判例全文 line
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【事件名】コンサルティング“すごい会議”事件
【年月日】令和3年3月26日
 東京地裁 平成31年(ワ)第4521号 著作権侵害行為差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 令和3年1月25日)

判決
原告 SUGOIKAIGILLC(以下「原告会社」という。)
原告 A(以下「原告A」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 檜山聡
同 西垣奏子
被告株式会社 ヴァンガード・マネジメント(以下「被告ヴァンガード社」という。)
被告 B(以下「被告B」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 葛山弘輝
被告 株式会社サムライヴィジョン(以下「被告サムライヴィジョン社」という。)
上記3名訴訟代理人弁護士 松尾浩順


主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告らは、原告会社に対する関係で、別紙1被告レジュメ目録記載1ないし8の各文書につき、別紙2レジュメ対比表の「被告記述部分」欄記載の記述を記載したまま、複製し、頒布してはならない。
2 被告らは、原告会社に対する関係で、別紙2レジュメ対比表の「被告記述部分」欄記載の記述の記載のある別紙1被告レジュメ目録記載1ないし8の各文書を廃棄せよ。
3 被告らは、原告Aに対する関係で、別紙1被告レジュメ目録記載1ないし8の各文書につき、別紙2レジュメ対比表の「被告記述部分」欄記載の記述を記載したまま、複製し、頒布してはならない。
4 被告らは、原告Aに対する関係で、別紙2レジュメ対比表の「被告記述部分」欄記載の記述の記載のある別紙1被告レジュメ目録記載1ないし8の各文書を廃棄せよ。
5 被告ヴァンガード社及び被告サムライヴィジョン社は、「会議が変われば会社は確実に変わる!」との文言を使用してはならない。
6 被告らは、別紙3ノウハウ対比表の「本件ノウハウ」欄記載のノウハウを使用し、又は開示してはならない。
7 被告ヴァンガード社及び被告サムライヴィジョン社は、別紙4投稿動画目録記載1及び2の各動画を削除せよ。
8 被告らは、原告会社に対し、連帯して、1万1000円及びこれに対する平成30年8月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
9 被告らは、原告会社に対し、連帯して、1056万円及びこれに対する平成30年8月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
10 被告らは、原告Aに対し、連帯して、66万円及びこれに対する平成30年8月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
 本件は、原告会社が、被告らに対し、著作権(複製権又は翻案権)侵害を理由として、原告Aが、被告らに対し、著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)侵害を理由として、原告会社が、被告ヴァンガード社及び被告サムライヴィジョン社(以下「被告会社ら」という。)に対し、著作権(翻案権)侵害を理由として、原告会社が、被告らに対し、不正競争防止法(以下「不競法」という。)違反を理由として、以下の請求をする事案である。
(1)著作権侵害又は著作者人格権侵害を理由とする請求
ア 請求1、2及び8項に係る請求
 標記の請求は、原告会社が、被告ヴァンガード社及び被告Bが作成した別紙1被告レジュメ目録記載1ないし8の各文書(以下、これらを一括して「被告レジュメ」という。)に記載された別紙2レジュメ対比表の「被告記述部分」欄記載の各記述(以下、同対比表の「番号」欄記載1に対応する被告記述部分を「被告記述部分1」といい、その余の記述も同様の例による。また、被告記述部分1ないし24を「各被告記述部分」と総称する。)及び被告レジュメ全体の構成は、「2011年度すごい計画作成キットピーチパーリーマタドール版」と題するワークブック(以下「原告ワークブック」という。)に記載された、同対比表の「原告記述部分」欄記載の各記述(以下、同対比表の「番号」欄記載1に対応する原告記述部分を「原告記述部分1」といい、その余の記述も同様の例による。また、原告記述部分1ないし24を「各原告記述部分」と総称する。)及び原告ワークブック全体の構成を複製又は翻案したものであるから、被告らが各被告記述部分を記載した文書を作成、譲渡又は貸与する行為は、原告ワークブックに関して原告会社が保有する著作権(複製権又は翻案権)を侵害するものであるとして、被告らに対し、著作権法112条1項、2項に基づき、各被告記述部分が記載された被告レジュメの複製及び頒布の差止め並びに同レジュメの廃棄を請求する(請求1及び2項)とともに、共同不法行為による損害賠償請求権に基づき、同法114条3項により算定した金員及び弁護士費用の合計額1万1000円並びにこれに対する不法行為後の日である平成30年8月28日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を請求する(請求8項)ものである。
イ 請求3、4及び10項に係る請求
 標記の請求は、原告Aが、被告らが各被告記述部分を記載した被告レジュメを作成し、顧客ごとにその内容を改変して使用する行為は、各被告記述部分の著作者である原告Aが保有する著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を侵害するものであるとして、被告らに対し、著作権法112条1項、2項に基づき、各被告記述部分が記載された被告レジュメの複製及び頒布の差止め並びに同レジュメの廃棄を請求する(請求3及び4項)とともに、共同不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料及び弁護士費用の合計額66万円並びにこれに対する不法行為後の日である平成30年8月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を請求する(請求10項)ものである。
ウ 請求5項に係る請求
 標記の請求は、原告会社が、被告会社らの作成した別紙4投稿動画目録記載1の動画(以下「本件投稿動画1」という。)において表示される「会議が変われば会社は確実に変わる!」というキャッチコピー(以下「被告キャッチコピー」という。)は、原告会社が著作権を有する「会議が変わる。会社が変わる。」というキャッチコピー(以下「原告キャッチコピー」という。)を翻案したものであり、被告会社らは、原告会社が原告キャッチコピーについて保有する著作権(翻案権)を侵害するものであるとして、被告会社らに対し、著作権法112条1項に基づき、被告キャッチコピーの使用の差止めを請求する(請求5項)ものである。
(2)不競法違反を理由とする請求(請求6、7及び9項に係る請求)
 標記の請求は、原告会社が、原告ワークブックに記載された別紙3ノウハウ対比表の「本件ノウハウ」欄記載の各ノウハウに係る情報(以下、同対比表の「番号」欄記載1に対応する本件ノウハウを「本件ノウハウ1」といい、その余のノウハウも同様の例による。また、本件ノウハウ1ないし24を「本件各ノウハウ」と総称する。)は、原告会社が保有する営業秘密に当たり、平成27年5月1日から平成30年5月30日までの間、被告Bは、本件各ノウハウを被告らが提供する会議運営手法に関するコンサルティングサービス等に使用し、被告会社らに開示して、不競法2条1項7号が規定する不正競争を行い、被告ヴァンガード社は、被告Bから不正開示を受けた本件各ノウハウを使用して被告レジュメを作成し、顧客に開示するとともに、本件ノウハウ3及び同24を使用して作成された本件投稿動画1及び別紙4投稿動画目録記載2の動画(以下「本件投稿動画2」といい、本件投稿動画1と合わせて「本件各投稿動画」という。)を同社のウェブサイトに掲載して第三者に開示し、同項8号が規定する不正競争を行い、被告サムライヴィジョン社は、被告B又は被告ヴァンガード社から不正開示を受けた本件各ノウハウを上記サービス等に使用し、顧客に被告レジュメを開示するとともに、本件ノウハウ3を使用して作成された本件投稿動画1を同社の管理するウェブサイトに掲載して第三者に開示して、同号が規定する不正競争を行ったとして、被告らに対し、同法3条1項に基づき、本件各ノウハウの使用及び開示の差止めを(請求6項)、被告会社らに対し、同条2項に基づき、本件各投稿動画の削除を(請求7項)、被告らに対し、同法4条に基づき、同法5条1項により算定した損害額及び弁護士費用の合計額である1056万円並びにこれに対する不正競争後の日である平成30年8月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を(請求9項)、それぞれ請求するものである。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実、当裁判所に顕著な事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者等
ア 原告会社は、経営者を対象に、「すごい会議」と称する会議(以下「すごい会議」という。)の手法を用いたコンサルティング業務を行うこと等を目的として、平成26年5月12日に米国カリフォルニア州で設立された有限責任会社であり、原告Aは、同社の代表者を務める者である(甲4、39)。
 株式会社すごい会議(以下「すごい会議社」という。)は、平成15年12月9日に設立され、経営コンサルタント、書籍・雑誌等の企画・編集・出版、講演会の企画・運営・実施等を目的とし、従前、すごい会議の手法を用いて経営者に対してコンサルティング業務を行っていた株式会社であって、その代表取締役は原告Aである(甲3、39)。
イ 被告ヴァンガード社は、各種経営等に関するコンサルティング業務、講演会、研修、セミナー等の企画、運営、管理及び実施等を目的とし、「侍会議」と称する会議(以下「侍会議」という。)の手法の教示等のコンサルティング業務を行う株式会社である(甲6)。
 被告サムライヴィジョン社は、不動産の保有、賃貸、管理及び売買並びに適法な一切の業務を目的とし、侍会議の手法の教示等のコンサルティング業務を行う株式会社である(甲8)。
 一般社団法人日本志導者協会(以下「日本志導者協会」という。)は、組織を活性化させるファシリテーションの研究・教育・普及、ファシリテーターの育成等を行うことを目的とする非営利活動を行う一般社団法人である(甲10)。
 被告Bは、被告ヴァンガード社の代表取締役及び日本志導者協会の代表理事を務める者である。
(2)すごい会議及びその手法の内容等
ア 原告Aは、自身が学んだコーチングの方法論をもとに、すごい会議の手法を開発した。前記(1)アのとおり、従前は、すごい会議社が、経営者を対象としてすごい会議の手法の教示等のコンサルティング業務を行っていたが、現在は原告会社がこれを行っている。(甲39)
イ すごい会議の手法は、企業において行われていた従前の会議の方法を見直し、どういった手順で会議を進めるかを「型」(一定の決まった枠組み)にして指導するというものである。
 そして、原告会社は、すごい会議の導入を希望する顧客に、すごいコーチと呼ばれるマネジメントコーチを司会役として派遣し、すごい会議の「型」に沿って会議を行うことを通じて、上記の「型」を顧客に身に付けさせ(原告らはこのことを「インストール」と称している。)、顧客の会議を改善し、これによって顧客の目標を達成する手助けをするという内容のコンサルティング業務を行っている。
 なお、上記司会役として派遣されるのは、原告会社の従業員又は同社がマネジメントコーチに関する業務を委託した個人である。
ウ すごい会議のキャッチコピーとして、すごい会議社が作成した「会議が変わる。会社が変わる。」(原告キャッチコピー)という文言が使われている。
(3)原告ワークブックの作成経緯
