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【事件名】アダルトサイトの写真無断掲載事件
【年月日】令和元年10月30日
 東京地裁 令和元年(ワ)第15601号 損害賠償(著作権等侵害)請求事件
 (口頭弁論終結日 令和元年9月11日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 齋藤理央
被告 B


主文
1 被告は、原告に対し、36万2400円及びこれに対する令和元年5月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、これを5分し、その4を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告に対し、160万円及びこれに対する平成30年3月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、原告が、別紙原告写真目録記載の写真(以下「本件写真」という。)は原告の著作物であり、被告において本件写真を複製し、ウェブサイトにアップロードして公衆送信したことにより、原告の著作権(複製権、公衆送信権)を侵害するとともに、原告の名誉又は声望を害する方法により著作物を利用する行為として原告の著作者人格権を侵害すると主張して、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、損害金160万円(著作権侵害につき41万8316円、著作者人格権侵害につき118万1684円の合計であると解される。)及びこれに対する本件写真のアップロード日である平成30年3月17日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 請求原因事実
(1)当事者
ア 原告は、写真家である。
イ 被告は、別紙ウェブサイト目録記載のウェブサイト(以下「被告サイト」という。)を運営する個人である。
(2)原告の著作権
 原告は、本件写真を製作した。
(3)被告の行為
ア 被告は、遅くとも平成30年3月17日までに、本件写真を複製し、被告サイトにアップロードした。
 本件写真は、令和元年5月11日頃まで、被告サイトに掲載され、公衆送信されていた。
イ 本件写真は、アダルトサイトである被告サイト上で、卑わいな画像等とともに利用されていたのであり、このような利用行為は、原告の著作者としての名誉及び声望を害する方法により著作物を利用するものである。
(4)故意・過失
 被告には、前記(3)の行為について、故意があるか、少なくとも、過失がある。
(5)損害の発生及びその額
 原告は、前記(3)の被告の行為により、次の各損害を被った。
ア 逸失利益(著作権法114条3項)
 平成30年3月当時、原告が写真の使用許諾をする場合の使用料(以下「当初使用料」という。)は、使用期間を問わず、1点につき1万円(税別)であり、この金額は、取引相場からみても良心的な金額であった。
 原告が被告サイトのような卑わいなウェブサイトへの写真の使用を許諾することはないが、あえて使用許諾をする場合の価格を算定すると、@使用態様の悪質性、A当初使用料は平成30年5月から1点につき2万円(税別)に改訂されていること、B原告の写真が無断で使用された複数の事案で、写真1点につき3万円で和解が成立していること(甲17ないし19)などに照らせば、当初使用料1万円を5倍し、消費税額を加えて算定するのが相当である。
 したがって、著作権侵害によって原告に生じた逸失利益(著作権法114条3項)は、5万4000円である。
イ 慰謝料
(ア)@被告の行為の悪質性、取り分け、本件写真が、1年以上にわたり、卑わいな画像等とともに被告サイトのトップページという最も目立つ場所に掲載されていたこと、A原告のクレジット表記(省略)がされていたことにより、原告が被告サイトのような卑わいなウェブサイトに写真の使用許諾をするカメラマンであるような外観が作出され、その社会的評価、名誉及び声望に対する侵害の程度は極めて深刻であることなどに鑑みると、著作者人格権侵害に係る慰謝料は100万円を下らない。
(イ)被告の行為によって著作権(複製権、公衆送信権)の価値が減じられ、原告は、上記(ア)に係るものとは別に、深刻な精神的苦痛を被った。この著作権侵害に係る慰謝料は30万円を下らない。
ウ 弁護士費用及び内容証明郵便費用
(ア)原告は、本件訴訟の提起につき弁護士に依頼しており、その費用に係る損害額は24万3774円である。また、原告は、内容証明郵便費用として2226円の損害を被った。
(イ)上記(ア)の合計24万6000円の損害のうち、著作権侵害に係るものは6万4316円(24万6000円×35万4000円(上記ア、イ(イ)の合計)/135万4000円(上記ア、イの合計))、著作者人格権侵害に係るものは18万1684円(24万6000円×100万円(上記イ(ア))/135万4000円(上記ア、イの合計))である。
