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【事件名】教務管理システムの無断改変事件
【年月日】令和2年11月16日
 東京地裁 平成30年(ワ)第36168号 不当利得返還等請求事件
 (口頭弁論終結日 令和2年8月26日)

判決
原告 A
被告 一般財団法人中東協力センター
同 訴訟代理人弁護士 山本龍太朗
同 外山信之介
被告 学校法人片柳学園
同訴訟代理人弁護士 清水幹裕
同 溝内健介
同 清水光


主文
1 被告学校法人片柳学園は、原告に対し、20万円及びこれに対する平成25年9月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告の被告学校法人片柳学園に対するその余の請求及び被告一般財団法人中東協力センターに対する請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、原告に生じた費用の50分の49、被告学校法人片柳学園に生じた費用の25分の24及び被告一般財団法人中東協力センターに生じた費用を原告の負担とし、原告及び被告学校法人片柳学園に生じたその余の費用を被告学校法人片柳学園の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
 被告らは、原告に対し、連帯して、500万円及びこれに対する平成25年9月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は、原告が、被告らに対し、被告らが、原告作成の別紙原告プログラム目録記載のプログラム(以下「本件プログラム」という。)に係る原告の著作権(複製権、公衆送信権、貸与権及び翻案権)及び著作者人格権(公表権、氏名表示権及び同一性保持権)を侵害し、これによって利益を受けたと主張して、不当利得返還請求権に基づき、連帯して、利得金合計574万8000円のうち500万円及びこれに対する請求日の翌日である平成25年9月12日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)
(1)当事者
ア 原告は、大学卒業後、システムエンジニアとして主に教育・学習支援システムの開発に従事した後、平成14年4月27日、被告学校法人片柳学園(以下「被告学園」という。)に、被告学園が設置する日本工学院八王子専門学校(以下「本件専門学校」という。)の教育嘱託職員として採用された。(甲88、弁論の全趣旨)
イ 被告学園は、本件専門学校のほか、東京工科大学、日本工学院専門学校等を設置する学校法人である。
ウ 被告一般財団法人中東協力センター(以下「被告センター」という。)は、中東・北アフリカ諸国の産業経済の開発、通商の振興に協力し、もって日本と中東・北アフリカ諸国との通商経済に係る国際協力の推進及びエネルギー安定供給に寄与することを目的とする一般財団法人である。
 被告センターは、経済産業省資源エネルギー庁の補助対象事業であるサウジアラビア電子機器・家電製品研修所(以下「SEHAI」という。)自立運営への協力事業(以下「本件協力事業」という。)を実施している。
(2)被告学園と原告との間の非常勤講師委嘱契約
ア 原告は、平成20年4月1日、被告学園から、委嘱期間を約半年として、本件専門学校ITカレッジ情報処理科の非常勤講師を委嘱され、以後、約半年ごとに、同様に委嘱された。(甲88、弁論の全趣旨)
イ 原告と被告学園は、平成25年4月1日、委嘱期間を同日から同年9月30日まで、委嘱内容を担当学科長が依頼する科目の講義、実習等の教育指導、補講及び試験監督、講義料を1時限(50分)につき4600円等とする非常勤講師委嘱契約を締結した。原告と被告学園は、平成24年10月1日にも、委嘱期間を同日から平成25年3月31日までとする、ほぼ同様の契約を締結していた。(甲1、88、弁論の全趣旨)。
(3)本件協力事業に関する業務の委託
ア 被告センターは、平成24年頃、被告学園に対し、本件協力事業に関する業務を委託した。(甲34、35、弁論の全趣旨)
イ 被告学園は、平成24年12月頃、原告に対し、本件協力事業のうちS15EHAIの教務管理システム(学生のプロフィール、出欠、成績、時間割等を一元的に管理することができるシステム。以下「本件システム」という。)の開発を委託した。(甲2、58、88、乙22、弁論の全趣旨)
(4)原告による本件プログラムの作成等
ア 原告は、平成24年12月以降、本件システムに係るプログラムを作成し、平成25年5月23日、本件専門学校の専任教員であるBに対し、同日までに作成した本件システムを構成するプログラムである本件プログラムのソースコード及びデータベースに係る圧縮ファイルを電子メールに添付して送付した(以下、原告が上記電子メールに添付して送信した圧縮ファイルを「本件圧縮ファイル」といい、Bが、同電子メールを受信し、本件圧縮ファイルから取り出してパソコンに保存した本件プログラムの複製物を「被告学園プログラム」という。甲15、77、弁論の全趣旨)。
イ 本件システムは、海外教育支援として教育現場のICT(情報通信技術)化を支援することを目的として作成した海外向け教務支援システムであって、出席管理、成績管理、学生カルテ管理、教務管理の4つのモジュールによって構成され、インターネットを経由して利用可能な総合Webパッケージとなっており、本件システムに係るプログラムの言語には、PHP(HypertextPreprocessor)、JavaScript、HTML、CSSが使用され、データベースを管理するMicrosoftAccessの操作には、ODBCドライバが使用されている。
(甲88、弁論の全趣旨)
ウ 本件プログラムは、「プログラムの著作物」(著作権法10条1項9号)である。(弁論の全趣旨)
3 争点及び当事者の主張
(1)本件プログラムに係る職務著作の成否(争点1)
(被告らの主張)
 本件プログラムは、被告学園の発意に基づき、被告学園から非常勤講師の委嘱を受け、雇用関係と類似の指揮命令関係にあった原告が職務上作成したものであるから、本件プログラムの著作者は被告学園である(著作権法15条2項)。
(原告の主張)
 原告は、被告学園から非常勤講師の委嘱とは別に本件システムの開発を依頼されたものであり、自宅でこれを行い、自らサーバー等を用意し、作業時間は拘束されず、上司から指揮命令を受けたこともなかった。原告は被告学園と指揮命令関係になく、職務上作成したものでもないから、本件プログラムの著作者はこれを作成した原告である。
(2)本件プログラムの著作権の譲渡(争点2)
(被告学園の主張)
 被告学園は、平成25年1月8日、原告に対し、開発された本件システムに係るプログラムの著作権は被告学園、被告センター及びSEHAIに帰属すると伝えたところ、原告は、同日、有償で開発したものについては、その成果物の著作権を被告学園に対して譲渡するとの意向を示しており、原告は、開発当初から、上記プログラムを含む成果物の著作権を被告学園に譲渡することを承諾していたものである。
