開している。上記のうち、被告P2が利用した過去原稿は、原告のみしか入手できないものである。その他の情報も、一般に公開されていない原告の機密情報である。同情報の中にリクルートから提供される情報が含まれていたとしても、リクルートが広告代理店に提供する情報は、トップパートナーに限られており被告会社には提供されない情報であるなど、アクセス可能権限が明確に区分されている。
 また、被告P2は、これらの情報を原告退職後に入手したが、原告在職中に知り得た又は既に知っていた情報であるからこそ、原告従業員に対し情報を指定して流出させることができたのであり、「業務上知り得た会社の機密事項を利用」していたことに変わりはない。
ウ このほか、被告P2は、原告在職中の平成29年4月から退職後の同年9月18日まで、顧客3〜8及び20の広告原稿を受注し、株式会社アドプランナー(以下「アドプランナー」という。)を介して入稿した。同年8月ないし9月頃には、被告P2は、当時原告の従業員であったP8に対して、自己の屋号である「Biz-HumAn」名義の名刺を交付し、自己の業務に従事させた。同年9月中旬時点においては、被告P2は、自己に原告の機密情報を流出させていた複数の原告従業員に対し、時機を見て原告を退職し、実質的に被告P1の下で勤務する意向を有していることを確認し、その後、これらの者を被告会社の営業担当者として登録した。
 また、被告P2は、同年9月15日、同月22日及び同月29日に被告会社をして広告原稿をリクルートに入稿させた対価として、10%相当の手数料の支払を受けた。
エ これらの一連の行為は、被告P2の原告に対する競業避止義務に違反する。
オ 被告P1は、原告取締役として被告P2が原告に対し競業避止義務を負うことを認識しつつ、当初から被告P2のこれらの競業避止義務違反行為に加担し、又はこれを知りつつ黙認していた。被告会社も、被告P1から本件商流Bの打診を受けた後、被告P2が原告に対して競業避止義務を負うことを認識していたか、少なくとも被告P2に確認することによってそのことを容易に知り得、同人による競業避止義務違反行為に加担した。
 よって、被告P1及び被告会社は、被告P2の競業避止義務違反行為に加担したことによる不法行為責任を全部又は一部連帯して負う。
〔被告らの主張〕
ア 否認ないし争う。
イ 被告P2は、原告退職後ほどなく株式会社アルフォース・ワン(以下「アルフォース・ワン」という。)に入社し、同社の求人広告を行うほか、並行して個人事業としても求人広告業務に携わっていた。これは、原告在籍時に担当していた広告主から依頼が被告P2個人の携帯電話宛てにたびたび掛かってきたことから、自ら広告原稿を作成し、広告代理店を介して入稿して原稿作成料の支払を受けていたものである。
 その後、被告P2は、平成29年10月にフェースジムに入社したが、同社はリクルートの販売パートナーではないから、原告の同業他社には当たらない。
ウ 「会社の機密事項」(本件就業規則85条2項)がいかなる範囲の情報であるかは明らかではないが、原告と取引をする広告主の過去原稿、対象人材の分布情報、顧客の他媒体との取引情報、広告効果情報、営業ツールは、リクルート媒体から把握できる情報やリクルートが販売パートナーに広く公開している情報である。また、その余の情報も含め、原告従業員が社外の第三者に対してたやすく情報を提供しており、原告において秘密として適切に管理されていないものである。したがって、いずれの情報も、競業避止義務を課して保護されるべき「機密事項」に該当しない。
 さらに、被告P2は、これらの情報を退職後に原告従業員から取得しており、「業務上知り得た会社の機密事項を利用」使用したものではない。
エ 被告P2は、顧客1−2、2〜8、11、16、20、21については、いずれも広告主から問合せを受け、被告P2において求人広告原稿を作成し、アドプランナー又は被告会社等の広告代理店を介して入稿したものである。また、これらの取引につき、被告P1は関与していない。
 顧客1−1については、平成29年9月18日掲載分の広告原稿につきP8を介して原告が受注したものの、同月25日掲載分からは、当該広告主の判断で、被告P2を介して被告会社が受注したものであり、また、被告P1はこの取引に関与していない。
(5)損害の発生及び因果関係の有無並びに損害額(争点5)
〔原告の主張〕
ア 損害の発生と因果関係の有無
(ア)因果関係について
 本件業務を提供する広告代理店にとって、顧客のうち、既に取引のある顧客からの受注が主要な収入源であり、広告代理店と顧客との結びつきは強い。
 これは、本件パートナー契約において、リクルート媒体に掲載する原稿の著作権は広告代理店に帰属し、リクルートに対しては使用許諾のみがなされることと関係する。すなわち、既に取引のある顧客は、広告代理店を変更する場合、他の広告代理店から改めて取材を受け、打合せを行う等して新たな求人広告原稿を作り直す必要があることとなるところ、このような作り直し作業の煩わしさが、顧客が広告代理店を変更しない要因となっている。
 また、リクルートも、広告代理店に対し、新規顧客のために営業リソースを費やすことを促進する目的で、新規にリクルート媒体に広告を掲載することとなった顧客データの提供等をすると共に、既存顧客からの再度の受注や新規顧客からの受注には手数料やインセンティブを優遇するなどして、既存顧客の維持を推奨している。
 さらに、リクルート媒体への広告掲載サービスは、全ての顧客に対し基本的には同一の価格体系により提供され、広告代理店には価格決定の権限がなく、他方、特定の広告代理店と継続して取引をすることにより人的関係が構築されると共に、広告代理店が顧客のニーズに精通するようになることから、顧客にとっても、継続して同一の広告代理店を利用するメリットは大きい。
 本件において、原告は、本件任務違背行為により被告P1が被告会社の関与する本件商流Bを用意するまで、一度も既存顧客を被告会社に引き抜かれたことはない。また、平成29年9月まで、本件業務に関し、被告会社とグラン・エムらとの間に一切の取引関係はなかった。それにもかかわらず、後記((イ)〜(オ))のとおり、同年9月から12月にかけて被告会社が本件各顧客から受注したことは、被告P1の本件任務違背行為との間に相当因果関係があるものといえる。なお、本件各顧客から受注した広告代理店の推移は、別紙受注代理店一覧表のとおりである。
(イ)顧客2、9〜18及び19−1〜19−4について
 顧客2、9〜18及び19−1〜19−4の各顧客は、いずれも、継続して原告を専属の広告代理店として発注していた顧客であったところ、被告P1の原告取締役退任を起点として、原告から被告会社に切り替わったものである。このため、これらの顧客については、被告らの引き抜き行為がなければ、原告が広告を受注できた蓋然性がある。
(ウ)顧客3、5〜8及び20について
 顧客3、5〜8及び20の各顧客については、原告から被告会社に引き抜かれる前にアドプランナーが受注しているところ、その期間は、いずれも被告P2が退職した平成29年5月から同年8月までの間に限定されている。このことと、アドプランナーにおいては、被告会社と同じく、原告作成の原稿が盗用されたものがあることを踏まえれば、アドプランナーは、被告会社が原告の顧客を引き抜き始めるまでのつなぎ役として被告らに利用された広告代理店であるといえる。したがって、これらの顧客については、被告会社による引き抜き行為がなければ原告が継続して受注できた蓋然性は高い。
(エ)顧客1、4、19−5、19−6、21及び22について
 顧客1、4、19−5、19−6、21及び22も、以下のとおり、被告会社の受注がなければ、原告が受注できていた蓋然性が高い。
 まず、顧客1は、被告P1に対し、原告取締役在任中に広告受注の引合いがあったところ、被告P1が原告に受注させるための正常な営業活動を行い、被告会社に受注させていなければ、原告が受注できた蓋然性が高い。
 顧客4は、原告を含む複数の広告代理店を利用していたところ、原告においては被告P2が担当していた顧客である。被告会社は当該顧客と取引をしたことがなかったことから、被告P1による本件任務違背行為及び当該顧客の発注担当責任者に対する被告P2の接触がなければ、当該顧客は、被告会社に発注した広告を原告に発注していた蓋然性が高い。
 顧客19−5及び19−6は、いずれも一度株式会社メディアハウスエージェンシー(以下「メディアハウスエージェンシー」という。)が原告から引き抜いた後、被告P1が被告会社に移籍後の平成29年10月9日から被告会社が引き抜いたものである。この結果に鑑みれば、被告P1が、本件任務違背行為を働くことなく、原告取締役としての任務を果たして当該顧客を原告へ勧誘していれば、改めて原告が受注できた蓋然性が高い。
 顧客21は、平成29年7月から同年10月23日まで、隔週ごとに原告と他の広告代理店に広告を発注していた。しかるに、その後は、原告に依頼していた週に対応する分の広告を被告会社が受注している。当該顧客の広告依頼の方法に鑑みると、このことから、被告会社によって原告の商圏が奪われたといえ、被告の引き抜き行為と原告の損害との間には因果関係がある。
 顧客22は、他の広告代理店を中心にしつつ、スポット的に原告を利用していた顧客である。上記他の広告代理店以外には原告のみを利用していたことから、被告会社が当該顧客から広告を受注しなければ、原告が受注できた蓋然性が高い。
(オ)その余の事情
 加えて、被告会社は、顧客6、7、16、19−3及び20の求人広告原稿について、原告の原稿を冒用したものである。前記(ア)のとおり、顧客が特定の広告代理店を使用し続ける傾向にある理由の一つに、広告代理店の変更による広告原稿の作成し直しの煩わしさがあることに鑑みると、被告会社が原告の原稿を冒用しなければ、被告らは原告の顧客を奪うことができず、被告が引き続き受注できた蓋然性は高い。
イ 損害額
(ア)主位的主張
 被告会社は、被告P1の本件任務違背行為及び被告らの共謀による共同不法行為に基づき、平成29年10月1日〜同年12月31日の間に、本件各顧客から求人広告原稿の作成等の注文を受け、その受注額は、別紙顧客目録の「受注額(円)」欄に各記載のとおり、合計1485万2125円である。
 これに、本件パートナー契約に基づき原告に適用される手数料率の概算平均手数料率28%を乗じた別紙顧客目録の「手数料(円)」欄に各記載の合計415万8595円が、被告らの共同不法行為により原告が受けた損害といえる。
 また、原告は、弁護士に依頼の上本件訴訟を提起せざるを得なくなったことから、弁護士費用相当額は41万5859円を下らない。
(イ)予備的主張
 原告は、被告P2の競業避止義務違反行為及び被告らの共謀による共同不法行為に基づき、上記(ア)のとおりの損害を受けた。
 これに加え、原告は、アドプランナーが被告P2を介して平成29年9月18日までに受注した注文についても、被告P2の競業避止義務違反に係る共同不法行為がなければ受注できていた相当な蓋然性がある。原告がこれらの原稿を入稿した場合、掲載料合計260万3600円に対して原告の上記概算平均手数料率28%を乗じた72万9008円の手数料を得られたはずである。したがって、原告は、被告P2に対し、更に、これに弁護士費用相当額7万2000円を加えた80万1908円の損害賠償請求権を有する。
 また、被告P2の上記競業避止義務違反行為につき、被告P1及び被告会社は、これに加担し、又はこれを知りつつ黙認していたことから、被告P1及び被告会社も、連帯して不法行為責任を負う。
 したがって、原告は、被告らに対し、共同不法行為に基づき、連帯して合計537万6362円の損害賠償請求権を有するところ、その一部である415万8595円を請求する。
〔被告らの主張〕
ア 損害の発生と因果関係の有無
(ア)顧客2、9〜18及び19−1〜19−4について
 本件業務において、他の販売パートナーが受注していた広告主から新たに受注することは禁止されておらず、自由競争に委ねられていることから、単に広告主が移行したことのみでは、被告会社の受注と原告の損害との間の相当因果関係は認められない。また、リクルートの求人広告は、提供する求人広告の価格等の販売条件について販売パートナー毎に差異はなく、広告主は、既存の販売パートナーへの不満がなければ別の販売パートナーに移行しないはずであるから、広告主が原告との取引を辞めたことには相応の理由が存在する。このため、仮に被告会社が受注しなかったとしても、原告が継続して受注していた可能性は極めて低く、この点からも、被告会社の受注と原告の損害との間の相当因果関係は認められない。
(イ)顧客3、5〜8及び20について
 原告は、アドプランナーによる被告らとの共謀及び共謀に基づく顧客侵奪行為について具体的に主張立証していない。また、これらの広告主については、被告会社が受注していなければ、引き続きアドプランナーが受注していた蓋然性が高く、この点でも被告の受注と原告の損害との間の相当因果関係は認められない。
(ウ)顧客1について
 被告P1は、顧客1−1の担当者から受注の打診を受け、原告の担当者であるP8を紹介し、現に原告が平成30年9月18日掲載の求人広告を受注した。その後、顧客1が被告会社に発注することになったことについて、被告P1は全く関与していない。また、顧客1は、原告の対応に不満を持っており、原告と取引できない状況にあったことから、仮に被告会社が受注しなかったとしても、原告が引き続き受注できた可能性は極めて低い。
 したがって、被告会社の受注と原告の損害との間に相当因果関係はない。
(エ)顧客4について
 原告は、顧客4に対し、いつ、誰が、いなかる行為をしたのか具体的に主張立証しない。また、当該広告主は原告に不満がなければ被告会社に移行しないはずであり、原告との取引を止めて被告会社に移行したことには相応の理由が存在する。したがって、仮に被告会社が受注しなかったとしても、原告が引き続き受注していた可能性は極めて低く、被告会社の受注と原告の損害との間に相当因果関係が認められない。
