判例全文 line
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【事件名】ジェイコム東京への発信者情報開示請求事件
【年月日】令和2年2月12日
 東京地裁 令和元年(ワ)第22576号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和元年12月18日)

判決
原告 X
同訴訟代理人弁護士 中澤佑一
同 船越雄一
同 柴田佳佑
同 延時千鶴子
同 岩本瑞穂
同 松本紘明
被告 株式会社ジェイコム東京
同訴訟代理人弁護士 村島俊宏
同 穂積伸一
同 谷口悠樹
同 荒木泉子
同 工藤友良


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は、ツイッター上にアカウントを保持する原告が、ツイッターの運営会社から開示されたIPアドレスの保有者である被告に対し、氏名不詳者が別紙著作物目録記載の原告のプロフィール画像及びヘッダー画像を無断でツイッターに投稿することにより、原告の著作権(公衆送信権)を侵害するとともに、上記プロフィール画像及び原告が撮影された動画の一部である静止画像をツイッターに投稿することにより、原告の肖像権及び名誉感情を侵害したことは明らかであると主張し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実。なお、本判決を通じ、証拠を摘示する場合には、特に断らない限り、枝番を含むものとする。)
(1)当事者
ア 原告は、「A」の名称で、電子たばこに使用するフレーバーリキッドを製造している者であり、ツイッターアカウント(以下「原告アカウント」という。)を開設し、同アカウントのプロフィール画像及びヘッダー画像として、別紙著作物目録記載の画像(以下、それぞれ「本件プロフィール画像」及び「本件ヘッダー画像」といい、併せて「本件プロフィール画像等」という。)を掲載していた。(甲10、11)
イ 被告は、電気通信事業を営む株式会社である。
(2)氏名不詳者によるツイッターへの投稿
 氏名不詳者は、ツイッター上に別紙投稿記事目録記載の閲覧用URL、ユーザー名及びアカウント欄記載のアカウント(以下「本件アカウント」という。)を開設し、別紙投稿内容目録記載のツイート日時欄記載の日時(平成31年2月10日及び15日)に、同目録記載の各投稿をした(以下、符号に従って「本件投稿1」などといい、併せて「本件各投稿」というほか、本件各投稿をした者を「本件発信者」という。また、同目録の番号3〜5の投稿画像を「本件静止画」という。)。(甲1〜6)
(3)ツイッター社からのIPアドレスの開示
ア 原告は、ツイッターインターナショナルカンパニー(以下「ツイッター社」という。)を相手方として、本件アカウントにログインした際のIPアドレス及びタイムスタンプのうち、平成31年2月1日正午(日本標準時)以降、仮処分決定が相手方に送達された日の正午時点までの期間のものについて、仮の開示を求める仮処分命令を東京地方裁判所に申し立てたところ、同裁判所は、令和元年6月3日、その旨の仮処分決定をした。(甲17)
イ ツイッター社は、令和元年6月10日、上記アの仮処分決定に基づき、原告に対し、平成31年4月11日から令和元年6月4日までの間に本件アカウントにログインされた際のIPアドレス及びタイムスタンプを開示した。別紙IPアドレス目録記載のIPアドレス及びタイムスタンプは、ツイッター社から開示されたIPアドレス及びタイムスタンプの一部である(以下、このIPアドレスを「本件IPアドレス」といい、タイムスタンプと併せて「本件IPアドレス等」という。)。(甲8、9、18)
ウ 本件IPアドレスは、被告が保有するものである。(甲9、15)
(4)ツイッターへの投稿の仕組み
 ツイッターを利用するには、まず、氏名、電話番号又はメールアドレスの登録及びパスワードの設定を行い、アカウントの登録を行う必要があり、また、自己のアカウントで投稿するためには、当該アカウントにログインする必要がある。(甲19)
3 争点
(1)本件発信者情報の「権利の侵害に係る発信者情報」該当性(争点1)
(2)被告の開示関係役務提供者該当性(争点2)
(3)権利侵害の明白性の有無(争点3)
ア 本件プロフィール画像等の著作物性(争点3−1−1)
イ 原告が本件プロフィール画像等の著作権者であるか(争点3−1−2)
ウ 適法な引用の成否(争点3−1−3)
エ 肖像権侵害の成否(争点3−2)
オ 名誉感情侵害の成否(争点3−3)
(4)発信者情報の開示を受けるべき正当の理由の有無(争点4)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(本件発信者情報の「権利の侵害に係る発信者情報」該当性)について
