判例全文 line
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【事件名】JASRAC VS 音楽教育を守る会 楽曲使用料事件(2)
【年月日】令和3年3月18日
 知財高裁 令和2年(ネ)第10022号 音楽教室における著作物使用にかかわる請求権不存在確認控訴事件
 (原審・東京地裁平成29年(ワ)第20502号、同第25300号)
 (口頭弁論終結日 令和3年1月14日)

判決
 当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり


主文
1 控訴人らの主位的請求に係る控訴をいずれも棄却する。
2 控訴人らの予備的請求について、原判決を次のとおり変更する。
(1)各控訴人と被控訴人との間において、被控訴人は、各控訴人が生徒との間で締結した音楽の教授及び演奏(歌唱を含む。)技術の教授に係る契約に基づき行われる、教師と10名程度以下の生徒との間のレッスンにおける別紙著作物使用態様目録1記載の生徒の演奏について、被控訴人が著作権者から著作物の使用料の徴収を目的として著作権の信託譲渡又は徴収の委任を受けて有するところの著作物(令和3年1月14日時点で被控訴人が管理する全ての楽曲をいう。)の使用に係る請求権を有しないことを確認する。
(2)別紙C記載の各控訴人と被控訴人との間において、被控訴人は、同各控訴人が生徒との間で締結した前記(1)記載の契約に基づき行われるレッスンにおける別紙著作物使用態様目録4記載の生徒の演奏について、同(1)記載の著作物の使用に係る請求権を有しないことを確認する。
(3)控訴人らのその余の予備的請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審を通じて、これを2分し、その1を被控訴人の、その余を控訴人らの各負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
 別紙請求目録記載のとおり。
第2 事案の概要等
(以下、略称は、特に断りのない限り、原判決に従う。)
1 事案の概要
(1)本件は、教室又は生徒の居宅において音楽の基本や楽器の演奏技術・歌唱技術(以下「演奏技術等」という。)を教授する音楽教室を運営する控訴人ら(法人又は個人の事業者)が、著作権等管理事業法(平成12年法律第131号)に基づく文化庁長官の登録を受けた著作権管理事業者である被控訴人に対し、被控訴人が本件口頭弁論終結時に管理する全楽曲(被告管理楽曲)に関して、各控訴人が生徒との間で締結した音楽の教授及び演奏(歌唱を含む。)技術の教授に係る契約(本件受講契約)に基づき行われるレッスンにおける、控訴人らの教室又は生徒の居宅内においてした被告管理楽曲の演奏又は歌唱(以下、単に「演奏」という。)について、本件口頭弁論終結時、被控訴人が控訴人らに対して著作権(演奏権)侵害に基づく損害賠償請求権又は著作物利用料相当額の不当利得返還請求権をいずれも有していないことの確認を求める事案である。
ア 請求について
 本件で控訴人らが確認を求めるのは、前記損害賠償請求権又は不当利得返還請求権の存否のみであり、その確認請求には、各請求権が存在する場合にその具体的な賠償額又は返還額を確認の対象とする一部請求の趣旨は含まれていない。
 請求の内容は別紙請求目録に記載のとおりであるが、概ね次のように構成されている。
 すなわち、主位的請求(上記目録2ないし5)は、教師から生徒に対して演奏技術等の教授が行われる所定の時間で区切られたレッスンを単位として、当該レッスンの実施(控訴人らにより雇用され若しくは委任を受けた音楽教師によって行われるもの又は教師を兼ねる控訴人らによって行われるもの)により、音楽教室事業者である各控訴人の被控訴人に対する損害賠償請求権又は不当利得返還請求権が生じていないことの確認を求める請求であり、各種録音物の再生の有無等により区分けされた著作物使用態様目録1ないし4について、@生徒が単数であるか複数であるか、A楽曲が一曲を通して演奏されるか否かの観点から更に類型化されている。
 また、予備的請求(上記目録6ないし9)は、レッスン中における個々の演奏行為を単位として、当該演奏行為により音楽教室事業者である各控訴人の被控訴人に対する損害賠償請求権又は不当利得返還請求権が生じていないことの確認を求める請求である。予備的請求の個々の演奏行為は、@生徒又は教師がする演奏行為、A市販のCD等の録音物の再生行為、Bマイナスワン音源(生徒が演奏する楽器のパートのみを除いた合奏が録音された録音物)の再生行為に区分けされ、さらに、上記@は、生徒が単数であるか複数であるか、演奏された小節数の観点から類型化されている。
イ 請求の原因等について
 損害賠償請求権又は不当利得返還請求権の発生原因該当性が問題となっている主位的請求に係るレッスンの実施態様又は予備的請求に係る個々の演奏行為は、別紙著作物使用態様目録1ないし4にそれぞれ記載されたものに限定されており(各目録に記載された実施態様又は演奏行為は、そ25の中においても更に複数の実施態様又は演奏行為に細分化されるが、それら更に細分化された複数の実施態様又は演奏行為については、その全てを実施したものとされている。)、当事者間に争いのない事実となっている。そして、上記請求権発生の根拠としては、被控訴人は、控訴人らが演奏の主体として演奏権を行使したことのみを根拠としている。
 別紙著作物使用態様目録1記載の使用態様(本件使用態様1)については、全ての控訴人らが、同目録2記載の使用態様(本件使用態様2)については、別紙A記載の各控訴人(各控訴人(別紙A))が、同目録3記載の使用態様(本件使用態様3)については、別紙B記載の各控訴人(各控訴人(別紙B))が、同目録4記載の使用態様(本件使用態様4)については、別紙C記載の各控訴人(各控訴人(別紙C))がそれぞれ行ったものである。
(2)原判決は、個人教室を運営する各控訴人(別紙C)らについても確認の利益があることを認めた上で、全ての控訴人らとの関係で、@音楽教室事業者である控訴人らは、音楽著作物である被告管理楽曲の利用主体である、A教室内にいる生徒は「公衆」である、B教師は、著作権法22条にいう「公衆」である生徒に対し、生徒は、「公衆」である他の生徒又は演奏している自分自身に対し、「直接(中略)聞かせることを目的」として演奏をしている、C2小節以内の演奏であっても音楽著作物の利用であるとし、D控訴人らの、演奏権の消尽、実質的違法性阻却事由及び権利濫用の主張をいずれも排斥し、被控訴人の控訴人らに対する著作権侵害に基づく損害賠償請求権及び不当利得返還請求権のいずれの存在も認めて、控訴人らの請求をいずれも棄却した。
 控訴人らは、原判決を不服として、本件控訴を提起した。
2 前提となる事実等
 次のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」第2の2(3)(「原告らの分類等について」)及び第2の3(「前提事実」)に記載されたとおりであるから、これを引用する。
(1)5頁1行目から2行目の「別紙原告グループC目録」を「本判決別紙控訴人グループC目録」と改める。
(2)6頁15行目から16行目の「歌謡教室の管理」を「歌謡教室における音楽著作物の利用に係る著作権等の管理」と改める。
(3)7頁21行目の「課題曲」の次に「(被告管理楽曲を含む。以下同じ。)」を加える。
(4)8頁12行目の「小学生」を「中学生」と改める。
3 争点
 「争点」は、原判決の第2の4(「争点」)に記載されたとおりであるから、これを引用する。
4 争点に関する当事者の主張
 「争点に関する当事者の主張」は、次のとおり補正し、後記5に当審における当事者の補充主張を付加するほかは、原判決の第3(「争点に関する当事者の主張」)に記載されたとおりであるから、これを引用する。
(1)19頁9行目冒頭から同13行目末尾まで、20頁9行目冒頭から同16行目末尾まで、22頁1行目の「(原告」から同3行目の「いる。)」まで、27頁15行目冒頭から同21行目末尾まで、29頁24行目冒頭から30頁4行目末尾まで、及び30頁15行目冒頭から同16行目末尾までをいずれも削る。
(2)32頁16行目冒頭から同25行目末尾までを次のとおり改める。
 「 しかしながら、学校等の授業であっても、教室にいる生徒数が1名ないし10名程度であれば「公衆」には該当しないから、学校その他の教育機関の教室内における演奏等について、そのすべてを「公衆」に対する演奏とした上で、営利を目的としない上演等に関する規定により権利を制限するとの整理がされたわけではない。このことは、民間の音楽教室についても同様にいえる。
 すなわち、現行著作権法の立法過程においては、学校等の教室の授業における演奏は、同法22条の「公衆に直接聞かせることを目的」としない演奏とされているか、あるいは、多数の生徒に対する演奏であったとしても同法38条1項の営利を目的としない演奏として権利が及ばないとされているのである。そして、この整理は、昭和45年の著作権法案にも引き継がれた(甲14、15)。」
(3)34頁11行目冒頭から同26行目末尾まで、及び35頁15行目冒頭から同18行目末尾までをいずれも削り、37頁16行目の「すなわち」を「あるいは」と、40頁4行目の「第39号」を「第30号」とそれぞれ改め、同12行目の「である」の次に「(なお、控訴人らは、著作権法30条の4の権利制限規定を再抗弁として主張するものではない。)」を加える。
(4)46頁23行目の「申し入れるまで、」の次に「全ての控訴人らに対する関係で、」を加える。
(5)47頁16行目の「昭和45年」を「昭和46年」と改める。当審における当事者の補充主張
(1)控訴人ら
ア 演奏の主体について(争点2及び3関係)
(ア)レッスンにおける音楽著作物の利用主体は、実際に演奏行為をしている教師又は生徒であり、音楽教室事業者ではない。
 教師は、音楽的、教育的見地から裁量に基づき教授を行うものであり、その教授の一環として行われる演奏は、生徒の演奏技術の理解度、習熟度、練習状況等を踏まえて、指導上の必要やその場の状況に応じて、教師の判断により臨機応変に行われる。控訴人らは、教師がレッスンで演奏するかどうか、どのような演奏をどの程度するかについての管理はしていない。
 カラオケ施設においては、カラオケ装置を用いて楽曲を指定して再生ボタンを押せば、誰が行っても同じに録音物の機械的な再生がされ、これに合わせて客の歌唱がされるから、客の歌唱は、カラオケ伴奏の再生と不可分一体に付随して行われるものであり、録音物の再生に対するカラオケ店側の強い管理・支配があるといえ、店の経営者が客の歌唱をも管理・支配しているといえる。他方、音楽教室のレッスンにおける楽曲の演奏は、これとは異なり、教師又は生徒が自ら楽譜を読み、自ら曲の解釈をした上で、楽器を操作等して音を奏でるというものである。その演奏行為は、完成された楽曲の演奏に至る過程の未完成又は不完全な演奏であり、しかも、同じ曲であっても、演奏される範囲、音程、演奏速度等が1回1回全て異なるものであるなどその都度内容が変わり得るものであるから、音楽教室事業者がそのような演奏を管理・支配できるものではない。
(イ)音楽教室事業者を音楽著作物の利用主体であるとすると、教師や生徒に何ら著作権侵害行為がないにもかかわらず、音楽教室事業者に演奏権侵害が成立することになってしまう。
 すなわち、後述のとおり、実際の演奏は人的結合関係を有する「特定」の者との間で行われるため、音楽教室のレッスンの場には、実際の演奏者である教師又は生徒からみて聴衆となるべき「公衆」が存在せず、教師又は生徒のいずれも、演奏権の行使をしているとはいえない。そうすると、音楽教室事業者を音楽著作物の利用主体と評価すると、教師及び生徒との関係では演奏権の行使がないのに、これに関与したにすぎない音楽教室事業者との関係では演奏権の行使があることになり、音楽教室事業者のみが著作権侵害の責任を負うこととなってしまう。
(ウ)仮に、音楽著作物の利用主体を著作物の選定方法、著作物の利用方法・態様、著作物の利用への関与の内容・程度、著作物の利用に必要な施設・設備の提供等の諸要素を考慮して総合的に判断するとしても、次のとおり、音楽教室事業者を音楽著作物の利用主体と認定することはできない。
 すなわち、教師による課題曲の選定は生徒の希望によって決せられることもある上、演奏は、教師又は生徒が楽器で奏でるなどすることで初めて実現するものであるから、課題曲の選定が演奏の実現において果たす意味は小さいといえる。また、生徒の演奏は、何ら音楽教室事業者との契約等に基づく義務を負わずに演奏技術の向上のために任意にされているにすぎない。教師に対して指導マニュアルや研修が行われるとしても、これは、教師に対してレッスンの方向性や一般的な方針を示すにすぎず、レッスンは個々の生徒の技量、理解度、習熟度のほか、性格、取り組み姿勢、その日の状態等に応じて行うなど教師の裁量に委ねられており、このような指導マニュアルや研修が演奏に対して関与する程度はごく弱い。さらに、音楽教室における著作物の利用に不可欠な楽器(持ち運びのできない大型の楽器を除く。)や楽譜を用意するのは生徒である。そして、生徒が支払う受講料は演奏技術等の教授についての対価であり、教師の演奏行為に対する対価ではない。
 教師の行う録音物の再生演奏についても、レッスンで実際に録音物を使用するか、いつどのように再生するかは教師の判断によるのであり、上記同様に、録音物の再生演奏の主体が音楽教室事業者であるとはいえない。
イ 「公衆」について(争点2及び3関係)
(ア)演奏主体を教師又は生徒とすると、その演奏は特定かつ少数の者との間で行われるから、「公衆」はいない。
