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【事件名】「音楽プログラム」無断複製譲渡事件(2)
【年月日】令和2年11月25日
 知財高裁 令和2年(ネ)第10027号 コンピュータプログラムの著作権にかかる損害賠償等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成31年(ワ)第10821号)
 (口頭弁論終結日 令和2年10月14日)

判決
控訴人 X
特別代理人 A
被控訴人 システムギア株式会社
訴訟代理人弁護士 野口大
同 大浦綾子
同 近藤秀一
同 加守田枝里


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、1100万円を支払え。
3 控訴人が、別紙プログラム目録記載のコンピュータプログラムについての著作権を有することを確認する。
第2 事案の概要(略称は、特に断りのない限り、原判決に従う。)
 本件は、中央情報システム株式会社(以下「中央情報システム」という。)の従業員であった控訴人が、中央情報システムを吸収合併した被控訴人に対し、@中央情報システムが、控訴人が作成した著作物である別紙プログラム目録記載のプログラム(以下「本件プログラム」)を無断で複製して第三者に売却した行為が控訴人の著作権(複製権、譲渡権)の侵害に当たる旨主張して、不法行為に基づく損害賠償として、1800万円の支払を求めるとともに、本件プログラムの著作権が控訴人に帰属することについての確認を求め、A控訴人が他の従業員等からパワーハラスメント(以下「パワハラ」という。)やセクシャルハラスメント(以下「セクハラ」という。)を受けたが、中央情報システムがこれを放置したことにより、統合失調症を発症し、入院治療や通院治療を余儀なくされたなどと主張して、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償として、1850万円(慰謝料1800万円及び医療費・交通費50万円)の支払を求める事案である。
 原審は、控訴人の請求をいずれも棄却したため、控訴人は、控訴の趣旨の限度で、原判決を不服として、本件控訴を提起した。
1 前提となる事実
 原判決2頁15行目の「平成30年」を「同年」と改めるほか、原判決の「事実及び理由」の第2の1記載のとおりであるから、これを引用する。
2 争点
 原判決3頁11行目の「頒布」を「譲渡」と改めるほか、原判決の「事実及び理由」の第2の2記載のとおりであるから、これを引用する。
3 争点に関する当事者の主張
 以下のとおり訂正し、当審における控訴人の補充主張を付加するほか、原判決の「事実及び理由」の第2の3記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決の訂正
 原判決4頁10行目の「頒布」を「譲渡」と、同頁13行目及び18行目の各「頒布権」をいずれも「譲渡権」と改める。
(2)当審における控訴人の補充主張
 別紙「控訴理由書(第1準備書面)」、別紙「第2準備書面」及び別紙「第3準備書面」(いずれも写し)記載のとおりである(以下、これらの別紙を併せて、「本件別紙」という。)。
第3 当裁判所の判断
 当裁判所も、控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、以下のとおり訂正するほか、原判決の「事実及び理由」の第3記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決6頁14行目の「頒布」を「譲渡」と、同頁15行目の「原告は、」を「(1)控訴人は、」と改め、同頁25行目末尾に行を改めて、次のとおり加える。
 「(2)本件別紙によれば、控訴人は、当審において、控訴人は、ソースコードのSelectCaseを使い、自ら関数を用意して3分岐プログラムを作成した、被控訴人(吸収合併前の「中央情報システム」。以下、中央情報システムと被控訴人を区別することなく、単に「被控訴人」という。)の岸本は、パスワードを不正に用いてコンピュータから3分岐プログラムとともに、7分岐プログラムを抜き取り、日本ユニシスに引き渡した、日本ユニシスは、紙幣や手形の情報を表示させソートさせることを目的とした手形交換プロジェクトを立ち上げ、三井住友銀行の関連会社である日本総合研究所にこれら2つのプログラムを納めており、これらのプログラムは日本総合研究所で現に使用されている、また、ヤマト運輸が被控訴人から3分岐プログラムを買い取り、宅配物の選別番号や追跡番号による物流のロジックを生み出すシステムとして使っているほか、SUICA等の決済額と残額を分岐させブラウザに表示するシステムやマイナンバーカードの発番のシステムにも、3分岐プログラムが使用されている、したがって、控訴人が作成した著作物である本件プログラム(3分岐プログラム及び7分岐プログラム)は、日本総合研究所等に現存する旨を主張するものと解される。
