判例全文 line
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【事件名】おみくじ無断複製事件
【年月日】令和3年1月26日
 東京地裁 平成31年(ワ)第2597号 著作権侵害差止等請求事件(第1事件)、
 令和元年(ワ)第12623号 債務不存在確認請求事件(第2事件)、
 令和元年(ワ)第26485号 債務不存在確認請求反訴事件(第2事件反訴)
 (口頭弁論終結日 令和2年8月14日)

判決
第1事件原告・第2事件被告・第2事件反訴原告 A(以下「原告」という。)
上記訴訟代理人弁護士 荒井俊行
同 三井睦貴
第1事件被告・第2事件原告・第2事件反訴被告 B(以下「被告」という。)
上記訴訟代理人弁護士 安田奈津希
同 星野圭祐


主文
1 被告は、別紙文書目録1記載の各文書につき、複製、翻案又は譲渡してはならない。
2 被告は、別紙文書目録2及び3記載の各文書につき、複製又は譲渡してはならない。
3 被告は、別紙文書目録1記載の各文書につき、改変してはならない。
4 被告は、別紙文書目録1、2及び3記載の各文書の複製物(USBメモリ、CD−Rその他外部メモリ、コンピュータの内部記憶装置及び外部記憶装置内に保存されているものを含む。)及び印刷用原版を廃棄せよ。
5 被告は、原告に対し、672万8590円及びこれに対する令和元年10月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
7 被告の第2事件に係る訴えを却下する。
8 訴訟費用は、第1事件、第2事件及び第2事件反訴を通じてこれを2分し、その1を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。
9 この判決は、第5項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 第1事件
(1)被告は、別紙文書目録1、2及び3記載の各文書につき、複製、翻案又は譲渡してはならない。
(2)主文第3項と同旨
(3)被告は、別紙文書目録1、2及び3記載の各文書の複製物(USBメモリ、CD−Rその他外部メモリ、コンピュータの内部記憶装置及び外部記憶装置15内に保存されているものを含む)、印刷用原版並びに別紙物件目録記載の表データ又はその複製物(文書、USBメモリ、CD−Rその他外部メモリ、コンピュータの内部記憶装置及び外部記憶装置内に保存されているものを含む)を廃棄せよ。
2 第2事件
 被告が、原告に対して、別紙物件目録記載の文書の著作権侵害に基づく損害賠償債務を負担していないことを確認する。
3 第2事件反訴
 被告は、原告に対し、1000万円及びこれに対する令和元年10月8日(反訴状の送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
(1)第1事件は、別紙文書目録記載1の「開運推命おみくじ」(1から100の番号が付された100種類のおみくじからなるものである。以下、上記の開運推命おみくじを「本件文書1」と総称し、個別のおみくじをいう場合には「本件文書1の1番」などと表記する。以下同じ。)の著作者及び著作権者であると主張する原告が、被告に対し、以下の各請求をする事案である。
ア @被告が本件文書1を複製、販売した行為についての複製権及び譲渡権侵害、A被告が本件文書1の字句や体裁等の一部について変更をした別紙文書目録記載2の「開運推命おみくじ」(以下「本件文書2」と総称する。)及び別紙文書目録記載3の「開運推命おみくじ」(以下「本件文書3」と総称する。)を複製販売する行為についての複製権又は翻案権及び譲渡権侵害をそれぞれ理由とする本件文書1ないし3の複製、翻案、譲渡の差止め
イ 被告が本件文書1の20番、86番を原告の意に反して改変して本件文書2の20番及び本件文書3の20番、86番を作成した行為についての同一性保持権侵害を理由とする本件文書1の改変の差止め
ウ 上記ア及びイの権利侵害を停止又は予防するための本件文書1ないし3の複製物等の廃棄等
(2)第2事件は、被告が、原告に対し、被告が本件文書1の著作権侵害に基づく損害賠償債務を負担していないことの確認を求める事案である(なお、被告は、令和2年8月14日の第2回口頭弁論期日において、第2事件に係る訴えは取り下げない旨を述べた。)。
(3)第2事件反訴は、原告が、被告に対し、上記(1)ア、イ記載の著作権及び著作者人格権侵害を理由として、不法行為に基づく損害賠償金(一部請求)及び遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実
(1)原告は、カルチャースクール等において四柱推命学に関する講師を務める中国思想研究者である。(甲1、弁論の全趣旨)
 被告は、大岩推命会という屋号を用いて(ただし、平成30年12月以降は推命会という屋号を用いている。)、平成19年4月頃から、寺社その他において頒布されるおみくじを業として複製、販売等している者である。(争いがない事実、弁論の全趣旨)
