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【事件名】ビジュアル・アイデンティティ制作事件(2)
【年月日】令和3年1月21日
 大阪高裁 令和2年(ネ)第597号 著作権侵害差止等請求控訴事件
 (原審・大阪地裁平成29年(ワ)第12572号)
 (口頭弁論終結日 令和2年10月2日)

判決
控訴人(一審原告) 株式会社仮説創造研究所
同訴訟代理人弁護士 坂元英峰
同 酒井勝則
同 根來伸旭
同 新留治
同 田ノ内宏平
同訴訟復代理人弁護士 千葉直愛
同 熊本健人
株式会社播磨喜水訴訟承継人兼株式会社ナカシマエナジー訴訟承継人 被控訴人(一審被告) 株式会社ナカシマテクノス
 (令和元年10月1日変更前の商号:株式会社ナカシマ)
同訴訟代理人弁護士 岩波修
同 安部雅俊


主文
1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人は、控訴人に対し、2万7500円及びこれに対する平成30年1月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、第1、2審を通じ、これを100分し、その1を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。
5 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 パッケージデザインの未払報酬等に関する請求
(1)被控訴人は、控訴人に対し、1260万1440円及びこれに対する平成30年12月28日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(2)被控訴人は、原判決別紙原告制作物目録記載1−1から1−6までの商品パッケージを使用してはならない。
(3)被控訴人は、頒布済みの原判決別紙原告制作物目録記載1−1から1−6までの各制作物についての電子ファイルを回収、廃棄せよ。
2 播磨喜水関連原告制作物に関する著作権侵害に係る請求
(1)被控訴人は、原判決別紙被告制作物目録記載2のチラシ、同3の商品カタログ及び同4のシェフコラボレシピブックを頒布してはならない。
(2)被控訴人は、原判決別紙被告制作物目録記載5の店頭POPを展示してはならない。
(3)被控訴人は、頒布済みの原判決別紙被告制作物目録記載2のチラシ、同3の商品カタログ及び同4のシェフコラボレシピブックを回収せよ。
(4)被控訴人は、原判決別紙被告制作物目録記載2のチラシ、同3の商品カタログ、同4のシェフコラボレシピブック及び同5の店頭POPを廃棄せよ。
(5)被控訴人は、控訴人に対し、628万0800円及びこれに対する平成30年1月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6)被控訴人は、控訴人に対し、324万円を支払え。
3 ナカシマ関連原告制作物に関する著作権侵害に係る請求
(1)被控訴人は、原判決別紙被告制作物目録記載6のコーポレートシンボル、同7の事業領域図、同8の椅子用カバー、同9のリクルート用パンフレット及び同10のポスターパネルを使用してはならない。
(2)被控訴人は、原判決別紙被告制作物目録記載9のリクルート用パンフレットを頒布してはならない。
(3)被控訴人は、頒布済みの原判決別紙被告制作物目録記載9のリクルート用パンフレットを回収せよ。
(4)被控訴人は、原判決別紙被告制作物目録記載8の椅子用カバー、同9のリクルート用パンフレット及び同10のポスターパネルを廃棄せよ。
(5)被控訴人は、控訴人に対し、1100万円及びこれに対する平成30年1月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 以下において用いる略称は、特に断りのない限り、原判決の例に従う。
1 請求の概要
 被控訴人は、社会インフラ関連の商品販売等を業とする株式会社であり、代表者を同じくする関連会社であるナカシマエナジー及び播磨喜水を吸収合併してその権利義務を承継した。
 本件は、ビジュアル・アイデンティティ(VI)の制作等を目的とする株式会社である控訴人が、被控訴人、ナカシマエナジー及び播磨喜水からの依頼を受けて制作、納品した制作物に関して、報酬の未払いがあり、あるいは、著作権(複製権等)を侵害されたなどとして、被控訴人に対し、次の各請求をしている事案である。
(1)パッケージデザインの未払報酬等に関する請求
 控訴人が、被控訴人に対し、播磨喜水の依頼により制作、納品した原告各パッケージデザイン(原判決別紙原告制作物目録記載1−1〜1−6)に関して、
ア 未払報酬請求
 主位的に控訴人と播磨喜水との間のデザイン業務委託契約に基づき、予備的に商法512条に基づき、未払報酬合計1260万1440円及びこれに対する請求の日(訴えの変更申立書送達日)の翌日である平成30年12月28日から支払済みまで年6分(平成29年法律第45号による改正前の商法が定める商事法定利率)の割合による遅延損害金の支払を求める請求
イ 差止等請求
 播磨喜水が報酬を支払わずに原告各パッケージデザインを利用し続ける旨明言するなどしたことが、控訴人と播磨喜水との間のデザイン業務委託契約の違反行為に当たるとして、原告各パッケージデザインの使用の差止め及び頒布済みの同デザインに係る電子ファイルの回収・廃棄を求める請求
(2)播磨喜水関連原告制作物に関する著作権侵害に係る請求