 そして、原告は、同年5月23日、被告学園に対して本件プログラムを引き渡し、被告学園は原告に対して開発費用を支払ったので、被告学園は原告から本件プログラムの著作権を譲り受けた。
 (原告の主張)
 原告は、被告学園との間で、本件システムに係るプログラムの著作権譲渡について交渉を行ったが、合意には至らなかったものであって、本件プログラムの著作権を被告学園に譲渡していない。
(3)本件プログラムの著作権又は著作者人格権の侵害行為(争点3)
ア 被告学園プログラムをサーバーにアップロードしたことによる著作権侵害(争点3−1)
(原告の主張)
(ア)被告学園のBは、平成25年8月11日頃から同年9月12日頃までの間に、本件プログラムの複製物である被告学園プログラムを被告学園が契約するレンタルサーバー(以下「被告学園サーバー」という。)にアップロードして、被告学園プログラムに基づくウェブサイト(以下「被告学園ウェブサイト」という。)をインターネット上で閲覧することができるようにし、本件プログラムに係る原告の複製権及び公衆送信権を侵害した。
(イ)被告学園が被告学園プログラムの所有者であること及びこれを利用するために必要と認められる限度の複製であることは否認する。原告は、Bに対し、参考資料として本件プログラムに係る本件圧縮ファイルを送付したものであり、これをインターネット上で閲覧することができるようにすることは想定していなかった。
(被告学園の主張)
(ア)被告学園が被告学園プログラムを被告学園サーバーにアップロードしたことは認めるが、被告学園ウェブサイトを閲覧することができたのは、パスワード等を知る特定の限られた関係者のみであるから、公衆送信には当たらない。
(イ)被告学園は、本件プログラムの複製物である被告学園プログラムの所有者であるから、これを複製することができる(著作権法47条の3第1項(平成30年法律第30号による改正前のもの。以下、同条については同じ。))。
(被告センターの主張)
 不知。
イ 被告学園プログラムを改変したことによる著作権等侵害(争点3−2)(原告の主張)
 被告学園のBは、平成25年8月19日頃から同年9月12日頃までの間に、被告学園プログラムを改変し、本件プログラムに係る原告の翻案権及び同一性保持権を侵害した。
 被告学園が被告学園プログラムの所有者であること及びこれを利用するために必要と認められる限度の翻案であることは否認する。また、被告学園による改変が著作権法20条2項3号、4号に定める「改変」に該当することは否認する。被告学園は、誤作動を修正することを超えて、被告学園プログラムにインターフェースや新たな機能を追加した。
(被告学園の主張)
 被告学園が被告学園プログラムを改変したとの事実は否認する。仮に被告学園が被告学園プログラムを改変したとしても、被告学園は本件プログラムの複製物である被告学園プログラムの所有者であるから、その行為は本件プログラムの翻案権侵害に当たらない(著作権法47条の3第1項)。
 また、被告学園は被告学園プログラムを使用することができる状態にしたにすぎないから、その行為は本件プログラムの同一性保持権の侵害に当たらない(著作権法20条2項3号、4号)。
(被告センターの主張)
 不知。
ウ 被告学園プログラムをデモンストレーションで使用するなどしたことによる著作権等侵害(争点3−3)
(原告の主張)
(ア)被告らは、平成25年8月31日から同年9月5日までの間、SEHAIで実施された研修において、原告の氏名を表示することなく、デモンストレーションとして被告学園プログラムを使用するとともに、これを改変したことにより、本件プログラムに係る原告の翻案権、公表権、氏名表示権及び同一性保持権を侵害した。
(イ)被告学園が被告学園プログラムの所有者であること及びこれを利用するために必要と認められる限度の翻案であることは否認する。
 また、被告学園による改変が著作権法20条2項3号、4号に定める「改変」に該当することは争う。
(被告学園の主張)
 被告学園がSEHAIで実施された研修において被告学園プログラムを使用したことは認めるが、被告学園は、本件プログラムの複製物である被告学園プログラムの所有者であるから、これを翻案することができる(著作権法47条の3第1項)。
 また、被告学園は被告学園プログラムを使用することができる状態にしたにすぎないから、その行為は本件プログラムに係る同一性保持権の侵害に当たらない(著作権法20条2項3号、4号)。
(被告センターの主張)
 SEHAIにおいて研修が実施されたことは認めるが、被告センターが本件プログラムに係る原告の翻案権、公表権、氏名表示権及び同一性保持権を侵害したとの主張は争う。
エ 被告学園プログラムをサーバー上に保存したままにしたことによる著作権等侵害(争点3−4)
(原告の主張)
(ア)被告学園は、平成25年10月25日頃から平成26年7月14日までの間、被告学園プログラムを被告学園サーバーに保存し、原告の氏名を表示することなく、被告学園ウェブサイトをインターネット上で閲覧することができるようにし、本件プログラムに係る原告の複製権、公衆送信権、公表権及び氏名表示権を侵害した。
(イ)被告学園が被告学園プログラムの所有者であること及びこれを利用するために必要と認められる限度の複製であることは否認する。
(被告学園の主張)
(ア)被告学園プログラムのファイルが被告学園サーバーに保存されたままであったことは認めるが、被告学園ウェブサイトを閲覧することができたのは、パスワード等を知る特定の限られた関係者のみであるから、公衆送信には当たらない。被告学園は、平成26年6月中に、被告学園サーバーから被告学園プログラムを削除した。
(イ)被告学園は、本件プログラムの複製物である被告学園プログラムの所有者であるから、これを複製することができる(著作権法47条の3第1項)。
(被告センターの主張)
 不知。
オ 被告学園プログラムを第三者に貸与するなどしたことによる著作権等侵害(争点3−5)
(原告の主張)
(ア)被告らは、平成25年12月頃、兼松エレクトロニクス株式会社(以下「兼松」という。)に対し、本件システムに係るプログラムを作成するために、原告の氏名を表示することなく、被告学園プログラムを貸与するとともに、兼松をしてこれを改変させ、本件プログラムに係る原告の複製権、翻案権、貸与権、公表権、氏名表示権及び同一性保持権を侵害した。
(イ)被告学園が被告学園プログラムの所有者であること及びこれを利用するために必要と認められる限度の複製又は翻案であることは否認する。
 また、被告学園による改変が著作権法20条2項3号、4号に定める「改変」に該当することは争う。
(被告学園の主張)
(ア)被告学園は、兼松に対し、本件システムの開発を依頼するに当たり、本件プログラムの複製物である被告学園プログラムを見せたが、兼松は、被告学園プログラムは使用するに耐えないとして、これを使用することなく本件システムを新たに開発した。兼松に被告学園プログラムを見せたことは、貸与により公衆に提供するものではないし、営利を目的とせず、料金を受けていないから、本件プログラムに係る貸与権の侵害に当たらない(著作権法38条4項)。
