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【事件名】婦人服デザインの形態模倣事件 【年月日】令和2年12月3日 大阪地裁 令和元年(ワ)第5462号 損害賠償等請求事件 (口頭弁論終結日 令和2年10月6日) 判決 原告 BSTONE株式会社 同訴訟代理人弁護士 中陳道夫 同 竹井大輔 被告 株式会社ALEFS 同訴訟代理人弁護士 大森剛 同 犬飼一博 同 戀田剛 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は、原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求の趣旨 1 被告は、原告に対し、2000万円及びこれに対する平成30年1月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は、別紙被告商品目録記載の商品を製造し、販売し、販売のために展示し、輸出し、又は輸入してはならない。 第2 事案の概要 1 本件は、別紙原告商品目録記載の商品(以下「原告商品」という。)を製造販売している原告が、別紙被告商品目録記載の商品(以下「被告商品」という。)は原告商品の形態を模倣したものであり、被告によるその販売等の行為は不正競争(不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項3号)に該当するとして、被告に対し、不競法3条に基づく被告商品の販売等の差止並びに同法4条に基づく損害賠償金2000万円及びこれに対する不正競争後である平成30年1月19日から支払済みまで民法(ただし、平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがないか、各項の末尾に掲げた証拠により認められる事実。) (1)当事者 原告は、婦人服の製造、販売等を主に行う会社であり、その管理運営するウェブサイト(以下「原告サイト」という。)を通じて商品を販売すると共に、その運営する店舗においても商品を販売している。 被告は、婦人服の販売等を行う会社であり、その管理運営するインターネット通販サイト(ECサイト)及び他社が運営するECサイト等(以下、これらを併せて「被告ECサイト等」という。)を通じて商品を販売している。 (2)原告商品の販売 原告は、平成29年11月3日から、原告サイト及び店舗において原告商品を販売している。(甲6) (3)被告商品の販売 被告は、遅くとも平成30年1月19日から、被告ECサイト等において被告商品を販売している。 (4)原告商品及び被告商品の形態の特徴 原告商品は、以下の特徴(以下、各特徴を「原告商品特徴①」のようにいい、また、これらを併せて「原告商品特徴」という。)を備える。被告商品も、これらの原告商品特徴を備えている。 ① 後身頃のみにプリーツ加工が施された透けるポリエステル製の生地が用いられたトレンチコート様のコートであり、その背中の中ほどから下部分は、当該ポリエステル製の生地が見えるようになっている。 ② 前身頃の胸の下辺りに2つのボタンが横に並んで縫い付けられている。 ③ 襟の形状がV字の切れ込みが入った形状(いわゆるノッチドラペル)であり、その大きさも同じである。 ④ 後身頃の背中の中ほどに、横向きのベルトが縫い付けられている。 ⑤ 左右の袖に一つずつベルトがある。 ⑥ 左肩部分にのみ、その生地が胸部分に重なるように縫い付けられている(いわゆるガンフラップがある)。 ⑦ 袖が襟ぐりまで切れ目なく続く、ラグランスリーブといわれる形状になっている。 ⑧ 袖が、肩口から袖口にかけて次第に細くすぼまるデザインとなっている。 ⑨ 前身頃の腰部分にポケットが2つある。 3 争点 (1)不正競争(不競法2条1項3号)の成否(争点1) ア 原告の請求主体としての要保護性の有無(争点1-1) イ 原告商品の形態の要保護性の有無(争点1-2) ウ 形態模倣の成否(争点1-3) (2)原告の営業上の利益の侵害又は侵害のおそれの有無及びこれについての被告の故意又は過失の有無(争点2) (3)原告の損害の有無及びその額(争点3) 4 争点に関する当事者の主張 (1)原告の請求主体としての要保護性の有無(争点1-1)について (原告の主張) ア 原告商品は、原告従業員であるデザイナーが、平成30年の春夏用の商品として開発を始めたものであり、そのデザインは、平成29年8月におおよそ完成し、サンプル品の製作等を経て、同年9月26日、原告において最終的に承認された。その後、原告は、同年11月3日より、原告サイト及び店舗において原告商品の販売を開始した。 