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【事件名】投資取引ソフトの無断配布事件
【年月日】令和2年12月17日
 東京地裁 令和2年(ワ)第3594号 損害賠償等請求事件
 (口頭弁論終結日 令和2年11月5日)

判決
原告株式 会社URICE
同訴訟代理人弁護士 浅野英之
同 鰺坂和浩
同訴訟復代理人弁護士 久保川真
被告Y


主文
1 被告は、原告に対し、27万9900円及びこれに対する令和元年9月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを15分し、その14を原告の負担とし、その1を被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求等
1 被告は、原告に対し、384万8460円及びこれに対する令和元年9月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 仮執行宣言
第2 事案の概要
 本件は、原告が、被告に対し、原告は著作物であるソフトウェアについて独占的利用の許諾を受けていたところ、被告が上記ソフトウェアを無断で複製し、第三者に公衆送信したことにより、原告は上記独占的利用権を侵害され損害を被ったと主張して、不法行為による損害賠償請求権(民法709条)に基づき、384万8460円及びこれに対する不法行為より後の日である令和元年9月516日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実及び証拠上容易に認められる事実。証拠は文末に括弧で付記した。なお、書証は特記しない限り枝番を全て含む。以下同じ。)
(1)当事者
 原告は、総合コンサルティング、プロモート及びマネジメント業等を目的とする株式会社である。(甲1)
(2)事実経過
ア 株式会社BANANA(以下「BANANA」という。)は、次のソフトウェア(以下「本件ソフト」という。)について著作権を有している。(甲4)
 名称 トレーダーファムインジケーター
 種別 裁量取引補助ツール
 仕様動作 OS Windows10
 必要条件 MetaTrader4
イ 原告は、平成31年4月1日、BANANAとの間で、本件ソフトに関し、BANANAが原告に対し1回の利用許諾に当たり24万9900円(税込み)で本件ソフトの独占的利用を許諾すること、原告はその運営する有料コミュニティに参加した第三者に対し上記の利用許諾数の範囲内で本件ソフトの利用を再許諾(サブライセンス)することができること、原告は、再利用許諾の代金を含む上記コミュニティの参加費用を、上記の利用許諾代金を下回らない範囲で設定すること等を内容とする独占的利用許諾契約(以下「本件契約」という。)を締結した(以下、原告が本件契約に基づきBANANAに対して有する本件ソフトの独占的利用権を「本件独占的利用権」という。)。(甲4、11)
ウ 原告は、投資に関する個別サポート、勉強会、動画等を介したサポート等を主目的とするトレーダーファムコミュニティなる会(以下「原告コミュニティ」という。)を運営している。原告コミュニティの入会特典として本件ソフトがあり、原告コミュニティに参加すると、原告から本件ソフトの交付を受けることができる。
 被告は、投資に係る講座に参加した際に紹介、勧誘を受け、令和元年7月15日までに、原告コミュニティに入会した。
 原告は、被告に対し、本件ソフトのデータを電子メールに添付して送信する方法により交付した。
(本項につき、甲2、3、弁論の全趣旨)
エ 被告は、前記講座において知り合ったAと称する人物(以下「A」という。)を含む7人(以下「本件各参加者」という。)と情報交換をすることとし、令和元年8月、A外1人に対し、本件ソフトのデータを電子メールに添付して送信する方法により交付した。その後、Aの助言を受け、被告と本件各参加者が共有するアカウントにより利用できるインターネットに接続しているサーバに本件ソフトのデータをアップロードした。
 本件各参加者のうち5人は、それぞれ、上記サーバから本件ソフトのデータをダウンロードし、又は、Aから同データが添付された電子メールを受信することにより、同データを取得した。
 以上により、原告に無断で、Aを含む7人に本件ソフトが配布された。(本項につき、争いがない事実のほか、甲5、10、弁論の全趣旨)
オ 被告は、令和元年9月14日、原告コミュニティの会員資格を喪失した。(甲3)
2 争点及び争点に関する当事者の主張
 本件の争点は、
@被告が本件各参加者に対して本件ソフトを配布し、原告の本件独占的利用権を侵害したか。
A被告の不法行為によって原告が被った損害及び額である。