 原告A及びすごい会議社の従業員であるC(以下「C」という。)は、社外のマネジメントコーチがいなくても、社内会議において、社員だけですごい会議が運用できるようにるため、本件各ノウハウを含むすごい会議の手順等を記載した「すごい計画作成キット」と題するマニュアルを制作したこのマニュアルは、初版が平成20年2月15日に発行され、その後、改訂が重ねられた。原告ワークブックは、それらのうちの平成23年7月15日に発行された改訂版(「2011ピーチパーリーマタドール版」との表題が付されたもの)である。(甲1、39)
(4)会議手法に関する書籍及びウェブサイト記事
ア 原告Aによる書籍の発行及びウェブサイト記事の作成
(ア)原告Aは、「すごい会議ワークブック2013」と題する書籍(乙5。以下「原告書籍1」という。)を作成し、株式会社朝日新聞出版(以下「朝日新聞出版」という。)は、同書籍を平成25年2月28日に発行した。
(イ)原告Aは、「すごい会議ワークブック2014−15」と題する書籍(乙6。以下「原告書籍2」という。)を作成し、朝日新聞出版は、同書籍を平成26年3月30日に発行した。
(ウ)原告Aは、平成18年2月、西日本電信電話株式会社に「経営とそれに伴う成果もアップグレード」と題する記事(乙9。以下「原告記事」という。)を寄稿し、その記事は同社のウェブページに掲載された。そのURLは次のとおりであり、令和元年6月28日の時点で閲覧可能の状態であった。
 (URLは省略)
(エ)原告Aは、Cとともに、「秘伝すごい会議」と題する書籍(乙10。以下「原告書籍3」という。)を作成し、株式会社大和書房は、同書籍を平成19年11月1日に発行した。
(オ)原告Aは、「すごい会議――短期間で会社が劇的に変わる!」と題する書籍(乙51。以下「原告書籍4」という。)を作成し、株式会社大和書房は、同書籍を平成17年6月10日に発行した。
イ すごい会議社によるウェブサイト記事の作成等
(ア)すごい会議社は、平成22年、「付録」と題する文書(乙7。以下「すごい会議社付録」という。)を作成し、朝日新聞出版のウェブサイト上で公開した。すごい会議社付録が掲載されたウェブページのURLは次のとおりであり、令和元年10月16日付け原告ら第2準備書面が陳述された令和元年10月18日の時点において、閲覧可能の状態であった。
 (URLは省略)
(イ)すごい会議社は、平成23年12月2日、株式会社Dに対して実施したすごい会議の手法のコンサルティングに関するインタビューの様子を記載した記事(乙12。以下「すごい会議社記事」という。)を作成し、すごい会議社のウェブページに掲載した。そのURLは次のとおりであり、令和元年6月28日の時点で閲覧可能の状態であった。
 (URLは省略)
ウ 第三者によるウェブサイト記事の作成
(ア)投稿者名を「E」とする、「成功する人は曖昧さの中で前進する」と題するブログ記事(乙8。以下「第三者記事1」という。)が、平成28年5月3日に投稿された。そのURLは次のとおりであり、令和元年6月28日の時点で閲覧可能の状態であった。
 (URLは省略)
(イ)Fは、平成30年1月21日、「「すごい会議」のすごいところ3つ!実際に導入して気づいたことまとめ」と題する記事(乙11。以下「第三者記事2」という。)をウェブサイト上で公開した。第三者記事2が掲載されたウェブページのURLは次のとおりであり、令和元年6月28日の時点で閲覧可能の状態であった。
 (URLは省略)
(5)被告らのコンサルティング業務の内容等
ア 被告Bは、すごい会議社との間で、平成23年3月29日付けの「すごい会議ライセンシング契約書」と題する書面(甲14)を取り交わし、すごい会議のマネジメントコーチとしての業務を委託された。なお、同業務委託は、その後終了している。
イ 被告Bは、「中小企業が使いやすく、日本が本来持っている組織力を引き出す会議のやり方がないか」との考えから、侍会議の手法を開発した(甲5)。そして、被告Bは、平成26年7月3日、被告ヴァンガード社を設立し(甲6)、侍会議のワークショップを行うセミナー事業や、侍会議を行うファシリテーターの育成研修を行う「志導塾」と称する研修事業を開始した。
ウ(ア)被告サムライヴィジョン社は、侍会議の手法を用いた会議ファシリテーション業務等を事業として遂行している。同社の代表取締役は、平成30年8月20日まで日本志導者協会の理事を務めていたG(以下「G」という。)である(甲10)。
(イ)被告サムライヴィジョン社は、平成30年5月9日から同年8月27日までの間、9回にわたり、株式会社Hに対して、侍会議のコンサルティング業務を行った(以下、この業務に係る侍会議を「本件侍会議」という。)。本件侍会議では、Gが講師を務め、同社の社長及び従業員4名の計5名が参加し、Gが司会進行を行う形で進められた。被告サムライヴィジョン社は、上記5名の参加者に対して、被告らが作成した「侍会議」と題するレジュメ(甲2の1ないし8。被告レジュメ)を本件侍会議の各回で交付した。
(ウ)被告ヴァンガード社は、別紙4投稿動画目録記載のとおり、平成28年11月19日、本件各投稿動画をYouTubeに投稿し(投稿先の各URLは同別紙記載のとおりである。)、これらの動画を同社のウェブサイト(URLは(URLは省略)である。)内の「新着NEWS&コラム」のページに貼り付けて掲載した(甲7、15ないし17、19、22、24)。
 本件投稿動画1の再生時間0分01秒の箇所で、「会議が変われば会社は確実に変わる!」(被告キャッチコピー)が表示される。(甲16、17、39)
 なお、本件各投稿動画は、遅くとも、令和元年10月16日付け原告ら第2準備書面が陳述された第3回弁論準備手続期日が行われた同月18日までには、削除された。
エ 日本志導者協会は、侍会議の体験会等を開催しており、平成29年12月5日に大阪市内で、平成30年2月2日に京都市内で上記体験会を実施したほか、東京、名古屋、大分でも上記体験会を実施した(甲11、12)。
(6)原告ワークブックに係る著作権譲渡契約等
 原告A及びCは、すごい会議社に対し、平成23年7月15日、原告ワークブックに係る著作権の全ての持分を譲渡し、すごい会議社は、原告会社に対し、平成28年1月6日、上記著作権を譲渡した(甲26、27)。
 なお、原告A及びCは、令和元年10月11日、共同で原告ワークブックを著作したこと、原告ワークブックに関する全ての著作権の持分割合につき、平成23年7月15日時点において、原告Aが60%、Cが40%を有していたことを確認した(甲25)。
3 争点
(1)原告ワークブックに関する著作権侵害及び著作者人格権侵害の有無(争点1)
ア 原告ワークブックに係る著作権侵害の成否(争点1−1)
イ 原告ワークブックに係る著作者人格権侵害の成否(争点1−2)
ウ 共同不法行為の成否(争点1−3)
(2)原告キャッチコピーに関する著作権侵害の有無(争点2)
ア 原告キャッチコピーの著作物性(争点2−1)
イ 原告キャッチコピーに係る翻案権侵害の成否(争点2−2)
(3)本件各ノウハウに関する不正競争の成否(争点3)
ア 本件各ノウハウの営業秘密該当性(争点3−1)
イ 不正競争行為の存否(争点3−2)
(4)差止め等の必要性(争点4)
ア 原告ワークブックに関するもの(争点4−1)
イ 原告キャッチコピーに関するもの(争点4−2)
ウ 本件各ノウハウに関するもの(争点4−3)
(5)損害の発生及びその額(争点5)
4 争点に関する当事者の主張
(1)争点1(原告ワークブックに関する著作権侵害及び著作者人格権侵害の有無)について
ア 争点1−1(原告ワークブックに係る著作権侵害の成否)について
(原告会社の主張)
(ア)同一性を有する部分
a 原告ワークブックと被告レジュメの全体の構成が非常に類似しており、実質的に同一であること
(a)すごい会議で使用する原告ワークブックは、以下の構成からなる。
@ 会議の約束事と目的の確認(会議の最初に、会議の約束事や会議の目的を参加者と確認すること。別紙2レジュメ対比表の番号1ないし6)
A 手に入れたい成果の確認(参加者に対する最初の質問として、会議でどのような成果が出ていればあなたにとって一番価値があるかを問うこと。同対比表の番号7)
B 今日までに達成されたことの確認(同対比表の番号8)
C 問題や懸念の洗い出し(自分の観点から最も重要と思われること、他の部署や業者のせいで問題となっていること、言えない問題・言ってはいけない問題、会社のひどい真実、あなた自身のひどい真実という五つの観点から、経営上の問題を問うこと。同対比表の番号9ないし13)、
D 戦略的フォーカス作成(目標設定、すなわち、フォーマットを使用して目標を設定し、目標に名前を付けること。同対比表の番号14ないし16)
E 役割の明確化(目標達成のための道のり、担当と責任の明確化。同対比表の番号17ないし19)
F アクションプラン(コミットメント)の策定(得たいマイルストーンを定め、いつまでに何を達成すればマイルストーンひいては目標が達成されるかを決めること。同対比表の番号20ないし22)
G 問題解決(今日の会議でどのような成果が手に入っていれば最も価値があるかと、何がうまくいっているかを問うこと。同対比表の番号23及び24)
(b)他方、被告レジュメは、以下の構成からなる。
@ ’会議の約束事と目的の確認
A ’手に入れたい成果の確認
B ’今日までに達成されたことの確認
C ’問題の棚卸
D ’志作成(目標設定)
E ’役割の明確化(志を達成するためのステップ、担当者の決定)
F ’アクションプランの策定
G ’問題解決
(c)このように、原告ワークブックと被告レジュメは、全体の構成が非常に類似しており、実質的に同一であることは明らかである。
b 原告ワークブックの各原告記述部分と被告レジュメの各被告記述部分が同一であること
 各被告記述部分を各原告記述部分と対比すると、別紙5原告ワークブックに関する主張対比表の「原告らの主張」欄記載のとおり、両者には同一性が認められる。
 そして、被告レジュメは、本件侍会議の顧客である株式会社H向けにアレンジされたものであり、被告サムライヴィジョン社の手元には、被告レジュメのほか、被告レジュメとほぼ同様の内容が記載された他社向けの侍会議用のレジュメ及びその電子データが存在すると考えられる。また、被告ヴァンガード社自身が実施している侍会議においても、各被告記述部分と同一の記述が記載された文書が使用されていると考えられる。
(イ)同一性を有する部分が創作的な表現であること
a 全体の構成
 原告ワークブックは、全体として、統一的なテーマの下に、多様な内容を、要領よく取捨選択し、配列したものである。その結果、原告ワークブックの全体的な構成は、単に抽象的なノウハウを羅列したものではなく、原告ワークブックが手元にあればすごい会議の進行役を務めることができるように、参加者に対して話すべき内容などの抽象的なノウハウを、表現方式に関して多様な選択肢がある中で、上記の創意工夫をして表現したものとなっている。
 したがって、原告ワークブックと被告レジュメとで同一性を有する部分である全体的な構成は、独自性があり、個性が発揮された表現方法であることから、創作的な表現であると認められる。
b 具体的な記述部分15
 前記前提事実(2)イのとおり、すごい会議の手法は、会議で行うべきことを「型」としてパッケージ化したことに特徴があるところ、原告ワークブックは、会議の進め方や内容について多数存在する選択肢の中から、議題や、議題ごとの質問内容、参加者が決定すべき内容を、「現状→目標設定→役割の明確化→アクションプラン→問題解決」という議題について順序を意識して記述することにより、すごい会議の「型」を分かりやすく表現したものである。
 そして、各原告記述部分は、すごい会議の「型」を、上記のとおりに具体的に表現した部分であるところ、別紙5原告ワークブックに関する主張対比表の「原告らの主張」欄記載の事情も考え合わせれば、同一性を有する各原告記述部分と各被告記述部分は、著作者の個性が表れた表現であるといえる。
 よって、上記の各部分は、いずれも創作的な表現であると認められる。
c 被告らの主張に対する反論
 被告らは、原告ワークブックの記述は、ノウハウそのものか、ごく当たり前の内容をノウハウとして表現したものであるなどとして、原告ワークブックと被告レジュメにおいて同一性の認められる全体的な構成及び具体的な記述部分は創作的な表現であるとは認められないと主張する。
