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【事件名】ソフトバンクへの発信者情報開示請求事件J
【年月日】令和2年9月24日
 東京地裁 令和元年(ワ)第31972号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和2年8月28日)

判決
原告 A(以下「原告A」という。)
原告 B(以下「原告B」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士 野口明男
同 藤井智裕
被告 ソフトバンク株式会社
同訴訟代理人弁護士 五十嵐敦
同 小塩康祐
同 山口翔平


主文
1 被告は、原告Aに対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 被告は、原告Bに対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
3 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
 本件は、原告らが、被告に対し、原告Aの著作物であり原告Bを被撮影者とする動画の一部等が、被告の提供するプロバイダを経由してインターネット上のウェブサイトに投稿されたことによって、原告Aの著作権並びに原告Bの肖像権及び名誉権が侵害されたところ、各損害賠償請求権の行使のために必要であると主張して、それぞれ、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項所定の発信者情報開示請求権に基づき、上記の各権利侵害に係る発信者情報である別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件各情報」という。)の開示を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実及び証拠上容易に認められる事実。証拠は文末に括弧で付記した。なお、書証は特記しない限り枝番を全て含む。以下同じ。)
(1)当事者
 原告らは、夫婦である。(弁論の全趣旨)
 被告は、電気通信事業等を目的とする株式会社であり、プロバイダ責任制限法2条3号所定の特定電気通信役務提供者である。(弁論の全趣旨)
(2)投稿記事の存在等
ア 氏名不詳者は、令和元年9月19日午前2時59分33秒頃、有限会社YDC(以下「YDC」という。)が開設したインターネット上のウェブサイトである「ホストラブ」((URLは省略)、以下「本件掲示板」という。)に、別紙画像目録記載の画像(以下「本件画像」という。)を添付して、別紙投稿記事目録の「投稿内容」欄記載の投稿(以下「本件投稿」という。)をした。(甲1、2、6〜8、10、14、15、18、弁論の全趣旨(これらの証拠及び弁論の全趣旨によれば、YDCが本件掲示板を開設していることが認められる。))
イ 原告Bは、YDCから、本件投稿に係るアイ・ピー・アドレスとして、別紙投稿記事目録記載のアイ・ピー・アドレス(以下「本件IPアドレス」という。)の開示を受けた。(甲2、9、弁論の全趣旨)
 被告は、令和元年9月19日午前2時59分33秒に本件IPアドレスを割り当てられた特定電気通信設備を用いており、被告から同時刻に同特定電気通信設備を特定電気通信の用に供された者の氏名及び住所に係る情報を保有している。(争いがない事実のほか、甲4)
2 争点及び争点に関する当事者の主張
 本件の争点は、
 @ 本件投稿によって原告Aの著作権が侵害されたことが明らかといえるか。
 A 本件投稿によって原告Bの肖像権が侵害されたことが明らかといえるか。
 B 本件投稿によって原告Bの名誉権が侵害されたことが明らかといえるか。
 C 本件各情報が原告らの権利の侵害に係る発信者情報であるか。
 D 本件各情報が原告らの損害賠償請求権の行使のために必要である場合であるか。
である。
(1)争点@(本件投稿によって原告Aの著作権が侵害されたことが明らかといえるか。)について
(原告Aの主張)
 本件投稿によって、原告Aの著作権が侵害されたことが明らかである。
 すなわち、原告Aは、原告Bを被撮影者として撮影した動画に「角平」及び「(省略)」という文字を挿入して加工したものであり、このようにして作成された動画は、原告Aの思想等を創作的に表現したものである。原告Aは、上記動画をインスタグラムに投稿したことがあった。
