判例全文 | ||
【事件名】ユーチューブ、グーグルへの発信者情報開示請求事件 【年月日】令和元年10月30日 東京地裁 平成30年(ワ)第32519号 発信者情報開示請求事件(第1事件) 令和元年(ワ)第19716号 発信者情報開示請求事件(第2事件) (口頭弁論終結日 令和元年10月9日) 判決 第1事件原告兼第2事件原告 A(以下「原告」ともいう。) 同訴訟代理人弁護士 平野敬 第1事件原告訴訟復代理人兼第2事件原告訴訟代理人弁護士 井雅秀 第1事件被告 ユーチューブ・エルエルシー(以下「被告ユーチューブ」という。) 第2事件被告 グーグル・エルエルシー(以下「被告グーグル」という。) 上記2名訴訟代理人弁護士 古田啓昌 同 赤川圭 同 山内真之 同 澁谷優大 同 川端彩華 被告ユーチューブ訴訟代理人弁護士 安藤翔 主文 1 被告ユーチューブは、原告に対し、別紙発信者情報目録1記載の各情報を開示せよ。 2 被告グーグルは、原告に対し、別紙発信者情報目録2記載1及び3の各情報を開示せよ。 3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は、第1事件、第2事件を通じ、原告に生じた費用の5分の1及び被告グーグルに生じた費用の3分の1を原告の負担とし、原告に生じた費用の5分の2及び被告ユーチューブに生じた費用を被告ユーチューブの負担とし、原告に生じたその余の費用及び被告グーグルに生じたその余の費用を被告グーグルの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 第1事件 主文1項と同旨 2 第2事件 被告グーグルは、原告に対し、別紙発信者情報目録2記載の各情報を開示せよ。 第2 事案の概要 1 本件は、原告が、インターネット上の動画共有サービスを運営する被告ユーチューブ及び被告ユーチューブにおける通信にサーバーの提供等をしている被告グーグルに対して、被告らの電気通信設備を経由してされたインターネット上のウェブサイトへの動画の掲載によって、当該動画において再生された文章に係る原告の著作権(複製権、公衆送信権及び翻案権)が侵害されたことが明らかであり、被告ユーチューブの保有する別紙発信者情報目録1記載の各情報(以下「本件発信者情報1」という。)及び被告グーグルの保有する別紙発信者情報目録2記載の各情報(以下「本件発信者情報2」という。また、本件発信者情報1と併せて「本件発信者情報」という。)が、その侵害に係る発信者情報であって、上記の各動画の投稿をした者ら(以下「本件各投稿者」という。)に対する損害賠償請求を行うために被告らの保有する発信者情報の開示が必要であるとして、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき、第1事件において被告ユーチューブに対し本件発信者情報1の開示を、第2事件において被告グーグルに対し本件発信者情報2の開示を、それぞれ求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠(以下、書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実) (1)当事者 ア 原告は、文筆業を営む者である(甲8〜12)。 イ 被告ユーチューブは、インターネット上での動画共有サービスを提供する「YouTube」のウェブサイト(以下「本件サイト」という。)を運営する、アメリカ合衆国デラウェア州法に基づき設立された合同会社である。 ウ 被告グーグルは、被告ユーチューブのマネージングメンバーとして被告ユーチューブを代表する、アメリカ合衆国デラウェア州法に基づき設立された合同会社である。 (2)本件各投稿者の行為 本件各投稿者は、別紙投稿記事目録の「投稿日」欄記載の日に、本件サイトを利用して、同目録の「URL」欄記載の各ページURLに係るウェブページに、同目録の「動画タイトル」欄記載のタイトルの動画(以下「本件各動画」という。)を投稿した。 本件各動画は、上記各タイトルに対応する各記事(甲13。以下「本件各記事」という。)の全部(ただし、別紙投稿記事目録記載番号265のものについてはその一部)を画面上にスクロールさせて流しながら表示するものである。本件各動画は音楽とともに再生され、本件各動画中の本件各記事の背景には画像が再生される。 本件各動画は、不特定の者が閲覧可能なものであった。 (3)被告らの行為等 被告グーグルは、その保有するサーバーを、被告ユーチューブに対し本件各動画の通信の用のために提供するとともにこれを管理し、被告ユーチューブは上記サーバーを本件各動画の通信の用に供している。 