判例全文 line
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【事件名】“マリカー”不正競争事件(2)
【年月日】令和2年1月29日
 知財高裁 平成30年(ネ)第10081号 不正競争行為差止等請求控訴事件、
 平成30年(ネ)第10091号 著作権侵害差止請求権不存在確認請求反訴事件
 (原審・東京地裁平成29年(ワ)第6293号不正競争行為差止等請求事件)
 (口頭弁論終結日 令和元年11月28日)

判決
控訴人・被控訴人・反訴被告(一審原告) 任天堂株式会社(以下「一審原告」という。)
同訴訟代理人弁護士 松田俊治
同 田島弘基
同 小槻英之
同 澤田将史
控訴人・被控訴人・反訴原告(一審被告) 株式会社MARIモビリティ開発(以下「一審被告会社」という。)
同訴訟代理人弁護士 長沢幸男
同補佐人弁理士 正林真之
同 齋藤拓也
被控訴人(一審被告) Y(以下「一審被告Y」という。)
一審被告ら訴訟代理人弁護士 内田公志
同 鮫島正洋
同 高瀬亜富
同 永島太郎


主文
1 一審原告の控訴及び訴えの変更に基づき、原判決主文1項、2項及び5項から7項までを次のとおり変更する。
(1)一審被告会社は、営業上の施設及び活動において、原判決別紙被告標章目録第1記載1〜4の各標章を使用してはならない。
(2)一審被告会社は、前項記載の標章を、前項記載の営業上の施設、広告宣伝物及びカート車両から抹消せよ。
(3)一審被告会社は、原判決別紙ドメイン名目録記載1〜4の各ドメイン名を使用してはならない。
(4)一審被告会社は、原判決別紙ドメイン名目録記載2のドメイン名の登録を抹消せよ。
(5)一審被告らは、一審原告に対し、連帯して、5000万円及びこれに対する平成30年10月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6)一審原告のその余の請求を棄却する。
2 一審被告会社の控訴を棄却する。
3 一審被告会社の反訴請求に係る訴えを却下する。
4 訴訟費用は、1、2審及び本訴、反訴を通じ、これを10分し、その1を一審原告の負担とし、その余を一審被告らの負担とする。
5 この判決の1項(1)、(3)及び(5)は仮に執行することができる。

事実及び理由
 用語の略称及び略称の意味は、本判決で付するもののほかは、原判決及び当審で令和元年5月30日にした中間判決(以下「中間判決」という。)に従う。
第1 当事者の求めた裁判
1 一審原告
主文1項〜3項と同旨。
2 一審被告会社
(1)原判決のうち一審被告会社敗訴部分を取り消す。
(2)上記の部分につき、一審原告の請求をいずれも棄却する。
(3)一審原告の当審において拡張した請求を棄却する。
(4)一審原告の控訴を棄却する。
(5)一審原告は、一審被告会社が別紙コスチューム目録1〜4記載のコスチュームを着用した人物の写真又は映像を公衆送信する行為について、別紙反訴被告表現物目録1〜4記載の表現物に関する複製権及び公衆送信権に基づき、これを差し止める権利を有しないことを確認する。
第2 事案の概要
1 事案の経緯等
(1)本件は、一審原告が、一審被告会社による@一審原告の周知又は著名な商品等表示である原告文字表示(原告文字表示マリオカート及び原告文字表示マリカー)と類似する被告標章第1の営業上の使用行為及び商号としての使用行為が、不競法2条1項1号又は2号の不正競争行為に、A一審原告が著作権を有する原告表現物と類似する部分を含む本件各写真及び本件各動画を作成してインターネット上のウェブサイトへアップロードする本件掲載行為が、一審原告の著作権(複製権又は翻案権、自動公衆送信権及び送信可能化権)侵害に、B一審原告の周知又は著名な商品等表示である原告表現物又は原告立体像と類似する商品等表示である被告標章第2を使用する行為である本件宣伝行為(本件掲載行為、従業員のコスチューム着用行為及び店舗における人形の設置行為からなる行為)が不競法2条1項1号又は2号の不正競争行為に、C一審原告の特定商品等表示である原告文字表示と類似する本件各ドメイン名の使用が、平成30年法律第33号による改正前の不正競争防止法(以下、旧法についても現行法と区別せずに単に「不競法」という。)2条1項13号(現行法19号。以下、本判決においては「13号」と表記する。)の不正競争行為に、D原告表現物の複製物又は翻案物である本件各コスチュームを利用者に貸与する本件貸与行為が、一審原告の著作権(貸与権)侵害に、それぞれ該当すると主張し、一審被告らに対して以下の各請求をした事案である。
ア 一審被告会社に対し
(ア)不競法3条1項及び2項に基づき、上記@につき被告標章第1の使用差止め、同抹消及び商号登記の抹消登記手続、上記Bにつき被告標章第2の使用差止め並びに本件各写真及び本件各動画の削除及びデータ廃棄、上記Cにつき本件各ドメイン名の使用差止め及び本件ドメイン名2、4の登録抹消。
(イ)著作権法112条1項及び2項に基づき、上記Aにつき原告表現物の複製又は翻案及び複製物又は翻案物の自動公衆送信、送信可能化の各差止め並びに本件各写真及び本件各動画の削除及びデータ廃棄、上記Dにつき本件貸与行為の差止め。
イ 一審被告らに対し
 一審被告会社に対し、不競法4条、5条3項1号及び4号(現行法5号。以下、本判決においては「4号」と表記する。)又は民法709条及び著作権法114条3項に基づき、一審被告Yに対し、会社法429条1項に基づき、損害賠償の一部請求として、1000万円及びこれに対する不法行為後の日である平成29年3月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払。
(2)原判決は、要旨、以下のア〜キのとおり判断し、前記(1)の各請求について、被告標章第1の使用差止め及び同抹消(外国語のみで記載されたウェブサイト及びチラシについてのものを除く。)、被告標章第2の使用差止め、本件各動画のデータ廃棄、本件各ドメイン名の使用差止め(外国語のみで記載されたウェブサイトのために使用する場合を除く。)並びに一審被告会社に対する損害金1000万円及びこれに対する不正競争行為の最終日である平成30年3月31日から支払済みまでの年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余の請求をいずれも棄却した。
ア 一審被告会社による被告標章第1の使用行為について、原告文字表示マリカーが日本語を解しない者の間で周知であったとは認められないから、外国語のみで記載されたウェブサイト及びチラシにおける被告標章第1の使用の差止め及び抹消請求は理由がないが、その余の行為は、不競法2条1項1号の不正競争行為に該当するから、使用の差止め及び抹消請求は理由がある(ただし、カート車両以外の自動車、自転車及び軽車両からの被告標章第1の抹消請求は理由がない。)。一審被告会社が商号を変更したため、商号登記の抹消登記手続請求は理由がない。
イ 本件宣伝行為(ただし、本件写真1に関するものを除く。)は、不競法2条1項1号の不正競争行為に該当するから、被告標章第2の使用差止請求は理由がある。本件各写真及び本件各動画は既に削除されているため削除請求は理由がなく、本件各写真のデータについては、不正競争行為とならない利用法があるから、その廃棄請求は理由がないが、本件各動画のデータの廃棄請求は理由がある。
ウ 本件各ドメイン名の使用行為は、不競法2条1項13号の不正競争行為に該当するが、本件各ドメイン名を外国語のみで記載されたウェブサイトのために使用する行為は、一審原告の営業上の利益を侵害するものではない。また、一審被告会社は、本件ドメイン名4の登録を抹消している。したがって、本件各ドメイン名を外国語のみで記載されたウェブサイトのために使用する行為の差止請求は理由がないが、その余の本件各ドメイン名の使用差止請求は理由がある。本件ドメイン名2の登録抹消請求は、上記のとおり差止めが認められない場合があることからすると、理由がなく、本件ドメイン名4の登録抹消請求は理由がない。
エ 原告表現物の複製又は翻案並びに原告表現物の複製物又は翻案物の自動公衆送信及び送信可能化の各差止請求については、差止めの対象となる行為を具体的に特定することなく、広範かつ多様な態様な行為の全てを差止めの対象とするものであって、差止めの必要性を認めるに足りる立証がないから、いずれも理由がない。
オ 被告標章第2の2・3・5・6・8・10のコスチュームと本件各コスチュームは同じものであり、不競法に基づく被告標章第2の使用差止めの中には本件貸与行為の禁止が含まれるから、上記差止請求と選択的併合の関係にある著作権に基づく本件貸与行為の差止請求を判断する必要はない。
カ 一審被告Yについて、一審被告会社の職務を行うにつき悪意又は重大な過失があったとは認められないから、一審被告Yに対する会社法429条1項に基づく請求は理由がない。
キ 一審被告会社に対する損害賠償請求は、その全額(1000万円)について理由がある。遅延損害金は、不正競争行為の最終日である平成30年3月31日から生じる。
(3)一審原告は、原判決のうち、@外国語のみで記載されたウェブサイト及びチラシにおける被告標章第1の使用の差止請求並びに外国語のみで記載されたウェブサイト及びチラシからの被告標章第1の抹消請求を棄却した部分、A本件各ドメイン名を外国語のみで記載されたウェブサイトのために使用する行為の差止請求及び本件ドメイン名2の登録抹消請求を棄却した部分、B一審被告Yに対する損害賠償請求を棄却した部分を不服として控訴を提起するとともに、損害賠償請求の金額を1000万円から5000万円に増額し、併せて遅延損害金の起算日を平成30年10月31日に繰り下げた。
 他方、一審被告会社は、一審被告会社の敗訴部分を不服として控訴を提起するとともに、反訴を提起し、一審被告会社が別紙コスチューム目録記載のコスチュームを着用した人物の写真又は映像を公衆送信する行為について、一審原告が、別紙反訴被告表現物目録1〜4記載の表現物に関する複製権及び公衆送信権に基づき、これを差し止める権利を有しないことの確認を求めたが、一審原告は、同反訴の提起については同意しない旨述べた。
 原判決のうち、本件写真1の作成・アップロードが不正競争行為又は著作権(複製権、翻案権、自動公衆送信権、送信可能化権)侵害に該当しないとした部分、カート車両以外の自動車、自転車及び軽車両からの被告標章第1の抹消請求を棄却した部分、一審被告会社の商号登記の抹消登記手続請求を棄却した部分、本件各写真及び本件各動画の削除並びに本件各写真のデータの廃棄請求を棄却した部分、本件ドメイン名4の登録抹消請求を棄却した部分並びに原告表現物の複製又は翻案及び原告表現物の複製物又は翻案物の自動公衆送信、送信可能化の差止請求を棄却した部分は、当審における審理判断の対象となっていない。
(4)当審は、令和元年5月30日、@一審原告の一審被告らに対する、一審被告会社及び本件各店舗における原判決別紙被告標章目録第1記載の標章、同被告標章目録第2記載のコスチューム及び人形を使用する行為並びに同ドメイン名目録記載のドメイン名を使用する行為についての不競法違反を理由とする損害賠償請求の原因(数額の点は除く。)は理由があり、一審被告会社の反訴請求は不適法であると判断する中間判決を言い渡した。
2 前提となる事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)
(1)当事者
ア 一審原告は、娯楽用品、運動具、音響機器及び乗物の製造及び販売、ゲーム、映像及び音楽等のコンテンツの制作、製造及び販売、キャラクター商品の企画、製造及び販売並びに知的財産権の許諾等を業とする株式会社である(甲1)。
イ 一審被告会社は、自動車等の売買、リース、レンタル等を業とする株式会社であり、平成27年6月4日に設立された(甲2)。
ウ 一審被告Yは、一審被告会社の代表取締役である(甲2)。
(2)一審原告によるゲームソフト「マリオカート」シリーズの開発販売
ア 一審原告は、平成4年8月27日、ゲーム機種スーパーファミコン用のゲームソフトとして「スーパーマリオカート」を発売し、平成29年4月28日までの間に、合計9タイトルの「マリオカート」シリーズのゲームソフトを販売した(甲7、甲8の1〜9)。
 「マリオカート」は、「マリオ」、「ルイージ」、「ヨッシー」、「クッパ」等のキャラクターが、カートに乗車して様々なコースを走行し、レース等を繰り広げることを特徴とするゲームシリーズである(甲8の1〜9)。
イ 原告表現物マリオ、原告表現物ルイージ、原告表現物ヨッシー及び原告表現物クッパは、人物又は生物のイラストで、絵画の著作物であり、一審原告が著作権を有する。原告表現物は、「スーパーマリオブラザーズ」をはじめとする一審原告の一連のゲームシリーズである「マリオ」シリーズ等に登場し、「マリオカート」シリーズにもカートの運転手として登場するキャラクターであるマリオ、ルイージ、ヨッシー及びクッパの人物又は生物としての表現上の特徴を再現したといえるものである(甲7、甲8の1〜9、甲94の1〜4)。
(3)一審被告会社等による公道カート等のレンタル事業
ア 一審被告会社は、設立時である平成27年6月4日から、少なくとも品川組合の組合契約の効力が発生する日の前日である平成28年6月23日までの間、「MariCAR」との屋号を用いて、本件貸与行為を含む公道を走行することが可能な公道カートのレンタル及びそれに付随する事業からなる本件レンタル事業を営んでいた(甲62の1、弁論の全趣旨)。
イ 本件各店舗としては、別紙店舗目録記載のとおり、@「MariCAR」との屋号を用いて営業していたMariCAR店舗である品川第1号店、渋谷店、秋葉原第1号店、大阪店及び沖縄店の5店舗(甲143の1〜5、乙134の1、4、5、
9、11)、A「STREETKART」との表示をウェブサイト等で用いていたSTREETKART店舗である品川第2号店、秋葉原第2号店、東京ベイBBQ店、横浜店及び京都店(甲143の6〜8・10・11)、浅草店(甲143の9)、B富士河口湖店(甲6の2、乙116)並びにC六本木店の合計13店舗が存した。
ウ 一審被告ら主張に係る本件レンタル事業に関係する組合や会社等として、品川組合(平成28年6月24日組合契約の効力発生、平成29年12月20日解散)及び品川観光有限責任事業組合(平成29年12月20日組合契約の効力発生)、秋葉原組合(平成29年6月13日組合契約の効力発生)、沖縄組合(平成29年6月26日組合契約の効力発生)、新木場組合(平成29年6月19日組合契約の効力発生)、マリカー大阪(平成28年10月14日設立)、PLAN−S(平成28年6月8日設立)、エコカート(平成27年1月22日設立)、合同会社STREET・KART京都(STREET・KART)、侍カート浅草がある(甲121の1〜4、乙48の1〜5、乙112、弁論の全趣旨。以下、これらの団体及び後述するように浅草店の運営に関与していると認められるSAMURAI.Nets株式会社を総称して「関係団体」という。)。
(4)一審被告会社、MariCAR店舗、富士河口湖店における被告標章第1、被告標章第2及び本件各ドメイン名の使用
ア 一審被告会社
(ア)一審被告会社は、平成27年6月4日の設立時から平成30年3月21日まで、被告標章第1の1を含む「株式会社マリカー」との商号を用いていたが、同月22日付けで、その商号を「株式会社MARIモビリティ開発」に変更した(乙84)。
(イ)一審被告会社は、平成29年2月23日当時、本件ドメイン名2を用いて、被告会社サイトを開設しており、同サイト上に、@「マリカー・ハロウィンイベント実施」、「マリカーAmazon店が正式OPEN」、「マリカーYahoo!Japanショッピング店が正式」、「マリカーに乗って道路を走っていると自然と笑顔になる。」との被告標章第1の1を含む記載をするとともに、A被告標章第1の3の「MARICAR」との文字及びカートに乗った人物を組み合わせた本件ロゴを複数掲載し、また、B黄色の文字で、被告標章第1の2を含む「MariCar.jp」との記載がある公道カートの写真を掲載して同標章を表示していた(甲6の3)。