 控訴人は、播磨喜水の依頼に基づいて原判決別紙対照表1から5までに記載の播磨喜水関連原告制作物(対照表の左側もしくは上側に「オリジナル」などと表示されたもの。原告制作物1〜5)を制作したところ、播磨喜水が原判決別紙対照表1から5までに記載の播磨喜水関連被告制作物(対照表の右側もしくは下側に「無断使用例」などと表示されたもの。被告制作物1〜5)を制作等した行為は、各番号に対応する播磨喜水関連原告制作物に関する控訴人の著作権(複製権等)を侵害する行為であると主張して、
ア 著作権法112条1項に基づき、
(ア)控訴人の著作権を侵害する被告制作物1、2及び4に係る、原判決別紙被告制作物目録記載2のチラシ(被告制作物1)、同目録記載3の商品カタログ(被告制作物4)及び同目録記載4のシェフコラボレシピブック(被告制作物2)の頒布の差止めを求める請求
(イ)控訴人の著作権を侵害する被告制作物5に係る原判決別紙被告制作物目録記載5の店頭POPの展示の差止めを求める請求
イ 著作権法112条2項に基づき、原判決別紙被告制作物目録記載2のチラシ、同3の商品カタログ及び同4のシェフコラボレシピブックの回収、並びにこれら及び同5の店頭POPの廃棄を求める請求
ウ 原告制作物1、2、4及び5に関する著作権侵害による不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条、著作権法114条3項、下記エ及び(3)ウの損害賠償請求の根拠法条も同様)として、628万0800円及びこれに対する不法行為の後の日(訴状送達の日の翌日)である平成30年1月14日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同様)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める請求
エ 被告制作物3に係る原判決別紙被告制作物目録記載1のホームページにつき、原告制作物3に関する著作権侵害による不法行為に基づく損害賠償請求として、324万円(月額32万4000円として、ウェブサイト制作、管理、更新業務委託契約終了後の平成29年11月1日から上記ホームページが削除された平成30年8月末日までの10か月間に相当する金員)の支払を求める請求
(3)ナカシマ関連原告制作物に関する著作権侵害に係る請求
 控訴人は、被控訴人(ナカシマ)の依頼に基づいて原判決別紙対照表6から11までに記載のナカシマ関連原告制作物(原告制作物6〜11)及び動画(原告制作物12)を制作等したところ、被控訴人が原判決別紙対照表6から11までに記載のナカシマ関連被告制作物(被告制作物6〜11)及び動画(被告制作物12)を制作等した行為は、各番号に対応するナカシマ関連原告制作物に関する控訴人の著作権(複製権等)を侵害する行為であると主張して、
ア 著作権法112条1項に基づき、控訴人の著作権を侵害する上記被告制作物6から10までに係る、原判決別紙被告制作物目録記載6のコーポレートシンボル(被告制作物6−1)、同目録記載7の事業領域図(被告制作物7)、同目録記載8の椅子用カバー(被告制作物10−1)、同目録記載9のリクルート用パンフレット(表紙に被告制作物6−1及び6−2のコーポレートシンボルマークを掲載し、次頁に被告制作物8を掲載するなどしたもの)及び同目録記載10のポスターパネル(被告制作物9)の使用の差止め、並びに同目録記載9のリクルート用パンフレットの頒布の差止めを求める請求
イ 著作権法112条2項に基づき、原判決別紙被告制作物目録記載9のリクルート用パンフレットの回収、並びに同8の椅子用カバー、同9のリクルート用パンフレット及び同10のポスターパネルの廃棄を求める請求
ウ 原告制作物6から12までに関する著作権侵害による不法行為に基づく損害賠償請求として、1100万円及びこれに対する不法行為の後の日(訴状送達の日の翌日)である平成30年1月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める請求
2 訴訟の経過
 原判決は、控訴人の請求をいずれも棄却したため、控訴人が原判決を不服として控訴した。
3 前提事実
 次のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」第2の2に記載のとおりであるから、これを引用する。
(原判決の補正)
(1)原判決7頁6、7行目の「ナカシマエナジーから、」を削る。
(2)原判決8頁22行目の「『●当社で制作したカタログ』の」の次に「右下にある」を加える。
(3)原判決9頁1行目の「掲載されている」の次に「(別紙被告制作物目録3の4枚目〔横にしたもの〕左下の写真)」を加える。
(4)原判決9頁20行目の「被告制作物5」の次に「(別紙被告制作物目録5の5枚目〜10枚目)」を加える。
(5)原判決10頁10行目末尾の次に「その契約条項は、第1項に定める業務内容を除き、播磨喜水関連業務委託契約2と同一である。」を加える。
(6)原判決11頁6行目の「のとおり構成」の前に「上部」を加える。
(7)原判決12頁1行目の「被告制作物9を」を「被告制作物9(ポスターパネル)を制作した上、これを」に改める。
(8)原判決13頁20行目の「播磨喜水から、原告パッケージデザイン1−6の制作を委託され、」を「平成28年6月ころ播磨喜水から原告パッケージデザイン1−6(ボトルパッケージデザイン)の制作を委託され、同年8月10日、」に改める。
4 争点及び当事者の主張
 次のとおり補正し、後記5において当審における当事者の補足的主張を加えるほか、原判決「事実及び理由」第2の3及び第3に記載のとおりであるから、これを引用する。
(原判決の補正)
(1)原判決14頁25行目の末尾の次に「さらに、播磨喜水関連業務委託契約2は、有効期間が業務委託費の支払完了時までとされているところ、播磨喜水は平成27年9月30日をもって支払を完了しているから、著作権に関する規定(播磨喜水関連契約書2の第6条)も含め、その後は効力を有しない。」を加える。