(2)原告は、平成21年、(住所省略)所在のC寺(以下「C寺」という。)に対し、本件文書1について著作権侵害を理由とする差止請求訴訟を提起し、平成22年12月20日、原告とC寺及び同訴訟に利害関係人として参加した被告との間で、原告が本件文書1の著作者及び著作権者であることを確認し、原告が被告に対して平成25年3月31日まで本件文書1の複製、販売を許諾することなどを内容とする和解(以下「第1次和解」という。)が成立した(東京地方裁判所平成21年(ワ)第35023号著作権侵害差止等請求事件)。(争いがない事実)
 原告は、平成25年3月25日、被告に対し、本件文書1を平成28年3月31日まで複製し販売することを許諾した。(争いがない事実、弁論の全趣旨)
(3)被告は、平成28年4月1日以降も、原告に対して金銭を支払うことなく本件文書1の複製、販売を継続した。(争いがない事実)
 原告は、平成28年、被告に対して訴訟を提起し、平成29年3月29日、原告と被告との間で、以下の内容を含む和解(以下「第2次和解」という。)が成立した(東京地方裁判所平成28年(ワ)第37083号著作権侵害差止等請求事件)。(争いがない事実)
ア 被告は、平成29年3月31日限り、本件文書1を複製し、販売しない。
イ 原告は、被告に対し、被告が各販売先に対し平成29年3月31日までに販売した本件文書1について、同日以降も、各販売先が販売することについて、原告の本件文書1についての著作権を行使しない。
ウ 被告は、本件文書1及び本件文書1の印刷用原版を平成29年4月19日限り廃棄する。
(4)被告は、平成29年12月頃から、原告の許諾を得ることなく、本件文書2を作成し、改訂版開運推命おみくじと称して、(住所省略)所在のD寺(以下「D寺」という。)に対して販売した。(争いがない事実)
 被告は、平成30年4月頃から、原告の許諾を得ることなく、本件文書3を作成し、改訂版開運推命おみくじと称して、(住所省略)のE寺(以下「E寺」といい、C寺、D寺及びE寺を「本件各寺院」と総称する。)に対して販売した。(争いがない事実)
(5)本件文書1ないし3に記載されている文言は、別紙「おみくじ対比表」記載のとおりである。(争いがない事実)
 本件文書1の20番には学業運に関する記述はないのに対し、本件文書2及び3の20番には学業運として「学業においては順調平穏です。」と記載されている。(争いがない事実)
 本件文書1の86番には異性運として「男性は順調に整います。女性は良縁に恵まれます。」と記載されているのに対し、本件文書3の86番には異性運として「男性は苦情が生じやすい。女性はまとまりにくい。」と記載されている。(争いがない事実)
(6)本件文書1ないし3の開運推命おみくじを、寺院等がその参拝客等に対して販売するためには、その購入者の生年月日、運勢を知りたい年、男女の別に基づいて、1番から100番のおみくじのうちのどのおみくじを配布すべきかを示している「年表」(別紙物件目録の表)が必要とされている。この「年表」は、毎年更新される。(弁論の全趣旨)
(7)被告は、原告とは異なる四柱推命研究家に対し新たな解釈によるおみくじの作成を依頼し、平成30年12月7日、上記の研究家との間で、新たに作成されたおみくじ(以下「現行版開運推命おみくじ」という。)の著作権を被告が譲り受けるとともに同月20日までに現行版開運推命おみくじを被告に納入する旨の契約を締結した。(乙3)
(8)原告は、信言社推命会の屋号を用いて、寺院に対し、本件文書1を一部改変したおみくじを販売している。(甲10、11、乙7の1及び2)
3 争点
(1)被告による本件文書1ないし3の作成、複製販売が原告の本件文書1についての著作権(複製権、翻案権、譲渡権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害するものであるか否か(争点1)
(2)原告の損害額(争点2)
(3)差止め及び廃棄の必要性(争点3)
4 争点に関する当事者の主張
(1)被告による本件文書1ないし3の作成、複製販売が原告の本件文書1についての著作権(複製権、翻案権、譲渡権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害するものであるか否か(争点1)
(原告の主張)
ア 被告による本件文書1の複製販売に係る複製権、譲渡権侵害
 被告は、平成29年4月1日以降、少なくとも本件各寺院に対し、本件文書1の複製販売を継続しており、第2次和解に違反して、原告の本件文書1に対する複製権及び譲渡権を侵害した。
 第2次和解において権利不行使の対象とされているのは平成29年3月31日限りの被告の本件文書1の複製販売行為と平成29年3月31日までに被告が販売済みの本件文書1を販売先である寺院が販売する行為のみである。原告は、被告に対し、上記のほかに本件文書1の利用許諾等を行っていない。
 被告は、本件文書1の譲渡は、全て第2次和解における権利不行使の対象期間内の譲渡であると主張するが、被告が主張する経緯は不自然であり、その取引の実体は平成29年4月1日以降の譲渡である。
イ 被告による本件文書2、3の作成、複製、販売に係る翻案権又は複製権、譲渡権侵害
