判例全文 line
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【事件名】CATVの地上波無許諾再放送事件(2)
【年月日】令和元年10月23日
 知財高裁 平成31年(ネ)第10018号 損害賠償請求本訴、使用料規程無効確認請求反訴控訴事件
 (原審・東京地裁平成28年(ワ)第28925号、平成29年(ワ)第17021号)
 (口頭弁論終結日 令和元年8月7日)

判決
控訴人 株式会社ひのき
訴訟代理人弁護士 中田祐児
同 島尾大次
同 高木誠一郎
同 益田歩美
同 妹尾祥
同 柴谷亮
同 美馬和仁
被控訴人 一般社団法人日本テレビジョン放送著作権協会
訴訟代理人弁護士 前田哲男
同 中川達也
同 福田祐実
同 岡崎洋
同 村尾治亮
同 新間祐一郎
同 千葉健太郎


主文
1 本件控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する
(1)控訴人は、被控訴人に対し、4722万1238円及びうち2006万8931円に対する平成28年9月10日から支払済みまで、うち2715万2307円に対する平成30年4月1日から支払済みまで、それぞれ年5分の割合による金員を支払え。
(2)被控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
(3)控訴人の反訴請求を却下する。
2 訴訟費用は、第1審、第2審を通じて、これを8分し、その1を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。
3 この判決は、第1項(1)に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 被控訴人が平成25年9月4日文化庁長官に届け出た使用料規程第3条(1)及び(2)はいずれも無効であることを確認する。
第2 事案の概要(略語は、特に断りのない限り、原判決の例による。)
1 事案の要旨
 本訴は、著作権等管理事業法に基づき登録を受けた著作権等管理事業者であり、放送で定めるテレビジョン放送による地上基幹放送を行う放送事業者から信託により著作権及び著作隣接権の有線放送権等の管理委託を受けた被控訴人が、有線テレビジョン放送事業を行っている控訴人に対し、控訴人は被控訴人の許諾を受けることなく平成26年4月1日以降継続して上記放送事業者の地上テレビジョン放送を受信して有線放送し、被控訴人の著作権及び著作隣接権の有線放送権を侵害したと主張して、有線放送権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求として、民法709条、著作権法114条3項及び4項により、3億5913万0024円(被控訴人が平成25年9月4日に文化庁長官に届け出た使用料規程(甲5。本件使用料規程)に基づく使用料相当損害金3億2648万1840円及び弁護士費用3264万8184円の合計額)及びうち1億7812万6438円(平成26年4月1日から平成28年3月31日までの分)に対する平成28年9月10日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで、うち1億8100万3586円(平成28年4月1日から平成30年3月31日までの分)に対する平成30年4月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 反訴は、控訴人が、本件使用料規程第3条(1)及び(2)がいずれも無効であることの確認を求める事案である。
 原判決は、被控訴人の請求のうち、1億7956万5012円及びうち8906万3219円に対する平成28年9月10日から支払済みまで、うち9050万1793円に対する平成30年4月1日から支払済みまで、それぞれ年5分の割合による金員の支払を求める限度で認容し、その余の被控訴人の請求を棄却し、控訴人の反訴請求を却下した。
 控訴人は、原判決を不服として、本件控訴を提起した。
2 前提事実
 以下のとおり訂正するほか、原判決「事実及び理由」の第2の1(3頁17行目〜13頁1行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決4頁7行目冒頭から9行目末尾までを次のとおり改める。
 「イ(ア)控訴人は、昭和63年9月に設立され、有線テレビジョン放送施設の設置許可を得て、徳島県板野郡北島町、松茂町の各全域及び上板町の一部の区域において有線テレビジョン放送事業を行っている株式会社である。
 控訴人が設立された当時、地上波テレビ放送の方式はアナログであったところ、控訴人は、その設立当初より、毎日放送、朝日放送、関西テレビ、四国放送、テレビ大阪及び讀賣テレビ(毎日放送等6社)から放送法に基づく再放送の同意を得て、アナログ方式の地上テレビジョン放送を、放送内容に対して加工又は中断することなく、同時に再放送していた。
 なお、毎日放送等6社のうち四国放送を除く5社が上記同意の際に控訴人に交付した同意書(乙54の2〜4、55の2〜4、56の1・2、57の2・3、59の2・3)には、各社が保有する著作権及び著作隣接権に関する対価について、将来状況に応じて請求することがある旨記載されていたが、被控訴人が設立される以前には、毎日放送等6社が控訴人に対して、上記対価の支払を求めることはなかった。
 その後、地上テレビジョン放送の方式は、平成24年3月31日に、アナログ方式からデジタル方式に完全移行した。
 (以上につき、乙43、54〜59、81)」
(2)原判決4頁18行目及び5頁5行目の「各放送」を、いずれも「各地上テレビジョン放送(デジタル方式)」と改める。
(3)原判決5頁15行目の「各放送局との契約に従い、」を削除する。
(4)原判決7頁7行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
 「オ 本件使用料規程4条は、「本規程に定める使用料は、著作権等の利用の態様に照らして特に必要であると認められる場合に限り、契約の促進又は管理の効率化を図るため、減額することができる。」と定めている(以下「本件減額措置」という。)。
(5)原判決7頁8行目冒頭から13行目末尾までを次のとおり改める。
 「(5)被控訴人とケーブルテレビ連盟との間の基本合意
ア 被控訴人の前身である「ケーブルテレビ再放送の有料化に関する管理団体設立検討準備会」は、平成24年11月30日、一般社団法人日本ケーブルテレビ連盟(以下「ケーブルテレビ連盟」という。)に対し、「地上民放テレビをケーブルテレビで再放送する際の著作権および著作隣接権の使用料算定方式について(その2)」と題する文書(甲26)を送付した。ケーブルテレビ連盟は、我が国のケーブルテレビ事業者(有線テレビジョン放送事業者)を会員とする団体であり、控訴人は同連盟の会員である。
 上記文書には、ケーブルテレビ再放送使用料算定方式(案)として、本件使用料規程と同様に、年間の包括的利用許諾契約を結ぶ場合の再放送使用料について、区域内再放送を「有料視聴世帯数×1chあたり年額120円×ch数」とし、区域外再放送を「有料視聴世帯数×1chあたり年額600円×ch数」とするものが記載されていた。
 その後、上記準備会及びその後身である被控訴人とケーブルテレビ連盟との間で、使用料算定方式に関する交渉が続けられ、平成25年4月17日、被控訴人とケーブルテレビ連盟との間で、「地上民放テレビをケーブルテレビで再放送する際の著作権および著作隣接権の使用料(平成26年度〜平成28年度)についての基本合意」(甲11。以下「本件基本合意」という。)を締結した。」
(6)原判決7頁21行目の「放送波等」を「放送波及びテレビ東京系列の放送」と改める。
(7)原判決7頁23行目の「ケーブル連盟」を「ケーブルテレビ連盟」と改める。
(8)原判決9頁1行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
 「オ 本件基本合意(3)は、再放送使用料の支払対象期間の開始を平成26年4月1日以降とし、平成26年度(平成26年4月1日〜平成27年3月31日)の再放送使用料については、使用料の50%を軽減する措置を設けると定めている。
カ 本件基本合意(4)は、平成29年度以降の再放送使用料及び減額措置の取扱いは、経済状況等を勘案し、かつ、本件基本合意の内容を尊重して、協議取り決めるものと定めている。」
(9)原判決9頁12行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
 「また、放送法は、地上基幹放送事業者に上記義務を負わせるとともに、放送対象地域内において受信の障害が発生している区域があるときは、有線テレビジョン放送事業者に当該区域において同時再放送を行う義務を負わせている(放送法140条1項)。そして、当該再放送については、著作権法上も放送事業者の有線放送権が適用されないこととされている(著作権法99条2項)。」
(10)原判決11頁5行目冒頭から13頁1行目末尾までを次のとおり改める。
 「(8)控訴人による地上テレビジョン放送の同時再放送に係る同意の取得状況
ア 控訴人は、遅くとも、平成26年2月13日までに毎日放送から、同年3月7日までにテレビ大阪から、同月20日までに四国放送から、同年4月1日までに関西テレビから、同年5月27日までに朝日放送から、それぞれ、各放送事業者のデジタル方式の地上テレビジョン放送を同時再放送することの同意を得て、それ以降、これらの放送を同時再放送している。
 なお、上記毎日放送等5社が同意の際に控訴人に交付した再放送同意書(乙1〜5)には、再放送される放送に関し、各社が被控訴人に委託している著作権及び著作隣接権について、控訴人と被控訴人との間で再放送の許諾に関する契約を締結し、被控訴人に許諾の対価(使用料)を支払うことを要する旨の記載がある。
 (以上につき、乙1〜5、81)
イ 控訴人は、讀賣テレビに対しても、毎日放送等5社に対してと同様に、デジタル方式の地上テレビジョン放送の同時再放送について同意するよう求めたが、讀賣テレビが同意しなかったため、平成23年6月21日付けで、放送法144条1項に基づき総務大臣に対する同意裁定の申請を行った。
