判例全文 line
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【事件名】ソフトバンクへの発信者情報開示請求事件I(2)
【年月日】令和3年2月4日
 知財高裁 令和2年(ネ)第10020号 発信者情報開示請求控訴事件
 (原審・東京地裁令和元年(ワ)第19689号)
 (口頭弁論終結日 令和2年12月9日)

判決
控訴人 X
同訴訟代理人弁護士 遠山光貴
被控訴人 ソフトバンク株式会社
同訴訟代理人弁護士 五十嵐敦
同 小林央典
同 平龍大


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、原判決別紙発信者情報目録1記載の各情報を開示せよ。
3 被控訴人は、原判決別紙発信者情報目録2記載の各情報を開示せよ。
4 被控訴人は、原判決別紙発信者情報目録3記載の各情報を開示せよ。
第2 事案の概要等
1 事案の概要(以下において略称を用いるときは、別途定めるほか、原判決に同じ。)
 本件は、控訴人が、氏名不詳者によりインターネット上のウェブサイトに投稿された本件投稿動画は、控訴人が著作権を有する「控訴人動画」(原判決における「原告動画」)と同一であり、同氏名不詳者の本件投稿行為は、控訴人動画に係る控訴人の公衆送信権又は送信可能化権を侵害するものであることが明らかであると主張して、本件投稿行為に係る経由プロバイダであると主張する被控訴人に対し、法4条1項に基づき、本件投稿動画が投稿されたウェブサイトに、投稿者と同じユーザIDで最後にログインした者(最終ログイン者。なお、このログインを「最終ログイン」という。)に関する本件各発信者情報の開示を求めた事案である。
 原判決は、本件各発信者情報は法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当しないとして、控訴人の請求をいずれも棄却したところ、控訴人が控訴を提起した。なお、控訴人は、当審において、侵害されたとする権利について、控訴人動画の静止画像(甲2−1−2。以下「控訴人画像」という。)に係る公衆送信権、氏名表示権及び同一性保持権を追加した。
2 前提事実
(1)控訴人は、平成29年6月25日、控訴人動画を「家畜道」というインターネット上のウェブサイトに投稿した(甲2−1−1、2−1−3、7)。
 控訴人動画の再生時間は1分48秒である(甲2−1−1、2−1−3)。
 控訴人画像は、控訴人動画の冒頭の一コマである(甲2−1−2)。
(2)氏名不詳者(ユーザ名A)は、平成29年8月23日午前3時38分(協定世界時)、本件投稿行為をした(甲2−2−1、2−2−2、3)。
 本件投稿動画は、ユーザ名Aの紹介ページから見ることができる状態にありそのサムネイル画像(動画の冒頭部分だけを静止画像とし、控訴人動画の内容が分かるようにしたもの。)には、控訴人画像がトリミングされたもの(甲2−1−2、2−2−1。以下「本件サムネイル画像1」という。)と、控訴人画像がトリミングされた上、画像が暗くなり、かつ、その上には錠前様のアイコンが配置されている状態であるもの(甲22の1。以下「本件サムネイル画像2」という。)がある。
(3)本件サイトに動画をアップロードするためには、メールアドレス、ユーザ名、パスワードを登録して同サイトの会員になり、登録したユーザ名及びパスワードを用いて同サイトにログインする必要がある(甲9)。
(4)本件発信者情報1は、平成31年4月28日午後0時00分34秒(協定世界時)に、IPアドレス(省略)(以下「本件IPアドレス」という。)を被控訴人から割り当てられ、本件サイトに最終ログインした最終ログイン者の氏名又は名称及び住所である。
 本件IPアドレスは、控訴人が本件サイトの運営・管理者であるキプロス共和国法人(以下「本件キプロス法人」という。)に本件投稿行為について発信者情報開示仮処分を申し立てたところ(東京地方裁判所平成31年(ヨ)第22041号)、同法人から、ユーザ名Aが本件投稿動画をアップロードした際のIPアドレスは保有していないが、最終ログインIPアドレスは保有しているとして、開示されたものである(甲1、3)。
(5)本件発信者情報2及び同3は、本件IPアドレスを、本件投稿行為が行われた日時頃に割り当てられていた者の氏名又は名称及び住所である(本件発信者情報3は、本件発信者情報2を更に秒数まで特定したものである。)。
(6)被控訴人は本件発信者情報1を保有している。
3 争点
(1)権利侵害の明白性(争点1)
ア 訴人動画の著作物性(争点1−1)
