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【事件名】NTTコムへの発信者情報開示請求事件J
【年月日】令和3年2月26日
 東京地裁 令和2年(ワ)第23327号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和3年1月13日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 平野敬
被告 エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社
同訴訟代理人弁護士 五島丈裕


主文
1 被告は、原告に対し、別紙1発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は、原告が、電気通信事業等を営む被告に対し、「B」と題する漫画作品(2巻まで刊行されており、以下、同作品の1巻及び2巻の全体を「本件漫画作品」という。)のうち、その1巻の冒頭部分に当たる別紙3著作物目録記載1ないし5の各画像(以下「本件著作物」という。)を複製して作成された画像データ(以下「本件共有画像」という。)が、被告の電気通信設備を経由して、P2P方式のファイル共有ソフトウェアであるBitTorrentのネットワーク上に送信(アップロード)されて送信可能化された上、同ネットワークを介して自動公衆送信されたこと(以下、この一連の行為を「本件共有行為」と総称する。)によって、本件著作物に係る原告の著作権(送信可能化権及び自動公衆送信権)が侵害されたことが明らかであるとした上で、本件共有行為を行ったBitTorrentのユーザー(以下「本件共有者」という。)に対する損害賠償請求権の行使のため、被告が保有する別紙1発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を受けるべき正当な理由があるとして、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、本件発信者情報の開示を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者
 原告は、「C」の筆名を用いて、漫画家として活動する個人である(甲1、11)。
 被告は、電気通信事業等を営む株式会社であり、プロバイダ責任制限法2条3号の特定電気通信役務提供者に該当する。
(2)本件著作物の著作者
 原告は、筆名を「E」とする小説家が創作した小説を原案に、同人から許諾を受けて本件漫画作品を創作し、平成31年3月に1巻を、令和2年6月に2巻を出版した。このように、原告は、本件漫画作品の1巻の冒頭部分に当たる本件著作物の著作者であり、本件著作物の著作権を有する。(甲2、8、11)
(3)本件共有行為に関する調査の概要等
 BitTorrentとは、インターネット上でP2P方式のファイルの共有ないし交換を行うためのプロトコル(通信規約)の一つ又は当該プロトコルを実装した標準のファイル共有ソフトウェアであるところ、原告訴訟代理人弁護士平野敬(以下「原告代理人」という。)は、令和2年7月3日、原告の委託を受けて、BitTorrentのネットワークに関する調査を行った(甲3、5)。
 その調査において、原告代理人は、インターネット上のウェブページから入手した「DLraw.net−YushanoKuzuvol01−02.rar.torrent」というファイル名のトレントファイル(対象ファイルに紐づく鍵となるファイル)を、原告代理人が使用する端末にインストールしたqBittorrent(BitTorrentのネットワークに参加できるソフトウェアの一つ)に取り込み、「DLraw.net−YushanoKuzuvol01−02.rar」というファイル名の圧縮ファイル(以下「本件ファイル」という。)を受信(ダウンロード)した。そして、当該ファイルを解凍すると、本件共有画像が当該ファイルに格納されていた。(甲4、5、7、8)
 また、上記調査中である令和2年7月3日午後3時50分58秒時点のqBittorrentの画面には、「IP」欄に別紙2発信端末目録の「IPアドレス」欄記載の数値(以下「本件IPアドレス」という。)と同一の数値が、「ポート」欄に同目録の「ポート番号」欄記載の数値と同一の数値が、「フラグ」欄に「DIXHEP」との符号(なお、「DIXHEP」のうち「D」とは、現在受信(ダウンロード)中を意味する符号である(甲12の2)。)がそれぞれ表示されていたほか、「進捗状況」欄に「100%」と、「ダウン速度」欄に「16B/秒」とそれぞれ表示されていた(甲5、6の1)。
(4)本件発信者情報の保有
