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【事件名】“flickr”掲載写真の無断複製事件
【年月日】令和2年12月23日
 東京地裁 令和2年(ワ)第24035号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 令和2年12月2日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 山本隆司
被告 合同会社レカ・コーポレーション


主文
1 被告は、別紙1著作物目録記載の写真を複製し、自動公衆送信し、又は送信可能化してはならない。
2 被告は、原告に対し、31万1032円及びこれに対する平成27年6月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 本判決は、第2項及び第3項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は、原告が、被告に対し、原告が撮影した別紙1著作物目録記載の写真(以下「本件写真」という。)を複製したものを、被告が管理運営するウェブサイト((URLは省略)。以下「本件サイト」という。)内に掲載して、本件写真に係る原告の著作権(複製権、自動公衆送信権(送信可能化権を含む。以下同じ。))及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害し、これにより原告に損害を与えたと主張して、不法行為に基づく損害賠償として、合計31万1032円(ライセンス料相当額21万1032円、慰謝料5万円、弁護士費用5万円)及びこれに対する上記掲載日である平成27年6月29日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のものをいう。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を、被告により本件写真の著作権が侵害されるおそれがあると主張して、著作権法112条1項に基づき、本件写真を複製し、自動公衆送信し、又は送信可能化することの差止めを、それぞれ求める事案である。
2 当事者の主張
(1)請求原因
ア 原告は、平成23年3月2日、本件写真を撮影した。本件写真は、被写体の選択、レンズ及びカメラの選択、アングル、シャッターチャンス、シャッタースピード及び絞りの選択、ライティング、構図、トリミング等により、原告の思想又は感情を創作的に表現したものであるから、写真の著作物に当たる。
 したがって、原告は、本件写真に係る著作権及び著作者人格権を有する。
イ 被告は、平成27年6月29日、故意又は過失により、別紙3URL目録記載@のURLの画像ファイルとして、別紙2被告写真目録記載の画像(以下「本件画像」という。)のデータをサーバーに保存することで、本件写真を有形的に再製するとともに、自らが管理運営する本件サイト内の上記URL並びに別紙3URL目録記載A及びBの各URLに係るウェブページにおいて、原告の氏名を著作者名として表示することなく本件画像を掲載し、本件写真について、公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信を行った。
 したがって、被告は、故意又は過失により、本件写真に係る原告の複製権、自動公衆送信権及び氏名表示権を侵害した。
ウ 被告は、令和2年5月28日、原告から本件画像の削除及び損害賠償の支払を求める旨の内容証明郵便を受領し、一旦は本件サイト内での本件画像の掲載を中止した。しかし、被告は、本件写真に係る原告の著作権及び著作者人格権を侵害したことを認めておらず、今後、侵害行為を再開する可能性がある。
したがって、被告が本件写真に係る原告の著作権及び著作者人格権を侵害するおそれがある。
エ 原告は、原告が撮影した写真を営利目的で使用することを許諾する場合、欧米で広く利用されている「fotoQuote」の料金表に従ってライセンス料を請求しているところ、同料金表により計算すると、本件写真に係る原告の著作権(複製権、自動公衆送信権)が侵害されたことにより被った著作権法114条3項に基づく損害は、21万1032円である。
 また、本件写真に係る原告の著作者人格権(氏名表示権)が侵害されたことにより原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は、5万円である。
 被告の上記侵害行為により原告が被った弁護士費用相当額の損害は、5万円である。
(2)請求原因に対する認否等
ア 請求原因アについては、争う。
イ 請求原因イについて、本件画像が原告の氏名を著作者名として表示することなく本件サイトに掲載されたことは認め、その余は否認ないし争う。
 被告は、本件写真の画像データをどこで入手したか明確には記憶しておらず、原告の在も知らなかったので、故意に原告の氏名を著作者名として表示しなかったわけではない。また、被告は、非営利公益目的をもって、かなり低い画質で、英語及び日本語の説明文を付して公正に本件画像を利用したものであるから、本件写真に係る原告の著作権及び著作者人格権を侵害しない。
ウ 請求原因ウについて、被告が、原告から本件画像の削除及び損害賠償の支払を求める旨の内容証明郵便を受領した後、本件サイト内での本件画像の掲載を中止したことは認め、その余は争う。