イ 訴人は、控訴人動画の著作者であるか(争点1−2)
ウ 訴人は、控訴人動画の著作権者であるか(争点1−3)
エ 訴人動画と本件投稿動画が同一であるか(争点1−4)
オ 訴人画像の著作物性(控訴人の当審主張。争点1−5)
カ 控訴人は、控訴人画像の著作者、著作権者であるか(控訴人の当審主張。争点1−6)
キ 最終ログイン者による控訴人画像の氏名表示権侵害の成否(控訴人の当審主張。争点1−7)
ク 最終ログイン者による控訴人画像の同一性保持権侵害の成否(控訴人の当審主張。争点1−8)
(2)本件各発信者情報は、法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するか(争点2)
ア 本件発信者情報1は、法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するか(争点2−1)
イ 本件発信者情報2又は同3は、法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するか(争点2−2)
(3)被控訴人は、本件発信者情報1につき、法4条1項の「開示関係役務提供者」に該当するか(争点3)
4 争点に関する当事者の主張
(1)争点1−1ないし争点1−4について
 原判決「事実及び理由」第3の1ないし4に記載のとおりであるから、これを引用する。
(2)争点1−5(控訴人画像の著作物性)について
ア 控訴人の主張
 控訴人画像は、被写体にどのような着ぐるみを着せて、どのような小道具を用い、どのようなポーズを取らせるか、どのような背景を写し出すか、どのような構図とするか、撮影の際の露出や陰影のつけ方等について創意工夫があるから、写真の著作物(著作権法10条1項8号)としての創作性が認められる。
イ 被控訴人の主張
 控訴人画像は、人物ないし人形(着ぐるみ)の顔及び身体等をありふれた構図で撮影したものにすぎず、創作性が認められるかは明らかではない。
(3)争点1−6(控訴人は、控訴人画像の著作者、著作権者であるか)について
ア 控訴人の主張
 控訴人画像は、控訴人が被写体となり、控訴人が指示した第三者が撮影したものであるが、映画を静止画像化したものを写真の著作物とする場合は、撮影者が著作者、著作権者になるのではなく、映画の著作物の著作者、著作権者が静止画の著作者、著作権者となるというべきである。
 映画の撮影者は、映画の全体的形成に創作的に寄与した者(著作者)、製作に発意と責任を有する者(著作権者)の補助者として撮影を行っているにすぎないというべきであるし、映画を静止画像化した場合のみ撮影者が著作者、著作権者になるとすると、動画と静止画で権利が異なる者に分属し、多数の著作(権)者が生じ権利関係が複雑化し、著作権法16条、29条の趣旨を没却するからである。
 したがって、控訴人画像の著作者、著作権者は、控訴人動画の著作者、著作権者である控訴人である。
イ 被控訴人の主張
 控訴人動画が控訴人ないし控訴人の具体的指示を受けたカメラマンによって撮影されたものか否か等については明らかではなく、控訴人が、控訴人動画を静止画像化した控訴人画像の著作者、著作権者であることが明らかとはいえない。
(4)争点1−7(最終ログイン者による控訴人画像の氏名表示権侵害の成否)について
ア 控訴人の主張
(ア)本件サイトでは、投稿者の紹介ページで、投稿動画がサムネイル画像により一覧で表示されるところ、本件サムネイル画像1及び2では、控訴人動画の冒頭部分にあった控訴人動画掲載に係るウェブサイトのURLアドレスが表示されなくなっており、控訴人の控訴人画像に係る氏名表示権を侵害する。
(イ)a 本件サイトで、本件サムネイル画像1及び2が表示されるのは、投稿者の紹介ページで、投稿動画が単独で表示されるウェブページ(インラインリンク)が自動的に設定されるためである。すなわち、投稿者が動画を投稿すると、リンクを指示する情報及びリンク先の画像の表示の仕方(大きさ、配置等)等のデータが、投稿者紹介ページに係るサーバの記憶媒体に記録され、インターネットを利用してウェブサイトを閲覧する者が投稿者紹介ページにアクセスすると、自動的にHTMLが生成されるとともに、リンク画像の表示データがユーザの端末に送信され、これにより、ユーザの操作を介することなく、投稿画像のデータが端末の画面上に表示される。この際、リンク先の画像の表示の仕方に関するHTML等の指定により、リンク先の元の画像とは縦横の大きさが異なる画像やトリミングされた画像が表示されることになるのである。また、本件サイトにおける投稿者紹介ページのHTMLは不変のものでなく、閲覧者が投稿者閲覧ページを閲覧するたびに、閲覧日時や閲覧数に応じて新たに生成され、閲覧者の端末に送信される。