(2)原判決19頁7行目の「播磨喜水関連」を「ナカシマ関連」に改める。
(3)原判決別紙「争点1−1に関する当事者の主張(原告制作物2と被告制作物2)」の「播磨喜水の行為による損害の発生」に対する「原告の主張」欄の「208万8800円」を「200万8800円」に改める。
5 当審における当事者の補足的主張
【控訴人の主張】
(1)播磨喜水関連業務委託契約2が基本契約として播磨喜水に関する他のデザイン制作委託契約に適用されることについて
 播磨喜水関連業務委託契約2の対象となる成果物は、社名・商品のネーミング、ロゴマーク、名刺、封筒等会社ブランドの核心となる基本的成果物であり、その無断変更修正を禁じてブランドイメージを守るという趣旨は播磨喜水に関するその他の制作物にも当然に妥当する。
 したがって、播磨喜水関連業務委託契約2は、播磨喜水に関する他の制作物に係るデザイン制作委託契約にも適用されると解すべきである。
 仮に基本契約に当たらないとしても、当事者間で締結された関連契約であるから、原告制作物1から5までに係る著作物制作契約の解釈において参照すべきである。
(2)播磨喜水関連業務委託契約2及びナカシマ関連業務委託契約2(以下、併せて「本件各業務委託契約2」ということがある。)において黙示の包括的な利用許諾の合意等のないことについて
ア デザイン制作に関する業務委託契約である本件各業務委託契約2は、ブランディングに関するコンサルティング契約(播磨喜水関連業務委託契約1及びナカシマ関連業務委託契約1)を伴うものであり、被控訴人が播磨喜水及び被控訴人のブランド構築のために控訴人との取引を開始したこと、利用許諾の範囲は契約当事者間の合意により画せられるとのJAGDA約款を参考に控訴人が契約条項を作成し、P1が異議を唱えていないこと、被控訴人の言動等に照らしても、本件各業務委託契約2において包括的、抽象的な黙示の利用許諾はあり得ない。
イ 本件各業務委託契約2の6条6項にいう「使用」は、著作権法にいう法定利用行為を許諾する趣旨ではないし、同条5項にいう「変更修正」は、著作権上の複製を含む何らかの改変を加える一切の行為と解するのが、ブランディングを基底に置く本件の業務の性質から考えて合理的かつ自然であり、契約条項を作成した控訴人の意図に沿う。
 また、本件各業務委託契約2の1000万円という対価は業務時間等に照らした制作料金として高額ではなく、著作権譲渡や利用許諾の対価を含んでいない。
(3)播磨喜水関連原告制作物の著作権侵害についての補足
ア 原告制作物1について
 原告制作物1の写真は、控訴人の取締役であったP2(以下「P2」という。)が控訴人の業務として撮影したものであるから、控訴人が職務著作として著作権を有する。控訴人は、播磨喜水に対し、同種のレシピブックの複製を常識的な範囲で許諾したことはあるが、原告レシピブック1の一部の写真である原告制作物1を切り貼りして、被告制作物1を制作するような行為は許諾していない。
イ 原告制作物3について
 被告制作物3は、原告制作物3のソースコードを無断でデッドコピーしたものであって、行為態様が極めて悪質である。
ウ 原告制作物4について
 原判決は、被写体と光線の関係が相違するというが、被告制作物4は、写真の左右に左右対称の陰影がつけられており、カメラアングルのみならず被写体と光線の関係が原告制作物4と極めて類似している。被告制作物4は原告制作物4に依拠して制作されたものであり、著作権(翻案権)を侵害している。
エ 原告制作物5について
 原告制作物5−1(原告POP)は、播磨喜水関連業務委託契約書2の別紙に記載されたVI展開デザインに該当するものである。
(4)著作権侵害による損害額の予備的主張
 原告制作物は、明示の利用許諾により有償で複製されていた。その使用料は、制作物の内容や数など異なる点はあるものの平均すると10万6111円であった。
 したがって、原告制作物1、2及び4から12までに係る侵害行為による損害額(著作権法114条3項)として、予備的に各10万6111円を主張する。
【被控訴人の主張】
(1)播磨喜水関連業務委託契約2が基本契約でなく、播磨喜水に関する他のデザイン制作委託契約に適用されないことについて
 播磨喜水関連業務委託契約2に基づく成果物は同契約書別紙に列挙されているが、播磨喜水関連原告制作物は列挙されたいずれの成果物にも該当せず、播磨喜水関連業務委託契約2所定の対価とは別に支払がされている。同契約2が播磨喜水に関する個別のデザイン制作委託契約の基本契約である旨を示す条項も存在しない。
 したがって、播磨喜水関連業務委託契約2が播磨喜水関連原告制作物に関する契約に適用される余地はない。
 なお、控訴人は、原告制作物5−1(原告POP)が播磨喜水関連業務委託契約2のVI展開デザインに含まれると主張するが、同契約の別紙に列挙された対象物に当たらない。
(2)著作権譲渡又は黙示の利用許諾があったことについて
ア 播磨喜水関連原告制作物に係る著作権譲渡について
 播磨喜水関連原告制作物に係る各デザイン制作委託契約において著作権の帰属の定めや、複製又は利用態様に制限を課す合意は存在しない。
 これらからすれば、著作権譲渡の合意が存在したと解するのが実態に沿う。
イ 播磨喜水関連原告制作物及びナカシマ関連原告制作物に係るデザイン
 制作委託契約における黙示の包括的な利用許諾の合意について
(ア)播磨喜水及び被控訴人は、自身の商品の宣伝広告、販促物又は広報資料のデザイン制作を委託したのであるから、播磨喜水関連原告制作物及びナカシマ関連原告制作物に係るデザイン制作委託契約の趣旨及び制作物の性質からして、成果物の著作権につき控訴人が播磨喜水及び被控訴人に対し、被控訴人等の宣伝広告、販促物又は広報資料としての利用を含む事業活動全般に利用するのに必要な範囲で包括的な利用許諾を付与することが黙示的に合意されていたと解するのが当事者の合理的意思に適う。