 総務大臣は、平成25年7月23日、讀賣テレビに対し、徳島県板野郡北島町及び松茂町の各全域につき同時再放送に同意しなければならないとの裁定をしたが、同郡上板町の区域については、同意しなければならないとは認められないとの裁定をした。控訴人は同裁定に対し異議申立てをしたが、総務大臣は、平成27年2月25日、同異議申立てを棄却した。
 控訴人は、同年6月2日、東京高等裁判所に対し、上記棄却決定の取消しを求める訴えを提起した。東京高裁は、平成29年12月7日、上記棄却決定を取り消す判決をし、同判決に対する上告受理申立ては平成30年9月6日に不受理となり、同判決は確定した。
 (以上につき、乙6、7、60、90、110)
(9)控訴人と被控訴人の間の同時再放送に係る利用許諾に関する交渉の経緯
ア 被控訴人は、平成25年12月26日、控訴人に対し、「一般社団法人日本テレビジョン放送著作権協会からのお知らせ」と題する文書(甲9の1)を送付した。
 同文書には、@被控訴人が、平成25年12月1日に、全国の地上テレビジョン放送事業者から、同時再放送に必要な著作権及び著作隣接権の管理委託を受けたこと、A被控訴人は、平成26年4月に地上テレビジョン放送の同時再放送を有料化することに向けて、ケーブルテレビ事業者との間で再放送の利用許諾契約を締結する準備を進めていること、B被控訴人は、ケーブルテレビ連盟との合意により、ケーブルテレビ連盟加盟者のうち希望者とは、被控訴人、ケーブルテレビ連盟及び当該希望者の3者契約(以下、単に「3者契約」という。)により利用許諾契約を締結していること、C被控訴人は、3者契約を希望しないケーブルテレビ事業者とは、被控訴人と当該希望者との2者契約(以下、単に「2者契約」という。)により利用許諾契約を締結していること、D控訴人は、ケーブルテレビ連盟に対して委任状を提出していないので、被控訴人と2者契約を締結することになる旨などが記載され、2者契約による場合の案内資料として、資料1(「手続きに関するご案内」)及び資料2(「JASMAT『年間の包括的利用許諾契約』による使用料一覧」。以下「本件使用料一覧(2者契約)」という。なお、「JASMAT」とは、被控訴人(英文名称「JapanAssociationfortheManagementofTelevisionRights」。甲1)の略称である。)が同封されていた。
 本件使用料一覧(2者契約)には、使用料の減額措置について、次のとおり記載されている。
(ア)一般利用者に対する減額措置
a 一般利用者に対する減額措置とは、本件使用料規程にかかわらず、使用料徴収に伴う利用者側の新たな経済的負担・経営環境の変化を考慮して、当分の間、年間の包括的利用許諾契約(毎年4月〜翌年3月末の年度単位)について行う減額措置をいう。
b この場合の1世帯1chあたり年額使用料は、以下のとおりである。
 なお、区域外再放送(欠落波、重複波等)の使用料の詳細は、被控訴人の事務局に問い合わせてほしい。
(a)区域内再放送年額28円
(b)区域外再放送(欠落波)年額144円
(c)区域外再放送(重複波等)年額600円
c 使用料算出方法は、区域内再放送、区域外再放送(欠落波)、区域外再放送(重複波等)の各波につき、以下の算定式で算出された金額の合計額に消費税相当額を加算する。ただし、平成26年度の使用料のみ半額に軽減する。
 「有料視聴世帯数×1chあたり年額×ch数」
d 課金対象契約世帯数の15%を受信障害対策世帯とみなして使用料を免除する。ただし、区域内再放送に限るものとし、区域外再放送は使用料を徴収する。
(イ) 大口・安定利用者に対する減額措置
a 大口・安定利用者に対する減額措置とは、以下のいずれかに該当する利用者に対し、平成26年4月1日から平成29年3月31日までの間、年間の包括的利用許諾契約について行う減額措置をいう。
(a)大口利用者:有料視聴世帯数5万世帯以上の利用者
(b)安定利用者:下記@〜Cのいずれにも該当する利用者
@ 被控訴人と年間の包括的利用許諾契約の締結を平成26年3月31日までに申し出た者
A 前年度年額使用料全額(消費税含む)を被控訴人が定める期日までに遅滞なく支払った者
B 年額使用料全額(消費税含む)を被控訴人が定める期日までに遅滞なく支払う者
C 使用料徴収・分配に必要な資料を被控訴人が定める期日までに遅滞なく提出した者
b この場合の1世帯1chあたり年額使用料は、以下のとおりである。
 なお、区域外再放送(欠落波、重複波等)の使用料の詳細は、被控訴人の事務局に問い合わせてほしい。
(a)区域内再放送年額24円
(b)区域外再放送(欠落波)年額120円
(c)区域外再放送(重複波等)年額600円
c 使用料算出方法及び使用料免除対象
 前記(ア)のc及びdと同じ
 (以上につき、甲9、乙11)
イ 控訴人は、平成26年1月23日、被控訴人に対し、通知書(乙12の1)を送付し、前記アの連絡文書(甲9の1)の記載内容に関し、ケーブルテレビ連盟の加盟者のうち希望者については3者契約とする理由、3者契約の場合と2者契約の場合の使用料等契約条件の相違の有無等について、質問した。
 被控訴人は、同年2月6日、控訴人に対し、連絡文書(乙13)を送付し、3者契約とするのは、使用料徴収義務を効率的に行うために、ケーブルテレビ連盟に対して、加盟者の使用料算出に必要なデータの収集や使用料徴収の事務代行を依頼するからであること、3者契約と2者契約では、使用料等契約条件に異なる点があることなどを回答した。
 控訴人は、同月12日、被控訴人に対し、通知書(乙14の1)を送付し、本件基本合意は3者契約にのみ適用され、2者契約には適用されないのかなどの点について、質問した。
 被控訴人は、同年3月6日、控訴人に対し、連絡文書(乙15)を送付し、本件基本合意は2者契約には適用されないことなどを回答した。
 また、この間に、被控訴人は、同年2月27日、控訴人に対し、ケーブルテレビ事業者による地上民放テレビ同時再放送に関し、地上テレビジョン放送事業者の保有する著作権及び著作隣接権について、被控訴人との間で許諾契約を締結するよう求める文書(甲10の1)を送付した。同文書には、資料として、「許諾契約に関するご案内」(資料A)、本件使用料一覧(2者契約)(資料F)などが同封されていた。
 (以上につき、甲10、乙12〜15)
ウ 控訴人は、平成26年4月1日、被控訴人に対し、@本件基本合意に基づく使用料は、ケーブルテレビ連盟に加入する有線テレビジョン放送事業者に対し、等しく適用されなければならない、A本件基本合意は、区域内再放送と区域外再放送とで、また区域外再放送のうち欠落波と重複波とで大きな格差をつけている点で不合理であり、訂正されるべきである、B控訴人は、上記Aにより訂正されるべき本件基本合意に基づく使用料にて許諾契約の締結をするよう申し出る旨を記載した通知書(甲12、乙16の1)を送付した。
 被控訴人は、同月17日、控訴人に対し、@本件基本合意は、本件使用料規程に定める使用料の減額措置を定めたものであり、ケーブルテレビ連盟を当事者に加えて、ケーブルテレビ連盟、被控訴人及び有線テレビジョン放送事業者の3者で許諾契約が締結される場合にのみ適用される、A本件基本合意における区域内と区域外、欠落波と重複波の使用料の区別は、ケーブルテレビ連盟との協議に基づき合意された合理的なものである、B本件基本合意に基づく使用料が訂正されるべきことを前提とする許諾契約の締結の申出には応じられない旨を記載した連絡文書(甲13の1、乙17)を送付した。
 (以上につき、甲12、13、乙16、17)
エ 控訴人は、平成26年10月2日、被控訴人に対し、@本件基本合意に記載された「有料視聴世帯数×1世帯1chあたり年額24円×区域内再放送ch数」の使用料は、有線テレビジョン放送事業者が被控訴人の管理する地上波テレビジョン番組の著作物を使用する場合の価格として公定されたものである、A本件基本合意は、区域内再放送と区域外再放送を区別し、区域外再放送の使用料を「1世帯1chあたり年額120円」と定めているが、両者を区別する理由はなく、区域内再放送の使用料の5倍もの高額とするのは合理性を欠くことから、区域外再放送の使用料に関する合意は無効である、B控訴人は、区域内再放送と区域外再放送を区別することなく、「1世帯1chあたり年額24円」で計算した使用料を支払いたいので被控訴人の振込口座を知らせてほしい旨を記載した通知書(甲6、乙18の1)を送付した。
 被控訴人は、同月11日、控訴人に対し、@被控訴人と控訴人の間でいまだ許諾契約は締結されていないので、上記支払の申出には応じられない、A仮に許諾契約が存在したとしても、本件基本合意は2者契約には適用されないし、控訴人による使用料の算定方法にも誤りがある、B控訴人が平成26年4月1日以降に民放局の再放送を行っているとすれば、被控訴人が管理する著作権及び著作隣接権の侵害に該当し、控訴人に損害賠償債務が発生する、C上記Bの債務額の算定は、許諾契約が事前に締結されていた場合と同額とはならない旨を記載した連絡文書(甲14の1、乙19)を送付した。
 その後も、控訴人と被控訴人との間で、再放送利用許諾に関する交渉が続いたが、上記のとおり、本件基本合意の2者契約への適用の可否、区域外再放送の使用料の算定方法等について、双方の主張に大きな隔たりがあったため、利用許諾契約の締結には至らなかった。
 (以上の点につき、甲6、7、14、15、17、31、乙18〜21)
オ 控訴人は、被控訴人を被供託者とし、@平成26年11月10日、平成26年度分の使用料として76万9176円を、A平成28年3月24日、平成27年度分の使用料として167万8683円を、B平成29年3月31日、平成28年度分の使用料として169万0658円を、C平成30年4月3日、平成29年度分の使用料として170万3255円を、D平成31年4月1日、平成30年度分の使用料として172万4406円を、それぞれ供託した。
 また、控訴人は、上記各供託に係る供託通知書(甲16、18、32、乙75、129)に、「供託の原因たる事実」として、@控訴人は、被控訴人に対し、上記各年度の地上テレビジョン放送及びその番組の著作権、著作隣接権の使用料として、上記供託金額の支払債務を弁済期の定めなく負担している、A控訴人は、上記各供託金額の現金を準備した上、被控訴人に対し、これを支払う旨通知したが、受領を拒否されたため(あるいは、被控訴人が上記供託金額を受領しないことが明らかであるため)、これを供託する、B上記供託金額は、本件基本合意に基づき、「有料視聴世帯数×1世帯1chあたり年額24円×区域内再放送ch数」の計算式で算定したものである(なお、本件基本合意は区域外再放送の使用料を「1世帯1chあたり年額120円」と定めているが、かかる定めは不合理であって無効であるため、区域外再放送の使用料についても、区域内再放送と同額として算定している。)旨を記載した(ただし、上記なお書きについては、甲16にのみ記載した。)。
