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【事件名】業務用プログラム“BSS−PACK”事件B
【年月日】令和3年2月10日
 東京地裁 令和元年(ワ)第34858号 プログラム著作権確認請求事件
 (口頭弁論終結日 令和2年12月3日)

判決
原告 A
原告 B
被告 日本電子計算株式会社
同訴訟代理人弁護士 三谷革司
同 安部雅俊


主文
1 本件訴えのうち、原告らが被告に対して別紙1プログラム目録記載1のプログラムの著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む。)を原告らが保有することの確認を求める請求に係る部分をいずれも却下する。
2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 別紙1プログラム目録記載1ないし3のプログラムの著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む。)は、原告らが保有することを確認する。
第2 事案の概要
1 本件は、原告らが、被告に対し、別紙1プログラム目録記載1ないし3の各プログラム(以下、同目録記載1のプログラムを「本件プログラム1」といい、同目録記載2及び3の各プログラムも同様の例による。また、本件プログラム1ないし3を「本件各プログラム」と総称する。)についての著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む。以下同じ。)を原告らが有することの確認を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者及び関連会社
ア(ア)株式会社ビーエスエス(以下「ビーエスエス社」という。)、ソフトウェア部品株式会社(以下「部品社」という。)及びソフトウエア部品開発株式会社(以下「部品開発社」という。)は、いずれもソフトウェア開発とその販売等を業とする株式会社である(乙2)。
(イ)原告A(以下「原告A」という。)はビーエスエス社の代表取締役であり、原告B(以下「B」という。)は部品社及び部品開発社の代表取締役である(甲11の1、11の2、乙2ないし4)。
イ 被告は、コンピュータシステムによる情報処理サービス及びソフトウェアの開発、販売等を主たる業務とする株式会社である。
(2)本件に先立つ確定判決の存在
ア 原告ら、ビーエスエス社、部品社及び部品開発社(以下「前訴原告ら」と総称する。)は、被告を相手方として、前訴原告らがプログラムの著作権を有することの確認等を求める訴えを東京地方裁判所に提起した(平成30年(ワ)第13092号プログラム著作権確認請求並びに著作権侵害差止請求事件。以下単に「前訴」という。)。同裁判所は、前訴について、平成31年2月5日、前訴原告らの請求をいずれも棄却する判決をした(以下「前訴一審判決」という。)。なお、前訴一審判決は、前訴原告らが著作権を保有することの確認を求めたプログラムを別紙2前訴プログラム目録記載1及び2のとおりであるとした(別紙2前訴プログラム目録記載1及び2は、別紙1プログラム目録記載2及び3の各「BSS−PACK」がいずれも「BBS−PACK」と記載されたものである。)。(乙2)
イ 前訴原告らは、前訴一審判決に対して控訴をした(知的財産高等裁判所平成31年(ネ)第10020号)。同裁判所は、口頭弁論を令和元年5月29日に終結した上、同年7月10日、前訴原告らの上記控訴をいずれも棄却する判決をした(以下「前訴控訴審判決」という。)。なお、前訴控訴審判決は、前訴一審判決中の別紙2前訴プログラム目録の記載をそのまま引用した。(乙3)
ウ 前訴原告らは、前訴控訴審判決に対して上告及び上告受理の申立てをしたが(最高裁判所令和元年(オ)第1339号及び同年(受)第1654号)、最高裁判所は、令和元年11月12日、上告棄却決定及び上告不受理決定をし、前訴控訴審判決は確定した(乙4)。
エ 東京地方裁判所は、令和2年3月3日、前訴一審判決中、前訴原告らが著作権を保有することの確認を求めたプログラムを別紙2前訴プログラム目録記載1及び2から別紙1プログラム目録記載2及び3に更正する旨の更正決定をした(乙1。以下「前訴更正決定」という。)。
 前訴原告らのうち、原告A及び原告Bが前訴更正決定に対して即時抗告を申し立てたところ(知的財産高等裁判所令和2年(ラ)第10002号)、同裁判所は、同年6月3日、抗告を棄却する決定をし、前訴更正決定は確定した(乙5)。
3 争点及びこれに関する当事者の主張
(1)本件プログラム1に係る請求に確認の利益が認められるか否か(争点1)
(原告らの主張)
 原告らは、本件プログラム1の著作権を保有している。
