判例全文 line
line
【事件名】「ジル・スチュアート」ライセンス契約事件(2)
【年月日】令和2年2月20日
 知財高裁 平成31年(ネ)第10033号 パブリシティ権侵害等差止等、著作権侵害差止等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成28年(ワ)第26612号(第1事件)、同第26613号(第2事件))
 (口頭弁論終結日 令和元年12月23日)

判決
控訴人・被控訴人 ジル・スチュアート(アジア)エル・エル・シー(以下「一審原告会社」という。)
同訴訟代理人弁護士 飯田圭
同 外村玲子
被控訴人・控訴人 株式会社サンエー・インターナショナル(以下「一審被告」という。)
同訴訟代理人弁護士 高取芳宏
同 矢倉信介
同 一色和郎
被控訴人(一審被告の控訴に対する関係において) X(以下「一審原告X」という。)


主文
1 一審原告会社の控訴及び当審における変更後の請求をいずれも棄却する。
2 一審被告の控訴をいずれも棄却する。
3 控訴費用のうち、一審原告会社の控訴及び当審における請求につき生じた分は一審原告会社の負担とし、その余は一審被告の負担とする。
4 一審原告会社のために、この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
(一審原告会社)
1 原判決を次のとおり変更する。
2(1)一審被告は、一審被告が管理運営し、原判決別紙被告商品目録記載の商品を宣伝広告する、本判決別紙一審被告ウェブサイト目録記載1及び2のウェブサイトに原判決別紙被告表示目録記載1の表示をしてはならない(ただし、平成19年(2007年)4月13日付け”AMENDMENTNO.3TOTRADEMARKASSIGNMENTTERMSAGREEMENT(JAPAN)/AMENDMENTNO.2TOTRADEMARKSASSIGNMENTAGREEMENT(CHINA、HONGKONGANDTAIWAN)”に基づき、原判決別紙被告表示目録記載1を単に商標としてのみ使用する場合を除く。)。
(2)一審被告は、原判決別紙被告表示目録記載5の表示を付した商品タグ(千葉地方裁判所平成28年(執ハ)第16号事件に基づき執行官により保管された商品タグ合計167点を除く)及び同商品タグを付した原判決別紙被告商品目録記載の商品を廃棄せよ。
(3)一審被告は、一審原告会社に対し、金6300万円、並びに、内金5934万5598円に対しては平成25年2月27日から、内金300万8400円に対しては平成28年8月25日から、及び、内金64万6002円については平成29年12月21日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)ア(主位的請求)
 一審被告は、原判決別紙広告目録記載第1の広告を同目録記載第2の要領で掲載せよ。
イ(予備的請求)
 一審被告は、原判決別紙広告目録記載第3の広告を同目録記載第4の要領で掲載せよ。
(5)一審被告は、本判決別紙一審被告ウェブサイト目録記載1及び2のウェブページ及び原判決別紙被告商品目録記載の商品に付する商品タグに原判決別紙誤認防止表示目録記載第1の説明文を同目録記載第2の要領で表示せよ。
3(1)一審被告は、一審原告会社に対し、原判決別紙被告写真目録記載1ないし126の各写真を複製し、又は自動公衆送信してはならない。
(2)一審被告は、一審被告が管理運営する本判決別紙一審被告ウェブサイト目録記載1及び2のウェブサイトから、原判決別紙被告写真目録記載1ないし126の各写真を削除せよ。
(3)一審被告は、原判決別紙被告写真目録記載1ないし126の各写真及びその電子データを廃棄せよ。
(4)一審被告は、一審原告会社に対し、金1億9635万2200円、並びに、内金1億9135万0620円に対しては平成25年2月27日から、内金500万円に対しては平成28年8月25日から、及び、内金1580円に対しては平成29年12月21日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(一審被告)
1 原判決中、一審被告敗訴部分を取り消す。
2 上記取消部分に係る一審原告X及び一審原告会社(以下、併せて「一審原告ら」という。)の請求をいずれも棄却する。
第2 事案の概要等(略称は原判決のそれに従う。)
1 原審第1事件は、ファッションデザイナーである一審原告X及びそのマネジメント会社である一審原告会社が、一審被告に対し、@被告ウェブサイトに被告表示1(一審原告Xの氏名。別紙被告表示目録記載1の表示を指す。なお、他の被告表示も、それぞれ同目録記載の表示に対応する。)及び被告表示2(同人の肖像写真)を掲載した行為は一審原告Xのパブリシティ権を侵害する、A被告ウェブサイトに被告表示1〜4を表示し又は被告商品に被告表示5を付す行為は、不正競争防止法(平成30年法律第33号による改正前のもの。以下「不競法」という。)2条1項14号の不正競争行為(品質誤認惹起行為)に該当し、これにより一審原告らの営業上の利益等が侵害されたなどと主張して、一審被告に対し、次の(1)〜(5)(控訴の趣旨2項の(1)〜(5)にそれぞれ対応する。)を求めた事案である。
(1)パブリシティ権又は不競法3条1項に基づく被告ウェブサイトにおける被告表示1の表示の差止め
(2)パブリシティ権又は不競法3条2項に基づく被告表示5を付した商品タグ(千葉地方裁判所平成28年(執ハ)第16号事件に基づき執行官により保管された商品タグ合計167点を除く。)及び同商品タグを付した被告商品の廃棄
(3)パブリシティ権侵害の不法行為又は不競法4条に基づく損害賠償(予備的に不当利得返還請求)として合計6億3008万4000円及びうち5億9345万5980円(民法709条及び著作権法114条3項類推適用に基づく一審原告Xのパブリシティ権侵害に係る使用料相当損害額9億6000万円の一部)に対する修正サービス契約の終了日の翌日である平成25年2月27日から、うち3008万4000円(使用料相当損害金の一部である8万4000円と弁護士費用相当損害金3000万円の合計額)に対する第1事件の訴状送達の日の翌日である平成28年8月25日から、うち654万4020円(パブリシティ権侵害又は不競法4条に基づく調査費用、執行費用等の損害賠償)に対する不法行為の後である平成29年12月21日から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払(一審原告らの不真正連帯債権)
(4)ア 主位的に、パブリシティ権侵害(著作権法115条類推適用)又は不競法14条に基づく謝罪広告の掲載
イ 予備的に、パブリシティ権侵害(著作権法115条類推適用)又は不競法14条に基づく訂正広告の掲載
(5)不競法14条に基づく誤認防止表示