 本件文書2及び3は、本件文書1に依拠した上で、別紙「おみくじ対比表」記載のとおり、本件文書1の内容の一部を独自に記載する等の表現を加えているものの、基本的には、字句をワープロ打ちにする、ひらがなを漢字に変更する、文末の表現を修正する、体裁を変更する等といった変更を行っただけであり、文章の内容は本件文書1とほぼ同一であって、本件文書1の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるから、本件文書2及び3の作成は、複製又は翻案に該当する。
 したがって、本件文書2及び3の作成は、原告の本件文書1の複製権又は翻案権を侵害するものであり、本件文書2及び3の販売行為は、本件文書1の譲渡権を侵害する。
ウ 被告による本件文書1の20番、86番の改変に係る同一性保持権侵害
(ア)本件文書1の20番には学業運に関する記載はないが、本件文書2及び3の20番には、学業運として「学業においては順調平穏です」と記載されている。しかし、原告の学識に照らせば、20番に学業運を記載するのであれば、その記述は「学業における実力はつくものの、試験等における結果は伴わない」といった内容になるべきであり、「順調平穏」という記載は、原告が本件文書1において表現した、四柱推命論の基礎となる思想とは異なるものであり、原告としてはこれを認めることができない。
(イ)本件文書1の86番には、異性運として「男性は順調に整います。女性は良縁に恵まれます。」と記載されているのに対して、本件文書3の86番には、異性運として「男性は苦情が生じやすい。女性はまとまりにくい。」と記載されている。このように全く逆の内容の記載に改変されており、原告としてこれを認めることはできない。
(被告の主張)
ア 被告による本件文書1の複製販売に係る複製権、譲渡権侵害
 被告は、平成29年4月1日以降は本件文書1を複製販売していない。
イ 被告による本件文書2、3の作成、複製販売に係る翻案権又は複製権、譲渡権侵害
 本件文書2、3は被告が文章を作成したものであり、被告の著作物であって、本件文書1に変更等を加えたものではない。また、本件文書2及び3は本件文書1の複製又は翻案に当たらない。
ウ 被告による本件文書1の20番、86番の改変に係る同一性保持権侵害
 本件文書2、3は被告が文章を作成したものであり、被告の著作物であって、本件文書1に改変を加えたものではない。
(2)原告の損害額(争点2)
(原告の主張)
ア 本件文書1ないし3に係る被告の譲渡枚数
 本件各寺院に対する本件文書1ないし3の譲渡枚数及び販売時期は、別紙主張対比表1ないし3の原告主張欄に記載のとおりである(別紙主張対比表の種別欄に記載された「@」は本件文書1を、「A」は本件文書2を、「B」は本件文書3を、「現行」は現行版開運推命おみくじを、それぞれ指している。以下同じ。)。
イ 著作権法114条1項に基づく損害額(主位的主張)
 原告は、本件文書1を一部改変したおみくじを寺院に対して販売しているところ、その販売価格は1枚当たり120円であり、その原価は、印刷、用紙及び折り畳みを印刷業者に依頼した場合に要する費用が1枚当たり約41円以下であって、その他の販売に要する経費を考慮しても原価総額は1枚当たり50円を上回ることはないから、原告における本件文書1を一部改変したおみくじの1枚当たりの利益額は70円を下回ることはない。
 以上によれば、被告の侵害行為による損害額は、上記アの譲渡枚数に70円を乗じた結果である1757万0140円を下回ることはない。
ウ 著作権法114条2項に基づく損害額(予備的主張)
 被告が本件文書1ないし3を1枚販売するごとに得る利益は、以下のとおりである。
(ア)C寺譲渡分
 本件文書1 48円
(イ)D寺譲渡分
 本件文書1 60円
 本件文書2 80円
(ウ)E寺譲渡分
 本件文書1 48円
 本件文書3 55円
 被告の侵害行為による損害額は、本件各寺院ごとに、上記アの譲渡枚数に上記利益を乗じ、それらを合算した結果である1657万5680円を下回ることはない。
エ 著作者人格権侵害による損害額
 本件文書1は、四柱推命論に基づいた原告の学識による倫理思想解釈を具現化した著作物であるとともに、処世的にも大変よく当たる等と内容について高い評判を得ているおみくじである。このような本件文書1について、不適切な表現や逆の内容となる表現に改変されて広く世間に頒布されたことにより原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は、少なくとも50万円を下らない。
オ 弁護士費用
 被告の侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用は、少なくとも170万円を下らない。
カ 合計(上記イ+エ+オ)
 1977万0140円(原告は、このうち一部請求として1000万円を請求する。)
キ 著作権法114条1項の適用等についての被告の主張について