 音楽教室のレッスンは、第三者が立ち入れない教室又は生徒の居宅において、担任の教師と生徒1名ないし数名限りで行われる。そして、音楽教室においては、受講契約締結時ないし受講契約締結後レッスンが開始されるまでには、生徒の出席するクラスが決まり、レッスンの曜日・日時、時間、クラスの担任教師が決まる。クラスの担任教師と生徒が度決まれば、以後、これらが替わることは基本的になく、固定されたクラスの担任教師と生徒との間でレッスンが行われる。担任教師は、個々の生徒の技量、理解度、習熟度のほか、性格、取り組み姿勢、その日の状態等に応じた指導を行い、担任教師と生徒及び生徒同士の間には密接な人的結合関係が生じる。このようなことはクラスが編成された当初から予定されていることであるから、レッスン開始当初から、担任教師と生徒、生徒同士には人的結合関係が生じており、「特定」の関係にある。仮に、レッスン開始当初は、いまだ人的結合関係が築かれていないか、弱いとして「特定」の関係にあるとはみられないとしても、レッスンを5回、10回、20回と重ねていく中で、どこかの時点では、担任教師と生徒、生徒同士は人的結合関係を強め、「特定」の関係になる。
 また、教室にいる生徒は1名ないし数名(多くとも10名)であるから、「少数」である。
 したがって、教室にいる生徒は「特定」かつ「少数」であり、教師や生徒からみて「公衆」は存在しない。
(イ)仮に、演奏の主体が音楽教室事業者であるとしても、「公衆」に直接聞かせることを目的とする演奏とはならない。
 演奏行為が著作権法22条の「公衆に直接(中略)聞かせることを目的」とするものであるかは、具体的な演奏行為の時点を基準に検討されるべきものであり、それは、契約締結後に継続的に行われていく毎回のレッスンにおける演奏の時点であるから、そのレッスン時点での個人的な結合関係の有無を問うべきである。音楽教室事業者は、当該日時に当該教室でレッスンを受けに来る生徒の名前、住所、口座(自動振替の場合)等を把握し、従業員等である担任の教師を通して個々の生徒に各人の技能レベル、理解レベル、個性等に応じて指導を行っているから、音楽教室事業者からみても、生徒は「特定」の関係である。仮に、レッスン開始当初は、音楽教室事業者からみて生徒が「特定」の関係でないとしても、レッスンを5回、10回、20回と重ねていく中で、どこかの時点では、音楽教室事業者と生徒とは人的結合関係を強め、「特定」の関係になる。
(ウ)音楽教室における演奏(録音物の再生を含む。)は、生徒の演奏技術の理解度、習熟度、練習状況等を応じて毎回異なり、それぞれに個性のある演奏である上に、著作権法22条が「公衆に(中略)直接聞かせることを目的」と規定しているのは、その文理上、実際の演奏の場で直接に演奏を聞く者が「公衆」すなわち不特定又は多数の者であることを要求したものというべきであるから、レッスンにおける実際の演奏の場で演奏を聞く生徒の数で「少数」であるか否かを決しなければならない。これに反して、時間や場所等を異にして行われる、多くのレッスンに参加する全ての生徒を累積的に算定して「多数」であるとするのは、上記著作権法22条の文理に反する。また、社会通念上も、教師と「少数」の生徒を単位とするレッスンが組織的、継続的に行われたからといって、当該生徒を累積的に算定して「多数」になるとは考えない。したがって、生徒は「少数」である。
 以上から、仮に、演奏の主体が音楽教室事業者であるとしても、それは「特定」かつ「少数」に対する演奏であるから、「公衆」に直接聞かせることを目的とする演奏とはならない。
(エ)音楽教室事業者が演奏の主体であるとすれば、教室には聴衆(演奏を聞いているだけの者)がいないから、レッスンでの生徒の演奏及び教師の演奏は、「公衆」に直接聞かせることを目的とする演奏とはなり得ない。
 著作権法22条が、演奏を聞かせる対象として演奏者とは別の聞き手の存在を要求していることは文理上明らかであり、同一人を演奏者と聞き手の二重に評価するような法解釈は採り得ない。
 教師及び生徒の演奏が、音楽教室事業者が演奏主体としてする演奏であるとしながら、当該教師及び生徒が同時に「公衆」として自分自身の演奏を聞いているとするならば、そのような「一人二役」となる構成は、あまりにも不自然かつ不合理である。著作権制度審議会答申等(昭和41年答申。乙7)の付属書である著作権制度審議会答申説明書(答申説明書。乙8)は、「演奏者等の他に聴衆等がいない場合」の演奏を公の演奏ではないとしており、「使用者のほかには、観衆または聴衆がいない場合」の例として、楽団員が運営者と同視し得るか否かを問題とすることなく、オーケストラの練習を挙げており、しかも、そこには、運営者に雇用等される者の場合だけではなく、大学等のクラブ・サークルや市民によるオーケストラ等の運営者に雇用等されるわけではない場合も含まれていると解される。そうすると、楽団員が運営者と同視し得るか否かにかかわらず、演奏者のほかに聴衆がいない場合は「公」の演奏に当たらないとされているのであり、このことは、音楽教室のレッスンでも同じである。また、オーケストラの練習では楽団員が全て運営者と同視し得るから公衆が存在せず、音楽教室の場合とは異なるとの理由付けをしようとしても、音楽教室における教師及び生徒の演奏を音楽教室事業者が演奏主体として行う演奏と考えるならば、教師及び生徒も全て運営者(音楽教室事業者)と同視し得る者であるから、やはり、公衆は存在しないというほかない。また、カラオケボックスにおける顧客の歌唱についても、他の顧客が聞き手になることはあっても、少なくとも、歌唱者自身が「公衆」として聞き手の立場を有するとはいえない。
(オ)音楽教室におけるレッスンは、教師や生徒が発表会等において他人に聞かせる準備として行うものなので、毎回のレッスンでの演奏について著作物使用料は発生しない。
ウ 聞かせることを目的」について(争点2及び3関係)
(ア)著作権法22条の「聞かせることを目的」とするの意義は、聞き手に官能的な感動を与える目的、ないしは、音楽の著作物としての価値を享受させる目的と解すべきである。
 著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」(法2条1項1号)ところ、著作物の視聴等をする者が、当該著作物に表現された思想又は感情を享受することにより、その知的、精神的欲求を満たすという効用を得ることができるという点に、著作物の経済的価値が見出される。
 このことは、法22条の演奏権についても当てはまることであり、当該演奏を聞いている聴衆が、当該著作物に表現された思想又は感情を享受することにより、その知的、精神的欲求を満たすという効用を得ることができるという点に財産権としての経済的価値を見出したものである。
 このような著作物及び演奏権の意義に照らせば、法22条の「聞かせることを目的」とは、単に物理的に音が聞こえていればよいというものではなく、聞き手に官能的な感動を与えることを目的とする、あるいは、音楽の著作物としての価値を享受させることを目的とすることが必要であると解すべきである。現に、著作権法30条の4は、「著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」に著作権の行使が制限されることを規定している。
(イ)生徒は、演奏技術等の習得や上達を目指して教師から指導を受けるために演奏をし、また、自分が出している音を聴く必要があるものの、本来、演奏技術等の習得や上達のための過程での未完成の拙い演奏を教師以外の他人には聞かれたくないと思うものであり、いわんや、教師又は他の生徒に対して、官能的な感動を与えようとか、著作物としての価値を享受させようとかとの主観的な目的意思はない。演奏態様としても、レッスンにおける生徒の演奏は、数小節の短いフレーズの演奏の繰り返しがほとんどであり、テンポも遅くたどたどしく、演奏の途中で教師による指導のために止められたりすることもあり、演奏態様から外形的に判断しても、官能的な感動を与えようとか、著作物としての価値を享受させようとかとの目的意思を有するものとは認められない。
 なお、仮に、他の生徒の演奏を聞くことに有用性があったとしても、そのことから、演奏する生徒が他の生徒に聞かせる目的意思で演奏していることにはならない、
 したがって、レッスンにおける生徒の演奏は、「聞かせることを目的」とした演奏には該当しない。
(ウ)教師は、生徒に理解しやすいように課題や手本を示すために演奏をしており、演奏する際の手や体の使い方を生徒に「見せる」ことで分からせることも主眼となっている。そのため、その演奏の態様も、わざと大げさに弾いたり、生徒が間違えた部分の真似をしてみせたり、悪い手本を見せたり、数小節など部分的に演奏をしてみたり、音を声で出したり説明をしながら演奏をしたりするなどする。このような教師の演奏は、主観的にも、また、演奏態様から外形的に判断しても、官能的な感動を与えようとか、著作物としての価値を享受させようとかとの目的意思を有するものとは認められない。
 したがって、レッスンにおける教師の演奏は、「聞かせることを目的」とした演奏には該当しない。
エ 2小節以内の演奏について(争点4関係)
(ア)演奏された部分に著作物性があるか、又は、「聞かせることを目的」とする演奏となるか否かは、あくまでも実際に演奏された部分を対象として判断すべきであり、演奏者やこれを聞く者が当該小節が特定の楽曲の一部であることを知っていることはその根拠にはならないし、ある楽曲の一部であることを知っている者に対しては著作権の侵害が成立し、それを知らない者に対しては著作権の侵害が成立しないなど、聴衆の主観的認識の相違によって著作権侵害の成立が左右されるものでもない。
(イ)音楽教室のレッスンにおいて繰り返し練習される2小節以内の部分は、通常、楽器の演奏の際に高度の技術を必要とする部分であるが、楽曲の先頭であったり、楽曲の代表的なメロディ部分とは限らない。したがって、実際に演奏される当該部分を聞いただけでは、それが属する楽曲を知ることができるとは限らない。
(ウ)また、2小節以内の演奏は、メロディー、リズム、ハーモニーといった要素が十分に発揮されることがなく、それ自体、著作物性を有しないものである。したがって、2小節以内の著作物たる楽曲を演奏したものではないから、これを演奏したことが「聞かせることを目的」とした演奏に当たることはない。
オ 演奏権の消尽について(争点5関係)
(ア)消尽理論は、所有権と知的財産権との調整を図るため著作権法を含む知的財産法一般について原則となる理論であり、譲渡権の消尽を規定する著作権法26条の2もこれを確認的に規定した例示規定にすぎない。したがって、消尽理論は、著作権者の利益が不当に害されないのであれば、譲渡権以外の支分権についてもこれを認めることができ、音楽著作物の楽譜への登載及び音楽著作物のマイナスワン音源への録音の際に、権利者において演奏権の対価取得の機会があれば、原則どおり演奏権は消尽する。なお、権利者がそのような機会を利用して実際に対価を取得していたか否かは、著作権者がその対価取得機会があったのにこれを利用しなかったという自己責任の問題であり、実際の対価の取得の有無により消尽の成否が左右されるものではない。また、著作権法は、著作物に関する権利として複数の支分権を規定しているが、これは、著作物の利用態様のうちのいかなる行為を別個の権利として切り分けるかという立法技術により生じたものであり、一つの創作により一つの著作権が生じているにすぎず、支分権が異なることが消尽の成立を妨げるものではない。
(イ)控訴人らが使用する教材は、その性質上、音楽教室において教師及び生徒によるレッスンでの演奏に利用(以下「レッスン利用」という。)することを前提としており、音楽教室事業者は、教材価格の10%を著作権使用料として被控訴人に支払っているほか、コンサートや発表会の場での演奏では、総入場料収入の10%を被控訴人に支払っている。教材の内容は、各回のレッスンで練習する音楽の演奏に必要な情報の記載が主であり、レッスンを受講せずに教材として使用することは困難で考えられなく、また、性質上、マイナスワン音源はレッスン以外での利用が想定できないから、教本に掲載された楽譜やマイナスワン音源がレッスン利用されることは推測できたものであるし、仮に、教本に掲載された楽譜やマイナスワン音源が演奏権の及ばない態様で演奏される可能性があるとしても、本来的な用途が音楽教室における演奏であることは明らかであるから、権利者は、演奏権の対価を複製の際に取得する機会は十分に保障されていたのであって、消尽を否定する理由とはならない。
 かえって、教材が専らレッスン利用されることを被控訴人が想定していたことは、以下のとおり明らかである。すなわち、控訴人らは、教材を出版するに際して、被控訴人に利用申込書を提出しているが、被控訴人が作成し、控訴人らに提出を求めている「出版利用申込書」では、「種別」欄に該当する種別を記入することが求められており、「販売用出版物等」については、種別として「E.音楽の教則本」が存在する(甲46)。
 また、同じく、被控訴人が作成し、控訴人らに提出を求めている「録音16利用申込書」には、「頒布方法」の欄があり、音楽教室の教材のように市販用でないものは「2.その他」にチェックをし、具体的な方法を記入することが求められている(甲47)。したがって、被控訴人は、当該出版利用申込書及び録音利用申込書の記載によって、音楽教室の教材についてレッスン利用がされることを事前に把握することができたものである。また、同出版利用申込書には「セット商品」の欄があり、付属する「出版利用申込書(初版用1)記入要領」において「出版物と他の商品(例:音楽の教則本と模範演奏CD)をセットで販売する場合は、有に○印、()内にセット商品名をご記入ください。」との指示がされている(甲46)。以上によれば、被控訴人は、出版を許諾する著作物が本件のように音楽教室での教則本として利用されること及び当該教則本に収録された楽曲の模範演奏CD等の記録媒体が音楽教室でのレッスンのためにセットで販売されることを想定していたというべきである。