 しかしながら、ノウハウであれば直ちに創作的な表現であると認められないというものではなく、あるノウハウ(アイデア)から多様な具体的表現可能性がある場合には、そのノウハウと結びついた多数の表現の選択肢の一つに創作性が認められることは十分にあり得るというべきである。
 この点、すごい会議のノウハウがごく当たり前に使われる手法であるとは認め難いし、原告ワークブックの全体的な構成及び各原告記述部分は、ノウハウの表現方法として多数の選択の幅がある中で、会議手法のポイントを、独特のストーリーに基づき質問やフォーマットを多用して表現したものであって、構成、表現順序、表現方法、使用文言等に独自性が認められる。
 したがって、原告ワークブックと被告レジュメにおいて同一性の認められる全体的な構成及び具体的な記述部分は、創作性な表現であるというべきであり、被告らの上記主張には、理由がない。
(ウ)依拠性
 被告Bは、すごい会議社との間で平成23年3月29日に「すごい会議ライセンシング契約書」(甲14)を取り交わしてライセンス契約を締結し、すごい会議社から業務委託を受けてマネジメントコーチとしての業務に携わっていた。そして、被告Bは、上記ライセンス契約の締結から同契約の終了までの間、すごい会議社から原告ワークブックの交付を受けていた。
 そして、被告らが侍会議を宣伝し、侍会議を導入する会社が現れ始めたのは、すごい会議社の被告Bに対する上記業務委託が終了した後のことであるから、被告Bはもとより、被告Bが代表取締役を務める被告ヴァンガード社や、被告B及び被告ヴァンガード社と密接な関係があるGが代表取締役を務める被告サムライヴィジョン社が、被告レジュメの作成の時点において、原告ワークブックの存在を知っていたことは明らかである。
 以上に加え、前記(ア)のとおり、原告ワークブックと被告レジュメの全体の構成や表現が同一性を有することからすれば、被告らが、原告ワークブックに依拠して被告レジュメを作成したことは明らかである。
(エ)小括
 以上によれば、原告ワークブックと被告レジュメは、全体の構成が同一性を有し、また、個別の記述についても同一性を有しており、その同一性を有する部分が創作的な表現である上、被告レジュメは、原告ワークブックに依拠しており、これに接する者が原告ワークブックの表現上の本質的な特徴を直接感得できるものである。
 したがって、被告らにおいて、各被告記述部分が記載された被告レジュメを作成し、これを用いて本件侍会議を含む侍会議のワークショップや侍会議導入のためのコンサルティング業務を行うことは、原告会社が保有する原告ワークブックについての複製権又は翻案権を侵害する。
(被告らの主張)
(ア)同一性を有する部分について
 原告会社は、原告ワークブックと被告レジュメの全体の構成が類似しており、実質的に同一であると主張する。
 しかしながら、そもそも、原告ワークブックは、原告会社が主張する@ないしGの見出しのような分け方はされていないし、また、被告レジュメについて、同@’ないしG’のように分けて論じることは恣意的である。
 そうすると、両者の全体の構成が類似しているとはいえず、実質的に同一であるともいえない。
(イ)同一性を有する部分が創作的な表現であることについて
a 別紙5原告ワークブックに関する主張対比表の「被告らの主張」欄記載のとおり、各原告記述部分は、いずれもありふれた表現である。
 また、各原告記述部分と同様の内容のビジネスコーチングの手法は他にも複数存在するから、このような手法について表現しようとすると、表現が類似することはやむを得ない。
 したがって、原告会社が指摘する表現の類似は、表現上の創作性がある部分に関する共通点ということはできない。
b 原告会社は、原告ワークブックがすごい会議のノウハウである「型」を表現したことに創作性が存在する旨を主張する。
 しかしながら、ノウハウが一定の手順を踏むのは当然のことであるから、ノウハウの記載の順序を工夫したとの一事から創作性が認められるとすれば、著作権がノウハウを保護するに等しい帰結となる。しかも、原告会社の主張に係るノウハウ自体、ごく当たり前に用いられる一般的な問題解決手法であるから、表現されたノウハウの独自性を根拠に原告ワークブック全体の構成及び各原告記述部分が創作的な表現であるとする原告会社の主張には理由がない。
c したがって、原告ワークブックと被告レジュメにおいて同一性の認められる部分があるとしても、それが創作性な表現であるとは認められない。
(ウ)依拠性について
 被告らは、被告レジュメの作成に際して、原告ワークブックに依拠したわけではなく、会議指導手法一般に使われている手法を表現したにすぎない。
(エ)小括
 したがって、原告会社が指摘する被告らの行為は、原告ワークブックに係る原告会社の複製権及び翻案権を侵害するものではない。
イ 争点1−2(原告ワークブックに係る著作者人格権侵害の成否)について
(原告Aの主張)
 前記前提事実(3)のとおり、原告Aは、原告ワークブックの著作者であるから、原告ワークブックについて著作者人格権を有する。
 しかるに、被告らは、前記ア(原告会社の主張)のとおり、原告Aの氏名を表示することなく、原告ワークブックの表現を改変して各被告記述部分が記載された被告レジュメを作成した上、侍会議において、顧客ごとに被告レジュメの内容を改変して使用して、公衆に提供又は提示した。
 したがって、被告らの行為は、原告Aが有する著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を侵害する。
(被告らの主張)
 前記ア(被告らの主張)のとおり、各被告記述部分と同一であるとされる各原告記述部分には創作性が認められないから、原告Aが指摘する被告らの行為は、原告ワークブックに係る原告Aの著作者人格権を侵害するものではない。
ウ 争点1−3(共同不法行為の成否)について
(原告らの主張)
 本件侍会議で使用された被告レジュメの下部には「Copyright?VanguardManagement.Co.Ltd.」と記載されているから、被告レジュメは、被告ヴァンガード社が作成したものである。また、被告ヴァンガード社は被告Bが設立した株式会社であるところ、被告Bは、すごい会議社から業務委託を受けてマネジメントコーチを行っていた際に入手した原告ワークブックを模倣して被告レジュメを作成し、これを用いてすごい会議と同様の手法による会議コンサルティングを行っているものであり、被告レジュメの作成に関与している。
 加えて、被告サムライヴィジョン社の代表取締役であるGは、被告Bが代表理事を務める日本志導者協会で理事を務めたことがあり、被告らが密接な関係にあることは明らかである。
 そうすると、被告レジュメを使用することによる原告会社の著作権の侵害及び原告Aの著作者人格権の侵害に関しては、被告らの各行為が客観的に関連し共同してなされたものであり、それらについて、被告らのいずれにも故意又は過失が認められる。
 したがって、被告らには、上記の権利侵害について共同不法行為が成立する。
(被告らの主張)
 原告ら主張の事実については否認し、共同不法行為の成立については争う。
(2)争点2(原告キャッチコピーに関する著作権侵害の有無)について
ア 争点2−1(原告キャッチコピーの著作物性)について
(原告会社の主張)
(ア)原告キャッチコピーは、短い文章であるものの、会議のやり方を見直すことで会社の経営目標を達成するというすごい会議のコンサルティングの特徴や効果、会議の重要性等を的確に表したものである。
 また、「会議が変わる。会社が変わる。」という原告キャッチコピーの構成は、「会議」と「会社」の「議」と「社」以外は同じ表現の6文字からなる文章を2回繰り返すというものであり、リズミカルに表現された特徴的なものである。
 以上によれば、原告キャッチコピーは、著作者の個性が発揮されたものであり、思想又は感情を創作的に表現したものといえるから、著作物性が認められる。
(イ)被告会社らは、原告キャッチコピーと同様のキャッチコピーは会議手法のコーチングに関して多数の者に使われているから、原告キャッチコピーは、ありふれた表現であって、創作性が認められないと主張する。
 しかしながら、被告会社らが指摘する使用例は、原告キャッチコピーと同様とはいえないか、当該使用例自体が原告キャッチコピーに係る翻案権を侵害するものであるから、そのような使用例が存在するからといって、原告キャッチコピーがありふれた表現であると認められるものではない。
 したがって、被告会社らの上記主張は理由がない。
(被告会社らの主張)
 原告キャッチコピーは、ありきたりの文章を2回繰り返すのみのものである上、会議手法のコーチングに関して多数の者に使用されるありふれた表現にすぎないから、創作性がなく、著作物性は認められない。
イ 争点2−2(原告キャッチコピーに係る翻案権侵害の成否)について
(原告会社の主張)
 原告キャッチコピーの著作者は、すごい会議社であるところ、原告会社は、平成28年1月6日、原告キャッチコピーに係る著作権をすごい会議社から譲り受け、その著作権を保有している。
 また、原告キャッチコピーは、すごい会議社のウェブサイト上で公開されているから、被告会社らは、原告キャッチコピーを認識し得たものであり、原告キャッチコピーに依拠して被告キャッチコピーを作成したことは明らかである。
 そして、原告キャッチコピーと被告キャッチコピーは、デザインや文の個数は異なるものの、「会議が変わ」るという部分と「会社」が「変わる」という部分において表現の共通性が認められるから、被告キャッチコピーに接する者は、原告キャッチコピーの表現上の本質的な特徴を直接感得することができる。
 したがって、被告ヴァンガード社が、前記前提事実(5)ウ(ウ)のとおり、同社のウェブサイトに被告キャッチコピーを記載した本件投稿動画1を掲載した行為は、原告会社の原告キャッチコピーに係る翻案権を侵害する。また、被告サムライヴィジョン社においても、本件投稿動画1と同内容の動画を、侍会議の実例紹介として同社のウェブサイトに掲載しており、係る行為についても同様に原告会社の原告キャッチコピーに係る翻案権を侵害するものである。
(被告会社らの主張)
 前記ア(被告会社らの主張)のとおり、そもそも原告キャッチコピーには著作物性が認められない。
 また、被告キャッチコピーは、会議によって会社が変わることをありふれた表現方法により表現したものにすぎないため、結果として、当該表現が原告キャッチコピーに類似したにすぎず、原告キャッチコピーに依拠したものではない。
 以上によれば、被告会社らが被告キャッチコピーを記載した本件投稿動画1あるいはこれと同じ内容の動画をウェブサイトに掲載したとしても、係る行為は、原告会社の原告キャッチコピーに係る翻案権を侵害するものではない。
(3)争点3(本件各ノウハウに関する不正競争の成否)について
ア 争点3−1(本件各ノウハウの営業秘密該当性)について
(原告会社の主張)
(ア)秘密管理性及び非公知性
a 原告会社は、本件各ノウハウを、限られたライセンシー及びライセンシーが認めるマネジメントコーチにしか開示していない。そして、原告会社は、被告Bを含む全てのライセンシー及びライセンシーが認めるマネジメントコーチとの間でライセンス契約を締結しているところ、当該契約に係る契約書(以下「本件ライセンス契約書」という。)の18条により、本件各ノウハウについて、ライセンシー側に守秘義務を課している。
 さらに、原告会社は、マネジメントコーチに対し、顧客にすごい会議のコンサルティングサービスを提供する際に「費用と条件に関する合意書」(以下「本件合意書」という。)を取り交わすよう指導している。そして、本件合意書には「全ての会議内容は厳格に秘密扱いといたします。必要に応じて、クライアント様の間で、秘密保持契約を交わすことも可能です」との条項があるから、原告会社は、マネジメントコーチが顧客と本件合意書を取り交わすことを通じて、当該顧客から、本件各ノウハウを含む全ての会議の内容を厳格に秘密扱いにすることの約束を取り付けていることになる。
 したがって、本件各ノウハウは、「秘密として管理されて」おり、かつ、「公然と知られていないもの」(不競法2条6項)であると認められる。
