判例全文 line
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【事件名】類似“フラワーシェード”事件
【年月日】令和2年1月29日
 東京地裁 平成30年(ワ)第30795号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 令和元年12月6日)

判決
原告 X1
原告 X2
上記両名訴訟代理人弁護士 北山元章
同 田辺信彦
同 植松祐二
同 松原香織
被告株式会社 丹青社(以下「被告丹青社」という。)
同訴訟代理人弁護士 山田勝重
同 山田克巳
同 山田博重
同 新島由未子
同 上岡秀行
同補佐人弁理士 山田智重
同 平山巌
被告株式会社 ルーセントデザイン(以下「被告ルーセント」という。)
被告 Y(以下「被告Y」といい、被告ルーセントと併せて「被告ルーセントら」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 田中雅敏
同 髙山大地
同 鶴利絵
同 宇加治恭子
同 石井靖子
同 早崎裕子
同 小栁美佳
同 池辺健太
同 堀田明希
同 安田裕明
同 山腰健一
同 松浦駿
被告Y訴訟代理人弁護士 森進吾
上記両名補佐人弁理士 有吉修一朗
同 森田靖之


主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告らは、別紙被告作品目録記載の作品を制作し、販売し、貸与し、又は展示してはならない。
2 被告丹青社及び被告ルーセントは、原告らに対し、連帯して550万円及びこれに対する被告丹青社につき平成30年10月6日から、被告ルーセントにつき同月7日から、支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告丹青社は、別紙謝罪文目録記載1の謝罪広告を、同記載3の条件により、被告丹青社のホームページ(https://以下省略)に掲載せよ。
4 被告ルーセントは、別紙謝罪文目録記載2の謝罪広告を、同記載3の条件により、被告ルーセントのホームページ(http://以下省略)に掲載せよ。
5 訴訟費用は被告らの負担とする。
6 第1項及び第2項について仮執行宣言
第2 事案の概要
1 本件は、原告らが、被告丹青社及び被告ルーセントが制作した別紙被告作品目録記載の「PrismChandelier」(以下「被告作品」という。)は、原告らが制作した著作物である別紙原告作品目録記載の照明用シェード(以下「原告作品」という。)を改変したものであるから、被告らが被告作品を制作、販売、貸与又は展示する行為は原告らの翻案権及び同一性保持権を侵害すると主張して、著作権法112条1項及び2項に基づき、被告らに対し、被告作品の制作、販売、貸与及び展示の差止めを求めるとともに、被告丹青社及び被告ルーセントによる上記翻案権侵害及び同一性保持権侵害により、原告らは財産的損害及び精神的損害を被ったと主張して、民法709条(財産的損害につき同条及び著作権法114条1項)に基づき、被告丹青社及び被告ルーセントに対し、550万円(財産的損害330万円、精神的損害220万円)及びこれに対する被告丹青社につき平成30年10月6日から、被告ルーセントにつき同月7日から(いずれも不法行為の後である訴状送達日の翌日)、支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、併せて、著作権法115条に基づき、名誉回復措置として謝罪広告の掲載を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実。なお、本判決を通じ、証拠を摘示する場合には、特に断らない限り、枝番を含むものとする。)
(1)当事者
 原告らは、「BIWAHOUSE」の名称でアート作品の発表、プロダクトデザイン、イラストレーション、ロゴなどのグラフィックデザインなどの活動を行っている。(甲9)
 被告丹青社は、商業施設(ショッピングセンター、百貨店、専門店等)、文化施設(博物館、美術館、資料館等)、環境施設(公園、造園等)、観光施設、遊園施設等の企画、設計、監理、施工等を目的とする株式会社である。
(甲3)
 被告ルーセントは、インタラクティブアート(観客が参加することで完成する芸術作品)及びライティングアート(特に人工の光を活用した芸術作品)の企画、設計、制作及び販売等を目的とする株式会社である。(甲1)
 被告Yは、被告ルーセントの代表取締役であり、映像、照明、テクノロジー、インタラクションと、美的表現を融合させる光のインスタレーションを手がけるアーティストとして活動している。(甲2の1)
(2)原告作品
ア ミウラ折りとは、東京大学名誉教授・文部科学省宇宙科学研究所名誉教授の三浦公亮氏によって、円筒に丸めた紙を縦に潰したときに表れる皺のパターンなどの自然現象の中から発見された折り方で、折られた状態から最小のエネルギーによって展開状態に変化するため、人工衛星の太陽電池パネルや携帯地図の折り畳み方として実用化されている。具体的には、紙を折り畳む際に直角の折から少しずらして折る折り方で、これにより、横方向の折り線は等間隔の並行直線、縦方向の折り線は等間隔のジグザグ線となり、すべて等しい平行四辺形の面ができる。折り目の頂点は3つの山折りと1つの谷折り(又は3つの谷折りと1つの山折り)からなり、全ての折りが連動されて、縦方向の屈伸に連動して横方向と幅方向が伸縮する独特の振舞いをする。(甲4)
イ 原告らは、シート状のものにミウラ折りを施すことにより、強度と立体保持力が増すという特性が、プロダクトやアート作品のキーパーツを成立させる上で有効であることに着眼し、複数の円形孔が設けられたフレームにミウラ折りを応用してシート状の素材を折ったもの(エレメント。甲11の3頁参照)を複数挿入する照明用シェードである原告作品を開発した。
 原告らは、平成22年9月、松屋銀座で開催された「銀座目利き百貨街」の「細江振舞道」のブースに原告作品を展示、販売した。(甲5)
ウ 原告らは、平成24年12月、原告作品と同様の球形状の照明用シェード(原告作品のようなペンダントタイプのほか、スタンドタイプも含む。)を「umbel」との呼称で展示し(甲6~8、26)、その後、平成27年7月までに原告作品と同様の特徴を有する5弁タイプの照明用シェードを商品化し、その制作、販売をしている。(甲9)
 原告らは、自己のウェブサイトにおいて、「umbel」について、次のような説明を記載している。(乙1)
 「“umbel(アンベル)”は、折り紙を折る要領で1枚のシートからミウラ折りされた「フラワーエレメント」を、独自のフレーム構造により球状に集合させた照明器具のシリーズです。」
 「※“umbel”とは植物学の用語で、小さな花が放射状に密集し、全体として丸く見える花のつき方、「散形花序」の英語名です。」「フレーム上に均等配置されたリングに、全て同じ形状のエレメントを挿すという、量産性を考慮したプロダクトでありながら、花弁同士がお互いに居場所を求め合った結果生じた重なりや僅かな捻れによって、本物の植物が見せるのと同様の、自然で美しいフォルムが生まれます。」
(3)被告らの行為等
ア 原告らは、平成24年9月、原告らの作品を見て連絡をしてきた被告Yと知り合い、平成26年4月には、被告Yから協力してプリズムシートを用いた作品を制作することについて打診を受け、これに応じることとした(甲13、14)。その後、原告らは、被告ルーセントとともに、プリズムシートを用いたライティングオブジェ「LUCIS」を制作し、平成26年12月7日に原告X1と被告ルーセントとの間で「デザイン使用に関する合意書」(乙2)を交わした上で、平成27年11月から12月にかけて、これをカッシーナ・イクスシー青山本店等に展示した(甲15、16)。なお、上記合意書の有効期間は3年間であり(同合意書第13条)、更新されることなく、平成29年12月7日の経過により終了した。
イ 被告丹青社は、コンラッド大阪に設置する被告作品の設計協力業務に関し、被告ルーセントから依頼を受け、平成28年6月3日にエレメントの面付図(展開図、フレーム図)及び建築取合図を、同月8日にエレメントの展開図を改訂したものを被告ルーセントに提出した。これを受けて、被告ルーセントは、被告丹青社に対し、同年9月26日付けの注文書をもって、同業務を発注した。(丙1、3、4)
ウ 被告ルーセントは、被告丹青社から納品を受けたエレメントの面付図及び建築取合図に基づいて被告作品を制作し(以下、被告作品のエレメントを「被告エレメント」という。)、これを株式会社朝日新聞社及び株式会社竹中工務店に譲渡し、平成29年4月8日、大阪市所在のコンラッドホテルに納品した。(甲2の2、弁論の全趣旨)
エ 被告ルーセント及び被告丹青社は、平成28年8月29日、被告製品の意匠に関し、意匠に係る物品名を「シャンデリア用笠」とする意匠登録の出願をし、同意匠(以下「本件意匠1」という。)は、平成29年3月17日に登録(意匠登録番号第1574099号)された。(甲17の1)
 また、被告ルーセント及び被告丹青社の従業員であるW(以下「W」という。)は、平成29年3月7日、被告製品の意匠に関し、意匠に係る物品名を「シャンデリア用笠体」とする意匠登録の出願をし、同意匠(以下「本件意匠2」という。)は、同年10月27日に登録(意匠登録番号第1591314号)された。(甲17の2)
 原告らは、平成30年9月28日付けで特許庁に対し、上記各意匠権について無効審判を請求した。(乙22~29)
3 争点
(1)原告作品の著作物性(争点1)
(2)被告作品の翻案該当性(争点2)
(3)被告丹青社が被告作品の共同制作者といえるか(争点3)
(4)差止めの必要性(争点4)
(5)原告らの損害額(争点5)
(6)謝罪広告の必要性(争点6)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(原告作品の著作物性)について
〔原告らの主張〕
 原告作品は、以下の特徴を有する、手作りで作られる大量生産されない美術工芸品であり、作成者の個性が発揮され、創作性を有するものであるから、美術の著作物に該当する。
(1)原告作品の特徴
ア 特徴X①(エレメントのフレームへの装着方法)
 原告作品は、エレメント(以下「原告エレメント」という。)に脚基部が存在することにより、フレームにエレメントの脚部を挿入するだけで、接着や副次的な締結機構を用いることなく、下向きのエレメントも確実に保持される(甲11)。その結果として、全体サイズやフレームの孔の数(エレメント数)にかかわらず、いかなる形状の立体物であっても全体形状が保持される。
イ 特徴X②(輪郭)
 原告作品は、エレメントの頭部同士が立体的に重なり、上下左右にどの方向にも均一に弾けた花弁がお互いに居場所を求め合った結果生じた重なりやわずかな捻れによって、本物の植物が見せるのと同様の自然で美しい輪郭を有している。その輪郭は、均等に配置されたフレームの孔に同一形状のエレメントを挿入することにより、均等なエレメント頭部の立体的な重なりが連続するという表現方法により生み出されたものであり、下図のとおり、多方向のベクトルを持った大小長短様々な剣先形状が複雑に交錯した、ランダムでありながら規律をもった特徴的な形状である。
 [図版略]
ウ 特徴X③(エレメントにミウラ折りの要素を取り入れつつ独自の工夫が施されている点)
 上記特徴X①及びX②の実現を可能にしているのが、エレメントにミウラ折りの要素を取り入れつつ、それに独自の工夫を加えている点である。
 具体的には、原告らは、平面の展開図を筒状に丸めて立体のエレメントを制作する際に、以下のa~eのとおり、ミウラ折りの要素を取り入れつつ工夫を加えた(甲12)。
a 展開図の途中まで(脚部となる部分)は横方向のジグザグ折り線を設けず、縦方向の折り線のみのジャバラ折りとする。
b 展開図の途中以降(頭部となる部分)には、先端部において、横方向のつながりを絶つよう、縦方向折り線1本置きに切れ込みを設ける。
c 脚部と頭部の境目となる部分(脚基部)に、横方向のジグザグ折り線を設ける(ミウラ折りの要素を取り入れた部分)。
d 頭部となる部分(花弁状部)に縦方向の折り線とは別の斜め方向の折り線を設ける(ミウラ折りの要素を取り入れた部分。原告らは、ミウラ折りの持つ構造的特徴のみならず審美的特徴も重要な要素と捉え、斜め方向の折り線としてミウラ折りを施しているが、その折りが必ずしも厳密な意味でのミウラ折りである必要はない。)。
e 頭部の花弁状部に長短を設ける。
 上記a~cにより、展開図の左右を貼り合わせたときに、横方向のジグザグ折り線を設けた部分が脚基部、脚基部より下の部分がジャバラの脚部、脚基部より上の部分が放射線状に伸びる頭部(花弁状部)となる。
 脚部のジャバラがミウラ折りの要素を取り入れた脚基部の折り方によりバネの役割を果たし、脚基部がストッパーの役割を果たすため、フレームの孔に挿入したエレメントは上下左右どの向きを向いているものも長時間保持される。このようなバネの働きがなければ、重力の影響により、フレームに挿入したエレメントを保持することができない。特徴X①は、エレメントにミウラ折りを取り入れつつ応用したことにより実現したものである。
 また、上記dにより、頭部の花弁1枚1枚の剣先及び剣先に至る部分に角度の変化が生じ、更に花弁ごとにその角度を調整することにより、エレメント間の距離を均等とすることとあいまって、剣先形状が複雑に交錯した、ランダムでありながら規律をもった特徴的な輪郭(特徴X②)を実現できた。しかも、花弁状部に折りを加えることにより、頭部の花弁1枚1枚の強度が増し、見頃の花や結晶のように張りを保った状態となる。