〔原告の主張〕
 以下のとおり、本件IPアドレスを用いて本件アカウントにログインした者は、本件各投稿を行った本件発信者と同一であるから、本件発信者情報は、法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当する。
 ツイッターを利用するためには、アカウントの登録が必要であり、その登録のためには、氏名、電話番号又はメールアドレスの登録及びパスワードの設定が必要である(甲19)。また、ツイッターの利用に際しては、第三者から推測されにくい複雑なパスワードを設定することや、ログイン認証の設定をすることが推奨されるなど、厳重なアカウント管理及び保護が図られ、不正なログインを監視する仕組みも講じられている(甲19)。
 このようなツイッターの仕組みに加え、個人のアカウントについて、パスワードを第三者に教えたり、共有することは通常あり得ないことに照らすと、法人が営業用に用いるなど複数名でアカウントを共有していることをうかがわせる特段の事情がない限り、ツイッターのアカウントにログインした者とそのアカウントを利用して投稿した者は同一であると認められる。
 本件アカウントは、アカウント名が複数名による利用をうかがわせるものではなく、プロフィール欄に「育児」と記載があり、ツイートの記載も一人称であることからすると、個人で利用するアカウントである(甲20)。また、令和元年9月6日のツイートには、悪質な嫌がらせを受けた旨の記載があるが、その時期は、原告が被告に発信者情報開示請求を行い、本訴が提起された後であり、被告が発信者に対する意見照会を行った頃のものと思われる。そして、その後、本件アカウントが削除されていることからすると、本件IPアドレスを利用してログインした者は、被告の特定電気通信設備を経由して本件アカウントにログインして管理・利用していた者である蓋然性が高い。
 法4条1項は、発信者情報について、発信者の特定に資する情報と定め、侵害情報を投稿した発信者の情報に限定されておらず、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令(以下、単に「総務省令」という。)1号及び2号も、「発信者情報その他侵害情報の送信に係る者の」氏名又は名称、住所という定め方をしていることからすれば、これらの情報については、発信者以外の者に関する情報も開示されることが許容されている。上記のとおり、本件IPアドレスで本件アカウントにログインした者は本件発信者と同一である蓋然性が高いから、当該ログインに係る本件発信者情報は、「発信者の特定に資する情報」である。
 したがって、本件IPアドレスで本件アカウントにログインした者に係る本件発信者情報は、「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当する。
〔被告の主張〕
 法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」とは、侵害情報の発信者についての情報に限られるため、侵害情報でない情報の発信者についての情報は同項に基づく発信者情報開示請求の対象にはならない。本件発信者情報は、本件アカウントにログインした者についての情報にすぎず、本件各投稿を投稿した者についての情報ではない。したがって、本件発信者情報は、「当該権利の侵害に係る発信者情報」には該当しない。
 原告は、本件IPアドレスにより本件アカウントにログインした者と本件各投稿の投稿者が同一であると主張するが、ツイッターの運営者は、ユーザーが許容する範囲でパスワードを他人と共有することを禁止しておらず、実際にアカウントを共有するユーザーは存在する。本件アカウントには、本件IPアドレス以外のIPアドレスによるログインが複数回行われ、経由プロバイダも複数あるから、本件アカウントは複数人で共有されている可能性が高く、本件IPアドレスで本件アカウントにログインした者と本件各投稿をした者が同一であるということはできない。
 なお、原告の主張を前提としても、総務省令3号のメールアドレスについては「発信者情報その他侵害情報の送信に係る者の」という定め方がされていないから、少なくともメールアドレスについては開示請求することはできない。
 したがって、本件発信者情報は法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当しないから、原告は、同項に基づいて本件発信者情報の開示請求をすることはできない。
2 争点2(被告の開示関係役務提供者該当性)について
〔原告の主張〕
