判例全文 line
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【事件名】BL同人誌の漫画無断掲載事件
【年月日】令和2年2月14日
 東京地裁 平成30年(ワ)第39343号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 令和元年12月18日)

判決
原告 X
同訴訟代理人弁護士 平野敬
同訴訟復代理人弁護士 高井雅秀
被告 株式会社アクラス(以下「被告会社」という。)
被告 Y1(以下「被告Y1」という。)
被告 Y2(以下「被告Y2」という。)
上記3名訴訟代理人弁護士 今村憲


主文
1 被告らは、原告に対し、連帯して219万2215円及びこれに対する平成30年7月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを5分し、その4を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告らは、原告に対し、連帯して1000万円及びこれに対する平成30年7月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 第1項について仮執行宣言
第2 事案の概要
1 本件は、原告が、被告会社は、自らが運営する別紙ウェブサイト目録記載のウェブサイト(以下、符号に従い「本件ウェブサイト1」などといい、併せて「本件各ウェブサイト」という。)に、原告が著作権を有する別紙著作物目録記載の漫画(以下、符号に従い「本件漫画1」などといい、併せて「本件各漫画」という。なお、以下では、本件漫画1〜14のうちいずれか複数を含む場合にも「本件各漫画」と表記することがある。)を無断で掲載し、原告の著作権(公衆送信権)を侵害したと主張して、被告会社に対し、民法709条及び著作権法114条1項に基づき、損害賠償金1億9324万3288円のうち1000万円及びこれに対する不法行為日である平成30年7月7日(本件各ウェブサイトへの掲載日のうち最も遅い日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、被告会社の現在の代表取締役である被告Y1及び同年8月25日まで代表取締役であったZ(同日死亡。以下「亡Z」という。)が、被告会社の法令順守体制を整備する義務に違反して、被告会社が上記著作権侵害行為を行う本件各ウェブサイトを運営することを許容したとして、被告Y1及び亡Zを相続した同人の配偶者である被告Y2に対し、会社法429条1項に基づき、被告会社と連帯して、上記同額の損害賠償金及び遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実。なお、本判決を通じ、証拠を摘示する場合には、特に断らない限り、枝番を含むものとする。)
(1)当事者
 被告会社は、書籍・DVD・ビデオ・ゲーム用ソフトウェアの売買等を目的とする株式会社である。
 被告会社の代表取締役は、平成21年8月以前から平成30年8月25日に死亡するまで亡Zが務め、その間の取締役は、亡Zの配偶者である被告Y2、被告Y1ほか1名であった。被告Y1は、同年9月4日に被告会社の代表取締役に就任し、現在までその職にある。(弁論の全趣旨)
 被告Y2は、亡Zの死亡に伴い、亡Zの権利義務を相続した。(甲6)
(2)本件各漫画の本件各ウェブサイトへの掲載
 本件各漫画は、遅くとも平成30年7月7日までには本件各ウェブサイトに掲載され、閲覧者はこれらを無料で閲覧することができた。(甲9、42)
3 争点
(1)本件各漫画の著作物性(争点1)
(2)原告が本件各漫画の著作権者であるか(争点2)
(3)被告会社が本件各漫画を本件各ウェブサイトに掲載したか(争点3)
(4)被告会社の故意・過失の有無(争点4)
(5)信義則違反又は権利濫用の成否(争点5)
(6)損害額(争点6)
(7)被告Y1及び被告Y2に対する会社法429条1項に基づく責任の成否
(争点7)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(本件各漫画の著作物性)について
〔原告の主張〕
 本件各漫画は、いずれも漫画であり、多数の絵と文字を組み合わせて物語を描いた創作物であって(甲42)、原告の思想及び感情を創作的に表現した美術の範囲に属するものであるから、著作物に当たる。
〔被告らの主張〕
 本件各漫画が、著作権法の定める著作物であることについて主張、立証がされていない。2 争点2(原告が本件各漫画の著作権者であるか)について
〔原告の主張〕
 原告は、「B」又は「C」の筆名で活動し、同人誌即売会においては「D」というサークル名(同人誌即売会における参加グループの名称)で参加している(甲1、2、7)。原告以外に「D」というサークル名を使用している者はおらず、甲2には本件各漫画について「D」と「B」又は「C」の筆名が併記されていることからも、その関係性は明らかである。なお、「C」は、「B」の姓の「い・なか」を「なか・い」に並べ替えたものである。
 原告が本件各漫画の著作権者であることは、本件各漫画について、自己の名で印刷所に印刷を発注し、納品を受けていること(甲15、16)、原告が「B」の筆名で描いた漫画がインターネット上に無断で掲載された著作権侵害の刑事事件において、「BことX」が被害者とされていること(甲41)からも明らかである。なお、甲16は印刷所のウェブサイトにおける注文履歴であるが、この画面を見ることができるのは発注者のみである。
 また、出版社との原作使用同意書(甲36)においても「著作権者」が「B」である著作物について原告が同意している。
 したがって、原告は本件各漫画の著作権者である。
〔被告らの主張〕
 本件各漫画のうち、「B」なる筆名が使用されたものは1点もなく、同筆名が使用されたもの(甲1、甲2の1枚目)は、本件各漫画とは無関係である。また、本件各漫画については「D」との記載はあるが、これをもって原告に著作権が帰属するということはできない。
 また、原告が指摘する原作使用同意書(甲36)には「X」が「B」であるとの記載があるが、そこに記載された住所は、訴状に記載された原告の住所地と異なるものであり、また、「X」の住民票上の住所をみても、原告住所地に住所地を有した記録はない(乙6)から、甲36に記載された「X」が原告と同一人物であるどうかには疑問がある。