 パッケージデザインと異なり、追加印刷・利用に対する追加料金の支払合意がないこと、デザイン制作委託契約において、著作権譲渡又は包括的利用許諾が行われるのが商慣習であることも、上記解釈を裏付ける。
 控訴人は、包括的な利用許諾を否定するが、本件各業務委託契約2は著作権の帰属を明記する一方で、被控訴人による成果物の複製又は利用態様について制限を課す規定は存在しない。ナカシマ関連業務委託契約2の成果物であるシンボルマークについて、控訴人が被控訴人の自由な利用を認めているところからも、同一契約に基づく他の成果物について同様に包括的な利用許諾を付与していたことが推認される。
(イ)本件各業務委託契約2の6条5項の解釈につき、著作権法上の「複製」の意義からすれば、著作物を「変更修正」すれば、同一性を損なわない軽微なものを除いて、通常は複製の範囲を超える「翻案」と解されるから、本件各業務委託契約2の6条5項の「変更修正」が複製を含むとは解されない。
 控訴人は、ブランディングを伴う契約であったことをいうが、ブランドイメージの形成、維持、変更は、ブランド主体である播磨喜水及び被控訴人が決定すべき事項であり、変更修正した宣伝広告物を播磨喜水及び被控訴人が対外的に公表・使用したとしても、控訴人に社会的評価の毀損等を生ずることは想定できない。
 したがって、本件各業務委託契約2の6条5項は、播磨喜水及び被控訴人による原告制作物の変更修正を禁止、制限する正当な根拠とはならないし、播磨喜水及び被控訴人が、多額の制作費を負担しながら、「変更修正」更には「複製」にまで逐一控訴人の個別の同意を要求され、事業の機動性及び円滑性等を害する不利益を受けることは、明らかにバランスを欠き不合理である。
(3)著作権侵害による損害額の予備的主張について
 争う。なお、播磨喜水と控訴人との間で、デザイン制作物の複製が別途の利用許諾のもと有償でなされていたものではない。
第3 当裁判所の判断
1 パッケージデザインの未払報酬等に関する請求について(争点3)
 当裁判所も、原審と同様に控訴人の請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は、原判決「事実及び理由」第4の4(4)及び7に記載のとおりであるから、これを引用する(以下に引用する原判決の該当部分を単に「原判決第4の4(4)」などということがある。)。
(原判決の補正)
(1)原判決33頁4、5行目の「原告パッケージデザイン1−5」を「原告パッケージデザイン1−6」に改める。
(2)原判決41頁19行目及び同42頁6行目の「発注累計個数に応じた」をいずれも「発注累計個数に応じて」に改める。
(3)原判決42頁2行目の「当事者の意思をそのように解すべき合理性もない。」を「控訴人が値下げの要望に応じて印刷個数による料金の見積を提示した経過からすれば、むしろそれ以前の料金の提示は撤回され、あらたな料金算定方法が合意されたものと解される。控訴人が主張するような合意(発注累計個数に応じた料金を定める際、継続的に追加印刷をしない場合は別途の料金体系に従うとする合意)がデザイン制作委託契約において通常であることを窺わせる証拠はなく、当事者の意思をそのように解する合理性も認め難い。当時、被控訴人が同パッケージデザインを長期間用いて販売を行うということが期待され、その結果、印刷個数により料金を算定することが合意されたとしても、交渉経過において発注個数に応じた見積料金を提示する条件として発注総数等について取決めがされたものでもなく、追加印刷がなくなったからというだけで、上記算定方法についての合意の効力が失われるとは考えられない。」に改める。
2 播磨喜水関連原告制作物及びナカシマ関連原告制作物に関する著作権侵害に係る請求について(争点1、2)
 当裁判所も、原告制作物2から4までに関する著作権侵害の事実は認められず、被告制作物5から12までの制作は原告制作物5から12までに関する利用許諾の範囲内の利用である(ただし、原告制作物5−2については著作物性が認められない。)と解するが、原審と一部異なり、被告制作物1は控訴人の写真の著作物である原告制作物1に関する著作権(複製権)を侵害するものであって、これによる損害賠償請求は一部理由があり、その余の請求(残部の損害賠償請求、差止請求及び廃棄・回収請求)は、いずれも理由がないと判断する。
 その理由は、以下のとおりである。
3 認定事実
 控訴人とナカシマエナジー、播磨喜水及び被控訴人との取引等に関する事実関係は、次のとおり補正するほか、原判決第4の4(1)から(3)までに記載のとおりであるから、これを引用する。
(原判決の補正)
(1)原判決24頁16行目の「被告、ナカシマエナジー及び播磨喜水いずれの代表取締役でもあったP1等が」を「被控訴人及びナカシマエナジーの代表取締役であり、播磨喜水の設立後その代表取締役に就任するP1や、従業員で播磨喜水の設立後に取締役に就任するP3等が」に改める。
(2)原判決24頁23、24行目の「以下のとおりである」の次に「(甲5の1)」を加える。
(3)原判決25頁23行目の「著作権」を「著作物」に改める。
(4)原判決26頁2行目末尾の次に改行して、次の記載を加える。
 「(ウ)播磨喜水関連業務委託契約2には、業務委託費1000万円の支払方法につき、契約締結時に500万円(消費税別。以下、特記しない限り同様)を、本業務終了時に500万円を支払うものとし(第3条)、契約の有効期間を契約締結日から上記の業務委託費の支払が完了するまでとする(第5条)定めがあった。
 控訴人はナカシマエナジーに対し、平成26年11月1日付けで500万円を、播磨喜水に対し、平成27年8月31日付けで残金500万円を各請求し、ナカシマエナジー及び播磨喜水は同年9月30日までに支払を了した(乙1、2)。