b 被告らは、本件各ノウハウと同一の情報が一般に販売されている書籍やインターネット上のウェブページに掲載されていることを根拠に、本件各ノウハウには秘密管理性及び非公知性が認められないと主張する。
 しかしながら、別紙6本件ノウハウに関する主張対比表の「争点3−1について」の「原告会社の主張」欄記載のとおり、本件ノウハウ20及び24については、被告らが指摘する書籍やウェブページに同一の内容の記載が存在しない。
 また、原告会社は、被告らが指摘する書籍のうち、原告書籍1及び2については、市場に流通しないよう回収する作業を進め、増刷もしていない上、すごい会議社付録(乙7)については、掲載元である朝日新聞出版に記事の削除を要請している。
 したがって、被告らの上記主張には理由がない。
(イ)有用性
 本件各ノウハウは、すごい会議のコーチングの手法である会議の手順をパッケージ化し、会議の参加者が各手順でとるべき作法を細かく定めたものである。原告会社はこれを「型」と呼んでおり、会議の参加者である顧客が「型」に従った会議を繰り返すことで、「型」が身に付き(すなわち顧客に「型」がインストールされ)、会議のパフォーマンスが上がるのであって、本件各ノウハウは、顧客である企業が会議を通じて目標を実現する手助けとなるものである。また、本件ノウハウ1ないし24を個別にみても、別紙6本件ノウハウに関する主張対比表の「争点3−1について」の「原告会社の主張」欄記載のとおり、いずれについても有用性が認められる。
 加えて、すごい会議が1000社以上に導入されたという実績などからすれば、本件各ノウハウには価値があると広く評価されているものと認められる。
 以上によれば、本件各ノウハウが原告会社の「事業活動に有用な技術上又は営業上の情報」(不競法2条6項)であることは明らかである。
(被告らの主張)
(ア)秘密管理性及び非公知性
a 別紙6本件ノウハウに関する主張対比表の「争点3−1について」の「被告らの主張」欄記載のとおり、原告会社が本件各ノウハウとして主張する情報は、いずれも、一般に販売されている書籍や、インターネット上のウェブページに記載されているものであるから、本件各ノウハウには非公知性が認められない。
 仮に、原告会社が上記の書籍を回収したり、増刷しないことを決定したりしても、非公知性が回復することはない。
b 原告会社は、本件ライセンス契約書の条項によってマネジメントコーチに守秘義務を課していることを根拠として、本件各ノウハウに秘密管理性及び非公知性が認められると主張する。しかしながら、上記の条項は、マネジメントコーチに一般的な守秘義務を課す秘密保持条項にすぎず、本件各ノウハウの秘密管理性及び非公知性を何ら基礎づけるものではない。
 また、原告会社は、本件合意書を根拠に、顧客から、会議の内容を厳格に秘密扱いにする旨の約束を取り付けているとして、本件各ノウハウに秘密管理性及び非公知性が認められると主張する。しかしながら、本件合意書の条項は、マネジメントコーチが顧客の情報を漏えいしないことを内容とするものであって、本件各ノウハウを顧客に秘密として保持させることを内容とするものではない。したがって、本件合意書は、本件各ノウハウに秘密管理性及び非公知性が認められることの根拠にはならない。
(イ)有用性
 本件各ノウハウは、いずれも、一般的でありきたりな内容であるから、有用性が認められるものではない。
イ 争点3−2(不正競争行為の存否)について
(原告会社の主張)
(ア)被告Bについて
 被告Bは、すごい会議社との間でライセンス契約を締結し、ライセンシーとして、すごい会議社から本件各ノウハウの開示を受けて、顧客に対し、すごい会議のコンサルティングサービスを提供していたものである。そして、上記ライセンス契約により、同契約終了後には、本件各ノウハウを用いた同種のサービス提供をすることが禁止されていたもので、このことを被告Bは当然認識していた。しかるに、被告Bは、本件各ノウハウを被告会社らに開示したほか、別紙3ノウハウ対比表の「被告ノウハウ」欄及び別紙6本件ノウハウに関する主張対比表の「争点3−2について」の「原告会社の主張」欄記載のとおり、侍会議を通じて、顧客に本件各ノウハウを用いた同種のコンサルティングサービスを提供していたものである。
 このような行為は、被告Bが、「不正の利益を得る目的」又は原告会社に「損害を加える目的」で、原告会社が保有する「営業秘密」である本件各ノウハウを使用するものであるから、不競法2条1項7号所定の不正競争に該当する。
(イ)被告ヴァンガード社について
 被告ヴァンガード社は、本件ノウハウ1、2、4、5、11及び15が記載された被告レジュメを作成して顧客に提供しているところ、係る提供行為は、「営業秘密」である上記のノウハウを「使用し」又は「開示する行為」(不競法2条1項8号)に該当する。
 また、被告ヴァンガード社は、侍会議の宣伝等のため、同社のウェブサイトに、本件ノウハウ3を内容に含む本件投稿動画1及び本件ノウハウ24を内容に含む本件投稿動画2を掲載しているところ、これらの動画を掲載する行為は、「営業秘密」である上記のノウハウを「使用し」又は「開示する行為」に該当する。
 そして、被告Bは被告ヴァンガード社の代表取締役であるから、被告Bから本件各ノウハウの開示を受けた被告ヴァンガード社は、それが「営業秘密不正開示行為」であることを知っていたものといえる。
 したがって、被告ヴァンガード社が顧客に被告レジュメを提供する行為やウェブサイトに本件各投稿動画を掲載する行為は、不競法2条1項8号所定の不正競争に該当する。
(ウ)被告サムライヴィジョン社について
 被告サムライヴィジョン社は、本件侍会議において、本件各ノウハウが記載された被告レジュメを使用し、株式会社H等に開示していたところ、この行為は、本件各ノウハウを「使用し」又は「開示する行為」に該当する。
 また、被告サムライヴィジョン社は、侍会議の宣伝等のため、同社のウェブサイトに本件投稿動画1と同じ内容の動画を掲載しているところ、上記動画には本件ノウハウ3が使用されているから、この行為は、本件ノウハウ3を「使用し」又は「開示する行為」に該当する。
 そして、被告サムライヴィジョン社の代表取締役であるGと被告ヴァンガード者の代表取締役である被告Bが密接な関係を有していたことに照らすと、被告B及び被告ヴァンガード社から本件各ノウハウを開示されて取得した被告サムライヴィジョン社は、被告B又は被告ヴァンガード社による開示行為が「営業秘密不正開示行為」に当たると知っていたことは明らかである。
 したがって、被告サムライヴィジョン社が、被告レジュメを使用して侍会議を行う行為、顧客に被告レジュメを開示する行為及びウェブサイトに本件投稿動画1を掲載する行為は、いずれも不競法2条1項8号所定の不正競争に該当する。
(被告らの主張)
 前記ア(被告らの主張)のとおり、本件各ノウハウは営業秘密に該当しないから、被告らの行為が不正競争に当たる余地はない。その他の主張は、別紙6本件ノウハウに関する主張対比表の「争点3−2について」の「被告らの主張」欄記載のとおりである。
(4)争点4(差止め等の必要性)について
ア 争点4−1(原告ワークブックに関するもの)について
(原告らの主張)
(ア)被告レジュメのうち、各被告記述部分の内容は、どの顧客に対しても共通して使用することが予定されているものである。なお、被告らが顧客にレジュメを交付する際、レジュメを譲渡するのか、貸与し、最終的に回収しているのかは明らかではない。
 したがって、被告らは、株式会社H向けに作成された被告レジュメのうち、各被告記述部分の内容を残した内容のレジュメを複製して、他の侍会議の顧客に譲渡又は貸与する可能性が極めて高いから、本件においては、各被告記述部分が記載された被告レジュメの複製及び頒布を差し止め、被告レジュメを廃棄する必要性がある。
(イ)被告らは、原告らが類似すると主張する会議手法を使用せずとも顧客にコーチングを行うことが可能であるとして、差止め等の必要性を争っている。
 しかしながら、各被告記述部分の内容のうち、例えば侍会議のしきたり(別紙2レジュメ対比表の番号1ないし5)、侍会議の目的(同番号6)、問題の棚卸(同番号9ないし13)、侍会議「志」作成(同番号14ないし16)などは、顧客ごとに変更する必要がないし、手に入れたい成果(同番号7)、達成(同番号8及び24)及びクロージング(同番号22)は、侍会議の会議手法として定着したものであって、いずれも全ての顧客に対して共通に行われているものと考えられる。また、被告レジュメのうち、原告らが類似すると主張している会議手法のコーチング以外の部分が占めるページ数は、全体のごく一部にすぎない。そうすると、被告らが、侍会議において、各被告記述部分が記載された被告レジュメを使用するおそれがあるといえる。
 したがって、被告らの上記主張は、差止め等の必要性を否定するものではない。
(被告らの主張)
 各被告記述部分は、被告らが使用するレジュメの一部の項目にすぎず、全ての顧客に対して使用するわけではない。被告らが使用するレジュメにおいては、原告らが類似すると主張するような会議手法のコーチングのみならず、さらに多様な会議手法のコーチングについての記載があり、被告らは、原告らが類似すると主張するような会議手法を使用せずとも、顧客にコーチングを行うことが可能である。
 したがって、本件において、各被告記述部分が記載された被告レジュメの複製及び頒布を差し止めたり、これを廃棄したりする必要性は認められない。
イ 争点4−2(原告キャッチコピーに関するもの)について
(原告会社の主張)
 本件においては、被告キャッチコピーの使用の差し止める必要性がある。
(被告会社らの主張)
 本件投稿動画1は既に削除されており、被告キャッチコピーは使用されていないから、その使用を差し止める必要性はない。
ウ 争点4−3(本件各ノウハウに関するもの)について
(原告会社の主張)
 被告らが本件各ノウハウを用いて侍会議のサービスを提供することにより、原告会社がすごい会議のサービスを提供する機会が奪われ、営業上の利益が侵害されるところ、被告Bは、本件訴訟が提起された後も侍会議のサービスを顧客に提供しているから、原告会社には、本件各ノウハウが被告らに使用又は開示されることにより、その利益が侵害されるおそれがある。
 したがって、本件においては、本件各ノウハウの使用等を差し止め、本件各ノウハウを内容に含む本件各投稿動画を削除する必要性がある。
(被告らの主張)
 争う。
(5)争点5(損害の発生及びその額)について
(原告らの主張)
ア 原告ワークブックの著作権侵害による原告会社の損害
(ア)著作権法114条3項
 原告ワークブックには、これを引用する場合にはすごい会議社とライセンス契約を締結する必要があることや、使用料の目安は10ページ以内の引用100部で10万円程度であることが記載されている。
 被告レジュメのうち、原告ワークブックが引用されているのは18ページであり、本件侍会議には5名が参加したから、被告レジュメが5部複製されたことは明らかである。そして、20ページ以内の引用場合は、上記の使用料の目安の2倍の金額となるものと扱うのが相当であるから、本件侍会議における被告レジュメの使用料相当額は、1万円(=20万円/100部×5部)と認められる。
 したがって、著作権法114条3項により、原告ワークブックの著作権侵害によって原告会社が被った損害額は、1万円であると算定される。
(イ)弁護士費用
 原告ワークブックに係る原告会社の著作権(複製権又は翻案権)を侵害する行為と因果関係がある弁護士費用の額は、前記(ア)の1割に当たる1000円である。
イ 原告ワークブックの著作者人格権侵害による原告Aの損害
(ア)慰謝料
 原告Aは、原告ワークブックを含む「すごい計画作成キット」を作成するための調査、検討、執筆、推敲等に、長期間にわたり多大な労力を費やしたところ、被告らの行為により、原告ワークブックに係る原告Aの著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)が侵害され、精神的損害を被った。これに対する慰謝料の額は、60万円を下らない。
(イ)弁護士費用
 原告ワークブックに係る原告Aの著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を侵害する行為と因果関係がある弁護士費用の額は、前記(ア)の1割に当たる6万円である。ウ 本件各ノウハウに係る不正競争行為による原告会社の損害