 著作権法114条1項における「その侵害の行為がなければ販売することができた物」とは、侵害品と市場において競合関係に立つ著作権者の製品であれば足りると解すべきであるから、同項を適用する基礎を欠くというためには、侵害品(本件文書1ないし3)と原告が作成、販売するおみくじに相違点があるだけでは足りず、当該相違点により顧客層(市場)を異にし、侵害品の販売によっては原告が作成、販売するおみくじの販売数に影響を与えないという事情が必要である。本件文書1ないし3と原告が作成、販売するおみくじは、いずれも四柱推命を基に同様のシステム下での100通りの運勢を示すために作成された書面(おみくじ)であって両者が同一の用途で用いられるものであることは明らかである。被告は、両者の文面の体裁等や販売額が異なることを指摘するのみで代替関係がないなどとしており、顧客層が異なる理由について何ら主張立証をしていない。
(イ)原告が証拠として提出した納品書は原告の販売実績の全てを示すものではない。それを措くとしても、被告の主張は販売実績と販売能力を混同するものであり、理由がない。
ク 著作権法114条2項に基づく推定額に対する被告の主張について
 四柱推命を基に同様のシステム下で販売するために作成されたおみくじは、本件文書1ないし3及び原告が作成、販売するおみくじの他には存在しないところ、本件各寺院が同種のおみくじを適法に販売しようとするのであれば、その人的関係性にかかわらず、参拝客への販売数に応じて原告から仕入れをするほかない。被告が違法に本件文書1ないし3を販売しなければ25告から同数の原告製造おみくじが販売されていたといえる。被告は、その他にも自己の営業努力や「開運推命おみくじ」という商標のブランド力等の事情を指摘するが、いずれも原告が販売した場合よりも有意に販売数が増加したことについての主張立証がされているとはいえない。
(被告の主張)
ア 本件文書1ないし3に係る被告の譲渡枚数
 本件各寺院に対する本件文書1ないし3の譲渡枚数及び販売時期は、別紙別表1ないし3の被告主張欄に記載のとおりである。
イ 本件文書1ないし3に係る被告の利益
 被告は、本件各寺院から、おみくじを1枚販売するごとに、おみくじ代金と、それと同額の年表ライセンス料の支払を受けていた。
 また、被告は、おみくじの作成や発送等を外注しており、売上げの8割を外注費として外注先に支払った。
ウ 著作権法114条1項の適用等について
(ア)著作権法114条1項が適用されるためには、著作権者の製品と侵害品との間に代替関係が必要であるところ、原告が作成、販売するおみくじと本件文書1ないし3とは体裁、紙帯の有無、文字のフォント、色、紙質、記載項目といった多くの面で異なっていることや、被告が販売する本件文書1ないし3は原告が作成、販売するおみくじと比較してかなり低額であって価格帯が異なることからすれば、両者に代替関係があるとはいえない。
(イ)原告が作成、販売するおみくじについて、仮に原告が主張する納品実績があったとしても、それは約2年2か月の間に2回の取引があっただけであり、販売枚数も合計2170枚と少数であるから、原告の販売能力が2170枚を超えることはない。
エ 著作権法114条2項の損害額についての推定覆滅事由
 本件で、著作権法114条2項が適用される場合には、推定される損害額に対して、以下の推定覆滅事由がある。
(ア)業務態様の相違
 原告が作成、販売するおみくじと本件文書1ないし3とは体裁、紙帯の有無、文字のフォント、色、紙質、記載項目といった多くの面で異なっているし、本件文書1ないし3は原告が作成、販売するおみくじと比較してかなり低額であって価格帯が異なる。被告は、いわゆる薄利多売の売り出し方をしているのに対し、原告は1枚ごとにコストをかけて単価を上げる売り出し方をしており、両者の業務態様には大きな相違がある。
 また、被告は、伝統ある寺院であるC寺からおみくじ事業(大岩推命会という屋号や取引先寺院など)を引き継いでいることに加え、C寺の前代表役員と責任役員の子で、現在の代表役員の兄であるという個人的な属性を有する。寺院は人的つながりを重んじる傾向が強く、被告がD寺やE寺と取引を継続できているのは、被告のこのような属性によるところが大きい。
(イ)競合品の存在
 原告と被告のおみくじの納入先は、参拝客へのおみくじ頒布を企図する寺院であるところ、寺院が頒布するおみくじには宗派や地域による特性は見られず、寺院は、市場における多数の競合品(紙に運勢が記載されたおみくじ)から選択して取引を行っている。少なくとも、お守りや根付等が付属しない紙製のおみくじは全て競合品である。
(ウ)侵害者の営業努力
 本件各寺院と取引を開始し、長年にわたり取引を継続しているのは、被告がC寺責任役員や代表役員の家族であるという属性によるところが大きい。また、被告は、取引先からの急な差替え依頼、追加注文、問合せ等に迅速かつ適切に対応し、大量発注と引換えに単価を値下げする旨の提案をするなど営業努力を行ってきたことにより、D寺やE寺との取引を維持、拡大してきた。被告と本件各寺院との取引は、被告による通常の範囲を超える格別の工夫や営業努力、被告の稀有な属性によって成り立っている。
(エ)侵害品の性能
 原告が作成、販売するおみくじは、三つ折りの折目が機械折りによるものではなく、また、インクジェットで印刷されていて文字がにじんでいる箇所があるが、本件文書1ないし3にはそのような点がない。