 そうすると、本件サムネイル画像1及び2は、ユーザ名Aの紹介ページが閲覧されるごとに生成、送信されるから、そのたびに控訴人画像の氏名表示権侵害があると評価することができる(最高裁判所平成30年(受)第1412号令和2年7月21日第三小法廷判決・民集74巻4号1407頁参照)。
 b 被控訴人は、本件サムネイル画像1及び2が本件サイトで自動的に生成されるとすれば、氏名表示権の侵害者は本件サイトというべきであると主張するが、本件サイトは管理画面においてサムネイル画像を選択することができ(甲24)、本件サイトの管理画面にログインすることができる者が紹介ページ(ツイッターのリツイートに相当する)で表示されるサムネイル画像を選択し、その結果、紹介ページで氏名表示権や同一性保持権の侵害が生じたのであるから、前記最高裁判決の趣旨は、本件にも妥当する。
イ 被控訴人の主張
(ア)控訴人動画掲載に係るウェブサイトのURLアドレスは、単なるURLの表示であり、控訴人を指す名称である変名と理解することはできないから、氏名表示権の侵害は認められない。
(イ)控訴人の主張によれば、本件サムネイル画像1及び2は本件サイトで自動的に生成されるのであるから、氏名表示権の侵害者は本件サイトというべきであり、本件投稿行為をした者や、本件サムネイル画像1及び2の生成時におけるログイン者(ユーザ名A)ではない。本件は、リツイートという積極的な作為によりサムネイル画像を発信したリツイート事件とは事案が異なる。
(5)争点1−8(最終ログイン者による控訴人画像の同一性保持権侵害の成否)について
ア 控訴人の主張
(ア)本件サムネイル画像1及び2では、控訴人動画の冒頭部分にあった控訴人動画掲載に係るウェブサイトのURLアドレスが表示されなくなっていることは前記(4)アのとおりである。
 さらに、本件サムネイル画像2では、控訴人画像に錠前様のアイコンと「プライベート」との文言が付され、色も暗くなっている(甲22−1)。
 以上からすると、最終ログイン者は、控訴人画像の同一性保持権を侵害しているものである。
(イ)本件サムネイル画像1及び2は、ユーザ名Aの紹介ページが閲覧されるごとに生成、送信されるから、そのたびに同一性保持権侵害がある5と評価することができることは、氏名表示権侵害について前記(4)ア(イ)で主張したとおりである。
イ 被控訴人の主張
 争う。
(6)争点2−1(本件発信者情報1は、法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するか)について
ア 控訴人の主張
(ア)最終ログイン者が権利侵害の主体であること
a 最終ログイン者が本件投稿動画の投稿行為を行ったこと
(a)(本件サイトでは、動画をアップロードするためには、まず無料会員又はプレミアム会員になる必要がある(甲9の1)。会員となるためにはメールアドレス、ユーザ名及びパスワードを登録する必要があり(甲9の2)、会員となった者が動画をアップロードするためには、入力画面にユーザ名及びパスワードを入力してログインする必要がある(甲9の3)。
 ユーザ名及びパスワードを複数で共用する者は通常存在しない。特に本件サイトのようなアダルトサイトの利用は他の者に知られたくない事項であるから、複数人で共用することは考えられない。
 本件サイトの他のユーザのうち控訴人に判明している者についてみれば、本件サイトへの加入日から最終ログイン日まで1年3か月あるいは2年5か月離れているが、いずれも他者にユーザ名又はパスワードを使用させたことがないと述べている(甲17、18)。
(b)本件サイトでは会員登録をする際に利用規約(Terms&Conditions)(甲16)に同意する必要があるところ、利用規約にはユーザ名及びパスワードを機密情報として扱い、他の個人または団体に開示してはならないこと、自己のユーザ名及びパスワードを使用してウェブサイトへのアクセスを他の人に提供してはならないこと、各セッションの終了時にアカウントを確実に終了すること、他のユーザがパスワード等を表示又は記録できないように、パブリック又は共有コンピュータからアカウントにアクセスする場合は特に注意する必要があることが規定されている。
(c)本件キプロス法人の開示したユーザ名Aのログイン記録によれば、最終ログインの際に用いられたIPアドレス以外のIPアドレスがユーザ名Aとして本件サイトにログインした形跡はない(甲3)。