2 なお、原審第1事件の提訴段階においては、より広汎な差止め及び作為が請求されていたが、一審被告は、同事件の第1回口頭弁論期日において、@被告ウェブサイト等における被告表示2〜4の表示の差止めを求める部分、A被告商品に被告表示5の表示を付し、又は同表示を付した被告商品の譲渡、引渡し、譲渡又は引き渡しのための展示若しくは輸入の差止めを求める部分、B本件執行官保管に係る被告表示5の表示を付した商品タグの廃棄(上記1(2)のかっこ内参照)を求める部分に係る各請求を認諾した。
3 原審第2事件は、ファッションイメージ写真である原告写真の著作権を有すると主張する一審原告会社が、一審被告に対し、一審被告は被告ウェブサイトに原判決別紙被告写真目録記載1ないし126の被告写真を掲載して一審原告会社の著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害したなどと主張して、次の(1)〜(4)(控訴の趣旨3項の(1)〜(4)にそれぞれ対応する。)を求めた事案である。
(1)著作権法112条1項に基づく被告写真の複製及び公衆送信の差止め
(2)著作権法112条2項に基づく被告ウェブサイトからの被告写真の削除
(3)著作権法112条2項に基づく被告写真の電子データの廃棄
(4)民法709条に基づく損害賠償(予備的に不当利得返還請求)として合計19億6352万2007円及びうち19億1350万6207円(著作権法114条3項による使用料相当損害金21億6678万円の一部、なお、予備的には18億5724円)に対する修正サービス契約の終了日の翌日である平成25年2月27日から、うち5000万円(弁護士費用相当損害金)に対する訴状送達の日の翌日である平成28年8月25日から、うち1万5800円(証拠収集費用に係る損害賠償)に対する不法行為の後である平成29年12月21日から、各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払
4 原判決は、上記1及び3記載の各請求のうち、1(3)及び3(4)の各金銭請求の一部を認容し、その余を棄却した。
5(1)一審原告会社は、差止請求及び作為請求に係る敗訴部分を全部不服として(ただし、控訴に当たって、被告ウェブサイトを本判決別紙一審被告ウェブサイト目録記載のとおり特定するなど、請求の内容を変更した。)、また、内金請求としての金銭請求に係る敗訴部分については、請求金額元本を第1事件につき6300万円及び第2事件につき1億9635万2200円(いずれも原判決で認容された金額を含む。)とすることによって不服の範囲を限定した上で、控訴した。
(2)一審被告は、敗訴部分を不服として控訴した。
(3)一審原告Xは、敗訴部分につき控訴しなかった。また、一審被告の控訴に対しては、当審において、公示送達による適式な呼び出しを受けたが口頭弁論に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しない。
6 前提事実及び争点は、原判決の「事実及び理由」「第2 事案の概要」の「3 前提事実」(原判決6頁3行目から14頁16行目まで。ただし、原判決7頁1行目の「締結して」を「締結し、かつ、」に改め、同21行目の「A」の次に「被告は、」を加え、8頁19行目の「締結」を「作成」に改める。)及び「4争点」(原判決14頁17行目から15頁9行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
第3 当事者の主張
 当事者の主張は、当審における補充主張(いずれも原判決の認定判断の誤りをいうもの)を以下のとおり付加するほかは、原判決の「事実及び理由」「第3 争点に関する当事者の主張」(原判決15頁10行目から42頁21行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
【一審原告会社の補充主張】
1 パブリシティ権侵害及び品質誤認惹起行為について
(1)争点1−2(一審原告らによる同意、承諾の有無)について
 原判決は、本件解除までの間について、一審原告らが、被告表示1〜4の素材となった一審原告Xの肖像写真及び紹介文などを提供するに当たり、これらが被告商品の広告宣伝に利用されることを認識の上承諾していた旨認定し、また、被告表示1及び2の被告ウェブサイトへの掲載についても承諾していた旨認定した(原判決46頁)。
 しかしながら、証拠(一審被告前代表者本人の尋問結果を含む。)によれば、一審原告らが被告表示1〜4の素材を提供した目的は商品の広告宣伝ではなく一審原告Xの紹介であったこと、その当時被告ウェブサイトの開設は想定されていなかったこと、その後開設された被告ウェブサイトにおける被告表示1〜4及び被告写真の具体的使用態様は一審原告らに開示されていなかったことを認定できる。
 これらの事情に照らして、原判決の上記認定は誤りである。
(2)争点4(差止めの可否及び必要性)について
 原判決は、被告表示1及び5の差止請求につき、本件訴訟の提起後に一審被告がこれらの使用をやめており、使用を再開するおそれも認められないとして差止請求には理由がない旨判断した(原判決50〜51頁)。
 しかしながら、今後使用を再開しない旨の一審被告の誓約書等は提出されておらず、また、差止めの対象となっている情報は、一審被告が自ら管理運営するウェブサイトの電子情報にすぎないから、使用の再開はきわめて容易である。
 これらの事情に照らして、原判決の上記認定判断は誤りである。
(3)争点6(一審原告らの損害及び損害額)について
ア パブリシティ権侵害に基づく使用料相当損害について
(ア)原判決は、本件解除前は被告各表示を被告ウェブサイトに掲載することに対する一審原告らの承諾があった旨の認定を前提として、使用料相当損害額の算定に当たり売上高に相当な実施料率を乗じる方法によることは相当ではない旨判断した。
 しかしながら、前提となる事実認定に上記(1)のとおり誤りがある以上、原判決の上記判断は誤りである。
(イ)また、原判決は、被告各表示を被告ウェブサイトに掲載することによる被告商品の販売に対する貢献度はわずかである等として、使用料相当損害を100万円という僅少額にとどめた。
 しかしながら、世界的に有名なファッションデザイナーである一審原告Xの肖像等は多大な顧客誘引力を有しており、その使用は被告商品の販売促進に相当程度寄与・貢献したはずであり、少なくとも一審被告はそのように企図していたのであり、使用料相当損害額の算定に当たってはかかる事情が基本的な出発点とされるべきである。そして、かかる寄与・貢献は一審原告らが提出した実証的な証拠に裏付けられている一方、かかる寄与・貢献がなかったことを客観的に裏付ける証拠はなく、さらに、原判決自体が、一般の消費者等は、一審原告Xが被告商品のデザイン等に関与しているか、少なくとも被告商品を推奨していると認識し、理解する旨(原判決48頁)、また、被告商品のようなブランド商品において、そのデザインを誰が行っているか、また誰に推奨されているかは、消費者等が当該商品を購入する上での重要な要素であるから、この点について事実に反する表示を行うことは商品の品質に誤認を生じさせるものである旨(同49頁)を説示しているのであるから、100万円という僅少な損害額しか認定しないことは極めて恣意的かつ不合理である。
