判例全文 line
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【事件名】医療情報プログラム“HealthECO”事件
【年月日】令和3年3月24日
 東京地裁 平成30年(ワ)第38486号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 令和3年1月27日)

判決
原告 株式会社アリトンシステム研究所
同訴訟代理人弁護士 松田英一郎
同 玉置暁
被告株式会社 ESTcorporation
被告 A
被告ら訴訟代理人弁護士 宇田川高史
同 坪篤志


主文
1 被告株式会社ESTcorporationは、別紙1プログラム目録記載1のプログラム及び同目録記載2のプログラムを複製し、又は使用してはならない。
2 被告株式会社ESTcorporationは、別紙1プログラム目録記載1のプログラム及び同目録記載2のプログラムを格納した記録媒体を廃棄し、又は同記録媒体からこれらの各プログラムを消去せよ。
3 被告株式会社ESTcorporationは、原告に対し、6609万5820円及びこれに対する平成31年1月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告株式会社ESTcorporationは、原告に対し、7393万6800円及びこれに対する平成31年1月22日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
5 原告の被告株式会社ESTcorporationに対するその余の請求及び被告Aに対する請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は、原告に生じた費用の2分の1、被告株式会社ESTcorporationに生じた費用の5分の1及び被告Aに生じた費用を原告の負担とし、原告及び被告株式会社ESTcorporationに生じたその余の費用を被告株式会社ESTcorporationの負担とする。
7 この判決は、第1項、第3項及び第4項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 主文第1項同旨
2 被告株式会社ESTcorporationは、別紙1プログラム目録記載1のプログラム及び同目録記載2のプログラム(それらを格納した記録媒体を含む。)を廃棄せよ。
3 被告株式会社ESTcorporationは、原告に対し、1億0903万2000円及びこれに対する平成31年1月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を被告Aと連帯して支払え。
4 被告Aは、原告に対し、1億0903万2000円及びこれに対する平成31年1月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を、うち1億0903万2000円及びこれに対する同月22日から支払済みまで年5分の割合による金員は被告株式会社ESTcorporationと連帯して支払え。
5 被告株式会社ESTcorporationは、原告に対し、7530万6000円及びこれに対する平成31年1月22日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、別紙1プログラム目録記載1及び2の各プログラム(以下、併せて「本件プログラム」という。)の著作権者である原告が、医師会等からの委託を受けて保険請求を代行する業者である被告株式会社ESTcorporation(以下「被告会社」という。)及び被告会社の代表取締役である被告A(以下「被告A」という。)に対し、被告会社が本件プログラムをその使用許諾契約に反する態様により使用したと主張して、以下の請求をする事案である。
(1)請求の趣旨第1項及び第2項について
 被告会社に対し、被告会社による本件プログラムの複製及び使用が、本件プログラムについての著作権侵害(複製権侵害ないし著作権法113条2項(令和2年法律第48号による改正前のもの。以下、同項については同じ。)による侵害)に該当すると主張して、著作権法112条1項に基づいて本件プログラムの複製及び使用の差止め(請求の趣旨第1項)を、同条2項に基づいてこの複製物等の廃棄(同第2項)をそれぞれ請求するもの。
(2)請求の趣旨第3項及び第4項について
ア 被告会社に対する請求(請求の趣旨第3項)
 平成20年9月分ないし平成30年3月分(同年4月7日まで)の被告会社による本件プログラムの使用行為について、原告と被告会社との間の本件プログラムに係る使用許諾契約の債務不履行に基づく損害賠償請求又は不法行為に基づく損害賠償請求(選択的請求)として、被告Aと連帯して損害金1億0903万2000円及びこれに対する訴状送達の日(被告会社については平成31年1月21日)の翌日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求するもの。
イ 被告Aに対する請求(請求の趣旨第4項)
 主位的に会社法429条1項に基づく損害賠償請求として、予備的に被告会社との共同不法行為に基づく損害賠償請求として、被告会社と連帯して前記アの損害金及び遅延損害金(被告Aへの訴状送達の日は平成31年1月20日)の支払を請求するもの。
(3)請求の趣旨第5項について
 被告会社に対し、平成30年7月分ないし同年11月分(同年7月8日から同年12月7日まで)の被告会社による本件プログラムの使用行為について、違約金合意に基づく請求として、違約金7530万6000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで商法(平成29年法律第45号による改正前のもの。以下同じ。)514条の年6分の利率(以下「商事法定利率」という。)による遅延損害金の支払を請求するもの。
2 前提事実(当事者間に争いがない事実又は後掲の証拠(以下、書証番号は特記しない限り枝番号を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者
ア 原告は、健康診断、保健指導及び健康管理に関するシステム開発並びに業務支援プログラムの開発を業とする会社である。
イ 被告会社は、健康診断、生活機能評価のデータ作成及び電子化業務全般並びに各医療用プログラムの運営を業とする株式会社である。
ウ 被告Aは、平成19年7月に被告会社が設立された当時から現在まで、その代表取締役を務める者である(甲2)。
(2)本件プログラム
ア 本件プログラムの著作権者
 別紙1プログラム目録記載1のプログラム(以下「本件旧プログラム」という。)及び同目録記載2のプログラム(以下「本件新プログラム」という。)は、著作権法10条1項9号の「プログラムの著作物」であり、原告が著作権を有するものである。
イ 本件プログラムの機能等
(ア)我が国においては、平成20年4月より、40歳から74歳までの者を対象に、メタボリックシンドロームに着目した健康診査(以下「特定健診」という。)及び保健指導(以下、特定健診と併せて「健康診断等」という。)が行われることとなった。
 健康診断等の費用は、主に受診者が所属する健康保険組合等の医療保険者が負担することとされており、健康診断等を行った健診機関若しくは保健指導機関等(以下「健診機関等」という。)又はそれらを統括する医師会は、医療保険者に対し、上記費用の請求を行うこととされている。この請求を行う際、健康診断等の結果及び料金その他の必要なデータを医療保険者に対して提出する必要がある。
 実務上、健診機関等及びそれらを統括する医師会が、医療保険者に対して上記データの電子ファイルを提出する場合には、当該ファイルはXMLという出力形式に従って作成される必要があるものとされている。
(イ)本件プログラムは、コンピュータ上における医療に関する各種情報処理及び情報変換をするための汎用的なプログラムであり、専門的な知識及び技術を有さない者であっても、健診機関等が入力した健康診断等の結果等のデータに係る電子ファイルを自動的にXML形式へと変換し、医療保険者に提出するためのXMLファイルを作成することを可能にする。
(3)本件旧プログラムの使用許諾契約
 原告と被告会社とは、平成20年8月、1ライセンス分の本件旧プログラムの使用許諾契約(以下、平成30年4月7日までの期間において本件旧プログラムの使用を許諾する契約を、その間の更新の前後を通じて「本件平成20年契約」という。)を締結した(以下、本件プログラムの使用許諾契約における使用許諾の単位を「ライセンス」ということがある。なお、本件平成20年契約における1ライセンス分の使用許諾による許諾内容については、当事者間で争いがある。)(甲9、弁論の全趣旨)。
 被告会社は、医師会等から委託を受け、医療保険者に対する健康診断等の費用の請求に関する事務を代行しており、当該代行業務に本件プログラムを使用していた(乙5、弁論の全趣旨)。
(4)本件新プログラムへの改修作業
ア 原告は、平成30年4月に特定健診の制度が変更されることに先立ち、本件旧プログラムのアップデートを行い、本件新プログラムを開発した。
イ 原告の担当者は、平成30年3月25日、本件新プログラムへの移行に関するサポートを行うため、被告会社の本店を訪問し、被告会社のコンピュータに本件新プログラムをインストールした。その際、同担当者は、被告会社が使用していた本件旧プログラムにおいて、「利用者情報」としては「府中市医師会」と表示されているにもかかわらず、「医療機関」としては、札幌市所在の医療機関など、東京都府中市の医師会に所属する医療機関とは無関係の医療機関が多数登録されていることを確認した(甲12)。
(5)本件新プログラムの使用許諾契約
ア 原告と被告会社とは、平成30年4月頃、同月以降の使用分につき、府中市医師会に加えて、その他の医師会についても本件新プログラムの使用を許諾する旨の使用許諾契約を締結した(以下、同月分以降の本件プログラムの使用許諾契約については、本件平成20年契約とは区別して「本件平成30年契約」という。なお、本件平成20年契約及び本件平成30年契約におけるライセンス料算定の基準となる期間は、各月8日から翌月7日までであった。)。
イ 本件平成30年契約においては、被告会社が、原告に対し、代行業務を行う1医師会ごとに月額4万2000円(税抜き)を支払うべきことが合意され、さらに、原告と被告会社との間で、遅くとも平成30年5月までに、契約で明示された医師会以外の医師会の業務で利用した場合には、契約外利用として1医師会ごとに月額42万円(税抜き)を支払う旨の合意(以下「本件違約金合意」という。)が成立した(甲14、15、弁論の全趣旨)。
ウ 本件平成30年契約における各月分の契約医師会数及びこれに対応するライセンス料は、次のとおりであり、被告会社は、原告に対し、これらのライセンス料を支払った。
 平成30年4月分 3医師会 12万6000円(税抜き)
 平成30年5月分 9医師会 37万8000円(税抜き)
 平成30年6月分 18医師会 75万6000円(税抜き)