 (以上につき、甲16、18、31、32、乙75、129)」
3 争点
(1)本訴について
ア 請求及び請求原因の特定の十分性(争点1)
イ 本件信託契約の適法性又は有効性(争点2)
ウ 本件有線放送権の使用許諾の有無(争点3)
エ 権利の濫用、信義則違反又は公序良俗違反等の有無(争点4)
オ 損害額(争点5)
(2)反訴について
ア 確認の利益の有無(争点6)
イ 本件使用料規程の有効性(争点7)
第3 争点に関する当事者の主張
 以下のとおり訂正するほか、原判決「事実及び理由」の第3の1ないし7(13頁12行目〜37頁1行目)に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、上記記載中、「ケーブル連盟」を「ケーブルテレビ連盟」と改めるものとする。)。
1 争点1(請求及び請求原因の特定の十分性)について
 原判決14頁5行目冒頭から11行目末尾までを次のとおり改める。
 「加えて、本件使用料規程は、被控訴人への委託者である地上テレビジョン放送事業者が著作隣接権を有する放送を受信して継続的に再放送するという利用態様を想定し、そのような利用についての著作隣接権の対価のほか、被控訴人への委託者が著作権を単独で保有している放送番組に限り、その著作権の対価をも含めた包括的な使用料を定めている。そして、控訴人は、まさに本件使用料規程が想定するとおりの利用を行っているのであるから、放送番組の自主製作番組の比率、外部製作比率によって本件使用料規程に基づく使用料が変動することはない。
 以上のとおり、本訴請求及びその請求原因は十分に特定されている。
〔控訴人の主張〕
 被控訴人は、本訴請求において、控訴人に対し、不法行為による本件有線放送権の侵害を理由とする損害賠償を請求するのであるから、控訴人が再放送したテレビ番組を特定した上、被控訴人がその番組の著作権者、著作隣接権者であることを主張立証する必要がある。テレビ番組は、外部の番組製作会社が番組製作に関与する場合が多く、自社製作番組の比率は放送事業者ごとにまちまちであって、これは被控訴人の主張する損害額の認定にも関わることである。
 しかるに、被控訴人は、被控訴人が本件有線放送権を有する著作物について、単にチャンネル、地域、デジタル周波数をもって特定するだけで、具体的な著作物を特定せず、著作物として保護されるための創作性の要件を具備すること及び著作権の取得原因事実を特定していないので、主張自体失当である。」
2 争点3(本件有線放送権の使用許諾の有無)について
(1)原判決16頁10行目末尾に改行して次のとおり加える。
 「この場合、実体法的には、再放送に関してある種の契約関係が成立したとみるほかない。放送法及び著作権法には、総務大臣の同意裁定が出された場合に適切な使用料を定める規定はないが、著作権法68条の趣旨に鑑み、裁判所が適切な使用料を定めるべきである。」
(2)原判決16頁20行目冒頭から24行目末尾までを次のとおり改める。
 「ア 控訴人は、放送法による再放送の同意又は同意裁定は、同時に著作権及び著作隣接権の使用許諾も含むのであり、著作権法68条の趣旨に鑑み、裁判所が適切な使用料を定めるべきであると主張する。
 しかし、放送法11条が再放送の同意を要するとしているのは、放送秩序を維持するとともに放送事業者の番組編集上の意図を保護して放送に対する国民の信頼を保護するためであるから、この同意制度は、放送事業者の著作権や著作隣接権など財産的利益を保護するための制度とは異なるものである。また、放送法に著作権及び著作隣接権の使用料についての規定が置かれていないことは、同法が著作権及び著作隣接権の許諾や使用料に関知しないことを意味しているから、著作権法68条を類推すべき状況にない。さらに、日本が加盟する「実演家、レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約」は、放送の再放送について放送機関が許諾権を享有することを規定した上で(13条)、この許諾権について加盟国が「強制許諾」を国内法令で定めることを禁止している(15条)。仮に放送法上の同意裁定によって著作隣接権について許諾があったとみなされるならば、そのような制度は同条約違反となる。」
(3)原判決17頁17行目末尾に改行して次のとおり加える。
 「イ 控訴人は、総務大臣の同意裁定が出されたにもかかわらず、別途放送事業者から著作隣接権等の使用について同意を得なければならないとすると、同意裁定が無意味となる旨主張する。
 しかし、著作権等管理事業者による著作権及び著作隣接権の行使は、原則として許諾をし、その使用料を請求することによって行われるのであり(著作権等管理事業法16条)、かつその際の使用料の額には、著作権等管理事業法に基づき公的な規制が及んでいるのであって(同法13条、14条、19条、20条)、利用者の立場からみると、正当な理由がない限り許諾を拒否されず、かつ公的規制の及んでいる使用料規程を超えて使用料を請求されないことが保障されている。」
3 争点4(権利の濫用、信義則違反又は公序良俗違反等の有無)について
(1)原判決19頁18行目末尾の後に改行して次のとおり加える。
 「また、放送は、今や、国民の生活にとって欠くことのできない情報や娯楽の提供手段となっており、特に災害時には、テレビの放送からもたらされる情報は、国民の生命、身体、財産を守るために必要欠くべからざるものである。このような意味で、放送は、電気、ガス、水道、鉄道などと同じく、生活を営むために必要不可欠な基本的なライフラインというべきものであるところ、電気、ガス、水道、鉄道などの基本的なライフラインの使用については、同じサービスを受けるについて料金に差をつけることは、法の下の平等に反することとして禁止されている。」
(2)原判決19頁23行目末尾の後に改行して次のとおり加える。
 「本件基本合意がこのような差をつけているのは、放送業界において、放送事業者はそれぞれが免許を受けた地域において利益を得るべきであるとの秩序を作っており、区域外再放送はこのような放送業界の秩序を崩すものであるから、できるだけ区域外再放送を行なわせないようにして、放送業界の秩序を守ろうとする意図に基づいている。」
(3)原判決20頁13行目末尾の後に改行して次のとおり加える。
 「また、放送は、憲法21条が規定する表現の自由の保障の下で、国民の知る権利を実質的に充足し、健全な民主主義の発達に寄与するものとして、国民に広く普及されるべきものである。それにもかかわらず、区域外の視聴者は区域内の視聴者に比べて高い視聴料を支払わなければならないのは、国民の知る権利を侵害するものである。」
(4)原判決24頁14行目冒頭から22行目末尾までを次のとおり改める。
 「しかし、そもそも被控訴人は控訴人との利用許諾契約締結を拒んでおらず、控訴人に対し、再三にわたり、他の有線テレビジョン放送事業者と同条件での利用許諾契約締結を誘引しており、それにもかかわらず、控訴人が被控訴人との契約締結を拒み、かつ、契約を締結しないまま再放送を行っているために、不法行為に基づく損害賠償を請求しているにすぎず、請求金額も著作権法114条3項、4項に基づく正当なものである。しかも、被控訴人は、控訴人に対して再放送の差止めを請求していない。
 また、毎日放送等5社が再放送の同意をし、讀賣テレビについて同意裁定があったとしても、前記のとおり、放送法上の制度と著作隣接権の制度は異なるので、本件使用料規程に基づく使用料相当額の損害賠償を請求することは、権利濫用ないし信義則違反に当たるものではない。」
(5)原判決27頁5行目ないし6行目の「@区域内再放送については対価を不要とすべきである」を、次のとおり改める。
 「@区域内再放送は、放送対象地域内において地上基幹放送があまねく受信されるようにすることを補完し、地上基幹放送事業者が放送法92条の定める義務を達成することに資するという側面を有しているから、対価を不要とすべきである、」
(6)原判決29頁21行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
 「使用料が視聴者に転嫁されるのであれば、控訴人の営業利益が1200万円程度であるとしても、被控訴人に使用料を支払えば赤字続きになるとか、赤字を避けようとすれば讀賣テレビの再放送を断念するしかないなどということにはならない。
 本件使用料規程に基づく使用料(年間の包括的利用許諾契約を締結した場合)は、区域外再放送についても1波・1世帯当たり600円であり、月額50円にすぎない。また、契約者が控訴人に支払っている金額は、何らオプションをつけない場合の最低料金であっても月額1800円(消費税別)である。仮に原判決により支払を命じられた区域外再放送1波当たり月額50円/区域内再放送1波当たり月額10円が全額契約者に転嫁されても、区域外5波及び区域内1波のすべてを合計して260円が追加されるにすぎない。」
4 争点5(損害額)について
(1)原判決33頁2行目冒頭から26行目末尾までを次のとおり改める。
 「(4)本件使用料規程では、「年間の包括的利用許諾契約を結ぶ場合」(3条(1))と「年間の包括的利用許諾契約によらない場合」(同条(2))とを区別し、前者の使用料を後者の使用料の2分の1としているところ、現時点において被控訴人と契約を締結している有線テレビジョン放送事業者は年間を通じた再放送を行っているので、「年間の包括的利用許諾契約によらない場合」に基づく支払をしている事業者は存在しない。
 しかし、有線テレビジョン放送事業者が1年に満たない期間に限定して有線放送を行うことも想定することができ、また、使用料規程のうちその侵害の行為に係る著作物等の利用の態様について適用されるべき規定による使用料の算出方法が複数あるときは、各方法により算出した額のうち最も高い額を請求できることから(著作権法114条4項)、本件有線放送権の行使につき被控訴人が受けるべき金銭の額に相当する額(同条3項)を算定するに当たっては、本件使用料規程のうち「年間の包括的利用許諾契約によらない場合」の条項によることが相当である。
