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【事件名】投資運営サイトの著作権帰属事件 【年月日】令和元年10月3日 大阪地裁 平成30年(ワ)第5427号 著作権侵害差止等請求事件 (口頭弁論終結日 令和元年7月4日) 判決 原告 P1ことP2 被告有限会社 ピー・エム・エー(以下「被告ピー・エム・エー」という。) 被告 P3 被告 P4 被告 株式会社インターステラー(以下「被告インターステラー」という。) 被告 P5 被告ら訴訟代理人弁護士 日隈将人 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求の趣旨 1 被告らは、別紙被告著作物目録記載のウェブページを複製、翻案又は公衆送信してはならない。 2 被告らは、別紙被告著作物目録記載のウェブページを削除せよ。 3 被告らは、原告に対し、連帯して、1260万円及びこれに対する平成30年7月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、原告が、「ライズ株式スクール」を運営していた被告ピー・エム・エー、その代表者である被告P3及びその取締役である被告P4、並びに被告P4が新たに設立した会社である被告インターステラー及びその取締役である被告P5に対し、原告が被告ピー・エム・エーから依頼を受けて作成した、同被告のウェブサイト(1risekabu.com/以下「原告ウェブサイト」という。)を、被告らが無断で複製し、新たなウェブサイト(risekabu.com/別紙被告著作物目録記載1。以下「被告ウェブサイト」という。)及びこれと一体となった動画配信用のウェブサイト(https://plusone.socialcast.jp/別紙被告著作物目録記載2。以下「本件動画ウェブサイト」という。)を制作してインターネット上に公開したことが、原告の著作権及び著作者人格権の侵害並びにその他不法行為に当たると主張し、著作権法112条1項、2項に基づき、@被告ウェブサイト及び本件動画ウェブサイトの複製、翻案又は公衆送信の差止め、A被告ウェブサイト及び本件動画サイトの削除、並びに、B民法709条、719条、会社法429条1項に基づく損害賠償請求又は原告と被告ピー・エム・エーとの契約に基づく請求として、1260万円及びこれに対する不法行為の後の日又は請求日の翌日である平成30年7月14日(被告らに対する最終の訴状送達の日の翌日)から支払済みまでの遅延損害金の支払を請求する事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実又は後掲の各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1)当事者等(甲1〜6、乙11。書証は枝番号を含む。以下同じ。) 原告は、平成22年7月1日より、「P1」の屋号により映像製作等を業として営む者である。 被告ピー・エム・エーは、個人および企業の経営活性化のための人材育成、研修業務並びにそのための教材の販売等を目的とする特例有限会社であり、株相場等に関する投資知識を教授する「ライズ株式スクール」を運営していたが、平成30年5月ころ、経営不振により事実上廃業した。同被告は、同年10月29日、福岡地方裁判所に対し破産手続開始の申立てをしたが、その後これを取り下げた。 被告インターステラーは、被告P4が、同年5月1日、投資運用についてのスクール事業を行うために設立した、インターネットを利用した各種情報提供サービス業務等を目的とする株式会社であり、「株の学校プラスワン」を経営し、被告ピー・エム・エーからライズ株式スクールに関する事業等を譲り受け、被告ピー・エム・エーの会員であった者のうち希望者に対し、引き続きスクールサービスを提供している。 被告P3は被告ピー・エム・エーの代表取締役、被告P4は被告ピー・エム・エーの取締役兼被告インターステラーの代表取締役、被告P5は被告インターステラーの取締役である。 (2)本件制作業務委託契約の締結、原告ウェブサイトの制作・公開(甲7〜13、16、18、31、46) 被告ピー・エム・エーは、平成27年10月上旬ころ、原告に対し、訴外彩登株式会社(以下「訴外彩登」という。)が制作し、訴外株式会社ユウシステム(以下「訴外ユウシステム」という。)が管理していた自己の公式ホームページ(甲10。以下「旧ウェブサイト」という。)を、原告が管理・運用するサーバへ移管する作業を発注し、原告は、同作業を行い、同ウェブサイトを公開した。 被告ピー・エム・エーは、上記ウェブサイトが、スマートフォンやタブレットでの表示に対応していなかったことなどから、原告に対し、さらにリニューアルした新しい公式ホームページの制作を依頼することとし、平成28年4月22日付けの注文書(甲13。以下「本件注文書」という。)により、代金324万円で発注した(以下「本件制作業務委託契約」という。)。 原告は、本件制作業務委託契約に基づき、新しいウェブサイト(原告ウェブサイト)を制作し、同年10月3日に公開した。原告ウェブサイトは、被告ピー・エム・エーの委託により、原告が訴外エックスサーバー株式会社(以下「訴外エックスサーバー」という。)と契約する形で、同社のレンタルサーバ(以下「本件サーバ」という。)を利用していた。 原告ウェブサイトは現在一般に公開されていないが、公開当時の内容は、甲46の2のとおりである。原告ウェブサイトの「ログイン」ボタンを押すと、ライズ株式スクールの会員専用のウェブページに遷移する仕様となっていた。 なお、原告と被告ピー・エム・エーとの間においては、平成25年12月4日付けの「秘密保持契約書」(甲12)、及び平成28年1月6日付けの「Webサイト制作・保守業務委託契約書」(甲18、31)が取り交わされていた。 (3)本件サーバの凍結の経緯等(甲21、22) 被告ピー・エム・エーは、本件サーバとの契約期間である平成29年11月30日を過ぎても更新費用を支払わなかったため、原告ウェブサイトは、同年12月12日、凍結されて閲覧することができなくなった。 被告ピー・エム・エーは、同日ころ、原告に対し、未払金を振込み、原告ウェブサイトを復旧するよう求めたが、原告が、被告P4に対し、本件サーバが凍結されたため復旧は不可能であることや、新たなウェブサイトを制作するためのスケジュール及びその代金(434万1600円)を伝えたところ、交渉は決裂した。 (4)被告ウェブサイトの制作・公開 被告ピー・エム・エーは、平成30年1月、訴外MARQS株式会社(以下「訴外マークス」という。)に依頼して制作した被告ウェブサイトを、新たに取得したドメインで公開した。 同年12月13日当時における被告ウェブサイトの内容は、甲46の3(71枚目まで)のとおりである。 (5)本件動画ウェブサイトの公開 被告ピー・エム・エーは、ライズ株式スクールの講義動画を配信するため、訴外株式会社アジャストの提供する動画サイト構築サービス「ソーシャルキャスト」を利用していた。被告ピー・エム・エーの廃業後、被告インターステラーが同コンテンツを譲り受け(乙11)、同被告が「risekabu」から「plusone」へとサブドメイン名を変更し、本件動画ウェブサイトとなった。 平成30年12月13日当時における本件動画ウェブサイトの内容は、甲46の3(72枚目以降)のとおりであり、被告ウェブサイトにおける「ログイン」ボタンを押すと、リンク先の本件動画ウェブサイトに遷移する仕様となっている。 2 争点 (1)著作権(複製権・翻案権)侵害の成否 ア 原告ウェブサイトの著作物性、著作権の帰属(争点(1)ア) イ 被告らの複製、翻案行為の有無(争点(1)イ) ウ 使用許諾の有無及び権利濫用の抗弁の成否(争点(1)ウ) (2)著作者人格権侵害の成否 (3)その他の不法行為等の成否 (4)被告らの責任 (5)差止め・削除の必要性 (6)原告の損害等の存否及びその額 第3 争点についての当事者の主張 1 争点(1)(著作権(複製権・翻案権)侵害の成否)について 【原告の主張】 (1)争点(1)ア(原告ウェブサイトの著作物性、著作権の帰属)について ア 原告ウェブサイト制作の経緯等 (ア)原告は、旧ウェブサイトの移管を行うに当たり、訴外ユウシステムが管理・運用していたサーバの環境と本件サーバの環境が異なるため、必要なデータを複製した後、プログラムを刷新して再構築する作業を行い、代金21万7080円で、本件サーバ上で旧ウェブサイトと同内容のウェブサイトを稼働・閲覧できるようにした。 (イ)原告ウェブサイトは、原告が、被告ピー・エム・エーとの間の本件制作業務委託契約に基づき制作したウェブサイトであり、原告によって制作・プログラムされた著作物である。原告ウェブサイトには、原告が撮影した写真、イラスト、文章、及び、原告が「ペイレスイメージ」より購入した写真等が掲載されている。 