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【事件名】KDDIへの発信者情報開示請求事件M
【年月日】令和2年2月19日
 東京地裁 平成31年(ワ)第9347号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和2年1月15日)

判決
原告 創価学会
同訴訟代理人弁護士 西口伸良
同 堀田正明
同 甲斐伸明
同 大原良明
被告 KDDI株式会社
同訴訟代理人弁護士 今井和男
同 正田賢司
同 小倉慎一
同 山本一生
同 小川泰寛
同 湯川信吾
同訴訟復代理人弁護士 上林祐介


主文
1 被告は、原告に対し、別紙1発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、原告が、被告の電気通信設備を経由してされたインターネット上の短文投稿サイトである「ツイッター」(以下「ツイッター」という。)への別紙2投稿記事目録記載1及び2の各投稿記事(以下、同別紙の番号順に「本件記事1」などといい、これらを一括して「本件記事」という。)において、本件記事1中の写真(以下「本件記事写真1」という。)及び本件記事2中の2名の人物とピアノが写った写真(以下「本件記事写真2」といい、本件記事写真1と併せて「本件記事写真」という。)が掲載され、本件記事写真を含む本件記事の投稿によって、別紙3写真目録記載1及び2の各写真(以下、同別紙の番号順に「本件写真1」などといい、これらを一括して「本件写真」という。)についての原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかであり、本件記事の投稿者(以下「本件投稿者」という。)に対する損害賠償請求等を行うために、被告の保有する別紙1発信者情報目録記載の発信者情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示が必要であると主張して、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき、本件発信者情報の開示を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠(以下、書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1)当事者
ア 原告は、宗教法人法に基づき設立された宗教法人である。
イ 被告は、電気通信事業を営む株式会社である。
(2)本件記事の投稿
 本件記事は、インターネット上で不特定の者が閲覧可能な短文投稿サイトであるツイッターにおいて、別紙2投稿記事目録記載1及び2の各「投稿日時」欄記載の日時に、「@(以下略)」という名称に係るアカウント(以下「本件アカウント」という。)を使用して投稿されたものである(甲1。以下、本件記事の投稿行為を、同別紙の番号順に「本件投稿1」などといい、これらを一括して「本件投稿」という。)。
(3)本件アカウントに係るログイン情報
 本件アカウントについて本件投稿前にされた最後のログイン(以下「本件ログイン」という。)は、それぞれの投稿につき対応する別紙2投稿記事目録記載1及び2の各「ログイン日時」欄記載のとおりであって、IPアドレスを「(IPアドレスは省略)」(以下「本件IPアドレス」という。)とし、被告を経由プロバイダとするものである(甲1、3)。
(4)被告の本件発信者情報の保有等
 被告は、本件発信者情報を保有している。
3 争点
(1)本件投稿による権利侵害の明白性(争点1)
ア 本件写真の著作物性及び原告の著作権(争点1−1)
イ 著作権(公衆送信権)侵害の成否(争点1−2)
ウ 違法性阻却事由の不存在(適法な引用の成否)(争点1−3)
(2)本件発信者情報は本件投稿による侵害に係る発信者情報であるか(争点2)
(3)開示を受けるべき正当な理由の有無(争点3)
4 争点に対する当事者の主張
(1)争点1(本件投稿による権利侵害の明白性)について
ア 争点1−1(本件写真の著作物性及び原告の著作権)について
【原告の主張】
(ア)本件写真1は、撮影方向、構図、シャッタースピード、タイミング、絞り等に工夫が凝らされ、原告の各部代表者会議(以下「本件会議」という。)で、原告において厳粛とされている師弟の道を語る原告のA名誉会長(以下「A名誉会長」という。)の様子を捉えて撮影されたもの、本件写真2は、上記同様に工夫が凝らされ、ピアノを演奏するA名誉会長とそれを傍らで笑顔で見守る同夫人との仲睦まじい様子を捉えて撮影されたものであるから、いずれも著作物性がある。