 しかるに、被告は、本件プログラム1の著作権を被告が保有していると主張しているから、原告らが本件プログラム1の著作権を保有することの確認の利益が存在することは明らかである。
 また、本件プログラム1の販売代理店であった株式会社アクセスネット(以下「アクセスネット社」という。)は、同プログラムの著作権を保有していた部品社に対し、本件プログラム1は被告が保有する本件プログラム3の一部(別紙1プログラム目録記載3(3)ア、イ、(4)ないし(6))を侵害するものであるため、本件プログラム1の販売ができないなどと主張して、損害賠償を請求する訴えを提起した。部品社は同訴訟で敗訴し、その判決が確定したことから、部品社から本件プログラム1の著作権を承継した原告らは、同著作権を行使することができない状況にある。加えて、アクセスネット社が被告からの仕事を請け負っているという意味において、両社の間には関係があるほか、日本アイ・ビー・エム株式会社を通じて被告とアクセスネット社との間に密接な人的関係があることを踏まえると、原告らが著作権を行使するため、また、権利の行使を第三者(アクセスネット社)から妨害されるなどの不当・無用な争いを回避するためには、被告との間で、本件プログラム1の著作権を原告らが保有することを判決により確認する必要性がある。
 したがって、本件プログラム1の著作権に係る請求には、確認の利益がある。
(被告の主張)
 原告らが本件プログラム1の著作権を保有していることについては不知であるが、同著作権の権利関係について争うものではなく、被告が本件プログラム1の著作権を保有するといった主張もしていない。
 また、被告とアクセスネット社との間には、本件プログラム1の著作権に係る原告らの請求につき確認の利益を生じさせるような関係はない。
 したがって、本件訴えのうち、本件プログラム1の著作権の確認を求める請求に係る部分については、確認の利益が認められないから、不適法である。
(2)原告らが本件各プログラムの著作権を保有するか否か(争点2)
(原告らの主張)
ア 著作権の保有について
 原告らは、令和元年12月10日、本件プログラム1の著作権を保有していた部品社から、同著作権を譲り受けた。
 また、部品開発社、部品社及び原告らは、平成30年3月24日、本件プログラム2及び3の著作権を保有していたビーエスエス社から、同著作権の持分の一部を譲り受け、さらに、原告らは、令和元年12月10日、ビーエスエス社、部品開発社及び部品社から、それぞれが保有する本件プログラム2及び3の著作権の持分の全部を譲り受けた。
 したがって、原告らは、本件各プログラムの著作権を保有している。
イ 前訴の確定判決の既判力について
 被告は、前訴の確定判決の既判力が本件にも及ぶと主張する。
 しかしながら、本件プログラム2及び3は「BSS−PACK」を含む名称のプログラムであるのに対し、前訴では、「BBS−PACK」を含む名称のプログラムに関する判断がされたにすぎず、本件プログラム2及び3に対する判断は示されていない。
 したがって、前訴の確定判決の既判力が本件に及ぶことはなく、被告の上記主張は理由がない。
(被告の主張)
ア 著作権の保有について
(ア)前記(1)(被告の主張)のとおり、原告らが本件プログラム1の著作権を保有していることについては不知であるが、同著作権の権利関係は争わない。
(イ)原告らが本件プログラム2及び3の著作権を保有することは否認する。
イ 前訴の確定判決の既判力について
(ア)前訴において、前訴原告らの被告に対する請求をいずれも棄却するとの判決が確定した。これにより、前訴の事実審の口頭弁論終結時点において前訴原告らが本件プログラム2及び3の著作権の持分を保有していないことにつき、既判力が生じた。
 そして、原告らは、前訴の「当事者」(民事訴訟法115条1項1号)であるから、上記持分を保有していないことにつき、前訴の確定判決の既判力が及び、また、本件において、部品社、部品開発社及びビーエスエス社から本件プログラム2及び3の著作権の持分を譲り受けたと主張するものであるから、部品社、部品開発社及びビーエスエス社の「口頭弁論終結後の承継人」(同項3号)に該当し、それらの3社が上記持分を保有していないことについても、前訴の確定判決の既判力が及ぶことになる。そうすると、本件においては、前訴原告らがいずれも前訴の口頭弁論終結時に本件プログラム2及び3の著作権の持分を保有しなかったことが前提とされなければならない。
 以上によれば、原告らにおいて、前訴の口頭弁論終結時以降の他の取得原因についての主張立証ができていない以上、原告らの主張には理由がない。
(イ)原告らは、前訴一審判決において前訴原告らが著作権を保有することの確認を求めたプログラムが別紙2前訴プログラム目録記載1及び2のとおり「BBS−PACK」と記載されていることを根拠に、前訴の確定判決の既判力は「BSS−PACK」に関する本件プログラム2及び3には及ばない旨を主張する。
