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【事件名】エックスサーバーへの発信者情報開示請求事件
【年月日】令和3年3月25日
 大阪地裁 令和2年(ワ)第12433号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和3年2月25日)

判決
原告 株式会社イトクロ
同訴訟代理人弁護士 髙橋喜一
同 杉本拓也
被告 エックスサーバー株式会社


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
 原告は、原告が著作権を有する記事と同一又は類似の記事を、氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)がウェブサイトにアップロードしたことにより、原告の著作権が侵害されたと主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき、本件発信者にサーバーの利用を提供する被告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件情報」という。)を開示するよう求めた。
1 前提となる事実(いずれも争いがない。)
(1)原告は、不登校生徒の支援について発信を行うウェブサイト「ゆーくろっく」(以下「原告ウェブサイト」という。)を運営する株式会社である。
(2)被告は、閲覧用URL(https://pia-port.com/)により閲覧可能なウェブサイト(以下「本件ウェブサイト」という。)のホスティングプロバイダであって、法2条3号の特定電気通信役務提供者、法4条1項の開示関係役務提供者にあたり、本件情報を保有している。
(3)原告ウェブサイトには、別表1の「原告ウェブサイト『ゆーくろっく』の原告記事」欄の「URL」及び「ページタイトル」記載のとおり、不登校を題材とする記事(以下「原告記事」という。)が掲載されている。
(4)本件発信者は、別表1の「本ウェブサイト『ぴあぽーと』の本件投稿記事」欄の「投稿日時」、「URL」及び「ページタイトル」記載のとおり、不登校に関する記事(以下「本件投稿記事」という。)を作成して本件ウェブサイトに投稿し、利用者からの求めに応じてインターネット回線を経由して自動的に送信し得る状態に置いている(以下この行為を「本件投稿行為」という。)。
2 原告の主張
(1)原告記事は、不登校に関する体験談、相談に対する実践的な心構えや対応策等を記事の形式で記し、思想を創作的に表現したものであって、学術の範囲に属し(著作権法2条1項1号)、言語の著作物(同法10条1項1号)にあたる。
(2)訴外株式会社ピアクルー(以下「ピアクルー社」という。)は、原告ウェブサイトを運営し、原告記事を原告ウェブサイトに掲載していたが、平成28年9月16日、原告との間で事業譲渡契約を締結し(以下「本件事業譲渡契約」という。)、原告ウェブサイトの運営事業及び原告記事の著作権を、原告に譲渡した。
(3)別表1の原告記事No1ないし3と本件投稿記事No1とを対比すると(以下「別表1」を略する。)、別表2のとおり、本件投稿記事No1の大部分が、原告記事No1ないし3をそのままコピーしたものである。
 また、本件投稿記事の一部には、原告記事のブロックのタイトルや文章の順番を変えたり、原告記事を僅かに改変したりした箇所が存するものの、実質的な内容は同じであって、原告記事の表現上の本質的な特徴を感得し得るものである。
(4)原告記事No1ないし3は平成27年6月29日に投稿されたが、本件投稿記事No1は平成30年11月5日に投稿されており、後者は、前者に依拠して制作されたものである。
(5)本件投稿記事No1には、本件発信者の作成した部分がほとんどないから、本件投稿記事No1と原告記事No1ないし3とは主従の関係にはなく、原告記事の出所の明示もされていないことから、引用(同法32条1項)にはあたらない。
(6)以上によれば、本件投稿記事No1は、原告の複製権(同法21条)、送信可能化権及び公衆送信権(同法23条1項)を侵害するものであり、仮に複製権侵害が成立しない場合であっても翻案権侵害(同法27条)が成立し、引用として適法とされることもないから、本件投稿記事が、原告の著作権を侵害するものであることは明らかである。