 そして、同条4項を設けた趣旨に鑑みれば、「最も高い額」となる算出法による許諾実績がなくとも、同項の適用は妨げられないと解すべきである。
 なお、仮に控訴人が、被控訴人からの申込みの誘引に応じて利用許諾契約締結の申込みをしていれば、本件減額措置が適用され、控訴人が支払うべき使用料は、平成26年度は447万0570円(消費税別)、平成27年度は903万4248円(消費税別)であったものである。上記使用料は、本件使用料一覧(2者契約)の「一般利用者に対する減額措置」を適用したものであり、区域内再放送(四国放送)につき年額28円、区域外再放送(毎日放送等6社のうち四国放送を除く5社)につき年額144円、平成26年度はその半額で計算した金額である。また、上記5社の区域外再放送の年額が同じ金額となるのは、被控訴人は、2者契約の場合も、本件基本合意に基づく場合と同様の減額措置をとっているからである(本件基本合意(2)@参照)。
 しかし、控訴人は、被控訴人から文書による注意喚起を受けていながら、本件有線放送権を侵害する再放送を平成26年4月以降も継続し、その結果、被控訴人は不法行為に基づく損害賠償請求訴訟の提起まで余儀なくされている。このような控訴人の侵害行為について、被控訴人が本件訴訟を通じて受けるべき金銭の額に相当する額を算定するに当たっては、契約の促進等のための措置である本件減額措置が考慮されるべきでないことは明らかである。
(5)また、実際にも、本件減額措置の適用を受けずに、被控訴人に対して使用料を支払っている有線テレビジョン放送事業者は存在する。
 被控訴人は、著作権等管理事業を開始した平成26年度以降、年間の包括的利用許諾契約によって区域外再放送を許諾するに当たり、累計12社
(平成27年度10社、同28年度9社、同29年度9社)の有線テレビジョン放送事業者につき、本件減額措置を施さずに、有料視聴世帯数に地上テレビジョン放送1波当たり年額600円を乗じた額の使用料を徴収している。
 なお、平成26年度は、被控訴人が著作権等管理事業を開始した初年度であることから半額への軽減措置を講じた結果、1世帯1ch当たり年額600円で徴収した実績はないが、この金額を前提として軽減措置を講じた金額(1世帯1ch当たり年額300円)を徴収した事業者は10社存在する。
 また、上記12社は、いずれも重複波等の区域外再放送を行った者である。
(6)控訴人による供託は、使用料を名目とするものであり、著作権等侵害の損害賠償債務を名目とするものではないから、損害賠償債務の弁済に当たらない。」
(2)原判決34頁17行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
 「(3)また、著作権法114条3項の定める「著作権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」を算定するに当たり複数の使用料相当額が想定される場合、その物の価格又は権利の使用料として実際に市場において成立している価格(正規品の実売小売価格)に基づいて算定すべきである。
 本件では、本件使用料規程に基づいて、被控訴人と年間の包括的利用許諾契約を結び、区域内再放送、区域外再放送の使用料を支払っている有線テレビジョン放送事業者は存在せず、被控訴人は、本件基本合意に基づき、有線テレビジョン放送事業者から使用料を徴収している。
 なお、被控訴人は、本件使用料規程に基づき、1世帯1ch当たり年額600円の区域外再放送の使用料を支払っている有線テレビジョン放送事業者が累計12社存在する旨主張する。しかしながら、被控訴人の主張によっても、上記12社は、いずれも重複波等の区域外再放送を行った者であるから、本件使用料規程に基づく使用料を支払ったのではなく、本件基本合意(1)Bの定めに基づき、「有料視聴世帯数×1世帯1chあたり年額600円×区域外再放送(重複波等)ch数」の使用料を支払った者であるといえ、被控訴人の主張は失当である。
 したがって、本件使用料規程に基づき上記損害額を算定することは、誰も支払っていない使用料に基づいて使用料相当の損害額を算定するものであって、到底認められない。」
5 争点6(確認の利益の有無)について
(1)原判決35頁9行目冒頭から10行目末尾までを次のとおり改める。
 「しかし、控訴人の事業は放送を再放送することであるから、今後も、控訴人と被控訴人との間で、いくらの使用料を支払うべきかが問題になる。その場合に、被控訴人は控訴人に対し本件使用料規程に基づく損害を請求するのであるから、控訴人には、本件使用料規程の定める使用料が有効か無効かについて判断を求める法律的利益がある。本訴請求において本件使用料規程の有効性について判断されたとしても、控訴人と被控訴人の間の紛争を終局的に解決することはできない。」
(2)原判決36頁5行目冒頭から7行目末尾までを次のとおり改める。
 「また、仮に将来において控訴人が本件と同様の不法行為を行い、それに対して被控訴人が損害賠償請求をするとすれば、当該損害賠償請求において使用料相当損害金の算定が行われ、その前提として本件使用料規程が公序良俗に反するか等も判断される。それらの請求(本訴請求)から離れて、本件使用料規程の有効・無効それ自体を民事訴訟によって確定する必要性は認められない。
 不法行為に基づく損害賠償請求は、差止請求と異なり、事後的に損害の補填を図るための制度であるから、被害者が将来の不法行為を予測してあらかじめ損害賠償額の算定を訴訟で求めたり、加害者が今後不法行為を自ら行うことを前提としてその賠償額の算定を事前に裁判所に求めたりすることは許されず、その算定の前提事項について事前に確認を求めることもできない。」
第4 当裁判所の判断
 当裁判所は、被控訴人の請求は、損害賠償金4722万1238円及びうち2006万8931円に対する平成28年9月10日から支払済みまで、うち2715万2307円に対する平成30年4月1日から支払済みまで、それぞれ年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、被控訴人のその余の請求は理由がなく、控訴人の反訴請求は訴えの利益を欠くため不適法であると判断する。
 その理由は、以下のとおりである。
1 争点1(請求及び請求原因の特定の十分性)及び争点2(本件信託契約の適法性又は有効性)について
 原判決37頁10行目の「原告が」から14行目末尾までを次のとおり改めるほか、原判決「事実及び理由」の第4の1及び2(37頁3行目〜38頁22行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。
 「被控訴人が著作権法114条3項の「著作権…又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額」の算定根拠として主張する本件使用料規程第3条は、有料視聴世帯数に月額20円(区域内再放送)若しくは100円(区域外再放送)又は年額120円(区域内再放送)若しくは600円(区域外再放送)を乗じた金額に消費税相当額を加算した額を地上テレビジョン放送1波当たりの使用料と定めており、視聴する著作物の数量、種類などの個別的な事情は使用料の額を左右しない。」。
2 争点3(本件有線放送権の使用許諾の有無)について
 原判決39頁21行目冒頭から40頁6行目末尾までを次のとおり改めるほか、原判決「事実及び理由」の第4の3(38頁23行目〜40頁11行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。
 「(2)これに対し控訴人は、@地上テレビジョン放送事業者が再放送の同意をする場合は、同時に著作権及び著作隣接権の使用許諾もするものであるから、控訴人による毎日放送等6社の番組の同時再放送は本件有線放送権を侵害するものではない、A上記@のように解さないと、有線テレビジョン放送事業者が再放送の同意を得たとしても、別途著作権及び著作隣接権の使用許諾を得ない限り、再放送をできないことになり、放送法の定める再放送同意制度、総務大臣による同意裁定制度の趣旨を損なう旨主張する。
 しかしながら、上記@の点について、再放送の同意又は同意裁定があったからといって、当然に著作権及び著作隣接権の使用許諾があったと解することができないことは、前記(1)のとおりである。また、仮に再放送同意をもって著作権及び著作隣接権の使用許諾と同視するのであれば、放送法や著作権法において、かかる場合の使用料の協議方法、算定方法について規定が置かれるべきであるところ、そのような規定は設けられていない。この点に照らしても、控訴人の上記主張は採用することができない。
 次に、上記Aの点について、控訴人が主張する問題点は、再放送同意により著作権及び著作隣接権の使用許諾がされたとする解釈をとらなくとも、地上テレビジョン放送事業者が有線テレビジョン放送事業者に対し、正当な理由なく著作権及び著作隣接権の使用許諾を拒んだ場合に権利濫用の法理を活用することや、著作権及び著作隣接権侵害の不法行為に基づく損害賠償額の算定を適切に行うことにより、回避することが可能である。
 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。」
3 争点4(権利の濫用、信義則違反又は公序良俗違反等の有無)及び争点5(損害額)について
 本件事案に鑑み、争点5から判断する。
(1)争点5(損害額)について
 前記判示したところによれば、控訴人が、被控訴人の許諾を受けることなく、平成26年4月1日以降継続して毎日放送等6社の地上テレビジョン放送を受信して有線放送した行為については、本件有線放送権の侵害が認められるところ、既に説示したところに照らせば、控訴人にはこの点につき少なくとも過失があったことが認められる。そこで、以下、被控訴人の損害額について検討する。
 被控訴人は、控訴人が本件有線放送権を侵害したことにより被控訴人が受けた損害の額として、著作権法114条3項及び4項により算定される損害額を主張する。そして、被控訴人は、使用料規程による使用料の算出方法が複数あるときは各方法により算出した額のうち最も高い額を請求することができるとして(同条4項)、本件使用料規程の「年間の包括的利用許諾契約によらない場合」(3条(2))に基づき、有料視聴世帯数に対し、区域内再放送につき1世帯1ch当たり月額20円、区域外再放送につき1世帯1ch当たり月額100円を乗じた金額が、本件有線放送権侵害による損害額となる旨主張する。