 なお、本件ロゴは、カートの図形部分と被告標章第1の3の文字部分を明示的に区別して認識できる上、被告標章第1の3の文字部分は、文字で目立ちやすいことを考え併せると、被告標章第1の3の文字部分は要部であり、また、「MariCar.jp」の「.jp」には、識別力がないか乏しいから、「MariCar.jp」の要部は「MariCar」である。
イ MariCAR店舗
(ア)品川第1号店
a ウェブサイトにおける被告標章第1の使用
(a)品川第1号店は、従前、本件ドメイン名1を用いて品川第1号店サイト1を開設しており、平成29年2月23日当時、同サイトには、@「マリカーとは?」、「マリカーは、日本最大級の公道カートのレンタル&ツアーサービスです」、「みんなで日本一の公道カート『マリカー』を楽しんじゃってください!!ぜひ日本最大級のマリカーに遊びに来て下さい!」と被告標章第1の1を含む記載がされていた上、A本件ロゴが記載されていた(甲6の1)。
(b)品川第1号店は、本件ドメイン名4を用いた品川第1号店サイト2も開設していた。
品川第1号店サイト2には、平成29年8月10日及び同年11月14日当時、@「私たち、マリカーは、毎日通常通りに営業を行っております。マリカーは法律を遵守しており、今後も法律に則って運営して参ります。」、「マリカーに合わせて楽しいオプションをご用意。」として被告標章第1の1を含む記載がされていた上、A本件ロゴが記載されていた(甲74、甲102の1)。
(c)原判決後、品川第1号店サイト1及び2の中から日本語表記はなくなり、品川第1号店サイト2は、英語や中国語等の外国語での表記のみで構成されることになったものの、平成30年11月12日時点及び同月29日時点では、本件ロゴが冒頭部分に記載されていた(甲143の1、乙93の1、弁論の全趣旨)。
b 本件チラシにおける被告標章第1の使用
 平成28年11月15日当時に品川第1号店において配布されていた本件チラシには日本語版と英語版の2種類があり、日本語版には、@「マリカーは、普通免許で運転できる一人乗りの公道カートのレンタル&ツアーサービスです。」、「マリカーは普通運転免許(AT可)が必要なアクティビティです!」との被告標章第1の1を含む記載があり、日本語版と英語版の双方に、Aその左上部分に本件ロゴが記載されており、B右上部分に「maricar.com」との記載がされていた(甲3、4)。
 なお、「maricar.com」の「.com」には識別力がないか乏しいから、「maricar.com」の要部は「maricar」である。
c 本件名刺における被告標章第1の使用
 品川第1号店においては、平成28年11月15日当時、本件ロゴが印刷された本件名刺が配布されていた(甲4、57)。
d 本件貸与行為
 品川第1号店は、遅くとも平成28年1月11日頃から本件貸与行為を行っており、中間判決の口頭弁論終結時である平成31年3月12日においても行われていた(甲6の1・4、甲39、甲42の13、甲43の13、甲75の1、甲105の1、甲106の5・8、乙92の1、弁論の全趣旨)。
e 本件マリオ人形(被告標章第2の11)の使用行為
 品川第1号店においては、遅くとも平成28年6月4日頃から平成29年2月24日頃までの間、店舗内の入口付近に、入口側に背を向ける方向で、身長120pほどの本件マリオ人形が設置されていた(甲4、84、甲108の1・2)が、本件マリオ人形は、遅くとも同年6月16日までに撤去された(弁論の全趣旨)。
(イ)秋葉原第1号店
a ウェブサイト上における被告標章第1の使用
(a)秋葉原第1号店は、従前、本件ドメイン名1、4を用いて二つのウェブサイトを開設しており、平成29年10月2日当時は秋葉原第1号店サイト2に、平成30年5月7日当時は秋葉原第1号店サイト1及び2に、前記(ア)a(b)の品川第1号店サイト2の記載と同一の記載がされていた(甲132の1・2、乙41の6)。
(b)原判決後、前記(ア)a(c)の品川第1号店サイト2と同様に秋葉原第1号店サイト2から日本語表記はなくなったものの、平成30年10月10日、同年11月12日時点及び同月29日時点で本件ロゴが秋葉原第1号店サイト2上に記載されていた(甲143の2、甲144の1、乙93の2、弁論の全趣旨)。
b 本件貸与行為
 秋葉原第1号店においては、中間判決の口頭弁論終結時である平成31年3月12日においても本件貸与行為が行われていた(甲137、乙92の1、弁論の全趣旨)。
(ウ)渋谷店
a ウェブサイト上における被告標章第1の使用
 渋谷店は、本件ドメイン名4を用いて渋谷店サイトを開設しており、平成29年10月2日当時、同サイト上には、前記(ア)a(b)の品川第1号店サイト2と同一の記載がされていた(乙41の7)。
 原判決後、前記(ア)a(c)の品川第1号店サイト2と同様に渋谷店サイトからは日本語表記がなくなったものの、平成30年11月12日時点及び同月29日時点で、本件ロゴが渋谷店サイト上に記載されていた(甲143の3、乙41の7、乙93の3)。
b 本件貸与行為
 渋谷店においては、中間判決の口頭弁論終結時である平成31年3月12日においても本件貸与行為が行われていた(乙92の1、弁論の全趣旨)。
(エ)大阪店
a ウェブサイト上における被告標章第1の使用
 大阪店は、従前、本件ドメイン名4を用いて大阪店サイトを開設しており、平成29年10月2日当時、同サイト上には、前記(ア)a(b)の品川第1号店サイト2と同一の記載がされていた(乙41の8)。
 原判決後、前記(ア)a(c)の品川第1号店サイト2と同様に大阪店サイト上から日本語表記がなくなったものの、平成30年10月12日、同年11月12日時点及び同月29日時点で、本件ロゴが大阪店サイト上に記載されていた(甲143の4、甲144の3、乙93の4)。
b 本件貸与行為
 大阪店は、遅くとも平成29年5月27日頃から本件貸与行為を行っており、中間判決の口頭弁論終結時である平成31年3月12日においても行われていた(甲105の3、甲106の7、乙92の2、弁論の全趣旨)。
(オ)沖縄店
a 沖縄店は、従前、本件ドメイン名4を用いて沖縄店サイトを開設しており、平成29年10月2日当時、同サイト上には、前記(ア)a(b)の品川第1号店サイト2と同一の記載がされていた(乙41の9)。
 原判決後、前記(ア)a(c)の品川第1号店サイト2と同様に沖縄店サイトから日本語表記がなくなったものの、平成30年10月12日、同年11月12日時点及び同月29日時点で、本件ロゴが沖縄店サイト上に記載されていた(甲143の5、甲144の4、乙93の5)。
b 本件貸与行為
 沖縄店は中間判決の口頭弁論終結時である平成31年3月12日においても本件貸与行為を行っていた(甲145、乙92の3、弁論の全趣旨)。
ウ 富士河口湖店
(ア)ウェブサイト上における被告標章第1の使用
 平成29年2月23日当時、富士河口湖店は、本件ドメイン名3を用いて河口湖店サイトを開設しており、同サイト上には、@「マリカーとは?」、「マリカーは、日本最大級の公道カートのレンタル&ツアーサービスです」、「日本最大級のマリカーに遊びに来て下さい!」と被告標章第1の1を含む記載がされていた上、A本件ロゴが記載されていた(甲6の2)。
(イ)本件貸与行為
 富士河口湖店は、遅くとも平成29年2月23日頃から同年11月15日頃までの間、本件貸与行為を行っていた(甲6の2、甲102の2、甲105の2、弁論の全趣旨)。
(ウ)本件写真2及び3の掲載
 本件写真2及び3は、遅くとも平成29年2月23日までに、河口湖店サイトに掲載されたが、遅くとも同年6月16日までに削除された(甲6の2、弁論の全趣旨)。
エ 公道カートにおける被告標章第1の使用
 MariCAR店舗及び富士河口湖店において使用されている公道カートの中には、@平成28年11月15日頃から平成30年11月15日頃までの間、その前部や側面に、黄色又は白色の文字で被告標章第1の2を含む「MariCar.com」若しくは「MariCar.jp」又は被告標章第1の4を含む「fuji-maricar.jp」との表示がされ、A平成28年11月15日頃から平成30年11月29日頃までの間、その前部や側面に本件ロゴが表示されているものがあった(甲4、甲6の1〜4、甲74、甲85の3、甲102の1、甲105の1〜3.甲106の1・6〜8、甲132の1・2、甲134の2、甲143の1〜5、乙85、乙92の1・3、乙93の1〜3、弁論の全趣旨)。
 なお、「MariCar.com」の「.com」には識別力がないか乏しいから、「MariCar.com」の要部は「MariCar」であり、また、「fuji-maricar.jp」の「.jp」には識別力がないか又は乏しく、「fuji」と「maricar」が「-」で結合されていて、「fuji」と「maricar」の間に観念上の関連がないことからすると、「maricar」は「fuji-maricar.jp」の要部である。
オ 従業員によるコスチュームの着用行為
 本件レンタル事業においては、公道カートをレンタルした利用者が、ガイドに案内されて走行するツアーが用意されていたところ、平成27年6月4日頃から平成29年6月16日頃までの間、「マリオ」、「ルイージ」、「ヨッシー」及び「クッパ」の各コスチュームを着用した従業員が公道カートに乗車して利用者を先導することにより、ガイドを務めていた(甲4、甲42の13・16、甲43の13・16、乙63、弁論の全趣旨)。
(5)本件各動画の掲載
ア 本件動画1は平成27年11月2日に、本件動画2は同月3日に、本件動画3及び4は同月4日に、本件動画5は同月22日に、本件動画6は同月23日に、本件動画7は同年12月5日に、本件動画8は同月22日に、本件動画9及び10は同月26日に、本件動画11は平成28年1月6日に、本件動画12は同月10日に、本件動画13は同月11日に、本件動画14は同月26日に、本件動画15は同年8月15日に、本件動画16は平成29年1月12日に、それぞれインターネット上の動画共有サービスであるYouTubeにアップロードされた(弁論の全趣旨)。
 本件各動画のうち、本件動画1〜12及び16は、本件レンタル事業の利用者らが、コスチュームを着用し、公道カートに乗車して東京都内や大阪府内を走行する様子等を撮影して作成されたものであり、本件動画13〜15は、本件レンタル事業について放映されたテレビ番組を録画して作成されたものである(甲42の1〜16、甲43の1〜16)。
イ 本件各動画は、遅くとも平成29年6月16日までにYouTubeから削除された(弁論の全趣旨)。
(6)本件各ドメイン名の取得等
ア 一審被告会社は、平成27年5月26日に本件ドメイン名2につきドメイン名登録機関から登録を受け、前記(4)のとおり、被告会社サイトにこれを使用していた(甲6の3、甲55の2、甲209の1)。
イ 一審被告会社は、平成27年6月17日以降、本件ドメイン名4を保有していたが、遅くとも平成30年1月31日までの間に、本件ドメイン名4を第三者に移転した(甲55の4、甲209の2・3、乙56、弁論の全趣旨)。
 前記(4)のとおり、本件ドメイン名4は、MariCAR店舗が開設していた各ウェブサイトに使用されており、第三者に本件ドメイン名4が移転された後も、MariCAR店舗は、引き続き本件ドメイン名4を使用していた。
ウ ゼント社は、平成27年4月9日に本件ドメイン名1について、平成28年6月1日に本件ドメイン名3について、それぞれドメイン名登録機関から登録を受けた(甲55の1・3、甲209の1)。
 前記(4)のとおり、本件ドメイン名1は、品川第1号店と秋葉原第1号店によって使用されていたほか、本件ドメイン名3は、富士河口湖店において使用されていた。
(7)登録商標
 一審被告会社は、ゼント社が平成27年5月13日に商標登録出願した「マリカー」の標準文字からなる本件商標について、商標登録出願により生じた権利を遅くとも同年10月13日までにゼント社から譲り受け、現在まで本件商標に係る下記の商標権を有している(甲66の1〜3、乙21)。
 登録番号 第5860284号
 出願日 平成27年5月13日
 登録日 平成28年6月24日
 登録商標 マリカー(標準文字)
 指定商品及び指定役務並びに商品及び役務の区分
 第39類 船舶・航空機・乗物・自動車・オートバイ・自転車・乳母車・人力車・そり・手押し車・荷車・馬車・リアカーの貸与及びこれらに関する情報の提供等
3 争点
(1)STREETKART店舗において、本件レンタル事業が実施され、被告標章第1及び被告標章第2のコスチュームが使用されているか(争点1)
(2)富士河口湖店及び六本木店において、中間判決の口頭弁論終結時に、被告標章第1及び被告標章第2のコスチュームが使用されているか(争点2)
(3)一審被告会社が、平成27年6月4日の設立時から中間判決の口頭弁論終結時まで自ら又は関係団体と共同して、本件各店舗において本件レンタル事業を実施し、自ら又は関係団体と共同して、被告標章第1の使用行為、本件制作行為、本件宣伝行為、本件各ドメイン名の使用行為並びに本件貸与行為を行ったのか(争点3)
(4)不競法に基づく請求
ア 被告標章第1関係
(ア)被告標章第1の営業上の使用行為及び商号としての使用行為が不競法2条1項1号又は2号の不正競争行為に該当するか(争点4)
(イ)登録商標の抗弁の成否(争点5)
(ウ)使用差止め及び抹消請求の可否・範囲(争点6)
イ 被告標章第2関係
(ア)本件宣伝行為及び本件貸与行為が、不競法2条1項1号又は2号の不正競争行為に該当するか(争点7)
(イ)使用差止め及び抹消・廃棄請求の可否・範囲(争点8)
ウ 本件各ドメイン名関係
(ア)本件各ドメイン名の使用行為が不競法2条1項13号の不正競争行為に該当するか(争点9)
(イ)使用差止め及び登録抹消請求の可否・範囲(争点10)
(5)著作権に基づく請求
ア 本件写真2及び3並びに本件各動画が原告表現物の複製物又は翻案物に当たり、本件制作行為及び本件掲載行為が一審原告の複製権、翻案権、自動公衆送信権、送信可能化権を侵害するか(争点11)
イ 本件各コスチュームが原告表現物の複製物又は翻案物に当たり、本件貸与行為が、一審原告の貸与権を侵害するか(争点12)
(6)一審被告Yに対する損害賠償請求の可否(争点13)
(7)一審原告の損害額(争点14)
(8)反訴請求の可否(争点15)
4 争点に対する当事者の主張
 争点1〜5、7、9、11〜13及び争点14のうちLLP法15条に基づく抗弁に関する当事者の主張は、中間判決書記載のとおりである。
(1)争点6(使用差止め及び抹消請求の可否・範囲[被告標章第1関係])について
(一審原告の主張)
ア 一審被告会社による被告標章第1の使用行為は、本件訴訟提起後も継続しており、一審原告は、長年の営業努力によって獲得した営業上の信用にただ乗りされ、営業上の信用が損なわれることによって、営業上の利益を侵害されている。
イ (ア)一審被告らは、原判決が、営業上の施設及び活動において被告標章第1の使用を差し止めたことは不特定又は過剰な差止めであるなどと主張する。
 しかし、「本件レンタル事業」の定義は、「公道を走行することが可能なカート・・・のレンタルとそれに付随する事業」(原判決6頁8行〜10行)であり、原判決が「本件販売整備事業」と定義する一審被告会社の事業も「本件レンタル事業等に供される公道カートのメンテナンスサービス」というものであるから(原判決7頁7行〜11行)、被告標章第1を本件レンタル事業に使用する場合も、カートのレンタルに付随して本件レンタル事業に提供される公道カートのメンテナンスサービス事業に使用する場合も、誤認混同のおそれが認められる以上、営業上の施設及び活動における使用全般を差し止めた原判決は正当なものである。
