判例全文 | ||
【事件名】NTTドコモへの発信者情報開示請求事件C 【年月日】令和2年9月24日 東京地裁 令和2年(ワ)第7411号 発信者情報開示請求事件 (口頭弁論終結日 令和2年8月13日) 判決 原告 A 同訴訟代理人弁護士 大熊裕司 同 島川知子 被告 株式会社NTTドコモ 同訴訟代理人弁護士 横山経通 同 上村哲史 同 南谷健太 同 渡邉峻 同 二神拓也 主文 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文同旨 第2 事案の概要 本件は、原告が、経由プロバイダである被告に対し、氏名不詳者が、インターネット上のウェブサイトに原告が著作権を有する別紙写真目録の写真(以下「本件写真」という。)を掲載し原告の著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害したことが明らかであるなどと主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき、上記著作権の侵害に係る発信者情報である別紙発信者情報目録記載の各情報の開示を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いがないか、掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる事実) (1)当事者 ア 原告は、横浜市中区所在の店舗で令和2年2月まで「B」という名称で稼働していた者である(甲1、2)。 イ 被告は、電気通信事業を営む株式会社である(争いのない事実)。 (2)本件投稿等 ア 氏名不詳者は、別紙投稿記事目録の「投稿日時」欄記載の日時に、インターネット上の掲示板サービス「ホストラブ」に本件写真を投稿した(以下「本件投稿」といい、本件投稿をした氏名不詳者を「本件投稿者」という。)(甲3)。 イ 本件投稿は、被告の提供するインターネット接続サービスを経由して発信されたものであり、その際に割り当てられていたIPアドレスは、別紙投稿記事目録の「アイ・ピー・アドレス」欄記載のとおりである(甲4ないし6)。 ウ 被告は、本件投稿に係る別紙発信者情報目録記載の各情報を保有している(甲7)。 2 争点 (1)本件投稿による権利侵害の明白性 (2)発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無 3 争点に対する当事者の主張 (1)争点(1)(権利侵害の明白性)について 【原告の主張】 本件写真は、原告が左手にスマートフォンを持って自撮りしたものであるから、原告は本件写真の著作権を有し、また、本件写真の著作権について、著作権の権利制限規定のいずれかに該当する事実もないことからすれば、本件投稿によって原告の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されていることは明白である。 【被告の主張】 本件写真について、原告が実際に撮影を行ったか不明であり、原告に著作権が帰属しているか疑義がある上に、本件投稿に本件写真があることをもって直ちに原告の複製権及び公衆送信権が侵害されたとまでは言い難い。そして、本件投稿について違法性阻却事由が不存在であるとの立証がされているとはいえない。したがって、権利侵害が明白であるとまではいえない。 (2)争点(2)(発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無)について 【原告の主張】 原告は、本件投稿者に対して、不法行為に基づく損害賠償等の請求をする予定であるが、そのためには、被告が保有する別紙発信者情報目録記載の各情報の開示を受ける必要がある。 【被告の主張】 原告は、氏名又は住所の開示を受けることができれば、損害賠償請求権の行使が可能であり、電子メールアドレスについては開示の必要性がなく、開示に「正当な理由」がない。 第3 当裁判所の判断 1争点(1)(権利侵害の明白性)について (1)本件写真の著作物性について 証拠(甲9、10)及び弁論の全趣旨によれば、本件写真は、被写体につき構図や撮影角度、被写体との距離、シャッターチャンスの捕捉、被写体と光線との関係等について撮影者の個性・独自性が表れているといえ、「写真の著作物」(著作権法10条1項8号)と認めることができる。 (2)原告の著作権侵害について前記前提事実(2)ア、証拠(甲2、9、10)及び弁論の全趣旨によれば、@原告は、令和元年12月5日、自らのスマートフォンを用いて、原告自身を被写体とする写真を撮影したこと、Aその後、原告は、当該写真に勤務先での名称である「B」との文字を付記した本件写真を作成し、これを勤務先の店舗に関連するウェブサイトに掲載したこと、B本件投稿者は、当該ウェブサイトに掲載された写真を複製し、本件投稿をしたことが認められる。 これらの事実からすれば、原告は、本件写真の著作権者といえ、本件投稿者は、本件投稿によって、本件写真についての原告の複製権及び公衆送信権を侵害したといえる。 他方、本件投稿者による本件写真の複製及び公衆送信につき、著作権法上の権利制限事由の存在及びその他不法行為の成立を阻却する事由の存在を基礎づける事実は認められない。 したがって、本件投稿によって、原告の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたことは明らかといえる。 2 争点(2)(発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無)について 証拠(甲10)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件投稿者に対し、著作権(複製権、公衆送信権)侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求をする意思を有していることが認められるところ、原告が損害賠償請求権を行使するためには、発信者を特定する別紙発信者情報目録記載の各情報について開示を受ける必要があるといえ、その開示を受けるべき正当な理由があると認めることができる。 被告は、上記各情報のうち、電子メールアドレスについては開示の必要性がないと主張する。しかし、法4条1項、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令は、開示請求をすることができる発信者情報として、発信者等の氏名又は名称(1号)、住所(2号)とともに、電子メールアドレス(3号)を列挙している。被告が保有する氏名又は名称、住所に関する情報が正確性を欠くなどの理由から発信者の特定が不十分となる場合に電子メールアドレスの情報によって発信者を特定することができる可能性もあるし、訴訟の提起に先立って電子メールを利用して裁判外で任意の履行請求をすることも考えられるから、電子メールアドレスは、発信者の特定及び原告の権利行使に資する情報といえ、原告には、電子メールアドレスを含めた別紙発信者情報目録記載の各情報の開示を受けるべき正当な理由があるといえる。被告の上記主張は採用できない。 3 結論 よって、原告の請求は理由があるから認容することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官 柴田義明 裁判官 棚井啓 裁判官 佐藤雅浩 (別紙)発信者情報目録 別紙投稿記事目録記載の投稿日時に同目録記載のアイ・ピー・アドレスを割り当てられた電気通信設備から同目録記載の投稿用URLに対して通信を行った電気通信回線の同日時における契約者に関する次の情報 @ 氏名または名称 A 住所 B 電子メールアドレス 以上 |
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