原告は、原告ウェブサイトの制作にあたり、被告ピー・エム・エーの担当者と打ち合わせを行い、その要望を聞きながら、被告ピー・エム・エーと顧客との間の信頼醸成やコミュニケーション向上による売上増加を目指し、原告ウェブサイトがより多くのユーザーに閲覧されるよう工夫したり、スマートフォンやタブレット端末からでも閲覧が可能なデザインを採用したりするなど、原告の経験や技術を活かして制作を行った。 (ウ)原告ウェブサイトは、原告の作成した、本件サーバ上のワードプレス(ウェブサーバにブログ等を立ち上げるための無料のオープンソースブログソフトウェアであり、コンテンツ・マネージメント・システムとしても利用されている。)内の必須の構成である「functions.php」のプログラムにより、複数のカテゴリーを設定した場合でもURLの変化を避けるようにされたり、タイプによって一覧ページと詳細ページの内容を変えて簡潔な表示と詳細表示を使い分けることができるようにされたりしており、原告の思想を表現したものである。 また、原告は、原告ウェブサイトを制作するにあたり、ワードプレス内の個別データ(個別の会員ごとの、ログインID、パスワード等及びこれに関連付けられたユーザー情報)及びこれらをデータベースに格納するシステムをすべて創作した。 したがって、原告ウェブサイトは、原告の思想又は感情を創作的に表現したものであり、原告の著作物に当たる。 イ 原告ウェブサイトの著作権が原告に帰属すること 本件制作業務委託契約に際し、原告及び被告ピー・エム・エーは、原告ウェブサイトについての知的財産権が制作者である原告に帰属することについて合意し、本件注文書の「備考」欄に、その旨を記載した。 原告は、本件サーバ凍結後、被告P4に対し、原告ウェブサイトの復旧作業について具体的に説明し、平成29年12月15日付け通知書(甲23)において、著作権が原告に帰属することを確認した。 (2)争点(1)イ(被告らの複製、翻案行為の有無)について ア 被告ウェブサイト・本件動画ウェブサイト制作の経緯等 被告らは、平成29年9月ころ、訴外マークスの代表取締役であるP6に対し、原告が高額の請求をして困っていること、原告が臨機応変にサーバの更新作業をしてくれないこと、原告によりサーバの運用を止められるかもしれないこと等を話し、原告の許諾を得ずに原告ウェブサイトの複製を依頼した。 訴外マークスは、同じころ、被告らから本件サーバにログインするための情報やユーザの個人情報にアクセスするためのID及びパスワードを告知され、これらを基に、本件サーバ上のワードプレスのデータ部分から、データをすべて複製し、被告ウェブサイト及び本件動画ウェブサイトを制作し、平成30年1月ころ、「risekabu.com」ドメインを利用して、被告ウェブサイトをインターネット上に公開した。 P6は、この際、ウェブサイトの複製やドメインの移転については必ず現在の業者(原告)の許諾を得るように被告らに対して依頼したが、被告らは、P6に対し、原告ウェブサイトの複製について許諾があったとの虚偽の説明をした。 イ 複製権侵害 (ア)原告ウェブサイトと被告ウェブサイトは、各ウェブページのタイトル、URL、メタ・ディスクリプション、検索のために設定されているキーワード、画像ファイル名やソースコード等がほぼすべて一致する。 被告らは、これらについて、字数の限界があることや表現の幅が狭いことを理由に創作性を発揮する余地が乏しいと主張するが、タイトル、URLには文字制限がないし、仮に30字程度であっても短歌や俳句のように創作性を発揮することは可能である。 (イ)原告ウェブサイトと被告ウェブサイトのキャプチャー画面を比較すると、ロゴの配置場所、ロゴの大きさ、ページの配色、ボタンの配置場所とその大きさ等が全く同じであり、ページの内容や文章、情報量もほぼ同じである。 被告らは、原告ウェブサイトを複製した際、既に閉鎖した東京校についての案内など、必要に応じて内容の削除や表記方法の変更を行ったにすぎない。 (ウ)原告ウェブサイト内にある、ワードプレスで作成されたウェブサイトを構成するための必須のファイルである「style.css」ファイル及び「functions.php」ファイルには、ソースコード中に、「Author:★P2★」として、著作者である原告の氏名が記載されているところ、被告ウェブサイトのソースコード中の同一箇所にも同一の記載がある。 また、ヘッダー部分に記載されるべき内容や端末での表示方法等も、原告ウェブサイト及び被告ウェブサイトのソースコード中の同一箇所に、同一の内容及び記述順序で記載されている。 被告ウェブサイトにおいて、「Copyright(C)ライズ株式スクールAllRightsReserved」との文章が各ページの末尾に記載されているが、原告は、同じ個所(フッター)に、著作者としての権利を守るために、電子透かしの技術を用いて「デジタルウォーターマーク」をプログラムしたところ、被告ウェブサイトにおいても同一箇所に同一の記載内容がある。 (エ)ワードプレスでは、管理者となる最初のユーザーはID番号「1」が割り当てられ、ユーザーごとに個人のメールアドレス等と関連付けられたユーザー名を決めることになっているところ、このIDやユーザー名を変更することはできない。被告ウェブサイト上の原告のプロフィール画面を確認すると、原告のID番号(管理者であることを表す「1」)及びユーザー名は原告ウェブサイトにおいて使用していたものと同一であり、また、被告ウェブサイト上の複数の会員のページにも、原告ウェブサイトにおけるのと同一の秘密情報(ユーザー名とパスワード)を使用してログインすることができる。 (オ)また、被告ウェブサイトのページの制作日は、本件サーバ凍結後の平成30年1月以降のものはなく、固定ページの作成者はすべて原告とされている。 (カ)以上より、被告ウェブサイトが原告ウェブサイトの複製であることは明らかである。 ウ 翻案権侵害 原告ウェブサイトの「ログイン」ボタンを押すと、会員専用ログインページに遷移するようになっていたが、被告ウェブサイトの「ログイン」ボタンを押すと、前記前提事実のとおり、「株の学校プラスワン」の利用する本件動画ウェブサイトへ遷移するようになっている。この改変は、原告ウェブサイトの翻案権侵害である。 エ まとめ 以上より、被告らは、原告の有する原告ウェブサイトの複製権及び翻案権を侵害した。 (3)争点(1)ウ(使用許諾の有無及び権利濫用の抗弁の成否)について ア 被告らは、本件制作業務委託契約において、原告が被告ピー・エム・エーに対して著作権を譲渡する又は利用を許諾するという黙示の合意があったと主張する。しかし、原告は、口頭でも書面でも著作権の譲渡や利用許諾について合意したことはないし、契約書(甲13、18、31)にもそのような記載はない。 むしろ、前記(1)のとおり、原告は、平成29年12月13日における被告P4との原告ウェブサイトの復旧作業についての面談及び同月15日付けの通知書(甲23)により、凍結された原告ウェブサイトの著作権は原告に帰属することを再確認した。 イ 被告らは、本件サーバの滞納料金を支払えば、すぐに原告ウェブサイトが復旧したはずだと主張するが、それはあくまで滞納期間が短い場合に限られるのであり、被告らは、原告ウェブサイトが完全に閉鎖された平成29年12月12日には既に13営業日も料金を滞納していたのであるから、上記の主張は当てはまらない。 原告は、被告らに対し、同年9月26日付け見積書(甲19)において、本件サーバ更新費用の支払期限が迫っていることを伝えていた。 被告らは、原告に対し、連絡することなく一方的に13万8240円を振り込んだが、これは原告に対する未払金を支払っただけに過ぎず、サーバ凍結解除手続についての依頼はなかった。 また、原告が原告ウェブサイトを制作したときのプログラム環境と、同年12月時点において本件サーバにより推奨されるプログラム環境は異なっていたため、原告ウェブサイトが凍結された後に復旧するためには、再度、上記推奨されるプログラム環境で新規構築する必要があった。 【被告らの主張】 (1)争点(1)ア(原告ウェブサイトの著作物性、著作権の帰属)について ア 本件制作業務委託契約締結の経緯等 被告ピー・エム・エーは、平成27年12月ころ、旧ウェブサイトの集客効果が芳しくなかったことから、原告に対し、原告の指定するサーバへ旧ウェブサイトのデータの移管及び平成28年1月からのウェブサイト等の保守業務を、「Webサイト制作・保守業務委託契約書」(甲18、31。以下「本件保守契約書」という。)により委託した(以下「本件保守業務委託契約」という。)。 被告ピー・エム・エーは、同年4月、原告に対し、上記ウェブサイトのリニューアルを委託し、サイト構成や実装について指示した(本件制作業務委託契約)。