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【事件名】ジェイコム千葉への発信者情報開示請求事件
【年月日】令和3年3月26日
 東京地裁 令和2年(ワ)第15010号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和3年2月26日)

判決
原告 株式会社MONOLITH Japan
同訴訟代理人弁護士 小出一郎
同 加藤伸樹
同訴訟復代理人弁護士 三木隼輝
被告 株式会社ジェイコム千葉
同訴訟代理人弁護士 村島俊宏
同 穂積伸一
同 谷口悠樹
同 藤平真吾
同 荒木泉子
同 工藤友良
同 増原陽子


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
 本件は、原告が、氏名不詳者がインターネット上のウェブサイトに別紙投稿記事目録記載の各記事(以下「本件各記事」という。)を掲載し、原告の著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害したことが明らかであるなどと主張して、経由プロバイダである被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき、上記著作権の侵害に係る発信者情報である別紙発信者情報目録記載の各情報の開示を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがないか、掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)
(1)当事者
ア 原告は、学習塾等の経営、インターネットによる情報サービス業等を業とする株式会社である(甲1)。
イ 被告は、放送法に基づく一般放送事業及び電気通信事業法に基づく電気通信事業等を業とする株式会社である(争いのない事実)。
(2)本件各記事の投稿
ア 本件各記事の投稿者(以下「本件投稿者」という。)は、被告が訴外株式会社ジュピターテレコムのサービスを利用して提供するインターネット接続サービスを用いて、別紙投稿記事目録の各「投稿日時(タイムスタンプ)」欄記載の日時に、本件各記事を訴外LINE株式会社の管理・運営する「LivedoorBlog」内に開設したウェブサイト(以下「本件ブログ」という。)に投稿した。本件各記事が本件ブログに投稿された際に割り当てられていた各IPアドレスは、別紙投稿記事目録の各「IPアドレス」欄記載のとおりである。(争いのない事実、甲3ないし5)
イ 被告は、本件各記事の投稿に係る別紙発信者情報目録記載の各情報を保有している(争いのない事実、弁論の全趣旨)。
2 争点
(1)原告の著作権が侵害されたことが明らかであるといえるか否か
(2)開示を受けるべき正当な理由の有無
3 争点に対する当事者の主張
(1)争点(1)(原告の著作権侵害の有無)について
【原告の主張】
ア 原告が著作権を有すること
 原告は、株式会社Suneight(以下「S社」という。)との間で、平成31年2月7日、映像制作業務委託契約を締結し、S社は、同契約に基づき、「令和の虎」と題する動画5本(甲17。以下「本件各動画」という。)を制作し、本件各動画の著作権を原告に譲渡しており、原告は、本件各動画の著作権を有する。
イ 本件各記事が原告の著作権を侵害すること本件投稿者は、本件各動画のスクリーンショットを本件各記事内に貼り付けており、本件各記事は、原告の本件各動画に対する著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害することは明らかである。
ウ 違法性阻却事由等が存在しないこと
 被告は、本件各記事は、本件各動画を紹介したものであり、「引用」(著作権法32条1項)に該当し、著作権侵害に当たらないと主張する。しかし、適法な「引用」というためには、引用して利用する側の著作物と引用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ、かつ、前者が主、後者が従であることを要するところ、本件各記事は、大部分が本件各動画からの引用であって、著作物の表現の態様等からみて「公正な慣行に合致」するとも、「引用の目的上正当な範囲内で」行われたものともいえず、「引用」に当たらない。そして、その他に違法性阻却事由等の存在をうかがわせる事情は存在しない。
エ 権利濫用等には当たらないこと
 被告は、本件各動画が二次的著作物であることを前提に、原告が単独で権利行使することは認められず、また、権利濫用であるなどと主張する。しかし、被告は、本件各動画の原著作物を何ら特定していない上に、本件各動画は、被告が指摘する「マネーの虎」と類似のアイデアは見られるものの、表現上の本質的な特徴が同一とはいえず、二次的著作物には当たらない。被告の主張は失当である。
【被告の主張】
ア 著作権侵害が明らかではないこと
 原告が本件各動画の著作権を有しているか明らかではない。
 また、本件各動画は「マネーの虎」というテレビ番組の模倣であるとの指摘もあり、仮に、本件各動画が「マネーの虎」を原著作物として無許諾で創作された二次的著作物であるとすれば、たとえ原告が本件各動画の著作権を有していたとしても、原告が権利行使するには原著作権者との合意が必要である。さらに、仮に、原著作権者との合意が得られたとしても、本件各動画自体が原著作権者の承諾を得ずに創作された二次的著作物であるにもかかわらず、原告が本件各動画の著作権侵害を理由として本件各記事の発信者情報開示請求を行うことは、クリーンハンズの原則に悖るものであり、権利の濫用に当たる。
