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【事件名】健康器具“グッド・コア”事件
【年月日】令和3年2月17日
 東京地裁 令和元年(ワ)第34531号 知財及び損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 令和2年12月11日)

判決
原告 A
被告 モダンロイヤル株式会社
同訴訟代理人弁護士 山田勝重
同補佐人弁理士 山田智重


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、200万円及びこれに対する令和2年1月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告が別紙1記載の覚書(以下「本件覚書」という。)の内容に基づきコミッションを被告から受け取ることのできる権利を有することを確認する。
3 被告は、別紙2物件目録記載の製品(以下「本件商品」という。)を製造、販売してはならない。〔前項に対する予備的請求〕
4 被告は、原告に対し、120万円及びこれに対する令和2年1月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は、原告が、被告に対し、@被告が製造、販売する本件商品は、原告と被告が共同開発したものであり、本件覚書に基づき、コミッションを受け取る旨の合意があったとして、そのコミッションを受ける権利の確認と未払コミッションの一部120万円(平成31年4月分〜令和元年12月20日分)及び訴状送達の日の翌日(令和2年1月15日)から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め(請求の趣旨第2項及び第4項)、A仮に、本件覚書が効力を有しないとすれば、被告による本件商品の販売は、原告の著作権を侵害し、また、形態模倣による不正競争行為に当たるとして、予備的に、著作権法112条1項、不正競争防止法3条1項に基づき、本件商品の製造、販売の差止めを求めるとともに(請求の趣旨第3項)、B被告が、本件覚書に係る契約(以下「本件契約」という。)の更新を拒絶し、また、本件商品の商品名を抜け駆け的に商標登録したことが不法行為に当たるとして、その違法性を立証する労力及び時間に相当する200万円の賠償及び訴状送達の日の翌日から支払済みまで前記改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である(請求の趣旨第1項)。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記した証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実。なお、本判決を通じ、証拠を摘示する場合には、特に断らない限り、枝番を含むものとする。)
(1)当事者
ア 原告は、Bを屋号とし、CG映像制作、CGシステム企画及び商品企画の業務を行っている個人事業主である。
イ 被告は、主にTVショッピンやインターネット通販によって、フィットネス機器、健康美容機器及び生活雑貨等を販売する会社である。
(2)本件商品の発売に至る経緯
ア 原告は、平成27年7月6日頃、被告に対し、本件商品となる仮称「GoodCore」(グッドコア)の企画を持ち込んだが(甲1)、被告からの指摘を受け、商品形状の変更などをした(甲3)。
イ 被告の担当者は、原告と打合せを重ねるなどした上、平成27年10月から平成28年5月にかけ、原告から提供を受けた本件商品の図面資料やCADデータ(甲14)を金型メーカーに送付するなどした。
ウ 被告は、平成28年3月31日頃、原告に対し、契約書案として、本件覚書と同一の案文(甲5)を送付した。ただし、原告と被告は、それぞれが押印した本件覚書を取り交わさなかった。
 本件覚書(別紙1)には、以下の記載がある。
 第1条(コミッション)
 1)売上に対するコミッション
  販売価格(消費者へ)×販売数量(売上数−返品)の3.0%(税抜き)*販売価格は定価ではなく、消費者への実販売価格
  (以下略)
 第2条(支払期間)
  発売日より2年間とする。
  但し、2年間経過したのちの月間平均売上が、おおむね100個を上回っている場合は、期間延長の再契約を行うことができる。
  (以下略)
エ 被告は、平成29年4月、本件商品の製造、販売を開始し、同月分から平成31年3月分までの売上げについて、毎月、原告に対し、本件商品に係るコミッションを支払った。
オ 本件商品は、別紙2物件目録記載のように、X字型をしたクッションであり、「グッド・コア」の名称の下、エクササイズやストレッチをする際の補助具に用いるものとして販売された(甲19)。
(3)原被告間に紛争が生じた経緯