(イ)一審被告らは、原判決が「外国語のみで記載されたウェブサイト等」のみを差止めの対象から除外したことが過剰であるなどと主張するが、「外国語のみで記載されたウェブサイト等」を差止めの対象から除外する理由は存在しない。
(ウ)一審被告らは、被告標章第1を抹消すべき範囲として挙げられている「カート車両」の特定が不十分であるなどと主張しているが、被告標章第1を「カート車両」で不正競争行為に該当する態様で使用する限り、そのような用途で用いられる被告標章第1は抹消されるべきであるから、一審被告らの主張するような事情があったとしても、その主張は失当である。
 また、一審被告会社が本件レンタル事業に主体的に関与し、少なくとも、関係団体を実質的に支配して、同団体と共同して本件レンタル事業を実施していることからすると、形式的には同団体がカート車両を所有していたとしても、一審被告会社が当該カート車両に記載された被告標章第1を抹消する義務を負う。
(一審被告らの主張)
ア ウェブサイト、公道カート及び店舗には打ち消し表示がされ、さらに、電子メールやタブレット端末にも打ち消し表示がされるなど、関係団体が様々な態様により打ち消し表示を行っていることからすると、被告標章第1の使用行為により、一審原告の営業上の利益が侵害され又は侵害されるおそれがあるとはいえない。
イ 差止めの対象となるのは、混同の結果を発生させる行為であって、当該行為以外の行為の差止めは許されないが、被告標章第1について、差止めや抹消を認めた原判決主文1、2項は、差止対象が不特定であるか、過剰な差止めである。
(ア)原判決主文1項は、「営業上の施設及び活動において、別紙被告標章目録第1記載1ないし4の各標章を使用してはならない。」として、全ての営業と使用行為について差止めを認めている。このような広範な差止めは、不特定であるか、過剰な差止めであって許されない。具体的には、原判決自身が、被告標章第1に係る誤信発生の場面を「ゲームシリーズ『マリオカート』に登場するキャラクターのコスチュームを利用者が着用するなどして公道カートを運転する」場合に限定しているから、このような具体的な事業内容による限定が必要である。
(イ)日本語との関係で被告標章第1の使用について、日本人が本件レンタル事業の提供するサービスを利用できないことの案内は、不正競争行為に該当しない。また、関係団体の店舗の住所の記載に被告標章第1を用いることも、日本語の記載があった方が日本人に道を尋ねる際に便利であるし、住所の記載が日本語であったからといって、需要者において混同の結果を発生させる行為に該当しないことは明らかである。
(ウ)日本語を解しない本件需要者については、被告標章第1が混同のおそれを生じさせないとした原判決の判断を前提とすると、被告標章第1に付随して、本件レンタル事業のサービス内容が日本語で説明されているかどうかが重要なのであって、ウェブサイトやチラシなどといった標章の使用態様自体は差止めの範囲とは無関係である。また、関係団体の店舗においては、警察の指導の下、外国語のみで案内される交通安全ルールの動画や雑誌、漫画等も提供されており、除外されるのが外国語のみで記載されたウェブサイト及びチラシの態様に限定されるべきではない。
(エ)関係団体は、大使館や米軍からの依頼により、大使館の敷地内や米軍基地内において、本件レンタル事業のサービスを提供することがある(乙104の1・2)。これらの場所では日本語を解する者がいないことから、このような場所での被告標章第1の使用が不正競争行為に該当しないことは明らかであるが、そのような態様の使用についてまで差止めの対象とするのは過剰である。
(オ)原判決主文2項は、「営業上の施設、広告宣伝物及びカート車両から被告標章第1を抹消せよ。」として、抹消の対象を「カート車両」としているが、これは特定として不十分であるか、過剰な差止めである。
 すなわち、「カート車両」には、外形的に異なる複数の種類が存在するが(乙105)、このうちの一部のみが差止めの対象となる。したがって、この点を特定しない原判決主文2項は過剰な差止めを認めるものであって、許されない。
 また、被告標章第1は、公道カートの車台番号やフレーム番号、エンジンの型式等に含まれて打刻・表示されている(乙106)。原判決主文2項に従えば、公道カートから、これらの表示を削除しなければならなくなるが、このような行為は、公道カートを盗難車と同様の状態にしてしまうため問題があり、差止めの対象から除外される必要がある。
 一審被告会社は、修理等のために第三者から公道カートの車両を預かることもあるが、同車両から被告標章第1の削除を行うことは第三者の所有権侵害となり違法であるため、同車両の所有者については、一審被告会社に限定される必要がある。
(2)争点8(使用差止め及び抹消・廃棄請求の可否・範囲[被告標章第2関係])について
(一審原告の主張)
ア 一審被告会社による被告標章第2の使用は本件訴訟提起後も継続しており、一審原告は、長年の営業努力によって獲得した営業上の信用にただ乗りされ、営業上の信用が損なわれることによって、営業上の利益を侵害されている。
イ 一審被告らは、「営業上の施設及び活動において、被告標章第2を使用してはならない。」とする原判決の主文3項に関して、不特定又は過剰な差止めであると主張するが、商品等表示の「使用」は、「他人の商品等表示を自他識別機能又は出所識別機能を果たす態様で」、「商品又は営業に用いることを指す」とされていて、それ自体明確な概念である(甲191)。
 一審被告らは、原判決の主文によると、本件訴訟に無関係な行為が禁止されることになり問題であるなどとも主張するが、一審被告らが主張する行為は、いずれも一審原告と一審被告会社との間に緊密な営業上の関係又は同一の表示の商品化事業を営むグループに属する関係が存在すると誤信させる行為に該当するから、禁止されて当然である。
(一審被告らの主張)
ア 本件各写真及び本件各動画は既に削除され、本件マリオ人形も撤去され、関係団体は、現在では本件各コスチュームを着用しての接客は行っていない。
イ 原判決は、不競法に基づく被告標章第2の差止請求には「コスチュームを使用(貸与)することの禁止を求める請求が含まれると解され」るとしており、弁論主義に反する違法があるし、著作権法に基づく請求と不競法に基づく請求は、差止めが認められる範囲が異なり、これを選択的併合とするのは誤りである。
 原判決主文3項は、「営業上の施設及び活動において、別紙被告標章目録第2を使用してはならない」として抽象的に被告標章第2の「使用」を禁じているが、これは不特定又は過剰な差止めである。関係団体が、店舗周辺で開催される商店街のイベントや、米軍のイベント等の際に、本件各コスチュームを含む様々なコスチュームを貸与したり、8人のツアー客の1人に対してのみ本件各コスチュームを貸与したりするような誤認混同のおそれがなく、不正競争行為に該当しない行為まで差止めの対象になってしまう。
 また、不競法5条3項2号にいう「使用」が、「譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する」という行為を含む広い概念であるとすると、「使用」差止請求を認容するためには、「譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する」行為の全てについて差止めの必要性が主張立証されなければならないが、本件で一審被告会社が本件各コスチュームを「輸出」することを差し止める必要性があることは主張立証されていない。
 さらに、原判決主文3項における被告標章第2の「使用」の差止めに関する判断は、原判決が、著作権法に基づく「複製」禁止請求について、差止めの対象が不特定であることを一つの理由にこれを棄却していることとも均衡を失する。
(3)争点10(使用差止め及び登録抹消請求の可否・範囲[本件各ドメイン名関係])について
(一審原告の主張)
 一審被告会社は、本件各ドメイン名を使用して開設したウェブサイトにおいて本件掲載行為を行うことによって本件レンタル事業を行っているのであり、一審原告の営業上の利益が侵害されている。
(一審被告らの主張)
 一審被告会社又は関係団体が本件各ドメイン名を使用しているとしても、様々な態様により打ち消し表示を行っていることからすると、当該使用行為により、一審原告において、事業活動に対する信用等の営業上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがあるとはいえない。
 また、原判決主文5項は、差止めの対象から、「外国語のみで記載されたウェブサイトのために使用する場合」のみを除外しているが、一切の日本語の使用を禁止している点で過剰な差止めである。本件レンタル事業のサービス内容とは直接関係ない部分に日本語が使用されていたとしても、営業上の利益の侵害はないから、サービス内容の記載と関連させることなく、一律に日本語の記載を排除する原判決主文5項は、過剰な差止めである。
(4)争点14(一審原告の損害額)について
(一審原告の主張)
ア 売上額
 中間判決の認定によると、損害賠償請求の算定の基礎となる売上げは、被告会社の設立日である平成27年6月4日から平成30年10月31日までの本件各店舗の全売上げである。
(ア)本件各店舗の営業期間
 本件各店舗は、遅くとも以下の日から営業を開始している。
a 品川第1号店
 一審被告会社の売上げが最初に発生した平成27年8月1日から営業を開始した(乙59)。
b 渋谷店、秋葉原第1号店及び秋葉原第2号店
 平成28年9月9日時点に一審被告会社が開設していたウェブサイト(甲232)によると、渋谷店、秋葉原第1号店及び秋葉原第2号店は、遅くとも平成28年9月9日には営業を開始していた。
c 大阪店
 一般人のツイッターの投稿(甲233)及び報道(甲234)によると、大阪店は平成28年10月15日に営業を開始した。
d 沖縄店
 インターネット上の記事(甲235)によると、沖縄店は平成28年9月1日に営業を開始した。
e 品川第2号店
 現地調査報告書(甲236)によると、品川第2号店は遅くとも平成29年9月21日には営業を開始していた。
f 東京ベイBBQ店
 平成29年8月30日にユーザーがフェイスブックに一審被告会社の東京ベイBBQ店を利用した旨のレビューを投稿し、同店が返信の投稿を行っていること(甲237)からすると、同店は遅くとも同日には営業を開始していた。
g 横浜店
 横浜店のフェイスブックのページには、平成29年9月2日に同店が営業開始した旨が投稿されている(甲238)から、同店は同日から営業を開始した。
h 京都店
 京都店の宣伝動画(甲200の1)において、同店は平成30年4月に開店することが告知されているから、同店は同月1日に営業を開始した。
i 浅草店
 インターネット上の記事(甲239)によると、浅草店は平成29年8月21日から営業を開始した。
j 富士河口湖店
 富士河口湖店のフェイスブックにおける投稿(甲240)によると、同店は平成28年7月31日から営業を開始した。
k 六本木店
 六本木店のFacebookにおける初めての投稿が平成28年9月21日に行われていること(甲241)から、同店は、遅くとも同日には営業を開始していたことが認められる。
(イ)本件各店舗の利用者数
 以下の各証拠に表れた利用者数を踏まえると、本件各店舗1店舗当たりの1日の利用者数は、少なくとも平均して40名である。
a 一審被告らが、平成29年2月から同年4月頃にかけて実施したアンケートの結果(乙14の1。以下「本件アンケート」という。)及び一審被告ら代理人が、控訴審の第1回弁論準備手続期日において、本件アンケートが品川第1号店におけるものであると発言したことからすると、上記期間中に品川第1号店を利用してアンケートに回答した者が少なくとも2131名は存在したことが認められ、回収率が100%ではないことを考慮すると、実際の利用者数はより多かったと推認される。
 本件アンケートの最初の日付は平成29年2月17日であり、最後の日付は同年4月10日であるから、両日の間がアンケート実施期間であると仮定して、上記期間中に本件アンケートに回答した利用者数を前提とした算定を行うと、品川第1号店の1日の利用者数の平均は少なくとも40名を超える(2131名÷52日=40.98)。
 なお、上記期間中、最も多数の利用者が確認できたのは平成29年4月4日で、この1日だけで、132名もの者が品川第1号店を利用している。また、当該期間中、アンケートの回答者が100人を超えたことが確認できたのは、平成29年3月18日、19日及び4月2日、4日、5日、6日と合計6日に及んでいる。
b 一審被告らが提出した本件事実実験に係る公正証書(乙92の1〜3。以下「本件事実実験公正証書」という。)によると、品川第1号店、渋谷店、秋葉原第1号店、大阪店及び沖縄店について、以下の利用者がいたことが明らかになっている。
 ・品川第1号店平成30年11月8日午後0時20分頃から午後2時50分頃までの約2時間半で18名
 ・渋谷店平成30年11月8日午後3時30分頃から午後5時30分頃までの約2時間で8名
 ・秋葉原第1号店平成30年11月15日午後0時20分頃から午後3時30分頃までの約3時間で25名
 ・大阪店平成30年11月8日午後1時40分頃から午後4時10分頃までの約2時間30分で5名
 ・沖縄店平成30年11月14日午後1時30分から午後3時20分までの約2時間で16名
 上記数字及び上記各店舗の営業時間(甲143の1〜5)から本件事実実験が行われた日の1日の利用者数を計算すると、
 ・品川第1号店85名
 ・渋谷店48名
 ・秋葉原第1号店100名
 ・大阪店20名
 ・沖縄店96名
 と算出され、その平均は約70名となる。
c 原判決後の平成30年10月12日には品川の店舗周辺で1度に12名の利用者が参加したツアーが確認されており(甲156)、大阪店についても1度に10名以上の利用者が参加したツアーが複数確認されていて(甲243の1〜6)、このようなツアーが1日に4回程度行われると、本件各店舗1店舗当たりの1日の利用者数は40名に達する。
 また、平成30年11月16日には秋葉原第1号店から徒歩2分程度の距離の駐車場に少なくとも50台のカートと1台の三輪自動車が駐車されており(甲159)、本件各店舗が想定している利用者は相当多数に上る。
 そして、大阪店には、店舗内にツアー用として存在したコスチュームだけでも、136着が存在しており(乙92の2)、また、Googleマップ上で、平成29年9月にユーザーが大阪店において行った投稿(甲245)によると、大阪店には25台以上のカート車両が駐車されていた。
(ウ)本件各店舗の利用者1人当たりの売上額
 本件各店舗においては、選択するツアーの内容、店舗、時期において複数の選択肢が存在するところ、本件需要者が、日本において観光の体験等として公道カートを運転してみたい一般人、とりわけ、比較的若年の成年層であり、現地の運転に不慣れで時間内に観光地を回って店舗に戻ってくるためにはガイドを必要とする可能性が高いこと、外国人向けのウェブサイトでは、ガイド付きのツアーしか記載がないこと、本件各店舗の多くでは、ガイド付きの2時間のツアーが設けられており、このツアーが中間を意味する「MIDDLE」コースと名付けられていて(甲143の1・2・5)、同ツアーが標準的なものであることなどを踏まえると、基本的にはガイド付き2時間のツアーの料金を、それがない各店舗については、別表1の上段に記載した一般料金に対応する各ツアー(渋谷店につきガイド付きの1時間ツアー、秋葉原第2号店につきガイド付きの1時間半ツアー、京都店につきガイド付きの3時間ツアー、六本木店につき「目立ち度No.1当店お勧めツアー」)の料金を売上額の算定の基礎となる利用料金とするのが相当である。
