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【事件名】動画サイトへのAV無断投稿事件E
【年月日】令和2年2月19日
 東京地裁 令和元年(ワ)第23122号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 令和元年12月25日)

判決
原告 株式会社WILL
同訴訟代理人弁護士 酒井康生
被告 A
同訴訟代理人弁護士 笹浪靖史
同 伊藤敦


主文
1 被告は、原告に対し、40万円及びこれに対する令和元年9月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを8分し、その7を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告に対し、341万2430円及びこれに対する令和元年9月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、映画の著作物である別紙著作物目録記載の著作物(以下「本件著作物」という。)の著作権を有する原告が、本件著作物をインターネット上の動画共有サイトにアップロードした被告に対して、被告の当該行為によって本件著作物についての原告の公衆送信権が侵害されたとして、不法行為による損害賠償請求権に基づき著作権法114条3項による損害金341万2430円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和元年9月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 被告は、上記アップロード行為を認め、原告の主張する不法行為の成立自体は争わないものの、損害額を争っている。
2 前提事実等(当事者間に争いがない事実又は後掲の証拠(以下、書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実等)
(1)原告
 原告は、映画・ビデオの映像製作、編集業務、販売等を行う株式会社である(甲1)。
(2)本件著作物の著作権の原告への帰属
 本件著作物は映画の著作物であり、株式会社CAは、映画製作者として、その依頼した製作会社によって製作された本件著作物の著作権を取得した。
 原告は、平成28年12月1日、株式会社CAを吸収合併し、本件著作物の著作権を含め、株式会社CAの権利・義務を承継した(以下、同日以前の株式会社CAについても「原告」という。)(甲1〜3、弁論の全趣旨)。
(3)被告による本件著作物のアップロード行為
 被告は、平成28年5月5日、原告の許諾なく、本件著作物をインターネット上の動画共有サイトであるFC2アダルト(以下「本件動画サイト」という。)のサーバー上にそのデータをアップロードし(以下、被告の当該行為を「本件アップロード」という。)、それによって本件著作物を自動公衆送信し得る状態にした(甲4、弁論の全趣旨)。
 したがって、被告による本件アップロードは本件著作物の公衆送信権(著作権法23条1項)を侵害するものとして不法行為に該当する。
(4)原告による本件著作物の販売及び配信
 原告は、平成28年4月1日から、本件著作物を販売し、第三者に許諾して「DMM.com」のウェブサイト(平成30年8月1日から成人向け(アダルト)事業は「FANZA」という名称に移行したが、その前後を通じて、単に「DMM.com」という。)上で有料でインターネット配信している(甲2、乙12、13、弁論の全趣旨)。
3 争点
 本件の争点は原告の損害額である。
4 争点に対する当事者の主張
【原告の主張】
(1)著作権法114条3項による損害額341万2430円
ア 原告は、第三者が原告の著作物を使用する場合、第三者との間でコンテンツ提供基本契約を締結した上で、各著作物の利用について覚書を締結している。
 そして、覚書においては、原告の著作物を第三者が配信する場合には、第三者は、コンテンツ売上総額の38パーセントを使用許諾の対価として原告に支払うものとされていた。
イ 本件著作物は、原告のグループ企業により運営されるDMM.com上で有料でインターネット配信されており、平成28年5月10日時点で、配信価格は、HD版ダウンロードとストリーミングのセットが2980円、ダウンロードとストリーミングのセットが2480円、DVDトースターが2800円であった。
ウ 原告は、本来であれば、本件著作物の動画再生1回につき、少なくとも、前記イの配信価格のうち最低額の2480円に38パーセントを乗じた金額を受領できた。
 本件動画サイトにおける本件著作物の再生回数は3621回であったから、原告がその著作権の行使について受けるべき金銭の額に相当する額(著作権法114条3項)は341万2430円(2480円×38パーセント×3621回)である。
(2)被告の主張について
 被告が主張する使用料相当額はいずれも相当でない。
ア 再生1回当たりの使用料相当額について
