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【事件名】歌謡情報誌「月刊歌の手帖」事件 【年月日】令和2年12月10日 東京地裁平成30年(ワ)第39933号 損害賠償等請求事件、令和元年(ワ)第35655号 損害賠償請求反訴事件 (口頭弁論終結日 令和2年10月28日) 判決 原告(反訴被告) 一般社団法人日本音楽著作権協会(以下「原告」という。) 同訴訟代理人弁護士 藤原浩 同 市村直也 同 芳賀成之 同 間嶋修平 被告(反訴原告) 株式会社マガジンランド(以下「被告」という。) 同訴訟代理人弁護士 伊藤博 同 宮迫圭秀 同 大和田周資 主文 1 被告は、原告に対し、1億4443万1632円及びうち9978万7472円に対する平成30年12月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告の原告に対する反訴請求を棄却する。 3 訴訟費用は、本訴反訴を通じて、被告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 本訴 主文第1項と同旨 2 反訴 原告は、被告に対し、1億0000万0002円及びこれに対する令和2年2月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本訴事件は、音楽著作権に関する著作権等管理事業者である原告が、カラオケ愛好家等を主たる読者とする歌謡情報誌「月刊歌の手帖」(以下「本件雑誌」という。)を発行・販売していた被告は、過去20年以上にわたって、本件雑誌に原告が著作権を管理する音楽著作物(以下「管理著作物」という。)を掲載するための利用許諾申請をした際、本件雑誌の複製部数を過少に申告し、原告から受けた利用許諾の範囲を大幅に超える部数の本件雑誌を無断で発行・販売し、管理著作物の著作権(複製権)(以下「本件著作権」という。)を侵害したと主張して、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、管理著作物の使用料相当損害金の一部である9071万5884円、これに対する平成30年12月26日までの遅延損害金4464万4160円及び弁護士費用相当損害金907万1588円の合計額である1億4443万1632円並びにうち9978万7472円(上記使用料相当損害金及び弁護士費用相当損害金の合計額)に対する同月27日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 反訴事件は、被告が、原告は、被告から本件雑誌の発行事業(以下「本件事業」という。)の譲渡(以下「本件事業譲渡」という。)を受けた株式会社歌の手帖社(以下「歌の手帖社」という。)から、本件雑誌に管理著作物を掲載するための利用許諾申請を受けた際、これを正当な理由なく拒絶した上、同社も被告の上記損害賠償債務(以下「本件債務」という。)を連帯して弁済する責任を負うとして、歌の手帖社を本件紛争に巻き込んだため、被告は、歌の手帖社との間で締結した本件事業に関する業務委託契約(以下「本件業務委託契約」という。)を継続できなくなり、同契約に基づく委託料の支払を受けられなくなったと主張して、原告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、同委託料の6年分である1億0000万0002円及びこれに対する不法行為の日の後である令和2年2月22日(反訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(証拠等の摘示のない事実は、当事者間に争いがない。なお、枝番の表示のない証拠は、枝番の全てを含む。以下同様。) (1)当事者 ア 原告 原告は、著作権等管理事業法(平成12年法律第131号)に基づく文化庁長官の登録を受けた音楽著作権に関する著作権等管理事業者であり(同法が施行された平成13年10月1日の前は「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」(昭和14年法律第67号。以下「仲介業務法」という。)に基づく許可を受けた我が国唯一の音楽著作権に関する仲介業務団体であった。)、内国著作物については国内の作詞者、作曲者との間で締結した著作権信託契約に基づき、外国著作物については条約上我が国が著作権保護の義務を負う諸外国の音楽著作権管理団体との相互管理契約に基づくなどして、我が国において行われる管理著作物の放送、録音、出版、演奏等の様々な分野の利用を許諾し、その対価として徴収した使用料を内外国の著作権者(著作権の管理委託者)に分配することを目的とする一般社団法人である。 イ 被告等 (ア)被告は、昭和62年4月20日に、出版業、通信機器の製造・販売業、各種イベントの企画・制作、音楽著作権の管理、音楽著作物の利用の開発、コンパクトディスク、ミュージックテープ、ビデオ等の原盤の企画・製作、楽譜の出版等を目的として設立された株式会社である。 (イ)歌の手帖社は、平成30年4月5日に、出版業、通信機器の製造・販売業、各種イベントの企画・制作、音楽著作権の管理、音楽著作物の利用の開発、コンパクトディスク、ミュージックテープ、ビデオ等の原盤の企画・製作、楽譜の出版等を目的として設立された株式会社である。 (2)管理著作物に関する利用許諾契約手続の概要 管理著作物を雑誌等に複製利用する場合の利用許諾契約手続の概要は、次のとおりである。 ア 管理著作物を出版の方法で利用しようとする者(以下「利用者」という。)