原告は、これに基づき原告ウェブサイトを制作し、本件サーバに記録し、原告が自己名義で取得したドメイン「1risekabu.com」によって公開した。原告ウェブサイトは、被告ピー・エム・エー内部で協議して考案したページ構想や要望を担当者が原告に伝え、原告がこれに従って作成したものであって、原告が考案したものではない。 なお、被告ピー・エム・エーが原告との間で本件制作業務委託契約について話し合った際、著作権については一切協議されなかった。 イ 原告ウェブサイトの著作物性 原告は、原告ウェブサイトについて、タイトル、URL、メタ・ディスクリプション、メタ・キーワード、HTMLコード等についての創作性を主張するものと思われる。しかし、以下のとおり、これらについてはいずれも創作性がなく、著作物性が認められない。 (ア)ウェブページのタイトルは、そのページの内容を端的に示す性質のものであり、30文字前後という時数の制限があるため、表現の選択の幅は狭く、創作性を発揮する余地に乏しい。原告ウェブサイトの各タイトル(甲27)も、一般的かつ短文の説明にすぎず、当該ページの内容をありふれた表現で端的に記述するものにすぎない。 (イ)URLは、インターネット上に存在する情報資源の場所を指し示す技術方式であるが、その記述には字数の限界があるため、表現の選択の幅は狭く、創作性を発揮する余地に乏しい。原告ウェブサイトの各URL(甲27)も、被告ピー・エム・エーの運営する「ライズ株式スクール」を示すドメイン「1risekabu.com」及びその他の一般名称によって構成記述される。 (ウ)メタ・ディスクリプション及びメタ・キーワードは、それぞれ、ウェブページの概要を端的に説明するもの、ユーザーのインターネット検索結果に当該ウェブページが反映されるようにするために設定される単語群であるが、いずれも、字数に限界があり、表現の選択の幅は狭く、創作性を発揮する余地に乏しい。 原告ウェブサイトにおけるメタ・ディスクリプション及びメタ・キーワードは、当該ウェブページの内容や被告ピー・エム・エーの客観的特徴を端的に記述したもの、同事業内容や特徴に関連した単語や一般名称等にすぎないから、何ら創作性は発揮されていない。 (エ)HTMLコードは、プログラミング言語であって、ブラウザの表示、装飾をするための言語であり、ウェブ画面のレイアウトと記載内容が定まっていれば誰が作成しても似たものとなり、表現の選択の幅は狭く、創作性を発揮する余地に乏しい。原告ウェブサイトのHTMLコードは定型的に制作された一般的なものにすぎず、作成者の個性が表れているとはいえない。 (オ)原告の主張に対する反論 「functions.php」ファイルは、ワードプレスのテーマに必須であり、ウェブページの画面等をカスタマイズするためのファイルであり、表示画面や機能等に合わせてPHP言語というプログラム言語を用いてコードが記述される。どのような機能をカスタマイズするかについて選択の余地があるとしても、それをウェブ画面に表示するために記述されるコードそのものは汎用的であり、表現の幅が極めて小さいため、上記ファイルには、特段の事情がない限り創作性が認められないところ、原告は特段の事情について主張立証しない。 また、原告の主張するユーザー情報は、ユーザーの属性等を記述的に表記したものであり、被告インターステラーの顧客情報であるから、創作性はない。 ウ まとめ 以上より、原告ウェブサイトには著作物性が認められず、仮に著作物であるとしても、原告には著作権が帰属しない。 (2)争点(1)イ(被告らの複製、翻案行為の有無)について ア 被告ウェブサイト公開の経緯 (ア)被告ピー・エム・エーのスクール事業は、平成29年以降、徐々に経営が困難となった。 被告ピー・エム・エーが同年11月末期限の本件サーバの更新料の支払を遅延したことから、同年12月に、本件サーバの利用が凍結され、原告ウェブサイトが表示されなくなり、被告ピー・エム・エーが使用していた電子メールも利用できなくなった。これにより、業務に著しい支障が生じたため、被告ピー・エム・エーは、原告に対し13万8240円を支払い、本件サーバの凍結解除手続を求めた。 本件サーバは、費用を支払わない場合には一時的に利用が凍結されるものの、早期に未払を解消すれば凍結が解除され、ウェブサイトが復旧されることとなっていた。しかし、原告は、被告ピー・エム・エーに対し、そのような説明をすることなく、一から新しいウェブサイトを制作するしかないと伝えた。被告ピー・エム・エーは、原告から提示された対価(434万1600円)が過大であると考えたため、原告からの上記提案を断り、原告との間の本件保守業務委託契約を合意解除した。 (イ)被告P3は、やむを得ず、以前、訴外彩登において旧ウェブサイト作成に携わったP6に対し、原告ウェブサイトが利用できなくなったことを伝え、旧ウェブサイトのデータを利用して対処できないかと相談したところ、P6が応諾したため、新たなドメインの取得とウェブサイトの公開を依頼した。このとき、被告P3は、P6から、原告の承諾を得るように言われたことはない。 P6は、「risekabu.com」のドメインを自己名義で取得し、サーバをレンタルし、平成30年1月12日、被告ウェブサイトを同サーバに記録して公開した。被告らは、被告ウェブサイトのドメイン及びサーバの管理に関与しておらず、P6から管理に必要なID及びパスワードの教示も受けていない。なお、被告P4は被告ウェブサイトに関する上記経緯に関与していない。 (ウ)被告ウェブサイトにおいても、会員専用のコンテンツを提供する必要があったが、原告ウェブサイトが利用できなくなったため、従前、原告ウェブサイトの「ログイン」ボタンを押して遷移する仕様となっていた会員専用のページも利用することができなくなった。そこで、被告ピー・エム・エーは、被告ウェブサイトの「ログイン」ボタンを押すと、ソーシャルキャストにおいて従前から使用していた自社ページ(https://risekabu.socialcast.jp)に遷移するようにし、会員が動画を視聴できるようにした。 イ 被告ピー・エム・エーから被告インターステラーへの事業譲渡等 (ア)被告P4は、被告ピー・エム・エーの取締役であったが、長期にわたり役員報酬が支給されない状態が続いたため、平成30年4月に被告ピー・エム・エーを退職し、同年5月1日に被告インターステラーを設立して「株の学校プラスワン」というサービス名で株式投資の知識を教授するスクール事業を開始した。同スクール事業では、被告ピー・エム・エーとは異なり、主にウェブ配信によって顧客に講義を提供している。 (イ)被告P3は、同月末に被告ピー・エム・エーの廃業及び破産手続開始の申立てを決め、被告インターステラーに会員の引継ぎを依頼した。被告P4は、これを承諾し、講座の受講を希望する会員を被告インターステラーの会員とすることとし、被告インターステラーは、ソーシャルキャストのウェブページ内のコンテンツを、会員情報等と共に代金103万5000円で被告ピー・エム・エーから譲り受け、後日ドメインを「plusone.socialcast.jp」と変更した(本件動画ウェブサイト)。 以後、被告インターステラーは、本件動画ウェブサイトを利用して自社の情報や動画コンテンツを顧客向けに発信するようになった。 (ウ)被告ピー・エム・エーは、前記破産手続開始の申立てにあたり、P6に対し、被告ウェブサイトの公開停止に必要なID及びパスワード等を開示するよう依頼したが(乙1〜4)、P6はこれに応じず、かえって、ドメインの有効期間である平成31年1月9日の経過後も、自己の費用で更新料を支払い、被告ウェブサイトの公開を継続している。 ウ まとめ 以上より、被告ウェブサイトを制作し、管理・運用を行っているのはP6であって、被告らは、いずれも、原告ウェブサイトの複製又は翻案行為を行っていない。 (3)争点(1)ウ(使用許諾の有無及び権利濫用の抗弁の成否)について ア 使用許諾について 一般的に、企業のホームページは、当該企業の案内や業務に関する事項等が記載され、広告の中心として継続的に使用するものであって、作成後に当該ホームページを記録するサーバが変更されることも当然に予定されているのであるから、本件制作業務委託契約のような、ホームページ作成委託契約の趣旨として、委託者である企業は、予定されたホームページの利用目的に必要な範囲内で、当然に別サーバへの複製等を許容する合意があると解すべきである。 原告ウェブサイトは、被告ピー・エム・エーの公式ホームページであり、同被告の企業・業務案内や会員ページ等を実装するなど、専ら同被告の営業促進のための利用を目的としている。よって、別サーバへの複製は、本件制作業務委託契約上当然の前提となっており、契約上利用するサーバには限定がないことから、発注者たる被告ピー・エム・エーは、任意に利用するサーバを選ぶことができると解すべきである。 