(オ)顧客19−5及び19−6について
 顧客19−5及び19−6につき、被告会社の受注と原告の損害との間に因果関係が認められるためには、メディアハウスエージェンシーが、被告P1及び被告会社と、原告の顧客侵奪行為につき共謀及び共謀に基づく侵奪行為を行ったことの具体的な主張立証を要するところ、原告はこれをしていない。
 また、被告会社は、メディアハウスエージェンシーによる受注について全く関与していない。さらに、当該顧客が原告との取引を止めて被告会社に移行したことには相応の理由が存在するから、当該広告主がメディアハウスエージェンシーから再び原告に発注を戻すという蓋然性はない。したがって、被告会社の受注と原告の損害との間に相当因果関係は認められない。
(カ)顧客21について
 顧客21は、自社の判断で発注先を原告から被告会社に変更したのであって、被告会社の受注と原告の損害との間に相当因果関係は認められない。また、相当因果関係が認められるには、原告において具体的な顧客侵奪行為の主張立証を要するところ、原告はこれをしていない。さらに、当該広告主は原告に不満がなければ被告会社に移行しないはずであり、原告との取引を止めて被告会社に移行したことには相応の理由が存在する。したがって、仮に被告会社が受注しなかったとしても、原告が引き続き受注していた可能性は極めて低い。
(キ)顧客22について
 被告会社の受注と原告の損害との間に因果関係が認められるためには、原告において具体的な顧客侵奪行為の主張立証を要するところ、原告はこれをしていない。
 また、原告の主張は、当該広告主が原告に対して不定期であるが継続的に発注することを前提とするが、そのような想定が確実に成立するとは限らず、その主張立証もない。さらに、当該広告主は原告に不満がなければ被告会社に移行しないはずであり、原告との取引を止めて被告会社に移行したことには相応の理由が存在する。
 したがって、仮に被告会社が受注しなかったとしても、原告が引き続き受注していた可能性は極めて低い。
イ 損害額
否認ないし争う。原告の損害の上限は被告会社が得た利益によって画されるべきであり、被告会社に適用される手数料率は20%である。
(6)原告原稿1〜7の著作物性(争点6)
〔原告の主張〕
 原告は、別紙原告原稿掲載媒体目録の「顧客」欄記載の各顧客のために、原告原稿1〜7を作成した。
 原告原稿1〜7は、いずれも、原告の顧客による求人目的を達成するために、原告が、顧客へのインタビューや、求人広告のターゲット層に関するマーケット調査、データ分析その他の取材活動の成果に基づき、顧客との折衝や幾度もの修正を経て、その過程で、訴求力のある広告効果の達成、顧客と顧客が欲する人材とのマッチング、顧客のブランドイメージの維持等、広告がもたらす様々な影響に配慮し、工夫を凝らして作り込まれたものである。また、原告原稿は、それぞれ合計文字数が413字〜4430字というそれなりの分量を有する枠内で作成され、要伝達事項のみではない文章が要求される種類の原稿である。原告は、その制限内で、盛り込む情報の取捨選択、原稿の方向性や構成等の幅広い要素を考慮した上で、選択した情報の種類と構成に沿って、無限に存する表現の中から最適と資料される文章を作り上げたものである。こうした各原稿に共通する事情から、原告原稿は、原告の個性が発揮されたものとして著作物に該当する。
 さらに、原告原稿1〜7の著作物性に関する個別の主張は、別紙原稿目録の「原告の主張」欄に記載のとおりである。
〔被告会社の主張〕
 否認ないし争う。
 原告原稿1〜7は、いずれも、定型化された募集要項が記事の大半を占めるものであり、その余のごく限られたスペース、文字数において広告主の要望を盛り込んで作成されるものである。このため、限られた文字数において、求職者が一読して理解できるような平凡でありふれた表現を用いて記載されたものであり、著作物とはいえない。
 さらに、原告原稿1〜7の著作物性に関する個別の主張は、別紙原稿目録の「被告会社の主張」欄記載のとおりである。
(7)原告原稿1〜7の著作権の帰属(争点7)
〔原告の主張〕
 原告は、原告原稿1〜7を、その従業員に職務上制作させ、又は外注する方法により自ら制作した。原告原稿6も原告従業員が制作したものであり、その制作をフェースジムに発注したことはない。
〔被告会社の主張〕
 原告原稿1〜7のうち、原告原稿6は、原告とフェースジムとの業務委託基本契約に基づき、フェースジムが求人広告原稿を作成し、原告に納入したものであり、当該契約に基づき、フェースジムが著作権を有する。
 その余の原稿も、原告が自己の著作の名義の下に公表するものではないから、原告には著作権が帰属しない。
(8)被告会社による著作権侵害の成否及び原告の損害額(争点8)
〔原告の主張〕
ア 被告会社による著作権侵害の成否
(ア)被告会社原稿1〜7は、原告原稿1〜7と実質的に同一か、表現の本質的な特徴を直接感得することができる程度に同一である。
 また、被告会社は、被告会社原稿1〜7を作成し、これらを、別紙原告原稿掲載媒体目録の「顧客」欄記載の顧客のために、同「媒体」欄記載の媒体に掲載した(前記第2の2(5))。このことから、被告会社原稿1〜7が原告原稿1〜7に依拠して作成されたことは明確である。
 このように、被告会社原稿1〜7は、原告原稿1〜7を複製又は翻案して作成されたものであり、かつ被告会社は被告会社原稿1〜7を求人広告媒体に掲載しており、その中にはウェブサイトによるものも含まれる。したがって、被告会社の上記行為は、原告の原告原稿に係る著作権(複製権、翻案権、公衆送信権)を侵害する行為である。
(イ)被告会社の主張について
 本件パートナー契約に基づく使用許諾は、原告からリクルートに対して与えられるものであって、被告会社には与えられていない。したがって、この点は、被告会社による原告の著作物の利用を正当化する根拠とはならない。
イ原告の損害額
(ア)原告は、被告会社が被告会社原稿1〜7を利用してリクルートに対して原稿を出稿して得た手数料と同額の損害を被った(著作権法114条2項)。その額は、別紙被告会社原稿掲載媒体目録の「利益額」欄記載の合計額73万9620円を下らない(なお、これは、同目録の「受注額」欄記載の受注額に、被告会社に適用される概算平均料率を28%とみなして算出したものである。)。また、この損害額を請求するにあたり、原告は弁護士に依頼の上訴訟を提起せざるを得なかった。その弁護士費用相当額は、7万3962円を下らない。
 したがって、原告は、被告会社に対し、著作権侵害の不法行為に基づき、合計81万3582円の損害賠償請求権及びこれに対する最終の不法行為日である平成30年6月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金支払請求権を有する。
(イ)被告会社は、上記「利益額」は請求1と重複する部分があり、請求が両立しない旨主張する。しかし、請求1と請求2について、重複する広告原稿の原稿料の合計額は54万7500円、手数料は15万3300円である。仮にこの15万3300円に係る損害賠償請求である請求1と請求2が選択的関係にあるとしても、請求1は一部請求であるから、原告の請求が全額認容されるべきことに影響しない。
〔被告会社の主張〕
ア 被告会社による著作権侵害の不成立
 本件パートナー契約により、広告原稿の著作権を有する会社は、リクルートに対し、リクルート媒体への当該広告原稿の掲載を許諾している。したがって、他の広告代理店が当該広告原稿を流用し、リクルートが当該広告原稿をリクルート媒体に掲載した場合でも、リクルートによる掲載行為は著作権侵害を構成しない。被告会社原稿は、リクルートによってリクルート媒体に掲載されたものであり、仮に著作権侵害その他の要件を充足したとしても、被告会社原稿の掲載は本件パートナー契約により原告が許諾したものであるから、原告に対する著作権侵害は成立しない。
イ 原告の損害額
 否認ないし争う。
 著作権法114条2項所定の「利益」とは、売上金額から仕入原価等の直接的な費用及び人件費、管理費等の一般経費を控除した純利益をいい、被告の売上金額(リクルートから得た手数料)ではない。
 また、被告会社の利益は、受注額の20%である。
 さらに、本件パートナー契約に係る広告主からの求人広告の受注において、広告原稿の制作は限られた作業の一部であり、外部業者に広告原稿の制作を発注する場合もある。その場合の原稿制作料によれば、被告会社が原告原稿を外部の業者に発注した場合、その原稿料は合計8万3000円である。したがって、仮に被告会社原稿の掲載による著作権侵害が認められたとしても、原告の損害額は合計8万3000円である。
 加えて、別紙被告会社原稿掲載媒体目録のうち、「甲号証」欄が17−2、18−2、20−2〜20の9に係る各掲載分については、請求1の、顧客20、16及び19の広告主に係る求人広告原稿であるため、請求1と重複しており、請求2はこれと両立しない。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
 前提事実(前記第2の2)、証拠(各項に掲げたもの)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1)被告P1の経歴等
ア 被告P1は、リクルートにおいて主に求人広告業務に携わっていたが、平成17年に同社を退職した後、平成23年、エフエーの取締役に就任し、同社において、リクルート媒体への求人広告代理業務に従事していた。その一環として、被告P1とP4及びP5との親交を背景に、エフエーとグラン・エムらは、本件商流Aによる取引を開始した。
 その後、被告P1は、エフエーと原告の事業統合に伴い、平成27年2月、エフエーにおいてリクルートの求人広告代理業務に携わっていた他の従業員と共に、原告に入社した。
被告P1の原告入社に伴い、本件商流Aにおけるエフエーの役割は、原告に引き継がれた。
 (以上につき、甲24、乙17の2、19、弁論の全趣旨)
イ 被告P1は、原告への入社に合わせ、平成27年2月13日に原告の取締役に就任し、本件業務を含む原告の求人広告代理業務に従事した。
 しかし、被告P1は、平成29年4月3日、P6から、求人広告代理業務を外れて原告親会社の別の子会社で別の業務の責任者として勤務するよう命じられ、同年5月中旬頃から、一部の広告主のものを除き原告の求人広告代理業務から外れ、上記別会社の業務を担当することになった。
 その後、被告P1は、原告を退職することを考えるようになり、同年8月上旬に当時の原告代表取締役に対し、また、同月下旬頃にはP6に対しても、同年9月末日に原告を退職する意向を伝えた。
 被告P1は、原告に入社してから退社するまで、原告から、基本給として月額66万7000円(年間800万4000円)の支払を受けると共に、特別手当として、平成27年度は毎月16万7000円(年間200万4000円)、平成28年度は月額8万4000円(年間100万8000円)の支払を受けたが、平成29年度(平成29年4月以降)の特別手当は0円であった。
 (以上につき、甲25、33、乙17の2、被告P1)
(2)被告P2の経歴等
 被告P2は、平成24年11月にエフエーに入社し、リクルート媒体への求人広告代理業務の営業職として従事していた。被告P2は、エフエーと原告との事業統合に伴い、平成27年4月1日に原告に入社し、サブマネージャーという役職で、引き続きリクルート媒体への求人広告代理業務の営業職に従事していた。被告P1は、被告P2がエフエーで勤務していた頃から被告P2の上司であり、同人を指導していた。
 被告P2は、原告を退職後、Biz-HumAnの屋号で活動するほか、平成29年6月頃にアルフォース・ワンに入社し、同年9月末まで同社の求人広告業務を担当していた。アルフォース・ワンは、リクルートの競合会社が提供する求人広告媒体「バイトル」等の求人広告媒体を取り扱っており、リクルート媒体を取り扱っていなかったことから、アルフォース・ワンの顧客がリクルート媒体への広告掲載を希望した場合、その顧客をアドプランナーに紹介していた。被告P2も、アルフォース・ワン在職中、バイトルに掲載する広告原稿の作成等の業務を行うほか、顧客がリクルート媒体への広告掲載を希望する場合は、その原稿作成等をした上で、アドプランナーに入稿していた。
 (以上につき、乙21、被告P2)
(3)本件商流A等について
ア グラン・エムの関係
(ア)本件商流Aの開始
 被告P1は、エフエーに勤務していた際、当時グラン・エムの代表取締役であったP4と、知人を介して知り合った。
 グラン・エムは、バイトルに掲載する広告原稿の取扱いを中心的な業務としていたため、リクルート媒体への広告掲載を取り扱うことはできなかった。しかし、グラン・エムの顧客からリクルート媒体への広告掲載を希望されることがあったことから、被告P1とP4は、平成25年頃、そのような場合に、グラン・エムの紹介によりエフエーが当該顧客の広告掲載を受注し、グラン・エム又はその関連会社が顧客の意向を踏まえた原稿案を作成し、エフエーがその内容確認及びリクルートへの最終入稿をし、エフエーがリクルートから受領した手数料の一部を原稿制作料などの名目でグラン・エム又はその関連会社に支払うという本件商流Aを構築し、開始した。なお、エフエーとグラン・エムとの間では、エフエーがグラン・エムの顧客に対して直接営業活動をしないことが黙示的に合意され
ていた。
 (以上につき、乙17の2、18、証人P4、被告P1)
(イ)本件商流Aと本件パートナー契約との関係
