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【事件名】ビッグローブへの発信者情報開示請求事件G
【年月日】令和2年1月22日
 東京地裁 令和元年(ワ)第28535号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和元年12月2日)

判決
原告 創価学会
同訴訟代理人弁護士 西口伸良
同 堀田正明
同 甲斐伸明
同 大原良明
被告 ビッグローブ株式会社
同訴訟代理人弁護士 橋利昌
同 平出晋一
同 太田絢子


主文
1 被告は、原告に対し、別紙1発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、原告が、被告の電気通信設備を経由してされたインターネット上の短文投稿サイトである「ツイッター」(以下「ツイッター」という。)への別紙2投稿記事目録記載1ないし3の各投稿記事(以下、これらを一括して「本件記事」という。)中の写真部分を含む画像(以下、これらを一括して「本件画像」という。)の掲載によって、別紙3写真目録記載の写真(以下「本件写真」という。)についての原告の著作権(複製権、公衆送信権)が侵害されたことが明らかであり、本件記事の投稿者(以下「本件投稿者」という。)に対する損害賠償請求等を行うために、被告の保有する別紙1発信者情報目録記載の発信者情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示が必要であると主張して、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律4条1項に基づき、本件発信者情報の開示を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがない事実又は後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者
ア 原告は、宗教法人法に基づき設立された宗教法人である。
イ 被告は、電気通信事業を営む株式会社である。
(2)本件記事の投稿
 本件記事は、インターネット上で不特定の者が閲覧可能な短文投稿サイトであるツイッターにおいて、別紙2投稿記事目録記載1ないし3の各「投稿日時」欄記載の日時に、「@(以下略)」という名称に係るアカウント(以下「本件アカウント」という。)を使用して投稿されたものである(甲1の1ないし3。以下、本件記事の投稿行為を、同別紙の番号順に「本件投稿1」などといい、これらを一括して「本件投稿」という。)。
(3)本件アカウントに係るログイン情報
 本件アカウントについて、本件投稿前にされた最後のログインは、それぞれの投稿につき対応する別紙2投稿記事目録記載1ないし3の各「ログイン日時」欄記載の日時にされたものであり、いずれのログインも、IPアドレスを「(IPアドレスは省略)」(以下「本件IPアドレス」という。)とし、被告を経由プロバイダとするものである(甲2の1、甲3の2、甲3の3、甲4の1)。
(4)被告の本件発信者情報の保有
 被告は、本件発信者情報を保有している。
3 争点
(1)本件投稿による権利侵害の明白性(争点1)
ア 本件写真の著作物性及び原告の著作権(争点1−1)
イ 著作権(複製権、公衆送信権)侵害の成否(争点1−2)
ウ 違法性阻却事由の不存在(適法な引用の成否)(争点1−3)
(2)本件発信者情報は本件投稿による侵害に係る発信者情報であるか(争点2)
(3)開示を受けるべき正当な理由の有無(争点3)
4 争点に対する当事者の主張
(1)争点1(本件投稿による権利侵害の明白性)について
ア 争点1−1(本件写真の著作物性及び原告の著作権)について
【原告の主張】
(ア)本件写真は、撮影方向、構図、シャッタースピード、タイミング、絞り等に工夫が凝らされ、会談中の原告のA名誉会長(以下「A名誉会長」という。)の和やかな表情を捉えて撮影されたものであるから、著作物性が認められる。
(イ)本件写真は、平成16年10月16日、原告の発意に基づき原告の業務に従事するB(以下「B」という。)において職務上作成した著作物であるから、原告の就業規則の定めに照らし、原告がその著作権を有する。
【被告の主張】
 不知又は争う。
イ 争点1−2(著作権(複製権、公衆送信権)侵害の成否)について
【原告の主張】
 本件画像は、その写真部分におけるA名誉会長の表情、服装、手の位置、撮影アングル等の点で、本件写真の内容及び形式を覚知させ、その部分に創作性を看取できるから、本件写真を複製したものであって、本件投稿は、本件写真についての原告の複製権及び公衆送信権を侵害する。
【被告の主張】
 不知又は争う。本件画像中の写真部分は、背景がない点で本件写真と異なり、人物の右部分及び下部分等が大きく削られ、全体的に不鮮明であるから、本件投稿者によって本件写真についての原告の複製権及び公衆送信権が侵害されたとはいえない。
