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【事件名】上林暁作品集の編集著作権事件D(2)
【年月日】令和元年8月7日
 知財高裁 平成31年(ネ)第10026号 損害賠償請求控訴事件
 (原審・横浜地裁川崎支部平成30年(ワ)第476号)
 (口頭弁論終結日 令和元年6月24日)

判決
控訴人 X
被控訴人 株式会社幻戯書房
同訴訟代理人弁護士 雪丸真吾


主文
1 控訴人の本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、別紙謝罪文目録記載の文章を自社の出版案内とホームページに掲載せよ。
3 被控訴人は、控訴人に対し、215万2000円及びこれに対する平成24年12月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等(略称は、特に断らない限り原判決に従う。)
1 本件は、控訴人が、編集著作物である原判決別紙書籍目録記載の書籍(本件書籍)の編集著作者であるところ、被控訴人による本件書籍の複製及び販売は、控訴人の有する編集著作物に係る編集著作権(複製権及び譲渡権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害する行為である旨主張して、被控訴人に対し、著作権及び著作者人格権侵害の不法行為に基づく損害賠償金215万2000円(印税相当額の損害15万2000円及び慰謝料200万円の合計額)及びこれに対する不法行為の日である平成24年12月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、著作権法115条に基づき、編集著作者としての名誉及び声望の回復措置として謝罪広告等の掲載を求める事案である。
2 原審は、控訴人の請求をいずれも棄却したところ、控訴人がこれを不服として控訴するとともに、当審において、控訴の趣旨2項にかかる謝罪広告等を求める内容につき訴えを変更した。
3 前提事実
 前提事実は、原判決「事実及び理由」の第2の1(原判決2頁8行目から4頁10行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決4頁4行目「(乙1の1及び2)」を「(乙1の1及び2。かかる一連の訴訟を「前件訴訟」といい、確定した判決を「前訴確定判決」という。)」と改める。)。
4 争点及び争点に関する当事者の主張
 本件における当事者の主張は、後記5のとおり争点1(控訴人が本件書籍の編集著作者であるか否か)に関する当審における補充主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」の第2の2(原判決4頁11行目から7頁22行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
5 争点1(控訴人が本件書籍の編集著作者であるか否か)について(当審における補充主張)
(控訴人の主張)
ア 編集著作物は、「選択又は配列によつて創作性を有するもの」(著作権法12条)であるところ、本件書籍の配列に創作性があることは前訴確定判決で認められている。そして、①編集著作者の判断に当たっては、誰が素材の選択、配列を決定したかは問題とならず、また、②本件書籍において、その素材の配列を行ったのは控訴人又はその代理人であるAなのであるから、本件書籍の編集著作者は控訴人である。
イ また、被控訴人は、前件訴訟において、編集著作者ではないと自白し、本件書籍が編集著作物であれば控訴人が編集著作者であると認めた。そして本件において本件書籍が編集著作物であると自白した。したがって、矛盾挙動禁止の法理(民事訴訟法2条)により、被控訴人は、控訴人が編集著作者であることを否定することも自身が編集著作者であると主張することも禁止される。
 本件は前件訴訟と合一に編集著作者を確定することが要求されているので、併せて一つの訴訟とみなすことができ、自身が編集著作者であるという被控訴人の主張は、自白撤回禁止に違反する(民事訴訟法179条)。
 前件訴訟において被控訴人は自分自身が編集著作者であると主張できたのにしなかったから、被控訴人のかかる主張は時機に後れた攻撃防御方法に該当する。
(被控訴人の主張)
 争う。
 本件の争点は、正に誰が選択、配列を決定したかであるところ、前訴確定判決及び原判決において、一貫して被控訴人と認定されている。控訴人はかかる認定を覆す立証を全くしていない。
 また、被控訴人は、自身が編集著作者ではないと自白したことも、本件書籍が編集著作物であれば控訴人が編集著作者であると認めたこともない。
第3 当裁判所の判断
 当裁判所も、控訴人は編集著作者であるとは認められず、その請求はいずれも理由がないものと判断する。
 その理由は、次のとおりである。
1 認定事実
 原判決「事実及び理由」の第3の1(原判決7頁24行目から17頁17行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 争点1(控訴人が本件書籍の編集著作者であるか否か)について
(1)次のとおり原判決を補正し、後記(2)のとおり当審における補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決「事実及び理由」の第3の2(原判決17頁18行目から20頁8行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
ア 原判決19頁21行目「の依頼を受けたA」を削除する。
イ 原判決19頁22行目「ったことから」を「い、Aにその事務を行わせたから」と改める。
(2)当審における補充主張に対する判断
ア 控訴人は、編集著作物において素材の選択、配列を決定した者は問題とならず、配列を行ったのは控訴人であるなどと主張する。しかしながら、控訴人の主張が、決定権限を持たずに素材の配列に関与した者、例えば、単なる原案、参考案の作成者や、相談を受けて参考意見を述べた者までがおよそ編集著作者となるというものであるとすれば、そのような主張は、著作者の概念を過度に拡張するものであって、採用することはできない。また、本件において本件書籍の分類項目を設け、選択された作品をこれらの分類項目に従って配列することを決定したのが被控訴人であることは先に引用した原判決認定のとおりであって、当審における控訴人の主張を踏まえてもかかる認定は左右されない。
イ また、控訴人は、被控訴人の前件訴訟における訴訟行為を捉えて、本件において被控訴人は自分自身が編集著作者であると主張することは許されないなどと主張する。
 しかしながら、そもそも控訴人が前提とするところの、前件訴訟において被控訴人が編集著作者でないと自白し、本件書籍が編集著作物であれば控訴人が編集著作者であると認めたなどとする事実関係を裏付ける証拠はないから、控訴人の主張はその前提を欠くものである。かえって、控訴人による本件訴訟は、前件訴訟においてAが敗訴したことを受けて、原告を控訴人とするとともに、Aは控訴人の代理人であったなどとして、実質的には前件訴訟と同様の事実関係の主張を繰り返すものに過ぎず、前件訴訟の蒸し返しであるといわざるを得ない。
 上記の控訴人の主張は採用できない。
(3)以上によれば、控訴人が決定し、Aに行わせたとする事務自体、本件書籍における素材の配列について、創作性を有する行為であったとはいえないから、控訴人が本件書籍の編集著作者であるとは認められない。
3 そうすると、その余の点につき判断するまでもなく、控訴人の請求を全部棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部
 裁判長裁判官 鶴岡稔彦
 裁判官 高橋彩
 裁判官 菅洋
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