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【事件名】KDDIへの発信者情報開示請求事件N
【年月日】令和2年9月25日
 東京地裁 令和2年(ワ)第9105号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和2年7月29日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 齋藤理央
被告 KDDI株式会社
同訴訟代理人弁護士 今井和男
同 小倉慎一
同 山本一生


主文
1 被告は、原告に対し、別紙1発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は、原告が、電気通信事業を営む被告に対し、被告の電気通信設備を用いてウェブサイトに別紙4写真画像目録記載の画像(以下「本件写真画像」という。)を複製したものが掲載されたことによって、本件写真画像に係る原告の著作権(複製権及び自動公衆送信権(送信可能化権を含む。以下同じ。))が侵害されたことが明らかであるとして、その投稿を行った者(以下「本件投稿者」という。)に対する損害賠償請求権の行使のため、被告が保有する別紙1発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を受けるべき正当な理由があるとして、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、本件発信者情報の開示を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)原告は、夜景等の撮影を行う写真家であり、「夜景INFO」と題するウェブサイト等を運営する者である(甲8、乙2)。
 被告は、電気通信事業等を営む株式会社である。
(2)原告は、平成24年12月29日、阪南スカイタウン展望緑地(以下「本件展望台」という。)から、りんくうゲートタワー方面の夜景を撮影し(以下、この撮影に係る写真を「本件写真」という。)、その後、本件写真の画像データの右下部分に「Copyright(c)NightViewPhotographerB」との文字(以下「本件文字」という。)を付加した本件写真画像を作成した(甲1、6、7、乙1)。
(3)本件投稿者は、株式会社サイバーエージェントが提供するインターネット上のブログサービスである「Ameba」を利用して、誰でも閲覧可能な「Jun☆Story」と題するウェブサイトを開設していたところ、令和元年12月27日午後8時20分12秒、同ウェブサイトに別紙2流通情報目録記載4の記事ページURLに存在する記事を投稿した(以下、この記事を「本件記事」といい、本件記事を投稿した行為を「本件投稿」という。)。本件記事の内容は別紙3投稿記事目録記載のとおりであり、別紙2流通情報目録記載3の記事タイトルが付されるとともに、同目録記載6の画像URLに保存された画像(以下「本件投稿画像」という。)が掲載されていた。本件投稿画像は本件写真画像を複製したものであるが、原告が、本件投稿者に対し、本件写真画像を複製することや本件記事に掲載することを許可したことはなかった。(甲1ないし4)
(4)被告は、本件投稿者が本件投稿をした際、本件投稿者に対し、別紙2流通情報目録記載1の投稿時IPアドレスを割り当てたものであって(甲4)、プロバイダ責任制限法4条1項柱書の「開示関係役務提供者」に該当し、本件発信者情報を保有している。
3 点
(1)本件投稿による権利侵害の明白性(争点1)
ア 本件写真画像の著作物性(争点1−1)
イ 適法な引用の成否(争点1−2)
(2)開示を求める正当な理由の有無(争点2)
4 争点に関する当事者の主張
(1)争点1(本件投稿による権利侵害の明白性)について
ア 争点1−1(本件写真画像の著作物性)について
(原告の主張)
 本件展望台からは180度近い視界が広がっているため、撮影する方角やズームの程度、レンズの画角等の組合せにより、被写体の選択や組合せに非常に大きな幅がある。
 そして、本件写真は、原告が、露光時間及び絞り値を調整するとともに、気象条件を調査し、撮影時間帯を選択するなどした上で撮影した作品であるから、本件写真に撮影者である原告の個性が現れていることは明らかである。
 したがって、本件写真及びこれに本件文字を付加した本件写真画像は、思想又は感情を創作的に表現したものであって、「著作物」(著作権法2条1項1号)に当たる。
(被告の主張)
 本件写真の被写体であるりんくうゲートタワー及びその周辺の建造物は、屋外に恒常的に設置されているものであるから、これを被写体として撮影しようとすれば、焦点距離や撮影位置、構図等の表現の選択の幅は必然的に限定される。
 また、本件写真の構図自体はありふれたものである。
 したがって、本件写真及びこれに本件文字を付加した本件写真画像は、撮影者の個性が現れたものとはいえないので、創作性がなく、「著作物」には該当しない。
イ 争点1−2(適法な引用の成否)について
(原告の主張)
 本件記事は、「よく和歌山県の夜景を見に出掛けたことある」と記載されているように、和歌山県の夜景に関する本件投稿者の嗜好を表現するものであるところ、本件写真画像は、本件展望台から大阪府内に所在するりんくうゲートタワー周辺を被写体として撮影した本件写真に基づいて作成されたものであるから、本件記事に本件写真画像を利用する必要性はなかった。
 また、上記のような嗜好を表明するだけのわずか6行の本件記事に写真を挿入する必要性はそもそもない。