ア 原告と被告は、平成31年4月以降、本件契約の再契約についての協議を行い、被告は、本件商品はショップチャンネルの売上げの割合が高く、売上げが増えても利益が増えず、在庫リスクが増えるとして、コミッション料率を1.5%に引き下げることを求めたのに対し、原告は、本件契約と同様、コミッション料率を3%とし、契約期間を2年間とする条件を提示し、また、本件商品の著作権が原告に帰属することを前提とすることなどを求めた(乙11、14)。
イ 被告は、平成31年4月24日、原告に知らせないまま、別紙3商標目録記載のとおり、本件商品の商品名に係る商標登録を出願し(甲6)、その登録を受けた(以下「本件商標登録」という。)。
ウ 原告と被告は、令和元年6月13日頃、同年4月分以降の本件商品に係るコミッション料率を1.7%とすることなどを内容とする契約書案を協議したが、結局、合意に至ることはなかった。(乙13、甲37)
エ 被告は、平成31年4月以降、現在に至るまで、本件商品の売上げを得ているが(弁論の全趣旨)、原告に対し、同月分以降の売上げに係るコミッションを支払っていない。
3 争点
(1)本件契約が更新され現在まで存続しているか。(争点1)
(2)平成31年4月分以降の売上げに係る未払が存するか。(争点2)
(3)原告が本件商品に係る著作権を有しているか。(争点3)
(4)本件商品の販売継続が形態模倣の不正競争に当たるか。(争点4)
(5)本件契約の更新拒絶が優越的な地位の濫用に当たるか。(争点5)
(6)原告に無断でした本件商標登録が不法行為に当たるか。(争点6)
(7)原告に生じた損害の有無及び額(争点7)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(本件契約が更新され現在まで存続しているか。)について
(原告の主張)
(1)原告と被告は、平成29年3月31日、本件契約を締結した。原告は、多忙であった上、被告を信頼していたこともあって、本件覚書に調印の手続をしないままにしていたが、被告は、同年4月から平成31年3月まで、原告に対し、3%のコミッションを支払っており、原被告間に本件覚書の内容の合意が成立していたことは明らかである。
(2)そして、本件覚書2条は、平均月間売上げが100個を下回る状況が続いたとき、契約終了となると定めるが、本件商品は、前記2年間に1万5000個以上を売り上げていたはずであり、被告提出証拠(乙12)を前提にしても、直近3か月間の平均月間売上げは100個を超えているから、本件契約は更新され、原告は、現在もコミッションを受け取る権利を有する。
(被告の主張)
(1)本件覚書は、実際に調印締結するには至っておらず、本件覚書1条1項記載のコミッションを支払う事実上の合意があったにすぎない。被告は、本件商品に係る企画提案をしてきたという原告の立場を尊重し、平成31年3月まで、本件覚書に沿った支払をしたにすぎない。
(2)本件覚書2条は、平均月間売上げが100個を上回るとき、当事者間の協議によって、2年間の契約期間を延長する余地を残した条項にすぎず、原告にコミッションを受領する権利を当然に与えるものではない。しかも、平成31年4月以降、本件商品の平均月間売上げは100個を下回っていた。
2 争点2(平成31年4月分以降の売上げに係る未払が存するか。)について
(原告の主張)
 被告は、原告に対し、平成31年4月分からのコミッションを支払っていない。これまでの支払実績に照らすと、その未払額は、令和元年12月20日分までの計算でも、120万円に上ると考えられる。
(被告の主張)
 被告が、平成31年4月分以降のコミッションを支払っていないことは認めるが、被告は、これ以上のコミッションを支払う義務を負ってない。被告は、同年3月分まで、開発協力者にすぎない原告に対し、破格ともいえる高率のコミッションを支払っていた。
3 争点3(原告が本件商品に係る著作権を有しているか。)について
(原告の主張)
(1)原告は、誰も見たことのない形状を目指し、本件商品をデザインしたのであり、実際にも、「ユニークな形状」(甲7)、「変わった形」(甲8)などとして、独創性を評価されている。原告は、本件商品の企画に当たり、インテリア性も重視しており、運動器具にありがちな機能重視の無骨なデザインではなく、ソファーや棚においても違和感のないシンプルでクールな形状を目指してデザインをした(甲20)。
(2)本件商品の形状は、一般的なクッションと異なり、四隅が斜め上方に突出し、底面が半球状である点に特徴がある。四隅の突出部は、シャープな突出部となだらかな突出部から構成され、それらの突出部の先端部分に球状又は楕円球状の突起が配置されている。また、中央部分にも突起が左右対称に配置され、この突起部分が本体部と面取り処理をされ、独自の三次曲面を構成している。このような特徴を持つ造型は、本件商品以外に存在しない。