(d)本件発信者情報1について、控訴人が被控訴人に対して裁判外で発信者情報開示請求をしたところ(甲5)、被控訴人は法4条2項による意見照会を行い(甲6)、その後、ユーザ名Aはユーザ名全体を削除した(甲19)。最終ログイン者が本件投稿動画を含むユーザ名を削除することが可能である以上、本件投稿動画は、本件発信者情報1の契約者が投稿し、かつ、管理していたものである。
b 最終ログイン者は、最終ログイン直前の本件投稿動画の再生並びに本件サムネイル画像1及び2の表示により、控訴人動画及び控訴人画像の公衆送信権侵害、控訴人画像の氏名表示権侵害及び同一性保持権侵害をしている。
(a)(ユーザ名Aの紹介ページにおいて、平成29年9月6日の時点での本件投稿動画の再生回数は4757回、平成31年4月28日の時点での再生回数は5500回であるから(甲21、22の2)、407日の間に743回、1日当たり約1.8回再生されている。
(b)利用者の本件投稿動画や本件サムネイル画像1及び2の閲覧のたびに控訴人動画及び控訴人画像の公衆送信権が侵害され、控訴人画像の氏名表示権及び同一性保持権が侵害されているとみるべきところ(これらは、送信可能化権侵害と異なり、情報を記録することが要件とはなっていない。)、本件投稿動画の前記(の再生の頻度から、最終ログイン日もしくはそれに極めて近い日に本件投稿動画が再生され、本件サムネイル画像1及び2が表示されているとみるべきであり、最終ログイン者とこれらの権利侵害をした者が同一であることは明らかである。
c 仮に、最終ログイン者が本件投稿行為や、最終ログイン直前の本件投稿動画の再生、本件サムネイル画像1及び2の表示そのものを行っていないとしても、最終ログイン者は、侵害主体と評価されるべきである。
(a)(著作権侵害においては、直接物理的に侵害行為を行った者のみならず、侵害者を管理し営業上の利益帰属主体となる者(例えばカラオケスナック営業者につき最高裁判所昭和59年(オ)第1204号同63年3月15日第三小法廷判決・民集42巻3号199頁参照)、インターネットサービス提供者(TV放送を、遠隔地の利用者が視聴可能なサービスを提供した者につき最高裁判所平成21年(受)第653号同23年1月18日第三小法廷判決・民集65巻1号121頁参照)等に侵害主体概念が拡張されている。
(b)本件サイトでは、ユーザ登録をした上でユーザ名及びパスワードを入力すると動画を登録したり、登録した動画を削除したりすることができるところ(甲23の1・2)、最終ログイン者は、意見照会の後にユーザ名全体を削除している。すなわち、最終ログイン者は、仮に、物理的に自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に本件投稿動画を記録した者でなかったとしても、その後、当該記録を記録媒体から削除せずに保持し続け、意見照会後は削除しているのであるから、受信者からの求めに応じて自動的に情報を送信することができる状態を作り出す状態を維持していたものというべきであり、控訴人動画の送信可能化権侵害の主体であると評価することができる。
(c)前記(a)のとおり、本件サイトでは、ユーザ登録をした上でユーザ名、パスワードを入力すると動画を登録したり、登録した動画を削除したりすることができること、前記b(b)のとおり、最終ログイン日もしくはそれに極めて近い日に本件投稿動画が再生され、本件サムネイル画像1及び2が表示されていることにより、最終ログイン者とこれらの再生表示行為の主体の間には密接な関係があるとみられることから、最終ログインの直近の本件投稿動画の再生行為や、本件サムネイル画像1及び2の表示行為の時点において、ユーザ名Aの管理画面にログイン可能であった者は、控訴人動画及び控訴人画像の公衆送信権侵害行為をし、控訴人画像の氏名表示権及び同一性保持権を侵害した者と評価される。
(イ)本件発信者情報1が法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当すること
a 法4条1項が「侵害情報の発信者の特定に資する情報」とし、「侵害情報を送信した者の情報」としていないこと、省令が定める情報の1号、2号において「発信者」そのものと「その他侵害情報の送信に係る者」とを区別していることからすると、法4条1項の開示対象である「氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるもの」とは、発信者を特定(識別)するために参考となる情報一般を意味する。