(エ)播磨喜水は、平成27年2月3日設立され、P1が代表取締役に就任した。P1は、同年7月ころ控訴人に対し、播磨喜水関連業務委託契約1に係る委託費を以後播磨喜水宛に請求するよう求めた。その頃以降、播磨喜水に関するコンサルティング料の支払や制作物に関する控訴人との契約等は播磨喜水が行うようになった(乙1〜20)。」
(5)原判決26頁7行目の「KUSSUIBOOK」を「KISSUIBOOK」に改める。
(6)原判決27頁2行目の「原告制作物3を制作した」の次に「(甲11の1)」を加える。
(7)原判決28頁12行目の「標記」を「表記」に改める。
(8)原判決28頁18行目の「著作権」を「著作物」に改める。
(9)原判決29頁5行目末尾の次に「控訴人は、原告制作物6の色彩等を変えたデザイン例を記載したガイドラインを被控訴人に交付した(甲15の1の1)。」を加える。
(10)原判決29頁15行目の「掲載されている」の次に「(甲15の1の2)」を加える。
4 原告制作物2から4までに関する著作権侵害の有無について(争点1−1)
(1)原告制作物2から4までに関する著作権侵害の有無については、次のとおり補正し、次項に当審における当事者の補足的主張に対する判断を加えるほか、原判決第4の1から3までに記載のとおりであるから、これを引用する。
(原判決の補正)
ア 原判決22頁9行目の「被告制作物2は、」の次に「素材の選択や配列に係る具体的な表現において相違しており、」を加える。
イ 原判決22頁17行目の「被告のウェブサイト」を「播磨喜水のウェブサイト」に改める。
ウ 原判決24頁2行目の「カメラアングルは」から同5行目の「できない。」までを「カメラアングルのほか、中央上部の光源により左右に影を生じているという被写体と光線の関係は共通するといい得るとしても、これらの点は、一般的な商品の宣伝広告・販促用写真として顕著な特徴を有するともいい難く、表現上の創作性がある部分に当たるとは俄かにいい難い上、陰影の付け方及び色彩の配合は相違しており、被告制作物4を原告制作物4と比較して見たとき、表現上の本質的特徴の同一性を維持し、原告制作物4の表現上の本質的特徴を直接感得することができるとは評価し難い(本判決注・原告制作物4についての当審における控訴人の補足的主張に対する判断を含む。)。」に改める。
(2)原告制作物3についての当審における控訴人の補足的主張について
 控訴人は、被告制作物3は、原告制作物3のソースコードをデッドコピーして制作された極めて悪質な侵害行為である旨主張する。
 しかし、原告制作物3が編集著作物としての著作物性を認められないことは、補正して引用した原判決第4の2に記載のとおりである。
 なお、上記ホームページの制作においては、控訴人のみならず、播磨喜水が委託したホームページ制作業者(有限会社創報堂)も制作に携わっており、被控訴人は被告制作物3のホームページも同一のホームページ制作業者に委託して制作したというのである(弁論の全趣旨)。そうすると、ソースコードに関する何らかの権利が控訴人に帰属するとは限らず、被告制作物3の制作が悪質な侵害行為であるとは直ちに認められない。
5 原告制作物1に関する請求について
(1)原告制作物1に関する著作権について(争点1−1)
 原告制作物1は、平成28年6月ころ、控訴人と播磨喜水とのデザイン制作委託契約の成果物として納品された原告レシピブック1に掲載された料理の1つ(「手延べ麺のカクテル」などと題する料理)を撮影した写真であり、原告レシピブック1を構成する素材である。
 その著作物性には当事者間に争いがなく、証拠(甲40、41)及び弁論の全趣旨によれば、原告制作物1は、控訴人の取締役であったP2が控訴人の業務として撮影した写真であって、職務著作として控訴人に著作権が帰属すると認められる。
(2)抗弁1(譲渡又は利用許諾)について(争点1−2)
ア 播磨喜水関連業務委託契約2が基本契約として他のデザイン制作委託契約に適用されるか否かについて
(ア)原告制作物1を含む原告レシピブック1は、播磨喜水関連契約書2に列挙された成果物のいずれにも該当せず、同契約の直接の対象でないことは当事者間に争いがない。
(イ)控訴人は、播磨喜水関連業務委託契約2が、控訴人と播磨喜水との間の基本契約であり、個別のデザイン制作委託契約にも適用されると主張する。
 しかし、同契約書2の条項中に、基本契約であることを窺わせる規定はない。かえって、控訴人と播磨喜水との個別取引の継続にかかわらず、有効期間を業務委託費の支払完了までに限定した規定を設けており、控訴人は平成27年8月には業務委託費残代金を請求し、同年9月30日までにその支払が完了していることからすると、原告レシピブック1の制作以前に播磨喜水関連業務委託契約2の有効期間は終了していると解される。
 これらによれば、同契約2が控訴人とナカシマエナジー又は播磨喜水との間の個別のデザイン制作委託契約の基本契約として締結されたものとは解されない。
 また、播磨喜水関連業務委託契約2は、対象物を社名・商品のネーミング、ロゴマーク、名刺、封筒等、ブランドの核心となる基本的成果物に限定しており、様々な用途や時期に対応して発注、制作される個別のデザイン制作委託契約とは必ずしも成果物の同質性を認められない。したがって、これらの契約内容を同一に解釈すべき合理性は認め難い。控訴人と播磨喜水との間にブランディングのコンサルティング契約(播磨喜水関連業務委託契約1)が締結されていることも、同様に、個別のデザイン制作委託契約の権利関係等を定める根拠となる事情とはいえない。
(ウ)以上、原告制作物1に関して、播磨喜水関連業務委託契約2が基本契約として適用されるとは認められず、同契約による成果物と同様の権利関係にあるとも認められない。