 さらに、原告が提出する証拠のうち、甲15によれば、「X」が本件各漫画のうち5点について納品を受けたことは推認され、甲41(刑事事件の判決等)には「BことX」との記載はあるが、上記のとおり、そもそも「X」が原告と同一人物であるどうかには疑問があり、甲16には、注文主の氏名についての記載はない。
 したがって、原告が本件各漫画の著作権者であるとの立証がされているということはできない。
3 争点3(被告会社が本件各漫画を本件各ウェブサイトに掲載したか)について
〔原告の主張〕
(1)被告会社は、以下のとおり、本件各ウェブサイトの運営者であり、本件各ウェブサイトに本件各漫画を掲載して原告の著作権を侵害した。
ア アイティメディア株式会社が運営するインターネット上のニュースサイト「ねとらぼ」の平成30年6月23日付け記事(甲21)及び同年7月20日付け記事(甲22)において、被告会社(同各記事中で「A社」と表記されている。)の関係者は、同社が本件各ウェブサイトを運営し、組織的に同人誌の無断掲載をして多大な収益を上げていると語っている。
イ 本件各ウェブサイトには、株式会社ジーニー、株式会社エムエムラボ(以下「エムエムラボ」という。)等の広告代理店を介して広告が掲載されており、各広告代理店から本件各ウェブサイトの運営者に対する広告掲載料が支払われている。原告は、訴訟代理人を通じてエムエムラボに弁護士会照会を行ったところ、本件各ウェブサイトのために同社と契約をしている名義人は被告会社であり、広告掲載料は被告会社に支払われているとの回答を得た(甲24、25)。
ウ 原告は、平成30年10月23日、訴訟代理人を通じて被告会社に照会書を送付し、本件各ウェブサイトの運営者であるか否かの回答を求めたが(甲26)、被告会社からの回答はなかった。
エ 上記アの各記事が掲載された後、本件各ウェブサイトに掲載されていた多数の広告が撤去されたが、本件ウェブサイト2には「E」という名称の女性向けアダルトグッズの広告が残された(甲27)。同広告は、一般の広告代理店が行うリアルタイム入札方式(ウェブサイト内に広告を直接埋め込まず、JavaScriptプログラムが埋め込まれ、閲覧者がアクセスするたびに広告内容が動的に切り替わる。甲28)とは異なり、本件ウェブサイト2に直接埋め込まれており(甲29)、本件ウェブサイト2の運営者自身が掲載していると考えられる。「E」の販売業者である「F」は、その所在地が被告会社と同一(甲10、30)であり、「E’.JP」のドメインの登録者も被告会社であること(甲31)に加え、被告会社は「F(E’)」の名称で無店舗型性風俗特殊営業開始届出書を提出して事業を営んでいる(甲34)ことからすると、Fとは、実際は被告会社である。
オ 本件ウェブサイト1の平成25年時点のドメインに係るWHOIS情報の履歴が残っていたため、同情報を管理していたGMOインターネット株式会社に照会したところ、平成27年6月から平成30年3月にかけて当該ドメイン名の登録名義は被告会社及びその従業員であった(甲32)。
 また、本件ウェブサイト6の平成26年4月時点におけるドメイン登録者は「Aclassco.ltd.」、登録メールアドレスが「(省略)aclass.jp」であり(甲38)、「aclass.jp」のドメイン名を登録していたのは(住所は省略)に住所を置く「Aclassco.Ltd.」であるところ(甲39)、同住所は被告会社の旧住所地と一致するから、本件ウェブサイト6のドメイン取得を行ったのも被告会社である。
 被告らは、その準備書面(3)において、本件各ウェブサイトのドメイン登録が被告会社名義であることを認めるに至ったものの、顧客から依頼を受けて本件各ウェブサイトのドメイン取得をしたにすぎないと主張する。しかし、本件ウェブサイト1のドメインは、平成27年から平成30年3月まで被告会社名義で登録されていたのであるから(甲33の2)、登録維持に係る費用も、被告会社名義で支払われていたと考えられるが、被告らの主張するとおりであれば、ドメイン登録後、顧客にドメイン名の管理を引き渡していてしかるべきであるところ、そのような形跡はない。
(2)したがって、被告会社が本件各ウェブサイトを運営し、本件各漫画を本件各ウェブサイトに掲載したものであるから、原告が本件各漫画に有する公衆送信権侵害の責任を負う。
〔被告らの主張〕
 被告会社は、顧客から依頼を受けて、本件各ウェブサイトのドメイン取得を行ったにすぎず、本件各ウェブサイトの運営者ではないため、本件各ウェブサイトに本件各漫画を掲載してもいないから、著作権侵害の責任を負わない。
 原告が主張する上記アのニュースサイトの記事の信憑性や被告会社との関連性を示す客観的裏付けはない。
 上記イのエムエムラボの回答は、被告会社が運営者であるとするものではなく、被告会社を「弊社と本件サイトとの代理業」とするものであるから、「代理業」の意味は不明であるものの、被告会社が本件各ウェブサイトを運営することを否定するものであるということができる。
 上記ウの原告からの照会については、被告会社は本件各ウェブサイトの運営者ではないため、回答しなかったにとどまる。
 上記エの「E」の広告については、広告代理業者が広告枠を埋めることができない場合に、自社の広告で枠を埋めることは一般的であるから、上記広告の掲載によって被告会社が本件各ウェブサイトを運営することに結びつくものではない。甲34についても、亡Zが原告主張に係る届出を行ったことを示すにすぎない。
 上記オのドメイン取得については、一般的に、ウェブサイトのドメイン登録主体と運営主体が必ず一致するわけではないし、被告会社は、顧客からの依頼を受け、サービスの一環として本件各ウェブサイトのドメイン取得を行ったものであり、被告会社が本件各ウェブサイトの運営をしていたわけではない。なお、被告会社は、当該顧客に関するいかなる情報も開示する予定はない。
 以上のとおり、被告会社は本件各ウェブサイトを運営していないから、本件各ウェブサイトに本件各漫画が掲載されたことについて、公衆送信権侵害の責任を負わない。
4 争点4(被告会社の故意・過失の有無)について
〔原告の主張〕
 本件各ウェブサイトはいずれも、原告を含む多数の著作物である同人誌を無断で転載して閲覧者を誘引し、広告料により収益を上げる営利目的のウェブサイトであるから、著作権侵害について、故意又は過失の存在を疑わせる事由は存在しない。
〔被告らの主張〕
 否認する。
5 争点5(信義則違反又は権利濫用の成否)について
〔被告らの主張〕