 平成30年7月分 1医師会 4万2000円(税抜き)
エ 被告会社は、平成30年8月8日以降、本件平成30年契約を更新しなかったことから、同契約は同年7月の使用分をもって終了し、それより後の本件プログラムの使用について、被告会社と原告との間の使用許諾契約は存在しない(甲24の3、4、弁論の全趣旨)。
(6)証拠保全手続
 原告は、被告会社による本件プログラムの著作権侵害及び使用許諾契約違反に係る証拠を保全するため、平成30年8月22日付けで東京地方裁判所に証拠保全の申立てをし、同年10月25日、被告会社の本店事業所において検証が実施された(平成30年(モ)7826号。以下「本件証拠保全」という)。
 本件証拠保全の際、被告会社に存在したパソコンのうち少なくとも11台に本件プログラムがインストールされていた(甲19ないし22)。
(7)本件訴訟提起と被告会社による消滅時効の援用
 原告は、平成30年12月12日に本件訴訟を提起したところ、被告会社は、令和元年7月1日の第3回弁論準備手続期日において、原告に対し、原告の被告会社に対する本件平成20年契約の債務不履行に基づく損害賠償請求権のうち平成25年12月分までの本件プログラムの使用に係るものについて、消滅時効を援用する旨の意思表示をした(当裁判所に顕著な事実)。
3 争点
(1)被告会社に対する本件平成20年契約に係る債務不履行に基づく損害賠償請求の可否(争点1)
ア 本件平成20年契約における本件プログラムの使用許諾の内容(1医師会当たり1ライセンスを要するとの許諾内容であったか)(争点1−1)。
イ 債務不履行の有無(平成20年9月分ないし平成30年3月分の被告会社における使用医師会数)(争点1−2)
ウ 債務不履行による損害額(争点1−3)
エ 債務不履行に基づく損害賠償請求権についての消滅時効の成否(争点1−4)
(2)被告会社に対する不法行為に基づく損害賠償請求の可否(争点2)
ア 被告会社による著作権侵害の有無(争点2−1)
イ 著作権侵害による損害額(争点2−2)
(3)被告Aに対する損害賠償請求の可否(争点3)
ア 会社法429条1項に基づく損害賠償請求の可否(争点3−1)
イ 共同不法行為に基づく損害賠償請求の可否(争点3−2)
(4)被告会社に対する本件違約金合意に基づく違約金支払請求の可否(争点4)
ア 違約金の発生とその額(争点4−1)
イ 本件平成30年契約の錯誤無効の成否(争点4−2)
ウ 本件違約金合意の公序良俗違反による無効の成否(争点4−3)
(5)債務不履行に基づく損害賠償請求権についての相殺の抗弁の成否(争点5)
(6)差止請求及び廃棄請求の当否(争点6)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告会社に対する本件平成20年契約に係る債務不履行に基づく損害賠償請求の可否)について
(1)争点1−1(本件平成20年契約における本件プログラムの使用許諾の内容(1医師会当たり1ライセンスを要するとの許諾内容であったか))について
(原告の主張)
ア 本件平成20年契約は、1ライセンスにおいて1医師会のみの業務に本件プログラムを使用することを許諾するものであり、複数の医師会の業務に使用する場合には、1医師会当たり1ライセンスが必要となるとの内容であった。
イ 本件平成20年契約が前記アのとおりの内容であったことは、以下の事実から明らかである。
(ア)本件旧プログラムの仕様
 本件旧プログラムは、その仕様上、パソコン1台につき1つの医師会しか登録することができないものであった。
 したがって、原告が被告会社に対しパソコン1台で複数の医師会の業務を行うことができる旨の説明をすることはあり得ないし、むしろ、原告としては、1ライセンスで1つの医師会の業務のみ行うことができることを当然に説明することになる。
(イ)平成20年9月に2ライセンスを追加した経緯
 被告会社は、原告に対し、本件平成20年契約締結の翌月である平成20年9月の初旬、本件プログラムにおいてデータを作成することができないとして、問合せをした。これを受けて、原告が被告会社のバックアップデータを確認したところ、複数の医師会に所属する医療機関が登録されていることが判明した。
 そこで、原告は、被告会社に対し、改めて、1医師会当たり1ライセンスが必要であるから、医師会数に応じたライセンスを追加して申し込むよう要請し、被告会社は、従前からライセンスを有していた府中市医師会に加えて、文京区医師会及び世田谷区医師会の2医師会の業務を行うため、2ライセンスを追加して申し込んだ。
 その後、被告会社は、原告に対し、同月30日、上記2ライセンスを終了する旨を通知したが、その際に被告会社が原告に送信したファクシミリには、「府中市医師会様は今後も使用させていただきます。」と明記されており、被告会社において1医師会当たり1ライセンスが必要であるという認識があったことは明らかである。
(ウ)原告による確認作業を拒んだこと
 前記(イ)の後、約10年間、被告会社は、不具合があった際もバックアップデータを原告に確認させず、原告による被告会社への訪問も、拒否し続けた。
 これは、バックアップデータを原告に確認されると他の医師会の業務を行っている事実が再び判明してしまうことを被告会社が理解していたためであり、被告会社は、1医師会当たり1ライセンスが必要であることを明確に認識しながら、事実隠ぺいを図っていたものと合理的に推認される。
(エ)毎月の契約更新の際の処理
 本件平成20年契約は、ほぼ毎月更新されており、その更新の際、被告会社は、原告に対し、「利用機関名:府中市医師会」と明記された「レンタル契約継続申込書」の用紙を、所定のチェックボックスに印をつけた上で、ファックス送信していた。
(オ)本件新プログラムの導入当時の被告会社の担当者とのやり取り
 被告会社は、平成30年4月に本件新プログラムを導入した結果、府中市医師会以外の医師会の業務において本件プログラムを使用できなくなったため、原告に対し、同月下旬、本件新プログラムを複数の医師会の業務で使用することができるよう改修してほしい旨を申し出た。
 そのため、原告と被告会社の担当者が同年5月に話合いを持ち、その際、被告会社の担当者は、本件平成20年契約において1医師会当たり1ライセンスが必要であることを前提とした話をしていた。
(カ)不正利用を疑われた際の被告会社の対応
 原告が、被告会社に対し、平成30年6月5日、契約している府中市医師会以外の医師会の業務で本件プログラムを不正に利用した疑いがあるとして調査を要請したところ、被告会社は、本件プログラムを1台のパソコンで利用しており、不正利用はなかったとの虚偽の回答を行ったが、医師会数に関わりなく本件プログラムを使用することができる旨の回答はしなかった。
ウ 利用規約等の記載内容を踏まえた前記アの合意の解釈
 前記イ(ア)のとおり、本件平成20年契約の締結に際して、原告の営業担当者は被告会社の担当者に対して1医師会当たり1ライセンスが必要である旨を明確に説明しているが、他方で、本件平成20年契約の成立に際して原告が被告会社に交付したレンタルご利用規約(甲6)及びソフトウェア使用許諾契約書(甲7)には、パソコンの台数に着目した記載(「1ライセンス=1台」)しかなく、1医師会当たり1ライセンスが必要である旨(「1ライセンス=1医師会」)は明記されていない。
 そのような記載となっている理由は、原告が、それまで被告会社のような代行業者と契約したことがなかったためである。原告は、もともと、医師会、個別医療機関、健康保険組合等を顧客としていたため、利用規約又は使用許諾契約書に、1つのライセンスの契約で複数の医師会の業務を行うことを禁ずる規定や、業務を行う医師会数に応じた数のライセンスが必要であるとする規定を設ける必要がなかったためである。
 そして、医師会数を基準とすること(「1ライセンス=1医師会」)と、上記各書面に記載されたパソコンの台数を基準とした規定(「1ライセンス=1台」)との関係については、上記各書面に明確な記載はなく、原告としても、代行業者との契約は本件平成20年契約が初めてであったため、明確な意思又は方針を持っておらず、それゆえ、原告は、被告会社に対し、この点を明確に説明してはいなかった。しかしながら、契約当事者の合理的意思解釈としては、パソコンの台数又は医師会数の多い方に相当する数のライセンス契約を締結することを要したと解するのが相当である。
 なお、上記のとおり、原告は、1医師会当たり1ライセンスが必要である旨を明確に説明しており、上記の2つの基準の関係について明確に説明していなかったことをもって、前記アの内容での合意が成立していなかったとはいえない。
(被告会社の主張)
ア 原告と被告会社との間では、本件平成20年契約において、被告会社1社につき、1つのライセンスの契約で、医師会数、インストールするパソコン台数を問わずに本件プログラムを使用できるとの合意が成立していたものである。
イ 1医師会当たり1ライセンスを要するとの合意の成立を直接的に立証する客観証拠はなく、原告は、いつ、どこで、被告会社の誰に対して、1医師会当たり1ライセンスが必要となることを説明したかについてすら、明確な立証はしていない。
 また、原告は、ライセンス料を医師会数とパソコンの台数のどちらを基準に算定するかについて、明確な方針を持っておらず、被告会社に対してこの点を明確に説明していなかったことを認めており、このことからすれば、本件平成20年契約における本件プログラムの使用許諾の内容が1医師会当たり1ライセンスを要するというものでなかったことは明白である。
ウ 以下のとおり、原告が本件平成20年契約について主張する事実は認められない。
(ア)本件旧プログラムの仕様について
 原告は、本件旧プログラムの仕様から、1つのライセンスで1つの医師会の業務のみ行うことができることは当然に説明することになると主張するが、本件平成20年契約の締結時にそのような説明はされていない。
 むしろ、当然に説明するほどのことであれば、通常これを説明する書面が存在するものと思われるが、そのようなものは示されていないし、ライセンス数の決定に当たり、医師会数基準ではなく、パソコンの台数を基準とする旨の記載がされた書面(甲10)も作成されているから、本件旧プログラムの仕様をもって1医師会当たり1ライセンスが必要であることを説明したと推認できるものではない。
(イ)平成20年9月に2ライセンスを追加した経緯について
 証拠上明らかなのは、平成20年9月の時期に被告会社が2ライセンスを追加して申し込んだということのみであって、これが府中市医師会に加えて文京区医師会及び世田谷区医師会の2医師会の業務を行うために行われたか否かについては客観的な証拠がない。
 また、上記2ライセンスの追加の際に原告によって作成された「御請求書」(甲10)には、医師会数を基準としない「1台\44,100」との記載があるから、その当時、原告自身も台数を基準にして必要となるライセンス数を考えていたことは明らかであり、医師会数を基準とする合意があったとの原告の主張は客観的証拠と矛盾する。
(ウ)原告による確認作業を拒んだことについて