 法4条1項の「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備」は、直前の「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害された」との文言を受けるので、典型的には、本件各投稿を実際に媒介した経由プロバイダの特定電気通信設備が想定されているが、「供された」とは規定されていないことからすると、権利侵害を発生させる特定電気通信を媒介したことを必須の要素としていない。本件各投稿は、本件アカウントにログインしなければ投稿することはできず、本件アカウントが存続しなければ本件各投稿は存在しえないものであるから、本件各投稿と本件アカウントは密接な関連性を有しており、本件各投稿がされた後の本件アカウントへのログイン情報の送信及び媒介は、本件各投稿が不特定多数の者に受信される状態を維持させておくための通信といえる。
 加えて、上記1〔原告の主張〕のとおり、本件IPアドレスで本件アカウントにログインした者は本件発信者と同一である蓋然性が高いことからしても、本件アカウントへのログイン情報の送信及び媒介は、本件各投稿に供されるものであり、本件IPアドレスで本件アカウントにログインした際の情報を媒介した通信設備を用いる特定電気通信役務提供者である被告は、「開示関係役務提供者」に該当する。
〔被告の主張〕
 法4条1項の「当該特定電気通信」は侵害情報(開示請求者の権利を侵害したとする情報〔法3条2項2号〕)に係る特定電気通信を意味し、同通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者が「開示関係役務提供者」に該当する。そうすると、経由プロバイダである被告が「開示関係役務提供者」に該当するためには、侵害情報である本件各投稿の投稿に関する通信を媒介していたといえなければならない。
 しかし、本件IPアドレスは、本件各投稿を投稿した際に使用されたIPアドレスではなく、本件アカウントにログインした際に使用されたものである。
 本件アカウントへのログインと本件各投稿とは全く別個の行為であり、通信についても全く異なるものである。
 また、本件各投稿を行うためには、その前にアカウントへログインする必要があるが、本件IPアドレスは、最も古いものでも本件各投稿の約2か月後のログインに係るものであるから、本件IPアドレス等に係る通信は、本件各投稿に関する通信とは全く別個の通信である。
 さらに、甲8の4によれば、ツイッター社から開示されたIPアドレスには、本件IPアドレス以外に、被告が管理するものではない複数の別のIPアドレスが含まれ、これらによる本件アカウントへのログインが何度も行われている。
 以上によれば、被告が本件各投稿に関する通信を媒介していたとはいえないから、被告は開示関係役務提供者に該当しない。
3 争点3−1−1(本件プロフィール画像等の著作物性)について
〔原告の主張〕
(1)本件プロフィール画像は、原告が製造するフレーバーリキッドの販売にも役立つよう工夫して、自ら撮影したものである(甲14)。この画像の撮影過程において、原告は、被写体として自身の容姿を選択した上で、顔の表情・角度、髪型、光の当たり方、背景を考えて撮影し、更にフレーバーリキッドの使用状況を示すために実際に煙を出し、その煙をもう一つの被写体に加え、煙の写り方、流れ方、量、濃度などを調整して、自身の容姿と煙のバランスを工夫し、より良く商品を紹介できるよう撮影されたものである。また、原告は、自らのツイッターユーザー名に係る文字を、その字体、色、配置、角度、大きさなども考えながら加え、画像の微調整も含めて編集ソフトを利用して編集し、一つの画像として制作した。
 このような画像の制作過程からすれば、原告のプロフィール画像は、原告の思想や感情を創作的に表現したものであり、写真の著作物に当たる。
(2)本件ヘッダー画像について(甲11の1・3)、原告は、電子たばこを使用している女性のイラスト画像を選択した上で、編集ソフトを使用して商号である「A」の文字列の字体、色、傾き、角度、配置等を工夫して文字を制作し、その文字の画像に上記女性のイラスト画像を加えて一つの画像にした。なお、原告は同イラスト画像の著作権者からこれを加工して利用することについての許諾を得ている(甲12〜14)。
 その上で、原告は、その文字列が追加されたイラスト画像と、商用にも利用できるフリー素材である観覧車、花、空の画像などを組み合わせ、画像に透かしやぼかしなども入れながらイラスト画像や各画像の配置、構図、大きさも考え、工夫しながら、全体で一つの画像を制作した。
 以上のような制作過程からすれば、本件ヘッダー画像は、原告の思想や感情を創作的に表現したものであり、著作物に当たる。
〔被告の主張〕