(イ)被告学園は、本件プログラムの複製物である被告学園プログラムの所有者であるから、これを複製し、翻案することができる(著作権法47条の3第1項)。
 また、被告学園は被告学園プログラムを使用することができる状態にしたにすぎないから、その行為は本件プログラムに係る同一性保持権の侵害に当たらない(著作権法20条2項3号、4号)。
(被告センターの主張)
 不知。(4)被告らの利益及びこれと因果関係のある原告の損失(争点4)
(原告の主張)
ア 原告と被告学園は、本件システムの開発に係る委託費用として、週3日程度の講義料相当額(月約32万円)を支払うことを合意したので、原告は、平成25年4月1日から同年10月15日までの委託費用相当額208万円(32万円×6.5月)から既払金3万2200円を控除した204万7800円の損失を被った。また、原告が被った本件システムの利用料相当額としての損失は、100万円を下らない。
 したがって、被告らの著作権侵害行為により、原告は304万7800円の損失を被り、被告らは同額の利益を受けた。
イ 原告が被告らの著作者人格権侵害行為により被った精神的苦痛を慰謝するのに相当な金は、200万円を下らない。また、原告は、被告らの著作者人格権侵害行為を調査するための費用として3000円、プログラム著作権の登録費用として5000円、弁護士費用として69万2200円の各損失を被った。
 したがって、被告らの著作者人格権侵害行為により、原告は270万0200円の損失を被り、被告らは同額の利益を受けた。
(被告学園の主張)
 本件プログラムの複製物である被告学園プログラムは使用するに耐えないものであったから、利用料は0円と評価せざるを得ない。
 仮に被告学園に一定の利用料相当額の利益が発生したとしても、その金額は、月1万7500円(本件プログラムの価値を、被告学園が原告に対して支払った開発費用105万円とすると、国税庁が定めるソフトウェアの耐用年数は5年であるので、105万円÷5÷12=1万7500円。)に被告学園が被告学園プログラムを使用した24日間(平成25年8月19日から同年9月15日まで)を乗じた1万4000円にすぎない。
(被告センターの主張)
 被告センターは原告との関係で何らの利益も受けておらず、原告に何らの損失も生じさせていない。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
 前記前提事実、証拠(甲88、乙22、23、証人C、証人B、原告本人のほか後掲各証拠)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。
(1)被告学園は、平成24年12月頃、原告に対し、本件システムの開発を委託した。原告は、その頃、本件システムに係るプログラムの作成に着手し、原告が契約するレンタルサーバー(以下「原告サーバー」という。)に同プログラムをアップロードし、被告学園の非常勤講師としての業務時間以外の時間に、原告所有の機器を用い、原告自宅を作業場として、被告ら及びSEHAIの担当者から要望を聞きながら開発作業を行った。(甲2)
(2)被告センターは、平成25年1月8日、原告に対し、本件システムが完成したときは、被告センター、本件専門学校及びSEHAIが成果物の著作権を持つことになると伝えたところ、原告は、同日、被告センターに対し、まだ契約には至っていないが、有償で開発したものに関しては成果物の著作権を譲渡する予定であると答えた。(甲3、4)
(3)原告は、平成25年3月19日から同月22日まで開催された電子情報通信学会において、被告学園のCほか1名とともに、本件専門学校の教員として、本件システムの開発について報告した。(乙16)
(4)原告は、平成25年3月19日、被告学園に対し、平成24年12月以降、本件システムの開発を行ってきたが、開発費用が支払われていないと伝えた。被告学園は、平成25年3月21日、原告に対し、開発費用として105万円を来月に支払う予定であると伝え、同年4月15日、これを支払った。
(甲31、42、乙4)
(5)Bは、平成25年4月以降、本件システムの開発に関わるようになったところ、同年5月23日、原告に対し、本件システムを理解できていないので、本件システムに係るプログラム及びデータベースのコピーを送付してほしいと伝えた。そこで、原告は、同日、Bに対し、同日までに作成した本件システムを構成する本件プログラムのソースコード及びデータベースに係る本件圧縮ファイルを電子メールに添付して送付した。同日時点で、本件プログラムは、本件システムのうち半分程度を完成させたものであった。(甲14、15)
(6)原告は、前記(5)の後も、本件システムの開発を続けた。
 Bは、平成25年6月5日、原告に対し、再び、現時点で完成した本件システムに係るプログラム及びデータベースを送付してほしいと伝えた。しかし、原告は、同月6日、Bに対し、データベースのみを送付した上、被告学園プログラムで同データベースを利用しようとすると一部誤作動が生じる、被告学園から開発費用が支払われることが確定すれば上記プログラムを送付すると伝えた。(乙5)
(7)原告は、平成25年7月26日、被告学園に対し、一身上の都合により、本件システムの開発業務を辞退すると伝え、本件システムの開発を中断した。(乙1)
(8)Bは、平成25年8月31日からSEHAIで実施される研修で本件システムのデモンストレーションを行う必要があったことから、同月11日、原告から本件圧縮ファイルの送付を受けて取得した被告学園プログラムを被告学園サーバーにアップロードし、同月19日頃から、同プログラムについて、原告から送付されたデータベースを読み取ることができるようにしたり、原告が本件圧縮ファイル送付後に付加した機能(月毎出欠データ登録機能、期間毎集計機能及び科目毎集計機能)を実装したり、原告において実施することが予定されていた作業(インストラクターリストの表示、インストラクターの登録情報の更新、登録解除及び新規登録並びに学生の在籍等の情報入力及び新規登録)を行ったりした(以下、これらの変更等の前後を問わず「被告学園プログラム」という。)。
 告学園ウェブサイト(被告学園サーバー上の被告学園プログラムに基づくウェブサイト)のトップページは、インターネット上で閲覧することができたが、本件システムの機能を使用するためには、ID及びパスワードを用いてログインする必要があった。ID及びパスワードの保有者は、SEHAI、被告センター又は被告学園に所属する者であり、その人数は、平成25年5月23日時点で57名、同年9月16日時点で67名、同年10月3日時点で70名であった。(甲68、74ないし76)