 開運推命おみくじの顧客への訴求力は、100の中から選び出された1つが自身の1年の運勢を示すという点、1年ごとに更新されるため毎年異なる種類のおみくじが割り当てられるという点、四柱推命という伝統ある易学に基づいている点などにあるといえ、記載内容自体に訴求力があるわけではない。被告が有する「開運推命」の商標のブランド力も大きい。
 本件各寺院は、知名度の高い伝統ある寺院であり、毎年多数の参拝客が訪れるところ、そのような多数の参拝客による評判がインターネット等を通じて広まったことが開運推命おみくじの販売が拡大した理由である。
オ 著作者人格権侵害による損害
 否認ないし争う。仮に損害が発生するとしても、原告の主張する損害額は過大である。
(3)差止め及び廃棄の必要性(争点3)
(原告の主張)
 被告は、従前から、原告の許諾を得ずに、又は原告に対価を支払うことなく本件文書1を複製、販売する行為を繰り返しており、著作権法を遵守する意識を著しく欠いている。被告が、これまで本件文書1を少しでも変更すれば問題がないという態度をとり、実際にわずかな変更をしただけの本件文書2、3を販売してきたという経緯に照らせば、本件文書1ないし3の翻案等を差し止める必要がある。また、被告の不誠実な態度に鑑みれば、被告の本件文書1ないし3を違法に販売し続ける意思は強固であり、本件各寺院に対する継続的供給のため、相当数の在庫を保有していることが推測される。
 以上によれば、著作権及び著作者人格権侵害行為の停止又は予防のため、被告に対し、本件文書1ないし3の複製、翻案、譲渡及び本件文書1の改変の差止め、本件文書1ないし3の複製物の在庫や新たな印刷に用いる原版やデータの廃棄に加え、本件文書1ないし3と一体であり、それらを利用するために必要な別紙物件目録記載の表データ又はその複製物(文書、USBメモリ、CD−Rその他外部メモリ、コンピュータの内部記憶装置及び外部記憶装置内に保存されているものを含む。)についても廃棄の必要がある。
(被告の主張)
 被告は原告とは異なる四柱推命研究家に依頼して現行版開運推命おみくじを作成して、これを販売しており、現在は、本件文書2、3を作成、販売していないのであるから、差止め及び廃棄の必要性はない。
第3 争点に対する判断
1 前提事実(2)、証拠(甲2)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、1番から100番の100種類のおみくじからなる本件文書1の著作者及び著作権者であると認められる。
2 争点1(被告による本件文書1ないし3の作成、複製販売が原告の本件文書1についての著作権(複製権、翻案権、譲渡権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害するものであるか否か)について
(1)著作権侵害について
 本件文書1、本件文書2及び本件文書3は、それぞれ別紙文書目録記載1ないし3のとおりであり、いずれも、100種類の個別のおみくじからなり、個別のおみくじは、いずれも、「開運推命おみくじ」との記載の後に、1から100までの番号(数字)の後、運勢全般や注意すべき事項等の説明、金運その他の個別の運勢の説明等が記載されている。いずれの番号のおみくじにおいても、運勢全般(総合運勢)についての説明がある程度の長さのまとまりのある文章で記載されるほか、原則として、金運、事業運、仕事運、学業運、健康運、家庭対人運、異性運等についての簡単な説明が記載されている。そして、本件文書1、本件文書2及び本件文書3において、同じ番号のおみくじに記載されたそれぞれの運勢等の説明は、その内容だけでなく表現もほぼ同一である。他方、文字の字体やおみくじの体裁は異なる。
 ここで、本件文書1と本件文書2及び3の作成時期()、共通点の程度及び内容に照らせば、本件文書2及び3は、本件文書1に依拠して作成されたものと認められる。
 そして、上記の共通する運勢等の説明について、本件文書1と、本件文書2及び3の個別のおみくじの表現は、ほとんどが同一であり、本件文書1における具体的表現に修正、増減、変更が加えられている箇所を見ても、それらは文末の表現を整えたり、ひらがなを漢字に改めたりするなどの軽微かつ形式的な変更にすぎないものか、本件文書1と同じ文章に対して趣旨を分かりやすく伝えるために短い語句等を挿入、付加するなどしたものである。また、本件文書1と本件文書2及び3において、個別の運勢の説明について付加、変更されたものもあるが(本件文書2及び3の20番における学業運を示す説明の追加と本件文書3の86番のおける異性運について反対の内容の説明)、これらの付加、変更はいずれもありふれた表現の短いものである。
 以上によれば、本件文書2及び3は、本件文書1の創作性ある該当部分を有形的に再製するものであるといえ、本件文書2及び3を作成する行為は、原告の複製権を侵害するものであると認められる。なお、被告は、原告がC寺に対して本件文書1を複製、販売することを承諾していたという趣旨の主張もするが、上記事実を認めるに足りる証拠はない。
(2)著作者人格権侵害について