 また、本件各店舗においては、SNSやブログで自身の体験を投稿すると、割引料金(以下「SNSレビュー料金」という。)の適用を受けることができる割引サービスを実施しているところ、利用者のうち、半数がSNSレビュー料金の適用を受ける(残りの半数は一般料金の適用を受ける)ものとして、一般料金とSNSレビュー料金の平均値を本件各店舗の利用者1人当たりの利用料金として算定するのが相当である。
 そして、本件各店舗の多くで、コスチュームのレンタルが通常のサービスの中に組み込まれていたことや一審被告会社がチラシに「マリオのコスプレをして乗ればリアルマリオカート状態!」(甲3)と記載した宣伝をし、テレビ番組でも「大人気レースゲームのコスプレで楽しむのが定番」と紹介されていたこと(甲43の13)などからすると、利用者のほとんどはコスチュームをレンタルしているものと考えられるから、追加料金を支払うとコスチュームをレンタルすることができるオプションを設定していた店舗については、コスチュームのレンタル料金を売上額の算定の基礎となる利用料金に含めるべきである。
(エ)本件各店舗の売上高
 以上からすると、平成27年6月4日から平成30年10月31日までの間の本件各店舗における1人当たりの利用料金は、別表1の「期間ごとの利用料金」欄の上段記載の一般料金と下段記載のSNSレビュー料金を平均した額となり、上記期間における売上高の合計は、別表1のとおり、25億4431万5000円となる。
イ 料率
 中間判決は、一審原告の「MARIOKART」表示及び原告文字表示マリオカート並びに原告表現物(以下、併せて「原告商品等表示」という。)が本件需要者の間で著名であることを認めている。
 原告商品等表示は、一審原告による長年にわたる不断の努力の結果、著名性を獲得しているものであり、幅広い製品等において商品化されるなど広告宣伝に利用されている(甲16)上、特に「マリオ」は、日本文化を代表する象徴の一つとして世界中から大きな注目を浴びている(甲47)。一審被告らの本件レンタル事業は、このような極めて強い顧客吸引力を有する著名な商品等表示を使用していたものであって、知財高裁の大合議判決(知財高裁平成30年(ネ)第10063号令和元年6月7日判決)の趣旨や侵害態様の悪質性などの諸事情を踏まえて考えると、料率は15%を下らない。
ウ 本件の損害額
(ア)前記ア、イからすると、一審被告らの本件各店舗における被告標章第1、被告標章第2及び本件各ドメイン名の使用行為に対し、一審原告が「受けるべき金銭の額に相当する額」は、3億8164万7250円(25億4431万5000円×15%=3億8164万7250円)となる。
(イ)弁護士費用
 一審被告らによる不正競争行為と相当因果関係のある弁護士費用相当損害金は、本件の内容、一審被告らの侵害行為の悪質性及び訴訟追行の状況といった事情から考えて通常の事案より高額に認められるべきであり、3816万4725円を下らない。
(ウ)小括
 よって、一審被告会社は、不競法4条に基づき、一審被告Yは会社法429条1項に基づき、連帯して4億1981万1975円(25億4431万5000円×15%+3816万4725円=4億1981万1975円)の損害賠償義務を負うところ、一審原告は、一審被告らに対し、その一部である5000万円の支払を求める。
(一審被告らの主張)
ア本件各店舗の売上額
(ア)富士河口湖店の売上げ及び1日当たりの利用者数
 富士河口湖店を運営するPLAN−Sの確定申告書(乙124の1〜3)からすると、本件レンタル事業に係る売上げは、@平成28年6月8日から平成29年5月31日までが●●●●●●●●●、A同年6月1日から平成30年5月31日までが●●●●●●●●●、B同年6月1日から平成31年5月31日までが●●●●●●●●●であり、一審原告が主張する富士河口湖店の対象営業期間が、平成28年7月31日から平成30年10月31日までであることを踏まえて、上記@、Bの金額について日割計算を行うと、一審原告が主張する主張する期間における富士河口湖店の本件レンタル事業に係る売上げは、●●●●●●●●●となる。
 また、上記売上げ、上記期間の日数(823日)、富士河口湖店の利用者1人当たりの利用料金が6840円であることから、富士河口湖店の1日当たりの平均利用者数を算定すると、●●●●●●●●●●●●●÷823日÷6840円≒●●)となる。
(イ)本件各店舗の営業期間
 品川第1号店が平成27年8月1日に営業を開始したことは争わず、その他の店舗の営業開始日については不知。
(ウ)本件各店舗の利用者数
a(a)本件アンケートは、当時、品川組合が運営していた品川第1号店及び渋谷店で実施されたものであり、平成29年2月17日から同年4月10日までの52日間に2131件回収されていて、回収率は100%であることから、品川第1号店及び渋谷店の上記期間における1店舗当たりの1日の平均利用者数は、約20名(2131件÷52日÷2店舗≒20名)と計算される。
 平成29年4月4日の本件アンケートの回答者は132名であるが、品川第1号店の店舗前に駐車できる公道カートの台数が14台であり、ツアーには最低でも2時間半を要し、午前10時から開店するとしても、1日に最大4回しかツアーを催行できないから、品川第1号店の1日の利用者数は、最大でも70名(14×5=70)であり、1日に132名の利用者に対してサービスを提供することは不可能である。上記132名という数字からしても、本件アンケートが2店舗で行われたことが裏付けられる。
 また、富士河口湖店の1日の平均利用者数が●●であることを踏まえると、本件アンケートから導かれる20名という数字を、何の合理的な根拠もなく、品川第1号店及び渋谷店以外の店舗において適用することは許されない。
 さらに、本件アンケートの対象期間が2月から4月という春の観光に適した気候の時期で、本件レンタル事業の利用者も、1年で最も多くなる時期の一つと考えられることから、1日の利用者数20名という数字は、1年間の中でもピークの数字と考えられる。このため、1年という期間でみると、本件各店舗当たりの1日の利用者数は、20名よりさらに小さい数字となることが合理的に推認される。
(b)一審原告は、本件アンケートが品川第1号店のみのものであることについて、一審被告ら代理人の控訴審の第1回弁論準備手続期日における発言を根拠として主張するが、一審被告ら代理人はそのような発言はしていない。
b(a)損害額を算定するに当たっては、蓋然性に疑いがある場合には、控え目な算定方法が採用されるべきであるところ、本件事実実験公正証書(乙92の1〜3)の利用者の人数は、品川第1号店が18名、渋谷店が8名、秋葉原第1号店が25名、大阪店が5名、沖縄店が16名の合計72名であることから、1店舗当たりの1日の平均利用者数は14名(72名÷5≒14名)である。
 一審原告は、事実実験が行われた時間外にも利用者が存在したことを前提として主張するが、利用者が存在しなかった蓋然性があるため、考慮されるべきではない。
(b)本件事実実験公正証書についての一審原告の主張は誤導的である。
 渋谷店について、一審原告は、本件事実実験時(平成30年11月8日午後3時30分頃から午後5時30分頃まで)の約2時間における利用者数が8名としているが、本件事実実験公正証書(乙92の1)に「本職が、店舗に到着した直後に、4名の顧客がカートに乗って帰ってきた。」とあることから、公証人が渋谷店に到着した後にツアーに参加したのは、この4名を除いた4名であり、実際の利用者数は4名である。
 大阪店についても、本件事実実験公正証書(乙92の2)には、「公道カートツアーは、毎日午後1時、午後4時、午後7時に出発するところ・・・事実実験当日も、既に午後1時には出発しており、それには外国人4名・・・が参加しているとのことであった。」、「午後4時出発予定のツアー客が、午後3時ころから来店した」と記載され、利用者のうち4名が午後1時のツアーに、残りの1名が午後4時のツアーに参加したことは明らかといえるが、一審原告は、あたかも2時間半に5名全員が一斉にツアーに出発したことを前提とし、かつ、上記ツアー回数に係る記載(3回)を無視して利用者の計算を行っている。
 このような誤導的な主張は、品川第1号店、秋葉原第1号店及び沖縄店についても同様にされている。
c 一審原告は、品川にある店舗と大阪店の2店舗において、10名以上の利用者が参加されたことを示す6枚の写真から、あたかも、本件各店舗の全店舗の全ツアーにおいて、毎回10人もの参加者が参加し、しかも、それが1日に4回連続することを前提として、本件各店舗において、毎日40名の利用者が本件レンタル事業を利用したと主張するが、これは本件事実実験公正証書のツアー1回当たりの人数やツアーの回数と整合しない。
 また、本件各店舗において、対象営業日数に係る延べ日数は全13店舗で8579日であるところ、一審原告が示した数字は、多く見積もっても、そのうちのわずか7日分にすぎず、残りの8572日において、1回のツアーで10人の人数が参加したかどうかは不明である。
d 一審原告は、駐車場に50台の公道カートと1台の三輪自動車が駐車されていることを、40人という数字の根拠として挙げるが、三輪自動車は公道カートではなく、本件レンタル事業とは無関係である。また、利用者数と関係するのは、実際に店舗で使用される公道カートであるところ、駐車場に置かれていた公道カートは、その時点で本件レンタル事業に使用されていなかったものであるから、一審原告の主張を基礎付けるものではない。レンタカー事業においては、道路運送車両法47条の2に基づき、1日1回の点検が義務付けられ(同条2項)、点検の結果、「保安基準に適合しなくなるおそれがある状態又は適合しない状態にあるとき」は、「必要な整備」が求められる(同条3項)から、車両を多めにストックしておくことは、法令遵守のための当然の対応であり、上記駐車場に駐車されていた公道カートも、整備中の車両であったことが合理的に推認される。
e 一審原告は、7件もの現地調査(甲4、145、157、222、236、257)を実施しているから、本件各店舗の利用者数についても当然に調査を実施していると考えられる。それにもかかわらず、一審原告がその調査結果を提出できないのは、その利用者数が一審被告らの主張に近い数字であるか、それよりも少ない数字であるからである。
f 以上からすると、本件各店舗における1日当たりの平均利用者数は、以下の計算式により、●●●と算定されるべきである。
(計算式)
(20名[本件アンケートにおける品川第1号店及び渋谷店の1日当たりの平均利用者数]+14名[本件事実実験公正証書に表れたMariCAR店舗の平均利用者数]+●●[富士河口湖店の1日当たりの平均利用者数])÷3≒●●●
(エ)本件各店舗の利用者1人当たりの売上額
 本件レンタル事業の利用者がコスチュームをレンタルする場合、レンタル料金は、一切徴収されていない上、実際には、利用者は、SNSレビュー料金のみを支払っていて、一般料金は適用されていない(甲4、甲6の1、甲145、157、236)。
 また、本件レンタル事業の利用料金については、学生用向けの10%割引(乙127の1)、37%の割引(乙127の2)、50%の割引(乙127の3・4)などが実施されている上、中間判決でも、大阪店の利用者が、京都店での50%割引を提示されたと認定されている。割引率は平均で約24%((0%+10%+37%+50%)÷4≒24%)であるから、売上げの算定においては、一審原告の主張するSNSレビュー料金から24%減額した料金で計算する必要がある。
(オ)営業日数の補正について
a 本件各店舗の存在があまり認識されていない営業開始初期から、安定した数の利用者が訪れるとの前提は合理性を欠く。
 本件レンタル事業の利用者数は、営業開始当初は低く、徐々に売上げが高まっていく傾向にある。本件各店舗では、営業開始から8か月が経過した後に、ようやく安定した売上げが計上されるようになることが合理的に推認される(乙59)。一審原告の推計のように、1日に同数の利用者がいると仮定して計算する場合には、営業開始後8か月間の売上げは、実質的に、その半分の期間(4か月)の売上げと評価するのが相当であるから、富士河口湖店を除く本件各店舗の売上げ算定においては、それぞれの対象営業期間から4か月分の日数(120日)を控除する補正が必要である。
b また、本件レンタル事業は天候による影響が不可避であり、そのような観点から営業日数の補正を行う必要がある。
(a)本件レンタル事業は、公道カートのレンタルを中心とする事業で、屋外で行われるものであり、雨天の場合、運転者のコスチュームに雨が染み込み、公道カートの走行に伴う気化熱によって、体温が奪われる。また、視界も不良で、周囲の景色を楽しむこともできない。風が強い台風の場合や雪の場合なども同様であり、本件各店舗のウェブサイトにも「天気が悪いとき、又は天気予報で雨の確率が高い場合はいつでも無料でキャンセルや変更ができます。」と記載されている(乙128の1〜10)。
 また、運営者側が天候不良を理由に営業を休止することもあり、六本木店は、令和元年10月12日及び同月13日に、台風を理由として閉店している(乙134の13)。
 したがって、天気が雨や雪の日については、本件レンタル事業の利用者は存在しないと考えられるため、この点を踏まえた営業日数の補正が必要である。1日雨の日と雪の日、半日が雨の日と雪の日の数をカウントし、晴れの日である通常の営業日と比較して、その1日又は半日に0.1しか価値がないと評価し、当該カウントした数に0.9を乗じた数を、当該期間から控除すべきである。
(b)近時の日本では1日の最高気温が40度に達することも多く、道路上の温度は、さらに高温となるが、外気温が高温の場合に、人体に悪影響が出るのは周知の事実である。このような場合、少なくとも1日の気温が高くなる午前中から午後3時頃までの間に、屋外でコスチュームを着用して、公道カートを運転する行為は、熱中症で倒れることも考慮すると、通常できない行為である。
 したがって、1日の最高気温が35度を超える日についても、少なくとも、1日のうち、その3分の1は、本件レンタル事業の利用者は存在しないと考えられるから、1日の最高気温が35度を超える日について、日数に3分の1を乗じたものを期間から除外して、営業日数の補正を行うべきである。
(カ)本件各店舗の売上高
 以上の検討及び本件各店舗の所在地の過去の天気(乙132の1〜5)からすると、本件各店舗の売上高は、別表2のとおり、合計で●●●●●●●●●●●●となる。
 なお、著名なコーヒーショップであるスターバックスの例(乙136)からすると、一審原告が主張するように、1店舗当たりの売上高が1億円程度あるとすると、少なくとも数百の単位で店舗が展開されていたとしても不合理ではないところ、一審原告の主張に係る本件各店舗の店舗数は13店舗にすぎない。また、横浜店は近時閉店しており(乙137、138)、本件レンタル事業が必ずしも順調に推移するものではないことが分かる。
イ 料率
 以下のとおり、本件の料率は、本件各ドメイン名を使用している店舗については3%、本件各ドメイン名を使用していないSTREETKART店舗については2.5%となる。
(ア)本件レンタル事業については、公道をカートで走行すること自体がその新規性等から高い顧客吸引力を有しているから、料率は、0か少なくとも大幅に軽減されるべきである。
 現在、本件各店舗では、被告標章第1に係る「maricar」等の表示及び本件各ドメイン名を使用しておらず、被告標章第2に係る一審原告のマリオシリーズのコスチュームも貸与していない(乙134の1〜13)が、本件レンタル事業は、各種外部の評価サイト等において、高い人気を維持し続けている(乙135)。この事実は、過去においても、本件レンタル事業が、被告標章第1、被告標章第2及び本件各ドメイン名の使用に依存して利用者を集めていたのではなく、本件レンタル事業の魅力自体が高い顧客吸引力を有し、利用者を集めていたことを強く示唆する。