(9)本件専門学校ITカレッジ学科長であったDは、平成25年8月25日、原告に対し、Bに本件システムの内容を引き継ぎ、現時点で完成した本件システムに係るプログラムを送付してほしいと伝えた。しかし、原告は、同日、Dに対し、BがSEHAIでの研修において被告学園プログラムを修正することに同意していないし、同年4月以降の本件システムの開発に係る開発費用も支払われておらず、被告学園の行為は著作権、著作者人格権等を侵害するものであると答え、プログラムの送付を拒んだ。(甲16、17)
(10)被告学園は、平成25年8月31日から同年9月5日までの間、SEHAIにおいて研修を実施し、被告学園サーバー上の被告学園プログラムを使用して、本件システムのデモンストレーションを行った。同研修には、Bを含む被告学園の関係者3名、被告センターの関係者1名、SEHAIの関係者2名が出席した。Bは、同研修中に、出席者に対して被告学園プログラムにより実現される本件システムの機能の一部を紹介するとともに、新たな機能を追加するために被告学園プログラムに変更を加えた。
(11)本件専門学校教育・学生支援部次長であったCは、平成25年9月11日、本件専門学校において、原告と面談した。その際、Cが、原告に対し、著作権等について原告と書面を取り交わすべきであった、開発費用のみならず、講義の時間を開発に充て、この時間に相当する講義料も支払うので、本件システムの開発を再開してほしいなどと述べたところ、原告は、開発を再開する意向を示した。そこで、Bは、同日、原告に対し、被告学園サーバーのURL、パスワード等を伝えた。(甲18、19)
(12)原告は、平成25年9月16日、その時点までに作成した本件システムに係るプログラムのファイルを原告サーバーにアップロードした上、被告学園ウェブサイトを閲覧しようとすると自動的に原告サーバー上のウェブサイト(以下「原告ウェブサイト」という。)に移動するようにし、Bに対し、その旨伝えた。(甲22、49)
 原告は、同月17日、本件システムの開発を再開した。(甲24、乙6)
(13)原告は、平成25年9月25日、Bに対し、おそらく被告学園と本件システムの開発に係る契約を締結することはできず、被告学園から連絡がなければ、同月30日24時00分に本件システムの稼働を一時停止すると伝えた。Cは、同月25日、原告に対し、本件システムの開発に係る契約書を作成するに当たり、打ち合わせたいことがあると伝え、同月30日、本件専門学校において、原告と面談した。(甲23、24、45)
(14)その後も、Cは、原告との間で、本件システムの開発に係る条件等について協議し、平成25年10月14日、原告に対し、残りの開発費用として合計120万円を支払うことを提案し、本件システムに係るプログラムの著作権を原告から被告学園に譲渡するとの内容を含む著作権譲渡契約書案及び業務委託に関する覚書案を送付した。(甲24ないし26、乙6)
 しかし、原告は、同月18日、Cに対し、被告学園と信頼関係に基づく契約を締結することができないので、本件システムの開発に係る業務委託を辞退し、今後の交渉には一切応じかねると伝えた。また、原告は、同月25日、Cに対し、支払われた開発費用に相当する成果物はBに渡しており、被告学園との間で契約を締結していないので、その後の開発費用等の支払は必要ないと伝えた。(乙7)
(15)被告学園は、本件システムの開発が中断したことから、兼松に対してこれを委託することとし、平成25年12月1日、兼松との間で、本件システムの開発に係る業務委託契約を締結した。被告学園は、同契約を締結する際、兼松に対し、被告学園プログラムのファイルを渡した。(乙9)
(16)Cは、平成25年12月8日、原告に対し、原告が作成したプログラムに基づくシステムの完成度が高く、SEHAIで活用したいので、著作権の譲渡等について相談したいと伝えた。(甲27)
 しかし、原告は、平成26年1月22日、Cに対し、著作権譲渡契約を締結することができない理由は被告学園にあり、被告学園プログラムを無断で改変したり、不正に使用したりすることを続けるのであれば、法的措置をとると伝えた。(甲28)
(17)原告は、平成26年6月5日、被告学園に対し、被告学園は、原告が作成した本件システムを被告学園ウェブサイトにてインターネット上で公開しているが、被告学園が原告に対して正当な対価を支払うまで、これを利用し、変更しないことを求める旨の通知書を送付した。(乙2)
 これを受けて、被告学園は、被告学園サーバーに保存された被告学園プログラムのファイルを削除し、同年7月14日、原告に対し、その旨回答した。(乙3)
2 争点1(本件プログラムに係る職務著作の成否)について
(1)前記前提事実(4)のとおり、原告は、プログラムの著作物である本件プログラムを作成した。
 したがって、原告は、「著作物」である本件プログラム「を創作する者」として、「著作者」(著作権法2条1項2号)に該当するというべきである。
(2)この点、被告らは、本件プログラムは被告学園の「業務に従事する」原告が被告学園の「発意に基づき」「職務上作成」したものであるから、著作権法15条2項により、本件プログラムの著作者は被告学園であると主張するので、以下検討する。
ア 本件プログラムは、平成25年5月23日までに作成された本件システムの一部に係るプログラムであるところ、本件システムの開発は、被告センターが被告学園に対して委託した本件協力事業に関する業務の一つとして、被告学園が原告に対して委託したものである(前記前提事実(3)、(4))。
 上記委託当時、原告は被告学園と非常勤講師委嘱契約を締結していたが、これは本件専門学校において講義や実習等の教育指導等を行うことを業務内容とするものであり(前記前提事実(1)イ、(2))、被告学園からの委託を受けてSEHAIの教育管理システムを開発することを直接の業務内容とするものではなかったと認められる。
イ 原告は、被告学園から、非常勤講師としての給与(講義料)とは別に、本件システムの開発費用として105万円を受領し、さらに、被告学園との間で、平成25年4月以降の開発費用について協議したものであるから(前記1(4)、(9)、(11))、原告による本件プログラムの作成は、報酬の点でも、被告学園の非常勤講師としての職務とは区別されていたものと認められる。
ウ 原告は、被告学園の担当者から要望を聞きながら本件システムの開発を行ったが、それは、本件システムに付する機能についての意向を聴取したにとどまるものであり(前記1(1))、原告が被告学園の担当者に本件プログラムに係る圧縮ファイル(本件圧縮ファイル)を送付した平成25年5月23日までに、本件システムの開発に関して、被告学園が原告に対して具体的に指揮命令したことを認めるに足りる証拠はない。
エ 原告は、本件プログラムの作成作業を、自己がレンタル契約した原告サーバーに同プログラムをアップロードした上で、被告学園の非常勤講師としての業務時間以外の時間に、自己の機器を用い、自宅を作業場として行ったものであるから(前記1(1))、その作成行為は、被告学園の非常勤講師としての業務とは場所的にも時間的にも独立していたものと認められる。
