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【事件名】ハイホーへの発信者情報開示請求事件B
【年月日】令和元年12月24日
 東京地裁 令和元年(ワ)第18235号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和元年11月19日)

判決
原告 創価学会
同訴訟代理人弁護士 西口伸良
同 堀田正明
同 甲斐伸明
同 大原良明
被告 株式会社ハイホー
同訴訟代理人弁護士 西尾孝幸
同 吉岡裕貴
同 後藤篤


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は、原告が、経由プロバイダである被告に対し、氏名不詳者が、インターネット上のウェブサイトに原告が著作権を有する別紙写真目録の写真(以下「本件写真」という。)を掲載し、原告の公衆送信権を侵害したことが明らかであるとして、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、上記著作権侵害行為に係る別紙発信者情報目録1ないし3記載の発信者情報の開示を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)
(1)当事者
ア 原告は、宗教法人法に基づいて設立された宗教法人である。
イ 被告は、電気通信事業を営む株式会社である。
(2)本件写真
 本件写真は、原告の職員であったA(以下「A」という。)が、平成21年4月14日、原告の施設である創価文化会館において、全国代表協議会で講演中のB名誉会長(以下「B会長」という。)を撮影した横長の長方形のカラーの写真である(甲9)。
 本件写真は、平成21年4月19日付け聖教新聞の第2面及び第3面における「正義と勝利の名指導者に」と題する記事(以下「本件新聞記事」という。)において、同新聞の第3面に掲載された(甲7、8、10)。
(3)氏名不詳者の行為
 氏名不詳者は、別紙投稿記事目録記載の日時に、インターネット上のレンタル掲示板サービス「teacup.」(以下「本件掲示板」という。)に、別紙投稿記事目録記載の記事(以下「本件投稿記事」という。)を投稿した。本件投稿記事の末尾には、聖教新聞の第3面における本件新聞記事を複製した画像(以下「本件新聞紙面画像」という。)が掲載された。(甲1、11)
(4)被告の「開示関係役務提供者」該当性等
 氏名不詳者は、株式会社Hi-Bitの提供するインターネット接続サービスを経由して本件投稿記事を本件掲示板に発信した(甲2ないし5)。
 株式会社Hi-Bitは、プロバイダ責任制限法4条1項の「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者」(以下「開示関係役務提供者」という。)に該当する。
 被告は、令和元年6月1日、会社分割により、株式会社Hi-Bitから開示関係役務提供者としての地位を承継し、別紙発信者情報目録1ないし3記載の各情報を保有している(甲6の1、6の2、争いのない事実)。
3 争点
(1)本件写真が著作物に当たるか
(2)引用(著作権法32条1項)が成立するか否か
4 争点についての当事者の主張
(1)本件写真が著作物に当たるか(争点1)
(原告の主張)
 本件写真を撮影したAは、スピーチ中のB会長が揮毫を指し示したタイミングと、その指導に聞き入る幹部の真剣な表情をとらえて、構図、シャッタースピード、タイミング、絞りなどを調整するなどし、原告の出版部門のカメラマンとしての経験を活かして撮影したのであるから、本件写真は、誰が撮影しても同じ写真になるような、ありふれた写真ではなく、Aの個性が現れた創作性の認められる著作物である。
(被告の主張)
 本件写真は、部屋の中に数人の人々が座っており、当該人々が1人の座った人物を見ているという状況を撮影した、ありふれた構図の写真であり、撮影者の創意工夫は全く認められないから、思想又は感情を創作的に表現した著作物ということはできない。
(2)引用(著作権法32条1項)が成立するか否か(争点2)
(原告の主張)
ア 本件投稿記事は、投稿者の実名を示さず、本件写真について具体的な言及や論評はないから、本件投稿記事に本件写真を掲載することは「公正な慣行」に合致するものということはできず、また「報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内」で行われたものということもできない。
 したがって、本件投稿記事による本件写真の引用は、著作権法32条1項所定の適法な「引用」とは認められないから、本件投稿記事によって本件写真に係る原告の公衆送信権が侵害されたことは明白である。
イ 被告は、本件新聞記事全体を一つの著作物として「引用」該当性を検討すべきと主張するが、原告は本件写真に係る公衆送信権の侵害を主張しているのであり、失当である。また、仮に本件新聞記事全体について「引用」該当性を検討するとしても、本件投稿記事は「是非、読んで頂きたいスピーチがあります」として、本件新聞記事を引用しているのであるから、新聞記事という著作物を読ませることが目的であって、被告が主張するような、「新・人間革命<第30巻上>」「大山の章」を論評することが目的ではないし、現に論評する関係にもない。また、本件新聞記事の日付等を紹介すれば足りるから、本件新聞記事の新聞紙面そのものを引用する必要性もない。
 したがって、およそ「公正な慣行に合致」し、「引用の目的上正当な範囲内で行われる」引用とは認められない。
(被告の主張)
ア 本件投稿記事はB会長著「新・人間革命<第30巻上>」「大山の章」の論評をするものであり、このために4つの文献を引用しており、そのうち1つが本件新聞記事である。氏名不詳者は本件新聞記事を引用するにあたり、「師の受けた痛みに、少しでも近づこうとする方に、是非、読んで頂きたいスピーチがあります」という説明をして、引用元の表示をした上で本件新聞記事を掲載しているから、本件投稿記事における論評部分と本件新聞記事は明瞭に区分され、論評部分が主で、本件新聞記事が従であるといえるから、本件投稿記事による本件新聞記事の引用は、著作権法32条1項所定の適法な「引用」と認められる。