 さらに、上記eにより、隣接するエレメント同士の距離を接近させ、エレメントの頭部同士を立体的に重ね合わせることが可能となった。このことにより、エレメントの花弁の隙間から、内部の光源の直接光が外部へ漏れるのを最大限防ぐことが可能となり、また隣接するエレメント同士が相互に深く嵌合することにより、フレームの孔に挿入したエレメントが上下左右どの向きを向いているものも重力の影響による変形が防止できるため、張りを保った状態となる。これらの作用も、特徴X②の独特の輪郭を実現することに寄与している。
エ 特徴X④(エレメントの構造が光学的表情発露の要因となっている点)
 原告作品のエレメントは、脚基部を境にジャバラ状の脚部と花弁状部に分かれており、脚部がフレームの孔に挿入されることにより、脚部はフレーム内部の光源の光を受けるように開く設計となっている。
 原告作品は、脚部と花弁状部という2つの部位を有するエレメントの形状的特徴によって、光源の放つ光に二重の変化を与える。そのため、原告作品は、素材ごとの光学的特性の違いを際立たせ、エレメント素材単体では得られない光の効果を生み出す。
 すなわち、エレメントの材質を問わず、フレーム内部に設けられた光源が発した光は、まず、ジャバラ状の脚部で最初の光学的変化(拡散、屈折、反射等)を受ける。その結果として脚部が放った光は、次に、折りを伴った花弁状部によって更に複雑な光学的変化を受ける。その二重に変化を受けた光を、見る者は、当該作品等が放つ、エレメント素材ごとに特有の光の表情として認識することになる。
 このように、脚部と花弁状部という二つの部位を有するエレメントの構造が、光源の放つ光に対して二重の変化を与える要因として機能することにより、原告作品は、凡百の照明用シェードではおよそ表現し得ない、極めて複雑な陰影の表情を発露する。
(2)原告作品の本質的な価値
 上記各特徴を備えた原告作品は、原告作品の形態及び製法に挙げたその他の要素とあいまって、散形花序(主軸の先端から多数の花柄が散出して、放射状に拡がって咲く花序のこと)の形態の造形物となる。このような、一つ一つの花が、球状体の中心から放射状に外を向いて開花するという自然界の散形花序の特徴を、ねじれや重なりといった偶然性まで含めて、人工物であるところの照明用シェードやアートオブジェによって見事に表現したことこそが、原告作品の造形物としての本質的価値である。
〔被告丹青社の主張〕
 原告作品は、手作業の過程を経て制作されるものであっても、一品制作物ではなく、量産を前提とした工業製品であるから(甲9)、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、美術の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)に該当しない。
 仮に、原告作品が、応用美術として著作物性が認められるとしても、独立に美的鑑賞の対象となり得る具体的な特徴を有する必要があるところ、原告らが主張する特徴X①~X④は、概念的かつ抽象的内容にすぎず、具体的な特徴と理解することはできない。
 したがって、原告作品は、著作物に該当しない。
〔被告ルーセントらの主張〕
 原告らが原告作品の著作物性を基礎づける本質的特徴であるとする上記特徴X①~X④は、以下のとおり、いずれも著作物性を基礎付けるものではないので、原告作品は著作物に該当しない。
(1)特徴X①(エレメントのフレームへの装着方法)
 特徴X①は、原告作品の制作方法又は内部構造にすぎず、外部に顕出しているものではないから、原告作品を鑑賞する者において視認できるものではなく、そもそも「表現」に当たらないから、著作物性を基礎付けるものではない。
(2)特徴X②(輪郭)
 原告作品の輪郭は、自然界に存在する植物の形状を再現したものにすぎず、実際に、花をモチーフとした照明用シェードとして、特徴X②と同様の輪郭を有する例が多数見られることから(乙17~21)、ありふれた表現というべきである。
(3)特徴X③(エレメントにミウラ折りの要素を取り入れつつ独自の工夫が施されている点)
 原告は、特徴X①及びX②の実現を可能にするのが特徴X③であると主張するが、そうであれば、特徴X③はあくまでも表現のための手段にすぎず、著作物性を基礎付ける特徴ではない。
(4)特徴X④(エレメントの構造が光学的表情発露の要因となっている点)
 脚部と花弁状部という二つの部位を有するエレメントの形状的特徴によって、素材ごとの光学的特性の違いを際立たせ、エレメント素材単体では得られない光の効果を生み出すというのは、アイデアにすぎない。脚部はフレーム内に埋め込まれており、外部からは、脚部と花弁状部という二つの部位を有するエレメントの形状的特徴を看取することはできない。
2 争点2(被告作品の翻案該当性)について
〔原告の主張〕
 原告の主張する原告作品及び被告作品の共通点及び相違点等に係る主張は、別紙「類似性に関する主張(原告ら)」記載のとおりであり、被告作品からは、原告作品の本質的特徴を直接感得することができるから、被告作品は原告作品を翻案したものである。
〔被告丹青社の主張〕
 争う。
〔被告ルーセントらの主張〕
 被告ルーセントらの主張する原告作品及び被告作品の共通点及び相違点等に係る主張は、別紙「類似性に関する主張(被告ルーセントら)」記載のとおりであり、被告作品には原告作品とは異なる本質的特徴を有するから、被告作品は原告作品を翻案したものではない。
3 争点3(被告丹青社が被告作品の共同制作者といえるか)について
〔原告らの主張〕
 以下の事実に照らすと、被告丹青社は、被告ルーセントとともに被告作品を共同で制作したものと評価すべきであり、原告作品の翻案権侵害につき共同不法行為責任を負う。
(1)被告丹青社は、被告ルーセントから被告作品の設計業務を請け負い、エレメント面付図及び建築取合図を作成して納品し、被告ルーセントは、これらをそのまま採用している。つまり、被告丹青社は、被告作品の一連の制作過程のうち、重要な造形の外観に関する部分の設計という翻案行為の重要な部分を行った。
(2)被告ルーセントのホームページには、被告作品の紹介とともに、「Collaborator|W(Tanseisha)」としてWの氏名が表示されている(甲2の2)。また、被告丹青社は本件意匠1の、Wは本件意匠2の共同意匠権者となっていることも併せて考慮すると、被告丹青社も被告作品の制作・販売の責任を負っていると考えられる。
〔被告丹青社の主張〕
 以下のとおり、被告丹青社は、被告作品を制作していないから、翻案権侵害につき共同不法行為責任を負わない。
(1)被告丹青社は、被告ルーセントからの依頼により、被告作品の意匠的な設計業務の一部を受任したにすぎず、被告作品の構造計算を含む制作に係る業務、電気回り、配電設備の設計及び施工業務並びにホテル天井への設置業務には従事していない。具体的には、被告丹青社は、被告Yからコンラッド大阪に設置する照明器具の意匠設計を打診され、大まかなコンセプトを示されたため、Wが中心となり、エレメント面付図及び建築取合図を作成して被告ルーセントに納品したものであり、被告作品の制作、設置を主導したものではない。
(2)被告丹青社が本件意匠1の、Wが本件意匠2の共同意匠権者となったのは、上記のとおり、被告丹青社従業員のWが中心となって被告作品のエレメントのデザイン創作に協力したことが背景にあるが、そのことをもって、被告丹青社が被告作品の制作や設置について責任を負うことにはならない。
4 争点4(差止めの必要性)について
〔原告らの主張〕
 被告丹青社及び被告ルーセントは、前記3のとおり、被告作品の共同制作者であり、原告らからの警告に対し、著作権及び著作者人格権の侵害を否定していることから、今後も被告丹青社及び被告ルーセントが被告作品の制作、第三者への譲渡又は貸与及び展示を行うおそれがある。
 被告Yは、アーティスト活動を行い、個展を開くなどしており、被告ルーセントが行った原告らの著作権侵害行為も、実質的には被告Yが行ったものである。
 したがって、被告らに対し、被告作品の制作、販売、貸与又は展示の差止めを求める必要性がある。
〔被告丹青社の主張〕
 否認する。
〔被告ルーセントらの主張〕
 被告ルーセントらは被告作品の販売を行っておらず、被告Yが個人的な活動として被告作品を展示したことはない。
5 争点5(原告らの損害額)について
〔原告らの主張〕
 被告丹青社及び被告ルーセントが、原告作品の存在を知りながら故意に原告らの有する翻案権及び同一性保持権を侵害したことにより、原告らは以下の損害を被った。
(1)翻案権侵害に係る損害額
ア 著作権法114条1項により推定される損害額
 原告らが被告作品と同等の作品を制作するとすれば、300万円以上の利益を得たはずであるから、著作権法114条1項により、原告らの被った損害は、少なくとも300万円と推定される。
イ 弁護士費用
 原告らは弁護士費用を支出しており、損害賠償額としては、上記アの1割である30万円が相当である。
(2)同一性保持権侵害に係る損害額
ア 精神的損害
 原告らが同一性保持権を侵害されたことにより受けた精神的損害の額は200万円を下らない。
イ 弁護士費用
 原告らは弁護士費用を支出しており、損害賠償額としては、上記アの1割である20万円が相当である。
(3)合計額
 原告らは、被告丹青社及び被告ルーセントに対し、連帯して、550万円及びこれに対する被告丹青社につき平成30年10月6日から、被告ルーセントにつき同月7日から、支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
〔被告らの主張〕
 争う。
6 争点6(謝罪広告の必要性)について
〔原告らの主張〕
 被告作品は、無理な設計によりエレメントの過度の変形等が見られるのみならず、造形の詰めの甘さにより、ホテルにおけるパブリックアートとしてふさわしくない作品であるところ、原告らが被告作品を制作したと誤解されることは、原告らの社会的名誉を傷つけるものである。そのため、名誉回復措置として謝罪広告の掲載を求める必要がある。
〔被告ルーセントらの主張〕
 被告作品は高い評価を受けており(甲21)、仮に原告らの制作と誤解されたとしても、社会的評価は低下しないから、謝罪広告を掲載する必要はない。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(原告作品の著作物性)について
 原告作品は、照明用シェードであり、実用目的に供される美的創作物(いわゆる応用美術)であるところ、被告らはその著作物性を争うが、同作品は後記2(2)記載のとおり、内部に光源を設置したフレームの複数の孔にミウラ折りの要素を取り入れて折ったエレメントの脚部を挿入し、その花弁状の頭部が立体的に重なり合うように外部に表れてフレームを覆うことにより、主軸の先端から多数の花柄が散出して、放射状に拡がって咲く様子を人工物で表現しようとしたものであり、頭部の花弁状部が重なり合うことなどにより、複雑な陰影を作り出し、看者に本物の植物と同様の自然で美しいフォルムを感得させるものである。このように、原告作品は、美術工芸品に匹敵する高い創作性を有し、その全体が美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているものであって、美術の著作物に該当するものというべきである。
2 争点2(被告作品の翻案該当性)について
(1)著作物の翻案(著作権法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。そして、著作権法は、思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(同法2条1項1号参照)、既存の著作物に依拠して創作された著作物が、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、翻案には当たらないと解するのが相当である(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁)。
 本件では、依拠性には争いがないことから、被告作品から原告作品の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるかについて検討する。
(2)原告作品の形態及び製法等
 原告作品の外観は、別紙原告作品目録のとおりであり、証拠(甲11、12、弁論の全趣旨)によれば、その形態及び製法は、以下のとおりであると認められる。
ア 全体の構成
 原告作品は、フレームとエレメント複数個から構成されている。
イ フレームの構成、形状等
 フレームの内部には光源が設置される。
 フレームは、棒状部とリング状部とからなる丸みを帯びたものであり、その外表面を覆うように、リング状部位を形成する複数の円形孔が設けられている。
 フレームの孔は21個であり、均等に配置されている。
 フレームの孔には、全て同一形状のエレメントが挿入され、放射線状に光源の外を向くように配置される。
ウ エレメントの構成、形状等
 エレメントは、シート状の素材を折るという手法を用いて形成されており、脚部と脚基部から放射線状に伸びる花弁状の頭部とからなる。
 エレメントの平面視において、剣先状の6個の花弁と、その内側に配置された12個の頂点を有する大きな星形状の花弁と、さらにその内側に配置された、12個の頂点を有する小さな星形状の花弁から形成される。
 エレメント頭部の各花弁の縦方向中央には折り線が設けられているほか、ミウラ折りの要素を取り入れ、同中央部から斜め方向に平行な複数の折り線が設けられており、この斜め方向の折り線は等間隔のジグザグ線を構成している。
 エレメントの平面視において、大きな剣先状の花弁、大きな星形状の花弁及び小さな星形状の花弁は、いずれも四角形で構成されている。
 エレメントの側面視において、大きな剣先状の6個の花弁及び大きな星形状の花弁の上端となる面は、水平方向を基準に、中心から上斜め方向に伸びた後、水平な角度である。