(7)原告は、本件発信者に対し、著作権侵害に基づく損害賠償等を請求する予定であり、かかる請求をするためには本件情報の開示を受ける必要があるが、被告は開示を拒否している。
(8)よって、原告は、法4条1項に基づき、開示関係役務提供者である被告に対し、本件情報の開示を求める。
3 被告の主張
(1)原告記事が著作物に該当することは争う。
(2)本件投稿記事が原告記事と同一であることは争う。
(3)その余の事実は認める。
第3 裁判所の判断
1 認定事実
 前記第2の1の前提となる事実、掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認定することができる。
(1)ピアクルー社は、不登校生徒の支援について発信を行うウェブサイト(以下「旧ウェブサイト」という。原告ウェブサイトと同じURLにより表示される。)を運営しており、旧ウェブサイトは、ピアクルー社の代表者その他であったP1、P2及びP3が執筆したコラム記事及びブログ記事で構成されていた(甲3の1ないし63、甲7の1ないし3)。
(2)ピアクルー社、原告及びP1は、平成28年9月16日、ピアクルー社が保有する旧ウェブサイトの運営事業を原告に譲渡すること等を内容とする本件事業譲渡契約を締結し、その際、本件事業譲渡に伴い、本件事業譲渡実行の日に、旧ウェブサイト及びコンテンツ(コラム記事、ブログ記事を含む)等に関してピアクルー社が有する著作権(著作権法27条、28条に規定する権利を含む。)、特許権、実用新案権等一切の権利についても、原告が譲り受けるものとした(甲1の2)。
(3)前記コラム記事及びブログ記事を執筆したP1、P2及びP3の3名(以下「P1ら」という。)は、平成28年9月16日付け差入書を作成して原告に差し入れたが、その中で、それぞれが保有する原告記事の著作権(同法27条、28条に規定する権利を含む。)を、本件事業譲渡実行の日に無償で原告に譲渡し、原告に対し著作者人格権を行使しないこと等を約した(甲7の1ないし3)。
(4)原告は、旧ウェブサイトのために作成された原告記事を原告ウェブサイトにおいて公開しており(甲2の1ないし45)、そのうち原告記事No1ないし3については、平成27年6月29日に旧ウェブサイトに投稿されている(争いがない。)。
(5)本件発信者は、平成30年10月11日に閲覧用URLのドメイン登録を行い、同月12日以降、被告のレンタルサーバーを利用して、不登校生の家庭を支援することを目的に、本件投稿記事を本件ウェブサイトに投稿し、公衆が閲覧し得る状態にしている(甲3の1ないし63、甲4、5)。本件投稿記事No1については、同年11月5日に投稿された(争いがない。)。
2 判断
(1)原告の著作権
ア 原告記事は、不登校となり、また不登校から脱した生徒の体験談、不登校となった生徒らに対応する際の親や教師の留意点や有益な情報その他をウェブ記事、ブログ記事の形式で記載したものであり、思想を創作的に表現した文芸又は学術の著作物にあたると認められる。
イ 前記1の(1)ないし(3)によれば、原告記事は、旧ウェブサイトのためにP1らが執筆したものであるが、その著作権(翻案権及び二次的著作物の利用権を含む。)は、本件事業譲渡契約の際に、P1らよりピアクルー社を介して、あるいはP1らより直接、原告に移転したものと認められる。
(2)本件投稿記事と原告記事との対比
 原告は、原告ウェブサイトに掲載されている原告記事No1ないし3と本件ウェブサイトに掲載されている本件投稿記事No1とを対比して、後者は前者と同一である旨主張するが、本件投稿記事No1は、原告記事No4に対応する部分も含む形で1個の記事として本件ウェブサイトに投稿されているから(甲3の1)、原告記事No1ないし4と本件投稿記事No1とを対比することとする。
ア 原告記事の見出しと掲載(甲2の1ないし4)
 原告記事No1は、「私と不登校①~不登校になったキッカケ~」をページタイトルとするP2の署名記事であり、「不登校になったキッカケ」、及び「不登校の日々とその終わり」の2つの見出しがある(各見出しによる記事を以下「原告記事1−1、1−2」という。)。