 原告は、被告会社が、本件プログラムに不具合があった際、バックアップデータを原告に確認させず、原告による被告会社への訪問も拒否し続けたと主張するが、そのような事実はなく、また、その証拠もない。
 平成30年3月に本件新プログラムへの切替えをする前においては、原告の担当者が被告会社を訪問して作業する必要は原則としてなかったものである。
(エ)毎月の契約更新の際の処理について
 被告会社が原告に送信していた「レンタル契約継続申込書」のうち、被告会社がチェックボックスに印をつけていたものは、それらの一部にすぎない。
(オ)本件新プログラムの導入当時の被告会社の担当者とのやり取りについて
 原告と被告会社の担当者とが平成30年5月に本件新プログラムの改修について協議した際に、被告会社の担当者が具体的にどのような発言をしていたのかは不明である。また、被告会社の担当者は、その際、本件平成20年契約を締結した当時の事情を知らなかったから、仮に、1医師会当たり1ライセンスが必要であることを前提とするような発言があったとしても、本件平成20年契約の内容の裏付けとはならない。
(カ)不正利用を疑われた際の被告会社の対応について
 平成30年6月に原告から不正利用の疑いがあると指摘されたことに対して、被告会社は、不正利用はなかった旨の回答をしたが、それは、原告から、どのような行為が不正利用に当たるのかについて具体的な説明をされていなかったためである。
 被告会社としては、1台のパソコンで使用する限り1つのライセンスがあれば十分であると認識していたことから、原告からの調査依頼に対し、1台のスタンドアローンサーバーで利用しており、不正利用はないと回答したのであって、虚偽の回答をしたものではない。
(2)争点1−2(債務不履行の有無(平成20年9月分ないし平成30年3月分の被告会社における使用医師会数))について
(原告の主張)
 被告会社において本件旧プログラムを使用した医師会数のうち、平成20年9月分ないし平成30年3月分は、別紙2使用医師会数・請求額一覧表の「0809」ないし「1803」欄(それぞれ西暦の下2桁と月を組み合わせたものである。以下同じ。)記載のとおりであり、ライセンスの対象となっていた1医師会分(府中市医師会分)以外の使用は、本件平成20年契約における合意に反するものとして、債務不履行に該当する。
ア 平成25年4月分ないし平成30年3月分について
 平成25年4月分ないし平成30年3月分の使用医師会については、令和元年7月1日の第3回弁論準備手続期日における被告会社の陳述により、自白が成立している。
 被告会社は自白を撤回する旨主張するが、そもそも原告の主張は被告会社の開示した証拠等に基づいて行ったものであり、自白した内容が真実に合致しないことの立証もなされていない上、自白が錯誤によるものとの立証もされていないから、自白の撤回は認められない。
イ 平成20年9月分ないし平成25年3月分について
 平成20年9月分ないし平成25年3月分については、被告会社が資料の開示を拒否しているため、その直後の1年間の分(平成25年4月分ないし平成26年3月分)の使用状況と同様であると推認し、別紙2使用医師会数・請求額一覧表記載のとおり、医師会ごとに、上記の1年間における使用状況を平成20年9月分ないし平成25年3月分のものとして認めるのが相当である(なお、本件プログラムの医師会ごとの使用開始時期については、本件証拠保全の際に獲得されたデータ(甲22)に記録されていた各医療機関の登録日のうち最も古い日の属する月とする。)。
(被告会社の主張)
 前記(1)(被告会社の主張)のとおり、医師会ごとにライセンスを要するとの合意はなかったので、複数の医師会に係る業務での使用が債務不履行に該当することはない。
ア 平成25年4月分ないし平成30年3月分について
 被告会社が令和元年7月1日の第3回弁論準備手続期日において陳述した主張の内容が本件プログラムを使用した医師会数についての自白に該当することは争わない。
 しかしながら、上記主張は、被告会社が平成25年4月から平成30年3月までの期間において取り扱った医師会を一覧表に列挙したという趣旨であり、必ずしも列挙した全ての医師会について本件プログラムを使用していたわけではなく、上記の自白は真実に反するものであった。したがって、上記自白は撤回する。
イ 平成20年9月分ないし平成25年3月分について
 平成20年9月分ないし平成25年3月分の使用医師会数については不知。
 なお、上記の契約分に係る債務不履行に基づく損害賠償請求権については、いずれも消滅時効が成立している。
(3)争点1−3(債務不履行による損害額)について
(原告の主張)
ア 前記(2)(原告の主張)の債務不履行によって、平成20年9月分ないし平成30年3月分の使用医師会について、ライセンスの対象となっていた府中市医師会を除き、医師会ごとにライセンス料相当額である1月当たり4万2000円の損害が発生し、その額は別紙2使用医師会数・請求額一覧表記載の「通常請求」欄記載のとおり合計9912万円である。
 そして、上記の損害賠償金は、「消費税法基本通達5−2−5」における第2項「特許権や商標権などの無体財産権の侵害を受けた場合に権利者が収受する損害賠償金」に該当するため、消費税の課税対象となり、その場合、収受する損害賠償金の全額について、収受時の消費税率により消費税額を計算するのが相当である。それゆえ、被告会社が賠償すべき額は、上記の9912万円に消費税10%相当額を加算した1億0903万2000円である。
イ 原告のホームページ(乙7)には本件プログラムに係る料金表が掲載されているが、当該料金表は平成30年8月に変更されたものであり、本件平成20年契約当時の料金表における本件旧プログラムの月額利用料金は1ライセンス当たり4万2000円(税抜き)で、追加ライセンスの場合は別の料金が設定されていた。
 しかしながら、原告のホームページは、本来的な顧客である医師会等をターゲットとしており、被告会社のような代行業者に向けたものではなかったため、そこに記載された上記料金表は、本件平成20年契約当時のものも含めて、本件平成20年契約には関係がなく、損害額の算定に当たって考慮すべきではない。
(被告会社の主張)
ア 原告においては、「基本システム」と呼ばれる本件プログラムの使用許諾に係る基本契約におけるライセンス料と、「基本システム」にライセンスを追加する際の追加ライセンス料とで、その金額が異なっている。
 そして、本件平成20年契約当時における追加ライセンス料相当額については、具体的な主張立証がされておらず、原告のホームページ(乙7)の料金表に記載された追加ライセンス1つ当たり月額1万7700円を超えるものではない。
イ 原告は、一律に10%の消費税相当額を加算しているが、そのような加算は相当ではなく、本件プログラムが使用された当時の税率に従い、平成26年4月より前の使用については5%とし、同月以降の使用については8%として、それぞれ消費税相当額を計算すべきである。
(4)争点1−4(債務不履行に基づく損害賠償請求権についての消滅時効の成否)について
(被告会社の主張)
ア 本件平成20年契約における各月のライセンス料の支払期日はその前月の末日であり、債務不履行に基づく損害賠償請求権に係る損害金の支払期日についても同様に解すべきである。
 したがって、平成25年12月分の使用に係る債務不履行に基づく損害賠償請求権(支払期日は同年11月末日となる。)を含め、それ以前の使用に係る債務不履行に基づく損害賠償請求権については、本件訴訟が提起された平成30年12月12日までに、全て商事消滅時効(商法522条)が完成している。
イ 原告は、消滅時効の起算点について、本件証拠保全の実施日の翌日と主張するが、民法166条1項の「権利を行使することができる時」とは、法律上これを行使できる時を意味し、事実上の障害については消滅時効の進行を妨げるものではないから、相当でない。
(原告の主張)
 被告会社の債務不履行行為は、被告会社の事業所内という密室において、コンピュータ端末上で行われ、被告会社の内部の(しかも当該端末にアクセスすることができる限られた)人間のみ知り得る性質のものであった上、被告会社は、原告に対して虚偽の回答をすることにより、契約に違反した事実を秘匿し続けていたものである。そのため、原告において、本件証拠保全に係る検証により証拠を獲得した平成30年10月25日までは、上記債務不履行行為の基本的な事実関係と具体的な証拠を把握し、損害賠償請求権を行使することを現実に全く期待することができなかった。
 消滅時効の起算点(民法166条1項)に関しては、単にその権利の行使につき法律上の障害がないというだけでなく、権利の性質上、権利行使が現実に期待できるものであることが必要とされており、上記の被告会社の債務不履行行為の性質に鑑みれば、商事消滅時効の起算点は、原告が本件証拠保全に係る検証により証拠を獲得した平成30年10月25日の翌日と解すべきである。
 したがって、本件訴訟の提起前において、商事消滅時効は完成していない。
2 争点2(被告会社に対する不法行為に基づく損害賠償請求の可否)について
(1)争点2−1(被告会社による著作権侵害の有無)について
(原告の主張)
ア 複製権侵害について
 被告会社が、本件プログラムを本件平成20年契約により許諾されていた1台のパソコン以外のパソコンにインストールすることは、本件プログラム(本件旧プログラム)の複製権侵害に当たる。原告は被告会社が本件プログラムをインストールしたパソコンの台数を知り得ないが、本件証拠保全の際に11台にインストールされていたことからすれば、本件平成20年契約締結の当初から平成30年3月分までの期間において、許諾なく10台に複製された状態が継続していたものと推定される。
イ 著作権法113条2項の侵害について
 被告会社は、本件プログラムの複製に当たって原告の許諾を得る必要があることを知りながら、その許諾を得ることなく、前記アのとおり本件プログラムを複製したものである。よって、被告会社による本件プログラムの上記使用は、著作権法113条2項により、本件プログラムの著作権を侵害する行為とみなされる。
(被告会社の主張)
ア 複製権侵害について
(ア)前記1(1)(被告会社の主張)のとおり、本件平成20年契約においては、1つのライセンスで、インストールするパソコン台数を問わずに本件プログラムを使用できるとの合意が成立していたため、被告会社が本件プログラムを複数台のパソコンにインストールしたとしても複製権侵害には当たらない。
 なお、仮に、1台のパソコンで使用する医師会数を増やす行為が本件平成20年契約に違反する行為であったとしても、医師会数を増やすこと自体は本件プログラムを複製するものではないから、複製権侵害には該当しない。
(イ)原告主張のインストール台数については否認する。
 被告会社が本件プログラムをインストールしていたパソコンの台数は次のとおりであり、原告の主張を前提としても、それぞれうち1台は許諾を受けてインストールしているものである。
 平成20年9月から平成26年3月まで 計1台
 平成26年4月から平成29年12月まで 計3台
 平成30年1月から同年9月まで 計11台