 しかしながら、原審及び当審において控訴人及び被控訴人から提出された全証拠によっても、控訴人主張の本件プログラムが存在することを認めるに足りない。
 また、著作権法上の「プログラム」は、「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」をいい(同法2条1項10号の2)、プログラムをプログラム著作物(同法10条1項9号)として保護するためには、プログラムの具体的記述に作成者の思想又は感情が創作的に表現され、その作成者の個性が表れていることが必要であると解されるところ、控訴人は、本件プログラムの具体的記述の内容を主張立証していないから、本件プログラムが著作権法上の「プログラム」に該当するものと認めることはできない。
 したがって、控訴人の上記主張は、採用することができない。」
2 原判決6頁末行の「以上によれば、」を「(3)以上によれば、」と改める。
3 原判決7頁4行目の「原告は、」を「(1)控訴人は、」と改める。
4 原判決8頁4行目末尾に行を改めて、次のとおり加える。
 「(2)本件別紙によれば、控訴人は、当審において、被控訴人は、被控訴人による本件プログラムの窃取に気付かれないようにするため、被控訴人の従業員である訴外Bを被控訴人の上司として指名するとともに、被控訴人が立ち上げた本件プログラムを利用する手形交換プロジェクトの末端の地位であるテスターに控訴人を配属させて訴外Bに控訴人の監視をさせた、訴外は、上司の地位にあることを利用して控訴人に対してセクハラやパワハラを行った、控訴人は、当時訴外Bのマインドコントロールの下にあって恐怖感や心身の疲弊を抱えた状況にあり、訴外Bと好意をもって交際するなどという状態にあったものではない、控訴人が訴外Bを相手方とする家事調停申立書(甲6)に控訴人と訴外Bとが交際関係にあった旨の記載をしたのは、上記家事調停申立書を作成した時点では控訴人の統合失調症の病状が悪化して神経が異状をきたしていた状態であったことや控訴人が被控訴人の監視下にあったことによって正常な判断ができる状態ではなかったことによるものである、したがって、被控訴人の行為が違法であることを否定した原判決の判断は誤りである旨を主張するものと解される。
 しかしながら、控訴人の主張によれば、控訴人が受けたとするセクハラ及びパワハラは、被控訴人が立ち上げた本件プログラムを利用するプロジェクトで控訴人が就労していた当時発生したというものであり、控訴人が上記プロジェクトで就労していた期間中に、本件プログラムが作成され、存在していたことを前提とするものであるが、前記1(1)で説示したとおり、本件プログラムが存在していたことを認めることができないから、控訴人の前記主張は、その前提を欠くものである。
 そして、控訴人を申立人、訴外Bを相手方とする家事調停事件(神戸家庭裁判所伊丹支部平成29年(家イ)第459号)において、平成29年9月25日、訴外Bが控訴人に対し慰謝料として30万円を支払うこと等を内容とする調停が成立しているところ(甲7)、上記調停が成立した当時、控訴人が訴外Bに言われるがままに行動せざるを得ない立場にあったことや、控訴人が正常な判断能力を欠いたまま、上記調停に係る同年7月19日付け家事調停申立書(甲6)の「申立ての理由」欄の記載をしたことを認めるに足りる証拠はない。そうすると、上記家事調停申立書記載の被控訴人と訴外Bとの交際状況等が全く事実に反するものとは考え難い。
 また、仮に訴外Bにおいて控訴人が主張する原判決別紙行為目録記載の言動があったとしても、その言動の内容に鑑みると、それらは、交際6関係にある男女間の私的な領域での行動であるか又はその私的な交際関係の延長として行われたものであり、被控訴人の業務に関連するものと認めることはできない。
 そうすると、このような私的領域に属する訴外Bの言動について被控訴人が控訴人の使用者として相応の措置を講ずべき義務を負うものということはできず、被控訴人が措置を講じなかったことが違法であると認めることはできない。
 したがって、控訴人の上記主張は、採用することができない。」
5 原判決8頁5行目の「以上のとおり、」を「(3)以上によれば、」と改める。
第4 結論
 以上のとおり、控訴人の請求は理由がないから、控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は相当である。
 したがって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 大鷹一郎
 裁判官 本吉弘行
 裁判官 中村恭


(別紙)プログラム目録
 コンピュータプログラム「VisualBasic」
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