b 仮に、最終ログイン者が公衆送信の主体と評価することができないとしても、本件投稿ログインに係るパスワード等と同じパスワード等を用いて最終ログインしている以上、最終ログイン者と本件投稿行為をした者とはパスワード等を共用する関係にある。
 パスワード等を共用する以上、最終ログイン者は、本件投稿行為をした者と本件投稿行為について意思疎通があるものとして共同不法行為者に該当する(民法719条1項前段)。あるいは、最終ログイン者と他の者のいずれが本件投稿動画を投稿した者であるかを知ることができない点で「共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないとき」に該当し共同不法行為者に該当する(同項後段)。さらに、最終ログイン者は、パスワード等を共用しその秘密を保持することにより、他の者が記録媒体上の本件投稿動画を削除することを防止し、また、本件投稿動画を第三者に閲覧させる状態を継続することを容易にしたという意味で、本件投稿行為をした者を幇助したと評価することができる(同条2項)。
 少なくとも最終ログイン者の情報が開示されれば、その者から本件投稿行為をした者を特定することができる可能性があるし、最終ログインも本件投稿行為に関連した情報であるから、最終ログイン者の情報は、法4条1項の「発信者の特定に資する情報」に該当するというべきである。
イ 被控訴人の主張
(ア)最終ログイン者が権利侵害の主体であるとはいえないことについて
a 最終ログイン者が本件投稿行為を行ったとはいえない。
(a)(アカウントを共用してサイト運営等をすることはジャンルを問わず行われており、アダルトサイトであるからといってアカウントの共用が考えられないとはいえない。
(b)控訴人は「A」のユーザ名が削除された旨主張するが、控訴人が指摘する甲第19号証がこのような事実を示すものであるのか不明であるし、控訴人の主張する本件投稿動画がいつの時点まで存在していたのかも不明である。さらに、「A」のユーザ名がいずれかのタイミングで削除されたと仮定するとしても、削除がユーザ名Aによるものであるか不明である。したがって、控訴人の主張は成り立たない。なお、そもそも、回線の契約者と特定の日時における回線の利用者が異なることはしばしばあり、被控訴人から意見照会を受けた者と最終ログイン者が同一か否かも不明である。
(c)本件投稿動画が平成29年9月6日から平成30年10月18日まで1日当たり18回再生されていたとしても、最終ログイン日である平成31年4月28日の当日又はそれに極めて近い日時において本件投稿動画が再生されたことの証明にはならないし、そのような推認をすることもできない。
b 控訴人は、最終ログイン者が本件投稿行為そのものを行っていないとしても、侵害行為者と評価されるべきであると主張する。
 しかし、著作権侵害の主体が常に発信者に該当するとはいえない。また、法4条1項は「侵害情報の発信者」としているところ、ログイン情報の発信と侵害情報の発信は明確に異なり、非侵害情報であるログイン情報を発信したにすぎない最終ログイン者が「侵害情報の発信者」に当たるとはいえない。
(イ)本件発信者情報1が法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するとの主張について
a 省令が定める情報の1号、2号における「侵害情報の送信に係る者」とは、あくまでも侵害情報の発信に関与したことが認められる者と解すべきであり、これに非侵害情報を発信した者が含まれると解することはできない。
b 控訴人は、最終ログイン者と本件投稿行為をした者とは民法719条1項前段又は後段の共同不法行為者に該当するとか、最終ログイン者が本件投稿行為をした者を幇助したと評価することができる(同条2項)と主張する。
 しかし、そもそも「A」というアカウント及びパスワード等が最終ログイン者と本件投稿行為をした者との間で共用されていたか否かや、具体的にどのように共用されていたかも明らかでない。むしろ、最終ログインが本件投稿から約1年8か月もの期間が経過した後に行われたことに照らせば、最終ログイン者と本件投稿行為をした者との間に控訴人が主張するような関係性は認められない。
(7)争点2−2(本件発信者情報2又は同3は、法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するか)について
ア 控訴人の主張
 本件IPアドレスは、本件投稿行為においても用いられていた可能性が高い。そうすると、本件投稿行為がされた日時頃に本件IPアドレスを割り当てられていた者は、本件投稿行為をした者である可能性が高いから、本件発信者情報2又は同3は、法4条1項の発信者情報に該当する。