(イ)本件各店舗のウェブサイトや店舗内には、一審原告又は一審原告のマリオカートとの関連性を否定する様々な打ち消し表示が実施されていた(乙92の1〜3、乙93の1〜5)から、本件レンタル事業の利用者は、遅くとも本件レンタル事業に係るサービスの提供を受ける時点で、上記関連性の不存在を知っていたといえ、被告標章第1の使用行為は、本件レンタル事業の売上げに何ら貢献していない。
 また、一審被告会社は、平成30年3月22日に、その商号を株式会社マリカーから変更しており、この事実も、料率の算定に当たり、適切に考慮される必要がある。
(ウ)本件事実実験の際に本件各店舗において用意されていたマリオシリーズのコスチュームの割合は、わずか3.5%にすぎず、実際に、このコスチュームを着用していた利用者の割合も、23.8%にすぎない(乙92の1〜3)。また、その他の証拠(甲224、乙120)からも本件各コスチュームの着用割合が、4.4%にすぎないことが明らかとなっている。本件レンタル事業において、本件貸与行為が売上げに貢献した割合は、極めて低い。
 被告標章第2の使用についても、打ち消し表示について前記(イ)と同様のことが妥当し、被告標章第2は、実際には売上げに貢献していないから、被告標章第2の使用に係る料率の算定についても、料率は、0か大幅に軽減される必要がある。
(エ)本件各店舗のうち、STREETKART店舗は、本件各ドメイン名を使用していないから、同店舗における本件各ドメイン名の使用に係る料率は0である。
(オ)不競法2条1項1号又は2号の不正競争行為を理由に損害賠償が認められた過去の裁判例では、いかに商品等表示が著名であったとしても、一審原告が主張するような15%もの料率を認めたものは存在せず、せいぜい5%程度であり、本件では前記のように料率が大幅に軽減されるべき事情も認められるから、過去の裁判例に照らし、15%もの料率が認められることはあり得ない。
 また、不競法2条1項13号の不正競争行為に関して、過去の裁判例で認められた料率は、売上げの0.5パーセントである。
ウ 本件における損害額
 以上のア、イからすると、本件で認められる損害金の額は、別表2のとおり、●●●●●●●●●となる。
 なお、弁護士費用については争う。
(5)争点15(反訴請求の可否)について
(一審被告会社の主張)
ア (ア)別紙コスチューム目録記載のコスチュームからは、別紙反訴被告表現物目録記載の各キャラクターの表現上の本質的特徴を感得することはできない。したがって、一審原告が主張する複製権、翻案権、自動公衆送信権、送信可能化権の侵害の主張には理由がなく、一審原告は、一審被告会社が上記各コスチュームを着用した人物を撮影した写真や映像をインターネット上のウェブサイトにアップロードする行為について、著作権法112条1項に基づく差止請求権を有していない。
(イ)一審被告会社は、関係団体が安全のための対策を適切に講じていることの紹介として、一審被告会社のウェブサイトに以下にあるような写真を掲載することを検討しているが、仮に一審原告が主張するとおり、別紙コスチューム目録記載のマリオのコスチュームをウェブサイトにアップロードする行為が、原告表現物マリオの著作権を侵害するものであるとすると、一審被告会社が、自社のウェブサイトで以下にあるような写真を掲載することは違法ということになってしまうから、別紙コスチューム目録記載のコスチュームを着用した人物の写真又は映像を自社サイトに掲載することにつき、一審原告が著作権法112条1項に基づく差止請求権を有さない旨を確認することにより保護される権利利益がある。
イ 本件反訴は、本訴の目的である請求と関連する請求であるし、防御の方法と関連する請求ともいえる(民訴法146条1項)。
 また、一審原告と一審被告会社は、原審において本件各コスチュームが、原告表現物の複製物又は翻案物に当たるか否かについて十二分に主張を戦わせてきたから、一審原告の審級の利益を害することはなく、一審原告の同意は不要である。
(一審原告の主張)
ア 一審原告は、一審被告会社による控訴審での反訴提起に同意しない。
イ @一審被告会社が、審理を求める範囲に含まれる写真及び映像の数は、極めて多数かつ多種多様に及び、本件反訴が、原審で審理されていない写真及び映像を含む、より広範な審理対象を設定するものであること、A本件反訴が、手続の遅延を目的としたものであること、B本件反訴について、確認の利益がないことからすると、同意は必要であるし、本件反訴の提起は、著しく訴訟手続を遅滞させるものである。
第3 当裁判所の判断
1 争点1〜5、7、9、11〜13及び争点14のうちLLP法15条に基づく抗弁に関する裁判所の判断は、中間判決書に記載のとおりである。
 なお、証拠(甲229〜231、乙113の4)及び弁論の全趣旨によると、浅草店の運営に関与している関係団体は、SAMURAI.Nets株式会社であると認められる。
2 争点6(使用差止め及び抹消請求の可否・範囲[被告標章第1関係])及び争点8(使用差止め及び抹消・廃棄請求の可否・範囲[被告標章第2関係])について
(1)被告標章第1及び被告標章第2の使用差止請求について
 本判決の「第2事案の概要」の2(4)、(5)及び中間判決書の「第3当裁判所の判断」の1〜6のとおり、一審被告会社は、平成27年6月4日の会社設立時から自ら又は関係団体と共同して、被告標章第1及び被告標章第2を使用して、不競法2条1項2号所定の不正競争行為を行い、これによって一審原告の営業上の利益を侵害したものである。
 上記認定の不正競争行為の中には既に中止されているものがあるが、一審被告会社が、被告標章第1及び被告標章第2の使用が不正競争行為に該当することを争っていることや中止された行為を再開することは容易であると考えられることからすると、一審被告会社によって、既に中止された行為を含めて上記認定の不正競争行為がされるおそれがあるということができる。
 したがって、一審原告は、一審被告会社に対し、不競法3条1項に基づき、営業上の施設及び活動について、被告標章第1及び被告標章第2を使用しないように求めることができる。
(2)被告標章第1及び被告標章第2に関する抹消請求について
ア 被告標章第1の抹消請求について
 一審被告会社は、令和元年6月10日の時点において、本件各店舗では、被告標章第1のいずれも使用されていないとして、本件各店舗のウェブサイトの画面(乙134の1〜13)を証拠として提出している。
 しかし、本判決の「第2事案の概要」の2(4)エ及び中間判決書の「第3当裁判所の判断」の1、2で認定しているとおり、被告標章第1はウェブサイト以外でも使用されているのであるから、上記証拠のみで、被告標章第1の使用行為が全て中止されたとは認められず、その使用行為は依然として継続しているものと推認される。したがって、一審原告は、不競法3条2項に基づき、一審被告会社に対し、営業上の施設、広告宣伝物及びカート車両から、被告標章第1を抹消することを求めることができる。
イ 本件各動画の廃棄請求について
 本件各動画は、いずれも一審被告会社が単独又は関係団体と共同して、本件レンタル事業を広く紹介するためにアップロードしたものと認められ(中間判決書の「第3当裁判所の判断」の6(2)ウ(イ))、その制作も一審被告会社によって行われたものと認められる。
 そして、本件各動画のデータは、上記のとおり広告宣伝用のものであるから、不正競争行為とならない利用方法があるとはいえない。
 したがって、一審原告は、不競法3条2項に基づき、一審被告会社に対し、本件
各動画のデータの廃棄を求めることができる。
(3)一審被告らの主張について
 一審被告らは、@原判決の被告標章第1及び被告標章第2の使用を差し止める主文(主文1項及び3項)は、不特定かつ過剰な差止めであり、原判決が、著作権法に基づく複製禁止請求について、差止めの対象が不特定であることを理由にこれを棄却していることとの均衡を失する、A日本人が本件レンタル事業を利用できないことの案内や関係団体の店舗の住所の記載に被告標章第1を用いること、大使館の敷地や米軍基地内等で本件レンタル事業を実施することは不正競争行為に当たらず、また、商店街等の要望に応じて本件各コスチュームを貸与することや複数のツアー客の1人に対してのみ本件各コスチュームを貸与することは不正競争行為に当たらないが、このような不正競争行為とならない場合まで、差止めの対象となってしまう、Bカート車両に複数のものがある上、被告標章第1を抹消することは公道カートを盗難車と同様の状態にするものであるし、また、第三者が所有するカート車両がある、C本件各コスチュームを輸出することについて差止めの必要性が主張立証されていない、以上のようなことからすると、「営業上の施設及び活動」において被告標章第1及び被告標章第2の「使用」を差し止めたり、カート車両から被告標章第1の抹消を命じたりすることは、不特定又は過剰であると主張する。
ア 被告標章第1及び被告標章第2の使用の差止めを認める主文(本判決主文1項及び原判決主文3項)は、差止めの対象が特定されており、過剰な差止めということはできない。
 また、不競法に基づく差止めと著作権法に基づく複製禁止請求とは、差止めの対象が異なっているから、それについての判断と均衡を失することはない。
イ 本件レンタル事業との関連で被告標章第1及び被告標章第2を業務において使用する行為は、広く不正競争行為に該当するのであって、一審被告らが上記Aで挙げる例は、いずれも不正競争行為に該当する。
ウ カート車両が複数種類あるとしても、差止めの対象となる「カート車両」の特定に欠けるとはいえない。
 また、被告標章第1を除去することで、一審被告会社の主張するような不都合が生じるとしても、改めて手続等をやり直すことが全く不可能であるとは認められず、それをもって差止めが過剰であるということはできない。
 さらに、第三者所有のカート車両があるとしても、一審被告会社は、関係団体と共同して本件レンタル事業を営み、公道カートに被告標章第1を付していたと認められ、被告標章第1を抹消する権限も有していると推認できるから、一審被告会社に対して、カート車両からの被告標章第1の抹消を命じることが過剰な差止めであるということはできない。
エ 不競法2条1項2号の「使用」とは、著名な商品等表示と同一又は類似の商品等表示を商品又は営業との関連において業務に用いることをいうのであって、その使用態様には様々なものが考えられるとしても、それに含まれる個々の態様全てについて不正競争行為が認められないと、使用の差止めを命ずることができないということはないから、「営業上の施設及び活動」についての「使用」の差止めを認めたからといって、それが過剰であるとか、不特定であるとはいえない。
オ 以上からすると、一審被告らの主張は、いずれも前記(1)、(2)の判断を左右するものではない。
 なお、一審被告らは、不競法に基づく被告標章第2の使用差止請求に本件貸与行為の禁止請求が含まれるとした原判決に弁論主義に反する違法があるとも主張するが、不競法に基づく被告標章第2の使用差止請求の中に本件貸与行為の禁止請求が含まれるものと認められるから、違法な点はない。
3 争点10(使用差止め及び登録抹消請求の可否・範囲[本件各ドメイン名関係])について
(1)本判決の「第2 事案の概要」の2(4)、(6)及び中間判決書の「第3 当裁判所の判断」の7のとおり、一審被告会社は、本件各ドメイン名を使用して、不競法2条1項13号に該当する不正競争行為を行い、これによって一審原告の営業上の利益を侵害したものである。
 一審被告らは、現時点において、本件各ドメイン名が使用されていないとして、本件各店舗のウェブサイトの画面(乙134の1〜13)を証拠として提出するものの、一審被告会社が自ら使用していた本件ドメイン名2(maricar.co.jp)の使用が中止されているかは、上記証拠からは明らかではなく、その他に本件ドメイン名2の使用を中止したことを認めるに足りる証拠はない。また、一審被告会社が本件各ドメイン名の使用が不正競争行為に該当することを争っており、かつ、使用を再開することが容易であることからすると、仮に本件ドメイン名2以外のドメイン名の使用が現時点で中止されているとしても、今後、その使用が再開されるおそれがあるといえる。
 したがって、一審原告は、一審被告会社に対し、不競法3条1項に基づき、本件各ドメイン名の使用禁止を求めるとともに、同条2項に基づき、本件ドメイン名2の登録の抹消を求めることができる。
(2)一審被告らは、本件各ドメイン名の使用を一律に禁止するのは過剰な差止めであると主張する。
 しかし、一審被告会社は、不正の利益を得る目的をもって、本件各ドメイン名を使用した者であるから、一律にその使用を禁じたとしても、過剰な差止めであるということはできない。
4 争点14(一審原告の損害額)について
(1)一審被告らの責任
 中間判決書の「第3当裁判所の判断」の1〜7及び9のとおり、一審被告会社による被告標章第1及び被告標章第2の使用は不競法2条1項2号所定の不正競争行為に、本件各ドメイン名の使用は同項13号所定の不正競争行為に、それぞれ該当し、これらの行為によって一審原告の営業上の利益が侵害されたものと認められ、一審被告会社には、これらの行為について少なくとも過失が認められるから、一審被告会社は、一審原告に対し、不競法4条に基づき、一審原告の請求に係る、一審被告会社が設立された平成27年6月4日から平成30年10月31日までの間に一審原告に生じた損害を賠償する責任を負う。
 また、一審被告Yについては、中間判決書の「第3当裁判所の判断」の8のとおり、悪意又は重過失による任務懈怠が認められるから、一審被告Yは、会社法429条1項に基づき、一審被告会社と連帯して上記損害を賠償する責任を負う。
(2)売上額の認定
ア 算定の基礎となる売上げ
 公道カートのレンタルとそれに付随する事業である本件レンタル事業が、本件各店舗において実施されるものであることからすると、本件各店舗における本件レンタル事業の売上げは、不競法5条3項1号及び4号に基づく損害算定の基礎となるものといえるから、以下、一審原告主張の損害賠償請求期間(平成27年6月4日から平成30年10月31日まで)における本件各店舗の本件レンタル事業に係る売上額について検討する。
イ 本件各店舗の営業開始日
(ア)品川第1号店
 品川第1号店が平成27年8月1日から営業を開始したことは、当事者間に争いがないから、同店は同日に営業を開始したと認められる。
(イ)渋谷店、秋葉原第1号店及び秋葉原第2号店
 一審被告会社が平成28年9月9日時点で開設していたウェブサイト(甲232)に渋谷店、秋葉原第1号店及び秋葉原第2号店が紹介されていたことからすると、渋谷店、秋葉原第1号店及び秋葉原第2号店は、遅くとも同日時点で営業を開始していたものと認められる。
(ウ)大阪店
 一般人のツイッター(甲233)に本件ロゴと共に「MARICAROSAKA2016.10.15GRANDOPEN」と記載されていること、インターネット上の記事(甲234)にも平成28年10月にオープンしたと記載されていることからすると、大阪店は同月15日から営業を開始したと認められる。
(エ)沖縄店
 沖縄店を紹介するインターネットの記事(甲235)に平成28年9月1日にオープンしたとの記載があることからすると、同店は同日から営業を開始したと認められる。
(オ)横浜店
 横浜店のフェイスブック(甲238)に平成29年9月2日から営業を開始したとの記載があるから、同店は同日から営業を開始したと認められる。
(カ)京都店