 本件各漫画は、いずれも有名なテレビアニメの登場人物及びストーリーを脚色したものであり(乙10)、二次的著作物に該当する。原告は、原著作物の著作権者から許諾を得ておらず、本件各漫画は、違法な二次的著作物に当たる。原告は、自ら原著作物の著作権を侵害しながら、自己の著作権侵害を主張して第三者に対する損害賠償請求をしており、このような行為は、信義則に反し、あるいは権利の濫用に該当する。
〔原告の主張〕
 抽象的なキャラクターは表現そのものではなく、著作物に該当しないから、漠然と原著作物に当たるとする作品のタイトルを挙げるだけでは、本件各漫画が二次的著作物に当たるということはできない。
 仮に、本件各漫画が二次的著作物に該当し、原著作物の著作権者の許諾を受けていないとしても、二次的著作物の著作権者は、第三者に二次的著作物の著作権を侵害されたときは、法的救済を求めることができるのであり、被告らの主張は理由がない。
6 争点6(損害額)について
〔原告の主張〕
 本件各漫画のそれぞれについて、以下のとおり、公衆送信された数量(別紙1の「総PV」欄記載の数字)に単位数量当たりの利益額(別紙1の「1冊あたり利益」欄記載の数字)を乗じた額は、別紙1の「損害」欄記載のとおりであり、その合計額は合計1億9324万3288万円となる。
(1)本件各ウェブサイトにおいて本件各漫画が公衆送信された数量
ア ウェブページ内にPV(ページビュー)数が表示されている本件ウェブサイト3、4及び7については、当該PV数が、本件各漫画が公衆送信された数量を意味し、別紙1の「PV」欄記載の数となる(甲9の4・5・7〜9・13〜16・20〜25・27)。
 本件ウェブサイト7については、「1枚ずつ閲覧」の方法を選択することができるが、PV数をどのようにカウントしているかは不明である。もっとも、本件各ウェブサイトと同様に、同人誌を無断掲載するいわゆる海賊版サイトで、被告会社が運営していた「同人あっぷっぷ」というウェブサイトにおいては、「WEBで閲覧」を選択し、作品の頁単位で表示する場合でも、作品の頁を切り替える際に、URLの変化を伴わずに閲覧が可能なものがある(甲48)。一般に、運営者が同一ないし近しい関係にあり、同一の用途に供するウェブサイトのデザインは共通のものとなる可能性が高いから、本件ウェブサイト7においても、「1枚ずつ閲覧」を選択した場合、作品の頁切り替えに際し、URLが切り替わらず、PV数がカウントされず、1PVで作品の全頁を閲覧することができたと考えられる。
 また、「1枚ずつ閲覧」や「見開きで閲覧」といった閲覧方法の違いによりPV数のカウント方法が異なるとすると、PVの水増しが可能となるところ、広告業者はPV数に応じて広告掲載料を支払うことから、ウェブサイト運営者に対し、PVの水増しを禁止していることが多く(甲49)、違反には契約解除などの制裁が課されるリスクがあるから、そのようなリスクを避けるため、閲覧方法の違いによらずPV数のカウント方法は一定と考えられる。
 以上のとおり、本件ウェブサイト7においては、「1枚ずつ閲覧」を選んだ場合でも、1PVで作品の全頁が閲覧できたというべきである。
イ ウェブページ内にPV数が表示されていない本件ウェブサイト1、2、5及び6については、以下のとおり推計した。
 任意のウェブサイトのアクセス数を推計値で知ることができるサービスである「SimilarWeb」(以下「シミラーウェブ」という。)によれば、本件ウェブサイト1は月に約345万人が閲覧し、一人当たりのPVは16.24である(甲12の1)から、月間PVは約5609万であり、1日約181万PVとなる。本件ウェブサイト1には1万冊程度の同人誌が公開されている(甲13)から、1冊当たり平均1日181PVが見込まれる。
 本件ウェブサイト2は月に約465万人が閲覧し、一人当たりのPVは17.01である(甲12の2)から、月間PVは約7909万であり、1日約255万PVとなる。本件ウェブサイト2に公開されている同人誌の数は定かではないが、同一法人の運営に係る同等規模のウェブサイトであり、同人誌のデータを流用していることを考えると、公開数は本件ウェブサイト1と同程度と考え、1冊当たり平均1日255PVとなる。
 本件ウェブサイト5及び6は、平成30年8月時点で閉鎖されており、シミラーウェブにも閉鎖後の統計しか残っておらず、閉鎖後の月間PVは本件ウェブサイト5が27万6000PV、本件ウェブサイト6は23万8000PVである(甲12の3・4)。このPVは閉鎖前の数値と比べて著しく小さいと考えられ、仮に閉鎖していなければ本件ウェブサイトと同程度の一人当たりPVを得ていたとすると、本件ウェブサイト5及び6の一日当たりPVは同5が14.5万PV、同6が約12.5万PVとなる。本件ウェブサイト5及び6に公開されていた同人誌数は不明だが、本件ウェブサイト1と同等とすると、本件ウェブサイト5は1冊当たり1日14.5PV、同6は12.5PVとなる。
 上記1冊の1日当たりPV(別紙1の「PV/day推計値」欄記載のとおり)に掲載期間を乗じて公衆送信された数量を求める。
 掲載期間については、本件各漫画の掲載日付がウェブページ内に記載されているもの(甲9の2・3)については、当該日付(別紙1の「掲載開始日」欄記載のとおり)から甲9を取得した日付のうち最も早い平成30年7月6日までの日数(別紙1の「掲載日数」欄記載のとおり)を掲載期間とした。
 また、本件各漫画の掲載日付がウェブページ内に記載されていないものについては、インターネット・アーカイブにおいて遡ることができる最古の日付(甲14。別紙1の「最古アーカイブ」欄記載のとおり)を掲載日とし、平成30年7月6日までの日数を掲載期間とし、インターネット・アーカイブにも登録されていないものについては、掲載期間を30日とした。
 被告らは、シミラーウェブの信用性を争うが、文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会において、海賊版サイトによる被害金額の計算根拠としてシミラーウェブのPV推定値を用いた資料が提出され、同資料では、シミラーウェブにおけるPV数の11.28%が実際のダウンロード数に当たるとされている(甲50)。仮に、このような方式を採用したとしても、別紙1の「文化庁方式の計算」欄記載のとおり、損害額は合計で3823万9041円となり、一部請求額を上回るから、原告の請求は認容されるべきである。ウ 上記の方法で計算した本件各漫画のそれぞれの公衆送信された数量は、別紙1の「総PV」欄記載のとおりである。
(2)原告の単位数量当たりの利益額