また、原告ウェブサイトは、本件制作業務委託契約により、被告ピー・エム・エーが打ち合わせを通じて意向や要求を伝え、旧ウェブサイトのコンテンツを提供することにより、原告が制作したものであって、原告は、被告ピー・エム・エーの意向に反して創作性を発揮することは許されないような関係にあった。 さらに、原告ウェブサイトの各ウェブページの末尾には、「Copyright(C)ライズ株式スクールAllRightsReserved」との表示がある。 したがって、本件制作業務委託契約において、原告は、原告ウェブサイトについて、被告ピー・エム・エーのサーバ変更に伴う新サーバへの複製等について許諾していたと解すべきである。 イ 権利の濫用について (ア)仮に、本件において原告に複製権等の侵害に基づく損害賠償請求権が発生するとしても、上記アのような本件制作業務委託契約の趣旨及び目的に照らせば、被告ウェブサイトのアップロードに必要不可欠な複製等について原告が著作権等を主張することは信義則に反し、権利の濫用であって許されない。 (イ)原告は、令和元年5月15日ころ、被告インターステラーの会員に対し、被告インターステラーを誹謗中傷する文書(乙20)を送付し、被告インターステラーが売掛金、給与、税金等を踏み倒したことや、原告のサーバからデータを搾取したこと、個人情報の流出する危険性があることなど、虚偽の事実を記載し、明白な名誉毀損行為を行った。 また、原告は、本件と一切関係のない被告らの親族に対し、被告らの名誉を毀損する内容の書面を送り付け、金銭を要求しており(乙13〜15)、被告らの親族を畏怖させて金員を取得しようとしたことは明白であって、原告が本件において高額な慰謝料を請求していることを合わせ鑑みれば、原告は本件で被告ウェブサイトが原告ウェブサイトを基にして複製されていることを奇貨として、多額の金員を取得することを企図したものというべきである。 このような誹謗中傷行為を行って自己の要求の実現を図る原告の行為は、法の想定する権利救済の範疇を超えるものであることは明らかであって、原告の本件請求は権利の濫用に当たる。 2 争点(2)(著作者人格権侵害の成否)について 【原告の主張】 被告らが、前記1のとおり原告ウェブサイトを原告の許諾なく複製して原告の著作権を侵害する行為は、同時に、原告の著作者人格権(公表権、氏名表示権、同一性保持権)の侵害にも当たる。 すなわち、被告らは、故意をもって、被告ウェブサイトを原告の同意を得ず公表し、被告ウェブサイトに原告のクレジットを表示せず、原告ウェブサイトを、原告の意に反して、「ログイン」ボタンを押すと本件動画ウェブサイトへ遷移するよう改変して被告ウェブサイトを制作し、改変したものである。 【被告らの主張】 (1)原告ウェブサイトは、原告により「1risekabu.com」のドメインでアップロードされ公開されていたから、「まだ公表されていない著作物」(著作権法18条1項)にあたらず、公表権の侵害はない。 (2)原告ウェブサイトの各ウェブページの末尾には「Copyright(C)ライズ株式スクールAllRightsReserved」と表示されており、その他にも原告が著作者である旨の表示はないから、無名の著作物として扱えば足り、原告ウェブサイトを複製等する場合に原告の氏名を表示する必要はない。 また、原告ウェブサイトは、専ら宣伝広告を目的とした企業サイトであり、このようなウェブサイトにおいては著作者が表示されないことが一般的である。よって、著作者の氏名表示を省略しても、著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれはなく、公正な慣行にも反しないから、利用に際し氏名表示を省略できる。 よって、氏名表示権の侵害はない。 (3)原告は、原告ウェブサイトの具体的な改変行為について具体的に主張・立証しない。その他、著作物の同一性を実質的に害するほどの改変も認められない。よって、同一性保持権の侵害はない。 (4)以上より、被告らが原告ウェブサイトに関し原告の有する著作者人格権を侵害したことは認められない。 3 争点(3)(その他の不法行為等の成否)について 【原告の主張】 (1)被告ピー・エム・エーは、原告のグーグルアカウントを原告の許可なく利用し、グーグルの各種サービスを複製し、公衆送信し続けているところ、これらの行為は、原告の著作権(複製権、公衆送信権)、独占的利用権、営業権、著作者人格権(氏名表示権、公表権、同一性保持権)の侵害であり、不法行為に当たる。 (2)被告ピー・エム・エーは、原告との間で秘密保持契約(甲12)を締結しているところ、被告P4が、第三者に対し、秘密情報であるIDやパスワードを提供して原告のサーバに侵入させ、データを複製する行為は、不法行為である。 (3)被告らが、被告P4の著作権侵害行為に関して調査・確認をしなかったことは、原告の著作権侵害及び著作者人格権侵害を拡大させる不法行為に当たる。 (4)被告P4は、被告ピー・エム・エーの取締役として、原告と被告ピー・エム・エーとの間において締結された秘密保持契約書(甲12)等に基づき、秘密保持義務、すなわち、原告ウェブサイトに関するユーザー情報、データベース情報、ログインするために必要な各種ID情報やパスワードを開示もしくは漏えいしない義務を負うところ、前記のとおり、被告ピー・エム・エー及び被告P4は、訴外マークスに対し、原告ウェブサイトのサーバに侵入するために上記秘密情報を漏えいしたのであるから、かかる行為は不法行為に当たる。 (5)また、原告の営業秘密を、原告に損害を与える目的で使用したのであるから、不正競争防止法違反にも当たる。 【被告らの主張】 争う。 4 争点(4)(被告らの責任)について 【原告の主張】 被告ピー・エム・エーと被告インターステラーは、別法人ではあるが、いずれも被告P4が取締役となっていることや、被告ピー・エム・エーが事実上休眠しており、被告ピー・エム・エーの業務、従業員及び会員(顧客)を被告インターステラーが引き継いだこと、被告ウェブサイトの「ログイン」ボタンを押すと本件動画ウェブサイトに遷移し、両ウェブサイトは一体となってサービスと提供していること等から、実質的に同一であるということができる。 被告P3は被告ピー・エム・エーの代表取締役、被告P4は同取締役兼被告インターステラーの代表取締役、被告P5は同取締役であり、原告は、被告P4に対し、平成29年12月15日付けの通知書(甲23)を送付し、原告ウェブサイトの著作権が原告に属する旨を告知したのであるから、上記被告ら個人は、取締役としての責任を負い(会社法429条1項)、被告ピー・エム・エー及び被告インターステラーと連帯して損害賠償責任を負う。 【被告らの主張】 争う。 仮に、被告らの行為が著作権侵害等に当たり得るとしても、被告らには、故意・過失がない。 ア 被告ピー・エム・エー及び被告P3は、専門業者であるP6又は訴外マークスに原告ウェブサイトの復旧について相談し、作業を委託したものの、P6からはその具体的な方法やウェブサイトの著作権に関する説明や注意は受けなかった。ウェブサイトに関する作業を専門業者に委託した場合、委託者は著作権等の侵害を惹起することはないことを期待してしかるべきであって、特段の事情がない限り結果回避義務を尽くしたというべきであるから、上記被告らには、著作権侵害等につき、故意・過失はない。 イ 被告ウェブサイトのドメインは、被告ピー・エム・エーが取得し、専ら同被告が利用していたものであって、ドメインの取得及び被告ウェブサイトの内容は被告P3が決定しており、被告P4、被告インターステラー及び被告P5は、事情も経緯も知らなかったのであるから、著作権侵害等につき、故意・過失がない。 また、被告インターステラーは、被告ウェブサイトを承継しておらず、管理権限や管理用ID及びパスワードも承継していない。本件動画ウェブサイトには、被告ウェブサイトへのリンクは設定されておらず、被告ピー・エム・エーや「ライズ株式スクール」との関係を示す表示もない。よって、被告インターステラーは、被告ウェブサイトを利用しているとは認められない。 5 争点(5)(差止め・削除の必要性)について 【原告の主張】 (1)被告らは、現在も被告ウェブサイトを利用して営業を継続しており、自己の利益を拡大している。 原告の著作権を侵害する行為の停止又は予防のためには、別紙被告著作物目録記載のウェブページの複製、翻案、頒布(公衆送信)を差し止める必要があり、また、同ウェブページを削除する必要がある。 (2)被告らは、被告ウェブサイトへのアクセス権限がないなどと主張するが、原告が被告P4のログイン情報を使用してログインをすることができたのであるから、上記主張は虚偽である。 (3)被告らが、原告サイトを複製し、利用し続けた結果、被告P3が原告ウェブサイトのドメイン名で登録し、使用を続けているメールアドレスにウィルスメールが届き、それを放置した結果、被告P3のみならず他の被告ら及び原告の個人情報及びパスワードや、被告サイトのユーザー全ての個人情報がハッキングされ、クレジット情報を盗まれ、売買被害が発生するなどの被害が生じている。 (4)したがって、差止め・削除の必要性が認められる。 【被告らの主張】 (1)被告ピー・エム・エーは、平成30年5月に自主廃業し、破産手続開始の申立てをしており、その他の被告らには原告ウェブサイトを利用する意味も実益もないから、被告らが将来にわたり複製等を行うおそれはない。 よって、差止めの必要性がない。 (2)そもそも、現在、レンタルサーバを借りて被告ウェブサイトを公衆送信しているのは、P6又は訴外マークスであり、被告ピー・エム・エーは、上記レンタルサーバの管理さえ行っていない。 (3)被告ウェブサイトと本件動画ウェブサイトは、社名、屋号、ロゴマーク、運営者情報等が明確に異なり、被告ウェブサイトには被告インターステラーの事業である「株の学校プラスワン」についての情報がなく、本件動画ウェブサイトには被告ウェブサイトへのリンクや情報はない。 また、被告インターステラーは、訴外マークス及びP6とは何の契約もなく、連絡を取ることすらできないため、被告インターステラーが原告ウェブサイトを複製したり被告ウェブサイトを公衆送信したりしていると評価することはできない。 (4)以上のとおり、被告らは、被告ウェブサイトを利用していないから、原告による差止め及び削除請求の相手方とならない。 6 争点(6)(原告の損害等の存否及びその額) 【原告の主張】 (1)ウェブサイト復旧費用等 ア 原告が原告ウェブサイトを復旧するために必要な費用は、434万1600円である。 イ 原告は、本件保守業務委託契約を解約しておらず、これに基づく平成30年1月から平成32年1月までの報酬は、合計77万7600円(月額税込2万1600円)である。 ウ 被告らは、本件制作業務委託契約16条に基づき、支払義務を怠る等の契約違反の違約金として、25万9200円の支払義務を負う。 (2)原告が購入した写真等の代金 原告は、原告ウェブサイトのために、以下のものを購入したところ、被告らはこれを無断で利用しているため、原告にはその代金分の損害が生じた。 ア ペイレスイメージ株式会社から購入した写真(代金7万8840円)。 イ ワードプレスから購入したテーマ「ライトニング」及びライセンスキー(平成30年2月から平成31年2月までの12か月分の使用料金合計1万3960円)。 ウ ワードプレスから購入したプラグイン(代金2万7200円)。 エ 有償のテキストフォント(平成30年2月から平成31年2月までの使用料金合計6万4536円)。 (3)ウェブサイトの売上に対する貢献度 被告ピー・エム・エーは、ウェブサイトにおいて無料の株式講演会の告知をして集客し、各地域におけるセミナー実施日にサービスの案内を行うというビジネスモデルにより顧客を新規獲得していたから、原告ウェブサイトが被告ピー・エム・エーの売上に貢献した割合は、少なくとも10%である。 被告ピー・エム・エーは、平成30年2月から6月までの間に、6134万5000円の売上を得たため、この10%である613万4500円が原告の損害となる。 (4)調査・損害回避・弁護士費用等 被告らの著作権侵害行為と相当因果関係のある、調査・損害回避・弁護士費用及び本人訴訟としての弁護活動費用(事実実験公正証書、原告の裁判所への出頭費用、提出した書証の費用等)は、少なくとも100万円を下らない。 (5)精神的慰謝料 被告らの著作権侵害行為及び著作者人格権侵害行為によって生じた精神的苦痛を慰藉するために相当な金額は、少なくとも108万円を下らない。 また、被告らが上記(2)の写真を無断で使用するという財産権侵害を行ったことにより生じた精神的苦痛を慰藉するために相当な金額は、少なくとも78万8400円を下らない。 (6)まとめ 以上より、原告の損害額は少なくとも1260万円を下らないから、同金額及びこれに対する不法行為の後の日又は請求日の翌日である平成30年7月14日からの民法所定の遅延損害金について、被告らに連帯支払を求める。 【被告らの主張】 原告は、被告らの複製等がなければ得られたはずの逸失利益として、凍結サーバから原告ウェブサイトを復旧する費用(434万1600円)を主張する。 しかし、前記のとおり、本件サーバの凍結は料金を支払うことにより解除することができたのであるから、ウェブサイトを一から作成する必要はなかった。 また、被告らは原告に対して原告ウェブサイトの復旧作業を委託しておらず、かつ、前記のとおり、明確に原告の提案を拒絶した。したがって、原告が上記費用を受領したであろう蓋然性はない。 したがって、上記費用は、損害として認められず、かつ相当因果関係もない。 また、前記1【被告らの主張】(2)ア(ア)のとおり、本件保守業務委託契約は合意解除された。 その他、原告の主張する損害額について、すべて争う。 第4 当裁判所の判断 1 認定事実(前提事実及び後掲各証拠又は弁論の全趣旨から認定できる事実) (1)旧ウェブサイトの移管及び本件保守業務委託契約の締結(乙22、原告本人、被告P3本人) ア 旧ウェブサイトの移管 被告ピー・エム・エーは、「ライズ株式スクール」という個人向けに株相場等に関する投資知識を教授する対面式のスクール事業を行っており、訴外彩登に制作を委託し、訴外ユウシステムに管理を委託していた旧ウェブサイトを、広告及び集客用のホームページとして利用していたが、平成27年ころに業績が落ち込んだため、旧ウェブサイトをSNS集客の時代に合わせたホームページにリニューアルすることを考えるようになった。 被告P3は、同年11月ころ、従前からイベントの写真撮影等を依頼していた原告に対し、まず旧ウェブサイトのサーバ移管を委託した。原告は、同月4日付けで代金を約50万円とする見積書(甲7)を提出し、被告ピー・エム・エーを通じ、旧ウェブサイトを管理していた訴外ユウシステムよりデータ移行のために必要な情報を入手し、旧ウェブサイトを本件サーバへ移管した(甲8、9)。 旧ウェブサイトの内容は甲10のとおりであり、緑色を基調とするウェブページ上部(ヘッダー)に「完璧な基礎から実践的応用までマスターできるライズ株式スクール」との記載があり、左上部には「RISeTRADINGSCHOOL」というロゴと図形からなる標章(かつて被告ピー・エム・エーが商標権を有していたもの。)、「ライズ株式スクール自立した投資家への第一歩を踏み出せる学校」という記載があり、右上部には、問い合わせ用フリーダイヤルの番号と「会員専用ログイン」というオレンジ色のボタンが表示されている。ウェブサイトのメインコンテンツは、コース・料金表、講師の紹介、受講生の声、受講案内等であり、ウェブページの下部には、「Copyright(C)2013RISETRADINGSCHOOLPMALIMITEDAllrightsreserved」との表示がある。 イ 本件保守業務委託契約 被告ピー・エム・エーは、平成28年1月6日付けの本件保守契約書により、原告に対し、移管した上記ウェブサイトの保守業務を委託した(本件保守業務委託契約)。 本件保守契約書の14条2項には、同契約に基づいて原告が制作完成したウェブサイトについては、著作権その他の権利が原告に帰属する旨の規定がある(甲46の1)。 (2)原告ウェブサイトの制作・公開 ア 本件制作業務委託契約(乙22、原告本人、被告P3本人) 被告ピー・エム・エーは、移管した旧ウェブサイトを、スマートフォンやタブレット端末に対応できるようにするなど、全面的にリニューアルすることを決め、原告に対し、平成28年4月22日付けの本件注文書により、新たなウェブサイトの制作を代金324万円で委託した(本件制作業務委託契約)。 本件注文書の「仕様」欄には、「公式ホームページ一式のリニューアル」、「会員サイトのリニューアル」、「ショッピングサイトのリニューアル」、「上記3コンテンツを統一したシステムで構築し、レスポンシブデザインのwebサイトへとリニューアルする。」、「スマートフォンおよびその他の端末でのモバイルフレンドリー、ユーザービリティを考慮し、企画構成・制作を行う。」等の記載と共に、「全面リニューアル後の成果物の著作権その他の権利は、制作者のP1に帰属するものとする。」との記載がある。 イ 原告ウェブサイトの制作・公開(甲123、乙22、原告本人)被告ピー・エム・エーは、従業員を通じ、原告に、新しいホームページの仕様や構成についての要望を伝えた。具体的には、平成28年4月から5月ころ、原告と被告ピー・エム・エーの従業員が公式ホームページ及び会員向けウェブサイトの内容について打ち合わせを行い、同月6日付けの同従業員作成の打ち合わせ書面(甲14)には、公式ホームページについては、無料セミナーの参加申し込み獲得数をあげる、入学希望者を獲得する、会員サイトについては、生徒が利用しやすい、生徒にとって有益で授業参加と理解を助けるといった目的があることが記載された。