 被告は、原告から内容証明郵便を受領した後、直ちに本件画像を削除し、今後、これを再掲載するつもりはないから、本件写真に係る原告の著作権及び著作者人格権を侵害するおそれはない。
エ 請求原因エについては争う。
 原告が損害額の算定根拠とする「fotoQuote」の料金表はあくまで営利目的の広告等として写真が使用された場合に適用されるものであり、被告は非営利公益目的で本件写真を使用したものであるから、同料金表を算定根拠とすることはできない。
第3 当裁判所の判断
1 請求原因アについて
 証拠(甲1、2、6、9)及び弁論の全趣旨によれば、本件写真は、原告が、天候の良好な平成23年3月2日の日中に、インドの世界遺産であるエローラ石窟群のカイラーサ寺院を被写体として選択し、日陰となる箇所が極力少なくなるように配慮しつつ、同寺院の正面を斜め上方から、同寺院の主要な建物を中心に据え、その全体がおおむね収まるように撮影したものであることが認められる。
 そうすると、本件写真は、原告が撮影時期及び時間帯、撮影時の天候、撮影場所等の条件を選択し、被写体の選択及び配置、構図並びに撮影方法を工夫し、シャッターチャンスを捉えて撮影したものであるから、原告の個性が表現されたものということができる。したがって、本件写真は原告の思想又は感情を創作的に表現した「著作物」(著作権法2条1項1号)に該当し、本件写真を創作した原告は「著作者」(同項2号)に該当するので、本件写真に係る著作権及び著作者人格権を有する。
 よって、請求原因アが認められる。
2 請求原因イについて
(1)証拠(甲1、3の1ないし3、9)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、平成27年6月29日、別紙3URL目録記載@のURLの画像ファイルとして、本件画像のデータをサーバーに保存し、自らが管理運営する本件サイト内の上記URL並びに同目録記載A及びBの各URLに係るウェブページにおいて、原告の氏名を著作者名として表示することなく本件画像を掲載したことが認められる。
 したがって、被告は、本件写真を有形的に再製し、原告の氏名を著作者名として表示することなく、本件写真について、公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信を行ったということができるから、被告は、本件写真に係る原告の著作権(複製権、自動公衆送信権10及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害したと認められる。
(2)証拠(甲1、2、9)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成23年3月頃、写真投稿サイト「flickr」に、自らの氏名を著作者名として表示して、本件写真を掲載したことが認められる。他方で、著作者の許諾なく本件写真を利用することができると被告が考えたことについて正当な理由が存在したことを認めるに足りる証拠はなく、かえって、証拠(甲1、9)によれば、原告が本件写真を投稿した「flickr」上のウェブページには、「Somerightsreserved」(一部権利留保)と明記されているのであるから、同ウェブページ上で本件写真を閲覧した者は、通常、本件写真を著作者の許諾なく利用することができないと理解するものと認められる。
 したがって、被告が本件画像を掲載するに当たり原告の氏名を著作者名として表示し得なかったとは認められず、被告が本件サイト内で原告の氏名を著作者名として表示することなく本件画像を掲載したことについて、被告には少なくとも過失があったと認めるのが相当である。
(3)これに対し、被告は、非営利公益目的をもって、かなり低い画質で、英語及び日本語の説明文を付して公正に本件画像を利用したにすぎないから、本件写真に係る原告の著作権及び著作者人格権を侵害していないと主張する。
 しかし、証拠(甲3の1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば、本件サイトは、飲食店業等を目的とする会社である被告が管理運営し、冒頭に被告の商号が大きく表記されたものであり、本件サイトのドメイン名にも被告の商号が使用されている上、本件サイトにおいて、「カフェと印度家庭料理レカ」、「印度グリル&スポーツバー「レカ」タンドゥル料理とライブスポーツ」等の店舗の名称、住所等が掲載されていることが認められる。これによれば、本件サイトは被告の上記事業のために利用されていたと推認することができ、被告がこのような本件サイト内に本件画像を掲載したのも、営利行為である上記事業のためであったと認めるのが相当であり、この認定を覆すに足りる証拠はない。
 また、本件写真(別紙1)と本件画像(別紙2)を比較すれば、本件画像に接する者が、本件写真の本質的な特徴(前記1)を直接感得できることは明らかであり、本件において、著作権法30条以下で定める著作権の制限規定のいずれかに該当することをうかがわせる証拠はない。
 したがって、被告の上記主張を採用することはできない。
(4)以上によれば、請求原因イが認められる。
3 請求原因ウについて被告が、令和2年5月28日、原告から本件画像の削除及び損害賠償の支払を求める旨の内容証明郵便を受領し、その後、本件サイト内での本件画像の掲載を中止したことは、当事者間に争いがない。