ウ 争点1−3(違法性阻却事由の不存在(適法な引用の成否))について
【原告の主張】
 本件記事は、投稿者の実名及び本件写真の出所が示されておらず、引用部分が明瞭に区別されていないほか、本件写真についての具体的な言及や論評はなく、本件写真を引用する必要はない。以上より、本件記事による本件写真の引用は、公正な慣行に合致せず、引用の目的上正当な範囲内で行われたものでもないから、適法な引用(著作権法32条1項)に当たらない。
【被告の主張】
 不知又は争う。
(2)争点2(本件発信者情報は本件投稿による侵害に係る発信者情報であるか)について
【原告の主張】
 ツイッターに投稿するためには、氏名、メールアドレス及びパスワードを登録してアカウントを作成し、当該アカウントへのログインを継続する必要があるから、本件投稿は、それぞれ、その直前に本件アカウントにログインした人物によってされたと推認される。したがって、本件投稿の直前の本件アカウントへのログインに係る本件発信者情報は、本件投稿による侵害に係る発信者情報である。
【被告の主張】
 不知又は争う。本件アカウントの使用状況、複数の者が関わる余地があるかなどは明らかでない。また、本件投稿とその直前のログインの間に概ね1時間30分ないし11時間のタイムラグがあること、複数の端末等を使ってログインした状態を同時に継続することも十分に考えられることなどからすると、本件投稿の直前のログインではなく、それ以前のログインに係るアクセスにより本件投稿がされた可能性も十分にある。
(3)争点3(開示を受けるべき正当な理由の有無)について
【原告の主張】
 原告は、本件投稿者に対する損害賠償請求、削除要求等をするために本件発信者情報の開示を求めるものであるから、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。
【被告の主張】
 不知又は争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件投稿による権利侵害の明白性)について
(1)争点1−1(本件写真の著作物性及び原告の著作権)について
 本件写真は、A名誉会長をはっきりと撮影したものであり、その表情及び姿勢を明確に覚知することができる一方で、背景をぼかすなど、撮影者の思想及び感情が創作的に表現されているということができるから、写真の著作物として著作物性が認められる。
 また、証拠(甲5の1、7の1、8の1)及び弁論の全趣旨によれば、本件写真は、平成16年10月16日、原告の一部門である聖教新聞社の職員であったBにより、原告の発意に基づき原告の業務として撮影されたものであると認められ、原告において自己の名義の下に公表されるものと推認され、この推認を覆すに足りる証拠はないところ、このような著作物の著作者を原告とすることについての別段の定めが原告の就業規則にあるとは認められないから、原告は、本件写真について著作権を有する。
(2)争点1−2(著作権(複製権、公衆送信権)侵害の成否)について
 証拠(甲1の1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば、本件画像は、背景を全体的に黄色とし、「核も、基地もない、平和で豊かな沖縄になってこそ本土復帰である−それが、沖縄の人びとの思いであり、また、A(A)の信念であった。」などという文字部分と、本件写真の一部であると認められる写真部分が組み合わされたものであり、本件写真の背景やA名誉会長の上半身の一部がトリミングされるなどしているものの、この写真部分において、本件写真で特徴的に表現されているA名誉会長の表情及び姿勢を明確に覚知することができる。
 したがって、本件画像は、本件写真に依拠して再製されたものであるから、本件投稿者は、本件投稿に際し、本件写真を複製したものと認められ、本件投稿によって原告の著作権(複製権、公衆送信権)が侵害されたと認められる。
(3)争点1−3(違法性阻却事由の不存在(適法な引用の成否))について
ア 証拠(甲1の1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば、本件記事には、本件写真を説明する記載がないこと、本件写真の出典が明示されていないことが認められる。そして、本件記事において本件写真を掲載する必要性を認めるに足る証拠はない。
 これらに照らすと、本件記事における本件写真の掲載は、公正な慣行に合致せず、引用の目的上正当な範囲内で行われたものでもないから、適法な引用(著作権法32条1項)に当たらない。
イ また、本件全証拠によっても、本件写真の複製物である本件画像の掲載について、その他の違法性阻却事由をうかがわせる事情は認められない。
(4)小括
 以上によれば、本件投稿により、本件写真についての原告の著作権(複製権、公衆送信権)が侵害されたことが明らかであるというべきである。
2 争点2(本件発信者情報は本件投稿による侵害に係る発信者情報であるか)について