イ 積極損害について
(ア)侵害調査費用について
 原判決は、一審原告らが被告商品を購入するために要した購入代金の大部分について、仮処分命令の順守状況の調査等を目的とするものであることを理由に、一審被告の不法行為との相当因果関係を認めなかった。
 しかしながら、本件仮処分後の被告商品の購入は、本訴における損害賠償請求の金額や差止請求の要否を検討するために、また、本訴で提出すべき証拠の確保のために、通常必要とされるものである。
(イ)消費者アンケート調査報告費用・評価報告費用について
 原判決は、消費者アンケート調査やその評価の資料を証拠として提出することが不可欠であるとはいえずこれらの証拠により一審原告らの営業上の毀損等の事実を認定し得るものでもないから、これらの費用が一審被告の不法行為と相当因果関係ある損害であるとは認められない旨認定判断した(原判決56頁)。
 しかしながら、原判決のような事後的かつ厳格な評価基準により不法行為と被害者の立証費用との間の相当因果関係の有無が判断されるのであれば、不法行為の被害者としては、費用が自己負担となるおそれのため必要十分に立証を尽くすことができず、ひいては、被害者の保護・救済や損害の公平な分担という不法行為制度の理念にも反することになりかねない。相当因果関係の有無は、不法行為者の反対の主張立証との相関関係において被害者の立証・その費用が通常必要とされるものであったかどうかという立証時点での非厳格な行為基準により判断するのが相当である。
ウ 弁護士報酬相当額について
 上記ア及びイのとおり、原判決の損害額の算定には誤りがあるから、弁護士報酬相当額の算定も当然に誤りである。
(4)争点7(謝罪広告及び訂正広告の要否)について
 原判決は、一審原告らの損害の填補は金銭賠償で足りるとして、謝罪広告又は訂正広告の請求には理由がない旨判断する(原判決57頁)。
 しかしながら、被告各表示は、一審原告Xが被告商品のデザイン等に対して関与又は推奨しているという誤った印象を需要者・消費者に生ぜしめるものであり、これによって、世界的に著名なファッションデザイナーである一審原告Xが受けたパブリシティの価値の毀損及び営業上の信用の棄損による損害は計り知れない。かかる損害は、金銭賠償により完全に回復させることは困難であるから、一審原告らが求める広告の掲載は、損害を回復するための必要最小限の措置である。
(5)争点8(誤認防止表示の要否)について
 原判決は、一審原告らの損害を填補するには金銭賠償で十分に足りるとして、誤認防止表示の必要性は認められない旨判断した(原判決57頁)。
 しかしながら、品質誤認惹起行為を防止する目的は、需要者及び消費者の保護にあるから、被告表示5によって、需要者及び消費者の間に、一審原告側が被告商品のデザイン等に関与し又はまたはこれを推奨しているとの誤った理解が生じている以上、訂正広告及び誤認防止表示の必要性が高い。
2 著作権侵害について
(1)争点10(原告写真の利用許諾の目的及び期間等)について
 原判決は、修正サービス契約の解釈上、原告写真の使用目的をカタログと雑誌等のみに限定する合意や、使用時期を該当するシーズンに限定する合意があったとは考え難いとして、一審被告が、原告写真の複製物である被告写真を被告ウェブサイトにおいてシーズン終了後にも掲載したことは、修正サービス契約の終了前においては、著作権の侵害には当たらない旨判断する(原判決60頁)。
 しかしながら、原判決の上記判断は、まず、修正サービス契約の解釈として誤りである。また、無断で著作物を利用する行為は著作権侵害となり、権利者から許諾を受けた場合に限って著作権侵害にならない、というのが著作権法の原則であるにもかかわらず、原判決の判断枠組みは、この原則と例外とを逆転させるものである。さらに、原判決のように、原則として自由に著作物の使用が可能で、禁止する範囲を契約上明記することを要すると解すると、契約当事者は禁止する範囲を際限なく全て契約で規定するという過重な負担を強いられ、契約実務上極めて不合理な事態が生じる。
(2)争点12(差止めの必要性等)について
 原判決は、一審被告は被告ウェブサイト等において被告写真の掲載をやめており、これを再掲載するとも考え難い旨認定して、差止めの必要性は認められない旨判断した(原判決61頁)。
 しかしながら、一審被告は本件仮処分決定が出された後も英語版のウェブサイトには被告写真の掲載を継続し、本件訴訟の訴状の送達を受けて初めて外部から閲覧できないように対応したという経緯がある。その上、原判決が認定したような極めて少額な損害賠償金さえ支払えば済むのであれば、一審被告が被告写真を再掲載する可能性は極めて高い。
(3)争点14(一審原告会社の損害額)について
ア 著作権侵害に基づく使用料相当損害について
 原審において、一審原告会社が、修正サービス契約における広告制作業務の対価(1シーズン当たり約938万円相当)に基づき、被告写真の単位(1シーズン1セット)当たりの相当利用料額は938万円を下らないとして、これに基づき損害額を主張したのに対し、原判決は、@修正サービス契約における広告制作業務の対価は制作費の負担分を含み、むしろ対価に占める制作費の割合が相当程度大きいと解するのが合理的というべきである、A本件において著作権侵害行為として認められるのは、一審被告が修正サービス契約終了後も被告写真を被告ウェブサイトに掲載したという行為であるから、かかる行為に対する利用料相当損害金については、修正サービス契約終了後における被告写真1枚当たりの価値を勘案した上で、これに利用期間を乗じて算定するのが相当である、B被告ウェブサイトにおける被告写真の使用がシーズン終了後のアーカイブとしてのものであること等を考慮すると、被告写真1枚当たりの利用料相当額の単価は1年当たり1万円である旨認定判断した(原判決62頁)。
 しかしながら、上記@の点については、本件では、目的・用途等が限定されて利用許諾された原告写真を無断で他の目的・用途に、しかも、協力関係・取引関係が一切なくなった後に利用しようとしたもので、さらに、その目的は、被告商品が原告写真に具現化された一審原告Xのファッションイメージに合致しており、一審被告が同ファッションイメージの保有者であるかのように仮装することにあったという事案における利用料相当額の算定方法が問題になっているのであり、広告制作業務の対価中に占める制作費の割合は問題とならない。上記Aの点については、原判決は、修正サービス契約の終了前は被告写真の被告ウェブサイトへの掲載は一審原告会社の許諾に基づくものであって著作権侵害にならないとの前提に基づき判断しているが、この前提には上記(1)のとおり誤りがある。上記Bの点については、被告写真の被告ウェブサイトへの掲載は、一審原告Xとの関係を仮装するという目的によるものであり、かかる目的からすれば、過去のシーズンの写真にも最新のシーズンの写真と同様の価値が認められる。