オ 原告は、電子情報通信学会において、被告学園が設置する本件専門学校の教員として、本件システムの開発について報告したが(前記1(3))、本件専門学校の非常勤講師であった原告が、自らが経験した内容を基に発表したにすぎず、これをもって原告が被告学園の職務上本件システムの開発を行ったとはいえない。
カ 以上の事情を総合すれば、原告による本件プログラムの作成は、原告が被告学園の非常勤講師として従事していた業務に含まれていたとはいえず、その業務として予定又は予期されていたものともいえず、本件プログラム作成についての被告学園の関与の程度、本件プログラムの作成が行われた場所、時間、態様等に照らしても、原告が被告学園の職務上本件プログラムを作成したとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、被告らの上記主張は理由がない。
(3)よって、本件プログラムの著作者は原告であると認めるのが相当である。
3 争点2(本件プログラムの著作権の譲渡)について
 被告学園は、原告が、本件システムの開発当初から、被告学園に対し、同開発に係る成果物の著作権を譲渡することを承諾しており、平成25年5月23日に原告が被告学園に本件プログラムを引き渡し、被告学園が原告に対して開発費用を支払ったので、原告から被告学園に対して本件プログラムの著作権が譲渡されたと主張する。
 しかし、原告は、本件システムの開発当初の平成25年1月の時点において、被告学園に対して本件システムの開発に係る成果物の著作権を譲渡する意向を示していたが(前記1(2))、その後、原告と被告学園との間で、本件システムの開発費用や著作権の取扱い等について話合いがされ、著作権譲渡契約書案が作成されたものの(前記1(11)、(13)、(14))、契約書が取り交わされるには至らず、交渉は決裂した(前記1(14))。このような交渉経緯に鑑みると、同月の時点において、原告が本件プログラムの著作権を譲渡することを承諾していたと認めることはできない。
 また、被告学園は、原告に対して開発費用として105万円を支払い、原告から本件ステムを構成する本件プログラムに係る圧縮ファイル(本件圧縮ファイル)を受領したが(前記1(4)、(5))、その当時、本件システムは完成しておらず、本件プログラムは作成途中のものであり、原告がその時点で本件圧縮ファイルを送付したのは、Bの便宜のためにすぎない(前記1(5))。そうすると、上記105万円は、原告が本件プログラムの開発作業に従事した労務の対価として支払われたものと考えるのが自然であって、これが本件プログラムの著作権の対価を含むと認めることはできない。
 以上によれば、原告が被告学園に対して本件プログラムの著作権を譲渡したとは認められないというべきであり、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、被告学園の上記主張は理由がない。
4 争点3(本件プログラムの著作権又は著作者人格権の侵害行為)について
(1)争点3−1(被告学園プログラムをサーバーにアップロードしたことによる著作権侵害)について
ア 前記1(8)によれば、被告学園のBは、平成25年8月11日、被告学園プログラムを被告学園サーバーにアップロードし、これによって、本件システムの機能を利用するためのID及びパスワードを保有する約60名が、被告学園ウェブサイトからログインし、被告学園プログラムにより実現される本件システムの機能を使用することができるようになった。
 そうすると、被告学園は、本件プログラムの複製物である被告学園プログラムのファイルを被告学園サーバーに保存することにより、本件プログラムを有形的に再製し、かつ、被告学園ウェブサイトにログインすることができる者だけでも約60名という多数の者に対して本件プログラムについて無線通信又は有線電気通信の送信を可能としたということができる。
 したがって、被告学園は本件プログラムに係る原告の複製権及び公衆送信権(送信可能化権)を侵害したと認めるのが相当である。
イ 被告学園は、本件プログラムの複製物である被告学園プログラムの所有者であるから、著作権法47条の3第1項によりこれを複製することができると主張する。
 しかし、平成25年4月以降、本件システムの開発に関わるようになったBは、これを理解するために、原告に対して本件システムに係るプログラム等のコピーを送付してほしいと要望し、原告は、これに応じて、開発途中の本件プログラムのソースコードを含む本件圧縮ファイルを送付したものである(前記1(5))。そうすると、Bがその使用に係るパソコンに保存した本件プログラムの複製物(被告学園プログラム)は、本来、B自身が本件システムを理解するために利用されることが予定されていたものと認められる。
 にもかかわらず、Bは、SEHAIで実施される研修で本件システムのデモンストレーションを行うために、被告学園プログラムを被告学園サーバーにアップロードしたものであって(前記1(8))、この行為は、原告がBに対して許諾した本件プログラムの複製物の利用範囲を超えるものであるといわざるを得ない。そして、被告学園プログラムを被告学園サーバーにアップロードしなければ、Bがこれを利用することができなかったことを認めるに足りる証拠もない。
 したがって、Bによる上記の行為は、「自ら当該著作物を電子計算機において利用するために必要と認められる限度」(著作権法47条の3第1項)の複製とは認められないから、被告学園の上記主張は理由がない。
ウ 原告は、前記アの被告学園の行為について、被告センターも共同して本件プログラムの著作権を侵害したと主張するものと理解でき、被告センターと被告学園との間の本件協力事業に関する業務委託契約においては第三者に業務を再委託することは禁止されており、被告センターは悪意により原告と契約を締結しなかったとも主張する。
 しかし、被告センターは、被告学園に対し、本件協力事業に関する業務を委託し(前記前提事実(3))、本件システムに付する機能について要望を述べたといえるものの(前記1(1))、いずれにしても被告センターが被告学園に対して前記アの各行為を行うことを指示したり、被告学園と共同し5てこれを行ったりしたと認めるに足りる証拠はなく、悪意により原告と契約を締結しなかったと認めるに足りる証拠もない。
 したがって、被告センターが被告学園と共同して本件プログラムに係る原告の複製権及び公衆送信権を侵害したと認めることはできない。
エ 以上によれば、被告学園のBが平成25年8月11日に被告学園プログラムを被告学園サーバーにアップロードした行為に係る原告の主張のうち、被告学園によって本件プログラムに係る原告の複製権及び公衆送信権(送信可能化権)が侵害されたとの主張は理由があるが、被告センターによってそれらの権利が侵害されたとの主張は理由がないというべきである。
(2)争点3−2(被告学園プログラムを改変したことによる著作権等侵害)について