は、原告所定の「出版利用申込書」(甲2。以下「申込書」という。)に、出版物の名称、定価、複製部数、出版物の種別等の情報とともに、当該雑誌等に複製利用する楽曲の題名、作詞者名、作曲者名等を記載し、申込書裏面に記載された「利用許諾条項(出版)」(甲3。以下「利用許諾条項」という。)を承諾した上で、原告の出版課に申込書を提出する方法により、利用許諾申請を行う。 イ 利用者から申込書の提出を受けた原告の出版課は、その記載事項に不備・脱漏がないかなどの形式面のチェックを行うとともに、利用楽曲の中に少なくとも1曲以上の管理著作物が含まれているか否かを確認し、管理著作物が含まれている場合には、申請毎に付番した「許諾番号」を記載した「出版利用許諾書」(甲4)を利用者に発行する方法で、申込書記載の内容で管理著作物を複製利用することを許諾する(利用許諾条項1条、3条)。 ウ 利用者が支払うべき使用料の額は、著作権等管理事業法に基づき文化庁に届け出た原告の使用料規程(平成13年9月30日までは、仲介業務法に基づく文化庁長官の認可を得た原告の著作物使用料規程)により算出される。利用者は、後日原告から送付される請求書に記載された使用料額を請求書発行日から30日以内に支払う(利用許諾条項3条1項、2項)。 なお、管理著作物を雑誌等に複製利用する場合の使用料額は、平成10年12月30日当時の使用料規程(甲12)では、発行部数1万部までの場合には歌詞、楽曲それぞれ5100円に消費税相当額を加算した額、1万部を超え5万部までの場合には歌詞、楽曲それぞれ1万0200円に消費税相当額を加算した額と定められ、平成26年10月1日付けの変更後の使用料規程(甲5。以下、変更の前後を通じて「本件使用料規程」という。)では、発行部数が1万部までの場合には歌詞、楽曲それぞれ5550円に消費税相当額を加算した額、1万部を超え5万部までの場合には歌詞、楽曲それぞれ1万1100円に消費税相当額を加算した額と定められている。 エ 利用者は、原告が管理著作物の利用状況等を調査する必要があると認めたときは、原告職員等による監査に協力しなければならず(利用許諾条項9条)、原告が印刷物の製造数等に関する証憑の提出を求めたときは、これに応じる義務を負っている(同8条)。 (3)本件雑誌の発行・販売 ア 本件雑誌「月刊歌の手帖」(甲1、乙イ1〜34等)は、カラオケ愛好家等を主たる顧客層とする月刊の歌謡情報誌であり、その内容は、毎号、演歌歌手等に関する近時の話題や新曲の情報、各種イベントやコンサートを紹介する記事等とともに、読者であるカラオケ愛好家等に向けて多数の楽曲(歌詞及び楽曲(楽譜))が、その歌唱におけるアドバイス等とともに掲載(複製)されており、本件雑誌に掲載される楽曲の大多数は、管理著作物である。 イ 被告は、平成5年9月の本件雑誌の発刊以来、原告に対する著作管理物の利用許諾申請手続を行いながら、本件雑誌のうち「2018年7月号(平成30年5月21日発行)」(甲1の1)までは、自らの名義で本件雑誌を発行・販売していた。 被告は、本件雑誌のうち、少なくとも「1998年12月号(平成10年12月30日発行)」から「2018年1月号(平成29年11月21日発行)」(乙イ5〜34等)までの利用許諾申請手続においては、原告に対し、毎号の発行部数が全て1万部である旨の申告をしていた。 (4)本件監査 原告は、平成29年11月20日、被告に対し、管理著作物の利用状況の監査(以下「本件監査」という。)を実施したところ、本件雑誌のうち、調査対象期間とされた平成24年4月1日から平成29年3月31日までの間に利用許諾申請手続が行われた「2012年6月号」から「2017年6月号」までについて、利用許諾の範囲である毎号1万部を超える毎号約3万部の発行が行われていたことが判明した。 (5)本件事業譲渡 ア 被告は、平成30年5月21日、歌の手帖社との間で、同年6月1日をクロージング日として本件事業を譲渡する旨の契約(以下「本件事業譲渡契約」という。)を締結したところ、同契約においては、本件債務は、譲渡対象から除外されていた。 イ 歌の手帖社は、本件雑誌のうち「2018年8月号(平成30年6月21日発行)」(甲1の2)以降を、自らを「発行所」、被告を「発売所」と奥付に表記して発行・販売した。2 争点 (1)本訴−被告の不法行為責任(争点1) ア 本件雑誌の超過部数発行の有無(争点1−1) イ 本件雑誌の超過部数発行に対する承諾の有無(争点1−2) ウ 原告の損害額(争点1−3) エ 本件債務の一部についての消滅時効の成否(争点1−4) (2)反訴−原告の不法行為責任(争点2) ア 原告の不法行為の成否(争点2−1) イ 被告の損害額(争点2−2) 3 争点に関する当事者の主張 (1)争点1−1(本件雑誌の超過部数発行の有無) ア 原告の主張 被告は、本件雑誌のうち、少なくとも「1998年12月号」から「2018年1月号」までの利用許諾申請手続において、原告に対して毎号の発行部数が全て1万部である旨の虚偽の申告をし、その限度で利用許諾を受けていたにもかかわらず、実際には毎号1万部を大幅に超過する部数(別紙請求債権目録の「発行部数」欄参照)を発行し、過去20年以上にわたり、管理著作物について利用許諾の範囲を超える無断複製を行った。 イ 被告の主張 原告の主張は、争う。 被告が、本件監査の調査対象期間である平成24年4月1日から平成29年3月31日までの間に、本件雑誌を毎号約3万部発行していたことは認めるが、過去20年以上にわたって、本件雑誌の発行部数の過少申告や無断発行・販売を行ったことはない。 (2)争点1−2(本件雑誌の超過部数発行に対する承諾の有無) ア 被告の主張 本件使用料規程は、雑誌の発行部数が1万部を1部でも超えた場合には単価が倍額となって極めて高額になるという、融通の利かないバランスを欠いたものであった。 そこで、被告は、本件雑誌の発行部数が1万部を上回った際も下回った際も同様に、月額約50万円という多額の使用料を支払うこととし、原告も、平成10年8月30日以降、被告による合計72回にわたる超過部数発行を認識した上で、これを業務慣習上容認し、発行部数が1万部を超える場合の使用料を請求しなかった。このことは、原告が、本件雑誌のうち「1998年8月号」に「不法録音カラオケテープ撲滅キャンペーン」の広告(以下「本件広告」という。)を出した際、被告から「発行部数10万部」と明記されたMEDIADATA(媒体資料)を示された上、本件雑誌の誌面にも「発行部数10万部」と掲載されており、本件雑誌の発行部数が1万部を超えることは容易に推知可能といえることからも明らかである。 したがって、被告は、原告の黙示の承諾の下で、本件雑誌の超過部数発行を行っていたにすぎない。 イ 原告の主張 被告の主張は、争う。 本件広告は、原告が行ったものではなく、原告や日本レコード協会を含む音楽関連10団体が構成員となって設立された「カラオケ教室不法録音物対策委員会」という団体が、日本レコード協会を担当として行ったものである。また、本件雑誌の誌面には、「発行部数10万部」との記載はない上、そもそも出版社が公称する雑誌の「発行部数」は、自社が発行する雑誌の価値を高く見せかけるために大幅に水増しされた数字であって、実際の発行部数とは全く関連性がない。 このように、原告は、被告が一方的に公称する本件雑誌の発行部数をもって、真の発行部数を推知することはできないし、本件著作権侵害の事実を知りながら、これを放置する動機もない。 (3)争点1−3(原告の損害額) ア 原告の主張 次のとおり、原告は、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、管理著作物の使用料相当損害金の一部である本件使用料相当損害金9071万5884円、これに対する平成30年12月26日までの遅延損害金4464万4160円及び弁護士費用相当損害金907万1588円の合計額である1億4443万1632円並びにうち9978万7472円(本件使用料相当損害金及び弁護士費用相当損害金の合計額)に対する同月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (ア)本件使用料相当損害金9071万5884円 原告の現行の本件使用料規程では、発行部数が1万部を超え5万部までの場合の使用料につき、歌詞、楽曲それぞれ1万1988円(1万1100円に消費税相当額(8%。ただし、同消費税率は本件訴訟提起時のものである。)である888円を加算した額)と定められている。そして、被告は、本件雑誌のうち「1998年12月号」から「2018年1月号」までにおいて、歌詞と楽曲を合わせて合計1万6488件の本件著作権侵害を行った(別紙請求債権目録の「無断複製著作物数合計」欄参照)。したがって、被告は、本件著作権侵害に基づく管理著作物の使用料相当損害金として、本来は1億9765万8144円(1万1988円×1万6488件)の損害賠償義務を負う(著作権法114条3項)。 そして、原告は、被告との間の従前の交渉経緯に鑑み、本件訴訟においては、上記使用料相当損害金の一部請求として、上記目録の「本件使用料相当損害金」の「合計金額」欄記載の9071万5884円(本件雑誌につき「正しい複製部数の利用許諾申請が行われていたとしたら原告が請求したであろう使用料額」から被告によって「支払われた使用料額」を控除した金額(以下「本件使用料相当損害金」という。))を請求する。 (イ)平成30年12月26日までの遅延損害金4464万4160円 被告の本件使用料相当損害金に係る債務は、別紙請求債権目録の各「発行日」欄記載の日の翌日から遅滞に陥る。 したがって、被告は、本件使用料相当損害金に対する平成30年12月26日までの遅延損害金として、4464万4160円(上記目録の「遅延損害金(年5分)」の「合計金額」欄参照)の支払義務を負う。 (ウ)弁護士費用相当損害金907万1588円 原告は本件訴訟の提起を弁護士に依頼せざるを得なかった。本件訴訟のための弁護士費用は、本件使用料相当損害金の1割である907万1588円を下らない。 イ 被告の主張 原告の主張は、争う。 (4)争点1−4(本件債務の一部についての消滅時効の成否) ア 被告の主張 前記(2)アのとおり、原告は、遅くとも平成10年8月30日以降、被告による本件著作権侵害の事実を知っていたから、本件訴訟提起日の直近3年分以前の発行分については、消滅時効が完成している。 したがって、被告は、令和元年5月27日の第2回弁論準備手続において陳述した同月23日付け準備書面2によって、上記消滅時効を援用する旨の意思表示をした。 イ 原告の主張 被告の主張は、争う。 前記(2)イのとおり、原告は、被告による本件著作権侵害の事実を知らなかった。 (5)争点2−1(原告の不法行為の成否) ア 被告の主張 (ア)被告は、平成30年5月21日、歌の手帖社との間で、本件事業譲渡契約を締結すると同時に、契約期間を1年(自動更新あり)、委託料を年間税抜2000万円(後に年間税抜1666万6667円に変更)として、本件事業に関する業務を受託する旨の本件業務委託契約を締結し、これを踏まえ、同社は、原告に対し、本件雑誌に掲載する管理著作物の 利用許諾申請手続をした。 (イ)しかし、原告は、著作権等管理事業法16条の規定(「著作権等管理事業者は、正当な理由がなければ、取り扱っている著作物等の利用の許諾を拒んではならない。」)に反し、次のとおり、正当な理由なく、再三にわたって上記申請を拒絶した上、歌の手帖社を本件紛争に巻き込んだ。 a 平成30年5月中旬、被告の従業員であったAが、原告に対し、歌の手帖社名義の利用許諾申請について問い合わせをしたところ、原告は、被告代理人のB弁護士と交渉中であるとして、回答を留保した。 b 平成30年6月7日、Aの部下であるDが、原告の担当者であるEに対し、本件雑誌の同月発行分について、歌の手帖社名義で利用許諾申請をすべく問い合わせをしたが、Eからは、同申請を許諾できるかは答えられないなどと言われ、実質的に拒絶された。 c 平成30年6月末頃、Aが、原告に対し、本件雑誌の同年7月発行分について、歌の手帖社名義の利用許諾申請に対する許諾を求めたが、上記aと同様の理由により拒絶された。 d 平成30年7月中旬から下旬にかけて、Aが、原告に対し、歌の手帖社名義による利用許諾申請の方法について問い合わせをしたが、拒絶された。 e 平成30年8月10日、歌の手帖社の代表取締役となったC及びAは、原告に対し、本件事業譲渡契約に係る契約書を示し、歌の手帖社が被告から本件債務を承継しない形で本件事業譲渡を受けた旨を説明し、改めて歌の手帖社名義の利用許諾申請をしたが、やはり原告からは、被告名義の利用許諾申請に限り認めるなどとして、歌の手帖社名義の利用許諾申請は拒絶された。 f 平成30年11月、原告は、歌の手帖社に対し、本件債務を被告と連帯して弁済しない限り、歌の手帖社名義の利用許諾申請を許諾しない旨を通知した。 g 平成30年12月26日、原告は、被告及び歌の手帖社に対し、本件訴訟を提起し、不当な法律構成(会社法22条1項類推適用、同法23条の2及び法人格否認の法理)に基づき、同社に対して被告と連帯して本件債務を弁済するよう求めた。 (ウ)その結果、被告は、歌の手帖社との関係が悪化し、令和元年5月を最後に、同社から、本件業務委託契約に基づく委託料の支払を受けられなくなった。 なお、原告は、同年6月、歌の手帖社名義の利用許諾申請を許諾したが、このことは、上記申請拒絶に正当な理由がなかったことを裏付けている。 (エ)このように、原告が、正当な理由なく、歌の手帖社名義の利用許諾申請を拒絶し、長期にわたって本件紛争に巻き込んだことにより、被告と歌の手帖社との間の関係を悪化させ、本件業務委託契約の破たんを招来したことは、被告に対する不法行為を構成する。 イ 原告の主張 被告の主張は、争う。 原告は、歌の手帖社による本件雑誌における管理著作物の利用を拒絶したことはなく、実際に本件雑誌は現在まで途切れることなく発行されている。すなわち、原告は、被告の元従業員であり、その後に歌の手帖社に転籍したDからの問い合わせに対し、被告との間で本件債務の支払に関する交渉をしている最中であるため、何らの詳しい説明もないまま、歌の手帖社名義の利用許諾申請がされても、これに応諾することは困難である旨を説明した上、被告が本件債務の清算交渉に真摯に応じることを条件として、被告名義の利用許諾申請を受け付けるという形式で、管理著作物の利用を認めた。そして、原告は、被告が本件著作権侵害を一転して否認するなどの不誠実な態度をとるに至った令和元年7月以降は、歌の手帖社との間で、同社に対する利用許諾が本件債務に関する責任を否定する趣旨ではないことを相互に確認した上、現在に至るまで、同社に対して直接に利用許諾する形式で、管理著作物の利用を認めている。 (6)争点2−2(被告の損害額) ア 被告の主張 被告は、歌の手帖社との間で、本件事業譲渡契約と同時に、本件業務委託契約を締結したところ、委託料は年間税抜1666万6667円であり、契約期間は1年であった。そして、上記契約には、自動更新条項が付されており、原告による前記不法行為がなければ、被告と歌の手帖社との間の関係は悪化せず、同契約は継続していたはずであり、被告が原告による前記不法行為によって被った損害は、少なくとも同契約の委託料の6年分である1億0000万0002円を下回らない。 したがって、被告は、原告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、1億0000万0002円及びこれに対する不法行為の日の後である令和2年2月22日(反訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 イ 原告の主張 被告の主張は、争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 前記前提事実に加え、後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 (1)被告は、平成5年9月に本件雑誌を発刊し、本件雑誌のうち「2018年7月号(平成30年5月21日発行)」までは、自らの名義で本件雑誌を発行・販売していたところ、少なくとも「1998年12月号(平成10年12月30日発行)」から「2018年1月号(平成29年11月21日発行)」までの原告に対する利用許諾申請手続においては、原告に対し、毎号の発行部数が全て1万部である旨の申告をし、別紙請求債権目録の各「複製した管理著作物の数」欄記載の数の管理著作物を複製利用していた。 なお、Aは、平成7年に被告に入社し、平成13年から平成23年までは本件雑誌の編集長を、同年以降は編集局長を、それぞれ担当していた(甲11)。 (2)原告は、平成29年11月20日、被告に対し、本件監査を実施したところ、本件雑誌のうち、調査対象期間とされた平成24年4月1日から平成29年3月31日までの間に利用許諾申請手続が行われた「2012年6月号」から「2017年6月号」までについて、利用許諾の範囲である毎号1万部を超える毎号約3万部の発行が行われていたことが判明した(甲6、7、15〜17)。 (3)原告は、平成29年12月以降、被告との間で、過去の本件著作権侵害に係る使用料相当損害金の清算処理に関する交渉を行い、被告の当時の代理人であったB弁護士は、平成30年3月、本件雑誌の発行部数等を裏付ける印刷指示書を提出するなどした(甲18〜22)。 (4)平成30年4月5日、投資会社である三田アドバイザリー株式会社(以下「三田アドバイザリー」という。)及び同社の取締役が株式を保有するクラシコパートナーズ株式会社を株主、三田アドバイザリーの代表取締役であるCを代表取締役として、歌の手帖社が設立された(乙ロ2〜5、8)。 被告は、同年5月21日付けで、歌の手帖社との間で、同社に対して本件事業を譲渡する旨の本件事業譲渡契約を締結するとともに、同社から本件事業に関する業務を受託する旨の本件業務委託契約を締結した。本件事業譲渡契約においては、歌の手帖社が、被告から、同年6月1日付けで、本件事業を1億1000万円(税抜)で譲り受け、被告の事務所等の物的設備や従業員等の人的設備に加え、被告の取引先との契約関係を承継すること、原告を含む債権者に対する損害賠償債務は承継しないことなどが定められていた。また、本件業務委託契約においては、被告が、歌の手帖社から、本件事業の運営に関する総合管理業務等を年間委託料2000万円(税抜)(後に年間委託料1666万6667円(税抜)に変更)で受託すること、有効期間は同日から令和元年5月31日までであり、期間満了の3か月前までに双方から何らかの意思表示がされない場合には、更に1年間延長されるものとし、その後も同様とすることなどが定められていた。(乙イ37、38、乙ロ1) (5)原告の複製部部長であるFは、平成30年5月25日、被告のB弁護士に対し、本件雑誌について本来支払われるべきであった使用料相当額から実際に支払われた使用料額を控除した額及びこれに対する各支払期日以降の遅延損害金の合計額として1億3624万6351円の支払を求める書面を送付した(甲8)。 (6)歌の手帖社は、平成30年6月1日以降、Aを代表取締役に選任し、被告の事務所を簡易なパーテーションで区切り、そのスペースの一部を間借りして、事務所として使用しながら、本件事業を開始した。 (7)歌の手帖社は、原告に対し、平成30年6月6日、本件雑誌のうち「2018年8月号(平成30年6月21日発行)」に係る申込書を提出し、同月7日、「月刊『歌の手帖』編集部は…新会社『株式会社歌の手帖社』を設立し独立いたしました。」と記載した葉書を送付した。原告は、被告に対し、過去の本件著作権侵害に係る使用料相当損害金の清算処理がなされないまま、歌の手帖社名義の利用許諾申請がされても、これを応諾することはできない旨の通知をしたところ、同社名義の上記申請は撤回され、改めて被告名義の申込書が提出された。(甲9、10、24、乙ロ6) 他方で、被告のB弁護士は、同月6日、原告のFに対し、支払能力を理由に、1000万円を一括で支払い、その余を免除してもらう旨の和解案を提示した(甲23)。 (8)歌の手帖社は、本件雑誌のうち「2018年8月号」以降を、自らを「発行所」、被告を「発売所」と奥付に表記して発行・販売した。 (9)被告のB弁護士は、平成30年8月1日、原告のFに対し、総額4600万円を毎月100万円ずつ分割払いする旨の和解案を提示した(甲25)。 原告の担当者であるEらは、同月10日、A及びCから、歌の手帖社が同年6月に被告から本件債務を承継しない方式で本件事業譲渡を受けたため、今後は歌の手帖社に対して本件雑誌の利用許諾をして欲しい旨を依頼された。 原告のFは、同年8月22日、被告のB弁護士に対し、本件の解決金として6000万円の一括払いを求める旨の和解案を提示した(甲26)。 原告のEらは、同年10月24日、歌の手帖社を訪問し、Aから本件事業譲渡の経緯等について説明を受けた。 歌の手帖社及び三田アドバイザリーの代理人であるG弁護士及びH弁護士は、同年11月5日、原告に対し、本件事業譲渡の経緯等について説明するとともに、被告と歌の手帖社は一体ではなく、本件雑誌について利用許諾申請が拒否されるべき事由は存在しない旨を記載した書面を送付し、被告のB弁護士は、同日、原告のFに対し、総額2000万円を毎月50万円ずつ分割払いする旨の和解案を提示した(甲27、28)。 原告のFは、同月26日、被告のB弁護士及び歌の手帖社のG弁護士に対し、同社において被告と共に本件債務を連帯して弁済するよう通知した(乙ロ7)。 (10)歌の手帖社は、平成30年11月30日、原告に対し、本件雑誌のうち「2019年2月号(平成30年12月発行予定)」における管理著作物の利用許諾を求める仮処分命令の申立てをし、同月6日の審尋期日において、@原告は、被告名義で利用許諾申請がされれば、これを許諾すること、A歌の手帖社は、原告から上記利用許諾がされた段階で、上記申立てを取り下げることを確認し、同月7日、上記@の条件が成就したため、上記申立てを取り下げた。 (11)原告は、平成30年12月26日、被告及び歌の手帖社に対し、本件訴訟を提起し、同社に対しては、会社法22条1項類推適用、同法23条の2及び法人格否認の法理を根拠として、本件債務を被告と連帯して弁済するよう求めた。 (12)原告は、令和元年7月以降、歌の手帖社の本件債務に関する責任を否定する趣旨ではないことを確認した上で、同社名義の利用許諾申請について許諾するようになった。 (13)令和2年9月18日、本件訴訟の口頭弁論から歌の手帖社関係の口頭弁論が分離され、原告と歌の手帖社との間に訴訟上の和解が成立した。 (以上につき、甲29、乙イ39、乙ロ9、10、弁論の全趣旨) 2 争点1(本訴−被告の不法行為責任)について (1)争点1−1(本件雑誌の超過部数発行の有無)について 前記1の認定事実に加え、証拠(甲7、22、30)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、本件雑誌のうち、少なくとも「1998年12月号(平成10年12月30日発行)」から「2018年1月号(平成29年11月21日発行)」までの利用許諾申請手続において、原告に対して毎号の発行部数が全て1万部である旨の申告をしていたこと、それにもかかわらず、実際には、別紙請求債権目録の「発行部数」欄記載のとおり、毎号1万部を超過する部数の本件雑誌を発行・販売していたことが認められる。 したがって、被告が、上記のとおりの本件雑誌の超過部数発行を行ったことが認められる。これに反する被告の主張は、上記説示を左右するものではなく、採用することができない。 (2)争点1−2(本件雑誌の超過部数発行に対する承諾の有無)について ア 被告は、本件雑誌の発行部数が1万部を上回った際も下回った際も同様に、月額約50万円という多額の使用料を支払うこととし、原告も、これを黙示的に承諾していたのであり、このことは、原告が、本件雑誌のうち「1998年8月号」に本件広告を出した際、被告から「発行部数10万部」と明記されたMEDIADATA(媒体資料)を示された上、本件雑誌の誌面にも「発行部数10万部」と掲載されており、本件雑誌の発行部数が1万部を超えることは容易に推知可能といえることからも明らかである旨を主張する。 イ しかし、原告は、文化庁長官の登録を受けた音楽著作権に関する著作権等管理事業者であるところ、被告に対し、本件使用料規程(甲5、12)に反し、本件雑誌の超過部数発行を承諾したことを具体的にうかがわせる客観的な証拠はないし、上記のような原告において、本件雑誌の申告部数(1万部)を大幅に超える発行部数(別紙請求債権目録の「発行部数」欄参照)を20年以上にもわたって黙認し、本来請求できるはずの多額の使用料請求を放棄する動機があるとは考え難い。 また、被告は、原告が本件雑誌に本件広告を出した際に、原告に「発行部数10万部」と明記された上記媒体資料を示したと主張し、これを裏付ける証拠として「広告資料」(乙イ35)を提出する。しかし、そもそも本件広告(不法録音カラオケテープ撲滅キャンペーン)は、原告や日本レコード協会を含む音楽関連10団体が構成員となって設立された「カラオケ教室不法録音物対策委員会」という団体が、日本レコード協会を担当として行ったものであることが認められるところ(甲13、14、弁論の全趣旨)、上記「広告資料」によっては、その内容に照らし、被告が原告に対して上記媒体資料を示したことや、これに本件雑誌の発行部数が10万部である旨の記載があったことを認めるに足りない。 他方で、本件雑誌の誌面には、「発行部数−100、000部」との記載があるが(乙イ6)、被告も認めるとおり、各出版社が公称する雑誌の「発行部数」は、現実の発行部数と一致するものであるとは認められず、また、そのように一般に認識されているとも認められないから、上記のように発行部数が10万部である旨の記載があるからといって、当然に、原告が、被告による本件雑誌の超過部数発行を認識・容認していたとはいえない。むしろ、原告が、被告から長年にわたって本件雑誌の発行部数が1万部である旨の申告及びこれに沿った管理著作物の使用料の支払を受け、その間にこれを合理的に疑わせるような事情も認められずに推移し、本件監査後になって初めて被告に本件著作権侵害に基づく損害賠償を求めたという一連の経緯(認定事実(1)〜(3)、(5)、(7)、(9)、(11))からみて、被告の上記申告の内容に基づき、そのとおりの発行部数であると認識していたとみるのが自然である。 ウ したがって、原告が、被告による本件雑誌の超過部数発行を黙示的に承諾していたとはいえず、被告は、本件著作権侵害に基づく不法行為責任を負うというべきである。これに反する被告の上記主張は、上記説示に照らし、採用することができない。 (3)争点1−3(原告の損害額)について 原告が被告の前記不法行為によって被った損害額は、次のとおりと認められる。 ア 本件使用料相当損害金9071万5884円 前記1(1)の認定事実に加え、前記2(1)、(2)で認定説示したところによれば、被告は、本件雑誌のうち「1998年12月号(平成10年12月30日発行)」から「2018年1月号(平成29年11月21日発行)」までの利用許諾申請手続において、原告に対して毎号の発行部数を全て1万部と申告し、別紙請求債権目録の各「複製した管理著作物の数」欄記載の数の管理著作物を複製利用しながら、実際には、原告の承諾なく、同目録の各「発行部数」欄記載の部数の本件雑誌を発行・販売したことにより、本件著作権を侵害しているというべきである。 