イ 証拠収集費用について
 原判決は、一審原告が証拠収集のために購入した雑誌の購入代金について、その購入が著作権の帰属の立証に不可欠であったとはいえないから、一審被告の不法行為と相当因果関係ある損害に当たらない旨認定判断したが(原判決63頁)、上記1(3)イ(イ)と同様の理由により誤りである。
ウ 弁護士報酬相当額について
 上記ア及びイのとおり、原判決の損害額の算定には誤りがあるから、弁護士報酬相当額の算定も当然に誤りである。
【一審被告の補充主張】
1 争点1(パブリシティ権侵害による不法行為の成否)について
(1)争点1−1(一審原告Xのパブリシティ権の侵害の有無)について
ア 一審原告Xの肖像等の顧客吸引力の有無
 原判決は、一審原告Xは、服飾等のファッション関係の商品について、その販売等を促進する顧客吸引力を有するものと認められる旨判示する。そして、一審原告会社が提出したアンケート調査(乙78、81(枝番含む))につき、原判決は、同アンケート調査は、一審原告Xの肖像写真(被告表示2の写真)のみを示して当該写真の人物の認知度を調べるものであり、同調査においてその名前まで知っている回答者が少なかったとしても、そのことをもって、一審原告Xの肖像等の顧客吸引力を否定することはできず、また、同調査においても、一審原告Xの名前の付いた本件ブランドの認知度は8割を超えており、このことは一審原告Xの知名度が高いことを示すものということができる旨判示する(原判決44〜45頁)。
 しかしながら、同調査において一審原告Xの名前の付いた本件ブランドの認知度が8割を超えていることは、一審原告Xの知名度が高いことを示すものではない。調査対象者が本件ブランドを認識するのは、一審被告が企業努力を尽くして本件ブランドの価値を高めたからに外ならず、一審原告Xの肖像及び氏名に顧客吸引力があるからではない。このように一審原告Xの肖像等に顧客吸引力が認められない以上、被告各表示によるパブリシティ権侵害は成立し得ない。
イ 被告表示1及び2の使用目的等
 原判決は、被告表示1及び2は、他のウェブページと一体となって、本件ブランドのイメージを向上させ、ひいては、被告商品の宣伝広告や販売促進を企図するものである旨判示する(原判決45頁)。
 仮に、一審原告Xの肖像等に顧客吸引力が認められるのであれば、かかる肖像等を被告商品の宣伝広告や販売促進のために利用した場合には、その利用によって被告商品の売上に寄与するのが当然である。しかるに、被告表示1〜4を被告ウェブサイトから削除した前後で一審被告の売上に変化はない。よって、仮に一審原告Xの肖像等に顧客吸引力が認められるとしても、被告表示1及び2の使用はそれの利用を目的とするものではない。
(2)争点1−2(一審原告らによる同意、承諾の有無)について
 原判決は、一審被告が被告ウェブサイトに被告表示1〜4を使用することにつき、修正サービス契約の解除(本件解除)までの間について一審原告らが同意、承諾をしていたことは認定するものの、本件解除により被告表示の使用許諾も終了した旨判示する(原判決45〜48頁)。
 しかしながら、本件解除後も、一審原告らは、被告ウェブサイトにおける被告各表示の使用を認識しながら平成27年9月4日に申し立てた仮処分の手続まで一切異議を唱えていなかった。このことは、一審原告らが、被告ウェブサイトにおける被告各表示の使用について、本件ブランドの商標の使用に当然に伴うものとして許諾の範囲内であるとの認識であったことの証左である。したがって、本件解除によって被告各表示の使用許諾も終了したとはいえない。
2 争点2(品質誤認惹起行為該当の有無)について
(1)被告表示1〜4について
 原判決は、被告表示1〜4の内容に照らすと、被告ウェブサイトのCONCEPTページを見た一般の消費者は、一審原告Xが被告商品のデザイン等に関与しているか、少なくとも被告商品を推奨していると認識し、理解することができるとして、同表示につき広告における商品の品質、内容を誤認させる表示に当たる旨判示する(原判決48頁)。
 しかしながら、上述のとおり、被告表示1〜4を被告ウェブサイトから削除した前後で一審被告の売上に変化がみられないことからも、被告表示1〜4の表示が品質誤認惹起行為に該当しない。
(2)被告表示5について
 原判決は、本件解除以降、一審原告側が一審被告と提携しているという事実はないから、被告商品の商品タグに付された被告表示5は、同商品の品質、内容を誤認させるような表示に当たると認められる旨判示する(原判決48〜49頁)。
 しかしながら、被告表示5には消費者に対する影響力がないことは、アンケート調査によって明らかにされているから、被告表示5の表示もまた品質誤認惹起行為に該当しない。
3 争点3(信義則違反ないし権利濫用の成否)について
 原判決は、一審原告らの請求が信義則違反又は権利濫用に該当するとはいえない旨判示する(原判決49頁)。
 しかしながら、一審原告らが、自らのサービス契約の違反により契約解除に至ったにもかかわらず、サービス契約が終了したことを理由として被告各表示の使用がもはや許されないなどと主張することは、信義にもとり、また、権利の濫用に当たる。また、本件訴訟は金銭の無心を行うための足がかりとして提起されているものにすぎず、何ら真摯な請求を行うものではなく、信義にもとり、権利の濫用に当たる。
4 争点5(一審被告の故意、過失の有無)について
 原判決は、一審被告は、修正サービス契約の解除後も一審原告らに確認するなどの必要な対応をすることなく、被告表示1〜4を被告ウェブサイト等に表示して被告商品の宣伝広告を行い、また、被告表示5を被告商品に付して販売していたのであるから、一審被告には、一審原告Xのパブリシティ権の侵害及び不正競争行為について過失がある旨判示する(原判決52頁)。
 しかしながら、以下の事実も考慮すれば一審被告に過失はない。
(1)平成9年ころ、一審被告は、伊藤忠ファッションシステムから、被告表示3と同旨の英文を一審原告Xの写真とともに受領し、これらを積極的に使用してほしいと伝えられた。
 平成15年ころ、一審被告は、一審原告会社から、被告表示2の写真を手渡され、一審原告Xを紹介する際には、今後はこの写真を使用してほしいと頼まれた。
 平成18年、一審被告が日本語のウェブサイトを公開するに当たっては、事前に一審原告会社の了承を得ており、ウェブサイトのデモ版に被告表示2の写真が掲載され、被告表示3と同旨の文章が記載されていることも一審原告会社に説明していた。
 その後、一審原告らは、平成27年の本件仮処分申立てに至るまで、被告表示2及び3に関して何らの警告や指摘をしたことはなかった。