(ウ)前記(イ)のインストール台数は、以下の手順で調査したものである。
a パソコンの初期OSインストール日
 被告会社におけるパソコンの導入日は、OSのインストール日で把握することができる。本件証拠保全の際に本件プログラムがインストールされていることが確認された11台のパソコンの導入日は、別紙3被告会社におけるパソコンの導入状況一覧表記載の「初期OSインストール日」のとおりである。
 もっとも、OSのインストール日は、被告会社内でパソコンを使い始めた時期を証明するものにすぎないのであって、本件プログラムのインストール日を証明するものではない。なお、個々のパソコンの製造年月日やパソコンの購入日について把握することは困難であった。
b 本件プログラムのインストール日の推定
 被告会社は、本件プログラムの導入後、しばらくは1台のパソコン(別紙3被告会社におけるパソコンの導入状況一覧表記載の番号欄9番のパソコン(以下、同別紙に記載されたパソコンについては、番号欄の数字に対応させて「9番のパソコン」などという。)と推測される。)で、本件プログラムを利用していた。
 被告会社の作業量における一番の変動要因は、医師会数ではなく健康診断数であるところ、平成26年頃に至って、徐々に作業量が多くなってきたことから、その頃に本件プログラムを使用するパソコン台数を増やしたようであり、2番のパソコン及び10番のパソコンの2台については、同年4月1日の時点では、本件プログラムをインストールしていた可能性がある。
 平成29年11月から同年12月頃にかけて、被告会社内において体制変更が行われ、その際、本件プログラムをインストールしたパソコンの台数を更に増やした可能性があり、遅くとも平成30年1月1日の時点では、11台全てに本件プログラムをインストールしていたと思われる。
イ 著作権法113条2項の侵害について
(ア)前記ア(ア)のとおり、被告会社が使用していた本件プログラムは、「著作権を侵害する行為によって作成された複製物」ではなく、また、「複製物を使用する権原を取得した時に情を知っていた場合」にも該当しないので、本件プログラムの使用によって著作権法113条2項のみなし侵害は成立しない。
(イ)被告会社においては、本件プログラムがインストールされたパソコンの全部が毎月必ず使用されているわけではなかったため、著作権法113条2項の成立を主張するのであれば、被告会社が、いつ、どのパソコンを使用したのか、特定して主張する必要があるところ、原告はこの点について具体的な主張立証をしていない。
(2)争点2−2(著作権侵害による損害額)について
(原告の主張)
ア 前記(1)(原告の主張)の著作権侵害による原告の損害額は、前記1(3)(原告の主張)の債務不履行による損害額と同額である。
イ 被告らの主張する損害の算定方法は争う。
 前記1(3)(原告の主張)イのとおり、原告のホームページに記載された料金表は、本件平成20年契約当時のものも含めて、本件平成20年契約には関係がないから、損害額の算定に当たって考慮すべきではない。
(被告会社の主張)
 本件プログラムの著作権侵害が認められる場合であっても、原告の損害額は以下のとおり算出されるべきである。
ア 原告のホームページ(乙7)には、本件プログラムについて、月額や年額のレンタル料、保守料が記載された料金表が明示されており、また、「レンタル(月額利用料金、年間利用料金)には保守料金が含まれています。」との記載がある。
 原告は、具体的な算定方法を主張しないものの、仮に、著作権法114条1項が適用されるとした場合、同項は、損害額の推定に用いる額について、「著作権者等がその侵害の行為がなければ販売することができた物(受信複製物を含む。)の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額」と規定しているため、本件プログラムのみを提供した場合の「利益」を算出するには、上記のレンタル料から原告が保守業務を行うことで生じる費用(保守料金)を差し引くことが合理的である。
 そうすると、保守料を差し引いた本件プログラムのみを提供した場合の原告の「利益」は、次のように計算される(いずれも税抜きの額である。)。
@年間利用した場合
 12万2300円=年額17万円−年間保守料金4万7700円
A月間利用した場合
 1万3725円=月額1万7700円−(年間保守料金4万7700円÷12か月)
イ 前記(1)(被告会社の主張)ア(イ)のインストール台数を前提として、正規のライセンスによって使用を許諾された1台以外のパソコン全てにつき本件プログラムをレンタルした場合、原告に生じたであろう利益を算出すると、次のとおり合計270万2850円(税抜き)となる。
@平成26年4月から平成30年9月までの3台の使用について
171万4650円=(年額12万2300円×4年+月額1万3725円×6か月)×3台
A平成30年1月から同年9月までの8台の使用について
98万8200円=月額1万3725円×9か月×8台
 なお、前記(1)(被告会社の主張)イのとおり、被告会社における本件プログラムの使用態様からすると、本件プログラムがインストールされていたパソコンの台数と各月において本件プログラムを「使用」(著作権法113条2項)した台数は一致しないものであるが、上記の計算では、この点を考慮せず、本件プログラムがインストールされたパソコンにおいて、インストール後毎月、本件プログラムが使用されたと仮定して、損害を算定したものである。
3 争点3(被告Aに対する損害賠償請求の可否)について
(1)争点3−1(会社法429条1項に基づく損害賠償請求の可否)について
(原告の主張)
 被告Aは被告会社の取締役であるところ、被告会社により前記2(1)(原告の主張)のような極めて悪質な著作権侵害行為が行われたことからすると、被告Aに悪意による任務懈怠行為があったことは明らかである。
 したがって、被告Aは、原告に対し、会社法第429条1項に基づく損害賠償責任として、前記2(2)(原告の主張)と同額の支払義務を負う。
(被告Aの主張)
 原告の主張は否認ないし争う。
 なお、被告Aに対する損害賠償請求が認められるとしても、被告Aは、前記2(2)(被告会社の主張)と同額の支払義務しか負わない。
(2)争点3−2(共同不法行為に基づく損害賠償請求の可否)について
(原告の主張)
 本件プログラムの違法複製及び違法使用は、契約違反として債務不履行責任を構成するとともに、著作権の侵害行為ないし侵害とみなされる行為であるから、不法行為に該当する。
 そして、被告Aは、被告会社の従業員に対して指揮命令して、本件プログラムの違法複製及び違法使用を組織的に行わせたものであり、被告会社と被告Aの行為には、当然に、客観的な関連共同性が認められる。
 したがって、前記2(1)(原告の主張)の著作権侵害行為は、被告Aと被告会社との共同不法行為に当たり、被告Aは被告会社と連帯して同額の損害賠償責任を負う。
(被告Aの主張)
 原告の主張は否認ないし争う。
 なお、被告Aに対する損害賠償請求が認められるとしても、被告Aは、前記2(2)(被告会社の主張)と同額の支払義務しか負わない。
4 争点4(被告会社に対する本件違約金合意に基づく違約金支払請求の可否)について
(1)争点4−1(違約金の発生とその額)について
(原告の主張)
ア 被告会社が本件プログラムを使用した医師会数のうち、平成30年4月分ないし同年11月分の医師会数は、別紙2使用医師会数・請求額一覧表記載のとおりである。
 なお、この点についての自白の撤回が認められないのは、前記1(2)(原告の主張)アのとおりである。
イ 前記アのうち、平成30年4月分ないし同年6月分の使用については、本件旧プログラムから本件新プログラムへの入替え作業を行っていたことから違約金を請求せず、同年7月分ないし同年11月分の使用について、1医師会につき月額42万円(税抜き)として違約金を算定すると、違約金の総額は、別紙2使用医師会数・請求額一覧表の「違約請求」欄記載の合計6846万円に消費税10%相当額を加算した合計7530万6000円となる。
 なお、同年7月分については1ライセンス分の契約(府中市医師会分)があったが、その部分の使用については、違約金の算定対象としない。
(被告会社の主張)
 前記1(2)(被告会社の主張)アのとおり、本件プログラムを使用した医師会数についての自白の成立は認めるが、当該自白は撤回する。
(2)争点4−2(本件平成30年契約の錯誤無効の成否)について
(被告会社の主張)
 被告会社の担当者は、1医師会当たり1ライセンスが必要であるとの内容で本件平成30年契約を締結しているところ、これは、同担当者において、本件平成20年契約における契約内容を知らず、当該契約においては医師会数に関係なく本件プログラムを使用することができたにもかかわらず、原告から1医師会当たり1ライセンスが必要であるとの内容であった旨の虚偽の説明を受けたことにより、本件平成20年契約の内容がそのようなものであったと誤信したためである。
 したがって、本件平成30年契約の締結について、被告会社の担当者には動機の錯誤があり、また、その動機について原告は知っていたのであるから(又は共通錯誤であるから)、本件平成30年契約は、錯誤により全部無効である。
(原告の主張)
 本件平成20年契約は、1医師会当たり1ライセンスを要するとの契約内容であり、被告会社の担当者らは、本件平成30年契約締結当時においてそのことを認識しており、被告会社が主張するような錯誤はない。
(3)争点4−3(本件違約金合意の公序良俗違反による無効の成否)について
(被告会社の主張)
 被告会社は、本件平成30年契約の締結に際して、本件違約金合意の締結を原告から求められたものであるが、その当時、被告会社は、多数の医師会の代行業務をしており、原告に本件プログラムの使用許諾契約を打ち切られて本件プログラムの使用ができなくなってしまうと多大な損害が生じるため、原告から提示された本件違約金合意を含む契約の締結をするほかない状況にあった。
 原告は、被告会社がそのような状況にあることを知りながら、レンタル料相当額の10倍という、一般的に必要と考えられる金額をはるかに超えた違約金を徴する合意をさせたものであって、このような著しく高額な違約金を定める本件違約金合意は、公序良俗に反するものとして無効である。
(原告の主張)
 本件平成30年契約締結の当時において、被告会社が原告の提示どおりの内容でレンタル契約を締結するほかない状況にあり、それを原告が知っていたとの事情はなかった。
 被告会社は、月額レンタル料の10倍の違約金は過大であると主張するが、住宅ローンなどにおいても、通常の利率の10倍以上の割合の損害金を定めることは一般的に行われており、通常の料金の10倍の違約金が過大であるとはいえない。また、被告会社が著作権の侵害行為及び債務不履行行為を繰り返してきたことからすれば、そのような被告会社との間での本件違約金合意が公序良俗に違反するとはいえない。
5 争点5(債務不履行に基づく損害賠償請求権についての相殺の抗弁の成否)について
(被告会社の主張)