また、同従業員から、公式ホームページについては、旧ウェブサイトに掲載されている文章やタグ、表示するスクリーンを変更すること、会員サイトについては、レイアウトを完全に変更することなどが原告に伝えられ、原告が作成途中の画面を印刷して打ち合わせ内容を書き込むなどした(甲14〜16)。 原告は、上記打ち合わせに基づいて原告ウェブサイトを制作し、同年10月3日、原告ウェブサイトを本件サーバ上に公開した。 原告ウェブサイトにおいて使用されるワードプレスのテーマである「ライトニング」専用のプラグイン、有償フォント、写真等の素材は、原告が購入した(甲86、87、89、98〜103、128)。また、本件サーバは、原告が契約し、被告ピー・エム・エーからの利用料金の振り込みを確認して料金を支払うこととされた。 ウ 原告ウェブサイトの内容(甲46の2、原告本人、被告P3本人) (ア)原告ウェブサイトの内容は、甲46の2のとおりであり、緑色を基調とするウェブページの左上部には、旧ウェブサイトと同じ「RISeTRADINGSCHOOL」というロゴと図形からなる標章、右上部には問い合わせ用フリーダイヤルの番号、メール用のボタン及びオレンジ色の「ログイン」というボタンが表示されている。その下には、「トップページ」、「ライズ株式スクールとは」、「コース・料金表」、「受講生の声」、「会社案内」等のタブがある。また、ウェブページの末尾には、「Copyright(C)ライズ株式スクールAllRightsReserved」との記載がある。 上記「ログイン」ボタンは、会員が自己のID及びパスワードを入力すると、甲59〜61のような会員専用のウェブページが閲覧できるように、ハイパーリンクが設定されていた。 (イ)原告ウェブサイトは、ウェブサイト作成用のソフトウェアであるワードプレスを利用して制作されており、原告は、自己のID及びパスワードを使用して原告ウェブサイトの制作及び管理を行っていた。 エ 動画サービスの利用 被告ピー・エム・エーは、平成29年夏頃から、ソーシャルキャストのサービス(乙19)を利用し、サブドメインを「risekabu」として、ライズ株式スクールの会員向けに講義用の動画をアップロードしていた。原告ウェブサイトと同動画コンテンツとは相互に関連性がなく、互いにハイパーリンクの設定などもされていなかった(被告P3本人)。 (3)本件サーバの利用停止(甲123、乙22、原告本人、被告P3本人) ア 被告ピー・エム・エーが原告を通じて支払った本件サーバの利用料金は平成29年11月30日までの分であり、引き続き使用を続けるためには更新費用を支払う必要があったが、被告ピー・エム・エーは、その費用を支払わず、また、原告に対して支払うべき原告ウェブサイトの制作費用に係る分割金の支払も遅滞していた。原告は、被告ピー・エム・エーに対し、同年9月26日付けの「御見積書」(甲19)を示し、本件サーバの利用期限が同年11月30日であること、更新費用は、1万2960円(契約期間12か月)、2万4624円(同24か月)、3万4992円(同36か月)であることを伝えた。また、原告は、被告ピー・エム・エーの従業員に対し、サーバ更新料及び原告に対する支払が未払であること等を伝え、支払を催促した。 ところが、被告ピー・エム・エーは、上記利用期限を過ぎても更新費用を支払わなかったため、原告ウェブサイトは、同年12月12日、本件サーバのレンタル元である訴外エックスサーバーにより凍結され、閲覧・利用することができなくなった(甲17、20、21)。 被告ピー・エム・エーは、同日ころ、原告に対し、13万8240円を振込み、原告ウェブサイトの復旧を行うよう伝えた。原告は、同月13日、被告P4に対し、原告ウェブサイトのデータは本件サーバ上から失われたため、復旧する場合には再度制作することになり、費用として434万1600円が必要となる旨を伝えたところ、被告P4は、原告の提案を断った。 イ 訴外エックスサーバーが提供する管理画面である「インフォパネル」には、同年12月ころ、「サーバーご契約一覧」に、料金の支払による更新手続が可能な契約として原告ウェブサイトの契約が表示され、利用期限の欄には「2017-11-30期限切れ」、ステータスの欄には「凍結」との記載がある(甲21)。 同様に、訴外エックスサーバーが提供するウェブサイト上のサポートページの「失効ドメインの復旧」という項目によれば、支払期限内に料金の支払がなくドメインが利用できなくなった場合、原告ウェブサイトのような「.com」ドメインの場合は、利用期限日から30日以内であれば、更新費用を支払うことにより復旧が可能との記載がある(乙2)。また、「よくある質問」には、料金の未払によりサーバ契約が凍結された場合、「インフォパネルの『料金のお支払い/請求書発行』メニューにて『サーバーご契約一覧』に表示されるサーバー契約」であれば、利用料金を支払うことにより、引き続き該当のサーバIDを使用することが可能であるとの記載がある(乙3)。 (4)被告ウェブサイトの制作・公開 ア P6による被告ウェブサイトの制作(甲32、115、乙22、証人P6、被告P3本人) 被告P3は、平成29年8月から9月ころ、P6に対し、原告ウェブサイトについて、高額を支払ったにもかかわらず売上げ等の数字につながっておらず、早急にリニューアルしたいこと等を話し、P6が訴外彩登において旧ウェブサイトの制作に携わったときのデータを持っているかどうか尋ねるなどした。 被告P3は、同年12月13日ころ、P6に連絡し、本件サーバが凍結されたことを伝え、早急に復旧するよう依頼した。P6は、復旧作業について承諾し、新たに「risekabu.com」のドメインを自己名義で取得し、同年8月ころからこのころまでのいずれかの時点で取得した原告ウェブサイトのデータを利用して、被告ウェブサイトを制作し、平成30年1月ころに公開した。P6は、被告ピー・エム・エーに対し、4日分のウェブサイト移行作業費として12万9600円を請求した。 イ P6による新規ウェブサイトの制作(甲32、34、115、証人P6、被告P3本人) P6は、上記被告ピー・エム・エーからの当初の依頼に応じ、平成30年3月ころ、原告ウェブサイト又は被告ウェブサイトのデザインを変更した新たなウェブサイトを、暫定的に「risekabu.marqs.co.jp」において公開し、被告ピー・エム・エーに対し、制作費として250万5800円を請求した(甲35)。 ウ 被告ウェブサイトの内容等(甲46の3) 被告ウェブサイトの内容は、甲46の3(71枚目まで)のとおりであり、原告ウェブサイトと同様に、緑色を基調とするウェブページに「RISeTRADINGSCHOOL」というロゴと図形からなる標章、右上部には問い合わせ用フリーダイヤルの番号、メール用のボタン及びオレンジ色の「ログイン」というボタンが表示されており、その下には原告ウェブサイトと同一のタブがあり、ウェブページの末尾には、「Copyright(C)ライズ株式スクールAllRightsReserved」との記載がある。 また、上記「ログイン」ボタンを押すと、前記(2)エの動画コンテンツが表示されるようハイパーリンクが設定されていた。 (5)被告ピー・エム・エーの廃業及び被告インターステラーへの事業譲渡(乙22、被告P3本人) 被告ピー・エム・エーの経営状況は改善せず、平成30年4月ころ、被告P4が退職し、同年5月1日に被告インターステラーを設立した。被告P3は、同月末で被告ピー・エム・エーの事業を停止することに決め、被告P4と相談の上、同年6月1日付けで、ライズ株式スクールの会員約200名及びソーシャルキャスト上の動画コンテンツについて、株の学校プラスワンを経営する被告インターステラーが、被告ピー・エム・エーから、他の若干の資産と共に対価103万5000円で事業譲渡を受けることとした(甲6、乙11)。被告インターステラーは、上記動画コンテンツのサブドメインを「risekabu」から「plusone」へと変更した(本件動画ウェブサイト)。 被告ピー・エム・エーは、同年10月29日、福岡地方裁判所に対し、破産手続開始の申立てを行い、同裁判所より、被告ウェブサイトの公開停止を求められたことから、弁護士代理人が、P6に対し、被告ウェブサイトの公開を停止するよう依頼した。 P6は、被告ピー・エム・エーより、前記アの移行作業及び前記イの制作費の支払を受けていなかったことから、急いで作るよう言われて作業したのに、代金の支出も受けられないまま、破産手続に移行するとして被告ウェブサイトを閉鎖するよう言われたことに納得できず、前記依頼を断り、自らサーバ代金を負担して、被告ウェブサイトの公開を続けている(乙4〜7、16、17、証人P6)。 