このように、原告商品の形態を開発・商品化した者は原告である。 イ 被告の主張について (ア)「商品の形態」(不競法2条1項3号)とは、商品の個々の構成要素を離れた商品全体の形態を意味することから、商品の形態の同一性ないし類似性は、商品の全体を見て判断すべきであり、一部の特徴を共通にするだけでは判断できない。本件においては、原告商品の開発・商品化の時点で、原告商品特徴の全てを備えた商品は原告商品以外に存在しなかったのであり、仮に、同時点以前に日本国内外で原告商品特徴の一部を有する商品が存在していたとしても、原告商品特徴全てを備えた商品の先行開発者が原告であることは否定されない。 (イ)商品カタログ(乙2、12。以下「本件カタログ」という。)14頁に掲載された商品(以下「本件カタログ商品」という。)が原告商品と同様の特徴を有することは争わない。 しかし、本件カタログの作成者とされる「广州琼林服饰公司」という名称の法人(以下「本件中国メーカー」という。)は、中国における会社登記情報上存在しない。「广州市番禺区南村琼林服装厂」という名称の個人事業者(以下「本件中国業者」という。)が本件中国メーカーであることを直接的に示す証拠はない。 また、本件カタログには「2015年春季新品」との記載はあるものの、それ以外に具体的な発行時期を示す記載等はなく、その作成経緯も不明である。このため、本件カタログは、本件中国メーカー又は本件中国業者が、2015年(平成27年)春頃に本件カタログ商品を製造していたことを裏付けるものとはいえない。 (ウ)デザインのメモ(乙1、10。以下「本件デザインメモ」という。)に描かれた商品(以下「本件デザインメモ商品」という。)は、被告商品と特徴(原告商品特徴)を異にする。また、本件デザインメモには、「2014.12.8」との記載があるものの、その作成時期や作成経緯は不明である。このため、本件デザインメモは、本件中国メーカー又は本件中国業者が、2015年(平成27年)春頃に本件カタログ商品を製造していたことを裏付けるものとはいえない。 (被告の主張) ア 前記(原告の主張)アは否認する。原告は、原告商品の形態を開発した者ではない。 イ 原告は原告商品特徴を備えた商品の先行開発者でないこと (ア)不競法に基づき形態模倣行為にかかる差止又は損害賠償請求をすることができる者は、形態模倣の対象とされた商品を自ら開発・商品化して市場に置いた者に限られる。また、原告商品の「市場」は、国境を超えた商品取引が常態化しており、特に、女性向け衣類については、韓国又は中国で販売される商品が日本にも盛んに輸入されているという取引の実態を踏まえると、日本国内の市場に限られず、少なくとも、中国及び韓国の市場をも含む。 (イ)原告商品特徴を備える商品は、以下のとおり、原告が原告商品の開発を開始したとする平成29年8月より前に開発され、広く流通していた。 a 本件カタログ商品は、原告商品特徴をいずれも備え、原告商品と全く同一の形態の商品であるところ、本件中国業者が制作した平成27年春物用のカタログ(本件カタログ)に掲載されている。また、本件カタログ商品は、本件中国業者が平成26年12月頃に本件デザインメモのとおりデザインした商品である。被告は、当初、このような本件カタログ商品すなわち被告商品を仕入れていた(現在は、被告が被告商品を自社生産している。)。 本件カタログ掲載の「广州琼林服饰公司」という名称の法人(本件中国メーカー)は、中国において登録されていないが、本件カタログ記載に係る本件中国メーカーの本店所在地(广州市(以下省略))と営業場所が同一である本件中国業者(「广州市番禺区南村琼林服装厂」)が登録されている。このことと、本件中国業者の代表者名と本件カタログ記載の担当者の名称が整合すること、本件中国業者の業務範囲に服飾業が含まれること、本件デザインメモの右下部に本件中国業者の名称が表記されていることからすれば、本件中国業者が本件カタログ商品を開発し、販売していたと考えられる。 b 日本国内においても、バックプリーツ(後見頃のみにプリーツ加工が施されたもの。原告商品特徴①)等を備えたトレンチコートという商品は、平成29年8月よりも前に、少なくとも5つの商品が既に流通していた。 (2)原告商品の形態の要保護性の有無(争点1-2) (原告の主張) 前記((1)(原告の主張)イ(ア))のとおり、不競法2条1項3号によって保護される商品の形態とは、商品全体の形態である。ありふれた形態に該当するか否かについては、全体としての形態を構成する個々の部分的形状を取り出して個別にありふれたものであるか否かを判断するべきではない。 