 本件商流Aは、本件パートナー契約違反の可能性があったことから、被告P1は、エフエーにおいて本件商流Aによる取引を実施することにつき、原告及び原告親会社の承認を得てこれを行った。また、実際、グラン・エムは、このような商流につき、リクルートから同社の定めたルールに抵触するとの指摘を受けたことから、平成30年9月以降はこれを廃止した。
 本件商流Aに基づき原告からグラン・エムに支払われる対価は、実際には紹介
料が上乗せされたものであったが、上記の事情から、原稿制作料の名目で支払われたものである。
 (以上につき、甲5、乙17の2、18、証人P4、被告P1)
(ウ)採用代行
 グラン・エムは、取引先である広告主との間で、求人広告原稿の作成のみならず、求人広告を掲載する媒体の選択、入稿する広告代理店の選定等を広告主に代わってグラン・エムが全て行う「採用代行」といわれる形態の取引を行っていた。この採用代行の形態で取引を行うに当たり、グラン・エムは、実質的に自由に広告代理店を選択することができた。本件商流Aも、この取引形態に基づくものである。(乙17の2、18、証人P4)
イ アイコミの関係
 アイコミの代表者であるP5と被告P1は、被告P1がリクルートに在籍していた頃の同僚であり、以後、継続的に交流があった。
 P5は、平成26年頃、アイコミを設立したところ、その頃エフエーの取締役であった被告P1と継続的な取引関係を形成することを相談し、グラン・エムと同様の本件商流Aを開始することになった。その後、アイコミは、グラン・エムと同様に平成30年9月以降このような商流を廃止した。
 (以上につき、乙17の2、19、証人P5、被告P1)
(4)被告P1の原告退職前後における行動並びに被告ら及び関係者のやりとり等
ア 被告P1は、平成29年4月17日及び同月26日、被告会社の名称やP7の名前等をキーワードとしてインターネット検索を複数回行った後、同年6月上旬頃、P7に対して相談があるなどとして連絡を取り、その後同人と面談した。その際、被告P1は、P7に対し、同年4月以降の原告社内における処遇に関する不満を述べると共に、原告を退社する意向があることなどを話した。P7は、これに対し、被告会社がリクルートの広告代理店資格を持っていることから、求人広告業務を続けるのであれば何らかの形で連携してビジネスを行うことを提案した。(乙17の2、20、P7、被告P1)
イ 被告P1は、同年8月8日、個人的に使用していた電子メールアドレス(以下「被告P1個人用アドレス」という。)から、P7に対し、「進捗報告です」と題するメール(甲25)を送信した。その本文には、以下の記載等がある(なお、「/」は改行部分を示す。以下同じ。)。
 「先日、お話させていただいた、バイトルを中心に販売している会社の社長と話して来ました。/メディックのことP7さんのこと、P7さんと話したこと等を伝えP1の考える今後のスキームを提案して来ました。/大筋合意を得られ、そこに向かって具体的に動く計画です。/つきましては、P7さんにも同じスキームのご提案をさせていただきたく、お時間をいただければと存じます。/尚、現在の会社へ9月末退社の意向も伝えます。」
 上記メール本文中の「バイトルを中心に販売している会社の社長」とはP4を指すところ、この時点で被告会社とグラン・エムとは取引がなかった(なお、被告会社とアイコミも、この時点で取引はなかった。)。しかし、その後、被告P1は、P7に対し、上記メール本文中の「スキーム」として、被告会社の広告取扱量を増やしてリクルート求人広告代理店のゼネラルパートナーに引き上げることや、グラン・エムらの顧客を被告会社に紹介するという取引の具体的な提案を行った。その後、被告P1は、P7とP4とを引き合わせた。
 (以上につき、上記のほか、証人P7、同P4、同P5、被告P1)
ウ 被告P1は、同年9月6日、被告P1個人用アドレスから、P3及びP4に対して、「原稿制作の外部委託について」と題するメール(甲26)を送信した。その本文には以下の記載がある。
 「昨日話していた原稿制作について、現在、シグナル東京でお願いしている会社の契約内容と、原稿タイプ別の制作料金です。/ツナグは安定感があり、慣れている。ただし、ボリューム等の事前縛りがある。/ヒューマリッジは、これが専門ではないが、元リクメンバーががんばる。/後●(裁判所注判読不能)程の人員確保と育成、派遣社員、外部委託含めてピーク対応は必須ですね。お時間ある時でも見てください。」
 また、「【資料】シグナル東京様tunagu0313.zip」、「広告制作価格表pdf」、「原稿作成料金(ヒューマリッジ).xlsx」、「シグナル東京様5月月間.xlsx」、「マニュアル(HOPE)m5K7V34Q1.zip」と題するファイルが添付されているところ、このうち「広告制作価格表pdf」は、原告が広告原稿の制作を外部に委託した際の受託会社の原稿制作料金(紹介料を含まない。)を記載したものである(甲34)。また、「シグナル東京様5月月間.xlsx」は、原告がグラン・エムに支払った原稿制作料の一覧表である(甲35)。
(上記のほか、被告P1)
エ P7は、同年9月7日に被告会社従業員のP9から受けたリクルート標準端末の申請、営業マンの登録方法、査定等に関する報告を踏まえ、被告P1に対し、同月8日午後5時2分、以下の記載のあるメールを送信した。
・「P9からのメールと外部制作ID発行についての資料送付します。/端末は手配済みです。月内に完了希望で申請しているとの事です。
・「当面来年3月までのスキームで発生する費用に関してはグラン側に請求するという理解で良いですか?」
・「例えば、/端末増設分の月額費用/登録営業マンの名刺代とか、/契約社員分の人件費の費用は発生するのかな?であればその扱いは?」
・「請求して入金してもらうという事で良いかな?」
・「※ゼネラル週平均アベレージ200万の件/200万×52週=1億400万円に対し/現状/1Q1029万/2Q800万(今週現在)/残8571万」
・「リクルートからの正式な数字は後日渡します。/ゼネラルにはその段階で自動的になれるとは限らない?合議する!/見たいな事を言っていたみたい。です。」
 これに対し、被告P1は、同日午後5時6分、被告P1個人用アドレスから、以下の内容の返信をした。
 「費用等かかるものはグランに請求しましょう。/その他、細かいこと頑張ってつめます。」(以上につき、甲8)
オ 被告P1は、同月12日、P3に対し、被告P1個人用アドレスから、「内密な話しはGmailにしましょう。」などと記載したメールを送信した。
これに対し、P3は、「株式会社シグナル東京取締役」との肩書を被告P1に付した上で、9月30日までの間に、以下の内容の返信をした。
・「■現在の課題は、引き続きプレナス(ほっともっと)となります。/@ほっともっと人事部解体求人アウトソーシングのスタート/10月1日より新組織がほっともっとでスタート」、「⇒ツナグのように受ける仕組みで当社で担当をします。」
・「Aリクルート関連」、「<シグナル様と今までのような対応が維持できるかスムーズな切り替えが可能か>/○現在、すぐに原稿作成のボリュームや弊社での回収(見積・原稿確認・申込書)が増加すると対応できないと考えております。」
(以上につき、甲27)
カ 原告は、顧客1−1とかつて取引があったところ、原告担当者のP8と当該顧客の担当者との間でトラブルが生じたことなどから、遅くとも平成29年5月以降は取引がなかった。しかし、被告P1は、同年9月13日頃、顧客1−1及び1−2の本件業務に係る責任者P10から取引再開を申し入れられたことから、P10に対し、自身が原告の本件業務から外れていることを説明した上、担当者としてP8を紹介し、P8に対しても、上記申入れを伝えた。他方で、過去の経緯から原告と顧客1−1の取引がうまくいかない場合に備え、被告P2及び被告会社(P7)に対しても、当該顧客の広告掲載希望につき、受注の可能性を打診した。その結果、同月18日納品日の求人広告については原告が当該顧客から受注した。
 他方、同月25日納品日以降の広告原稿については、原告は受注できず、被告P2を介して被告会社が受注した。
 (甲13の1−1、乙17の2、20、21、証人P7、同P8、被告P1、被告P2)
キ P7は、同月13日午前10時37分、被告P1に対し、「今週締めの原稿は?どんな感じですか!」という内容のメールを送信した。
 これに対し、被告P1は、同日午後0時12分、被告P1個人用アドレスから、以下の内容の返信をした。
 「今日、夜に案件動かす営業と打ち合わせします。/入稿手続きが可能であれば入れようかと思います。/無理して入れようとは思いませんが、少しでも数字作りたいと思います。/昨日、P6さんが時間欲しいと羽田空港で会いました。/いろいろ牽制して来ましたが、曖昧にこたえておきました。これからグランP4さんと打ち合わせして来ます。/固められる限り固めて来ます。」
 なお、上記メール中の「案件動かす営業」とは、被告P2を指す。
 これに対し、P7は、同日午後0時28分、以下の内容の返信をした。
・「了解致しました。/社内の2人(P9、P11)には/話を終えています。」
・「入稿に関しては状況次第ですが対応する方向でおります。/今後は内容によりますが一時、P11が営業対応することも可能です!/今週入稿するしないに関わらず明日でも来てもらって構いませんが!」
 これに対し、被告P1かは、同日午後0時33分、被告P1個人用アドレスから、「ひとつひとつ迅速に固めて行きます。」などといった内容の返信をした。
 (以上につき、甲8、証人P7、被告P1)
ク 被告P1は、被告会社従業員であるP9ほかに対し、同月14日午後4時52分、被告P1個人アドレスから、「本日はお時間をいただきありがとうございました」と題するメールを送信した。その本文には以下の記載がある。
 「今後はこちらのGmailにてご連絡させていただきます。/何か疑問、不明な点が等ありましたら、お気軽にメールまたは携帯にご連絡ください。/もしかすると、今週から原稿が動く可能性があります。P2という者から連絡させていただきますので、その際はよろしくお願いいたします。」
 これに対し、P9は、以下の内容の返信をした。
 「P2様からの連絡の件、畏まりました。/先ほどお渡しした/HOPEID…に変更をお願い致します。/パスワードは同じです。」
(以上につき、甲9)
ケ 被告P2は、同月15日、同月18日納品日の顧客5及び8に係る各広告原稿をBiz-Human名義で被告会社に入稿した。
 同様に、被告P2は、同月25日納品日の顧客1−1、2〜4、6及び8に係る各広告原稿、同月29日納品日の顧客7に係る広告原稿、10月2日納品日に係る顧客1−1、4、6及び8に係る各広告原稿等を、被告会社に入稿した(以下、9月15日以降の上記各入稿を、「本件入稿」という。)。
 被告P2は、同年10月10日、被告会社に対し、本件入稿の対価として掲載金額の10%を請求し、被告会社からその支払を受けた。
 (甲11、12、乙21、被告P2、弁論の全趣旨)。
コ 被告P2は、被告P1に対し、同年9月中旬ないし下旬頃、「グラン・エムさんの件」と題するメール(甲10)を送信した。その本文には以下の記載がある。
・「雇用にあたっての不安点等をお送りします。/@給与:30万円以上はほしいです。たださすがに今後P12等が入社する際に同じ給与は嫌です。/インセンティブに関しては、個人・全社数字どちらかでコミットするのかで判断したいです。私自身は固定給で構いません。/A業務:方向的にはRシェア拡大がメインですか(もちろん全メディアをやります)/ゼネラルはもちろんですがトップを目指すのか/また、WEB得・枠得などの枠商品や今後のクライアントを多数管理する場合にアシスタントが必要です。/B勤務先:できれば「メディック」さんが主となる勤務地が良いです。/グラン・エムさんと同じ部屋でも良いですが、喘息の関係上不安です。/CBiz-Human:派遣・紹介(派遣会社・紹介会社とパートナー契約を結び、案件提供で契約締結で20%をもらっています。)/留学生アルバイト紹介(各学校の生徒の留学生のアルバイト紹介を行い、契約締結時に各社折半を行っています。/コンサルティング(1社:シモダケータリングサービスでHPの更新、LINE@の更新を行い、月額費用を頂いております)/その他に何でもやっていますが、上記3点で動いております。」
・「その他は、P13・P12・P8などを今後どうしていくのか?などが心配ですが、/各個人の意見を尊重してほしいです。/私自身は、あくまでグラン・エムさんというよりP1さんについていきます。/その他の人間も同様です。なのでP1さんにお任せします!/本日11:00に飯田橋のどこに行けばよろしいでしょうか?」
サ 被告P1及び被告P2は、同月28日、P4を訪問して面談した上、両名がフェースジムに入社するとともに、被告会社の営業を兼務することを決めた。
 (乙17の2、21、被告P1、被告P2)
シ 被告P2は、被告P1に対し、同月29日午後2時36分、以下の記載等のあるメール(甲11)を送信した。
・「今週入稿分までの受注一覧をお送りします。」
・「FUNtoFUNのP14さんですが、昨夜2本の発注を頂いてから一切音信不通です。SNS・メール・電話して降りますが…/何とか繋げ入稿します。」
 上記メールには、本件入稿その他の広告原稿について、顧客名、納品日、受注額等が記載された受注一覧(「<R媒体>メディック様入稿分.xls」)が添付されていた。
 (上記のほか、乙21、被告P1、被告P2)
ス 被告P1は、P5に対し、同年10月3日、「RE:社名その他」と題するメールを送信した。その本文には以下の記載等がある。
「P2が言っていたのは、/株式会社メディックでの営業マン登録です。/P15くん一人でとりあえずはいいかな。。。/P1、P2で気付く人は気付く/その他に4名登録するので株式会社メディックはどうなったの??的な状況が想像できます。/P5さん、P4さんも登録したら…様子を見ながら検討します。」