被告ピー・エム・エーは、被告ウェブサイトの閉鎖ができなかった等の理由で、同年12月26日、前記申立てを取り下げ、事実上の廃業状態にある。 (6)各ウェブサイトの内容比較 ア 原告ウェブサイトと被告ウェブサイトの比較 前記(2)及び(4)のとおり、原告ウェブサイトと被告ウェブサイトの内容は、一見してほぼ同じであり、ウェブページのタイトル、メタ・ディスクリプション、メタ・キーワードにおける相違点は、校名やセミナーの案内の有無等ごく一部であること、各ウェブページのデザインや記事の配置も相当程度似通っていること、ソースコードの相違点も一部に過ぎないことが認められる(甲26〜29、40、41、88、90、104〜107)。 また、原告ウェブサイト及び被告ウェブサイトは、いずれもワードプレスを用いて作成されており、双方の「style.css」及び「functions.php」ファイルのソースコードには、いずれにも、同じ位置に「Author:★P2★」という記述が認められる(甲36〜39、45)。原告ウェブサイト及び被告ウェブサイトのワードプレス管理画面の「作成者」欄は、いずれも、すべて「P2」とされている(甲47、48)。 原告ウェブサイトの右上(ヘッダー部分)にある「ログイン」ボタンを押すと、会員専用のウェブページのログイン画面に遷移し、ID及びパスワードを入力すると、会員専用のウェブページへと遷移する(甲79、81)。 一方、被告ウェブサイトの右上(ヘッダー部分)にある「ログイン」ボタンを押すと、本件動画ウェブサイトへと遷移する(甲80、81)。 イ 本件動画ウェブサイトについて 本件動画ウェブサイトは、前記前提事実のとおり、訴外株式会社アジャストの運営する動画公開サービスであるソーシャルキャストを利用し、被告ピー・エム・エー及び被告インターステラーの講義動画を公開するものであり、その内容は、甲46の3(72枚目以降)のとおりであって、ページの上部には「プラスワンTRADINGSCHOOL」との文字と図形からなる標章が表示され、その下に視聴可能な動画のサムネイルが並べられ、これをクリックすることによって再生することができる構成となっており、原告ウェブサイト及び被告ウェブサイトとは、その外見、性質等が全く異なる。また、ウェブページの末尾には、「株の学校プラスワン当サイトでは、株の学校プラスワンの動画を配信しています。」との記載がある。 2 争点(1)(著作権(複製権・翻案権)侵害の成否)について (1)検討の順序 本件において、原告は、被告ウェブサイトの公衆送信等の差止め及び削除、並びに金員の支払を求めているが、その根拠とするところは、一般不法行為等によるものを除けば、原告ウェブサイトが原告の著作物であることであり、さらにその理由として主張するところは、原告が原告ウェブサイトを創作的に制作したこと、及び原告と被告ピー・エム・エーの契約により、原告ウェブサイトの著作権は原告に属する旨合意されたことである。 これに対し、被告らは、原告ウェブサイトの著作権は、被告ピー・エム・エーに帰属するとの黙示の合意があること、原告が原告ウェブサイトを制作したことによってその著作権が原告に帰属することはないこと、原告ウェブサイトの著作権を原告に帰属させる旨を原告との間で合意した事実はないことを主張し、仮に原告に原告ウェブサイトの著作権が認められるとしても、本件の経緯において、原告が被告らに対し、原告ウェブサイトの著作権を主張することは、権利の濫用に当たる旨を主張する。 そこで、まず、原告が原告ウェブサイトを制作したことにより、原告ウェブサイトが原告の著作物と認められるか、次に、原告と被告ピー・エム・エーとの合意により、原告ウェブサイトの著作権が原告に帰属すると認められるか、そして、仮に原告ウェブサイトの著作権が原告に帰属する場合に、原告が被告らに対し、著作権を行使することが権利の濫用に当たるかにつき検討する。 (2)原告ウェブサイトの制作による著作権の帰属 ア 前記認定したところによれば、被告ピー・エム・エーは、旧ウェブサイトを訴外彩登に制作させ、訴外ユウシステムに管理を委託していたところ、集客力の向上のために、まず旧ウェブサイトの本件サーバの移管を原告に委託し、さらにその保守業務を原告に委託した後、本件制作業務委託契約により、旧ウェブサイトを、スマートフォンやタブレットに対応できるようにするなど、全面的にリニューアルすることを求めたことが認められるのであって、原告ウェブサイトの制作は、原告の発意によるものではなく、被告ピー・エム・エーの委託に基づくものであり、原告が自ら使用することは予定せず、被告ピー・エム・エーの企業活動のために使用することが予定されていたものということができる。 イ 上述のとおり、原告ウェブサイトは、元々被告ピー・エム・エーが訴外彩登に制作させた旧ウェブサイトを、本件サーバへの移管後にリニューアルしたもので、前記認定したところによれば、原告ウェブサイトのデザイン、記載内容や色調の基礎となったのは、リニューアル前の旧ウェブサイトであることが認められる。 また、前記認定したところによれば、原告は、原告ウェブサイトを制作するにあたり、ワードプレス専用のプラグインやフォント、写真を購入したり、ワードプレスを利用して、原告ウェブサイトが利用しやすく顧客吸引力があるように構成したものと認められるが、一方で、原告ウェブサイトは、被告ピー・エム・エーの株式スクールとしての企業活動を紹介するものであって、その内容は、基本的に被告ピー・エム・エーに由来するというべきであるし、原告が、被告ピー・エム・エーから、その従業員を通じ、仕様や構成について指示及び要望を聞いて制作したものであることは、前記認定のとおりである。 ウ 原告と被告ピー・エム・エーは、以上の内容・性質を有する原告ウェブサイトの制作について、本件制作業務委託契約を締結し、例えば原告ウェブサイトの権利を原告に留保して、原告が被告ピー・エム・エーに使用を許諾し使用料を収受するといった形式ではなく、原告ウェブサイトの制作に対し、対価324万円を支払う旨を約したのであるから、原告が原告ウェブサイトを制作し、被告ピー・エム・エーのウェブサイトとして公開された時点で、その引渡しがあったものとして、原告ウェブサイトに係る権利は、原告が制作したり購入したりした部分を含め、全体として被告ピー・エム・エーに帰属したと解するのが相当である。 上記解釈は、原告ウェブサイト制作後も、原告が被告ピー・エム・エーに保守業務委託料の支払を求めていることとも合致する。すなわち、原告ウェブサイトが原告のものであれば、被告ピー・エム・エーがその保守を原告に委託することはあり得ず、原告ウェブサイトが被告ピー・エム・エーのものであるからこそ、代金を支払ってその保守を原告に委託したと考えられるからである。 また、上述のとおり、原告ウェブサイトは、被告ピー・エム・エーの企業としての活動そのものを内容とするものであるから、原告がこれを自ら利用したり、第三者に使用を許諾したり、あるいは第三者に権利を移転したりすることはおよそ予定されていないというべきであるから、原告ウェブサイトについての権利が原告に帰属するとすべき合理的理由はない。さらに、原告ウェブサイトについての権利が原告に帰属するとすれば、被告ピー・エム・エーは、原告の許諾のない限り、原告ウェブサイトの保守委託先を変更したり、使用するサーバを変更するために原告ウェブサイトのデータを移転したりすることはできないことになるが、そのような結果は不合理といわざるを得ない。 エ 以上より、原告が原告ウェブサイトを制作したことを理由に、原告ウェブサイトの著作権が原告に帰属すると考えることはできず、原告ウェブサイトの著作権は、被告ピー・エム・エーに帰属するものと解すべきである。 (3)合意による著作権の帰属 ア 本件保守業務委託契約において、同契約に基づいて、原告が制作したウェブサイトの著作権その他の権利が原告に帰属する旨の規定(14条2項)があることは前記認定のとおりである。 しかしながら、本件保守業務委託契約は、訴外彩登が制作した旧ウェブサイトを本件サーバに移管した後に、その保守業務を被告ピー・エム・エーが原告に委託する際に締結されたものであって、原告がウェブサイトを制作完成することは予定されていないから、上記条項が何を想定したものかは不明といわざるを得ないし、同条項が、その後に締結された本件制作業務委託契約に当然に適用されるとも解されない。 イ 本件制作業務委託契約については、被告ピー・エム・エー名義で作成された本件注文書の「仕様」欄に、「全面リニューアル後の成果物の著作権その他の権利は、制作者のP1に帰属するものとする。」と記載がある。 しかしながら、被告P3本人の尋問の結果によっても、被告ピー・エム・エーが、原告と上記記載に係る合意を成立させる趣旨で、本件注文書に上記記載をしたとは認められないし、他に、原告と被告ピー・エム・エーとの間で上記記載に係る合意が成立したと認めるに足りる証拠は提出されていない。 