 本件画像は上記動画の一部を静止画像として保存したものであるところ、氏名不詳者は、無断で、原告Aが著作権を有する上記動画から本件画像を作成し、本件掲示板に投稿すること(本件投稿)により上記動画を複製、送信可能化したものである。
 したがって、本件投稿は、原告Aの複製権及び公衆送信権を侵害する。
(被告の主張)
 否認する。
 上記動画が原告Aの著作物であり、原告Aが著作権を有するかは不明である。
(2)争点A(本件投稿によって原告Bの肖像権が侵害されたことが明らかといえるか。)について
(原告Bの主張)
 本件画像は原告Bを被撮影者とするものであり、本件投稿は原告Bの肖像権を侵害する。
 原告Bは特別な公的活動をしていない一般私人であり、氏名不詳者においてその肖像を無断でインターネット上に公表する正当な目的や必要性等は存在しない。
(被告の主張)
 否認する。
 前記動画は、原告Bの承諾を得て撮影されたものであると考えられ、原告Aによってインスタグラムにも投稿されたということであるから、原告Bは前記動画をインターネット上で公開することについて黙示の承諾を与えていたと推認され、又は、本件投稿による原告Bの肖像権の侵害が社会通念上受忍すべき限度を超えるものとはいえない。
(3)争点B(本件投稿によって原告Bの名誉権が侵害されたことが明らかといえるか。)について
(原告Bの主張)
 本件投稿は、原告Bの名誉権を侵害する。
 すなわち、本件投稿は、原告Bの氏を記載した「(省略)」というタイトルのスレッドにおいて、原告Bを撮影対象者とした本件画像と共に、原告Bの名をもじった「みみ」から「みみくそ」という記載をしたものであって、原告Bの属性等について一定の知識、情報を有している者らによって、原告Bが対象であると特定される可能性が十分にある。そして、本件投稿は、原告Bを撮影対象者とした本件画像と共に、「ねーねーまたブランド買ってよーー。Byみみくそ。」という記載をしたものであるところ、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、原告Bが平素から高価な物を購入するよう人をゆすっているという事実を摘示するものと理解でき、原告Bの社会的評価を低下させるものである。
 なお、本件投稿は、公益の利害に関する事実に係り専ら公益を図る目的に出たものであるとはいえず、また、その内容も虚偽である。
(被告の主張)
 否認する。
 「みみくそ」という言葉の具体的意味内容は不明であることなどから、本件投稿の記載の対象が原告Bであるとは特定できないし、一般閲覧者の通常の注意と読み方を基準とすれば、「ねーねーまたブランド買ってよーー。」という記載の意味内容も不明であって、原告Bの社会的評価を低下させるものともいえない。
(4)争点C(本件各情報が原告らの権利の侵害に係る発信者情報であるか。)
(原告らの主張)
 原告らは本件掲示板の管理者であるYDCから本件投稿に係るアイ・ピー・アドレスとして本件IPアドレスの開示を受けたところ、本件投稿の日時頃に本件IPアドレスを使用した者に係る本件各情報が、本件投稿すなわち原告らの権利侵害に係る発信者情報であることは明らかである。
(被告の主張)
 否認する。
 本件各情報が、原告らの権利の侵害に係る発信者情報であるかは不明である。
(5)争点D(本件各情報が原告らの損害賠償請求権の行使のために必要である場合であるか。)について
(原告らの主張)
 本件各情報は原告らの損害賠償請求権の行使のために必要である。
(被告の主張)
 否認する。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
 前提事実、証拠(甲5、12、13)及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。
(1)原告Aは、平成30年12月19日、妻である原告Bと共に食事のため「角平」という蕎麦屋を訪れた際、その様子を、原告Bを被撮影者とし構図等に配慮した上で、動画に撮影した。
 原告Aは、上記の動画に、「角平」、「(省略)」という文字を挿入して加工することにより動画(以下「本件動画」という。)を作成した。
(甲11)
(2)原告Aは、本件動画を、インスタグラムというインターネット上の投稿サイトに、ストーリーという投稿された動画を24時間保存する機能を利用して投稿した。
 氏名不詳者は、上記投稿サイトから本件動画を入手した。
 その後、本件動画は、上記投稿サイトから削除された。
(甲16)