 自費出版の同人誌を即売会で頒布する場合、頒布価格から1冊当たりの印刷費を控除したものが1冊当たりの利益となる。本件各漫画のそれぞれの印刷費は、納品書や発注履歴が現存しているものについてはその値(甲15、16の1〜3、45)、現存していないものについては印刷所の料金表(甲44)に基づく値を採用した。本件各漫画のそれぞれの即売会における頒布価格、印刷費、印刷部数、1冊当たりの印刷費及び1冊当たりの利益額は、別紙2のとおりである。
 被告らは、即売会への参加費や交通費・宿泊費を経費として控除すべきであると主張するが、原告は、本件各漫画の頒布のためだけに即売会に参加するのではなく、他の漫画家との交流や、同人誌の購入等、複数の目的をもって参加し、自身の作品を頒布しない場合でも参加することがあるから、参加費は本件各漫画の原価に当たらない。また、交通費や宿泊費は固定費であり、本件各漫画の販売数量に応じて増加するものではないから、限界利益の算定に当たって控除する必要はない。
 単位数量当たりの利益額について、原告が本件各漫画を書店に委託販売する方式による場合も踏まえて計算されることに異議はない。ただし、即売会による販売と委託販売の方法では販売価格は異なるものの、書店に支払う販売委託手数料を勘案して販売価格は定められるので、原告の利益は販売方式にかかわらず大きく異なることがないように調整されている。
(3)本件各漫画が違法な二次的著作物に当たるとの主張について
 本件各漫画は違法な二次的著作物ではないので、この点は損害額の算定に影響を及ぼさない。
(4)販売その他の行為をする能力(以下「販売等能力」という。)について
 原告は、本件各漫画を同人誌即売会又は書店に対する委託販売により販売しており、その販売実績は、それぞれ数百冊から数千冊に及ぶ(甲52〜56)。この販売実績は紙媒体のみであり、仮にインターネットを通じて電子書籍として供給していた場合には、より一層多くの供給が可能となるから、原告は、本件各漫画に関する十分な販売等能力を有している。
(5)販売することができないとする事情について
 被告は、無料で閲覧できることが推定覆滅事由に当たると主張するのであれば、有料であれば閲覧しなかった者の比率を特定し、主張立証する必要があるが、この点についての主張立証はされていない。
(6)まとめ
 本件各漫画のそれぞれについて、上記(1)で求めた公衆送信された数量(別紙1の「総PV」欄記載の数字)に上記(2)の単位数量当たりの利益額(別紙1の「1冊あたり利益」欄記載の数字)を乗じた額は、別紙1の「損害」欄記載のとおりであり、その合計額は、1億9324万3288万円となる。原告は、このうち1000万円を請求し、遅延損害金については、本件各漫画のそれぞれの掲載日が異なるものの、掲載日が最も遅い平成30年7月7日を起算点とする。
 したがって、原告は、不法行為又は会社法429条1項に基づき、被告会社に対し、1000万円及びこれに対する平成30年7月7日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
〔被告らの主張〕
(1)本件各ウェブサイトにおいて本件各漫画が公衆送信された数量
 原告が主張するPV数に関し、ウェブサイト自体に表示されているものは本件各ウェブサイトの一部にすぎず、それ以外は、信用性が低いシミラーウェブのデータや憶測に基づくものにすぎない。また、ウェブサイト自体に表示されたPV数にしても、あるウェブサイトのウェブページを閲覧した回数にすぎず、掲載されている本件各漫画について、その全てのページを閲覧した回数を意味するものではない。書店に例えれば、書店に行き、本を手に取った回数を示すものであり、本の中身に目を通した回数ではない。
(2)原告の単位数量当たりの利益額
 本件各漫画は、合計21か所のイベント会場で販売されていたようであり、うち16か所は、東京及び大阪に所在するから(甲7、16、乙5、7)、原告がこれらの即売会に参加するに当たっては、交通費及び宿泊費等の実費がかかっているはずである。単位数量当たりの利益額の算定に当たっては、これらの経費を控除すべきである。
 原告は、本件各漫画を同人誌即売会のイベント参加及び店舗への委託販売により販売していると思われるところ、前者にはイベント参加費が、後者には委託手数料が発生するから、これらの経費(乙9)も控除すべきである。
(3)本件各漫画が違法な二次的著作物に当たること
 本件各漫画は違法な二次的著作物であるから、仮に権利行使が信義則違反又は権利濫用に当たらないとしても、違法行為をした者に不当に利益を得させる必要はない。このため、損害額は相当程度制限されるべきである。
(4)原告には本件各漫画の販売等能力がないこと
 原告にはその主張する数量ほどの販売等能力がない。
(5)本件各ウェブサイトの存在により本件各漫画の売上が減少したといえないこと
 原告の正確な損害とは、本件各ウェブサイトに本件各漫画が掲載された前後において本件各漫画の販売数が減少した場合の、その減少量というべきである。
 本件各漫画は同人誌である。同人誌は、即売会に合わせて制作され、即売会において初めて販売される。即売会と同日又はその後には、書店やネット上において委託販売されるが、一般に販売直後の1か月はよく売れるが、その後はほとんど売れない。本件各漫画についてみても、即売会で販売された2828冊のうち、初回の即売会で販売された数は1564冊であり、全体の55%を占める。本件各漫画は、初回の即売会以降に本件各ウェブサイトに掲載されたものであるから、初回の即売会における購入者は、本件各ウェブサイトに公開される前に購入し、または購入する目的で即売会に参加しているため、本件各ウェブサイトに本件各漫画が掲載されたことによる影響はない。上記のとおり、本件各漫画は、初回の即売会ではそれなりに売れたものもあるが、その後の書店に対する委託販売においてはほとんど売れておらず(甲52〜56)、本件各ウェブサイトが存在することにより本件各漫画の売上が減少したということはできない。
(6)販売することができないとする事情
 本件各ウェブサイトに掲載された同人誌の閲覧は無料であるところ(甲9の1)、本件各ウェブサイトにおいて本件各漫画を閲覧した者の中には、有料であれば閲覧しなかった者が相当数含まれているはずであり、そのような閲覧者については、原告の本件各漫画についての販売機会を奪ったことにはならないから、著作権法114条1項ただし書が定める「販売することのできないとする事情」があり、損害額の推定は覆滅されるべきである。
7 争点7(被告Y1及び被告Y2に対する会社法429条1項に基づく責任の成否)について