 他方、控訴人は、本件使用料規程に基づいて、被控訴人と年間の包括的利用許諾契約を結び、区域内再放送、区域外再放送の使用料を支払っている有線テレビジョン放送事業者は存在せず、被控訴人は本件基本合意に基づき有線テレビジョン放送事業者から使用料を徴収しているのであるから、本件使用料規程に基づき上記損害額を算定することは失当である旨主張する。
 そこで、この点について検討する。
ア 認定事実
 前記前提事実と証拠(甲1、乙25、68、81、132)及び弁論の全趣旨を総合すれば、被控訴人とケーブルテレビ事業者との間の同時再放送に係る利用許諾契約に関する交渉状況及び使用料の徴収状況について、以下の事実が認められる。
(ア)控訴人は、昭和63年の設立当初より、毎日放送等6社から放送法に基づく再放送の同意を得て、アナログ方式の地上テレビジョン放送を同時再放送していた。
 なお、上記再放送に当たり、毎日放送等6社が控訴人に対して、各社が保有する著作権及び著作隣接権に関する対価の支払を求めることはなかった。そして、控訴人以外のケーブルテレビ事業者が、地上テレビジョン放送事業者から放送法に基づく再放送の同意を得て、アナログ方式の地上テレビジョン放送を同時再放送する場合にも、同様に、地上テレビジョン放送事業者がケーブルテレビ事業者に対して対価の支払を求めることはなかった。
(イ)被控訴人は、地上テレビジョン放送事業者から、これらの事業者が有する著作権及び著作隣接権のうちテレビジョン放送と同時に行う有線放送権等の管理委託を受け、当該事業者に代わり、当該地上テレビジョン放送を有線テレビジョン放送で同時再放送する際の当該事業者の著作権及び著作隣接権の管理を行うことなどを目的として、平成25年4月に設立され、原判決別紙信託者目録記載の地上テレビジョン放送事業者114社から、著作権及び著作隣接権のうち有線放送権について、信託による管理委託を受けた。
 被控訴人の前身である「ケーブルテレビ再放送の有料化に関する管理団体設立検討準備会」は、平成24年11月30日、ケーブルテレビ連盟に対し、「地上民放テレビをケーブルテレビで再放送する際の著作権および著作隣接権の使用料算定方式について(その2)」と題する文書(甲26)を送付した。同文書には、ケーブルテレビ再放送使用料の算定方式(案)として、本件使用料規程と同様に、年間の包括的利用許諾契約を結ぶ場合の再放送使用料について、区域内再放送を「有料視聴世帯数×1chあたり年額120円×ch数」とし、区域外再放送を「有料視聴世帯数×1chあたり年額600円×ch数」とするものが記載されていた。
 これに対し、ケーブルテレビ連盟は、@区域内再放送は、放送対象地域内において地上基幹放送があまねく受信されるようにすることを補完し、地上基幹放送事業者が放送法92条の定める義務を達成することに資するという側面を有しているから、対価を不要とすべきである、A基幹放送普及計画(昭和63年10月1日郵政省告示第660号。乙25)における「基幹放送を国民に最大限に普及させるための指針」において、地上基幹放送局を用いて行われるテレビジョン放送に関し、民間基幹放送事業者の放送については、総合放送4系統の放送が全国各地域においてあまねく受信できること等を定めていることが、欠落波の区域外再放送に対するニーズが生じる要因になっており、そのことを使用料において斟酌すべきである旨主張した。
(ウ)その後、前記(イ)の準備会及びその後身である被控訴人とケーブルテレビ連盟との間で、使用料算定方式に関する交渉が続けられ、平成25年4月17日、被控訴人とケーブルテレビ連盟との間で本件基本合意を締結した。
 本件基本合意(甲11)では、「年間の包括的利用許諾契約を結ぶ場合の再放送使用料」の適用に当たり、区域内再放送につき1世帯1ch当たり年額24円、区域外再放送(欠落波)につき1世帯1ch当たり年額120円、区域外再放送(重複波等)につき1世帯1ch当たり年額600円と定めたほか、区域外再放送の使用料に関し、重複波等のうち、平成25年1月1日時点で適法に同意を得て再放送しているものであって、かつ使用料徴収開始後も適法同意が継続して行われる場合は、1世帯1ch当たり年額120円とするなどの減額措置を定めた。また、平成26年度の再放送使用料については、使用料の50%を軽減する措置を設けた。
(エ)被控訴人は、平成25年12月26日、控訴人に対し、「一般社団法人日本テレビジョン放送著作権協会からのお知らせ」と題する文書(甲9の1)を送付した。
 同文書には、@被控訴人が、全国の地上テレビジョン放送事業者から、同時再放送に必要な著作権及び著作隣接権の管理委託を受けたこと、A被控訴人は、平成26年4月に地上テレビジョン放送の同時再放送を有料化することに向けて、ケーブルテレビ事業者との間で再放送の利用許諾契約を締結する準備を進めていること、B被控訴人は、ケーブルテレビ連盟加盟者のうち希望者とは、被控訴人、ケーブルテレビ連盟及び当該希望者の3者契約により利用許諾契約を締結し、3者契約を希望しないケーブルテレビ事業者とは、被控訴人と当該希望者との2者契約により利用許諾契約を締結していること、C控訴人は、ケーブルテレビ連盟に対して委任状を提出していないので、被控訴人と2者契約を締結することになる旨などが記載されていた。
 上記文書に同封された本件使用料一覧(2者契約)(甲9の1)には、使用料の減額措置として、一般利用者に対する減額措置と大口・安定利用者に対する減額措置があること、前者の減額措置を受けると、年間の包括的利用許諾契約を締結する場合の使用料は、区域内再放送につき1世帯1ch当たり年額28円、区域外再放送(欠落波)につき1世帯1ch当たり年額144円、区域外再放送(重複波等)につき1世帯1ch当たり年額600円となることなどが記載されている。
 その後、控訴人と被控訴人との間で、再放送利用許諾に関する交渉が続けられたが、本件基本合意の2者契約への適用の可否、区域外再放送の使用料の算定方法等について、双方の主張に大きな隔たりがあったため、利用許諾契約の締結には至らなかった。
(オ)被控訴人は、控訴人以外のケーブルテレビ事業者に対しても、控訴人に対して行ったのと同様の方法により、被控訴人が全国の地上テレビジョン放送事業者から同時再放送に必要な著作権及び著作隣接権の管理委託を受けたことなどを伝え、被控訴人との間で、3者契約又は2者契約の形式により、同時再放送の利用許諾契約を締結するよう勧誘した。
 被控訴人による使用料徴収の対象となる全国384の有線テレビジョン放送事業者のうち、控訴人ほか1社を除く382事業者は、上記勧誘に応じ、被控訴人との間で、本件基本合意に基づく3者契約又は本件使用料一覧(2者契約)に基づく2者契約(乙68等)により、年間の包括的利用許諾契約を締結した。
 なお、2者契約の場合も、本件基本合意に基づく3者契約を締結した場合と同様の減額措置(前記(ウ))がとられている。
 イ(ア)以上のとおり、被控訴人は、地上テレビジョン放送事業者から管理委託を受けた著作権及び著作隣接権の有線放送権に基づき再放送の利用許諾をするに当たり、ほぼ全てのケーブルテレビ事業者との間で、3者契約又は2者契約の方式により年間の包括的利用許諾契約を締結し、3者契約の場合は本件基本合意に基づき、2者契約の場合は本件使用料一覧(2者契約)に基づき定められた使用料額をケーブルテレビ事業者から徴収していることが認められる。
 一方、被控訴人と3者契約又は2者契約の方式により年間の包括的利用許諾契約を締結したケーブルテレビ事業者のうち、本件基本合意に基づく減額措置(3者契約の場合)又は本件使用料一覧(2者契約)に基づく減額措置(2者契約の場合)を受けることが可能であるにもかかわらず、減額措置を受けずに、本件使用料規程に定められた区域内再放送の使用料(1世帯1ch当たり年額120円)及び区域外再放送の使用料(1世帯1ch当たり年額600円)を支払っている事業者は存在しない。
 そして、控訴人は、適法に同意を得て、又は総務大臣による同意裁定を得て、毎日放送等6社の地上テレビジョン放送を同時再放送しているものであり、ケーブルテレビ連盟の会員でもあることから、仮に控訴人が希望すれば、被控訴人との間で、本件基本合意に基づく3者契約又は本件使用料一覧(2者契約)に基づく2者契約を締結することが可能であって、その場合の再放送使用料は、上記減額措置の適用を受けて、区域内再放送につき1世帯1ch当たり年額24円(3者契約)又は28円(2者契約)、区域外再放送につき1世帯1ch当たり年額120円(3者契約)又は144円(2者契約)であり、平成26年度の再放送使用料については、使用料の50%が軽減されるものと認められる(弁論の全趣旨)。
 以上のような、被控訴人とケーブルテレビ事業者との間で締結された同時再放送に係る利用許諾契約の内容、控訴人による本件有線放送権の利用の態様等の事実を考慮すると、上記利用許諾契約の締結に当たり適用された実績が全くない、本件使用料規程の「年間の包括的利用許諾契約によらない場合」(3条(2))又は「年間の包括的利用許諾契約を結ぶ場合」(3条(1))が、著作権法114条4項の「使用料規程のうちその侵害の行為に係る著作物等の利用の態様について適用されるべき規定」に該当するものとは認めらない。
(イ)これに対し被控訴人は、@使用料規程による使用料の算出方法が複数あるときは各方法により算出した額のうち最も高い額を請求することができるとする著作権法114条4項を設けた趣旨に鑑みれば、「最も高い額」となる算出方法による許諾実績がなくとも、同項の適用は妨げられない、A実際にも、被控訴人は、著作権等管理事業を開始した平成26年度以降、年間の包括的利用許諾契約によって区域外再放送を許諾するに当たり、累計12社(平成27年度10社、同28年度9社、同29年度9社)の有線テレビジョン放送事業者につき、本件減額措置を施さずに、有料視聴世帯数に地上テレビジョン放送1波当たり年額600円を乗じた額の使用料を徴収している旨主張する。
 まず、上記@の点について、著作権法114条4項は、同条3項により損害の賠償を請求する場合において、当該著作権等管理事業者が定める使用料規程により算出した金額をもって、同条3項に規定する金銭の額とする旨を定めるものである。そして、同条3項は、不法行為による著作権等侵害の際に著作権者等が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定であるところ、不法行為に基づく損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を填補することを目的とするものであるから、現実の損害が発生しなかった場合には、それを理由とする賠償請求をすることができないことは自明である。