(3)氏名不詳者は、本件動画の一部(経過時間0分7秒の部分)を本件画像として保存し、令和元年9月19日午前2時59分33秒頃、本件掲示板に、本件画像を添付して本件投稿をした。本件投稿により、本件動画が複製され、送信可能化された。
(4)原告Bは、特段の公的活動をしていない。
2 争点@(本件投稿によって原告Aの著作権が侵害されたことが明らかといえるか。)について
 本件動画は、原告Aが、その思想等を創作的に、映画の効果に類似する視聴覚的効果を生じさせる方法で表現したものである(前記1(1))から、著作物に該当し、原告Aがその著作権を有するものと認められる。
 氏名不詳者は本件投稿により本件動画の一部を複製し送信可能化したものである(前記1(3))ところ、原告Aは同氏名不詳者に本件動画の利用を許諾したことはなく(甲5、12、弁論の全趣旨)、したがって、氏名不詳者による本件投稿によって、原告Aの本件動画の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたことが明らかであると認められる。
3 争点A(本件投稿によって原告Bの肖像権が侵害されたことが明らかといえるか。)について
 人の肖像は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するものとして、これをみだりに利用されない権利を有する。そして、当該個人の社会的地位・活動内容、利用に係る肖像が撮影等されるに至った経緯、肖像の利用の目的、態様、必要性等を総合考慮して、当該個人の人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超える場合には、当該個人の肖像の利用は肖像権を侵害するものとして不法行為法上違法となると解される。
 これを本件についてみると、本件画像は、原告Bを被撮影者とするものである。本件画像が含まれる本件動画の撮影及びそれをインターネット上の投稿サイトに投稿したのは原告Aであり、原告Bは夫である原告Aにこれらの行為を許諾していたと推認され、本件画像の撮影等に不相当な点はなく、氏名不詳者は上記投稿サイトから本件動画を入手したものではある。しかしながら、本件動画は24時間に限定して保存する態様により投稿されたもので(前記1(2))、その後も継続して公開されることは想定されていなかったと認められる上、原告Bが、氏名不詳者に対し、自身の肖像の利用を許諾したことはない(甲13、弁論の全趣旨)。原告Bは私人であり、本件画像は原告Bの夫である原告Aが原告らの私生活の一部を撮影した本件動画の一部である(前記1(1)、(4))。そして、本件画像は、原告Aの著作権を侵害して複製され公衆送信されたものであって(前記2)、本件投稿の態様は相当なものとはいえず、また、別紙投稿記事目録記載の投稿内容のとおりの内容に照らし、本件画像の利用について正当な目的や必要性も認め難い。これらの事情を総合考慮すると、本件画像の利用行為は、社会生活上受忍すべき限度を超えるものであり、原告Bの権利を侵害するものであると認められる。
 したがって、本件投稿によって原告Bの肖像権が侵害されたことが明らかであると認められる。
4 争点C(本件各情報が原告らの権利の侵害に係る発信者情報であるか。)について
 原告Bは、本件掲示板を開設するYDCから、本件投稿に係るアイ・ピー・アドレスとして本件IPアドレスの開示を受けた(前記第2の1(2)イ)ところ、本件各情報は原告らの権利の侵害に係る発信者情報であると認められる。
5 争点D(本件各情報が原告らの損害賠償請求権の行使のために必要である場合であるか。)について
 本件は、本件各情報が原告らの損害賠償請求権の行使のために必要である場合であると認められる。
第4 結論
 以上の次第で、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由があるから、これらを認容すべきである。
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 柴田義明
 裁判官 佐伯良子
 裁判官 棚井啓


別紙 発信者情報目録
 別紙投稿記事目録記載のアイ・ピー・アドレスを同目録記載の投稿日時頃に使用した者に関する情報であって,次に掲げるもの
1 氏名又は名称
2 住所
 以上

別紙 投稿記事目録(省略)
 以上

別紙 画像目録(省略)
 以上
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