 本件プロフィール画像はカメラの機械的作用によって被写体を記録したものにすぎず、撮影者の創意工夫は特段認められず、下部の文字部分にも特段の創作性は認められない。また、本件ヘッダー画像のうち、女性のイラストは原告が創作したものではなく、それ以外の部分もありふれた表現にとどまる。
 したがって、本件プロフィール画像等はいずれも著作物に該当しない。
4 争点3−1−2(原告が本件プロフィール画像等の著作権者であるか)について
〔原告の主張〕
 本件プロフィール画像は、原告の容姿の画像に原告の営業に使用している名称の文字列を加えて原告が制作したものであり、本件ヘッダー画像も、女性のイラストの著作権者から許諾を受けて、原告が観覧車等の他の画像を加えて制作したものであり、いずれについても原告が著作権を有する。
〔被告の主張〕
 原告が本件プロフィール画像等の著作権者であることについて立証がされていない。
5 争点3−1−3(適法な引用の成否)について
〔被告の主張〕
 本件各投稿が、本件プロフィール画像等を含む状態で撮影された画像がそのまま本件各投稿に掲載されたものであるとしても、著作権法32条1項の適法な引用に当たる。
 すなわち、本件各投稿には本件プロフィール画像等がそのまま掲載され、本件プロフィール画像等の出所に当たる原告アカウントのアカウント名及びユーザー名が明示されているので、これらの画像に含まれる原告の各画像は、本件発信者による投稿部分と明瞭に区別して認識することができる。また、本件プロフィール画像等の分量もごくわずかであるから、本件各投稿のうち、本件発信者による投稿部分が主、本件プロフィール画像等の部分が従の関係にある。
 本件各投稿は、原告アカウントのユーザーが正当な理由なく本件アカウントのユーザーをブロック(ツイートの閲覧、フォローを禁止するツイッター上の機能)したことについて批判し、原告アカウントのユーザーからリキッドを購入する者に向けて注意を促す内容である。本件発信者は、その主張をより明確かつ説得的に一般読者に伝えるために、従前のやりとりを掲載する目的で本件各投稿を行ったのであって、投稿の必要性、有用性が認められるばかりでなく、その方法も、社会通念上合理的な範囲内にとどまるというべきである。
〔原告の主張〕
 適法な引用が成立するためには、著作権法32条1項のとおり、公正な慣行に合致し、引用の目的上正当な範囲内で行われる必要があるところ、本件各投稿は、原告から本件アカウントをブロックされたことを理由に原告の営業を妨害するものであり、本件プロフィール画像等を公正に批評するなどの目的によるものではない。仮に、アカウントをブロックされたことに対する批判であったとしても、本件プロフィール画像等を掲載することは不可避ではないから、本件各投稿は、公正な慣行に合致するものではなく、正当な目的の範囲を超えるものである。
 また、本件各投稿は、本件プロフィール画像等をそのまま掲載するものであるから、むしろ原告の画像等が主であったということができる
 したがって、適法な引用は成立せず、他に違法性阻却事由が成立することをうかがわせる事情は存在しない。
6 争点3−2(肖像権侵害の成否)について
〔原告の主張〕
 原告は、本件プロフィール画像及び本件静止画を公開していたが、本件各投稿のように、原告の画像をスクリーンショットした上で、これをツイッター上に画像としてアップロードして公表することを許容していない。
 また、本件各投稿は、原告がツイッターアカウントをブロックしたことを引き合いに出した上で、上記画像の掲載とともに、「リアルの被害が及びませんように」(甲1の2)などとして、原告の事業に関して個人情報が適切に取り扱われず、悪用されるかのような印象を閲覧者に与えかねない内容となっている。このような形で自己の容姿が映った画像を公表することは、社会通念上許容される限度を超えた画像の公表、利用である。
 したがって、本件各投稿は、原告の肖像権を侵害するものである。
〔被告の主張〕
 本件プロフィール画像及び本件静止画が原告の顔写真であることの立証がされていない上、本件プロフィール画像はそのサイズが小さく、顔の付近に煙のようなものがあること、本件静止画はマスクを着用していることから、いずれもそこに映し出された人物の容姿が判別できない。
 本件プロフィール画像及び本件静止画は、いずれも原告が自らツイッターなどインターネット上で公開されたものが再掲載されたにすぎず、社会生活上の受忍限度を超えるものとはいえないから、原告の肖像権が侵害されたことが明らかとはいえない。
7 争点3−3(名誉感情侵害の成否)について
〔原告の主張〕
 本件各投稿は、まるで原告が第三者に被害を与えかねない人物であるかのように評し、原告を愚弄する内容である上、原告の容姿まで掲載している。また、その投稿の時期も、原告が懸命に制作した商品をようやく提供できるというタイミングに集中的に投稿されたものであり、原告の営業を妨害する意図もうかがわれるものである。このように、本件各投稿は、社会通念上許容される限度を超えて原告の名誉感情を害し、耐え難い精神的苦痛を与えるものである。