 エレメントの脚部は、上部から下部に向けて徐々に外側に広がった形状が形成され、リング状部にエレメントの脚部のほぼ全長を挿入して、エレメントの頭部の下端(脚基部)でエレメントが留まり、フレームの外側にエレメント頭部のみが表れる。
エ 輪郭
 原告作品の輪郭は、フレームの孔に挿入されたエレメントの頭部同士が立体的に重なり合うことにより形成される。花弁状部の表面の大部分は、フレームの表面に沿う方向に花弁が広がり、花冠が集合したようなボール状の丸みを帯びた表面形状となっている。
(3)被告作品の形態及び製法等
 被告作品の外観は、別紙被告作品目録のとおりであり、証拠(乙3~5、12~16、弁論の全趣旨)によれば、その形態及び製法は、以下のとおりであると認められる。
ア 全体の構成
 被告作品は、本体が、フレームと、フレームに取付け可能な複数のエレメントからなる装飾部から構成されている。
イ フレームの構成、形状等
 フレームの内部には光源が設置される。
 フレームは、上部が切り欠かれた球形状であり、切り欠かれた球形状を鏡に映して球形状に見せている。
 フレームは、フレームの外形を形成する板状部と、板状部同士の間に位置する複数の円形のリング状部から構成される。
 フレームのリング状部は、均等に配置されている。
 装飾部におけるリング状部には、全て同一形状のエレメントが挿入され、放射線状に光源の外を向くように配置される。フレームのリング状部の数は多数あり、そのうち41個のリング状部に、それぞれ1個のエレメントが挿入されている。
ウ エレメントの構成、形状等
 一つのエレメントは、大エレメントと小エレメントとを組み合わせることにより構成される。大エレメントと小エレメントは、いずれも、脚部及び脚部から放射線状に突出した頭部から構成され、プリズムシートを折って形成されている。
 大エレメントは、大きな6個の大両刃部と小さな3個の小両刃部から形成され、大両刃部の間に小両刃部が配置されている。他方、小エレメントは、小さな3個の両刃部から構成される(以下、大エレメントの大両刃部及び小両刃部並びに小エレメントの両刃部を総称し、単に「両刃部」ということがある。)。
 小エレメントは、大エレメントの上部からその内側に挿入され、両エレメントが組み合わされて一つのエレメントとなる。その際に、小エレメントの両刃部3個は、大エレメントの6個の小両刃部のうち、互いに隣り合わない3個に対応する位置に配置される。
 被告エレメントでは、大パーツの大両刃部及び小両刃部並びに小パーツの両刃部の中央縦方向に折り線が設けられているほか、傾斜角度が異なる複数の斜め方向の折り線が設けられているが、斜め方向の折り線は等間隔のジグザグ線を構成していない。
 大エレメントの大両刃部の上端となる面及び付け根部分、大エレメントの小両刃部の付け根部分、及び、小エレメントの両刃部の付け根部分の一部は、三角形で構成され、大エレメントの小両刃部の上端となる面、小エレメントの両刃部の上端となる面及び小エレメントの両刃部の付け根部分の一部は四角形で構成される。
 エレメントの側面視において、大エレメントの大両刃部及び小エレメントの両刃部の上端となる面は、水平方向を基準に上斜め方向に真っ直ぐ伸び、大エレメントの小両刃部の上端となる面は、水平方向を基準に下斜め方向に真っ直ぐ伸びている。
 大エレメントの脚部は、中央部近傍に外周径が最も小さくなるくびれが形成され、リング状部に大エレメントの脚部を挿入すると、このくびれのやや上部でエレメントが留まる。
エ 輪郭
 リング状部にエレメントの脚部が挿入されることにより、エレメント頭部がフレームの外側に表れ、エレメント同士は、ほぼ隙間なく密に配置されている。両刃部の先端がフレームの表面から離間する方向又はフレーム表面に向かう方向に鋭く突き出しており、凹凸があって刺々しい表面形状となっている。
(4)原告作品と被告作品の共通点及び相違点
 上記(2)及び(3)によれば、原告作品と被告作品の共通点及び相違点は、以下のとおりと認められる。
ア 共通点(以下、符号に従い「共通点A」などという。)
(ア)全体の構成
A 作品がフレームとエレメント複数個から構成されている。
(イ)フレームの構成、形状等
B フレームの内部には光源が設置される。
C フレームは、棒状部とリング状部とからなる丸みを帯びたものであり、その外表面を覆うように、リング状部位を形成する複数の円形孔が設けられている。
D フレームの複数の孔は、均等に配置されている。
E フレームの孔には、全て同一形状のエレメントが挿入され、放射線状に光源の外を向くように配置される。
(ウ)エレメントの構成、形状等
F エレメントは、シート状の素材を折るという手法を用いて形成されており、脚部と脚基部から放射線状に伸びる花弁状の頭部とから構成される。
G エレメントを構成する両刃部又は花弁の中央縦方向に折り線が設けられているほか、複数の斜め方向の折り線が設けられている。
H エレメントをフレームの孔に挿入すると、エレメントの脚部においてエレメントの挿入が留まり、エレメント頭部がフレームの外側に表れる。
(エ)輪郭
I 均等に配置されたフレームの孔に同一形状のエレメントを挿入することにより、均等なエレメント頭部の立体的な重なりが表れる。
イ 相違点(以下、符号に従い「相違点A」などという。)
(ア)フレームの構成、形状等
A 原告作品は、フレームのリング状部の数は21個であり、リング状部には、それぞれ1個のエレメントが挿入されているのに対し、被告作品のフレームにはリング状部が多数あり、そのうち41個のリング状部に、それぞれ1個のエレメントが挿入されている。
(イ)エレメントの構成、形状等
B シートの素材
 原告エレメントには、乳白ポリエステルシートが用いられているのに対し、被告エレメントには、プリズムシートが用いられている。
C エレメントを構成する部分の数
 原告エレメントは、1つのエレメントから構成されるのに対し、被告エレメントは、大エレメントと小エレメントを組み合わせることにより1つのエレメントが形成される。
D エレメント全体の構成、形状原告エレメントは、大きな剣先状の6個の花弁、その内側に配置された12個の頂点を有する大きな星形状の花弁、更にその内側に配置された12個の頂点を有する小さな星形状の花弁から形成される。
 これに対し、被告作品の大エレメントは、大きな6個の大両刃部と小さな3個の小両刃部から形成され、小エレメントは、小さな3個の両刃部から構成される。そして、大エレメントの小両刃部は大両刃部の間に配置され、小エレメントの両刃部は、大エレメントの互いに隣り合わない3個の小両刃部に対応する位置に配置される。
E 花弁又は両刃部に設けられた折り線
 原告エレメントの各花弁に設けられた中央線から斜め方向の複数の折り線は平行であり、この斜め方向の折り線が等間隔のジグザグ線を構成しているのに対し、被告エレメントの両刃部に設けられた中央線から斜め方向の複数の折り線は、傾斜角度が異なり、等間隔のジグザグ線を構成していない。
F 花弁又は両刃部の形状
 原告エレメントは、平面視において、大きな剣先状の花弁、大きな星形状の花弁及び小さな星形状の花弁が、いずれも四角形で構成される。
 これに対し、被告作品の大エレメントの大両刃部の上端となる面及び付け根部分、大エレメントの小両刃部の付け根部分、及び、小エレメントの両刃部の付け根部分の一部は、三角形で構成され、大エレメントの小両刃部の上端となる面、小エレメントの両刃部の上端となる面及び小エレメントの両刃部の付け根部分の一部は四角形で構成される。
G 花弁又は両刃部が伸びる方向
 エレメントの側面視において、原告エレメントは、大きな剣先状の6個の花弁及び大きな星形状の花弁の上端となる面が、水平方向を基準に、中心から上斜め方向に伸びた後、水平な角度となるのに対し、被告エレメントは、大エレメントの大両刃部及び小エレメントの両刃部の上端となる面が、水平方向を基準に上斜め方向に真っ直ぐ伸び、大エレメントの小両刃部の上端となる面が、水平方向を基準に下斜め方向に真っ直ぐ伸びている。
H エレメントの脚部
 原告エレメントの脚部は、上部から下部に向けて徐々に外側に広がった形状が形成され、リング状部にエレメントの脚部のほぼ全長が挿入され、エレメントの頭部の下端(脚基部)でエレメントが留められているのに対し、被告エレメントの脚部は、中央部近傍に外周径が最も小さくなるくびれが形成され、リング状部にその脚部を挿入すると、くびれのやや上部でエレメントが留められている。
(ウ)輪郭
I 原告作品は、フレームの表面に沿う方向に花弁が広がり、花冠が集合したようなボール状の丸みを帯びた表面形状となっているのに対し、被告作品は、両刃部の先端がフレームの表面から離間する方向又はフレーム表面に向かう方向に鋭く突き出しており、凹凸があって刺々しい表面形状となっている。
(5)翻案該当性
 上記(4)で認定した共通点及び相違点を前提に、被告作品から原告作品の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるかについて検討する。
ア 原告作品の本質的特徴
(ア)原告らは、原告作品の特徴は、①原告エレメントには脚基部が存在することによりエレメントを確実に保持できること(特徴X①)、②エレメントの頭部同士が立体的に重なることにより、本物の植物が見せるのと同様の自然で美しい輪郭を有していること(特徴X②)、③エレメントにミウラ折りの要素を取り入れつつ、それに独自の工夫を加えていること(特徴X③)、④脚部と花弁状部が、光源の放つ光に対して二重の変化を与えることにより、極めて複雑な陰影の表情が発露されること(特徴X④)にあると主張する。
(イ)そこで、検討するに、原告作品と同様の照明用シェードである「umbel」についての原告らの説明(前記第2の2(2)ウ)によれば、原告作品の基本的なコンセプトは、主軸の先端から多数の花柄が散出して、放射状に拡がって咲くという自然界の散形花序の特徴を、人工物である照明用シェードによって表現することにあり、本物の植物が見せるのと同様の自然で美しいフォルムをもった照明シェードを制作することにあると認められる。
 こうしたコンセプトに基づき、上記(2)ウのとおり、原告作品の個々のエレメントは、剣先状の6個の花弁と、その内側に配置された12個の頂点を有する大きな星形状の花弁と、さらにその内側に配置された、12個の頂点を有する小さな星形の花弁から形成され、これにより、自然の花が球状体の中心から放射状に外を向いて開花しているかのような印象を看者に与えるものとなっている。
 また、原告エレメントの各花弁のエレメント頭部の各花弁の縦方向中央には折り線が設けられているほか、ミウラ折りの要素を取り入れ、同中央部から斜め方向に平行な複数の折り線が設けられていることから、花弁1枚1枚の剣先及び剣先に至る部分に角度の変化が生じ、また、花弁同士が表面で重なり合うことにより、複雑で自然に近い陰影の表情が発露されている。
 さらに、原告作品においては、原告エレメントに乳白ポリエステルシートを用いているところ、ポリエステルは光を拡散する光学的特性を有することから、豊かな陰影を形成することができ、また、自然界に存在する白い花に近い柔らかい色合いを同作品に与えているということができる。
 加えて、原告エレメントは、エレメントの側面視において、大きな剣先状の6個の花弁及び大きな星形状の花弁の上端となる面が、水平方向を基準に、中心から上斜め方向に伸びた後、水平な角度となっていることから、フレームの表面に沿う方向に花弁が広がり、自然な散形花序のようなボール状の丸みを帯びた表面形状の形成が可能となっている。
 以上によれば、原告作品の本質的特徴は、エレメントが球状体の中心から放射状に外を向いて開花しているかのような形状をしており、花弁同士が重なり合うなどして複雑で豊かな陰影を形成するとともに、その輪郭が散形花序のようにボール状の丸みを帯びた輪郭を形成していることにあるというべきである。
 上記の原告作品の本質的特徴を実現するために重要な構成、形状は、前記(2)認定にかかる原告作品の構成、形状に照らすと、①原告エレメントが剣先状の花弁と、その内側に配置された大きな星形状の花弁状と、さらにその内側に配置された小さな星形状の花弁から構成されること、②エレメント頭部にミウラ折りの要素を取り入れ、各花弁の縦方向中央には折り線が設けられ、更に同中央部から斜め方向に平行な複数の折り線が設けられていること、③光を拡散する光学的特性を有する乳白ポリエステルシートが使われていること、④大きな剣先状の6個の花弁及び大きな星形状の花弁の上端となる面が、水平方向を基準に、中心から上斜め方向に伸びた後、水平な角度となっていることにあると考えられる。
(ウ)これに対し、原告は、原告作品の特徴は特徴X①~X④にあると主張するが、原告作品は照明用シェードであり、看者は、フレームの内部に設置された光源から光が発出された状態で、フレームの外側から原告作品を見ることになるのであるから、原告エレメントから構成される表面部の輪郭、形状、色、陰影などに最も注意を惹かれることとなると考えられる。このため、特徴X①の脚基部については、原告作品の鑑賞者にとって同部分は目に入らない部分であり、また、エレメントの保持力の強さはその機能にすぎないので、これを原告作品の本質的特徴であるということはできない。また、特徴X④に関し、原告作品において複雑な陰影の表情が発露されることは原告作品の特徴であるということができるが、脚部を有すること自体はフレームに挿入するために必要な部分であるにすぎず、その形状が特徴的であるということもできないので、脚部の存在や形状が原告作品の本質的特徴となるものではない。
 その他の特徴として挙げられている特徴X②及びX③は、上記のとおり、原告作品の特徴点であると認められる。