そして、前提事実(2)ウのとおり、管理著作物を雑誌等に複製利用する場合の使用料額については、平成10年12月30日当時の本件使用料規程では、発行部数1万部までの場合には歌詞、楽曲それぞれ5100円に消費税相当額を加算した額、1万部を超え5万部までの場合には歌詞、楽曲それぞれ1万0200円に消費税相当額を加算した額と定められ、平成26年10月1日付けの変更後の本件使用料規程では、発行部数が1万部までの場合には歌詞、楽曲それぞれ5550円に消費税相当額を加算した額、1万部を超え5万部までの場合には歌詞、楽曲それぞれ1万1100円に消費税相当額を加算した額と定められている。 そうすると、少なくとも、原告は、本件著作権侵害により、上記目録記載のとおり、原告が被告から「正しい複製部数の利用許諾申請が行われていたとしたら原告が請求したであろう使用料額」(合計1億8060万0152円。なお、本件使用料規程の変更前に発行された「2014年11月号(平成26年9月21日発行)」以前は管理著作物1件当たり税抜1万0200円、変更後に発行された「2014年12月号(平成26年10月21日発行)」以降は管理著作物1件当たり税抜1万1100円であり、「2014年5月号(平成26年3月21日発行)」以前の消費税率は5%、「2014年6月号(平成26年4月21日発行)」以降の消費税率は8%である。)から実際に「支払われた使用料額」(合計8988万4268円)を控除した「本件使用料相当損害金」に相当する9071万5884円の損害を被ったといえる。 イ 平成30年12月26日までの遅延損害金4464万4160円 被告の本件使用料相当損害金に係る債務は、少なくとも不法行為の日である別紙請求債権目録の各「発行日」欄記載の日の翌日からは遅滞に陥っていることとなる。 したがって、被告は、本件使用料相当損害金に対する平成30年12月26日までの遅延損害金として、上記目録の「遅延損害金(年5分)」の「合計金額」欄記載のとおり、4464万4160円の支払義務を負うというべきである。 ウ 弁護士費用相当損害金907万1588円 弁論の全趣旨によれば、原告は、本件訴訟の提起・追行を弁護士である原告訴訟代理人らに委任したところ、本件事案の内容、難易度、認容額その他諸般の事情を考慮すると、被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は、本件使用料相当損害金の1割である907万1588円を下らないと認めるのが相当である。 (4)争点1−4(本件債務の一部についての消滅時効の成否)について ア 被告は、前記(2)アと同様の理由から、原告が、遅くとも平成10年8月30日以降、被告による本件著作権侵害の事実を知っていたとして、本件訴訟提起日の直近3年分以前の発行分については、消滅時効が完成している旨を主張する。 イ しかし、前記(2)イ、ウで認定説示したところによれば、原告が、少なくとも平成29年11月20日の本件監査以前に、本件著作権侵害の事実を知っていたことを認めるに足りる証拠はなく、同日から3年以内である平成30年12月26日に本件訴訟を提起しているから(認定事実(11))、本件債務について消滅時効が完成しているとはいえない。 ウ したがって、被告の上記主張は採用することができない。 (5)小括(本訴請求) 以上によれば、原告は、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、本件使用料相当損害金9071万5884円、これに対する平成30年12月26日までの遅延損害金4464万4160円及び弁護士費用相当損害金907万1588円の合計額である1億4443万1632円並びにうち9978万7472円(本件使用料相当損害金及び弁護士費用相当損害金の合計額)に対する同月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。 3 争点2(反訴−原告の不法行為責任)について (1)争点2−1(原告の不法行為の成否)について ア 被告は、原告が、著作権等管理事業法16条に反し、正当な理由がないにもかかわらず、歌の手帖社名義の管理著作物の利用許諾申請を拒絶した上、同社を本件紛争に巻き込んだことから、被告と歌の手帖社との間の関係が悪化し、本件業務委託契約を継続することができなくなったものであり、これは被告に対する不法行為を構成する旨を主張する。 イ 著作権等管理事業法は、著作権等管理事業者は、正当な理由がなければ、取り扱っている著作物等の利用の許諾を拒んではならないと規定しているところ(同法16条)、同法は、管理事業者の登録制度や委託契約約款及び使用料規程の届出・公示等により、著作権等の管理を委託する者を保護するとともに、著作物等の利用を円滑にし、もって文化の発展に寄与することを目的としており(同法1条参照)、著作権者は利用許諾をするか否かを自由に決定できる(著作権法63条1項参照)ことも考慮すると、上記の「正当な理由」の有無は、著作権者(著作権の管理委託者)の保護と著作権の円滑な利用という法の趣旨を勘案して、許諾業務が恣意的に運用されることを防ぐという観点から判断すべきである。そして、原告は、管理著作物の利用許諾申請手続に使用する申込書裏面の利用許諾条項(甲3)において、原告は、申込者が同条項に違反したときなどは、催告することなく直ちに書面により利用許諾を取り消すことができるものと定めているところ(同条項12条1項)、過去の管理著作物の無許諾利用に係る使用料相当損害金の未清算といった同条項違反がある場合であっても、管理著作物の利用を許諾しなければならないとすると、許諾を拒んで爾後の使用を違法ならしめることにより過去の侵害行為に係る使用料相当額の損害填補を事実上促進するという手段が失われることになり(著作権法119条参照)、著作権者の利益に反すると解され、また、管理著作物の利用許諾を受けて使用料を払っている誠実な利用者との間の公平を欠くため、著作権の集中管理に対する信頼を損ない、これによる著作権の円滑な利用を害するおそれがあり、このような場合に利用許諾を拒んでも、許諾業務が恣意的に運用されているとはいえない。