イ 「引用」該当性の判断対象は当事者の主張により決まるのではなく、客観的に決定されるものであるところ、本件において氏名不詳者は本件新聞記事を引用したのであるから、本件写真それ自体ではなく本件新聞記事の引用が適法な「引用」に該当するか否かが判断されるべきである。
ウ 仮に本件写真それ自体につき「引用」該当性が問題になるとしても、本件写真は本件新聞記事の構成要素であるから、上記アのとおり、本件投稿記事の論評部分と本件写真は明瞭に区分できる上、論評部分が主で、本件新聞記事が従であるといえる。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件写真が著作物に当たるか)について
 本件写真は原告の施設で行われた全国代表協議会の様子を撮影したものであり、講演者のB会長と、B会長の講演を聞く参列者の様子を捉えたものである。本件写真は、B会長が揮毫を指し示した瞬間におけるB会長及び参列者の表情並びに揮毫を画面にバランスよく配置される角度から撮影されたものであり、被写体の構図、タイミング、シャッタースピード等に撮影者であるAの個性が現れているものと認められる。(前記前提事実、甲9)
 したがって、本件写真は思想又は感情を創作的に表現したものとして著作物に当たる。
2 争点2(引用(著作権法32条1項)が成立するか否か)について
(1)前記前提事実(2)に加え、掲記の証拠によれば、以下の事実を認めることができる。
ア 本件新聞記事は、平成21年4月19日付けの聖教新聞の第2面及び第3面に分割されて掲載されたものであり、その内容は、同月14日に全国代表協議会においてB会長によって行われた講演の前半部分を録取した講演録である。本件新聞記事には、上記講演録に加え、写真3枚が掲載された。そのうちの1枚であり、上記講演の際の写真である本件写真は、本件新聞記事の第3面に、縦書きで記載された第3面の記事本文が全体で縦に10段に分かれているところ、そのうちの3段以上を占める形でカラーで掲載された。(甲8、10)
イ 本件投稿記事は、「『時の流れは逆らえません』?新・人間革命第30巻上『大山の章』を読み解く研さん資料B?」と題する記事であり、B会長の著作である「新・人間革命」第30巻の一部に係る論評が記載されている。
 この中で、氏名不詳者は「師の受けた痛みに、少しでも近づこうとする方に、是非、読んで頂きたいスピーチがあります。」「【全国代表協議会での名誉会長のスピーチ:上】(聖教新聞2009.4.19掲載)※添付資料(下)」と記載し、その後に、本件新聞記事の第3面に掲載されていた講演録の一部を転記して記載した。その講演録の一部にはB会長が「真実の同志」に言及した旨が記載されていたところ、氏名不詳者は、「真実の同志」の意味についての氏名不詳者の見解を記載した。
 本件投稿記事の末尾には、書物の2ページ分を複製した画像と本件新聞記事の第3面の記事部分全体を複製した本件新聞紙面画像が掲載された。
 本件新聞紙面画像は、本件証拠上、本件投稿記事のウェブページの幅において半分以を占めるものであり、元の本件新聞記事と同じく本件写真がカラーで複製され、10段に分かれて記事が記載された新聞紙面の3段分以上を占める本件写真が、被写体の人物の表情その他の本件写真の表現を認識することができる状態でカラーで表示されていた。もっとも、本件証拠上、本件新聞記事における本件写真下の説明文は、本件新聞紙面画像では不鮮明で判読することができない。(甲1、11)
(2)前提事実(3)及び前記(1)イによれば、本件写真は公衆送信されたといえる。そして、本件写真は本件新聞紙面画像中にあったところ、本件新聞紙面画像は氏名不詳者の見解を述べるなどする本件投稿記事において資料として言及され、本件投稿記事の本文の末尾に本文とは別に画像として表示されていた。これらによれば、少なくとも本件写真が掲載された本件新聞紙面画像は本件投稿記事において引用して利用されたものである。
 ここで、本件写真についてみると、本件投稿記事において本件写真に対する言及は全くなく、本件写真そのものが批評等の対象となっていたものでないほか、上記のような言及がないことなどから、本件投稿記事において、本件投稿記事と本件写真の関係は必ずしも明らかではなかった。
 また、本件投稿記事は本件新聞記事に掲載された講演録部分の講演内容について批評する内容を含むものであり、本件新聞紙面画像は同講演録部分を含む新聞紙面の画像であって、本件投稿記事において資料として言及されていたものであった。そこで、この点から検討すると、確かに、本件写真は、本件投稿記事における批評の対象である講演内容が記載された新聞紙面に掲載されていたものであるが、内容において批評の対象であったといえるものではないほか、本件投稿記事において上記講演内容と本件写真の関係が必ずしも明らかではなかったから、本件写真自体が批評の対象と関連しているとは直ちにはいえないものであった。他方、本件新聞紙面画像において、本件写真は、その表現を認識することができる状態でカラーで表示され、本件新聞紙面画像において一定の割合を占めているなどの事情がある。
 写真自体の内容が批評の対象とならなくともその利用が適法な引用となる場合があるとしても、本件投稿記事における批評の対象と本件写真との関連性の薄さに加え、本件投稿記事において本件写真が利用された大きさ等を考慮すると、本件投稿記事が本件新聞記事に掲載された講演録部分を批評する内容を含むなどの上記事情を考慮しても、本件写真が批評等の目的のために正当な範囲内で引用されたとは認められないとするのが相当と解する。
3 結論
 以上によれば、氏名不詳者が、本件投稿記事に著作物性が認められる本件写真を掲載したことにより、原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかであるから、原告は、氏名不詳者に対して著作権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権等を有し、その権利を行使するため、別紙発信者情報目録1ないし3記載の発信者情報の開示を求めることには正当な理由がある。
 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 柴田義明
 裁判官 安岡美香子
 裁判官 佐藤雅浩


(別紙省略)
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