 被告は、本件IPアドレスを管理しており、別紙2発信端末目録の「発信時刻」欄記載の日時に本件IPアドレスを被告の顧客に割り当てていたものであって、本件発信者情報を保有している(以下、本件発信者情報に係る被告の顧客を「本件契約者」という。)。
(5)本件共有行為に関する本件契約者の回答被告から照会を受けた本件契約者は、被告に対し、@本件共有画像をアップロードしたことには身に覚えがないこと、A別紙2発信端末目録の「発信時刻」欄記載の日時には、会社で勤務をしており、インターネット操作をできる状態にはなかったこと、B本件IPアドレス及び同目録の「リモートホスト」欄記載のリモートホスト(以下「本件リモートホスト」という。)は、本件契約者に割り当てられたものとは別のものであると思われることを記載した令和2年10月23日付け「発信者情報開示に関する回答書」(乙1)を送付した。
 また、本件契約者は、被告に対し、上記Bに関して、本件IPアドレス及び本件リモートホストと本件契約者に割り当てられたIPアドレス及びリモートホストとが同時に存在することを確認した旨を記載した同年11月20日付け「発信者情報開示に関する回答書」(乙2)を送付した(以下、令和2年10月23日付け及び同年11月20日付けの各「発信者情報開示に関する回答書」を併せて、「本件各回答書」という。)。
3 争点
(1)侵害情報の流通によって原告の権利が侵害されたことが明らかであるか(争点1)
(2)本件発信者情報は「開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するか(争点2)
(3)開示を受けるべき正当な理由の有無(争点3)
4 争点に関する当事者の主張
(1)争点1(侵害情報の流通によって原告の権利が侵害されたことが明らかであるか)について
(原告の主張)
ア BitTorrentを利用してファイルを受信(ダウンロード)した者は、自動的にピアとして登録され、他のユーザーの要求に応じて、当該ファイルを他の端末に送信(アップロード)する役割をも同時に担うこととなる。
 この点、原告代理人が調査した結果、別紙2発信端末目録の「発信時刻」欄記載の日時に本件共有行為がなされていることが確認された。このような調査結果及び上記のようなBitTorrentの仕組みによれば、本件共有者による本件共有行為は原告の本件著作物に対する著作権(送信可能化権及び自動公衆送信権)を侵害するものといえる。
イ ファイル共有ソフトウェアにより不特定多数の間で著作物を共有することは、情報解析(著作権法30条の4第2号)、引用(同法32条)その他の著作権制限規定にも該当せず、本件共有行為について違法性阻却事由は存在しない。
ウ したがって、侵害情報の流通に該当する本件共有行為によって原告の権利が侵害されたことは明らかである。
(被告の主張)
ア 別紙2発信端末目録の「発信時刻」欄記載の日時は、原告代理人による調査の日時を指すものであって、本件ファイルがBitTorrentのネットワークに送信(アップロード)ないし受信(ダウンロード)された日時を指すものとは認められない。
 また、本件共有画像を受信(ダウンロード)して、その後送信(アップロード)するというBitTorrentの仕組みは不自然であり、この点について原告が十分に主張立証しているとはいえない。
 以上を考え合わせると、上記日時に、本件共有画像が送信(アップロード)されたとは認められない。
イ 違法性阻却事由の不存在については争う。
ウ したがって、侵害情報の流通によって原告の権利が侵害されたことが明らかであるとはいえない。
(2)争点2(本件発信者情報は「開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するか)について
(原告の主張)
ア 本件共有行為には、被告が管理する本件IPアドレスが用いられていた。
 したがって、被告は、原告の権利を侵害する情報に係る特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いており、「開示関係役務提供者」(プロバイダ責任制限法4条1項柱書き)に該当する。
イ 本件契約者は、本件各回答書において、本件共有行為は身に覚えがないと述べており、その根拠として、自身に割り当てられているIPアドレス及びリモートホストが本件IPアドレス及び本件リモートホストと異なることや、別紙2発信端末目録の「発信時刻」欄記載の日時頃にはインターネットの操作をすることができなかったことを挙げる。
 しかしながら、一般に、プロバイダが契約者に割り当てるIPアドレスはルーターの再起動などによって変動し得る動的アドレスであることや、BitTorrentは、ファイルの送受信中にユーザーの操作を要せず、端末を起動させてさえいればよいことからすると、本件契約者の上記の指摘は、本件契約者と本件共有者が別の人物であることを根拠づけるものではない。