原告商品は、9つの原告商品特徴を備えているところ、これらの特徴を全て備えた形態は、原告による原告商品の開発・商品化より前には存在しないことなどから、原告商品の形態は、ありふれたものではない。 (被告の主張) 否認ないし争う。原告商品の形態はありふれたものであり、不競法2条1項3号で保護される「商品の形態」には該当しない。 原告商品特徴の1つであるバックプリーツ等を備えたトレンチコートという商品は、原告が原告商品の販売を開始したとされる平成29年11月3日以前に、前記((1)(被告の主張)イ(イ)b)の5つの商品のほか、更に2つの商品が流通していた。こうした商品の存在は、原告商品が、既に市場に多数存在するありふれた形態の商品の一つにすぎないことを意味する。 また、原告商品特徴のうち、原告商品特徴②~⑤及び⑨等は、トレンチコート等においてはありふれた構成要素であって独自性はなく、このような構成要素を集積しても、商品全体として原告商品の形態はありふれたものというべきである。 (3)形態模倣の成否(争点1-3)について (原告の主張) 被告商品は、原告商品の形態を模倣した商品である。 前記(2(4))のとおり、被告商品は、原告商品特徴を全て備えている上、プリーツのひだの幅や襟の形状、大きさまで同じであり、原告商品と実質的に同一の形態を有する。このような事態が原告商品を模倣することなく偶然に生ずるとは考えられず、原告商品の形態に依拠して作成されたものというべきである。 (被告の主張) 否認する。 前記((1)(被告の主張)イ(イ)a)のとおり、被告商品は、原告が原告商品の形態を完成させたとする平成29年8月頃より前に、本件中国業者が平成26年12月頃にデザインし、平成27年春頃に本件カタログ商品として販売していた商品と同一のものである。 したがって、被告商品は、原告商品を模倣したものではない。 (4)原告の営業上の利益の侵害又は侵害のおそれの有無及びこれについての被告の故意又は過失の有無(争点2)について (原告の主張) 被告による被告商品の販売は、原告の営業上の利益を侵害するものである。また、被告は、原告商品の存在を知って被告商品を製作、販売したのであるから、その侵害につき十分に認識していた。 (被告の主張) 否認ないし争う。 (5)原告の損害の有無及びその額(争点3)について (原告の主張) 被告は、被告商品の販売開始(平成30年1月19日)~令和元年6月の間に、被告商品を少なくとも1万着販売した。その販売価格は1着当たり5980円(消費税別)であり、限界利益はその35%、すなわち2093円である。そうすると、原告の損害額は少なくとも2000万円を下らない(不競法5条2項)。 (被告の主張) 否認ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 原告の請求主体としての要保護性の有無(争点1-1)について (1)不競法2条1項3号が、他人の商品形態を模倣した商品の販売行為等を不正競争とする趣旨は、先行者の商品形態を模倣した後行者は、先行者が商品開発に要した時間、費用及び労力等を節約できる上、商品開発に伴うリスクを回避ないし軽減することができる一方で、先行者の市場先行のメリットが著しく損なわれることにより、後行者と先行者との間に競業上著しい不公平が生じると共に、個性的な商品開発や市場開拓への意欲が阻害されることになるため、このような行為を競争上不正な行為として位置付け、先行者の開発利益を模倣者から保護することにあると解される。 そうすると、同号所定の不正競争につき差止ないし損害賠償を請求することができる者は、模倣されたとされる形態に係る商品を先行的に自ら開発・商品化して市場に置いた者に限られるというべきである。 また、原告商品及び被告商品のような女性向け衣類は、欧米での新作商品や流行等の影響を受けると共に、中国及び韓国の製造業者ないし仲介業者と日本の販売業者等との間で多くの取引が行われていると認められる(甲18、19、弁論の全趣旨)。これらの事情に鑑みると、上記「市場」は、本件の場合、日本国内に限定されず、少なくとも欧米、中国及び韓国の市場を含むものと解される。 (2)検討 ア 本件カタログ商品は、原告商品と同様の特徴(原告商品特徴)を有する(当事者間に争いのない事実)。 また、本件カタログ(乙12)は、表裏の各表紙のほか21頁からなる商品カタログとして製本されたものであるところ、その表紙右下部に「2015年春季新品」との記載があるとともに、本件カタログ商品がその14頁に掲載されている。さらに、本件カタログ1頁には、その作成者である「广州琼林服饰」(本件中国メーカー)が例年韓国、日本、欧米等に輸出していることも記載されている。