(3)応用美術であっても、何らかの個性が発揮されていれば、創作性あるものとして著作物性を認め得る。トリップ・トラップ事件で判示されているように、作者の独創性や個性、創作的な表現があるかが重要であるが、本件商品は、その条件を十分に満たす。本件商品は、当該事件で著作物性が認められた椅子と比較しても、美的鑑賞性もあり、モダンアートとしても遜色のないポテンシャルを有するものである。
(4)被告は、本件商品を創作したのは被告であると主張するが、本件商品は、原告作成のCADデータ等に基づき、被告が依頼した金型メーカーが作成したものであり、その著作権は創作者である原告に帰属する。原告が本件商品のデザインをクライアントである被告の意見を参考にして修正したとしても、原告にその著作権が帰属することに変わりはない。
(被告の主張)
(1)本件商品自体にせよ、原告作成の企画書に記載された図面のクッションにせよ、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、美術の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)に該当しない。これらは販売を前提にした量産品であり、工業的生産過程をもって製作される意匠に係る物品にすぎない。そもそも、この点に関する原告の主張は、どの部分が独立の美的鑑賞の対象となり得る著作物に該当するというのか不明である。
(2)なお、本件商品の開発製造は、被告が主体となり、その費用負担で行われたものであり、これに対する原告の寄与は、企画書に記載されている部分を越えては存在しない。被告は、本件商品のデザイン作業を原告に依頼したものであるが、実際の商品の形態は、原告作成の企画書の内容から変更されている。これが被告の下で創作されたものであることは、訴訟前のメールでの交渉において、原告自身が自認していた(乙11)。
4 争点4(本件商品の販売継続が形態模倣の不正競争に当たるか。)について
(原告の主張)
 仮に、本件覚書が効力を有していないとすれば、被告による本件商品の製造、販売は、「他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡する行為」(不正競争防止法2条1項3号)として、不正競争行為に該当する。
(被告の主張)
 被告は、原告の企画書を参考に、本件商品の形態を最終的に完成させた者であるから、不正競争防止法2条1項3号の「他人」に当たらない。また、同法19条1項5号イに規定する3年の期間も経過している。
5 争点5(本件覚書の更新拒絶が優越的な地位の濫用に当たるか。)について
(原告の主張)
 本件覚書2条にいう「再契約」は、同一条件による期間延長の契約であったはずである。しかるに、原告は、本件覚書の再契約の打合せにおいて、一方的にコミッションの減額を通知し、契約の更新を拒絶した。そして、被告は、これに原告が同意していないのに、本件商品の販売を継続し、しかも、コミッションの支払を停止している。コミッションを支払う側である被告が、受け取る側の原告に対し、優越的な地位にあることは明白であるから、このような行為は優越的な地位の濫用に当たり、原告に対する不法行為を構成する。
(被告の主張)
 本件商品は、独占適応性のない商品であり、第三者が本件商品に類似する商品を販売したとしても、これを甘受せざるを得ないものである。原告は、例えば、第三者を通じるなどし、同種商品を企画販売することも可能であった。また、被告は、原告の下請けとして、上下の取引関係にあるわけでもない。被告が、本件商品の販売を継続したことは、優越的地位の濫用等に該当しない。
6 争点6(原告に無断でした本件商標登録が不法行為に当たるか。)について
(原告の主張)
(1)被告は、本件商品に係る商標登録をするよう求める原告の打診に応じてこなかったのに、原告が再契約に難色を示すようになると、抜け駆け的に商標登録されることを警戒し、単独で商標登録をした。被告は、原告による権利化を意図的に留保させながら、自らが無断で権利者となったのであり、原告の商標登録を受ける権利に対する侵害に当たるというべきである。
(2)被告が本件商品の名称を先に使用していたとしても、被告は、その名称の発案者である原告に何ら知らせず、原告との交渉を有利に進め、自らの権利を守るため、抜け駆け的に商標登録をした。これは、一般的商道徳に照らして許される行為ではなく、本件商標登録は取り消されるべきものである。
(被告の主張)
 被告は、本件商品の製造、販売の主体として、営業上の必要性から商標登録の出願手続をしたのであり、本件商標登録のために、原告の同意や許諾を得なければならない理由はない。そもそも、商標法は、商標登録を受ける権利なるものを規定していない。本件商標登録のように、使用する商標の登録を出願することは、当然の保全行為であり、何らの違法性もない。
7 争点7(原告に生じた損害の有無及び額)について
(原告の主張)