〔被告の主張〕
 本件各投稿には、原告の氏名は記載されておらず、本件プロフィール画像及び本件静止画が原告の容ぼうを写したものであるとの立証はされていないから、一般読者の普通の注意と読み方を基準として、本件各投稿が原告に関する投稿であると特定することはできない。
 また、原告は、電子たばこ用のフレーバーリキッドを製造・販売する事業者であるから、名誉感情の侵害の有無も事業者を基準として判断すべきところ、本件各投稿の内容は、一般消費者が事業者に関する事実や意見・感想を述べる投稿にすぎない。事業者であれば、このような批判的な指摘についても特段の事情がない限り受忍すべきであり、本件各投稿は社会通念上許容される限度を超えるものではない。
 したがって、本件各投稿により原告の名誉感情が侵害されたことが明らかであるということはできない。
8 争点4(発信者情報の開示を受けるべき正当の理由の有無)について
〔原告の主張〕
 原告は、本件各投稿をした本件発信者に対し、損害賠償請求を行う予定であり、当該請求をするためには、本件発信者情報の開示を受ける必要があるから、法4条1項2号の「発信者情報の開示を受けるべき正当な理由」がある。
〔被告の主張〕
 前記のとおり、本件各投稿による原告の権利侵害の明白性は認められないので、原告には「発信者情報の開示を受けるべき正当な理由」があるということはできない。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(本件発信者情報の「権利の侵害に係る発信者情報」該当性)について
(1)被告は、法4条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」とは、侵害情報の発信者についての情報に限られるとの解釈を前提とした上で、本件発信者情報は、本件アカウントにログインした者についての情報にすぎず、本件各投稿を行った本件発信者についての情報ではないので、本件発信者情報は「権利の侵害に係る発信者情報」に当たらないと主張する。
ア 前記第2の2(2)及び(3)記載のとおり、本件各投稿は、平成31年2月10日及び15日の2日間に合計7回にわたり投稿されたものであり、原告が同月1日正午(日本標準時)から仮処分決定が相手方に送達された日の正午時点までの期間に係るものについて、仮の開示を求める仮処分決定を得てツイッター社に発信者情報の開示を求めたところ、同社は、その保有している発信者情報として、同年4月11日から令和元年6月4日までの間に本件アカウントにログインされた際のIPアドレス及びタイムスタンプ(本件IPアドレス等)を開示している。このことから明らかなように、本件IPアドレス等は、本件各投稿の際に使用されたIPアドレスそのものではない。
イ しかし、法4条1項は、「権利侵害時の発信者情報」あるいは「権利が侵害された際の発信者情報」など、権利を侵害する行為(本件では本件各投稿)の際に使用された発信者情報に限定する旨の規定をすることなく、「権利の侵害に係る発信者情報」と規定しており、「係る」という語は「関係する」又は「かかわる」との意味を有することに照らすと、法4条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」とは、侵害情報が発信された際に割り当てられたIPアドレス等から把握される発信者情報に限定されることなく、権利侵害との結びつきがあり、権利侵害者の特定に資する通信から把握される発信者情報を含むと解するのが相当である。
ウ また、法4条の趣旨は、特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害を受けた者が、情報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求することができるものとすることにより、加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることにあると解されるところ(最高裁平成21年(受)第1049号同22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻3号676頁)、侵害情報そのものの送信時点ではなく、その前後に割り当てられたIPアドレス等から把握される発信者情報であっても、それが当該侵害情報の発信者のものと認められる場合には、当該発信者のプライバシー、通信の秘密等の保護の必要性の程度に比べ、被害者の権利の救済を図る必要性がより高いというべきである。