第3 当裁判所の判断
1 被告は、適式の呼出しを受けながら本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しないから、請求原因事実を争うことを明らかにしないものと認め、これを自白したものとみなす。
2 そうすると、前記第2の2(2)のとおり、原告は本件写真を製作しており、本件写真の著作者であると認められるところ、前記第2の2(3)のとおり、被告は、本件写真を複製し、被告サイトにアップロードして公衆送信したことにより、原告の本件写真についての著作権(複製権、公衆送信権)を侵害したと認められる。また、被告の当該行為は、被告サイトにおける本件写真の使用態様に照らし、原告の名誉又は声望を害する方法により著作物を利用する行為であると認められ、原告の著作者人格権を侵害したとみなされる。
 そして、前記第2の2(3)アのとおり、本件写真は、遅くとも平成30年3月17日までに複製され、被告サイトにアップロードされて公衆送信され、その後令和元年5月11日頃まで継続して公衆送信されていたと認められるから、不法行為の対象期間は、著作権侵害に係るもの及び著作者人格侵害に係るもののいずれについても、平成30年3月17日から令和元年5月11日までであると解するのが相当である。
3 以上を前提に、原告が被った損害額について検討する。
(1)逸失利益(著作権法114条3項)
 前記第2の2(5)アの事実に加えて、証拠(甲2、5、9、10)によれば、本件写真は、1年以上にわたり、被告サイトのトップページに大きく掲載されていたこと、本件写真がアップロードされた平成30年3月当時、原告が写真の使用許諾をする場合の使用料は、使用期間を問わず、1点当たり1万円(当初使用料)であり、原告は1点当たり税込み1万0800円を受領していたこと、当初使用料は、同年5月に1点当たり2万円に改訂され、同改訂後、原告は1点当たり税込み2万1600円を受領していたことなどに照らせば、原告が本件写真についての著作権の行使につき受けるべき金銭の額は、3万2400円と認めるのが相当である。
 この点につき、原告は、当初使用料1万円を5倍し、消費税額を加えた5万4000円の損害が生じた旨主張するが、本件全証拠によっても、原告が本件写真についての著作権の行使につき受けるべき金銭の額が、上記の金額であると認めるに足りないというべきである。
(2)慰謝料
ア 著作者人格権侵害に係る慰謝料
 前記のとおりの被告による著作者人格権侵害行為の態様、取り分け、被告サイトは、風俗店に関する掲示板に係る情報のまとめサイトであり、前記(1)のとおり、本件写真は、1年以上にわたり、そのトップページに大きく掲載されていたこと、本件写真の右下に「(省略)」と原告の氏名と整合する表示がされていたこと(以上につき、甲2、3、5)などに照らすと、原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は、30万円と認めるのが相当である。イ 著作権侵害に係る慰謝料
 原告は、著作権侵害に係る慰謝料をも請求するが、著作権侵害行為によって生じた損害は財産損害に対する損害賠償によって回復されるのが通常であり、前記のとおりの被告による著作権侵害行為の態様を踏まえても、著作権侵害によって金銭をもって慰謝すべき精神的損害が生じたと認めることはできない。
(3)内容証明郵便費用
 原告は、内容証明郵便費用を損害として主張するが、本件全証拠によっても、当該費用が原告の権利を実現するために当然必要とされるものであったと認めることはできず、被告の行為と相当因果関係のある損害であると認めることはできない。
(4)弁護士費用
 本件事案の内容、審理の経過、認容額等に照らせば、被告の行為と相当因果関係のある弁護士費用は、3万円(著作権侵害に係る部分として3000円、著作者人格権侵害に係る部分として2万7000円)と認めるのが相当である。
(5)小括
 以上によれば、原告に生じた損害は、合計36万2400円となる。
 原告は、本件写真が被告サイトにアップロードされた平成30年3月17日からの遅延損害金の支払を求めるが、公衆送信が継続的な行為であることからすると、不法行為期間の終期である令和元年5月11日からの遅延損害金の支払を求める限度で理由があるというべきである。
第4 結論
 よって、原告の請求は主文掲記の限度で理由があるからその範囲で認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 山田真紀
 裁判官 神谷厚毅
 裁判官 西山芳樹


(別紙原告写真目録は省略)
(別紙ウェブサイト目録は省略)
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