ア前記1(6)、(8)、(10)のとおり、被告学園のBは、平成25年8月19日頃から、同年5月23日に取得した本件プログラムの複製物である被告学園プログラムについて、原告から送付されたデータベースを読み取ることができるようにしたり、同日以降に原告が本件システムに付加した機能を実装したり、原告において実施することが予定されていた作業を行ったり、同年8月31日からのSEHAIでの研修において新たな機能を追加したりした。
 そうすると、被告学園は、本件プログラムの複製物である被告学園プログラムについて、同プログラムが有する本来的な機能は維持しつつ、新たな機能を追加するため、同プログラムのソースコードに付加的な変更を加えたものと認められる。
 したがって、被告学園は、本件プログラムに依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、これに変更を加えて、新たな著作物を創作し、本件プログラムを改変したものであるから、本件プログラムの翻案権及び同一性保持権を侵害したと認めるのが相当である。
イ 被告学園は、被告学園プログラムを改変したことがあったとしても、被告学園は本件プログラムの複製物である被告学園プログラムの所有者であるから、著作権法47条の3第1項によりこれを翻案することができるし、著作権法20条2項3号、4号によりこれを使用することができる状態にしたにすぎないから、同一性保持権の侵害に当たらないと主張する。
 しかし、前記(1)イのとおり、被告学園プログラムは、本来、B自身が本件システムを理解するために利用されることが予定されていたものと認められるところ、Bが被告学園プログラムに加えた前記アの変更は、その内容からして、上記の目的に沿ってB自身がこれを使用することができる状態にしたにとどまらず、本来予定されていない新たな機能の追加を行うものであったというべきであるから、著作権法47条の3第1項に定める「必要と認められる限度」の翻案であるとも、著作権法20条2項3号、4号に定める「必要な改変」ないし「やむを得ないと認められる改変」とも認められない。
 したがって、被告学園の上記主張は理由がない。
ウ 原告は、前記アの被告学園の行為によって、被告センターも共同して本件プログラムの著作権等を侵害したと主張するものと理解できる。
 しかし、上記の行為について、被告センターによる本件プログラムの著作権等侵害が認められないことは、前記(1)ウと同様であり、原告の上記主張は理由がない。
エ 以上によれば、被告学園のBが平成25年8月19日から同年9月12日頃までの間に被告学園プログラムに機能を追加した行為に係る原告の主張のうち、被告学園によって本件プログラムに係る原告の翻案権及び同一性保持権が侵害されたとの主張は理由があるが、被告センターによってそれらの権利が侵害されたとの主張は理由がないというべきである。
(3)争点3−3(被告学園プログラムをデモンストレーションで使用するなどしたことによる著作権等侵害)について
ア 前記1(10)のとおり、被告学園は、平成25年8月31日から同年9月5日までの間、SEHAIにおいて研修を実施し、被告学園サーバー上の被告学園プログラムを使用して、本件システムのデモンストレーションを行ったが、上記研修に参加したのは、Bを除くと5名(被告学園の関係者を除くと3名)という少数の者にすぎない。そして、これらの者に加え、上記デモンストレーションの内容を不特定又は多数の者が知り得たことを認めるに足りる証拠はない。
 そうすると、上記研修において、被告学園が被告学園プログラムを公衆に提供又は提示したということはできないから、本件プログラムの公表権及び氏名表示権を侵害したとは認められない。
 他方で、上記研修において、Bが被告学園プログラムに新たな機能を追加するために同プログラムのソースコードに付加的な変更を加えたことにより、被告学園が本件プログラムの翻案権及び同一性保持権を侵害したことは、前記(2)アのとおりである。
イ 被告学園は、本件プログラムの複製物である被告学園プログラムの所有者であるから、著作権法47条の3第1項によりこれを翻案することができるし、被告学園プログラムを使用することができる状態にしたにすぎないから、著作権法20条2項3号、4号により同一性保持権の侵害に当たらないと主張するが、著作権法47条の3第1項及び著作権法20条2項3号、4号の適用が認められないことは、前記(2)イのとおりである。
ウ 原告は、前記アの被告学園の行為によって、被告センターも共同して本件プログラムの著作権等を侵害したと主張するが、この点についても、被告センターが本件プログラムの著作権等を侵害したとは認められないことは、前記(1)ウと同様であって、同主張は理由がない。
エ 以上によれば、平成25年8月31日から同年9月5日まで実施されたSEHAIの研修での被告学園プログラムのデモンストレーション等に係る原告の主張のうち、被告学園によって本件プログラムに係る原告の翻案権及び同一性保持権が侵害されたとの主張は理由があるが(ただし、同主張については、既に前記(2)において判断されている。)、被告学園によって本件プログラムに係る原告の公表権及び氏名表示権が侵害されたとの主張は理由がなく、被告センターによって上記の著作権等が侵害されたとの主張も理由がないというべきである。
(4)争点3−4(被告学園プログラムをサーバー上に保存したままにしたことによる著作権等侵害)について
ア 原告は、平成25年10月25日頃から平成26年7月14日までの間、被告学園ウェブサイト(被告学園サーバー上の被告学園プログラムに基づくウェブサイト)をインターネット上で閲覧することができたと主張し、陳述書(甲88)及び原告本人尋問の結果は、これに沿うものである。
 そして、前記1の認定事実のとおり、Bは、平成25年8月11日、被告学園プログラムのファイルを被告学園サーバーにアップロードし、その結果、被告学園ウェブサイトのトップページはインターネット上で閲覧可能となったこと(前記1(8))、原告は、平成26年6月5日、被告学園に対し、被告学園ウェブサイトがインターネット上で閲覧することができることを指摘し、これを受けて、被告学園は、被告学園サーバーに保存された被告学園プログラムのファイルを削除し、同年7月14日に原告に対してその旨回答したこと(前記1(17))が認められる。さらに、証拠(甲82)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、同年3月27日、ブラウザソフトであるインターネットエクスプローラーを使用して、被告学園ウェブサイトを閲覧することができることを確認したことが認められる。以上に照らせば、上記の陳述書の記載及び原告の供述は採用することができるというべきである。