 本件文書1の20番の個別の運勢の記載において、学業運に関する記載はないのに対し、本件文書2及び3の20番には学業運についての記載があり、本件文書1の86番の個別の運勢の記載について、異性運として「男性は順調に整います。女性は良縁に恵まれます。」と記載されているのに対し、本件文書3の86番には異性運について、「男性は苦情が生じやすい。女性はまとまりにくい。」と記載されている。
 上記の表現の相違は、本件文書1の20番、86番の表現に改変を加えたものと認められるから、本件文書2及び3の20番、本件文書3の86番を作成する行為は、本件文書1の著作者である原告が有する著作者人格権(同一性保持権)を侵害するものと認められる。
3 争点2(原告の損害額)について
(1)本件文書2及び3が作成された経緯等(前提事実(2)ないし(4))に照らし、本件文書2及び3を作成した被告には、本件文書1に係る原告の複製権及び同一性保持権を侵害することについて、少なくとも過失があったと認められる。
(2)原告の主位的主張(著作権法114条1項による損害額)について
ア 著作権法114条1項の適用について
 原告は寺院に対しておみくじを販売している。原告が販売しているおみくじは、被告が販売する商品と同じ種類の商品であって、被告が販売するおみくじと競合するものであり、原告は著作権法114条1項に基づく損害の主張をすることができる。
 被告は、原告のおみくじと被告のおみくじとで記載の体裁等が異なっていることや価格が異なっていることを挙げて、本件に著作権法114条1項が適用されないと主張する。しかし、いずれも「開運推命おみくじ」と題する紙のおみくじであり、その内容もほぼ同一であって、被告が指摘する事情をもって原告が販売するおみくじと被告が販売したおみくじが競合しないとは認められず、被告の主張には理由がない。
イ 単位数量当たりの利益
 原告は、本件文書1を一部改変したおみくじを寺院に対して販売しており(甲10、乙7の1、2、弁論の全趣旨)、その販売価格は1枚当たり120円である(甲11の1、2)。そのおみくじについて、印刷、用紙及び折り畳みを印刷業者に依頼した場合に要する費用が1枚当たり約41円以下であって(甲12)、その他の販売に要する経費を考慮してもその販売により追加的に必要となった経費は1枚当たり50円を上回ることはないと認められるから、原告における本件文書1を一部改変したおみくじの1枚当たりの利益額は70円を下回ることはないと認められる。
ウ 本件文書1(平成29年4月1日以降)及び本件文書2、3についての被告の譲渡数量
(ア)D寺に対する譲渡数量
 被告がD寺に販売したおみくじの譲渡枚数について、別紙主張対比表1のとおり、原告と被告との間には、合計1万7740枚(5000枚+6250枚+6220枚)のおみくじを平成29年4月までに販売したか否か、平成30年12月以降に販売したおみくじが現行版開運推命おみくじであるかについて争いがある。また、平成28年1月から3月までの間に被告が販売したと主張するおみくじの枚数も多少異なる。
 被告は、D寺から平成29年1月頃に本件文書1を2万枚確保したいと依頼され、同年3月10日頃までに、D寺の担当者との間で上記の2万枚を譲渡することについて口頭で合意し、それを同年4月8日(5000枚)、同年5月24日(6520枚)、同年9月1日(6220枚)にそれぞれ送付したところ、これらの送付は同年3月以前の取り置き分を事後的に送付したものにすぎないと主張する。
 しかし、被告がその根拠とする同年4月以降の日付の請求書等(乙9ないし11)における記載(「3月確保分」)をもって直ちに同年3月以前に被告とE寺との間で売買契約が成立、存在していたと認めるには足りない。そして、同年3月以前に何らの書面も作成されていない一方で、上記の譲渡に関する本件文書1の送付、代金の請求、それに対応する入金がいずれも平成29年4月1日以降にされていることに照らせば、上記で譲渡された本件文書1は第2次和解における「被告が各販売先に対し平成29年3月31日までに販売した本件文書1」ということはできず、上記の本件文書1の譲渡(合計1万7740枚)は、第2次和解ア)に抵触するものであると認めるのが相当である。被告の主張は採用できない。
 原告は、平成30年12月以降も、被告はD寺に対し、現行版開運推命おみくじではなく本件文書2を販売していたと主張する。
 しかし、証拠(乙52、53)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、平成30年12月以降はD寺に対し現行版開運推命おみくじを販売したと認められる。そして、上記証拠により、被告が同月以降にD寺に対し現行版開運推命おみくじを販売したと認められるのに対し、被告が同月以降にD寺に対し本件文書2を販売したことを直接裏付ける証拠はない。原告の主張は採用できない。
 上記の認定に加え、証拠(乙9(枝番を含む。以下、枝番がある証拠につき同じ。)ないし20)及び弁論の全趣旨によれば、被告のD寺に対する本件文書1及び2の譲渡日時、種類、数量は以下のとおりであると認められる。

平成29年4月8日 本件文書1 5000枚
平成29年5月24日 本件文書1 6520枚
平成29年9月1日 本件文書1 6220枚
平成29年11月27日 本件文書2 10000枚