(1)前記4(2)(被告会社の主張)のとおり、本件平成30年契約は錯誤により全部無効であるから、本件平成30年契約に基づいて被告会社が原告に対して支払った前記前提事実(5)ウのライセンス料合計130万2000円(税抜き)のうち、1ライセンス分相当額である21万円(税抜き4万2000円×5か月)を除いた金額が、原告に対する過払いとなり、被告会社は原告に対して過払金109万2000円についての不当利得返還請求権を有する。
(2)被告会社は、原告に対し、令和3年1月27日の第4回口頭弁論期日において、上記不当利得返還請求債権をもって、原告の被告会社に対する債務不履行に基づく損害賠償請求債権とその対当額において相殺するとの意思表示をした。
(原告の主張)
 被告会社の主張は否認ないし争う。
6 争点6(差止請求及び廃棄請求の当否)について
(原告の主張)
 原告は、被告会社による本件プログラムの著作権侵害(複製権侵害及び著作権法113条2項によるみなし侵害)について、同法112条1項に基づき、本件プログラムの複製及び使用の停止を求める権利を有し、また、同条2項に基づき、本件プログラムの廃棄を求める権利を有する。
(被告会社の主張)
 原告の主張は争う。
第4 当裁判所の判断
1 事実経過等
 前記前提事実並びに証拠(甲5ないし25、27、30、乙1ないし5、被告A本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告と被告会社との間の本件プログラムの使用許諾に係る契約締結の経緯、被告会社における本件プログラムの使用状況等について、以下の事実が認められる。
(1)本件平成20年契約の当初の注文書の記載内容
ア 被告会社の担当者は、平成20年8月28日付けで「特定健診Ma注文書」(甲9)を作成し、原告に対して、1ライセンス分の本件旧プログラムの使用許諾契約(本件平成20年契約)の申込みを行った。
 上記書面を作成する際、被告会社の担当者は、注文する製品名を「特定健診Ma基本システム」とする欄において、「レンタル月額契約」のチェックボックスにチェックを入れ、期間として「1」か月を、「注文数」として「1」をそれぞれ記入し、「特定健診Ma追加ライセンス」の欄には記入しなかった。また、上記書面には、本件旧プログラムの使用許諾の範囲について、「※基本システムには1ライセンスを含みます。ご使用になるパソコンの台数に応じて追加ライセンスをご購入ください。」との記載がされていた。
イ 原告は、平成20年当時、本件旧プログラムの使用許諾に係る契約の相手方に対し、「レンタルご利用規約」(甲6)と題する書面及び「ソフトウェア使用許諾契約書」(甲7)を交付していたところ(弁論の全趣旨)、前者には、「レンタル製品の使用は、ソフトウェア使用許諾契約書事項に従ってください。」との記載がされており、後者には、「使用権」として「お客様は、本製品を、単一のコンピュータにおいて非独占的に使用することができます。ネットワークサーバーに本製品をインストールし、複数のコンピュータを接続して使用する場合は、接続台数分のライセンスが必要となります。」、「禁止事項」として「お客様はバックアップを目的とする以外に本製品を複製することはできません。」との記載がされていた。
(2)平成20年9月分の2ライセンスの追加
ア 被告会社は、原告に対し、前記(1)の契約締結直後の平成20年9月、本件旧プログラムについて2ライセンスを追加する申込みをし、それにより、前記(1)で契約した1ライセンスに2ライセンスが追加された。前記(1)の契約における1ライセンスの料金は月額4万2000円(税抜き)であったが、追加されたライセンスの料金も1ライセンスにつきそれぞれ同額であった(甲10)。
イ 原告は、前記(1)の契約期間である1か月の満了が近づいたため、被告会社に対し、平成20年9月26日頃、契約継続意思の有無を確認したところ、被告会社の担当者は、原告に対し、同月30日、2ライセンス分については、契約を更新せず、製品のアンインストールを完了した旨を記載した「アンインストール完了報告書兼レンタル終了確認書」(甲11)及び「なお、府中市医師会様は今後も使用させていただきますので延長レンタル代をお振込み致します。」との記載がある送信書(甲23の2)をファックス送信した。
(3)本件平成20年契約における更新の処理
 原告は、被告会社に対し、前記(2)の後も、本件平成20年契約の契約期間の終了が近づくたびに、「レンタル契約継続申込書」の書式を送信し、被告会社の担当者は、その都度、1か月ないし12か月の希望する継続期間を記入した上で、これを返信していた(甲23)。これにより、追加した2ライセンス分の契約が解約された後は、平成30年3月まで、1ライセンス分の契約が更新され続けた。
 上記「レンタル契約継続申込書」には、原告から被告会社に送付される際に、あらかじめ、「現在レンタル契約を結んでいる製品」として本件旧プログラムの「基本システム」との記載がされ、その直下に「利用機関名」として「府中市医師会」との記載がされていた(甲23)。
(4)本件旧プログラムの仕様と被告会社における使用状況
ア 本件旧プログラムは、通常の使用方法によるかぎり、インストールされたパソコン1台ごとに1つの医師会しか登録することができない仕様となっていた。
イ 被告会社は、本件旧プログラムの使用に当たり、医師会ごとにバックアップデータを作成しておき、作業したい医師会に合わせて使用するバックアップデータを切り替えることで、本件旧プログラムをインストールした1台のパソコンにおいて複数の医師会に係る作業を行うことができることを知った。
 被告会社は、前記(2)のとおり、追加した2ライセンス分の契約を解約してから平成30年3月までの間、上記の方法により、前記(3)の「レンタル契約継続申込書」に「利用機関名」として明記されていた府中市医師会のみならず、それ以外の医師会についても、本件旧プログラムを使用していた。また、被告会社は、遅くとも平成26年4月以降、複数台のパソコンに本件旧プログラムをインストールして、これを使用していた(甲5、8、16、弁論の全趣旨)。
(5)本件新プログラムへの移行作業
 前記前提事実(4)のとおり、原告は、平成30年3月25日、本件新プログラムへの移行に関するサポートを行うため、被告会社の本店を訪問し、被告会社のパソコンに本件新プログラムをインストールしたところ、その過程において、被告会社が使用していた本件旧プログラムには東京都府中市所在の医療機関とは無関係の医療機関が多数登録されていることを確認した。
 また、原告は、被告会社のパソコンに保存された本件プログラムのバックアップデータの一部を持ち帰って分析し、府中市医師会以外の複数の医師会の情報が登録されていることを確認した(甲5、12)。
(6)本件平成30年契約の締結
 前記前提事実(5)のとおり、原告と被告会社は、平成30年4月頃、同月以降、府中市医師会に加えて、その他の医師会について本件新プログラムの使用を許諾をする旨の使用許諾契約(本件平成30年契約)を締結し、それに伴い、遅くとも同年5月までに本件違約金合意が成立した。
(7)不正利用の有無についての問合せと回答
 原告は、被告会社に対し、本件旧プログラムの利用について、「契約している府中市医師会分以外の医師会分での利用の疑いが判明いたしました。つきましては、誠実に不正利用の実態をご調査いただき…その内容を文書にて回答をいただきますよう、お願い申し上げます。」と記載した平成30年6月5日付け書面(甲17)を送付して、不正利用の有無の回答を求めた。被告会社は、同月20日付けの書面(甲18)において、「レンタル契約内容」につき、「製品名:HealthECO特定健診Ma基本システム」、「数量:1台」、「利用タイプ:スタンドアローン(サーバ)」等として特定した上で、「上記について誠実に調査したところ、本日までに不正利用は認められませんでした。」と回答したが、本件平成20年契約において本件旧プログラムを府中市医師会以外の医師会の業務で使用することが不正利用に当たらない旨の回答はしなかった。
(8)本件平成30年契約の解約手続等
 本件平成30年契約における各月の契約医師会数は前記前提事実(5)ウのとおりであり、平成30年7月分については府中市医師会の業務での使用に係る1ライセンス分の契約のみが残っていた(弁論の全趣旨)。
 被告会社は、平成30年8月8日以降、本件平成30年契約の更新をせず、原告に対して、同月20日に本件新プログラムのアンインストールを完了した旨を記載した同月21日付けの「アンインストール完了報告書兼レンタル終了確認書」(甲25)を提出した。
(9)本件証拠保全
 被告会社は、前記(8)の後も、実際には、本件新プログラムの使用を継続しており、前記前提事実(6)のとおり、平成30年10月25日の本件証拠保全の時点で、被告会社に存在したパソコンのうち少なくとも11台には本件プログラムがインストールされていた(甲19ないし22、弁論の全趣旨)。
(10)プログラム消去証明書の提出
 被告会社は、本件訴訟が提起された後、@本件訴訟のために被告ら訴訟代理人の事務所において保管する1台を除いて、被告会社が保有又は使用するパソコンから本件プログラムを令和元年5月17日に全て消去したこと、A上記の被告ら訴訟代理人が保管するパソコンにつき、本件訴訟の防御の目的以外では本件プログラムを使用せず、本件訴訟が終了したときは、直ちに当該パソコンから本件プログラムを消去することを確約することなどを記載した同月29日付けの「プログラム消去証明書」(甲27、乙2)を原告に提出した。
2 争点1(被告会社に対する本件平成20年契約に係る債務不履行に基づく損害賠償請求の可否)について
(1)争点1−4(債務不履行に基づく損害賠償請求権についての消滅時効の成否)について
 事案に鑑み、争点1については、債務不履行に基づく損害賠償請求権についての消滅時効の成否(争点1−4)から判断する。
ア 原告の請求は、本件平成20年契約において医師会ごとに本件プログラムのライセンスを要するとの合意があったことを前提に、ライセンスの対象となった1医師会以外の医師会について利用することが本件平成20年契約の債務不履行に該当するとして、損害賠償請求をするものである。
 そして、債権の消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する(民法166条1項)ところ、原告の主張する上記債務不履行による損害賠償債務は期限の定めのない債務であると認められるので、その債務の成立の時が債権者において「権利を行使することができる時」に当たり、同時点から消滅時効が進行すると解される。
 したがって、前記前提事実(7)のとおり、原告が本件訴訟を提起したのは、平成30年12月12日であるから、原告の主張する債務不履行による損害賠償請求権のうち平成25年12月11日以前の本件旧プログラムの使用に係るものについては、本件訴訟提起前に5年が経過したので、商法522条の消滅時効が完成しているものと認められる。
イ(ア)原告は、平成30年10月25日の本件証拠保全が実施されるまで、被告会社による債務不履行行為の基本的な事実関係と具体的な証拠を把握し、損害賠償請求権を行使することは現実に全く期待することができなかったから、消滅時効の起算点は本件証拠保全により証拠を獲得した同日の翌日と解すべきであると主張する。