 これに対し、証人Bは、平成25年9月16日以降、被告学園ウェブサイトから原告ウェブサイトに自動的に移動するようになったため、被告学園ウェブサイトをインターネット上で閲覧することはできなかったと証言する。しかし、上記のとおり、原告は、平成26年3月27日に、インターネットエクスプローラーを使用して被告学園ウェブサイトを閲覧することができることを確認していること、証人Bは、被告学園サーバーを管理していたところ、被告学園ウェブサイトをインターネット上で閲覧することができるように、被告学園サーバーの設定を変更し、被告学園ウェブサイトから原告ウェブサイトに自動的に移動することを解除したことがあるかという質問に対して、「今の記憶では、その作業をした記憶はちょっとないです。」、「明確な記憶はありません」、「もしやっていたとするならば、私の独断でやっていたとしか思えないです。」などとあいまいな回答をしていることからすると、平成25年10月25日頃以降において被告学園ウェブサイトをインターネット上で閲覧することはできなかったとの証人Bの上記証言は採用することができないというべきである。
 したがって、平成25年10月25日頃から平成26年7月14日までの間、被告学園ウェブサイトはインターネット上で閲覧することができたと認められる。
イ 前記1の認定事実並びに証拠(甲19、証人B)及び弁論の全趣旨によれば、前記アの認定事実に加え、平成25年9月16日以降、被告学園ウェブサイトを閲覧しようとすると自動的に原告ウェブサイトに移動するようにされていたため、被告学園ウェブサイトをインターネット上で閲覧することができなかったところ(前記1(12))、被告学園サーバーの設定を変更するためのパスワードを知っていたのはB及び原告(Bが被告学園サーバーのパスワードを変更した後はB)のみであったこと、同年10月3日時点で70名が本件システムのID及びパスワードを保有していたことが認められる。
 以上の事実に照らせば、被告学園のBは、被告学園サーバーの設定を変更し、同年10月25日頃から平成26年7月14日までの間、被告学園ウェブサイトのトップページをインターネット上で閲覧することができるようにし、被告学園ウェブサイトにログイン可能な者だけでも約70名に対して、原告の氏名を著作者名として表示することなく、被告学園ウェブサイトから被告学園プログラムにより実現される本件システムの機能を使用することができるようにしたと認めるのが相当である。
 したがって、被告学園は、原告の氏名を表示することなく、約70名という多数の者に対して本件プログラムの複製物である被告学園プログラムの無線通信又は有線電気通信の送信を可能とし、提示したといえるので、本件プログラムの公衆送信権(送信可能化権)、公表権及び氏名表示権を侵害したと認められる。
 他方で、被告学園が、上記のとおり、原告ウェブサイトへの移動を解除するように被告学園サーバーの設定を変更した際、被告学園プログラムを複製したことを認めるに足りる証拠はないから、本件プログラムの複製権を侵害したとは認められない。
ウ 原告は、前記イの被告学園の行為によって、被告センターも共同して本件プログラムの著作権等を侵害したと主張するものと理解できるが、この点についても、被告センターが本件プログラムの著作権等を侵害したとは認められないことは、前記(1)ウと同様であって、同主張は理由がない。
エ 以上によれば、被告学園が平成25年10月25日から平成26年7月14日まで被告学園プログラムを被告学園サーバーに保存していた行為に係る原告の主張のうち、被告学園によって本件プログラムに係る原告の公衆送信権(送信可能化権)、公表権及び氏名表示権が侵害されたとの主張は理由があるが、被告学園によって本件プログラムに係る原告の複製権が侵害されたとの主張は理由がなく、被告センターによって上記の著作権等が侵害されたとの主張も理由がないというべきである。
(5)争点3−5(被告学園プログラムを第三者に貸与するなどしたことによる著作権等侵害)について
ア 被告学園は、本件システムの開発が中断したことから、平成25年12月1日、兼松との間で、本件システムの開発に係る業務委託契約を締結し、この際、兼松に対し、被告学園プログラムのファイルを渡したところ(前記1(15))、証人Bがソースコードを紙に印刷したものを渡したのではないと証言していることに照らせば、被告学園は、兼松に渡すために、被告学園プログラムを電磁的記録媒体に保存したと推認するのが相当である。
 したがって、被告学園は、本件プログラムの複製物である被告学園プログラムを電磁的記録媒体に保存することによりこれを有形的に再製したといえるので、本件プログラムの複製権を侵害したと認められる。
 他方で、平成26年2月24日から同月28日まで実施されたSEHAI教務管理研修で使用された教材の写真(甲29、乙12の1)並びに被告学園プログラムと兼松が開発したシステムに係るプログラムの実行画面及びソースコードの比較表(乙14、17)によっても、兼松が開発したシステムに係るプログラムが、本件プログラムに依拠し、かつ、表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えたものであるとは直ちに認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。また、被告学園が兼松に対して被告学園プログラムのファイルを渡したことをもって、これを公衆に提供又は提示したということはできない。
 したがって、被告学園が、本件プログラムの翻案権、貸与権、公表権、氏名表示権及び同一性保持権を侵害したとは認められない。
イ 被告学園は、本件プログラムの複製物である被告学園プログラムの所有者であるから、著作権法47条の3第1項によりこれを複製することができると主張する。
 しかし、前記アのとおり、被告学園は、本件システムの開発に係る業務を委託した兼松に対し、被告学園プログラムを渡すためにこれを複製したものであるから、著作権法47条の3第1項に定める「自ら当該著作物を電子計算機において利用するために必要と認められる限度」の複製であるということはできない。
したがって、被告学園の上記主張は理由がない。
ウ 原告は、兼松に対して被告学園が本件プログラムを渡したことについて、被告センターも被告学園と共同して本件プログラムの著作権等を侵害したと主張するが、この点についても、被告センターが本件プログラムの著作権等を侵害したとは認められないことは、前記(1)ウと同様であって、同主張は理由がない。
(6)小括
 以上によれば、被告学園は、@被告学園プログラムを被告学園サーバーにアップロードしたことにより、本件プログラムに係る原告の複製権及び公衆送信権(送信可能化権)を侵害し(前記(1)ア)、A原告から送付されたデータベースを読み取ることができるようにすることなどのために、被告学園プログラムに変更を加えたことにより、本件プログラムに係る原告の翻案権及び同一性保持権を侵害し(前記(2)ア、(3)ア)、B原告の氏名を表示することなく被告学園ウェブサイトをインターネット上で閲覧することができるようにしたことにより、本件プログラムに係る原告の公衆送信権(送信可能化権)、公表権及び氏名表示権を侵害し(前記(4)イ)、C兼松に被告学園プログラムを渡すに当たり、被告学園プログラムを電磁的記録媒体に保存したことにより、本件プログラムに係る原告の複製権を侵害した(前記(5)ア)。