(イ)本件写真1は、平成16年10月28日、原告の発意に基づき原告の業務に従事するB(以下「B」という。)において職務上作成した著作物であり、本件写真2は、平成9年9月15日、原告の発意に基づき原告の業務に従事するC(以下「C」という。)において職務上作成した著作物であるから、原告の就業規則の定めに照らし、いずれも原告がその著作権を有する。
【被告の主張】
 不知。
イ 争点1−2(著作権(公衆送信権)侵害の成否)について
【原告の主張】
 本件記事写真は、A名誉会長の姿勢、表情、服装、背景、撮影アングル等の点で本件写真と同一であるから本件写真に依拠したものであり、また、本件写真の内容及び形式を覚知させ、その部分に創作性を看取できるから、本件写真を複製したものである。したがって、本件投稿は、本件写真についての原告の公衆送信権を侵害する。
【被告の主張】
 否認又は争う。本件会議に出席した者が本件記事写真1を撮影した可能性がある。また、本件写真1のオリジナルデータから複製がされた事態を想定し難いところ、原告は、本件写真1の公表状況や、本件写真1の複製が可能であることを主張立証していない。
ウ 争点1−3(違法性阻却事由の不存在(適法な引用の成否))について
【原告の主張】
 本件記事1には本件写真1についての論評はなく、本件記事2は本件写真2に触れてもいないから、本件写真の掲載はこれらを鑑賞させることに目的がある。また、本件記事写真1は本件写真1をトリミングして改変したものである。したがって、本件記事による本件写真の引用は、公正な慣行に合致せず、引用の目的上正当な範囲内で行われたものでもないから、適法な引用(著作権法32条1項)に当たらない。
【被告の主張】
 否認又は争う。本件記事は、一体として、本件写真1中に含まれるA名誉会長による「正義」の揮毫(以下「本件揮毫」という。)が辞任に追い込まれたA名誉会長の反転攻勢を示す一書であるとの論評をするためのものであり、そのために本件写真1を示し、背景事情の補足や対照として本件写真2を示す必要がある。他方、本件写真の公表により原告が被る経済的損失は大きくない。したがって、本件記事における本件写真の引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内のものである。
(2)争点2(本件発信者情報は本件投稿による侵害に係る発信者情報であるか)について
【原告の主張】
 ツイッターに投稿するためには、氏名、メールアドレス及びパスワードを登録してアカウントを作成し、当該アカウントへのログインを継続する必要がある。そして、本件投稿は連続してされたものであるから、いずれも本件投稿1の直前の本件ログインをした人物によってされたものといえる。また、被告は、本件IPアドレスを割り当てられた利用契約者(以下「本件契約者」という。)に対して法4条2項に定める意見照会を行い、回答書を受領しているにもかかわらず、同回答書を書証として提出するなどして本件契約者が本件投稿をしたことを否認している旨の主張立証をしていない。したがって、本件ログインをした人物と本件投稿をした人物は同一であり、本件ログインに係る本件発信者情報は、本件投稿による侵害に係る発信者情報である。
【被告の主張】
 否認又は争う。ツイッターの仕様においては、同一のアカウントに対し二重にログインすることが可能である。また、本件アカウントには短時間に異なるプロバイダを経由したログイン履歴が残っていることから、本件アカウントが複数人によって利用されている可能性がある。そして、本件ログインの2、3時間前の平成31年1月8日午前3時15分に、さくらインターネット株式会社に割当てがされているIPアドレス「(IPアドレスは省略)」を利用したログインが、また、同日午前4時47分に株式会社TOKAIコミュニケーションズに割当てがされているIPアドレス「(IPアドレスは省略)」を利用したログインがそれぞれ存在する。したがって、本件ログインをした人物ではなく、上記ログインをした別の人物が本件投稿をした可能性を否定できない。また、被告は、原告主張に係る回答書を書証として提出することを希望する旨の回答を回答者から得ていないために同回答書を書証として提出していないにすぎず、この点についての原告の主張は憶測にすぎない。