 京都店の宣伝動画(甲200の1・2)で平成30年4月にオープンする旨が告知されていること及び弁論の全趣旨からすると、同店は同月1日から営業を開始したと認められる。
(キ)浅草店
 利用者がインターネット上に書いた記事(甲239)に平成29年8月21日にオープンしたと記載されているから、浅草店は同日から営業を開始したと認められる。
(ク)品川第2号店
 現地調査報告書(甲236)によると、品川第2号店は、遅くとも平成29年9月21日時点で営業を開始していたものと認められる。
(ケ)東京ベイBBQ店
 利用者のフェイスックにおける投稿(甲237)からすると、東京ベイBBQ店は、遅くとも平成29年8月30日時点で営業を開始していたものと認められる。
(コ)六本木店
 六本木店によるフェイスブックの最初の投稿が平成28年9月21日にされていること(甲241)からすると、同店は、遅くとも同日時点で営業を開始していたものと認められる。
(サ)富士河口湖店
 富士河口湖店が平成28年7月30日にフェイスブック上に「明日31日(日)8:00」にオープンする旨記載していること(甲240)からすると、同店は、同月31日から営業を開始したと認められる。
ウ 本件各店舗における1日当たりの平均利用者数
(ア)事実関係
 証拠及び弁論の全趣旨によると、本件各店舗に関し、以下の事実が認められる。
a 本件アンケート
 本件アンケートは、品川組合により実施されたものであり、日付が確認できるもののうち、最も早い日付は平成29年2月17日であり、最も遅い日付は同年4月10日である(乙14の1・2、弁論の全趣旨)。本件アンケートでは、合計で2131名の利用者からアンケートが回収されている(当事者間に争いのない事実)。
b 品川第1号店
 品川第1号店の営業時間は午前10時から午後10時までであり、平成28年11月15日(火)の日中に一審原告の依頼によって行われた調査時に10〜13名程度の利用者が品川第1号店に来店していた(甲4、甲6の1、甲143の1、甲246の1、乙41の1、乙93の1、乙128の2、乙134の5)。
 本件事実実験が実施された平成30年11月8日(木)には、午後0時20分頃から午後2時50分頃までの約2時間30分の間に、3組合計18名の利用者が、従業員がガイドを務めるツアーに出発した(乙92の1)。
 品川第1号店前には合計14台の公道カートを駐車できるスペースが用意されている上、本件事実実験当時、店舗内には利用者に貸し出されているもの以外に72着のコスチュームが用意されていた(甲4、乙92の1、弁論の全趣旨)。
c 渋谷店
 渋谷店の営業時間は、午前10時から午後10時までであり、本件事実実験が実施された平成30年11月8日(木)午後3時30分頃から午後5時30分頃までの約2時間の間に4名の利用者がツアーから帰ってきた上、それとは別に2組合計8名の利用者が、従業員がガイドを務めるツアーに出発した(甲143の3、甲248、乙41の7、乙92の1、乙93の3、乙128の5、乙134の4)。
 本件事実実験当時、店舗内には利用者に貸し出されているもの以外に64着のコスチュームが用意されていた上、店内に4、5台程度の公道カートが駐車されていた(乙92の1)。
d 秋葉原第1号店
 秋葉原第1号店の営業時間は午前10時から午後10時までであり、本件事実実験が実施された平成30年11月15日(木)の午後0時20分頃から午後3時30分頃までの約3時間10分の間に、5組合計25名の利用者が、従業員がガイドを務めるツアーに出発した(甲143の2、甲144の1、乙41の6、乙92の1、乙93の2、乙128の4、乙134の1)。
 秋葉原第1号店は、多数の公道カートが駐車できる約200平方メートル以上の駐車場を店舗の近隣に有しており、本件事実実験時に多数の公道カートが同駐車場に駐車されていた上、一審原告による調査時にも50台程度の公道カートが同駐車場に駐車されていた(甲159、乙92の1)。
 本件事実実験当時、店舗内には利用者に貸し出されている以外に108着のコスチュームが用意されていた(乙92の1)。
e 大阪店
 大阪店の営業時間について、観光情報に関するウェブサイトであるTripAdvisor(甲210の5)では午前10時から午後10時までとされている上、TOKYOCHEAPOのウェブサイト(甲258)には、大阪店と思われる店舗について午前10時からツアーの予約が可能である旨の記載があるものの、大阪店のウェブサイト(甲143の4、甲144の3、甲247、乙41の8、乙126の1・2、乙128の8、乙134の9)では午後0時から午後10時までとされており、これは、下記の大阪店の代表者の説明とも符合するから、その営業時間は、午後0時から午後10時までと認める。
 本件事実実験が実施された平成30年11月8日(木)当時、大阪店の代表者は、午後1時、午後4時、午後7時にツアーが行われると説明し、午後1時40分頃から午後4時10分頃までの約2時間30分の間に、午後1時のツアーに参加していた利用者4名が帰って来るとともに、5名の利用者が1組となって午後4時のツアー(なお、いずれのツアーも従業員がガイドを務めていた。)に出発した(乙92の2)。
 大阪店には、少なくとも25台以上の公道カートが用意されており、10名以上の利用者が参加しているツアーを撮影した写真が複数回インターネット上に投稿されている(甲243の1〜6、甲245)。本件事実実験が実施された当時、店舗内には136着のコスチュームが用意されていた(乙92の2)。
f 沖縄店
 沖縄店の営業時間は午前10時から午後10時までであり、本件事実実験が実施された平成30年11月14日(水)当時、午後1時30分から午後3時20分までの1時間50分の間に、従業員がガイドを務めるツアーが2回催行され、同ツアーに合計16名が参加した(甲143の5、甲144の4、乙41の9、乙92の3、乙128の10、乙134の11)。
 沖縄店は、店舗前に駐車場を備えており、平成30年10月24日(水)の日中に一審原告の依頼によって行われた調査時には28台程度の公道カートが駐車されていた(甲145、乙92の3)。
 本件事実実験が実施された当時、店舗内には81着のコスチュームが用意されていた(乙92の3)。
g 品川第2号店
 品川第2号店の営業時間は午前11時から午後9時までであり、平成29年9月21日(木)の日中に一審原告の依頼によって行われた調査時には、店舗内には10台程度の公道カートがあり、少なくとも20着程度のコスチュームが用意されていた(甲143の6、甲236、乙113の1、乙128の3、乙134の6)。
h 秋葉原第2号店
 秋葉原第2号店の営業時間は午前10時から午後10時までであり、平成30年10月17日(水)の日中に一審原告の依頼によって行われた調査時には、店舗内には30着程度のコスチュームが用意されており、別に設けられた駐車場には約20台の公道カートが駐車されていた(甲143の7、甲157、249、乙113の2、乙128の1、乙134の2)。
i 浅草店
 浅草店の営業時間は平成29年9月25日時点では午前9時から午後8時までであり、遅くとも平成30年11月12日以降は午前9時30分から午後9時30分までであった(甲143の9、甲250、乙113の4、乙128の7、乙134の3)。
 平成29年8月27日に浅草店が投稿したツイートには、少なくとも十数着のコスチュームが用意されている様子を撮影した写真が用いられており、浅草店の利用者が投稿したツイートでは、平成29年9月4日の時点で、浅草店には公道カートが15台用意されていると記載されていた(甲158の3、乙119の1)。
j 東京ベイBBQ店
 東京ベイBBQ店の営業時間は午前10時から午後10時までである(甲143の8、乙113の3、乙128の6、乙134の7)。
 TripAdvisorでは、公道カートが多数駐車されている倉庫状の建物が、東京ベイBBQ店として紹介されており、平成30年11月12日や平成31年1月12日の時点で、同じ建物の写真が東京ベイBBQ店のウェブサイトに掲載されていた(甲143の8、甲210の10、乙113の3、乙135)。
k 横浜店
 横浜店の営業時間は、午前10時から午後10時までである(甲143の10、乙113の5、乙134の8)。
 横浜店は、かなりの数の公道カートを駐車することができる駐車場を確保して営業しており、令和元年6月10日時点ではウェブサイトを開設していたが、令和元年11月26日の時点で、ウェブサイトから横浜店の記載がなくなり、横浜店の所在地とされていた場所では、現在、本件レンタル事業は実施されていない(乙134の8、乙137、138)。
l 京都店
 京都店の営業時間は午前10時から午後8時までである(甲143の11、乙113の6、乙128の9、乙134の10)。
 京都店の代表者が作成した陳述書(乙118)の写真によると、京都店には少なくとも数十着のコスチューム(京都店では乙118の写真に写っているコスチュームのほかに本件各コスチュームも使用されていると認められることは、中間判決書「第3当裁判所の判断」1(1)オ及び(2)ウのとおりである。)が用意されており、公道カートも9台程度用意されている。
m 六本木店
 六本木店の営業時間は、午前10時から午後8時までである(甲252)。エコカートのウェブサイト(乙117)に掲載された写真によると、六本木店には少なくとも10台程度の公道カートが用意されていて、9名程度の者が同時にツアーを利用することがあった。
d 富士河口湖店について、そのウェブサイト(甲6の2)やフェイスブック(甲212の4)に記載された営業時間が10〜12時間であること、平成28年7月31日から現在まで営業を継続しており、少なくとも店舗維持に必要な支出を上回る売上げがあると推認されることからすると、一審被告らが提出するPLAN−Sの確定申告書(乙124の1〜3)に記載された売上高は、低額にすぎる。しかし、他方で、富士河口湖店について、観光がオフシーズンとなる期間について営業を休止していたり、PLAN−Sが別に行うハウスクリーニング事業(乙124の1〜3)で本件レンタル事業の赤字を補てんしていたりするなどの可能性があることからすると、上記確定申告書の数字を全く信用できないとして排斥することまではできないから、富士河口湖店の売上げについては、上記確定申告書に基づいて算定する。
 なお、一審被告らは、平成28年6月8日から平成29年5月31日までに計上された確定申告書のレンタル業の売上高●●●●●●●●●を日割り計算し、平成28年7月31日から平成29年5月31日までの売上高が●●●●●●●●●であると主張するが、前記認定のとおり、富士河口湖店が営業を開始したのが平成28年7月31日であって、本件レンタル事業の売上げも同日以降から発生したものと認められるから、同日から平成29年5月31日までの売上げとしては確定申告書(乙124の1)に記載された●●●●●●●●●と認定すべきである。
 そうすると、平成28年7月31日から平成30年10月31日までの間の富士河口湖店における売上高は、以下の計算式のとおり、●●●●●●●●●となる。
(計算式)●●●●●●●●●+●●●●●●●●●+●●●●●●●●×153÷365≒●●●●●●●●●(一円未満四捨五入)
e 一審被告らは、@本件アンケートの対象期間が2月から4月からという春の観光に適した気候の時期であることを考慮すべきである、A本件事実実験時の渋谷店の実際の利用者は4名であり、大阪店では4名が午後1時のツアーに、残りの1名が午後4時のツアーに参加したものであり、その他の店舗についても一審原告の主張は誤導的である、B1日当たりの平均利用者の認定に当たり、本件事実実験が行われた日において、本件事実実験で認識された客以外の者は来なかったと考えるべきである、C駐車場に置かれていた公道カートは整備中のものであると推認でき、そこから直ちに利用者数を推認することはできない、D利用者数についても調査をしていたはずの一審原告が、利用者数に関する証拠を提出していないことから実際の利用者数の少なさが推認されると主張する。
(a)上記@について、本件アンケートが実施された期間には2月や3月上旬という、気温が低く、観光に最適とはいい難い時期が含まれているから、一審被告らの主張は前提を欠くといえる。また、前記(ア)b、cのとおり、11月の平日の限られた時間内に品川第1号店において10〜13名や18名、渋谷店に12名の利用者がいたことからすると、本件アンケートの期間が、とりわけ利用者の多い時期であったということもできない。
(b)上記Aについて、渋谷店について、乙92の1の25頁下から7行目から26頁2行目に「本職が、店舗に到着した直後に、4名の顧客がカートに乗って帰ってきた。・・・(なお、本職が到着直後で準備が間に合わなかったため、・・・写真撮影や国籍確認等することできなかったことから、後記一覧表には載せていない。)」とあり、さらに、同頁3行目以下に続けて「その後、本職が店舗に滞在した間、別紙4顧客の国籍等一覧表記載のとおり、合計8名の顧客が、カートツアーに参加した・・・」とあるから、公証人は、渋谷店に12名の利用者がいて、うち8名が滞在中に新たにツアーに出発したことを確認していると認められる。
 大阪店についても、乙92の2の8頁下から2行目から9頁11行目には、「・・・本件店舗の公道カートツアーは、毎日午後1時、午後4時、午後7時に出発するところ、事実実験当日も、既に午後1時には出発しており、それには外国人4名と店舗スタッフ2名が参加しているとのことであった。・・・午後2時30分ころにツアー客2名と店舗スタッフ1名が帰着し、午後3時ころにツアー客2名と店舗スタッフ1名が帰着した。・・・上記顧客4名の国籍はマレーシア2名、オーストラリア2名であった。・・・」とあり、さらに、同頁12行目以下に続けて「午後4時出発予定のツアー客が、午後3時ころから来店した。最初の2名について・・・その国籍は、2名ともアメリカ合衆国であった・・・次の2名について、・・・その国籍は2名とも中国(ホンコン)であった・・・、最後の1名について、・・・その国籍は中国(ホンコン)であった・・・」と記載されているから、公証人は午後1時のツアーに参加した利用者4名と、午後4時のツアーに参加した利用者5名の合計9名の利用者を確認していると認められる。
 その他、本件事実実験当日の状況については、前記(ア)b〜f認定のとおりである。
(c)上記Bについて、前記(ア)b〜fのとおり、本件事実実験で公証人が各MariCAR店舗に滞在していたのは、平日の日中の1時間50分〜約3時間10分という限られたものであり、MariCAR店舗の営業時間に照らし、それ以外の時間に全く利用者がいないと想定することは、かえって不自然であるから、本件事実実験に表れた数字を考慮要素の一つとして、前記aのようにMariCAR店舗の利用者数を認定することは何ら不合理ではない。
(d)上記Cについて、駐車場に置かれた公道カートが全て整備中のものであったとは認められず、整備や故障のために余裕をもって公道カートを用意する必要性があることを考慮したとしても、前記a〜cのとおり認定することができる。
(e)上記Dについて、本件に証拠として提出されたもの以外に一審原告が本件各店舗の利用者数を把握する調査をしていたことを認めるに足りる証拠はなく、証拠及び弁論の全趣旨から本件各店舗の平均利用者数が認定できるのはこれまで検討してきたとおりである。(f)以上からすると、一審被告らの上記主張は、いずれも前記a〜dの認定を左右するものとはいえない。
エ 本件各店舗における利用者1人当たりの平均的な利用料金
(ア)事実関係
 証拠及び弁論の全趣旨によると、本件各店舗の利用料金について以下の事実が認められる。
a 品川第1号店