〔原告の主張〕
 被告会社の取締役である被告Y1及び亡Zは、その職務について善管注意義務を負い、被告会社における業務が法令に適合するよう体制を整備すべき義務を負うところ、両名は同義務に違反して、被告会社が運営する本件各ウェブサイトに本件各漫画を掲載する著作権侵害行為によって収益をあげることを許容したから、両名に任務懈怠が認められる。
 被告会社はアルバイト等を含めても従業員31名の小規模な会社であり(甲31)、従業員が役員の目から隠れて本件各ウェブサイトの運営を行う余地はなく、被告Y1及び亡Zは、同人誌関連事業を主軸とする別会社の取締役も兼ねており(甲3)、同事業に積極的に関わっていた実態があることからも、両名は本件各ウェブサイトにおける著作権侵害行為について十分に認識し、明確な悪意を有していたことが認められる。
 したがって、被告Y1及び亡Zの債務を相続した被告Y2は、被告会社と連帯して、会社法429条1項に基づく損害賠償責任を負う。
〔被告Y1及び被告Y2の主張〕
 被告Y1及び亡Zに任務懈怠及び悪意又は重過失があることは否認する。被告Y1及び亡Zは著作権侵害行為をしておらず、被告会社の従業員が被告Y1ら役員の目を盗んで秘密裡に行うことは十分考えられ、被告Y1及び亡Zがその行為を認識しながら放置していたことを示す証拠もない。
 したがって、被告Y1及び亡Zの権利義務を承継した被告Y2は、会社法429条1項に基づく損害賠償責任を負わない。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(本件各漫画の著作物性)について
 被告らは、本件各漫画が著作物に当たることについて立証がされていないと主張するが、証拠(甲42)によれば、本件各漫画は絵と文字を組み合わせたものであり、作成者の思想及び感情を創作的に表現したもので、著作権法2条1項1号が定める美術の著作物に当たると認められる。
2 争点2(原告が本件各漫画の著作権者であるか)について
 後掲証拠によれば、@本件各漫画は全て原告が書店への委託販売を行う際に使用するサークル名である「D」の記載のあるチラシに掲載されていること(甲7、53、55)、A本件漫画1、2、4〜13の表紙にも「D」及び「C」の記載(いずれも平仮名表記又はアルファベット表記のものもある。)があること(甲9の2・5〜13)、B同人誌の通信販売サイトにおいて、複数の作品に付された「B」又は「C」の筆名は、いずれも「D」の名称とともに表示されていること(甲2)、C原告は、「B」の筆名で出版社と著作権に関する契約を締結したこと(甲36)、D原告は、別件の著作権侵害被告事件の判決及び記録中において、被害者の「B」こと原告と表記され、当該刑事記録の写しを保有していること(甲41)、E原告は、本件漫画2、3、5、9及び12について印刷所に印刷の発注をし、納品を受けていること(甲15)、F原告は、印刷会社のウェブサイトのマイページから、本件漫画4、6及び12の印刷に係る注文履歴のウェブページにアクセスすることが可能であること(甲16)、G本件各漫画を委託販売している書店から原告宛てに販売結果の報告書が送付されていること(甲56)が認められ、これらの事実からすれば、原告は「B」又は「C」の筆名を用い、サークル名として「D」を用いて漫画を制作・販売しており、本件各漫画の著作権者であると認められる。
3 争点3(被告会社が本件各漫画を本件各ウェブサイトに掲載したか)について
 本件各ウェブサイトの運営者に関し、後掲証拠によれば、@本件各ウェブサイトのドメインを取得したのは被告会社であること(争いがない)、A本件各ウェブサイトに掲載された広告に関して、被告会社が広告代理店であるエムエムラボと契約を締結したこと(甲25)、B甲21及び22の各記事が掲載された後、本件ウェブサイト2には、被告会社と住所が同一であるFの商品に係る広告のみがウェブサイトに直接埋め込まれる形で掲載されていたこと(甲10、27、29、30、弁論の全趣旨)の各事実が認められ、これらの事実に照らすと、被告会社は、本件各ウェブサイトの運営者と推認するのが相当である。
 そして、本件各ウェブサイトは、本件各漫画を含む同人誌等を多数掲載し、これらを無料で閲覧することを可能にしつつ、広告を掲載して広告掲載料を得ることを業としていたと認められるところ、前記判示のとおり、被告会社は広告代理店と自ら契約していることや、被告会社以外の第三者が本件各ウェブサイトに同人誌等を掲載していることをうかがわせる証拠はないことに照らすと、被告会社自身が本件各漫画を本件各ウェブサイトに掲載し、公衆送信させていたと認めるのが相当である。
4 争点4(被告会社の故意・過失の有無)について
 前記判示のとおり、被告会社は、本件各ウェブサイトの運営者として、本件各漫画を含む同人誌等を多数掲載し、無料で閲覧可能にしつつ、広告を掲載して広告掲載料を得ることを業としていたことに照らすと、本件各漫画を無断で掲載したことによる公衆送信権の侵害について認識していたことが明らかであり、故意があると認められる。
 したがって、被告会社は、原告が本件各漫画に対して有する公衆送信権を侵害したと認められる。
5 争点5(信義則違反又は権利濫用の成否)について
 被告らは、本件各漫画が違法な二次的著作物であるから、原告の本件損害賠償請求は信義則違反又は権利の濫用に当たると主張するが、本件各漫画が違法な二次的著作物であると認めるに足りる証拠は存在しない。
 したがって、原告が、本件各漫画を無断で本件各ウェブサイトに掲載し、公衆送信した被告会社及び後記7のとおり会社法429条1項の責任を負う被告Y1及び被告Y2に対して権利行使することが信義則違反又は権利濫用であるということはできない。
6 争点6(損害額)について
(1)本件各ウェブサイトにおいて本件各漫画が公衆送信された数量
ア PV数の表記があるもの
(ア)PV(ページビュー)とは、ウェブサイト内の特定のページが開かれた回数を表し、ブラウザにHTML文書(ウェブページ)が1ページ表示されることにより1PVとカウントされるところ(乙2の1)、ウェブサイト内にPV数の表記がある本件ウェブサイト3、4及び7のうち、本件ウェブサイト3及び4については、ウェブページに表示された作品の全ての頁の閲覧ができると認められるから(甲42の4・5・7〜9・13・16・20・24・25・27)、各作品のPV数は以下のとおりと認められる(なお、番号は、別紙1及び3の番号と対応する。以下同じ。)。