 よって、本件ログインをした人物が本件投稿をした人物と同一であるとはいえないため、本件ログインに係る本件発信者情報は、本件投稿による侵害に係る発信者情報に該当しない。
(3)争点3(開示を受けるべき正当な理由の有無)について
【原告の主張】
 原告は、本件投稿者に対する損害賠償請求及び削除要求等をするために本件発信者情報の開示を求めるものであるから、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。
【被告の主張】
 不知又は争う。原告は既に本件写真を広く公表しているから、本件投稿者による公衆送信権侵害により原告に実質的な損害が発生することが想定し難い。また、本件記事はいすれも削除されているから、原告が本件投稿者に対して削除要求をする必要もない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件投稿による権利侵害の明白性)について
(1)争点1−1(本件写真の著作物性及び原告の著作権)について
ア 本件写真1の著作物性について
 証拠(甲7の1、甲9)及び弁論の全趣旨によれば、本件写真1は、本件会議においてスピーチをしているA名誉会長を撮影したものであると認められる。
 そして、本件写真1は、スピーチをしているA名誉会長が本件揮毫を指し示す動作をした場面を捉え、A名誉会長と本件揮毫とが一つの画面に収まるように両者を斜め前方から撮影したもので、撮影のタイミングや撮影方向、構図等に撮影者の思想及び感情が創作的に表現されているということができるから、写真の著作物として著作物性が認められる。
イ 本件写真2の著作物性について
 証拠(甲7の2、甲9)及び弁論の全趣旨によれば、本件写真2は、原告の神奈川県文化会館でピアノを演奏するA名誉会長とそれをそばで見守る同夫人を撮影したものであると認められる。
 そして、本件写真2は、A名誉会長及び同夫人を画面中央より左側に捉えつつ画面右下にピアノを比較的大きく捉え、また、影がかかって上記両名及びピアノが暗くならないように撮影することにより、A名誉会長がピアノを演奏している状況やその際の表情、そのそばで同夫人が笑顔でこれを見守る際の表情やしぐさを明確に覚知することができるようにしたものであって、撮影のタイミングや撮影方向、構図等に撮影者の思想及び感情が創作的に表現されているということができるから、写真の著作物として著作物性が認められる。
ウ 本件写真の著作権の帰属について
 証拠(甲7、9)及び弁論の全趣旨によれば、本件写真1は、平成16年10月28日、原告の一部門である聖教新聞社の職員であったBにより、本件写真2は、平成9年9月15日、上記聖教新聞社の職員であったCにより、いずれも原告の発意に基づき原告の職務上撮影されたものであると認められる。そして、証拠(甲8)によれば、本件写真1は上記聖教新聞社が平成19年7月1日付けで発行した雑誌「グラフSGI」に、本件写真2は上記聖教新聞社が平成31年1月8日付けで発行した聖教新聞3面に、いずれも現実の撮影者の氏名を明記することなく掲載されたことが認められ、他に本件写真が上記各撮影者の名義で公表されるものであることをうかがわせるに足りる証拠もないから、本件写真は、いずれも原告において自己の名義の下に公表するものであると認められる。さらに、証拠(甲14)及び弁論の全趣旨によれば、原稿の職務上作成する著作物の著作者を原告としない旨の定めは上記各撮影当時の原告の就業規則には存在しないと認められる。
 したがって、原告は、本件写真について著作権を有すると認められる。
(2)争点1−2(著作権(公衆送信権)侵害の成否)について
ア 本件写真1について
(ア)証拠(甲1の1、甲7の1)及び弁論の全趣旨によれば、本件写真1と本件記事写真1とを対比すると、本件記事写真1には、本件写真1の画面手前側の人の頭の影や演台全体が含まれていないものの、A名誉会長の服装及び姿勢、本件揮毫の設置態様、A名誉会長、本件揮毫、演台の縁及びマイクの位置並びにA名誉会長の背後にいる人物及びその背後のつい立ての位置関係等が同一であると認められるから、本件記事写真1の影像は、本件写真1の一部をトリミングしたものと同様であると認められる。そして、本件記事写真1において、前記(1)アにおいて判示した本件写真1の創作的表現を明確に覚知することができる。
 したがって、本件記事写真1は、本件写真1に依拠して再製されたものであるといえるから、本件投稿1によって原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたと認められる。