したがって、被告らは、いずれも法4条1項の特定電気通信役務提供者に該当する。 (4)原告の有する著作権の侵害 ア 原告は、本件各記事の著作者であり、その著作権を有している。 イ 本件各動画は、原告の本件各記事に係る複製権、公衆送信権及び翻案権を明らかに侵害する。 (5)被告らによる本件発信者情報の一部の保有 被告ユーチューブは、本件発信者情報1を、被告グーグルは、本件発信者情報2のうち、少なくとも別紙発信者情報目録2記載1及び3の各情報(以下「本件発信者情報2−1」といい、同目録記載2の情報を「本件発信者情報2−2」という。)をそれぞれ保有している。 3 争点 (1)被告グーグルが本件発信者情報2−2を保有しているか否か(争点1) (2)開示を求める正当な理由の有無(争点2) 4 争点に対する当事者の主張 (1)争点1(被告グーグルが本件発信者情報2−2を保有しているか否か)について 【原告の主張】 被告グーグルは、本件発信者情報2−2を保有している。 【被告グーグルの主張】 否認する。 (2)争点 2(開示を求める正当な理由の有無)について 【原告の主張】 原告は、本件各投稿者に対して、本件各記事の著作権侵害(複製権、公衆送信権及び翻案権)による損害賠償請求をするため、被告らにその保有する本件発信者情報の開示を求めるものであり、正当な理由がある。 【被告らの主張】 争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(被告グーグルが本件発信者情報2−2を保有しているか否か)について 原告は、被告グーグルが本件発信者情報2−2を保有している旨主張する。 しかしながら、被告グーグルは、原告の上記主張を否認しており、他に被告グーグルが本件発信者情報2−2を保有していることを認めるに足りる的確な証拠はない。 この点、証拠(甲6、7、乙5〜8)及び弁論の全趣旨によれば、本件サイトへの動画投稿により広告収入を得ようとする利用者は、支払を受ける住所を登録してGoogleAdSenseアカウントを開設する必要があり、同アカウントの中には被告グーグルが管理するものがあるが、同アカウントは、本件サイトへの動画投稿の際に登録が必要となるアカウントとは独立した異なるものであることが認められる。そうすると、本件各投稿者が本件各動画の投稿により広告収入を得る目的でGoogleAdSenseアカウントへの登録をし、その結果、被告グーグルが本件各投稿者に係る支払先住所に係る情報を管理していたとしても、同情報は、本件各動画の投稿に用いられた各アカウントを登録するために用いられたものには該当しないから、被告グーグルが本件発信者情報2-2を保有しているということはできない。 よって、原告の主張は採用することができない。 2 争点2(開示を求める正当な理由の有無)について 弁論の全趣旨によれば、原告は、本件各投稿者に対して、本件各記事の著作権侵害について損害賠償請求をする意思を有しており、そのためには、被告ユーチューブが保有する本件発信者情報1及び被告グーグルが保有する本件発信者情報2−1の開示を受ける必要があるものと認められるから、その開示を受けるべき正当な理由があるといえる。 3 結論 よって、原告の請求は、被告ユーチューブに対して本件発信者情報1の、被告グーグルに対して本件発信者情報2−1の開示をそれぞれ求める限度で理由があるから、その限度でこれを認容し、その余はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 山田真紀 裁判官 神谷厚毅 裁判官 西山芳樹 (別紙)発信者情報目録1 別紙投稿記事目録記載の各投稿記事の発信者情報であって、以下に掲げるもの。 1 投稿に用いられたアイ・ピー・アドレス 2 前項のアイ・ピー・アドレスが割り当てられた電気通信設備から、被告ユーチューブの用いる特定電気通信設備に前項の各投稿記事が送信された年月日及び時刻 以上 (別紙)発信者情報目録2 別紙投稿記事目録記載の各投稿記事の発信者情報であって、以下に掲げるもの。 1 各投稿記事の投稿に用いられた各アカウントに登録されている氏名又は名称 2 各投稿記事の投稿に用いられた各アカウントを登録するために用いられた住所 3 各投稿記事の投稿に用いられた各アカウントに登録されている電子メールアドレス 以上 別紙投稿記事目録省略 |
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