ウ 原告ウェブサイトの制作の対価を324万円と定める本件制作業務委託契約において、制作後の原告ウェブサイトの権利が原告に帰属するとすることが不合理であることは前記(2)で述べたとおりであり、あえてそのように合意するとすれば、その合意は明確なものでなければならず、本件においてそのような合意が成立したと明確に認めるに足りる証拠がないことは上記ア及びイのとおりであるから、被告ピー・エム・エーと原告の合意によって、原告ウェブサイトの著作権が原告に帰属したと認めることはできない。 (4)権利の濫用 ア 本件の事実関係を前提とすると、仮に、原告ウェブサイトの一部に、原告の著作物と認めるべき部分が存在する場合であったとしても、以下に述べるとおり、原告が、その部分の著作権を理由に、被告ウェブサイトに対する権利行使をすることは、権利の濫用に当たり許されないというべきである。 イ すなわち、前記認定したところによれば、原告は、原告ウェブサイト制作後、その保守管理を行っていたこと、被告ピー・エム・エーは、平成29年秋の時点で、原告に対する支払を遅滞し、本件サーバの更新料も支払っていなかったこと、本件サーバを使用継続するには、同年11月30日に最低1万2960円(12か月分)を支払う必要があったが、被告ピー・エム・エーはこれを徒過したこと、同年12月12日、本件サーバは凍結され、原告ウェブサイトの利用ができなくなったこと、被告ピー・エム・エーはその直後に原告に13万8240円を振り込み、原告ウェブサイトを復旧するよう原告に依頼したこと、本件サーバの規約によれば、原告ウェブサイトのようなドメインが失効した場合、利用期限日から30日以内であれば、更新費用を支払えば復旧可能であること、原告は、同月13日、被告P4に対し、原告ウェブサイトのデータは失われ、復旧するには再度制作する必要があり、その費用は434万円余であると伝えたこと、被告ピー・エム・エーは、原告の提案を断って、P6に、原告ウェブサイトの復旧を依頼したこと、P6は、原告ウェブサイトのデータを利用して被告ウェブサイトを作成し、平成30年1月ころ公開したこと、以上の事実が認められる。 原告本人尋問及び被告P3本人尋問の結果を総合しても、原告が被告ピー・エム・エーに対し、本件サーバの更新費用を怠った場合のリスクについて、適切に警告し、期限を徒過しないよう十分注意したとは認められないし、原告ウェブサイトの利用ができなくなった直後に被告ピー・エム・エーが金員を原告に振り込み、本件サーバの規約ではデータの使用が可能な期限内であるのに、原告が、データが失われ復旧もできないと説明したことが適切であったことを裏付ける事情や、復旧のために434万円余もの高額の費用が必要であると説明したことの合理的理由は見出し難い。かえって証人P6は、サーバが凍結された場合、サーバ会社に料金を支払えばすぐ復旧することができ、特に作業等をする必要はない旨を証言している。 前記認定したところによれば、原告ウェブサイトは、新たな顧客のために、被告ピー・エム・エーの事業内容を紹介するのみならず、すでに顧客、会員となった者に対するサービスの提供も行っているのであるから、原告ウェブサイトの停止は、被告ピー・エム・エーの企業としての活動を停止することであり、その制作・保守・管理を行った原告は、当然にこれを了解していた。 ウ 前記イで述べたところによれば、原告ウェブサイトが停止するまでの原告の行為は、その保守・管理を受託した者として不十分であったというべきであるし、原告ウェブサイトの停止後の原告の行為は、原告ウェブサイトの停止が被告ピー・エム・エーを窮地に追い込むことを知りながら、これを利用して、データは失われた、復旧できないと述べて、法外な代金を請求したものと解さざるを得ない。 上述のとおり、原告ウェブサイトの停止は企業としての活動の停止を意味し、既に検討したとおり、原告ウェブサイトの著作権は全体として被告ピー・エム・エーに帰属すると解されるのであるから、被告ピー・エム・エーが、法外な代金を請求された原告との信頼関係は失われたとして、原告の十分な了解を得ることなく、原告ウェブサイトのデータを移転するようP6に依頼したとしても、やむを得ないことであると評価せざるを得ない。エ これらの事情を総合すると、仮に、原告ウェブサイトの一部に原告の著作権を認めるべき部分が存在していたとしても、本件の事情において、原告がその著作権を主張して、被告ウェブサイトの利用等に対し権利行使することは、権利の濫用に当たり許されないというべきである。 (5)本件動画ウェブサイトについて 前記認定事実のとおり、本件動画ウェブサイトは、被告ピー・エム・エーがソーシャルキャストのサービスを利用して提供していた授業の動画を、被告インターステラーが引き継いだ後に、サブドメインを変更したウェブページであって、原告ウェブサイト及び被告ウェブサイトとは、内容も形式も全く異なるものである。 また、原告ウェブサイトと上記動画はもともと関連付けられていなかったところ、本件サーバ凍結後、原告ウェブサイトから会員専用ウェブページを閲覧することができなくなったため、被告ウェブサイト上において、「ログイン」ボタンを押すと上記動画に遷移するよう設定され、サブドメインの変更に伴いリンク先も本件動画ウェブサイトに変更されたものである。 したがって、仮に原告ウェブサイトの一部に原告の著作権が認められる場合であっても、本件動画ウェブサイトの設定が、原告の著作権(複製権又は翻案権)侵害となる余地はないといわざるを得ない。 (6)まとめ 以上より、被告ピー・エム・エーが原告ウェブサイトを本件サーバから別のサーバに移転して被告ウェブサイトとして公開することや、業務内容の変更等に応じてウェブサイトの記載内容を変更することについて、原告は著作権を主張することはできないものと解すべきであるから、その余の点について判断するまでもなく、被告らに対する原告の著作権侵害に基づく請求は理由がない。 3 争点(2)(著作者人格権侵害の成否) 原告は、被告らが、原告ウェブサイトの著作権を侵害する行為、及び原告の同意を得ずに被告ウェブサイトを公表したこと、被告ウェブサイトに原告の氏名を表示しなかったこと、被告ウェブサイトの「ログイン」ボタンを押すと本件動画ウェブサイトに遷移するよう原告ウェブサイトを改変したことが、原告の著作者人格権を侵害すると主張する。 しかし、被告らが原告の著作権を侵害すると認められないことは前記2のとおりであるから、同様に、原告が被告らに対し著作者人格権を行使することも予定されておらず、被告らの上記の行為が原告の著作者人格権を侵害するということはできない。 4 争点(3)(その他の不法行為等の成否) 原告は、被告らの行為が一般不法行為及び不正競争防止法違反(営業秘密の不正使用)に当たると主張するが、具体的事実の主張はなされていないし、当該不法行為と本件における差止め・削除請求及び損害賠償請求との関係は判然とせず、また、営業秘密性についての立証もない。 したがって、上記原告の主張を採用することはできない。 なお、原告は、本件保守業務委託契約の未払報酬、本件制作業務委託契約の違約金又は未払金をも、損害賠償請求の理由として主張するかのようである(争点(6))。 しかしながら、前記認定したところによれば、本件サーバが凍結され、原告が、原告ウェブサイトの復旧に多額の費用が必要である旨を述べ、被告ピー・エム・エーがこれを断った時点で、信頼関係の破壊により、本件保守業務委託契約は終了したと解するべきであり、以後、原告も保守業務を行っていないから、同契約の未払報酬は存しない。また、本件制作業務委託契約は、当初の原告ウェブサイトの制作に関わるものであるところ、これについての違約金又は未払金があるとは認められない。 したがって、原告と被告ピー・エム・エーとの契約に基づく請求には理由がない。 5 結論 以上より、その余の争点について判断するまでもなく、著作権侵害を理由とする被告ウェブサイト及び本件動画ウェブサイトの公衆送信等の差止め(請求の趣旨1)、著作権侵害を理由とする前記各ウェブサイトの削除(請求の趣旨2)、並びに著作権侵害、著作者人格権侵害、不法行為、不正競争防止法違反及び被告ピー・エム・エーとの契約違反等を理由とする金員請求(請求の趣旨3)は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第21民事部 裁判長裁判官 谷有恒 裁判官 野上誠一 裁判官 島村陽子 (別紙)被告著作物目録 1 「risekabu.com」ドメインのWEBサイト 2 「https://plusone.socialcast.jp/」ドメインのWEBサイト 以上 |
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