エ さらに、本件において、ツイッター社は、個々の投稿に係るIPアドレス等のログを保存しておらず、ログインに係る情報についても直近2か月分程度のログしか保存していないことがうかがわれるが、侵害情報そのものの送信を媒介した特定電気通信を媒介した者でなければ開示関係役務提供者に該当しないとすると、権利を侵害されたことは明白であるにもかかわらず、サイト運営者のログイン情報の保存方法・期間等により発信者情報開示請求の成否が左右され、侵害情報が発信された時点のIPアドレス等又は侵害情報を投稿するためのログイン時のIPアドレス等が保存されていない場合には、被害者は権利行使を断念せざるを得なくなる。法4条が、このような事態、すなわちサイト運営者のログイン情報の保存状況により被害者の権利救済の可否が左右されることを想定し、これを容認していたとは考え難い。
オ 以上によれば、侵害情報の送信の後に割り当てられたIPアドレスから把握される発信者情報であっても、それが侵害情報の発信者のものと認められるのであれば、法4条1項にいう「権利の侵害に係る発信者情報」に当たると解するのが相当である。
(2)上記(1)の解釈を前提として、本件IPアドレス等によって本件アカウントにログインした者と、本件各投稿を行った本件発信者が同一と認められるかどうかについて検討する。
ア 証拠(甲19)によれば、ツイッターを利用するためには、氏名、電話番号又はメールアドレスを登録するとともに、パスワードを設定してアカウント登録をすることが必要であり、その上で、作成したアカウントを実際に利用し、ツイート等の投稿を行うためには、電話番号、メールアドレス又はユーザー名に加え、パスワードを入力してアカウントにログインをすることが必要であると認められる(前記第2の2(4))。
 このように、ツイッターは、利用者がアカウント及びパスワードを入力することによりログインをしなければ利用できないサービスであることに照らすと、当該アカウントにログインをするのは、そのアカウント使用者である蓋然性が高いというべきである。
イ また、本件アカウントは、ユーザー名が「B」であり、その投稿内容等に照らすと、本件各投稿は、特定の個人が継続的に投稿したものであると認められ(甲1〜6)、ツイッター社により開示された本件IPアドレス等の使用期間(平成31年4月11日から令和元年6月4日まで)においても、昼夜を問わず、毎日本件アカウントにログインされており、本件アカウントが継続的に使用されていたことがうかがわれる(甲8)。
 そして、本件訴訟提起後である令和元年9月5日及び6日にされた本件アカウントのツイート(甲20)には、「どれだけ嫌なことがあってもどれだけ辛いことがあっても…頑張ってこのアカウントを育ててきたのですがこの度悪質な嫌がらせに合いまして暫くの間別アカウント…で過ごすことになりました」、「赤子を抱えて身動きが取りづらい状況を狙って私を潰しに来たのであれば義理も人情もない方なのでしょう」、などの投稿がされていることが認められる。これらのツイート内容等によると、令和元年9月の上記各投稿の投稿者は、特定の個人であり、原告の行為を非難する旨の本件各投稿をした者と同一であることが推認される。
ウ 上記アのとおり、ツイッターのアカウントにログインをするのは、そのサービスの仕組みに照らし、当該アカウントの使用者である蓋然性が高いところ、上記イのとおり、本件アカウントは、本件各投稿がされた平成31年2月頃から令和元年9月頃の間、特定かつ同一の個人が継続して利用していたものと認めるのが相当であり、法人が営業用に用いるなど複数名でアカウントを共有し、又はアカウント使用者がその間に変更されたことをうかがわせるような事情は存在しない。
 そうすると、本件IPアドレスによって本件アカウントにログインした者と、本件各投稿を行った本件発信者は同一ということができるので、本件発信者情報は「権利の侵害に係る発信者情報」に当たるというべきである。
エ これに対し、被告は、ツイッターの仕組み上、ユーザーがアカウントを他人と共有することが禁止されていないことや、本件アカウントには、本件IPアドレス以外のIPアドレスを用いた被告以外の経由プロバイダを利用したログインが複数回行われていることから、本件アカウントは複数人で共有されている可能性が高く、本件IPアドレスで本件アカウントにログインした者と本件各投稿をした者が同一であるとはいえないと主張する。
 しかしながら、ツイッターの仕組み上、アカウントの共有が禁止されていないとしても、通常は、特定の個人が自分用のアカウントとして継続的に一つのアカウントを使用することが多く、本件アカウントについても、その投稿内容等に照らし、個人用のアカウントと認められることは、前記判示のとおりである。