(イ)被告は、本件会議に出席した者が本件記事写真1を撮影した可能性がある旨主張するが、抽象的な可能性を指摘するものにすぎず、前記(ア)において判示した本件写真1と本件写真1の同一部分の存在に照らしても、被告の上記主張は採用することができない。その他、被告の種々主張する点はいずれも前記(ア)の認定判断を左右するものではない。
イ 本件写真2について
 証拠(甲1の2、甲7の2)及び弁論の全趣旨によれば、本件写真2と本件記事写真2とはその影像が同一のものであると認められ、本件記事写真2において、前記(1)イにおいて判示した本件写真2の創作的表現を明確に覚知することができる。
 したがって、本件記事写真2は、本件写真2に依拠して再製されたものであるといえるから、本件投稿2によって原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたと認められる。
(3)争点1−3(違法性阻却事由の不存在(適法な引用の成否))について
ア 証拠(甲1)及び弁論の全趣旨によれば、本件記事には、本件写真1中に含まれる本件揮毫について触れる部分はあるものの、本件写真1それ自体を説明する記載がないこと、本件写真2について説明する記載はないこと、本件写真の出典が明示されていないことが認められる。そして、仮に本件投稿者の意図が本件写真1中に含まれる本件揮毫を取り上げる点にあるのであれば、これのみを掲載すれば足りるのであって本件写真を掲載する必要はなく、その他本件記事において本件写真を掲載する必要性を認めるに足る証拠はない。
 これらに照らすと、被告の主張するように本件記事を一体のものとみたとしても、本件記事における本件写真の掲載は、公正な慣行に合致せず、引用の目的上正当な範囲内で行われたものでもないから、適法な引用(著作権法32条1項)に当たらない。
イ また、本件全証拠によっても、本件写真の掲載について、その他の違法性阻却事由をうかがわせる事情は認められない。
(4)小括
 以上によれば、本件投稿により、本件写真についての原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかであるというべきである。
2 争点2(本件発信者情報は本件投稿による侵害に係る発信者情報であるか)について
(1)事実認定
 前記前提事実、掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認定することができる。
ア 本件投稿は、ツイッターのスレッド機能を用いて同一人物により連続して行われたものである(甲1、4、5)。
イ 原告訴訟代理人は、本件訴訟提起前の平成31年3月7日付けで、被告に対し、本件IPアドレスを被告が管理する特定電気通信設備等と、本件写真を侵害された情報とをそれぞれ特定した上で、本件投稿により原告の著作権(公衆送信権)が侵害されており、本件投稿の直前の本件ログインをした者に係る情報が本件投稿に使用された発信者情報であるとして、本件発信者情報の開示を請求した(甲17)。
ウ 被告は、前記イの請求を受け、本件契約者に対し、法4条2項に基づく意見照会をした。
 被告が本件契約者に対して送付した上記意見照会書には、@法4条2項に基づき被告が開示請求に応じることについて契約者の意見を照会するものであること、A開示に同意しない場合にはその理由を回答書に具体的に記載してもらいたいこと、B権利を侵害したとされる情報を契約者が発信していなくても、実際にはインターネット接続を共用している家族や友人が発信している場合があるため、その場合には同人らの意見を照会したいこと、C発信者情報開示請求に関係する発信元情報、掲載された情報、掲載先のURL、侵害情報等が記載されている。また、被告が併せて送付した回答書書式には、住所、氏名及び連絡先を記載する欄が設けられ、「貴社より 年 月 日付で照会のあった私の発信者情報の取扱いについては、下記のとおり回答します。」と印字された上で、発信者情報開示に同意するか否かを選択する回答欄及び同意しない場合にはその理由を記載する欄が設けられ、理由欄に記載された内容が相手方に対して開示を拒否する理由となるため回答を詳細に記載することを求める注記が付されている。