 したがって、本件各記事により原告の著作権が侵害されたことが明白であるとはいえず、また、仮に原告が本件各動画の著作権を有していたとしても、原告単独では権利行使できないか、又は権利濫用になる可能性があり、原告の被告に対する発信者情報開示請求は認められない。
イ 著作権侵害等の成立を阻却する事由が存在しないとはいえないこと
(ア)他人の作品を紹介する目的は、著作権法32条1項に定める引用の目-5-的の一つとして適法であることに加え、本件各記事の末尾には本件各動画の内容を踏まえた発信者独自の意見が記載されていることからすれば、本件各記事による本件各動画の引用は、「公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で」行われたものといえる可能性がある。また、本件投稿者からは、本件各動画の内容を紹介することで原告に実質的な損害が発生することも想定し難いとの回答を得ている。
 したがって、本件各記事が本件各動画の複製及び公衆送信を行っていたとしても、本件各記事について引用が成立しないとはいえず、著作権侵害の成立を阻却する事由の存在をうかがわせるような事情が存在しないとはいえない。
(イ)また、「埋め込み」方式により第三者が本件各動画を利用することについては、YouTubeの利用規約に基づき原告の利用許諾がなされているところ、本件各記事が「埋め込み」方式を利用していないとの事実を確認することはできないから、本件各記事は、原告による利用許諾の範囲内で本件各動画を利用したものにすぎない可能性があり、著作権侵害等の成立を阻却する事由の存在をうかがわせるような事情が存在しないとはいえない。
(2)争点(2)(開示を受けるべき正当な理由の有無)
【原告の主張】
 原告は、本件投稿者に対し、著作権侵害に基づく損害賠償請求及び差止請求を行う予定であるが、この権利の行使のためには被告が保有する別紙発信者情報目録記載の発信者情報の開示を受ける必要があり、「開示を受けるべき正当な理由」がある。
【被告の主張】
 原告代表者は、YouTube上にアップロードしている動画において、本件各記事の発信者を見つけ出して殴ってやりたいという趣旨の発言をしており、原告は、発信者情報を利用して損害賠償請求や差止請求をするのではなく、本件投稿者に対して何らかの私的制裁を加える可能性を否定できない。したがって、原告から本件投稿者に対して自力救済等が行われる可能性を否定できない以上、原告に発信者情報の開示を受ける正当な理由があるとはいえない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(原告の著作権侵害の有無)について
(1)本件各動画の著作権者について
 本件各動画はその内容(甲17、23(枝番号を付したものは各枝番号を含む。以下同じ。))に照らして著作物といえる。そして、証拠(甲14、16、17、20)及び弁論の全趣旨によれば、@原告は、平成31年2月7日、S社との間で映像制作業務委託契約を締結し、S社が原告の発注に基づ
いて映像を制作し、当該映像の著作権は原告からの制作代金の支払完了時にS社から原告に譲渡されることなどが合意されたこと、AS社は、その後、「令和の虎#54」、「令和の虎#44」、「令和の虎#43」、「令和の虎#42」、「令和の虎#41」と題する5本の動画(本件各動画)を制作し、原告は、その制作代金を支払い、本件各動画の著作権の譲渡を受けたことを認めることができる。
 以上によれば、原告は、本件各動画の著作権者であると認められる。
(2)本件各記事による著作権侵害について
 証拠(甲8、9、17、23)及び弁論の全趣旨によれば、本件各動画は約45分前後の作品であり、本件各記事には、本件各動画の特定の場面のスクリーンショットである静止画を本件各動画の時系列に沿って約30枚から60枚程度張り付けられていることが認められる。これらの事実からすれば、本件各記事を投稿することは、原告が本件各動画について有する著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害するものといえる。
(3)違法性阻却事由等について
ア 被告は、本件各記事が本件各動画の紹介であり、引用に当たると主張することから以下検討する。
 他人の著作物は、批評、研究等の目的で引用して利用することができるが、この場合において、その利用の方法や態様は、批評等の引用目的との関係で、正当な範囲内のものであり、かつ、引用して利用することが公正な慣行に合致することが必要である(著作権法32条1項)。
 証拠(甲8)によれば、本件各記事は、1記事当たり約30枚から60枚程度の本件各動画のスクリーンショットの静止画が当該動画の時系列に沿ってそれぞれ貼り付けられ、静止画の間に、それらの静止画に対応等する本件各動画の内容を簡単に記載し、最後に、本件各動画の閲覧者のコメントの抜粋等や本件投稿者の「感想」がそれぞれ記載されたものである。本件各記事の最後に記載された本件投稿者の「感想」は、3つの記事について十数行であり、(別紙投稿目録記載1、2及び5の各記事。行数は書証として提出されたものによる。以下、同じ。)、2つの記事について、感想を述べるなどした他人のツイッターの静止画を間にはさんで二十数行であり(同目録記載3及び4の各記事)、いずれも本件各動画について概括的な感想といえるものである。