 これを本件についてみるに、前記(ア)のとおり、被控訴人は、ほぼ全てのケーブルテレビ事業者との間で、3者契約又は2者契約の方式により年間の包括的利用許諾契約を締結し、3者契約の場合は本件基本合意に基づき、2者契約の場合は本件使用料一覧(2者契約)に基づき定められた使用料額をケーブルテレビ事業者から徴収しており、これらの事業者のうち、本件基本合意に基づく減額措置又は本件使用料一覧(2者契約)に基づく減額措置を受けることが可能であるにもかかわらず、これを受けずに、それよりも遥かに高額な、本件使用料規程3条(1)又は(2)に定められた区域内再放送及び区域外再放送の使用料を支払っている事業者は存在しない。被控訴人と控訴人との交渉の過程においても、本件基本合意に基づく3者契約又は本件使用料一覧(2者契約)に基づく2者契約によることが、当然の前提とされていたものである。
 そして、このような被控訴人とケーブルテレビ事業者との間の同時再放送に係る実際の利用許諾契約における使用料の額、控訴人による本件有線放送権の利用の態様、控訴人と被控訴人の間の再放送同意に係る利用許諾契約に関する交渉経緯(前記ア(エ))等によれば、本件における使用料相当額の算定に当たって、実際の利用許諾契約において用いられた例がなく、かつ、上記減額措置を受ける場合と比較して使用料が遥かに高額となる、本件使用料規程3条(1)又は(2)による場合の算定方法を用いることは、被控訴人に生じた現実の損害の算定方法としてはおよそ非現実的というべきであり、相当でない。
 次に、上記Aの点について、被控訴人が、累計12社の有線テレビジョン放送事業者との間で、本件使用料規程に基づき、区域外再放送の使用料を1世帯1ch当たり年額600円とする年間の包括的利用許諾契約を締結し、同規程に基づき算定された金額を徴収していることについては、これを裏付けるに足りる客観的な証拠はない。また、被控訴人の主張によれば、上記12社はいずれも重複波等の区域外再放送を行った者であるところ、前記認定の被控訴人とケーブルテレビ事業者との間の同時再放送に係る利用許諾契約の締結状況に照らすと、上記12社は、本件基本合意に基づく3者契約又は本件使用料一覧(2者契約)による2者契約を締結した上で、本件基本合意(1)Bの定めに基づき、「有料視聴世帯数×1世帯1chあたり年額600円×区域外再放送(重複波等)ch数」の使用料を支払ったものであると推認される。そして、上記12社において、本件基本合意に基づく減額措置(3者契約の場合)又は本件使用料一覧(2者契約)に基づく減額措置(2者契約の場合)を受けることが可能であるにもかかわらず、減額措置を受けずに、本件使用料規程に定められた区域外再放送の使用料を支払っていることを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、被控訴人の上記各主張を採用することはできない。
 ウ 被控訴人は、控訴人が本件有線放送権を侵害したことにより被控訴人が受けた損害の額として、著作権法114条3項及び4項により算定される損害額を主張するところ、前記イのとおり、本件において著作権法114条4項を適用して、本件使用料規程3条(1)又は(2)に基づいて被控訴人の損害の額を算定することは、相当でない。そこで、同条3項により算定される被控訴人の損害の額について、以下検討する。
 同条3項は、著作権及び著作隣接権侵害の際に著作権者、著作隣接権者が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定である。また、同項所定の「その著作権…又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」については、平成12年法律第56号による改正前は「その著作権又は著作隣接権の行使につき通常受けるべき金銭の額に相当する額」と定められていたところ、「通常受けるべき金銭の額」では侵害のし得になってしまうとして、同改正により「通常」の部分が削除された経緯がある。
 そして、かかる法改正の経緯に照らせば、著作権及び著作隣接権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、これらの権利の行使につき受けるべき金銭の額は、通常の利用許諾契約の使用料に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきである。
 これを本件についてみると、前記イ(ア)の被控訴人とケーブルテレビ事業者との間の同時再放送に係る実際の利用許諾契約における使用料の額、控訴人による本件有線放送権の利用の態様等の事実に加えて、控訴人と被控訴人の間の再放送同意に係る利用許諾契約に関する交渉経緯など、本件訴訟に現れた事情を考慮すると、著作権及び著作隣接権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、本件での利用に対し受けるべき金銭の額は、被控訴人とケーブルテレビ事業者との間における再放送使用料を現実に規律していると認められる本件基本合意及び本件使用料一覧(2者契約)をベースとし、そこに定められた額を約1.5倍した額である、区域内再放送につき1世帯1ch当たり年額36円及び区域外再放送につき1世帯1ch当たり年額180円とし、平成26年度についてはその半額を下らないものと認めるのが相当である。
 そこで、かかる算定方式に基づく使用料について検討する。
(ア)控訴人の有線放送(徳島県板野郡北島町及び松茂町の各全域並びに上板町の一部の区域)の有料視聴世帯数は、平成26年度は1万2568世帯(うち15%である1885世帯を受信障害世帯とする。)、平成27年度は1万2699世帯(うち15%である1905世帯を受信障害世帯とする。)、平成28年度は1万2790世帯(うち15%である1919世帯を受信障害世帯とする。)、平成29年度は1万2885世帯(うち15%である1933世帯を受信障害世帯とする。)であったものと認められる。
 また、徳島県板野郡北島町及び松茂町における控訴人の有線放送の有料視聴世帯数は、控訴人が有線放送を行っている3つの町の合計世帯数(平成27年国勢調査結果速報値(甲8)によれば1万8961世帯)のうち北島町及び松茂町の2町の世帯数(同1万4698世帯)の割合を3町全体における控訴人の有料視聴世帯数(平成26年度は1万2568世帯、平成27年度は1万2699世帯、平成28年度は1万2790世帯、平成29年度は1万2885世帯)に乗じると、平成26年度は約9742世帯、平成27年度は約9843世帯、平成28年度は約9914世帯、平成29年度は約9988世帯となる。
(イ)次に、上記有料視聴世帯数に基づき使用料を算定すると、以下の計算式のとおり、原判決別紙放送目録1記載の四国放送の放送につき、平成26年度が19万2294円、平成27年度が38万8584円、平成28年度が39万1356円、平成29年度が39万4272円であり、同目録2ないし6記載の毎日放送、朝日放送、関西テレビ、テレビ大阪及び讀賣テレビの各放送につき、平成26年度が540万1260円、平成27年度が1091万5020円、平成28年度が1099万3320円、平成29年度が1107万5040円であると認められる。
 そして、上記各金額の合計の3975万1146円に消費税8%を加算した4293万1238円が使用料相当額であると認めるのが相当である。
 (以下、計算式)
@ 区域内再放送(原判決別紙放送目録1記載の四国放送の放送)
 平成26年度(平成26年4月1日から平成27年3月31日まで)
 (1万2568世帯−1885世帯)×年額36円×1ch×0.5=19万2294円
 平成27年度(平成27年4月1日から平成28年3月31日まで)
 (1万2699世帯−1905世帯)×年額36円×1ch=38万8584円
 平成28年度(平成28年4月1日から平成29年3月31日まで)
 (1万2790世帯−1919世帯)×年額36円×1ch=39万1356円
 平成29年度(平成29年4月1日から平成30年3月31日まで)
 (1万2885世帯−1933世帯)×年額36円×1ch=39万4272円
A 区域外再放送のうち、原判決別紙放送目録2ないし5記載の毎日放送、朝日放送、関西テレビ及びテレビ大阪の各放送について
 平成26年度
 1万2568世帯×年額180円×4ch×0.5=452万4480円
 平成27年度
 1万2699世帯×年額180円×4ch=914万3280円
 平成28年度
 1万2790世帯×年額180円×4ch=920万8800円
 平成29年度
 1万2885世帯×年額180円×4ch=927万7200円
B 区域外再放送のうち、原判決別紙放送目録6記載の讀賣テレビの放送について
 平成26年度
 9742世帯×年額180円×1ch×0.5=87万6780円
 平成27年度
 9843世帯×年額180円×1ch=177万1740円
 平成28年度
 9914世帯×年額180円×1ch=178万4520円
 平成29年度
 9988世帯×年額180円×1ch=179万7840円
(ウ)上記のとおり、控訴人が平成26年4月1日から平成30年3月31日までの間に本件有線放送権を侵害した行為につき、本件有線放送権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する4293万1238円が、被控訴人の受けた損害の額となる(著作権法114条3項)。エ以上のとおりであるから、著作権法114条3項により算定される損害額に弁護士費用を加えた金額が、被控訴人の損害額と認められる。
 そして、控訴人の不法行為と相当因果関係にある弁護士費用は、前記ウにより算定される損害額の約1割に当たる429万円を下らないと認めるのが相当であるから、被控訴人の損害額は、4722万1238円(4293万1238円+429万円)である。