(1)弁論の全趣旨によれば、ツイッターは、利用者においてパスワード等を入力することにより登録されているアカウントにログインしなければ利用できないサービスであると認められるから、ログインした者と投稿者は同一人である蓋然性が高いということができる。また、ログインした者と投稿者が同一人であれば、一般的に、投稿の直前のログインに係るアクセスによって当該投稿がされたと認めるのが相当である。
 そこで、本件についてみると、前記第2の2(2)及び(3)のとおり、本件投稿1及び2は、それぞれ、令和元年7月4日午後2時34分(日本標準時。以下同じ。)及び同日午後7時44分にされたものであるのに対し、それらの前にされた本件アカウントへの最後のログインは、同日午前8時49分6秒にされたものであり(以下、
 このログインを「本件ログイン1」という。)、本件投稿3は、同月6日午前10時57分にされたものであるのに対し、その前にされた本件アカウントへの最後のログインは、同日午前9時27分2秒にされたものであったこと(以下、このログインを「本件ログイン2」という。)、本件ログイン1及び2は、いずれも本件IPアドレスからされたものであり、被告を経由プロバイダとするものであったことが認められる。他方、本件アカウントへのログイン状況(甲3の2)や本件記事の内容等に照らしても、本件アカウントが複数人で共有されているといった上記の同一性を妨げるような事情は認められない。
 以上に照らせば、本件IPアドレスを割り当てられた者により、本件ログイン1及び2に係るアクセスによって本件投稿がされたものと推認するのが相当である。
(2)被告は、本件アカウントの使用状況、複数の者が関わる余地があるかなどは明らかでないと主張するとともに、本件投稿とその直前のログインの間に概ね1時間30分ないし11時間のタイムラグがあること、複数の端末等を使ってログインした状態を同時に継続することも十分に考えられることなどからすると、本件投稿の直前のログインではなく、それ以前のログインに係るアクセスにより本件投稿がされた可能性も十分にあると主張する。
 しかしながら、本件アカウントが複数人によって共有されているといったログインした者と投稿者の同一性を妨げるような事情は認められないことは前記のとおりであるところ、ログインと投稿との間にある程度の時間が空いているというだけで、本件IPアドレスを割り当てられた者以外の者によって本件投稿がされた疑いが生ずるとはいえない。本件ログイン1及び2より前にされた本件アカウントへのログインの状況(甲3の2)をみても、本件ログイン1については、本件IPアドレスとは異なるIPアドレスからログインがあったのはその約11時間前であり、本件ログイン2については、その1秒前及び約1時間前に本件IPアドレスからログインがあったのに対し、本件IPアドレスとは異なるIPアドレスからログインがあったのは本件ログイン2から約10時間前であったから、このようなログインの状況は、本件ログイン1及び2以前の本件アカウントへのログインに係るアクセスによって本件投稿がされた疑いを生じさせるものではないし、その他、この疑いを生じさせるに足りる証拠はない。
 以上に照らせば、被告の主張はいずれも抽象的な可能性を指摘するにとどまるものであり、本件投稿について、上記(1)の推認を覆すに足りない。
(3)以上より、本件発信者情報は、本件投稿による侵害に係る発信者情報であると認められる。
3 争点3(開示を受けるべき正当な理由の有無)について
 弁論の全趣旨によれば、原告は、本件投稿者に対し、著作権(複製権、公衆送信権)侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求をする意思を有しており、そのためには、被告が保有する本件発信者情報の開示を受ける必要があると認められるから、その開示を受けるべき正当な理由があるということができる。
4 結論
 以上のとおり、本件画像の掲載による原告の権利侵害が明白であるところ、本件発信者情報は上記権利侵害に係る発信者情報に該当し、その開示を受けるべき正当な理由があるといえるから、本件投稿に係る通信を媒介した被告は、開示関係役務提供者として本件発信者情報を開示すべき義務を負う。
 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 山田真紀
 裁判官 矢野紀夫
 裁判官 西山芳樹


(別紙1)発信者情報目録
 別紙2投稿記事目録記載の各記事の「IPアドレス」欄記載のIPアドレスを同目録記載の各記事の「ログイン日時」欄記載の日時に割り当てられていた者に関する情報であって、次に掲げるもの。
 1 氏名又は名称
 2 住所
 3 電子メールアドレス(電子メールの利用者を識別するための文字、番号、記号その他の符号)

(別紙2投稿記事目録は省略)

(別紙3写真目録は省略)
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