判例全文 line
line
【事件名】ソネットへの発信者情報開示請求事件G
【年月日】令和3年3月26日
 東京地裁 令和2年(ワ)第33289号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和3年3月11日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 大熊裕司
同 島川知子
被告 ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社
同訴訟代理人弁護士 増渕勇一郎
同 原悠弥


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
 本件は、原告が、被告に対し、原告の著作物である写真が被告の提供するプロバイダを経由してインターネット上のウェブサイトに投稿されたことによって、原告の著作権(複製権、公衆送信権)が侵害されたところ、損害賠償請求権の行使のために必要であると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律4条1項所定の発信者情報開示請求権に基づき、上記の権利侵害に係る発信者情報である別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件各情報」という。)の開示を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実及び証拠上容易に認められる事実。証拠は文末に括弧で付記した。なお、書証は特記しない限り枝番を全て含む。以下同じ。)
(1)当事者
 原告は、昭和62年生まれの女性である。(甲1)
 被告は、電気通信事業等を目的とする株式会社である。(争いがない)
(2)投稿記事の存在等
ア 令和2年10月5日午後1時30分頃、有限会社YDC(以下「YDC」という。)が開設したインターネット上のウェブサイトである「ホストラブ」(以下「本件掲示板」という。)に、別紙画像目録記載の画像(以下「本件画像」という。)が添付されて、別紙投稿記事目録記載の投稿(以下「本件投稿」という。)がされた。(甲3)
イ 原告は、YDCから、本件投稿に係るアイ・ピー・アドレスとして、別紙投稿記事目録記載のアイ・ピー・アドレス(以下「本件IPアドレス」という。)の開示を受けた。(甲4、5)
 被告は、令和2年10月5日午後1時30分頃に本件IPアドレスを割り当てられた特定電気通信設備を用いており、被告から同時刻に同特定電気通信設備を特定電気通信の用に供された者の氏名又は名称、住所、電話番号、電子メールアドレス(本件各情報)を保有している。(甲6、7、弁論の全趣旨)
2 争点及び争点に関する当事者の主張
 本件の争点は、
@ 本件投稿によって原告の著作権が侵害されたことが明らかといえるか。
A 本件各情報が原告の損害賠償請求権の行使のために必要である場合であるか。
 である。
(1)争点@(本件投稿によって原告の著作権が侵害されたことが明らかといえるか。)について
(原告の主張)
 本件投稿によって、原告の著作権(複製権、公衆送信権)が侵害されたことが明らかである。
 すなわち、原告は、原告自身を被撮影者として撮影した写真をインスタグラムに投稿したところ、本件投稿は、原告に無断で、原告が著作権を有する上記写真を複製し、本件掲示板に投稿して送信可能化するものである。
 上記写真には、被写体の選択、組合せ、配置等の諸要素に照らし、個性、独自性が表れており、創作性が認められる。
(被告の主張)
 原告主張に係る前記写真には創作性は認められない。前記写真は、原告が自身を撮影したものであり、自撮り写真の特性からカメラアングルや構図はカメラの機械的作用に依存し他と同様なものとなることに加え、背景や照明による光の印影等に工夫が凝らされているともいえず、撮影者の個性や創作性が表れているとはいえない。
(2)争点A(本件各情報が原告の損害賠償請求権の行使のために必要である場合であるか。)について
(原告の主張)
 本件各情報は原告の損害賠償請求権の行使のために必要である。
(被告の主張)
 否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
 前提事実、証拠(甲10)及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。
(1)原告は、令和2年10月5日、友人がアパレルブランドを立ち上げたことを祝う趣旨で、自宅において、スマートフォンのカメラを用いて、同ブランドの洋服を着用した自身の写真(以下「本件写真」という。)を撮影して、本件写真をインスタグラムというインターネット上の投稿サイトに投稿した。
(甲9)
 原告は、第三者に本件写真の利用を許諾したことはない。
(2)令和2年10月5日午後1時30分頃、本件掲示板に、本件写真を複製して作成された本件画像が添付されて本件投稿がされ、これにより、本件写真が複製され、送信可能化された。(甲8)
2 争点@(本件投稿によって原告の著作権が侵害されたことが明らかといえるか。)について
 本件写真は、原告がスマートフォンのカメラにより自身を撮影したものであるが、原告は、友人がアパレルブランドを立ち上げたことを祝う趣旨で、同ブランドの洋服を着用して撮影しインスタグラムに投稿したものであり(前記1(1))、本件写真は、原告自身及び上記洋服が際立って見えるよう工夫され、構図、カメラアングルの設定、シャッターチャンスの捕捉等において原告の思想等を創作的に表現したものであると認められるから、著作物に該当し、原告がその著作権を有すると認められる。
 本件投稿により、本件写真が複製され送信可能化されたものである(同(2))ところ、原告は、第三者に本件写真の利用を許諾したことはなく(同(1))、また、上記の複製及び送信可能化について、著作権法上の権利制限事由、その他不法行為の成立を妨げる事由の存在は認められない。
 したがって、本件投稿によって原告の本件写真の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたことが明らかであると認められる。
3 争点A(本件各情報が原告の損害賠償請求権の行使のために必要である場合であるか。)について
 本件は、本件各情報が原告の損害賠償請求権の行使のために必要である場合であると認められる。
第4 結論
 以上によれば、原告の請求は理由があるから、これを認容すべきである。
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 柴田義明
 裁判官 佐伯良子
 裁判官 棚井啓


別紙 発信者情報目録
 別紙投稿記事目録記載のアイ・ピー・アドレスを同目録記載の投稿日時に被告から割り当てられていた契約者に関する以下の情報
 1 氏名又は名称
 2 住所
 3 電話番号
 4 電子メールアドレス
 以上

(別紙 投稿記事目録 省略)
(別紙 画像目録 省略)
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/