平成30年1月12日 本件文書2 10000枚
平成30年2月13日 本件文書1 −4325枚
  本件文書1 1485枚
  本件文書2 240枚
平成30年2月22日 本件文書2 10000枚
平成30年3月20日 本件文書1 −923枚
  本件文書2 20000枚
平成30年6月1日 本件文書2 5300枚
平成30年7月2日 本件文書2 10000枚
平成30年9月25日 本件文書2 1600枚
  (合計) 81117枚

(イ)C寺に対する譲渡数量
 被告がC寺に販売したおみくじの譲渡枚数について、別紙主張対比表2のとおり、原告と被告との間には、平成30年1月に販売した468枚がおみくじであったか否か、同年12月に被告が返品されたと主張する4000枚をどのように扱うか、令和元年5月以降に販売したおみくじが現行版開運推命おみくじであるか否かについて、争いがある。
 被告は、平成30年1月10日にC寺に販売した468枚はおみくじの用紙であって本件文書1又は2ではないと主張する。しかし、おみくじと同じというその代金額や注文方法(乙44)によれば、これは実質的にはおみくじの販売と認められる。
 また、被告は、4000枚の本件文書2(平成29年9月19日に販売したもの)を平成30年12月29日に全て返品したと主張するが、上記事実を認めるに足りる証拠はない。
 原告は、被告が令和元年5月1日以降、C寺に対して販売したのが現行版開運推命おみくじであるとは認められないと主張する。しかし、証拠(乙56)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、令和元年5月以降は、C寺に対して現行版開運推命おみくじを販売したと認められる。原告の主張は採用できない。
 上記の認定に加え、証拠(乙41ないし49)及び弁論の全趣旨によれば、被告のC寺に対する本件文書1及び2の譲渡日時、種類、数量は以下のとおりであると認められる。

平成29年9月19日  本件文書2 4000枚
平成30年1月10日  本件文書1又は2 468枚
平成30年2月13日  本件文書1 4325枚
平成30年2月14日  本件文書1 −1485枚
平成30年3月20日  本件文書1 923枚
平成30年5月23日  本件文書1 −7511枚
  (合計) 720枚

(ウ)E寺に対する譲渡数量
 被告がE寺に販売したおみくじの譲渡枚数について、別紙主張対比表3のとおり、原告と被告との間には、平成29年4月までに3万7900枚又は3万7650枚の本件文書1のおみくじを販売したか否か、平成30年以降に返品された本件文書3のおみくじをどのように扱うか(原告は、平成30年4月に販売された本件文書3の3万5000枚について、同年12月から平成31年1月に同数が返品されて同数の現行版開運推命おみくじが販売されたとしても、そのことを損害の算定に当たっては考慮すべきではないと主張(令和2年1月14日付け準備書面8頁等)し、別紙対比表3のとおり、平成30年以降については、同年4月に販売された本件文書3の3万5000枚と、平成31年以降に返品と関係なく販売されたおみくじ3万枚を損害の算定の根拠として主張する。)、平成31年1月以降に販売したおみくじが現行版開運推命おみくじであるかについて争いがある。
 被告は、平成29年3月に3万7900枚の本件文書1をE寺に譲渡したと主張するのに対し、原告は、被告において同月に3万枚以上の本件文書1を納品することは不可能であり、形式的には同月24日に販売等がされたように処理されていても、実際には同年4月以降に3万7650枚の本件文書1が販売されていたはずであると主張する。
 証拠(甲5の3・147丁、乙24、25)によれば、被告は平成30年3月24日に支払期限を同年4月10日としてE寺に対して3万7900枚の本件文書1についての請求書を送付したことが認められる。他方、同事実にもかかわらず、同年3月に上記の販売がされずに同年4月以降に3万7000枚以上の本件文書1が販売されたことを裏付ける的確な証拠はない。原告が指摘する証拠等も、同年4月以降に3万7900枚の本件文書1が販売されたことを認めるに足りるものとはいえない。原告の上記主張は採用できない。
 被告は、平成30年12月以降、E寺は、それ以前に被告から購入した本件文書1を被告に返品したほか、同年4月に購入した本件文書3を全て被告に返品した(乙30、31)。この返品について、原告は、被告が現行版開運推命おみくじの販売に際して事後的かつ自主的に行ったもので、原告に生じた損害の算定に際し控除すべきではないと主張する。
 しかし、その返品によって被告は代金を全額E寺に払い戻したといえ(乙30)、また、同年4月に販売された本件文書3が全て被告に返品された以上、結局、同年4月の侵害行為によって原告の販売数量が減少したという関係があるとはいえない。したがって、同年4月に販売された本件文書3は、同年12月に返品されたものとして損害額を算定すべきである(返品と同時に販売されたものがある場合に、それが侵害品であれば、その販売に関する損害賠償請求を請求することができる。)。