 しかしながら、上記目録の「BBS−PACK」との記載は、「BSS−PACK」の誤記であり、確定した前訴更正決定によって、別紙2前訴プログラム目録記載1及び2は別紙1プログラム目録記載2及び3のとおりに更正されたものである。
 したがって、前訴の確定判決の既判力は本件プログラム2及び3に関して生じているから、原告らの上記主張は理由がない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件プログラム1に係る請求に確認の利益が認められるか否か)について
(1)本件において、原告らは、被告に対し、本件プログラム1の著作権を保有することの確認を求めているところ、本件訴えが適法であるためには、このような確認を求める利益が認められなければならない。
 そこで検討すると、被告が、令和2年9月9日の本件第2回口頭弁論期日において、本件プログラム1に関しては不知であり、その権利関係を争ってもいない旨を記載した答弁書を陳述し、同年12月3日の本件第3回口頭弁論期日において、同プログラムの権利関係は争わない旨の陳述をしたことは、いずれも当裁判所に顕著である。そして、本件記録を精査しても、原告らが本件プログラム1の著作権を保有していることについて、被告がこれを争っていることをうかがわせる事情は認められない。そうすると、被告との関係において、本件プログラム1の著作権を保有する者としての原告らの地位に危険、不安定等の不利益を及ぼすおそれが具体的に存在するとは認められないから、被告に対して、本件プログラム1の著作権の帰属に関する確認を求める利益があると認めることはできない。
(2)この点について、原告らは、アクセスネット社の部品社に対する訴えにおいて部品社が敗訴したため、部品社から本件プログラム1の著作権を承継した原告らが本件プログラム1の著作権を行使することができない状況にあるとして、第三者(アクセスネット社)による妨害に係る不当・無用な争いを回避し、本件プログラム1の著作権を行使するには、アクセスネット社と関係のある被告に対して、本件プログラム1の著作権の保有について確認する必要があると主張する。
 しかしながら、アクセスネット社と被告との間に原告らが主張するような確認の利益を基礎付ける関係があることを認めるに足りる証拠はなく、アクセスネット社と部品社との間の上記訴訟の確定判決により、原告らの本件プログラム1の著作権の行使に何らかの制約が生じているとしても、それは、原告らが被告に対して本件プログラム1の著作権の保有を確認することにより除去されるべき危険、不安定その他の不利益には当たらないから、確認の利益を根拠づける事情にはなり得ない。
 その他、原告らが確認の利益に関して種々主張する点については、いずれも理由がない。
(3)以上の次第で、本件訴えのうち、原告らが被告に対して本件プログラム1の著作権を原告らが保有することの確認を求める請求に係る部分については、確認の利益を欠くものというべきであり、いずれも不適法である。
2 争点2(原告らが本件各プログラムの著作権を保有するか否か)について
(1)著作権確認請求訴訟において、請求棄却の判決が確定した場合には、同訴訟の当事者が著作権を有しないことにつき既判力が生じるから、当該当事者が、後訴において、前訴の訴訟物であった著作権についてはもちろんその共有持分についても、前訴の基準時以前に生じた取得原因事実を主張することは、前訴の確定判決の既判力に抵触して許されないと解すべきである。
 本件についてこれをみるに、前記前提事実のとおり、前訴原告らは被告を相手方として前訴を提起したところ、前訴については、令和元年5月29日に事実審の口頭弁論が終結し、前訴控訴審判決が言い渡され、原告らの請求を全部棄却する旨の判決が確定した。
 そして、前訴一審判決では、前訴原告らが著作権を保有することの確認を求めたプログラムについて、別紙2前訴プログラム目録記載1及び2との特定がされていたが、確定した前訴更正決定により、前訴一審判決中、別紙2前訴プログラム目録記載1及び2が別紙1プログラム目録記載2及び3に更正されたことからすると、前訴において、前訴原告らは、被告に対し、前訴原告らが本件プログラム2及び3の著作権を保有することの確認を請求し、この請求が棄却されたと認めるのが相当であり、この認定を覆すに足りる証拠はない。
 したがって、前訴の確定判決により、前訴原告らが、前訴の口頭弁論終結時である令和元年5月29日、本件プログラム2及び3の著作権(共有持分を含む。)を保有していないことにつき既判力が生じたと認められる。