イ 著作権の譲渡の有無
 控訴人は、制作物の著作権が控訴人に帰属することを一貫して主張し、控訴人代表者もその旨供述するところ、播磨喜水ないし被控訴人が控訴人との契約の解消に際して著作権の買取りの話が出た際に著作権を既に取得した旨主張した形跡はない。加えて、後記(イ)のとおり、播磨喜水又は被控訴人において、自身の事業活動に必要な場面で機動性、円滑性をもってデザイン制作委託契約の成果物を使用するためには、著作権の帰属が必要とまではいえず、利用許諾があれば足りる。
 これらによれば、控訴人が播磨喜水との間のデザイン制作委託契約に基づき制作した成果物の著作権が被控訴人に譲渡されたと認めることはできず、控訴人に留保されていたものと解される。
 そうすると、原告レシピブック1についても同様であったと推認され、原告レシピブック1に係るデザイン制作委託契約において、原告制作物1の著作権が被控訴人に譲渡されたとは認められない。
ウ 黙示の包括的な利用許諾の有無
 原告制作物1を含む原告レシピブック1に係るデザイン制作委託契約においては、契約書は作成されておらず、成果物の著作権の帰属や利用に関する明示的な合意は存在しない。また、原告レシピブック1の発注から納品に至る交渉経過等の詳細は明らかでない。
 控訴人代表者は、同種の夏用レシピブックにつき、次の夏まで常識的な範囲で増刷することを許諾すると伝えたことがあったとか、レシピブックに掲載された素材等を別の媒体で使うときは連絡があればほぼ快諾しており、追加料金を生じるとは限らないなどと供述している(控訴人代表者本人)。また、控訴人は、播磨喜水の依頼を受けて、シェフコラボレシピブック等に掲載した写真及びレシピ情報等を用いてレシピカードを制作するなど、一旦納品した成果物の一部を他の制作物に用いることもあったことが認められる(甲43〜50、控訴人代表者本人)。
 このように、レシピブック等に掲載した写真や情報が、レシピブック以外の媒体において控訴人に制作を依頼せずに使用されることもありうると解されていたことが窺われるものの、新たな制作物において使用する場合の具体的な権利関係が明確に決められていたとは認め難く、控訴人と播磨喜水との間の個別のデザイン制作委託契約の趣旨、内容等から、控訴人の著作物である原告制作物1に関する利用許諾についての当事者の合理的意思を解釈する必要がある。
 原告レシピブック1は、播磨喜水の取扱商品をレシピ情報の提供と組み合わせて紹介することによって、宣伝広告、販売促進に役立て、さらにはブランドイメージの向上を図るものとして、播磨喜水が制作を依頼し、控訴人が制作したものと解される。そして、播磨喜水の事業遂行において、原告レシピブック1の内容と整合する範囲で、その成果物の一部をそのまま使用する場合については、播磨喜水のブランドイメージの形成、向上を企図した宣伝広告や販売促進活動における使用として、播磨喜水はもちろん、控訴人も想定していたとみるのが合理的である。
 しかし、被告制作物1は、原告制作物1(成果物である原告レシピブック1の出来上がった料理の写真である。)を「2017SUMMER」と明記された平成29年夏期用のチラシの背景に使用したものであり、その制作目的は同じとはいえない。
 また、控訴人のデザイナーであるP2は、被告制作物1を発見し、平成29年6月6日、P1に対し、LINEを通じて抗議をしており(甲19:「事前にご相談がありましたら問題になりませんでしたが、この件は著作物の無断使用になります。困りましたね。」という内容)、控訴人は、本件提訴後、これが被控訴人による最初の著作権侵害であると主張し、控訴人代表者もその旨供述している(甲39、控訴人代表者本人21頁)。
 これに対し、当時、被控訴人代表者のP1は、控訴人から原告制作物1の使用について、許諾があったという反論をしておらず、むしろ、播磨喜水がチラシ等を作成しようとする都度、ブランディング名目で常に事前相談を求められることについて、不満を有していたことが認められる(甲19、乙34)。
 以上によると、前述したとおり、播磨喜水において、その事業活動の一環として、控訴人が制作した成果物又はその一部をその作成目的に従って、そのまま別の機会に利用する場合はともかく、成果物を構成する素材である原告制作物1(写真)を、事前の許諾を得ずにこれを異なる目的で利用することまで許諾していたと認めることはできない。
エ 抗弁1についてのまとめ
 被控訴人による被告制作物1の制作は、控訴人の利用許諾を得ずに原告制作物1をそのまま、制作目的の異なる制作物(原判決別紙被告制作物目録記載2のチラシ)の背景に印刷し、これを複製するものであって、原告制作物1の著作権を侵害する行為であると認められる。
(3)抗弁2(権利の濫用)について(争点1−3)
 以上に述べたところに照らせば、被告制作物1は、本来の用途に従い、一般的に想定される利用態様の範囲内で原告制作物1を利用したものとは評価できず、また、このような利用態様が制約されたからといって、播磨喜水の事業活動に著しい支障を来すということもできない。
 したがって、原告制作物1に関する著作権侵害に基づく控訴人の請求が権利の濫用に当たるとは解されない。
(4)原告制作物1の著作権侵害に基づく請求について
ア 差止請求について
 被告制作物1(原判決別紙被告制作物目録記載2のチラシ)は、「2017SUMMER」と明記された平成29年夏期用のチラシであり、被控訴人が今後同チラシを頒布するおそれがあるとはいい難く、同チラシの頒布の差止めを求める請求は理由がない。
イ 廃棄、回収請求について
