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【事件名】ソフトバンクへの発信者情報開示請求事件K
【年月日】令和2年11月16日
 東京地裁 令和2年(ワ)第10689号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和2年9月23日)

判決
原告 日本コロムビア株式会社
原告 株式会社JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント
上記2名訴訟代理人弁護士 林幸平
同 笠島祐輝
同 尋木浩司
同 前田哲男
同 福田祐実
被告 ソフトバンク株式会社
同訴訟代理人弁護士 金子和弘


主文
1 被告は、原告日本コロムビア株式会社に対し、別紙発信者情報目録記載1の各情報を開示せよ。
2 被告は、原告日本コロムビア株式会社に対し、別紙発信者情報目録記載2の各情報を開示せよ。
3 被告は、原告株式会社JVCケンウッド・ビクターエンタテインメントに対し、別紙発信者情報目録記載3の各情報を開示せよ。
4 被告は、原告株式会社JVCケンウッド・ビクターエンタテインメントに対し、別紙発信者情報目録記載4の各情報を開示せよ。
5 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、レコード製作会社である原告らが、インターネット接続プロバイダ事業を営む被告に対して、被告の用いる電気通信設備を経由したファイル交換ソフトウェアの使用によって、原告らがレコード製作者の権利を有するレコードについての送信可能化権(著作権法96条の2)が侵害されたことが明らかであり、上記のソフトウェアの使用者に対する損害賠償請求等のために必要であるとして、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づいて、別紙発信者情報目録記載1ないし4の各情報(以下、併せて「本件各発信者情報」という。)の開示を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがない事実又は後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者
ア 原告らは、レコードを製作の上、これを複製して音楽CD等として発売している株式会社である(弁論の全趣旨)。
イ 被告は、一般利用者に対してインターネット接続プロバイダ事業等を行っている株式会社であり(争いのない事実)、法2条3号の特定電気通信役務提供者である(弁論の全趣旨)。
(2)原告らの送信可能化権
ア 原告日本コロムビア株式会社(以下「原告日本コロムビア」という。)は、Aが歌唱する楽曲を録音したレコードを製作し、タイトル名を「ライカ」とする音楽CD(商品番号:COCP−40800)に収録して、令和元年5月7日、これを日本全国で発売した(甲3)。
 原告日本コロムビアは、上記レコードについて、レコード製作者としての送信可能化権を有する。
イ 原告日本コロムビアは、Bが歌唱する楽曲を録音したレコードを製作し、タイトル名を「空が呼ぶほうへ」とする音楽CD(商品番号:COCC−17609)に収録して、平成31年4月24日、これを日本全国で発売5した(甲7)。
 原告日本コロムビアは、上記レコードについて、レコード製作者としての送信可能化権を有する。
ウ 原告株式会社JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント(以下「原告JVC」という。)は、Cが歌唱する楽曲を録音したレコードを製作し、タイトル名を「花咲キオトメ」とする音楽CD(商品番号:VICL−37469)に収録して、平成31年3月20日、これを日本全国で発売した(甲11)。
 原告JVCは、上記レコードについて、レコード製作者としての送信可能化権を有する。
エ 原告JVCは、Dが歌唱する楽曲を録音したレコードを製作し、タイトル名を「TRICK」とする音楽CD(商品番号:VICL−37470。以下、前記アないしウの各レコードと併せて「本件各レコード」という。)に収録して、平成31年3月20日、これを日本全国で発売した(甲15)。
 原告JVCは、上記レコードについて、レコード製作者としての送信可能化権を有する。
(3)被告は、本件各発信者情報を保有している(争いのない事実)。
3 争点
(1)原告らの送信可能化権が侵害されたことが明らかであるか(争点1)
(2)本件各発信者情報は権利侵害に係る発信者情報といえるか(争点2)
(3)本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか(争点3)
4 争点に関する当事者の主張
(1)争点1(原告らの送信可能化権が侵害されたことが明らかであるか)及び争点2(本件各発信者情報は権利侵害に係る発信者情報といえるか)について
(原告らの主張)
 氏名不詳者らは、それぞれ、別紙発信者情報目録記載1ないし4の各日時頃、被告のインターネット接続サービスを利用し、同目録記載1ないし4の各アイ・ピー・アドレスの割当てを受けてインターネットに接続し、ファイル交換ソフトウェアであるBitTorrentを用いて、本件各レコードにつき、これらを複製したファイルを、不特定多数の他のBitTorrentの利用者からの求めに応じて自動的に送信し得る状態にした。
 上記の各送信可能化行為について、著作隣接権の権利制限事由(著作権法102条。同条1項が準用する同法30条以下を含む。)は存在しないため、これらの行為を行った各氏名不詳者(以下「本件各発信者」と総称する。)によって、原告らが本件各レコードに対して有する送信可能化権が侵害されたことが明らかであり(法4条1項1号)、当該送信可能化権侵害との関係において、被告は開示関係役務提供者に、本件各発信者情報は権利侵害に係る発信者情報にそれぞれ該当する(同条1項柱書)。