(2)被告表示4は、本件ブランドのコンセプトであり、何ら事実に反していないし、一審被告はトラストから本件ブランドの関連商標をそのグッドウィルとともに譲り受けている以上、本件ブランドの紹介としての被告表示4の記載に一審原告らの承諾があることも当然である。
(3)被告表示5は商品タグに付される記載であり、商品が一審原告らではなく一審被告の企画・製造にかかる製品である旨を示すことを目的としたものである。また、一審被告が企画・製造する商品については、平成19年の商標権譲渡契約のはるか以前から、デザイン等に関する一審原告らの関与はなかったのであり、それにもかかわらず被告表示5をすることについては一審原告らの承諾があり、商標権譲渡契約がなされた後も承諾が継続していた。
5 争点6(一審原告らの損害額)について
(1)パブリシティ権侵害に基づく使用料相当損害について
 原判決は、一審原告Xのパブリシティ権侵害による損害額として100万円と認定することが相当である旨判示する(原判決54頁)。
 しかしながら、修正サービス契約において被告各表示の使用の対価が規定されていないこと、一審原告Xの認知度は低いこと、上記4記載の経緯があることからすれば、一審原告Xのパブリシティ権侵害が仮に認められたとしても、その損害額は極めて少額となるべきであり、100万円という原判決の認定は高額に過ぎ、不当である。
(2)不正競争行為による損害について
 原判決は、一審原告らは、我が国において、一審被告以外の他のライセンシーとともに、本件ブランドに関する事業を展開していると認められるところ、一審原告Xがいかなる商品のデザインに関与し、またいかなる商品を推奨しているかは、本件ブランドの商品全体の品質やイメージに影響を及ぼすものであるから、この点について事実に反する表示をすることは、一審原告らの営業上の利益を害する旨判示する(原判決55頁)。
 しかしながら、一審原告らは日本において一審被告商品と競合する製品について営業していないから、「営業上の利益」は侵害されておらず、原判決の上記認定判断は誤りである。
(3)積極損害について
 原判決は、弁護士費用相当損害金として10万円を認める。
 しかしながら、上述のとおり、パブリシティ権侵害が仮に認められるとしてもその損害額は100万円から大幅に減額されなければならず、弁護士費用相当損害金も同様に大幅な減額を免れない。
6 争点9(原告写真の著作権の所在)について
 原判決は、米国著作権法の規定に照らして、原告写真は職務著作物として製作され、その著作権は写真制作者ではなくJSインターナショナルに帰属していたから、同社からの譲渡によって、一審原告会社が著作権を有する旨判示する。
 しかしながら、原判決は、原告写真を職務著作物と認定するに当たり、制作者を名乗る者の陳述書に依拠しており、制作における具体的な指示等の客観的な事情に基づく認定を行っておらず、上記認定判断には誤りがある。
7 争点10(原告写真の利用許諾の目的及び期間等)について
 原判決は、原告写真の使用許諾の終期について、当事者の合理的意思解釈によれば、修正サービス契約の終了日(平成25年2月26日)というべきである旨判示する(原判決59頁)。
 しかしながら、@一審被告が平成9年(1997年)の第1号店のオープン当初から多額の広告制作費を負担してきたこと、A平成17年締結のサービス契約には契約終了後の原告写真の取り扱いについての記載がないこと、B一審原告会社代表者の確認を得た上で被告ウェブサイトに原告写真の一部が掲載された後の平成19年に締結された修正サービス契約においても契約終了後の原告写真の取り扱いについての記載がないこと、C一審原告らはその後も一審被告のウェブサイト上の原告写真の掲載を認識しながら本件仮処分申立てに至るまで異議を唱えていなかったことなどに照らせば、修正サービス契約の終了とともに使用許諾も終了するとの合意があったとはいえない。また、修正サービス契約の準拠法であるニューヨーク州法に基づく解釈としても、一審被告が毎年支払う費用に含まれる一括払いの使用料と引き換えに、期間を含め何ら制限なく写真を使用する権利が与えられていることは明確である。
8 争点11(信義則違反ないし権利濫用の成否)について
 原判決は、信義則違反又は権利濫用に該当する事実はない旨判示する(原判決60頁)。
 しかしながら、一審原告らの契約違反により契約解除に至ったにもかかわらず、修正サービス契約が終了したことを理由として原告写真の使用はもはや許されないなどと主張することは、信義にもとり、また、権利の濫用に当たる。
 また、本件訴訟は金銭の無心を行うための足がかりとして提起されているものにすぎず、何ら真摯な請求を行うものではなく、信義にもとり、権利の濫用に当たる。
9 争点13(一審被告の故意、過失の有無)について
 原判決は、一審被告は、修正サービス契約の解除後も一審原告らに確認するなどの必要な対応をすることなく、被告写真を被告ウェブサイト等に表示していたのであるから、一審被告には、一審原告会社の著作権侵害について過失がある旨判示する(原判決61頁)。
 しかしながら、ファッション業界において過去の広告の紹介はしばしば行われることや、上記7記載の@〜Cの事情に照らすと、一審被告には故意も過失も認められない。とりわけ、平成27年9月に仮処分命令申立書を受領するまでは故意・過失がないことは明らかである。
10 争点14(一審原告会社の損害額)について
(1)利用料相当損害について
 原判決は、写真1枚当たりの単価は1年当たり1万円、被告ウェブサイトに掲載されていた写真は126枚、掲載期間は約3年間として、利用料相当損害額を378万円と認定する(原判決62及び63頁)。
 しかしながら、@被告ウェブサイトにおける原告写真の掲載はアーカイブ的使用にすぎないこと、Aインターネット上で提供されるファッションイメージ写真の相場(数千円〜4万円)は買い切りの価格であること、B被告写真は高画質な状態ではないことから、上記認定は高額に過ぎ、不当である。
(2)弁護士費用相当損害金について
 原判決は、弁護士費用相当損害金として37万円を認める。
 しかしながら、上述のとおり、著作権侵害が仮に認められるとしてもその利用料相当損害額は378万円から大幅に減額されなければならず、弁護士費用相当損害金も同様に大幅な減額を免れない。
第4 当裁判所の判断
1 当裁判所も、原審と同様、一審原告らの請求は原判決が認容した限度で理由があると判断する。その理由は、以下のとおり補充するほか、原判決の「事実及び理由」「第4 当裁判所の判断」(原判決42頁21行目から64頁19行目まで。ただし、原判決58頁11行目の「原告会社が、」を削る。)に記載のとおりであるからこれを引用する。
2 基本的な観点
(1)原判決を引用して認定した事実経過によれば、本件事案には、次のような事情がある。