(ウ)以上のとおり、控訴人らの教材の一般的な利用態様はレッスンにおける演奏であり、被控訴人は、そのことを十分に知悉していたのであるから、権利者において音楽教室でのレッスン利用の演奏権の対価を事前に取得する機会が保証されていたということができる。したがって、音楽著作物の教材への収録(複製)によって、当該教材を用いての演奏に対する演奏権は消尽する。被控訴人の権利行使を認めることは、権利者に二重の利得を与えることを意味する。
カ 権利濫用について(争点7関係)
(ア)現行著作権法が施行された昭和46年から平成15年までの間、被控訴人は、控訴人ヤマハに協議を申し入れるまで、音楽教室における演奏について権利を行使しなかった。
 被控訴人は、平成11年改正法による改正まで著作権法附則14条により著作権者の権利が制限されていたことを権利不行使の理由とするが、同条により制限されていた著作権者の権利は、音楽教室のレッスンでは補完的な教材にすぎない「録音物の再生演奏」についてのものであり、音楽教室のレッスンにおいて行われる演奏のうち大部分を占めている「演奏」についてのものではないのであるから、被控訴人の権利不行使と同条の存置とは何ら関係がなく、被控訴人らは、昭和46年の現行著作権法制定時から直ちに、音楽教室事業者に対して音楽教室における演奏について権利行使ができたものである。現に、被控訴人は、カラオケスナック店には権利行使をしていたし(クラブキャッツアイ事件最高裁判決参照)、音楽教室での発表会での演奏についても、昭和49年に、控訴人ヤマハに対して著作物使用料を請求してきており(原審証人P)、その際、レッスンでの生徒の演奏及び教師の演奏についても一緒に権利行使ができたはずである。その権利行使を怠ってきたことについて合理的な理由はない。
(イ)このようなことからすると、レッスンでの生徒の演奏及び教師の演奏について、被控訴人が著作物使用料の請求をしてこなかったのは、権利者を含む誰もが、レッスンでの毎回の練習や指導についてまで著作権使用料を徴収すべきとは考えていなかったからにほかならず、この認識の下に32年以上もの間、音楽教室事業が営まれてきたのである。このような音楽教室事業者の地位は法的保護に値するものであり、他方、上記のとおり、被控訴人は、権利行使が容易であるにもかかわらず、これを32年間という長期間にわたって放置・容認してきたものであるから、少なくとも、レッスンにおける生徒の演奏及び教師の演奏に係る損害賠償請求権及び不当利得返還請求権については、権利が失効しており、権利行使は許されない。
(2)被控訴人
ア 演奏権の主体について(争点2及び3関係)
(ア)教師は、控訴人らが定めた教育方法に従って、控訴人らと本件受講契約を締結した生徒を教育する義務を負っているのであり、教師のする演奏は、控訴人らに対する当該義務の履行の一環であるから、控訴人らの管理・支配の下にある。
 音楽著作物の利用主体を論ずるに当たり、同一の音楽著作物を演奏するときにその実演としての演奏が同一であるかどうかが問題になることはなく、音楽教室に限って、生徒の演奏の完全度をもって結論が左右される理由はない。音楽教室における生徒の演奏は、未完成で不完全であるとしても、利用されているのは完成された楽曲にほかならない。カラオケ店における客の歌唱に演奏権が及ぶことに異論はないと思われるが、その歌唱もその都度異なる歌唱で、未完成で不完全なものが多く存在し、その演奏は均一なものではない。
(イ)規範的に音楽著作物の利用主体を判定するに当たり、実際の演奏者との関係においてその演奏の場にその演奏を聞く「公衆」が存在し、実際の演奏者との関係において演奏権の侵害が生じていなければならないという従属説(2段階説)を前提にする必要はない。控訴人らの主張する判断枠組みによると、カラオケ店における客の歌唱につき、歌唱する客が当該店舗に一人しかいないか又はその関係者しかいない場合のものであるか、歌唱する客とは関係のない客がいる場合のものであるかによって、演奏権が及ぶかどうかという法律効果に差異が生ずることになるが、そのような結論に合理性はない。また、歌唱する客とその関係者しか演奏の場にいないカラオケボックスにおける客の歌唱にも演奏権が及ぶとする考え方は裁判上確立しているが、控訴人らの主張は、著作権管理の実務においても定着しているこの考え方と整合しない。
(ウ)音楽教室事業者と生徒との間には受講契約が成立しており、生徒は音楽教室事業者又はその手足である教師の指導に従うことを合意し、レッスンにおける演奏はそのような受講契約の一環としてするものであり、生徒のレッスンにおける演奏は受講契約に基づく権利であり義務である。生徒が任意に演奏することと生徒のする演奏が受講契約に基づく権利又は義務としてのものであることとは、別問題であり、両立する。また、控訴人らは、教師に対するマニュアルを作成し、教師に対して研修等を実施するなど、様々に工夫することによってレベルの高いレッスンを実現している旨を宣伝し、これによって顧客を誘引し、さらに、音楽教室10におけるレッスンを一定以上のレベルに保つべく費用と労力とを注いでいる。そして、音楽教室における演奏の実現のためには、演奏を行う施設(教室)及び演奏に必要な設備(音響設備、録音物の再生装置等)の確保が不可欠であるところ、控訴人らにおいて生徒が準備できないものとして自認する「持ち運びのできない大型の楽器」は、ピアノ、エレクトーン、ドラムセット等の音楽教室事業の中心であり、また、控訴人らは、持ち運びできる楽器であっても音楽教室事業の一環としてこれをレンタルすることもある。
 このように、音楽教室での演奏を管理・支配しているのは控訴人らであり、演奏される音楽著作物の利用主体は、音楽教室事業者である控訴人らである。
イ 「公衆」について(争点2及び3関係)
(ア)演奏権行使の有無については、まず利用主体を確定し、次に当該利用主体との関係において当該主体による演奏が著作権法2条5項の「公衆」に対するものであるかどうかを決して判断されるものである。そして、音楽教室事業者と生徒とが「特定」の関係に立つかどうかは、受講契約の締結時を基準として決せられる。
 音楽教室は誰でも受講契約の締結が可能であり、この受講契約に基づいて音楽教室事業者は生徒に対してレッスンを提供し、生徒は演奏技術等の向上のために課題曲を演奏するが、生徒はいつでも受講契約を終了させることができるというのが音楽教室事業者のビジネス・モデルあり、このような音楽教室事業における演奏に演奏権が及ぶかどうかが本件の問題である。音楽教室において行われるレッスンとは、ビジネスとして組織的・継続的に時間や場所を異にして累積されて行われるレッスンであるから、特定のある1回分のレッスンだけではなく、時間や場所等を異にして実施される個別のレッスンの全体を法的評価の対象とすべきである。そうすると、音楽教室事業者からみて生徒は「多数」となり、「公衆」が存在する。
(イ)音楽教室事業者は顧客のニーズに合わせて様々なコースを提供しているところ、生徒の受講継続期間もまた様々である。音楽教室事業者において、顧客である生徒の個人情報を把握し、手足である教師が生徒の習熟度や取り組み姿勢に応じた指導をする方針を採用しているとしても、これらの事情はビジネスの必要によるものであって、「密接な人的結合関係」とはいい難い関係であるし、クラス変更、短期レッスン等の例外も存する。密接な人的結合関係になかった音楽教室事業者と生徒との関係が、レッスンを繰り返すことによって質的変化を来すと控訴人らは主張するが、両者の関係がどのような理由によってどの時点で質的変化を来すのかは定かではないし、常に教師と生徒の間で密接な人的結合関係が生じるとも限らない。
(ウ)実演としての演奏が全く同一でないとしても、被告管理楽曲を演奏していることには変わりはない。
(エ)著作権法22条は、演奏の「聞き手」である「公衆」に「実際の演奏者以外」という限定を付していない。密接な人的結合関係を有する少数の者同士で又は1人でカラオケボックスの各個室内でした歌唱も、カラオケ店の経営者が歌唱者である客に直接聞かせることを目的として演奏するものに当たると解釈されている。このように、演奏の主体との関係で聞き手が別に存在するかどうかという観点から公衆性を決するという判断枠組みは裁判実務に定着しており、控訴人が主張するような「一人二役」という性質付けがされているのではない。
 演奏する生徒が自らの演奏を聴くことや、生徒が他の生徒の演奏を注意深く聞くことが演奏技術の向上のために必須であり、実際の演奏者が聞き手でもあること自体が音楽教室における演奏技術の教授の本質なのであるから、音楽教室における生徒の演奏は、顧客である生徒の演奏の主体である控訴人ら音楽教室事業者が、公衆である他の生徒又は演奏している生徒自身に対して「聞かせることを目的」として演奏をしているとみるべきである。このように、演奏の主体との関係において当該演奏の聞き手は厳然と別に存在しているから、控訴人らが主張するように演奏者と聞き手が別でなければならないとの著作権法22条の解釈を前提にしても、演奏の利用主体とは別の聞き手が存在しているといえる。
 また、答申説明書(乙8)において、オーケストラの練習が「公」の演奏に当たらないとされたのは、オーケストラの楽団員はオーケストラの運営者に雇用されるなどの契約関係に立つ者であって、音楽著作物の利用主体であるオーケストラの運営者から賃金を受け取るなどして履行を補助する者であるから、楽団員の地位をオーケストラの運営者の地位と同視することができるところ、このような運営者の手足である楽団員以外に、入場客(不特定又は多数の聴衆)がいないからである。この点は、大学等のクラブ・サークルや市民によるオーケストラについても運営者は厳然と存在するから、同様である。これに対し、音楽教室の生徒は、音楽教室事業者の顧客であるから、生徒の地位を音楽教室事業者の地位と同視することができず、音楽教室のレッスンにおける演奏は、音楽著作物の利用主体である控訴人ら音楽教室事業者からみて、常に不特定多数の顧客である生徒という公衆に対してされているとみることになる。控訴人らが雇用ないし準委任契約により手足とする教師あるいは教師である控訴人ら自身の演奏、控訴人らが設置した再生機器による控訴人らが用意した録音物の再生演奏、及び、控訴人らが演奏技術を教えるために演奏させている生徒の演奏は、いずれも控訴人らから不特定又は多数の顧客であるその生徒(公衆)に対してする演奏である。
(オ)音楽教室におけるレッスンといえども、控訴人ら音楽教室事業者が顧客である生徒から受講料を受け取って、録音物の再生演奏、教師の演奏及び生徒の演奏を公衆である生徒に聞かせて行うものであるから、発表会等における演奏と何ら異なるものではない。
ウ 「聞かせることを目的」について(争点2及び3関係)
(ア)著作権法22条の「聞かせることを目的」とするとの意義は、例えば、風呂の中で歌うとか、家の中で自分の家族に聞かせるために歌うといった、公衆に向けられたものではなく、著作物の経済的利用として概念するには足りないような行為を除外するものにすぎない。
 また、著作権法30条の4は、「享受の目的がないこと」をもって同法22条の適用に対する著作権の制限としての抗弁事由を規定するものであるから、同30条の4があるがゆえに、支分権の発生要件を規定する同22条が「享受の目的があること」との著作権の制限事由がないことを要件とするものと解し、同条の適用範囲を狭める解釈は、構造的に誤った理解に基づくものである。
(イ)生徒が未完成のつたない演奏を他人に聞かれたくないと思うものであるかどうかは断定することはできないし、「聞かせることを目的」とするかどうかは、外形的・客観的に判断すべきであり、個々の生徒の内心の意思によって左右されるものではない。そもそも、「聞かせることを目的」とするかどうかは、音楽著作物の利用主体である音楽教室事業者の目的として問題とされるべきものであるから、個々の生徒の内心を問題にすること自体が無意味である。音楽教室における生徒の演奏が数小節の短いフレーズの繰り返しがほとんどであることを示す証拠はないし、教師から、課題曲1曲を通して演奏するよう指示されたか、数小節の短いフレーズごとに演奏するよう指示されたかによって、「聞かせることを目的」とする演奏に該当したり、該当しなかったりするという解釈は、合理的なものではない。
 仮に、生徒の内心の目的意思を基準にするとしても、それは外形的・客観的に定めるべきところ、生徒は、好きな曲を自ら演奏したり教師又は他の生徒の演奏を聴くことで曲の雰囲気を味わうことを希望して、担任教師の指導に従って演奏を行うのであるから、自らを含む生徒に「聞かせることを目的」としてする演奏であり、音楽著作物としての価値を享受することを目的とする演奏にも当たる。
(ウ)控訴人らは、教師の演奏は、おおげさに弾いたり、悪い見本を示したり、部分的に演奏したりなどするものであり、「聞かせることを目的」とした演奏には該当しないと主張するが、これは、教師が課題曲の演奏技術等を教授する手法には幾つかのやり方があるというにすぎず、いずれにしても課題曲を演奏していることに変わりはなく、その演奏に演奏権が及ぶことは当然である。教師は、レッスンの実を少しでも効果あるものとするために、課題曲の演奏技術等につき、自らの指導の意図が生徒に伝わりやすいように演奏するのであるから、「聞かせることを目的」として演奏していることにほかならない。