(ア)不競法5条1項
 原告Aが、マネジメントコーチとして、本件各ノウハウを使用及び開示して、(回数は省略)のワークショップからなるすごい会議を実施した場合、(金額は省略)の利益を受けることができるから、「被侵害者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額」は、(金額は省略)である。
 他方、被告サムライヴィジョン社は、株式会社Hに対し、(回数は省略)のワークショップからなる本件侍会議を実施した。
 したがって、本件各ノウハウに係る不正競争行為によって原告会社が被った損害の額は、不競法5条1項により、(金額は省略)と算定される。
(イ)弁護士費用
 前記(ア)の不正競争行為と因果関係がある弁護士費用の額は、(金額は省略)である。
(被告らの主張)
ア 本件ワークブックの著作権侵害による原告会社の損害について
 争う。
イ 本件ワークブックの著作者人格権侵害を根拠とする原告Aの損害について
 争う。
ウ 本件各ノウハウに係る不正競争行為を根拠とする原告会社の損害について
 争う。なお、本件侍会議の実施により被告サムライヴィジョン社が株式会社Hから受領した対価は(金額は省略)であり、同社が、原告会社が主張する額をコンサルティング業務の対価として支払うとは想定しがたい。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(原告ワークブックに関する著作権侵害及び著作者人格権侵害の有無)について
(1)争点1−1(原告ワークブックに係る著作権侵害の成否)について
ア 言語の著作物の「翻案」(著作権法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁)。
 これに対し、著作物の「複製」については、「印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製すること」と規定されているところ(同法2条1項15号)、ここにいう「再製」とは、当該著作物と同一性のあるものを作成することであり、具体的表現に修正、増減、変更等がされても、その部分に創作的表現がなければ、翻案ではなく複製に当たるというべきである。そうすると、上記の言語の著作物の翻案の定義に照らし、言語の著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、これと同一のものを作成し、又は、具体的表現に修正、増減、変更等を加えても、新たに思想又は感情を創作的に表現することなく、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持し、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを作成する行為をいうと解すべきである。
 そして、著作権法は、思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(同法2条1項1号参照)、既存の著作物に依拠して作成されたものが、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体ではない部分又は表現上創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、複製にも翻案にも当たらないと解するのが相当である(前掲最高裁平成13年6月28日判決参照)。
 本件においては、主に言語で記述された原告ワークブックと被告レジュメの同一性を有する部分について、上記の表現上の創作性が認められるか否かが問題となるところ、これが認められるためには、厳密な意味で独創性が発揮されていることまでは必要でないものの、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与するという著作権法の目的(著作権法1条)に照らせば、作成者の何らかの個性が表現されており、その権利を保護する必要性が存在することを要する。具体的には、言語表現による記述等の場合、表現形式に制約があったりするため、他の表現が想定できない場合には、表現の選択の余地がないか、選択の幅が著しく低いため、個性の表れが認められないということになる。さらに、表現が極めて短いものやありふれたものである場合には、そのような表現に独占権を認めると、後進の創作者の表現の自由を奪うことにとなり、表現の多様化を阻害し、文化の発展に寄与するという著作権法の目的に反する結果となりかねない。したがって、そのようなありふれた表現に創作性を肯定して保護を与えることは許容されないものと解すべきである。
イ 本件において、原告会社は、各原告記述部分と各被告記述部分が同一であり、かつ、原告ワークブックと被告レジュメの全体の構成も同一であるとして、それらについての複製又は翻案を主張することから、以下、順に検討する。
(ア)原告記述部分及び被告記述部分に係る複製又は翻案の主張について
a 原告記述部分1ないし5と被告記述部分1ないし5について
(a)別紙2レジュメ対比表の番号1ないし5のとおり、原告ワークブックの当該部分と被告レジュメの当該部分とは、それぞれ、会議において、会議での約束事として、そのまま「やってみる」こと(番号1)、「携帯」電話を切っておくこと(番号2)、「問題」を見つけたら、「問題を指摘する」のではなく、「解決策を提示する」こと(番号3)、「わかりません」という回答はしないこと(番号4)、「発言」は、「短く」、「簡潔に」、「直接的な表現で」行うこと(番号5)が記述されている点で共通しており、その部分において同一性がある。
 しかしながら、これらの同一性を有する部分の記述内容に加えて、原告ワークブックの上記各記述が「お約束#1」等が付された形式で、被告レジュメの上記各記述が「侍会議のしきたり」との題名の下に、それぞれ記述されていることも考慮に入れれば、被告記述部分1ないし5と原告記述部分1ないし5とは、会議の決まり事を説明した記述であるという点において共通しているものの、それは、会議における約束事をどのように取り決めるかというアイデアについての同一性であって、表現それ自体ではない部分において同一性が認められるにすぎない。
 仮に、原告記述部分1ないし5と被告記述部分1ないし5について、「やってみる」等の鍵括弧を付した語句が共通しており、それらを含む表現部分が同一であると考えられるとしても、その表現部分は、いずれもごく短い一文であって、かつ、ありふれたものであることが明らかである(例えば、会議での約束事として、まずはそのまま「やってみる」こと(番号1)という共通点については、ウェブページ(乙16)において「素直にそのままやる」との記載が、書籍(乙20)において「おやくそく」「まずはやってみよう」との記載が、それぞれ存在しており、会議中の「発言」は、「短く」、「簡潔に」、「直接的な表現で」行うこと(番号5)という共通点については、ウェブページ(乙15)において「会議での発言は「3S」(Short=短く、Simple=簡潔で、Straight=直接的に)のルールでおこないましょう。」との記載が存在する。)。そうすると、原告会社にそのような表現を独占させるのは相当ではないというべきであり、上記の同一性を有する部分について創作性を肯定することはできない。
(b)原告会社は、原告記述部分1ないし5及び被告記述部分1ないし5について、会議における約束事の表現の仕方にはいくつかの選択肢がある中で、一見当たり前と思われるような内容も約束事としてあらかじめ記載するという表現形式をとっている点で同一性を有しており、その同一性を有する部分は創作的な表現であると主張する。
 しかしながら、当たり前のことを敢えてワークブックないしレジュメに記載するということ自体は、アイデアにすぎないから、仮に、そうしたアイデアに個性の表れが認められるとしても、そのことをもって直ちに創作的に表現された部分において同一性があると認めることはできない。
 したがって、原告会社の上記主張は、採用することができない。
(c)以上によれば、被告記述部分1ないし5が原告記述部分1ないし5と同一性を有する部分は、表現それ自体ではないか又は表現上の創作性がないものであって、被告記述部分1ないし5からそれらに対応する原告記述部分1ないし5の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない。
 したがって、被告記述部分1ないし5は、いずれも、原告記述部分1ないし5を複製又は翻案したものとはいえない。
b 原告記述部分6と被告記述部分6について
(a)別紙2レジュメ対比表の番号6のとおり、原告ワークブックの当該部分と被告レジュメの当該部分とは、会議の参加者が、「チームとして」、「問題を共有」し、「役割」を作り、参加者を「満足させるため」の「計画」と「情熱」を得るという記述がされている点で共通しており、その部分において同一性がある。
 しかしながら、上記の同一性を有する部分は、全体として、会議によって達成すべき目的として、獲得すべき成果及びその成果を獲得するための手段に係るアイデアそのものであって、表現それ自体ではない。
 仮に、原告記述部分6及び被告記述部分6について、「チームとして」等の鍵括弧を付した語句を含む表現部分が同一であり、また、第1文で成果を獲得するための手段を述べた上で、第2文で獲得すべき成果を示すという構成についても同一性があると考えられるとしても、その同一性が認められる表現部分は、全体としてもごく短いものであり、かつ、「チームとして」、「問題を共有」、「共通の」、「役割」、「満足させるため」、「情熱」といった関連性を認めやすい平易な語を一般的な順序で組み合わせたにすぎないものであって、ありふれたものであることは明らかであって(例えば、書籍(乙22)では、「チーム」による意思決定の進め方の手順として、課題を「共有」すること、統合的「目標」を設定して「満足」度最大の案を採るなどの記述が存在し、上記の語の組み合わせがありふれたものであることを裏付けている。)、第1文及び第2文の構成も、手段から成果につなげるという、通常用いられるありふれたものにすぎない。そうすると、上記の表現を原告会社に独占させることは相当ではないというべきであり、その部分に創作性を認めることはできない。
(b)原告会社は、原告記述部分6と被告記述部分6が、会議においてどういったことを行い、何を手に入れようとするのかについて、思想やアイデアを端的にまとめて表現したものである点で共通し、そこには個性が発揮されており、創作性が認められると主張する。
 しかしながら、上記の部分が会議に係る思想やアイデアを端的にまとめて記述されたものであるとしても、そのようなまとめ方そのものもアイデアにとどまるものである。仮に、当該記述が表現であるといえるとしても、その構成は、前記(a)で検討したとおり、会議における獲得目標及び獲得手段のまとめ方としては一般的なものであって、何ら特徴があるものではなく、ありふれた表現の域を出るものではないことは明らかであるから、上記の部分に創作性を認めることはできない。
 したがって、原告会社の上記主張は、採用することができない。
(c)以上によれば、被告記述部分6が原告記述部分6と同一性を有する部分は、表現それ自体ではないか又は表現上の創作性がないものであって、被告記述部分6から原告記述部分6の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない。
 したがって、被告記述部分6は、原告記述部分6を複製又は翻案したものとはいえない。c 原告記述部分7及び23と被告記述部分7及び23について
(a)別紙2レジュメ対比表の番号7及び23のとおり、原告ワークブックの当該部分と被告レジュメの当該部分とは、いずれも、会議の参加者に対し、当該会議において「どんな成果」を得ていれば「あなたにとって」「最も価値が」あるかを質問する記述であるという点でおおむね共通しており、その部分において同一性がある。