(被告の主張)
 原告らの主張に係る事実はいずれも不知。
 本件各発信者が原告らの送信可能化権を侵害したとの主張及び被告が開示関係役務提供者に当たるとの主張はいずれも争う。
(2)争点3(本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか)について
(原告らの主張)
 原告らは、本件各レコードについての送信可能化権侵害に基づき、本件各発信者に対して損害賠償請求及び差止請求を行う必要があるから、本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある(法4条1項2号)。
(被告の主張)
 原告らの主張に係る事実はいずれも不知。
 本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとの主張は争う。
 なお、損害賠償請求及び差止請求を行うには、氏名及び住所の情報があれば十分であり、電子メールアドレスが必要となる特段の事情は認められないから、氏名及び住所のほかに電子メールアドレスの開示を受けるべき正当な理由があるとはいえない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(原告らの送信可能化権が侵害されたことが明らかであるか)及び争点2(本件各発信者情報は権利侵害に係る発信者情報といえるか)について
(1)証拠(甲1ないし17)及び弁論の全趣旨によれば、本件各発信者が、本件各レコードについて、それぞれ、別紙発信者情報目録記載1ないし4の各日時頃、被告のインターネット接続サービスを利用し、同目録記載1ないし4の各アイ・ピー・アドレスの割当てを受けてインターネットに接続し、ファイル交換ソフトウェアであるBitTorrentを用いて、本件各レコードにつき、これらを複製したファイルを、不特定多数の他のBitTorrentの利用者からの求めに応じて自動的に送信し得る状態にしたことが認められ、本件全証拠によっても、当該各行為について、原告らによる許諾、著作隣接権の権利制限事由その他の違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情は認められない。
(2)以上によれば、本件各発信者の前記各行為に係る情報の流通によって原告らの本件各レコードの送信可能化権が侵害されたことが明らかであり、本件各発信者情報は、各権利侵害に係る発信者情報に該当すると認められる。
2 争点3(本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか)について
 証拠(甲1、3、5、7、9、11、13、15)及び弁論の全趣旨によれば、原告らは、それぞれ、前記1のとおり自己の送信可能化権を侵害したことが明らかな本件各発信者に対して、損害賠償請求及び差止請求を行う意思を有しており、そのためには、被告が保有する本件各発信者情報の開示を受ける必要があると認められるから、それぞれ、自己の権利侵害に係る発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるといえる。
 被告は、損害賠償請求及び差止請求を行うには氏名及び住所の情報があれば十分であり、電子メールアドレスが必要となる特段の事情は認められないから、これの開示を受けるべき正当な理由があるとはいえないと主張する。しかし、法4条1項に基づき定められた、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第4条第1項の発信者情報を定める省令においては、「氏名又は名称」及び「住所」と同様に侵害情報の特定に資する情報の一つとして「電子メールアドレス」が挙げられている(同省令4号)。実際に、被告が保有する発信者その他侵害情報の送信に係る者の氏名又は住所が虚偽であった場合や同人が転居していた場合等、氏名及び住所だけでは発信者を十分に特定することができず、発信者の電子メールアドレスが特定に資する場合も想定され得る。これらの点に鑑みると、本件において、原告らには電子メールアドレスの開示を受けるべき正当な理由があるというべきであり、被告の上記主張は理由がない。
3 結論
 以上のとおり、本件各レコードの送信可能化に係る侵害情報の流通によって原告らの権利が侵害されたことが明らかであって、本件各発信者情報はこれらの権利侵害に係る発信者情報に該当し、原告らには、それぞれ発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるといえるから、上記送信可能化に係る通信を媒介した被告は、開示関係役務提供者として、本件各発信者情報を開示すべき義務を負う。
 よって、原告らの請求は、いずれも理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 國分隆文
 裁判官 小川暁
 裁判官 佐々木亮


(別紙)発信者情報目録
1 令和元年7月28日4時37分31秒頃に「(アイ・ピー・アドレスは省略)」というアイ・ピー・アドレスを使用してインターネットに接続していた者の氏名又は名称、住所及び電子メールアドレス
2 令和元年7月28日4時02分45秒頃に「(アイ・ピー・アドレスは省略)というアイ・ピー・アドレスを使用してインターネットに接続していた者の氏名又は名称、住所及び電子メールアドレス
3 令和元年7月28日3時36分00秒頃に「(アイ・ピー・アドレスは省略)」というアイ・ピー・アドレスを使用してインターネットに接続していた者の氏名又は名称、住所及び電子メールアドレス
4 令和元年7月28日3時30分22秒頃に「(アイ・ピー・アドレスは省略)」というアイ・ピー・アドレスを使用してインターネットに接続していた者の氏名又は名称、住所及び電子メールアドレス
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