エ 2小節以内の演奏について(争点4関係)
(ア)音楽教室のレッスンにおいて特定の2小節以内のフレーズを弾く24場合においても、そのレッスン中には当該小節の前後の小節も演奏されるのが通常であり、課題曲が様々な形で連続的・重畳的に演奏されるなどの不可分一体の利用実態があり、2小節以内の演奏のみが独立性のある演奏としてされているわけではない。音楽教室のレッスンにおいて、教師も生徒も課題曲のうちの特定の2小節以内の小節のみを演奏し、他の小節は一切演奏しないというようなレッスンが多くあれば、生徒の演奏意欲を削ぎ、音楽教室事業は成り立たなくなる。このような実態の下において、楽曲の2小節以内の部分に著作物性を肯定できるかどうかを問題にするのは誤りである。
(イ)音楽教室のレッスンでは、課題曲が明示されており、2小節以内の演奏の場面でも、教則本を前にして、教師や生徒は、課題曲のうちの特定の2小節以内を課題曲全体の一部として演奏し、それを聞いている生徒も、課題曲の一部であると認識しつつ聞いているという客観的事実がある。このように、あくまでも課題曲の演奏をしていることが明らかになっており、控訴人らが課題曲を利用していることに変わりはないし、課題曲の2小節以内の部分が演奏される場合であっても、あくまでも課題曲1曲の演奏をマスターするため、又は課題曲の演奏技術向上のため演奏されるのであって、課題曲と無関係に独立して演奏されるわけではない。そのため、たとえ2小節以内の部分の演奏であっても、常に課題曲全体の曲想・特徴を念頭に置き、これを表現することを企図して、その一部分の演奏のあり方が探求されるものであり、その一部分は、課題曲を離れたただの音の断片ではないから、課題曲のうちの当該2小節を切り取り、その著作物性の有無を論ずる意味はない。したがって、2小節以内の演奏を繰り返すレッスンがあったと仮定しても、演奏権が及ぶかどうかは、課題曲を対象として検討すべきであるし、また、課題曲を2小節ずつ区切って演奏すれば、全小節、全曲を演奏しても課題曲の演奏にならなくなるわけではないから、課題曲をどのように細分化してレッスンしようとも、それは、課題曲の演奏というべきである。
(ウ)仮に、課題曲のうちの2小節以内を切り取って著作物性を判断すべきであるとしても、2小節以内の部分を聞いただけでそれが属する楽曲を知ることができる曲の数はおびただしく、そのことは、当該2小節以内の部分が創作性のある表現物であることを意味するしたがって、課題曲の2小節以内の部分には一律に著作物性がなく、これを演奏しても聞かせることを目的とした演奏に当たらないという控訴人らの主張は成立しない。
オ 演奏権の消尽について(争点5関係)
(ア)原則として著作権の全てについて消尽理論が及ぶとか、事前に対価取得機会が保障されれば他の支分権も含めて消尽するなどというのは、根拠も認められないことであって、控訴人らの独自の見解である。当事者双方が、演奏権の対価に係る交渉・合意も、その支払もしていないことを明確に認識しているのであるから、複製権を許諾した側の当事者の「自己責任」なるものは生じようがないし、複製権の許諾を受けた側の当事者にも、演奏権の許諾を受け、その対価を支払ったとの認識は生じようがなく、「取引の安全を害する」という問題は生じ得ない。そうすると、市場における商品の自由な流通と取引の安全の確保という要請もなく、消尽を肯定すべき正当化理由も欠如している。
 また、権利者に何らかの対価取得の機会がありさえすれば、著作権の支分権全てが消尽するとする控訴人らの主張についても、支分権の相違が消尽を妨げる理由にならない根拠が示されていない。すなわち、著作権法は、著作権を支分権の束として構成し、支分権ごとに各別の効力を保障し(著作権法21条ないし28条)、支分権ごとの譲渡を保障し(同法61条1項)、支分権ごとの利用許諾を保障し(同法63条)、支分権ごとの権利行使を保障している(同法112条ないし118条)のであり、支分権ごとの代償は各別のものであって、支分権ごとに代償を取得しても二重利得ではないし、むしろ、支分権ごとに代償を確保する機会が保障されなければならない。したがって、著作権法は、全支分権の償を確保する機会を1回与えればよいとの趣旨にあるとは解釈できない。
(イ)出版利用申込書(甲46)又は録音利用申込書(甲47)の記載内容を一見すれば明らかであるが、その各記載内容から推測することができるのは、教材用の出版又は録音の許諾申込みであることだけであって、音楽教室のレッスンに使用されるかどうか、音楽教室の発表会に使用されるかどうか、生徒の予習や復習に使用されるかどうか、それ以外の方法で使用されるかどうか、それぞれの使用割合はどのようなものか、といった諸点は全く判明しない。したがって、複製を許諾したからといって、著作権者に演奏権の対価取得の機会が保障されていたとは到底いえない。
カ 権利濫用について(争点7関係)
(ア)著作権法施行時の昭和46年1月1日から同法附則14条が廃止された平成12年1月1日までの間、被控訴人は、その財政(予算)及び人員の制約から、理論的に権利行使することのできる音楽著作物の利用分野の全てにつき、同時に又は短期間のうちに管理を開始することに困難があり、懸案になっていた利用分野につき順序をつけて管理を開始しなければならない実情にあった(原審証人P)。被控訴人は、昭和49年に発表会における管理著作物の演奏につき演奏権が及ぶことを指摘し、その著作権管理に着手しようとしたが、協議が難航し、それすら著作権管理の開始に至ったのは昭和60年のことである。
(イ)被控訴人が音楽教室事業のレッスンにおける音楽著作物の利用につき著作物使用料を徴収すべきではないと考えていたことを示す証拠はない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(各控訴人(別紙C)らについての確認の利益の有無)について
 当裁判所も、各控訴人(別紙C)らに係る本件請求について確認の利益があると認める。その理由は、原判決の第4(「当裁判所の判断」)の1に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 争点2(音楽教室における演奏が「公衆」に対するものであるか)及び争点3(音楽教室における演奏が「聞かせることを目的」とするものであるか)について
(1)はじめに
ア 演奏権について
(ア)著作権法22条は、「著作者は、その著作物を、公衆に直接(中略)聞かせることを目的として(中略)演奏する権利を専有する。」として演奏権を定めている。著作権法は、「演奏」それ自体の定義規定を置いておらず、その内容は、辞書的、日常用語的な意味に委ねていると解されるところ、その意義は「音楽を奏すること」との意味合いであると理解するのが自然である。
 そして、著作権法2条1項16号は、「上演」の定義中に「演奏(歌唱を含む。以下同じ。)」と定めているから、同法22条の「演奏」の中には歌唱が含まれている。また、著作権法2条7項は、「この法律において、「上演」、「演奏」又は「口述」には、著作物の上演、演奏又は口述で録音され、又は録画されたものを再生すること(公衆送信又は上映に該当するものを除く。)及び著作物の上演、演奏又は口述を電気通信設備を用いて伝達すること(公衆送信に該当するものを除く。)を含むものとする。」と定めているから、演奏には、録音されたものの再生や電気通信設備を28用いた伝達(公衆送信に該当するものは除く。)が含まれることになる。
(イ)著作権法は、演奏行為の聴衆である「公衆」の定義規定は置いていないが、少なくとも不特定者が「公衆」に含まれることは明らかであるところ、同法2条5項は、「この法律にいう「公衆」には、特定かつ多数の者を含むものとする。」と定めているから、「公衆」とは、「特定かつ少数」以外の者(不特定又は多数の者)をいうことになる。
(ウ)著作権法22条は、演奏を「直接」聞かせることを目的とするものとしているから、演奏行為は「直接」聞かせることを目的としてされるものを指すことは明らかである。したがって、著作権法は、演奏に際して、演奏者が面前(電気通信設備を用いる伝達を含む。)にいる相手方に向けて演奏をする目的を有することを求めているといえる。
イ 著作権法22条の立法経緯等
 当裁判所も、著作権法の全部改正の際の著作権法22条の制定過程において、学校その他の教育機関の授業における著作物の無形複製について一般的に著作権が及ばないという考え方は採られておらず、また、音楽教室事業者による営利を目的とする音楽教育は「社会教育」には当たらないとされており、学校その他の教育機関の授業における著作物の無形複製や社会教育に関する当時の検討事項が、著作権法の全部改正後の著作権法22条の解釈に直ちに影響を及ぼすものではないものと認める。その理由は、原判決の第4の2(1)アないしウに記載のとおりであるから、これを引用する。
ウ 著作物の利用主体の判断基準について
 引用に係る原判決の第2の3(補正後のもの)によれば、控訴人らの運営する音楽教室事業は、控訴人らが設営した教室において、控訴人らと雇用契約又は準委任契約を締結した教師が、控訴人らと本件受講契約を結んだ生徒に対し、演奏技術等を教授し、その過程において、必然的に教師又は生徒による課題曲の演奏が行われるというものである(本件使用態様2の場合には市販のCD等の再生が、本件使用態様3の場合にはマイナスワン音源の再生が併せて行われる。)。
 このように、控訴人らの音楽教室のレッスンにおける教師又は生徒の演奏は、営利を目的とする音楽教室事業の遂行の過程において、その一環として行われるものであるが、音楽教室事業の上記内容や性質等に照らすと、音楽教室における演奏の主体については、単に個々の教室における演奏行為を物理的・自然的に観察するのみではなく、音楽教室事業の実態を踏まえ、その社会的、経済的側面からの観察も含めて総合的に判断されるべきであると考えられる。
 このような観点からすると、音楽教室における演奏の主体の判断に当たっては、演奏の対象、方法、演奏への関与の内容、程度等の諸要素を考慮し、誰が当該音楽著作物の演奏をしているかを判断するのが相当である(最高裁平成21年(受)第788号同23年1月20日第一小法廷判決・民集65巻1号399頁〔ロクラクU事件最高裁判決〕参照)。
エ 「公衆に直接(中略)聞かせることを目的として」について
(ア)「公衆に直接」について
 前記ア(イ)のとおり、著作権法22条は、演奏権の行使となる場合を「不特定又は多数の者」に聞かせることを目的として演奏することに限定しており、「特定かつ少数の者」に聞かせることを目的として演奏する場合には演奏権の行使には当たらないとしているところ、このうち、「特定」とは、著作権者の保護と著作物利用者の便宜を調整して著作権の及ぶ範囲を合目的な領域に設定しようとする同条の趣旨からみると、演奏権の主体と演奏を聞かせようとする目的の相手方との間に個人的な結合関係があることをいうものと解される。
 また、同(ウ)のとおり、著作権法22条は、演奏権の行使となる場合を、演奏行為が相手方に「直接」聞かせることを目的とすることに限定しており、演奏者は面前にいる相手方に聞かせることを目的として演奏することを求めている。
 さらに、自分自身が演奏主体である場合、演奏する自分自身は、演奏主体たる自分自身との関係において不特定者にも多数者にもなり得るはずはないから、著作権法22条の「公衆」は、その文理からしても、演奏主体とは別の者を指すと解することができる。
(イ)「聞かせることを目的」について
 著作権法22条は、「聞かせることを目的」として演奏することを要件としている。この文言の趣旨は、「公衆」に対して演奏を聞かせる状況ではなかったにもかかわらず、たまたま「公衆」に演奏を聞かれた状況が生じたからといって(例えば、自宅の風呂場で演奏したところ、たまたま自宅近くを通りかかった通行人にそれを聞かれた場合)、これを演奏権の行使とはしないこと、逆に、「公衆」に対して演奏を聞かせる状況であったにもかかわらず、たまたま「公衆」に演奏を聞かれなかったという状況が生じたからといって(例えば、繁華街の大通りで演奏をしたところ、たまたま誰も通りかからなかった場合)、これを演奏権の行使からは外さない趣旨で設けられたものと解するのが相当であるから、「聞かせることを目的」とは、演奏が行われる外形的・客観的な状況に照らし、演奏者に「公衆」に演奏を聞かせる目的意思があったと認められる場合をいい、かつ、それを超える要件を求めるものではないと解するのが相当である。
(ウ)本件について
 前記(ア)及び(イ)によると、演奏権の行使となるのは、演奏者が、@面前にいる個人的な人的結合関係のない者に対して、又は、面前にいる個人的な結合関係のある多数の者に対して、A演奏が行われる外形的・客観的な状況に照らして演奏者に上記@の者に演奏を聞かせる目的意思があったと認められる状況で演奏をした場合と解される。
 本件使用態様1ないし4のとおり、控訴人らの音楽教室で行われた演奏は、教師並びに生徒及びその保護者以外の者の入室が許されない教室か、生徒の居宅であるから、演奏を聞かせる相手方の範囲として想定されるのは、ある特定の演奏行為が行われた時に在室していた教師及び生徒のみである。すなわち、本件においては、一つの教室における演奏行為があった時点の教師又は生徒をとらえて「公衆」であるか否かを論じなければならない。オ 以下、前記の基本的考え方を前提に、教師による演奏行為及び生徒による演奏行為がそれぞれ「公衆に直接(中略)聞かせることを目的として」行われたものに当たるかについて検討する。
(2)教師による演奏行為について
ア 教師による演奏行為の本質について