 原告は、被告の行為の違法性を立証するため、膨大な労力と時間を費やしており、本来であれば他の業務に充てるべき時間も浪費することになった。これによる損害は少なくとも200万円に相当する。
(被告の主張)
 原告の被った損害及び損害額に関する主張は、否認し又は争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(本件契約が更新され現在まで存続しているか。)について
(1)本件覚書に係る契約の成立について
 被告は、本件覚書について、事実上の合意があったにすぎないなどとして、契約の成立自体を争う。しかし、前記前提事実(2)ウ、エのとおり、被告は、原告に対し、本件覚書の案文を送付した上、平成29年4月に本件商品の発売を開始した後、本件覚書2条に記載された契約期間である2年の間、原告に対し、本件商品に係るコミッションを支払っていたのであり、その間、本件覚書の内容に関し、異議が述べられるなどしたような事情もうかがわれない。そうすると、原被告間では、遅くとも平成31年3月までに、本件覚書記載の内容により本件契約が成立していたと認めるのが相当である。
(2)本件契約の更新の有無について
ア 原告の主張は、本件覚書2条のうち「月間平均売上が、おおむね100個を上回っている場合は、期間延長の再契約を行うことができる。」という部分が契約当事者に契約の更新権を与えていることを前提に、本件契約が前記2年の契約期間を経過した現在も有効に存続していることをいうものと理解される。
 しかし、本件覚書の同条項は、コミッションの支払期間について「発売日より2年間とする」と明記した上で、月間平均売上が所定の条件を満たす場合に「再契約を行うことができる」と規定しているにすぎず、当該条件を満たす場合に本件契約が自動更新する旨や、一方当事者の意思表示のみで本件契約を同一内容で更新し得る旨を定めたものとは解されないことからすると、原被告間において2年の契約期間が経過した後の契約条件が合意に達せず、再契約の協議が整わなかった以上、同契約は2年の経過により終了したと解するのが相当である。
イ したがって、本件契約は、平成31年3月で終了し、現在は存続していないことになる。そうすると、原告の請求のうち、本件覚書の内容に基づきコミッションを被告から受け取ることのできる権利を有することの確認を求める部分(請求の趣旨第2項)は理由がない。
2 争点2(平成31年4月分以降の売上げに係る未払が存するか。)について
(1)本件契約が、平成31年3月で終了し、同年4月以降に更新されなかったことは、争点1で説示したとおりである。そうである以上、被告が、その後も本件商品の販売を継続していたにせよ、同月分以降の本件商品に係る売上げについて、原告に対し、コミッションを支払う必要はない。
(2)したがって、同月分以降の売上げに係る未払も存しない。そうすると、その余の点を判断するまでもなく、原告の請求のうち、平成31年4月分以降の未払のコミッションの一部120万円及び遅延損害金の支払を求める部分(請求の趣旨第4項)も理由がない。
3 争点3(原告が本件商品に係る著作権を有しているか。)について
(1)本件商品は、前記前提事実(2)オによれば、エクササイズやストレッチをする際の補助具に用いるクッションであり、実用上の目的を有する工業製品に属するものであるが、他方で、証拠によれば、一般的なクッションとは異なり、長方形のクッションの四隅が斜め上方に突出することで、X字形の印象を与える形状を有するものであり、また、その突出部分には、細く長いものと短く太いものとの2種があり、突出部分と中央部分に、半球状又は半長球状の6個の突起部分が形成されているなどの特徴を有するものであると認められる(甲19、20)。
(2)しかし、そのX字形の形状は、幅広い体型にフィットさせるという実用目的で採用されたものであり(甲1N)、突出部分に2種あるのも、同様の理由による(甲3B)。6種の突起部分も、マッサージやストレッチの補助に供するという実用上の機能のために設定されたものにすぎない(甲3B〜F、甲16@、甲19)。これらの事情も踏まえれば、前記の形状や特徴も含め、本件商品において、美的鑑賞の対象となり得るような何らかの創作的工夫がなされているとはいうことはできず、本件商品について、美術の著作物としての著作物性を認めることはできない。
(3)これに対し、原告は、本件商品は、インテリア性を重視して設計されたものであり、その独創性を評価されている上、美的鑑賞性も有しているなどと主張する。しかし、本件商品の前記特徴は、そこに一定の個性の発揮をみることができるにしても、前記のとおり、実用上の機能や目的を主とするものであって、それを離れた美的鑑賞性を有しているとはいえない。原告は、何らかの個性が発揮されていれば著作物性を認め得るとも主張するが、実用目的の工業製品について、その機能や目的に供するために個性が発揮されていたとして、それを美術の範囲に属する著作物ということはできない。