 DMM.comにおけるストリーミング配信価格が300円となるのは、発売から相当期間経過した作品であり、本件のように発売及び配信の開始からわずか1か月の作品である場合は、高額な配信価格が設定される。
イ 表示された再生回数について
 本件著作物のように本件動画サイトに有料動画としてアップロードされた動画の場合、表示される「再生数」に数秒間だけのサンプル再生が含まれることは認めるが、このうち実質の伴った再生が1パーセント程度であるとするのは根拠がない。
ウ 動画見放題サービスに提供した場合の使用料を基準とすべきことについて
 本件著作物は、本件アップロード当時、発売及び配信の開始から、わずか1か月程度の作品であったから、動画見放題サービスの対象になっておらず、原告が動画見放題サービスに提供した場合に受け取る使用料を基準とするのは相当でない。
【被告の主張】
(1)著作権法114条3項による損害額について
ア 【原告の主張】(1)ア及びイの事実は不知であり、同ウの計算は争う。
イ 後記(2)のとおり、本件動画サイトの再生回数を基準として使用料相当額を計算するのは相当でないが、仮に、再生回数を基準として相当な使用料を考える場合は、原告の計算方法は妥当でなく、以下のように考えるべきである。
(ア)再生1回当たりの使用料相当額について
 原告が主張する再生1回当たり2480円というのは、ダウンロードとストリーミングのセットの金額であり、本件動画サイトは視聴者にダウンロードはさせていないから基準とならない。
 DMM.comにおいて、ほとんどの作品のストリーミング配信価格は1本当たり300円であり、原告主張の利益の配分割合を前提としても、1回の再生当たりの原告の取得額は、消費税抜きの価格の38パーセントに当たる105円(300円÷1.08×38パーセント)となる。
 さらに、DMM.comのストリーミング配信サービスでは、一度利用料金を支払えば7日間の利用期間に複数回の再生が可能であったから、再生回数1回当たりの原告の取得額は、上記の105円に更に3分の1を乗じた35円と考えるのが相当である。
(イ)表示された再生回数について
 原告が、本件動画サイトにおいて表示された「再生数」が配信回数と主張するところ、この数字が実態のある再生回数を示しているかは不明である。
 また、被告は、本件著作物を、本件動画サイトに有料動画としてアップロードしており、その場合、無料会員は価値のない4秒間のサンプル再生しかできない。本件動画サイトにおける「再生数」の表示は、このような内実を伴わないサンプル再生によるカウントを含んでおり、有料会員による再生は表示された「再生数」3621回の1パーセントに当たる36回程度であると考えられる。
(ウ)したがって、本件動画サイトにおける再生回数に基づいて相当な使用料を計算すると多くとも1200円程度(35円×36回)と考えるべきである。
(2)動画見放題サービスに提供した場合の使用料を基準とすべきことについて
 原告の主張する再生回数を基準とした計算方法は、実質的に著作権法114条1項の損害額推定を援用するものである。しかしながら、本件動画サイトにおいて、本件著作物はストリーミング配信のみがされており、ダウンロードによる複製物の作成はされていないため、同項の損害は発生していない。したがって、原告の上記計算方法はその意味でも妥当でない。
 本件動画サイトにおける本件著作物の利用形態からすれば、DMM.com等の動画見放題サービスに原告が本件著作物を提供したと仮定した場合の対価こそが相当な使用料となり、概ね月額1000円に満たない低額になると考えられる。
第3 当裁判所の判断
1 著作権法114条3項による損害額について
(1)認定事実
 後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 本件著作物は、平成28年4月1日に販売及びDMM.comでの配信が開始されたものであり、同年5月10日時点でのDMM.comにおける配信態様と価格は、HD版ダウンロードとHD版ストリーミングのセットが2980円、ダウンロードとストリーミングのセットが2480円、DVDトースターが2800円であり、ストリーミングのみの形態での配信はなされていなかった(甲2、乙12、弁論の全趣旨)。
 本件アップロード当時、本件著作物は、DMM.com等の動画配信サービスにおいて、定額で多数の動画を一定期間無制限に見られるといった、いわゆる動画見放題サービスの対象とはされていなかった(弁論の全趣旨)。
イ 本件著作物が本件動画サイトから削除され、本件訴訟が提起された後の令和元年11月12日の時点においては、本件著作物は、DMM.comにおいて、HD版ダウンロードとHD版ストリーミングのセットが1270円、ダウンロードとストリーミングのセットが980円、HD版ストリーミング(有効期間7日間)が300円で配信されていた(乙13)。
ウ 原告は、取引先との間でコンテンツ提供基本契約を締結し、取引先に対して、許諾の対価の合意をした上で、原告が著作権を有する映像等のコンテンツの配信を許諾している。平成21年頃に締結された原告とある取引先との契約では、コンテンツ売上総額(消費税を含まないもの)の38パーセントを、原告が使用許諾の対価として受領することが定められていた(甲10、11)。
