判例全文 | ||
【事件名】エキサイトへの発信者情報開示請求事件C 【年月日】令和2年12月25日 東京地裁 令和2年(ワ)第20130号 発信者情報開示請求事件 (口頭弁論終結日 令和2年11月11日) 判決 原告 X 同訴訟代理人弁護士 平野敬 同 井雅秀 同 笠木貴裕 被告 エキサイト株式会社 同訴訟代理人弁護士 藤井康弘 主文 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文同旨 第2 事案の概要 1 本件は、漫画家である原告が、経由プロバイダである被告に対し、氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)が、P2P型のファイル共有ソフトを使用して原告が執筆した漫画の電子データを原告に無断で送信し、上記漫画に係る原告の著作権(複製権、公衆送信権)を侵害したことが明らかであるとして、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、上記著作権侵害行為に係る別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実) (1)当事者 ア 原告は、「X’」との筆名で活動する漫画家であり、「勇者のクズ」1巻及び2巻(以下、総称して「本件漫画」という。)の著作者である。(甲1、2、12) イ 被告は、電気通信事業を営む株式会社である。 (2)本件発信者による電子データの送信 本件発信者は、別紙発信端末目録の「発信時刻」欄の日時に、原告訴訟代理人に対し、P2P型のファイル共有ソフトであるBitTorrentクライアントソフトを用いて本件漫画を複製した電子データ(以下「本件データ」という。)を、被告の提供するインターネット接続サービスを介し送信した(以下、この送信を「本件送信」という。)。(甲3〜8、11) (3)本件発信者情報の保有 被告は、本件発信者情報を保有している。 (4)BitTorrentの仕組み BitTorrentとは、インターネット上で、中央サーバを設けずに、P2P方式でファイルを共有するためのプロトコル(通信規約)の一つであり、同プログラムを実装したクライアントソフトの名称でもある。 BitTorrentのネットワーク参加者にはIPアドレスレベルでの匿名性・秘匿性はなく、どのIPアドレスの端末がどのファイルを所持・提供しているかを誰でも容易に知ることができる。また、BitTorrentでダウンロードしたファイルは、BitTorrentクライアントソフトを停止させるまで、他のネットワーク参加者からの要求があればいつでもこれを送信し得る状態に置かなければならない。 BitTorrentでファイルをダウンロードするためには、@まず、取得したいファイルに対応するトレントファイルを入手してBitTorrentクライアントソフトに取り込み、A次に、当該トレントファイルで指定されたトラッカー(取得したいファイルの提供者を追跡し、同提供者のリストを管理するサーバ)と通信して同提供者のIPアドレスを入手し、B最後に、入手したIPアドレスの端末と通信し、取得したいファイルの送信要求を行うという手順を踏む必要がある。(甲3、5、9の2) 3 争点 (1)本件送信の「特定電気通信」(プロバイダ責任制限法2条1号)該当性(争点1) (2)本件送信による権利侵害の明白性の有無(争点2) (3)本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無(争点3) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(本件送信の「特定電気通信」(プロバイダ責任制限法2条1号)該当性)について 〔原告の主張〕 特定電気通信とは、「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信…の送信」をいい(プロバイダ責任制限法2条1号)、現に不特定多数によって受信されることは必要ないところ、BitTorrentでのファイル共有は、「群」に参加する不特定多数の者に対してファイルを送信するものであるから、本件送信は「特定電気通信」に該当する。 〔被告の主張〕 P2P型のファイル共有ソフトは、送信側ユーザーと受信側ユーザーの間の1対1の通信を媒介するものであるから、本件送信が原告訴訟代理人以外の第三者に行われることはない。そうすると、本件送信は、本件発信者から原告訴訟代理人のみに対する電気通信であるといえるから、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信とはいえず、「特定電気通信」には該当しない。 2 争点2(本件送信による権利侵害の明白性の有無)について 〔原告の主張〕 本件送信は、原告の同意なく、BitTorrentクライアントソフトを用いて、本件データをインターネット上で不特定多数者と共有するものであるから、本件漫画に係る原告の著作権(複製権、公衆送信権)を明らかに侵害するものである。 〔被告の主張〕 本件送信が「特定電気通信」に該当するとしても、本件送信は、原告から本件データのダウンロードの許諾を受けた原告訴訟代理人に対してなされたものであるから、原告の権利を侵害するものではない。 3 争点3(本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無)について 〔原告の主張〕 原告は、本件発信者に対し、損害賠償等の請求をする準備しているが、このような請求をするには本件発信者情報の開示を受けることが必要である。 したがって、原告には、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。 〔被告の主張〕 不知 第4 当裁判所の判断 1 争点1(本件送信の「特定電気通信」(プロバイダ責任制限法2条1号)該当性)について 被告は、P2P型のファイル共有ソフトは、送信側ユーザーと受信側ユーザーの間の1対1の通信を媒介するものであるから、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信とはいえず、「特定電気通信」には該当しないと主張する。 しかし、プロバイダ責任制限法2条1号は「特定電気通信」を「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信…の送信」と定義しているところ、前記前提事実(第2の2(4))によれば、BitTorrentの参加者は、これを利用してダウンロードしたファイルについて、他の不特定のネットワーク参加者からの求めがあればいつでもこれを送信し得る状態に置かなければならないとの仕組みとなっているのであるから、BitTorrentクライアントソフトを利用した電気通信は「不特定の者によって受信されることを目的とする」ものであるということができる。 したがって、本件送信は、プロバイダ責任法2条1号にいう「特定電気通信」に該当する。 2 争点2(本件送信による権利侵害の明白性の有無)について 被告は、本件送信は、原告から本件データのダウンロードの許諾を受けた原告訴訟代理人に対してなされたものであるから、原告の権利を侵害するものではないと主張する。 しかし、BitTorrentクライアントソフトを用いて、本件データをインターネット上で不特定多数者と共有することは、本件漫画に係る原告の著作権(複製権、公衆送信権)を明らかに侵害するものである。原告訴訟代理人が本件データをダウンロードしたのは、本件漫画に係る原告の著作権が侵害されていることを確認するためであって、これをもって、原告が本件発信者による本件データの公衆送信を許諾したということはできない。 3 争点3(本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無)について 原告は、本件発信者に対して著作権(公衆送信権)侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権等を有しており、その権利を行使するために被告から本件発信者情報の開示を受ける必要がある。 したがって、被告から本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。 4 結論 よって、本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 佐藤達文 裁判官 三井大有 裁判官 齊藤敦 (別紙)発信者情報目録 別紙発信端末目録記載のIPアドレスを、同目録記載の発信時刻頃に使用した者の情報であって、次に掲げるもの。 1 氏名又は名称 2 住所 以上 (別紙)発信端末目録
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