 品川第1号店のウェブサイト(以下、コース及び利用料金の認定については、特に断らない限り、本件各店舗のウェブサイトによることとする。)によると、平成28年8月12日時点で、ガイド付きのツアーについて、1時間コースの一般料金が3500円、SNSレビュー料金が3000円、2時間コースの一般料金が6500円、SNSレビュー料金が5000円、3時間コースの一般料金が1万0500円、SNSレビュー料金が7000円であり、コスチュームのレンタル料金(車両の運転者)は、一般料金が750円、SNSレビュー料金が500円であった(甲35)。
 平成29年2月23日時点で、ガイド付き1時間コースの一般料金が5000円、SNSレビュー料金が4000円、2時間コースの一般料金が8000円、SNSレビュー料金が6000円、3時間コースの一般料金が1万1000円、SNSレビュー料金が8000円であり、コスチュームのレンタル料金は無料とされていた(甲6の1・4)。
 平成29年6月30日、同年8月10日、同年10月2日及び同年11月14日の時点で、ガイド付きのツアーについて、コスチュームのレンタル料金込みで、1時間コースの一般料金が6000円、SNSレビュー料金が5000円、2時間コースの一般料金が8000円、SNSレビュー料金が7000円、3時間コースの一般料金が1万円、SNSレビュー料金が9000円であった(甲74、甲102の1、甲246の1・2、乙41の1、弁論の全趣旨)。
 平成30年11月12日時点で、ガイド付きツアーについて、コスチュームのレンタル料金込みで、MIDDLE(1.5時間〜2時間)コースの一般料金が9000円、SNSレビュー料金が7500円、LONG(2.5時間〜3時間)コースの一般料金が1万2000円、SNSレビュー料金が1万円であった(甲143の1)。
b 渋谷店
 渋谷店のウェブサイトによると、平成29年9月25日及び同年10月2日時点で、ガイド付きツアーについて、コスチュームのレンタル料金込みで1時間コースの一般料金が7000円、SNSレビュー料金が5000円であった(甲248、乙41の7)。
 平成30年11月12日時点で、ガイド付きツアーについて、コスチュームのレンタル料金込みで1時間コースについて、一般料金が8000円、SNSレビュー料金が7000円であった(甲143の3)。
c 秋葉原第1号店
 秋葉原第1号店のウェブサイトによると、平成29年10月2日時点で、ガイド付きツアーについて、コスチュームのレンタル料金込みで、2時間コースの一般料金が8000円、SNSレビュー料金が7000円であった(乙41の6)。平成30年5月7日及び同年11月12日時点で、ガイド付きツアーについて、コスチュームのレンタル料金込みで、MIDDLE(1.5時間〜2時間)コースが一般料金9000円、SNSレビュー料金7500円、LONG(2.5時間〜3時間)コースが一般料金1万2000円、SNSレビュー料金1万円、ボートクルーズ付きのLONGコースが一般料金1万5000円、SNSレビュー料金1万2000円であった(甲132の1、甲143の2)。
d 大阪店
 大阪店のウェブサイトによると、平成28年12月18日時点で、ガイド付きツアーについて、コスチュームのレンタル料金込みで、2時間コースが一般料金8000円、SNSレビュー料金6000円、3時間コースが一般料金1万円、SNSレビュー料金8000円であった(甲247)。
 平成29年10月2日の時点で、ガイド付きツアーについて、コスチュームのレンタル料金込みで、2時間コースが一般料金9000円、SNSレビュー料金7000円であった(乙41の8)。
 平成30年11月12日時点で、ガイド付きツアーについて、コスチュームのレンタル料金込みで、2時間コースが一般料金9000円、SNSレビュー料金7500円であった(甲143の4)。
e 沖縄店
 沖縄店のウェブサイトによると、平成29年10月2日時点で、ガイド付きツアーについて、コスチュームのレンタル料金込みで、1時間コースが一般料金7000円、SNSレビュー料金5000円で、2時間コースが一般料金9000円、SNSレビュー料金7000円であった(乙41の9)。
 平成30年11月12日時点で、ガイド付きツアーについて、コスチュームのレンタル料金込みで、SHORT(1時間)コースが一般料金6000円、SNSレビュー料金5000円、MIDDLE(2時間)コースが一般料金9000円、SNSレビュー料金7500円であった(甲143の5)。
f 品川第2号店
 一審原告の依頼によって調査が行われた平成29年9月21日時点で、ガイド付きツアーについて、コスチュームのレンタル料金込みで、2時間コースの料金が7000円であった(甲236、弁論の全趣旨)。
 品川第2号店のウェブサイトによると、平成30年11月12日時点で、ガイド付きツアーについて、コスチュームのレンタル料金込みで、MIDDLEコースが一般料金9000円、SNSレビュー料金7500円、LONGコースが一般料金1万2000円、SNSレビュー料金1万円であった(甲143の6)。
g 秋葉原第2号店
 秋葉原第2号店のウェブサイトによると、平成29年9月25日時点で、ガイド付きツアーについて、コスチュームのレンタル料金込みで、1時間半コースが一般料金6000円、SNSレビュー料金5000円であった(甲249)。
 平成30年11月12日時点で、ガイド付きツアーについて、コスチュームのレンタル料金込みで、SHORTコースが一般料金6000円、SNSレビュー料金5000円であった(甲143の7)。
h 東京ベイBBQ店
 東京ベイBBQ店のウェブサイトによると、平成30年11月12日時点で、ガイド付きツアーについて、コスチュームのレンタル料金込みで、MIDDLEコースが一般料金9000円、SNSレビュー料金7500円、ボートクルーズ付きのMIDDLEコースが一般料金1万2000円、SNSレビュー料金1万円、LONGコースが一般料金1万2000円、SNSレビュー料金1万円、ボートクルーズ付きのLONGコースが一般料金1万5000円、SNSレビュー料金1万2000円であった(甲143の8)。
i 横浜店
 横浜店のウェブサイトによると、平成30年11月12日時点で、ガイド付きツアーについて、コスチュームのレンタル料金込みで、MIDDLEコースが一般料金9000円SNSレビュー料金7500円であり、LONGコースが一般料金1万2000円、SNSレビュー料金1万円であった(甲143の10)。
j 京都店
 京都店のウェブサイトによると、平成30年11月12日時点で、ガイド付きツアーについて、コスチュームのレンタル料金込みで、3時間コースが一般料金1万2000円、SNSレビュー料金1万円であった(甲143の11)。
k 浅草店
 浅草店のウェブサイトによると、平成29年9月25日時点で、ガイド付きツアーについて、コスチュームのレンタル料金込みで、2時間コースの一般料金が8000円、SNSレビュー料金が7000円であった(甲250)。
 平成30年11月12日時点で、ガイド付きツアーについて、コスチュームのレンタル料金込みで、MIDDLEコースが一般料金1万円、SNSレビュー料金7500円であった(甲143の9)。
l 六本木店
 六本木店のウェブサイトによると、平成28年12月18日時点で、ガイド付きツアーについて、コスチュームのレンタル料金込みで、「まずはお試し!東京タワー!六本木ドライブツアー!」が利用料金4000円、「目立ち度No、1当店お勧めツアー!」が利用料金6000円(なお、同料金はオープン記念の特別価格であり、通常料金は8000円)であった(甲252)。
 平成29年5月14日時点で、ガイド付きツアーについて、コスチュームのレンタル料金込みで、「まずはお試し!東京タワー!六本木ドライブツアー!」が利用料金4000円、「目立ち度No、1当店お勧めツアー!」が利用料金8000円であった(甲253)。
 平成29年8月26日時点で、ガイド付きツアーについて、コスチュームのレンタル料金込みで、「大満足都心激走3時間ツアー」が一般料金1万1000円、SNSレビュー料金9000円、「目立ち度No、1当店お勧めツアー!」が一般料金8750円、SNSレビュー料金7000円、「まずはお試し!東京タワー!六本木ドライブツアー!」が一般料金6250円、SNSレビュー料金5000円であった(甲254)。
(イ)本件需要者が、観光の体験等として公道カートを運転してみたい一般人で、訪日外国人がその多くを占めていること(中間判決書の「第3当裁判所の判断」の4(1))、現に本件事実実験時に観察された利用者のほとんどがガイド付きツアーを利用していたこと及び本件各店舗のウェブサイトにはガイド付きツアーの紹介しかないものが多数あることからすると、本件レンタル事業の利用者のほとんどはガイド付きツアーを利用すると認められる。
 また、本件各店舗では、SNSで自身の体験を投稿するなどした場合に適用されるSNSレビュー料金という割引料金が設定されていたところ、一審原告の依頼による調査時(甲145、157、236)の料金と前記(ア)認定の料金とを対比すると、いずれもSNSレビュー料金のみが適用されていると認められることからすると、本件各店舗ではSNSレビュー料金が適用されることが多かったものと認められる。加えて、後記(ウ)のとおり、本件各店舗において、SNSレビュー料金以外の割引がされる事例がなかったわけではないことからすると、利用者1人当たりの平均的な利用料金については、ガイド付きツアーのSNSレビュー料金(六本木店においてはそれ以外にも証拠上認定できる割引料金)に基づいて認定するのが相当である。
 さらに、前記(ア)で認定した本件各店舗におけるコース及び料金の設定の詳細並びにその変遷の過程からすると、2時間コース又はMIDDLEコースの価格帯のサービスが、本件レンタル事業において、その中核をなしていたと認められるから、利用者1人当たりの平均利用料金を認定するに当たっては、2時間コース又はMIDDLEコースの価格帯のガイド付きツアーのSNSレビュー料金(上記価格帯のツアーがない渋谷店、秋葉原第2号店、京都店及び六本木店については、後記のとおり)をもって算定の基礎とすることが相当である。
 そして、前記(ア)aのとおり、一時期、品川第1号店について、コスチュームのレンタル料金が設定されていたものの、その後、品川第1号店を含め、本件各店舗でコスチュームのレンタル料金がツアーの料金に包含されるようになっていることからすると、コスチューム料金の加算は行わないこととするのが相当である。
 以上に、一審被告らが一審原告の主張する利用料金の額それ自体について積極的な反論をしていないことを考慮して、本件各店舗における利用者1人当たりの平均的な利用料金を認定することとする。
 なお、一審原告は、平成28年12月18日、平成29年6月30日、平成30年5月7日に本件各店舗で一斉に同じタイミングで利用料金が変動したことを前提とした主張をしているが、本件各店舗のコースや料金の設定が完全に同じではなく、同一のタイミングで値上げがされたとまでは認められないから、料金の変動は、それが証拠上確認できる時点で生じたと認めるのが相当である。
a 品川第1号店
 品川第1号店の利用者1人当たりの平均利用料金は、前記(ア)aで認定した平成28年8月12日以降、平成29年2月23日以降、平成29年6月30日以降のそれぞれの各時期における2時間コースのガイド付きツアーのSNSレビュー料金を算定の基礎とし、平成28年8月12日より前については、一審原告の主張(SNSレビュー料金5000円)を考慮して、別表3の「品川第1号店」の「利用料金」欄記載のとおり認定するのが相当である。
b 渋谷店
 渋谷店の利用者1人当たりの平均利用料金は、平成29年9月25日以降については、前記(ア)bで認定した1時間コースのガイド付きツアーのSNSレビュー料金5000円をもって算定の基礎とし、それより前については、一審原告の主張(SNSレビュー料金3000円)を考慮して、別表3の「渋谷店」の「利用料金」欄記載のとおり認定するのが相当である。
c 秋葉原第1号店
 秋葉原第1号店の利用者1人当たりの平均利用料金は、平成29年10月2日以降については、前記(ア)cで認定した2時間コースのガイド付きツアーのSNSレビュー料金7000円をもって、平成30年5月7日以降については、前記(ア)cで認定したMIDDLEコースのガイド付きツアーのSNSレビュー料金7500円をもって、それぞれ算定の基礎とし、平成29年10月2日より前については、一審原告の主張(SNSレビュー料金5000円)を考慮して、別表3の「秋葉原第1号店」の「利用料金」欄記載のとおり認定するのが相当である。
d 大阪店
 大阪店の利用者1人当たりの平均利用料金は、平成28年12月18日以降については、前記(ア)dで認定した2時間コースのガイド付きツアーのSNSレビュー料金6000円をもって、平成29年10月2日以降については、前記(ア)dで認定した2時間コースのガイド付きツアーのSNSレビュー料金7000円をもって、それぞれ算定の基礎とし、平成28年12月18日より前については、一審原告の主張(SNSレビュー料金5000円)を考慮して、別表3の「大阪店」の「利用料金」欄記載のとおり認定するのが相当である。
e 沖縄店
 沖縄店の利用者1人当たりの平均利用料金は、平成29年10月2日以降については、前記(ア)eで認定した2時間コースのガイド付きツアーのSNSレビュー料金7000円をもって算定の基礎とし、それより前については、一審原告の主張(SNSレビュー料金5000円)を考慮して、別表3の「沖縄店」の「利用料金」欄記載のとおり認定するのが相当である。
f 品川第2号店
 品川第2号店の利用者1人当たりの平均利用料金は、前記(ア)f、(イ)で認定した2時間コースのガイド付きツアーのSNSレビュー料金7000円と認定するのが相当である。
g 秋葉原第2号店
 秋葉原第2号店の利用者1人当たりの平均利用料金は、平成29年9月25日以降については、前記(ア)gで認定した1時間半コースのガイド付きツアーのSNSレビュー料金5000円をもって算定の基礎とし、それより前については、一審原告の主張(SNSレビュー料金3000円)を考慮して、別表3の「秋葉原第2号店」の「利用料金」欄記載のとおり認定するのが相当である。
h 東京ベイBBQ店
 東京ベイBBQ店の利用者1人当たりの平均利用料金は、前記(ア)h認定の平成30年11月12日時点でのコースや料金の設定(MIDDLEコースのガイド付きツアーのSNSレビュー料金7500円)及び一審原告の主張するSNSレビュー料金7000円を基礎にして、別表3の「東京ベイBBQ店」の「利用料金」欄記載のとおり認定するのが相当である。
i 横浜店
 横浜店の利用者1人当たりの平均利用料金は、前記(ア)i認定の平成30年11月12日時点でのコースや料金の設定(MIDDLEコースのガイド付きツアーのSNSレビュー料金7500円)及び一審原告の主張するSNSレビュー料金7000円を考慮して、別表3の「横浜店」の「利用料金」欄記載のとおり認定するのが相当である。
j 京都店
 京都店の利用者1人当たりの平均利用料金は、前記(ア)j認定の平成30年11月12日時点でのコースや料金の設定(3時間コースのガイド付きツアーのSNSレビュー料金1万円)及び一審原告の主張するSNSレビュー料金9000円を基礎にして、別表3の「京都店」の「利用料金」欄記載のとおり認定するのが相当である。
k 浅草店
 浅草店の利用者1人当たりの平均利用料金は、平成29年9月25日以降については、前記(ア)kで認定した2時間コースのガイド付きツアーのSNSレビュー料金7000円を算定の基礎とし、それより前については、一審原告の主張(SNSレビュー料金7000円)を考慮して、別表3の「浅草店」の「利用料金」欄記載のとおり認定するのが相当である。
l 六本木店