以上によれば、原告が、管理著作物の無許諾利用者による使用料相当損害金の未清算を理由に、同人又はこれと同視できる者に対して新たな管理著作物の利用許諾申請を拒絶することは、そもそも著作権等管理事業法16条の趣旨に反するとはいえないというべきである。 また、訴えの提起は、提訴者が当該訴訟において主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、同人がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて提起したなど、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く場合に限り、相手方に対する違法な行為となるというべきである(最高裁昭和63年1月26日第三小法廷判決・民集42巻1号1頁参照)。 ウ そこで検討するに、前記1の認定事実によれば、原告は、平成29年11月、本件監査により、被告による本件著作権侵害の事実を認識し、被告との間で和解交渉を開始したこと(認定事実(2)、(3)、(5))、歌の手帖社は、平成30年4月に設立され、その商号には本件雑誌の名称が用いられていること(認定事実(4))、被告は、同年5月21日付けで、歌の手帖社との間で、本件事業譲渡契約及び本件業務委託契約を締結したところ、本件事業譲渡契約においては、原告に対する本件債務は譲渡対象から除外され、そのクロージング日である同年6月1日、被告における本件雑誌の編集局長であったAが、歌の手帖社の代表取締役に就任し、被告と同一の事務所において本件事業を開始したこと(認定事実(1)、(4)、(6)、(8))、原告は、本件事業譲渡後、歌の手帖社名義で本件雑誌における管理著作物の利用許諾申請をされたが、同社に対しては、被告の本件債務に関する問題が解決していない以上、上記申請を受け入れることはできないなどとして、被告名義の利用許諾申請を求め、引き続き被告との間で、和解交渉を継続したこと(認定事実(7)、(9)、(10))、原告は、同年12月26日、被告及び歌の手帖社に対して本件訴訟を提起し、同社に対しては、会社法22条1項類推適用、同法23条の2及び法人格否認の法理を根拠として、本件債務を被告と連帯して弁済するよう求めたこと(認定事実(11))、他方で、原告は、最終的には、令和元年7月以降、歌の手帖社の本件債務に関する責任を否定する趣旨ではないことを確認した上で、同社名義の利用許諾申請を許諾するようになったこと(認定事実(12)、(13))、本件業務委託契約は、期間満了日である同年5月31日の経過により終了したこと(弁論の全趣旨)、がそれぞれ認められる。 このような事実関係によれば、原告が、本件事業譲渡に至る経緯及び内容並びに歌の手帖社の商号及び新代表取締役等に鑑み、本件事業譲渡の内容に疑問を持ち、当初は同社名義の利用許諾申請を許諾せず、上記のような法律構成によって本件債務に関する責任を追及しようとしたとしても、無理からぬところがあるというべきであるし、他方で、当初は同社名義の利用許諾申請を許諾しなかったものの、その際も被告名義の利用許諾申請を許諾し、また、最終的には歌の手帖社名義の利用許諾申請を許諾するに至っており、結果として、本件事業譲渡後においても、本件雑誌の発行・販売自体には支障がなかったものである。 そうすると、原告が、当初は歌の手帖社名義の利用許諾申請を許諾せず、被告名義の利用許諾申請のみを許諾する取扱いをしたことについては、上記に照らし、「正当な理由」があったと認めることができ、また、原告の主張する権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものであるとか、原告がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのに、被告と歌の手帖社との間の本件業務委託契約が継続できなくなる蓋然性を認識しながら、あえて同社に対して本件債務に関する責任を不当に追及し、本件訴訟を提起したなどということはできず、被告が主張する事というべきである。 エ 以上によれば、原告の上記対応が、被告に対する不法行為を構成するということはできず、これを契機に被告と歌の手帖社との間の本件業務委託契約が期間満了によって終了し、これを更新することができなかったとしても、それは被告の前記不法行為に起因するものというほかなく、これによって生じた損害の賠償を原告に求めることはできないというべきである。これに反する被告の主張は、上記説示に照らし、採用することができない。 (2)小括(反訴請求) 以上によれば、争点2−2(被告の損害額)について検討するまでもなく、被告の原告に対する反訴請求は、理由がないことに帰する。 4 結論 よって、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、被告の反訴請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 田中孝一 裁判官 奥俊彦 裁判官 西尾信員 (別紙請求債権目録 省略) |
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