 原告は、平成31年1月以降も、被告は、E寺に対し、現行版開運推命おみくじではなく本件文書3を販売していたと主張する。しかし、証拠(乙54)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、同月以降は、E寺に現行版開運推命おみくじを販売したと認められるから、原告の主張は採用できない。
 以上の認定に加え、証拠(乙24ないし26、28ないし31、35ないし37、39、40)及び弁論の全趣旨によれば、被告のE寺に対する本件文書3の譲渡日時、種類、数量は下記のとおりであると認められる(本件文書1については、平成30年4月以降に譲渡がされていないので、その後の返品も考慮しない。)。

平成30年4月9日  本件文書3 35000枚
平成30年12月30日  本件文書3  −35000枚
  (合計) 0枚

エ 原告の販売能力について
 被告は、原告のおみくじについての販売能力は2170枚を超えることはないと主張する。しかし、これを認めるに足りる証拠はないし、おみくじは印刷により大量に作成できるもので、原告がその印刷を依頼することができる業者が多くあることが明らかなことからも、原告の販売能力が被告主張のように限定されるとは認められない。
オ 著作権侵害による損害額
 以上によれば、著作権法114条1項に基づく原告の損害額は、以下の計算式のとおり、572万8590円となる。
 (計算式)
 70円(単位数量当たりの原告利益)×(81117枚+720枚+0枚)
(被告の譲渡数量)=572万8590円
 原告は、著作権侵害について、予備的に著作権法114条2項に基づく額を主張するが、原告の主張するおみくじ1枚当たりの被告の利益額が同条1項に基づく主張における原告の利益額よりも小さいことなどから、予備的な主張が著作権法114条1項に基づく損害額よりも大きくなるとは認められない。
カ 著作者人格権侵害による損害額
 本件文書1において、その内容が真逆になるような内容の改変がされることは、おみくじについての表現の本質的部分についての改変であるといえることに加え、その他、本件にあらわれたの著作者人格権侵害について原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は50万円をもって相当であると認める。
キ 弁護士費用
 本件にあらわれた一切の事情を勘案し、本件の弁護士費用としては50万円をもって相当であると認める。
ク 結論
 以上によれば、本件における著作権及び著作者人格権侵害に係る損害額は672万8590円となる。
4 争点3(差止め及び廃棄の必要性)について
 前提事実(2)ないし(4)のとおり、C寺との間における第1次和解、第2次和解の経緯及び第2次和解後の本件文書1ないし3の販売等の経緯等に照らせば、被告による、本件文書1ないし3の複製、譲渡による将来的な権利侵害のおそれが否定できず、これらについての差止請求が認められる。また、本件においては、被告が関与して2回にわたる裁判上の和解がされたにもかかわらず、被告は第2次和解の成立後、本件文書1に些細な改変がされた本件文書2及び3を作成、販売した。これらによれば原告が著作権を有する本件文書1の翻案、改変についての差止請求が認められる。また、主文第4項記載の限度での廃棄請求は、その必要性、相当性があると認められる。他方、原告が著作権を有する文書である本件文書1の翻案の差止請求が前記のとおり認められるところ、本件文書2及び3は本件文書1と全く同一ではなく(前記2(1))、それらの翻案の範囲が完全に重なり合うとまではいえないことから、本件文書2及び3の翻案についての差止請求は相当ではなく、認められない。
 原告は、別紙物件目録記載の表データ又はその複製物についての廃棄を請求する。しかし、年表」は、誰にどのおみくじを配布するかを決めるためのものであり、毎年更新されるものであるところ、原告がそれを独占的、排他的に使用できる根拠は見当たらないし、「年表」を使用した場合であっても、具体的な説明文が本件文書1と同じになるとは限らず、本件文書1とは異なる著作物を作成することが可能である以上、「年表」が本件文書1と一体になるものであるとも認められない。したがって、上記「年表」についての廃棄請求は必要性、相当性を欠き、「侵害の停止又は予防に必要な措置」(著作権法112条2項)に該当するとは認められない。
5 第2事件(債務不存在確認の訴え)について
 第2事件は、原告が被告に対して反訴として本件文書1の著作権侵害に基づく損害賠償を求める給付訴訟を提起したことにより(第2事件反訴)、確認の利益が失われたから却下することとする。
第4 結論
 よって、第1事件及び第2事件反訴の原告の請求は主文掲記の限度で理由があるからその限度で認容し(なお、主文第1項ないし第4項についての仮執行宣言は相当でないから付さない。)、その余は理由がないからいずれも棄却し、第2事件の被告の訴えは確認の利益を欠くから却下することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 柴田義明
 裁判官 佐伯良子
 裁判官 佐藤雅


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