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【事件名】文章に依拠したイラストの翻案権侵害事件 【年月日】令和3年3月30日 東京地裁 令和元年(ワ)第30833号 著作権等の侵害に基づく削除等請求事件 (口頭弁論終結日 令和3年2月16日) 判決 原告 A 同訴訟代理人弁護士 太田真也 被告 B 同訴訟代理人弁護士 藤澤潤 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は、インターネット上のウェブサイト(URLは省略)に掲載されている別紙被告作品目録記載の各作品を掲載した記事を全て削除せよ。 2 被告は、原告に対し、394万6758円及びこれに対する令和元年12月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、原告が、別紙原告作品目録記載の文章及びイラストの著作者であるところ、被告において、上記文章及びイラストに依拠して別紙被告作品目録記載のイラスト及び文章を制作し、ウェブサイトに掲載した行為は、原告の有する翻案権、公衆送信権・送信可能化権及び同一性保持権を侵害する旨を主張して、被告に対し、著作権法の所定の規定に基づき、上記サイト上の被告作品を掲載した全ての記事の削除を求めるとともに、民法709条に基づき、損害賠償金394万6758円及びこれに対する訴状送達の日(令和元年12月25日)の翌日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(証拠等を掲げた事実以外は、当事者間に争いがない。なお、枝番号の記載を省略したものは、枝番号を含む(以下同様)。) (1)原告は、別紙原告作品目録記載1の文章(以下「原告文章」という。)及び同目録記載2−1ないし2−3のイラスト(以下「原告イラスト」といい、原告文章と併せて「原告作品」という。)を制作して、平成30年(2018年)12月5日に原告イラストを、令和元年(2019年)5月10日に原告文章を、それぞれ、ツイッター(インターネットを利用してツイートと呼ばれるメッセージ等を投稿することができる情報ネットワーク)上の自らのアカウント(なお、呼び名は「C」、ユーザー名は「D」である。以下「原告ウェブサイト」という。)において、投稿した。(甲1、甲2) (2)被告は、別紙被告作品目録記載1−1ないし1−3のイラスト(以下「被告イラスト」という。)及び同目録記載2の文章(以下「被告文章」といい、被告イラストと併せて「被告作品」という。)を制作して、平成31年(2019年)1月6日に被告文章を、令和元年(2019年)6月9日に被告イラストを、それぞれインターネット上のウェブサイト(URLは省略、以下「被告ウェブサイト」という。)に掲載した。(甲3、甲4、弁論の全趣旨) 2 争点 (1)翻案権、公衆送信権・送信可能化権侵害の有無(争点1) (2)同一性保持権侵害の有無(争点2) (3)被告作品を掲載した記事の削除の必要性(争点3) (4)原告の損害(争点4) 3 争点に関する当事者の主張 (1)争点1(翻案権、公衆送信権・送信可能化権侵害の有無)について [原告の主張] 次のとおり、原告作品は、いずれも原告の創作に係る著作物であるところ、被告は、原告に無断で、原告イラストに依拠して被告文章を制作し、また、原告文章に依拠して被告イラストを制作した。そして、被告文章を見れば、原告イラストの創作的な表現上の本質的特徴を直接感得でき、また、被告イラストを見れば、原告文章の創作的な表現上の本質的特徴を直接感得できることは明らかである。そこで、被告において被告作品を制作した行為は、原告作品に係る原告の翻案権、及び公衆送信権・送信可能化権を侵害する。 ア 原告作品の著作物性について 原告文章及び原告イラストは、いずれも著作物性を有する。被告は、原告文章について、ありふれた性描写にすぎないとして創作性を否定するところ、身長差が17cmある設定の2人の登場人物の間で、一般的には困難と思われている体位を敢えてとらせた性描写を行った点に創作性がある。 イ 依拠性について 被告イラストは原告文章に依拠したものであり、被告文章は原告イラストに依拠したものである。被告は、原告イラストを見たことはないとして、原告イラストに依拠したことを否定するが、被告は、原告サイトに掲載されたものと同じ英文を模倣したことがあることは認めており、原告サイトを継続的に閲覧していた蓋然性が高く、原告イラストの投稿のみを閲覧していないというのは極めて不自然である。 ウ 原告作品と被告作品との間の表現上の本質的特徴の同一性 (ア)原告文章と被告イラストとの間の表現上の本質的特徴の同一性 原告文章は、@身長差が17cmある設定の2人の登場人物の間で、一般的には困難と思われている体位を敢えてとらせた性描写を行った点、A性器の状態に係る描写の点、及びB登場人物の一方が壁につかまろうとしている描写の点において創作性があるところ、被告イラストにおいても、上記3つの点を備えた描写がなされている。 (イ)原告イラストと被告文章との間の表現上の本質的特徴の同一性 原告イラストは、2人の登場人物の一方が性的行為の際に勘違いをした状況のみを描写したのではなく、当該登場人物の、他方の登場人物に対するセリフを通じて、他方の登場人物に対し同様の行為をすることを申し出る展開を想起させるような描写をしたものであり、この点において、被告文章と同一である。 [被告の主張] 次のとおり、原告作品のうち、原告文章については著作物には当たらない。また、被告は、被告文章の制作に際して原告イラストのうち非創作的部分に依拠したにすぎず、被告イラストの制作に際しては原告文章に全く依拠していない。そして、被告文章を見ても、原告イラストの創作的な表現上の本質的特徴を直接感得できず、また、被告イラストを見ても、原告文章の表現上の本質的特徴を直接感得できない。そうすると、被告において被告作品を制作した行為は、原告作品に係る原告の翻案権、公衆送信権・送信可能化権を侵害するものではない。 ア 原告作品の著作物性について 原告イラストの著作物性は争わない。他方で、原告文章は、登場人物の原作における設定や特定の体位との関係でありふれた性描写を要素としているにすぎず、創作性がなく、著作物性が認められない。 イ 依拠性について 被告イラストは原告文章の創作的部分に依拠したものではなく、非創作的部分であるシチュエーションの説明に依拠したにすぎない。また、被告は、原告イラストを閲覧したことはない以上、被告文章は原告イラストに依拠したものではない。なお、ツイッターの構造上、あるアカウントの特定のツイートを見たからといって、当然に当該アカウントの他のツイートを閲覧したと推認することはできない。 ウ 原告作品と被告作品との間の表現上の本質的特徴の同一性 (ア)原告文章と被告イラストとの間の表現上の本質的特徴の同一性 被告イラストは、登場人物2人が特定の体位で性行為に及んでいるというアイデアについて原告文章と共通しているにすぎない。また、被告イラストにおいては、原告文章には存在しない、登場人物のキャラクター設定を活かした描写がなされている。 (イ)原告イラストと被告文章との間の表現上の本質的特徴の同一性 被告文章は、性的な知識に乏しい一方の登場人物が性的行為の際に勘違いをしたシチュエーションを文章で描写したものであり、当該シチュエーションに係るアイデアについて原告イラストと共通しているにすぎない。また、上記シチュエーションは十分にありふれた話である。 (2)争点2(同一性保持権侵害の有無)について [原告の主張] 被告は、原告に無断で、原告イラストを改変して被告文章を制作し、原告文章を改変して被告イラストを制作した。そこで、被告において被告作品を制作した行為は、原告作品に係る原告の同一性保持権を侵害する。 [被告の主張] 争う。前記のとおり、被告作品は、原告作品との間で表現上の本質的特徴の同一性を有しておらず、原告作品を改変したものではない。 (3)争点3(被告作品を掲載した記事の削除の必要性)について [原告の主張] 被告は、現在も、被告ウェブサイトにおいて、被告作品を掲載している以上、被告ウェブサイトから被告作品を掲載した記事を全て削除する必要がある。 [被告の主張] 原告の上記主張は争う。被告は、被告イラスト及び被告文章をインターネット上から削除している。 (4)争点4(原告の損害)について [原告の主張] 原告は、被告の前記行為により、次のアないしエの合計394万6758円の損害を被った。 ア 被告の前記行為により、原告は、書籍に掲載される予定であった原告作品の差替えや書き直しをせざるを得なくなり、作業代金相当分2万4000円の損害を被った。 イ 原告は、被告との間で、原告作品に係る原告の著作権の侵害の有無につき、長期間にわたってやり取りを続けたため、予定していた書籍3冊分の出版・販売ができなくなり、これらによる逸失利益236万2758円の損害を被った。 ウ 原告は、被告の著作者人格権侵害により、多大な精神的苦痛を被ったものであり、これを慰藉するに足りる慰謝料額として、100万円が相当である。 エ 原告は、本件訴訟のために調査費用20万円を要し、また、弁護士に本件訴訟を委任することを余儀なくされた。弁護士費用の額としては36万円が相当である。 [被告の主張] 原告の上記主張は争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(翻案権、公衆送信権・送信可能化権侵害の有無)及び争点2(同一性保持権侵害の有無)について (1)著作物の翻案(著作権法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的な表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。 そして、著作権法は、思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(著作権法2条1項1号)、既存の著作物に依拠して創作された著作物が思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、翻案に当たらないと解するのが相当である(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。 