 しかしながら、上記の同一性を有する部分は、いずれも、会議手法の一つとして、会議の中で司会役を務める者が参加者に対してどのような質問を投げかけて、参加者がどのような意識を持って会議に参加するように持っていくかを説明したものであって、アイデアそのものが記述されたものである。そうすると、原告記述部分7及び23と被告文言7及び23とは、表現それ自体ではない部分について同一性が認められるにすぎないというべきである。
(b)原告会社は、原告記述部分7及び23と被告記述部分7及び23とが表現において同一であることを前提に、その同一性がある部分について、ノウハウを表現する上で、表現に選択の余地があること、他に同様の表現が用いられた資料等が見当たらず、ありふれた表現とはいえないことなどを理由として、創作性が認められると主張する。
 しかしながら、仮に、原告記述部分7及び23と被告記述部分7及び23とが表現において同一性があり、アイデアを表現するための選択の幅が認められるとしても、それらの記述自体から、一文からなる極めて短い表現であって、かつ、問いかけにおいて通常用いられるありふれた表現であることは明らかであるから、前記の著作権法の趣旨に照らし、そのような表現部分を原告会社に独占させることは許容されず、創作性を認めることはできない。
 したがって、原告会社の上記主張は採用することができない。
(c)以上によれば、被告記述部分7及び23が原告記述部分7及び23と同一性を有する部分は、表現それ自体ではないか又は表現上の創作性がないものであって、被告記述部分7及び23から原告記述部分7及び23の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない。
 したがって、被告記述部分7及び23は、いずれも、原告記述部分7及び23を複製又は翻案したものとはいえない。
d 原告記述部分8ないし13と被告記述部分8ないし13について
(a)別紙2レジュメ対比表の番号8ないし13のとおり、原告ワークブックの当該部分と被告レジュメの当該部分とは、「あなたが言うには」、「何が達成されたか」(「会社全体」、「グループ」、「個人レベルでも」等)、「3つ」の答えを「書く」こと(番号8)、「経営」上「直面している」こと「に関してどんな問題点」等「があるか」、「最も重要と思われることを二つ」程度「書く」こと(番号9)、「経営」上「直面している」こと「に関してどんな問題点」等「があるか」、「他」の「部署」や「業者」「のせいで問題になっていることを一つ書<」(具体的に誰のせいかを記載する形で)こと(番号10)、「経営」上「直面している」こと「に関してどんな問題点」等「があるか」、「言えない問題」等「を一つ書く」こと(番号11)、「経営」上「直面している」こと「に関してどんな問題点」等「があるか」、「のひどい真実はなにか」(「会社全体」、「部署」等)を「一つ書く」こと(番号12)、「経営」上「直面している」こと「に関してどんな問題点」等があるか、「あなた自身のひどい真実はなにか」を書くこと(番号13)が記述されている点で共通しており、その部分において同一性がある。
 しかしながら、上記の同一性を有する部分は、会議の司会役を務める者が参加者に質問し、参加者がそれに回答する形式で、参加者に対し、会議の時点までに達成されている事項を確認させる、組織の経営上の問題点等について検討させる、その問題点等が誰のせいで生じていると考えているかを認識させる、その問題点等のうち話題にできないものや組織及び自分自身が抱える重大な欠点について明らかにさせるといったことを実現するという、会議の手法を説明したものである。そうすると、上記の部分は、いずれも、アイデアそのものが記述されたものであって、表現それ自体ではない部分について同一性が認められるにすぎないというべきである。
 仮に、原告記述部分8ないし13と被告記述部分8ないし13について、それぞれ、「あなたが言うには」等の鍵括弧を付した語句が共通であって、それらを含む表現部分が同一であるとしても、その表現部分は、いずれも、ごく短いものであって、かつ、おおむね平易でよく用いられる言葉を組み合わせて、質問の内容と回答の仕方を明確に記述したものにすぎないから、ありふれた表現というべきである。そうすると、上記の表現部分を原告会社に独占させることは相当ではないというべきであり、同部分に創作性を認めることはできない。
(b)原告会社は、原告記述部分8と被告記述部分8の同一性を有する部分には「あなたが言うには」という通常の会議で用いないであろう独特の言い回しが含まれており、同様の表現が用いられた資料や書籍は見当たらないなどとして、それらの同一性がある部分には表現上の創作性が認められると主張する。
 確かに、本件において、「あなたが言うには」という語句が一般的に口にされる言い回しであることの証拠は提出されていないが、ウェブページ(乙47)では、自らの意見を述べる際に有用な言葉として「私が言うには」という語句が紹介されていることからすれば、「あなたか言うには」という語句が独特な言い回しであるということはできない。また、記述のごく一部につき独特な語句が用いられていることから、直ちにその文全体が創作的な表現であると認めることもできない。すわなち、「あなたが言うには」という語句が、それ自体短い表現であり、それを含む原告記述部分8及び被告記述部分8もさほど長文ではなく、上記の語句以外の部分はありふれた言い回しであることなどからすれば、前記の著作権法の趣旨に照らし、その使用を原告会社に独占させることを許容すべきではない。そうすると、「あなたが言うには」という語句を含む上記の同一性を有する部分全体について、表現上の創作性を認めることはできないというべきである。
 また、原告会社は、原告記述部分11と被告記述部分11の同一性を有する部分に含まれる「言えない問題」という語句や、原告記述部分12及び13と被告記述部分12及び13に含まれる「ひどい真実」という語句が特徴的であるとして、これらの部分に表現上の創作性が認められると主張する。
 しかしながら、「言えない問題」や「ひどい真実」は、いずれも平易な形容詞と名詞とを組み合わせた語句にすぎず、その組合せも通常結びつかないようなものともいえないから、それらの語句を含んでいるからといって、上記の同一性を有する部分がありふれていないとはいえず、同部分について表現上の創作を肯定することはできないというべきである。
 したがって、原告会社の上記主張はいずれも採用することができない。
(c)以上によれば、被告記述部分8ないし13が原告記述部分8ないし13と同一性を有する部分は、表現それ自体ではないか又は表現上の創作性がないものであって、被告記述部分8ないし13から原告記述部分8ないし13の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない。
 したがって、被告記述部分8ないし13は、いずれも、原告記述部分8ないし13を複製又は翻案したものとはいえない。
e 原告記述部分14及び17と被告記述部分14及び17について
(a)別紙2レジュメ対比表の番号14のとおり、原告ワークブックの当該部分と被告レジュメの当該部分とは、下線を引いた空欄に数字や言葉を穴埋めする形式で、「_年_月_日までに」という期限、達成すべき指標及び最終的な目的を3行に分けて(ただし、その三つの順序は異なる。)記載するようになっている点で共通しており、その部分において同一性がある。
 また、別紙2レジュメ対比表の番号17のとおり、原告ワークブックの当該部分と被告レジュメの当該部分とは、文章を記入する枠が複数あり、中心の一つの枠を取り囲む形で他の枠が配置された図形が記載されているという点で共通しており、その部分において同一性がある。
 しかしながら、上記の同一性を有する部分は、いずれも、会議の参加者が空欄又は枠内に意見等を書き込むことで、その意見等を明確にしたり、各意見の関係を示すことで、参加者の考えを整理したりするという、会議の手法に係るアイデアそのものであって、表現それ自体ではない。
 仮に、上記の同一性を有する部分が表現であるとしても、原告記述部分14と被告記述部分14の当該部分については、空欄に数字や言葉を穴埋めする形式により質問に対して回答させることや、それを項目ごとに行を分けて記載することは、質問及び回答の表現として通常用いられるものであって、ありふれたものであることが明らかであるといえ、原告記述部分17と被告記述部分17の当該部分については、あらかじめ位置関係を定めた枠内に、会議の参加者の意見等を記載させるということは、その意見等を整理するための表現方法として、ありふれたものであるといえる(例えば、書籍(乙21)及びウェブページ(乙40、42)において、一つの枠及びそれを囲む形で記載された複数の枠の中に語句を記入するという記述が存在する。)。そうすると、上記の部分について表現上の創作性を肯定することはできない。
(b)原告会社は、原告記述部分14と被告記述部分14について、その同一性が認められる部分が表現であることを前提に、多様な表現の選択肢がある中で、3行で構成された穴埋め方式を採用したものであり、同様のフォーマットを表現したものは見当たらないとして、上記の部分に創作性があると主張する。
 確かに、上記の部分は、それが表現であるとした場合、会議において参加者が今後1年間の目標を立てる方法を表現するに当たり、一定程度選択の幅がある中から当該記述を選んだという点で、何らかの個性が表されていることを肯定する余地がある。
 しかしながら、その表現は、前記(a)のとおり、ありふれたものであって、そのような表現について原告会社に独占させることは、前記の著作権法の趣旨に照らし、許容することができないというべきである。
 したがって、上記の部分に表現上の創作性を認めることはできず、原告会社の上記主張は採用することができない。
(c)以上によれば、被告記述部分14及び17が原告記述部分14及び17と同一性を有する部分は、表現それ自体ではないか又は表現上の創作性がないものであって、被告記述部分14及び17から原告記述部分14及び17の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない。
 したがって、被告記述部分14及び17は、いずれも、原告記述部分14及び17を複製又は翻案したものとはいえない。
f 原告記述部分15、16及び21と被告記述部分15、16及び21について
(a)別紙2レジュメ対比表の番号15、16及び21のとおり、原告ワークブックの当該部分と被告レジュメの当該部分とは、会議において決まった目標に名前をつけること(番号15)、会議で決めた目標について約束すること(番号16)並びに「行動」、「期日」及び「成果」を書くこと(番号21)という点で共通しており、その部分において同一性がある。
 しかしながら、上記の同一性を有する部分は、会議で決めた目標に名前をつけ、その目標について約束し、「行動」、「期日」及び「成果」を記載するといった、会議の進め方に係るアイデアそのものが説明されたものである。そうすると、原告記述部分15、16及び21と被告記述部分15、16及び21とは、表現それ自体ではない部分に同一性が認められるにすぎないというべきである。
(b)原告会社は、原告記述部分15、16及び21と被告記述部分15、16及び21とが表現において同一性を有することを前提に、それらの文言を用いた例が他に存在しないことを指摘し、表現上の創作性が認められると主張する。
 しかしながら、仮に、原告記述部分15、16及び21と被告記述部分15、16及び21において、表現それ自体に同一性が認められるとしても、それは、「行動」、「期日」及び「成果」を書くこと(番号21)に限られるというべきである。そして、その部分は、ごく短いものであって、明らかにありふれたものであるから、表現上の創作性を有するものではない。
 したがって、原告会社の上記主張は採用することができない。
(c)以上によれば、被告記述部分15、16及び21が原告記述部分15、16及び21と同一性を有する部分は、表現それ自体ではないか又は表現上の創作性がないものであって、被告記述部分15、16及び21から原告記述部分15、16及び21の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない。