 これに対し、P5は、「その辺りはうまくやって頂ければ!」との返信をした。
(以上につき、甲28)
セ 平成29年5月以降の原告とグラン・エムらとの関係
 原告は、被告P1が求人広告業務を外れた平成29年5月以降、グラン・エムに対し、原稿制作料名目で支払っていた手数料の引下げや、同社から紹介を受けた顧客に対し原告が直接に営業することの申入れ等をしたが、グラン・エムはこれを断った。
 また、その頃、原告は、アイコミに対し、同社に紹介料を支払うと原告の利益が少なくなるとして、アイコミからの新規の広告主の紹介を受け付けないようにしたい旨を伝えた。
 こうした原告の対応を受け、グラン・エムらは、原告の対応に不満を抱くようになった。
 (乙18、19、証人P4、証人P5)
(5)本件各顧客に係る原告及び被告会社の受注状況等
ア 本件各顧客の担当者等
 本件各顧客のうち、@顧客9、10、14、15、18、19及び22は、グラン・エムが原告に紹介した顧客であり、A顧客12、13及び17は、アイコミが原告に紹介した顧客である。その余の顧客のうち、B顧客2〜7、11、16、20、21は、被告P2が原告在職時に担当していた。また、C顧客1及び8は原告において別の従業員が担当していたものの、被告P1は顧客1のP10と面識があり、また、顧客8は、原告退職後の被告P2と取引のあった会社である。
 個別の受注状況については、以下のとおりである(なお、日付はいずれも納品日である。また、各記載の期間中であっても、当該顧客からの広告掲載依頼自体ないことがある。また、各記載の先の期間と後の期間との間に受注状況の記載がない期間がある場合は、その間当該顧客からの広告掲載依頼自体がなかったことを意味する。)。
 (甲13、乙18、19、証人P4、証人P5、被告P1、被告P2、弁論の全趣旨)
イ @顧客9、10、14、15、18、19及び22に係る原告及び被告会社の受注状況等
(ア)顧客9−1(甲13の9の1、42の1)
・平成28年5月23日〜平成29年9月25日の広告原稿は原告が受注
・同年11月20日〜令和元年5月13日の広告原稿は被告会社が受注
(イ)顧客9−2(甲13の9−2)
・平成28年3月17日〜同月31日の広告原稿は、原告及び被告会社以外の広告代理店(以下、原告及び被告会社以外の広告代理店を「他社」という。)が受注
・平成29年5月8日〜同年7月3日の広告原稿は原告が受注
・同年10月26日及び同年11月20日の広告原稿は被告会社が受注
(ウ)顧客9−3(甲13の9−3、42の2)
・平成28年6月20日〜平成29年10月9日の広告原稿は原告が受注
・同月19日〜同年12月14日の広告原稿は被告会社が受注
(エ)顧客10(甲13の10)
・平成27年4月20日〜平成29年8月21日の広告原稿は原告が受注
・同年11月20日及び同月27日の広告原稿は被告会社が受注
(オ)顧客14(甲13の14)
・平成28年6月27日〜同年11月21日の広告原稿は原告が受注
・平成29年11月27日〜平成30年1月15日の広告原稿は被告会社が受注
(カ)顧客15(甲13の15、42の3)
・平成28年2月15日〜平成29年9月4日の広告原稿は原告が受注
・同年10月9日〜同年12月11日の広告原稿は被告会社が受注
(キ)顧客18(甲13の18)
・平成29年7月3日〜同年8月7日の広告原稿は原告が受注
・同年10月9日及び同月23日の広告原稿は被告会社が受注
・同年11月13日〜同年12月7日の広告原稿は他社が受注
・同月12日の広告原稿は被告会社が受注
・同月28日の広告原稿は他社が受注
(ク)顧客19−1(甲13の19−1)
・平成29年8月7日〜同月21日の広告原稿は他社が受注
・同年9月11日の広告原稿は原告が受注
・同年10月30日〜同年12月4日の広告原稿は被告会社が受注
(ケ)顧客19−2(甲13の19−2、42の4)
・平成29年6月12日〜同月26日の広告原稿は他社が受注
・同年7月24日の広告原稿は原告及び他社が受注
・同年8月7日〜同年9月18日の広告原稿は原告が受注
・同年10月16日〜同年12月25日の広告原稿は被告会社が受注
(コ)顧客19−3(甲13の19−3、42の5)
・平成29年7月17日〜同年10月2日の広告原稿は原告が受注
・同月9日〜同年12月25日の広告原稿は被告会社が受注
(サ)顧客19−4(甲13の19−4)
・平成29年9月18日〜同年10月2日の広告原稿は原告が受注
・同月9日〜同年11月27日の広告原稿は被告会社が受注
(シ)顧客19−5(甲13の19−5)
・平成28年11月14日〜同年12月15日の広告原稿は他社が受注
・平成29年1月12日の広告原稿は原告が受注
・同年2月1日〜同年9月29日の広告原稿は他社が受注
・同年10月9日の広告原稿は被告会社が受注
・同月13日〜同年12月8日の広告原稿は他社が受注
(ス)顧客19−6(甲13の19−6)
・平成28年7月25日〜同年8月8日の広告原稿は原告が受注
・同月22日納品日〜平成29年8月21日の広告原稿は他社が受注
・同年10月9日〜同年12月25日の広告原稿は被告会社が受注
(セ)顧客22(甲13の22)
・平成29年1月23日の広告原稿は他社が受注
・同月30日及び同年2月6日の広告原稿は原告及び他社が受注
・同月13日〜同年10月30日の広告原稿は他社が受注
・同年11月6日〜同月27日の広告原稿は被告会社が受注
・同年12月4日の広告原稿は被告会社及び他社が受注
・同月11日及び同月25日の広告原稿は被告会社が受注
ウ A顧客12、13及び17に係る原告及び被告会社の受注状況等
(ア)顧客12(甲13の12)
・平成29年3月27日〜同年4月10日の広告原稿は原告が受注
・同年10月16日〜同月11月6日の広告原稿は被告会社が受注
(イ)顧客13(甲13の13)
・平成29年1月16日及び同月23日の広告原稿は原告が受注
・同年10月30日〜同年12月7日の広告原稿は被告会社が受注
(ウ)顧客17(甲13の17)
・平成27年9月28日〜同年10月5日の広告原稿は他社が受注
・同年12月21日の広告原稿は原告が受注
・平成28年9月12日及び同月19日の広告原稿は他社が受注
・平成29年4月24日及び同年5月8日の広告原稿は原告が受注
・同年10月23日の広告原稿は被告会社が受注
エ B顧客2〜7、11、16、20及び21に係る原告及び被告会社の受注状況等
(ア)顧客2(甲11、13の2、被告P2)
・平成26年10月12日〜平成27年2月23日の広告原稿はエフエーが受注
・同年4月20日の広告原稿は原告が受注
・同年11月16日の広告原稿は他社が受注
・同月23日〜平成29年4月10日の広告原稿は原告が受注
・同年9月25日の広告原稿は、被告P2を介して被告会社が受注
(イ)顧客3(甲11、13の3、被告P2)
・平成26年10月1日の広告原稿は他社が受注
・平成27年2月23日及び同年3月2日の広告原稿はエフエーが受注
・平成28年10月3日〜平成29年2月27日の広告原稿は原告が受注
・同年8月21日の広告原稿は、被告P2がアルフォース・ワンの業務として担当し、アドプランナーが受注
・同年11月6日及び同年12月28日の広告原稿は、被告P2を介して被告会社が受注
(ウ)顧客4(甲11、13の4)
・平成29年9月25日の広告原稿は原告、被告会社及び他社(3社)が受注
・同月28日の広告原稿は他社が受注
・同年10月2日〜同月16日の広告原稿は原告、被告会社及び他社(3社)が受注
・同月17日の広告原稿は被告会社が受注
・同月23日〜同年11月20日の広告原稿は原告、被告会社及び他社(4社)が受注
・同月27日の広告原稿は原告、被告会社及び他社(3社)が受注
・同年12月4日の広告原稿は被告会社及び他社(4社)が受注
・同月11日の広告原稿は原告、被告会社及び他社(2社)が受注
・同月18日の広告原稿は原告及び他社(2社)が受注
・同月25日の広告原稿は原告、被告会社及び他社(2社)が受注
(エ)顧客5(甲11、13の5、被告P2)
・平成29年7月10日の広告原稿は、被告P2を介してアドプランナーが受注
・同月17日〜同年9月2日の広告原稿は原告が受注
・同月18日の広告原稿は被告会社が受注
・同年10月3日の広告原稿は原告が受注
・同月16日の広告原稿は被告会社が受注
・同年11月3日の広告原稿は原告が受注
・同月13日〜平成30年1月6日の広告原稿は被告会社が受注
(オ)顧客6(甲11、13の6、被告P2)
・平成29年2月13月〜同年3月6日の広告原稿は原告が受注
・同年6月19日〜同年9月11日の広告原稿は、被告P2を介してアドプランナーが受注
・同年9月25日〜平成30年1月15日の広告原稿は被告会社が受注
(カ)顧客7(甲11、13の7、被告P2)
・平成27年4月13日〜平成29年1月30日の広告原稿は原告が受注
・同年5月19日〜同年8月14日の広告原稿はアドプランナーが受注。このうち同年8月14日のものは、被告P2を介してアドプランナーが受注したものである。
・同年9月29日及び同年10月27日の広告原稿は被告会社が受注
(キ)顧客11(甲13の11、被告P2)
・平成27年5月11日〜平成29年5月22日の広告原稿は原告が受注
・同年10月16日及び同年12月4日の広告原稿は被告会社が受注
(ク)顧客16(甲13の16、被告P2)
・平成27年7月9日〜平成29年5月11日の広告原稿は原告が受注
・同年11月6日の広告原稿は被告会社が受注
(ケ)顧客20(甲13の20、被告P2)
・平成28年4月11日〜平成29年3月20日の広告原稿は原告が受注
・同年5月25日の広告原稿は、P2を介してアドプランナーが受注
・同年11月13日の広告原稿は被告会社が受注
(コ)顧客21(甲13の21)
・平成29年10月2日の広告原稿は原告が受注
・同月9日の広告原稿は他社が受注
・同月16日の広告原稿は原告が受注
・同月23日の広告原稿は他社が受注
・同月30日の広告原稿は被告会社が受注
・同年11月6日の広告原稿は他社が受注
・同月13日の広告原稿は被告会社が受注
・同月20日の広告原稿は他社が受注
・同月27日の広告原稿は被告会社が受注
・同年12月4日の広告原稿は他社が受注
・同月11日の広告原稿は被告会社が受注
・同月18日の広告原稿は他社が受注47
・同月25日の広告原稿は被告会社が受注
カ C顧客1及び8に係る原告及び被告会社の受注状況等
(ア)顧客1−1(甲11、13の1−1、乙17の2、21、証人P8、被告P1、被告P2)
・原告は、平成29年5月より前に顧客1−1と取引があったが、それぞれの担当者間のトラブルから、取引はなくなっていた。
・平成29年9月4日〜同月11日の広告原稿は他社が受注
・同月18日の広告原稿は原告が受注(被告P1がP10から連絡を受け、P8が担当したもの)
・同月25日〜同年12月18日は、被告P2を担当者として被告会社が受注
(イ)顧客1−2(甲13の1−2、被告P2、弁論の全趣旨)
・平成29年1月9日及び同月16日の広告原稿は他社が受注
・同月19日の広告原稿は原告が受注
・同月23日〜同年10月23日の広告原稿は他社が受注
・同月30日及び同年12月4日の広告原稿は被告会社及び他社が受注
・同月11日の広告原稿は被告会社が受注
・同月18日及び25日の広告原稿は被告会社及び他社が受注
キ 顧客8(甲11、13の8、被告P2)
・平成29年5月8日の広告原稿は原告が受注
・同月15日の広告原稿は他社が受注
・同月19日の広告原稿は原告が受注
・同月22日〜同年9月11日の広告原稿は他社が受注
・同月18日の広告原稿は被告会社及び他社が受注
・同月24日の広告原稿は他社が受注
・同月25日〜同年12月26日の広告原稿は被告会社が受注
2 被告P1が原告に対して負う義務の内容とその期間(争点1)について
(1)被告P1の原告取締役辞任時期
 被告P1は、平成27年2月に原告の取締役に就任してその旨登記されると共に、その頃から平成29年4月まで、原告の求人広告代理業務に従事していた(前記第2の2(1)ウ(ア)、(イ))。その後、被告P1は、一部の広告主のものを除き求人広告代理業務から外れ、原告親会社グループ内の別法人が扱う他の業務に従事するようになった(前記1(1)イ)。
 もっとも、その後、被告P1が同年8月にP6等に同年9月末日で原告を退職する旨の意向を伝え(前記1(1)イ)、実際に同日原告を退職するまでの間、P6等に対して原告退職以前に取締役を辞任する旨を伝えたことを認めるに足りる証拠はない(なお、被告P1自身、原告の退社を決めたのは同年8月である旨供述する。)。また、その間、被告P1がP6等から辞任を求められたことをうかがわせる具体的な事情の主張立証もない。さらに、給与面においても、被告P1は、その退職まで従前と変わらない額の基本給を受け取っており、その他取締役を辞任したことをうかがわせる給与額の変動も見られない(甲33)。しかも、被告P1が原告の取締役であることについて、登記簿上の記載の変更はなく(前記第2の2(1)ウ(ア))、同年9月頃のP3のメールにおいても原告取締役の肩書を付されていたものである(前記1(4)オ)。
 以上の事情を総合的に考慮すれば、被告P1は、平成29年9月30日の原告退職まで、名目上にとどまることなく、原告の取締役の地位にあったと認められる。これに反する被告らの主張は採用できない。
(2)被告P1が原告に対して負う義務
 したがって、被告P1は、平成29年9月末日に原告の取締役を辞任して退職するまで、原告に対し、取締役としての善管注意義務(会社法330条、民法644条)、忠実義務(会社法355条)及び競業避止義務(同法356条1項1号)を負っていたものである。なお、被告P1入社時誓約書には競業避止義務等の定めがあるところ、被告P1の原告取締役在任中に関しては、これらの競業避止義務等は上記取締役としての忠実義務等に包摂されているものといえる。