 したがって、被控訴人は控訴人に対し、上記4722万1238円のほか、うち2006万8931円(平成26年度及び同27年度分の使用料相当額(合計1824万8931円)と弁護士費用相当額(182万円)の合計)に対する平成28年9月10日から支払済みまでの遅延損害金、及び、うち2715万2307円(平成28年度及び同29年度分の使用料相当額(合計2468万2307円)と弁護士費用相当額(247万円)の合計)に対する平成30年4月1日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求めることができる。
 なお、控訴人は、被控訴人を供託者とし、平成26年度ないし同29年度の地上テレビジョン放送及びその番組の著作権、著作隣接権の使用料として、4回にわたり、合計584万1772円を供託しているが(甲16、18、32、乙75)、これらの金額は、上記のとおり認定される本件有線放送権の侵害に係る損害賠償額の1割ないし2割程度にすぎない。また、上記供託金額は、本件基本合意において区域内再放送の使用料として定められた「1世帯1chあたり年額24円」を、区域外再放送の使用料にも用いて算定した金額であるところ、かかる算定方法は控訴人独自のものであって、採用し難いものである。
 したがって、控訴人による上記の各供託は、これを有効と解することはできない。
オ これに対し控訴人は、区域内再放送と区域外再放送のいずれについても、本件基本合意で定められた区域内再放送の使用料に基づくのが相当であり、有料視聴世帯数に対し、1世帯1ch当たり年額24円を乗じた金額から15%を値引きしたものが損害額となる旨主張する。
 しかしながら、本件有線放送権の侵害による被控訴人の損害賠償額を算定するに当たっては、被控訴人とケーブルテレビ事業者との間の同時再放送に係る実際の利用許諾契約における使用料の額等を考慮するのが相当であることについては、前記イ(ア)及びウのとおりである。
 一方、被控訴人と3者契約又は2者契約を締結したケーブルテレビ事業者にあって、本件基本合意又は本件使用料一覧(2者契約)に定められた区域外再放送の使用料の算定方式に反して、1世帯1ch当たりの区域外再放送の使用料として、区域内再放送と同額しか支払っていない者は存在しない。
 したがって、このような実情を考慮すれば、控訴人の上記主張を採用することはできない。
(2)争点4(権利の濫用、信義則違反又は公序良俗違反等の有無)について
 以下のとおり訂正するほか、原判決「事実及び理由」の第4の4(40頁13行目〜49頁22行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。
ア 原判決41頁1行目冒頭から46頁20行目末尾までを次のとおり改める。
 「ア 本件使用料規程について
 控訴人は、本件使用料規程が、有線テレビジョン放送事業者の再放送を区域内再放送と区域外再放送を区別して使用料を設定すること、年間の包括的利用許諾契約を締結する場合と締結しない場合を分けて使用料を設定することに合理性はなく、設定された価格差も不合理であるとして、本件使用料規程は憲法第14条1項の定める法の下の平等に反し、公序良俗に違反し、国民の知る権利を侵害する旨主張する。
 しかしながら、前記(1)のとおり、本件有線放送権の侵害による被控訴人の損害賠償額は、被控訴人とケーブルテレビ事業者との間の同時再放送に係る実際の利用許諾契約における使用料の額等を考慮して、区域内再放送につき1世帯1ch当たり年額36円、区域外再放送につき1世帯1ch当たり年額180円として算定した金額を損害額と認めるものであって、本件使用料規程3条(1)及び(2)に基づき損害額を算定すべきである旨の被控訴人の主張を採用するものではない。
 このように、本件使用料規程における区域内再放送と区域外再放送の区別、年間の包括的利用許諾契約を締結する場合と締結しない場合の区別及びその使用料の価格差の合理性の有無は、上記損害賠償額の認定を左右するものではない。
 したがって、本件において、控訴人の上記主張に対する判断を要するものではない。
イ 本件基本合意について
 前記(1)ア(ウ)のとおり、本件基本合意は、区域内再放送と区域外再放送を区別した上で、使用料の額を、年間の包括的利用許諾契約を結ぶ場合には、区域内再放送について有料視聴世帯数に年額24円を乗じた額、区域外再放送のうち欠落波について有料視聴世帯数に年額120円を乗じた額、区域外再放送のうち重複波等について有料視聴世帯数に年額600円を乗じた額(以上いずれも地上テレビジョン放送1波当たり)と定めている。
 そして、前記(1)のとおり、本件有線放送権の侵害による被控訴人の損害賠償額は、仮に控訴人が希望すれば、被控訴人との間で、本件基本合意に基づく3者契約又は本件使用料一覧(2者契約)に基づく2者契約を締結することが可能であって、その場合の再放送使用料は、上記減額措置の適用を受けて、区域内再放送につき1世帯1ch当たり年額24円(3者契約)又は28円(2者契約)、区域外再放送につき1世帯1ch当たり年額120円(3者契約)又は144円(2者契約)であることなどを考慮して、認定したものである。
 控訴人は、本件基本合意が、有線テレビジョン放送事業者の再放送を区域内再放送と区域外再放送を区別して使用料を設定すること、区域外再放送について欠落波と重複波等を分けて使用料を設定することに合理性はなく、再放送の同意につき公平・公正な使用料は1世帯1ch当たり年額24円であって、この金額を超える区域外再放送の使用料は不合理であるとして、本件基本合意は憲法14条1項の定める法の下の平等に反し、公序良俗に違反し、国民の知る権利を侵害する旨主張する。
 そこで、本件基本合意において、区域内再放送と区域外再放送の使用料及び区域外再放送のうち欠落波と重複波等の使用料の間に差を設け、区域内再放送及び区域外再放送のうち欠落波(重複波等の再放送を行わない場合)の使用料を1世帯1ch当たり年額24円として、控訴人が上記3者契約又は2社契約に基づき支払うべき区域外再放送の使用料(1世帯1ch当たり年額120円又は144円)より低額としていることの合理性の有無について検討する。
(ア)控訴人は、放送事業者は、放送法に定める基幹放送を国民が全国あまねく受信できるように協力すべき立場にあるので、これを補完する立場にある有線テレビジョン放送事業者の再放送に積極的に協力しなければならないなどとして、区域内再放送と区域外再放送を区別するのは不合理である旨主張する。
 しかしながら、引用に係る原判決第2の1(6)のとおり、放送法上、基幹放送には放送対象地域が定められており(放送法91条2項2号)、基幹放送普及計画においては「放送対象地域ごとの放送系の数の目標」が定められている上(同法91条2項3号、基幹放送普及計画の第3)、基幹放送事業者は、その放送対象区域において、当該基幹放送があまねく受信できるように努めることとされている(放送法92条)。また、放送法は、地上基幹放送事業者に上記義務を負わせるとともに、放送対象地域内において受信の障害が発生している区域があるときは、有線テレビジョン放送事業者に当該区域において同時再放送を行う義務を負わせている(放送法140条1項)。そして、当該再放送については、著作権法上も放送事業者の有線放送権が適用されないこととされている(著作権法99条2項)。
 このように、放送法は放送対象地域の内と外で明確に区別をしており、放送法に基づく基幹放送普及計画等により、放送対象地域制度を前提として放送番組の地域性を確保するための制度設計がなされている。そうすると、区域内再放送と区域外再放送とで一定の異なる扱いをすること自体は法が予定しているというべきであるから、控訴人の上記主張は失当である。
(イ)次に、本件基本合意における区域内再放送と区域外再放送の使用料、区域外再放送のうち欠落波と重複波等の使用料の差違が合理性を有するかについて検討する。
a 本件基本合意は、本件使用料規程4条に定める減額措置(本件減額措置)であると認められるところ、本件使用料規程においても、本件基本合意と同様に、区域内再放送と区域外再放送を区別し、1世帯1波当たりの使用料の価格につき、区域外再放送の価格を区域内再放送の価格の5倍と定めている。
 本件使用料規程は著作権等管理事業法13条に基づいて文化庁長官に届出のされたものであるが、同法は、著作物の利用の円滑性確保という観点から著作物等管理事業者に対して、使用料規程の作成、届出義務を定めている。そして、同法は、使用料規程作成に当たっての利用者又はその団体からあらかじめ意見を聴取する努力義務と、使用料規程を届け出た場合における使用料規程の概要の公表義務を定め、恣意的な使用料規程の作成を防止するとともに(同法13条)、使用料規程において不相当に高額な使用料の額が設定され著しく利用者の利益を害する場合などには、文化庁長官が一定の要件の下で、業務改善命令(同法20条)による是正措置を講じることとされている。このように、同法には、使用料規程の不合理な使用料の規定の是正を図るための規定が置かれているところ、本件においては、文化庁長官による被控訴人に対する業務改善命令がなされた等の事実は認められない。
b また、日本音楽著作権協会、日本シナリオ作家協会、日本文芸著作権保護同盟、日本放送作家組合、日本芸能実演家団体協議会は、昭和50年以降、個々のケーブルテレビ事業者に再放送の許諾を与えており、その際に用いられた使用料の算定式は、区域外再放送と区域内再放送の使用料に6倍の差を設けるものであって、上記団体の一部については、現在も同様の算定式に基づき使用料の徴収を行っていることが認められる(弁論の全趣旨)。
c さらに、地上基幹放送事業者は、それぞれの放送対象地域内において放送を行っているところ、有線テレビジョン放送事業者の提供する区域外再放送は、視聴者にとってはその区域で当然には視聴することのできない番組の視聴が可能になるものであるため、強い顧客吸引力を有していることがうかがえる(甲25)から、区域外再放送に係る著作権等は、区域内再放送に係るそれよりも経済的な価値が高いと評価することには十分な合理性があるといえる。