 なお、侵害情報でない情報を送信した者が省令1号の「発信者その他侵害情報の送信に係る者」か否かといった問題は、最終ログインに係るIPアドレスに関するものであり、本件投稿行為時のIPアドレスには妥当しない。
イ 被控訴人の主張
 控訴人の主張は争う。
(8)争点3(被控訴人は、本件発信者情報1につき、法4条1項の「開示関係役務提供者」に該当するか)について
ア 控訴人の主張
 最終ログイン者が本件投稿行為をした者であると事実認定又は評価された場合には、被控訴人が用いる特定電気通信設備は、侵害情報の流通といった「特定電気通信の用に供される」ものである。
 また、ログイン情報が「侵害情報の発信者の特定に資する情報」(法4条1項)に該当すると判断された場合には、当該ログイン情報の送信は侵害情報の流通に不可欠又は前提となっているから、「特定電気通信の用に供される」ものに該当する。
 したがって、被控訴人は「開示関係役務提供者」に該当する。
イ 被控訴人の主張
(ア)法4条1項が定める「開示関係役務提供者」とは、他人の権利を侵害したとされる情報を流通させた特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者であるところ、被控訴人は、最終ログイン時に、最終ログインをするという、権利侵害情報でない情報の発信の用に供された電気通信設備を用いて当該非侵害情報を媒介したにすぎない。
(イ)控訴人は、最終ログイン者が投稿者と事実認定又は評価された場合には、被控訴人が用いる特定電気通信設備は、侵害情報の流通といった「特定電気通信の用に供される」ものであると主張する。
 しかし、仮に、最終ログイン者が本件投稿行為をした者と同一人物であったとしても、本件投稿時に使用されたプロバイダが被控訴人であるとはいえず、この者が被控訴人の用いる電気通信設備によって本件投稿を行ったと推認することはできない。
(ウ)控訴人は、ログイン情報が「侵害情報の発信者の特定に資する情報」(法4条1項)に該当すると判断された場合には、当該ログイン情報の送信は侵害情報の流通に不可欠又は前提となっており、「特定電気通信の用に供される」ものに該当するから、被控訴人は「開示関係役務提供者」に該当すると主張する。
 控訴人のいう「ログイン情報」を最終ログイン者の氏名・住所等の情報を指すと解するとしても、最終ログインは、本件投稿行為から約1年58か月もの期間が経過した後になされたものであり、これを行った者と本件投稿行為をした者との関係性も不明である以上、このような情報は、「氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるもの」には該当しない。
 また、仮に、最終ログインに係る情報が「氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるもの」に該当するとしても、そのことは、本件投稿行為から約1年8か月も後に行われた最終ログインが侵害情報の流通に「不可欠又は前提」であることを示すものでもないし、「特定電気通信の用に供される」ものであることを基礎づけるものでもない。
 さらに、最終ログインに係る情報が「侵害情報の発信者の特定に資する情報」に当たるか否かは、省令の定める「発信者情報」に該当するか否かの問題であり、被控訴人が「特定電気通信役務提供者」に該当するか否かの問題とは関係がない。
第3 当裁判所の判断
 事案に鑑み、争点2(本件各発信者情報は、法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するか)から判断する。
1 争点2−1(本件発信者情報1は、法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するか)について
(1)ア(ア)法4条1項は、特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるときで、かつ当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のため必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信役務提供者(開示役務提供者)に対し、その保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。)の開示を請求することができる旨定め、これを受けて省令は、「発信者その他侵害情報の送信に係る者の氏名又は名称」(1号)、「発信者その他侵害情報の送信に係る者の住所」(2号)が開示対象になるものと規定している。これは、文言上、侵害情報の発信者その他侵害情報の送信に係る者の氏名又は名称、住所を開示対象とする趣旨と解される。