イ 共通点について
 以上を踏まえ、原告作品と被告作品の共通点A~Iについてみると、共通点Aは作品全体の構成であり、共通点B~Eはフレームの構成、形状等に関する共通点であり、いずれも、看者の目に入らず、その注意を惹かない部分であって、原告作品の本質的特徴を基礎付けるものではない。
 また、共通点Fは、エレメントが脚部頭部から構成されるとの基本的な構成において共通することを意味するにすぎず、共通点Gについては、後記のとおり、これをもって被告作品にミウラ折りの要素が取り入れられているということはできない。共通点Hも、エレメントをフレームの孔に挿入すると、エレメントの脚部においてエレメントの挿入が止まるということはその機能上当然のことということができる。
 さらに、共通点Iについては、フレームの表面上において、エレメント頭部が重なり合う点で共通するにとどまり、原告作品の輪郭に関する特徴を被告作品が有するものではない。
 以上のとおり、共通点A~Iは、いずれも原告作品の本質的特徴を基礎付けるものではなく、これらの共通点から原告作品の本質的特徴を直接感得することはできない。
ウ 相違点について
 次に、原告作品と被告作品との相違点について検討するに、前記判示のとおり、原告作品の本質的特徴を実現するために重要な構成、形状は、①エレメント全体の構成、形状、②花弁又は両刃部に設けられた折り線、③シートの素材、④花弁又は両刃部が伸びる方向にあるところ、前記(4)イのとおり、原告作品と被告作品にはこれらの点について相違点(順に、相違点D、E、B、G)があると認められる。
(ア)上記①に関し、原告作品と被告作品は、原告エレメントが剣先状の花弁と、その内側に配置された大きな星形状の花弁状と、さらにその内側に配置された小さな星形状の花弁から構成されているのに対し、被告作品の大エレメントは、大きな6個の大両刃部と小さな3個の小両刃部から形成され、小エレメントは、小さな3個の両刃部から構成され、大エレメントの小両刃部は大両刃部の間に配置され、小エレメントの両刃部は、大エレメントの互いに隣り合わない3個の小両刃部に対応する位置に配置されている点で相違する(相違点D)。
 上記相違点により、原告作品のエレメントが、どちらかというと平面的で、実際の花がその中心部から花弁を開いているような印象を与えるのに対し、被告作品のエレメントは、両刃部の先端が鋭利で様々な方向に突き出していること(相違点G)もあいまって、より立体的で人工的な造形物に近い印象を看者に与えるものとなっている。
(イ)上記②に関し、原告作品と被告作品は、原告エレメントでは、ミウラ折りの要素を取り入れ、原告エレメントの各花弁に設けられた中央線から斜め方向の複数の折り線は平行であり、この斜め方向の折り線が等間隔のジグザグ線を構成しているのに対し、被告エレメントの両刃部に設けられた中央線から斜め方向の複数の折り線は、傾斜角度が異なり、等間隔のジグザグ線を構成していないことから、被告エレメントがミウラ折りの要素を取り入れているとはいえない点で相違する(相違点E)。
 また、これに関連して、原告エレメントは、大きな剣先状の花弁、大きな星形状の花弁及び小さな星形状の花弁が、いずれも四角形で構成されるのに対し、被告作品の大エレメントの大両刃部の上端等が三角形で構成され、四角形で構成されるのはその一部にすぎないという点においても相違している(相違点F)。
 上記のとおり、原告作品のエレメントが、ミウラ折りの要素を取り入れていることを特徴とし、これにより豊かな陰影を形成するとともに、柔らかい丸みを帯びた輪郭を形成しているのに対し、被告作品のエレメントは、大両刃部の上端等が三角形で構成され両刃部の先端が鋭利で様々な方向に突き出していること(相違点G)もあいまって、より立体的で人工的な造形物であるとの印象を看者に与えるものとなっている(特徴Y①)。
(ウ)上記③に関し、原告作品と被告作品は、原告エレメントには、乳白ポリエステルシートが用いられているに対し、被告エレメントには、プリズムシートが用いられているという点で相違する(相違点B)。原告エレメントに用いられている乳白ポリエステルは、光を拡散させる光学的特性を有することから、光源からの光は拡散し、柔らかく豊かな陰影を形成することになるのに対し、被告エレメントに用いられているプリズムシートは、透過と屈折がその光学的特性であることから、鏡面反射も加わると、クリスタルの塊を思わせる、小さな虹を伴ったまばゆいばかりの光の塊となるという性質を有する。
 このような素材の違いにより、原告エレメントは、光源からの光により乳白色に光り、柔らかく豊かな陰影を形成しているのに対し、被告エレメントは、フレームの内部に設置された光源の光の明るさが均一にむらなく光り、クリスタルのようなまばゆい輝きを放つものであり、原告作品とは全く異なる印象(特徴Y③)を看者に与えるものとなっている。
(エ)上記④に関し、原告作品と被告作品は、エレメントの側面視において、原告エレメントは、大きな剣先状の6個の花弁及び大きな星形状の花弁の上端となる面が、水平方向を基準に、中心から上斜め方向に伸びた後、水平な角度となるのに対し、被告エレメントにおいては、大エレメントの大両刃部及び小エレメントの両刃部の上端が水平より上斜め方向に伸び、大エレメントの小両刃部の上端が水平より下斜め方向に伸びるなど、その端部が様々な方向に突き出している点で相違する(相違点G)。
 このような花弁又は両刃部が伸びる方向の差異により、原告エレメントは、フレームの表面に沿う方向に花弁が広がり、全体として、原告作品の表面は花冠が集合したようなボール状の丸みを帯びた印象を看者に与えるのに対し、被告エレメントの両刃部の先端はフレームの表面から離間する方向やフレーム表面に向かう方向など様々な方向に鋭く突き出していることから、被告作品の表面は凹凸があって刺々しい印象(特徴Y②)を与えるものとなっている(相違点I)。
(オ)以上のとおり、原告作品と被告作品とは、原告作品の本質的特徴を実現するために重要な構成、形状において相違しており、被告作品は、自然界に存在する花のような柔らかく陰影に富んだ印象を与えるのではなく、より立体感があって、均一にむらなく光り、クリスタルのようなまばゆい輝きを放つものであって、その輪郭も、散形花序のようにボール状の丸みを帯びたものではなく、凹凸のある刺々しい印象を与えるものであるから、被告作品から原告作品の本質的特徴を直接感得することはできないというべきである。
エ 原告らの主張について
(ア)これに対し、原告らは、相違点Dに関し、原告作品も被告作品も、複数のエレメントをフレームに挿入し、エレメントの集合体を少し離れた場所から全体として鑑賞するものであり、エレメント同士が重なるため、エレメントの個々の形状の認識は困難であって、看者の印象には残らないので、上記相違点は重要ではないと主張する。
 しかし、原告作品及び被告作品は相応の大きさを有するものであり、その写真に照らしても、エレメントの集合体でありながらも、個々のエレメントの有する形状や構成の特徴や美しさを容易に看取することができることは明らかであるから、エレメントの個々の形状の認識は困難であって、看者の印象には残らないとの原告らの主張は採用し得ない。
(イ)原告らは、相違点E及びFに関し、折り方の違いは、多面四角形のミウラ折りか多面四角形の対角線を折って多面三角形にしたものかというだけであり、被告エレメントにおいても、小エレメントの一部に多面四角形のミウラ折りが施され、いずれにしても斜め方向の折りを施したものである上、これによって生じる効果も同一であるので、上記各相違点は重要ではないと主張する。
 しかし、ミウラ折りは、前記第2の2(2)アのとおり、横方向の折り線は等間隔の並行直線、縦方向の折り線は等間隔のジグザグ線となり、すべて等しい平行四辺形の面ができるというものであるところ、被告エレメントの両刃部に設けられた中央線から斜め方向の複数の折り線は、傾斜角度が異なり、等間隔のジグザグ線を構成していないことから、被告エレメントがミウラ折りの要素を取り入れているということはできない。
 このため、被告作品のエレメントは、大両刃部の上端等が三角形で構成され両刃部の先端が鋭利で様々な方向に突き出していること(相違点G)ともあいまって、原告作品とは異なり、より立体的で人工的な造形物であるとの印象を看者に与えるものとなっているのであり、相違点E及びFに係る構成、形状の差異は原告作品の本質的特徴に係るものであるというべきである。
(ウ)原告らは、相違点Bに関し、原告作品の制作当時、原告作品の素材としてプリズムシートを排していたことはなく、むしろ様々な素材で原告作品を制作することを想定していたのであるから、エレメントの素材の違いは本質的特徴の違いではなく、仮に被告作品がまばゆく光るものであるとしても、それは原告作品の特徴により生まれた光の表情をより強く感じさせる工夫にすぎないので、上記相違点は重要ではないと主張する。
 しかし、原告作品と被告作品は、その素材の差異により、原告作品が自然界に存在する花のような柔らかく陰影に富んだ印象を与えるのに対し、被告作品は、均一にむらなく光り、クリスタルのようなまばゆい輝きを放つものであって、看者が受ける印象は大きく異なるというべきであり、原告作品の特徴により生まれた光の表情をより強く感じさせるかどうかの差異にすぎないということはできない。
 また、原告らが原告作品以外の作品を制作する上でプリズムシートを使用したことがあり、あるいは、プリズムシートが素材として一般的なものであるとしても、そのことは本件における翻案該当性の判断に影響するものではなく、上記結論を左右しない。
(エ)原告らは、相違点G及びIに関し、看者が感得できるのは、ほぼ大両刃部の形状のみであり、両刃部の面の向きが下斜め方向に振れ、小エレメントの両刃部の下方に大エレメントの小両刃部が設けられているとしても、鋭く尖った立体的な形状とは認識されず、仮にそのように認識されるとしても、それは原告作品の特徴により生まれた鋭利な外観をより鋭利に見せる工夫にすぎないので、上記各相違点は重要ではないと主張する。
 しかし、被告作品の写真や乙16によれば、被告作品の大エレメントの大両刃部及び小両刃部並びに小エレメントの両刃部は、外部から見ることができるものと認められ、看者が感得できるのは、ほぼ大両刃部の形状のみであるということはできない。
 また、原告らは、原告作品の特徴である鋭利な外観をより鋭利に見せる工夫にすぎないと主張するが、原告作品の外観は、むしろ、花冠が集合したようなボール状の丸みを帯びたものであって、鋭利ということはできないことは前記判示のとおりである。
(オ)原告らは、被告作品の特徴Y①~Y③に関し、特徴Y①(立体感)及びY②(鋭利な外観)は、原告作品がもともと有している特徴であり、特徴Y③(光の明るさの均一性)も、エレメント素材をプリズムシートで制作した原告作品がもともと有している特徴であって、原告作品に依拠して制作する過程で加えた枝葉末節の変更にすぎないと主張する。
 しかし、被告作品が有する特徴Y①~Y③が、原告作品がもともと有している特徴であるということができないことは、前記判示のとおりである。
(カ)以上のとおり、原告らの上記各主張はいずれも理由がなく、採用し得ない。
(6)したがって、被告作品から原告作品の本質的特徴を直接感得することができるということはできないので、被告作品は原告作品の翻案には該当せず、また、原告らの同一性保持権を侵害するものであるということもできない。
3 結論
 以上によれば、その余の点につき判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとし、よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 佐藤達文
 裁判官 吉野俊太郎
 裁判官 今野智紀


別紙 原告作品目録
作品名:フラワーシェード(後に「umbel」と呼称)
用途:照明用シェード
展示場所:松屋銀座「銀座目利き百貨街」ブース「細江振舞道」
形態:下記写真及び図面のとおり
【写真】 [略]
【図面】 [略]

別紙 被告作品目録
作品名:「PrismChandelier」
形態:下記写真のとおり [略]

別紙 謝罪文目録
1 被告株式会社丹青社による謝罪文(謝罪文本文)
 弊社は、株式会社ルーセントデザイン(以下「ルーセントデザイン社」といいます。)と共同して、BIWAHOUSE(X1氏及びX3氏)が制作したフラワーシェード(後に「umbel」と呼称)に類似した作品(「PrismChandelier」)を制作・販売し、BIWAHOUSEの皆様に対し多大なご迷惑をおかけしました。弊社及びルーセントデザイン社の行為は、X1氏及びX3氏の著作者人格権を侵害する行為であり、弊社は陳謝の意を表するとともに、今後BIWAHOUSEの皆様に上記のようなご迷惑をおかけしないことを誓約します。
 株式会社丹青社
 代表取締役 Z
 BIWAHOUSE御中
2 被告株式会社ルーセントデザインによる謝罪文(謝罪文本文)
 株式会社ルーセントデザインは、株式会社丹青社(以下「丹青社」といいます。)と共同して、BIWAHOUSE(X1氏及びX3氏)が制作したフラワーシェード(後に「umbel」と呼称)に類似した作品(「PrismChandelier」)を制作・販売し、BIWAHOUSEの皆様に対し多大なご迷惑をおかけしました。弊社及び丹青社の行為は、X1氏及びX3氏の著作者人格権を侵害する行為であり、弊社は陳謝の意を表するとともに、今後BIWAHOUSEの皆様に上記のようなご迷惑をおかけしないことを誓約します。
 株式会社ルーセントデザイン
 代表取締役 Y
 BIWAHOUSE御中
3 ホームページ掲載の条件
 掲載場所、掲載期間は、ホームページトップに1年間とする。
 「謝罪広告」という表題部をつける。