 引用に係る原判決の第2の3(1)アのとおり、控訴人らは、音楽を教授する契約及び楽器の演奏技術等を教授する契約である本件受講契約を締結した生徒に対して、音楽及び演奏技術等を教授することを目的として、雇用契約又は準委任契約を締結した教師をして、その教授を行うレッスンを実施している。
 そうすると、音楽教室における教師の演奏行為の本質は、音楽教室事業者との関係においては雇用契約又は準委任契約に基づく義務の履行として、生徒との関係においては本件受講契約に基づき音楽教室事業者が負担する義務の履行として、生徒に聞かせるために行われるものと解するのが相当である。
イ 演奏態様について
 控訴人らの音楽教室(各控訴人(別紙C)らのものを除く。)においては、そのレッスンは、別紙著作物使用態様目録1(本件使用態様1)に記載のとおり、控訴人らが設営した教室で行われ、教師は、一曲を通して又は部分的に課題曲を演奏して課題を示し、生徒の演奏の伴奏として演奏し、生徒の演奏上の課題及び注意として該当部分の演奏の例を示すことがあるというものである。また、各控訴人(別紙A)らの運営する音楽教室については、別紙著作物使用態様目録2(本件使用態様2)のとおり、やはり同控訴人らが設営した教室で行われ、そのレッスンは、本件使用態様1と同様の教師の演奏が行われるほかに、教師の伴奏に代えて、教師が、授業の進捗や生徒の習熟度や理解度に応じて、市販のCD等の録音物に収録された楽曲を1小節ないし数小節の単位又は一曲を通して、随時、音程、テンポその他の要素を変えた再生を行うことがあり、各控訴人(別紙B)らの音楽教室については、別紙著作物使用態様目録3(本件使用態様3)のとおり、やはり控訴人らが設営した教室で行われ、そのレッスンは、本件使用態様1と同様の教師の演奏が行われるほかに、教師の伴奏に代えて、再生に用いる録音物がマイナスワン音源であるほかは、本件使用態様2と同様の再生を行うことがあるというものである。各控訴人(別紙C)らの音楽教室については、そのレッスンは、生徒の居宅において別紙著作物使用態様目録4(本件使用態様4)のとおり行われるものである。
ウ 演奏主体について
(ア)控訴人らのうち、教師を兼ねる個人事業者たる音楽教室事業者や、個人教室を運営する各控訴人(別紙C)らが教師として自ら行う演奏については、その主体が音楽教室事業者である当該控訴人らであることは、明らかである。
 そこで、以下、音楽教室事業者ではない教師が音楽教室において行う演奏について検討する。
(イ)前記アのとおり、控訴人らは、生徒との間で締結した本件受講契約に基づく演奏技術等の教授の義務を負い、その義務の履行のために、教師との間で雇用契約又は準委任契約を締結し、教師は、この雇用契約又は準委任契約に基づく義務の履行として、控訴人らのために生徒に対してレッスンを行っているという関係にある。そして、教師の演奏(録音物の再生を含む。)は、前記イのとおり、そのレッスンの必須の構成要素であり、音楽教室事業者である控訴人らが音楽教室において教師の演奏が行われることを知らないはずはないといえるし、そのレッスンにおける教師の指導は、音楽教育の指導として当然の手法であって、本件受講契約の本旨に従ったものといえる。また、音楽教室事業者である控訴人らは、その事業運営上の必要性から、雇用契約を締結している教師については当然として、準委任契約を締結した教師についても、その資質、能力等の管理や、事業理念及び指導方針に沿った指導を生徒に行うよう指示、監督を行っているものと推認され、控訴人らに共通する事実のみに従った判断を求める本件事案の性質上、これに反する証拠は提出されていない。さらに、教師の演奏が行われる音楽教室は、控訴人らが設営し、その費用負担の下に演奏に必要な音響設備、録音物の再生装置等の設備が設置され、控訴人らがこれらを占有管理していると推認され、上記同様に、これに反する証拠は提出されていない。
 以上によれば、控訴人らは、教師に対し、本件受講契約の本旨に従った演奏行為を、雇用契約又は準委任契約に基づく法的義務の履行として求め、必要な指示や監督をしながらその管理支配下において演奏させているといえるのであるから、教師がした演奏の主体は、規範的観点に立てば控訴人らであるというべきである。
(ウ)これに対して、控訴人らは、前記第2の5(1)ア(ア)のとおり、教師がレッスンで演奏(録音物の再生を含む。)するかどうか、どのような演奏をどの程度するかについて教師の裁量に任されているから、控訴人らは教師の演奏を管理・支配していないし、音楽教室における教師の楽曲の演奏は、未完成又は不完全な演奏であり、また、1回1回全て異なるものであるから、音楽教室事業者が管理・支配できるものではない旨主張する。
 しかしながら、教師は、控訴人らとの雇用契約又は準委任契約に基づき、その義務の履行として演奏技術等を生徒に教授するのであって、履行方法に選択肢を有するとしても、履行しない自由を有してはおらず、その履行に当たって一定の裁量があるとしても、本件受講契約において控訴人らが生徒に対し負担する義務を履行するために必要なレッスンを行う義務を負うこと自体には何ら変わりはないのであるから、教師がレッスンの進行について裁量を有することは、教師がした演奏の主体が控訴人らであるとする前記判断を左右するものではない。
 また、教師が未完成又は不完全な形で毎回異なるように演奏するのは、その技量が不足するためではなく、生徒への演奏技術等の教授のために敢えてしていることであって、まさしく控訴人らとの間の雇用契約又は準委任契約に基づく義務の履行に適ったことをしているにほかならない。
 したがって、演奏内容の完成度若しくは完全度又は再現性は、教師が、控訴人らとの雇用契約又は準委任契約に基づく義務の具体的履行方法としてどのような演奏手法を用いたかということを意味するにすぎず、教師のした演奏の主体が控訴人らであるとする前記判断を左右するものではない。
 そのほかに控訴人らが教師の演奏行為に係る演奏主体について主張する点は、いずれもその前提を異にする、あるいは理由がないものであるから、前記判断を左右し得ない。
エ 「公衆に直接(中略)聞かせることを目的として」について
(ア)前記(1)エ(ア)のとおり、演奏権の行使に当たるか否かの判断は、演奏者と演奏を聞かせる目的の相手方との個人的な結合関係の有無又は相手方の数において決せられるところ、この演奏者とは、著作権者の保護と著作物利用者の便宜を調整して著作権の及ぶ範囲を合目的な領域に設定しようとする著作権法22条の趣旨からみると、演奏権の行使について責任を負うべき立場の者、すなわち演奏の主体にほかならない。そうすると、前記ウ(イ)のとおり、音楽教室における演奏の主体は、教師の演奏については控訴人ら音楽教室事業者であり、教師の演奏行為について教師が「公衆」に該当しないことは当事者間に争いがなく、生徒に聞かせるために演奏していることは明らかであるから、実際の演奏者である教師の演奏行為が「公衆」に直接聞かせることを目的として演奏されたものであるといえるかは、規範的観点から演奏の主体とされた音楽教室事業者からみて、その顧客である生徒が「特定かつ少数」の者に当たらないといえるか否かにより決せられるべきこととなる。
(イ)そこで検討するに、引用に係る原判決の第2の3(1)アによると、生徒が控訴人らに対して受講の申込みをして控訴人らとの間で受講契約を締結すれば、誰でもそのレッスンを受講することができ、このような音楽教室事業が反復継続して行われており、この受講契約締結に際しては、生徒の個人的特性には何ら着目されていないから、控訴人らと当該生徒が本件受講契約を締結する時点では、控訴人らと生徒との間に個人的な結合関係はなく、かつ、音楽教室事業者としての立場での控訴人らと生徒とは、音楽教室における授業に関する限り、その受講契約のみを介して関係性を持つにすぎない。そうすると、控訴人らと生徒の当該契約から個人的結合関係が生じることはなく、生徒は、控訴人ら音楽事業者との関係において、不特定の者との性質を保有し続けると理解するのが相当である。
 したがって、音楽教室事業者である控訴人らからみて、その生徒は、その人数に関わりなく、いずれも「不特定」の者に当たり、「公衆」になるというべきである。音楽教室事業者が教師を兼ねている場合や個人教室の場合においても、事業として音楽教室を運営している以上は、受講契約締結の状況は上記と異ならないから、やはり、生徒は「不特定」の者というべきである。
 これに対し、控訴人らは、前記第2の5(1)イ(ア)ないし(オ)のとおり、@「特定」の者に当たるか否かは受講契約締結後の時点も含めて判断すべきであり、控訴人らが生徒と本件受講契約を締結し、受講を開始して以降の個人的な結合関係の形成の有無を基に認定すべきである、A音楽教室における教師の演奏及び録音物の再生は、全て個性のある演奏であり、レッスンでの演奏を聞く者は現にそのレッスンの行われている教室内にいる者のみであることから、「公衆」に対するものかどうかは、教室内の人数で決せられるべきである、Bレッスンの場に演奏者以外の聴衆(公衆)はいないので、公衆に対する演奏には当たらない、C音楽教室におけるレッスンは、生徒が発表会等において他人に聞かせる準備として行うものなので、毎回のレッスンでの演奏について著作物利用料は発生しない旨主張する。
 しかしながら、上記@については、音楽教室事業者の地位にある控訴人らと生徒とのつながりは、不特定者を相手方として形成された有償契約たる本件受講契約上の当事者間の関係を出ないのであり、音楽教室における授業の中で教師と生徒とが接点を持つ限り、その性質が変容するものではなく、この点は、音楽教室事業者が教師の地位を兼有しているとしても変わりはない。もとより、教師が生徒との間で個人的信頼関係を形成し、教室外で、音楽教室の指導を離れて生徒の教授に当たること等の個人的な結合関係を醸成することはあり得ることであるが、そのような過程で演奏が行われることがあるとしても、そのような演奏は、そもそも本件において審理の対象となっている音楽教室における演奏というべきではなく、当裁判所の判断の対象には当たらない。したがって、控訴人らの上記@の主張を採用することはできない。
 また、たとえ生徒が1名であっても当該生徒は音楽教室事業者からみると不特定の者として「公衆」に該当するから、控訴人らの上記Aの主張は、何ら結論を左右し得ないし、教師の演奏について生徒という「公衆」がいることは前示のとおりであるから、上記Bの主張も採用することはできない。そして、本件受講契約の履行としての教師による演奏と生徒による発表会等の演奏とはその性質を全く異にするものであることは明らかであるから、上記C主張も採用することができない。
(ウ)次に、「聞かせることを目的」とする点につき検討するに、控訴人らの音楽教室における演奏態様は、本件使用態様1ないし4のとおり、@生徒が課題曲を初めて演奏する際等には、生徒が演奏する前に、教師が課題曲を演奏して課題を示し、A生徒が、それを聞いた上で、教師に対して課題曲を数小節ごとに区切って演奏すると、B生徒の演奏を目の前で聞いた教師が、生徒に対する演奏上の課題及び注意を口頭で説明するとともに、必要に応じて当該部分の演奏の例を示し、C生徒は、教師の注意や演奏を聞いた上で、再度演奏するということを繰り返し行った後に、D最後に、生徒が練習してきた部分又は一曲を通して演奏する(生徒の演奏の際に教師が伴奏をすることがある。)というものであり、本件使用態様2の場合には、教師の伴奏の代わりに市販のCD等が、本件使用態様3の場合には、マイナスワン音源が用いられるというものである。
 このように、控訴人らの音楽教室におけるレッスンは、教師又は再生音源による演奏を行って生徒に課題曲を聞かせることと、これを聞いた生徒が課題曲の演奏を行って教師に聞いてもらうことを繰り返す中で、演奏技術等の教授を行うものであるから、教師又は再生音源による演奏が公衆である生徒に対し聞かせる目的で行われていることは、明らかである。
 これに対し、控訴人らは、前記第2の5(1)ウ(ア)及び(ウ)のとおり、@「聞かせることを目的として」との目的要件を実質的に解釈すると、「聞かせることを目的」とする演奏とは、「聞き手に官能的な感動を与えることを目的とする演奏」あるいは「音楽の著作物としての価値を享受させることを目的とする演奏」をいうし、そうでないとしても、著作権法22条の解釈に当たっては、著作権の制限として「著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」を定める同法30条の4の規定も参照しつつ(ただし、同条を抗弁として主張するものではない。)、実質的に権利を及ぼすべき利用ということができるかという観点から、演奏権の行使に当たるか否かを考慮すべきである、A音楽教室における教師の演奏は、当該教師の本来の演奏とは異なるものであり、録音物の再生も、終始、音やリズムを調整しながら再生しているから、これらの演奏は、音楽の著作物としての価値を享受させることを目的とする演奏には当たらない旨主張する。
 しかしながら、「聞かせることを目的」とするとの文言の趣旨は、前記(1)エ(イ)において判断したとおり、演奏が行われる外形的・客観的な状況に照らし、演奏者に「公衆」に演奏を聞かせる目的意思があったと認められる場合をいい、かつ、それを超える要件を求めるものではないと解するのが相当であるし、また、「著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的」としない場合に著作権の制限を認める著作権法30条の4に留意したとしても、音楽教室における演奏の目的は、演奏技術等の習得にあり、演奏技術等の習得は、音楽著作物に込められた思想又は感情の表現を再現することなしにはあり得ず、教師の演奏も、当該音楽著作物における思想又は感情の表現を生徒に理解させるために行われるものというべきであるから、著作物に表現された思想又は感情を他人に享受させる目的があることは明らかである。したがって、上記@の主張を採用することはできない。