(2)原告らは、本件プログラム2及び3の著作権の取得原因事実として、@ビーエスエス社が本件プログラム2及び3の著作権を保有していたこと、A平成30年3月24日、原告らは、本件プログラム2及び3の著作権の各持分をビーエスエス社から譲り受けて(以下「本件持分取得原因1」という。)、同社、部品社及び部品開発社とともに本件プログラム2及び3の著作権を共有するに至ったこと、B令和元年12月10日、原告らは、ビーエスエス社、部品社及び部品開発社から本件プログラム2及び3の著作権の各持分の全部をそれぞれ譲り受け(以下「本件持分取得原因2」という。)、原告らが本件プログラム2及び3の著作権を共有するに至ったことを主張する。
 この点、原告らが主張する上記各事実のうち、本件持分取得原因1に関するもの(上記Aの事実)は、原告らが、前訴の既判力が生じる基準時である令和元年5月29日以前に、本件プログラム2及び3の持分を譲り受けた旨の事実にほかならず、前訴の「当事者」(民事訴訟法115条1項1号)であった原告らが当該事実を主張することは、前訴の確定判決の既判力に抵触し、許されないといわなければならない。
 また、原告らの主張によれば、原告らは、前訴の口頭弁論終結後である令和元年12月10日に、本件プログラム2及び3の著作権の持分を、ビーエスエス社、部品社及び部品開発社から譲り受けたとのことであるから(本件持分取得原因2)、ビーエスエス社、部品社及び部品開発社に生じた前訴の確定判決の既判力は、「口頭弁論終結後の承継人」(民事訴訟法115条1項3号)としての原告らに及ぶこととなる。そうすると、原告らは、前訴の確定判決の既判力により、ビーエスエス社、部品社及び部品開発社が、前訴の口頭弁論終結時において、本件プログラム2及び3の著作権の持分を保有していなかったことを争うことはできない。そして、原告らは、ビーエスエス社、部品社及び部品開発社が上記の時点後に本件プログラム2及び3の著作権を取得したことを主張立証しないので、仮に本件持分取得原因2の事実が認められたとしても、原告らが本件プログラム2及び3の著作権を権利者から承継取得したという事実は認められないこととなるから、原告らの主張は理由がない。
 その他、原告らは、前訴の事実審の口頭弁論終結後に発生した本件プログラム2及び3の著作権の取得原因事実について、何ら主張立証しない。
 したがって、原告らが本件プログラム2及び3の著作権を保有するとは認められない。
3 結論
 以上の次第で、原告らの訴えのうち、原告らが被告に対して本件プログラム1の著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む。)を原告らが保有することの確認を求める請求は、いずれも不適法であるから、これらを却下することとし、その余の請求は、いずれも理由がないから、これらを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 國分隆文
 裁判官 小川暁
 裁判官 佐々木亮


(別紙1)プログラム目録
1 部品屋2007を構成する次のプログラム
(1)ソフトウェア部品
(2)中核部(ミドルソフト)のうち、営業秘密部
(3)中核部(ミドルソフト)のうち、OSインターフェース部
(4)部品屋PERSONAL(メニュークリエイト)
(5)Web部品・WebLoader
2 BSS−PACK(VAX/VMS)を構成する次のプログラム
(1)ソフトウェア部品
(2)中核部(ミドルソフト)のうち、OSインターフェース(VMS用)
3 BSS−PACKを構成する次のプログラム
(1)ソフトウェア部品
(2)中核部(ミドルソフト)のうち、営業秘密部
(3)中核部(ミドルソフト)のうち、OSインターフェース部
ア UNIX用
イ WindowsNT用
ウ Windows2000用
エ WindowsXP用
オ LINUX用
(4)BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)
(5)部品マイスター
(6)部品ビュー
 以上

(別紙2)前訴プログラム目録
1 BBS−PACK(VAX/VMS)を構成する次のプログラム
(1)ソフトウェア部品
(2)中核部(ミドルソフト)のうち、OSインターフェース(VMS用)
2 BBS−PACKを構成する次のプログラム
(1)ソフトウェア部品
(2)中核部(ミドルソフト)のうち、営業秘密部
(3)中核部(ミドルソフト)のうち、OSインターフェース部
ア UNIX用
イ WindowsNT用
ウ Windows2000用
エ WindowsXP用
オ LINUX用
(4)BBS−PACKクライアント(メニュークリエイト)
(5)部品マイスター
(6)部品ビュー
 以上
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/