判例全文 line
line
【事件名】“ボイスドラマ”の共同著作事件
【年月日】令和3年1月21日
 東京地裁 平成30年(ワ)第37847号 共同著作権に基づく利得分配請求等事件
 (口頭弁論終結日 令和2年11月10日

判決
原告
同訴訟代理人弁護士 太田真也
被告 A
被告 B
上記2名訴訟代理人弁護士 植松康太
同 清水雅紀
同 木上諭志
同 藤原尚子


主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事 実及び理 由
第1 請求
 被告らは,原告に対し,連帯して,1499万円及びこれに対する平成31年1月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は,原告が,被告らと共同して創作した共同著作物である各ボイスドラマにつき,持分2分の1の共有著作権を有するところ,被告らにおいて,上記共同著作物の販売による売上金928万円を全額取得した旨を主張して,被告らに対し,不当利得返還請求(民法703条)及び民法709条の不法行為に基づく損害賠償請求として,上記928万円の2分の1に当たる464万円の連帯支払を,Aまた,被告らとの間で,上記共同著作物の制作に関し編集等を行うことを内容とする共同著作物制作契約(以下「本件制作契約」という。)を締結した旨を主張して,同契約に基づく作業への対価として985万円の連帯支払を,Bさらに,被告らによる不払により精神的苦痛を被り,ホームヘルパー相談・生活援助・身体介助などを利用せざるを得なくなった旨を主張して,民法415条及び民法709条に基づく損害賠償請求として50万円の連帯支払をそれぞれ求めるとともに,これらの合計1499万円に対する平成31年1月10日(訴状送達の翌日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。
1 前提事実(証拠等を掲げた事実以外は,当事者間に争いがない。なお,枝番号の記載を省略したものは,枝番号を含む(以下同様)。)
(1) 当事者
ア 原告は,「C」という名前で,別紙作品目録記載の各ボイスドラマ(以下「本件各作品」という。)の音声編集,効果音の収録等を担当した。
イ 被告A(以下「被告A」という。)は,本件各作品のシナリオを創作した者である。被告B(以下「被告B」という。)は,被告Aの夫である。
(2) 本件各作品について
 本件各作品は,平成29年(2017年)2月頃以降に制作され,別紙作品目録「配信開始日(発売日)」欄記載の日付頃からインターネットウェブサイト上で配信等の形式で販売された。(甲1,2,弁論の全趣旨)
2 争点
(1) 原告が本件各作品の共同著作者に当たるか否か(争点1)
(2) 被告らの利得又は原告の損害の有無及び額(争点2)
(3) 本件制作契約の成否及びその内容(争点3)
(4) 利得又は報酬の不払いと相当因果関係を有する損害及びその額(争点4)
3 争点に関する当事者の主張
(1) 原告が本件各作品の共同著作者に当たるか否か(争点1)
[原告の主張]
 原告は,本件各作品につき,次のとおり創作的関与をしているから,共同著作者に当たる。
 すなわち,原告は,被告Aからの要請に応じて,声優等人材の紹介,ディレクションでの演技修正,効果音の作成・収録等,及びシーンの追加,台詞の削除等を通じて作品全体の長さを一定時間内に収めるように工夫する等の編集作業を行ったほか,スタジオ見学の手配,シナリオの指摘出し・リライト,営業文書の推敲など多くの事務作業を行っており,かかる原告の作業については,本件各作品という著作物を制作する上で必要不可欠な創作活動が多く含まれている。
15 [被告らの主張]
 原告は,本件各作品につき,創作的関与をしていない。すなわち,声優の紹介については,原告から紹介を受けた声優は,本件各作品の声優11人中わずか2人にとどまるし,出演の可否は被告Aが演技のテスト音声等を聞いた上で決定したものである。また,台詞の読み方や表現方法について原告がしていたのは,声優が参考にする程度の単なるアドバイスであり,実際には演技内容を相談・決定していたのは声優と被告Aであった。さらに,効果音の選択・収録についても,原告は,被告A作成のシナリオや被告Aの指示に合わせて作業をしたにすぎない。加えて,編集作業については,台詞の言い間違いや明らかに不要な音声については誰が聞いても容易に判断できるものであり,削除自体の指示は被告Aが指示していたのであるから,原告が,創作性のある活動を行っていたものではない。