番号 ウェブサイト タイトル PV数 証拠
本件ウェブサイト3 本件漫画2 1951 甲9の4
本件ウェブサイト4 本件漫画4 4439 甲9の5
本件ウェブサイト4 本件漫画5 2383 甲9の7
本件ウェブサイト4 本件漫画6 4891 甲9の8
本件ウェブサイト4 本件漫画2 978 甲9の9
13 本件ウェブサイト4 本件漫画10 4167 甲9の13
16 本件ウェブサイト4 本件漫画11 2599 甲9の16
20 本件ウェブサイト4 本件漫画7 10655 甲9の20
24 本件ウェブサイト4 本件漫画2 771 甲9の24
25 本件ウェブサイト4 本件漫画2 1444 甲9の25
27 本件ウェブサイト4 本件漫画3 13936 甲9の27
(イ)本件ウェブサイト7は、ウェブサイト内にPV数が表示されるものの、閲覧方法として「1枚ずつ閲覧」、「見開きで閲覧」、「PDFで閲覧」の3種類を選択することができると認められる(甲9の14・15・21〜23)。本件ウェブサイト7が上記各方法のそれぞれについてどのようにPV数をカウントしているか明らかではないものの、「1枚ずつ閲覧」を選択した場合にも、ウェブページを1頁表示するのみで作品の全頁を閲覧できることを認めるに足りる証拠はなく、同サイトに掲載された本件各漫画のある頁を異なる頁に切り替えるたびに異なるHTML文書を表示し、PV数がカウントされている可能性がある
 これに対し、原告は、被告会社が運営していた可能性のある別のウェブサイトにおいて、1頁ずつ閲覧する形式においても、頁の切り替えの際にPVがカウントされない方式が採用されていたから、本件ウェブサイト7についても、「1枚ずつ閲覧」を選択した場合でも、同様に1PVで作品の全頁が閲覧できたというべきである旨主張するが、同ウェブサイトについて原告が主張するようなPV数のカウントが行われていたことを認めるに足りる証拠はないから、原告の主張は採用できない。
 そうすると、本件ウェブサイト7については、表示されたPV数を作品の頁数で除した数(小数点以下切り捨て)をもって、作品全体の公衆送信を行った数量と認めるべきであり、具体的には下表のとおりとなる(下記番号に対応する別紙3の「分割数」欄記載の数字は、下表の「作品頁数」欄記載の数字と同じである。)。
番号 タイトル 表示PV数 作品頁数 PV数 証拠
14 本件漫画5 2280 17 134 甲42の14
15 本件漫画2 2482 19 130 甲42の15
21 本件漫画6 1270 16 79 甲42の21
22 本件漫画4 3892 20 194 甲42の22
23 本件漫画3 6584 26 253 甲42の23
イ PV数の表記がないもの
(ア)原告は、ウェブサイト内にPV数の表記がない本件ウェブサイト1、2、5及び6について、シミラーウェブによる推定は正確性が担保されているとして、その推定結果に基づいたPV数によるべきであると主張する。
 しかし、シミラーウェブはウェブサイトへのアクセス数を統計的に推測するサービスを提供するウェブサイトであるところ、同ウェブサイトの分析結果については、同ウェブサイトが分析結果を公表した企業から事実に反するとの抗議を受けていると報じられ、グーグルが提供するGoogleAnalyticsといった他のサービスによる分析結果と比較して、同一のウェブサイトであってもPV数に大きな誤差があるなど、その正確性、信頼性に疑問を呈する見解が複数みられるところである(乙2の5〜8、3、4)。
 また、シミラーウェブのウェブサイトには1000を超える多様な情報源によってデータの質を比較・評価することにより、データに基づく正確な判断を可能にした旨の抽象的な記載があるにとどまり(乙2の6の6頁)、PV数等の推計の具体的な仕組みは明らかではなく、その正確性が客観的に担保されているとは認め難い。
 これに対し、原告は、一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)による「静止画(書籍)ダウンロードの被害実像」と題する資料(甲50)において、アクセス数の推定にシミラーウェブが用いられていると指摘するが、同資料はアクセス数の概数を推定するためにシミラーウェブを参照しているにすぎず、その推計値の正確性について何ら検証するものではない。
 そうすると、同資料においてシミラーウェブが参照されているからといって、本件各ウェブサイトのPV数をシミラーウェブの推計結果に基づいて認定することはできない。
(イ)前記のとおり、本件ウェブサイト1、2、5及び6に本件各漫画が掲載されていたことは認められるが、同各ウェブサイトに掲載された漫画ごとに個別にPV数を正確に推認する方法は見い出し難いところ、本件ウェブサイト3及び4に掲載された各漫画(なお、本件ウェブサイト7はこれらのウェブサイトと明らかに閲覧方法が異なるため、考慮しない。)と同ウェブサイト1、2、5及び6に掲載された各漫画のPV数の平均に大きな差があるとは認め難いことに照らすと、本件ウェブサイト1、2、5及び6に掲載された各漫画のPV数は、本件ウェブサイト3及び4に掲載された各漫画の平均のPV数である4383(以下の計算式。小数点以下切り捨て。)であったと推定するのが合理的である(別紙3の番号1〜3、6、10〜12、17〜19、26、28〜31に対応する「PV」記載のとおり)。
(計算式)
(1951+4439+2383+4891+978+4167+2599+10655+771+1444+13936)÷11
 =48214÷11
 =4383
 そして、本件ウェブサイト1、5及び6には、同人誌を閲覧する際、作品の全頁が一度に表示されるのではなく、複数回ウェブページを切り替える操作(具体的には、ウェブページの2頁目を意味する「2」などをクリックする。)を要すると認められ(下表の「証拠」欄記載の証拠)、切替え操作のたびにPV数が加算されることから、それらについては、上記の4383PVを作品の全頁を閲覧するのに要する上記の操作回数(下表及び別紙3の「分割数」欄記載の数。本件ウェブサイト2は同操作を要さず全頁の閲覧ができるから1としている。)を除した数(下表の「1冊分PV」欄記載の数。小数点以下切り捨て)をもって、作品全体を閲覧したPV数と認めることが相当である。
番号 ウェブサイト タイトル 分割数 1冊分PV 証拠
本件ウェブサイト1 本件漫画1 1461 甲42の1
本件ウェブサイト2 本件漫画2 4383 甲42の2
本件ウェブサイト2 本件漫画3 4383 甲42の3