このように、翻案に該当するためには、既存の著作物とこれに依拠して創作された著作物との同一性を有する部分が、著作権法による保護の対象となる思想又は感情を創作的に表現したものであることが必要である(著作権法2条1項1号)。そして、「創作的」に表現されたというためには、厳密な意味で独創性が発揮されたものであることは必要ではなく、筆者の何らかの個性が表現されたもので足りるというべきであるが、他方、文章自体がごく短く又は表現上制約があるため他の表現が想定できない場合や、表現が平凡かつありふれたものである場合には、筆者の個性が表現されたものとはいえないから、創作的な表現であるということはできない。 また、同一性保持権を侵害する行為とは、他人の著作物における表現形式上の本質的な特徴を維持しつつその外面的な表現形式に改変を加える行為をいい、他人の著作物を素材として利用しても、その表現形式上の本質的な特徴を感得させないような態様においてこれを利用する行為は、原著作物の同一性保持権を侵害しないというべきである(最高裁昭和51年(オ)第923号同55年3月28日第三小法廷判決・民集34巻3号244頁参照)。 (2)以上を前提として、以下検討する。 ア まず、原告文章と被告イラストについては、原告文章が言語の著作物であるのに対し、被告イラストは基本的には美術の著作物であって、表現の形式が異なり、これらを対比すると、両者は、描写対象の設定(身長差のある設定の2人の登場人物が、一般的には困難と思われている体位で性行為を行っている点、性器の状態、及び登場人物の一方が壁につかまろうとしているという点)につき同一性を有するにとどまるといえる。しかして、上記描写対象の設定は、その内容自体や、原告文章の性質・内容に照らし、内面的思想たるアイデアにすぎず、表現それ自体でない部分であるというべきである。また、仮に表現自体と捉えられる部分があったとしても、本件各証拠を見ても、上記設定による表現に幅があると認められ制作者の個性の表れとして著作物性を肯定することを基礎付けるに足りるものは見当たらず、原告文章の性質・内容に照らせば、上記設定を前提とする限り、これを表現したものとしては平凡かつありふれたものであり、表現上の創作性がない部分であるといわざるを得ない。 イ 次に、原告イラストと被告文章については、原告イラストが基本的には美術の著作物であるのに対し、被告文章は言語の著作物であって、表現の形式が異なり、これらを対比すると、両者は、描写対象の設定(2人いる登場人物の一方が性的行為の際に勘違いをした状況で、他方の登場人物に対する言動・働きかけに及んでいる点)につき同一性を有するにとどまるといえる。しかして、これについても、上記説示が同様に当てはまるものである。すなわち、上記描写対象の設定は、その内容自体や、原告イラストの性質・内容に照らし、内面的思想たるアイデアにすぎず、表現それ自体でない部分であるというべきである。また、仮に表現自体と捉えられる部分があったとしても、本件各証拠を見ても、上記設定による表現に幅があると認められ制作者の個性の表れとして著作物性を肯定できることを基礎付けるに足りるものは見当たらず、原告イラストの性質・内容に照らせば、上記設定を前提とする限り、これを表現したものとしては平凡かつありふれたものであり、表現上の創作性がない部分であるといわざるを得ない。 ウ 以上によれば、被告イラストは原告文章を翻案したものには当たらず、また、被告文章は原告イラストを翻案したものには当たらないというべきである。 エ さらに、上記説示に照らせば、被告イラストは、原告文章の表現形式上の本質的な特徴を感得させないような態様において制作された、原告文章とは別個の著作物というべきであるから、原告文章の同一性保持権を侵害しないというべきであり、また、被告文章も、原告イラストの表現形式上の本質的な特徴を感得させないような態様において制作された、原告イラストとは別個の著作物というべきであるから、原告イラストの同一性保持権を侵害しないというべきである。 2 結論 以上のとおり、その余の点を判断するまでもなく、原告の被告に対する翻案権侵害、公衆送信権・送信可能化権侵害又は同一性保持権侵害に基づく削除請求、及びこれらの侵害を内容とする不法行為に基づく損害賠償請求はいずれも認められない(なお、付言するに、上記削除請求は、著作権法112条1項に基づくものと当然にはみることができず、著作権法112条2項に基づくものであるとすれば、差止請求に付帯してしなければならず、独立して請求することができないものであるから、この点においても理由がない。)。 よって、原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 田中孝一 裁判官 横山真通 裁判官 奥俊彦 (別紙 原告作品目録省略) (別紙 被告作品目録省略) |
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