 そして、音楽教室における教師の演奏が当該教師の本来の演奏とは異なるなどの事情があるとしても、上記のとおり、著作物に表現された思想又は感情を生徒に享受させる目的があることには変わりなく、このようなことが不可能なように繰り返しレッスンすることなどあり得るはずもないから、上記Aの主張は、失当というほかない。
(エ)そのほかに控訴人らが主張する点は、いずれもその前提を異にする、あるいは理由がないものであるから、前記判断を左右し得ない。したがって、教師の演奏は、「公衆に直接(中略)聞かせる目的」で演奏されるものというべきである。
オ 小活
 以上によれば、教師による演奏については、その行為の本質に照らし、本件受講契約に基づき教授義務を負う音楽行為事業者が行為主体となり、不特定の者として「公衆」に該当する生徒に対し、「聞かせることを目的」として行われるものというべきである。
(3)生徒による演奏行為について
ア 生徒による演奏行為の本質について
 引用に係る原判決の第2の3(1)ア及び前記(2)アに照らせば、控訴人らは、音楽を教授する契約及び楽器の演奏技術等を教授する契約である本件受講契約を締結した生徒に対して、音楽及び演奏技術等を教授することを目的として、雇用契約又は準委任契約を締結した教師をして、その教授を行うレッスンを実施している。
 そうすると、音楽教室における生徒の演奏行為の本質は、本件受講契約に基づく音楽及び演奏技術等の教授を受けるため、教師に聞かせようとして行われるものと解するのが相当である。なお、個別具体の受講契約においては、充実した設備環境や、音楽教室事業者が提供する楽器等の下で演奏することがその内容に含まれることもあり得るが、これらは音楽及び演奏技術等の教授を受けるために必須のものとはいえず、個別の取決めに基づく副次的な準備行為や環境整備にすぎないというべきであるから、音楽教室における生徒の演奏の本質は、あくまで教師に演奏を聞かせ、指導を受けることにあるというべきである。
 また、音楽教室においては、生徒の演奏は、教師の指導を仰ぐために専ら教師に向けてされているのであり、他の生徒に向けてされているとはいえないから、当該演奏をする生徒は他の生徒に「聞かせる目的」で演奏しているのではないというべきであるし、自らに「聞かせる目的」のものともいえないことは明らかである(自らに聞かせるためであれば、ことさら音楽教室で演奏する必要はない。)。被控訴人は、生徒の演奏技術の向上のために生徒自身が自らの又は他の生徒の演奏を注意深く聞く必要があるとし、書証(乙57の58頁)や証言(原審証人Q15頁)を援用するが、自らの又は他の生徒の演奏を聴くことの必要性、有用性と、誰に「聞かせる目的」で演奏するかという点を混同するものといわざるを得ず、採用し得ない。
イ 演奏態様について
 レッスンは、別紙著作物使用態様目録1(本件使用態様1)に記載のとり、控訴人らが設営した教室で行われ(ただし同目録4(本件使用態様4)の場合は生徒の居宅で行われる。)、生徒は、教師の面前で、時には教師の伴奏を受けながら、課題曲を数小節ごとに区切って演奏し、教師から演奏上の課題及び注意を説明され、当該指導を聞いた上で再度演奏することを繰り返し、課題達成の確認のための演奏をするというものであり、演奏に際して利用される楽譜(課題曲が掲載されたものであり、グループレッスンにおいてはクラスの生徒を通じて同一のもの)は生徒が事前に購入してきたものである。
 また、各控訴人(別紙A)らの運営する音楽教室においては、別紙著作物使用態様目録2(本件使用態様2)のとおり、やはり同控訴人らが設営した教室で行われ、そのレッスンは、本件使用態様1と同様の生徒の演奏が行われるほかに、教師の伴奏に代えて、教師が、授業の進捗や生徒の習熟度や理解度に応じて、市販のCD等の録音物に収録された楽曲を1小節ないし数小節の単位又は一曲を通して、随時、音程、テンポその他の要素を変えた再生を行うことがあり、各控訴人(別紙B)らの音楽教室については、別紙著作物使用態様目録3(本件使用態様3)のとおり、やはり同控訴人らが設営した教室で行われ、そのレッスンは、本件使用態様1と同様の生徒の演奏が行われるほか、教師が、再生に用いる録音物がマイナスワン音源であるとの相違を除いて本件使用態様2と同様の再生を行うことがある。
ウ 演奏主体について
(ア)前述したところによれば、生徒は、控訴人らとの間で締結した本件受講契約に基づく給付としての楽器の演奏技術等の教授を受けるためレッスンに参加しているのであるから、教授を受ける権利を有し、これに対して受講料を支払う義務はあるが、所定水準以上の演奏を行う義務や演奏技術等を向上させる義務を教師又は控訴人らのいずれに対しても負ってはおらず、その演奏は、専ら、自らの演奏技術等の向上を目的として自らのために行うものであるし、また、生徒の任意かつ自主的な姿勢に任されているものであって、音楽教室事業者である控訴人らが、任意の促しを超えて、その演奏を法律上も事実上も強制することはできない。
 確かに、生徒の演奏する課題曲は生徒に事前に購入させた楽譜の中から選定され、当該楽譜に被告管理楽曲が含まれるからこそ生徒によって被告管理楽曲が演奏されることとなり、また、生徒の演奏は、本件使用態様4の場合を除けば、控訴人らが設営した教室で行われ、教室には、通常は、控訴人らの費用負担の下に設置されて、控訴人らが占有管理するピアノ、エレクトーン等の持ち運び可能ではない楽器のほかに、音響5設備、録音物の再生装置等の設備がある。しかしながら、前記アにおいて判示したとおり、音楽教室における生徒の演奏の本質は、あくまで教師に演奏を聞かせ、指導を受けること自体にあるというべきであり、控訴人らによる楽曲の選定、楽器、設備等の提供、設置は、個別の取決めに基づく副次的な準備行為、環境整備にすぎず、教師が控訴人らの管理支配下にあることの考慮事情の一つにはなるとしても、控訴人らの顧客たる生徒が控訴人らの管理支配下にあることを示すものではなく、いわんや生徒の演奏それ自体に対する直接的な関与を示す事情とはいえない。
 このことは、現に音楽教室における生徒の演奏が、本件使用態様4の場合のように、生徒の居宅でも実施可能であることからも裏付けられるものである。
 以上によれば、生徒は、専ら自らの演奏技術等の向上のために任意かつ自主的に演奏を行っており、控訴人らは、その演奏の対象、方法について一定の準備行為や環境整備をしているとはいえても、教授を受けるための演奏行為の本質からみて、生徒がした演奏を控訴人らがした演奏とみることは困難といわざるを得ず、生徒がした演奏の主体は、生徒であるというべきである。
(イ)これに対して、被控訴人は、引用に係る原判決の第3の2〔被告の主張〕(1)エ(イ)及び(ウ)並びに前記第2の5(2)ア(ウ)のとおり、音楽教室における生徒の演奏は、@控訴人らとの間で締結した本件受講契約におけるレッスンの一環としてされるものであり、レッスンの受講と無関係に演奏するものではないこと、A教師の指導の下、教育効果の観点から必要と考えられる場合にその限度でされること、B本件受講契約によって特定されたレッスンで使用される楽譜において課題曲として指定された音楽著作物を、教師の指導・指示の下で演奏することを原則とするものであること、C控訴人らが費用を負担して設営した教室において、控訴人らの管理下にある音響設備、録音物の再生装置等、録音物、楽器等を利用してされるものであること、D音楽教室事業が音楽著作物を利用せずに楽器の演奏技術を教授することは不可能であることに照らすと、本件受講契約に基づき支払う受講料の中に、音楽著作物の利用の対価部分が含まれていることに照らせば、生徒の演奏についても音楽教室事業者である控訴人らによる管理・支配及び利益の帰属が認められ、演奏の主体は控訴人らである旨主張する。
 しかしながら、上記@ないしCにおいて控訴人が主張する事情から直ちに、生徒が任意にする演奏の主体を音楽教室事業者であると評価することができないことは、前記説示から明らかである。なお、被控訴人は、前記第2の5(2)ア(イ)のとおり、カラオケ店における客の歌唱の場合と同一視すべきである旨主張するが、その法的位置付けについてはさておくにしても、カラオケ店における客の歌唱においては、同店によるカラオケ室の設営やカラオケ設備の設置は、一般的な歌唱のための単なる準備行為や環境整備にとどまらず、カラオケ歌唱という行為の本質からみて、これなくしてはカラオケ店における歌唱自体が成り立ち得ないものであるから、本件とはその性質を大きく異にするものというべきである。
 さらに、上記Dにおいて被控訴人が主張する事情については、レッスンにおける生徒の演奏についての音楽著作物の利用対価が本件受講契約に基づき支払われる受講料の中に含まれていることを認めるに足りる証拠はないし、また、いずれにしても音楽教室事業者が生徒を勧誘し利益を得ているのは、専らその教授方法や内容によるものであるというべきであり、生徒による音楽著作物の演奏によって直接的に利益を得ているとはいい難い。
 したがって、被控訴人の上記主張はいずれも採用できない。
(ウ)そのほかに被控訴人らが生徒の演奏行為に係る演奏主体について
 主張する点は、いずれもその前提を異にする、あるいは理由がないものであるから、前記判断を左右し得ない。
エ 小括
 以上のとおり、音楽教室における生徒の演奏の主体は当該生徒であるから、その余の点について判断するまでもなく、生徒の演奏によっては、控訴人らは、被控訴人に対し、演奏権侵害に基づく損害賠償債務又は不当利得返還債務のいずれも負わない(生徒の演奏は、本件受講契約に基づき特定の音楽教室事業者の教師に聞かせる目的で自ら受講料を支払って行われるものであるから、「公衆に直接(中略)聞かせることを目的」とするものとはいえず、生徒に演奏権侵害が成立する余地もないと解される。)。
 なお、念のために付言すると、仮に、音楽教室における生徒の演奏の主体は音楽事業者であると仮定しても、この場合には、前記アのとおり、音楽教室における生徒の演奏の本質は、あくまで教師に演奏を聞かせ、指導を受けることにある以上、演奏行為の相手方は教師ということになり、演奏主体である音楽事業者が自らと同視されるべき教師に聞かせることを目的として演奏することになるから、「公衆に直接(中略)聞かせる目的」で演奏されたものとはいえないというべきである(生徒の演奏について教師が「公衆」に該当しないことは当事者間に争いがない。また、他の生徒や自らに聞かせる目的で演奏されたものといえないことについては前記アで説示したとおりであり、同じく事業者を演奏の主体としつつも、他の同室者や客自らに聞かせる目的で歌唱がされるカラオケ店(ボックス)における歌唱等とは、この点において大きく異なる。)。
3 争点4(音楽教室における2小節以内の演奏について演奏権が及ぶか)について
 控訴人らは、引用に係る原判決の第3の4〔原告らの主張〕及び前記第2の5(1)エのとおり、音楽教室における2小節以内の演奏については、短すぎるため、どの楽曲を演奏しているかを特定することができず、著作者の個性が発揮されているということはできないから、著作物に当たらず、このような演奏については演奏権が行使されたとはいえない旨主張する。
 しかしながら、一つの楽曲中から取り出した2小節分につきいずれも著作物性がないなどということはおよそ考え難い。
 前述のとおり、音楽教室における演奏の目的は演奏技術等の習得にあり、演奏技術等の習得は音楽著作物に込められた思想又は感情の表現を再現することなしにはあり得ないから、音楽教室において、著作物性のない部分のみが繰り返しレッスンされることを想定することはできない。したがって、仮に、レッスンにおいて2小節を単位として演奏が行われるとしても、それは、終始、特定の2小節のみを繰り返し弾くことではなく、2小節で区切りながら、ある程度まとまったフレーズを弾くことが通常であると推認され、これに反する証拠の提出はない。そして、本件使用態様1ないし4のとおり、レッスンにおいては特定の課題曲が演奏されることが決まっているのであるから、特定の2小節が演奏されたとしても、当該部分が課題曲のどの部分であるかは判然としているのであり、課題曲の2小節分が様々な形で連続的・重畳的に演奏されたとしても、それが課題曲の演奏であると認識され、かつ、その楽曲全体の本質的な特徴を感得しつつ、その特徴が表現されているとみるのが相当である。
 したがって、控訴人らの上記主張は、採用することができず、演奏された小節数を問わず、演奏権の侵害行為が生じる。
4 争点5(演奏権の消尽の成否)について
 当裁判所も、控訴人らがレッスンで用いる楽曲について演奏権は消尽していないと判断する。その理由は、次のとおり補正し、控訴人らの当審における補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決の第4の5に記載されたとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決の補正
ア 69頁22行目の「譲渡する際に」を「権利を譲渡し、又はその利用を許諾する際に」と改める。
イ 70頁8行目の「音楽教室」から10行目末尾までを「音楽教室のレッスンで使用されるものとして作成された楽譜及びマイナスワン音源だからといって、購入された後に、それが演奏権が及ぶ態様でのみ演奏に用いられるということはできない。」と改める。
(2)控訴人らの当審における補充主張に対する判断