 しかしながら、民法166条1項にいう「権利を行使することができる時」とは、権利を行使するのに法律上の障害がなくなった時をいい、権利者が権利の存在を知らない場合であっても時効は進行するものと解される。そうすると、原告が主張するような被告会社が債務不履行行為を秘匿し続けていたといった事情をもって、消滅時効の起算点を遅らせる理由とすることはできないから、本件証拠保全が実施された平成30年10月25日が原告の被告会社に対する債務不履行に基づく損害賠償請求権の「権利を行使することができる時」に当たるとはいえない。
 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(イ)被告会社は、平成25年12月分(平成26年1月7日まで)の使用に係る債務不履行に基づく損害賠償請求権については、同月分のライセンス料と同じく、同年11月末がその支払期限となるために、その全てについて時効が完成していると主張する。
 しかしながら、原告の主張する債務不履行に基づく損害賠償請求権は、本件平成20年契約における通常のライセンス料の支払時期の定めにかかわらず、債務不履行行為である、ライセンスの対象となった医師会以外の医師会の業務での使用行為と同時に発生し、その時が時効の起算点となると解すべきである。
 したがって、被告会社の上記主張は採用することができない。
ウ 以上によれば、原告の被告会社に対する債務不履行による損害賠償請求権のうち、平成25年12月11日以前の本件旧プログラムの使用に係るものについては、時効によって消滅しており、その余の点について判断するまでもなく理由がないから、以下、争点1−1ないし1−3については、同月12日以降の使用に係る部分についてのみ検討すれば足りる。
(2)争点1−1(本件平成20年契約における本件プログラムの使用許諾の内容(1医師会当たり1ライセンスを要するとの許諾内容であったか))について
ア 前記1のとおり、@本件旧プログラムは、その仕様上、インストールされたパソコン1台ごとに1つの医師会しか登録することができないものであったこと(前記1(4))、A本件平成20年契約の当初の注文書や当時の「ソフトウェア使用許諾契約書」において、本件旧プログラムを使用するパソコンの台数に応じてライセンスが必要となる旨の記載がされていたこと(前記1(1))、B被告会社は、本件平成20年契約が締結された直後に2ライセンス分の追加申込みを行っており、当該追加分を解約する際の書面において「なお、府中市医師会様は今後も使用させていただきますので延長レンタル代をお振込み致します。」との記載をしていたこと(前記1(2))、Cその後の本件平成20年契約の更新の際に被告会社が作成した「レンタル契約継続申込書」には、いずれも「利用機関名」として「府中市医師会」との記載がされていたこと(前記1(3))が認められ、これらは、いずれも1医師会当たり1ライセンスを要するとの合意内容と整合するものである。
 さらに、D被告会社は、原告から、平成30年6月、書面により「府中市医師会分以外の医師会分での利用の疑いが判明いたしました。」として不正利用の有無の調査を求められ、これを受けて、原告に対して単に不正利用は認められなかったと回答し、本件平成20年契約においては府中市医師会以外の医師会での使用が認められていた旨の回答はしなかった(前記1(7))ものである。原告は、上記のとおり、府中市医師会以外の医師会の業務で本件プログラムが使用されている疑いがあることを具体的に指摘しているのであって、被告会社が、本件平成20年契約について、医師会数にかかわらず本件プログラムを使用することができるものであると考えていたのであれば、その旨を回答しなかったのは不自然というほかない。このような被告会社の対応も、本件平成20年契約が医師会ごとにライセンスを要するとの内容であったことを裏付けるものといえる。
 これらの事実からすれば、本件平成20年契約は、1ライセンスにより1医師会の業務についてのみ本件旧プログラムの使用を許諾するものであって、複数の医師会の業務に使用する場合には、さらに1医師会当たり1ライセンスの追加が必要となるとの内容であったと認めるのが相当である。
イ(ア)被告会社は、本件平成20年契約の内容として、使用する医師会数、インストールするパソコン台数を問わずに、被告会社1社につき1つのライセンスで、本件プログラムを使用することができるとの合意が成立していたと主張する。
 しかしながら、被告会社が主張する合意内容は、前記1(2)のとおり、被告会社が、当初の契約が締結された直後の平成20年9月に2ライセンス分を追加していることや、追加した2ライセンス分を解約する際、「なお、府中市医師会様は今後も使用させていただきますので延長レンタル代をお振込み致します。」と記載した書面を送付し、以後、1ライセンス分の契約をもって1医師会の業務を行う予定であることを伝えたことと、明らかに整合しない。
 したがって、被告会社の上記主張は採用することができない。
(イ)また、被告会社は、本件平成20年契約に係る取引書類において、本件旧プログラムを使用するために必要となるライセンス契約の数につき、パソコンの台数を基準とする旨の記載がされていたが、医師会数を基準とするとの記載はされていなかったから、医師会ごとにライセンスを要するものであったとはいえないとも主張する。
 しかしながら、前記1(4)のとおり、本件旧プログラムがインストールされたパソコン1台ごとに1つの医師会しか登録することができない仕様であったことからすると、医師会数に応じてライセンス契約を締結する必要がある旨が上記の取引書類に明記されていなかったとしても、本件平成20年契約が医師会数を基準とするものではなかったことが直ちに裏付けられるものとはいえない。
 また、原告は、本件平成20年契約の締結より前には、被告会社のような代行業者と契約したことがなく、医師会、個別医療機関、健康保険組合等を顧客としており、通常、これらの顧客が複数の医師会の業務を行うことはないと認められるところ(弁論の全趣旨)、このような事情を慮すると、本件平成20年契約における取引書類に医師会数に応じてライセンス契約を締結する必要があることが明記されていなかったとしても、不自然であるとまではいえない。
 したがって、被告会社が指摘する上記事情は、前記アの認定を妨げるものではない。
(ウ)被告会社は、原告が、ライセンス料について医師会数とパソコンの台数のどちらを基準として定めるかについて明確な方針を持っておらず、被告会社に対してこの点を説明していなかったことを認めているから、1医師会当たり1ライセンス分の契約を締結する必要はなかったことは明白であるとも主張する。
 しかしながら、原告は、医師会数とパソコンの台数が一致しない場合にライセンス数をどのように解釈すべきかについて明確な方針がなく、被告会社にもこの点の説明をしていなかった旨を認めるにとどまり、医師会数を基準としてライセンス数を定めるべきことを説明していなかったことを認めるものではない。むしろ、前記1(1)、(2)及び(4)のとおり、本件旧プログラムがインストールされたパソコン1台につき1医師会しか登録できない仕様であったことから、原告は、1台のパソコンで1つの医師会の業務を取り扱うことを前提に1ライセンス分の契約をしており、1つのライセンスごとにライセンス料を定めて、パソコンの台数に応じて追加のライセンス契約を締結することを求めていたものである。
 そうすると、原告において、複数のパソコンで複数の医師会の業務を取り扱うような変則的な場合についてまでライセンス料の定め方を検討していなかったとしても、不自然とはいえない。
 したがって、被告会社の上記主張も採用することができない。
ウ 以上のとおり、本件平成20年契約においては、当初から、医師会ごとにライセンス契約を締結することを要するとの合意が含まれていたものと認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
(3)争点1−2(債務不履行の有無(平成20年9月分ないし平成30年3月分の被告会社における使用医師会数))について
ア 原告は、令和2年1月29日の第7回弁論準備手続期日での陳述において、平成25年12月分(ただし、同月12日以降のものに限る。以下同じ。)ないし平成30年3月分に係る被告会社の本件プログラムの使用状況につき、別紙2使用医師会数・請求額一覧表記載のとおりである旨主張し、被告会社は、令和2年8月13日の第10回弁論準備手続期日での陳述において、上記事実を認めたことは、当裁判所に顕著であるので、この点について自白が成立したといえる。
 前記1(3)及び前記(2)によれば、本件平成20年契約の平成25年12月分ないし平成30年3月分については、府中市医師会分を対象とする1ライセンス分のみの契約が成立していたものと認められる。そうすると、別紙2使用医師会数・請求額一覧表記載の「1312」ないし「1803」欄の医師会のうち府中市医師会以外の医師会の業務での本件プログラムの使用は、いずれも上記契約の債務不履行に該当するというべきである。
イ 被告会社は、令和元年7月1日の第3回弁論準備手続期日における自白を撤回すると主張し、その理由として、同期日で陳述した平成25年4月から平成30年12月までの間の使用医師会数に関する主張は、その期間に被告会社が取り扱った医師会を列挙した趣旨であり、必ずしもそれら全ての医師会について本件プログラムを使用していたわけではなかったから、上記自白は事実に反する旨を主張する。
 しかしながら、仮に、被告会社の上記主張が、上記の第3回弁論準備手続期日における自白のみならず前記アの第10回弁論準備手続期日における自白についても撤回する趣旨であったとしても、後者の自白が、真実に反し、かつ、錯誤によって行われたものであることを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、被告会社による本件プログラムの使用医師会数に係る前記アの自白の撤回は認められない。
(4)争点1−3(債務不履行による損害額)について
ア 証拠(甲23)及び弁論の全趣旨によれば、平成25年12月分(ただし、同月12日以降のものに限る。)ないし平成30年3月分について、本件平成20年契約におけるライセンス料は、1医師会当たり1か月4万210000円に消費税相当額を加えた金額であったものと認められる。
 そうすると、前記(3)アの被告会社の債務不履行により、原告には、府中市医師会以外の医師会の業務での本件プログラムの使用について、上記の算定方法によるライセンス料相当額の損害が発生したものと認めるのが相当であり、その損害額総合計は、別紙4債務不履行に基づく損害額計算表記載のとおり、6609万5820円となる。
 なお、上記別紙においては、ライセンスの対象外の1医師会の1月当たりの損害額を、平成25年12月分ないし平成26年3月分については当時の消費税率に基づいた月額4万4100円(4万2000円×1.05。同別紙「小計@」欄に当該期間の月数を記載した。)とし、平成26年4月分ないし平成30年3月分については当時の消費税率に基づいた月額4万5360円(4万2000円×1.08。同別紙「小計A」欄に当該期間の月数を記載した。)として、それぞれ算定している。