これらの記載によれば、本件カタログは、本件中国メーカーが、遅くとも平成27年春頃までに、韓国、日本、欧米等を市場とする2015年(平成27年)春季向けの新製品として、本件カタログ商品を含む本件カタログ掲載商品を紹介する趣旨で作成され、頒布されたものであることがうかがわれる。 そうすると、原告商品と同様に原告商品特徴の全てを備えるものである本件カタログ商品は、平成27年春頃、本件中国メーカーにより市場に置かれたものといえるから、原告は、模倣されたとされる形態に係る商品を先行的に自ら開発・商品化して市場に置いた者ということはできない。 したがって、原告は、不競法2条1項3号所定の不正競争につき差止及び損害賠償を請求することはできない。 イ 原告の主張について (ア)これに対し、原告は、本件カタログの存在をもって本件中国メーカー又は本件中国業者が2015年(平成27年)春頃に本件カタログ商品を製造していたことを裏付けるものとはいえないなどと主張することから、本件カタログの信用性等について、以下、検討する。 (イ)前提事実、当事者間に争いのない事実、証拠(各項に掲げたもの)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 a 被告商品は、原告商品特徴のいずれをも備える(前記第2の2(4))。 また、被告商品の素材は、本体部分につきポリエステル65%、レーヨン32%、ポリウレタン3%であり、別布(後身頃のプリーツ部分)につきポリエステル100%である。その生地は、しっかりしたやや薄手の生地とシフォン素材のプリーツであり、プリーツ部分に多少の透け感があり、また、裏地はない。生産国は中国である。被告商品にはSサイズとMサイズがあり、Mサイズは、着丈約121cm、裄丈約82cm、バスト約122cm、前裾幅約67cm、後裾幅約142cmであるが、寸法は、製造工程の関係上、各採寸箇所実寸(平置き)より±2cm程度前後する可能性がある、とされている。(甲4、7) b 本件カタログには、前記ア認定の記載のほか、その1頁目には、事業所内の様子を撮影したものと見られる写真とともに、「公司简介」として、「广州琼林服饰公司」が2012年(平成24年)に設立されたこと、「●(省略)●」に所在すること、長年衣装デザイン、生産、販売を行っており、韓国風女性用衣料の開発設計に力を入れていること、専門の設計グループを有することなどが記載されている。また、2頁目~21頁目には、女性モデルが各頁で異なる衣服を着用した写真が複数枚掲載されている。裏表紙には、掲載された衣服を着用した女性モデルの写真のほか、左下部に「广州琼林服饰公司」、「公司地址:广州市(以下省略)」、「联系人:P1」及び連絡先の記載がある。 その製本の状態は、一般にカタログとして外部に頒布されるものと比較して特に奇異な点等はなく、実際に作成、頒布されたとしても不自然ないし不合理な点はない。 もっとも、「广州琼林服饰公司」なる会社の登録は中国にはなく、これが実在することを認めるに足りる証拠はない。 c 本件デザインメモ(乙1、10)には、トレンチコート様のコートの正面視及び背面視のデザイン画が描かれ、それぞれ「前身頃」、「後身頃」と記載されている。正面視のデザイン画には、「ラグランスリーブ、袖幅30cm、アームホール40cm」との記載のほか、「前着丈121cm」、「裄丈82cm」、「バスト122cm」、「前裾幅67cm」との記載が、背面視のデザイン画には、「後ろ裾145」との記載がそれぞれあるのに加え、袖口幅、裾ベルト幅、後身頃着丈、後ろベルト幅の各寸法や、後身頃の上部にタックを設けること、後身頃の背部中ほどから下部分はプリーツ加工を施された生地が当てられること等が記載されている。 さらに、右下端部には「广州市番禺区南村琼林服装厂」という記名のある印が押されると共に、「2014.12.8」等の記載がある。 d 本件中国業者の営業許可証(乙13。以下「本件許可証」という。)には、その経営者は「P2」、名称は「广州市番禺区南村琼林服装厂」、類型は「個人事業主」、営業場所は「广州市(以下省略)」、組織形態は「個人経営」、登録日は「2012年12月25日」、業務範囲は「紡績、服飾業」である旨が記載されている。 (ウ)上記各認定事実を踏まえると、まず、本件カタログには、その製本状態及び記載内容いずれの点から見ても、2015年春季向け新製品を紹介するものとして本件中国メーカーが女性向け衣類の販売等を業とする業者向けに作成したものと見ることにつき不自然ないし不合理というべき具体的な事情はうかがわれない。本件中国メーカーの名称で登録された会社は中国に実在しないと見られるものの、この点も、以下のとおり、本件カタログの存在及び内容につき疑義を抱くべき事情とまではいえない。 