 原告記事No2は、「私と不登校②~不登校を脱したキッカケ~」をページタイトルとするP2の署名記事であり、「学校に行きたい、でも行けない」、「『できない』を否定せず、『できる』ことを認め、伸ばす」の2つの見出し、及び後者の下に、「伸び盛りの中学生。学校に行っていなくても、確かに日々成長していたのです。」の小見出しがある(各見出しによる記事を以下「原告記事2−1ないし2−3」という。)。
 原告記事No3は、「私と不登校③~来るべき時に備える」をページタイトルとするP2の署名記事であり、「囲碁との出会い」、「人と交流する機会ができる」、「『不登校』というラベル抜きで認められる経験をする」、及び「来るべき時に備える」の4つの見出しがある(各見出しによる記事を以下「原告記事3−1ないし3−4」という。)。
 原告記事No4は、「私と不登校④~不登校を乗り越えて~」をページタイトルとするP2の署名記事であり、「高校中退と高卒認定試験」、「あえて、普通からはずれる」、「『不登校だからできない』はもったいない」の3つの見出しがある(各見出しによる記事を以下「原告記事4−1ないし4−3」という。)。
 原告記事No1ないし3は、前述のとおり平成27年6月29日に旧ウェブサイトに掲載され、原告記事No4は、URLの表示(ブログ番号)によれば、それより遅れて旧ウェブサイトに掲載された(弁論の全趣旨)。
イ 本件投稿記事の見出しと掲載(甲3の1)
 本件投稿記事No1は、「【経験談】私が不登校になったきっかけ、理由、乗り越えた方法」をページタイトルとする1個のブログ記事であって、内容的に、概ね原告記事No1ないし4を1個の記事として合わせたものとなっている。
 本件投稿記事No1には、「私が不登校になったきっかけ」、「学校に行かない日々」、「学校に行きたい、でも行けない」、「自分を受け入れてくれた両親」、「囲碁との出会い」、「人と交流することの大切さ」、「『不登校』というラベル抜きで認められる経験」、「不登校は来たるべき時に備えるのが大切」、「不登校を乗り越えて得た強さ」、「『不登校だからできない』はもったいない」の10の見出しが使われている(各見出しによる記事を以下「本件投稿記事1−1ないし1−10」という。)。
 前述のとおり、本件投稿記事No1は、平成30年11月5日に本件ウェブサイトに掲載された。
 また、原告記事No1ないし4がいずれもP2の署名記事であるのに対し、本件ウェブサイトについては、不登校カウンセラーであるP4が主宰する旨記載されているにとどまり、それ以上の個人情報は開示されていない。
ウ 見出しの対比
 原告記事No1ないし4の見出しと、本件投稿記事No1の見出しとを対比すると、原告記事の「伸び盛りの中学生。学校に行っていなくても、確かに日々成長していたのです。」の小見出しに対応する見出しは本件投稿記事にはなく、原告記事の「不登校の日々とその終わり」と「『できない』を否定せず、『できる』ことを認め、伸ばす」が、本件投稿記事では、「学校に行かない日々」と「自分を受け入れてくれた両親」に変更され、原告記事の「高校中退と高卒認定試験」と「あえて、普通からはずれる」の見出しに対応する記事が、本件投稿記事では「不登校を乗り越えて得た強さ」の一つの見出しにまとめられているといった相違点はあるものの、それ以外の両者の見出しは、同一又はほぼ同一と評価し得るものである。
エ 原告記事と本件投稿記事の対比(甲2の1ないし4、甲3の1)
(ア)全体を通じ
 原告記事は読点があっても直ちには改行せず、段落単位で改行しているのに対し、本件投稿記事は、一文ごとに原則として改行し、行間を広く空けている点が異なる。
 また、本件投稿記事では強調したい部分が赤字で表示されている点、写真が原告記事より多く挿入されている点も異なる。
(イ)原告記事No1の関係
 本件投稿記事1−1は、句読点の使い方による段落構成の仕方が異なる程度で、文章自体は、原告記事1−1と同一といえる。
 本件投稿記事1−2は、原告記事1−2の前半部分とほぼ同一で、句読点の使い方や接続詞の付加による段落構成の仕方が異なる程度である。しかし、原告記事1−2の後半部分、すなわちあるきっかけがあって不登校を脱したことを次回以降のブログで述べる旨予告した部分に対応する記載は、本件投稿記事1−2にはない。