(2) 被告らの利得又は原告の損害の有無及び額(争点2)
[原告の主張]
 本件各作品に係る売上額合計は928万円であることが推定されるところ,原告は,持分2分の1の共有著作権者であることから,この2分の1につき取得する権限を有している。そこで,被告らが上記売上金の全額を取得していることにより,上記売上額合計の2分の1である464万円につき利得を得ているし,同金額につき原告に損害が生じている。
[被告らの主張]
 原告の上記主張は争う。なお,被告Bは,同人名義の口座に被告Aの著作物により発生した売上の一部が振り込まれることがあったにすぎず,利益を管理してはいない。また,被告Aは,本件各作品の販売による売上金の全額を取得するわけではなく,売上金のうち,被告Aに送金されるのは,本件各作品のダウンロードサイトの運営会社の取り分(売上額の30ないし50パーセント)を控除した残額であり,被告Aは,この送金額から経費を控除した残額を取得できるにとどまり,本件各作品を合計しても,取得額は50万円程度にすぎない。
(3) 本件制作契約の成否及びその内容(争点3)
[原告の主張]
 原告と被告らは,平成29年2月3日,本件各作品の制作に関して,原告が 編集作業等を行い,被告らが原告の作業内容に応じて相当な金額を対価として支払うことを内容とする本件制作契約を締結した。
 原告の作業への対価として相当な金額は,時給,費用,手数料等を合わせた合計985万円となる。
[被告らの主張]
 原告との間で,原告に有償での作業を依頼する内容の契約を締結したのは,被告Aであり,被告Bは同契約を締結していない。報酬額については,原告と被告Aとの間で,作品1本につき原則1万円とし,例外として別紙作品目録記載1及び2の各作品に限り1本につき4万円とする内容で合意していた。
(4) 利得又は報酬の不払いと相当因果関係を有する損害及びその額(争点4)
[原告の主張]
 原告は,被告らによる不払により著しい精神的苦痛を被って,ホームヘルパー相談・生活援助・身体介助などを利用せざるを得なくなり,そのための費用として合計50万円の費用の支払いを余儀なくされた。
[被告らの主張]
 原告の上記主張は争う。そもそも被告Aは原告に対し報酬全額を支払っている。また,不払により精神的苦痛が生じ,それにより生活援助等まで必要となることは到底あり得ない。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
 前記第2の1の前提事実及び各末尾掲記の証拠並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1) 本件各作品の制作について
ア 本件各作品の制作過程
 本件各作品は,概ね,次のとおりの過程を経て制作された。すなわち,まず,被告Aが,声優が読み上げる台詞と効果音の指定等を内容とするシナリオ及び台本(以下「シナリオ等」という。)を作成した。そして,被告Aが,演者である声優を選定し,当該声優が,スタジオ等において,シナリオ等に沿って台詞を読み上げ,その音声が収録された。他方で,シナリオ等に沿う効果音も収録された。その後,収録された各音源の編集作業(修正すべき音声の再収録,不要な音声・ノイズの入った音声の削除などを含む)を経て,最終的に,被告Aが各作品の制作の完成の判断をした。(甲7,甲10ないし12,乙14)
イ 原告が本件各作品の制作に関与するに至った経緯
 被告Aは,平成29年(2017年)2月3日頃,原告に対し,「ボイスドラマ編集についてお教え頂きたい…」「…作品の監修と言わずまでもご助言頂ければなって思っています。」「報酬も御用意致します」「音源揃い次第ご相談に参ります」旨の内容を含むメッセージを,SNSを利用して送信し,原告がこれを応諾する旨のメッセージを返信した。原告は,それ以降,本件各作品の作成において,次のウのとおり,主として編集の作業に関与するようになった。原告と被告Aとの間で具体的な報酬額の話は何ら出ていなかった。(甲3,被告A本人)
ウ 原告の関与の具体的態様等
 原告は,被告Aに対し,演者の候補者となる声優を紹介した。そして,本件各作品で演技する声優の選定の判断は被告Aが行ったところ,本件各作品に出演した声優11人のうち,原告の紹介による声優は2人であった。
 また,原告は,被告Aの求めに応じて,別紙作品目録記載5の作品につき声優の演技方法について助言した。被告Aは,これを参考にしつつ,現場で声優と相談するなどして自ら演技方法を決定し,声優に指示した。