 控訴人らは、前記第2の5(2)オのとおり、@権利者において演奏権の対価取得の機会があれば、演奏権は消尽するところ、教本に掲載された楽譜やマイナスワン音源の本来的な用途は音楽教室におけるレッスンに使用することであるし、控訴人らは、音楽著作物の利用に際して、被控訴人に利用申込書を提出しており、被控訴人は、当該出版利用申込書(甲46)及び録音利用申込書(甲47)の記載によって、それら楽曲が音楽教室の教材としてレッスン利用されることを事前に把握することができた、Aひとつの創作によりひとつの著作権が生じているにすぎず、支分権が異なることが消尽の成立を妨げるものではない旨主張する。
 しかしながら、消尽の根拠は、原判決が説示するとおり、著作権の譲渡や著作物の利用許諾等の取引関係に入った者の取引上の安全の保護と著作物の経済的利用により利得を得る著作権者の利益の保護との調和を図るところにある。そうすると、楽譜やマイナスワン音源の作成に当たり著作権者が取得する対価は複製権(著作権法21条)の行使の対価であり、音楽教室におけるレッスンにおける利用に対する対価は演奏権(著作権法22条)の行47使に対する対価であり、行使方法の全く異なる別々の支分権の行使に対する対価であって、権利として異なる以上、たとえ一つの創作行為により生じた著作物に係るものとはいえ、それぞれについてその利用の対価を取得したとしても二重の利得と評価する理由もなければ、両者を同時に行使しなければ不当と評価する理由も見当たらない。また、複製権の行使によって無限定に演奏権の消尽を認めれば、ひとたび複製権を行使しただけで当該音楽著作物をほぼ無限定に演奏されてしまうこととなって、著作権者の経済的利益を不当に害することは明らかである。仮に、音楽著作物の複製物と当該音楽著作物の演奏とを関連付け得る範囲において消尽の範囲を決するとしても、演奏が複製物を利用しながら行われるものであるのか否か、複製物をどの程度利用するのか等、演奏権の行使態様としては様々なものが想定され、これらにつき複製権の行使段階で予測することは困難であるから、著作権者において複製権の行使段階で対価徴収の機会を有していたとはいい難い。
 以上によれば、教本に掲載された楽譜やマイナスワン音源が音楽教室のレッスンで使用するに適しているからといって演奏権が及ぶ態様でのみ演奏に用いられるとは限らない点はもとより、音楽教室のレッスンで使用されることを前提にしてもどのような利用態様であるかを把握し、対価を徴収することは、やはり困難なのであるから、複製権行使の段階で演奏権の消尽を認めることについては、その実質的理由を欠くというべきであり、利用申込書等に音楽教室での利用が予定されていること等を把握できる記載があるとしても、そのことから直ちに演奏権の消尽が理由付けられるものでないことは明らかである。
 したがって、控訴人らの上記主張は、理由がない。
5 争点6(録音物の再生に係る実質的違法性阻却事由の有無)について
 当裁判所も、音楽教室における音楽著作物の録音物の再生については、演奏権侵害の実質的違法性が阻却されるものではないと判断する。その理由は、原判決71頁13行目の各「教師」をいずれも「教師個人」と改めるほかは、同第4の6に記載されたとおりであるから、これを引用する。
6 争点7(権利濫用の成否)について
 当裁判所も、被控訴人が音楽教室における演奏について著作物使用料を徴収することは権利の濫用には当たらないと判断する。その理由は、次のとおり補正し、当審における控訴人らの補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決の第4の7に記載されたとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決の補正
 72頁23行目の「被告は、」の次に「全ての控訴人らに対する関係で、」を加え、同73頁11行目の「ことについては合理的な理由があり」を「ことが不合理とはいえず」に改める。
(2)当審における控訴人らの補充主張に対する判断
 控訴人らは、前記第2の5(1)カのとおり、@著作権法附則14条により著作権者の権利が制限されていたのは、音楽教室のレッスンでは補完的な教材にすぎない「録音物の再生演奏」についてであり、音楽教室のレッスンにおいて行われる演奏のうち大部分を占めている「演奏」ではないから、同14条が存在したことは、上記演奏について権利行使をしなかった理由とはならない、A被控訴人がレッスンでの教師の演奏について著作物使用料の請求をしてこなかったのは、レッスンでの演奏について著作権使用料を徴収すべきとは考えていなかったからにほかならない旨主張する。
 しかしながら、音楽教室事業者によって利用される著作物について控訴人が演奏権の管理に着手すること自体は可能であったとしても、本件口頭弁論終結時である令和3年1月より17年以上前の平成15年まで権利行使をしていなかったから、それ以降の著作物の使用料も請求できなくなるとする控訴人らの立論は、それ自体、そもそも権利不行使の事実と権利失効の効果が整合しているようには解し得ない。
 権利の単純な不行使が時効の成立にとどまらず、将来の権利の失効までをも招致するのは、権利者において義務者が権利を行使しないとの強い信頼をもたらす行動を長年にわたって取り続けたことから、義務者において権利者が権利を行使するのであれば取り得ないような重大な投資等をしたなど、権利者の権利行使が法的衡平や法的正義の観点から到底是認できないような特段の事情を要すると解すべきである。しかしながら、本件においては、被控訴人は、音楽教室のレッスンにおける演奏について、17年前から少なくとも控訴人ヤマハに対しては権利行使に着手しているのであるし、控訴人らについても、権利不行使に対する信頼を保護すべき特段の事情は見当たらない。
 したがって、控訴人らの権利濫用の主張は、理由がない。
7 総括
(1)主位的請求について
 前記2(2)及び3において判断したとおり、音楽教室におけるレッスン中に教室において1名の教師がする演奏行為(市販のCD等の録音物やマイナスワン音源の再生を含む。)は、音楽教室事業者である控訴人らが利用主体であって、その演奏は、一曲を通して演奏することがあるか否か、1回に行う演奏が楽曲の2小節以内である否かにかかわらず、1名であっても「公衆」といえる生徒に対して「聞かせる目的」でされたものであるから、演奏権の行使に該当する。そして、前記4ないし6(争点5ないし7)において判断したとおり、控訴人らの演奏権の行使に関し、音楽教室におけるレッスンで用いる楽曲について、演奏権は消尽せず、その録音物を再生したことに実質的違法性阻却事由はなく、また、被控訴人が当該演奏について著作物使用料を徴収することは権利の濫用には当たらないから、本件使用態様1ないし4のいずれも、演奏権の侵害となる。
 以上によれば、被控訴人は、控訴人らに対し、音楽教室におけるレッスン中の教師による被告管理楽曲の演奏(本件使用態様1ないし4)につき、著作権侵害に基づく損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を有することになる。
(2)予備的請求について
ア 予備的請求第6項(1)A、C及び(2)A、C、第7項、第8項並びに第9項A、C
 前記(1)のとおり、音楽教室におけるレッスン中に教室において1名の教師がする演奏行為(市販のCD等の録音物やマイナスワン音源の再生を含む。)が演奏権の侵害になる以上は、レッスン中における教師の個々の演奏行為を単位とした請求についても結論に変わりはない。
イ 予備的請求第6項(1)@、B及び(2)@、B並びに第9項@、B前記2(3)において判断したとおり、音楽教室におけるレッスン中に教室において生徒がする演奏行為の利用主体は当該生徒であり、あるいは、いずれにしても「公衆に直接(中略)聞かせる目的」で演奏するものではないから、その演奏は、演奏権の行使に該当せず、本件使用態様1及び4のいずれも、演奏権の侵害は生じない。
 以上によれば、被控訴人は、控訴人らに対し、音楽教室におけるレッスン中の生徒による被告管理楽曲の演奏(本件使用態様1及び4)につき、著作権侵害に基づく損害賠償請求権又は不当利得返還請求権のいずれも有しない。
8 結論
 よって、控訴人らの主位的請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当であって、主位的請求に係る本件控訴は理由がないから、これを棄却する。他方、控訴人らの予備的請求は主文第2項(1)及び(2)の限度で理由があり、その余25は理由がなく(別紙請求目録第6項(1)@、B及び(2)@、B並びに第9項@、Bの各請求につき理由があり、その余は理由がない。)、予備的請求を全部棄却した原判決は失当であるから、これを変更することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 菅野雅之
 裁判官 本吉弘行
 裁判官 中村恭


(別紙) 請求目録
1 原判決を取り消す。
(主位的請求)
2 別紙著作物使用態様目録1記載の演奏について
(1)教師と10名程度以下の複数の生徒の間で行われるレッスンについて
@楽曲を一曲通して演奏することがない場合について
 各控訴人と被控訴人との間において、被控訴人は、各控訴人が生徒との間で締結した音楽の教授及び演奏(歌唱を含む。以下同じ。)技術の教授に係る契約(以下「本件受講契約」という。)に基づき、教師と10名程度以下の複数の生徒の間で行われるレッスン(音楽教室における30分ないし60分間程度の1コマの授業をいう。以下同じ。)における、別紙著作物使用態様目録
1 記載の演奏(このうち、楽曲を一曲通して演奏することがない場合に限る。)について、被控訴人が著作権者から著作物の使用料の徴収を目的として著作権の信託譲渡又は徴収の委任を受けて有するところの著作物(令和3年1月14日時点で被控訴人が管理する全ての楽曲をいい、以下「被告管理楽曲」という。)の使用に係る請求権を有しないことを確認する。
A楽曲を一曲通して演奏することがある場合について
 各控訴人と被控訴人との間において、被控訴人は、各控訴人が生徒との間で締結した本件受講契約に基づき、教師と10名程度以下の複数の生徒の間で行われるレッスンにおける、別紙著作物使用態様目録1記載の演奏(このうち、楽曲を一曲通して演奏することがある場合に限る。)について、被告管理楽曲の使用に係る請求権を有しないことを確認する。
(2)教師1名対生徒1名で行われるレッスンについて
@楽曲を一曲通して演奏することがない場合について
 各控訴人と被控訴人との間において、被控訴人は、各控訴人が生徒との間で締結した本件受講契約に基づき、教師1名対生徒1名で行われるレッスンにおける、別紙著作物使用態様目録1記載の演奏(このうち、楽曲を一曲通して演奏することがない場合に限る。)について、被告管理楽曲の使用に係る請求権を有しないことを確認する。
A楽曲を一曲通して演奏することがある場合について
 各控訴人と被控訴人との間において、被控訴人は、各控訴人が生徒との間で締結した本件受講契約に基づき、教師1名対生徒1名で行われるレッスンにおける、別紙著作物使用態様目録1記載の演奏(このうち、楽曲を一曲通して演奏することがある場合に限る。)について、被告管理楽曲の使用に係る請求権を有しないことを確認する。
3 別紙紙著作物使用態様目録2記載の演奏及び再生演奏について
(1)教師と10名程度以下の複数の生徒の間で行われるレッスンについて
@楽曲を一曲通して、演奏又は再生演奏することがない場合について
 別紙Aに記載される各控訴人(以下「各控訴人(別紙A)」という。)と被控訴人との間において、被控訴人は、各控訴人(別紙A)が生徒との間で締結した本件受講契約に基づき、教師と10名程度以下の複数の生徒の間で行われるレッスンにおける、別紙著作物使用態様目録2記載の演奏及び再生演奏(このうち、楽曲を一曲通して、演奏又は再生演奏することがない場合に限る。)について、被告管理楽曲の使用に係る請求権を有しないことを確認する。
A楽曲を一曲通して、演奏又は再生演奏することがある場合について
 各控訴人(別紙A)と被控訴人との間において、被控訴人は、各控訴人(別紙A)が生徒との間で締結した本件受講契約に基づき、教師と10名程度以下の複数の生徒の間で行われるレッスンにおける、別紙著作物使用態様目録2記載の演奏及び再生演奏(このうち、楽曲を一曲通して、演奏又は再生演奏することがある場合に限る。)について、被告管理楽曲の使用に係る請求権を有しないことを確認する。
(2)教師1名対生徒1名で行われるレッスンについて
@楽曲を一曲通して、演奏又は再生演奏することがない場合について
 各控訴人(別紙A)と被控訴人との間において、被控訴人は、各控訴人(別紙A)が生徒との間で締結した本件受講契約に基づき、教師1名対生徒1名で行われるレッスンにおける、別紙著作物使用態様目録2記載の演奏及び再生演奏(このうち、楽曲を一曲通して、演奏又は再生演奏することがない場合に限る。)について、被告管理楽曲の使用に係る請求権を有しないことを確認する。
A楽曲を一曲通して、演奏又は再生演奏することがある場合について
 各控訴人(別紙A)と被控訴人との間において、被控訴人は、各控訴人(別紙A)が生徒との間で締結した本件受講契約に基づき、教師1名対生徒1名で行われるレッスンにおける、別紙著作物使用態様目録2記載の演奏及び再生演奏(このうち、楽曲を一曲通して、演奏又は再生演奏することがある場合に限る。)について、被告管理楽曲の使用に係る請求権を有しないことを確認する。
4 別紙著作物使用態様目録3記載の演奏及び再生演奏について