 また、法2条4号によれば、「発信者」とは、「特定電気通信役務提供者の用いる特定電気通信設備の記録媒体(当該記録媒体に記録された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を記録し、又は当該特定電気通信設備の送信装置(当該送信装置に入力された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を入力した者をいう。」と定義されている。そこで、本件においても、上記のように記録媒体に侵害情報を記録し、又は送信装置に侵害情報を入力した者に関する情報が開示対象となることになるが、侵害情報の記録又は送信装置への入力という意味合いにおいて、侵害情報の送信に当たる行為は、本件投稿行為であるというほかない。
 控訴人は、本件投稿行為のほか、ユーザ名Aの紹介ページにおいて、最終ログインの直近の本件投稿動画の再生の時点において控訴人動画及び控訴人画像の公衆送信権の侵害行為があり、最終ログインの直近の本件サムネイル画像1又は2の表示の時点において控訴人画像の氏名表示権侵害行為及び同一性保持権の侵害があったとして、これらの再生ないし表示をもって、侵害情報の送信であると主張する。しかし、これらの再生ないし表示の時点で、特定電気通信設備の記録媒体への情報の記録又は特定電気通信設備の送信装置への情報の入力があるわけではなく、これらの再生ないし表示を省令が1号に定める侵害情報の送信ということはできないから、控訴人の主張は採用することができない。
 また、控訴人は、本件サイトの管理画面にログインすることができる者が、紹介ページで表示されるサムネイル画像を選択し、その結果紹介ページで氏名表示権や同一性保持権の侵害が生じたと主張するが、このような主張も権利侵害行為と侵害情報の送信に当たる行為を混同するものというべきであり、本件投稿行為とは別の機会にサムネイル画像の選択行為が存在することを認めるに足りる証拠はないし、仮に、そのような選択行為が存在したとしても、以下に判示する理由が同様に当てはまるから、結論に影響を与えるものではない。
(イ)本件発信者情報1は、侵害情報の送信である本件投稿行為そのものの発信者情報ではないから、法4条1項の定める開示対象とはいえない。
 仮に、侵害情報の送信そのものでなく、その準備行為等、これと密接に関係するログインに係る発信者情報も、法4条1項の定める開示対象になると解したとしても、本件発信者情報1は、本件投稿行為の後約1年8か月も経過した後の最終ログインに係るものであって、侵害情報の送信の準備行為とはいえないことはもちろん、本件投稿行為との関連も極めて希薄なものというべきであるから、結局、本件発信者情報1が、法4条1項の定める開示対象であるとはいえない。
イ 控訴人は、仮に、本件発信者情報1が侵害情報の送信である本件投稿行為に関する発信者情報ではないとしても、最終ログイン者が本件投稿行為をした者であることが認められ、ないしはそのように評価されると主張する。しかし、以下のとおり、本件において最終ログイン者が本件投稿行為をしたと認め、又はそのように評価することはできない。
(ア)本件サイトでユーザ名やパスワードが共有される可能性は否定できず、このことは本件サイトがアダルトサイトであるからといって排除されるものではないし、また、利用規約も遵守されるとは限らないこと、本件投稿行為から最終ログインまで約1年8か月を経過していることからすると、本件投稿行為をした者と、最終ログイン者の本件サイトにおけるユーザ名やパスワードが共通であったとしても、両者が同一とは直ちにはいえない。控訴人は、本件サイトの他のユーザが他者にユーザ名又はパスワードを使用させたことがないと述べている旨主張するが、わずか2例にすぎず(甲17、18)、これを一般化することはできない。
(イ)本件サイトでは6か月分しかログを保有しないので(甲3)、本件投稿行為から約1年8か月後の最終ログインまで、最終ログインの際に用いられたIPアドレス以外のIPアドレスがユーザ名Aとして本件サイトにログインしていないかどうかは不明である。