 これらに照らせば、本件各記事には、本件各動画の内容を紹介する面やそれを批評する面がないわけではない。しかしながら、本件各記事において、本件各動画のスクリーンショットの静止画は、1記事当たり相当な枚数であり、量的に本件記事において最も多くを占めるといえるのに対し、投稿者の感想は相当に短い。また、本件各記事の最後に記載された投稿者の感想の内容に照らしても、それらの静止画の枚数は、感想を述べるために必要な枚数を大きく超えるといえるものである。
 以上によれば、本件各記事における本件各動画のスクリーンショット静-8-止画の掲載は、仮に引用ということができたとしても、引用の目的との関係で正当な範囲内のものとはいえない。したがって、本件各記事による本件各動画のスクリーンショットの掲載について、著作権法32条1項により適法となることはない。
イ 被告は、本件各記事が本件各動画をいわゆる「埋め込み」方式により利用していない事実を確認することができないことから、本件各記事は、YouTubeの利用規約に基づく原告の利用許諾の範囲内で利用されているに過ぎない可能性があり、原告の権利が侵害されたことが明らかであるとはいえないなどと主張する。
 しかしながら、証拠(甲8、19、25)及び弁論の全趣旨によれば、本件各記事において表示される静止画は、当該静止画のファイルを利用して表示されているものであり、いわゆる「埋め込み」方式により本件各動画を利用したものではないと認められる。被告の前記主張はその前提を欠くものであり、採用できない。
ウ 被告は、本件各動画が「マネーの虎」という番組の二次的著作物であることを前提に、原告が本件各記事の発信者情報開示請求を行うことが許されないなどと主張する。
 しかしながら、被告は、本件各動画の原著作物を具体的に明らかにしていない。本件各動画は、投資を求める者が投資家に対して事業等のプレゼンテーションを行い、投資家から質問等を受けて、最終的に投資をしてもらえるか否かが決まることを内容とするものであり、被告が指摘する「マネーの虎」という番組とアイデアにおいて類似する部分があることはうかがえるが、本件各動画の表現に「マネーの虎」の表現に依拠したものがあると認めることはできない。本件各動画が二次的著作物であることを前提とする被告の前記主張はその前提を欠き、採用できない。
(4)以上によれば、本件各記事は原告の著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害しており、他に著作権法上の権利制限事由の存在など著作権侵害の成立を阻却する事由の存在を基礎付ける事実も認められない。
 したがって、本件各記事を投稿したことによって、原告の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたことは明らかといえる。
2 争点(2)(開示を受けるべき正当な理由の有無)について
(1)証拠(甲21)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件投稿者に対し、著作権(複製権、公衆送信権)侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求をする意思を有していることが認められるところ、原告が損害賠償請求権を行使するためには、発信者を特定する別紙発信者情報目録記載の各情報について開示を受ける必要があるといえ、原告には、発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があると認めることができる。
(2)被告は、原告代表者が本件各記事の発信者を見つけ出して殴ってやりたいという趣旨の発言をしており、原告による自力救済等が行われる可能性があるから、原告には「開示を受けるべき正当な理由」がないと主張する。
 証拠(乙5)及び弁論の全趣旨によれば、原告代表者は、本件ブログについて「ほんとにさあ、このチャンネルもね、えらい痛めつけられてるけどね 許せねえわああいう奴は見つけてぶち殴ってやりたいと思ってるわ俺わ」などの記載をしたことが認められる。しかしながら、前記のとおり、原告は本件各記事により著作権を侵害されており、本件投稿者に対して損害賠償請求権を行使するために発信者情報の開示を受ける必要性がある。そして、原告代表者が弁護士に依頼して発信者情報開示を進めるとともに民事上の損害賠償等を検討していること(甲21)を併せて考えれば、原告代表者の上記発言等をもって、原告が不当な自力救済等の意図で発信者情報の開示請求をしているとは認められず、他に前記(1)の認定を左右するに足りる事情も認められない。被告の上記主張を採用することはできない。
3 結論
 よって、原告の請求は理由があるから認容することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 柴田義明
 裁判官 佐伯良子
 裁判官 棚井啓


(別紙)発信者情報目録
 別紙投稿記事目録記載の各投稿記事に用いられた、同目録記載のIPアドレスを、同目録記載の投稿日時頃に使用した者に関する情報であって、次に掲げるもの
 1 氏名または名称
 2 住所
 3 電子メールアドレス
 4 電話番号

(別紙投稿記事目録は省略)
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