(2)両当事者は、平成9年から平成25年までの間、本件ブランドを用いた日本での婦人服販売事業のための契約関係にあり、本件ブランドの知名度の向上について共通の利益を有していた。被告各表示の素材となった一審原告Xの肖像写真及び紹介文並びに被告写真に複製された原告写真は、上記事業における本件ブランドの宣伝広告の目的のために、一審原告側から提供された素材である。そして、その提供に当たっては、当時の両当事者は協力関係にあったという背景から、使用の目的、態様及び期間等について、文書等による明確な取極めはなされていなかった。
 平成25年の修正サービス契約の解除(本件解除)により両当事者間の契約関係が解消された時点において、これらの素材は、被告ウェブサイト上及び店舗内の被告各表示及び被告写真として現に用いられていた。そのことは、一審原告側においても了知していた可能性が高いし、仮に了知していなかったとしても、被告ウェブサイトの閲覧及び店舗の訪問によって容易に知りうる状態にあった。
 契約関係の解消後も、一審被告は、日本国内のJS商標を既に譲り受けていた以上、本件ブランドの下での婦人服販売事業をそれ以前とほぼ同じ態様で継続することが可能であり、そのことは一審原告側も了知していた。また、乙7の終了合意書が締結された平成14年以降、同事業における商品のデザインや宣伝広告の手法等について、一審原告側は具体的に関与する権利を失っていたから、本件解除によりすべての契約関係が解消されたからといって、一審被告が被告ウェブサイトを改修するなどして宣伝広告の内容を改めるべき事業上の必然性はなかった。そうすると、契約関係の解消後も、被告各表示及び被告写真をそれまでと同様に使用し続けることを、一審被告は予定しており、一審原告側も、これを予想していたか少なくとも予想し得たといえる。
 また、JS商標は一審原告Xの氏名と同一であるから、JS商標及び各商標に関連するグッドウィルを商標権譲渡契約によって譲り受けた上で行う一審被告の事業活動は、その需要者層に、一審原告X個人がこれに関与しているとの認識又は印象を必然的に生じさせるものであったといえる。このような状況は、契約関係の終了後においても直ちに変わるものではない。
(3)このように、本件事案は、長期間にわたり契約関係にあった当事者が、必ずしも明確に定めてこなかった事柄が問題となり、それが原因となってパブリシティ侵害行為、著作権侵害行為及び不正競争行為(いずれも法的性質としては不法行為)として損害賠償等が請求されている、というものである。
 そうすると、権利侵害の成否や損害額の算定の判断に当たっても、契約関係にない権利者と侵害被疑者との間の訴訟におけるものとは異なり、契約関係にあった当時の事情を踏まえた合理的な意思解釈が必要とされる。
(4)そして、当裁判所は、上記(3)のような観点に立った上で、原審の判断は是認し得ると考え、原判決を引用して上記1のとおり判断するものである。
3 両当事者の当審における主張に対する判断
 以下、両当事者の当審における主張につき、上記2で説示した内容も踏まえつつ、必要な限度で判断する。
(1)争点1−1(一審原告Xのパブリシティ権の侵害の有無)について
 一審原告Xにパブリシティ権が成立し、かつ、一審被告が、これを利用する目的を有していたと認められることは原判決が説示するとおりである。一審被告は、写真の認知度に基づく調査において一審原告Xの認知度が極めて低かったとか、被告表示1〜4を削除した後も、一審被告の売上に変化はないなどと主張するが、写真の認知度に基づく調査のみに基づいて、一審原告Xの知名度を論ずるのは相当とはいえないし、一審被告の売上の変化という「結果」によって、一審被告の「目的」を論ずるのも相当とはいえず、これらの主張は、いずれも採用することはできない。
(2)争点1−2(一審原告らによる同意、承諾の有無)について
ア 本件解除前について
 一審原告らによる同意、承諾が認められることは原判決を引用して説示したとおりである。既に認定した事実関係によれば、被告表示1〜4を利用する目的に、被告商品の広告宣伝が全く含まれていなかったと考えるのは不自然であるし、Aが、被告ウェブサイトの開設及びその内容について一審被告から説明を受けていたことは原判決が認定しているとおりなのであるから、一審原告らは、被告表示1及び2の被告ウェブサイトへの掲載について、少なくとも黙示的に承諾していたものというべきであり、一審原告会社の主張は、いずれも失当である。
イ 本件解除後について
 一審原告らによる同意、承諾が認められないことは原判決を引用して説示したとおりである。一審被告は、本件解除後、一審原告らが被告表示1〜4の使用について異議を申し立てなかったことを強調しているが、この事実から直ちに一審原告らの同意、承諾を推認することはできず、一審被告の主張は失当である。
(3)争点2(品質誤認惹起行為該当の有無)について
 一審被告は、被告表示1〜4を被告ウェブサイトから削除した前後で一審被告の売上に変化がみられないこと、被告表示5には消費者に対する影響力がないことがアンケート調査によって明らかにされていることからも、被告各表示は品質誤認惹起行為に該当しない旨主張する。
 しかし、一審被告の指摘する事実は、被告各表示が商品の品質等に対する誤認を生じさせる旨の原判決の判断を左右するには至らない。これらの事実は、誤認を生じさせる程度及び範囲がさして大きくないことを示すものとして、差止めの可否や損害額の算定において考慮すれば足りるといえる。
 したがって、一審被告の上記主張は採用することができない。
(4)争点3(信義則違反ないし権利濫用の成否)について
 一審被告の主張は原審でのものと同旨であり、これを採用できない理由は原判決を引用して説示したとおりである。
(5)争点4(差止めの可否及び必要性)について
 一審原告会社は、被告各表示の使用を再開しない旨の一審被告の誓約書等は提出されていないこと、被告各表示はウェブサイトの電子情報にすぎないから使用の再開はきわめて容易であることを考慮すれば、被告各表示の差止めの必要性がある旨主張する。
 しかしながら、原判決が摘示した事情に加えて、被告表示5が消費者の購買行動に対する影響力は限定的であるとのアンケート調査結果(乙78)や、被告表示2〜4の影響力も同様に考えられることからすれば、一審被告にとって、被告表示1〜5を利用することには実益が乏しいと考えられることも踏まえると、一審原告会社の指摘する事実は、差止めの必要性は認められない旨の原判決の判断を左右するものではない。
 したがって、一審原告会社の上記主張は採用することができない。
(6)争点5(一審被告の故意、過失の有無)について
 一審被告がその主張において指摘する事実を考慮しても、一審被告に過失がある旨の原判決の判断は左右されない。
(7)争点6(一審原告らの損害額)について
ア パブリシティ権侵害に基づく使用料相当損害について
 原判決の認定した100万円という損害額につき、一審原告会社は高額に過ぎる旨主張し、一審被告は低額に過ぎる旨主張する。