(ウ)令和元年5月17日付けの控訴人の開示請求(甲5)に対し、被控訴人は、遅くとも同年6月18日までに最終ログインに係るIPアドレスを付与された契約者に法4条2項に係る意見照会をした(甲6)が、その後である令和2年4月10日現在、本件サイトで、本件投稿動画があったURLにアクセスしようとすると、エラー表示がされるようになっている(甲19)ことが認められる。しかし、エラー表示の原因が最終ログイン者による削除であるか否かは明らかでなく、また、仮にそうであったとしても、そのことから直ちに、最終ログイン者が本件投稿行為をした者であると推認することはできない。
(エ)控訴人の主張するとおり、本件投稿動画の平成29年9月6日の時点での再生回数が4757回、平成30年10月18日の時点での再生回数が5500回と認められるとしても、そもそもこのような再生をした者(仮に、最終ログイン日もしくはそれに極めて近い日に本件動画を再生した者がいるとすればその者も含む。)と最終ログイン者、さらには本件投稿行為をした者の同一性を推認させる事情は何ら明らかにされていない。
ウ 控訴人は、最終ログイン者は、仮に物理的に自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に本件投稿動画を記録した者でなかったとしても、当該記録を記録媒体から削除せずに保持し続け、意見照会後は削除しているのであるから、受信者からの求めに応じて自動的に情報を送信することができる状態を作り出す状態を維持したものであり、@送信可能化権侵害の主体である、A本件投稿行為者との共同不法行為者に当たる、B本件投稿行為者を幇助したものであると評価することができると主張する。
 しかし、記録媒体から削除せずに保持し続けた行為をもって、送信行為と同視することはそもそもできないし、最終ログイン者と本件投稿者との関係を具体的に明らかにする証拠はなく、最終ログイン自体は時期的にみても本件投稿行為との直接的関連が認められない以上、控訴人の主張は採用できない。
エ 控訴人は、法4条1項の開示対象である「氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるもの」とは、発信者を特定(識別)するために参考となる情報一般を意味すると主張する。
 しかし、そのような解釈は、侵害情報の発信者の特定に資する情報一般を開示の対象とするのでなく、特定電気通信(法2条1号)による情報の流通によって権利侵害を受けた者について加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図るという要請と、情報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密の保護の要請の双方に配慮し、開示を定める情報を限定的に列挙した法4条1項、省令の趣旨に反するもので、採用することができない。
(2)小括
 以上によれば、本件発信者情報1は、法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に当たるとはいえない。
2 争点2−2(本件発信者情報2又は同3は、法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するか)について
 本件発信者情報2及び同3は、本件IPアドレスを本件投稿行為が行われた日時頃に割り当てられていた者の氏名又は名称及び住所であるが、そもそも、本件IPアドレスが、平成31年4月28日午後0時00分34秒(協定世界時)と、本件投稿行為が行われた平成29年8月23日午前3時38分(協定世界時)に、同一人物に割り当てられていたと認めるに足りる証拠はない(なお、本件において最終ログイン者が本件投稿行為をしたと認め、又はそのように評価することはできないから、最終ログイン時に割り当てられた本件IPアドレスが本件投稿行為に用いられたIPアドレスであると推認できないことについては、前記1(1)イのとおりである。)。
 以上によれば、本件発信者情報2及び同3は、法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に当たるとはいえない。
第4 結論
 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の請求は、いずれも理由がないからこれを棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 菅野雅之
 裁判官 本吉弘行
 裁判官 岡山忠広
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