ウェブサイト1 本件漫画4 2191 甲42の6
10 本件ウェブサイト1 本件漫画7 2191 甲42の10
11 本件ウェブサイト5 本件漫画8 876 甲42の11
12 本件ウェブサイト6 本件漫画9 1461 甲42の12
17 本件ウェブサイト6 本件漫画12 2191 甲42の17
18 本件ウェブサイト5 本件漫画13 626 甲42の18
19 本件ウェブサイト5 本件漫画14 876 甲42の19
26 本件ウェブサイト5 本件漫画2 626 甲42の26
28 本件ウェブサイト5 本件漫画3 626 甲42の28
29 本件ウェブサイト6 本件漫画3 1461 甲42の29
30 本件ウェブサイト1 本件漫画2 2191 甲42の30
31 本件ウェブサイト1 本件漫画5 2191 甲42の31
 したがって、本件ウェブサイト1、2、5及び6に掲載された本件各漫画については、そのPV数は上記表の「1冊分PV」欄(別紙3の同欄)記載のとおりとなる。
(2)原告の単位数量当たりの利益額
ア 頒布価格
 本件各漫画の即売会における頒布価格は、別紙4の「即売会単価」欄記載のとおりである(甲7、18)。
イ 印刷費
(ア)甲15の納品書(有限会社西村謄写堂に対する発注分)及び甲16の注文履歴(株式会社栄光に対する発注分)に記載されている本件漫画2〜6、9及び12の印刷費及び印刷部数は、別紙4の「印刷費」及び「印刷部数」欄記載のとおりと認められ(甲15、16)、印刷費を印刷部数で除した「1冊当たりの印刷費」欄記載の額(小数点以下切り捨て。以下同じ。)を「即売会単価」記載の金額から控除した額が、同別紙の「1冊当たりの利益」欄記載の金額と認められる。
 本件漫画2については、原告は、印刷部数が2400であると主張するが、甲15によれば、印刷部数は1900であると認められる。そのため、本件漫画2の1冊当たりの利益は、315円となる。
(計算式)400円−(16万2540円÷1900)
 =400円−85円=315円
(イ)本件漫画1、7、8、10、13及び14については、印刷費については証拠があり(甲45)、別紙4の「印刷費」欄記載のとおりと認められるが、印刷部数の証拠がなく、本件漫画11については、印刷費及び印刷部数の証拠がない(なお、本件漫画1に関し、甲44は簡易自動見積の結果にとどまり、実際の印刷部数を示す証拠はない上、同一の印刷所であるにもかかわらず、甲15の1は500部で甲44に表示された価格とほぼ同額であることなどに照らすと、その印刷部数が300部であると認めることはできない。)。
 本件各漫画は、いずれも同人誌であり、ページ数は証拠により幅があるものの概ね20〜30ページ程度であって、印刷費の平均に大きな差があるとは認めがたいことからすると、本件漫画1、7、8、10、11、13及び14の印刷費用は、上記(ア)で認定した本件漫画2〜6、9及び12の印刷費の平均額である133円(以下の計算式。小数点以下切り捨て。)をもって印刷費と認めるのが相当であり(別紙4の「1冊あたりの印刷費」欄のとおり)、別紙4の「即売会単価」欄記載の金額からこれを控除した額が、同別紙の「1冊当たりの利益」欄記載の金額となる。
(計算式)(85+173+130+214+109+118+107)÷7
 =936÷7
 =133
ウ 書店に対する委託販売について
 被告らは、原告は書店に対する委託販売をしているから、委託手数料を控除すべきと主張する。
 原告は、本件各漫画を印刷の上、書店への委託販売の方法によっても販売しており(甲16)、委託先は株式会社虎の穴、株式会社K−BOOKS及び株式会社コンパス(後に株式会社メロンブックスに運営会社が変更)であるところ、上記各会社は、店頭販売価格から委託手数料等を差し引いた卸値に販売数を乗じた金額を原告に支払っていたことが認められる(株式会社虎の穴及び株式会社メロンブックスにつき乙9の2。甲53〜55)。もっとも、即売会単価と卸値を比較すると、本件漫画1について、即売会単価が500円であるのに対し、卸値は委託先により異なるものの、480円又は497円であり(甲53〜55)、証拠上委託販売による卸値が分かる本件漫画2〜6、9及び12についても概ね同様であって、販売方法によって原告の利益額に大きな差があるとは認められない。
エ 即売会の参加費、参加に要する交通費及び宿泊費について
 被告らは、即売会の参加費、参加に要する交通費及び宿泊費を本件各漫画の原価として控除すべきであると主張する。
 しかし、これらの費用は本件各漫画の制作や販売が1冊増加するのに伴って増加する変動費ではないから、原告の単位数量当たりの利益額を算定するに当たり控除すべき費用に当たるとはいうことはできないから、被告の主張は採用できない。
オ まとめ
 以上のとおり、本件各漫画の単位数量当たりの利益額は、別紙4の「1冊あたりの利益」欄記載の価格と認められる。
(3)原告の販売等能力の有無
 被告らは、原告は、その主張する程に本件各漫画を販売等する能力を有しない旨主張する。
 被告らの主張の趣旨は、原告が本件各漫画を即売会や書店への委託販売といった紙媒体でのみ販売しており、本件各ウェブサイトにおける公衆送信のような、いわゆる電子書籍の形で販売していないから、本件各ウェブサイトにおけるPV数程に本件各漫画を販売等できたということはできないというものと解される。
 しかし、原告は、同人誌を即売会において自ら販売するのみならず、前記のとおり、出版社に委託して販売することもしており、委託先の出版社の中にはインターネット上の販売サイトにおいて原告作品を販売しているものもあること(甲1、2)に加え、漫画をインターネット上で頒布すること自体は、パソコン等を利用することにより、個人であってもさほど困難ではないと考えられることなどに照らすと、原告には上記(1)で認定したPV数に相当する作品を販売する能力がなかったということはできない。
 したがって、被告らの上記主張は採用できない。
(4)販売することができないとする事情
 被告会社の運営する本件各ウェブサイトは、本件各漫画のような同人誌に限らず、アニメ、ゲーム、小説など多様なジャンルの作品を掲載し、甲9の1に「1万冊以上全部無料で読めちゃう」と記載されているように、多量の作品を無料で閲覧し得ることを特徴とするサイトであると認められる(甲9、42)。このため、本件各漫画のような同人誌の愛好者にとどまらず、多数の者が同サイトを訪問し、その際に、購入する意図なく掲載作品を閲覧することも少なくないものと推測される。
