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【事件名】ソフトバンクへの発信者情報開示請求事件I
【年月日】令和2年2月25日
 東京地裁 令和元年(ワ)第19689号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和元年12月17日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 遠山光貴
被告 ソフトバンク株式会社
同訴訟代理人弁護士 五十嵐敦
同 小林央典
同 平龍大


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録1記載の各情報を開示せよ。
2 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録2記載の各情報を開示せよ。
3 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録3記載の各情報を開示せよ。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、氏名不詳者によりインターネット上のウェブサイトに投稿された別紙記事目録の「本件投稿動画」欄記載の動画(以下「本件投稿動画」という。)は、原告が著作権を有する同目録の「本件著作物」欄記載の動画(以下「原告動画」という。)と同一であり、同氏名不詳者が本件投稿動画を投稿した行為は原告動画に係る原告の公衆送信権又は送信可能化権を侵害するものであることが明らかであると主張して、上記投稿行為に係る経由プロバイダである被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき、本件投稿動画投稿されたウェブサイトに最後にログインした者に関する別紙発信者情報目録1記載の情報、及び、同人が最後にログインした際に割り当てられたIPアドレスを、本件投稿動画の投稿日時頃に割り当てられていた者に関する別紙発信者情報目録2又は同目録3記載の情報(以下、上記3つの情報を併せて「本件各発信者情報」といい、各情報をいう場合には、目録の番号に従い、「本件発信者情報1」などという。)の開示を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがないか、末尾の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお、枝番号の記載を省略したものは、枝番号を含む(以下同様)。)
(1)原告は、平成29年6月25日、原告動画を「B」というインターネット上のウェブサイトに投稿した(甲2−1−1、2−1−3、7)。
 原告動画の再生時間は1分48秒である(甲2−1−1、2−1−3)。
(2)氏名不詳者は、平成29年8月23日午前3時38分(協定世界時)、本件投稿動画を「Pornhub」というインターネット上のウェブサイトに投稿した(以下、この投稿行為を「本件投稿行為」という。甲2−2−1、2−2−2、3)。
 本件投稿動画の再生時間は1分48秒であり、そのサムネイル画像は原告動画の静止画像と同一である(甲2−1−2、2−2−1)。
(3)本件投稿動画が投稿されたウェブサイト(以下「本件サイト」という。)に動画をアップロードするためには、メールアドレス、ユーザ名、パスワードを登録して同サイトの会員になり、登録したユーザ名及びパスワードを用いて同サイトにログインする必要がある(甲9)。
(4)本件発信者情報1は、平成31年4月28日午後0時00分34秒(協定世界時)に、本件サイトにログインした者の情報である(甲3)。
(5)本件発信者情報2及び同3は、平成31年4月28日午後0時00分34秒(協定世界時)に上記の者が本件サイトにログインした際に割り当てられたIPアドレスを、本件投稿行為が行われた日時頃に割り当てられていた者に関する情報である(甲3)。
(6)被告は本件発信者情報1を保有している。
2 争点
(1)権利侵害の明白性(争点1)
ア 原告動画の著作物性(争点1−1)
イ 原告は原告動画の著作者であるか(争点1−2)
ウ 原告は原告動画の著作権者であるか(争点1−3)
エ 原告動画と本件投稿動画が同一であるか(争点1−4)
(2)本件各発信者情報は法4条1項1号の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するか(争点2)
ア 本件発信者情報1は法4条1項1号の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するか(争点2−1)
イ 本件発信者情報2又は同3は法4条1項1号の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するか(争点2−2)
(3)被告は、本件発信者情報1につき、法4条1項1号の「開示関係役務提供者」に該当するか(争点3)
第3 争点に対する当事者の主張
1 争点1−1(原告動画の著作物性)について
【原告の主張】
 原告動画は映画の著作物である。原告は、原告動画の創作の際に、衣装や小道具、ポーズ、構図などについて創意工夫をした。また、登場人物の動きや撮影する角度、編集についても創意工夫をした。
 したがって、原告動画には映画の著作物としての創作性が認められる。
【被告の主張】
 不知ないし争う。
2 争点1−2(原告は原告動画の著作者であるか)について
【原告の主張】
 原告は、原告動画を自己のウェブサイトに公表する際に「(C)2018B」や「(URLは省略)」など、著作者である旨を表示しているから、著作権法14条により、原告動画の著作者であると推定される。また、原告は、原告動画の創作に際して着ぐるみや衣装を自作し、撮影時には照明や撮影機器を準備して、撮影内容や撮影時間等を事前にカメラマンに指示した上で、自ら着ぐるみ等を着て出演している。さらに、編集作業を行ったのも原告であり、原告は原告動画の全体的形成に創作的に寄与しているから、原告動画の著作者に該当する。