また、発信者が契約者ではなく家族や同居人である場合に用いる回答書書式も併せて送付されているが、同書式には、発信者の住所、氏名及び連絡先を記載する欄が設けられ、「発信者情報の開示請求者がその流通により権利を侵害されたと主張する情報は、貴社から照会(年月日付)をした契約者ではなく、私が発信した情報ですので、私の発信者情報の取扱いについて、以下のとおり回答します。」と印字された上で、発信者情報開示に同意しないか又は発信者情報開示請求者と直接連絡を取るため契約者の情報に代え、回答者の住所、氏名及び連絡先を通知することを求めるかを選択する回答欄及び同意しない場合にはその理由を記載する欄が設けられ、理由欄に記載された内容が相手方に対して開示を拒否する理由となるため回答を詳細に記載することを求める旨の注記が付されている(乙9)。
エ 被告は、前記ウの意見照会に対する回答書を受領した上で、平成31年4月4日頃、原告代理人に対し、同人から連絡のあった情報により権利が侵害されたことが明らかであると判断できないことを理由に、前記イの開示請求に応じることはできない旨を通知した(甲6)。
オ 被告は、本件訴訟の提起後、本件契約者に対し、再度、法4条2項に基づく意見照会をした(乙8、弁論の全趣旨)。
 被告が本件契約者に対して送付した上記意見照会書には、@契約者の発信者情報の開示を求める訴訟が提起されたことの説明、A同封した回答書(1)及び(2)に記載の上返送してほしいこと、B回答書(2)についてはその内容を裁判所に証拠等として提出することがあり、これにより契約者の意見を率直に裁判官及び原告に示すことができるが、他方で、契約者において裁判所に証拠等として開示することに同意した場合でも、被告において個人を特定し得る記載があると判断した場合には、回答書を開示しないか又は上記記載にマスキングを施した上で開示する場合があること、C発信者情報開示請求者の氏名(法人の名称)、被告が管理する特定電気通信設備、掲載された情報、掲載先のURL、侵害情報等が記載されているほかは、前記ウBの事項が記載されている。また、被告が併せて送付した上記回答書(1)の書式には、住所、氏名及び連絡先を記載する欄が設けられ、「貴社より 年 月 日付で照会のあった私の発信者情報の取扱いについては、下記のとおり回答します。」と印字された上で、発信者情報開示に同意するか否かを選択する回答欄及び同意しない場合にはその理由を上記回答書(2)に回答するように求める記載、並びに上記回答書(2)を裁判所に証拠等として開示することに同意するか否かを選択する回答欄がある。そして、上記回答書(2)の書式には、住所、氏名及び連絡先を記載する欄が設けられ、貴社より 年 月 日付で照会のあった件について、以下のとおり回答します。」と印字されている。さらに、発信者が契約者ではなく家族や同居人である場合に用いる前記ウと同内容の回答書書式も併せて送付された(乙8)。
 被告は、上記意見照会に対する回答書を受領した(弁論の全趣旨)。
(2)判断
ア 法4条2項の意見照会手続は、@発信者情報の開示が、発信者のプライバシー、個人情報及び表現の自由という重大な権利利益に関する問題である上、その性質上、いったん開示されてしまうとその原状回復は不可能であることから、特定電気通信役務提供者が請求を受けて開示を求められた場合に、みだりに開示がされることを回避する必要があること、A発信者情報の開示について、実質的かつ積極的な利害を有しているのは発信者本人であることから、特定電気通信役務提供者が請求を受けて開示の是非を判断するに当たっては、当該発信者の意思が十分に反映されるべきところ、匿名性を維持したままでの発信者自身の手続参加が認められない現行の手続法の枠組みの下にあっては、開示請求の相手方となる開示関係役務提供者の行為を通じて発信者の利益擁護や手続保障を図ることが不可欠であることから、開示関係役務提供者にその実施が義務付けられたものである。そうすると、開示関係役務提供者は、上記意見照会手続により得られた発信者の意見を尊重した対応をとることが通常であるといえるから、被告も、本件において、原告の発信者情報開示請求に対し、法4条2項に基づく意見照会に対する本件契約者の各回答を踏まえて対応していると推認することができる。