 原告の主張に係る「本件任務」(原告の顧客との折衝に当たり、又は第三者をして折衝させるに当たっては、原告が当該顧客に関する本件業務を受注することを目的としなければならず、当該顧客に他の広告代理店を紹介し、又は他の広告代理店を紹介する第三者を紹介する等して、当該他の広告代理店に当該顧客に関する本件業務を行わせ、又は行わせることとなる行為をしてはならない義務)は、被告P1が取締役として原告に対して負う上記忠実義務等に含まれるものといってよい。
3 被告P1による義務違反及び被告らの共謀の有無等(争点2)について
(1)前提事実(前記第2の2)及び前記1の各認定事実によれば、本件に至る経緯は、被告P1を中心に置いた場合、おおむね以下のようなものであったことがうかがわれる。
 すなわち、被告P1は、エフエーから原告に移籍後も本件業務に係る求人広告業務に従事していたところ、平成29年4月、P6から、これを外れて原告親会社の別の子会社で別の業務を担当するように命じられたことなどから、原告の退職を考えるようになった(前記1(1))。そこで、退職後を念頭に、同月から被告会社に関する情報収集を行い、同年6月上旬頃、被告会社代表者であるP7に連絡を取り、原告を退社する意向があることなどを話し、P7からは、原告退社後も求人広告業務を続ける場合は連携してビジネスを行うことの提案を受けた(前記1(4)ア)。もっとも、この時点で、被告P1は、未だ原告退社の意向を固めるまでには至っておらず、また、被告P1及びP7の間で、被告P1の原告退社後における被告P1と被告会社とのビジネスのあり方につき、更に具体的に検討等が行われたことをうかがわせる証拠はない。
 被告P1は、同年8月8日以前に、P4に対し、被告P1が原告を退社した後の被告P1、グラン・エム及び被告会社による取引について、グラン・エムの顧客を被告会社に紹介する、すなわち、本件商流Aにおいて原告が果たす役割を被告会社が担う本件商流Bを念頭に置いたと見られる「スキーム」の提案を行い、大筋でその合意を得、以後これを具体化することとなった。そこで、被告P1は、同月8日にP7に連絡を取り、その後、同人に対し、被告会社の取扱広告量の増加とそれによるリクルートとの関係でのゼネラルパートナーへの引き上げというメリット共に、上記「スキーム」に関する具体的な提案を行い、また、P7とP4とを引き合わせた(前記1(4)イ)。
 その後、被告P1は、同年9月以降、被告P1個人用アドレスを用いて、グラン・エムと同じ企業グループに属するフェースジムの代表者であるP3との間で、原告が外部に広告制作を委託する場合の原告制作料金等に関する情報を提供したり、フェースジムの原告に対する今後の対応に関する情報を得たりする一方(前記1(4)ウ、オ)、P7との間では、リクルート標準端末の申請、ゼネラルパートナーとなるための基準及びこれと現状との対比等に関する具体的な情報を得たり、費用負担に関する協議を行うなどした(前記1(4)エ)。また、被告P1は、顧客1−1のリクルート媒体への広告掲載に係る取引につきP10から申入れを受け、これについて被告P2及び被告会社に受注の可能性を打診したという経緯もあり、上記取引の営業担当者である被告P2と被告会社のP9らが連絡を取り合えるように調整し、その結果、被告P2は、顧客1−1等の広告原稿を被告会社に入稿するに至った(前記1(4)カ〜ケ、サ)。
 他方、被告P1は、被告P2に対し、同月中旬ないし下旬頃、グラン・エムに雇用されて、被告P1と共にリクルート媒体への求人広告掲載に係る業務に従事することなどを打診し、被告P2は、基本的にこれに応じることを前提として、雇用後の待遇等に関する希望等を被告P1に伝えた(前記1(4)コ)。
 その結果、被告P1は、同月28日、被告P2と共にフェースジムへの入社及び被告会社の営業の兼務を決めた(前記1(4)サ)。また、その頃、被告P1及び被告P2その他の者を、リクルートとの関係で、被告会社の営業担当者として登録することとなった(前記1(4)ス)。さらに、被告P1は、フェースジムの代表取締役に就任すると共に被告会社のHR事業本部長に就任し(ただし、被告会社との間で雇用契約は締結されていない。)、被告P2は、フェースジムで働くと共に、被告会社の営業部マネージャーに就任した(ただし、被告会社との間で雇用契約は締結されていない。)。
 なお、上記営業担当者登録に関する記載のあるメールを被告P1とP5とがやり取りしていることに鑑みると、当該メールの送信日である同年10月3日より以前に、被告らとP5との間で、アイコミが本件商流Bに関与することについても合意が成立していたことがうかがわれる。
 他方、グラン・エムらは、本件商流Bによる取引が開始される同年10月以前には、いずれも被告会社とは取引がなかった(証人P4、同P5)。にもかかわらず、グラン・エムらが被告らと本件商流Bによる取引を行うに至ったのは、被告P1とP4及びP5とは、被告P1がエフエーに在籍していた頃から既に親交があったこともあって、本件商流Aによる取引を行っていたところ、被告P1が原告に移籍した後も、これに伴い原告との間で本件商流Aによる取引を継続していたことのほか、グラン・エムらのいずれも、被告P1が原告における求人広告業務を外れた平成29年5月以降の原告の対応に不満を抱いていたこと(前記1(4)セ)が背景にあるものとうかがわれる。
(2)検討
ア 上記のとおり、被告P1は、原告取締役に在任中の平成29年4月には既に退職を念頭において原告退職後の求人広告業務の連携パートナーとして被告会社についての調査を開始し、同年6月にはP7に接触し、同年8月には、P4に対して被告P1の構想を説明し大筋での合意を得た上で、P7にもこれを提案し、P4とP7とを引き合わせ、同年9月以降は、本件商流Bによる取引の構図の具体化に必要な事項について具体的なやり取りを進めると共に、被告P2やP5からもこれに関与することの了解を取り付けるなどしつつ、同年10月以降、本件商流Bによる取引が開始されることに向けた準備を進めていたものといえる。
 このような被告P1の行為は、原告の取締役退任後の活動に向けられた準備行為とはいえ、本件商流Aによる取引に基づき原告がグラン・エムらから紹介される広告主を同年10月以降失わせ、原告と競業関係にある被告会社の売上増加につながるものであることに鑑みると、自己及び被告会社の利益のために本件任務に違背し、原告の取締役として負う忠実義務に違反するものといえる。また、被告P2及び被告会社は、被告P1の上記行為につき、このような事情を知りながら、自ら本件商流Bによる取引の形成に積極的に関与したものであるから、被告P1の原告に対する忠実義務違反行為につき共謀したものといえる。
 したがって、こうした被告らの行為は、被告P1による忠実義務違反及び被告らの共謀による共同不法行為を構成する。
イ 被告らの主張について
 被告らは、リクルートの求人広告代理業務において、広告主は自由に発注する広告代理店を選択でき、その変更等も日常的に行われていることから、特定の販売パートナー固有の「顧客」という概念はなく、また、グラン・エムらは、被告P1が責任者であることから原告に広告主を紹介していたことや、原告の対応に対する不満などから、自らの判断で原告から被告会社へ紹介先を変更したものであるなどとして、被告P1の違法な義務違反行為はない旨主張する。
 しかし、仮にグラン・エムらが自らの判断で原告から被告会社へと広告主の紹介先を変更したのであったとしても、これに先立ち、被告P1が、かねてより個人的に親交があり、また、エフエー及び原告において取引上もつながりのあったP4及びP5に対して働き掛けを行っていた以上、その働き掛けがグラン・エムらの上記判断に作用したことに違いはなく、被告P1の本件任務違背及びその違法性を否定する事情とはいえない。また、広告主がリクルート媒体への広告掲載を希望する場合に発注する広告代理店を自由に選択し得るとしても、その実情(前記1(5)イ)に鑑みると、期間の長短はあれ、広告主が特定の広告代理店に対し継続的に発注する例は少なからず見受けられることから、この点も、被告P1による本件任務違背及びその違法性を否定する事情とはいえない。さらに、被告P1は、原告の取締役在53任中にグラン・エムらの原告に対する不満を知ったのであれば、取締役として自らその解消に努めるなり、原告内の担当部署にこれを伝えて善処を促すなりの対応をすべき立場にあったものといえる。
 したがって、被告らの指摘に係る事情は、いずれも被告らの共同不法行為の成立を否定するものとはいえない。この点に関する被告らの主張は採用できない。
4 損害の発生及び因果関係の有無並びに損害額(争点5)について
(1)前記3のとおり、本件においては、本件商流Bによる取引開始に向けた被告P1の準備行為につき、被告らによる共同不法行為が成立する。もっとも、これは、被告ら及びグラン・エムらによる平成29年10月以降の取引関係の基本的構図に関するものであるにとどまることから、こうした準備行為と本件各顧客からの被告会社による受注に伴う原告の失注との因果関係の有無については、顧客ごとに更に個別に検討を要する。
 そこで、以下、この点について検討する。
(2)@顧客9、10、14、15、18、19及び22について
ア 顧客9−3、15及び19−1〜19−4について
(ア)前記1(5)イによれば、顧客9−3、15及び19−1〜19−4については、平成29年9月(一部、納品日が同年10月上旬のものも含まれる。)までは原告が受注し、同年10月以降は被告会社が受注している。その間に、広告主からリクルート媒体への広告掲載がない時期はあっても、他社が受注したことはない。
 このように、原告の最終の受注と被告会社の最初の受注とが極めて近接した時期にあり、その間、他社による受注も介在していないことに鑑みると、これらの顧客との関係では、被告らの共同不法行為と原告の失注とは相当因果関係があると認められる。これに反する被告らの主張は採用できない。
(イ)相当因果関係の認められる原告の損害の範囲について、原告は、平成29年12月31日までの範囲を主張する。
 しかし、被告P1が本件商流Bの準備行為を具体的に開始したのは平成29年8月8日であり(前記1(4)イ)、被告P1の原告取締役退任まで2か月弱の期間があったにとどまる。なお、被告P1は、同年4月に被告会社について調査を始め、同年6月にはP7と面談したものの(前記1(4)ア)、この段階では、被告P1自身が原告を退職する意向を最終的に固めていたことを認めるに足りる証拠はなく、また、P7に対して広告求人業務に関する何らかの提案をしたこともうかがわれないことなどに鑑みると、これらの行為をもって忠実義務違反行為に着手したものと見るのは相当でない。
 このことと、上記2か月弱の期間中は、被告P1が原告での業務を行いながら本件商流Bの準備行為を進めていたのに対し、同年10月以降はそのような制約がなくなることなどを考え合わせると、仮に被告P1が原告取締役を退任後に本件商流Bの準備行為を進めた場合、本件商流Bによる取引が開始されるまでに、長くとも2か月を超えることはないと思われる。
 そうすると、被告らの共同不法行為と相当因果関係が認められる原告の損害としては、平成29年11月中の納品日分までと考えるのが相当である(この点は、いずれの顧客との関係においても共通する。)。これに反する原告の主張は採用できない。
イ 顧客9−1について
 前記1(5)イ(ア)のとおり、顧客9−1については、原告の最終の受注は平成29年9月25日納品日のものであり、被告会社の最初の受注は同年11月20日納品日のものである。その間に他社が受注したことはない。その間隔は2か月弱であるところ、原告が受注を継続してきた期間においても、2か月ないしそれ以上の間隔が開くことは複数回見受けられる(例えば、平成29年7月3日納品日のものと同年9月18日納品日のものとの間、平成28年11月7日納品日のものと平成29年2月13日納品日のものとの間など。甲42の1)。
 こうした受注状況を踏まえると、被告らによる共同不法行為がなければ、なお原告が顧客9−1から引き続き受注し得た蓋然性は相当程度認められる。
 したがって、顧客9−1については、被告らによる共同不法行為と原告の失注との間に相当因果関係が認められる。これに反する被告らの主張は採用できない。
ウ顧客9−2
 前記1(5)イ(イ)のとおり、顧客9−2については、原告の最終の受注は平成29年7月3日納品日のものであり、被告会社の最初の受注は同年10月26日納品日のものである。その間に他社が受注したことはない。ただし、その間隔は3か月半を超える。他方、取引状況を子細に見ると、原告が顧客9−2から受注したのは、同年5月8日納品日のものからの約2か月間に合計4件にとどまる。こうした経緯をも踏まえると、原告に対する顧客9−2の発注は必ずしも安定的、継続的に行われていたとまではいえない。そうである以上、被告らの共同不法行為がなければ、同年10月26日納品日のもの以降の広告原稿につき被告会社ではなく原告が受注できた蓋然性が相当程度あったとまではいえない。
 したがって、顧客9−2については、被告らによる共同不法行為と原告の失注との間に相当因果関係を認めることはできない。これに反する原告の主張は採用できない。
エ 顧客10について
 前記1(5)イ(エ)のとおり、顧客10については、原告の最終の受注は平成29年8月21日納品日のものであり、被告会社の最初の受注は同年11月20日納品日のものである。その間に他社が受注したことはない。その間隔は約3か月であるところ、原告が受注を継続してきた期間においても、3か月ないしそれ以上の間隔が開くことは複数回見受けられる(例えば、平成28年11月21日納品日のものと平成29年8月21日納品日のものとの間、平成28年6月29日納品日のものと同年11月21日納品日のものとの間など。甲13の10)。