ウ したがって、本件発信者情報は、「開示関係役務提供者」である被告が保有する原告の「権利の侵害に係る発信者情報」に該当する。
(被告の主張)
 被告の用いる特定電気通信設備が原告の権利を侵害する情報の流通の用に供された事実は否認し、被告が「開示関係役務提供者」に該当することは争う。
 本件契約者は、本件各回答書において、本件契約者に割り当てられたIPアドレス及びリモートホストを調べたところ、いずれも、本件IPアドレス及び本件リモートホストとは異なるものであったこと、別紙2発信端末目録の「発信時刻」欄記載の日時には勤務中でインターネットを操作することができなかったこと等を根拠として、本件共有行為に及んだ事実を否定している。こうした本件各回答書の内容からすれば、本件契約者が本件共有行為に及んだとは認められない。
(3)争点3(開示を受けるべき正当な理由の有無)について
(原告の主張)
 原告は、本件共有者に対し、損害賠償等を請求するべく準備をしているところ、そのためには、本件共有者すなわち本件契約者の氏名及び住所の開示を受けることが必要であるから、原告には本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。
(被告の主張)
 争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(侵害情報の流通によって原告の権利が侵害されたことが明らかであるか)について
(1)証拠(甲3、5)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア BitTorrentを用いたファイル共有の仕組み
(ア)目的のファイルを入手しようとするBitTorrentのユーザーは、BitTorrentのネットワークを介してトラッカー(ファイルの提供者のリストを管理するサーバーをいい、IPアドレスを他のネットワーク参加者(「ピア」とも呼ばれる。)と共有して相互に接続できるようにする機能を有する。)に接続し、現時点で目的のファイルを保有し、かつ提供することができる端末のIPアドレス等の情報を取得する。
 そして、当該ユーザーは、取得した上記IPアドレスの中から一つ以上を選んで目的のファイルの送信(アップロード)を要求し、ファイルを自己の端末で受信(ダウンロード)して、目的のファイルを入手する。
 なお、BitTorrentでは、ネットワーク参加者(ピア)は、どのIPアドレスの端末がどのファイルを保有、提供しているかを容易に知ることができる仕組みが採用されている。
(イ)BitTorrentでは、目的のファイルを受信(ダウンロード)するユーザーは、受信(ダウンロード)の開始と同時に、当該ファイル又はその受信(ダウンロード)途中のファイル断片を提供できるピアとしてトラッカーに登録される。そのため、上記ユーザーは、BitTorrentのネットワークの他のピアから当該ファイルの提供を要求されれば、当該ファイル又はその断片を当該ピアの端末に自動的に送信(アップロード)することとなる。
イ qBittorrentの機能
 qBittorrentは、BitTorrentのクライアントソフトの一つであり、BitTorrentのネットワーク上で目的のファイルの送受信を行っているピアについて、その端末のIPアドレスやポート番号、進捗状況(当該ピアの端末にファイルがどの程度保存されているかを百分率で表した数値。)等を表示する機能がある。
(2)ア 前記(1)の認定事実に加え、前記前提事実(3)のとおり、原告代理人が調査を行った令和2年7月3日午後3時50分58秒の時点で、本件IPアドレスと同一の数値及び別紙2発信端末目録の「ポート番号」欄記載のポート番号が付与された端末の「進捗状況」が「100%」である旨がqBittorrentの画面に表示されていたことに照らすと、上記端末には、本件ファイルの全部が保存されていたことが認められる。そうすると、上記端末の使用者である本件共有者は、遅くとも上記の時点までには、本件ファイルの全部を取得して上記端末に保存し、かつ、これと同時に、BitTorrentのネットワークを介して他のピアからの要求に応じて当該ファイルの送信(アップロード)をすることができる状態にしたと認められる。よって、本件共有者は、遅くとも上記の時点までに、本件共有行為により、本件著作物に係る原告の送信可能化権を侵害したものである。