 さらに,原告は,被告A作成のシナリオ等の記載や口頭での指示に沿って,効果音を収録した。
 加えて,原告は,被告Aの指示により,言い間違い,ノイズが入った音声,演技修正前の音声を削除することなどを内容とする作業を行った。
 (以上につき,乙14,被告A本人)
(2) 本件各作品の販売等について
 本件各作品は,別紙作品目録の「配信開始日(発売日)」記載の日時頃から,インターネット上の複数の販売サイトでダウンロード販売の形式で,それぞれ販売された。(甲18ないし23)
(3) 被告Aの原告に対する支払の状況及び原告の対応等について
ア 被告Aは,原告に支払う報酬の具体的金額を予め示しておらず,相場に応じた金額を支払うとの認識の下,原則として作品1本につき1万円を原告に支払うこととし,平成30年(2018年)6月頃までにかけて,他の件で被告Aが原告に対し請求すべき制作費用に係る金額を相殺して,原告に同相殺後の金額を送金等の方法により支払った。なお,別紙作品目録記載6の作品については,別の件で被告Aが原告からデザインやサイトの制作依頼を受けていたことを理由にその制作費用と相殺して支払わない旨の合意が存したため,支払をしなかった。また,別紙作品目録記載1及び同記載2の各作品については,原告の求めに応じてそれぞれ4万円,410 万5000円を支払った。(乙1ないし3,13,14,被告A本人) イ 上記アの各送金をした各時点において,原告が,被告Aに対し,各送金額につき異議を述べたことはなかった。しかし,平成30年8月頃,被告Aが原告と口論するようになった後になって,原告が,被告らに対し,本件各作品の利益請求などとして150万円を請求し,被告Aが支払を拒絶すると,金額を増額させて更に請求するに至った。(甲5,乙4,乙14,被告A本人)
2 争点1(原告が本件各作品の共同著作者に当たるか否か)について
(1) 2人以上の者が共同して創作した著作物であって,その各人の寄与を分離して個別的に利用することができないものを共同著作物というところ(著作権法2条1項12号),共同著作者に当たるというためには,当該著作物の制作に際し,創作と評価されるに足りる程度の精神的活動をしている必要があるというべきである。
 そこで,原告において本件各作品の制作に際し,かかる創作的関与が認められるか否かにつき見るに,上記1(1)イ及びウで認定したとおり,原告は,本件各作品の制作を企図した被告Aから,制作への協力を依頼され,台詞を読み上げる声優の候補者を数人紹介し,被告Aが制作したシナリオや指示に沿う形で,効果音の収録や編集の作業を担当したにとどまっているものであり,これらの原告の関与の性質・内容に照らせば,ボイスドラマであるという本件各作品の性質に照らしてもなお,原告が,本件各作品の制作に際し,創作行為を行ったものとみることは困難というほかない。そうすると,本件各作品の制作に際するこれらの関与について,原告が,創作と評価されるに足りる程度の精神的活動をしたものとまで認めるに足りないというべきであり,原告が本件各作品の共同著作者に当たるものとは認められない。
(2) これに対し,原告は,本件各作品の制作に際し,@声優を選択した点,Aセリフや表現方法につきアドバイスをした点,B効果音を選択・収録した点,C全体の長さを一定時間内におさめるよう編集した点において,創作的に関与した旨を主張する。
 しかしながら,@の点については,上記のとおり声優の候補者を紹介したにとどまるものであり,Aの点については,その具体的内容は判然としないが,いずれにしてもアドバイスをしたにとどまるものであり,B及びCの点については,具体的な作業を担当したとしても,上記のとおり,被告Aが制作したシナリオや指示に沿う形で作業を行い,被告Aのチェックを受けていたものである。これらからすれば,たとえ原告において上記@ないしCの点において尽力した旨の認識であったとしても,そのいずれも,原告の創作的な精神活動がなされたことを具体的に基礎付けるものとまでは言い難い。そうすると,原告の上記主張は,原告の創作的関与を否定した上記認定を左右するものではなく,同主張は採用することができない。
3 争点3(本件制作契約の成否及びその内容)について
(1) 前記1(1)イ,ウ及び(3)のとおり,本件各作品の制作に際して,被告Aが原告に対し協力を依頼し,原告が編集の作業等を担当し,その後,被告Aから原告に対して一定額の支払がなされていることからすれば,被告Aと原告との間に,本件各作品の制作に係る編集の作業等を原告が行い,被告Aが報酬を支払うことを内容とする契約が成立していたことが認められる。他方,原告と被告Bとの間で,原告の主張するような内容の契約が成立していたことは認めるに足りない。