 こうした受注状況を踏まえると、被告らによる共同不法行為がなければ、なお原告が顧客10から引き続き受注し得た蓋然性は相当程度認められる。
 したがって、顧客10については、被告らによる共同不法行為と原告の失注との間に相当因果関係が認められる。これに反する被告らの主張は採用できない。
オ 顧客14について
 前記1(5)イ(オ)のとおり、顧客14については、原告の最終の受注は平成28年11月21日納品日のものであり、被告会社の最初の受注は平成29年11月27日納品日のものである。その間に他社が受注したことはない。もっとも、その間隔はほぼ1年と長く、原告が受注を継続してきた期間において、それほどの間隔を経てもなお原告に発注があった例も認められない(甲13の14)。こうした事情に鑑みると、被告らの共同不法行為がなければ、平成29年11月27日納品日のもの以降の広告原稿につき被告会社ではなく原告が受注できた蓋然性が相当程度あったとまではいえない。
 したがって、顧客14については、被告らによる共同不法行為と原告の失注との間に相当因果関係を認めることはできない。これに反する原告の主張は採用できない。
カ 顧客18について
 前記1(5)イ(キ)のとおり、顧客18については、原告の最終の受注は平成29年8月7日納品日のものであり、被告会社の最初の受注は同年10月9日納品日のものである。その間に他社が受注したことはない。その間隔は約3か月であるところ、原告が受注を継続してきた期間において同程度に間隔が開いたといった事情は見受けられないものの、同年7月3日〜同年8月7日納品日分まで原告が合計8件(納品日としては5回)を受注していたことを踏まえると、比較的安定的、継続的に受注していたものといえる。こうした受注状況を踏まえると、被告らによる共同不法行為がなければ、なお原告が顧客18から引き続き受注し得た蓋然性は相当程度認められる。
 したがって、顧客18については、被告らによる共同不法行為と原告の失注との間に相当因果関係が認められる。これに反する被告らの主張は採用できない。
キ 顧客19−5、19−6及び22について
 前記1(5)イのとおり、顧客19−5については、原告の最終の受注は平成29年1月12日納品日のものであり、その後、被告会社が同年10月9日納品日のものを受注するまでの間に、同年2月1日納品日分〜同年9月29日納品分は他社が受注している。
 また、顧客19−6については、原告の最終の受注は平成28年8月8日納品日のものであり、その後、被告会社が平成29年10月9日納品日のものを受注するまでの間に、平成28年8月22日納品日分〜平成29年8月21日納品日分は他社が受注している。
 さらに、顧客22については、原告の最終の受注は平成29年2月6日納品日のものであり、その後、被告会社が同年11月6日納品日のものを受注するまでの間に、同年2月13日納品日分〜同年10月30日納品分は他社が受注している。更に子細に見ると、顧客22からの原告の受注は同年1月30日納品分及び同年2月6日納品分の合計3件にとどまり、その後被告会社が受注を始めるまでは専ら他社が受注していたことに鑑みると、そもそも、当該顧客は、原告と継続的に取引していたとはいいがたい。
 こうした取引状況に鑑みると、顧客19−5、19−6及び22については、いずれも被告らの共同不法行為と原告の失注との間に相当因果関係を認めることはできない。これに反する原告の主張は採用できない。
(3)A顧客12、13及び17について
ア 顧客12について
 前記1(5)ウ(ア)のとおり、顧客12については、原告の最終の受注は平成29年4月10日納品日のものであり、被告会社の最初の受注は同年10月16日納品日のものである。その間に他社が受注したことはない。ただし、その間隔は6か月を超える。他方、取引状況を子細に見ると、原告が顧客12から受注したのは、同年3月27日納品日のものから同年4月19日納品日のものまでの合計3件にとどまる。こうした経緯をも踏まえると、原告に対する顧客12の発注は必ずしも安定的、継続的に行われていたとまではいえない。そうである以上、被告らの共同不法行為がなければ、同年10月16日納品日のもの以降の広告原稿につき被告会社ではなく原告が受注できた蓋然性が相当程度あったとまではいえない。
 したがって、顧客12については、被告らによる共同不法行為と原告の失注との間に相当因果関係を認めることはできない。これに反する原告の主張は採用できない。
イ 顧客13について
 前記1(5)ウ(イ)のとおり、顧客13については、原告の最終の受注は平成29年1月23日納品日のものであり、被告会社の最初の受注は同年10月30日納品日のものである。その間に他社が受注したことはない。ただし、その間隔は9か月を超える。他方、取引状況を子細に見ると、原告が顧客13から受注したのは、上記のもの及び同年1月16日納品日のものの合計2件にとどまる。こうした経緯をも踏まえると、原告に対する顧客13の発注は必ずしも安定的、継続的に行われていたとまではいえない。そうである以上、被告らの共同不法行為がなければ、同年10月30日納品日のもの以降の広告原稿につき被告会社ではなく原告が受注できた蓋然性が相当程度あったとまではいえない。
 したがって、顧客13については、被告らによる共同不法行為と原告の失注との間に相当因果関係を認めることはできない。これに反する原告の主張は採用できない。
ウ 顧客17について
 前記1(5)ウ(ウ)のとおり、顧客17については、原告の最終の受注は平成29年5月8日納品日のものであり、被告会社の最初の受注は同年10月23日納品日のものである。その間に他社が受注したことはない。ただし、その間隔は9か月を超える。他方、取引状況を子細に見ると、顧客17から、原告は、平成27年12月21日納品日のものを受注したものの、その後いったん他社が受注し、再び原告が受注したのは、平成29年4月24日納品日のものからである。しかも、再度の受注から最終の受注までの受注件数は合計4件(納品日の回数としては2回)にとどまる。こうした経緯を踏まえると、原告に対する顧客17の発注は必ずしも安定的、継続的に行われていたとまではいえない。そうである以上、被告らの共同不法行為がなければ、同年10月23日納品日のものにつき被告会社ではなく原告が受注できた蓋然性が相当程度あったとまではいえない。
 したがって、顧客17については、被告らによる共同不法行為と原告の失注との間に相当因果関係を認めることはできない。これに反する原告の主張は採用できない。
(4)B顧客2〜7、11、16、20及び21について
ア 顧客2について
 被告P2は、原告在職時に顧客2を担当していた。他方、顧客2からの原告の最終の受注は平成29年4月10日納品日のものであり、被告会社の最初の受注は同年9月25日納品日のものであって、その間、他社が受注したことはない。そうすると、顧客2が同年9月25日納品分のリクルート媒体への広告掲載につき、これを希望する顧客2が被告P2にコンタクトを取ったものと合理的に推認される。
 もっとも、この時点で被告P2は既に原告を退職しており、退職後はリクルート媒体への広告原稿はアドプランナーを通じて入稿していたこと(前記1(2))などに鑑みると、被告らによる共同不法行為の有無に関わりなく、原告がこれを受注し得る蓋然性は乏しかったものと見るのが相当である。
 したがって、顧客2については、被告らによる共同不法行為と原告の失注との間に相当因果関係は認められない。これに反する原告の主張は採用できない。
イ 顧客3について
 被告P2は、原告在職時に顧客3を担当していた。また、前記1(5)エ(イ)のとおり、顧客3について、平成29年8月21日、同年11月6日及び同年12月28日納品日のものは、いずれも被告P2が担当してアドプランナーないし被告会社が受注したものである。
 したがって、顧客2の場合と同様に、顧客3についても、被告らによる共同不法行為と原告の失注との間に相当因果関係は認められない。これに反する原告の主張は採用できない。
ウ 顧客4について
 前記1(5)エ(ウ)のとおり、顧客4は、平成29年9月25日納品日の広告原稿について、原告及び被告会社のほか他社(3社)にも発注し、同月28日納品の広告原稿は他社に発注している。また、同年10月以降も、被告会社のみに発注したものもあるが(同月17日納品日分)、その余は、同じ納品日の広告原稿を原告、被告会社及び他社(2社〜4社)に発注している。このことから、顧客4については、自らの主体的判断により広告代理店を選定する姿勢がうかがわれる。こうした顧客4の発注状況に鑑みると、原告の失注が被告会社の受注につながる蓋然性が相当程度あったとはいえない。
 したがって、顧客4についても、被告らによる共同不法行為と原告の失注との間
に相当因果関係は認められない。これに反する原告の主張は採用できない。
エ 顧客5について
 前記1(5)エ(エ)のとおり、顧客5は、平成29年7月10日納品日の広告原稿は被告P2を介してアドプランナーに発注したものの、同月17日〜同年9月2日納品日の各広告原稿は原告に発注した。その後、同月18日納品日の広告原稿を被告会社に発注してからは、同年11月3日納品日分に至るまで、被告会社と原告とに交互に発注している。こうした発注状況に鑑みると、顧客5については、自らの主体的判断により原告又は被告会社をその時々で発注先として選定していることがうかがわれる。同月13日納品日分以降の広告原稿につき被告会社が受注したのは、こうした判断の結果として行われたものと見られる。
 したがって、顧客5についても、被告らによる共同不法行為と原告の失注との間に相当因果関係は認められない。これに反する原告の主張は採用できない。
オ 顧客6について
 被告P2は、原告在職時に顧客6を担当していた。また、前記1(5)エ(オ)のとおり、顧客6について、原告の最後の受注は平成29年3月6日納品日のものであり、その後、同年6月19日納品日以降のものは、いずれも被告P2が担当してアドプランナーないし被告会社が受注したものである。
 したがって、顧客2の場合と同様に、顧客6についても、被告らによる共同不法行為と原告の失注との間に相当因果関係は認められない。これに反する原告の主張は採用できない。
カ 顧客7について
 被告P2は、原告在職時に顧客7を担当していた。また、前記1(5)エ(カ)のとおり、顧客7について、原告の最後の受注は平成29年1月30日納品日のものであり、その後、同年5月19日〜同年8月14日納品日の各広告原稿はアドプランナーが受注し(このうち、同年8月14日納品日分は被告P2が担当したものである。)、同年9月29日及び同年10月27日納品日のものは、被告P2が担当して被告会社が受注したものである。
 したがって、顧客2の場合と同様に、顧客7についても、被告らによる共同不法行為と原告の失注との間に相当因果関係は認められない。これに反する原告の主張は採用できない。
キ 顧客11及び16について
 被告P2は、原告在職時に顧客11及び16をいずれも担当していた。また、前記1(5)エ(キ)及び(ク)のとおり、顧客11については、原告の最終の受注は平成29年5月22日納品日のものであり、被告会社の最初の受注は同年10月16日納品日のものである。他方、顧客16については、原告の最終の受注は同年5月11日であり、被告会社の最初の受注は同年11月6日である。いずれも、原告の最終の受注と被告会社の最初の受注との間に他社が受注したことはない。
 そうすると、顧客2の場合と同様に、顧客11及び16についても、被告らによる共同不法行為と原告の失注との間に相当因果関係は認められない。これに反する原告の主張は採用できない。
ク 顧客20について
 被告P2は、原告在職時に顧客20を担当していた。また、前記1(5)エ(ケ)のとおり、顧客20について、原告の最後の受注は平成29年3月20日納品日のものであり、その後、同年5月25日及び同年11月3日納品日の各広告原稿は、被告P2が担当してアドプランナーないし被告会社が受注したものである。
 したがって、顧客2の場合と同様に、顧客20についても、被告らによる共同不法行為と原告の失注との間に相当因果関係は認められない。これに反する原告の主張は採用できない。
ケ 顧客21について
 上記1(5)エ(コ)のとおり、平成29年10月2日納品日のものは原告が受注したが、同月9日納品日のものは他社が受注し、同月16日納品日のものは再び原告が受注したものの、それ以降は、他社と被告会社が交互に受注している。被告会社が顧客21から初めて受注したのは、同月30日納品日のものである。
 こうした発注状況に鑑みると、顧客21については、自らの主体的判断によりその時々で発注先を選定していることがうかがわれる。また、原告の最終の受注(平成29年10月16日納品日のもの)は被告らの本件商流Bによる取引が既に開始された後と推察されることをも踏まえると、その後原告に対する顧客21の発注がされなくなったことが被告らによる共同不法行為に起因するものとは考え難い。したがって、顧客21についても、被告らによる共同不法行為と原告の失注との間に相当因果関係は認められない。これに反する原告の主張は採用できない。
(5)C顧客1及び8について
ア 顧客1−1
 前記1(5)カ(ア)のとおり、顧客1−1は、平成29年5月より前に原告との間で取引があったが、担当者間のトラブルから取引がなくなり、他社が受注していた。しかるに、被告P1がP10から取引再開の申入れを受けたことを契機に、平成29年9月18日納品日の広告原稿については、原告が受注した。
 しかし、同月25日納品日のものについては、顧客1−1から被告会社が受注し、原告は受注し得なかった(なお、データ上は、原告も同日納品日のものを受注したこととなっているが、受注額は零円とされている。甲13の1−1)。