 廃棄、回収請求は、差止請求権の行使を実行あらしめるものであって、差止請求権の実現のために必要な範囲内のものであることを要すると解される。本件において、被告制作物1に係る差止請求権の行使が認められないのは前述のとおりであるから、その廃棄、回収の必要性も認められない。
 したがって、原判決別紙被告制作物目録記載2のチラシの廃棄、回収を求める請求は理由がない。
ウ 損害賠償請求について
(ア)故意または過失について
 原告レシピブック1に係るデザイン制作委託契約において認められる黙示の利用許諾の内容に基づけば、播磨喜水には、原告制作物1に対する著作権侵害につき、少なくとも過失があるというべきである。
(イ)損害額について
 証拠(甲7の8、甲44の1〜44の5、甲45の1、甲50)及び弁論の全趣旨によれば、原告制作物1を含む原告レシピブック1(12頁から成り、5種類の料理写真及びそのレシピ情報、表紙写真、及びその料理写真、商品写真、商品の値段その他の情報、通信販売案内等を掲載するもの)の制作に係るオリジナルレシピブランディング料及び撮影・スタイリング・フードコーディネイト料が100万円であったこと、控訴人においては、同種のレシピブックに掲載した料理の1つのレシピ情報と写真を1枚のレシピカードとして基づいてレシピカードを制作する費用が1枚2万5000円とされていたことが認められ、控訴人は、レシピカードの上記制作費用が複製の使用料であると主張する。
 これらを踏まえ、原告制作物1(写真1枚)に対する使用料としては、2万5000円と認めるのが相当である。
 また、事案の内容、認容額その他諸般の事情を考慮し、控訴人が負担した弁護士費用のうち2500円につき、本件による損害として相当と認める。
(ウ)以上によれば、原告制作物1に係る著作権侵害による損害賠償請求は、2万7500円(及び遅延損害金)の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がない。
6 原告制作物5に関する請求について
(1)原告制作物5に関する著作権について(争点1−1)
 原告制作物5−1(原告POPの写真及び文章)は、平成27年10月ころ、控訴人が播磨喜水の依頼を受けて、姫路店オープンに際して店頭用POPとして制作し、その頃納品したものである(甲7の4、甲14の1の1)。
 また、原告制作物5−2(原告カタログ2の写真及び文章)は、平成27年11月ころ、控訴人が播磨喜水の依頼を受けて制作し、その頃納品した商品カタログ(三つ折りお歳暮用カタログ)に掲載された素材である(甲7の6、14の1の2)。
 原告制作物5−1の著作物性は当事者間に争いがない。
 そして、証拠(甲39、40、42)及び弁論の全趣旨によれば、原告制作物5−1の写真はP2が控訴人の業務として撮影したものであり、文章部分を含め、控訴人の職務著作に当たると認めるのが相当である(弁論の全趣旨)。
 原告制作物5−2の著作物性については、いずれも、3種類の商品(播磨喜水の白、黒、赤)を右下角斜め上方から撮影した写真であり、その撮影方法は、商品を紹介する写真としてありふれた表現である。また、これに付された文章及び「●商品カタログ」に記載された文章(原判決107頁記載のもの)の創作性については具体的主張立証がされていないところ、これらは播磨喜水の商品の特性や個別の調理法を紹介したりする内容であるが、それらを説明する表現としては、ありふれたものというべきである。「播磨喜水_白」及び「●商品カタログ」の記載において、素麺の原材料である小麦の香りをアロマと例える表現があるが、その例えがあるというだけで、これらの文章に創作性を認めることはできず、原告制作物5−2の著作物性を認めることはできない。
(2)抗弁1(譲渡又は利用許諾)について(争点1−2)
ア 播磨喜水関連業務委託契約2の適用について
 控訴人は、原告POP(原告制作物5−1:原判決別紙対照表5に記載のもの)は、播磨喜水関連契約書2の別紙に列挙された成果物のうちのVI展開デザインに該当すると主張する。
 しかし、前記5(1)アのとおり、播磨喜水関連業務委託契約2については、平成27年9月30日までに業務委託費の支払が完了され、同契約の有効期間が終了したものと解される。また、播磨喜水関連業務委託契約2の対象となるデザイン成果物は同別紙に列挙されており、VI基本デザインとしてロゴマーク、タグラインなどが記載され、VI展開デザインとして「名刺、封筒など、WEBサイトイメージ」と記載されている。そうすると、同契約の対象となるのは、ブランドの核心となる基本的成果物に限定され、当該ブランド自体を表象するものとして長期間にわたり全社的に使用されるものが想定されていると解される。これに対し、原告POPは、姫路店オープンに合わせて制作された店頭用POPであり、その用途並びに成果物の内容をみても、上記のようなブランドの核心となり、ブランド自体を表象するものとして長期間、全社的に使用されるものとは認められない。
 そして、証拠(甲7の4・6)によれば、原告POPの制作の対価は、播磨喜水関連業務委託契約2の業務委託費とは別個に支払われているものと認められる。
 これらによれば、原告制作物5−1は、播磨喜水関連業務委託契約2とは別個のデザイン制作委託契約に基づくものであり、播磨喜水関連業務委託契約2の定める条項が適用されるものではない。
 その他、同契約2が基本契約として適用されるとは認められず、関連契約として解釈上考慮すべきとも認められないことは、前記5(2)アにおいて述べたところと同様である。
イ 抗弁1(譲渡又は利用許諾)について(争点1−2)
 原告POPである原告制作物5−1は、播磨喜水のブランドイメージの向上を図り取扱商品を紹介する宣伝広告、販売促進のための物品として、播磨喜水が制作を依頼し、控訴人が制作したものと解される。したがって、原告レシピブック1に係るデザイン制作委託契約と同様、原告制作物5−1に係るデザイン制作委託契約においても、同契約の趣旨に基づき、成果物の目的の範囲内で原告制作物を複製することを許諾する合意が存在すると解するのが合理的であり、これに反する控訴人の主張は採用できない。