 そこで検討するに、本件においては、以下のような事情を考慮する必要があると考えられる。すなわち、
(ア)本件証拠中、例えば甲28には、一審原告Xについて、「世界12ヶ国に進出。どの国でも高い人気を獲得している。」という記載がある一方で、「日本は世界最大のマーケット」という記載もある(前者については甲27、後者については甲27、29、30にも同旨の記載がある。)。
 そして、後掲各証拠(いずれも枝番含む)によれば、「世界12ヶ国に進出」というその実態は、一審原告Xの生地である米国ニューヨーク市のソーホー地区に平成5年ころから直営の実店舗を有している(乙10)ほかは、米国を含む各国のデパート等に断続的に商品を卸したり(甲134)、ネットショップに商品が掲載されたり(甲117〜121、133)しているにとどまる。一審原告側が運営するウェブサイトには、店舗の所在場所として18か国のデパート等が挙げられているが(甲122)、その中には商品の実際の取扱いを確認できないものが多い上(乙39ないし45)、取扱いがある場合でもデパートの店内に本件ブランドを冠した売場を確保してはいない(乙11、48)。そして、一審原告側が主要国の大都市の目抜き通りに独自の路面店を構えていること等を示す証拠は見当たらない。
 なお、一審原告Xの日本国外での活動に関する証拠(甲2〜7、101〜116)はいずれもウェブサイトへの掲載であるところ、ウェブサイトは、紙媒体と異なり、掲載可能な記事数が極めて多い媒体である。また、一審原告Xが出展したファッションショー(甲103〜109、111〜115)は、いわば「地元」であるニューヨーク市でのもので
ある上に、出展料を支払えば参加資格に制限はない(一審被告前代表者本人尋問)。
(イ)一審原告Xの世界的な名声については上記(ア)のとおり一定の留保を付けざるを得ないのに比して、日本国内での名声(特に被告商品の需要者層におけるもの)は、それなりに高いと認められる。
 もっとも、本件ブランドの日本での立上げ以前から一審原告Xが日本の需要者層に広く知られていたことを示す証拠は見当たらないのに対し、それ以降は一審被告を先駆けとする各ライセンシーが本件ブランドのビジネスに深く関わってきたことからすれば、日本における一審原告Xの名声には、各ライセンシーによるマーケティングの成果という側面が多分にある。一審原告Xの日本国内での名声を示すものとして一審原告側から提出されている証拠(甲8〜10、27〜34、83、84、162、214〜470等)も、各ライセンシーによる上記と同様のマーケティングに影響されたものである可能性がある(例えば、外見上は出版社が編集したムックである甲8にも、Editorialcooperatorとして、複数名の一審被告の関係者が関与している(5頁)。)
 そして、各ライセンシーがそのマーケティングに当たり、一貫して、一審原告Xを被告表示2〜4のとおりの容貌・経歴・信条を有する人物として需要者層に印象付けようと努めてきたことは本件各証拠から明らかであるから、一審原告Xが「世界的に有名な」ファッションデザイナーであるとの名声が日本において形成されるについては、各ライセンシーの寄与、中でもその先駆けである一審被告の寄与が相当程度に大きかったと認められる。
(ウ)上記(ア)及び(イ)の事情によれば、一審原告Xの肖像等が顧客誘引力を有し同人にはパブリシティ権が認められるとしても、それらは、いわゆる超一流のファッションデザイナー(例えばB、C、Dにつき甲44、54、56)のものと同列ではないし、パブリシティ権の形成に当たって一審被告がライセンシーとして寄与してきたという経緯を考慮すべきである。
(エ)一審原告らは、一審原告Xのパブリシティ権の価値が高く、その侵害による損害が大きい旨の主張を裏付けるため、過去の裁判例及び文献の記載を多数援用する(甲85、131、166〜169、194〜200、473等)。しかしながら、過去においてパブリシティ権の価値が検討された事案の多くは、きわめて知名度が高い権利者(その多くは、知名度の高さが「公知の事実」に近いような芸能人、運動選手等である。)の名称及び肖像等が有する顧客誘引力を、その知名度の形成に寄与していない他者が利用した事案であるから、これらの事案を通じて形成された法理論及びマーケティング理論並びに個別の事案における裁判所の判断は、本件にそのまま適用できるものではない。もっとも、一審原告Xの我が国における認知度は、それなりに高いことからすると、その形成に当たって一審被告の貢献が大きいことを考慮しても、パブリシティ権侵害に対する損害賠償の額を余りに少額とすることもまた相当ではないというべきである。
 上記(ア)〜(エ)で検討した点を踏まえると、一審原告Xのパブリシティ侵害によって生じた使用料相当損害の額は、原判決が説示するとおり、100万円と評価するのが相当であって、これに反する一審原告会社及び一審被告の主張は、いずれも採用することができない。
イ 積極損害について
 一審原告会社の主張を考慮しても、原判決で損害として認定した項目以外の支出等につき一審被告の不法行為と相当因果関係が認められない旨の原判決の判断は左右されるものではなく、一審原告会社の主張は採用することができない。
ウ 弁護士報酬相当額について
 上記ア、イのとおり、原判決の損害額の算定には誤りがないから、弁護士報酬相当額の算定にも誤りはない。
(8)争点7(謝罪広告及び訂正広告の要否)について
 一審原告会社は、一審原告Xに生じたパブリシティの価値の毀損及び営業上の信用の棄損による損害が大きいことを理由に、金銭賠償に加えて謝罪広告等が損害の回復のために必要である旨主張する。
 しかしながら、原判決を引用して認定した事実関係に加えて、上記2及び上記(7)アで説示したところも踏まえると、一審被告に100万円の賠償を命じることをもってパブリシティ権侵害による損害の填補のためには十分である。
 したがって、一審原告会社の上記主張は採用することができない。
(9)争点8(誤認防止表示の要否)について
 一審原告会社は、被告表示5によって、需要者及び消費者の間に、一審原告側が被告商品のデザイン等に関与し又はこれを推奨しているとの誤った理解が生じている以上、需要者及び消費者の保護の観点から、一審原告らに対する損害賠償とは別に誤認防止表示を命じる必要がある旨主張する。
 しかしながら、上記アンケート結果(乙78)も踏まえると、そのような誤認がどの程度需要者及び消費者の間に生じたかは具体的に明らかでない上、かかる誤認の発生は、被告各表示によるものというよりも、商標権譲渡契約の効果として、一審原告Xの氏名と同一のJS商標を一審被告が自由に使用し得ることから不可避的に生じるところが大きいといえることからも、一審被告に対して誤認防止表示を命じるのは相当でない。
 したがって、一審原告会社の上記主張は採用することができない。
(10)争点9(原告写真の著作権の所在)について
 一審被告は、原告写真が職務著作物に当たる旨の原判決の認定は、職務著作の成立要件についての証拠上の裏付けが不十分である旨主張する。