 こうした経緯を踏まえると、平成29年9月25日納品日分の被告会社による受注は、被告らによる共同不法行為に起因するものではなく、同月18日納品日のものに関する原告の対応を受け、また、それ以前の原告と顧客1−1の担当者間のトラブルという事情もあって、顧客1−1の自主的な判断により行われたものと見るのが相当である。
 したがって、顧客1−1については、被告らによる共同不法行為と原告の失注との間に相当因果関係は認められない。これに反する原告の主張は採用できない。
イ 顧客1−2について
 前記1(5)カ(イ)のとおり、顧客1−2については、原告の受注は平成29年1月19日納品日の広告原稿の1回限りであり、原告は、そもそも顧客1−2から安定的、継続的に受注していたといえる状況にない。また、それ以前も、それ以降被告会社の受注までの間も、他社(複数)が受注していたものである。そうである以上、被告らの共同不法行為がなければ、同年10月30日納品日のもの以降の広告原稿につき、被告会社ではなく原告が受注できた蓋然性が相当程度あったとはいえない。
 したがって、顧客1−2については、被告らによる共同不法行為と原告の失注との間に相当因果関係を認めることはできない。これに反する原告の主張は採用できない。
ウ 顧客8について
 上記1(5)キのとおり、顧客8については、原告の最終の受注は平成29年5月19日納品日であり、被告会社の最初の受注は同年9月18日納品日のものである。しかも、その間の約4か月間は他社(アドプランナー等)が受注している。また、原告による受注は、上記のほか、同年5月8日納品日のものの合計4件にとどまる。こうした経緯と共に、アドプランナー等が被告らと共謀したことを裏付けるに足りる証拠も見当たらないことをも考えると、被告らの共同不法行為がなければ、同年9月18日納品日のもの以降の広告原稿につき被告会社ではなく原告が受注できた蓋然性が相当程度あったとはいえない。
 したがって、顧客8については、被告らによる共同不法行為と原告の失注との間に相当因果関係は認められない。これに反する原告の主張は採用できない。
(6)損害額
ア 以上のとおり、本件各顧客のうち、顧客9−1、9−3、10、15、18及び19−1〜19−4については、被告らによる共同不法行為と原告の平成29年11月中を納品日とする広告原稿の失注との間に相当因果関係が認められる。
 また、原告の逸失利益の額の問題であることから、損害額は原告がリクルートから受領できたはずの手数料率に基づき算定すべきである。ここで、●(省略)●
 そうすると、被告らによる共同不法行為と相当因果関係の認められる損害の額は、別紙損害額一覧表のとおり、合計97万1910円となる。
イ 弁護士費用相当損害額については、原告の逸失利益の1割を下らないものとするのが相当であるから、9万7191円となる。
ウ 以上より、原告の損害額は、106万9101円と認められる。
(7)小括
 したがって、原告は、共同不法行為に基づき、被告らに対し、連帯して106万9101円の損害賠償請求権及びこれに対する最終の不法行為日である平成29年12月31日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金支払請求権を有する。
3 被告P2による競業避止義務違反(争点3、4)について
(1)被告P2が負うとされる競業避止義務の内容
ア 被告P2につき、競業避止義務を定めるものとしては、被告P2入社時誓約書、本件就業規則85条及び被告P2退社時誓約書がある(前記第2の2(3))。このうち、最も具体的かつ詳細な内容を定めているのは本件就業規則85条といえることなどから、これを中心として上記3者を整合的に理解するのが相当である。
イ そこで、本件就業規則85条を見るに、同条においては、表題を「競業禁止」とした上で、「競業禁止の期間・地域及び競業禁止を適用する社員の範囲を以下に定めるものとする。」(1項)とし、「退職後2年間は、在職中及び退職後を通じて、会社の許可なしに業務上知り得た会社の機密事項を利用して在職中に担当したことのある営業地域における同業他社への就職・役員就任をして当社の顧客に対して営業活動、並びに同業の自営をおこなってはいけない。」(2項)、「同業他社への就職・役員就任及び当社既存取引先への営業活動を禁ずるものとする。又当社既存取引先への営業活動、社員の引き抜き行為を禁ずるものとする。」(3項)、「競業禁止する地域は、会社やグループ企業および関連会社の店舗の隣接市区町村とする。」(4項)と定められている。こうした構造に鑑みると、2項〜4項が競業禁止の具体的内容を定めるものと理解されるところ、期間については2項のみが定めることから、これに基づき「退職後2年間」と理解される。禁止行為については、2項は「在職中及び退職後を通じて、会社の許可なしに業務上知り得た会社の機密事項を利用して当社の顧客に対して営業活動、並びに同業の自営」とし、3項は「同業他社への就職・役員就任及び当社既存取引先への営業活動」、「既存取引先への営業活動」の点では2項と重複し(しかも、後者は前者とも重複する。)、「社員の引き抜き行為」が付加されている。4項は競業禁止地域を定めるものであるところ、2項の「営業地域」を具体的に定めたものと理解される。
 これらを総合すると、本件就業規則85条が定める競業避止義務の具体的内容は、「退職後2年間」、「在職中及び退職後を通じて、会社の許可なしに業務上知り得た会社の機密事項を利用して」、「在職中に担当したことのある営業地域」(「営業地域」とは、「会社やグループ企業および関連会社の店舗の隣接市区町村」をいう。)において、「同業他社への就職・役員就任」、「当社の顧客に対して営業活動」(「当社の顧客」には「当社既存取引先」が含まれる。)、「同業の自営」及び「社員の引き抜き行為」を禁止するものと理解される。
ウ ここで、「会社の機密事項」(本件就業規則85条2項。以下「本件機密事項」という。)の内容は、証拠上明らかではない。もっとも、被告P2退社時誓約書1条には、「秘密情報」として、「販売における企画、技術資料、価格決定等の情報」等が定義されている。上記のとおり、被告P2入社時誓約書、本件就業規則85条及び被告P2退社時誓約書については、これらを整合的に理解するのが相当と思われることに加え、本件就業規則85条の「機密事項」という文言それ自体踏まえると、本件機密事項については、被告P2退社時誓約書1条記載のものを意味すると理解するのが相当である。
(2)被告P2による競業避止義務違反行為の有無について
ア 前記1(5)アのとおり、被告P2は、原告在職中、顧客2〜7、11、16、20、21を担当していた。
 他方、原告退職後、被告P2は、「Biz-HumAn」の屋号により広告代理業を主たる業務として活動した後、平成29年10月2日にフェースジムに採用されたが(前記第2の2(1)エ)、その間、同年6月にはアルフォース・ワンに入社し、同年9月末まで同社の求人広告業務を担当し、アルフォース・ワンの顧客がリクルート媒体への広告掲載を希望した場合は、当該顧客をアドプランナーに紹介する等していた(前記1(2))。アルフォース・ワン在職中、被告P2は、同社の業務として、顧客3、5〜8、20に係る広告原稿を担当したことがある(前記1(5)イ、被告P2)。
 さらに、被告P2は、顧客1−1、2〜5、6及び8に係る広告原稿を被告会社に入稿し(本件入稿)、被告会社からその対価の支払を受けた(前記1(4)ケ)。フェースジム入社後は、被告P2は、上記各顧客のほか、顧客1−2をも担当したことがある(被告P2)。
イ もっとも、被告P2の競業避止義務違反があったといえるためには、「在職67中及び退職後を通じて、会社の許可なしに業務上知り得た会社の機密事項を利用して」上記各行為が行われたことを要するところ、そもそも、上記各行為において被告P2がいかなる原告の本件機密事項をどのように利用したのかについては、具体的な主張がないし、これを客観的に裏付けるに足りる証拠も見当たらない。
 そうである以上、競業避止義務を定める規定の効力の点を含むその余の点を論ずるまでもなく、上記各行為につき、被告P2の原告に対する競業避止義務違反を認めることはできない。
ウ 原告の主張について
 原告は、被告P2が原告退職後に原告従業員から過去の原告の広告原稿等のデータを入手していたことや、原告による掲載広告とアドプランナー及び被告会社による掲載広告との内容の類似性を主張する。
 確かに、被告P2は、原告退職後、原告従業員から過去の原告の広告原稿その他様々なデータを入手したことがうかがわれる(甲36〜40、44)。しかし、入手したデータがそれぞれ被告P2の行為と具体的にいかなる関係にあるかは明らかでない。そもそも、メール添付のファイルの名称及びメール本文中の記載から、当該ファイルの内容について多少推認することは可能なものの、具体的内容は不明である以上、本件機密事項に当たるものか否かも不明というほかない。他方、原告の掲載広告とアドプランナー及び被告会社による掲載広告の類似性については、掲載広告それ自体は公刊されたものであるから、その内容が機密事項に該当する余地はない。広告原稿に含まれるその他の情報が利用された可能性は抽象的にはあり得るとしても、その内容及び被告P2によるその利用の有無等はやはり不明である。
 その他原告が縷々主張する事情を考慮しても、この点に関する原告の主張は採用できない。
(3)小括
 以上より、被告P2による競業避止義務違反行為は認められず、これについての被告P1及び被告会社の共謀も認められない。
4 原告原稿6に係る著作権の帰属(争点7)について
(1)原告とフェースジムとの間の業務委託基本契約に係る平成27年11月1日付け「業務委託基本契約書」(乙12)には、以下の規定がある。なお、同契約書には原告名の記載はあるが代表者印等はなく、また、フェースジム名の記載等はないものの、弁論の全趣旨から、上記契約の成立が認められる。
・原告は、フェースジムに対し、「共同で行う求人広告原稿提案、その他これに付帯する業務、(以下「本件業務」という)」を委託し、フェースジムはこれを受託する。(1条)
・取扱商品及び本件業務は、リクルート媒体を中心に、求人全般の各媒体及びそれに付帯する業務全般とする。(2条)
・本件業務に基づきフェースジムが原告のために作成した成果物(中間成果物も含む)及び役務の提供の結果、発生した著作権及びその他の無体財産権は、フェースジムに帰属するものとする。(7条1項)
 このことと、原告とグラン・エムが本件商流Aによる取引を行っていたこと(前記第2の2(4))、フェースジムはグラン・エムと同一の企業グループに属し、主にリクルートが発行する求人広告媒体の広告原稿を作成していること(前記第2の2(1)オ(ア))に鑑みると、原則として、本件商流Aによる取引として原告とグラン・エム(フェースジム)との間で行われた求人広告業務においてグラン・エム(フェースジム)が制作した広告原稿の著作権は、グラン・エム(フェースジム)に帰属することとされていたものと認められる。
(2)原告原稿6(甲20の1、20の1の2)は、平成29年10月2日発行のタウンワーク船橋・習志野・八千代・成田版に掲載された株式会社マックスサポート勝田台支店の求人広告であるところ、その原稿制作は、原告及びグラン・エム(フェースジム)の間で進められたものと認められる(甲43、乙13)。また、当該広告原稿の著作権につき、原告とフェースジムのいずれの帰属とするかについて、個別に定められたことをうかがわせる事情はない。そうすると、上記契約に基づき、当該広告原稿の著作権は、フェースジムに帰属するものと見られる。
 これに対し、原告は、フェースジムに対する当該原稿の制作を発注したことはないなどと主張している。しかし、原告とグラン・エムの各担当者が当該広告原稿に関するやり取りをしていること(甲43)に鑑みると、その発注の事実は優に認められる。また、甲43は原告担当者からグラン・エム担当者に対し原稿の確認を求めるメールであるが、本件商流Aにおいて原告はグラン・エムの作成した広告原稿をリクルートに入稿する役割を担う以上、グラン・エムが作成した原稿であっても原告がこれを確認等した上でグラン・エム側に更に確認を求めるといったやり取りも当然あり得ると考えられることから、当該メールをもって、当該広告原稿を制作したのが原告従業員であると認めることは必ずしもできない。
 その他原告が縷々主張する事情を考慮しても、この点に関する原告の主張は採用できない。
(3)小括
 以上より、仮に原告原稿6が著作物性を認められる物であったとしても、その著作権はフェースジムに属し、原告はこれを有しない。そうである以上、原告原稿6に関し、原告は、被告会社に対し、著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権を有しない。
5 原告原稿1〜5及び7について
(1)著作物性(争点6)について
ア 著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作法2条1項1号)であるところ、「創作的」といえるためには、何らかの個性が表れていれば足りるものの、表現の目的ないし性質上、その表現方法が一義的に決まり、他の表現方法を選択する余地がない場合や、選択の余地はあってもその幅が狭く、誰が行っても同じようなありふれた表現にならざるを得ない場合には、創作性は否定される。
 このような観点から、以下、原告原稿1〜5及び7の著作物性について検討する。
イ 原告原稿1について
 原告原稿1は、建築・土木・設計等を業とする広告主による、分譲マンションの建築設計業務全般のマネージメントを仕事内容とする求人広告である(甲15の1、15の1の2)。