 前記(1)ウ及びエのとおり、被告は、本件契約者に対し、本件訴訟提起前に法4条2項に基づく意見照会を行い、これに対する回答を得た上で、原告訴訟代理人に対し、原告の権利が侵害されたことが明らかであると判断できないことを理由に発信者情報の開示に応じなかったところ、この際に本件投稿をしたことを否定する内容の回答を得ている旨を示していなかった。また、前記(1)オのとおり、被告は、本件契約者に対し、本件訴訟提起後にも法4条2項に基づく意見照会を行い、これに対する回答を得ているが、本件訴訟においても、本件投稿をしたことを否定する内容の回答を得ている旨を主張していない。これらの事実に照らすと、被告は、法4条2項に基づく意見照会の結果、本件ログインに係るアクセスにより本件投稿がされたことを否定する内容の回答書を得ていないことが推認できる。他方で、前記ウ及びオにおいて認定した被告による法4条2項に基づく意見照会の方式に照らすと、本件ログインに係るアクセスにより本件投稿がされていないのであれば、その旨を明記した回答がされるのが自然であることからすれば、被告が上記の内容の回答書を得ていないことは、本件ログインに係るアクセスにより本件投稿がされたとの事実を推認させる事情であるということができる。
 これに加えて、前記第2の2(2)及び(3)のとおり、本件ログインの時刻と本件投稿の時刻までの間隔は1時間程度であり、本件ログインによりツイッターにアクセスした者がその状態を維持して本件投稿をしたとみても不自然ではないこと、前記(1)アのとおり、本件投稿が同一人物により連続してされたものであることも併せ考えると、本件ログインに係るアクセスにより本件投稿がされたことを推認することができるというべきである。
イ 被告は、本件アカウントが複数人によって利用されている可能性があり、他の複数の会社の保有するIPアドレスを利用したログインが本件ログイン前に存在することから、本件ログインをした人物ではなく、それ以前のログインをした別の人物が本件投稿をした可能性が否定できない旨主張する。
 この点、証拠(甲3、乙4〜6)から認められる本件アカウントへのアクセスの状況に照らすと、本件アカウントが複数人により利用されている可能性自体を否定することはできない。しかしながら、前記アにおいて判示したところに照らせば、上記の点が前記アの認定判断を左右するものとはいえない。その他、前記アの認定判断を左右するに足りる証拠はない。
 よって、被告の上記主張は採用することができない。
(3)小括
 以上によれば、本件発信者情報は、本件投稿による侵害に係る発信者情報であると認められる。
3 争点3(開示を受けるべき正当な理由の有無)について
 弁論の全趣旨によれば、原告は、本件投稿者に対し、著作権(公衆送信権)侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求をする意思を有しており、そのためには、被告が保有する本件発信者情報の開示を受ける必要があると認められるから、その開示を受けるべき正当な理由があるということができる。
第4 原告による文書提出命令の申立てについて
 原告は、本件契約者が特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第4条第1項の発信者情報を定める省令1号及び2号の「発信者その他侵害情報の送信に係る者」であることを立証するために、法4条2項に基づき被告が本件契約者に対してした意見照会に対して本件契約者又はその家族や同居人が被告に提出した回答書を対象とする文書提出命令(令和元年(モ)第2773号)の申立てをしている。
 しかしながら、前記第3において判示したところに照らすと、上記文書について証拠調べの必要性は認められないから、原告の上記申立てを却下する。
第5 結論
 以上のとおり、本件投稿による原告の権利侵害が明白であるところ、本件発信者情報は上記権利侵害に係る発信者情報に該当し、その開示を受けるべき正当な理由があるといえるから、本件投稿に係る通信を媒介した被告は、開示関係役務提供者として本件発信者情報を開示すべき義務を負う。
 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 山田真紀
 裁判官 神谷厚毅
 裁判官 矢野紀夫


(別紙1)発信者情報目録
 別紙2投稿記事目録記載の各記事の「IPアドレス」欄記載のIPアドレスを同目録記載の各記事の「ログイン日時」欄記載の日時頃に使用した者に関する情報であって、次に掲げるもの
 1 氏名又は名称
 2 住所
 3 電子メールアドレス(電子メールの利用者を識別するための文字、番号、記号その他の符号)

(別紙2投稿記事目録は省略)

(別紙3写真目録は省略)
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