(1)争点@(被告が本件各参加者に対して本件ソフトを配布し、原告の本件独占的利用権を侵害したか。)について
(原告の主張)
 被告は、7人の本件各参加者に対し、本件ソフトを複製、貸与、公衆送信し、原告の本件独占的利用権を侵害した。
 被告は、本件各参加者と共有するアカウントにより利用できるサーバに本件ソフトのデータをアップロードして、本件各参加者がこれを各自ダウンロードできるようにしたのであるから、本件各参加者全員に同データを直接交付していないとしても、本件ソフトを原告に無断で複製、貸与、公衆送信したことに変わりはない。
(被告の主張)
 被告が、本件各参加者全員に本件ソフトのデータを直接交付したわけではなく、また、被告は、本件各参加者には他の第三者に交付しないよう伝えていた。
(2)争点A(被告の不法行為によって原告が被った損害及び額)について
(原告の主張)
 原告は、被告の不法行為により、得べかりし利益である7人分の再利用許諾代金174万9300円(249、900×7)相当額の損害を受けた。なお、講座及びソフトウェアを提供する場合に、その価格がソフトウェア単体の価格又はそれを下回る価格に設定されることは一般的であり、本件ソフトの再利用許諾代金が原告コミュニティの入会費用と同額であっても不自然ではない。さらに、原告は、BANANAに対して上記7人分の利用許諾代金174万9300円を支払う義務を負っているから、同額の損害を受けている。
 原告が本件訴訟追行に要した弁護士費用のうち34万9860円は、被告の不法行為と相当因果関係のある損害として被告が負担すべきである。
 したがって、損害の合計は、384万8460円である。
(被告の主張)
 否認ないし争う。
 原告に支払った入会費用は、原告コミュニティにおける生涯サポート、FX講義、リアル勉強会に対する対価であり、本件ソフトは付録で配布されたにすぎない。なお、被告は、原告コミュニティにおいて全く講義を受けておらず、本件ソフトの使用方法も教示されていない。
 本件各参加者は、被告同様に入会の申込みは当日限りとの説明を受けたが、原告コミュニティには入会しなかったし、また、できなかった者であるから、本件各参加者が原告コミュニティに入会したであろうことを前提とする原告の主張は不合理である。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
 前提事実、各項末尾に掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば次の各事実が認められる。
(1)被告は、投資に係る講座に参加し、原告コミュニティへの勧誘を受け、令和元年7月15日までに、入会費用49万9800円(ただし2個分の価格)を支払って原告コミュニティに入会した。原告コミュニティの内容は、FX講義、月1回のオンライン講義等であり、入会の特典として本件ソフトの配布等が含まれていた。(甲1、2(甲2の2によれば、原告作成に係る被告が支払った入会費用のクレジット決済確認書には、商品名として「TraderFamコミュニティ(249900円)×2個)」と記載されているから、被告が支払った上記入会費用は2個分の価格であったと認められる。))
(2)被告は、前記講座に参加していた本件各参加者と情報交換をすることにした。Aは、上記情報交換に当たり率先して本件各参加者を勧誘するなどした。本件各参加者は、いずれも被告と同様に前記講座に参加し原告コミュニティへの入会の勧誘を受けたが、結局、原告コミュニティに入会せず、中には入会しようとしたが入会できない者もいた。
 被告は、Aに相談し、本件各参加者に本件ソフトを配布することにし、令和元年8月、A外1人に対し、本件ソフトのデータを電子メールに添付して送信する方法により交付した。
 Aは、本件ソフトのデータを電子メールに添付して送信する方法は煩雑であると考え、被告と本件各参加者で共有するアカウントを作成した上、被告に対し、同アカウントにより利用できるインターネットに接続しているサーバに本件ソフトのデータをアップロードするよう勧めた。被告は、上記サーバに本件ソフトのデータをアップロードした。Aは、他の本件各参加者に、それぞれ上記サーバから本件ソフトのデータをダウンロードするよう伝えた。
 本件各参加者のうち5人は、Aから説明を受けて上記サーバから本件ソフトのデータをダウンロードしたり、Aから同データが添付された電子メールを受信したりして、それぞれ、本件ソフトのデータを取得した。
 被告は、本件ソフトを本件各参加者に配布することには著作権侵害のおそれ等の問題があると認識しており、本件各参加者に対し、被告が本件ソフトを配布したことを第三者に口外したり、本件ソフトを第三者に交付したりしないよう伝えた。