 また、被告以外の異なる経由プロバイダを介して本件アカウントにログインされているとの点についても、個人であっても、例えば携帯電話とパソコンのそれぞれについて異なる経由プロバイダと契約することもあり得るのであるから、そのことから直ちに複数人が本件アカウントを共有している可能性が高いということはできない。
 したがって、被告の上記主張は採用できない。
2 争点2(被告の開示関係役務提供者該当性)について
 被告は、本件IPアドレスは、本件各投稿後のログインに係るものであるから、被告は、本件各投稿に関する通信を媒介しておらず、「開示関係役務提供者」に該当しないと主張する。
 しかし、前記判示のとおり、侵害情報の送信の後に割り当てられたIPアドレス等から把握される発信者情報であっても、それが当該侵害情報の発信者のものと認められるのであれば、法4条1項にいう「権利の侵害に係る発信者情報」に当たると解するのが相当であり、侵害情報の発信者と同一の者によるものと認められる通信を媒介し、その際に割り当てられた当該IPアドレス等を保有する特定電気通信役務提供者は、法4条1項にいう開示関係役務提供者に該当するというべきである。
 したがって、本件IPアドレスによる本件アカウントへのログインを媒介した被告は、開示関係役務提供者に該当する。
3 争点3(権利侵害の明白性の有無)について
(1)争点3−1−1(本件プロフィール画像等の著作物性)について
ア 被告は、本件プロフィール画像に撮影者の創意工夫は特段認められず、本件ヘッダー画像も女性のイラストは原告が創作したものではなく、それ以外の部分もありふれた表現にとどまるから、著作物に当たらないと主張する。
 しかし、本件プロフィール画像は、別紙著作物目録のプロフィール画像欄記載のとおりであり、証拠(甲14、25)によれば、口から煙を出している原告の顔を正面から撮影し、中心からやや下方に原告アカウントのユーザー名を記載したものであって、文字部分を含めた全体の構図や、光の当て方、顔の角度、漂う煙がきれいに見えるように流れ方、量及び濃度などを調整した上でシャッターチャンスの捕捉をしている点などを工夫して撮影されたものと認められる。
 そうすると、本件プロフィール画像は、原告の思想、感情を創作的に表現したものであって、写真の著作物に当たると認めるのが相当である。
イ 本件ヘッダー画像は、別紙著作物目録のヘッダー画像欄記載のとおりであり、右側に口から煙を出している女性のイラストが描かれ、その左側及び全体の背景に観覧車や花、空の画像を加え、透かしを入れてこれらの画像を重ね合わせたものである。原告は、女性のイラストの作者から利用許諾を受けて、これに観覧車等の画像を追加し、全体の構図等を決めて本件ヘッダー画像を作成したものであって(甲12〜14)、ありふれた表現にとどまるということはできず、原告の個性が十分に表れたものというべきである。
 したがって、本件プロフィール画像等は、原告の思想、感情を創作的に表現したもので、美術の範囲に属するものとして、著作物に該当する。
(2)争点3−2−2(原告が本件プロフィール画像等の著作権者であるか)について
 被告は、原告が本件プロフィール画像等の著作権者であることを争うが、上記(1)のとおり、本件プロフィール画像の被写体が原告であり、本件ヘッダー画像の女性のイラストについて原告が利用許諾を受け、原告の営業に用いられていることに照らせば、本件プロフィール画像等を制作したのは原告であり、その著作権は原告に帰属するものと認められる。
(3)争点3−1−3(適法な引用の成否)について
 被告は、本件各投稿において本件プロフィール画像等を掲載したことが適法な引用(著作権法32条1項)に当たるので、権利侵害の明白性が認められないと主張するところ、他人の著作物を引用した利用が許されるためには、その方法や態様が、報道、批評、研究等の引用目的との関係で、社会通念に照らして合理的な範囲内のものであり、かつ、引用して利用することが公正な慣行に合致することが必要である。
 本件投稿1、2、6及び7(甲1、5、6)は、ツイッター上で、原告が本件アカウントのユーザーをブロックしたことについて、第三者のツイートに賛同しただけでブロックしたことを批判するとともに、電子たばこである「VAPE」を使用する者に対し、原告が販売するリキッドの購入について注意を呼びかける内容の文章が記載され、それに加えて、原告アカウントが本件アカウントのユーザーをブロックしている画面のスクリーンショット(携帯電話の画面を撮影した画像であり、本件プロフィール画像等が含まれている。)を掲載したものである。
 また、本件投稿3〜5(甲2〜4)は、本件アカウントのユーザーがブロックの理由を原告に尋ね、原告がそれに対して答える動画をツイッター上に投稿したところ、当該動画における原告の回答内容を記載した文章とともに、当該動画の一部をスクリーンショットした本件静止画を掲載したものであり、右上に本件プロフィール画像が掲載されている。