 したがって、被告記述部分15、16及び21は、いずれも、原告記述部分15、16及び21を複製又は翻案したものとはいえない。
g 原告記述部分18ないし20と被告記述部分18ないし20について
(a)別紙2レジュメ対比表の番号18ないし20のとおり、原告ワークブックの当該部分と被告レジュメの当該部分とは、会議において、発表された課題を同じカテゴリーごとにグルーピングすること(番号18)、「意思決定者が」「担当」を決定すること(番号19)及び「担当」が「マイルストーンを」作ること(番号20)という点で共通しており、その部分において同一性がある。
 しかしながら、上記の同一性が認められる部分は、いずれも、会議において、目標達成に向けた参加者各人の役割を明確化することを説明したものであり、会議の手法に係るアイデアそのものあるから、表現それ自体ではないというべきである。
 仮に、原告記述部分8ないし13と被告記述部分8ないし13において、「意思決定者が」等の鍵括弧を付した語句を含む表現部分が同一であるとしても、それらは、「意思決定者が」「担当」を決定する(番号19)、「担当」が「マイルストーンを」作る(番号20)といった、ごく短い一文であって、かつ、一般的な表現方法により記述されたありふれたものであることが明らかであって、表現上の創作性を認めることはできない。
(b)以上によれば、被告記述部分18ないし20が原告記述部分18ないし20と同一性を有する部分は、表現それ自体ではないか又は表現上の創作性がないものであって、被告記述部分18ないし20から原告記述部分18ないし20の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない。
 したがって、被告記述部分18ないし20は、いずれも、原告記述部分18ないし20を複製又は翻案したものとはいえない。
h 原告記述部分22及び24と被告記述部分22及び24について
(a)別紙2レジュメ対比表の番号22及び24のとおり、原告ワークブックの当該部分と被告レジュメの当該部分とは、会議において、「何」を「得た」かと問いかけること(番号22)及び「何がうまくいって」いるかと問いかけること(番号24)が共通しており、5その部分において同一性がある。
 しかしながら、上記の同一性が認められる部分は、いずれも、会議において、参加者にどのように問いかけるかという方法に関するアイデアそのものあって、表現それ自体ではないというべきである。
 仮に、上記の部分が表現であるとしても、それらは、いずれも一文のみからなる極めて短い記述である上、原告記述部分22は、会議のクロージングの場面に関する記載部分の小見出しを、すごい会議の参加者に対する問いかけの形を用いて記述したものであり、原告記述部分24は、会議の進捗を確認するために司会者が行う問いかけを箇条書きの形で記述したものの一つであって、いずれについても、詳細な内容を相当の分量を用いて表現することは想定されず、ポイントを端的に記述することが求められる性質の表現であるから、かかる表現の性質上、その表現形式に著しい制約があり、同部分に作成者である原告Aらの個性が表れているとは認められない。したがって、著作物として保護する必要性は認めることができない。
 しかも、上記の部分の表現は、上記のとおり極めて短い一文であり、かつ、一般的な言い回しであって、ありふれたものであることは明らかであるから、同表現に創作性を肯定して保護を与えることは許容するべきではない。
 よって、上記の部分に表現上の創作性を認めることはできない。
(b)原告会社は、原告記述部分22及び24と被告記述部分22及び24の同一性がある部分は、会議手法としてありふれた表現ではなく、創作性が認められると主張する。
 しかしながら、前記(a)のとおり、上記の部分には、著作物として保護をする必要があると認めるに足りる程度の個性の表れはないから、当該表現がありふれているかどうかにかかわらず、同部分に創作性を認めることはできないというべきである。また、仮に、ありふれていないといえるとすれば、それは、会議において得たものやうまくいっているものを確認すべきであるという、会議手法に係るノウハウとしてであって、それはアイデアそのものである。原告会社の上記主張は、アイデアを表現であると無理に言い換えているものにすぎないといわざるを得ない。
 したがって、原告会社の上記主張は採用することができない。
(c)以上によれば、被告記述部分22及び24が原告記述部分22及び24と同一性を有する部分は、表現それ自体ではないか又は表現上の創作性がないものであって、被告記述部分22及び24から原告記述部分22及び24の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない。
 したがって、被告記述部分22及び24は、いずれも、原告記述部分22及び24を複製又は翻案したものとはいえない。
(イ)原告ワークブック全体の構成と被告レジュメ全体の構成について
a 別紙2レジュメ対比表のとおり、原告ワークブック全体の構成と被告レジュメ全体の構成とは、@会議の約束事と目的の確認(番号1ないし6)、A手に入れたい成果の確認(番号7)、B今日までに達成されたことの確認(番号8)、C問題や懸念の洗い出し(番号9ないし13)、D戦略的フォーカス作成(目標設定)(番号14ないし16)、E役割の明確化(目標達成のための道のり、担当と責任の明確化)(番号17ないし19)、Fアクションプラン(コミットメント)の策定(番号20ないし22)、G問題解決(番号23及び24)という項目が選択され、それらの項目がおおむね同じ順序で配列されているという点で共通し、その部分において同一性があるということができる。
 しかしながら、上記の同一性が認められる部分は、会議において、どのような項目を、どのような順序で行うかというアイデアそのものあって、表現それ自体ではないというべきである。
b 原告会社は、原告ワークブック全体の構成と被告レジュメ全体の構成の同一性が認められる部分が表現であることを前提に、その部分は、統一的なテーマの下に、多様な内容を、要領よく取捨選択し、配列し、分かりやすい表現、印象に残る表現を選択するなど、多くの点で表現上の創意工夫がなされており、そのワークブックないしレジュメに基づき会議の進行役を務めることができるように、表現方式に関して多様な選択肢がある中で、抽象的なノウハウを創意工夫をして表現したものであるから、独自性があり、個性が発揮されていることから、創作的な表現であると主張する。
 しかしながら、前記aのとおり、上記原告ワークブック全体の構成は、アイデアそのものであって表現とは認められないから、原告会社の上記主張は、前提を誤るものといわざるを得ない。仮に、会議でなすべき項目の選択及び配列が表現であるといえるとした上で検討すると、確かに、上記の同一性が認められる部分に係るノウハウを表現するに当たって、どのように組み合わせ、どのような表現順序とするかなどについては、選択の幅が認められないわけではなく、その幅の中から選択がされることで、何らかの個性が表れているといえるから、その表現を保護する必要性を一定程度肯定することはできる。
 しかしながら、会議の進め方は無制限ではなく、性質上おのずから一定の制限があり、会議において、まず、約束事及び目的、得たい成果、既に達成されていることを確認し(上記@ないしB)、問題点等を洗い出した上で(上記C)、それに基づき、目標を設定し、役割を明確化して、アクションプランを策定して(上記DないしF)、それらによって、どのように問題の解決がされるべきかを検討する(上記G)というのは、会議を進行させる手法の表現として、ありふれているといわざるを得ず、そのような手法の表現を原告会社に独占させるのは相当ではなく、他の者の使用を禁ずることは許容されるべきではない。そうすると、上記の部分に表現上の創作性を認めることはできないというべきである。
 したがって、原告会社の上記主張は採用することができない。
c 以上によれば、原告ワークブック全体の構成と被告レジュメ全体の構成の同一性を有する部分は、表現それ自体ではないか又は表現上の創作性がないものであって、被告レジュメ全体の構成から原告ワークブック全体の構成の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない。
 したがって、被告レジュメ全体の構成は、原告ワークブック全体の構成を複製又は翻案したものとはいえない。
ウ 小括
 以上の次第で、被告らによる被告レジュメの作成等は、原告会社の原告ワークブックについての複製権及び翻案権を侵害するものとはいえない。
 したがって、その余の点について検討するまでもなく、原告ワークブックに係る著作権侵害に基づく原告会社の請求はいずれも理由がない。
(2)争点1−2(原告ワークブックに係る著作者人格権侵害の成否)について
 原告Aは、被告らが、原告Aの氏名を表示することなく、各被告記述部分を記載した被告レジュメを作成するなどした行為は、原告Aの氏名表示権及び同一性保持権の侵害に当たると主張する。
 しかしながら、前記(1)で説示したとおり、そもそも、被告らが原告記述部分及び原告ワークブック全体の構成を複製又は翻案したものであるとは認められず、氏名表示権及び同一性保持権の侵害をいう原告Aの上記主張は、その前提を欠くものである。
 以上によれば、その余の点について検討するまでもなく、原告ワークブックに係る著作者人格権侵害に基づく原告Aの請求はいずれも理由がない。
2 争点2(原告キャッチコピーに関する著作権侵害の有無)について
(1)争点2−1(原告キャッチコピーの著作物性)について
ア 原告キャッチコピーの著作物性のうち、特に表現上の創作性に係る判断に関しては、前記1(1)アで説示したのと同様の判断枠組みによるのが相当であるから、以下、これに基づき、原告キャッチコピーの創作性について検討する。
イ(ア)前記前提事実(2)ウのとおり、原告キャッチコピーは、すごい会議の宣伝広告文言であるから、顧客の印象に残り、記憶されやすいよう、短く端的な表現が求められ、かつ、宣伝の効果がある用語を選択することが求められる。しかるところ、上記のように非常に限られた分量の表現の中で、キャッチコピーという広告媒体を用いて、上記のような用語を用いるなどして効果的にすごい会議の宣伝をしようとすれば、表現内容の点からしても選択の幅にはおのずから限りがある。
 実際に、原告キャッチコピー(「会議が変わる。会社が変わる。」)は、句点を除き、わずか6文字からなる二つの文のみを組み合わせて表現されており、その長さ自体からして、他の表現を選択する余地は小さく、また、「会議」、「会社」及び「変わる」という、すごい会議を端的に宣伝する用語のみが用いられていることからも、表現の選択の幅が狭いものというべきである。
 以上のように、原告キャッチコピーは、その分量の面と表現内容の面の両面から見て、表現の選択の幅が極めて小さいため、作成者の個性が表れる余地がごく限られているものというべきである。
 なお、原告キャッチコピーは、第1文の「議」と第2文の「社」の部分を除き、同じ表現の文章を2回繰り返すという構成をとるものであり、全体としてリズミカルな語感を与えるものではあるが、このような構成を採用すること自体は、アイデアにすぎないというべきであり、直ちに表現の創作性を基礎づけるものではない。
(イ)証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば、平成15年6月に「会議が変われば、会社が変わる!」という文言を含む題名の書籍が刊行されたことが認められるところ、前記前提事実(1)アのとおり、すごい会議社の設立年月日が同年12月9日であること、同(2)ウのとおり、原告キャッチコピーの作成者がすごい会議社であることに照らすと、原告キャッチコピーが作成された時点において、原告キャッチコピーと同様の表現が既に用いられていたといえる。また、その他にも、「会議が変われば、仕事が変わる」と題する記事(乙2)、「習慣を変えれば会議が変わる。会議が変われば会社が変わる?」と題する記事(乙3)、「会議が変われば会社が変わる!〜会議の質向上の秘訣」と題する記事(乙4)がインターネット上に掲載されており、これらは、すごい会議社の設立前に存在したとは認められないものの、原告キャッチコピーと同様の表現が用いられていることを示す事情といえる。