 謝罪広告の文字の大きさは、表題部は14ポイント以上、謝罪文本文は12ポイント以上とする。

別紙 類似性に関する主張(原告ら)
 以下のとおり、被告作品と原告作品とは類似し、被告作品は、原告作品の本質的特徴である特徴X①~X③を備えているので、原告作品の翻案に当たる。
1 原告作品と被告作品の共通点
 原告作品と被告作品の共通点は、以下のとおりである(以下、符号に従い「共通点X①などという。)。
(1)フレームとエレメント複数個から構成される。
(2)フレームの内部には光源が設置される。
(3)フレームは、棒状部とリング状部とからなる丸みを帯びたものであり、その外表面を覆うように、リング状部位を形成する複数の円形孔が設けられている。
(4)フレームの複数の孔は、均等に配置されている。
(5)フレームの孔には、全て同一形状のエレメントが挿入され、放射線状に光源の外を向くように配置される。
(6)エレメントは、シート状の素材を折るという手法を用いて形成されており、脚部と脚基部から放射線状に伸びる花弁状の頭部とから成る。
(7)エレメントの脚基部はウエスト様にくびれており、フレームの孔にエレメント脚部を挿入するだけで、脚基部がフレームの孔を捉えて留まることによりエレメントが保持され、フレームの外側にエレメント頭部だけが表れる。
(8)均等に配置されたフレームの孔に同一形状のエレメントを挿入することにより、均等なエレメント頭部の立体的な重なりが連続するという表現方法により全体の輪郭が生み出されており、その輪郭は、フレームの孔に挿入されたエレメントの頭部同士が立体的に重なり合うことにより、多方向のベクトルを持った大小長短様々な剣先形状が複雑に交錯した、ランダムでありながら規律をもった特徴的な形状である。
 原告作品の輪郭(左)被告作品の輪郭(右) [図版略]
(9)エレメントは以下の特徴を有する。
 被告エレメントは、1段目の大両刃部6枚と小両刃部6枚を有するエレメント(以下「大エレメント」という。)と2段目の両刃部3枚を有するエレメント(以下「小エレメント」という。)の2種類のエレメントを重ねて1つのエレメントとして構成されている。被告エレメントの形状及びその展開図(被告エレメント模型)は、甲31(下図)のとおりであり、いずれのエレメントも、以下のア~オの特徴を有している。
ア 展開図の途中まで(脚部となる部分)は横方向のジグザグ折り線を設けず、縦方向の折り線のみのジャバラ折りとする。
イ 展開図の途中以降(頭部となる部分)には、先端部において、横方向のつながりを絶つよう、縦方向折り線1本おきに切れ込みを設ける。
ウ 脚部と頭部の境目となる部分(脚基部)に、横方向のジグザグ折り線を設ける。
エ 頭部となる部分(花弁状部)に縦方向の折り線とは別の斜め方向の折り線を設ける。
オ 頭部の花弁状部に長短を設ける。
 大エレメント 小エレメント [写真略]
2 原告作品と被告作品の相違点
 原告作品と被告作品の相違点は、以下のとおりである(以下、符号に従い、「相違点X①」などという。)。
(1)全体の形状が球形状か、上方を切り欠いた球形状を鏡に映して球形状に見せたものか
 原告作品は、球形状であるのに対し、被告作品は、上方を切り欠いた球形状を鏡に映して球形状に見せたものである。
(2)エレメントの製法の違い
 原告エレメントは、1枚のシートを折って作製されているのに対し、被告作品は、2枚のシートで折った2種類のエレメントを重ねて1つのエレメントを構成している。
(3)エレメントの頭部の形状の違い
 原告エレメントと被告エレメントとは、上記(2)の製法の違い及び花弁状部の折り方の違いにより、頭部の形状が異なっている。
ア 原告エレメントの頭部の形状(甲11・4頁)
 原告エレメントは、1枚のシートを折って作られているため、一重の構造をしている。
 また、原告エレメントは、長短6つずつの花弁を有し、花弁の輪郭は概ね直線からなり、頭部にミウラ折りを取り入れている。具体的には、頭部中心部(ウエスト部から花弁に分かれる前の部分)及び長い花弁にミウラ折りを施している。
イ 被告エレメントの頭部の形状(甲18)
 被告エレメントは、いずれも2枚のシートを折って作られており、大エレメントと小エレメントという2重の構造をしている。
 また、被告エレメントは、大エレメントは大両刃部6枚と小両刃部6枚、小エレメントは両刃部3枚を有している。大エレメントと小エレメントを重ね合わせると、長い花弁6つと短い花弁6つから成るように見える。花弁の輪郭は概ね直線からなる。
 大エレメントの小両刃部の上端となる面(下図の斜線部分)にはミウラ折りが用いられている。
 また、小エレメントの両刃部の上端となる面(下図の縦線部分)及び小エレメントの頭部中脚基部となる横方向のジグザグ折り線を辺としてもつ台形(下図の水玉部分)は平行四辺形ではないものの台形状をしており、ミウラ折りの応用ということができる(乙3の1)。さらに、大エレメントの大両刃部の大半及び小エレメントの両刃部の中段部分(下図の横線部分)はミウラ折りの応用で折られた台形の対角線を折って折り目を変えたものである。
 残りの両刃部の折りは、「ヨシムラパターン」と呼ばれるミウラ折りと同属の折り方(薄紙を丸めた円筒に上下方向から強い荷重をかけることによって表れる皺の研究から生まれた、ダイヤモンド形の連続パターンを形成する折り方で、ミウラ折り誕生の契機となった幾何学折り)の応用である(甲37)。
 [図版略]
(4)エレメントの素材の違い
 原告エレメントにはポリエステルシートが用いられているのに対し、被告エレメントにはプリズムシートが用いられている。
(5)フレームの孔の数の違い
 原告作品のフレームの孔は21個であるのに対し、被告作品のフレームの孔は41個である。
3 原告作品と被告作品の類比
 原告作品と被告作品との間には、上記2記載の相違点があるが、以下のとおり、いずれの相違点も重要な相違点ではない。
(1)全体の形状が球形状か、上方を切り欠いた球形状を鏡に映して球形状に見せたものか(相違点X①)
 建造物に照明類の設置を計画する際、球形状の照明器具を吊り下げることを希望するも、それを設置するには設置空間の天井高が不足するという場合に、本来設置されるべき球形状の上方を切り欠いた形状に照明を設計変更し、その結果生じた準平面部分を天井に接触させて設置することはオーダー照明では特別なことではない。この場合の球形状か上方を切り欠いた球形状かという形状の差異は、単なる設置方法の相違に基づくものにすぎず、重要な差異ではない。さらに、球形状の上方を切り欠いた照明を天井に接触させて設置したものの、球体に見せたいというときに天井に鏡を設置し、上方を切り欠いた球形状を鏡に映して全体として球形状に見せることも容易に想到し得る手法である。
 天井に設置された照明器具を鑑賞する者は、天井から吊り下げられた球形状の照明器具にせよ、天井の鏡に映して全体として球形状に見えるよう設置された球形状の照明器具にせよ、いずれも天井に設置された球形状の照明器具との認識を持って鑑賞することとなるから、全体の形状についての相違点は重要ではない。
(2)エレメントの製法の違い(相違点X②)
 上記2(2)記載のエレメントの製法の違いは、下記(3)のエレメントの頭部の形状の違いに集約されるため、独自に検討する必要はない。
(3)エレメントの頭部の形状の違い(相違点X③)
 エレメントの頭部の形状の違いは、一重の構造か二重の構造かという製法の違いのほか、花弁状部分の折り方の違いにより生じたものであるが、折り方の違いは、多面四角形のミウラ折りか多面四角形の対角線を折って多面三角形にしたものかというだけであり(ただし、被告エレメントのうち小エレメントの一部に多面四角形のミウラ折りが施されている。)、いずれにせよ斜め方向の折りを施したものであることには変わりなく、これによって生じる効果にも変わりがない。
 被告作品においても、頭部の花弁1枚1枚の剣先及び剣先に至る部分に角度の変化が生じ、更に花弁ごとにその角度を調整することにより、原告作品の特徴である、剣先形状が複雑に交錯した、ランダムでありながら規律をもった特徴的な輪郭(特徴X②)が実現されている。しかも、花弁状部に折りを加えることにより、頭部の花弁1枚1枚の強度が増し、見頃の花や結晶のように張りを保った状態となっており、このこともあいまって、上記輪郭が形成されている。このように、折り方の相違点は重要ではない。
 また、原告作品も被告作品も、複数のエレメントをフレームに挿入し、エレメントの集合体を少し離れた場所から全体として鑑賞するものであり、エレメント同士が重なるため、エレメントの個々の形状の認識は困難である。さらに、照明器具(ライティングオブジェ)であるゆえに鑑賞時にはフレームの内部に設置された光源の発光を受けた状態となるため、幾何学的折りを伴ったエレメントが放つ、その素材特有の光学的効果に目を奪われ、エレメントの細かな形状がどうであったかということは印象には残らないので、原告作品及び被告作品を鑑賞する者には、個々のエレメントの細部ではなく、巨視的に感得される全体の印象の方が記憶に残る。このように、エレメントの頭部の形状についての相違点は重要ではない。
(4)エレメントの素材の違い(相違点X④)
 原告らは、被告作品が制作される以前から、umbelシリーズのエレメントにポリエステルシートのほか、和紙(甲6、甲9の2)や金箔押ししたシート(甲9の3)を使ったものなどを制作・展示し、様々なエレメント素材を用いた作品を発表してきた。エレメントの素材の違いによって、様々な光の表情が見られることとなるが(甲38)、そもそもエレメント素材の選択の点には何らの創作性もないから、エレメント素材は本質的特徴ではなく、重要な相違点であるということはできない。
(5)フレームの孔の数の違い(相違点X⑤)
 原告作品のフレームの孔は21個であるが、原告らが制作、販売及び展示してきたumbelシリーズは、22個、21個、12個と多岐にわたる(甲9の1)。そもそも原告作品は、フレームの孔の数も自在に増減できるように設計されており、フレームの孔の数の違いについての相違点は重要ではない。
(6)他方、上記1の共通点X①~X⑧は、原告作品の形態及び製法と同一であり、被告作品は原告作品の本質的特徴である特徴X①及びX②を有している。
 また、共通点X⑨は、原告作品の特徴X①及びX②の実現を可能にした原告作品の本質的特徴である特徴X③である。
 さらに、共通点X⑤及びX⑨のとおり、被告作品は、原告作品同様、エレメントの構造が光学的発露の要因となっており、原告作品の本質的特徴である特徴X④を備えている。
 そうすると、被告作品は、原告作品と比較して、新たな思想又は感情の創作的表現といえる部分があることは否定できないものの、被告作品には原告作品の本質的特徴である特徴X①~X④が維持され、被告作品に接する者が原告作品の本質的特徴を直接感得することができる。
 したがって、被告作品は、原告作品に類似している。
4 被告作品の特徴及び被告ルーセントらが主張する相違点について
(1)被告作品の特徴について
 被告ルーセントらが主張する被告作品の特徴Y①~Y③(後記)のうち、特徴Y①(立体感)及び特徴Y②(鋭利な外観)は、原告作品がもともと有している特徴であり、特徴Y③(光の明るさの均一性)も、エレメント素材をプリズムシートで制作した原告作品がもともと有している特徴である。被告ルーセントらが上記各特徴を生む要素として挙げる点は、以下のとおり、原告作品に依拠して制作する過程で加えた枝葉末節の変更にすぎない。
ア 特徴Y①について
 被告ルーセントらが特徴Y①が生じる要素として主張する点(別紙「類似性に関する主張(被告ルーセントら)」1(2)ア(ア)~(カ))は、いずれも被告作品の装飾部の表面形状の立体感を生むのにほとんど寄与しておらず、又は被告作品の立体感が原告作品と同じ手法で生まれていることを自認するにすぎない。
 被告作品において大小の2つのエレメントを組み合わせて1つのエレメントが構成されているという点(上記(ア))については、小エレメントの両刃部の上端となる面は大エレメントの大両刃部の上端となる面よりも下に存在しているので、これにより立体感のあるエレメントの頭部となっているとはいい難い。
 被告作品の方が原告作品よりもエレメントの数が多いという点(上記(イ))については、エレメントの数が多くなると必然的にエレメント1個の大きさに対する作品全体の直径が大きくなって、頭部先端からフレームまでの距離(奥行き)が、作品全体の直径に対して相対的に小さくなるので、エレメントの数が多い被告作品の方が豊かな立体感を有するとはいえない。
 エレメントの両刃部の向きが上斜め方向と下斜め方向に振れていること(上記(ウ)、(エ))、小エレメントの両刃部の下方に大エレメントの小両刃部が設けられていること(上記(カ))については、被告作品では、小両刃部先端が隣接するエレメントの脚基部に接触するほどエレメント同士がほぼ隙間なく密集し、また、プリズムシートは光の屈折や反射によりその形状を識別しづらくする特徴を有するので、被告作品において鑑賞者が感得できるのはほぼ大両刃部の形状のみであり、立体感やボリューム感を感じることはできない。
 大エレメントの脚部がリング状部に挿入されていない分フレームの表面からエレメントの頭部が浮いた立体的な形状が表れるという点(上記(オ))については、被告ルーセントらの頭部・脚部の区分が原告らと異なるためにこのような表現になるだけであり、フレーム表面から作品外径までの奥行きを、装飾部の造形が満たしているという点において差異はない。
イ 特徴点Y②について