 上記のとおり、本件各投稿は、原告が本件アカウントのユーザーをブロックしたことを繰り返し非難した上で、原告が販売するリキッドの購入について注意を呼びかける内容となっているところ、同各投稿の目的、内容等に照らすと、上記ユーザーが本件各投稿を行うに当たり、原告の容姿等の写った本件プロフィール画像等及び本件静止画をツイッター上に掲載する必要性があったとは認められない。
 また、本件各投稿の際に掲載された本件プロフィール画像等は、画面全体において目立つ態様で表示され、更に操作によっては携帯電話(スマートフォン)の画面において独立して鑑賞の対象となり得る程度の大きさで閲覧することも可能であること(甲1の1の2・3、甲5の2、甲6の2等)も考慮すると、同各投稿において引用された本件プロフィール画像等が従で、他の記載が主の関係にあるということもできない。
 以上によれば、本件各投稿における引用の方法及び態様が、引用目的との関係で社会通念に照らして合理的な範囲内のものであると認めることはできないというべきであり、本件プロフィール画像等を引用して利用することが公正な慣行に合致すると認めるに足りる事情も存在しない。
 したがって、本件各投稿における本件プロフィール画像等の掲載が適法な引用に当たるということはできない。
(4)以上のとおり、本件各投稿は、本件プロフィール画像等を著作権者である原告に無断で公衆送信するものであり、違法性阻却事由の存在もうかがわれないから、原告の公衆送信権を侵害することが明らかである。
4 争点4(発信者情報の開示を受けるべき正当の理由の有無)について
 上記3のとおり、本件各投稿は、原告の公衆送信権を侵害するところ、原告は、本件発信者に対し、損害賠償請求をする予定であることが認められる(甲14、弁論の全趣旨)から、本件発信者情報の開示を受けるべき正当の理由がある。
5 結論
 以上によれば、原告の請求は理由があるから、これを認容することとし、よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 佐藤達文
 裁判官 吉野俊太郎
 裁判官 今野智紀


(別紙)発信者情報目録
 別紙IPアドレス目録記載のIPアドレスを、同目録記載の各ログイン日時ころに、被告から割り当てられていた契約者に関する下記情報
 記
 @ 氏名または名称
 A 住所
 B 電子メールアドレス
 以上

(別紙)IPアドレス目録
 IPアドレスログイン日時(日本時間)リモートホスト
 1 以下省略
 2
 3
 4
 5
 6
 7
 8
 9
 10
 11
 12
 13
 14
 15
 16
 17
 18
 19
 20
IPアドレスログイン日時(日本時間)リモートホスト
 21 以下省略
 22
 23
 24
 25
 26
 27
 28
 29
 30
 31
 32
 33
 34
 35
 36
 37
 38
 39
 40
IPアドレスログイン日時(日本時間)リモートホスト
 41 以下省略
 42
 43
 44
 45
 46
 47
 48
 49
 50
 51
 52
 53
 54
 55
 56
 57
 58
 59
 60
IPアドレスログイン日時(日本時間)リモートホスト
 61 以下省略
 62
 63
 64
 65
 66
 67
 68
 69
 70
 71
 72
 73
 74
 75
 76
 77
 78
 79
 80
IPアドレスログイン日時(日本時間)リモートホスト
 81 以下省略
 82
 83
 84
 85
 86
 87
 88
 89
 90
 91
 92
 93
 94
 以上

(別紙)投稿記事目録
 閲覧用URLhttps://以下省略
 ユーザー名B
 アカウント(省略)
 以上

(別紙)著作物目録
 プロフィール画像(省略)
 ヘッダー画像(省略)

(別紙)投稿内容目録
1 ツイート日時:2019年2月10日12時54分(甲1の1の2)(省略)
2 ツイート日時:2019年2月10日10時13分(甲1の1の3)(省略)
3 ツイート日時:2019年2月15日00時08分(甲2の2)(省略)
4 ツイート日時:2019年2月15日00時11分(甲3の2)(省略)
5 ツイート日時:2019年2月15日00時14分(甲4の2)(省略)
6 ツイート日時:2019年2月15日00時26分(甲5の2)(省略)
7 ツイート日時:2019年2月10日11時32分(甲6の2)(省略)
 以上
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/