【被告の主張】
 不知ないし争う。「B」などは、原告の氏名でも名称でもなく、変名として周知のものであるともいえないから、著作権法14条の適用はない。
3 争点1−3(原告は原告動画の著作権者であるか)について
【原告の主張】
 原告は、ウェブサイトを開設して、自らが創作した動画を配信して販売していたところ、原告動画についても、その作成を発意するとともに、自ら出演するなどして創作したものであり、撮影の機材にも支出をした。そして、原告動画をウェブサイトにアップロードすることにより収入を得ている。したがって、原告は原告動画に係る映画製作者に該当するから、原告動画の著作権を有する。
【被告の主張】
 不知ないし争う。
4 争点1−4(原告動画と本件投稿動画が同一であるか)について
【原告の主張】
 原告動画の一部である静止画像と本件投稿動画のサムネイル画像とは共通している。同画像に映っている着ぐるみは原告が作成したものであり、他者が作成した同一の画像が存在する可能性は極めて低い。そして、原告動画と本件投稿動画の再生時間はいずれも1分48秒であるから、原告動画と本件投稿動画には同一性が認められる。
【被告の主張】
 本件投稿動画の実物は確認できず、原告動画と本件投稿動画が同一であるとはいえない。原告動画の静止画像と本件投稿動画のサムネイル画像が共通しているとしても、サムネイル画像と実際の動画の中身が異なるケースも相当程度存在する。
5 争点2−1(本件発信者情報1は法4条1項1号の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するか)について
【原告の主張】
 本件発信者情報1は、本件サイトへの最終ログイン時である平成31年4月28日午後0時00分34秒(協定世界時)にログインした者(以下「最終ログイン者」ということがある。)の情報である。本件サイトでは、メールアドレス、ユーザ名、パスワードを登録して会員になり、登録したユーザ名及びパスワードを用いてログインしなければ動画をアップロードできないところ、通常、ユーザ名、パスワードを複数人で共用することはない。そして、本件発信者情報1に係るIPアドレスと、本件サイトの最終ログIPセッション時点である平成31年4月25日18時21分51秒(協定世界時)のIPアドレスが同
一であることなども考慮すれば、最終ログイン者が本件投稿動画の投稿者である可能性が極めて高い。
 仮に、最終ログイン者が本件投稿動画の投稿者ではなかったとしても、その場合は、同人は、投稿者との間でユーザ名、パスワードを共用している者であることとなり、投稿者の共同不法行為者であるか、あるいは投稿者と密接な関係性を有する者であるから、同人の情報をきっかけとして投稿者を特定することが可能である。そして、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第4条1項の発信者情報を定める省令(以下、単に「省令」という。)が、発信者情報に「発信者その他侵害情報の送信に係る者」の情報も含まれる旨規定していることなどからすれば、投稿者ではないとしても、その者と密接に関連する最終ログイン者の情報も開示されるべきである。
【被告の主張】
 本件発信者情報1は、本件投稿行為から約1年8か月後に、本件サイトにログインした者の情報であるから、当該ログインに基づいて本件投稿行為が行われたものでないことは明らかである。また、ユーザ名が複数人で管理、運営されることも一般的であり、この場合、パスワードさえ分かればログインが可能であるから、本件発信者情報1に係る人物が本件投稿行為を行った蓋然性が高いともいえない。省令は、発信者のほか「その他侵害情報の送信に係る者」の氏名又は名称等を開示の対象としているが、これは、飽くまで侵害情報の発信に関与している者を意味し、本件サイトにログインしたにすぎない者が含まれないことは文言上明らかである。
 仮に、最終ログイン者が本件投稿行為を行った可能性があるとしても、開示請求の対象は、開示請求者の権利を侵害したとする情報の発信者についての情報に限られ、本件サイトへのログインは原告の権利を侵害する情報の発信ではないから、本件発信者情報1は開示請求の対象とならない。
6 争点2−2(本件発信者情報2又は同3は法4条1項1号の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するか)
【原告の主張】
 本件サイトへの最終ログインに際して割り当てられたIPアドレスは、本件投稿行為においても用いられていた可能性が高い。そうすると、本件投稿行為がされた日時頃に当該IPアドレスを割り当てられていた者は、本件投稿行為をした者である可能性が高いものであるから、同人の情報に係る本件発信者情報2又は同3は、法4条1項1号の発信者情報に該当する。
【被告の主張】
 上記は争う。本件サイトへの最終ログインに係るIPアドレスが本件投稿行為の時にも用いられた可能性が高いとは到底いえない。そもそも、契約者情報の特定には、IPアドレスが割り当てられた日時につき、秒数までの特定を要するところ、原告は、本件投稿行為に係る日時につき、本件発信者情報2については秒数の主張、立証をしていない。また、本件発信者情報3についてはコンテンツプロバイダから開示された本件投稿行為の日時に秒数の記載がなく、「00秒」に投稿された根拠はないから、いずれも本件投稿行為の日時を正確に特定できていない。
7 争点3(被告は、本件発信者情報1につき、法4条1項1号の「開示関係役務提供者」に該当するか)について
【原告の主張】
 本件サイトの最終ログイン者は、省令の定める「発信者その他侵害情報の送信に係る者」に該当するから、本件サイトへの最終ログイン時の経由プロバイダである被告は、開示関係役務提供者に当たる。
【被告の主張】
 被告は、本件サイトへのログインという権利侵害情報ではない情報の発信を媒介したにすぎないから、開示関係役務提供者には該当しない。