 被告ルーセントらが特徴Y②が生じる要素として主張する点(別紙「類似性に関する主張(被告ルーセントら)」1(2)イ(ア)~(ウ))のうち、同(ア)は同別紙1(2)ア(エ)と、同(イ)は同別紙1(2)ア(カ)と同一であるが、前記のとおり、被告作品において鑑賞者が感得できるのは、ほぼ大両刃部の形状のみであり、両刃部の面の向きが下斜め方向に振れ、小エレメントの両刃部の下方に大エレメントの小両刃部が設けられているとしても、鋭く尖った立体的な形状とは認識されない。また、エレメントの両刃部の向きは、折りの角度を調整することで簡単に変更可能である。
 両刃部の形状が三角形であること(上記1(2)イ(ウ))のうち、鋭利な外観に寄与し得るエレメントの両刃部の形状は、上端となる面の形であるが、このうち三角形で構成されているのは大エレメントの大両刃部のみであり、大エレメントの小両刃部の上端となる面及び小エレメントの両刃部の上端となる面は四角形で構成されている(乙3の1)。
 被告エレメントの大両刃部の突出方向及びエレメントの大両刃部の上端となる面の形状は、鋭利な外観の創出に寄与する部分がないわけではないが、被告作品の鋭利な外観を生んでいるのは、原告作品と同じく、均等に配置されたフレームの孔に同一形状のエレメントが挿入され、放射線状に光源の外を向くように配置されることにより、均等なエレメント頭部の立体的重なりが連続するという表現方法及びエレメントをミウラ折りの要素を取り入れつつ独自の工夫をしたことによるものである。
 以上のとおり、被告ルーセントらが特徴Y②として主張する点は、原告作品の特徴により生まれた鋭利な外観をより鋭利に見せる工夫とでもいうべきものであり、その方法は容易に想到可能かつ実現可能であり、それ自体に創作性はない。
ウ 特徴点Y③について
 被告ルーセントらが特徴Y③が生じる要素として主張する点(別紙「類似性に関する主張(被告ルーセントら)」1(2)ウ(ア)~(ウ))のうち、同(ア)はエレメントの素材にプリズムシートを使用することをいうものであるが、素材は作品を制作する上でのバリエーションの一つにすぎない。
 また、上記(イ)は、複数のエレメントが密に配置されていることをいうが、被告作品は、鑑賞者が注意深く観察した場合、内部の光源が直接目に入る角度が複数存在し、原告作品との違いは程度問題にすぎない。また、光学的変化を受けた光が光源由来の光よりも明るい光として視認されること、被告作品全体からまばゆい光を生じさせることができることなどは、原告作品の特徴X④そのものである。
 上記(ウ)は、小エレメントを配することにより、エレメントの中央付近の孔を外部から視認することができないことをいうが、鑑賞者が注意深く観察した場合、孔を視認することができるので、原告作品との違いは程度問題にすぎない。
 被告作品の特徴的な光の表情を生んでいるのは、プリズムシートという素材とエレメントの構造であり、複数のエレメントを密に配置していること及び小エレメントを配することが、エレメントの構造により発露されたプリズムシートの光の表情を更にむらなくまばゆく光らせることに寄与している面がないわけではない。しかし、それは原告作品の特徴により生まれた光の表情をより強く感じさせる工夫とでもいうべきものであって、被告ルーセントらが被告作品の特徴Y③を主張することは、とりもなおさず原告作品が創作的な特徴部分を有していること及び被告作品が当該特徴を有していることを主張することにほかならない。また、その方法は容易に想到可能かつ実現可能であり、それ自体に創作性はない。
(2)被告ルーセントらが主張する相違点(後記相違点Y①~Y⑦)について
ア 相違点Y②(装飾部の範囲)について
 被告ルーセントらは、被告作品の装飾部が、フレームの高さ方向で、フレーム全体の3分の2程度の範囲を占めるのに対して、原告作品の装飾部は、フレームの略全面を覆う範囲を占める点を相違点として挙げているが、これは被告作品が、上部が切り欠かれた球形状であり、天井に設置し鏡に映して球形状に見せていることに由来する。そのため、この点の違いは本質的特徴の違いではない。
イ 相違点Y③(エレメント間の隙間の有無)について
 被告ルーセントらは、原告作品はエレメント同士の隙間から先端に小さな光源を有する棒状体の複数が明確に認識される。」と主張するが、原告作品には「先端に小さな光源を有する棒状体」は用いていない。
 なお、被告作品においても、フレームの一部及び光源を直接視認することが可能である(甲18・1頁)。被告作品の装飾部において、エレメント同士の間がほぼ隙間がなく密にエレメントが配置されていることは否定しないが、原告作品と被告作品の隙間の差は程度問題であり、また、密にエレメントが配置されていることがエレメントの構造により発露されたプリズムシート特有の光の表情を更にむらなくまばゆく光らせることに寄与する部分がないわけではないものの、その効果を生じさせる根本的な要素ではないため、本質的な特徴の違いとはいえない。
ウ 相違点Y④(装飾部の表面形状の違い)について
 被告ルーセントらが主張する、被告作品の「立体的でボリューム感があり」かつ「刺々しい表面形状」は、原告作品の特徴によって生まれていることは前記のとおりである。
 原告作品も「立体的でボリューム感がある」表面形状であり、「多方向のベクトルを持った大小長短様々な剣先形状が複雑に交錯した、ランダムでありながら規律をもった特徴的な形状」の輪郭を有し、鑑賞者によっては「刺々しい」と感じる表面形状を有している。
エ 相違点Y⑤(フレームのリング状部の数及びエレメントの数の違い)について
 前記3(5)のとおり、フレームのリング状部の数及びエレメントの数の違いが本質的特徴の違いではない上、この数の違いは、被告作品の立体感に寄与せず、かえって減殺する方向に働く。
オ 相違点Y⑥(エレメントの素材の違い)について
 被告作品がプリズムシートを折って、原告作品がポリエステルシートを折って形成されていることは事実であるが、エレメントの素材の違いによって著作権侵害を免れることはできない。
 また、原告らは、原告作品の制作当時、原告作品の素材としてプリズムシートを排していたことはなく、むしろ様々な素材で原告作品を制作することを想定していたのであって、エレメントの素材の違いは本質的特徴の違いではない。
カ 相違点Y⑦(エレメントの構造と形状の違い)について
 原告作品も被告作品も、エレメントの集合体を少し離れた場所から全体として鑑賞するものであり、エレメント同士が重なるためエレメントの個々の形状の認識は困難である。
 また、照明器具(ライティングオブジェ)であるがゆえに鑑賞時にはフレームの内部に設置された光源の発光を受けた状態となるため、幾何学的折りを伴ったエレメントが放つ、その素材特有の光学的効果に目を奪われ、エレメントの細かな形状がどうであったかということは印象には残らない。そのため、原告作品及び被告作品を鑑賞する者には、個々のエレメントの細部ではなく、巨視的に感得される全体の印象の方が記憶に残る。
 加えて、原告作品の構造は世界的に見ても独創的であり、その結果として生じる独特の輪郭形状は唯一無二のものであるがゆえ、遠目にもそれと分かる高い識別性を持っているのであり、エレメントの頭部の形状についての相違点は重要ではない。
(3)以上のとおり、被告作品から原告作品の本質的特徴を直接感得できるので、被告作品は原告作品の翻案に当たる。

別紙 類似性に関する主張(被告ルーセントら)
 以下のとおり、被告作品と原告作品は類似しておらず、被告作品から原告作品の特徴X①~X③を直接感得することはできないので、被告作品は原告作品の翻案に当たらない。
1 被告作品の特徴
 被告作品の特徴を、同作品(甲2の2)、本件意匠1(甲17の1)、各種展開図等(乙3~5)に基づいて特定すると、以下のとおりである。
(1)被告作品の形態及び製法
ア 被告作品の形態
 被告作品は、本体が、フレームと、フレームに取付け可能な複数のエレメントからなる装飾部で構成されている。
 フレームは、上部が切り欠かれた球形状である。
 フレームは、フレームの外形を形成する板状部と、板状部同士の間に位置する複数の円形のリング状部から構成される。
 フレームの内部には光源が設置される。
 フレームのリング状部は、均等に配置されている。
 装飾部におけるリング状部には、全て同一形状のエレメントが挿入されている。
 装飾部は、フレームの高さ方向で、フレームの上部側の一部の範囲を除いて、全体の3分の2程度の範囲を占める。
 フレームの上部が切り欠かれた球形状を鏡に映して球形状に見せている。
 1つのエレメントは、脚部及び脚部から放射線状に突出した両刃状の頭部からなる大エレメントと、脚部及び脚部から放射線状に突出した両刃状の頭部からなり、その脚部が大エレメントの内側に上部から挿入された小エレメントを組み合わせて構成される(乙4の1)。
 大エレメントと小エレメントは、プリズムシートを折って形成されている。
 装飾部における1つのリング状部に1つの大エレメントの脚部が挿入され、装飾部の範囲では、エレメント同士の間は、ほぼ隙間がなく、密にエレメントが配置されている。
 装飾部は、表面の大部分が、フレームの表面に沿う方向とは異なる(フレーム表面から離間する)方向、又は、フレーム表面に向かう方向に鋭く尖った凹凸を有しており、これによって、立体的でボリューム感があり、かつ、刺々しい表面形状となっている。
 フレームのリング状部の数は多数あり、そのうち41個のリング状部に、それぞれ1個のエレメントが挿入されている。
 エレメントの平面視における外周は、大エレメントの大きな6個の大両刃部と、その間に配置される小エレメントの小さな3個の両刃部と、さらに、小エレメントの両刃部の間に配置される大エレメントの小さな3個の小両刃部から形成される(乙4の1の平面図参照)。
 エレメントの平面視において、大エレメントの大両刃部の上端となる面及び付け根部分、大エレメントの小両刃部の付け根部分、及び、小エレメントの両刃部の付け根部分の一部は、三角形で構成され、大エレメントの小両刃部の上端となる面、小エレメントの両刃部の上端となる面及び小エレメントの両刃部の付け根部分の一部は四角形で構成される。
 エレメントの正面視、背面視及び左右側面視において、大エレメントの大両刃部及び小エレメントの両刃部の上端となる面が、水平方向を基準に上斜め方向に真っ直ぐ伸び、かつ、大エレメントの小両刃部の上端となる面が、水平方向を基準に下斜め方向に真っ直ぐ伸びており、エレメントの頭部に、上斜め方向又は下斜め方向に鋭く尖った立体的な形状が表れる。
 エレメントの正面視、背面視及び左右側面視において、大エレメントの脚部は、中央部近傍に外周径が最も小さくなるくびれが形成され、リング状部に大エレメントの脚部を挿入して、くびれのやや上部でエレメントの挿入が止まることにより、装飾部に、リング状部に挿入されていない大エレメントの脚部の高さの分、フレームの表面からエレメントの頭部が浮いた立体的な形状が表れる。
 エレメントの平面視において、エレメントの中央付近は、中心に12本の折り線が集まり、放射状の形状を形成している(乙4の1平面図において、0時~11時の方向の線がエレメントの中央に向かって結集している。)。
 エレメントの平面視において、エレメントの中央付近に、明確な孔が認められない(乙4の1平面図)。
 エレメントの底面視において、大エレメントの大両刃部の間に、大エレメントの小両刃部が配置され、6個の大エレメントの小両刃部のうち、互いに隣り合わない3個が、小エレメントの両刃部3個と対応する位置に配置されている(乙4の1底面図)。
 エレメントの正面視、背面視及び左右側面視において、1個の小エレメントの両刃部の下方の対応する位置に、1個の大エレメントの小両刃部が設けられ、同位置で、上斜め方向及び下斜め方向に鋭く尖った立体的な形状が表れる。
 (乙4の1) [図版略]
 (乙5の1~3) [写真略]
イ 被告作品の製法
(ア)被告作品において、1つの大エレメントは、3つの同一形状のパーツ(以下「大パーツ」という。)から構成されている。また、1つの小エレメントは、3つの同一形状のパーツ(以下「小パーツ」という。)から構成されている(乙3の1)。
 また、乙3の1では、各折り線で折った大パーツは、乙3の1で見る紙面の手前側に向けて、大両刃部及び小両刃部に該当する部分の先端が向かうように、大パーツの展開図が表されている。また、乙3の1では、各折り線で折った小パーツも、乙3の1で見る紙面の手前側に向けて、両刃部に該当する部分の先端が向かうように、小パーツの展開図が表されている。
(乙3の1) [図版略]
(イ)ここで、大パーツの大両刃部に該当する部分は、乙3の1の平面視で、傾斜角度が異なる複数の斜め方向の折り線を設けて、折りの角度を調整することで、大両刃部の上端となる面が、水平方向を基準に上斜め方向に真っ直ぐ伸びるように先端が向く形状となる。
 大パーツの小両刃部に該当する部分は、乙3の1の平面視で、傾斜角度が異なる複数の斜め方向の折り線を設けて、折りの角度を調整することで、小両刃部の上端となる面が、水平方向を基準に下斜め方向に真っ直ぐ伸びるように先端が向く形状となる。
 小パーツの両刃部に該当する部分は、乙3の1の平面視で、傾斜角度が異なる複数の斜め方向の折り線を設けて、折りの角度を調整することで、両刃部の上端となる面が、水平方向を基準に上斜め方向に真っ直ぐ伸びるように先端が向く形状となる。
 (乙3の2) [写真略]
(ウ)そして、大エレメントは、各折り線で折った大パーツの3つを組み合わせて、各大パーツの大両刃部及び小両刃部が、平面視で、外側に放射状に開く向きで、1つの大エレメントが構築されるところ、大パーツの一部(乙3の1の大パーツの左端の2か所)にのり代部分を設けて、当該のり代部分を隣り合う大パーツの一部に重ねて、透明な接着樹脂で接着することで、大パーツ同士が接続される。同様の手法で、3つの大パーツを相互に接続して、1つの大エレメントを構築する。