 他方、本件各漫画は、その内容等にも照らし、その需要者の範囲は限定されている上、その販売形態は即売会による販売と同人誌の通信販売を手がける出版社による委託販売によるものであり、即売会による販売が全体の約3分の1を占める(甲56)。また、その販売数は、作品の発売後数か月間の販売数が多く、その後の月間販売数は急激に減少するという傾向が看取され、一定数の販売が継続するものではない(甲52〜55)。
 そして、本件各漫画のPV数と同各漫画の販売実績(甲56)を比較すると、本件各漫画のPV数の合計が11万7318(上記認定に係る1冊分のPV数の合計は7万6738)であるのに対し、本件各漫画の販売総数は8513冊であり、1冊分のPV数をとってみても、その販売総数はPV数の約9分の1程度であると認められる。
 以上のとおり、本件各ウェブサイトによる閲覧と原告による本件各漫画の販売とでは、その需要者の範囲、閲覧又は販売する作品の数及び種類等が大きく異なるほか、本件各漫画は販売直後に多くが販売される傾向にあることや、本件各ウェブサイトは無料で閲覧を可能にするものであり、作品を購入する意図なくその内容を閲覧する需要者は少なくないものと考えられ、実際のところ、同一の漫画についてPV数と販売実績には大きな差があることなどに照らすと、本件各漫画のPV数のうち、原告が販売し得たと認め得る数量は、その1割であると認めるのが相当である。
 したがって、本件において、被告会社の侵害行為がなければ原告が販売し得たと認められる数量は、別紙3の「9割覆滅後のPV数」欄記載のとおりとなる。
(5)まとめ
 以上のとおり、上記(1)で認められる本件各ウェブサイトにおいて本件各漫画が公衆送信された数量に、上記(2)で認められる原告の単位数量当たりの利益額を乗じた上で、原告が販売することができないとする事情を考慮して、それに相当する数量(9割)を控除した額は、別紙3の「損害欄」記載のとおりであり、その合計額である219万2215円が、著作権法114条1項に基づき、原告の損害額と推定される。
(6)その他の被告らの主張について
ア 被告らは、本件各漫画が違法な二次的著作物に当たるから、損害額は相当制限されるべきであると主張するが、上記5で判示したとおり、採用できない。
イ 被告らは、原告の正確な損害額は、本件各ウェブサイトの存在により本件各漫画の販売量が減少した分であるとし、本件各ウェブサイトによって本件各漫画の販売量が減少したということはできないと主張するが、原告は著作権法114条1項に基づく損害額の推定を主張しているので、被告らの主張は失当である。
7 争点7(被告Y1及び被告Y2に対する会社法429条1項に基づく責任の成否)について
 本件各漫画の掲載期間について、原告の主張に基づき、@本件各漫画の掲載日付がウェブページ内に記載されているものについては、当該日付(別紙1の「掲載開始日」欄記載のとおり)から平成30年7月6日まで、A本件各漫画の掲載日付がウェブページ内に記載されていないものについては、インターネット・アーカイブにおいて遡ることができる最古の日付(別紙1の「最古アーカイブ」欄記載のとおり。最も古い日付は平成27年7月28日)から平成30年7月6日まで、Bインターネット・アーカイブにも登録されていないものについては、同日までの30日間であると認められるところ、前記第2の2(1)記載のとおり、上記各期間中、亡Zは被告会社の代表取締役であり、被告Y1は同社の取締役であったと認められる。
 前記判示のとおり、被告会社は本件各ウェブサイトに本件各漫画を含む同人誌等を、更新を繰り返しながら多数掲載し、無料で閲覧することを可能にしつつ、広告を掲載して広告掲載料を得ることを業としていたものと認められるが、被告会社の従業員数が約30名程度であること(甲10)、役員は亡Z、被告Y1、被告Y2ほか1名であり、その役員構成は平成21年以前から亡Zの死亡時まで不変であることなどに照らすと、本件各漫画等の違法な掲載について代表取締役である亡Z及び被告Y1は認識し、仮に認識していなかったとしても容易に把握し得る状況にあったと考えられる。
 取締役は、会社に対し、善管注意義務を負い(会社法330条、民法644条)、会社の事業において第三者の著作権等の権利を違法に侵害しないよう注意する義務を負うところ、亡Z及び被告Y1が、被告会社による本件各漫画に係る公衆送信権侵害行為を防止する措置を何ら講じなかったことは任務懈怠に当たり、悪意又は少なくとも重過失が認められる。
 したがって、被告Y1及び亡Zの権利義務を承継した被告Y2は、会社法429条1項に基づき、損害賠償責任を負い、当該責任は、被告会社の不法行為に基づく上記損害賠償責任と不真正連帯債務の関係に立つ。
8 結論
 以上のとおり、原告の請求は、被告らに対し、連帯して219万2215円及びこれに対する平成30年7月7日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 佐藤達文
 裁判官 三井大有
 裁判官 今野智紀


別紙 著作物目録
 なお、年数及び価格は、同人誌即売会における発表年及び頒布価格である。
1 inthepoolAct.5(2014年、500円)
2 魔性のカツ丼(2016年、400円)
3 夢うつつ(2017年、500円)
4 ちゃんとしてる大人たち(2017年、500円)
5 眩暈(2015年、400円)
6 Owl&Cat手コキ特集(2014年、400円)
7 学ランにほへし(2017年、300円)
8 MiLK(2013年、400円)
9 一松さんはオフィスラブしたい(2017年、500円)
10 Owl&Catキスがしたいな(2015年、400円)
11 とある遙と凛の珍魚図鑑(2014年、500円)
12 HUNGRYSPIDER(2015年、300円)
13 やきもちあらいぐま(2014年、500円)
14 下着おじリターンズ(2012年、400円)

別紙 ウェブサイト目録
1 BL漫画・同人誌サイト BL同人801館(http://以下省略)
2 無料エロ漫画 鬼畜ちんこ(http://以下省略)
3 無料同人誌もえぶっく(http://以下省略)
4 無料BL同人誌 BLMAGAZINE(http://以下省略)
5 無料BL漫画 ボーイズライブラリー(http://以下省略)
6 裏バラ本舗(http://以下省略)
7 BL同人誌 ビーシェアリング(http://以下省略)

添付文書1
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/