 このうち、キャッチコピーは、広告の冒頭に大きく掲載されると共に、「設計と同じくらいに「人生の図面」を引く。」とすることで、広告主の業種に対応すると同時に、求人対象にとっては就職が人生における重要な選択であることを踏まえた表現をし、読者の興味、関心を喚起することを意図したものといえる。
 また、これに続けて、本文コピー@でキャッチコピーの表現と相通じる表現を行うことで、キャッチコピーから本文にスムーズにつなげると共に、キャッチコピーにより受けた印象を強めているといえる。
 さらに、本文コピーAにおいては、「未来の住人たちから選ばれる」といった特徴的な表現を用いつつ、分譲マンションの建築及び設計のマネージャーという仕事が、マンション居住者の生活に対して影響を与え得ることによることなどを示すことで、仕事の内容ややりがいを伝える一方で、「とは言え」として逆説的に以後の文章とつなぐことにより、マネージャーの役割の重要性を強調している点で、構成における工夫が見られる。
 このように、キャッチコピー及び本文コピーの部分のみを見ても、原告原稿1には、求人広告として読者の関心を喚起するための工夫が見受けられる。しかも、本文コピーは、自ずと字数の制限があるとはいえ、少なくないスペース及び字数が当てられており、物理的な観点からの表現方法の選択の幅が狭いとまではいえない。
 したがって、原告原稿1は創作的なものといってよく、著作物性を認められる。
 これに対し、被告会社は、原告原稿1につき、ありふれた表現を組み合わせたものに過ぎず、創作性がないなどと主張する。しかし、個々の単語ないし表現には類似の例が見られるとしても、全体としての表現の目的等を踏まえたその選択及び組合せその他の表現方法の点で創作性を認める余地はあるのであって、被告会社指摘に係る事情をもって直ちに著作物性が否定されるものではない。この点に関する被告会社の主張は採用できない。
ウ 原告原稿2について
 原告原稿2は、小児科専門のクリニックである広告主による正看護師、准看護師等の求人広告である(甲16の1)。
 原告原稿2は、リード及びボディコピーの部分において、来院する子供たちの様子や心情及びこれに対するクリニックの対応(待合室の様子等)を具体的に記載することにより、設備・環境面から子供たちをサポートするという広告主の姿勢を伝えると共に、そこで働くスタッフとして求められる人物像を説明している。また、医師を含む既存のスタッフによるサポートを得られることに繰り返し言及するなどして、働きやすさを強調する工夫もしている。
 このように、リード及びボディコピーの部分のみを見ても、原告原稿2には、求人広告として読者の関心を喚起するための工夫が見受けられる。しかも、ボディコピーの部分は、自ずと字数の制限があるとはいえ、少なくないスペース及び字数が当てられており、物理的な観点からの表現方法の選択の幅が狭いとまではいえない。
 したがって、原告原稿2は創作的なものといってよく、著作物性を認められる。
 これに対し、被告会社は、原告原稿2についても、平易でありふれた表現の組合せに過ぎないなどと主張する。しかし、原告原稿1のと同様に、この点に関する被告会社の主張は採用できない。
エ 原告原稿3について
 原告原稿3は、眼科クリニックである広告主による受付・検査補助スタッフ等の求人広告である(甲17の1)。
 原告原稿3は、ボディコピーの部分において、医師や既存のスタッフの人柄などに言及して職場環境の良さをうかがわせつつ、そのサポートを得られることに繰り返し言及するなどして、働きやすさを強調したり、地域ないし患者との関わり方に関する方針を示したりしつつ、求められる人物像を説明したりしている。
 このように、ボディコピーの部分のみを見ても、原告原稿3には、求人広告として読者の関心を喚起するための工夫が見受けられる。しかも、ボディコピーの部分は、自ずと字数の制限があるとはいえ、少なくないスペース及び字数が当てられており、物理的な観点からの表現方法の選択の幅が狭いとまではいえない。
 したがって、原告原稿3は創作的なものといってよく、著作物性を認められる。
 これに対し、被告会社は、原稿3についても、ありふれた平易な表現の組合せにすぎないなどと主張する。しかし、原告原稿1と同様に、この点に関する被告会社の主張は採用できない。
オ 原告原稿4について
 原告原稿4は、眼科クリニックである広告主による受付・事務・診療助手の求人広告である(甲18の1)。
 原告原稿4は、ボディコピーの部分において、来院する患者の不安や心配に配慮した環境設備がクリニック内に整っていることを紹介すると共に、同様の配慮から、クリニックで働くスタッフの就労環境に対しても配慮していることを説明している。合わせて、そこで働くスタッフとして求められる人物像についても、上記の観点と結びつけながら説明している。
 このように、ボディコピーの部分のみを見ても、原告原稿4には、求人広告として読者の関心を喚起するための工夫が見受けられる。しかも、ボディコピーの部分は、自ずと字数の制限があるとはいえ、少なくないスペース及び字数が当てられており、物理的な観点からの表現方法の選択の幅が狭いとまではいえない。
 したがって、原告原稿4は創作的なものといってよく、著作物性を認められる。
 これに対し、被告会社は、ありふれた平易な表現の組合せのみで構成されたものであるなどと主張する。しかし、原告原稿1と同様に、この点に関する被告会社の主張は採用できない。
カ 原告原稿5について
 原告原稿5は、建築業者である広告主による仮設足場の組立・解体スタッフの求人広告である(甲19の1、19の1の2)。
 原告原稿5のキャッチ及びカセット職種(枝番3−1、3−2)は、全体を通じて若者言葉による口語調が用いられている。このうち、キャッチの部分は、そのような表現を採用すると共に、「?」、「!」「!!」といった記号を重ね、かつ、同部分が広告内の約4分の1に当たるスペースに、他の記載部分と比較して際立つよう大きな文字で記載されていることで、一見して目を引くものとなっている。
 このように、原告原稿5は、物理的な広告掲載スペースの制約が厳しい中で、なお求人広告として読者の関心を喚起するための工夫が見受けられる。
 したがって、原告原稿5は創作的なものといってよく、著作物性を認められる。
これに対し、被告会社は、ありふれた表現や表現手法の組合せのみで構成されたものであるなどと主張する。しかし、上記のとおり、原告原稿5には表現上の工夫が見受けられることから、この点に関する被告会社の主張は採用できない。
キ 原告原稿7について
 原告原稿7は、建築業者である広告主による仮設足場の組立・解体スタッフの求人広告である(甲21の1)。
 原告原稿7のリードの部分は、字数の制限が厳しい部分であるようにもうかがわれるところ、原告原稿7では、そうした制限の中で、求職者の心情に特に着目し、これに寄り添う広告主の姿勢を示す表現を重ねることで読者の関心を喚起することに向けた工夫が見受けられる。求人のポイントの部分においても、同様の広告主の姿勢が端的に示されており、重ねて読者の関心を喚起する工夫が施されている。
 このように、リード及び求人のポイントの部分のみを見ても、原告原稿7には、求人広告として読者の関心を喚起するための工夫が見受けられる。しかも、リードの部分は、自ずと字数の制限があるとはいえ、原告原稿5と比較すればなお少なくないスペース及び字数が当てられており、やはり物理的な観点からの表現方法の選択の幅が狭いとまではいえない。
 したがって、原告原稿7は創作的なものといってよく、著作物性を認められる。
 これに対し、被告会社は、ありふれた平易な表現の組合せのみで構成されたものであるなどと主張する。しかし、原告原稿1と同様に、この点に関する被告会社の主張は採用できない。
ク 小括
 以上のとおり、原告原稿1〜5及び7については、いずれも著作物性が認められる。
(2)著作権の帰属(争点7)について
 原告原稿1〜5及び7は、いずれも原告がリクルートに対して入稿して広告として掲載されたものである(前記第2の2(5))。これらの原稿は、リクルート媒体に掲載されるものであるから、原告が自己の著作の名義の下に公表するものとはいえないものの、原告の業務の性質上、原告とその従業員との関係において、直接的に当該原稿を作成した従業員を著作権者とする趣旨であるとは合理的に見て考え難い(本件パートナー契約15条も、これを前提とした規定と理解される。)。その他、これらの原稿に関する著作権が原告以外の第三者に帰属することをうかがわせる事情も見当たらない。
 したがって、原告原稿1〜5及び7の著作権は、いずれも原告に帰属するものと認められる。
 これに対し、被告は、これらの原告原稿は原告が自己名義の下に公表するものではないから、原告には著作権が帰属しない旨主張する。しかし、上記のとおり、これらの原告原稿の著作権は、職務著作の成否に関わりなく、原告に帰属するものと認められるから、この点に関する被告会社の主張は採用できない。
5 被告会社による著作権侵害の成否及び原告の損害額(争点8)について
(1)被告会社による著作権侵害の成否
ア 被告会社原稿1〜5及び7は、いずれも被告会社がリクルートに対して入稿して広告として掲載されたものである(前記第2の2(5))。
 別紙原稿目録の各「原告原稿」欄記載の原告原稿の表現と、これに対応する「被告会社原稿」欄記載の表現とを対比すると、原告原稿1〜5及び7につき創作性が認められる部分(前記5(1)イ〜キ。なお、当該部分記載の原稿部分に限り創作性が認められるという趣旨ではない。)について、被告会社原稿1〜5及び7は、原告原稿1〜5及び7と同一又はほぼ同一の表現がされているものといってよい。このような同一性に加え、原告原稿1〜5及び7が公刊物であるリクルート媒体に掲載されるものであることを踏まえれば、被告会社原稿1〜5及び7は、上記原告原稿に依拠して作成されたものであると認められる。
 したがって、被告会社による被告会社原稿1〜5及び7の作成は、原告の著作権(複製権又は翻案権、公衆送信権)を侵害するものといえる。
イ これに対し、被告会社は、本件パートナー契約15条に基づき、ある広告代理店が他の広告代理店作成の求人広告原稿を流用してリクルートに入稿し、リクルートが当該原稿をリクルート媒体に掲載した場合でも、リクルートには著作権侵害行為が成立しないことを理由に、流用した側の広告代理店にも著作権侵害が成立しない旨主張する。しかし、上記規定の定める著作物使用許諾は、本件パートナー契約の当事者である広告代理店によるリクルートに対する許諾であって、他の第三者に対する使用許諾については何ら定められていない。また、その許諾によってリクルートの行為が著作権侵害とならないことと、流用した側の当該広告代理店の責任とは全く無関係の問題である。したがって、この点に関する被告会社の主張は採用できない。
(2)原告の損害額
ア 逸失利益について
 原告は、著作権法114条2項に基づき、被告会社が著作権侵害行為により受けた利益の額をもって原告の損害額であるとするとともに、その額として、被告会社の受注額に28%を乗じた金額を主張する。
●(省略)●
 したがって、被告会社に適用される手数料率は20%と認められる。
 他方、被告会社が被告会社原稿1〜5及び7を受注したことによる受注額は、合計227万4000円である。
 そうすると、被告会社原稿1〜5及び7の制作により被告会社が得た利益の額は、45万4800円となるから、同額をもって原告の損害額と推定される。なお、著作権法114条2項の「利益」とは、売上金額から仕入原価等の直接的、追加的に必要となった変動費を控除した限界利益を意味すると解されるところ、原告による損害額の主張においては、この点につき明示的な主張がされていない。もっとも、控除すべき変動費の額は被告会社自身のものであって、被告会社がこの点に関する具体的な主張をしていないという応訴態度に鑑みると、控除すべき変動費はないものと認められる。
 これに対し、被告会社は、「利益」(著作権法114条2項)とは純利益をいうとすると共に、外部業者に発注した場合の原稿制作料の限度にとどまるなどとも主張する。しかし、前者については上記のとおりであり、後者については、被告会社の利益が上記限度にとどまると見るべき事情は見当たらないことから、この点に関する被告会社の主張は採用できない。
イ このほか、弁護士費用相当損害額については、原告の逸失利益の1割を下らないものとするのが相当であるから、4万5480円となる。
ウ 以上より、原告の損害額は、50万0280円と認められる。
エ なお、被告会社は、請求1と2における請求の重複を主張する。しかし、被告会社原稿1〜5及び7に係る顧客との関係では、いずれも被告P1らの共同不法行為に基づく損害賠償責任の成立は認められないことから、重複はない。この点に関する被告会社の主張は採用できない。
(3)小括
 以上より、原告は、被告会社に対し、著作権侵害の不法行為に基づき、50万0280円の損害賠償請求権及びこれに対する最終の不法行為日である平成30年6月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金支払請求権を有する。

第4 結論
 よって、原告の請求は、請求1については主文第1項の限度で、請求2については主文第2項の限度でいずれも理由があるから、その限度でそれぞれ認容し、その余の請求は理由がないからいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第26民事部
 裁判長裁判官 杉浦正樹
 裁判官 杉浦一輝
 裁判官 布目真利

別紙 原稿目録1
別紙 原告原稿掲載媒体目録
別紙 被告会社原稿掲載媒体目録
別紙 顧客目録
別紙 受注代理店一覧表
別紙 損害額一覧表
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