(ウ)原告記事No2の関係
 本件投稿記事1−3の文章は、接続詞が一箇所置き換えられている以外、原告記事2−1と同一である。
 本件投稿記事1−4の前半の文章は原告記事2−2と同一であり、後半は、原告記事2−3の後半(次回の予告を除く。)と同一の内容に、原告記事にはない独自の内容を付加したものとなっている。
(エ)原告記事No3の関係
 本件投稿記事1−5の文章は、囲碁の写真が付加されている以外、原告記事3−1とほぼ同一である。
 本件投稿記事1−6の文章は、「外に出るキッカケ、人と関わるキッカケ」とする部分が「外に出て人と関わるきっかけ」と変更されている以外、原告記事3−2と同一である。
 本件投稿記事1−7の文章は、「『不登校』ということで」とする部分が「『不登校』であるがゆえに」と変更されている以外、原告記事3−3と同一である。
 本件投稿記事1−8と原告記事3−4とでは、論じる順序、整理の仕方が異なるものの、個々の文章としては、同一または同旨のものが用いられている。
(オ)原告記事No4の関係
 本件投稿記事1−9は、原告記事4−1及び4−2に対応するものであり、後者に存在する文章の一部が前者に存在しないこと及びその逆や、表現が若干変更されている部分はあるものの、個々の文章としては、同一又は同旨のものが使用されている。
 本件投稿記事1−10の文章は、原告記事4−3とほぼ同一であり、末尾に挨拶的内容が付加されている程度である。
オ 検討
 前記アないしエで検討したところによれば、本件投稿記事No1は、原告記事No1ないし4よりも後に投稿されたものであるところ、改行の仕方、行間隔の空け方、あるいは写真の挿入の有無といった相違点があることから、外見上異なった印象を生じさせるものであるが、このような点に格別の創作性を認めることはできず、むしろ全体の構成及び論述の順序が同じであり、見出し及び内容となる文章について、若干の差異は存するものの、大部分が同一であることから、本件投稿記事No1は、原告記事No1ないし4に依拠してこれを複製したものと認めるのが相当である。
(3)権利侵害の明白性
ア 前記1の(2)及び(3)によれば、平成28年の本件事業譲渡契約及びその際にP1らが差し入れた差入書によって、原告記事の著作権(翻案権、二次的著作物の利用権を含む。)は原告に帰属しており、前記検討したところによれば、本件発信者は、原告記事No1ないし4を複製した本件投稿記事No1を本件ウェブサイトに投稿し、公衆が閲覧し得るようにしたのであるから、本件投稿行為は、原告の複製権、送信可能化権、公衆送信権を侵害するものである。
イ 本件投稿記事No1は、原告記事No1ないし4に実質的に付加するところはなく、そこに主従の関係を見出すことはできないから、本件投稿記事No1が原告記事No1ないし4を引用するといった関係は存在せず、引用(著作権法32条)の法理によって、本件投稿行為が適法とされる余地はない。また、前記認定した原告記事の著作権譲渡の経緯に照らすと、本件発信者が、原告記事の利用について、原告の許諾を得たと認めるべき事情も存しない。
ウ 以上によれば、本件投稿行為が、原告の著作権(複製権、送信可能化権、公衆送信権)を侵害するものであることは明白である。
(4)開示の必要性
 原告が、本件投稿行為に対する差止め請求あるいは損害賠償請求をするためには、本件発信者を特定する必要があるところ、被告は本件情報の開示を拒んでいるから、原告には、本件情報の開示を求める正当な理由がある。
3 結語
 以上によれば、原告の請求は理由があるから、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第21民事部
 裁判長裁判官 谷有恒
 裁判官 杉浦一輝
 裁判官 島村陽子


別紙 発信者情報目録
別表1 「原告記事と本ウェブサイトの記事URL及びページタイトルの対比表」
別表2 「各原告記事と本件投稿記事の内容の対比表」
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