 しかしながら、原判決が認定した事実関係に加えて、対価の支払を受けて広告用に撮影して顧客に引き渡した写真に関して撮影者が著作権を保有しておく必要性は乏しいのが通常であることも考慮すれば、たとえ制作における具体的な指示等が具体的に認定されていないとしても、職務著作性を肯定するのに十分な状況が存したといえるのであるから、原判決の認定に誤りがあるとはいえない。
 したがって、一審被告の上記主張は採用することができない。
(11)争点10(原告写真の利用許諾の目的及び期間等)について
ア 修正サービス契約の終了前につき
 一審原告会社は、修正サービス契約の終了前において、過去のシーズンの原告写真の被告ウェブサイトへの掲載は許諾されていなかった旨主張する。
 しかしながら、修正サービス契約3条の文言は、各シーズンに向けての一審被告の広告宣伝活動に合わせた時期・内容で一審原告側が広告用素材を準備する旨を定めたものと解するのが自然であり、その写真をいつまで一審被告が利用できるか等についての合意はなかったと認められる。そして、シーズン終了後も当該写真等が被告ウェブサイトに掲載されていることに対して一審原告側から特段の異議が唱えられた形跡はないから、過去のシーズンの写真の被告ウェブサイトへの掲載につき、著作権を侵害するものではないと一審原告側は認識していたと推認され、このことは、黙示の許諾と同視できる。
 したがって、一審原告会社の上記主張は採用することができない。
イ 同契約の終了後につき
 一審被告は、修正サービス契約の終了によっても原告写真の利用許諾は終了しない旨主張する。
 しかしながら、契約関係が終了した後においても、一方当事者である一審被告が、他方当事者である一審原告会社が著作権を有する原告写真を利用できるというのは異例の取扱いであるというべきところ、一審被告が指摘する事実を考慮しても、当事者間の基本的な契約関係が終了した後において、原告写真の著作権についての利用許諾という付随的な契約関係が残存するとの合意があったことを認めるには足りないし、契約終了後に、一審被告による利用を許諾する合意が成立したことを認めるに足りる証拠もない。
 したがって、一審被告の上記主張は採用することができない。
(12)争点11(信義則違反ないし権利濫用の成否)について
 一審被告の主張は原審でのものと同旨であり、これを採用できない理由は原判決を引用して説示したとおりである。
(13)争点12(差止めの必要性等)について
 一審原告会社がその主張において指摘する事実を考慮しても、一審被告にとって被告写真を被告ウェブサイトに再掲載することによって得られる利益とこれによる法的紛争のリスクとを比較したとき、合理的な経営判断によれば、再掲載は行わないものと推認される。
 したがって、一審原告会社の主張は、差止めの必要性は認められない旨の原判決の判断を左右するものではなく、採用することができない。
(14)争点13(一審被告の故意、過失の有無)について
 一審被告がその主張において指摘する事実を考慮しても、一審被告に過失がある旨の原判決の判断は左右されない。
(15)争点14(一審原告会社の損害額)について
ア 著作権侵害に基づく使用料相当損害について
 原判決の認定した損害額につき、一審原告会社は高額に過ぎる旨主張し、一審被告は低額に過ぎる旨主張する。
 しかしながら、これらの主張を考慮しても、原判決を引用して認定した事実関係に加えて、上記2及び上記(7)アで説示したところも踏まえると、著作権侵害によって生じた使用料相当損害の額を、原判決が認定したとおりの計算方法及び単価によって評価するのが相当である。一審原告会社が主張する広告制作サービス業務料は、一審原告会社自身も自認するとおり、原告写真を被告ウェブサイトに掲載することの対価ではないのであるから、これを基準に原告写真の利用料相当損害金の額を算定するのは相当とはいえず、このことは、一審原告会社が主張する事情を考慮しても変わりないものというべきである。他方、侵害プレミアムも考慮すれば、原判決が認定した写真1枚当たり1年1万円という利用料相当損害金の額は、高額に過ぎるということもできない。
 したがって、一審原告会社及び一審被告の主張は、いずれも採用することができない。
イ 積極損害について
 一審原告会社の主張を考慮しても、原判決で損害として認定した項目以外の支出等につき一審被告の不法行為と相当因果関係が認められない旨の原判決の判断は左右されるものではなく、一審原告会社の主張は採用することができない。
ウ 弁護士報酬相当額について
 上記ア、イのとおり、原判決の損害額の算定には誤りがないから、弁護士報酬相当額の算定にも誤りはない。
4 結論
 以上によれば、原判決は相当であり、一審原告会社の控訴及び当審における訴え変更後の請求並びに一審被告の控訴はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部
 裁判長裁判官 鶴岡稔彦
 裁判官 上田卓哉
 裁判官 石神有吾


別紙 被告表示目録
1 省略
2 省略
3 「デザイナーXはこう語ります・・・
 『私は自分で着たい服を作っています。トレンディだけどクレイジーでなく、女性が女性らしくフェミニンにセクシーに、そしてスウィートで着易く、リーズナブル・プライスであること。それが私の服のメインコンセプトです。』
 『女性の立場から言うと、トレンドが何であれ、自分が素敵に見えるものを着るとゆうことが大切。いろんなタイプの人がいて、私たちデザイナーのコレクションの中から、それぞれ自分に似合うものを選んで、その人らしさが出せれば、とても素敵なことだと思います。』
 ニューヨーク出身。両親もファッションを展開するファッション業界一家にうまれ、NYの7番街でファッションとデザインの世界に育つ。15歳で初めてアクセサリーのコレクションをニューヨーク老舗百貨店、Bloomingdale'sにて販売。レザーを使ったチョーカー、フリンジ付きのボヘミアン調Bohoバッグなどを販売し話題となる。その後、順調にキャリアを重ね1993年にJILLSTUARTのニューヨークコレクションをスタート。1997年、日本進出。」
4 「JILLSTUARTは『CUTE、SWEET、SEXY』をキーワードに、ニューヨーク・コレクションにおいて女性らしいスタイルを発信し続けている自分のスタイルを持つ女性たちへ、品のある大人のフェミニンスウィートを提案」
5 「この商品は、米国ジル・スチュアート社との提携により、株式会社サンエー・インターナショナルが企画・製造したものです」
 以上

別紙 一審被告ウェブサイト目録
1 ジル・スチュアートオフィシャルホームページトップページ(省略)
2 ジル・スチュアートオフィシャルホームページコンセプトページ(省略)
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/