イ(ア)被告会社は、府中市医師会以外の医師会の業務での本件プログラムの使用に係る損害額算定に当たっては、「基本システム」のライセンス料相当額ではなく、ライセンスを追加する際の追加ライセンス料相当額に基づくべきであると主張する。
 そこで検討するに、証拠(甲9、23、乙7)及び弁論の全趣旨によれば、平成23年12月分ないし平成30年3月分の契約当時、原告における通常の本件旧プログラムの月額料金表においては、「基本システム」(1ライセンス分)の料金(月額4万2000円(税抜き))の他に、ライセンスを追加する場合の追加ライセンス料の設定がされていたこと、その追加ライセンス料の金額は、平成30年8月頃、追加するライセンス1つ当たり月額1万7700円に変更されたこと、その変更前の追加するライセンス料は、1つ当たり月額1万7700円を超えないものであったことが認められる。
 しかしながら、前記1(2)のとおり、被告会社が本件平成20年契約においてライセンスを追加した際、原告と被告会社との間で、追加したライセンス1つにつき、当初の契約における1ライセンス分のライセンス料と同額のライセンス料を支払うことが合意されたこと、前記前提事実(5)のとおり、その後の本件平成30年契約においても、2ライセンス分以上の契約をする際、ライセンス数に応じて減額するような取扱いはされていないことからすれば、仮に、被告会社が原告との合意によりライセンスを追加したとしても、追加するライセンスに係るライセンス料につき原告から割引を受けることができたとは認められない。そうすると、被告会社による府中市医師会以外の医師会の業務での本件プログラムの使用に係る損害額の算定に当たり、上記の原告の月額料金表を適用するのは相当ではなく、「基本システム」のライセンス料相当額から減額した追加ライセンス料相当額を基準とすべきではない。
 したがって、被告会社の上記主張は採用することができない。
(イ)原告は、損害額の算定に当たって加えるべき消費税額について、全期間を通じて収受時の税率である10%を適用したものとすべきであると主張する。
 しかしながら、前記(1)アで検討したとおり、被告会社の債務不履行による損害賠償請求権が、ライセンス契約を締結した医師会以外の医師会の業務で使用された時点で発生するものであることからすると、当該時点の消費税率を考慮したライセンス料相当額の損害が発生したものとして損害額の算定をするのが合理的である。また、税理士作成の意見書(甲26)では、無体財産権の侵害による損害賠償金の収受が資産の譲渡等の対価(消費税法28条1項)に該当することにつき、消費税法基本通達5−2−5を引用した説明がされているものの、納税の際に損害賠償金の収受時の消費税率が適用されることについては、具体的な根拠が示されておらず、本件全証拠によっても、これを認めるには足りない。
 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
3 争点2(被告会社に対する不法行為に基づく損害賠償請求の可否)について
(1)争点2−1(被告会社による著作権侵害の有無)について
ア 被告会社による本件旧プログラムの使用状況について
 前記1(9)のとおり、平成30年10月25日の本件証拠保全の時点で、被告会社に存在したパソコンのうち少なくとも11台には本件プログラムがインストールされていた。
 これらの11台のパソコンに本件プログラムがいつインストールされたのかを確定し得る証拠はないところ、証拠(甲21、乙3、4)及び弁論の全趣旨によれば、これらの11台のパソコンは、別紙3被告会社におけるパソコンの導入状況一覧表に記載された1番ないし11番のパソコンであること、そのうち同別紙の「初期OSインストール日」欄に日付の記載がある9台(2番、3番、6番、8番、10番及び11番の各パソコンのほか、順不同で1番、4番及び7番の各パソコンの3台に相当する、@番、A番及びB番の各パソコン)については、遅くとも当該各日付の時点で被告会社において使用されていたこと、9番のパソコンは、本件平成20年契約締結の当初の時期から、被告会社で本件旧プログラムをインストールして使用されていたこと、5番のパソコンは、遅くとも平成30年1月1日までには、被告会社で使用されていたことが認められる。
 これらの事実に加えて、前記2(3)アのとおり、被告会社において本件旧プログラムが使用された医師会数は、平成25年頃から平成30年3月頃までの間、20ないし30程度で推移していたこと、前記1(4)のとおり、被告会社は、1台のパソコンで複数の医師会に係る作業を行っていたことを考慮すれば、被告会社において、上記の11台のパソコンについては、遅くとも上記のとおり認定できるそれぞれの使用開始の時期から、本件旧プログラムがインストールされて使用されていたものと認めるのが相当である。
 この点について、被告会社は、平成29年12月まではパソコン3台で本件旧プログラムを使用しており、平成30年1月から11台に増やしたと主張するが、そのパソコンを増やしたという時期の前後において、本件旧プログラムを使用した医師会数に大きな変化は見られず、被告会社における業務態勢に変更があったことなど、本件旧プログラムを使用するパソコンの台数の変動を裏付ける事情もうかがわれないから、被告会社の上記主張は採用することができない。
 そうすると、被告会社において、本件旧プログラムをパソコンにインストールした時期は、次のとおりと認められ、これらのパソコンにおいて、それぞれ、当該インストール時期から平成30年3月頃までの間、本件旧プログラムを使用していたものと認めるのが相当である。
(インストール時期) (インストール台数)
 契約締結当初 1台
 平成26年3月 2台
 平成28年9月 1台
 平成28年10月 5台
 平成29年12月 1台
 平成30年1月 1台
イ 被告会社による著作権侵害について
 本件プログラムをパソコンにインストールすることは、本件プログラムを有形的に再製するものとして、本件プログラムの複製に該当するところ(著作権法2条1項15号)、前記1(1)ないし(3)によれば、本件平成20年契約においては、平成20年9月の一時期を除き、パソコン1台分についてのみ本件プログラムのインストールすることが許諾されていたと認められるから、前記アのとおり、被告会社において、本件平成20年契約の締結当初から本件旧プログラムをインストールしていた1台に加え、平成26年3月以降、合計10台のパソコンに本件旧プログラムをインストールしたことは、本件旧プログラムの著作権(複製権)の侵害に該当する。なお、被告会社は、平成20年の契約の内容として、1つのライセンスの契約で、インストールするパソコン台数を問わずに本件プログラムが使用できるとの合意が成立していたと主張するが、前記2(3)イのとおり、当該主張は採用することができない。
 また、被告会社は、自ら複製権侵害行為を行っているから、上記10台に複製された本件旧プログラムについて、その使用する権原を取得した時に著作権侵害の事実について知っていたものと認められ、これを使用する行為は、著作権法113条2項により、本件旧プログラムの著作権を侵害する行為とみなされる。
(2)争点2−2(著作権侵害による損害額)について
ア 前記(1)の著作権侵害の態様と、本件平成20年契約においてライセンス数に応じた本件旧プログラムの複製、すなわちライセンス数に応じた台数のパソコンへのインストールが許諾されていたことからすれば、前記(1)の著作権侵害による損害額は、本件旧プログラムが違法に複製されたパソコンごとに、その使用期間に応じたライセンス料相当額と認めるのが相当である。
 本件旧プログラムの平成30年3月までの使用期間は、平成26年3月にインストールされた2台につき各49か月、平成28年9月にインストールされた1台につき19か月、同年10月にインストールされた5台につき各18か月、平成29年12月にインストールされた1台につき4か月、平成30年1月にインストールされた1台につき3か月の累計214か月となる。
 そして、このうち、平成26年3月分については、当時の消費税率に基づいた1台当たり月額4万4100円(4万2000円×1.05)として、平成26年4月分ないし平成30年3月分については、当時の消費税率に基づいた1台当たり月額4万5360円(4万2000円×1.08)として、それぞれ算定すると、次のとおり、損害額合計は970万4520円と認められる。
4万4100円×2か月+4万5360円×212か月
=970万4520円
イ(ア)原告は、著作権侵害の不法行為に基づく損害額の算定に当たっても、債務不履行に基づく場合と同様に、本件プログラムが複製されたパソコンの台数ではなく、本件プログラムを使用した医師会数を基準としてライセンス料相当額を算定すべきと主張する。
 しかしながら、前記1(4)のとおり、被告会社は、本件旧プログラムを使用するに当たり、医師会ごとにバックアップデータを作成し、作業したい医師会に合わせて、その都度使用するバックアップデータを切り替えることにより、本件旧プログラムをインストールした1台のパソコンで複数の医師会に係る作業を行っていたところ、このような被告会社の行為が本件旧プログラムを有形的に再製するもの、すなわち複製とは認められないし、違法な複製がされたことを前提とする著作権法113条2項のみなし侵害に該当するともいえない。
 そうすると、前記(1)の著作権侵害行為と相当因果関係のある損害として、医師会数を基準としたライセンス料相当額の損害が発生したとは認められないから、原告の上記主張は採用することができない。
(イ)被告らは、原告のホームページに記載された料金表(乙7)に基づいて、前記アのライセンス料相当額を算定すべきと主張する。
 しかしながら、前記2(4)イで検討したとおり、本件平成20年契約におけるライセンス料相当額を算定にするに当たって、原告のホームページに記載された通常の料金表(乙7)が適用されるとは認められないから、同料金表に基づいて算定するのは相当ではなく、被告らの上記主張は採用することができない。
4 争点3(被告Aに対する損害賠償請求の可否)について
(1)争点3−1(会社法429条1項に基づく損害賠償請求の可否)について
 原告は、前記3(1)の被告会社の著作権侵害行為について、被告Aが会社法429条1項に基づき、原告に対して損害賠償責任を負うと主張する。
 しかしながら、原告は、被告会社の取締役である被告Aにおいて、上記著作権侵害行為につき、悪意又は重過失による任務懈怠があったことについて具体的な主張立証をしておらず、本件全証拠によってもこれを認めるに足りない。
 したがって、原告の被告Aに対する会社法429条1項に基づく損害賠償請求は理由がない。
(2)争点3−2(共同不法行為に基づく損害賠償請求の可否)について
 原告は、前記3(1)の被告会社の著作権侵害行為について、被告Aが被告会社と共同不法責任を負うと主張する。