すなわち、本件カタログと本件許可証の各記載を比較すると、本件中国メーカーと本件中国業者とは、その名称(「广州琼林服饰公司」、「广州市番禺区南村琼林服装厂」)が、「广州」及び「琼林」の点で共通すると共に、「服饰」と「服装」とが類似する。また、本件中国メーカーの本店所在地と本件中国業者の営業場所は、同一地(广州市(以下省略))である。さらに、本件カタログに担当者として記載された「P1」と、本件中国業者の経営者とされる「P2」とは、姓が一致している。 加えて、本件デザインメモには本件中国業者の名称が押印されているところ、その作成日と見られる「2014.12.8」は本件中国業者の登録日(2012年12月25日)より後であり、登録に係る本件中国業者の業務範囲も紡績、服飾業であることに鑑みると、本件デザインメモは、本件中国業者が作成したものであることがうかがわれる。ここで、本件デザインメモ商品と被告商品を対比すると、両者は、全体のシルエットが裾広がり(いわゆるAライン形状)である点で一致するとともに、後身頃のプリーツ加工が施された生地の素材(原告商品特徴①)が本件デザインメモ商品では不明である点や、いわゆるガンフラップとなっている点(原告商品特徴⑥)につき、本件デザインメモ商品では、左肩部に切り返しが見えるように施されるとともに、左胸部分に異なる生地が掛かっているのか、切り返しが施されているのみであるのか不明である点を除くと、原告商品特徴を共通にしている。しかも、本件デザインメモ商品の寸法は、被告商品のMサイズのものと、後裾幅の寸法とが異なる(被告商品142cmに対し、本件デザインメモ商品145cm)ものの、前身頃の着丈、裄丈、バスト、前裾幅は一致し、裏地がない点でも共通している。本件デザインメモが商品化プロセスのいかなる段階で、どのような目的の下に作成されたものであるかは必ずしも明らかでないが、上記各事情からは、被告商品につき、本件デザインメモの作成を含む商品化プロセスを経て開発された商品と理解することにも合理性があるというべきである。 以上の事情に加え、被告商品が本件カタログ商品と同じく原告商品特徴を備えるものであることを総合的に考慮すると、本件中国業者が本件デザインメモ及び本件カタログを作成したこと、又は本件中国業者と密接な関係にある「广州琼林服饰公司」と称する者(本件中国メーカー)が本件カタログを作成したことが認められる。そうすると、本件中国メーカーの名称で登録された会社が中国に実在しないと見られることをもって、本件カタログの存在及び内容につき疑義を抱くべき事情とまでは必ずしもいえない。 (エ)また、原告は、原告商品の開発・商品化前に類似商品の有無を調査したものの、原告商品特徴を全て備える商品は存在しなかったことも主張する。 しかし、原告役員の陳述書(甲18、19)を除くと、これを裏付けるに足りる客観的かつ的確な証拠はない。その点を措くとしても、原告が行ったという調査は、世界4大コレクションに係る情報のインターネットを通じた収集、検索エンジン及びSNSによる類似商品の検索、紙媒体である雑誌掲載情報の調査といったものであるところ、本件カタログには本件中国メーカーのウェブサイトのURLの記載がないことや、本件カタログが、その構成及び記載内容等から最終消費者ではなく販売等に当たる業者向けのものと見られること等を踏まえると、本件カタログが原告の調査対象範囲から外れていたにすぎない可能性も十分にあり得る。 そうである以上、原告の上記主張事実を前提としても、なお本件カタログ商品が市場に存在していなかったことを裏付けるに足りる事情とはいえない。 (オ)したがって、この点に関する原告の主張は採用できない。 2 以上のとおり、原告は、模倣されたとされる形態に係る商品を先行的に自ら開発・商品化して市場に置いた者とはいえず、不競法2条1項3号所定の不正競争につき差止及び損害賠償を請求することはできない。そうである以上、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求は認められない。 第4 結論 よって、原告の請求はいずれも理由がないから、これらをいずれも棄却することとする。 大阪地方裁判所第26民事部 裁判長裁判官 杉浦正樹 裁判官 杉浦一輝 裁判官 布目真利子 別紙 被告商品目録 以下の商品名及び商品番号の婦人用コート 商品名 バックプリーツトレンチコート 商品番号 ATXP2012 別紙 原告商品目録 以下の商品名及び商品番号の婦人用コート 商品名 SEETHROUGHBACKPLEATSTRENCH 商品番号 018170020 |
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