 そうすると、本件投稿者が本件写真画像を本件記事内で利用したことは、「公正な慣行に合致」したものでも、「引用の目的上正当な範囲内」といえるものでもないから、適法な「引用」(著作権法32条1項)には該当しない。
(被告の主張)
 本件記事において、「夜景を見るの大好き」、「お父さんが単身赴任中、お母さんと私と妹と愛犬とよく和歌山県の夜景を見に出掛けたことある」、
 「私は和歌山県の夜景が一番好きかな」との記載があり、当該記載の直後に本件投稿画像が掲載されていることからすると、本件投稿画像は、本件記事の閲覧者が和歌山県の夜景を想像できるように、いわば参照の目的で掲載されたものにすぎない。
 また、本件投稿画像は、本件記事の他の部分と明瞭に区分されており、当該他の部分が主で、本件投稿画像は従であるといえる。
 さらに、本件投稿画像は、本件文字(「Copyright(c)NightViewPhotographerB」)が付されたまま掲載されているので、出所の明示もされている。
 以上によれば、本件投稿者による本件写真画像の本件記事内での利用は、「公正な慣行に合致」し、かつ、「引用の目的上正当な範囲内」で「引用」したものである。
(2)争点2(開示を求める正当な理由の有無)について
(原告の主張)
ア 原告は、本件投稿者に対して、本件写真画像の著作権侵害(複製権及び自動公衆送信権侵害)に基づく損害賠償請求をする権利を有し、当該権利の行使のためには本件発信者情報が必要であるから、本件発信者情報の開示を受ける正当な理由がある。
イ 被告は、本件写真画像が一般に公開されていることを根拠として、原告には、本件投稿による損害が発生しておらず、本件発信者情報の開示を受ける正当な理由があるとはいえない旨主張する。
 しかしながら、原告は、自己の撮影した写真を利用する者に対し、1枚当たり2万円(税別)の利用料を請求しているから、本件写真画像の無断利用によって、少なくとも同利用料相当額の損害が生じている。
 したがって、被告の上記主張には理由がない。
(被告の主張)
 原告は、自らが運営する「夜景INFO」と題するウェブサイトにおいて本件写真画像を掲載しており、広く一般の者が、IDやパスワードを必要とせずに本件写真画像を閲覧することができる。
 したがって、本件投稿により、原告に本件写真画像の著作権侵害による損害が発生しているとはいえないから、原告には、本件発信者情報の開示を受ける正当な理由があるとはいえない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件投稿による権利侵害の明白性)について
(1)争点1−1(本件写真画像の著作物性)について
ア 前記前提事実、証拠(甲1、6、8、乙1)及び弁論の全趣旨によれば、本件写真は、原告が、空気の透明度が高い冬季において、天候が良好な日の夜間に、約180度の眺望を有する本件展望台から見ることができる夜景のうち、大阪府内所在のりんくうゲートタワー及びその周辺の建造物の組合せを被写体として選択し、中でも目を引く建造物であるりんくうゲートタワーを構図のほぼ中心に据え、その左右に複数の建造物がそれぞれ配置されるようにして、カメラについては、「70−200mm」のレンズを選択し、レンズ焦点距離を「200.00mm」、シャッター速度を「16.0秒」、絞り値を「f/9」とするなどの設定をした上で、ストロボ発光なしで撮影したものと認められる。
 そうすると、本件写真は、原告において、撮影時期及び時間帯、撮影時の天候、撮影場所等の条件を選択し、被写体の組合せ、選択及び配置、構図並びに撮影方法を工夫し、シャッターチャンスを捉えて撮影したものであり、原告の個性が表現されているものと認められる。
 したがって、原告が撮影した本件写真及びこれに本件文字を付加して作成した本件写真画像は、いずれも、原告の思想又は感情を創作的に表現したものということができるから、「著作物」(著作権法2条1項1号)に該当する。
イ 被告は、本件写真の被写体であるりんくうゲートタワー及びその周辺の建造物は、屋外に恒常的に設置されているものであるから、これを被写体として撮影しようとすれば、焦点距離や撮影位置、構図等の表現の選択の幅は必然的に限定され、本件写真の構図自体ありふれたものであるから、撮影者の個性が現れたものとはいえず、本件写真には創作性がない旨主張する。
 しかしながら、別紙4写真画像目録記載の本件写真画像から明らかなように、本件展望台からの眺望は広く、撮影することができる建造物は多数あり、それらから発せられる光も様々であるから、どのような位置から、どのような構図で撮影するか、どの建物に焦点を合わせるかといった選択の幅が限定的であるということはできない。
 そして、前記アのとおり、原告は、上記の幅の中から1つの撮影位置、構図及び焦点距離を選択した上、さらに、撮影時期及び時間帯、撮影時の天候等の条件についても選択して、撮影方法を工夫し、シャッターチャンスを捉えて撮影したものであるから、本件写真には、原告の個性が現れているものと認められる。
 したがって、被告の上記主張を採用することはできない。
(2)争点1−2(適法な引用の成否)について
ア 前記前提事実、証拠(甲3)及び弁論の全趣旨によれば、別紙3投稿記事目録記載のとおり、本件記事は、「夜景見るの好き?」というタイトルのブログであって、「夜景を見るの大好き」、「お父さんが単身赴任中、お母さんと私と妹と愛犬とよく和歌山県の夜景を見に出掛けたことある」、「他の都道府県の夜景もキレイかも知れないけど私は和歌山県の夜景が一番好きかな」との5行の記載に続いて、和歌山県方面ではなく大阪府方面の夜景を撮影した本件写真画像を複製した本件投稿画像が掲載され、その直下に「どの町の夜景もキレイで好き」との1行の記載がされたものであると認められる。