 他方、証拠(甲1、5の1・2、9)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、少なくとも平成27年6月29日から令和2年5月頃までの約5年間、本件サイト内に本件画像を掲載したこと、被告は、原告から上記内容証明郵便を受領した後、上記内容証明郵便には原告訴訟代理人の連絡先が記載されていたにもかかわらず、現在に至るまで、原告訴訟代理人に対して何ら連絡をとっていないことが認められる。
 この点、被告は、今後、本件サイトに本件画像を再掲載するつもりはないと主張するが、本件写真の画像データをパソコンから完全に削除するなど、被告が本件サイトに本件画像を再掲載することが困難であることを認めるに足りる証拠はなく、他に被告の上記主張を裏付ける事情を認めるに足りる証拠もない。
 以上のように、被告による侵害行為は長期間に及んでいること及び被告が再び本件写真を使用するのが困難であるとは認められないことに加え、本件において被告が著作権の侵害を争っていることを合わせ考慮すれば、被告が本件写真に係る原告の著作権を「侵害するおそれ」(著作権法112条1項)が認められるというべきである。
 よって、請求原因ウが認められる。
4 請求原因エについて
(1)前記2(3)、3のとおり、本件画像は、飲食店業等を目的とする会社である被告がその事業のために本件サイトに掲載したものであり、本件画像の掲載期間は、約5年に及ぶ。また、証拠(甲6ないし8)によれば、原告は、自身の写真のライセンスに当たっては、通常、「fotoQuote」の料金表(甲7)を使用していること、同料金表によれば、世界市場のウェブ広告にハーフページ(300×600ピクセル)の大きさの写真を5年間使用させる内容のライセンス料は、地域をアジアに限定しても、1989米ドルを下らないこと、令和2年8月20日(本件の訴え提起の前日)時点における米ドル・円相場の仲値が1ドル106.10円であることが認められる。さらに、証拠(甲3の1)によれば、本件画像は、400×300ピクセルの大きさで使用されていたことが認められる。そうすると、本件写真を営利目的で使用する場合、原告は、21万1032円でその利用を許諾することとしていたものと認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。
 以上に加え、本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件写真に係る原告の著作権(複製権、自動公衆送信権)の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(著作権法114条3項)は、21万1032円と認めるのが相当である。
 また、上記の諸事情に鑑みれば、本件写真に係る原告の著作者人格権(氏名表示権)が侵害されたことにより原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は5万円、弁護士費用相当額の損害は5万円とそれぞれ認めるのが相当である。
(2)これに対し、被告は、原告が損害の算定根拠とする「fotoQuote」の料金表は、あくまで営利目的の広告等として写真が使用された場合に適用されるものであり、被告は非営利公益目的で本件写真を使用したものであるから、これを算定根拠とすることはできないと主張する。
 しかし、前記2(3)のとおり、本件画像は、飲食店業等を目的とする会社である被告がその事業のために本件サイトに掲載したものであり、被告が本件画像を利用したのは営利目的であったというべきであるから、被告の上記主張は前提を欠く。
 したがって、被告の上記主張を採用することはできない。
(3)以上によれば、請求原因エが認められる。
第4 結論
 以上のとおり、被告は、少なくとも過失により、本件サイト内で本件画像を掲載したことによって、本件写真に係る原告の著作権(複製権、自動公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害し、原告に合計31万1032円の損害を与えたので、不法行為に基づく損害賠償として、同額及びこれに対する上記掲載日である平成27年6月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の請求は理由がある。また、被告が本件写真に係る原告の著作権を侵害するおそれがあるといえるので、著作権法112条1項に基づき、被告に対して本件写真を複製し、自動公衆送信し、又は送信可能化することの差止めを求める原告の請求も理由がある。
 よって、原告の請求はいずれも理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。なお、主文第1項に対する仮執行宣言は相当ではないからこれを付さないこととする。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 國分隆文
 裁判官 小川暁
 裁判官 佐々木亮


(別紙1)著作物目録省略
(別紙2)被告写真目録省略
(別紙3)URL目録省略
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