(1)教師と10名程度以下の複数の生徒の間で行われるレッスンについて
@楽曲を一曲通して、演奏又は再生演奏することがない場合について
 別紙Bに記載される各控訴人(以下「各控訴人(別紙B)」という。)と被控訴人との間において、被控訴人は、各控訴人(別紙B)が生徒との間で締結した本件受講契約に基づき、教師と10名程度以下の複数の生徒の間で行われるレッスンにおける、別紙著作物使用態様目録3記載の演奏及び再生演奏(このうち、楽曲を一曲通して、演奏又は再生演奏することがない場合に限る。)について、被告管理楽曲の使用に係る請求権を有しないことを確認する。
A楽曲を一曲通して、演奏又は再生演奏することがある場合について
 各控訴人(別紙B)と被控訴人との間において、被控訴人は、各控訴人(別紙B)が生徒との間で締結した本件受講契約に基づき、教師と10名程度以下の複数の生徒の間で行われるレッスンにおける、別紙著作物使用態様目録3記載の演奏及び再生演奏(このうち、楽曲を一曲通して、演奏又は再生演奏することがある場合に限る。)について、被告管理楽曲の使用に係る請求権を有しないことを確認する。
(2)教師1名対生徒1名で行われるレッスンについて
@楽曲を一曲通して、演奏又は再生演奏することがない場合について
 各控訴人(別紙B)と被控訴人との間において、被控訴人は、各控訴人(別紙B)が生徒との間で締結した本件受講契約に基づき、教師1名対生徒1名で行われるレッスンにおける、別紙著作物使用態様目録3記載の演奏及び再生演奏(このうち、楽曲を一曲通して、演奏又は再生演奏することがない場合に限る。)について、被告管理楽曲の使用に係る請求権を有しないことを確認する。
A楽曲を一曲通して、演奏又は再生演奏することがある場合について
 各控訴人(別紙B)と被控訴人との間において、被控訴人は、各控訴人(別紙B)が生徒との間で締結した本件受講契約に基づき、教師1名対生徒1名で行われるレッスンにおける、別紙著作物使用態様目録3記載の演奏及び再生演奏(このうち、楽曲を一曲通して、演奏又は再生演奏することがある場合に限る。)について、被告管理楽曲の使用に係る請求権を有しないことを確認する。
5 別紙著作物使用態様目録4記載の演奏について
(1)楽曲を一曲通して演奏することがない場合について別紙Cに記載される各控訴人(以下「各控訴人(別紙C)」という。)と被控訴人との間において、被控訴人は、各控訴人(別紙C)が生徒との間で締結した本件受講契約に基づき行われるレッスンにおける、別紙著作物使用態様目録4記載の演奏(このうち、楽曲を一曲通して演奏することがない場合に限る。)について、被告管理楽曲の使用に係る請求権を有しないことを確認する。
(2)楽曲を一曲通して演奏することがある場合について
 各控訴人(別紙C)と被控訴人との間において、被控訴人は、各控訴人(別紙C)が生徒との間で締結した本件受講契約に基づき行われるレッスンにおける、別紙著作物使用態様目録4記載の演奏(このうち、楽曲を一曲通して演奏することがある場合に限る。)について、被告管理楽曲の使用に係る請求権を有しないことを確認する。
(予備的請求)
6 別紙著作物使用態様目録1記載の演奏について
 各控訴人と被控訴人との間において、被控訴人は、各控訴人が生徒との間で締結した本件受講契約に基づき行われるレッスンにおける、次の演奏について、被告管理楽曲の使用に係る請求権を有しないことを確認する。
(1)教師と10名程度以下の複数の生徒との間のレッスンにおける、別紙著作物使用態様目録1記載の
@生徒の、連続して3小節以上の演奏、又は
A教師の、連続して3小節以上の演奏、又は
B生徒の、連続して2小節以内の演奏、又は
C教師の、連続して2小節以内の演奏
(2)教師1名対生徒1名との間のレッスンにおける、別紙著作物使用態様目録1記載の
@生徒の、連続して3小節以上の演奏、又は
A教師の、連続して3小節以上の演奏、又は
B生徒の、連続して2小節以内の演奏、又は
C教師の、連続して2小節以内の演奏
7 別紙著作物使用態様目録2記載の録音物の再生演奏について
 各控訴人(別紙A)と被控訴人との間において、被控訴人は、各控訴人(別紙A)が生徒との間で締結した本件受講契約に基づき行われるレッスンにおける、次の演奏について、被告管理楽曲の使用に係る請求権を有しないことを確認する。
(1)教師と10名程度以下の複数の生徒との間のレッスンにおける、別紙著作物使用態様目録2記載の録音物の再生演奏
(2)教師1名対生徒1名との間のレッスンにおける、別紙著作物使用態様目録2記載の録音物の再生演奏
8 別紙著作物使用態様目録3記載の録音物の再生演奏について
 各控訴人(別紙B)と被控訴人との間において、被控訴人は、各控訴人(別紙B)が生徒との間で締結した本件受講契約に基づき行われるレッスンにおける、次の演奏について、被告管理楽曲の使用に係る請求権を有しないことを確認する。
(1)教師と10名程度以下の複数の生徒との間のレッスンにおける、別紙著作物使用態様目録3記載の録音物の再生演奏
(2)教師1名対生徒1名との間のレッスンにおける、別紙著作物使用態様目録3記載の録音物の再生演奏
9 別紙著作物使用態様目録4記載の演奏について
 各控訴人(別紙C)と被控訴人との間において、被控訴人は、各控訴人(別紙C)が生徒との間で締結した本件受講契約に基づき行われるレッスンにおける、次の演奏について、被告管理楽曲の使用に係る請求権を有しないことを確認する。
 別紙著作物使用態様目録4記載の
@生徒の、連続して3小節以上の演奏、又は
A教師の、連続して3小節以上の演奏、又は
B生徒の、連続して2小節以内の演奏、又は
C教師の、連続して2小節以内の演奏
(以上)

(別紙)著作物使用態様目録1
(録音物の再生を行わないレッスンでの使用)
 音楽教室のレッスン(録音物の再生は行われない。)における下記の態様での演奏。(レッスンが行われる場所)
 各控訴人が設営した、教師並びに生徒及びその保護者以外の者の入室が許されない教室。
(レッスンの構成員)
 生徒と担任教師が1対1の個人レッスンと複数名の生徒を1名の担任教師が指導するグループレッスンがあり、グループレッスンの場合でも、受講する生徒の人数は、通常3名ないし5名であり、最大でも10名である。
 特定の教師が、特定の生徒に対し、各生徒の特性や個性を把握して継続的に指導を行う。特別な事情がない限り、クラスにおいて教師が変更されることはない。
(演奏態様)
 生徒が課題曲を初めて演奏する際等に、必要に応じて、生徒が演奏する前に、教師が一曲を通して又は部分的に課題曲を演奏して課題を示し、課題曲を、当該曲の課題を含む数小節ごとに区切って、生徒が教師に対して演奏し(生徒の演奏の伴奏として教師が演奏する場合がある。)、
 生徒の演奏を目の前で聞いた教師が、生徒に対する演奏上の課題及び注意を口頭で説明し、必要に応じて当該部分の演奏の例を示し、
 教師の指導を聞いた上で、再度生徒が演奏するということを繰り返し行った後に、
 一つ一つの課題を達成したかの確認のために、練習してきた部分を(一曲を通して行うものではない。)、又は一曲通して生徒が演奏する(生徒の演奏の伴奏として教師が演奏する場合がある。)
 という練習及び指導の過程で行われる、あらかじめ購入していた楽譜を使用しての生徒及び教師の演奏。
(以上)

(別紙)著作物使用態様目録2
(市販のCD等の録音物の再生を行うレッスンでの使用)
 音楽教室のレッスン(生徒及び教師の演奏に加え、生徒が演奏する楽器のパートを含む全てのパートの演奏が含まれた市販のCD等の録音物の再生演奏が行われる。)における下記の態様での演奏。
(レッスンが行われる場所)
 各控訴人が設営した、教師並びに生徒及びその保護者以外の者の入室が許されない教室。
(レッスンの構成員)
 生徒と担任教師が1対1の個人レッスンと複数名の生徒を1名の担任教師が指導するグループレッスンがあり、グループレッスンの場合でも、受講する生徒の人数は、通常3名ないし5名であり、最大でも10名である。
 特定の教師が、特定の生徒に対し、各生徒の特性や個性を把握して継続的に指導を行う。特別な事情がない限り、クラスにおいて教師が変更されることはない。
(演奏態様)
1 生徒が課題曲を初めて演奏する際等に、必要に応じて、生徒が演奏する前に、教師が一曲を通して又は部分的に課題曲を演奏して課題を示し、
 課題曲を、当該曲の課題を含む数小節ごとに区切って、生徒が教師に対して演奏し(生徒の演奏の伴奏として教師が演奏する場合がある。)、
 生徒の演奏を目の前で聞いた教師が、生徒に対する演奏上の課題及び注意を口頭で説明し、必要に応じて当該部分の演奏の例を示し、
 教師の指導を聞いた上で、再度生徒が演奏するということを繰り返し行った後に、
 一つ一つの課題を達成したかの確認のために、練習してきた部分を(一曲を通して行うものではない。)、又は仕上げとして一曲通して生徒が演奏する(生徒の演奏の伴奏として教師が演奏する場合がある。)
という練習及び指導の過程で行われる、あらかじめ購入していた楽譜を使用しての生徒及び教師の演奏。
2 市販のCD等の録音物の再生演奏
 教師の伴奏の代わりに、生徒の演奏の合奏の相手とするために、
 授業の進捗や生徒の習熟度、理解度に応じて、楽曲を1小節ないし数小節の単位で、又は一曲を通して、また音程、テンポその他の要素を変えて行われる
 生徒が演奏する楽器のパートを含む全てのパートの演奏が含まれた市販のCD等の録音物の再生演奏。
(以上)

(別紙)著作物使用態様目録3
(マイナスワンの再生を行うレッスンでの使用)
 音楽教室のレッスン(生徒及び教師の演奏に加え、生徒が演奏する楽器のパートのみを除いた合奏の演奏が録音されたCD等の録音物(マイナスワン音源)の再生演奏が行われる。)における下記の態様での演奏。
(レッスンが行われる場所)
 各控訴人が設営した、教師並びに生徒及びその保護者以外の者の入室が許されない教室。
(レッスンの構成員)
 生徒と担任教師が1対1の個人レッスンと複数名の生徒を1名の担任教師が指導するグループレッスンがあり、グループレッスンの場合でも、受講する生徒の人数は、通常3名ないし5名であり、最大でも10名である。
 特定の教師が、特定の生徒に対し、各生徒の特性や個性を把握して継続的に指導を行う。特別な事情がない限り、クラスにおいて教師が変更されることはない。
(演奏態様)
1 生徒が課題曲を初めて演奏する際等に、必要に応じて、生徒が演奏する前に、教師が一曲を通して又は部分的に課題曲を演奏して課題を示し、
 課題曲を、当該曲の課題を含む数小節ごとに区切って、生徒が教師に対して演奏し(生徒の演奏の伴奏として教師が演奏する場合がある。)、
生徒の演奏を目の前で聞いた教師が、生徒に対する演奏上の課題及び注意を口頭で説明し、必要に応じて当該部分の演奏の例を示し、
 教師の指導を聞いた上で、再度生徒が演奏するということを繰り返し行った後に、
 一つ一つのの課題を達成したかの確認のために、練習してきた部分を(一曲を通して行うものではない。)、又は一曲通して生徒が演奏する(生徒の演奏の伴奏として教師が演奏する場合がある。)
という練習及び指導の過程で行われる、あらかじめ購入していた楽譜を使用しての生徒及び教師の演奏。
2 録音物(マイナスワン音源)の再生演奏
 教師の伴奏の代わりに、生徒の演奏の合奏の相手とするために、
 授業の進捗や生徒の習熟度、理解度に応じて、楽曲を1小節ないし数小節の単位で、又は一曲を通して、また音程、テンポその他の要素を変えて行われる
 生徒が演奏する楽器のパートのみを除いた合奏の演奏が録音されたCD等の録音物(マイナスワン音源)の再生演奏。
(以上)

(別紙)著作物使用態様目録4
(録音物の再生を行わない個人教室のレッスンでの使用)
 音楽教室のレッスン(録音物の再生は行われない。)における下記の態様での演奏。
(レッスンが行われる場所)
 生徒の居宅かつ教師並びに生徒及びその保護者以外の者の入室が許されない場所。
(レッスンの構成員)
 特定の教師が、特定の1名の生徒に対して、当該生徒の特性や個性を把握して継続的に指導を行う。
(演奏態様)
 録音物の再生演奏が行われない状況下において、
 生徒が課題曲を初めて演奏する際等に、必要に応じて、生徒が演奏する前に、教師が一曲を通して又は部分的に課題曲を演奏して課題を示し、課題曲を、当該曲の課題を含む数小節ごとに区切って、生徒が教師に対して演奏し(生徒の演奏の伴奏として教師が演奏する場合がある。)、
 生徒の演奏を目の前で聞いた教師が、生徒に対する演奏上の課題及び注意を口頭で説明し、必要に応じて当該部分の演奏の例を示し、
 教師の指導を聞いた上で、再度生徒が演奏するということを繰り返し行った後に、
 一つ一つのの課題を達成したかの確認のために、練習してきた部分を(一曲を通して行うものではない。)、又は一曲通して生徒が演奏する(生徒の演奏の伴奏として教師が演奏する場合がある)
 という練習及び指導の過程で行われる、あらかじめ購入していた楽譜を使用しての生徒及び教師の演奏。(以上)

(別紙A)(省略)
(別紙B)(省略)
(別紙C)(省略)
(別紙)(省略)

(別紙)当事者目録
控訴人 一般財団法人ヤマハ音楽振興会(省略)
控訴人ら訴訟代理人弁護士 田中成志
同 板井典子
同 山田 徹
同 澤井彬子
同 沖 達也
控訴人ら(ただし、控訴人番号に*が付されている控訴人らに限る。)
訴訟代理人弁護士 三村量一
同 野瀬健悟
被控訴人 一般社団法人日本音楽著作権協会
同訴訟代理人弁護士 田中豊
同 小川まゆみ
同 堀井敬一
同 宮澤幸夫
(以上)
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