第4 当裁判所の判断
1 本件事案に鑑み、争点2から判断する。
(1)争点2−1(本件発信者情報1は法4条1項1号の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するか)について
 原告は、本件投稿動画が投稿されたことにより原告動画に係る原告の公衆送信権又は送信可能化権が侵害されたと主張しているところ、本件発信者情報1は、本件投稿行為から約1年8か月が経過した、平成31年4月28日午後0時00分34秒(協定世界時)に本件サイトにログインした者の情報であり、このログイン時に本件投稿行為が行われたものではないから、法4条1項1号の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当しないことは明らかである。
 この点について、原告は、最終ログイン者が本件投稿動画の投稿者である可能性が高いと主張するが、同人が、本件投稿動画が投稿された本件サイトに、ユーザ名とパスワードを用いてログインした者であるとしても、本件投稿動画を投稿した者であると直ちに認定することはできず、本件投稿行為から同人のログインまで約1年8か月もの期間が経過していることも考慮すれば、同人と本件投稿動画を投稿した者が同一人物ではない可能性が相当程度残っており、その他、本件全証拠を精査しても、最終ログイン者が本件投稿動画の投稿者であるとは認め難いというほかない。
 また、原告は、仮に最終ログイン者が本件投稿動画を投稿した者ではないとしても、投稿した者と密接に関連する者であり、省令が「発信者その他侵害情報の送信に係る者」の情報も発信者情報に該当することを規定していることからすれば、本件発信者情報1は開示の対象になると主張する。しかし、本件において、最終ログイン者と本件投稿動画の投稿者がどのような関係にあるのかを的確に認めるに足る証拠はなく、また、法4条1項1号の「当該権利の侵害に係る発信者情報」との文言、及び省令の「発信者その他侵害情報の送信に係る者」という文言からは、その文言内容や規定振りに照らして、本件投稿行為を行った者以外の者である最終ログイン者の情報が、原告が指摘するような理由によって直ちに、開示の対象となる発信者情報に当たるということはできないというべきである。
 以上によれば、原告の主張はいずれも採用することができず、本件発信者情報1は、法4条1項1号の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当しない。
(2)争点2−2(本件発信者情報2又は同3は法4条1項1号の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するか)について
 前記第2の1の前提事実によれば、本件発信者情報2及び同3は、平成31年4月28日午後00時00分34秒(協定世界時・最終ログイン時)に本件サイトにログインがされた際の割当てに係るIPアドレスを、約1年8か月前である本件投稿行為が行われた日時頃に割り当てられていた者に関する情報である。
 そして、原告は、このような本件発信者情報2又は同3に関し、本件投稿行為が行われた日時頃に上記IPアドレスを割り当てられていた者は、本件投稿行為をした者である可能性が高いものであるから、同人の情報に係る本件発信者情報2又は同3は、法4条1項1号の発信者情報に該当する旨主張する。
 しかし、前記(1)で説示したとおり、本件投稿行為から最終ログイン時までは約1年8か月の期間があることなどを考慮すれば、最終ログイン者が本件投稿動画の投稿者であると認め難いというほかなく、ひいては、最終ログイン時から約1年8か月も前である本件投稿行為が行われた日時頃に、本件サイトへの最終ログインの際の割当てに係るIPアドレスを割り当てられていた者が、本件投稿行為を行った者であるとも認め難いというほかない。
 以上によれば、原告の主張はいずれも採用することができず、本件発信者情報2及び同3は、いずれも法4条1項1号の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当しない。
2 小括
 以上によれば、本件各発信者情報は、いずれも法4条1項1号の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当しないから、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求には理由がない。
3 結論
 以上のとおり、原告の請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 田中孝一
 裁判官 奥俊彦
 裁判官 本井修平


(別紙)発信者情報目録1
 IPアドレス60.114.162.75を2019(平成31)年4月28日21時00分34秒(日本標準時)頃に被告から割り当てられていた契約者に関する次の情報
(1)氏名又は名称
(2)住所

(別紙)発信者情報目録2
 IPアドレス60.114.162.75を2017(平成29)年8月23日午後1時38分(日本標準時)頃に被告から割り当てられていた契約者に関する次の情報
(1)氏名又は名称
(2)住所

(別紙)発信者情報目録3
 IPアドレス60.114.162.75を2017(平成29)年8月23日午後1時38分00秒(日本標準時)頃に被告から割り当てられていた契約者に関する次の情報
(1)氏名又は名称
(2)住所

(別紙)記事目録
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lilyheartt (URLは省略) 2017年8月23日
12時(正午)38分
2-2-1
2-2-2
(URLは省略) 2017年6月25日
22時50分
2-1-1
2-1-2
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