 六本木店の利用者1人当たりの平均利用料金は、平成28年12月18日以降については、前記(ア)lで認定した「目立ち度No、1当店お勧めツアー!」(前記(ア)l認定の事実からすると、他の店舗の2時間又はMIDDLEコースのガイド付きツアーに相当するものと認められる。)の料金(割引料金が適用されている場合には同料金)をもって算定の基礎とし、同日より前については、一審原告の主張(料金6000円)を考慮して、別表3の「六本木店」の「利用料金」欄記載のとおり認定するのが相当である。
(ウ)一審被告らは、証拠(乙127の1〜4)等に基づき、本件各店舗では、各種の割引が実施されているから、利用者1人当たりの平均的な利用料金を算定するに当たっては、SNSレビュー料金から更に24%減額すべきであると主張する。
 しかし、乙127の1は、令和元年11月9日に取得されたウェブサイトで、「10%オフ」との記載があるものの、ウェブサイト自体には割引がいつから実施されるかについての記載はないから、上記割引が、本件の損害賠償請求期間において実施されていたものとは認められない。
 乙127の2のウェブサイトは、令和元年11月9日に取得されたもので、「東京ストリートゴーカティング」について「37%オフ」との記載があり、乙127の2のウェブサイトをクリックした先の別のウェブサイト(甲258)には、浅草店の1時間コースの利用料金が30%オフで7000円であり、それが最低利用料金であること、秋葉原にある店舗の最低利用料金が7000円であること、大阪店の利用料金が25%オフで最低利用料金が4500円であること、京都店の利用料金が16%オフで最低利用料金が7500円であることなどの記載がある。しかし、浅草店の7000円という利用料金は、前記(イ)kで認定した同店の平均利用料金(2時間コースで7000円)と同額であるから、同店の平均利用料金の認定を左右するものとはいえない。秋葉原にある店舗の7000円という利用料金も、前記(イ)cで認定した別表3記載の秋葉原第1号店の平均利用料金(5000円〜7500円)及びその推移との対比並びに上記割引がいつから適用されているか明らかではないことからすると、秋葉原第1号店の平均利用料金の認定を左右するものとはいえない上、前記(イ)gで認定した秋葉原第2号店の平均利用料金よりも高額なものであるから、同店の平均利用料金の認定を左右するものとはいえない。大阪店及び京都店についても、ウェブサイト(甲258)の上記最低利用料金は、1時間コースの利用料金である可能性が高いことや上記の割引がいつからされているのか明らかではないことからすると、前記(イ)d、jの大阪店及び京都店の平均利用料金の認定を左右するものとはいえない。
 乙127の3のウェブサイトは、令和元年11月9日に取得されたもので、同日時点で90人が最大50%オフのクーポンを購入していることが示されているにすぎず、本件の損害賠償請求の対象となっている期間においてどこまで割引が適用されていたのかは明らかではない。
 乙127の4のウェブサイトから、大阪店において、8月20日から25日までの間に50%割引が実施されていたことが分かるが、それが本件の損害賠償請求の対象となる期間内にされたものであるかは不明である。
 また、甲221によると、利用者の1人が平成30年9月頃に京都店の3時間のツアーについて50%割引を提示された旨の記載があるが、そのような割引がどの程度実施されているかは明らかではない。
 以上からすると、一審被告らの主張するところを考慮しても、SNSレビュー料金から更に24%減額するのは相当ではなく、前記(イ)の認定は左右されない。
オ 営業日数
(ア)弁論の全趣旨によると、本件各店舗において、定休日は設けられていなかったと認められることからすると、本件各店舗の営業開始日から損害賠償請求期間の終期である平成30年10月31日までの間の本件各店舗の営業日数は、別表3の各店舗における「合計日数」欄記載のとおりであると認められる。
(イ)一審被告らは、営業開始初期には本件各店舗の存在があまり認識されていないとして、税理士の陳述書(乙59)を根拠に富士河口湖以外の本件各店舗について、店舗ごとに営業開始日から約4か月分の日数(120日)を控除すべきであると主張する。
 本件レンタル事業が認知されていない中で、営業開始初期から安定した売上げを上げることが一般的には困難であると考えられることからすると、本件各店舗の中で最も先に営業を開始した品川第1号店については、一審被告らの主張するとおり、営業開始日から120日目までは、売上げがなかったものとして計算することとする。
 もっとも、その他の本件各店舗について、前記イで認定したとおり、@いずれも品川第1号店の営業開始から約1年〜2年8か月後に営業を開始しており、特に平成28年については、同年7月から10月までの短期間に、渋谷店、秋葉原第1号店、秋葉原第2号店、大阪店、沖縄店、富士河口湖店及び六本木店の7店舗が相次いで営業を開始しており、本件レンタル事業は、その頃には、既に相当程度認知を得ていたと推認できること、A一審被告会社も、同時期の平成28年10月頃にしていた求人広告(甲59の2)の中で、「国内外で大きな注目を集める・・・」、「全国各地から出店依頼が多数あり、全国展開を“求められている”状態です。」、「当社はこれまでの1年でビジネスの運用を固め、大きな実績を残しましたので、ここから爆発的に事業規模を拡大させます。」などとして、本件レンタル事業が同時点頃に国内外で広く認知されるに至った旨の記載をしていたこと、B大阪店について、平成28年10月15日の営業開始から2か月も経過しない同年12月12日にインターネットのニュース(甲234)や一般人のツイート(甲233)で取り上げられており、その時点で既に相当程度の認知度を得ていたと認められることからすると、品川第1号店以外の本件各店舗については、品川第1号店に比してより早く安定的な売上げを上げられるようになったと推認できる。したがって、売上げをなかったとする期間については、品川第1号店以外の店舗については、品川第1号店の半分の60日として計算する(すなわち、営業開始後から約4か月経過後からは安定的に売上げを上げるようになったとする。)のが相当である。
 税理士の陳述書(乙59)は、以上の認定を左右するものではない。
(ウ)一審被告らは、雨や雪の日について利用者がいないか、少なくなり、高温の日も同様であるから、天候の影響を踏まえて営業日数の調整を図るべきであると主張する。
 しかし、本件各店舗の1日当たりの平均利用者数を認定する基礎となっている本件アンケートの実施期間(平成29年2月17日から同年4月10日)の中には、雨や気温の低い日といった天候が悪い日が複数含まれているのであるから(乙132の1)、そこから更に天候について考慮して、営業日数を調整するというのは、相当ではない。
 また、本件アンケート実施期間の天候(乙132の1)と本件アンケート(乙14の1)を照らし合わせると、1日雨であった平成29年3月21日に合計68名もの利用者が品川第1号店及び渋谷店を利用していたこと、同様に一時雨であった同年2月23日にも両店で合計して99名の利用者がいたことがそれぞれ認められるのであり、天候と利用者数 との間に明確な相関関係があるとは認められない。
 さらに、高温についても、夏期は夏期休暇のシーズンであり、本件需要者の多くを占める訪日外国人の増加が見込まれることからすると、高温の日であるからといって一概に利用者数が減少するとはいえないし、一審被告らが具体的な数字を挙げて高温の日に利用者が減少していることを立証しているわけでもない。
 したがって、天候を考慮して営業日数を調整すべきとの一審被告らの主張は採用することができない。
カ 本件各店舗における売上げ
(ア)前記イ〜オで認定した本件各店舗の営業開始日、本件各店舗における1日当たりの平均利用者数、利用者1人当たりの平均的な利用料金及び営業日数並びに別表3の「富士河口湖店」の「売上高」欄の記載に基づき、本件各店舗の売上げを計算すると、本件各店舗の売上げの合計は、別表3の本件各店舗の各「合計売上高」欄記載のとおりとなり、その総合計は、別表3の「売上高・料率・損害額」の「総合計売上高」欄記載のとおり、6億5467万7219円となる。
(イ)一審被告らは、スターバックスの例(乙136)からすると、仮に1店舗当たり1億円程度の売上げがある場合には、より多くの店舗が存在しているはずであると主張するが、スターバックスがしている事業と本件レンタル事業は、全く異なるから、その主張は、前記(ア)の認定を左右するものではない。
(3)使用許諾料相当損害額
ア 不競法5条3項に基づく損害の算定に当たっては、必ずしも当該商品等表示についての許諾契約における料率に基づかなければならない必然性はない。不正競争行為をした者に対して事後的に定められるべき、実施に対し受けるべき料率は、むしろ、通常の料率に比べて自ずと高額になるというべきである。
 不競法5条3項に基づく損害の算定に用いる、実施に対し受けるべき料率は、@当該商品等表示の実際の許諾契約における料率や、それが明らかでない場合には業界における料率の相場等も考慮に入れつつ、A当該商品等表示の持つ顧客吸引力の高さ、B不正競争行為の態様並びに当該商品等表示又はそれに類似する表示の不正競争行為を行った者の売上げ及び利益への貢献の度合い、C当該商品等表示の主体と不正競争行為を行った者との関係など訴訟に現れた諸事情を総合考慮して、合理的な料率を定めるべきである。
イ これを本件についてみるに、@一審原告が、一審原告の著作物や商標等に関してこれまで締結したライセンス契約における料率(甲128の1・2)、A原告商品等表示は、著名なもので(中間判決書の「第3当裁判所の判断」4(2)及び6(1))、高い顧客吸引力を有していると認められること、B一審被告会社の不正競争行為の態様は、本判決の「第2事案の概要」の2(4)〜(6)並びに中間判決書の「第3当裁判所の判断」1〜7で判示したとおりであって、一審被告会社は、原告商品等表示の持つ高い顧客吸引力を不当に利用しようとする意図をもって不正競争行為を行ってきたのであり、原告商品等表示と類似する被告標章第1及び被告標章第2並びに本件各ドメイン名が一審被告会社の売上げに貢献した度合いは相当に大きいと認められることといった事情からすると、本件各ドメイン名を使用しているMariCAR店舗及び富士河口湖店の売上げに係る料率は15%とし、本件各ドメイン名を使用していないその他の店舗の売上げに係る料率は12%とするのが相当である。
 したがって、本件における使用許諾料相当損害額は、別表3「売上高・料率・損害額」の「合計損害額」の欄に記載のとおり、9239万9253円となる。
ウ 一審被告らは、@公道をカートで走行すること自体が高い顧客吸引力を有していること、A一審原告やマリオカートとの関連性を打ち消す表示がされていたこと、B一審被告会社が商号を変更している上、本件各コスチュームの着用割合が低いこと、C過去の裁判例における料率といったことからすると、料率は本件各ドメイン名を使用している店舗で3%、使用していない店舗で2.5%とすべきである旨主張する。
 しかし、上記@について、既に認定した不正競争行為の態様によると、一審被告会社が、原告商品等表示と類似する表示を用いることにより、原告商品等表示の強い顧客吸引力を利用して本件レンタル事業をしていたことは明らかであって、それに比べて公道をカートで走行することに高い顧客吸引力があるとはいい難い。
 上記Aについて、不競法2条1項2号では混同のおそれは要件とされていない。打ち消し表示をしても、一審被告会社が、著名な原告商品等表示が持つ高い顧客吸引力を自己の事業に利用していることに変わりはないのであるから、打ち消し表示の存在は、本件において料率を低下させる事情として考慮することはできない。
 上記Bについて、一審被告会社が商号を変更したのは、一審被告会社が本件レンタル事業を十分に拡大した後の平成30年3月という遅い時期である。また、本件各コスチュームについて、一審被告らは、その着用割合が低いと主張するが、それを認定できる的確な証拠はない上、仮に近時の着用割合が低下しているとしても、一審被告会社は、これまで本件貸与行為等を行い、それを自己の事業に利用してきたのであるから、着用割合が低下していることをもって、料率が直ちに低下するというものでもない。
 上記Cについて、これまでに検討してきたところに照らすと、本件では前記イの料率を認定するのが相当である。
 以上のとおりであるから、一審被告らの主張は、いずれも前記イの料率の判断を左右するものではない。
(4)弁護士費用
 本件事案の内容、本件の審理の経過、使用許諾料相当損害額等の諸般の事情に鑑みると、一審原告の弁護士費用相当額は1000万円と認めるのが相当である。
(5)小括
 以上を合計すると、一審原告が被った損害は1億0239万9253円と認められるため、一審原告の一審被告らに対する損害賠償請求はその全額(5000万円)を認容すべきである。
5 争点15(反訴請求の可否)について
 一審被告会社は、控訴審たる当審において平成30年12月26日に反訴を提起したが、相手方である一審原告は、上記反訴の提起に同意しない(民訴法300条1項)。
 上記反訴請求の別紙コスチューム目録記載のコスチュームが、別紙反訴被告表現物目録記載の表現物の複製物かという争点については、原審でも争われた本件各コスチュームが、原告表現物の複製物かという争点と実質的に同じものであると解される。しかし、@上記のような反訴請求について確認の利益があるのか、A一審被告会社が公衆送信することを考えている写真又は映像にはどのようなものが含まれ、仮に上記各コスチュームが、複製物といえる場合に、どのような写真や映像を掲載することが複製権、公衆送信権の侵害となり得るのかという争点については、原審では当事者間で全く主張立証がされておらず、上記反訴の提起について相手方である一審原告の審級の利益を害さないものとは認められないから、一審原告の同意を不要とすることはできない。
 したがって、その余の点について判断するまでもなく、一審被告会社の上記反訴の提起は不適法であり、これを却下するのが相当である。
6 結論
 以上によると、一審原告の請求(当審において追加された請求を含む。)は、一審被告会社に対する、@営業上の施設及び活動における被告標章第1の使用の差止め、A営業上の施設、広告宣伝物及びカート車両からの被告標章第1の抹消、B営業上の施設及び活動における被告標章第2の使用の差止め、C本件各動画のデータの廃棄、D本件各ドメイン名の使用禁止、E本件ドメイン名2の登録の抹消及び一審被告らに対する、F損害金5000万円及びこれに対する平成30年10月31日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は理由がないから棄却すべきであり、これと異なる原判決を変更するとともに、一審被告会社の控訴は理由がないからこれを棄却することとし、一審被告会社が当審で提起した反訴は不適法であるからこれを却下することとする。主文1項(2)及び(4)については、相当でないから仮執行宣言を付さず、主文1項(1)、(3)及び(5)には仮執行宣言を付すことが相当である。よって、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部
 裁判長裁判官 森義之
 裁判官 眞鍋美穂子
 裁判官 熊谷大輔


(別紙)店舗目録
第1 MariCAR店舗
 1 品川第1号店
 2 渋谷店
 3 秋葉原第1号店
 4 大阪店
 5 沖縄店
第2 STREETKART店舗
 1 品川第2号店
 2 秋葉原第2号店
 3 東京ベイBBQ店
 4 横浜店
 5 京都店
 6 浅草店
第3 その他の店舗
 1 富士河口湖店
 2 六本木店

(別紙)反訴被告表現物目録
(別紙)コスチューム目録


(別表省略)
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