 しかしながら、被告Aと被告会社との共同不法行為が成立するためには、被告会社のみならず、被告A自身が権利侵害に及んだと認められる必要があるところ、被告Aが被告会社の従業員に指揮命令して上記の著作権侵害行為を行わせたことなど、被告Aが本件プログラムの著作権侵害を行ったとの評価を基礎付ける事実については、これを認める足りる的確な証拠はなく、そもそも、本件全証拠によっても、上記の著作権侵害行為について、被告Aの具体的な関与の事実を認めるに足りないから、被告A及び被告会社による上記の著作権侵害の共同不法行為が成立するとは認められない。
 したがって、原告の被告Aに対する共同不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。
5 争点4(被告会社に対する本件違約金合意に基づく違約金支払請求の可否)について
(1)争点4−1(違約金の発生とその額)について
ア 平成30年7月分ないし同年11月分の利用医師会数について
 平成30年7月分ないし同年11月分の被告会社による本件プログラムの使用状況について、原告が、令和2年1月29日の第7回弁論準備手続期日において、別紙2使用医師会数・請求額一覧表記載の事実を主張し、被告会社が、同年8月13日の第10回弁論準備手続期日)において、これを認めたことは、当裁判所に顕著であるので、この点についても自白が成立したといえる。
 この点、被告会社は、上記自白についても撤回する旨主張するが、前記2(3)イで検討したところからすれば、その撤回は認められない。
イ 本件平成30年契約における各月分の契約医師会数は、前記前提事実(5)ウのとおりであり、平成30年7月分については府中市医師会に係る業務についての1ライセンスのみが存在し、同年8月分ないし同月11月分についてはライセンス契約が存在しなかった。そうすると、別紙2使用医師会数・請求額一覧表に記載された同年7月分ないし同年11月分の医師会のうち、同年7月分の府中市医師会の使用以外の医師会の業務に係る本件新プログラムの使用については、本件違約金合意に基づく違約金支払の対象となると認めるのが相当である。その違約金額総合計は、別紙2使用医師会数・請求額一覧表の「違約請求」欄記載の合計6846万円(税抜きの違約金額合計)に平成30年7月ないし11月当時の消費税(税率8%)相当額を加算した合計7393万6800円と認められる。
 これに対し、原告は、収受時の消費税率である10%に基づいて違約金額を算定すべきと主張するが、本件違約金合意に係る「レンタル契約申込書」(甲14、15)における、違約金額として「月額420、000円(税別)を支払います」との記載については、契約医師会以外での使用があった時点での消費税率に基づく消費税相当額を加算した違約金支払義務が発生することを合意したものと解するのが相当であるから、原告の上記主張は採用することができない。
(2)争点4−2(本件平成30年契約の錯誤無効の成否)について
 被告会社は、被告会社の担当者が、本件平成30年契約の締結に当たり、本件平成20年契約の内容を知らなかったため、同契約が1医師会当たり1ライセンスが必要であるとの内容であったと誤信したものであるから、本件平成30年契約は、動機の錯誤により無効であると主張する。
 しかしながら、前記2(2)のとおり、本件平成20年契約は1医師会当たり1ライセンスが必要であるとの内容であったと認められるから、被告会社の担当者において錯誤は存在せず、被告会社の上記主張は、その前提を欠くものであって、理由がない。
(3)争点4−3(本件違約金合意の公序良俗違反による無効の成否)についてア被告会社は、本件違約金合意は、著しく高額な違約金を定めたものであり、公序良俗に反するものとして無効であると主張する。
 しかしながら、当該合意がされた経緯を検討すると、前記2(3)のとおり、被告会社は、本件平成20年契約に違反して、ライセンス数を上回る多数の医師会の業務において継続的に本件プログラムを使用しており、前記1(5)のとおり、平成30年3月の本件新プログラムへの移行作業の際に、上記の被告会社の使用状況が原告に発覚したことで、本件平成30年契約においては、府中市医師会に加えて、契約の対象とする医師会が追加され、それとともに、本件違約金合意が締結されたものである。そうすると、本件違約金合意は被告会社による過去の不正使用を踏まえて、それを抑止するために設けられたものと解されるから、前記のとおり、被告会社による継続的な不正使用が長期間発覚しなかったことも考慮すれば、本件違約金合意を設ける必要性は高かったといえる。
 また、本件違約金合意は、いずれも事業者である原告と被告会社とが、レンタル契約書において、被告会社が本件プログラムを使用できる医師会名を明示した上で、それ以外の医師会の利用については違約金支払義務が発生する旨を記載したものであって(甲14、15)、合意内容とその違反の範囲は明確である。さらに、本件平成30年契約においては、前記前提事実(5)のとおり、本件プログラムの使用に係る医師会を1か月単位で増減させることが可能であったから、被告会社において、本件違約金合意に反しないように本件プログラムを使用することに特段の障害はなかったといえる。
 このような事情からすれば、本件違約金合意における違約金額が通常のライセンス料の10倍という額であったことを考慮しても、本件違約金合意が公序良俗に反するとはいえず、被告会社の上記主張は理由がない。
イ 被告会社は、被告会社が原告から提示された本件違約金合意を含む本件平成30年契約を締結するほかない状況にあったから、本件違約金合意は公序良俗に反するものであると主張する。
 しかしながら、被告会社は、本件平成30年契約の内容に従って、必要とするライセンス数の契約を締結し、そのライセンス料を支払えば、本件プログラムを継続して使用することができたのであるし、被告Aは、本人尋問において、平成30年当時に本件プログラムと同様の機能を有するプログラムを外部に委託して開発することは可能であった旨も供述している。これらに照らせば、被告会社において、本件違約金合意を含む本件平成30年契約を締結する以外に取り得る手段がなかったとは認められない。
 したがって、被告会社の上記主張に係る事情は、前記アの結論を覆すに足りるものではない。
6 争点5(債務不履行に基づく損害賠償請求権についての相殺の抗弁の成否)について
 被告会社は、本件平成30年契約は錯誤により全部無効であるとして、当該契約に基づいて原告に支払ったライセンス料について過払いがあり、原告に対して不当利得返還請求権を有していると主張するものである。
 しかしながら、前記5(2)のとおり、本件平成30年契約が錯誤により無効であったとはいえないから、上記の不当利得返還請求権の発生も認められず、当該債権を自働債権とする被告会社の相殺の抗弁は理由がない。
7 争点6(差止請求及び廃棄請求の当否)について
(1)前記3(1)のとおり、本件旧プログラムについては、被告会社における複製権侵害及び著作権法113条2項によるみなし侵害が認められる。
(2)前記1(5)のとおり、本件プログラムについては、平成30年3月以降、特定健診の制度の変更に伴って、本件旧プログラムから本件新プログラムへ移行作業が行われたところ、前記1(9)のとおり、本件平成30年契約の終了後の平成30年10月25日の時点で被告会社のパソコンの少なくとも11台に本件プログラムがインストールされていたものである。そして、被告会社も、上記の時点でインストールされていた本件プログラムについて、本件平成30年契約において許諾された範囲内で複製したものであったとの主張立証はしていない。そうすると、少なくとも上記11台のパソコンの一部については、被告会社が、許諾を得ずに本件新プログラムをインストールした上で、これを使用していたものと認めるのが相当であり、本件新プログラムについても、前記(1)同様、被告会社における複製権侵害及び著作権法113条2項によるみなし侵害が認められる。
(3)前記(1)及び(2)の複製権侵害の態様に加え、前記1の事実経過等も踏まえると、本件プログラムについては、著作権法112条1項に基づいてその複製及び使用を差し止め、同条2項に基づいて本件プログラムが格納された記録媒体を廃棄し、又は、これらの記録媒体から本件プログラムを消去することを求める必要性があると認められるから、原告の差止請求及び廃棄請求は、その限度で理由がある。なお、原告の本件プログラムの廃棄請求(請求の趣旨第2項)は本件プログラムの記録媒体からの消去を求める請求を含むものと解される。
8 結論
(1)以上のとおり、原告の被告会社に対する請求は、著作権法112条1項及び2項に基づいて、本件プログラムについて主文第1項及び第2項の内容の差止及び廃棄等を求め、債務不履行に基づく損害賠償請求として、損害金6609万5820円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成31年1月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、本件違約金合意に基づく違約金請求として、違約金7393万6800円及びこれに対する同日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余の請求はいずれも理由がない。
 なお、請求の趣旨第3項に係る、平成20年9月分ないし平成30年3月分の本件プログラムの使用行為についての被告会社に対する請求として、原告は、債務不履行に基づく損害賠償請求と不法行為に基づく損害賠償請求を選択的に請求しているところ、前記3のとおり、不法行為に基づく損害賠償請求については、侵害行為が認められる期間が平成26年3月以降の期間であり、それに対する損害賠償額は970万4520円であったところ、別紙4債務不履行に基づく損害額計算表記載のとおり、当該期間については債務不履行による損害の発生も認められ、債務不履行に基づく損害賠償額が上記の不法行為に基づく損害賠償額を上回るものであった。そうすると、上記の選択的にされた各請求については、主文第3項の限度で、平成25年12月分(ただし、同月12日以降のものに限る。)ないし平成30年3月分の本件プログラムの使用についての債務不履行に基づく損害賠償請求として認容するのが相当である。
(2)また、前記3のとおり、原告の被告Aに対する請求はいずれも理由がない。
(3)よって、主文のとおり判決する。
 なお、主文第2項については、仮執行宣言を付すのは相当でないから、これを付さないこととする。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 國分隆文
 裁判官 小川暁
 裁判官 矢野紀夫


別紙一覧
別紙1 プログラム目録
別紙2 使用医師会数・請求額一覧表
別紙3 被告会社におけるパソコンの導入状況一覧表
別紙4 債務不履行に基づく損害額計算表

別紙1 プログラム目録
 1 HealthECO特定健診Ma
 2 HealthECO特定健診MaNEXT
別紙2ないし別紙4は省略
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