(本項につき、甲5、10)
2 争点@(被告が本件各参加者に対して本件ソフトを配布し、原告の本件独占的利用権を侵害したか。)について
 著作物の独占的利用権者は、著作権者に対して契約上の地位に基づき債権的請求権を有するにすぎないが、そのような地位にあることを通じて当該著作物の独占的利用による利益を享受し得る地位にある。そして、前記第2の1(2)イ及び前記1(1)によれば、原告は、本件ソフトを原告コミュニティへの入会特典として原告コミュニティへの入会費用を得ることによって、本件ソフトを独占的に利用する地位にあることによる利益を享受していた。
 被告は、問題があると認識しながら、本件各参加者のうちA外1人に対し、本件ソフトのデータを電子メールに添付して送信する方法により交付し、また、本件各参加者と共有するアカウントにより利用できるインターネットに接続しているサーバに本件ソフトのデータをアップロードして(前記1(2))これらの際に本件ソフトを有形的に再製して複製した。さらに、被告は、本件各参加者と共有するアカウントにより利用できる上記サーバに本件ソフトのデータをアップロードして(同(2))、本件ソフトを自動公衆送信し得るようにした(以下、これらの行為を「本件各行為」ということがある。)。そして、後記3のとおり、被告の本件各行為がなければ、原告コミュニティに入会する者がいて原告は利益を得たことができたといえる。
 これらによれば、被告は、上記のとおり、少なくとも本件ソフトを複製、公衆送信することによって、原告が本件ソフトを独占的に利用する地位にあることを通じて得る利益を侵害したといえる。
3 争点A(被告の不法行為によって原告が被った損害及び額)について
(1)前記1(1)のとおり、原告は、本件ソフトの配布を原告コミュニティへの入会の特典とし、原告コミュニティに入会した者から入会費用を受け取ることによって、本件ソフトを独占的に利用することができる地位による利益を享受していた。ここで、被告が本件各行為により本件ソフトを配布した本件各参加者は、いずれも原告コミュニティの紹介、勧誘を受けたが入会しなかったこと(前記1(2))を踏まえると、被告の本件各行為がなかったならば本件各参加者全員が入会費用を支払って原告コミュニティに入会したことを認めることはできない。もっとも、本件各参加者のうちAは、原告コミュニティに参加した被告と情報交換をして、被告から本件ソフトの交付を受け、また、本件ソフトの配布のために必要な処理等を率先して行うなどしていて、本件ソフトの価値に強く着目していた者であり、被告の行為がなければ、本件ソフトを入手するために本件ソフトが入会特典である原告コミュニティに参加したと認めることが相当である。そうすると、被告の本件各行為により、原告は少なくとも本件ソフトが入会特典である原告コミュニティに参加した者を1名失ったと認められる。
 そして、本件ソフトが入会特典であり本件ソフトの再許諾料を含むといえる原告コミュニティの入会費用は24万9900円であり、また、本件契約において、原告がBANANAに対して支払う1回の利用許諾代金が同額であり、再利用許諾の代金を含む原告コミュニティの参加費用はその利用許諾代金を下回らない範囲で設定するとされていたこと(前記第2の1(2)イ)等に照らすと、原告は、少なくとも同額の損害を被ったものと認められる。
 また、原告は、BANANAに対して本件各参加者7人分の利用許諾代金174万9300円を支払う義務を負っているなどとも主張する。しかし、被告の本件各行為によって原告に上記の支払義務が発生したことを認めるには足りず、原告が被告の本件各行為により同額の損害を被ったとは認められない。
(2)原告が本件訴訟追行に要した弁護士費用のうち3万円は、被告の不法行為と相当因果関係のある損害として被告が負担するのが相当である。
(3)以上から、被告の不法行為によって原告が被った損害の額は、合計27万9900円であると認められる。
第4 結論
 以上によれば、原告の請求は、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき27万9900円及びこれに対する不法行為より後の日である令和元年9月16日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから同限度で認容し、その余は理由がないから棄却すべきである。
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 田義明
 裁判官 伯良子
 裁判官 棚井啓
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