 他方で、被告センターについては、本件プログラムに係る著作権侵害行為及び著作者人格権侵害行為があったとは認められない。
5 争点4(被告らの利益及びこれと因果関係のある原告の損失)について
(1)著作権侵害行為に係る利益及び損失について
ア 被告学園は、前記4の著作権侵害行為につき、本来原告に支払うべき金銭を支払っていないから、その金銭の額に相当する額の利益を受け、原告に同額の損失を及ぼしたと認められる。そこで、以下、上記の額(利用料相当額)がいくらであるのかについて検討する。
 原告は、被告学園から、平成24年12月から平成25年3月までの本件システムの開発費用として、105万円を受け取った(前記1(4))。これは、前記3のとおり、著作権の対価ではなく、それまでの労務の対価として支払われたものであったが、原告が上記の金銭を受け取った時点で、本件プログラムは、本件システムの半分程度を完成させたにとどまるものであった(前記1(5))。Cは、同年10月頃、原告に対し、本件システムの残りの開発に係る開発費用として、120万円を支払うことを提案しており(前記1(14))、当該提案がされた経緯や提案された金額からすれば、これは、残り半分程度の本件システム開発に係る労務の対価に加えて、被告学園が原告から本件システムに係るプログラムの著作権を取得する対価を含む趣旨での提案であったものと推認することができる。
 以上に加え、上記提案のほかに原告と被告学園が本件プログラムの対価の具体的な金額について協議したと認めるに足りる証拠はないこと、前記4の被告学園の本件プログラムの著作権等侵害の態様等、本件に現れた一切の事情を考慮すると、被告学園が前記4の著作権侵害行為について、本件プログラムの著作権の利用料相当額としての利益を受け、原告に損失を及ぼした金額は20万円と認めるのが相当である。
イ 原告は、平成25年4月1日から同年10月15日までの本件システムの開発に係る委託費用相当額の損失をも被ったと主張して、被告らに対し5同額の不当利得の返還を請求するので、以下検討する。
 前記1(4)ないし(6)、(11)ないし(14)の経緯に照らせば、被告らは上記期間に対応する本件システムの開発の成果物を受領していないし、原告と被告らとの間において、上記期間に係る本件システムの開発の委託費用の支払を合意したとも認められない(むしろ原告は、被告学園に対し、Bへの本件圧縮ファイルの送付以降の開発費用等の支払は不要であると伝えている。)。そうすると、被告らにおいて、原告による平成25年4月1日から同年10月15日までの対応する本件システムの開発に係る利益を受けたと認めることはできない。
 また、前記2、3のとおり、本件プログラムの著作権は原告に帰属しており、被告らは、本件プログラムの著作権を取得しておらず、本件全証拠によってもこれを利用する権原を取得したとも認められないから、被告らは原告の許諾なく本件プログラムを利用することはできない。そうすると、被告らにおいて、原告に本件プログラムを作成させた対価を支払う必要はないというべきであり、その支払を免れたことによる利益を受けたとは認められない。
 したがって、原告が被告らに対して委託費用相当額の不当利得返還請求権を有しているとは認められず、原告の上記主張は理由がない。
(2)著作者人格権侵害行為による被告学園の利益について
 原告は、被告学園の前記4の著作者人格権侵害行為により精神的苦痛を受け、慰謝料相当額の損失を被り、プログラム著作権の登録費用相当額及び弁護士費用相当額の損失を被ったと主張する。
 しかし、被告学園が、前記4の著作者人格権侵害行為によって、これらの金額に相当する利益を受けたとは認められないから、原告の上記主張は理由がない。
6 原告の文書提出命令の申立てについて
 原告は、被告らが不当に利益を得た事実を証明するために、民訴法220条2号、3号を原因として、@平成25年度産油国石油精製技術等対策補助金(産油国開発支援事業等のうち産油国産業協力等事業に係るもの)に係る一部業務の外部委託について、「サウジアラビア電子機器・家電製品研修所自立運営への協力事業に関する業務委託契約書」、付属書T「実施計画書」、付属書U「経費内訳書(補助事業に要する経費、補助対象経費及び補助金の積算内訳)」、別紙1「作業体制および作業担当者構成」及び別紙2「平成25年度作業工程表」を含むすべて、A平成25年度産油国石油精製技術等対策補助金(産油国開発支援事業等のうち産油国産業協力等事業に係るもの)実績報告書及び別紙1「平成25年度補助事業経費内訳」を含むすべてにつき、文書提出命令を申し立てた(当庁平成30年(モ)第10055号)。
 しかし、上記「サウジアラビア電子機器・家電製品研修所自立運営への協力事業に関する業務委託契約書」及び付属書T「実施計画書」は、甲第34号証、第35号証として提出され、取り調べられているから、当該文書について重ねて取調べをする必要性がない。
 また、被告センターが実施する本件協力事業に関し、補助金等を受領していたとしても、それに対応する損失が原告に生じていると認めるに足りる証拠はないから、この点について、被告センターは原告に対する不当利得返還義務を負わない。
 さらに、被告センターが本件プログラムに係る原告の著作権又は著作者人格権を侵害したとは認められないことは、前記4のとおりであり、この点についても、被告センターは原告に対する不当利得返還義務を負わない。
 したがって、上記文書提出命令の申立てに係る文書はいずれも証拠調べの必要性が認められないから、同申立てはこれを却下する。
第4 結論
 前記第3の1(11)によれば、原告が、平成25年9月11日、Cと面談し、本件システムに係るプログラムの著作権の取扱いや被告学園が支払う本件システムの開発費用全体について協議したと認められることからすると、原告は、同日、被告学園に対し、本件プログラムの著作権の利用料相当額を請求したと認めるのが相当である。
 したがって、原告の被告学園に対する請求は、不当利得返還請求権に基づき、利得金20万円及びこれに対する請求日の翌日である平成25年9月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから同限度で認容すべきであり、被告学園に対するその余の請求は理由がない。
 また、前記第3の4のとおり、被告センターが本件プログラムに係る原告の著作権又は著作者人格権を侵害したとは認められないから、被告センターに対する不当利得返還請求は理由がない。
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 國分隆文
 裁判官 小川暁
 裁判官 矢野紀夫


(別紙)原告プログラム目録
 サウジアラビア電子機器・家電製品研修所向け教務管理システムに係るプログラム
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