 そこで,上記のとおり成立したことが認められる契約につき,その報酬額が被告ら主張のとおり合意されていたのか,あるいは予め具体的な報酬額を定めずに,相当額を報酬とする内容のものであったのかが更に問題となる。
(2) この点,前記1(1)イで認定したとおり,原告が本件各作品の制作に関与するに至った経緯において,原告と被告Aとの間で予め具体的な報酬額の話は何ら出ていなかったものであり,同認定に係る経緯に照らせば,原告と被告Aとの間では,単に,相当額を報酬とする旨の合意が形成されていたにすぎないものというべきである。
 これに対し,被告らにおいては,具体的な報酬額が予め定められていた旨を主張し,これに沿う証拠として,被告Aの陳述書(乙14)を提出する。しかし,被告A自身は,その本人尋問において,相当額を報酬とする旨の合意が形成されていた旨を述べ,上記主張や陳述に沿わない内容の供述をしており,他に被告らの上記主張を具体的に認めるに足りる的確な証拠は見当たらない。これらによれば,被告らの上記主張は前記認定を左右するものではなく,同主張は採用することができない。
(3) そうすると,上記相当額の報酬につき,具体的にはいくらと認定すべきかについて更に問題となるところ,原告は,原告の作業への対価としての相当額は合計985万円と認定すべきである旨を主張し,この点に係る証拠として,原告自身が他のボイスドラマに係る編集作業をした際に発行した請求書(甲17)及び編集作業を行う他の業者の広告(甲24)を提出する。
 しかしながら,上記各証拠を精査しても,その性質・内容自体に照らし,これらが本件各作品のような場合における作業の対価の相場に係る実態を示したものであると直ちには認めるに足りず,そのことを具体的に裏付けるに足りるものも見当たらない。また,この点を措くとしても,上記各証拠で前提とされている作業の内容と,本件各作品に対してなされた作業の内容の同一性の有無を認めるに足りる的確な証拠も見当たらないから,上記各証拠で示された額をもって直ちに上記相当額であると認定することもできない。そして,この点に加え,上記1(3)のとおりの支払状況及び原告の対応等の諸般の事情を考慮すれば,被告Aから原告に対し現に支払われた額が,本件当時において双方が認識していた対価の相場から乖離したものではなかったことが推認される。そうである以上,上記相当額は,現に,被告Aから原告に支払われた額を超えるものではないというほかない。
 そうすると,本件制作契約に基づく報酬の未払額が存在しているとは認められず,原告の被告らに対する上記未払報酬に係る支払請求権は認められないというべきである。
4 結論
 以上によれば,原告は,本件各作品の共同著作者に当たるとはいえず,また,本件制作契約は上記認定の限度で認められるものであるところ,原告主張に係る報酬額を前提とする未払報酬の存在も認められないというべきである。
 したがって,その余の点を判断するまでもなく,原告の被告らに対する不当利得返還請求権又は不法行為に基づく損害賠償請求権,本件制作契約に基づく支払請求権,及び各不払を内容とする債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求権はいずれも認められない。
 よって,原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 田中孝一
 裁判官 横山真通
 裁判官 奥俊彦


(別紙)作品目録
 番号 作品名 配信開始日(発売日) 
獣人とキメセクと快楽堕ち 2018年6月17日
鳥籠の中から見上げた空 2018年4月26日
触手と遊ぼう! 2017年4月9日
LOST −吐くほどの愛欲で− 2017年10月11日
性奴隷の捕まえ方 2017年1月10日
淫慾メスオスモザイク 2018年7月10日
性奴隷育成 2017年5月15日
お○んちんがちくわで精液がきゅうりのBL−3本セット− 2017年11月9日
お○んちんがちくわで精液がきゅうりのBL−メスお兄さん編− 2017年7月22日
10 お○んちんがちくわで精液がきゅうりのBL−青年編− 2017年7月22日
11 お○んちんがちくわで精液がきゅうりのBL−ショッタ編− 2017年7月22日
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/