ウ 利用許諾の対象該当性
 被告制作物5は、原告制作物5−1と同5−2の写真と文章をそのまま、あるいは組み合わせたものであり、姫路店以外の被控訴人の店舗で店頭用POPとして陳列されたものと認められる。これらの写真及び文章は、写真に僅かなトリミングはあるものの、改変なくそのまま写真と文章を組み合わせるなどしてPOPとして制作され店頭に陳列したものと解され、原告制作物5−1のデザイン制作委託契約の成果物である店頭用POPと同じ目的、すなわち、播磨喜水のブランドイメージの形成、向上を企図した宣伝広告や販売促進活動等のため、必要な範囲で複製したものということができる。
 そうすると、被告制作物5は、原告制作物5−1に係るデザイン制作委託契約における黙示の利用許諾の範囲内とみるのが相当である。
 したがって、原告制作物5−1に対する著作権侵害に当たるとは認められない。
(3)以上によれば、その余の点につき判断するまでもなく、原告制作物5に関する著作権侵害に係る請求は、理由がない。
7 原告制作物6から12までに関する著作権侵害に係る請求について
(1)当裁判所も、被告制作物6から12までを制作等した被控訴人の行為が、原告制作物6から12までに関する著作権を侵害したと認めることができないと判断することは、前述(本判決第3の2)のとおりである。その理由は、次のとおり補正するほか、原判決第4の6に記載のとおりであるから、これを引用する。
(原判決の補正)
ア 原判決37頁10行目末尾の次に「このように、ナカシマ関連業務委託契約2は、被控訴人が納品されたデザイン制作物を当該契約において使用することができる範囲や態様についての明示の規定を設けていないということができる。」を加える。
イ 原判決37頁22行目の「規定が置かれていること」から23行目の「『変更修正』とは」までを「規定が置かれており、そのような利用許諾がデザイン制作委託契約において一般的に想定されているといえることや、著作権法上の『複製』の意義からしても、特段の定義を定めないナカシマ関連業務委託契約2の6条5項にいう『変更修正』は、同一性を損なわない軽微な変更修正を除き」に改める。
ウ 原判決38頁1行目の「事業遂行上」から3行目の「許諾する」までを「事業遂行に必要な範囲で、その成果物を複製、利用することを許諾する」に改める。
エ 原判決38頁17行目の「このような改変」から21行目末尾までを次のとおり改める。
 「控訴人は、原告制作物6について利用に関するガイドライン(甲15の1の1)を交付したから、これに違反する利用行為の一切は著作権侵害であり、被告制作物6−2もこれに該当する旨主張する。しかし、上記ガイドラインは、最小使用サイズを規定した上で、シンボルマークのバリエーションを提示したものであり、そこに記載された色彩等を含む形態での利用以外を一切禁ずる趣旨を読み取ることは困難である。控訴人が、上記ガイドラインを上記主張の趣旨を明示して被控訴人に交付されたことを認めるに足りる的確な証拠もない。むしろ、控訴人が上記ガイドラインを交付したことにより、原告制作物6の一定程度の改変を許諾していたと認めることが可能である。」
オ 原判決40頁12行目の「使用されたものである」を「使用されたものであり、それ自体が利用許諾の対象となるひとつの成果物ということができる。」に改める。
カ 原判決41頁10行目末尾の次に「なお、原告制作物12は前記のとおり被控訴人の事業全般に幅広く使用することを想定されたVIデザイン制作の一環としての成果物であり、CIデザインの社内発表用として発注、制作されたことは、被控訴人において当該社内発表の機会以外に一切使用できないことを当然に意味するものとは解されない。被控訴人が、その事業内容を伝える動画として自社ウェブサイト等にアップロードしたことは、その使用態様に照らし、原告制作物12の制作の意図や趣旨と反するものとは解されない。」を加える。
(2)当審における控訴人の補足的主張(2)について
 控訴人は、ナカシマ関連業務委託契約2は、ブランディングに関するコンサルティング契約を伴うものであることを理由に、黙示の包括的な利用許諾を合意することはあり得ないと主張するが、控訴人が提供した成果物をそのまま複製して使用する限り、被控訴人のブランド構築のためにブランディング契約を締結したことと矛盾する結果をもたらすわけではなく、上記契約の意義を失わせるものでもない。また、ナカシマ関連業務委託契約2の6条5項にいう「変更修正」の意義については、前記(1)で補正して引用した原判決第4の6(2)に記載のとおりである。
(3)以上によれば、ナカシマ関連原告制作物(原告制作物6〜12)に関する著作権侵害に係る請求は、いずれも理由がない。
第4 結論
 以上によれば、控訴人の請求は、原告制作物1に関する著作権侵害による損害賠償請求(民法709条、著作権法114条3項)として、2万7500円及びこれに対する不法行為の後の日である平成30年1月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余の請求はいずれも理由がない。
 原判決のうち上記判断に反する部分は不当であり、変更を免れない。控訴人の控訴はこのことをいう限度で理由があるから、これに基づき原判決を変更し、その余の控訴は棄却すべきである。
 よって、主文のとおり判決する。

大阪高等裁判所第8民事部
 裁判長裁判官 山田陽三
 裁判官 池町知佐子
 裁判官 三井教匡
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