エ 被告は、本件著作物を、平成28年5月5日に本件動画サイトに有料動画としてアップロードした。本件著作物は、本件動画サイトにおいて、ストリーミング配信の形で配信されており、利用者にダウンロードさせて複製させる形式では配信されていなかった(弁論の全趣旨)。
 本件動画サイトにおいて、同月10日時点における「再生数」は3621回と表示されていた(甲4、弁論の全趣旨)。原告が本件動画サイトに要請したことによって、同日より後、本件訴訟提起までに、本件著作物は本件動画サイトから削除された(弁論の全趣旨)。オ 本件動画サイトにおいては、有料会員以外の者が有料動画を再生しようとすると数秒間だけのサンプル動画が再生されるが、このサンプル動画の再生も、本件動画サイトに表示される「再生数」に含まれる(弁論の全趣旨)。
(2)検討
ア 原告の主張する損害額について
 原告は、前記(1)アの本件アップロード当時のDMM.comにおける配信価格のうち最低額の2480円(ダウンロードとストリーミングのセット)に、前記(1)ウと同様の38パーセントの割合と前記(1)エの「再生数」3621回をそれぞれ乗じた341万2430円が本件アップロードについての使用料相当額の損害であると主張する。
 しかしながら、上記の配信価格2480円には、本件動画サイトにおいては可能とされていなかったダウンロードの料金も含まれていること、使用許諾の対価を売上総額の38パーセントとする前記(1)ウの合意内容と同様の内容がDMM.comにおける本件著作物の利用に適用されることを裏付ける的確な証拠はないこと、前記(1)オのとおり、前記(1)エの「再生数」には数秒間に留まるサンプル再生が含まれ得ることを考慮すれば、原告の上記計算に係る損害額は採用し難い。
イ 被告の主張する損害額について
 被告は、基準とすべき配信価格はストリーミング配信の300円であり、本件動画サイトにおける内実を伴う再生回数は表示された「再生数」の1パーセント程度であった等として、原告が受けるべき使用料相当額は1200円程度であった旨主張する。
 しかしながら、前記(1)ア及びイからすれば、本件アップロード当時、本件著作物はストリーミング配信のみの形態では配信されておらず、配信開始から一定期間が経過することで、本件著作物の配信価格が全体的に低下するとともに、ストリーミング配信のみの配信も開始されるようになったと考えられるから、本件アップロードによる損害算定にあたり、参考とすべき配信価格が300円であったとはいえない。また、前記(1)オのとおり、本件動画サイト上に表示される「再生数」にサンプル再生が含まれるとしても、有料会員による実態を伴う再生回数が表示された「再生数」の1パーセントという少ない割合に限定されることを認めるに足りる証拠はないから、被告の上記主張は採用することができない。
 さらに、被告は、本件アップロードについての使用料相当額の算定に当たっては、動画見放題サービスに原告が本件著作物を提供したと仮定した場合の対価が相当であるとも主張するが、前記(1)アのとおり、本件著作物は、本件アップロード当時、動画見放題サービスに提供されていなかったことからすれば、本件アップロードについての使用料相当額を算定するに当たって、当然に動画見放題サービスへ提供した場合の対価が参照されるべきであるとはいえない。
ウ 本件アップロード行為について原告が受けるべき金額
 前記ア及びイのとおり、原告及び被告による損害額の主張はいずれも採用できないところ、前記(1)で認定した、本件著作物の発売ないし配信開始日、本件アップロード当時の許諾を受けた本件著作物の配信態様や配信価格、原告と配信事業者との利益分配に係る合意の例、遅くとも本件アップロードから5日後の時点で原告が本件アップロードを確認し、本件動画サイトへの削除要請等の対応を開始したこと、その時点で本件動画サイトにおいて表示されていた「再生数」やその中に数秒間のサンプル再生が含まれ得ること、原告の要請を受けて本件著作物が本件動画サイトから削除されたことといった事情に、前記ア及びイで検討した事項を総合考慮すれば、本件アップロードにつき、原告が受けるべき金銭の額に相当する額(著作権法114条3項)は40万円と認めるのが相当であり、これを覆すに足りる証拠はない。
2 結論
 よって、原告の請求は、被告に対して、本件著作物の公衆送信権侵害を理由とする不法行為による損害賠償請求権に基づき、損害金40万円及びこれに対する不法行為の後である令和元年9月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、同限度でこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 山田真紀
 裁判官 神谷厚毅
 裁判官 矢野紀夫


別紙 著作物目録
 作品タイトル:(省略)
 品番:(省略)
 DMM作品URL:http://(以下省略)
 収録時間:90分
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