d 加えて、本件基本合意における使用料の額は、被控訴人の前身である「ケーブルテレビ再放送の有料化に関する管理団体設立検討準備会」からケーブルテレビ連盟に対し、本件使用料規程と同様の金額を提案したところ、同連盟から、@区域内再放送は、放送対象地域内において地上基幹放送があまねく受信されるようにすることを補完し、地上基幹放送事業者が放送法92条の定める義務を達成することに資するという側面を有しているから、対価を不要とすべきである、A基幹放送普及計画における「基幹放送を国民に最大限に普及させるための指針」において、民間基幹放送事業者の放送については、総合放送4系統の放送が全国各地域においてあまねく受信できること等を定めていることが、欠落波の区域外再放送に対するニーズが生じる要因になっており、そのことを使用料において斟酌すべきである旨主張されたことを受けて、交渉の結果、ケーブルテレビ事業者側の上記主張や、従前地上テレビジョン放送事業者がケーブルテレビ事業者に対して同時再放送に係る対価を請求してこなかったことなどの事情を考慮して、相当の減額措置がとられたものである。
(ウ)a 本来、著作権等の利用に係る許諾料は当事者の合意によって定まるものであり、価格の算定に当たり著作権等の権利者を拘束する明文の法規定はないから、区域内再放送と区域外再放送の使用料に差を設けること、区域外再放送のうち欠落波と重複波等の使用料に差を設けることは、当然に違法となるものではない。
 また、前記(ア)のとおり、放送法は、区域内再放送と区域外再放送とで一定の異なる扱いをすることを予定しているものであり、地上基幹放送事業者は、区域内再放送については、これをあまねく無償で実現すべき義務を負う一方、区域外再放送については、これを実現すべき義務を負うものではない。そして、視聴者にとっては、区域外の放送を区域内の放送と同一の条件で視聴することができることは、放送法に基づき当然に有する権利ではないといえる。
 そうすると、放送事業者から委託を受けた管理団体である被控訴人において、前記(イ)のようなケーブルテレビ事業者の団体との交渉結果を踏まえて、@区域内再放送の使用料について、放送事業者の上記義務を補完する行為として、区域外再放送の使用料よりも減額し、A区域外再放送のうち欠落波について、「基幹放送を国民に最大限に普及させるための指針」の定めがあることや、欠落波を生じさせているのは地上テレビジョン放送事業者の問題でもあることを考慮して、区域外再放送のうち重複波等の使用料よりも減額し、区域内再放送及び区域外再放送のうち重複波等の再放送を行わない場合の欠落波の使用料を1世帯1ch当たり年額24円とすることには、一定の合理性があるといえる。
b また、本件基本合意に基づき算定される控訴人の使用料の額は、毎日放送等6社の再放送使用料の合計で、1世帯当たり年額624円(消費税別。区域内再放送1社(四国放送)につき年額24円、区域外再放送5社(四国放送以外の5社)につき各年額120円。)であり、月額平均では52円である。
 そして、かかる金額は、@控訴人の有線テレビジョン放送の視聴料が、少なくとも1世帯当たり月額1800円(消費税別)であること(弁論の全趣旨)、A区域外再放送には顧客吸引力があるため、控訴人において、上記使用料相当額の全部ないし相当部分を視聴料に転嫁することに、さほど困難はないと考えられること、B本件使用料規程は著作権等管理事業者法に基づき文化庁長官に届出がされたものであり、同法には不合理な使用料の規程の是正を図るための規定が置かれているところ、本件においては、文化庁長官による被控訴人に対する業務改善命令がなされた等の事実はうかがわれないことに照らしても、不当に高額であるとはいえず、一定の合理性を有するものである。
c 以上の事情を考慮すると、本件基本合意において、区域内再放送と区域外再放送、区域外再放送のうち欠落波と重複波等を区別し、その使用料に差を設けることは、合理的理由のない不当な差別的取扱いであるということはできず、憲法14条1項に違反するものではない。また、同様の理由により、公序良俗に反するものであるとも、国民の知る権利を害するものであるとも認められない。
(エ)これに対し控訴人は、@地上テレビジョン放送事業者は、区域内再放送に比べて区域外再放送の場合に多額の費用を投じている事情もなく、有線テレビジョン放送事業者は、放送対象地域を越えて飛び出している電波を受信して再放送を行なっているにすぎない、A水道事業等の公共事業においては料金について原価主義の考え方が採られていることに鑑みても、区域内再放送と区域外再放送とを区別する合理的な理由はない、B放送は、電気、ガス、水道、鉄道などと同じく、生活を営むために必要不可欠な基本的なライフラインというべきものであるところ、ライフラインの使用に関し、同じサービスを受けるについて料金に差をつけることは、法の下の平等に反することとして禁止されているなどと主張する。
 しかしながら、上記@の点について、本件基本合意は、合理的理由のない不当な差別的取扱いをするものではないことについては、前記(ウ)のとおりであり、控訴人の主張する事実は、上記判断を左右するものではない。
 次に、上記Aの点については、被控訴人の行う管理事業は水道事業のような公営事業ではなく、また、水道法においては、水道事業者の定める供給規程が「料金が、能率的な経営の下における適正な原価に照らし公正妥当なものであること。」との要件に適合しなければならないと定められている(同法14条1項1号)のに対し、著作権等については再放送使用料を原価に基づいて設定すべきことが義務付けられているものではない。このように、水道等の公益事業と被控訴人の行う管理事業とは、その根拠法令、制度趣旨、使用料の算定の方法等が異なっているのであり、水道事業との対比において本件使用料規程の合理性を判断することは相当ではない。
 上記Bの点についても、上記Aの点と同様に、著作権等については再放送使用料を区域内再放送と区域外再放送とを問わず一律の額と設定すべきことが義務付けられているものではないことから、控訴人の主張を採用することはできない。
 控訴人の主張するその余の点も、前記(ウ)の判断を左右するものではない。」
イ 原判決47頁20行目の「本件使用料規程」を「本件基本合意」と改める。
ウ 原判決47頁25行目冒頭から48頁25行目末尾までを次のとおり改める。
 「(5)被控訴人の請求が独占禁止法に違反するとの主張について控訴人は、@被控訴人は、本件使用料規程等に基づく使用料契約を締結するように迫り、控訴人がこれに応じないと、本訴を提起して不合理に高額の損害賠償を求めるものであり、優越的地位を濫用するものとして独占禁止法2条9項5号ハに違反する、A被控訴人の行為は、同項6号の「不当に他の事業者を差別的に取り扱うこと」(同号イ)及び「不当な対価をもって取引すること」(同号ロ)に該当し、同各号に基づき公正取引委員会が指定する行為のうち、一般指定3号の「不当に、地域又は相手方により差別的な対価をもって商品若しくは役務を供給し、又はこれらの供給を受けること」(差別対価)、同4号の「不当に、ある事業者に対し取引の条件又は実施について有利な又は不利な取扱いをすること」(取引条件等の差別取扱い)に該当する旨主張する。
 しかしながら、前記アのとおり、本件基本合意及び本件使用料一覧(2者契約)の定める使用料が不合理に高額であるということはできないところ、本件有線放送権の侵害による被控訴人の損害賠償額は、被控訴人において、上記の規定に基づき算定された使用料をほぼ全てのケーブルテレビ事業者から徴収していることなどの諸事情を考慮して認定したものであって(前記(1)イ)、その金額が不合理に高額であるとはいえない。
 また、前記アのとおり、当裁判所は、本件使用料規程3条(1)及び(2)に基づき損害額を算定すべきである旨の被控訴人の主張を採用するものではないから、本件訴訟において被控訴人が同条に基づく損害賠償を請求することが優越的地位の濫用、差別対価、取引条件等の差別取扱いに該当するか否かは、上記損害賠償額の認定を左右するものではない。
 したがって、本件において、控訴人の上記主張に対する判断を要するものではない。」
エ 原判決49頁4行目冒頭から6行目末尾までを次のとおり改める。
 「しかし、前記判示のとおり、本件基本合意及び本件使用料一覧(2者契約)の定める使用料が不合理に高額であるということはできないところ、本件有線放送権の侵害による損害賠償額は、被控訴人において、上記の規定に基づき算定された使用料をほぼ全てのケーブルテレビ事業者から徴収していることなどの諸事情を考慮して認定したものであって、その金額が不合理に高額であるとはいえない。
 したがって、被控訴人の本訴請求が暴利行為に該当する旨の控訴人の主張は理由がない。」
4 争点6(確認の利益の有無)について
 原判決54頁24行目冒頭から55頁2行目の「こととなる。」までを次のとおり改めるほか、原判決「事実及び理由」の第4の6(54頁9行目〜55頁6行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。
 「また、被控訴人の本訴請求は、著作隣接権等の侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求であり、著作権法114条3項及び4項に基づき損害額を算出するよう求めるものであるところ、前記3(1)のとおり、かかる使用料相当損害額は、被控訴人とケーブルテレビ事業者との間の同時再放送に係る実際の利用許諾契約における使用料の額、控訴人による本件有線放送権の利用の態様等を考慮して算出されるものであって、本件使用料規程の3条(1)及び(2)が有効であるか否かは、上記損害額の算定を直ちに左右するものではない。」
5 結論
 以上によれば、被控訴人の損害賠償金3億5913万0024円及びうち1億7812万6438円に対する平成28年9月10日から支払済みまで、うち1億8100万3586円に対する平成30年4月1日から支払済みまで、それぞれ年5分の割合による遅延損害金の請求は、損害賠償金4722万1238円及びうち2006万8931円に対する平成28年9月10日から支払済みまで、うち2715万2307円に対する平成30年4月1日から支払済みまで、それぞれ年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、控訴人の反訴請求は不適法であるから却下すべきところ、これと異なる原判決は一部失当であって、本件控訴の一部は理由があるから、原判決を上記のとおり変更することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部
  裁判長裁判官 鶴岡稔彦
 裁判官 上田卓哉
 裁判官 山門優
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