 そうすると、本件記事は、本件投稿者が、夜景を見ることが好きであり、特に和歌山県の夜景を一番好んでいるという自身の嗜好を、夜景に関する思い出とともに記載したものであると理解できるが、このような嗜好や思い出を記載する中で本件写真画像を利用する必要性は乏しいというべきである。
 しかも、本件写真画像は、大阪府方面を撮影したものであって、本件記事の内容とは直接的な関連がないのみならず、本件写真画像を複製した本件投稿画像が「他の都道府県の夜景もキレイかも知れないけど私は和歌山県の夜景が一番好きかな」との記載と「どの町の夜景もキレイで好き」との記載の間に配置されていることから、本件記事の読者が和歌山県内の夜景写真であると誤認する可能性もある。
 また、本件記事は、本文が4文(6行)と非常に短いため、本件投稿画像が本件記事全体の相当の部分を占めているといえる。
 以上によれば、本件記事における本件写真画像の利用は、「報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内」のものであるとも、「公正な慣行に合致するもの」とも認められないというべきである。
 したがって、本件投稿者による本件写真画像の利用は、適法な引用(著作権法32条1項)には該当しない。
イ 被告は、@本件投稿画像が本件記事の読者において和歌山県の夜景を想像できるように参照の目的で掲載されたものにすぎず、また、A本件投稿画像は、本件記事の他の部分と明瞭に区分されており、B当該他の部分が主で、本件投稿画像は従であって、C本件文字が付されたまま掲載されているので、出所の明示もされているから、本件記事における本件写真画像の利用は、適法な引用である旨主張する。
 しかしながら、上記@については、仮に本件投稿者が参照の目的で本件写真画像を利用したとしても、前記アのとおり、同画像が和歌山県内の夜景写真であると誤認される可能性があることから、引用の目的上正当な範囲内での利用ということはできない。
 また、上記Aについては、外観上、本件記事の文字部分と本件投稿画像の部分とを一応区別して認識できるものの、意味内容としては、それらが一体として本件記事を構成していることから、両者を明瞭に区分できるとまでは認められない。
 さらに、上記Bについては、前記アのとおり、本件投稿画像が本件記事の相当の部分を占めていることから、本件投稿画像以外の部分が主であると認めることはできない。
 そうすると、本件文字を削除することなく本件写真画像を利用したという上記Cの事情を考慮しても、前記アの認定を左右するには至らないというべきである。
(3)小括
 以上によれば、本件記事における本件写真画像の利用は、適法な引用(著作権法32条1項)に該当せず、本件投稿により、原告の本件写真画像に対する著作権(複製権及び自動公衆送信権)が侵害されたことは明らかであると認められる。
2 点2(開示を求める正当な理由の有無)について
(1)証拠(甲4)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件投稿者に対し、本件写真画像の著作権侵害について不法行為に基づく損害賠償請求をする意思を有しており、その請求のためには、被告が保有する本件発信者情報の開示を受ける必要があるものと認められる。したがって、原告には、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるといえる。
(2)被告は、本件写真画像が「夜景INFO」と題するウェブサイトに掲載され、誰でも閲覧することができることを根拠に、原告に損害が発生したとは想定し難いとして、原告には本件発信者情報の開示を受ける正当な理由があるとはいえない旨主張する。
 しかしながら、証拠(甲9)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、上記ウェブサイトに掲載された画像を使用する者に対し、使用する媒体の目的を問わず、使用料として画像1点当たり2万円(税別)の支払を求めていることが認められるから、本件投稿者が原告に無断で本件写真を使用したことにつき、損害の発生が想定し難いとはいえない。
 したがって、被告の上記主張は採用することができない。
3 結論
 以上のとおり、本件投稿により原告の権利が侵害されたことが明らかであり、かつ、原告には本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由もあるといえるから、本件投稿に係る通信を媒介した被告は、開示関係役務提供者として本件発信者情報を開示すべき義務を負う。
 よって、原告の請求は理由があるから、これを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 國分隆文
 裁判官 小川暁
 裁判官 佐々木亮


(別紙1)発信者情報目録
 別紙2流通情報目録記載2の投稿日時に同目録記載1の投稿時IPアドレスを被告により割り当てられていた契約者の以下の情報。
1 氏名又は名称
2 住所
 以上

(別紙2流通情報目録は省略)
(別紙3投稿記事目録は省略)
(別紙4写真画像目録は省略)
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