 また、小エレメントも、各折り線で折った小パーツの3つを組み合わせて、各小パーツの両刃部が、平面視で、外側に放射状に開く向きで、1つの小エレメントが構築されるところ、小パーツの一部(乙3の1の小パーツの左端の1か所)にのり代部分を設けて、当該のり代部分を隣り合う小パーツの一部に重ねて、透明な接着樹脂で接着することで、小パーツ同士が接続される。同様の手法で、3つの小パーツを相互に接続して、1つの小エレメントを構築する。
 なお、大パーツ及び小パーツに設けられたのり代部分は、必要に応じて、当該部分をカットして用いることができる。
 (乙3の3) [写真略]
(エ)上記(ウ)の方法によって、各パーツから構築した大エレメント及び小エレメントについて、小エレメントの脚部を大エレメントの内側に上部から挿入して1つのエレメントを構築する。
 1つのエレメントは、フレームのリング状部に大エレメントの脚部を挿入して、大エレメントの脚部の挿入に伴い、その外周径が小さくなり、大エレメントの脚部に形成されたくびれのやや上部でエレメントの挿入が止まる。ここで、大エレメントの脚部をリング状部に挿入した際に、大エレメントの脚部の一部(リング状部に嵌まって外周径が絞られる部分)に力がかかり、これにより、大エレメントの脚部の先端(フレームの内側に入っていく端部)が放射状に開くことで、フレームの外側にエレメントが抜け落ちないように、エレメントをリング状部に挿入した状態の固定が実現される。
 なお、フレームのリング状部にエレメントを固定する力は、大エレメントの大きさ及びリング状部の大きさを調整して強めることもできるが、大エレメントの脚部の一部(リング状部に嵌まって外周径が絞られる部分)に、その外周径をより小さくするような、別途の締結具を用いることや、フレームのリング状部とエレメントを連結する結束バンドのような別途の連結具を用いることも可能である。
 (乙3の5一部) [写真略]
(2)被告作品の特徴
 被告作品は、「先鋭的な形状の光の塊が、まばゆい輝きを放つ光」を抽象的にイメージして創作されたものであり、同イメージを表現すべく、装飾部の表面形状に顕著な立体感を表し(特徴Y①)、エレメントの両刃部の形状と突出方向で鋭利な外観を表し(特徴Y②)、また、フレーム内部に設置した光源から光を当てることによって、光の明るさを均一にむらなく光らせることが可能な形態(特徴Y③)としている。
ア 特徴Y①(装飾部の表面形状に顕著な立体感を有する点)
 被告作品は、以下の(ア)~(カ)の点から、装飾部の表面形状に顕著な立体感を有している。
(ア)被告作品のエレメントは、大エレメントの内側に、小エレメントの脚部を挿入して、大小の2つのエレメントを組み合わせて1つのエレメントが構成されているところ、大小の各エレメントは、放射状に突出した両刃状の頭部を有している。そのため、1つのエレメントの中に、高さ方向で位置が異なる両刃状の頭部が配置された形状となり、1つのエレメントの中に、立体感のあるエレメントの頭部が表れる。
(イ)装飾部は、複数のエレメントを組み合わせて構成されているため、装飾部の表面形状における立体感の程度は、1つのエレメントの頭部の表面の立体感から生じるものといえるところ、被告作品は、原告作品よりも多い41個のエレメントが存在することから、1つのエレメントの頭部での立体感の差が、エレメントの数の差の影響も受け、装飾部の表面形状に寄与している。
(ウ)装飾部の表面形状において、大部分が、フレームの表面に沿う方向とは異なる(フレーム表面から離間する)方向、又は、フレーム表面に向かう方向に鋭く尖った凹凸を有しており、これによって、立体的でボリューム感があり、かつ、刺々しい表面形状となっている。
(エ)大エレメントの大両刃部と小両刃部及び小エレメントの両刃部の上端となる面の向きに基づき、エレメントの頭部に上斜め方向又は下斜め方向に鋭く尖った立体的な形状が表れる。なお、この大エレメントの大両刃部と小両刃部及び小エレメントの両刃部の上端となる面の向きは、大パーツ及び小パーツにおいて、傾斜角度が異なる複数の斜め方向の折り線を設けて、折りの角度を調整することで実現される。
(オ)大エレメントの脚部の中央部近傍にくびれが形成され、くびれのやや上部でエレメントの挿入が止まることにより、装飾部に、リング状部に挿入されていない大エレメントの脚部の高さの分、フレームの表面からエレメントの頭部が浮いた立体的な形状が表れる。
(カ)1個の小エレメントの両刃部の下方の対応する位置に、1個の大エレメントの小両刃部が設けられ、同位置で、上斜め方向及び下斜め方向に鋭く尖った立体的な形状が表れる。
イ 特徴Y②(エレメントの両刃部の形状と突出方向により装飾部に鋭利な外観が表れる点)
 被告作品は、以下の(ア)~(ウ)の点から、エレメントの両刃部の形状と突出方向により装飾部に鋭利な外観が表れ、無機質かつシャープな印象を与える特徴的な形状となっている。
(ア)上記アの(エ)と同じ
(イ)上記アの(カ)と同じ
(ウ)エレメントの平面視において、大エレメントの大両刃部の上端となる面及び付け根部分、大エレメントの小両刃部の付け根部分、及び、小エレメントの両刃部の付け根部分の一部は、三角形で構成され、大エレメントの小両刃部の上端となる面、小エレメントの両刃部の上端となる面及び小エレメントの両刃部の付け根部分の一部は四角形で構成される。
ウ 特徴Y③(光の明るさを均一にむらなく光らせて、まばゆい輝きを放つ点)
 被告作品は、以下の(ア)~(ウ)の点から、光の明るさを均一にむらなく光らせて、まばゆい輝きを放つものとなり、先鋭的な形状の光の塊が、まばゆい輝きを放つ、エネルギーに満ち溢れた力強い印象を与える特徴的な外観となっている。
(ア)大エレメントと小エレメントは、プリズムシートを折って形成されている。プリズムシートは、表面にプリズム加工が施され、光源の光を受けて、その光を反射、透過させることで、光源の光の光学的特性を変化させ、シートが均一に発光しているように見える部材である。このため、被告作品においては、フレームの内部に設置された光源の光の明るさが均一にむらなく光り、まばゆい輝きを放つものとなっている。
(イ)装飾部の範囲では、複数のエレメントが密に配置され、エレメント同士の間にほぼ隙間がないものとなっている。これにより、フレームの内部にLED電球を取り付けた複数の棒状体から構成された光源を配置した際に、エレメント同士の間の隙間を介して、光源が外部から直接視認されることはなく、光源の光がエレメントで光学的変化を受けた光を、本体の外部に放出することが可能となる。
 また、エレメントを介した光は均一に放出され、明るさにむらが生じにくく、光学的変化を受けた光は、光源由来の光よりも明るい光として視認される。この結果、被告作品からは、その全体からまばゆい光を生じさせることができる。
(ウ)大エレメントだけでなく小エレメントを配することにより、エレメントの中央付近の孔を外部から視認することができない。このため、エレメントの中央付近においても光源が外部から直接視認されることはなく、照明器具から均一な光が放出され、光の明るさにむらがなく、まばゆい光を発することができる。
2 原告作品と被告作品の共通点
 原告作品と被告作品の共通点は、以下のとおりである(以下、符号に従い「共通点Y①」などという。)。
(1)本体が、フレームと、フレームに取付け可能な複数のエレメントからなる装飾部から構成される。
(2)フレームが、フレームの外形を形成する板状部と、板状部同士の間に位置する複数の円形のリング状部から構成される。
(3)フレームの内部に光源が設置される。
(4)フレームのリング状部が均等に配置されている。
(5)装飾部におけるリング状部に全て同一形状のエレメントが挿入されている。
3 原告作品と被告作品の相違点
 原告作品と被告作品の相違点は、以下のとおりである(以下、符号に従い「相違点Y①」などという。)。
(1)フレームの形状
 被告作品は、上部が切り欠かれた球形状であり、これを鏡に映して球形状に見せているのに対して、原告作品は、球形状である。
(2)装飾部の範囲
 被告作品の装飾部は、フレームの高さ方向で、フレームの上部側の一部の範囲を除いて、全体の3分の2程度の範囲を占めるのに対して、原告作品の装飾部は、フレームの略全面を覆う範囲を占める。
(3)エレメント間の隙間の有無
 被告作品の装飾部において、エレメント同士の間は、ほぼ隙間がなく、密にエレメントが配置されているのに対して、原告作品の装飾部においては、エレメント同士の間に隙間が存在しており、その隙間からフレームの一部、又は、先端に小さな光源を有する棒状体の複数が明確に認識される。
(4)装飾部の表面形状の違い
 被告作品は、装飾部の表面の大部分が、フレームの表面に沿う方向とは異なる(フレーム表面から離間する)方向、又は、フレーム表面に向かう方向に鋭く尖った凹凸を有しており、これによって、立体的でボリューム感があり、かつ、刺々しい表面形状となっている。
 これに対して、原告作品は、装飾部の表面の大部分が、フレームの表面に沿う方向に花弁が広がって、花冠が集合したようなボール状の丸みを帯びた表面形状となっている。
 なお、原告作品と被告作品において、装飾部は、フレームに取付け可能な複数のエレメントから構成されていることから、かかる装飾部の表面形状の違いは、後記(7)のエレメントの構造と形状の違いにより生じるものといえる。
(5)フレームのリング状部の数及びエレメントの数の違い
 被告作品は、フレームのリング状部の数は多数あり、そのうち41個のリング状部に、それぞれ1個のエレメントが挿入されているのに対して、原告作品は、フレームのリング状部の数は21個であり、リング状部には、それぞれ1個のエレメントが挿入されている。
(6)エレメントの素材の違い
 被告作品は、エレメントがプリズムシートを折って形成されているのに対して、原告作品は、エレメントがポリエステルシートを折って形成されている。
(7)エレメントの構造と形状の違い
 被告作品のエレメントの構造及び形状と、原告作品のエレメントの構造及び形状は、以下の点が異なっている。
ア 被告エレメントの構造及び形状
(ア)1つのエレメントについて、脚部及び脚部から放射線状に突出した両刃状の頭部からなる大エレメントと、脚部及び脚部から放射線状に突出した両刃状の頭部からなり、その脚部が大エレメントの内側に上部から挿入された小エレメントを組み合わせて構成される。
(イ)エレメントの平面視における外周について、大エレメントの大きな6個の大両刃部と、その間に配置される小エレメントの小さな3個の両刃部と、さらに、小エレメントの両刃部の間に配置される大エレメントの小さな3個の小両刃部から形成される。
(ウ)エレメントの平面視において、大エレメントの大両刃部の上端となる面及び付け根部分、大エレメントの小両刃部の付け根部分、及び、小エレメントの両刃部の付け根部分の一部は、三角形で構成され、大エレメントの小両刃部の上端となる面、小エレメントの両刃部の上端となる面及び小エレメントの両刃部の付け根部分の一部は四角形で構成される。
(エ)エレメントの正面視、背面視及び左右側面視において、大エレメントの大両刃部及び小エレメントの両刃部の上端となる面が、水平方向を基準に上斜め方向に真っ直ぐ伸び、かつ、大エレメントの小両刃部の上端となる面が、水平方向を基準に下斜め方向に真っ直ぐ伸びており、エレメントの頭部に、上斜め方向又は下斜め方向に鋭く尖った立体的な形状が表れる。
(オ)エレメントの正面視、背面視及び左右側面視において、大エレメントの脚部は、中央部近傍に外周径が最も小さくなるくびれが形成され、リング状部に大エレメントの脚部を挿入して、くびれのやや上部でエレメントの挿入が止まることにより、装飾部に、リング状部に挿入されていない大エレメントの脚部の高さの分、フレームの表面からエレメントの頭部が浮いた立体的な形状が表れる。
(カ)エレメントの平面視において、エレメントの中央付近は、中心に12本の折り線が集まり、放射状の形状を形成している。
(キ)エレメントの平面視において、エレメントの中央付近に、明確な孔が認められない。(ク)エレメントの底面視において、大エレメントの大両刃部の間に、大エレメントの小両刃部が配置され、6個の大エレメントの小両刃部のうち、互いに隣り合わない3個が、小エレメントの両刃部3個と対応する位置に配置されている。
(ケ)エレメントの正面視、背面視及び左右側面視において、1個の小エレメントの両刃部の下方の対応する位置に、1個の大エレメントの小両刃部が設けられ、同位置で、上斜め方向及び下斜め方向に鋭く尖った立体的な形状が表れる。
イ 原告エレメントの構造及び形状
(ア)1つのエレメントについて、脚部と、脚部から放射線状に伸びる花冠状の頭部から構成される。
(イ)エレメントの平面視における外周について、大きな剣先状の6個の花弁と、その内側に配置された12個の頂点を有する大きな星形状の花弁と、さらにその内側に配置された、12個の頂点を有し、エレメントの中心から放射状に線が伸びた小さな星形状の花弁から形成される。
(ウ)エレメントの平面視において、大きな剣先状の6個の花弁、大きな星形状の花弁及び小さな星形状の花弁は、四角形で構成されている。
(エ)エレメントの正面視、背面視及び左右側面視において、大きな剣先状の6個の花弁及び大きな星形状の花弁の上端となる面が、水平方向を基準に、中心から上斜め方向に伸びた後、水平な角度となり、エレメントの頭部に、花弁が、花冠の中心から徐々に水平になりながら花開いたような形状が表れる。
(オ)エレメントの正面視、背面視及び左右側面視において、エレメントの脚部は、上部から下部に向けて徐々に外側に広がった形状が形成され、リング状部にエレメントの脚部のほぼ全長を挿入して、エレメントの頭部の下端でエレメントの挿入が止まることにより、フレームの表面に花冠を貼り付けたような形状が表れる。
(カ)本体の正面視又はエレメントの平面視において、エレメントの中央付近は、中心に24本の折り線が集まり、放射状の形状を形成している。