 なお、原告会社は、上記の書籍(乙1)及び記事(乙4)について、原告キャッチコピーの翻案権を侵害するものであると主張するものの、それらが原告キャッチコピーに依拠したものであることを認めるに足りる証拠はないから、その主張を採用することはできない。
 そうすると、原告キャッチコピーはありふれた表現であるというべきである。
(ウ)以上を総合すれば、原告キャッチコピーは、その表現の選択の幅が極めて狭いため、作成者であるすごい会議社の個性が表れているとは認め難く、仮に、それが認められるとしても、ありふれた表現であることから、創作性を認めることはできない。
ウ したがって、原告キャッチコピーは、「思想又は感情を創作的に表現」したものとはいえないから、「著作物」であるとは認められない。
(2)小括
 以上の次第で、その余の点について検討するまでもなく、原告キャッチコピーに係る著作権侵害に基づく原告会社の請求は理由がない。
3 争点3(本件各ノウハウに関する不正競争の成否)について
(1)争点3−1(本件各ノウハウの営業秘密該当性)について
ア 秘密管理性について
 本件各ノウハウが「営業秘密」として保護されるためには、これが原告会社において「秘密として管理されている」必要がある(不競法2条6項)。
 そこで検討すると、前記前提事実(2)イのとおり、本件各ノウハウは、すごい会議のコーチングの手法である会議の手順をパッケージ化し、会議の各手順で参加者が行うべき作法を細かく定めた「型」と呼ばれる会議手法の一部であり、原告会社は、こうした「型」を指導し、身に付けさせることを内容とするコンサルティングサービスを顧客に提供している。そうすると、本件各ノウハウは、原告会社が顧客に提供する商品そのものというべきものであって、原告会社の上記サービスに係る顧客であれば、何人でも接することができる性質の情報である。しかも、本件各ノウハウは、会議の進め方に関するノウハウであるから、その性質上、原告会社の担当者、原告会社から業務委託を受けたマネジメントマネジャー及びすごい会議についての指導を直接受けた者のみならず、原告会社によるコンサルティングサービスの提供を受けた顧客が実施する会議に参加する者に対し、広く使用されることが当然の前提とされる情報である。そうすると、本件各ノウハウは、不特定多数の者が接することが可能であり、かつ、接することが予定された性質の情報であるといえる。
 しかるに、本件全証拠によっても、原告会社と顧客等との間に秘密保持契約を締結するなど、原告会社において、本件各ノウハウにアクセスすることができる者の範囲やアクセスの方法を制限する措置を講じているといった事実は認められない。
 加えて、原告ワークブックは、本件各ノウハウを記載した媒体の一つであるところ、前記前提事実(3)のとおり、そもそも、原告ワークブックは、社外のマネジメントコーチがいなくても、すごい会議を導入した会社の従業員だけで、すごい会議を進行できるようにするという目的で作成されたものであるから、会議に参加する従業員に広く共有されることが前提とされたものといえる。そして、原告ワークブックにおいて、そこに記載されたノウハウが秘密として管理されていることを示す記載は見当たらない。かえって、原告ワークブックの奥付や裏表紙には、「一部引用して御社内で資料を作成されたい場合は、我々は喜んで御社とライセンス契約を結ぶ意志があります。(目安:10ページ以内の引用100部で10万円程度)」、「本書のオーダーは以下の「すごい会議」代理店にご発注ください。」、「皆さんへのお願い「この本あいつに使わせてあげたい!」というアイツがいましたらぜひ薦めていただければ、僕たちはすごく嬉しいです!」などと記載されており(甲1)、このような記載からは、原告AやCはもとより、原告会社においても、原告ワークブックに記載された本件各ノウハウが広く市場に流通することを強く期待していることがうかがわれる。以上のような原告ワークブックの作成目的や記載に加え、上記の本件各ノウハウの情報としての性質を考慮すれば、原告ワークブックに接した第三者において、本件各ノウハウが秘密として管理されていると認識することはできないというべきである。
 以上によれば、本件各ノウハウが原告会社において「秘密として管理されている」とは認められない。
イ 非公知性について
(ア)証拠(甲1、乙5ないし7、10ないし12、51)によれば、本件各ノウハウに関する公刊物やウェブページ上の記載について、以下の事実が認められる。
a 本件ノウハウ1ないし16と同一又は同旨の内容が、原告書籍1(乙5)及び原告書籍2(乙6)の一方又は双方に記載されている。
b 本件ノウハウ17と同一の内容が、すごい会議社付録(乙7)に記載されている。
c 本件ノウハウ18と同一の内容が、原告書籍4(乙51)に記載されている。
d 本件ノウハウ19と同一の内容が、すごい会議社付録(乙7)に記載されている。
e 本件ノウハウ20ないし23と同一又は同旨の内容が、原告書籍3(乙10)に記載されている。
f 本件ノウハウ24と同旨の内容が、第三者記事2(乙11)及びすごい会議社記事(乙12)に記載されている。
(イ)前記(ア)の事実認定に対し、原告会社は、本件ノウハウ20及び24については、被告らが指摘する書籍やウェブページには、同一の内容の記載が存在しないと主張する。
 しかしながら、本件ノウハウ20と原告書籍3とでは、他者の助けが必要な場合、他者に参加させるかどうかについて異なる表現が用いられているものの、いずれも、自己の課題に他者の助力が必要な時には適切に助力を求め、かつ、他者が当該要請を断ることを容認することを内容とする点で一致しており、実質的には同一の情報であるというべきである。
 また、本件ノウハウ24は、会議の他の参加者が発言した後に「ヨッ」と掛け声を発することで、会議の雰囲気をよくするというノウハウであるとされる。そして、第三者記事2(乙11)においては、「例えば」として、「良い意見があれば、「よっ!」と反応を示す」との記載があり、すごい会議社記事(乙12)においては、「導入後は、明るい!「どのようにすれば」とか「ヨッ!」とか、そこらじゅうで飛び交っています。」との記載がある。これらを併せて読めば、会議において、発言内容の良し悪しにかかわらず、他の者の発言後に「ヨッ」と掛け声を発することが実質的に記載されているものと理解できるから、本件ノウハウ24の情報が上記各記事によって明らかにされているというべきである。
 したがって、原告会社の上記主張はいずれも採用することができない。
(ウ)前記前提事実(4)アによれば、原告Aが作成した書籍のうち、最も古い原告書籍4は、平成17年6月10日に発行され、最も新しい原告書籍2であっても、平成26年3月30日に発行されており、いずれについても、相当程度の期間、市場において流通していたと認められる。
 また、前記前提事実(4)イ及びウによれば、すごい会議社は、平成22年にすごい会議社付録を、平成23年12月2日にすごい会議社記事を、それぞれ公開等しており、いずれについても、相当程度の期間、公開等されていたと認められるほか、Fは、平成30年1月21日に、すごい会議に関する記事(第三者記事2)を公開している。
 そうすると、以上の書籍、資料及びウェブページに記載された本件各ノウハウに係る情報は、遅くとも本件投稿動画1の作成時期である平成27年5月頃(本件ノウハウ3に係る別紙3ノウハウ対比表の「被告ノウハウ」の「時期」欄記載の時期)の時点において、公知となっていたと認めるのが相当である。
 以上によれば、本件各ノウハウが、「公然と知られてないもの」であるとは認められない。
ウ 原告会社の主張について
(ア)原告会社は、@すごい会議社及び原告会社が、本件各ノウハウを限られたライセンシー及びマネジメントコーチにしか開示しておらず、ライセンス契約によってライセンシーに守秘義務を課していること、A原告会社が、マネジメントコーチに対し、「全ての会議内容は厳格に秘密扱いといたします。必要に応じて、クライアント様の間で、秘密保持契約を交わすことも可能です。」との条項を含む本件合意書を取り交わすよう指導しており、顧客から、本件各ノウハウを含む全ての会議の内容を厳格に秘密扱いにすることの約束を取り付けていることを根拠として、本件各ノウハウは、「秘密として管理されて」おり、かつ、「公然と知られていないもの」であると主張する。
 しかしながら、上記@の主張については、すごい会議社が被告Bとの間で取り交わした「すごい会議ライセンシング契約書」(甲14)において、「乙(被告B)または甲(すごい会議社)が本契約を履行する上で、知るにいたった秘密情報を、乙及び甲は、秘密情報の開示者の了解なしに第三者に開示することはできない。」などとする条項はあるものの(18条)、具体的にいかなる情報が「秘密情報」に該当するかについての記載は見当たらない。そうすると、上記契約書の存在は、すごい会議社や原告会社がマネジメントコーチに対して本件各ノウハウを秘密と扱うよう求めていたことの根拠にはなり得ないというべきである。
 また、上記Aの主張については、「費用と条件に関する合意書」(甲18)においては、原告会社が指摘するとおりの条項が含まれるものの、本件各ノウハウが秘密として管理されていることを具体的に指摘する内容の記載は見当たらない。かえって、原告会社が指摘する上記条項は、「会議内容」を秘密扱いとすること及び「秘密保持契約を交わすことも可能」であることという記載に照らし、すごい会議を指導するマネジメントコーチが顧客側の情報を秘密として扱うことを約するものであると解釈するのが自然である。そうすると、上記合意書の存在は、原告会社がマネジメントコーチを通じて顧客に対し本件各ノウハウを秘密と扱うよう求めていたことの根拠にはなり得ないというべきである。
 したがって、原告会社の上記主張は、根拠を欠くものであって、採用することができない。
(イ)原告会社は、原告書籍1(乙5)及び原告書籍2(乙6)を回収する作業を進めるとともに、それらを増刷していないこと、すごい会議社付録(乙7)については、掲載元に記事の削除を要請していることを根拠として、本件各ノウハウは「公然と知られていないもの」であると主張する。
 しかしながら、前記前提事実(4)ア(ア)及び(イ)のとおり、原告書籍1は平成25年2月28日に、原告書籍2は平成26年3月30日に、それぞれ発行されているところ、それらの書籍のうち実際に回収した冊数や回収時期を認めるに足りる証拠はない。
 また、前記前提事実(4)イのとおり、すごい会議社付録は、遅くとも令和元年10月18日の時点において、朝日新聞出版のウェブサイト上で公開された状態にあり、同ウェブサイトにアクセスする者が閲覧できる状態に置かれていたものである。このように、原告書籍1、原告書籍2及びすごい会議社付録が、相当程度の期間にわたり、不特定又は多数の者によるアクセスが可能な状態に置かれていた以上、原告会社が上記の書籍や資料を回収したり、増刷しないことを決定したりした時点において、それらに記載された情報が公知となっていたことは明らかである。
 そして、原告会社がその後に上記の書籍等を回収するなどの措置を講じたとしても、いったん公知となった上記の情報が直ちに非公知の状態に復することにはならないというべきである。
 したがって、原告会社の上記主張は採用することができない。
(2)小括
 以上の次第で、本件各ノウハウは、「秘密として管理されている」ものとも、「公然と知られていないもの」とも認められないから、「営業秘密」(不競法2条6項)に該当しないというべきである。
 したがって、その余の点について検討するまでもなく、本件各ノウハウに係る不正競争に基づく原告会社の請求はいずれも理由がない。
4 結論
 以上によれば、原告らの請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 國分隆文
 裁判官 小川暁
 裁判官 佐々木亮


別紙一覧
(別紙1被告レジュメ目録は省略)
別紙2 レジュメ対比表
別紙3 ノウハウ対比表
(別紙4投稿動画目録は省略)
別紙5 原告ワークブックに関する主張対比表
別紙6 本件ノウハウに関する主張対比表
 以上
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