 さらに、前記(1)ア(ア)によれば、BitTorrentのネットワーク上で受信(ダウンロード)されるファイルは、当該ファイルが保存された端末から受信(ダウンロード)を要求した端末へ直接送信(アップロード)される。そして、前記前提事実(3)のとおり、原告代理人が調査を行った上記の時点において、qBittorrentの画面に「D」「16B/秒」と表示されていたものである。そうすると、上記の時点において、本件IPアドレスが付与された上記端末から、原告代理人の端末に対して、本件共有画像を含む本件ファイルが送信(アップロード)され、原告代理人の端末が毎秒16バイトの速度でこれを受信(ダウンロード)したと認めることができる。よって、本件共有者は、上記の時点において、本件共有行為により、本件著作物に係る原告の自動公衆送信権を侵害したものである。
 加えて、前記(1)ア(イ)のとおり、BitTorrentでファイルを受信(ダウンロード)したユーザーは、そのネットワークのピアとして登録され、不特定又は多数の他のピアから要求されれば、同ファイルをその要求したピアの端末に自動的に送信(アップロード)することになることに照らせば、本件共有行為は、本件著作物を複製して作成された本件共有画像を公衆からの求めに応じ、自動的に、公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信を行うものであり、かつ、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信ということができる。よって、本件共有行為は、「特定電気通信」(プロバイダ責任制限法2条1号)に当たる。
 以上によれば、遅くとも令和2年7月3日午後3時50分58秒頃までに、本件共有者が行った特定電気通信である本件共有行為により、本件著作物に係る原告の著作権(送信可能化権及び自動公衆送信権)が侵害されたと認めるのが相当である。
イ これに対し、被告は、前記アの日時は原告代理人による調査の日時を指すものであって本件共有画像がBitTorrentのネットワークに送信(アップロード)ないし受信(ダウンロード)された日時を指すものではないから、同日時において原告の権利が侵害されたとは認められないと主張する。
 しかしながら、前記前提事実(3)のとおり、原告代理人の調査によって、本件共有者が前記アの日時に本件共有画像を含む本件ファイルを原告代理人の端末に宛てて現に自動公衆送信している状況が直接確認されている。
 さらに、本件共有者は、上記の自動公衆送信の前提として、遅くとも前記の日時までに、本件ファイルを自己の端末に保存するなどして、本件共有画像を送信可能化していたものと推認することができる。
 したがって、被告の主張は、侵害情報の流通により原告の著作権(送信可能化権及び自動公衆送信権)が侵害されたことを否定する理由とはならない。
ウ そして、本件全証拠によっても、本件共有行為について、著作権の制限規定に該当する事実その他の違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情は認められない。
(3)被告は、本件漫画作品を販売するウェブサイトに、「C」の表記と共に「E(著)」と記載されていることから、「C」に本件著作物の単独の著作権が帰属することに疑義があると主張する。この主張については、本件著作物の著作権が「C」の筆名を用いる者と「E」の筆名を用いる者の共有に係る可能性があることに基づき、権利侵害の明白性を争うものと解される。
 しかしながら、仮に原告の保有する本件著作物の著作権が「E」の筆名を用いる者の著作権との共有著作権であったとしても、前記(2)で説示したところに照らせば、本件共有行為により、少なくとも、原告が保有する本件著作物の著作権の持分が侵害されることとなる。そうすると、被告の上記主張を前提としても、侵害情報の流通によって原告の権利が侵害されたことに変わりはないのであるから、この主張は、権利侵害の明白性を争うものとしては失当である。
(4)小括
 以上によれば、本件共有者による本件共有行為によって原告の本件著作物に対する著作権(送信可能化権及び自動公衆送信権)が侵害されたものと認められ、かつ、これについて違法性阻却事由は認められないから、「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかである」(プロバイダ責任制限法4条1項1号)と認められる。
2 争点2(本件発信者情報は「開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するか)について