(キ)本体の正面視又はエレメントの平面視において、エレメントの中央付近に、円形の孔が認められる。
(ク)エレメントの底面視において、エレメントを構成する部材に小エレメントに該当する部材がなく、大きな剣先状の花弁のうち、互いに隣り合わない3個と対応する位置に配置される部材が存在しない。
(ケ)エレメントの正面視、背面視及び左右側面視において、エレメントを構成する部材に小エレメントに該当する部材がなく、1個の大きな剣先状の花弁の上方の対応する位置に配置される部材が存在しない。
4 原告作品と被告作品の類比
(1)共通点について
 被告作品と原告作品との間には、上記1で述べた共通点Y①~Y⑤があるが、以下で述べるとおり、これらは被告作品及び原告作品において本質的特徴ではなく、同各共通点は重要ではない。
ア 本体が、フレームと、フレームに取付け可能な複数のエレメントからなる装飾部から構成される点(共通点Y①)照明器具の本体が、フレームと、照明器具に装飾性を付与するエレメントをフレームに複数取り付けた装飾部から構成される構造は、ごく一般的な構造である。
 例えば、乙8の1~4に示す照明器具の公知意匠において、照明器具に装飾性を付与するエレメントとして複数のつり飾り又はシェードをフレームに取り付けたものを照明器具の装飾部とし、フレームとかかる装飾部から構成される構造が存在している。
 このように、照明器具の分野において、本体は、フレームと、フレームに取付け可能な複数のエレメントからなる装飾部から構成される点は、一般的に採用される構成要素の組合せであるので、上記共通点はありふれたものであって、重要ではない。
イ フレームが、フレームの外形を形成する板状部と、板状部同士の間に位置する複数の円形のリング状部から構成される点(共通点Y②)
 フレームの形状について、フレームの表面の大部分が複数のエレメントで覆われているため、照明器具が設置された状態において、装飾部の範囲でフレームが板状部とリング状部で構成されていることを看者が視認することは困難である。
 また、リング状部については、エレメントの脚部が挿入された状態においては、エレメントの頭部と重なるため、リング状部の形を視認することはやはり困難である。
 したがって、フレームが、フレームの外形を形成する板状部と、板状部同士の間に位置する複数の円形のリング状部から構成される点は、照明器具が設置された状態で視認が困難な部分であることから、上記共通点は重要ではない。
ウ フレームの内部に光源が設置される点(共通点Y③)
 照明器具を構成するフレームの内部に光源が設置される点は、ごく一般的な構造であるといえる。
 例えば、乙9の1・2に示す照明器具の公知意匠において、フレームの内部に光源が設置される構造が存在している。
 したがって、照明器具の分野において、フレームの内部に光源が設置される点は、一般的に採用される構造であり、上記共通点はありふれたものであって、重要ではない。
エ フレームのリング状部が均等に配置されている点(共通点Y④)
 フレームのリング状部は、フレームの表面の大部分が複数のエレメントで覆われており、照明器具が設置された状態において、リング状部の形を視認することが困難なため、リング状部が均等に配置されている配列についても、看者が視認できるものではない。
 したがって、フレームのリング状部が均等に配置されている点は、照明器具が設置された状態で視認が困難な部分であることから、本共通点は重要ではない。
オ 装飾部におけるリング状部に全て同一形状のエレメントが挿入されている点(共通点Y⑤)
 照明器具に装飾性を付与する複数のエレメントについて、全て同一形状のものを利用する構造は、ごく一般的な構造であるといえる。
 例えば、乙9の1・2に示す照明器具の公知意匠において、照明器具本体のフレームに対して、照明器具に装飾性を付与するエレメントとして全て同一形状の部材を取り付けた構造が存在している。
 したがって、照明器具の分野において、装飾部におけるリング状部に全て同一形状のエレメントが挿入されている点は、一般的に採用される構造であり、本共通点はありふれたものであり、重要ではない。
カ 以上のとおり、被告作品と原告作品との間に見られる上記各共通点は、被告作品及び原告作品において本質的特徴とはいえず、重要ではない。
(2)相違点について
 一方、上記3の相違点Y④、⑤、⑦ア、イ、エ、オ及びケは、上記1の被告作品の特徴Y①(装飾部の表面形状に顕著な立体感を有する点)を創出するものである。
 また、上記3の相違点Y⑦ウ、エ及びケは、被告作品の特徴Y②(エレメントの両刃部の形状と突出方向により装飾部に鋭利な外観が表れる点)を創出するものである。
 さらに、上記3の相違点Y③、⑥、⑦キは、被告作品の特徴Y③(光の明るさを均一にむらなく光らせて、まばゆい輝きを放つ点)を創出するものである。
 原告作品と被告作品は、照明用シェードであって、これらに接する者は、天井から吊り下げられ、光が照らされた状態のものを観賞することになり、かつ、この状態においてはじめて、原告作品と被告作品の表現を感得し得る状態となる。
 かかる状態の両者を比較するに(乙15)、原告作品については、原告らが原告作品を含む「umbel」シリーズの特徴点として「花弁同士がお互いに居場所を求め合った結果生じた重なりや僅かな捻れによって、本物の植物が見せるのと同様の、自然で美しいフォルム」と説明するように(乙1)、原告作品の花弁状部の形状は植物の柔らかさを連想させるような丸みを覚えており、全体として柔らかな花弁の集合体としての印象を受ける。
 他方、被告作品は、その刺々しさにおいて明らかに花弁とは異なる印象を与えるものであり、これはまさに、被告Yが志向した①「躍動感や強いエネルギーを有する力強い印象を与える照明器具」、②「先鋭的な形状の光の塊が、まばゆい輝きを放つ光を抽象的にイメージできる照明器具」、③「草花のような自然物をモチーフとするのではなく、非実在に係る観念的形態からなるデザインの照明器具」のイメージを体現したものとなっている。
 かかる見え方の違いは、まさに上記の特徴点の違いによって生み出されたものであり、被告作品からは、もはや原告作品の本質的特徴を直接感得することはできない。
(3)原告らは、被告作品が原告作品の特徴を含むと主張するが、被告作品は原告作品の特徴X①~X④を含むものではない。
ア 特徴X①について
以下のとおり、被告作品は、原告作品の特徴X①を含むものではない。
(ア)上記1(1)イのとおり、被告エレメントのフレームのリング状部への固定は、フレームのリング状部に大エレメントの脚部を挿入して、大エレメントの脚部の挿入に伴い、その外周径が小さくなり、大エレメントの脚部に形成されたくびれのやや上部でエレメントの挿入が止まり、その際に、大エレメントの脚部の一部(リング状部に嵌まって外周径が絞られる部分)に力がかかり、大エレメントの脚部の先端(フレームの内側に入っていく端部)が放射状に開くことで、フレームの外側にエレメントが抜け落ちないように、エレメントをリング状部に挿入した状態の固定が実現されるというものである。被告エレメントは、原告らが主張するような、「脚部がバネの役割を果たし、脚基部がストッパーの役割を果たす」ことで、エレメントをリング状部に保持するものには該当しない。被告エレメントでは、あくまで、大エレメントの脚部の一部(リング状部に嵌まって外周径が絞られる部分)が絞られた結果、大エレメントの脚部の先端が放射状に開いて、放射状に開いた部分が、フレームの外側にエレメントが抜け落ちないように引っ掛かりとなっているのである。
(イ)被告エレメントは、3つの大パーツの隣接する部材同士を接続して、1つの大エレメントが構築されていることから、原告作品のエレメントに見られるような「ミウラ折りの要素を取り入れた連続的な横方向のジグザグ折り線」は設けられていない。
(ウ)被告作品では、フレームのリング状部にエレメントを固定する際に、接着や副次的な締結機構を排除するものではなく、大エレメントの脚部の一部(リング状部に嵌まって外周径が絞られる部分)に、その外周径をより小さくするような、別途の締結具を用いることや、フレームのリング状部とエレメントを連結する結束バンドのような別途の連結具を用いて、リング状部にエレメントを固定する構造をより強固なものにすることも可能である。そのため、接着や副次的な締結機構を採用し得る点でも、被告作品のエレメントのフレームへの装着方法は、原告作品のエレメントのフレームへの装着方法と異なっている。イ 特徴X②について
 第3の2〔被告ルーセントらの主張〕のとおり、原告作品の輪郭の形状は、ありふれた表現方法であり、本質的特徴をなすものではないから、仮にこの点が類似していたとしても、原告作品の本質的特徴を被告作品から直接感得することとはならない。
ウ 特徴X③について
 被告ルーセントらは、原告作品はミウラ折りの要素を取り入れつつ製造するものではなく、ミウラ折りそのものを利用したものであると認識しているところ、以下のとおり、被告作品は、ミウラ折りを用いていないため、特徴X③を被告作品から感得することはできない。
(ア)原告らは、原告作品において、脚部と頭部の境目となる部分(脚基部)に横方向のジグザグ折り線を設け、頭部となる部分(花弁状部)に縦方向の折り線とは別の斜め方向の折り線を設けている点において、ミウラ折りの要素を取り入れているというが、被告エレメントには、ミウラ折りの要素を取り入れた連続的な横方向のジグザグ折り線は設けられていない。
(イ)被告エレメントでは、大パーツの大両刃部に該当する部分、大パーツの小両刃部に該当する部分、及び、小パーツの両刃部に該当する部分は、傾斜角度が異なる複数の斜め方向の折り線を設けてある(乙3)。すなわち、被告エレメントには、縦方向の折り線とは別の斜め方向の折り線が設けられているものの、原告作品におけるエレメントのような「縦方向の折り線とは別の斜め方向の折り線が、等間隔のジグザグ線」とはなっていない。
(ウ)被告エレメントにおいては、大パーツ及び小パーツに、傾斜角度が異なる複数の斜め方向の折り線を設けたことで、「大両刃部の上端となる面が、水平方向を基準に上斜め方向に真っ直ぐ伸びるように先端が向く形状」、「小両刃部の上端となる面が、水平方向を基準に下斜め方向に真っ直ぐ伸びるように先端が向く形状」及び「両刃部の上端となる面が、水平方向を基準に上斜め方向に真っ直ぐ伸びるように先端が向く形状」となる(前記1(1)ア参照)。そして、この形状を取ることで、大エレメントの大両刃部及び小エレメントの両刃部の上端となる面が、水平方向を基準に上斜め方向に真っ直ぐ伸び、かつ、大エレメントの小両刃部の上端となる面が、水平方向を基準に下斜め方向に真っ直ぐ伸びており、エレメントの頭部に、上斜め方向又は下斜め方向に鋭く尖った立体的な形状が表れる。
 このような被告エレメントの頭部における上斜め方向又は下斜め方向に鋭く尖った立体的な形状は、ミウラ折りを採用することでは実現できなかったものであり、被告作品の特徴Y①及びY②に寄与する形状である。
エ 特徴X④について
 被告作品と、原告作品とは、エレメントが光学的変化を及ぼす点においては共通するものの、以下のとおり、装飾部やエレメントの光り方に大きな違いを有するものとなっている。
(ア)原告エレメントでは、光源の光が脚部と花弁状部で二重の光学的変化を受け、極めて複雑な陰影の表情を発露することが特徴とされているが、被告エレメントでは、「光の明るさを均一にむらなく光らせて、まばゆい輝
きを放つ点」(特徴Y③)が被告作品の本質的特徴として挙げられ、これを実現する要素として、大エレメントと小エレメントの素材にプリズムシートを採用している。プリズムシートは、表面にプリズム加工が施され、光源の光を受けて、その光を反射・透過させることで、光源の光の光学的特性を変化させ、シートが均一に発光しているように見える部材である。
 つまり、被告作品では、光の明るさを均一にむらなく光らせて、まばゆい輝きを放つために、大エレメントと小エレメントの素材として、あえてプリズムシートを採用しているのであり、原告作品には用いられていない素材である。原告作品のように、エレメントの材質を問わないものとした場合、プリズムシートの使用によって狙った効果を得ること(充分な光学的特性の変化を生じさせ、均一な光を得ること)が困難となってしまう。
(イ)被告作品の特徴Y③に関する前記1(2)ウ記載のとおり、被告作品では、装飾部の範囲で、複数のエレメントが密に配置され、エレメント同士の間にほぼ隙間がないものとなっており、また、エレメントの中央付近の孔が視認できない構造となっている。
 これにより、フレームの内部に、LED電球を取り付けた複数の棒状体から構成された光源を配置した際に、エレメント同士の間の隙間を介して、光源が外部から直接視認されることはなく、光源の光がエレメントで光学的変化を受けた光を、本体の外部に放出することが可能となる。
 すなわち、被告作品では、光の明るさを均一にむらなく光らせて、まばゆい輝きを放つために、エレメント同士の間にほぼ隙間がないように密に配置する構造、及び、エレメントの中央付近の孔が認められない構造が採用されている。
 一方、原告作品では、エレメント同士の間に隙間が存在しており、その隙間からフレームの一部、又は、先端に小さな光源を有する棒状体の複数が明確に認識され、かつ、エレメントの中央付近に円形の孔が認められる構造となっている。そのため、原告作品の構造では、光源の光が外部から視認可能となり、被告作品で求めるような、光の明るさを均一にむらなく光らせて、まばゆい輝きを放つという点が実現できない構造となってしまう。(4)以上のとおり、被告作品から原告作品の本質的特徴を直接感得することはできないので、被告作品は原告作品の翻案には当たらない。

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