(4)したがって、本件商品は著作物性を有さず、原告が、その著作権を有すると認めることはできず、本件商品を設計する基礎となった各種図面に対する著作権についても同様である。そうすると、予備的に、本件商品の製造、販売の差止めを求める原告の請求(請求の趣旨第3項)のうち、著作権法に基づく部分は理由がない。
4 争点4(本件商品の販売継続が形態模倣の不正競争に当たるか。)について
(1)原告の主張は、本件契約が効力を失った後も、被告が、本件商品の製造、販売を継続したことは、不正競争防止法2条1項3号の形態模倣の不正競争行為に該当するというものと理解し得る。
 しかし、前記前提事実(2)ア及びイによれば、被告は、原告から本件商品の企画の持ち込みを受け、原告と協力するなどして、本件商品を完成させ、これを製造、販売した者と評価し得るのであるから、同号の「他人」には当たらないというべきである。
(2)また、本件商品が平成29年4月に国内販売されてから、本件口頭弁論終結日である令和2年12月11日までに、同法19条1項5号イに規定する3年の期間が経過しており、この点からも本件商品の製造、販売の差止めを求める原告の請求は理由がない。
(3)そうすると、予備的に、本件商品の製造、販売の差止めを求める原告の請求(請求の趣旨第3項)のうち、不正競争防止法に基づく部分は理由がない。
5 争点5(本件覚書の更新拒絶が優越的な地位の濫用に当たるか。)について
(1)原告は、本件契約は同一条件で期間延長されるべきものであったのに、被告が、原告に対し、一方的にコミッションの減額を通知し、契約の更新を拒絶したことが、優越的な地位の濫用に当たると主張する。本件契約は、争点1に説示したとおり、当然に同一条件で期間延長されるべきものではなかったから、原告の当該主張は、被告の行為が、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律2条9項5号ハの「取引の相手方に不利益となるように20引の条件を設定」する行為に当たるというものと理解される。
(2)被告の当該行為が、前記の意味での優越的な地位の濫用に当たるというためには、被告の取引上の地位が原告に優越することを前提に、被告が、一方的に、著しく低い対価での取引を要請する場合であって、原告が、今後の取引に与える影響等を懸念して当該要請を受け入れざるを得ない場合であることを要すると解される。
 本件契約の再契約をめぐる原告と被告の交渉経緯は、前記前提事実(3)アないしエ記載のとおりであり、これによれば、原告と被告は対等な立場において交渉を行っており、被告が原告に対して優越的な立場に立っていたということはできない。また、本件商品の性質、開発の経緯、販売開始からの期間、販売経路、売上高等を考慮すると、被告が交渉過程において提案した1.5%というコミッション料率が、通常のコミッション料率などと比較し、客観的に著しく低いものであったことと認めることはできない。さらに、上記交渉の過程において、原告は、本件商品の著作権が原告に帰属することの確認を被告に求めていたところ、本件商品が著作物性を有さず、原告がその著作権を有すると認めることはできないことは、前記判示のとおりである。
(3)以上によれば、被告が本件契約の更新又は再契約に応じなかったことが、優越的地位の濫用に当たるということはできない。そうすると、不法行為に対する損害の賠償及び遅延損害金の支払を求める原告の請求(請求の趣旨第1項)のうち、本件覚書の更新を拒絶したことを理由とする部分は理由がない。
6 争点6(原告に無断でした本件商標登録が不法行為に当たるか。)について
 原告は、本件商標登録が、原告の商標登録を受ける権利に対する侵害であると主張する。
 しかし、原告が、「グッド・コア」の商品名を発案した者であるとしても、それによって原告がその商標登録を受ける権利を有することになるわけではなく、また、被告が本件商標の出願をした契機が原告との間の紛争にあるとしても、前記判示のとおり、被告は、原告と協力するなどして本件商品を完成させ、「グッド・コア」の商品名の下、本件商品を製造、販売した主体であることに照らすと、被告が本件商標の出願をしたことが違法であるということはできない。
 したがって、被告が、原告に無断で本件商標登録をしたことが、不法行為に当たるということはできない。そうすると、不法行為に対する損害の賠償及び遅延損害金の支払を求める原告の請求(請求の趣旨第1項)のうち、被告が本件商標登録したことを理由とする部分は理由がない。
7 結論
 よって、その余の点を検討するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 佐藤達文
 裁判官 三井大有
 裁判官 吉野俊太

別紙1 開発協力に対するコミッションについての覚書
別紙2 物件目録
別紙3 商標目録
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