(1)前記1(2)アのとおり、本件共有者は、原告代理人が調査を行った別紙2発信端末目録の「発信時刻」欄記載の日時に、本件IPアドレスが付与された端末を利用して本件共有行為のうちの自動公衆送信行為を行い、本件著作物に係る原告の著作権(自動公衆送信権)を侵害したと認められる。また、前記前提事実(4)のとおり、被告は、上記の日時に、本件IPアドレスを本件契約者に付与していた。以上を総合すれば、本件共有者と本件契約者は同一人であり、本件契約者が本件共有行為に及んだと推認されるから、本件発信者情報は「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当すると認められる。
 そして、前記前提事実(1)のとおり、被告が特定電気通信役務提供者に該当することに争いはないところ、上記のとおり、原告の著作権(送信可能化権及び自動公衆送信権)を侵害する本件共有行為のうち、少なくとも、上記の日時になされた自動公衆送信行為については、被告の管理下にある本件IPアドレスが用いられたのであるから、本件共有者すなわち本件契約者による上記自動公衆送信行為に係る特定電気通信には、被告の特定電気通信設備が用いられたと認められる。以上によれば、被告は「開示関係役務提供者」に該当すると認められる。
(2)以上の認定に対し、被告は、@本件IPアドレス及び本件リモートホストが自らに割り当てられたものとは別のものであることやA別紙2発信端末目録の「発信時刻」欄記載の日時には勤務中でインターネットを操作することができなかったことなどを根拠に本件共有画像のアップロードは身に覚えがないとする本件契約者作成の本件各回答書に基づき、本件契約者が本件共有行為に及んだ事実を否認して、被告が開示関係役務提供者に当たることを争う。
 そこで検討するに、弁論の全趣旨によれば、被告が提供するインターネット接続サービスにおいては、割り当てたIPアドレスは顧客ごとに不変のものではなく、同一の顧客であっても、インターネットへの接続の都度、異なるIPアドレスが付与される仕様であると認められるから、本件IPアドレス及び本件リモートホストと異なるIPアドレス及びリモートホストが本件契約者に割り当てられていたとしても、それは当然であるといえる。そうすると、上記@の点については、本件共有行為を行っているとすれば自己に割り当てられたIPアドレスと本件IPアドレスとが一致するはずであるとの誤解に基づくものであると理解できる。したがって、上記@の点は、本件契約者が本件共有行為をした事実に背反するものではないというべきである。
 なお、被告は、本件契約者が上記@の主張が誤解に基づくことを知っていれば、そのような主張をするはずもなく、同主張をしていることが本件共有行為をしていないことを推認させる旨を主張するが、独自の見解であるといわざるを得ず、採用することができない。
 また、本件全証拠によっても、BitTorrentのユーザーがファイルを共有するために現に端末を操作する必要があるとは認められないから、上記Aの点についても、本件契約者による本件共有行為を否定する根拠とはならない。
 以上によれば、本件契約者作成の上記各回答書の存在によって、前記(1)の認定が左右されるものではないというべきである。
(3)小括
 以上によれば、本件発信者情報は「開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報」(プロバイダ責任制限法4条1項柱書き)に該当すると認められる。
3 争点3(開示を受けるべき正当な理由の有無)について
 証拠(甲11)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件契約者に対し、本件著作物の著作権侵害について、不法行為に基づく損害賠償請求その他の法的措置を講じる意思を有しており、その請求のためには、被告が保有する本件発信者情報の開示を受ける必要があるものと認められる。
 したがって、原告には、本件発信者情報の「開示を受けるべき正当な理由がある」(プロバイダ責任制限法4条1項2号)と認められる。
4 結論
 以上のとおり、本件共有行為により原告の権利が侵害されたことが明らかであり、かつ、原告には本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由もあるといえるから、本件共有行為に係る通信を媒介した被告は、開示関係役務提供者として本件発信者情報を開示すべき義務を負う。
 よって、原告の請求は理由があるから、これを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 國分隆文
 裁判官 小川暁
 裁判官 佐々木亮


(別紙1)発信者情報目録
 別紙2発信端末目録記載のIPアドレスを、同目録記載の発信時刻頃に使用した者の情報であって、次に掲げるもの。
1 氏名又は名称
2 住所
 以上

(別紙2発信端末目録及び別紙3著作物目録は省略)
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